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特開2024-89915エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物及びその製造方法並びに前記樹脂組成物を含む成形体、多層構造体及びマスターバッチ。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024089915
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物及びその製造方法並びに前記樹脂組成物を含む成形体、多層構造体及びマスターバッチ。
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20240627BHJP
   C08J 3/215 20060101ALI20240627BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20240627BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20240627BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08J3/215 CEW
C08J3/22 CEX
C08K5/07
C08L27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205454
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星加 里奈
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA23
4F070AA26
4F070AB11
4F070AB23
4F070AB24
4F070AC39
4F070AE30
4F070FA03
4F070FA17
4F070FB03
4F070FB06
4F070FC05
4J002BD162
4J002BE031
4J002EE016
4J002FD206
4J002GG01
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】ガスバリア性、突刺強度及び光安定性に優れた樹脂組成物及びその製造方法、並びに前記樹脂組成物を含む成形体、多層構造体及びマスターバッチを提供の提供。
【解決手段】エチレン単位含有量が20モル%以上60モル%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、フッ素系ポリマー(B)及びアルデヒド(C)を含み、アルデヒド(C)が2、4-ヘキサジエナール(Ca)及び2、4,6-オクタトリエナール(Cb)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、フッ素系ポリマー(B)の含有量が10ppm以上50000ppm以下であり、アルデヒド(C)の含有量が0.005ppm以上13ppm以下である、樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン単位含有量が20モル%以上60モル%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、フッ素系ポリマー(B)及びアルデヒド(C)を含み、
アルデヒド(C)が2、4-ヘキサジエナール(Ca)及び2、4,6-オクタトリエナール(Cb)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
フッ素系ポリマー(B)の含有量が10ppm以上50000ppm以下であり、
アルデヒド(C)の含有量が0.005ppm以上13ppm以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
2、4-ヘキサジエナール(Ca)の含有量が0.005ppm以上10.0ppm以下であり、2、4,6-オクタトリエナール(Cb)の含有量が0.005ppm以上5.00ppm以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有量をEt、2、4-ヘキサジエナール(Ca)の含有量をCa(ppm)、2、4,6-オクタトリエナール(Cb)の含有量をCb(ppm)とした場合に、(Ca+Et/100)/Cb≦2.0である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有量をEt、2、4-ヘキサジエナール(Ca)の含有量をCa(ppm)、2、4,6-オクタトリエナール(Cb)の含有量をCb(ppm)とした場合に、Et/100+Ca+Cb≦6.50である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ホウ素化合物をホウ素元素換算で50ppm以上400ppm以下含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
周期律表第6族の金属元素(D)を0.005ppb以上50ppb以下含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
フッ素系ポリマー(B)の融点が100~200℃である、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
JIS K 7210-1(2014)に準拠して測定される、230℃、10.9kg荷重下におけるフッ素系ポリマー(B)のメルトフローレートが2.0~50g/10分である、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む、成形体。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する、多層構造体。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる層を最表層に有する、多層構造体。
【請求項12】
エチレン単位含有量が20モル%以上60モル%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、フッ素系ポリマー(B)及びアルデヒド(C)を含み、
アルデヒド(C)が2、4-ヘキサジエナール(Ca)及び2、4,6-オクタトリエナール(Cb)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
フッ素系ポリマー(B)の含有量が10000ppm以上200000ppm以下であり、
アルデヒド(C)の含有量が0.05ppm以上130ppm以下である、マスターバッチ。
【請求項13】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及びアルデヒド(C)を含むペレットと、フッ素系ポリマー(B)を含むペレットとをドライブレンドして溶融混練する工程を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物を製造する製造方法。
【請求項14】
請求項12に記載のマスターバッチと、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を含むペレットとをドライブレンドして溶融混練する工程を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物を製造する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール共重合体及びフッ素系ポリマーを含む樹脂組成物及びその製造方法並びに前記樹脂組成物を含む成形体、多層構造体、及び前記樹脂組成物のマスターバッチに関する。
【背景技術】
【0002】
食品を長期保存するための包装材料には、酸素バリア性をはじめとするガスバリア性が要求されることが多い。ガスバリア性の高い包装材料を用いることで、酸素浸入による食品の酸化劣化や微生物の繁殖を抑制できる。ガスバリア性を向上させる層としては、アルミニウム等の金属箔や、酸化ケイ素や酸化アルミニウムといった無機蒸着層が広く使用されている。一方、ビニルアルコール系重合体やポリ塩化ビニリデンといったガスバリア性を有する樹脂層も広く使用されている。ビニルアルコール系重合体は、分子中の水酸基同士が水素結合することによって結晶化、高密度化してガスバリア性を発揮する特徴を有する。中でも、エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」と略記することがある)は、熱安定性に優れることから溶融成形に適しており、共押出技術の発展に伴い、EVOH層を中間層に有する多層フィルムが、ガスバリア性包装材料として広く使用されている。
【0003】
また、近年では、環境問題や廃棄物問題が契機となり、市場で消費された包装材料を回収して再資源化する、いわゆるポストコンシューマーリサイクル(以下、単にリサイクルと略記することがある)の要求が世界的に高まっている。リサイクルにおいては、回収された包装材料を裁断し、必要に応じて分別・洗浄した後に、押出機を用いて溶融混合する工程が一般に採用される。この点においては、包装材料はできる限り単一材料で構成されることが求められており(モノマテリアル化)、それによって高純度で高品質な再資源化原料を得ることができる。この目的のため、包装材料として広く使用されるポリオレフィンを主材とするバリアフィルムの需要が高まっているが、ポリオレフィンはポリアミド等との相溶性が悪くリサイクル性を悪化させるため、ポリオレフィンを主材とするバリアフィルムにポリアミド層を設けることは好ましくない一方、ポリアミド層を有さないバリアフィルムは機械強度が不足してしまうという課題があった。
【0004】
そのような課題を解決する手段として、特許文献1には、突き刺し強度が40N/mm以上150N/mm以下の硬質層と(1)融点が170℃以上のEVOHと融点が170℃未満のEVOHを有する樹脂組成物層、又は(2)特定の一級水酸基を持つ変性基を含有する変性EVOHを有する樹脂組成物層とを有する多層フィルムが記載されており、かかる多層フィルムはポリアミド層を有していないにもかかわらず、機械強度及び熱成形性に優れ、その回収物を溶融成形する際に、樹脂の劣化(ゲル化)によるブツの発生等が抑制され、リサイクル性にも優れることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、EVOHと複数の含フッ素微粒子を含み、前記含フッ素微粒子の粒径の主軸長さが20μm未満であるEVOHペレットを用いたフィルムが機械強度に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/071513号
【特許文献2】特開2021-119212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、包装材料に用いられる多層構造体の層構成の多様化が進んでおり、特許文献1に記載の多層フィルムのように層構成が限られてしまう態様は好ましくない場合があり、また、特許文献1に記載の多層フィルムであっても、突刺強度等の機械強度が不十分である場合があり、EVOH層自体の突刺強度向上が求められていた。また、特許文献2に記載のEVOHペレットを用いた場合、EVOH層自体の突刺強度を向上させることはできるが、食品包装材としてスーパーなどの陳列棚に長期間展開された際に、蛍光灯の光によるフィルムの着色が問題となる場合があった。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、ガスバリア性、突刺強度及び光安定性に優れた樹脂組成物及びその製造方法、並びに前記樹脂組成物を含む成形体、多層構造体及びマスターバッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば上記目的は
[1]エチレン単位含有量が20モル%以上60モル%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、フッ素系ポリマー(B)及びアルデヒド(C)を含み、アルデヒド(C)が2、4-ヘキサジエナール(Ca)及び2、4,6-オクタトリエナール(Cb)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、フッ素系ポリマー(B)の含有量が10ppm以上50000ppm以下であり、アルデヒド(C)の含有量が0.005ppm以上13ppm以下である、樹脂組成物;
[2]2、4-ヘキサジエナール(Ca)の含有量が0.005ppm以上10.0ppm以下であり、2、4,6-オクタトリエナール(Cb)の含有量が0.005ppm以上5.00ppm以下である、[1]の樹脂組成物;
[3]エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有量をEt、2、4-ヘキサジエナール(Ca)の含有量をCa(ppm)、2、4,6-オクタトリエナール(Cb)の含有量をCb(ppm)とした場合に、(Ca+Et/100)/Cb≦2.0である、[1]または[2]の樹脂組成物;
[4]エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有量をEt、2、4-ヘキサジエナール(Ca)の含有量をCa(ppm)、2、4,6-オクタトリエナール(Cb)の含有量をCb(ppm)とした場合に、Et/100+Ca+Cb≦6.50である、[1]~[3]のいずれかの樹脂組成物;
[5]ホウ素化合物をホウ素元素換算で50ppm以上400ppm以下含む、[1]~[4]のいずれかの樹脂組成物;
[6]周期律表第6族の金属元素(D)を0.005ppb以上50ppb以下含む、[1]~[5]のいずれかの樹脂組成物;
[7]フッ素系ポリマー(B)の融点が100~200℃である、[1]~[6]のいずれかの樹脂組成物;
[8]JIS K 7210-1(2014)に準拠して測定される、230℃、10.9kg荷重下におけるフッ素系ポリマー(B)のメルトフローレートが2.0~50g/10分である、[1]~[7]のいずれかの樹脂組成物;
[9][1]~[8]のいずれかの樹脂組成物を含む、成形体;
[10][1]~[8]のいずれかの樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する、多層構造体;
[11][1]~[8]のいずれか樹脂組成物からなる層を最表層に有する、多層構造体;
[12]エチレン単位含有量が20モル%以上60モル%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、フッ素系ポリマー(B)及びアルデヒド(C)を含み、アルデヒド(C)が2、4-ヘキサジエナール(Ca)及び2、4,6-オクタトリエナール(Cb)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、フッ素系ポリマー(B)の含有量が10000ppm以上200000ppm以下であり、アルデヒド(C)の含有量が0.05ppm以上130ppm以下である、マスターバッチ;
[13]エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及びアルデヒド(C)を含むペレットと、フッ素系ポリマー(B)を含むペレットとをドライブレンドして溶融混練する工程を含む、[1]~[8]のいずれかの樹脂組成物を製造する製造方法;
[14][12]のマスターバッチと、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を含むペレットとをドライブレンドして溶融混練する工程を含む、[1]~[8]のいずれかの樹脂組成物を製造する製造方法;
を提供することで達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガスバリア性、突刺強度及び光安定性に優れた樹脂組成物及びその製造方法、並びに前記樹脂組成物を含む成形体、多層構造体並びに前記樹脂組成物のマスターバッチを提供できる。ここで「光安定性」とは、光に暴露された場合においても着色を抑制できる性質のことを意味し、具体的には実施例に記載の方法で評価できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)、フッ素系ポリマー(B)、及びアルデヒド(C)を含有する樹脂組成物であって、アルデヒド(C)が2、4-ヘキサジエナール(Ca)及び2、4,6-オクタトリエナール(Cb)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、フッ素系ポリマー(B)を10ppm以上50000ppm以下、アルデヒド(C)を0.005ppm以上13ppm以下含有する。本発明の樹脂組成物がフッ素系ポリマー(B)を特定量含むと、突刺強度を向上できる傾向となる一方、長期間蛍光灯などの光に暴露した際に着色してしまう傾向となる。しかしながら、本発明の樹脂組成物がフッ素系ポリマー(B)及びアルデヒド(C)を特定量含むことで、驚くべきことに、突刺強度を向上しつつ、長期間蛍光灯などの光に暴露した際の着色を抑制できる傾向となる。
【0012】
[EVOH(A)]
本発明の樹脂組成物は、エチレン単位含有量が20モル%以上60モル%以下であるEVOH(A)を含む。本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)を含むことで良好なガスバリア性を示すことができる。EVOH(A)は、エチレン単位とビニルアルコール単位とを有する共重合体であって、例えば、エチレンとビニルエステルとを含む共重合体を、アルカリ触媒等を用いてケン化して得られる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等)も使用できる。
【0013】
EVOH(A)のエチレン単位含有量の下限は、20モル%であり、23モル%が好ましく、25モル%がより好ましい。EVOH(A)のエチレン単位含有量の上限は、60モル%であり、55モル%が好ましく、50モル%がより好ましい。エチレン単位含有量が前記下限未満では、樹脂組成物の溶融成形性が低下するおそれがある。逆に、エチレン単位含有量が前記上限を超えると、ガスバリア性が低下するおそれがある。EVOH(A)のエチレン単位含有量は、H-NMR測定で求められる。
【0014】
EVOH(A)のケン化度の下限は、90モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、99モル%がさらに好ましい。EVOH(A)のケン化度が前記下限以上であると、得られる積層体等のガスバリア性が向上する。けん化度とは、EVOH(A)中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合を意味する。また、ケン化度の上限は99.99モル%であってもよい。EVOH(A)のケン化度は、H-NMR測定で求められる。
【0015】
EVOH(A)は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、エチレン、ビニルエステル及びビニルアルコール以外の他の単量体単位を含有していてもよい。特に、特定の構造を有する一級水酸基を含む変性基を導入することで、EVOH(A)のガスバリア性と成型加工性を高いレベルで両立できる場合がある。他の単量体単位の含有量は10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、1モル%以下がさらに好ましく、実質的に含有されていないことが特に好ましい。このような他の単量体としては、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基含有アルケンまたはそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸またはその無水物、塩、またはモノもしくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸またはその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0016】
EVOH(A)は、必要に応じてウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等することにより変性されていてもよい。オキシアルキレン化はエポキシ化合物を用いて行うことができ、例えば、エポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、3-メチル-1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシペンタン、3-メチル-1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシヘキサン、2,3-エポキシヘキサン、3,4-エポキシヘキサン、3-メチル-1,2-エポキシヘキサン、3-メチル-1,2-エポキシヘプタン、4-メチル-1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシオクタン、2,3-エポキシオクタン、1,2-エポキシノナン、2,3-エポキシノナン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1-フェニル-1,2-プロパン、3-フェニル-1,2-エポキシプロパン、各種アルキルグリシジルエーテル、各種アルキレングリコールモノグリシジルエーテル、各種アルケニルグリシジルエーテル、グリシドール等の各種エポキシアルカノール、各種エポキシシクロアルカン、各種エポキシシクロアルケン等が挙げられる。中でも、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタンまたはグリシドールが好ましく、エポキシプロパンまたはグリシドールがより好ましい。
【0017】
EVOH(A)のメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は好適には0.1~30g/10分であり、より好適には0.3g~25g/10分であり、さらに好適には0.5g~20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0018】
EVOH(A)は、1種単独で用いることもできるし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
[フッ素系ポリマー(B)]
本発明の樹脂組成物はフッ素系ポリマー(B)を10ppm以上50000ppm以下含む。本発明の樹脂組成物はフッ素系ポリマー(B)を含むことで突刺強度を向上できる傾向となり、後述するアルデヒド(C)と組み合わせて用いることで、突刺強度がより良好になる。フッ素系ポリマー(B)の含有量の下限は、50ppmが好ましく、100ppmがより好ましい。一方、アルデヒド(C)の含有量の上限は、10000ppmが好ましく、5000ppmがより好ましく、1000ppmがさらに好ましく、800ppmが特に好ましい。フッ素系ポリマー(B)の含有量が10ppm未満であると、光安定性が不十分になる傾向にある傾向にある。一方、フッ素系ポリマー(B)の含有量が50000ppmよりも多い場合は、フィルムの突刺強度が不十分となり、透明性も低下してしまう。
【0020】
フッ素系ポリマー(B)はフッ素原子を有していれば特に限定されず公知のポリマーを使用することができる。より突刺強度を向上させる観点から、フッ素系ポリマー(B)は、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン及びテトラフルオロエチレンからなる群より選ばれ少なくとも1種の単量体単位を含むことが好ましい。前記単量体単位からなる単独重合体であってもよく、前記単量体単位を有する共重合体であってもよいが、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体であることがより好ましい。フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体においては、ヘキサフルオロプロピレンの比率を高めていくことで、融点が低いフッ素系ポリマーとすることができる。
【0021】
フッ素系ポリマー(B)としては、市販品を用いることができ、例えばKynar Flex(商標)2500-20(アルケマ株式会社製)、Kynar Flex(商標)2801(アルケマ株式会社製)、Kynar Flex(商標)2821(アルケマ株式会社製)、Kynar Flex(商標)2501(アルケマ株式会社製)、Kynar Flex(商標)3121-50(アルケマ株式会社製)、ダイナマー(商標)FX 5911(スリーエムジャパン株式会社製)、ダイナマー(商標)FX 5920A(スリーエムジャパン株式会社製)、ダイナマー(商標)FX 9613(スリーエムジャパン株式会社製)、DA-3105T(ダイキン工業株式会社製)、DA-810X(ダイキン工業株式会社製)、DA-910(ダイキン工業株式会社製)などが挙げられ、特にKynar Flex(商標)が好ましい。
【0022】
フッ素系ポリマー(B)は100~200℃の融点を有することが好ましい。融点の下限は110℃がより好ましく、120℃がさらに好ましい。融点の上限は180℃がより好ましく、160℃がさらに好ましい。融点が上記範囲内にあることで、EVOH(A)に対するフッ素系ポリマー(B)の分散性が良好となり、突刺強度が向上する。
【0023】
また、フッ素系ポリマー(B)はJIS K 7210-1(2014)に準拠して測定される、230℃、10.9kg荷重下におけるMFRが2.0~50g/10分であることが好ましい。MFRの下限は、5.0g/10分がより好ましく、10.0g/10分がさらに好ましく、15.0g/10分が特に好ましい。メMFRの上限は、45.0g/10分がより好ましく、40.0g/10分がさらに好ましい。メルトフローレートが上記範囲内にあることで、EVOH(A)に対するフッ素系ポリマー(B)の分散性が良好となり、突刺強度が安定する。
【0024】
[アルデヒド(C)]
本発明の樹脂組成物は2、4-ヘキサジエナール(Ca)及び2、4,6-オクタトリエナール(Cb)からなる群より選ばれる少なくとも1種であるアルデヒド(C)を0.005ppm以上13ppm以下含む。本発明の樹脂組成物は、フッ素系ポリマーの特定量含有下でアルデヒド(C)を特定量含むことで、突刺強度及び光安定性に優れる傾向となる。すなわち、フッ素系ポリマー(B)とアルデヒド(C)が組み合わさることで突刺強度が向上するという新たな効果が生じる。また、フッ素系ポリマー(B)が含まれることで生じる光照射後のフィルム着色の課題をアルデヒド(C)により改善することができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物におけるアルデヒド(C)の含有量の下限は、0.01ppmが好ましく、0.1ppmがより好ましく、0.5ppmがさらに好ましい。一方、アルデヒド(C)の含有量の上限は、10ppmが好ましく、6ppmがより好ましく、2ppmがさらに好ましい。アルデヒド(C)の含有量が0.005ppmよりも少ない場合は、長期間蛍光灯などの光に暴露した際に着色してしまう傾向にある。一方、アルデヒド(C)の含有量が13ppmよりも多い場合は、製膜直後のフィルムが着色してしまう。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、一実施形態として、アルデヒド(C)として2、4-ヘキサジエナール(Ca)を0.005ppm以上10.0ppm以下含有していてもよい。本発明の樹脂組成物が2、4-ヘキサジエナール(Ca)を含有する場合、2、4-ヘキサジエナール(Ca)の含有量の下限は、0.01ppmが好ましく、0.05ppmがより好ましく、0.75ppmがさらに好ましい。一方、2、4-ヘキサジエナール(Ca)の含有量有量の上限は5ppmが好ましく、1.2ppmがより好ましく、1ppmがさらに好ましい。2、4-ヘキサジエナール(Ca)の含有量が0.005ppm以上であると光安定性に優れる傾向となる。一方、2、4-ヘキサジエナール(Ca)の含有量が10ppm以下であると、製膜直後のフィルムが着色を抑制できる傾向となる。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、一実施形態として、2、4、6-オクタトリエナール(Cb)を0.005ppm以上5.00ppm以下含有していてもよい。本発明の樹脂組成物が2、4、6-オクタトリエナール(Cb)を含有する場合、2、4、6-オクタトリエナール(Cb)の含有量の下限は、0.1ppmが好ましく、0.25ppmがより好ましく、0.5ppmがさらに好ましい。一方、2、4、6-オクタトリエナール(Cb)の含有量有量の上限は5ppmが好ましく、2ppmがより好ましく、1ppmがさらに好ましい。2、4,6-オクタトリエナール(Cb)の含有量が0.005ppm以上であると光安定性に優れる傾向となる。一方、2、4,6-オクタトリエナール(Cb)の含有量が5ppm以下であると、製膜直後のフィルムの着色を抑制できる傾向となる。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、2、4-ヘキサジエナール(Ca)及び2、4、6-オクタトリエナール(Cb)を含むことが、突刺強度及び光安定性により優れる観点から好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物においては、EVOH(A)のエチレン単位含有量Et、2、4-ヘキサジエナール(Ca)の含有量をCa(ppm)、2、4,6-オクタトリエナール(Cb)の含有量をCb(ppm)とした場合に、(Ca+Et/100)/Cb≦2.0であることが、フィルムの着色を抑制する観点から好ましい。
【0030】
本発明の樹脂組成物においては、EVOH(A)のエチレン単位含有量Et、2、4-ヘキサジエナール(Ca)の含有量をCa(ppm)、2、4,6-オクタトリエナール(Cb)の含有量をCb(ppm)とした場合に、Et/100+Ca+Cb≦6.50であることが、フィルムの着色を抑制する観点から好ましい。
【0031】
[周期律表第6族の金属元素(D)]
本発明の樹脂組成物は、周期律表第6族の金属元素(D)を0.005ppb以上50ppb以下含むことが好ましい。本発明の樹脂組成物は周期律表第6族の金属元素(D)を含むことで、製膜時の引取ロールへの汚れの付着を抑制できる傾向となる。周期律表第6族の金属元素(D)は、引取ロールへの汚れの付着を抑制する観点から、クロム、モリブデン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、モリブデン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、タングステンがさらに好ましい。
【0032】
周期律表第6族の金属元素(D)の含有量の下限は、0.05ppbがより好ましく、0.1ppbがさらに好ましく、1ppbが特に好ましい。周期律表第6族の金属元素(D)の含有量の上限は、30ppbがより好ましく、20ppbがさらに好ましく、10ppbが特に好ましい。周期律表第6族の金属元素(D)の含有量が上記範囲であると、フィルムの着色を抑制しつつ引取ロールへの汚れ付着を防止できる傾向となる。
【0033】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)、フッ素系ポリマー(B)及びアルデヒド(C)以外のその他の任意成分としてホウ素化合物、カルボン酸類、リン化合物、金属イオン、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、充填剤、熱安定剤、EVOH(A)以外の他の樹脂等のその他成分を含んでいてもよい。本発明の樹脂組成物は、これらの成分を2種以上含有してもよい。本発明の樹脂組成物が、その他の任意成分を含む場合、その合計含有量の上限は1質量%が好ましく、0.5質量%が好ましい場合もある。
【0034】
本発明の樹脂組成物はその他成分としてホウ素化合物を含有することが好ましい。これによって、得られるフィルムの突刺強度を高めることができる。前記ホウ素化合物としては特に限定されず、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等が挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチル等が挙げられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂等が挙げられる。これらの化合物のうちでもオルトホウ酸(以下、単にホウ酸と表示する場合がある)が好ましい。ホウ素化合物の含有量は、好適にはホウ素元素換算で50~ppm以上400ppm以下であることが好ましい。ホウ素化合物の含有量が50ppm以上であると、溶融成形性が安定する傾向となり、より好適には70ppm以上であり、さらに好適には100ppm以上である。一方、ホウ素化合物の含有量が400ppm以下であると、成形性の悪化を抑制できる傾向となり、より好適には350ppm以下であり、300ppm以下であってもよい。
【0035】
カルボン酸類は、樹脂組成物ひいては成形体の着色を防止すると共に溶融成形時のゲル化を抑制するものである。カルボン酸類としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、これらの塩等が挙げられる。カルボン酸類としては、炭素数4以下のカルボン酸類又は飽和カルボン酸類が好ましく、酢酸類がより好ましい。この酢酸類は、酢酸及び酢酸塩を含む。酢酸類としては、酢酸及び酢酸塩を併用することが好ましく、酢酸及び酢酸ナトリウムを併用することがより好ましい。本発明の樹脂組成物がカルボン酸類を含む場合、カルボン酸類の含有量の下限としては、50ppmが好ましく、80ppmがより好ましく、120ppmがさらに好ましい。また、カルボン酸類の含有量の上限としては、1,000ppmが好ましく、500ppmがより好ましく、400ppmがさらに好ましい。カルボン酸類の含有量を上記下限以上とすることで、十分な着色抑制効果が得られ、黄変の発生を十分に抑制することができる。一方、カルボン酸類の含有量を上記上限以下とすることで、溶融成形時、特に長時間に及ぶ溶融成形時にゲル化が生じにくくなり、成形体等の外観が良好になる。
【0036】
リン化合物は、ストリーク、フィッシュアイ等の欠陥の発生及び着色を抑制すると共に、ロングラン性を向上させるものである。このリン化合物としては、例えばリン酸、亜リン酸等のリン酸塩等が挙げられる。上記リン酸塩としては、第一リン酸塩、第二リン酸塩及び第三リン酸塩のいずれの形でもよい。また、リン酸塩のカチオン種についても特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が好ましく、これらのうちリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸水素二カリウム等のリン酸イオンを含む化合物がより好ましく、リン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素二カリウムがさらに好ましい。本発明の樹脂組成物がリン化合物としてリン酸イオンを含む化合物を含む場合、リン酸イオンの含有量の下限としては、5ppmが好ましく、10ppmがより好ましく、20ppmがさらに好ましく、30ppmが特に好ましい。EVOH(A)に対するリン化合物の含有量の上限としては、200ppmが好ましく、150ppmがより好ましく、100ppmがさらに好ましい。リン化合物の含有量を上記下限以上とすること、又は上記上限以下とすることで、熱安定性が向上し、長時間にわたる溶融成形を行なう際のゲル状ブツの発生、着色等が生じにくくなる。
【0037】
金属イオンとしては、一価金属イオン、二価金属イオン、その他遷移金属イオンが挙げられ、これらは1種又は複数種からなっていてもよい。中でも一価金属イオン及び二価金属イオンが好ましい。一価金属イオンとしては、アルカリ金属イオンが好ましく、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムのイオンが挙げられ、工業的な入手容易性の点からはナトリウム又はカリウムのイオンが好ましい。また、アルカリ金属イオンを与えるアルカリ金属塩としては、例えば脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩及び金属錯体が挙げられる。中でも、脂肪族カルボン酸塩及びリン酸塩が入手容易である点から好ましく、具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム及びリン酸カリウムが好ましい。金属イオンとして二価金属イオンを含むことが好ましい場合もある。金属イオンが二価金属イオンを含むと、例えばトリムを回収して再利用した際のEVOHの熱劣化が抑制され、得られる成形体のゲル及びブツの発生が抑制される場合がある。二価金属イオンとしては、例えばベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及び亜鉛のイオンが挙げられるが、工業的な入手容易性の点からはマグネシウム、カルシウム又は亜鉛のイオンが好ましい。また、二価金属イオンを与える二価金属塩としては、例えばカルボン酸塩、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩及び金属錯体が挙げられカルボン酸塩が好ましい。カルボン酸塩を構成するカルボン酸としては、炭素数1~30のカルボン酸が好ましく、具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸、ラウリン酸、モンタン酸、ベヘン酸、オクチル酸、セバシン酸、リシノール酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等が挙げられ、中でも、酢酸及びステアリン酸が好ましい。本発明の樹脂組成物がアルカリ金属イオンを含む場合、アルカリ金属イオンの含有量の下限は10ppmが好ましく、100ppmがより好ましく、150ppmがさらに好ましい。一方、アルカリ金属イオンの含有量の上限は400ppmが好ましく、350ppmがより好ましい。アルカリ金属イオンの含有量が上記下限以上であると、得られる多層構造体の層間接着性が良好となる傾向となる。一方、金属イオンの含有量が上記上限以下であると、着色耐性が良好となる傾向となる。
【0038】
酸化防止剤としては、例えば、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-チオビス(6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えばエチレン-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オキトシキベンゾフェノン等が挙げられる。
【0039】
可塑剤としては、例えばフタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、 ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等が挙げられる。帯電防止剤としては、例えばペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール(商品名:カーボワックス)等が挙げられる。
【0040】
滑剤としては、例えばエチレンビスステアロアミド、ブチルステアレート等が挙げられる。着色剤としては、例えばカーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラ等が挙げられる。充填剤としては、例えばグラスファイバー、ウォラストナイト、ケイ酸カルシウム、タルク、モンモリロナイト等が挙げられる。熱安定剤としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。
【0041】
EVOH(A)以外の他の樹脂としては、例えばポリアミド、ポリオレフィン等が挙げられる。
【0042】
本発明の樹脂組成物において、EVOH(A)、フッ素系ポリマー(B)及びアルデヒド(C)が占める割合は90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上が特に好ましい。本発明の樹脂組成物は実質的にEVOH(A)、フッ素系ポリマー(B)及びアルデヒド(C)のみから構成されていてもよく、本発明の樹脂組成物はEVOH(A)、フッ素系ポリマー(B)及びアルデヒド(C)のみから構成されていてもよい。なお、本明細書において「実質的に~のみからなる」とは、本発明の効果に影響を与えない範囲で任意成分の含有を許容するものであり、本明細書において「のみからなる」とは、不可避的に含まれてしまう不純物以外の任意成分を除外することを意味する。
【0043】
本発明の樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、EVOH(A)、フッ素系ポリマー(B)、アルデヒド(C)及び必要に応じて上記その他成分等の各種添加剤を混合し溶融混錬して製造できる。具体的には、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等の既知の混合装置または混練装置を使用して行うことができる。溶融混練時の温度は、通常、110~300℃である。上記その他成分等の各種添加剤は、予めEVOH(A)に含有されていても構わない。予めEVOH(A)に含有される方法は特に限定されず、例えば各種添加剤を含む溶液にEVOH(A)ペレットを浸漬させ、乾燥することで予めEVOH(A)に各種添加剤を予め含有させることができる。
【0044】
本発明の樹脂組成物の製造方法において、EVOH(A)とアルデヒド(C)とを予め混合したペレットを作製し、得られたペレットとフッ素系ポリマー(B)を含むペレットとをドライブレンドして溶融混練して、ペレット化することで、本発明の樹脂組成物を製造することが好ましい。EVOH(A)とアルデヒド(C)とを予め混合する手法としては特に限定されないが、例えば、EVOH(A)を溶解した溶液にアルデヒド(C)を添加してEVOH(A)及びアルデヒド(C)を含む溶液を得た後、かかる溶液を析出浴にストランド状に析出させてカットすることで、EVOH(A)及びアルデヒド(C)を予め混合したペレットを作製することができる。
【0045】
また、突刺強度をより高める観点から本発明の製造方法はマスターバッチを経る工程を含むことが好ましい。マスターバッチとしては、EVOH(A)、フッ素系ポリマー(B)及びアルデヒド(C)を含み、フッ素系ポリマーの含有量が10000ppm以上200000ppm以下であり、アルデヒド(C)を0.05ppm以上3000ppm以下含むマスターバッチを用いることが好ましい。かかるマスターバッチは上記樹脂組成物と同様の方法で作製することができる。マスターバッチを経る工程としては、マスターバッチと、EVOH(A)を含むペレットとを溶融混練する工程を含む製造方法が好ましい。マスターバッチを経る工程を設けることにより、その他の混合方法よりもフッ素系ポリマー(B)とアルデヒド(C)がEVOH(A)中でよく分散し、より突刺強度に優れる傾向となる。なお、マスターバッチに含まれるEVOH(A)と、マスターバッチとさらに溶融混錬する際に使用されるEVOH(A)とは同じであっても異なっていてもよい。
【0046】
[マスターバッチ]
上記マスターバッチを経る工程を含む樹脂組成物の製造方法に用いられるマスターバッチも本発明の一実施態様である。本発明のマスターバッチは、EVOH(A)、フッ素系ポリマー(B)及びアルデヒド(C)を高濃度で含有させたものであり、EVOH(A)によって規定の倍率に希釈して使用され本発明の樹脂組成物を製造する際に用いるものである。本発明のマスターバッチは、EVOH(A)とフッ素系ポリマー(B)とアルデヒド(C)とを含有し、フッ素系ポリマー(B)を10000ppm以上200000ppm以下、アルデヒド(C)を0.05ppm以上130ppm以下含有する。フッ素系ポリマー(B)及びアルデヒド(C)の含有量が上述した範囲内であると、マスターバッチを安定的に生産できる。
【0047】
[成形体]
本発明の樹脂組成物は、溶融成形等により、フィルム、シート、チューブ、袋、ボトル等の成形体に形成できる。なお、本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物から形成された部分を有すればよい。すなわち、本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物のみからなる成形体であってもよいし、本発明の樹脂組成物のみからなる部分と、他の部分とから構成される成形体であってもよい。本明細書においてフィルムとは通常300μm未満の厚みを有するものをいい、シートとは通常300μm以上の厚みを有するものをいう。溶融成形の方法としては、例えば、押出成形、キャスト成形、インフレーション押出成形、ブロー成形、溶融紡糸、射出成形、射出ブロー成形、共押出ブロー成形等が挙げられる。溶融成形温度はEVOH(A)の融点等により異なるが、150~270℃程度が好ましい。これらの成形体は再使用の目的で粉砕し再度成形することも可能である。また、フィルム、シート等を一軸または二軸延伸することも可能である。
【0048】
本発明の樹脂組成物から形成されるフィルム及びシート(以下、「フィルム等」と略記する場合がある。)としては、単層のフィルム等及び多層のフィルム等が含まれる。当該フィルム等は、各種包装材料等として用いることができる。
【0049】
フィルム等は、上述の成形体を製造する方法として示したものと同様の方法で製造できる。中でも、本発明の樹脂組成物をキャスティングロール上に溶融押出するキャスト成形工程、本発明の樹脂組成物から得られる無延伸フィルムを延伸する工程(一軸延伸工程、逐次二軸工程、同時二軸延伸工程、インフレーション成形工程等)を備える方法が好ましい。かかるフィルム等の製造方法によれば、これらの工程を備えることで、耐破断性を向上できる。
【0050】
[多層構造体]
本発明の多層構造体は、本発明の樹脂組成物からなる層(以下、「バリア層」ともいう)を少なくとも1層有し、他の成分からなる層を有する。多層構造体は、単層構造の成形体に比べて、機能向上などの利点がある。多層構造体の層数の下限は、2層であってもよく、3層であってもよい。多層構造体の層数の上限としては、1000層であってもよく、100層であってもよく、10層であってもよい。また、本発明の多層構造体は、樹脂以外の成分から形成される層、例えば紙から形成される層、金属層等をさらに有していてもよい。
【0051】
他の成分からなる層としては、熱可塑性樹脂から形成される熱可塑性樹脂層が好ましい。本発明の多層構造体の層構造は特に限定されず、バリア層をE、接着性樹脂から得られる層をAd、熱可塑性樹脂から得られる層をT、直接積層されていることを「/」で表わす場合、例えばT/E/T、E/Ad/T、T/Ad/E/Ad/T、E/Ad/T/Ad/E、E/Ad/T/Ad/E/Ad/T/Ad/E等の構造が挙げられる。これらの各層は単層であっても多層であってもよい。なお、接着性樹脂から得られる層Adは、熱可塑性樹脂から形成される熱可塑性樹脂層に含まれる場合もある。
【0052】
熱可塑性樹脂としては、例えば直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独またはその共重合体;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエステルエラストマー;ナイロン-6、ナイロン-66等のポリアミド;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリカーボネート、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。中でも、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリスチレン及びポリエステルが好ましく用いられる。
【0053】
接着性樹脂としては、ガスバリア層及び他の成分からなる層との接着性を有していれば特に限定されないが、カルボン酸変性ポリオレフィンを含有する接着性樹脂が好ましい。カルボン酸変性ポリオレフィンとしては、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその無水物を化学的に結合させたカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体が好ましい。ここでオレフィン系重合体とは、ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン、及びオレフィンと他のモノマーとの共重合体を意味する。中でも、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びエチレン-アクリル酸エチル共重合体が好ましく、直鎖状低密度ポリエチレン及びエチレン-酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。
【0054】
本発明の多層構造体は突刺強度が向上される観点から、最外層にバリア層を備える態様も好適に用いられる。最外層にバリア層を備える場合、本発明の多層構造体は共押出成形にて作製されることが好ましく、その後、かかる多層構造体のバリア層上に無機蒸着層を形成してもよいし、他の成分からなる層をラミネートしてもよい。EVOHは無機蒸着層、特にアルミニウムまたは酸化アルミニウムの蒸着層との親和性が高いため、バリア層と無機蒸着層との層間接着性が良好となる傾向となる。最外層にバリア層を備える層構成としては、バリア層をE、接着性樹脂から得られる層をAd、熱可塑性樹脂から得られる層をT、直接積層されていることを「/」で表わす場合、E/Ad/T、E/Ad/T/Ad/E、E/Ad/T/Ad/E/Ad/T/Ad/E等が挙げられる。なお、最外層にバリア層を備える多層構造体である場合、リサイクル性を良好にする観点からTはポリオレフィンであることが好ましい。また、本発明の樹脂組成物は最表層にバリア層を有する構成であっても溶融成形性に優れる傾向がある場合があり、特に押出時の目ヤニを抑制できる場合がある。また、最外層にバリア層を有する多層構造体において、少なくとも一軸方向に延伸されていることが好ましい場合もある。このような態様とすることで、機械物性やガスバリア性を高めつつバリア層Eの厚みを薄くすることができるため、リサイクル性が良好なガスバリア包材を得ることができる。機械方向(MD方向)に一軸延伸されていることが好ましい場合や、二軸方向に延伸されていることが好ましい場合もある。具体的にはE/Ad/Tの層構成が延伸されていることが好ましく、この場合、Tはポリエチレンまたはポリプロピレンであり、Adがポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。また、バリア層Eの表出面側に無機蒸着層を備える態様も好適であり、無機蒸着層としては、アルミニウムを主成分として含有する金属蒸着層、アルミナ又はシリカを主成分として含有する無機酸化物蒸着層のいずれかであることが好ましい。遮光性を付与する場合には金属蒸着層が好ましいが、包装材料としての内容物の視認性やレンジ適正、粉砕物を溶融成形する際にゲルやブツの発生を抑制できる観点からは、無機酸化物蒸着層が好ましい。また、無機蒸着層/E/Ad/T等の層構成においてE/Ad/Tが延伸されている場合、さらに無延伸ポリエチレンや無延伸ポリプロピレンなどのヒートシール層を内層側に備えていることが好ましい場合もあり、フィルムの機械強度を高めるために延伸ポリエチレン層または延伸ポリプロピレン層を、外層側にさらに積層することが好ましい場合もある。
【0055】
本発明の多層構造体を製造する方法は特に限定されず、例えば本発明の樹脂組成物からなる成形体(フィルム、シート等)に他の成分を溶融押出する方法、本発明の樹脂組成物と他の成分を共押出する方法、本発明の樹脂組成物と他の成分を共射出成形する方法、本発明の樹脂組成物からなるバリア層と他の成分からなる層とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物等の公知の接着剤を用いてラミネートする方法等が挙げられる。
【0056】
本発明の樹脂組成物と他の成分の共押出の方法は特に限定されず、マルチマニホールド合流方式Tダイ法、フィードブロック合流方式Tダイ法、インフレーション法等を挙げることができる。
【0057】
本発明の多層構造体は、フィルム状又はシート状であってよく、様々な形状に成形されてもよい。本発明の多層構造体は、包装材料、容器、チューブ等に用いることができ、また、熱成形容器等の熱成形用の材料としても好適に用いることができる。本発明の多層構造体から得られる熱成形体は、スジ等の欠陥が少なく、外観性に優れる。かかる熱成形体も本発明の多層構造体の一実施形態である。
【実施例0058】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
[使用した材料]
<フッ素系ポリマー(B)>
B-1:フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(230℃、10.9kg荷重下でのMFR:38g/10分、融点:124℃)
B-2:フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(230℃、10.9kg荷重下でのMFR:19g/10分、融点:142℃)
B-3:フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(230℃、10.9kg荷重下でのMFR:11g/10分、融点:165℃)
【0060】
[評価方法]
(1)エチレン単位含有量およびケン化度
合成例で得られたEVOHの粗乾燥物について、真空乾燥機にて120℃で12時間乾燥した。真空乾燥したEVOHを、内部標準物質としてテトラメチルシラン、添加剤としてトリフルオロ酢酸を含む重ジメチルスルホキシドに溶解し、500MHzのH-NMR(日本電子株式会社製「GX-500」)を用いて80℃で測定し、エチレン単位、ビニルアルコール単位、ビニルエステル単位のピーク強度比よりエチレン単位含有量及びケン化度を求めた。
【0061】
(2)ナトリウムイオン、リン酸およびホウ素化合物の定量
各実施例及び比較例で得られた乾燥EVOHペレット0.5gをテフロン(登録商標)製圧力容器に入れ、ここに濃硝酸5mLを加えて室温で30分間分解させた。30分後に蓋をし、湿式分解装置(株式会社アクタック製MWS-2)を用いて150℃で10分間、次いで180℃で5分間加熱することで分解させ、その後室温まで冷却した。この処理液を50mLのメスフラスコ(TPX(登録商標)製)に移し純水でメスアップした。得られた溶液について、ICP発光分光分析装置(パーキンエルマー社製OPTIMA4300DV)で含有金属の分析を行い、ナトリウムイオン(ナトリウム元素)量、リン酸のリン酸根換算量、およびホウ素原子に換算したホウ素化合物の含有量をそれぞれ算出した。なお、この定量に際しては、それぞれ市販の標準液を使用して作成した検量線を用いた。
【0062】
(3)酢酸の定量
各実施例及び比較で得られたEVOHペレット20gをイオン交換水100mlに投入し、95℃で6時間加熱抽出した。フェノールフタレインを指示薬として、1/50規定のNaOHで抽出液を中和滴定し、酢酸含有量を定量した。なお、酢酸含有量の算出については、リン酸の含有量を考慮して行った。
【0063】
(4)メルトフローレート(MFR)
各実施例及び比較例で得られたEVOHペレットについて、メルトインデクサーL244(宝工業株式会社製)を用いてJIS K 7210-1(2014)に準拠して、210℃、2,160g荷重下でのMFRを測定した。
【0064】
(5)アルデヒドの定量
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物ペレット0.50gを凍結粉砕して得られたサンプルを、加熱脱着ガスクロマトグラフ質量分析装置用ガラスチューブに50.0mg秤量し、サンプルチューブを作成した。下記の加熱脱着ガスクロマトグラフ質量分析装置を用い、下記条件にてサンプルを加熱して揮発性ガスをサンプルから吸着管に一度全量吸着させた後、吸着管から再放出されるガスをカラムで分離し、成分毎のピークを検出した。クロトンアルデヒド、2,4-ヘキサジエナール及び2,4,6-オクタトリエナールの標準サンプルのピーク面積から検量線を作成し、絶対検量線法により、それぞれ定量した。なお、標準サンプルを測定する際は、吸着管(Tenax(登録商標)/Carboxen(登録商標)製)に標準サンプルを染み込ませ、サンプルチューブの代わりに標準サンプルを染み込ませた吸着管を用い、サンプル吸着後の放出時の温度について、サンプルチューブの温度150℃から吸着管の温度260℃に変更した以外は、サンプルチューブの測定の場合と同様の方法で測定した。
(加熱脱着部)
装置:TurboMatrix-ATD (パーキンエルマージャパン社製)
吸着管へサンプルを吸着する時の温度:150℃(サンプルチューブ)、-30℃(吸着管)、250℃(バルブ)、260℃(トランスファーライン)
吸着管への吸着時間:10分
サンプル吸着後の放出時の温度:170℃(サンプルチューブ)、260℃(吸着管)、250℃(バルブ)、260℃(トランスファーライン)
吸着管放出時間:35分
キャリアガス:ヘリウムカラムへのキャリアガスの流速:1.0ml/min
圧力:120kPa
(ガスクロマトグラフ質量分析部)
装置:7890B GC System、5977B MSD (アジレント・テクノロジー社製)
カラム:DB-WAX UI (長さ:30m、内径:0.25mm、膜厚:0.50μm)
カラムオーブン温度:40℃で5分保持後10℃/minの昇温速度で240℃まで温調後10分保持(合計測定温度35分)
トランスファーライン(接続部)温度:240℃
イオン化条件:EI+
検出イオン質量範囲:m/z=29-600
検出方法:SCAN
(標準サンプル)
2,4-ヘキサジエナール:Aldrich社製
2,4,6-オクタトリエナール:ナード研究所製
【0065】
(6)突刺強度
JIS Z 1707に準拠し、各実施例及び比較例で得られた厚み100μmの単層フィルムを23℃/50%RHの条件下で調湿した後、直径10cmの円形にカットし、治具を用い試験片を固定し、AUTOGRAPH AGS-H(島津製作所製)を用い、直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針を50mm/分の速度で突き刺し、針が貫通するまでの最大突刺強度を測定した。得られた突刺強度(T2)とフッ素系ポリマー(B)を含有しない比較例1の突刺強度(T1)を用いて、((T2-T1)/T1)×100(%)の式より突刺強度の増加率を算出した。最大突刺強度の増加率が10%以上であれば、良好な突刺強度であると判断した。
【0066】
(7)光照射試験前のフィルムの着色
各実施例及び比較例で得られた厚み100μmの単層フィルムを目視評価し、その着色度合いを下記基準にて評価した。評価がA~Cであれば着色が抑制されていると判断した。
(基準)
A:ほとんど着色していなかった。
B:わずかに着色していた。
C:着色していた。
D:著しく着色していた。
【0067】
(8)光照射試験後のフィルムの着色
各実施例及び比較例で得られた厚み100μmの単層フィルムを、光照射試験器「LTD-2010」(東京理化器械株式会社製)にて40℃、50%RH、照度20000ルクスの条件下で光照射しながら30日間保管し、光照射試験後のフィルムの着色度合いを光照射前の着色度合いと比較して下記基準にて評価した。評価がA~Cであれば着色が抑制されていると判断した
(基準)
A:光照射前とほとんど着色度合いは変わらなかった。
B:光照射前よりわずかに着色していた。
C:光照射前より着色していた。
D:光照射前より著しく着色していた。
【0068】
(9)ヘイズ値
各実施例及び比較例で得られた厚み100μmの単層フィルムについて、ASTM D1003-61に準じて、反射・透過率計「HR-100」(株式会社村上色彩技術研究所製)を用いて、ヘイズ値を測定した。
【0069】
(10)酸素透過速度
各実施例および比較例で得られた樹脂組成物ペレットを用いて、株式会社東洋精機製作所製20mm単軸押出機「D2020」(D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=3.5、スクリュー:フルフライト)にて、以下の条件で単層フィルムを製膜した。なお、実施例9、10のみC2以降ダイまでの温度を220℃とした。
設定温度:C1/C2/C3/ダイ=180/200/200/200℃
スクリュー回転数:40rpm
吐出量:1.2kg/時間
引取ロール温度:80℃
引取ロール速度:3.0m/分
フィルム厚み:20μm
得られた厚み20μmの単層フィルムについて、MOCON社製酸素透過率測定装置「OX-TRAN2/20型」(検出限界値0.01cc・20μm/(m・day・atm))を用いて温度30℃、湿度65%RHの条件下でJIS K 7126(等圧法)に記載の方法に準じて測定した。
【0070】
(合成例1)
ジャケット、撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた200L加圧反応槽に、80.0kgの酢酸ビニル(以下、VAcと称することがある)、9.6kgのメタノール(以下、MeOHと称することがある)を仕込み、30分間窒素バブリングして反応槽内を窒素置換した。次いで、反応槽内の温度を60℃に調整した後、反応槽の圧力(エチレン圧力)が6.12MPaとなるようにエチレンを導入し、開始剤として29.6gの2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フィルム和光純薬工業株式会社製「V-65」)を添加し、重合を開始した。重合中はエチレン圧力を6.12MPaに、重合温度を60℃に維持した。5時間後にVAcの転化率(VAc基準の重合率)が54.7%となったことを確認して冷却し、37.5gのソルビン酸を25kgのメタノールに溶解させたMeOH溶液を投入して重合を停止した。反応槽を開放してエチレンを逃がした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで、重合液を反応槽から抜き取り、20LのMeOHで希釈した。この希釈した液を塔型容器の塔頂よりフィードし、塔底よりMeOHの蒸気をフィードして、重合液内に残る未反応モノマーをMeOH蒸気と共に除去し、エチレン-酢酸ビニル共重合体(以下、EVAcと称することがある。)のMeOH溶液を得た。
【0071】
次いで、ジャケット、撹拌機、窒素導入口、還流冷却器および溶液添加口を備えた300L反応槽に、EVAcを20質量%の割合で含有するMeOH溶液100kgを仕込んだ。この溶液に窒素ガスを吹き込みながら60℃に昇温し、水酸化ナトリウム濃度を2規定に調製したMeOH溶液を300mL/分の速度で2時間添加した。この水酸化ナトリウムを含むMeOH溶液の添加を終えた後、系内の温度を60℃に保ち、反応槽外にMeOHおよびケン化反応で生成した酢酸メチルを流出させながら、2時間撹拌してケン化反応を進行させた。その後酢酸を5.8kg添加してケン化反応を停止した。
【0072】
その後、80℃で加熱撹拌しながら、イオン交換水75Lを添加し、反応槽外にMeOHを流出させ、EVOHを析出させた。デカンテーションで析出したEVOHを収集し、粉砕機で粉砕した。得られたEVOH粉末を1g/Lの酢酸水溶液(浴比20;粉末1kgに対して水溶液20Lの割合に相当)に投入して2時間撹拌かつ洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌かつ洗浄した。これを再び脱液し、イオン交換水(浴比20)に投入して2時間撹拌かつ洗浄し、脱液する操作を3回繰り返して精製を行った。次いで、これを酢酸0.5g/Lおよび酢酸ナトリウム0.1g/Lを含有する水溶液250Lに4時間撹拌かつ浸漬してから脱液し、60℃で16時間乾燥することによりEVOHの粗乾燥物10.2kgを得た。上記操作を再度行い、10.3kgのEVOHの粗乾燥物を得、合計で20.5kgのEVOH(A1)の粗乾燥物を得た。得られたEVOH(A1)の粗乾燥物について、上記評価方法(1)に記載の方法にしたがって、エチレン単位含有量およびケン化度を測定した。結果を表2に示す。
【0073】
(合成例2、3)
EVOHの重合条件およびケン化条件を表1に記載の通りに変更したこと以外は、合成例1と同様の方法で、EVOH(A2)の粗乾燥物(合成例2)及びEVOH(A3)の粗乾燥物(合成例3)を作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
[実施例1]
ジャケット、撹拌機及び還流冷却器を備えた60L撹拌槽に、合成例1で得られたEVOH(A1)の粗乾燥物2kg、水0.8kg及びMeOH2.2kgを仕込み、60℃で5時間攪拌し完全に溶解させた。得られた溶液に、2,4-ヘキサジエナールを添加した。この溶液を径4mmの金板を通して-5℃に冷却した水/MeOH=90/10の混合液中に押し出してストランド状に析出させ、このストランドをストランドカッターでペレット状にカットすることでEVOHの含水ペレットを得た。得られたEVOHの含水ペレットの含水率をメトラー社製ハロゲン水分計「HR73」で測定したところ、52質量%であった。
【0077】
得られたEVOHの含水ペレットを1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌洗浄した。脱液後、酢酸水溶液を更新し同様の操作を行った。酢酸水溶液で洗浄してから脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して撹拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して、洗浄液の電気伝導度が、3μS/cm以下(東亜電波工業株式会社の「CM-30ET」で測定)となるまで精製を行い、ケン化反応時の触媒残渣が除去されたEVOHの含水ペレットを得た。
【0078】
得られた含水ペレットを酢酸ナトリウム、酢酸、リン酸及びホウ酸を含む水溶液(浴比20)に投入し、定期的に撹拌しながら4時間浸漬させ化学処理を行った。このペレットを脱液し、酸素濃度1体積%以下の窒素気流下80℃で3時間、及び105℃で16時間乾燥させることで、EVOH(A1)、ナトリウムイオン(ナトリウム塩)、酢酸、リン酸、ホウ酸及び2,4-ヘキサジエナールを含有した、円柱状(平均直径2.8mm、平均高さ3.2mm)の乾燥EVOHペレットを得た。得られた乾燥EVOHペレットについて、上記評価方法(2)~(5)に記載の方法に従って、ナトリウムイオン、リン酸及びホウ酸の定量、酢酸の定量、MFR並びにアルデヒドの定量評価を行った。結果を表2及び表3に示す。EVOH以外の各成分の含有量は、いずれもEVOHの含有量を基準とした量である。なお、ナトリウムイオン(ナトリウム塩)、酢酸、リン酸及び2,4-ヘキサジエナールの各成分の含有量が表2及び3に記載の通りとなるように、各成分の添加量を調整した。
【0079】
得られた乾燥EVOHペレット100質量部に対して、フッ素系ポリマー(B-1)300ppmをドライブレンドし、株式会社東洋精機製作所製25mm押出機「2D30W2」を用いて下記条件で溶融混錬した後にペレット化し、樹脂組成物ペレットを得た。
設定温度C1/C2/C3/C4/C5/ダイ=160/200/200/200/200/200℃
スクリュー回転数:100rpm
吐出量:6.0kg/時間
【0080】
得られた樹脂組成物ペレットを用いて、株式会社東洋精機製作所製20mm単軸押出機「D2020」(D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=3.5、スクリュー:フルフライト)にて、以下の条件で単層フィルムを製膜した。得られた単層フィルムについて、上記評価方法(6)~(9)に記載の方法で、突刺強度、光照射試験前後のフィルムの着色、ヘイズ値の評価を行った。結果を表3に示す。
設定温度:C1/C2/C3/ダイ=180/200/200/200℃
スクリュー回転数:100rpm
吐出量:3.0kg/時間
引取ロール温度:80℃
引取ロール速度:1.5m/分
フィルム厚み:100μm
【0081】
[実施例2~8、12~15、比較例1~5]
フッ素系ポリマー(B)の種類及び含有量並びにアルデヒド(C)の種類及び含有量を表3に記載の通り変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレット及び単層フィルムを作製し評価した。結果を表3に示す。
【0082】
[実施例9、10]
EVOH(A)の種類並びにアルデヒド(C)の種類及び含有量を表3に記載の通り変更し、樹脂組成物ペレット作製時と単層フィルム製膜時の押出温度を下記の通り変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレット及び単層フィルムを作製し評価した。結果を表3に示す。
樹脂組成物ペレット作製
設定温度C1/C2/C3/C4/C5/ダイ=180/220/220/220/220/220℃
単層フィルム作製
設定温度:C1/C2/C3/ダイ=180/220/220/220℃
【0083】
[実施例11]
実施例3において得られた乾燥EVOHペレット99.99質量部に対して、フッ素系化合物(B-1)300ppmをドライブレンドした。また、同様に実施例3において得られた乾燥EVOHペレット0.01質量部に対して、三酸化タングステン(富士フィルム和光製薬株式会社製)を63ppmドライブレンドした。得られたドライブレンド体をさらにドライブレンドして、樹脂組成物ペレットの作製に供した以外は、実施例3と同様にして樹脂組成物ペレット及び単層フィルムを作製し評価した。結果を表3に示す。
【0084】
実施例3及び実施例11において、厚み100μmの単層フィルムを6時間連続で製膜し、製膜後の引取ロールの汚れ状況を評価したところ、実施例11は実施例3と比較して引取ロールへの汚れの付着が少なかった。
【0085】
[実施例16]
含水ペレットを投入する水溶液にホウ酸を添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法でEVOH(A4)、樹脂組成物ペレット及び単層フィルムを作製し評価した。結果を表3に示す。
【0086】
[実施例17]
【0087】
実施例3で得られた乾燥EVOHペレット100質量部に対して、フッ素系ポリマー(B-1)3000ppmをドライブレンドし、株式会社東洋精機製作所製25mm押出機「2D30W2」を用いて下記条件で溶融混錬した後にペレット化し、マスターバッチペレットを得た。
設定温度C1/C2/C3/C4/C5/ダイ=160/200/200/200/200/200℃
スクリュー回転数:100rpm
吐出量:6.0kg/時間
【0088】
さらに、実施例3で得られた乾燥EVOHペレット90質量部とマスターバッチペレット10質量部とをドライブレンドした後、実施例1と同様の方法で単層フィルムを製膜し評価した。結果を表3に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
比較例5から、フッ素系ポリマー(B)を含まない場合突刺強度が不十分となるが、光照射後の着色は抑制できていることが分かる。一方、フッ素系ポリマー(B)を含む比較例3は光照射後の着色が著しく悪化する。フッ素系ポリマー(B)及びアルデヒド(C)を特定範囲で含む実施例3は、光照射後の着色が抑制できていることが分かる。この点は、EVOH(A)とフッ素系ポリマー(B)との組み合わせにより初めて生じる課題に対して、アルデヒド(C)がかかる課題を解決できることを見出した、非常に優れた効果であるといえる。