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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090038
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】衣類用シワ防止剤
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/228 20060101AFI20240627BHJP
   D06M 13/12 20060101ALI20240627BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
D06M13/228
D06M13/12
D06M13/224
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205673
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】田之畑 瞳
(72)【発明者】
【氏名】阿児 拓海
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AB04
4L033AC01
4L033BA09
4L033BA21
4L033BA22
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、衣類のシワ発生を防止するために使用される衣類用シワ防止剤を提供することである。
【解決手段】(1)窒素原子を含まず、環状構造及びエステル結合を有する化合物、(2)窒素原子を含まず、環状構造及びケトン基を有する化合物、及び(3)窒素原子を含まず、環状構造及びホルミル基を有する化合物よりなる群から選択される少なくとも1種のシワ防止成分を含む、衣類用シワ防止剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)窒素原子を含まず、環状構造及びエステル結合を有する化合物、(2)窒素原子を含まず、環状構造及びケトン基を有する化合物、及び(3)窒素原子を含まず、環状構造及びホルミル基を有する化合物よりなる群から選択される少なくとも1種のシワ防止成分を含む、衣類用シワ防止剤。
【請求項2】
前記シワ防止成分が、(1)窒素原子を含まず、環状構造及びエステル結合を有する化合物、及び(2)窒素原子を含まず、環状構造及びケトン基を有する化合物よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の衣類用シワ防止剤。
【請求項3】
前記シワ防止成分が、下記(1A)、(1B)、(2A)、及び(2B)よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の衣類用シワ防止剤。
(1A)ラクトン
(1B)環状構造及びエステル結合を有し、エステル結合を環内に含まず、環状構造を構成している炭素原子に、エステル結合を構成する炭素原子が直接結合している化合物
(2A)環状構造及びケトン基を有し、ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれる化合物
(2B)環状構造及びケトン基を有し、ケトン基を構成する炭素原子を環内に含まず、環状構造を構成している炭素原子に、ケトン基を構成する炭素原子が直接結合している化合物
【請求項4】
前記シワ防止成分が、下記(1A)及び(2A')よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の衣類用シワ防止剤。
(1A)ラクトン
(2A')環状構造及びケトン基を有し、ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれ、酸素原子を含む複素環式の環状構造を有する化合物
【請求項5】
前記シワ防止成分を揮散させて衣類に付着させるように使用される、請求項1又は2に記載の衣類用シワ防止剤。
【請求項6】
前記シワ防止成分が、ラクトン、又は芳香環を有する化合物であり、
樹脂製のスティック状の揮散部材を介して揮散させて使用される、請求項5に記載の衣類用シワ防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、衣類のシワ発生を防止するために使用される衣類用シワ防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
衣類の着用時に生じるシワは、外観の審美性を損なう要因になっており、衣類にシワを発生し難くすることが求められている。近年、防シワ加工が施された布帛を使用した衣類が開発されているものの、そのシワ防止効果には限界があり、家庭でも行えるシワ発生の防止処理が必要とされている。
【0003】
従来、衣類のシワ防止剤をスプレー噴霧や揮散等により衣類に付着させてシワ発生を防止する手法が開発されている。例えば、特許文献1には、シリコーン及び皮膜形成ポリマーの少なくとも1種と液体キャリアとを含む組成物を衣類にスプレーすることにより、衣類のシワ形成を抑制できることが記載されている。特許文献2には、シリコーン油を揮発させて衣類に付着させることにより、衣類のシワを防止し得ることが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、スプレーによって衣類に付着させるシワ防止剤は、操作が面倒であり、更に衣類に付着させたシワ防止剤が不均一になり易いという欠点がある。一方、特許文献2のように、シワ防止剤を揮散させて衣類に付着させる手法は、操作が簡便で、しかも衣類に均一な付着が可能になる。但し、従来、シリコーン油以外で、揮散して衣類に付着することにより、シワ発生を防止できる成分については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平10-508912号公報
【特許文献2】特開2001-40585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、衣類のシワ発生を防止するために使用される衣類用シワ防止剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、(1)窒素原子を含まず、環状構造及びエステル結合を有する化合物、(2)窒素原子を含まず、環状構造及びケトン基を有する化合物、及び(3)窒素原子を含まず、環状構造及びホルミル基を有する化合物は、揮散して布帛に付着すると、布帛にシワ発生防止効果を付与できることを見出した。本開示は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本開示は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (1)窒素原子を含まず、環状構造及びエステル結合を有する化合物、(2)窒素原子を含まず、環状構造及びケトン基を有する化合物、及び(3)窒素原子を含まず、環状構造及びホルミル基を有する化合物よりなる群から選択される少なくとも1種のシワ防止成分を含む、衣類用シワ防止剤。
項2. 前記シワ防止成分が、(1)窒素原子を含まず、環状構造及びエステル結合を有する化合物、及び(2)窒素原子を含まず、環状構造及びケトン基を有する化合物よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載の衣類用シワ防止剤。
項3. 前記シワ防止成分が、下記(1A)、(1B)、(2A)、及び(2B)よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の衣類用シワ防止剤。
(1A)ラクトン
(1B)環状構造及びエステル結合を有し、エステル結合を環内に含まず、環状構造を構成している炭素原子に、エステル結合を構成する炭素原子が直接結合している化合物
(2A)環状構造及びケトン基を有し、ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれる化合物
(2B)環状構造及びケトン基を有し、ケトン基を構成する炭素原子を環内に含まず、環状構造を構成している炭素原子に、ケトン基を構成する炭素原子が直接結合している化合物
項4. 前記シワ防止成分が、下記(1A)及び(2A')よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれかに記載の衣類用シワ防止剤。
(1A)ラクトン
(2A')環状構造及びケトン基を有し、ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれ、酸素原子を含む複素環式の環状構造を有する化合物
項5. 前記シワ防止成分を揮散させて衣類に付着させるように使用される、項1~4のいずれかに記載の衣類用シワ防止剤。
項6. 前記シワ防止成分が、ラクトン、又は芳香環を有する化合物であり、
樹脂製のスティック状の揮散部材を介して揮散させて使用される、項5に記載の衣類用シワ防止剤。
【発明の効果】
【0009】
本開示の衣類用シワ防止剤を衣類に付着させることにより、衣類にシワ発生を防止する効果を付与できる。また、本開示の衣類用シワ防止剤の一実施形態では、自然揮散により衣類に付着させるという簡便な手法で、衣類にシワ発生を防止する効果を付与できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において、数値範囲に関する記載「X~Y」はX以上Y以下であることを意味する。
【0011】
本開示の衣類用シワ防止剤は、(1)窒素原子を含まず、環状構造及びエステル結合を有する化合物(「化合物(1)」と略記することもある)、(2)窒素原子を含まず、環状構造及びケトン基を有する化合物(「化合物(2)」と略記することもある)、及び(3)窒素原子を含まず、環状構造及びホルミル基を有する化合物(「化合物(3)」と略記することもある)よりなる群から選択される少なくとも1種のシワ防止成分を含むことを特徴とする。以下、本開示の本開示の衣類用シワ防止剤について詳述する。
【0012】
[シワ防止成分]
・化合物(1)
化合物(1)は、窒素原子を含まないこと、環状構造を有すること、且つエステル結合(-C(=O)O-)を有することを満たす分子構造の化合物であればよい。また、化合物(1)は、揮発性であることが好ましい。本開示において、「揮発性」とは、常温常圧で自然揮散可能であることを指し、具体的には、25℃における蒸気圧が0.001~20hPaの範囲を満たすことが挙げられる。化合物(1)の好適な例として香料として利用されているものが挙げられる。
【0013】
化合物(1)が有する環状構造は、脂環、複素環、又は芳香環のいずれであってもよく、また単環式又は多環式のいずれであってもよい。また、化合物(1)は、ラクトン(即ち、エステル結合を環内に含む化合物)であってもよく、また、エステル結合を環内に含まない化合物であってもよい。
【0014】
化合物(1)の内、ラクトンとしては、具体的には、炭素数1~10のアルキル基で置換されていてもよいγ-ラクトン、炭素数1~14のアルキル基で置換されていてもよいδ-ラクトン、クマリン等が挙げられる。これらのラクトンの中でも、好適な例として、γ-ウンデカラクトン(下記式(1a))、クマリン(下記式(1b))、及びγ-デカラクトン(下記式(1c))が挙げられる。
【化1】
【0015】
化合物(1)の内、エステル結合を環内に含まない化合物としては、具体的には、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル(下記式(1d))、サリチル酸メチル(下記式(1e))、エベルニル(下記式(1f))、酢酸ベンジル(下記式(1g))、プロピオン酸ベンジル(下記式(1h))、スチラリルアセテート(下記式(1i))が挙げられる。
【化2】
【0016】
また、エステル結合を環内に含まない化合物の中でも、衣類のシワ発生防止効果をより一層向上させるという観点から、好ましい一例として、環状構造を構成している炭素原子に、エステル結合を構成する炭素原子が直接結合している化合物が挙げられる。このような化合物として、具体的には、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、サリチル酸メチル、及びエベルニルが挙げられる。
【0017】
化合物(1)は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。化合物(1)の中でも、衣類のシワ発生防止効果をより一層向上させるという観点から、好ましくは、「ラクトン」、及び「エステル結合を環内に含まず、環状構造を構成している炭素原子に、エステル結合を構成する炭素原子が直接結合している化合物」、より好ましくはラクトンが挙げられる。
【0018】
・化合物(2)
化合物(2)は、窒素原子を含まないこと、環状構造を有すること、且つケトン基(-C(=O)-)を有することを満たす分子構造の化合物であればよい。また、化合物(2)は、揮発性であることが好ましく、その好適な例として香料として利用されているものが挙げられる。
【0019】
化合物(2)が有する環状構造は、脂環、複素環、又は芳香環のいずれであってもよく、また単環式又は多環式のいずれであってもよい。また、化合物(2)は、ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれる化合物であってもよく、また、ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれない化合物であってもよい。
【0020】
化合物(2)の内、ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれる化合物としては、具体的には、cis-ジャスモン、ジヒドロジャスモン酸メチル、カンフル、カロン、マルトール等が挙げられる。これらの化合物の中でも、好適な例として、cis-ジャスモン(下記式(2a))、ジヒドロジャスモン酸メチル(下記式(2b))、カロン(下記式(2c))、及びマルトール(下記式(2d))が挙げられる。
【化3】
【0021】
また、ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれる化合物の中でも、衣類のシワ発生防止効果をより一層向上させるという観点から、好ましくは、環状構造が酸素原子を含む複素環式である化合物が挙げられる。このような化合物としては、具体的には、カロン及びマルトールが挙げられる。
【0022】
また、化合物(2)の内、ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれない化合物の中でも、衣類のシワ発生防止効果をより一層向上させるという観点から、好ましい一例として、環状構造を構成している炭素原子に、ケトン基を構成する炭素原子が直接結合している化合物が挙げられる。このような化合物として、具体的には、ダイナスコン(下記式(2f))、β-ダマセノン(下記式(2g))、α-ダマスコン(下記式(2h))、β-ダマスコン(下記式(2i))、イソEスーパー(下記式(2j))、及びアセチルセドレン(下記式(2k))が挙げられる。
【化4】
【0023】
化合物(2)は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。化合物(2)の中でも、衣類のシワ発生防止効果をより一層向上させるという観点から、好ましくは、(2A)ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれる化合物、及び(2B)ケトン基を構成する炭素原子を環内に含まず、環状構造を構成している炭素原子に、ケトン基を構成する炭素原子が直接結合している化合物、より好ましくは(2A)ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれる化合物、更に好ましくは(2A')ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれ、酸素原子を含む複素環式の環状構造を有する化合物が挙げられる。
【0024】
・化合物(3)
化合物(3)は、窒素原子を含まないこと、環状構造を有すること、且つホルミル基(-CH(=O))を有することを満たす分子構造の化合物であればよい。化合物(3)は、揮発性であることが好ましく、その好適な例として香料として利用されているものが挙げられる。
【0025】
化合物(3)が有する環状構造は、脂環、複素環、又は芳香環のいずれであってもよく、また単環式又は多環式のいずれであってもよい。化合物(3)が有する環状構造の好適な一例として、芳香環の単環式、又は芳香環を含む多環式が挙げられる。
【0026】
化合物(3)として、具体的には、ベンズアルデヒド(下記式(3a))、バニリン(下記式(3b))、ヘリオトロピン(下記式(3c))、アニスアルデヒド(下記式(3d))、シンナムアルデヒド(下記式(3e))、α-ヘキシルシンナムアルデヒド(下記式(3f))、リリアール(下記式(3g))、及びエチルジメチルヒドロシンナマール(下記式(3h))が挙げられる。より好ましくは、アニスアルデヒド、シンナムアルデヒド、及びエチルジメチルヒドロシンナマールが挙げられる。
【化5】
【0027】
化合物(3)は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
・シワ防止成分の好適な例
本開示の衣類用シワ防止剤は、防シワ成分として、化合物(1)、化合物(2)、及び化合物(3)の中から1種のものを単独で使用してもよく、またこれらの中から2種以上のものを組み合わせて使用してもよい。
【0029】
防シワ成分の中でも、衣類のシワ発生防止効果をより一層向上させるという観点から、好ましくは、化合物(1)及び化合物(2);より好ましくは(1A)ラクトン、(1B)環状構造及びエステル結合を有し、エステル結合を環内に含まず、環状構造を構成している炭素原子に、エステル結合を構成する炭素原子が直接結合している化合物、(2A)環状構造及びケトン基を有し、ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれる化合物、及び(2B)環状構造及びケトン基を有し、ケトン基を構成する炭素原子を環内に含まず、環状構造を構成している炭素原子に、ケトン基を構成する炭素原子が直接結合している化合物;更に好ましくは、(1A)ラクトン、及び(2A)環状構造及ケトン基を有し、ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれる化合物;より一層好ましくは、(1A)ラクトン、及び(2A')環状構造及びケトン基を有し、ケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれ、酸素原子を含む複素環式の環状構造を有する化合物が挙げられる。
【0030】
また、化合物(1)、化合物(2)、及び化合物(3)の具体例の内、衣類のシワ発生防止効果をより一層向上させるという観点から、好ましくは、γ-ウンデカラクトン、クマリン、γ-デカラクトン、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、サリチル酸メチル、エベルニル、酢酸ベンジル、プロピオン酸ベンジル、スチラリルアセテート、cis-ジャスモン、ジヒドロジャスモン酸メチル、カロン、マルトール、ダイナスコン、β-ダマセノン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、イソEスーパー、アセチルセドレン、ベンズアルデヒド、バニリン、ヘリオトロピン、アニスアルデヒド、シンナムアルデヒド、α-ヘキシルシンナムアルデヒド、リリアール、及びエチルジメチルヒドロシンナマール;より好ましくは、γ-ウンデカラクトン、クマリン、γ-デカラクトン、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、サリチル酸メチル、エベルニル、酢酸ベンジル、cis-ジャスモン、ジヒドロジャスモン酸メチル、カロン、マルトール、ダイナスコン、β-ダマセノン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、アセチルセドレン、シンナムアルデヒド、及びエチルジメチルヒドロシンナマール;更に好ましくは、γ-ウンデカラクトン、クマリン、γ-デカラクトン、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、エベルニル、カロン、マルトール、α-ダマスコン、シンナムアルデヒド、及びエチルジメチルヒドロシンナマールが挙げられる。
【0031】
本開示の衣類用シワ防止剤に含まれる防シワ成分を、樹脂製のスティック状の揮散部材を介して揮散させて使用する場合、衣類のシワ発生防止効果をより一層向上させるという観点から、防シワ成分の好適な例として、ラクトン、及び芳香環を有する化合物が挙げられる。本開示において、「芳香環を有する化合物」とは、前記化合物(1)、化合物(2)、及び化合物(3)の内、芳香環からなる単環式又は芳香環を含む多環式の環状構造を有する化合物を指す。芳香環を有する化合物としては、具体的には、酢酸ベンジル、プロピオン酸ベンジル、サリチル酸メチル、エベルニル、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、カロン、スチラリルアセテート、ベンズアルデヒド、バニリン、ヘリオトロピン、アニスアルデヒド、シンナムアルデヒド、α-ヘキシルシンナムアルデヒド、リリアール、及びエチルジメチルヒドロシンナマールが挙げられる。
【0032】
[衣類用シワ防止剤の組成・形状]
本開示の衣類用シワ防止剤は、前記シワ防止成分のみを含んでいてもよいが前記シワ防止成分に加えて、前記シワ防止成分を溶解又は分散させる溶剤が含まれていることが好ましい。溶媒の種類については、特に限定されないが、例えば、水、パラフィン系炭化水素(形質流動イソパラフィン、形質流動ノルマルパラフィン)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。これらの溶剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
本開示の衣類用シワ防止剤が前記シワ防止成分と溶剤を含む場合、前記シワ防止成分の含有量については、衣類用シワ防止剤の使用方法等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1~99重量%、好ましくは0.1~50重量%、より好ましくは0.1~10重量%が挙げられる。
【0034】
本開示の衣類用シワ防止剤は、必要に応じて他の添加剤が含まれていてもよい。本開示の衣類用シワ防止剤に配合可能な添加剤としては、例えば、香料、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤、消臭剤、除菌剤、紫外線吸収剤、殺虫成分、防虫成分、忌避成分、有機発泡剤、結合剤、ゲル化剤等が挙げられる。
【0035】
本開示の衣類用シワ防止剤の形状については、特に限定されず、液状、半固形状(ゲル状等)、固形状等のいずれであってもよいが、好適な一例として液状が挙げられる。
【0036】
[衣類用シワ防止剤の使用方法]
本開示の衣類用シワ防止剤は、衣類のシワ(特に、着用シワ)発生を防止する用途に使用される。本開示の衣類用シワ防止剤の使用方法としては、衣類に対して衣類用シワ防止剤に含まれるシワ防止成分を付着させる方法であればよく、例えば、本開示の衣類用シワ防止剤に含まれるシワ防止成分を揮散させて衣類に付着させる方法、本開示の衣類用シワ防止剤を衣類に直接噴霧又は塗布する方法等が挙げられる。とりわけ、本開示の衣類用シワ防止剤に含まれるシワ防止成分を揮散させて衣類に付着させる方法は、操作が簡便であり、本開示の衣類用シワ防止剤の使用方法として好適である。
【0037】
本開示の衣類用シワ防止剤を空間内に揮散させるには、自然揮散、加熱揮散、超音波揮散等のいずれの手法で行ってもよいが、好ましくは自然揮散が挙げられる。本開示の衣類用シワ防止剤を自然揮散させるには、揮散部材を介して揮散させる揮散器、メンブレンを介して揮散させる揮散器等の揮散器を使用すればよい。
【0038】
揮散部材を介して揮散させる揮散器は、例えば、開口部を有する容器本体と、揮散部材と、当該容器本体に収容された本開示の衣類用シワ防止剤とを含む。当該揮散部材の少なくとも一部は、本開示の衣類用シワ防止剤に浸漬され、且つ当該開口部から空気中に露出されていればよい。揮散部材の素材については、本開示の衣類用シワ防止剤を含浸して揮散させ得る特性を備えていることを限度として特に制限されず、天然繊維、合成繊維、木質材料、樹脂材料等が挙げられる。揮散部材の形状については、特に制限されず、シート状、ブロック状、スティック状、帯状、紐状等のいずれであってもよい。これらの揮散部材の好適な一例として、樹脂製のスティック状が挙げられる。
【0039】
メンブレンを介して揮散させる揮散器は、例えば、開口部を有する容器本体と、気体及び液体の少なくとも一方が透過可能なメンブレンと、当該容器本体に収容された本開示の衣類用シワ防止剤とを含む。当該容器本体の開口部が当該メンブレンで覆われていればよい。
【0040】
本開示の衣類用シワ防止剤に含まれるシワ防止成分を揮散させて衣類に付着させるには、シワ防止成分が揮散している空間内に衣類を収納すればよい。シワ防止成分を揮散させる空間としては、例えば、クローゼット、押し入れ、衣装ケース、ロッカー、キャリーケース等が挙げられる。シワ防止成分が揮散している空間内に、衣類をハンガーにかけた状態、載置した状態等で収容することにより、揮散しているシワ防止成分が衣類に付着し、シワ発生の防止効果が付与される。シワ防止成分が揮散している空間内に衣類を収容する時間については、揮散するシワ防止成分の種類や濃度、空間の大きさ等に応じて、適宜設定すればよいが、例えば、1時間以上、好ましくは8~24時間、より好ましくは24~48時間が挙げられる。
【0041】
また、本開示の衣類用シワ防止剤を衣類に直接噴霧又は塗布するには、スプレー容器等を使用して本開示の衣類用シワ防止剤の適量を衣類に噴霧又は塗布すればよい。
【実施例0042】
以下に実施例を示して本開示の発明をより具体的に説明するが、本開示の発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
試験例1:シャーレを使用した空間内での検証
先ず、蓋付きシャーレ(外径8.5cm)の蓋の内側にJIS L 0803:2011準拠染色堅牢度試験用添付白布(幅3cm、長さ4cm)を貼り付けた。より具体的には、添付白布の素材は、綿(カナキン3号)である。蓋に配付けた布は、折り畳むことなく、まっすぐの状態になっている。次いで、表1及び2に示す各化合物100μLをコットンシート(縦5.9cm、横2.5cm)に含浸させ、シャーレに収容し、添付白布を張り付けた蓋で閉じた。この状態で、シャーレに収容したコットンシートと蓋の内側に浸けた布帛は非接触状態になっている。シャーレに蓋をした状態で室温で1時間静置し、シャーレ内で化合物を揮散させた。その後、蓋から添付白布を剥がして、防シワ性試験に供した。
【0044】
防シワ性試験は、モンサント法(JIS L 1059-1:2009)を参考にして行った。具体的には、蓋から剥がした添付白布の長さ方向の中心が折り目になるように二つ折りにし、折り目を含む面積上に500gのおもりを載せて、5分間、4.9Nの荷重を負荷した。次いで、荷重を取り除き、添付白布の長さ方向の一方の端部を固定して懸垂状態にし、分度器で折り目部分の角度(シワ回復角)を測定した。
【0045】
結果を表1及び表2に示す。この結果、環状構造及びエステル結合を有する化合物(窒素原子不含)(実施例1~9)、環状構造及びケトン基を有する化合物(窒素原子不含)(実施例10~19)、並びに環状構造及びホルミル基を有する化合物(窒素原子不含)(実施例20~27)を使用した場合には、シワ回復角が大きく、揮散して繊維製品に付着することによりシワ発生を防止する効果を奏することが分かった。とりわけ、ラクトン(実施例1~3)、並びにケトン基を構成する炭素原子が環内に含まれる化合物(実施例10~13)では、シワ発生を防止する効果が格段に優れていた。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
試験例2:クローゼットを模した空間内での検証
クローゼットを模した空間として、開閉可能な扉がついている試験ボックス(容積1000Lの直方体状;底面の横72cm、底面の縦74cm、高さ173cm)を準備した。当該試験ボックスには、底面から高さ98cmの位置に、揮散器を載置可能な棚が設けられている。別途、表3に示す組成の揮散液を調製した。芳香液10mLを70mL容の容器に入れ、樹脂製スティック(長さ18cm)8本を容器に差し込んだ。斯くして、樹脂製スティックの一方の端部を揮散液中に浸漬し、他方の端部は容器外に露出させた状態にした揮散器を準備した。試験ボックスの棚に揮散器を載置し、試験ボックスの底面にJIS L 0803:2011準拠染色堅牢度試験用添付白布(幅3cm、長さ4cm)を折り畳むことなくまっすぐの状態で置いた。より具体的には、添付白布の素材は、綿(カナキン3号)である。この状態で、試験ボックスの扉を閉じ、試験ボックス内を密閉空間にして、試験ボックス内で揮散液を揮散させた。24時間後に添付白布を取り出して、前記試験例1と同条件で防シワ性試験を行った。
【0049】
【表3】
【0050】
結果を表4に示す。クローゼットを模した空間で試験しても、環状構造及びエステル結合を有する化合物(実施例1及び実施例4)、環状構造及びケトン基を有する化合物(実施例12、実施例13及び実施例17)、及び環状構造及びホルミル基を有する化合物(実施例24)を使用した場合には、優れたシワ防止効果が認められた。
【0051】
【表4】