(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090085
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
C07C 323/12 20060101AFI20240627BHJP
G11B 5/725 20060101ALI20240627BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20240627BHJP
C10M 107/44 20060101ALI20240627BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240627BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240627BHJP
C10N 40/18 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
C07C323/12 CSP
G11B5/725
G11B5/84 B
C10M107/44
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:18
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205742
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】南口 晋毅
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 達志
(72)【発明者】
【氏名】西澤 尚平
(72)【発明者】
【氏名】落合 宏平
【テーマコード(参考)】
4H006
4H104
5D006
5D112
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB60
4H006TA04
4H006TB32
4H006TB36
4H104CD04A
4H104LA03
4H104LA20
4H104PA16
5D006AA01
5D006AA05
5D006DA03
5D006FA02
5D112AA07
5D112AA24
5D112BC02
(57)【要約】
【課題】厚みが薄くても優れた耐摩耗性を有し、かつスピンオフによる膜厚減少の生じにくい潤滑層を形成できる含フッ素エーテル化合物の提供。
【解決手段】下記式で表される含フッ素エーテル化合物。R
1-[A]-CH
2-R
2-CH
2-[B]-R
3(R
2はパーフルオロポリエーテル鎖。R
1およびR
3は、水酸基、メルカプト基、および-OR
4(R
4は、置換基を有してもよいアルキル基、または、二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基)から選択される。[A]は式(2)、[B]は式(3)。R
1-[A]-および-[B]-R
3の少なくとも一方がメルカプト基を含む。)
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
R
1-[A]-CH
2-R
2-CH
2-[B]-R
3 (1)
(式(1)中、R
2はパーフルオロポリエーテル鎖である。R
1およびR
3はそれぞれ独立に、水酸基、メルカプト基、および-OR
4(R
4は、置換基を有してもよいアルキル基、または、二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基を表す。)から選択される末端基である。[A]は下記式(2)で表され、[B]は下記式(3)で表される。式(1)中、R
1-[A]-および-[B]-R
3の少なくとも一方がメルカプト基を含む。)
【化1】
(式(2)中のaは1~5の整数であり、bは1~5の整数であり、X
1は水酸基またはメルカプト基を表す。式(2)中のcは構造単位の数であり、0~3の整数である。cが2以上である場合、構造単位中のa、bおよびX
1は、複数の構造単位のうち一部または全部が同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよい。式(2)中の最も右側のエーテル酸素原子が式(1)中のR
2側に結合する。)
(式(3)中のdは1~5の整数であり、eは1~5の整数であり、X
2は水酸基またはメルカプト基を表す。式(3)中のfは構造単位の数であり、0~3の整数である。fが2以上である場合、構造単位中のd、eおよびX
2は、複数の構造単位のうち一部または全部が同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよい。式(3)中の最も左側のエーテル酸素原子が式(1)中のR
2側に結合する。)
【請求項2】
R4が、水酸基またはメルカプト基を有してもよいアルキル基、または、二重結合または三重結合を有し、水酸基またはメルカプト基を有してもよい炭化水素基である、請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項3】
分子中に含まれる水酸基の数が6個以下である、請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項4】
R4が表す、前記置換基を有してもよいアルキル基が、水酸基またはメルカプト基を有するアルキル基である、請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項5】
R4が表す、前記二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基が、芳香族炭化水素を含む基、不飽和複素環を含む基、アルケニル基、およびアルキニル基のいずれかである、請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項6】
式(2)中のcおよび式(3)中のfがいずれも1以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項7】
前記式(1)において、R2が下記式(Rf)で表される、請求項1~5のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
-(CF2)p1-O-(CF2O)p2-(CF2CF2O)p3-(CF2CF2CF2O)p4-(CF2CF2CF2CF2O)p5-(CF2)p6- (Rf)
(式(Rf)中、p2、p3、p4、p5は平均重合度を示し、それぞれ独立に0~20を表す。ただし、p2、p3、p4、p5の全てが同時に0になることはない。p1、p6は、-CF2-の数を表す平均値であり、それぞれ独立に1~3を表す。式(Rf)における繰り返し単位である(CF2O)、(CF2CF2O)、(CF2CF2CF2O)、(CF2CF2CF2CF2O)の配列順序には、特に制限はない。)
【請求項8】
前記式(1)において、R2が下記式(4)~(8)のいずれかである、請求項1~5のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
-CF2O-(CF2CF2O)m-(CF2O)n-CF2- (4)
(式(4)中のm、nは平均重合度を示し、それぞれ独立に0.1~20を表す。)
-CF2O-(CF2CF2O)w-CF2- (5)
(式(5)中のwは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
-CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)x-CF2CF2- (6)
(式(6)中のxは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
-CF2CF2CF2O-(CF2CF2CF2CF2O)y-CF2CF2CF2- (7)
(式(7)中のyは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
-(CF2)p7-O-(CF2CF2CF2O)p8-(CF2CF2O)p9-(CF2)p10- (8)
(式(8)中のp8、p9は平均重合度を示し、それぞれ独立に0.1~20を表す。p7、p10は、-CF2-の数を表す平均値であり、それぞれ独立に1~2を表す。)
【請求項9】
数平均分子量が500~10000の範囲内である、請求項1~5のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする、磁気記録媒体用潤滑剤。
【請求項11】
基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑層とが順次設けられた磁気記録媒体であって、
前記潤滑層が、請求項1~5のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする、磁気記録媒体。
【請求項12】
前記潤滑層の平均膜厚が0.5nm~2.0nmである、請求項11に記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置における記録密度を向上させるために、高記録密度に適した磁気記録媒体の開発が進められている。
従来、磁気記録媒体として、基板上に記録層を形成し、記録層上にカーボン等の保護層を形成したものがある。保護層は、記録層に記録された情報を保護するとともに、磁気ヘッドの摺動性を高める。しかし、記録層上に保護層を設けただけでは、磁気記録媒体の耐久性は十分に得られない。このため、一般に、保護層の表面に潤滑剤を塗布して潤滑層を形成している。
【0003】
磁気記録媒体の潤滑層を形成する際に用いられる潤滑剤としては、例えば、フルオロアルキル基を含む鎖状構造の末端に、水酸基、メルカプト基などの極性基を有する化合物を含有するものが提案されている。
例えば、特許文献1には、パーフルオロポリエーテル鎖の一方の末端に、1級メルカプト基を有する末端基が配置された化合物を含む潤滑剤が記載されている。
特許文献2には、アルキルコハク酸(2-メルカプトフロロアルキル)半エステルを含有する、カーボン保護膜付き金属用表面処理剤が記載されている。
【0004】
特許文献3には、フロロアルキル末端基と炭化水素鎖とを結合したフッ素化炭化水素鎖と、メルカプト基とを有する有機化合物を含有する潤滑剤層が記載されている。
特許文献4には、脂肪族炭化水素末端基と、フッ素化炭化水素末端基と、メルカプト基とが、結合基を介して結合した有機化合物を含有する潤滑剤層が記載されている。
【0005】
また、特許文献5には、パーフルオロポリエーテル鎖と、両末端基との間にそれぞれ、エーテル結合(-O-)とメチレン基(-CH2-)と1つの水素原子が水酸基で置換されたメチレン基(-CH(OH)-)とを組み合わせた連結基を配置した含フッ素エーテル化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-282074号公報
【特許文献2】特許第3160408号公報
【特許文献3】特開平03-132913号公報
【特許文献4】特開平02-108218号公報
【特許文献5】国際公開第2019/054148号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気記録再生装置においては、より一層、磁気ヘッドの浮上量を小さくすることが要求されている。このため、磁気記録媒体における潤滑層の厚みを、より薄くすることが求められている。しかしながら、一般的に潤滑層の厚みを薄くすると、耐摩耗性が低下する傾向がある。潤滑層の耐摩耗性が低下すると、磁気ヘッドの接触による磁気記録媒体の破損(ヘッドクラッシュ)が引き起こされる可能性がある。
【0008】
潤滑層の膜厚を薄くしつつ、十分な耐摩耗性を維持する方法として、数平均分子量の小さい化合物からなる潤滑剤を用いることが考えられる。しかし、数平均分子量の小さい化合物を用いて形成した潤滑層は、スピンオフが生じやすい。
スピンオフとは、磁気記録媒体の回転に伴う遠心力および発熱によって、潤滑剤が飛散したり蒸発したりする現象である。近年、磁気記録媒体の急速な記録密度の向上に伴って、磁気記録媒体の回転速度が高速化しているため、スピンオフが生じやすくなっている。スピンオフが発生すると、潤滑層の膜厚が減少するため、潤滑層の耐摩耗性が低下し、磁気記録媒体の耐久性が低下する。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、厚みが薄くても優れた耐摩耗性を有し、かつスピンオフによる膜厚減少の生じにくい潤滑層を形成でき、磁気記録媒体用潤滑剤の材料として好適に用いることができる含フッ素エーテル化合物を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含む磁気記録媒体用潤滑剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層を有する優れた信頼性および耐久性を有する磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の事項に関する。
【0011】
[1] 下記式(1)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
R1-[A]-CH2-R2-CH2-[B]-R3 (1)
(式(1)中、R2はパーフルオロポリエーテル鎖である。R1およびR3はそれぞれ独立に、水酸基、メルカプト基、および-OR4(R4は、置換基を有してもよいアルキル基、または、二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基を表す。)から選択される末端基である。[A]は下記式(2)で表され、[B]は下記式(3)で表される。式(1)中、R1-[A]-および-[B]-R3の少なくとも一方がメルカプト基を含む。)
【0012】
【化1】
(式(2)中のaは1~5の整数であり、bは1~5の整数であり、X
1は水酸基またはメルカプト基を表す。式(2)中のcは構造単位の数であり、0~3の整数である。cが2以上である場合、構造単位中のa、bおよびX
1は、複数の構造単位のうち一部または全部が同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよい。式(2)中の最も右側のエーテル酸素原子が式(1)中のR
2側に結合する。)
(式(3)中のdは1~5の整数であり、eは1~5の整数であり、X
2は水酸基またはメルカプト基を表す。式(3)中のfは構造単位の数であり、0~3の整数である。fが2以上である場合、構造単位中のd、eおよびX
2は、複数の構造単位のうち一部または全部が同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよい。式(3)中の最も左側のエーテル酸素原子が式(1)中のR
2側に結合する。)
【0013】
[2] R4が、水酸基またはメルカプト基を有してもよいアルキル基、または、二重結合または三重結合を有し、水酸基またはメルカプト基を有してもよい炭化水素基である、[1]に記載の含フッ素エーテル化合物。
[3] 分子中に含まれる水酸基の数が6個以下である、[1]または[2]に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0014】
[4] R4が表す、前記置換基を有してもよいアルキル基が、水酸基またはメルカプト基を有するアルキル基である、[1]~[3]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
[5] R4が表す、前記二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基が、芳香族炭化水素を含む基、不飽和複素環を含む基、アルケニル基、およびアルキニル基のいずれかである、[1]~[4]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
[6] 式(2)中のcおよび式(3)中のfがいずれも1以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0015】
[7] 前記式(1)において、R2が下記式(Rf)で表される、[1]~[6]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
-(CF2)p1-O-(CF2O)p2-(CF2CF2O)p3-(CF2CF2CF2O)p4-(CF2CF2CF2CF2O)p5-(CF2)p6- (Rf)
(式(Rf)中、p2、p3、p4、p5は平均重合度を示し、それぞれ独立に0~20を表す。ただし、p2、p3、p4、p5の全てが同時に0になることはない。p1、p6は、-CF2-の数を表す平均値であり、それぞれ独立に1~3を表す。式(Rf)における繰り返し単位である(CF2O)、(CF2CF2O)、(CF2CF2CF2O)、(CF2CF2CF2CF2O)の配列順序には、特に制限はない。)
【0016】
[8] 前記式(1)において、R2が下記式(4)~(8)のいずれかである、[1]~[7]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
-CF2O-(CF2CF2O)m-(CF2O)n-CF2- (4)
(式(4)中のm、nは平均重合度を示し、それぞれ独立に0.1~20を表す。)
-CF2O-(CF2CF2O)w-CF2- (5)
(式(5)中のwは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
-CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)x-CF2CF2- (6)
(式(6)中のxは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
-CF2CF2CF2O-(CF2CF2CF2CF2O)y-CF2CF2CF2- (7)
(式(7)中のyは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
-(CF2)p7-O-(CF2CF2CF2O)p8-(CF2CF2O)p9-(CF2)p10- (8)
(式(8)中のp8、p9は平均重合度を示し、それぞれ独立に0.1~20を表す。p7、p10は、-CF2-の数を表す平均値であり、それぞれ独立に1~2を表す。)
【0017】
[9] 数平均分子量が500~10000の範囲内である、[1]~[8]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする、磁気記録媒体用潤滑剤。
【0018】
[11] 基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑層とが順次設けられた磁気記録媒体であって、
前記潤滑層が、[1]~[9]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする、磁気記録媒体。
[12] 前記潤滑層の平均膜厚が0.5nm~2.0nmである、[11]に記載の磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0019】
本発明の含フッ素エーテル化合物は、上記式(1)で表される化合物であり、磁気記録媒体用潤滑剤の材料として好適である。
本発明の磁気記録媒体用潤滑剤は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含むため、厚みが薄くても優れた耐摩耗性を有し、かつスピンオフによる膜厚減少の生じにくい潤滑層を形成できる。
本発明の磁気記録媒体は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含む優れた耐摩耗性およびスピンオフ耐性を有する潤滑層が設けられているため、優れた信頼性および耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の磁気記録媒体の一実施形態の例を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決するために、以下に示すように、鋭意研究を重ねた。
従来、保護層の表面に塗布される磁気記録媒体用潤滑剤(以下、「潤滑剤」と略記する場合がある。)の材料として、パーフルオロポリエーテル鎖の一方または両方の末端に、水酸基などの極性基を有する末端構造を有する含フッ素エーテル化合物が、好ましく用いられている。
【0022】
含フッ素エーテル化合物に含まれる極性基は、保護層上の活性点と結合して、潤滑層の保護層に対する密着性を向上させる。極性基の中でも、特に、水酸基は、水素原子の正電荷量が高く、保護層への吸着性が高い。したがって、潤滑層の耐摩耗性を向上させる方法として、パーフルオロポリエーテル鎖の末端構造に、水酸基を複数個配置して、保護層との密着性を向上させることが考えられる。
【0023】
しかし、本発明者が検討した結果、含フッ素エーテル化合物に含まれる水酸基の数を多くしても、これを含む潤滑層の保護層への密着性は一定水準までしか向上しないこと、また、水酸基の数を多くしすぎると、これを含む潤滑層のスピンオフ耐性が低下することが分かった。これは、含フッ素エーテル化合物中に含まれる水酸基の数が多すぎると、水酸基を含むことに起因する分子内相互作用が強くなりすぎて、保護層上で凝集しやすくなるためであると推定される。
【0024】
そこで、本発明者は、保護層に対する相互作用が水酸基と同程度であって、水酸基と比較して分子内相互作用の弱い極性基であるメルカプト基に着目し、鋭意検討を重ねた。
その結果、パーフルオロポリエーテル鎖の両端に、特定の末端構造が配置され、少なくとも一方の末端構造がメルカプト基(-SH)を含む含フッ素エーテル化合物とすればよいことを見出した。前記末端構造は、水酸基、メルカプト基、および-OR4(R4は、置換基を有してもよいアルキル基、または、二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基を表す。)から選択される末端基を有し、パーフルオロポリエーテル鎖と前記末端基との間に、パーフルオロポリエーテル鎖側の末端がエーテル酸素原子であって、アルキレン鎖における水素原子の1つが水酸基またはメルカプト基に置換された構造単位を有する連結基を含んでもよい。
【0025】
上記の含フッ素エーテル化合物は、含フッ素エーテル化合物のパーフルオロポリエーテル鎖の両端にそれぞれ配置された末端構造のうち、少なくとも一方の末端構造がメルカプト基を含む。したがって、上記の含フッ素エーテル化合物は、メルカプト基によって保護層への吸着が促進されるものであり、例えば、メルカプト基に代えて、水酸基を含む含フッ素エーテル化合物と比較して、保護層上で凝集しにくく、保護層上で面方向に広がって均一に延在した状態で配置されやすく、厚みの薄い潤滑層を十分な被覆率で形成できる。これは、メルカプト基の分子内相互作用が水酸基と比較して弱いため、潤滑層中の含フッ素エーテル化合物の保護層表面に対する相互作用が、分子内相互作用より優先して機能することによるものと推定される。
【0026】
しかも、上記の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層は、両方の末端構造の有する末端基、および末端構造に含まれてもよい連結基と、保護層上の活性点との相互作用によって、保護層に密着される。このため、上記の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層は、保護層との密着性が良好であり、厚みが薄くても、優れた耐摩耗性およびスピンオフ耐性を有するものとなる。
【0027】
さらに、本発明者らは、上記の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いて、磁気記録媒体の保護層上に潤滑層を形成することにより、厚みが薄くても、優れた耐摩耗性およびスピンオフ耐性を有する潤滑層を形成できることを確認し、本発明を想到した。
【0028】
以下、本発明の含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、数、量、比率、組成、種類、位置、材料、構成等について、付加、省略、置換、変更が可能である。
【0029】
[含フッ素エーテル化合物]
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、下記式(1)で表される。
R1-[A]-CH2-R2-CH2-[B]-R3 (1)
(式(1)中、R2はパーフルオロポリエーテル鎖である。R1およびR3はそれぞれ独立に、水酸基、メルカプト基、および-OR4(R4は、置換基を有してもよいアルキル基、または、二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基を表す。)から選択される末端基である。[A]は下記式(2)で表され、[B]は下記式(3)で表される。式(1)中、R1-[A]-および-[B]-R3の少なくとも一方がメルカプト基を含む。)
【0030】
【化2】
(式(2)中のaは1~5の整数であり、bは1~5の整数であり、X
1は水酸基またはメルカプト基を表す。式(2)中のcは構造単位の数であり、0~3の整数である。cが2以上である場合、構造単位中のa、bおよびX
1は、複数の構造単位のうち一部または全部が同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよい。式(2)中の最も右側のエーテル酸素原子が式(1)中のR
2側に結合する。)
(式(3)中のdは1~5の整数であり、eは1~5の整数であり、X
2は水酸基またはメルカプト基を表す。式(3)中のfは構造単位の数であり、0~3の整数である。fが2以上である場合、構造単位中のd、eおよびX
2は、複数の構造単位のうち一部または全部が同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよい。式(3)中の最も左側のエーテル酸素原子が式(1)中のR
2側に結合する。)
【0031】
<R1およびR3>
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、R1およびR3はそれぞれ独立に、水酸基、メルカプト基、および-OR4(R4は、置換基を有してもよいアルキル基、または、二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基を表す。)から選択される末端基である。
【0032】
(R4)
(置換基を有してもよいアルキル基)
R4としての置換基を有してもよいアルキル基におけるアルキル基は、炭素原子数1~8のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数1~6のアルキル基であることがより好ましい。具体的には、アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基が挙げられる。アルキル基は、直鎖であってもよいし、分岐を有していてもよい。
【0033】
置換基を有してもよいアルキル基における置換基としては、例えば、ハロゲノ基、アルコキシ基、水酸基、シアノ基、メルカプト基などが挙げられる。置換基を有してもよいアルキル基がこれらの中から選択される置換基を有する場合、より優れた耐摩耗性を有する潤滑層を形成できる含フッ素エーテル化合物となる。置換基を有してもよいアルキル基は、より一層、保護層との密着性の良好な潤滑層を形成できるものとなるため、水酸基またはメルカプト基を有するアルキル基であることが好ましい。置換基を有してもよいアルキル基が2つ以上の置換基を有する場合、置換基の種類は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0034】
R4としてのハロゲノ基を有するアルキル基は、少なくとも1つのフルオロ基を有するアルキル基であることが好ましい。フルオロ基を有するアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、オクタフルオロペンチル基、トリデカフルオロオクチル基などが挙げられる。
【0035】
R4としての水酸基を有するアルキル基は、少なくとも1つの1級水酸基を有するアルキル基であることが好ましい。水酸基は、保護層との強い相互作用が得られる極性基である。しかも、含フッ素エーテル化合物の末端に配置された1級水酸基は、運動性が高いため、保護層との相互作用が生じやすい。このため、R4が少なくとも1つの1級水酸基を有するアルキル基である場合、より一層、保護層との密着性の良好な潤滑層を形成できるものとなる。少なくとも1つの1級水酸基を有するアルキル基は、炭素原子数が1~5であるものが好ましく、具体的には、-CH2CH2OH、-CH2CH2CH2OH、-CH2CH2CH2CH2OH、-CH2CH2CH2CH2CH2OH、-CH2CH(CH2OH)2などが挙げられ、これらの中でも、-CH2CH2OHまたは-CH2CH2CH2OHが好ましい。
【0036】
R4としてのメルカプト基を有するアルキル基は、少なくとも1つの1級メルカプト基を有するアルキル基であることが好ましい。含フッ素エーテル化合物の末端に配置された1級メルカプト基は、運動性が高いため、保護層との相互作用が生じやすい。このため、R4が少なくとも1つの1級メルカプト基を有するアルキル基である場合、より一層、保護層との密着性の良好な潤滑層を形成できるものとなる。少なくとも1つの1級メルカプト基を有するアルキル基としては、具体的には、-CH2CH2SH、-CH2CH2CH2SH、-CH2CH2CH2CH2SH、-CH2CH2CH2CH2CH2SH、-CH2CH(CH2SH)2などが挙げられる。
【0037】
(二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基)
R4としての二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基は、二重結合または三重結合を少なくとも1つ有する炭化水素基であり、炭素原子数2~12の炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数2~8の炭化水素基であることがより好ましい。前記二重結合は、エチレン性二重結合、芳香族性二重結合のいずれであってもよい。二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基に含まれる炭素-炭素不飽和結合部位は、非局在的な電荷を有するため、保護層上の電荷の分布が広がっている部位と相互作用をすることにより吸着能を示す。二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基としては、例えば、芳香族炭化水素を含む基、不飽和複素環を含む基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられる。
【0038】
二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基における置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、メルカプト基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、シアノ基、ハロゲノ基などが挙げられる。これらの置換基の中でも、より一層、保護層との密着性の良好な潤滑層を形成できるものとなるため、上記置換基は水酸基またはメルカプト基であることが好ましい。二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基が2つ以上の置換基を有する場合、置換基の種類は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0039】
具体的には、二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基として、フェニル基、メトキシフェニル基、フッ化フェニル基、ナフチル基、フェネチル基、メトキシフェネチル基、フッ化フェネチル基、ベンジル基、メトキシベンジル基、ナフチルメチル基、メトキシナフチル基、ピロリル基、ピラゾリル基、メチルピラゾリルメチル基、イミダゾリル基、フリル基、フルフリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チエニル基、チエニルエチル基、チアゾリル基、メチルチアゾリルエチル基、イソチアゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、インドリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾピラゾリル基、ベンゾイソオキサゾリル基、ベンゾイソチアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、フタラジニル基、シンノリニル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、1-プロピニル基、プロパルギル基(2-プロピニル基)、ブチニル基、メチルブチニル基、ペンチニル基、メチルペンチニル基、ヘキシニル基が挙げられる。
【0040】
二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基としては、上記の中でも特に、フェニル基、メトキシフェニル基、フェネチル基、メトキシフェネチル基、フッ化フェネチル基、チエニルエチル基、アリル基、ブテニル基、プロパルギル基のいずれかであることが好ましく、フェニル基、チエニルエチル基、アリル基、ブテニル基、プロパルギル基のいずれかであることがさらに好ましい。二重結合または三重結合を有し、置換基を有してもよい炭化水素基が、フェニル基、チエニルエチル基、アリル基、ブテニル基、プロパルギル基のいずれかである場合、より優れた耐摩耗性を有する潤滑層を形成できる含フッ素エーテル化合物となる。
【0041】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物におけるR4は、水酸基またはメルカプト基を有してもよいアルキル基、または、二重結合または三重結合を有し、水酸基またはメルカプト基を有してもよい炭化水素基であることが好ましい。この場合、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物中に含まれるすべての極性基が、水酸基およびメルカプト基からなる群から選択されるものとなるため、より一層、保護層との密着性の良好な潤滑層を形成できる含フッ素エーテル化合物となる。
【0042】
<[A]および[B]>
式(1)における[A]は上記式(2)で表される連結基であり、[B]は上記式(3)で表される連結基である。
式(2)中のX1は水酸基またはメルカプト基を表す。aは1~5の整数であり、1~3の整数であることが好ましい。式(2)中のbは1~5の整数であり、1~3の整数であることが好ましい。式(2)中のcは構造単位の数であり、0~3の整数であり、1~3の整数であることが好ましい。cが2以上である場合、構造単位(-[(CH2)a-CH(-X1)-(CH2)b-O]-)中のa、bおよびX1は、複数の構造単位のうち一部または全部が同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよい。式(2)中の最も右側のエーテル酸素原子が式(1)中のR2側に結合する。
【0043】
式(3)中のX2は水酸基またはメルカプト基を表す。dは1~5の整数であり、1~3の整数であることが好ましい。式(3)中のeは1~5の整数であり、1~3の整数であることが好ましい。式(3)中のfは構造単位の数であり、0~3の整数であり、1~3の整数であることが好ましい。fが2以上である場合、構造単位(-[O-(CH2)e-CH(-X2)-(CH2)d]-)中のd、eおよびX2は、複数の構造単位のうち一部または全部が同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよい。式(3)中の最も左側のエーテル酸素原子が式(1)中のR2側に結合する。
【0044】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、式(2)中のcおよび式(3)中のfの少なくとも一方が1以上であることが好ましく、cおよびfのいずれも1以上であることがより好ましい。2級水酸基および/または2級メルカプト基を含み、適度な柔軟性を有する[A]および/または[B]を備えることによって、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層の保護層への吸着が促進されるためである。
【0045】
式(2)中のcが2以上である場合、2以上のX1は水酸基とメルカプト基の両方を含むことが好ましい。同様に、式(3)中のfが2以上である場合、2以上のX2は水酸基とメルカプト基の両方を含むことが好ましい。含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層が、より一層保護層との密着性が良好で、優れた耐摩耗性およびスピンオフ耐性を有するものとなるためである。
【0046】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、式(2)中のa、b、式(3)中のd、eがそれぞれ5以下であるので、式(2)中のcおよび式(3)中のfの少なくとも一方が1以上であっても、式(2)および式(3)に含まれる炭素原子によって、分子中の炭素原子数が多くなりすぎることがない。したがって、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、分子全体にしめるフッ素原子の割合が適切となりやすく、優れた潤滑性を有する潤滑層を形成できる。
【0047】
式(1)における[A]と[B]は、同じであってもよく、異なっていてもよい。本明細書において[A]と[B]が同じであるとは、[A]に含まれる原子と[B]に含まれる原子とが、R2に対して対称配置されていることを意味する。
【0048】
式(1)における[A]および[B]は、具体的には、それぞれ独立に下記式(10-1)~(10-16)のいずれかの構造であることが好ましい。式(10-1)~(10-16)において、左末端のエーテル酸素原子に結合する点線が、R2に隣接するメチレン基との結合を示し、右末端の炭素原子に結合する点線が、R1またはR3との結合を示す。これらの中でも、式(1)における[A]および/または[B]は、式(10-7)であることが好ましい。水酸基とメルカプト基の両方を含み、かつ分子中の炭素原子数が多くなりすぎることがないため、より一層保護層との密着性が良好な潤滑層が得られる含フッ素エーテル化合物となるためである。
【0049】
【0050】
【0051】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、R1-[A]-および-[B]-R3の少なくとも一方がメルカプト基を含む。式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、分子中に極性基であるメルカプト基を1以上含むため、メルカプト基と保護層との相互作用によって保護層に密着され、優れた耐摩耗性を有する潤滑層を形成できる。
【0052】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物では、R1-[A]-と-[B]-R3のいずれか一方または両方が、少なくとも1つのメルカプト基を含み、さらに少なくとも1つの水酸基を含むことが好ましい。この場合、メルカプト基の分子内相互作用が水酸基と比較して弱いため、潤滑層中の含フッ素エーテル化合物の保護層表面に対する相互作用が、分子内相互作用より優先して機能することにより、分子中に含まれる極性基が水酸基のみである場合と比較して密着性が向上し、優れた耐摩耗性を示す場合がある。また、水酸基の保護層表面に対する相互作用がメルカプト基と比較して若干強いため、分子中に含まれる極性基がメルカプト基のみである場合と比較して、優れた耐摩耗性を示す場合がある。
【0053】
しかも、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物が、少なくとも1つのメルカプト基と少なくとも1つの水酸基とを含む場合、分子内相互作用の低いメルカプト基によって、メルカプト基に代えて水酸基を含む場合と比較して分子内相互作用が緩和され、分子全体の柔軟性が向上するとともに、これを含む潤滑層がほぐれやすくなる。このことにより、この含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層は、磁気ヘッドとの接触によって傷が形成されても、即座に傷が修復され、保護層表面が露出しにくいものとなる。その結果、高い被覆率で保護層表面を長期間被覆でき、優れた耐摩耗性が得られる。
【0054】
すなわち、少なくとも1つのメルカプト基と少なくとも1つの水酸基とを含む、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層は、水酸基に起因する保護層に対する高い密着性と、メルカプト基に起因する高い柔軟性との相乗効果によって、良好な密着性が得られるため、耐摩耗性およびスピンオフ耐性がより一層良好なものとなる。
【0055】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物に含まれる水酸基の数は、6個以下であることが好ましく、1~6個であることがより好ましく、2~5個であることがさらに好ましい。分子中に含まれる水酸基の数が6個以下であると、含フッ素エーテル化合物の極性が高くなりすぎて、保護層上で凝集したり、異物(スメア)として磁気ヘッドに付着するピックアップが発生したりすることを防止できる。
【0056】
また、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、R1および/またはR3がメルカプト基である、または-OR4であってR4が少なくとも1つのメルカプト基を有し、式(2)中のcおよび式(3)中のfの少なくとも一方が1以上である場合、式(2)中のX1および式(3)中のX2は水酸基であることが好ましい。含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層の耐摩耗性およびスピンオフ耐性がより一層良好となるためである。
【0057】
また、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、少なくとも一方の末端に、少なくとも1つの1級水酸基を有することが好ましい。すなわち、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、R1および/またはR3が水酸基である、または-OR4であってR4が少なくとも1つの1級水酸基を有するアルキル基であることが好ましい。式(1)で表される含フッ素エーテル化合物が、少なくとも一方の末端に、少なくとも1つの1級水酸基を有するものである場合、1級水酸基の高い運動性によって、水酸基と保護層との相互作用が強く促進され、より一層、保護層に吸着しやすいものとなる。その結果、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層の耐摩耗性およびスピンオフ耐性がより一層良好となる。
【0058】
R1-[A]-および-[B]-R3は、それぞれ炭素原子数が1以上であることが好ましい。すなわち、式(2)中のcが0である場合には、R1が-OR4であることが好ましく、式(3)中のfが0である場合には、R3が-OR4であることが好ましい。R1-[A]-および-[B]-R3は、それぞれ炭素原子数が3以上であることがより好ましい。すなわち、R1が水酸基またはメルカプト基である場合には、式(2)中のcが1以上であることが好ましく、R3が水酸基またはメルカプト基である場合には、式(3)中のfが1以上であることが好ましい。
R1-[A]-および-[B]-R3の炭素原子数がそれぞれ1以上であると、式(2)中のcが0または式(3)中のfが0であっても、-OR4に含まれるエーテル酸素原子と、-OR4に含まれうる水酸基またはメルカプト基とが適切な距離を有するものとなる。その結果、分子内相互作用が小さくなり、水酸基またはメルカプト基と保護層との相互作用がより良好となるため、好ましい。
【0059】
また、R1-[A]-および-[B]-R3は、それぞれ炭素原子数が15以下であることが好ましく、炭素原子数が12以下であることがより好ましい。
【0060】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、R1-[A]-と-[B]-R3は同じであってもよいし、異なっていてもよい。R1-[A]-と-[B]-R3が同じであると、保護層上で均一に濡れ広がりやすく、均一な膜厚を有する潤滑層が得られやすい含フッ素エーテル化合物となる。その結果、この含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層は、良好な被覆率を有するものとなりやすく、より一層、優れた耐摩耗性が得られる。また、R1-[A]-と-[B]-R3が同じであると、容易に製造できる場合がある。
本明細書においてR1-[A]-と-[B]-R3が同じであるとは、R1-[A]-に含まれる原子と-[B]-R3に含まれる原子とが、R2に対して対称配置されていることを意味する。
【0061】
<R2>
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、R2で表されるパーフルオロポリエーテル鎖(以下「PFPE鎖」と略記する場合がある。)を有する。PFPE鎖は、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層において、保護層の表面を被覆するとともに、潤滑層に潤滑性を付与して磁気ヘッドと保護層との摩擦力を低減させる。
【0062】
式(1)におけるR2は、特に限定されるものではなく、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能などに応じて適宜選択できる。PFPE鎖としては、例えば、パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ-n-プロピレンオキシド重合体、パーフルオロイソプロピレンオキシド重合体、これらの共重合体からなるものなどが挙げられる。
【0063】
式(1)におけるR2は、例えば、パーフルオロアルキレンオキシドの重合体または共重合体に由来する下記式(Rf)で表されるPFPE鎖であることが好ましい。
-(CF2)p1-O-(CF2O)p2-(CF2CF2O)p3-(CF2CF2CF2O)p4-(CF2CF2CF2CF2O)p5-(CF2)p6- (Rf)
(式(Rf)中、p2、p3、p4、p5は平均重合度を示し、それぞれ独立に0~20を表す。ただし、p2、p3、p4、p5の全てが同時に0になることはない。p1、p6は、-CF2-の数を表す平均値であり、それぞれ独立に1~3を表す。式(Rf)における繰り返し単位である(CF2O)、(CF2CF2O)、(CF2CF2CF2O)、(CF2CF2CF2CF2O)の配列順序には、特に制限はない。)
【0064】
式(Rf)中、p2、p3、p4、p5は平均重合度を示し、それぞれ独立に0~20を表し、0~15であることが好ましく、0~10であることがより好ましい。
式(Rf)中、p1、p6は-CF2-の数を示す平均値であり、それぞれ独立に1~3を表す。p1、p6は、式(Rf)で表されるPFPE鎖において、鎖状構造の端部に配置されている繰り返し単位の構造などに応じて決定される。
式(Rf)における(CF2O)、(CF2CF2O)、(CF2CF2CF2O)、(CF2CF2CF2CF2O)は、繰り返し単位である。式(Rf)における繰り返し単位の配列順序には、特に制限はない。また、式(Rf)における繰り返し単位の種類の数にも、特に制限はない。
【0065】
式(1)におけるR2は、下記式(4)~(8)のいずれかであることがより好ましい。
-CF2O-(CF2CF2O)m-(CF2O)n-CF2- (4)
(式(4)中のm、nは平均重合度を示し、それぞれ独立に0.1~20を表す。)
-CF2O-(CF2CF2O)w-CF2- (5)
(式(5)中のwは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
-CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)x-CF2CF2- (6)
(式(6)中のxは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
-CF2CF2CF2O-(CF2CF2CF2CF2O)y-CF2CF2CF2- (7)
(式(7)中のyは平均重合度を示し、0.1~20を表す。)
-(CF2)p7-O-(CF2CF2CF2O)p8-(CF2CF2O)p9-(CF2)p10- (8)
(式(8)中のp8、p9は平均重合度を示し、それぞれ独立に0.1~20を表す。p7、p10は、-CF2-の数を表す平均値であり、それぞれ独立に1~2を表す。)
【0066】
式(4)における繰り返し単位である(CF2CF2O)と(CF2O)との配列順序には、特に制限はない。式(4)において、(CF2CF2O)の数mと(CF2O)の数nは同じであってもよいし、異なっていてもよい。式(4)は、モノマー単位(CF2CF2O)と(CF2O)とからなるランダム共重合体、ブロック共重合体、および交互共重合体のいずれを含むものであってもよい。
【0067】
式(8)における繰り返し単位である(CF2CF2CF2O)と(CF2CF2O)との配列順序には、特に制限はない。式(8)において、(CF2CF2CF2O)の数p8と(CF2CF2O)の数p9は同じであってもよいし、異なっていてもよい。式(8)は、モノマー単位(CF2CF2CF2O)と(CF2CF2O)とからなるランダム共重合体、ブロック共重合体、および交互共重合体のいずれを含むものであってもよい。式(8)におけるp7およびp10は、-CF2-の数を示す平均値であり、それぞれ独立に1~2を表す。p7およびp10は、式(8)で表されるPFPE鎖において、鎖状構造の端部に配置されている繰り返し単位の構造などに応じて決定される。
【0068】
式(4)~式(8)におけるm、n、w、x、y、p8、p9がそれぞれ0.1以上であると、良好な密着性を有する潤滑層が得られるものとなる。また、m、n、w、x、y、p8、p9がそれぞれ20以下であると、含フッ素エーテル化合物の粘度が高くなりすぎず、これを含む潤滑剤が塗布しやすいものとなる。平均重合度を示すm、n、w、x、y、p8、p9はいずれも、保護層上に濡れ広がりやすく、均一な膜厚を有する潤滑層が得られやすい含フッ素エーテル化合物となるため、1~15であることが好ましく、2~10であることがより好ましく、3~8であることがさらに好ましい。
【0069】
式(1)におけるR2が、式(4)~式(8)のいずれかである場合、含フッ素エーテル化合物の合成が容易であり好ましい。R2が式(4)である場合、原料入手が容易であるため、より好ましい。
また、R2が、式(4)~式(8)のいずれかである場合、パーフルオロポリエーテル鎖中の、炭素原子数に対する酸素原子数(エーテル結合(-O-)数)の割合が、適正である。このため、適度な硬さを有する含フッ素エーテル化合物となる。よって、保護層上に塗布された含フッ素エーテル化合物が、保護層上で凝集しにくく、より一層厚みの薄い潤滑層を十分な被覆率で形成できる。その結果、R2が式(4)~式(8)のいずれかである場合、良好な耐摩耗性およびスピンオフ耐性を有する潤滑層が得られる含フッ素エーテル化合物となる。
【0070】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物は、具体的には、下記式(A)~(Z)で表されるいずれかの化合物であることが好ましい。
下記式(A)~(Z)で表される化合物において、PFPE鎖を表すRf1、Rf2、Rf3、Rf4は、それぞれ下記の構造である。すなわち、下記式(A)~(W)で表される化合物において、Rf1は、上記式(4)で表されるPFPE鎖である。下記式(X)で表される化合物において、Rf2は、上記式(5)で表されるPFPE鎖である。下記式(Y)で表される化合物において、Rf3は、上記式(6)で表されるPFPE鎖である。下記式(Z)で表される化合物において、Rf4は、上記式(7)で表されるPFPE鎖である。なお、式(A)~(Z)中のPFPE鎖を表すRf1におけるmおよびn、Rf2におけるw、Rf3におけるx、Rf4におけるyは、平均重合度を示す値であるため、必ずしも整数になるとは限らない。
【0071】
【0072】
式(A)~(I)で表される化合物は、式(1)におけるR2が式(4)であり、R1、R3が同じで、[A]、[B]が同じである。
式(A)で表される化合物は、式(1)において、R1、R3が2-メルカプトエトキシ基であり、[A]、[B]が式(10-1)である。
式(B)で表される化合物は、式(1)において、R1、R3が3-メルカプトプロポキシ基であり、[A]、[B]が式(10-2)である。
式(C)で表される化合物は、式(1)において、R1、R3が5-メルカプトペントキシ基であり、[A]、[B]が式(10-3)である。
式(D)で表される化合物は、式(1)において、R1、R3が2-メルカプトエトキシ基であり、[A]、[B]が式(10-4)である。
【0073】
式(E)で表される化合物は、式(1)において、R1、R3が水酸基であり、[A]、[B]が式(10-5)である。
式(F)で表される化合物は、式(1)において、R1、R3が2-ヒドロキシエトキシ基であり、[A]、[B]が式(10-6)である。
式(G)で表される化合物は、式(1)において、R1、R3が2-ヒドロキシエトキシ基であり、[A]、[B]が式(10-7)である。
式(H)で表される化合物は、式(1)において、R1、R3が4-ヒドロキシブトキシ基であり、[A]、[B]が式(10-8)である。
式(I)で表される化合物は、式(1)において、R1、R3が2-メルカプトエトキシ基であり、[A]、[B]が式(10-5)である。
【0074】
式(J)~(R)で表される化合物は、式(1)におけるR1が2-ヒドロキシエトキシ基であり、[A]が式(10-7)であり、R2が式(4)である。
式(J)で表される化合物は、式(1)において、[B]が式(10-9)であり、R3が4-ヒドロキシブトキシ基である。
式(K)で表される化合物は、式(1)において、[B]が式(10-1)であり、R3が2-ヒドロキシエトキシ基である。
式(L)で表される化合物は、式(1)において、[B]が式(10-2)であり、R3が3-ヒドロキシプロポキシ基である。
【0075】
式(M)で表される化合物は、式(1)において、[B]が式(10-10)であり、R3が2-ヒドロキシエトキシ基である。
式(N)で表される化合物は、式(1)において、[B]が式(10-11)であり、R3が3-ヒドロキシプロポキシ基である。
式(O)で表される化合物は、式(1)において、[B]が式(10-12)であり、R3が5-ヒドロキシペントキシ基である。
【0076】
式(P)で表される化合物は、式(1)において、[B]が式(10-13)であり、R3が水酸基である。
式(Q)で表される化合物は、式(1)において、[B]が式(10-14)であり、R3が水酸基である。
式(R)で表される化合物は、式(1)において、[B]が式(10-15)であり、R3が3-ヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロポキシ基である。
【0077】
式(S)で表される化合物は、式(1)において、R1が3-ヒドロキシプロポキシ基であり、[A]が式(10-5)であり、R2が式(4)であり、[B]が式(10-16)であり、R3が2-ヒドロキシエトキシ基である。
【0078】
式(T)~(W)で表される化合物は、式(1)におけるR1が2-ヒドロキシエトキシ基であり、R2が式(4)であり、[A]、[B]が式(10-7)である。
式(T)で表される化合物は、式(1)において、R3が3-ブテニルオキシ基である。
式(U)で表される化合物は、式(1)において、R3がn-ブトキシ基である。
式(V)で表される化合物は、式(1)において、R3が2-プロピニルオキシ基である。
式(W)で表される化合物は、式(1)において、R3がフェノキシ基である。
【0079】
式(X)~(Z)で表される化合物は、式(1)におけるR1、R3が2-ヒドロキシエトキシ基であり、[A]、[B]が式(10-7)である。
式(X)で表される化合物は、式(1)において、R2が式(5)である。
式(Y)で表される化合物は、式(1)において、R2が式(6)である。
式(Z)で表される化合物は、式(1)において、R2が式(7)である。
【0080】
以下に、式(A)~(Z)で表される化合物を示す。
【0081】
【化6】
(式(A)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(B)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(C)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(D)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
【0082】
【化7】
(式(E)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(F)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(G)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(H)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(I)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
【0083】
【化8】
(式(J)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(K)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(L)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(M)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(N)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(O)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
【0084】
【化9】
(式(P)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(Q)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(R)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(S)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
【0085】
【化10】
(式(T)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(U)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(V)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
(式(W)中のRf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは0.1~20を表し、nは0.1~20を表す。)
【0086】
【化11】
(式(X)中のRf
2において、wは平均重合度を示し、wは0.1~20を表す。)
(式(Y)中のRf
3において、xは平均重合度を示し、xは0.1~20を表す。)
(式(Z)中のRf
4において、yは平均重合度を示し、yは0.1~20を表す。)
【0087】
式(1)で表される化合物が、上記式(A)~(Z)で表されるいずれかの化合物であると、原料が入手しやすく、厚みが薄くても優れた耐摩耗性およびスピンオフ耐性が得られる潤滑層を形成でき、好ましい。
【0088】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、数平均分子量(Mn)が500~10000の範囲内であることが好ましく、700~5000の範囲内であることがより好ましく、900~3000の範囲内であることがさらに好ましく、1000~2000の範囲内であることが特に好ましい。数平均分子量が500以上であると、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤が蒸散しにくいものとなり、より一層スピンオフによる膜厚減少の生じにくい潤滑層を形成できる。また、数平均分子量が500以上であると、潤滑剤が蒸散して磁気ヘッドに移着することを防止できる。含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、1000以上であることがより好ましい。また、数平均分子量が10000以下であると、含フッ素エーテル化合物の粘度が適正なものとなり、これを含む潤滑剤を塗布することによって、容易に厚みの薄い潤滑層を形成できる。含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、潤滑剤に適用した場合に扱いやすい粘度となるため、3000以下であることがより好ましい。
【0089】
含フッ素エーテル化合物の数平均分子量(Mn)は、ブルカー・バイオスピン社製AVANCEIII400による1H-NMRおよび19F-NMRによって測定された値である。具体的には、19F-NMRによって測定された積分値よりPFPE鎖の繰り返し単位数を算出し、数平均分子量を求める。NMR(核磁気共鳴)の測定において、試料をヘキサフルオロベンゼン、d-アセトン、d-テトラヒドロフランなどの単独または混合溶媒へ希釈し、測定に使用する。19F-NMRケミカルシフトの基準は、ヘキサフルオロベンゼンのピークを-164.7ppmとし、1H-NMRケミカルシフトの基準は、アセトンのピークを2.2ppmとする。
【0090】
「製造方法」
本実施形態の含フッ素エーテル化合物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を用いて製造できる。本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、例えば、以下に示す製造方法を用いて製造できる。
まず、式(1)におけるR2に対応するパーフルオロポリエーテル鎖の両末端に、それぞれヒドロキシメチル基(-CH2OH)が配置されたフッ素系化合物を用意する。
【0091】
次いで、前記フッ素系化合物の一方の末端に配置されたヒドロキシメチル基の水酸基を、式(1)におけるR1-[A]-からなる基に置換する(第1反応)。その後、他方の末端に配置されたヒドロキシメチル基の水酸基を、式(1)における-[B]-R3からなる末端基に置換する(第2反応)。
【0092】
第1反応および第2反応は、従来公知の方法を用いて行うことができ、式(1)におけるR1-[A]-および-[B]-R3の種類などに応じて適宜決定できる。また、第1反応と第2反応のうち、どちらの反応を先に行ってもよい。R1-[A]-と-[B]-R3が同じである場合、第1反応と第2反応とを同時に行ってもよい。
以上の方法により、式(1)で表される化合物が得られる。
【0093】
第一反応および第二反応においては、前記フッ素系化合物と、式(1)におけるR1-[A]-に対応する基(または-[B]-R3に対応する基)を有するエポキシ化合物またはエピスルフィド化合物とを反応させる方法を用いることができる。これらの化合物は、市販品を購入してもよいし、合成してもよい。
【0094】
エポキシ化合物としては、例えば、下記式(11-1a)~(11-1d)、(11-2)、(11-3a)~(11-3f)で表されるエポキシ化合物などを用いることができる。エピスルフィド化合物としては、例えば、下記式(12-1a)~(12-1d)、(12-2)、(12-3a)、(12-3b)、(12-4a)~(12-4d)で表されるエピスルフィド化合物などを用いることができる。
【0095】
上記フッ素系化合物と、上記エポキシ化合物またはエピスルフィド化合物とを反応させる場合、上記エポキシ化合物の有する水酸基および/またはメルカプト基、またはエピスルフィド化合物の有する水酸基および/またはメルカプト基を、適切な保護基を用いて保護してから、上記フッ素系化合物と反応させてもよい。
【0096】
【0097】
【0098】
第一反応および第二反応においては、前記フッ素系化合物と、式(1)におけるR1-[A]-に対応する基(または-[B]-R3に対応する基)および脱離基を有する化合物とを反応させる方法を用いてもよい。前記脱離基を有する化合物の脱離基としては、メシル基、トシル基(p-トルエンスルホニル基)、ハロゲノ基、トリフラート基などが挙げられる。R1-[A]-に対応する基(または-[B]-R3に対応する基)および脱離基を有する化合物は、市販品を購入してもよいし、合成してもよい。
前記脱離基を有する化合物としては、例えば、下記式(13-1)、(13-2)で表されるトシル基を有する化合物などを用いることができる。
【0099】
【化14】
(式(13-1)中、Tsはトシル基を示す。)
(式(13-2)中、Tsはトシル基を示す。)
【0100】
上記フッ素系化合物と、R1-[A]-に対応する基(または-[B]-R3に対応する基)および脱離基を有する化合物とを反応させる場合、上記脱離基を有する化合物の有する水酸基および/またはメルカプト基を適切な保護基を用いて保護してから、上記フッ素系化合物と反応させてもよい。
【0101】
式(1)におけるR1-[A]-に対応する基(または-[B]-R3に対応する基)を有するエポキシ化合物は、例えば、R1が-OR4であり、[A]が上記式(2)で表される連結基でaが1であり、bが1であり、cが1であり、X1がOHである(またはR3が-OR4であり、[B]が上記式(3)で表される連結基でdが1であり、eが1であり、fが1であり、X2がOHである)場合、以下に示す方法を用いて製造できる。
【0102】
すなわち、下記式(14)に示すように、式(1)におけるR1またはR3で表される末端基に対応する構造(式(14)中におけるR)を有するアルコールと、エピブロモヒドリンなどの[A]または[B]に対応するエポキシ基を有するハロゲン化合物とを反応させる方法を用いて製造できる。
【0103】
【化15】
(式(14)中、Rは式(1)におけるR
1またはR
3で表される末端基に対応する構造を示す。)
【0104】
また、上記エポキシ化合物は、例えば、R1が-OR4であり、[A]が上記式(2)で表される連結基でaが1であり、bが1であり、cが2であり、X1がOHである(またはR3が-OR4であり、[B]が上記式(3)で表される連結基でdが1であり、eが1であり、fが2であり、X2がOHである)場合、以下に示す方法を用いて製造できる。
【0105】
すなわち、下記式(15)に示すように、式(1)におけるR1またはR3で表される末端基に対応する構造(式(15)中におけるR)を有するアルコールと、アリルグリシジルエーテルとを付加反応させる。その後、付加反応により得られた化合物の有する二重結合に、m-クロロ過安息香酸(mCPBA)を作用させて酸化させる方法を用いて製造できる。
【0106】
【化16】
(式(15)中、Rは式(1)におけるR
1またはR
3で表される末端基に対応する構造を示す。)
【0107】
また、上記エポキシ化合物は、例えば、R1が-OR4であり、[A]が上記式(2)で表される連結基でaが2であり、bが1であり、cが1であり、X1がOHである(またはR3が-OR4であり、[B]が上記式(3)で表される連結基でdが2であり、eが1であり、fが1であり、X2がOHである)場合、以下に示す方法を用いて製造できる。
【0108】
すなわち、下記式(16)に示すように、式(1)におけるR1またはR3で表される末端基に対応する構造(式(16)中におけるR)を有するアルコールと、[A]または[B]に対応するアルケニル基を有するハロゲン化合物とを反応させる。その後、得られた化合物の有する二重結合に、m-クロロ過安息香酸(mCPBA)を作用させて酸化させる方法を用いて製造できる。このエポキシ化合物は、例えば、式(1)におけるR1またはR3で表される末端基に対応する構造(式(16)中におけるR)を有するアルコールと、2-ブロモエチルオキシランなどの[A]または[B]に対応するエポキシ基を有するハロゲン化合物とを反応させる方法を用いて製造してもよい。
【0109】
【化17】
(式(16)中、Rは式(1)におけるR
1またはR
3で表される末端基に対応する構造を示す。)
【0110】
式(1)におけるR1-[A]-に対応する基(または-[B]-R3に対応する基)を有するエピスルフィド化合物は、例えば、R1が-OR4であり、[A]が上記式(2)で表される連結基でaが1であり、bが1であり、cが2であり、X1がSHである(またはR3が-OR4であり、[B]が上記式(3)で表される連結基でdが1であり、eが1であり、fが2であり、X2がSHである)場合、以下に示す方法を用いて製造できる。
【0111】
すなわち、下記式(17)に示すように、2-スルファニルプロパン-1,3-ジオールと、式(1)におけるR1またはR3で表される末端基に対応する構造(式(17)中におけるR)を有するハロゲン化合物とを反応させる。その後、得られた化合物と、[A]または[B]の一部に対応するエピスルフィド基を有するハロゲン化合物とを反応させる方法を用いて製造できる。
【0112】
【化18】
(式(17)中、Rは式(1)におけるR
1またはR
3で表される末端基に対応する構造を示す。)
【0113】
[磁気記録媒体用潤滑剤]
本実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含む。
本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むことによる特性を損なわない範囲内であれば、潤滑剤の材料として使用されている公知の材料を、必要に応じて混合して用いることができる。
【0114】
公知の材料の具体例としては、例えば、FOMBLIN(登録商標) ZDIAC、FOMBLIN ZDEAL、FOMBLIN AM-2001(以上、Solvay Solexis社製)、Moresco A20H(Moresco社製)などが挙げられる。本実施形態の潤滑剤と混合して用いる公知の材料は、数平均分子量が1000~10000であることが好ましい。
【0115】
本実施形態の潤滑剤が、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の他の材料を含む場合、本実施形態の潤滑剤中の式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の含有量の上限は、任意に選択でき、例を挙げれば、99質量%以下であっても良く、95質量%以下であっても良く、90質量%以下や、85質量%以下であってもよい。
【0116】
本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むため、式(1)におけるR1-[A]-および-[B]-R3の少なくとも一方に含まれるメルカプト基と、保護層との相互作用によって、厚みを薄くしても、高い被覆率で保護層の表面を被覆でき、保護層との密着性に優れる潤滑層を形成できる。よって、本実施形態の潤滑剤によれば、厚みが薄くても、優れた耐摩耗性を有し、かつスピンオフによる膜厚減少の生じにくい潤滑層を形成できる。
【0117】
また、本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むため、保護層に密着(吸着)せずに存在する含フッ素エーテル化合物の凝集が生じにくい。よって、本実施形態の潤滑剤を用いて形成した潤滑層は、含フッ素エーテル化合物が凝集して、異物(スメア)として磁気ヘッドに付着することが防止され、ピックアップの抑制されたものとなる。
【0118】
[磁気記録媒体]
本実施形態の磁気記録媒体は、基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑層とが順次設けられたものである。
本実施形態の磁気記録媒体では、基板と磁性層との間に、必要に応じて1層または2層以上の下地層を設けることができる。また、下地層と基板との間に、付着層および/または軟磁性層を設けることもできる。
【0119】
図1は、本発明の磁気記録媒体の一実施形態を示した概略断面図である。
本実施形態の磁気記録媒体10は、基板11上に、付着層12と、軟磁性層13と、第1下地層14と、第2下地層15と、磁性層16と、保護層17と、潤滑層18とが順次設けられた構造をなしている。
【0120】
「基板」
基板11は、任意に選択できる。基板11としては、例えば、AlもしくはAl合金などの金属または合金材料からなる基体上に、NiPまたはNiP合金からなる膜が形成された、非磁性基板等を好ましく用いることができる。
また、基板11としては、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコンカーバイド、カーボン、樹脂などの非金属材料からなる非磁性基板を用いてもよいし、これらの非金属材料からなる基体上に、さらにNiPまたはNiP合金の膜を形成した非磁性基板を用いてもよい。
【0121】
「付着層」
付着層12は、基板11と、付着層12上に設けられる軟磁性層13とを接して配置した場合に生じる、基板11の腐食の進行を防止する。
付着層12の材料は、任意に選択できるが、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金、CrTi、NiAl、AlRu合金等から適宜選択できる。付着層12は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0122】
「軟磁性層」
軟磁性層13は、任意に選択できるが、第1軟磁性膜と、Ru膜からなる中間層と、第2軟磁性膜とが順に積層された構造を有していることが好ましい。すなわち、軟磁性層13は、2層の軟磁性膜の間にRu膜からなる中間層を挟み込むことによって、中間層の上下の軟磁性膜がアンチ・フェロ・カップリング(AFC)結合した構造を有していることが好ましい。
【0123】
第1軟磁性膜および第2軟磁性膜の材料としては、CoZrTa合金、CoFe合金などが挙げられる。
第1軟磁性膜および第2軟磁性膜に使用されるCoFe合金には、Zr、Ta、Nbの何れかを添加することが好ましい。これにより、第1軟磁性膜および第2軟磁性膜の非晶質化が促進される。その結果、第1下地層(シード層)の配向性を向上させることが可能になるとともに、磁気ヘッドの浮上量を低減することが可能となる。
軟磁性層13は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0124】
「第1下地層」
第1下地層14は、その上に設けられる第2下地層15および磁性層16の配向および結晶サイズを制御する層である。
第1下地層14としては、例えば、Cr層、Ta層、Ru層、あるいはCrMo合金層、CoW合金層、CrW合金層、CrV合金層、CrTi合金層などからなるものが挙げられる。
第1下地層14は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0125】
「第2下地層」
第2下地層15は、磁性層16の配向が良好になるように制御する層である。第2下地層15は、任意に選択できるが、RuまたはRu合金からなる層であることが好ましい。
第2下地層15は、1層からなる層であってもよいし、複数層から構成されていてもよい。第2下地層15が複数層からなる場合、全ての層が同じ材料から構成されていてもよいし、少なくとも一層が異なる材料から構成されていてもよい。
第2下地層15は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0126】
「磁性層」
磁性層16は、磁化容易軸が基板面に対して垂直または水平方向を向いた磁性膜からなる。磁性層16は、任意に選択できるが、好ましくは、CoとPtを含む層である。磁性層16は、SNR特性を改善するために、酸化物、Cr、B、Cu、Ta、Zr等を含む層であってもよい。
磁性層16に含有される酸化物としては、SiO2、SiO、Cr2O3、CoO、Ta2O3、TiO2等が挙げられる。
【0127】
磁性層16は、1層から構成されていてもよいし、組成の異なる材料からなる複数の磁性層から構成されていてもよい。
例えば、磁性層16が、下から順に積層された第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、さらに酸化物を含んだ材料からなるグラニュラー構造であることが好ましい。第1磁性層に含有される酸化物としては、例えば、Cr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Co等の酸化物を用いることが好ましい。その中でも、特に、TiO2、Cr2O3、SiO2等を好適に用いることができる。また、第1磁性層は、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも、特に、Cr2O3-SiO2、Cr2O3-TiO2、SiO2-TiO2等を好適に用いることができる。第1磁性層は、Co、Cr、Pt、及び、酸化物の他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。
【0128】
第2磁性層には、第1磁性層と同様の材料を用いることができる。第2磁性層は、グラニュラー構造であることが好ましい。
第3磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、酸化物を含まない材料からなる非グラニュラー構造であることが好ましい。第3磁性層は、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Re、Mnの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。
【0129】
磁性層16が複数の磁性層で形成されている場合、隣接する磁性層の間には、非磁性層を設けることが好ましい。磁性層16が、第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層と第2磁性層との間と、第2磁性層と第3磁性層との間に、非磁性層を設けることが好ましい。
【0130】
磁性層16の隣接する磁性層間に設けられる非磁性層は、例えば、Ru、Ru合金、CoCr合金、CoCrX1合金(X1は、Pt、Ta、Zr、Re、Ru、Cu、Nb、Ni、Mn、Ge、Si、O、N、W、Mo、Ti、V、Bの中から選ばれる1種または2種以上の元素を表す。)等を好適に用いることができる。
【0131】
磁性層16の隣接する磁性層間に設けられる非磁性層には、酸化物、金属窒化物、または金属炭化物を含んだ合金材料を使用することが好ましい。具体的には、酸化物として、例えば、SiO2、Al2O3、Ta2O5、Cr2O3、MgO、Y2O3、TiO2等を用いることができる。金属窒化物として、例えば、AlN、Si3N4、TaN、CrN等を用いることができる。金属炭化物として、例えば、TaC、BC、SiC等を用いることができる。
非磁性層は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0132】
磁性層16は、より高い記録密度を実現するために、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向を向いた垂直磁気記録の磁性層であることが好ましい。磁性層16は、面内磁気記録の磁性層であってもよい。
磁性層16は、蒸着法、イオンビームスパッタ法、マグネトロンスパッタ法等、従来公知のいかなる方法によって形成してもよい。磁性層16は、通常、スパッタリング法により形成される。
【0133】
「保護層」
保護層17は、磁性層16を保護する。保護層17は、一層から構成されていてもよいし、複数層から構成されていてもよい。保護層17の材料としては、炭素、窒素を含む炭素、炭化ケイ素などが挙げられる。保護層17としては、炭素系保護層を好ましく用いることができ、特にアモルファス炭素保護層が好ましい。保護層17が炭素系保護層であると、潤滑層18中の含フッ素エーテル化合物に含まれる極性基(特に水酸基)との相互作用が一層高まるため、好ましい。
【0134】
炭素系保護層と潤滑層18との付着力は、炭素系保護層を水素化炭素および/または窒素化炭素とし、炭素系保護層中の水素含有量および/または窒素含有量を調節することにより制御可能である。炭素系保護層中の水素含有量は、水素前方散乱法(HFS)で測定したときに3原子%~20原子%であることが好ましい。また、炭素系保護層中の窒素含有量は、X線光電子分光分析法(XPS)で測定したときに、4原子%~15原子%であることが好ましい。
【0135】
炭素系保護層に含まれる水素および/または窒素は、炭素系保護層全体に均一に含有される必要はない。炭素系保護層は、例えば、保護層17の潤滑層18側に窒素を含有させ、保護層17の磁性層16側に水素を含有させた組成傾斜層とすることが好適である。この場合、磁性層16および潤滑層18と、炭素系保護層との付着力が、より一層向上する。
【0136】
保護層17の膜厚は、1nm~7nmであることが好ましい。保護層17の膜厚が1nm以上であると、保護層17としての性能が充分に得られる。保護層17の膜厚が7nm以下であると、保護層17の薄膜化の観点から好ましい。
【0137】
保護層17の成膜方法としては、炭素を含むターゲット材を用いるスパッタ法、エチレンやトルエン等の炭化水素原料を用いるCVD(化学蒸着法)法、IBD(イオンビーム蒸着)法等を用いることができる。
保護層17として炭素系保護層を形成する場合、例えばDCマグネトロンスパッタリング法により成膜できる。特に、保護層17として炭素系保護層を形成する場合、プラズマCVD法により、アモルファス炭素保護層を成膜することが好ましい。プラズマCVD法により成膜したアモルファス炭素保護層は、表面が均一で、粗さの小さいものとなる。
【0138】
「潤滑層」
潤滑層18は、磁気記録媒体10の汚染を防止する。また、潤滑層18は、磁気記録媒体10上を摺動する磁気記録再生装置の磁気ヘッドの摩擦力を低減させて、磁気記録媒体10の耐久性を向上させる。
潤滑層18は、
図1に示すように、保護層17上に接して形成されている。潤滑層18は、上述の含フッ素エーテル化合物を含む。
【0139】
潤滑層18は、潤滑層18の下に配置されている保護層17が、炭素系保護層である場合、特に、保護層17と高い結合力で結合される。その結果、潤滑層18の厚みが薄くても、高い被覆率で保護層17の表面が被覆された磁気記録媒体10が得られやすく、磁気記録媒体10の表面の汚染を効果的に防止できる。
【0140】
潤滑層18の平均膜厚は、任意に選択できるが、0.5nm(5Å)~2.0nm(20Å)であることが好ましく、0.5nm(5Å)~1.0nm(10Å)であることがより好ましい。潤滑層18の平均膜厚が0.5nm以上であると、潤滑層18がアイランド状または網目状とならずに均一の膜厚で形成される。このため、潤滑層18によって、保護層17の表面が高い被覆率で被覆され、より一層スピンオフによる膜厚減少が生じにくいものとなる。また、潤滑層18の平均膜厚を2.0nm以下にすることで、潤滑層18を充分に薄膜化でき、磁気ヘッドの浮上量を十分小さくできる。
【0141】
保護層17の表面が潤滑層18によって十分に高い被覆率で被覆されていない場合、磁気記録媒体10の表面に吸着した環境物質が、潤滑層18の隙間を通り抜けて、潤滑層18の下に侵入する。潤滑層18の下層に侵入した環境物質は、保護層17に吸着、結合し、汚染物質を生成する。そして、磁気記録再生の際に、この汚染物質(凝集成分)がスメアとして磁気ヘッドに付着(転写)して、磁気ヘッドを破損したり、磁気記録再生装置の磁気記録再生特性を低下させたりする。
【0142】
汚染物質を生成させる環境物質としては、例えば、シロキサン化合物(環状シロキサン、直鎖シロキサン)、イオン性不純物、オクタコサン等の比較的分子量の高い炭化水素、フタル酸ジオクチル等の可塑剤等が挙げられる。イオン性不純物に含まれる金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン等を挙げることができる。イオン性不純物に含まれる無機イオンとしては、例えば、塩素イオン、臭素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、アンモニウムイオン等を挙げることができる。イオン性不純物に含まれる有機物イオンとしては、例えば、シュウ酸イオン、蟻酸イオン等を挙げることができる。
【0143】
「潤滑層の形成方法」
潤滑層18を形成する方法としては、例えば、基板11上に保護層17までの各層が形成された製造途中の磁気記録媒体を用意し、保護層17上に潤滑層形成用溶液を塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。
【0144】
潤滑層形成用溶液は、上述の実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤を必要に応じて、溶媒に分散溶解させ、塗布方法に適した粘度および濃度とすることにより得られる。
潤滑層形成用溶液に用いられる溶媒としては、例えば、バートレル(登録商標)XF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)、および/またはアサヒクリン(登録商標)AE-3000(商品名、AGC社製)等のフッ素系溶媒等が挙げられる。
【0145】
潤滑層形成用溶液の塗布方法は、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、スプレイ法、ペーパーコート法、ディップ法等が挙げられる。
ディップ法を用いる場合、例えば、以下に示す方法を用いることができる。まず、ディップコート装置の浸漬槽に入れられた潤滑層形成用溶液中に、保護層17までの各層が形成された基板11を浸漬する。次いで、浸漬槽から基板11を所定の速度で引き上げる。このことにより、潤滑層形成用溶液を基板11の保護層17上の表面に塗布する。
ディップ法を用いることで、潤滑層形成用溶液を保護層17の表面に均一に塗布することができ、保護層17上に均一な膜厚で潤滑層18を形成できる。
【0146】
本実施形態においては、潤滑層18を形成した基板11に熱処理を施すことが好ましい。熱処理を施すことにより、潤滑層18と保護層17との密着性が向上し、潤滑層18と保護層17との付着力が向上する。
熱処理温度は、100~180℃とすることが好ましい。熱処理温度が100℃以上であると、潤滑層18と保護層17との密着性を向上させる効果が十分に得られる。また、熱処理温度を180℃以下にすることで、潤滑層18の熱分解を防止できる。熱処理時間は、10~120分とすることが好ましい。
【0147】
本実施形態の磁気記録媒体10は、基板11上に、少なくとも磁性層16と、保護層17と、潤滑層18とが順次設けられたものである。本実施形態の磁気記録媒体10では、保護層17上に接して上述の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層18が形成されている。この潤滑層18は、厚みが薄くても、高い被覆率で保護層17の表面を被覆している。よって、本実施形態の磁気記録媒体10における潤滑層18は、優れた耐摩耗性とスピンオフ耐性を有する。
【0148】
また、本実施形態の磁気記録媒体10では、潤滑層18によって高い被覆率で保護層17の表面が被覆されている。このため、イオン性不純物などの汚染物質を生成させる環境物質が、潤滑層18の隙間から侵入することが防止される。したがって、本実施形態の磁気記録媒体10は、表面上に存在する汚染物質が少ないものである。
また、本実施形態の磁気記録媒体10における潤滑層18は、異物(スメア)を生じさせにくく、ピックアップを抑制できる。
以上のことから、本実施形態の磁気記録媒体10は、優れた信頼性および耐久性を有する。
【実施例0149】
以下、実施例および比較例により本発明の例をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0150】
「潤滑剤の製造」
(実施例1)
以下に示す方法により、上記式(A)で示される化合物を製造した。
まず、窒素雰囲気下で200mLのナスフラスコに、HOCH2CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2CH2OH(式中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)で表されるフルオロポリエーテル(数平均分子量1000、分子量分布1.1、20.0mmol)20.0gと、上記式(11-1a)で表される化合物5.90g(分子量134.04、44mmol)と、t-ブタノール20mLとを投入して、室温で均一になるまで撹拌した。
【0151】
式(11-1a)で表される化合物は、2-メルカプトエタノールとエピブロモヒドリンとを反応させることにより合成した。
【0152】
この均一の液にカリウムtert-ブトキシド0.90g(分子量112.21、8mmol)を加え、70℃で14時間撹拌して反応させた。得られた反応生成物を25℃に冷却し、1mol/L塩酸で中和し、バートレル(登録商標)XFで抽出し、水洗を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、乾燥剤を濾別した後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して、化合物(A)を10.1g得た。式(A)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
【0153】
得られた化合物(A)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(A);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.4~3.9(26H)
【0154】
(実施例2)
式(11-1a)で示される化合物の代わりに、式(11-1b)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、化合物(B)を11.6g得た。式(B)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(11-1b)で示される化合物は、3-メルカプト-1-プロパノールとアリルグリシジルエーテルとを付加反応させた後、m-クロロ過安息香酸で酸化させて合成した。
【0155】
得られた化合物(B)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(B);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.6~2.0(2H)、2.2~2.4(2H)、3.4~4.0(38H)
【0156】
(実施例3)
式(11-1a)で示される化合物の代わりに、式(11-1c)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、化合物(C)を11.0g得た。式(C)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(11-1c)で示される化合物は、5-メルカプト-1-ペンタノールと2-ブロモエチルオキシランとを反応させて合成した。
【0157】
得られた化合物(C)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(C);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.6~2.0(10H)、2.2~2.4(6H)、3.4~4.0(26H)
【0158】
(実施例4)
式(11-1a)で示される化合物の代わりに、式(11-1d)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、化合物(D)を11.6g得た。式(D)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(11-1d)で示される化合物は、2-メルカプトエタノールと、アリル-3-ブテニルエーテルの二重結合を酸化させた化合物とを反応させて合成した。
【0159】
得られた化合物(D)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(D);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.6~2.0(2H)、2.2~2.4(2H)、3.4~4.0(38H)
【0160】
(実施例5)
式(11-1a)で示される化合物の代わりに、式(12-1a)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、化合物(E)を8.8g得た。式(E)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(12-1a)で示される化合物としては、市販品(商品名;チイラン-2-イルメタノール、Aurora Fine Chemicals社製)を用いた。
【0161】
得られた化合物(E)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(E);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.4~4.0(18H)
【0162】
(実施例6)
式(11-1a)で示される化合物の代わりに、式(11-2)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、化合物(F)を11.3g得た。式(F)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(11-2)で示される化合物は、2-スルファニルプロパン-1,3-ジオールと2-ブロモエタノールとを反応させて合成した化合物に、エピブロモヒドリンを反応させることにより合成した。
【0163】
得られた化合物(F)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(F);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.4~4.0(38H)
【0164】
(実施例7)
式(11-1a)で示される化合物の代わりに、式(12-1b)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、化合物(G)を11.3g得た。式(G)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(12-1b)で示される化合物は、3-(2-ヒドロキシエトキシ)-プロパン-1,2-ジオールと2-ブロモメチルチイランとを反応させることにより合成した。
【0165】
得られた化合物(G)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(G);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.4~4.0(38H)
【0166】
(実施例8)
式(11-1a)で示される化合物の代わりに、式(12-1c)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、化合物(H)を12.0g得た。式(H)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(12-1c)で示される化合物は、2-スルファニルプロパン-1,3-ジオールと4-ブロモブタノールとを反応させて合成した化合物に、2-ブロモメチルチイランを反応させることにより合成した。
【0167】
得られた化合物(H)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(H);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.4~4.0(38H)
【0168】
(実施例9)
式(11-1a)で示される化合物の代わりに、式(12-2)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、化合物(I)を10.4g得た。式(I)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(12-2)で示される化合物は、2-ブロモメチルチイランと2-メルカプトエタノールとを反応させることにより合成した。
【0169】
得られた化合物(I)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(I);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.4~4.0(26H)
【0170】
(実施例10)
以下に示す方法により、上記式(J)で示される化合物を製造した。
窒素ガス雰囲気下、100mLナスフラスコにHOCH2CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2CH2OH(式中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)で表されるフルオロポリエーテル(数平均分子量1000、分子量分布1.1)20.0gと、上記式(12-1b)で示される化合物2.50g(分子量209.08、12mmol)と、t-ブタノール12mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。この均一の液にさらにカリウムtert-ブトキシド0.674gを加え、70℃で8時間撹拌して反応させ、反応生成物を得た。
【0171】
得られた反応生成物を25℃に冷却し、0.5mol/Lの塩酸で中和後、バートレル(登録商標)XFで抽出し、有機層を水洗し、無水硫酸ナトリウムによって脱水した。乾燥剤を濾別後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、下記式(32)で示される中間体化合物9.67gを得た。
【0172】
【化19】
(式(32)中のRf
1は、上記式(4)で表されるPFPE鎖である。Rf
1において、平均重合度を示すmは4.5を表し、平均重合度を示すnは4.5を表す。)
【0173】
窒素ガス雰囲気下で200mLナスフラスコに、上記式(32)で示される中間体化合物6.04gと、上記式(11-3a)で示される化合物1.59g(分子量265.15、6mmol)と、t-ブタノール50mLとを仕込み、室温で均一になるまで撹拌した。この均一の液にカリウムtert-ブトキシドを0.168g加え、70℃で16時間撹拌して反応させた。
【0174】
式(11-3a)で示される化合物は、2-スルファニルブタン-1,4-ジオールと4-ブロモブタノールとを反応させて合成した化合物に、2-ブロモエチルオキシランを反応させることにより合成した。
【0175】
得られた反応生成物を25℃に冷却し、1mol/L塩酸で中和し、バートレル(登録商標)XFで抽出し、水洗を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、乾燥剤を濾別した後、濾液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して、化合物(J)を5.15g得た。式(J)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
【0176】
得られた化合物(J)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(J);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.6~2.0(8H)、2.2~2.4(8H)、3.4~3.9(30H)
【0177】
(実施例11)
式(11-3a)で示される化合物の代わりに、式(11-3b)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、化合物(K)を4.64g得た。式(K)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(11-3b)で示される化合物としては、市販品(商品名;2-[(オキシラン-2-イル)メトキシ)]エタン-1-オール、富士フイルム和光純薬社製)を用いた。
【0178】
得られた化合物(K)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(K);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.4~4.0(32H)
【0179】
(実施例12)
式(11-3a)で示される化合物の代わりに、式(11-3c)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、化合物(L)を4.95g得た。式(L)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(11-3c)で示される化合物は、1,3-プロパンジオールとアリルグリシジルエーテルとを付加反応させた後、m-クロロ過安息香酸で酸化させて合成した。
【0180】
得られた化合物(L)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(L);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.6~2.0(2H)、3.4~3.9(38H)
【0181】
(実施例13)
式(11-3a)で示される化合物の代わりに、式(11-3d)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、化合物(M)を5.05g得た。式(M)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(11-3d)で示される化合物は、3-スルファニルペンタン-1,5-ジオールと2-ブロモエタノールを反応させて合成した化合物に、エピブロモヒドリンを反応させることにより合成した。
【0182】
得られた化合物(M)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(M);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.6~2.0(4H)、3.4~3.9(38H)
【0183】
(実施例14)
式(11-3a)で示される化合物の代わりに、式(11-3e)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、化合物(N)を5.15g得た。式(N)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(11-3e)で示される化合物は、2-スルファニルブタン-1,4-ジオールと3-ブロモプロパノールとを反応させて合成した化合物に、3-ブロモプロピルオキシランを反応させることにより合成した。
【0184】
得られた化合物(N)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(N);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.6~2.0(6H)、2.2~2.4(2H)、3.4~4.0(38H)
【0185】
(実施例15)
式(11-3a)で示される化合物の代わりに、式(13-1)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、化合物(O)を5.20g得た。式(O)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
【0186】
式(13-1)で示される化合物は、2-スルファニルペンタン-1,5-ジオールと、5-(アリルオキシ)ペンタノールの二重結合を酸化させた化合物とを反応させて合成した化合物に、トシルクロライド(p-トルエンスルホニルクロリド)を反応させることにより合成した。
【0187】
得られた化合物(O)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(O);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.6~2.0(6H)、2.2~2.4(2H)、3.4~4.0(38H)
【0188】
(実施例16)
式(11-3a)で示される化合物の代わりに、式(12-3a)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、化合物(P)を4.64g得た。式(P)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(12-3a)で示される化合物は、2-オキシランプロパノールとチオ尿素とを反応させることにより合成した。
【0189】
得られた化合物(P)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(P);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.6~2.0(2H)、3.4~4.0(30H)
【0190】
(実施例17)
式(11-3a)で示される化合物の代わりに、式(13-2)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、化合物(Q)を4.64g得た。式(Q)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(13-2)で示される化合物は、3-スルファニルペンタン-1,5-ジオールとトシルクロライドとを反応させることにより合成した。
【0191】
得られた化合物(Q)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(Q);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.6~2.0(4H)、3.4~4.0(28H)
【0192】
(実施例18)
式(11-3a)で示される化合物の代わりに、式(11-3f)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、化合物(R)を5.16g得た。式(R)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(11-3f)で示される化合物は、2-スルファニルブタン-1,4-ジオールと2-(ブロモメチル)-1,3-プロパンジオールとを反応させて合成した化合物に、エピブロモヒドリンを反応させることにより合成した。
【0193】
得られた化合物(R)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(R);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.6~2.0(3H)、3.4~4.0(41H)
【0194】
(実施例19)
式(12-1b)で示される化合物の代わりに、式(12-1d)で示される化合物を1.78g用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、式(33)で示される中間体化合物を得た。
【0195】
【化20】
(式(33)中のRf
1は、上記式(4)で表されるPFPE鎖である。Rf
1において、平均重合度を示すmは4.5を表し、平均重合度を示すnは4.5を表す。)
【0196】
その後、式(32)で示される中間体化合物に代えて、式(33)で示される中間体化合物を用い、式(11-3a)で示される化合物の代わりに、式(12-3b)で示される化合物を1.79g用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、化合物(S)を5.04g得た。式(S)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
【0197】
式(12-3b)で示される化合物は、グリセロールと2-ブロモメチルチイランとを反応させて合成した化合物に、エチレングリコールを反応させることにより合成した。
【0198】
得られた化合物(S)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(S);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.4~4.0(38H)
【0199】
(実施例20)
式(11-3a)で示される化合物の代わりに、式(12-4a)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、化合物(T)を4.99g得た。式(T)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(12-4a)で示される化合物は、グリセロールと4-ブロモ-1-ブテンとを反応させて合成した化合物に、2-ブロモメチルチイランを反応させることにより合成した。
【0200】
得られた化合物(T)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(T);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]1.6~2.0(1H)、2.2~2.4(1H)、3.4~4.0(35H)、5.1~5.2(1H)、5.2~5.3(1H)、5.8~6.0(1H)
【0201】
(実施例21)
式(11-3a)で示される化合物の代わりに、式(12-4b)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、化合物(U)を5.10g得た。式(U)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(12-4b)で示される化合物は、グリセロールと1-ブロモブタンとを反応させて合成した化合物に、2-ブロモメチルチイランを反応させることにより合成した。
【0202】
得られた化合物(U)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(U);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]0.9~1.1(5H)、1.8(1H)、3.4~4.0(36H)
【0203】
(実施例22)
式(11-3a)で示される化合物の代わりに、式(12-4c)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、化合物(V)を4.94g得た。式(V)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(12-4c)で示される化合物は、グリセロールとプロパルギルブロミドとを反応させて合成した化合物に、2-ブロモメチルチイランを反応させることにより合成した。
【0204】
得られた化合物(V)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(V);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]2.7(1H)、3.4~4.0(35H)
【0205】
(実施例23)
式(11-3a)で示される化合物の代わりに、式(12-4d)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例10と同様な操作を行い、化合物(W)を5.07g得た。式(W)中のRf1において、平均重合度を示すmは4.5、平均重合度を示すnは4.5である。
式(12-4d)で示される化合物は、3-フェノキシ-1,2-プロパンジオールと2-ブロモメチルチイランとを反応させることにより合成した。
【0206】
得られた化合物(W)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(W);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.4~4.0(33H)、6.8(5H)
【0207】
(実施例24)
HOCH2CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2CH2OH(式中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)で表されるフルオロポリエーテルの代わりに、HOCH2CF2O(CF2CF2O)wCF2CH2OH(式中、平均重合度を示すwは7.0である。)で表されるフルオロポリエーテルを用いたこと以外は、実施例7と同様な操作を行い、化合物(X)を4.92g得た。式(X)中のRf2において、平均重合度を示すwは7.0である。
【0208】
得られた化合物(X)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(X);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.4~4.0(38H)
【0209】
(実施例25)
HOCH2CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2CH2OH(式中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)で表されるフルオロポリエーテルの代わりに、HOCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)xCF2CF2CH2OH(式中、平均重合度を示すxは4.5である。)で表されるフルオロポリエーテルを用いたこと以外は、実施例7と同様な操作を行い、化合物(Y)を5.04g得た。式(Y)中のRf3において、平均重合度を示すxは4.5である。
【0210】
得られた化合物(Y)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(Y);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.4~4.0(38H)
【0211】
(実施例26)
HOCH2CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2CH2OH(式中、平均重合度を示すmは4.5であり、平均重合度を示すnは4.5である。)で表されるフルオロポリエーテルの代わりに、HOCH2CF2CF2CF2O(CF2CF2CF2CF2O)yCF2CF2CF2CH2OH(式中、平均重合度を示すyは3.0である。)で表されるフルオロポリエーテルを用いたこと以外は、実施例7と同様な操作を行い、化合物(Z)を5.04g得た。式(Z)中のRf4において、平均重合度を示すyは3.0である。
【0212】
得られた化合物(Z)の1H-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
化合物(Z);1H-NMR(CD3COCD3);
δ[ppm]3.4~4.0(38H)
【0213】
このようにして得られた実施例1~26の化合物を、式(1)に当てはめたときのR1で示される末端基、[A]で示される連結基、R2で示されるPFPE鎖、[B]で示される連結基、R3で示される末端基それぞれの構造を、表1に示す。
【0214】
【0215】
「比較例1」
下記式(AA)で表される化合物を特許文献1に記載の方法で合成した。
【0216】
【0217】
「比較例2」
下記式(AB)で表される化合物を特許文献2に記載の方法で合成した。
【0218】
【0219】
「比較例3」
下記式(AC)で表される化合物を特許文献3に記載の方法で合成した。
【0220】
【0221】
「比較例4」
下記式(AD)で表される化合物を特許文献4に記載の方法で合成した。
【0222】
【0223】
「比較例5」
下記式(AE)で表される化合物を特許文献5に記載の方法で合成した。
【0224】
【化25】
(式(AE)中のRf
1は、上記式(4)で表されるPFPE鎖である。Rf
1において、m、nは平均重合度を示し、mは4.5を表し、nは4.5を表す。)
【0225】
このようにして得られた実施例1~26および比較例1~5の化合物の数平均分子量(Mn)を表2および表3に示す。
【0226】
【0227】
【0228】
次に、以下に示す方法により、実施例1~26および比較例1~5で得られた化合物を用いて潤滑層形成用溶液を調製した。そして、得られた潤滑層形成用溶液を用いて、以下に示す方法により、磁気記録媒体の潤滑層を形成し、実施例1~26および比較例1~5の磁気記録媒体を得た。
【0229】
「潤滑層形成用溶液」
実施例1~26および比較例1~5で得られた化合物を、それぞれバートレル(登録商標)XFに溶解し、保護層上に塗布した時の膜厚が8Å~9Åになるようにバートレル(登録商標)XFで希釈し、潤滑層形成用溶液とした。
【0230】
「磁気記録媒体」
直径65mmの基板上に、付着層と軟磁性層と第1下地層と第2下地層と磁性層と保護層とを順次設けた磁気記録媒体を用意した。保護層は、炭素からなるものとした。
保護層までの各層の形成された磁気記録媒体の保護層上に、実施例1~26および比較例1~5の潤滑層形成用溶液を、それぞれディップ法により塗布した。なお、ディップ法は、浸漬速度10mm/sec、浸漬時間30sec、引き上げ速度1.2mm/secの条件で行った。
その後、潤滑層形成用溶液を塗布した磁気記録媒体を、120℃の恒温槽に入れ、10分間加熱して潤滑層形成用溶液中の溶媒を除去することにより、保護層上に潤滑層を形成し、磁気記録媒体を得た。
【0231】
(膜厚測定)
このようにして得られた実施例1~26および比較例1~5の磁気記録媒体の有する潤滑層の膜厚を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR、商品名:Nicolet iS50、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定した。その結果を表2および表3に示す。
【0232】
次に、実施例1~26および比較例1~5の磁気記録媒体に対して、以下に示す耐摩耗性試験およびスピンオフ耐性試験を行なった。
【0233】
(耐摩耗性試験)
ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用い、接触子としての直径2mmのアルミナ球を、荷重40gf、摺動速度0.25m/secで、磁気記録媒体の潤滑層上で摺動させ、潤滑層の表面の摩擦係数を測定した。そして、潤滑層の表面の摩擦係数が急激に増大するまでの摺動時間(摩擦係数増大時間)を測定した。摩擦係数増大時間は、各磁気記録媒体の潤滑層について4回ずつ測定し、その平均値(時間)を潤滑剤塗膜の耐摩耗性の指標とした。
【0234】
実施例1~26の化合物および比較例1~5の化合物を用いた磁気記録媒体の摩擦係数増大時間の結果を、表2および表3に示す。摩擦係数増大時間の評価は、以下のとおりとした。摩擦係数増大時間は、数値が大きいほど、よい結果であると理解される。
【0235】
「摩擦係数増大時間の評価基準」
A(優):750sec以上
B(良):650sec以上、750sec未満
C(可):550sec以上、650sec未満
D(不可):550sec未満
【0236】
なお、摩擦係数が急激に増大するまでの時間は、以下に示す理由により、潤滑層の耐摩耗性の指標として用いることができる。磁気記録媒体の潤滑層は、磁気記録媒体を使用することにより摩耗が進行し、摩耗により潤滑層が無くなると、接触子と保護層とが直接接触して、摩擦係数が急激に増大するためである。本摩擦係数が急激に増大するまでの時間は、フリクション試験とも相関があると考えられる。
【0237】
(スピンオフ耐性試験)
スピンスタンドに磁気記録媒体を装着し、相対湿度60%、温度80℃の環境下、回転速度10000rpmで72時間にわたり回転させた。この操作の前後において、磁気記録媒体の中心から半径20mmの位置における潤滑層の膜厚をFT-IRを用いて測定し、試験前後での潤滑層の膜厚減少率を算出した。算出した膜厚減少率を用いて、以下に示す評価基準により、スピンオフ耐性を評価した。その結果を表2および表3に示す。
【0238】
「スピンオフ耐性の評価基準」
A(優):膜厚減少率2%以下
B(良):膜厚減少率2%超、3%以下
C(可):膜厚減少率3%超、9%以下
D(不可):膜厚減少率9%超
【0239】
(総合評価)
耐摩耗性試験およびスピンオフ耐性試験の結果から、以下の基準により総合評価を行った。
A(優):耐摩耗性試験とスピンオフ耐性試験の評価がいずれもAである。
B(良):耐摩耗性試験およびスピンオフ耐性試験の評価がAまたはBであり、耐摩耗性試験とスピンオフ耐性試験の少なくとも一方の評価がBである。
C(不可):上記A(優)およびB(良)の基準を満たさない。
【0240】
表2および表3に示すように、実施例1~26の磁気記録媒体は、比較例1~5の磁気記録媒体と比較して、摩擦係数が急激に増大するまでの摺動時間が長く、耐摩耗性が良好であった。また、実施例1~26の磁気記録媒体は、比較例1~5の磁気記録媒体と比較して、膜厚減少率が小さく、スピンオフ耐性も良好であった。
【0241】
これは、実施例1~26の磁気記録媒体の潤滑層が、式(1)におけるR1およびR3がそれぞれ独立に、水酸基および-OR4(R4は、二重結合または三重結合を有する炭化水素基、または、水酸基またはメルカプト基を有してもよいアルキル基)から選択される末端基であり、R1-[A]-および-[B]-R3の少なくとも一方がメルカプト基を含む化合物により形成されていることによるものであると推定される。
【0242】
特に、実施例5~8、10~26の磁気記録媒体は、表2に示すように、総合評価がAであり、実施例1~4、9の磁気記録媒体と比較して、耐摩耗性がより良好であった。これは、実施例5~8、10~26の磁気記録媒体では、少なくとも1つのメルカプト基と少なくとも1つの水酸基とを含み、少なくとも一方の末端に、少なくとも1つの1級水酸基を有する化合物(E)~(H)、(J)~(Z)を用いているためであると推定される。
10・・・磁気記録媒体、11・・・基板、12・・・付着層、13・・・軟磁性層、14・・・第1下地層、15・・・第2下地層、16・・・磁性層、17・・・保護層、18・・・潤滑層。