(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090212
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル設備の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B08B 9/38 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
B08B9/38
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205953
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 秀揮
(72)【発明者】
【氏名】山根 悟
(72)【発明者】
【氏名】小島 英順
【テーマコード(参考)】
3B116
【Fターム(参考)】
3B116AA22
3B116AA46
3B116AB51
3B116BA06
3B116BB22
3B116BB62
(57)【要約】
【課題】ポリエチレンテレフタレート(PET)のケミカルリサイクル設備における固着物を効率的に除去できる、PETのケミカルリサイクル設備の洗浄方法を提供する。
【解決手段】PETのケミカルリサイクル設備において、PET製品由来の物質が固着した箇所を洗浄する方法であって、PET及びビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートから選ばれるいずれか1種以上からなるメディアを用いてブラスト洗浄する、PETのケミカルリサイクル設備の洗浄方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケミカルリサイクル設備において、ポリエチレンテレフタレート製品及びその原料由来の物質が固着した箇所を洗浄する方法であって、
ポリエチレンテレフタレート及びビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートから選ばれるいずれか1種以上からなるメディアを用いてブラスト洗浄する、ポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル設備の洗浄方法。
【請求項2】
前記ポリエチレンテレフタレート製品がペットボトルである、請求項1に記載のポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル設備の洗浄方法。
【請求項3】
ポリエチレンテレフタレート製品及びその原料由来の物質が固着した前記箇所が、反応器及び配管の内壁である、請求項1又は2に記載のポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル設備の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート(PET)のケミカルリサイクル設備の洗浄方法に関し、より詳しくは、PETのケミカルリサイクル設備において、PET製品及びその原料由来の物質が固着した箇所を洗浄する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペットボトル等のPET製品は、その消費拡大とともにリサイクルも進み、例えば、ペットボトルは、使用済みボトルを原料として、再び同様の製品であるボトルを製造する水平リサイクル、いわゆる「ボトルtoボトル」により、循環利用されている。
【0003】
ペットボトルのリサイクル方法としては、回収された使用済みペットボトルを粉砕、洗浄、乾燥して得られたフレークを、必要に応じてペレット化した後、再生PET樹脂として、ペットボトルの製造に供する、メカニカルリサイクルが知られている。また、回収された使用済みペットボトルを粉砕、洗浄、乾燥して得られたフレークを、PET樹脂の原料又は中間原料まで解重合し、精製した後、再重合した新たなPET樹脂をペットボトル製造に供するケミカルリサイクルも採用されている。
【0004】
ケミカルリサイクルのうちの一方式として、解重合工程で、エチレングリコールを加えて、PET樹脂の中間原料であるビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)を生成させる方式が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方式では、解重合工程の後、精製工程で、BHETの粗製物を、脱色及び金属イオン除去し、BHET晶析、固液分離、BHET濃縮、及び分子蒸留を経て、精製BHETを得る。そして、この精製BHETを重合することにより、PET樹脂が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなケミカルリサイクルでは、解重合工程及び精製工程において、特に、熱負荷や圧力負荷が大きい、反応器や配管の内壁に、解重合時の未反応物や粗製物等が汚れとして付着しやすく、精製BHETの生産性を低下させる一因となっていた。
また、このような付着物、特に固着物の除去のために、定期的に設備の操業を停止させて、反応器や配管の洗浄作業を行う必要があった。
【0007】
洗浄方法としては、一般的に用いられる水や洗浄液を用いた高圧洗浄は、反応器への水の侵入をできるだけ回避したいとの理由から、好ましくない。また、水を使用せず、かつ、洗浄媒体(メディア)により系内を汚染しない洗浄方法として知られているドライアイスブラスト洗浄は、メディアであるドライアイスの硬度が、除去対象の固着物に対して低く、付着物を効率的に除去できるとは言い難かった。結局、手作業で固着物を剥脱しなければならず、多くの手間及び時間を要し、生産性の低下を招いていた。
【0008】
本発明は、このような状況下でなされたものであり、PETのケミカルリサイクル設備における固着物を効率的に除去できる、PETのケミカルリサイクル設備の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ブラスト洗浄におけるメディアとして、PETやその中間原料であるBHETを用いることにより、PETのケミカルリサイクル設備内に異物を混入させることなく、解重合及び精製工程における系内の固着物を効率的に除去できることを見出したことに基づくものである。
【0010】
本発明は、以下の手段を提供する。
[1]ケミカルリサイクル設備において、ポリエチレンテレフタレート製品及びその原料由来の物質が固着した箇所を洗浄する方法であって、ポリエチレンテレフタレート及びビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートから選ばれるいずれか1種以上からなるメディアを用いてブラスト洗浄する、ポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル設備の洗浄方法。
[2]前記ポリエチレンテレフタレート製品がペットボトルである、[1]のポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル設備の洗浄方法。
[3]ポリエチレンテレフタレート製品及びその原料由来の物質が固着した前記箇所が、反応器及び配管の内壁である、[1]又は[2]のポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクル設備の洗浄方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PETのケミカルリサイクル設備における固着物を効率的に除去できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のPETのケミカルリサイクル設備の洗浄方法は、PETのケミカルリサイクル設備において、PET製品及びその原料由来の物質が固着した箇所を洗浄する方法であって、PET及びBHETから選ばれるいずれか1種以上からなるメディアを用いてブラスト洗浄することを特徴とする。
PETの製造に用いられる原料であるPET及び/又はBHETを用いたブラスト洗浄によれば、ケミカルリサイクル設備内に、PET製品における不純物となる洗浄剤由来の異物を混入させることなく、PETのケミカルリサイクル設備における固着物を効率的に除去できる。
【0013】
PETのケミカルリサイクルでは、上述したように、解重合工程及び精製工程において熱負荷や圧力負荷がかかり、ケミカルリサイクル設備の中でも、特に、反応器や配管の内壁において、これらの負荷が大きい。このため、反応器や配管の内壁には、解重合時の未反応物や粗製物等のPET製品及びその原料由来の物質が、汚れとして付着しやすく、さらには固着物として残留する。
PETのケミカルリサイクルにおいて、PETを高純度で、かつ、効率的に再生させるためには、このような固着物を定期的に除去するためのケミカルリサイクル設備の洗浄が必要であり、その洗浄において、本発明の方法では、PET及び/又はBHETを用いてブラスト洗浄する。PET及びBHETは、いずれか一方でもよく、両方が混在していてもよい。好ましくはPETが用いられる。
【0014】
PET及びBHETは、ペットボトル等のPET製品の製造に用いられる原料及び中間原料である。PETのケミカルリサイクルにおいて、ケミカルリサイクル設備に残留する固着物も、PET及びその原料由来の物質である。このため、類似する材質のメディアを用いたブラスト洗浄によれば、ケミカルリサイクル設備における固着物が残留している箇所及びその周辺の部材等を損傷することなく、ケミカルリサイクル設備を洗浄することができる。また、メディアとして用いられるPET及び/又はBHETが、ブラスト洗浄後にケミカルリサイクル設備に残留しても、PET製品における不純物となることはない。
【0015】
また、PET及びBHETは、ブラスト洗浄におけるメディアとして一般的に用いられている珪砂やクルミ殻、ドライアイス等よりも樹脂材の研削効果が高く、前記固着物に対して、良好なブラスト洗浄力を発揮し得る。また、ブラスト洗浄時に固着物に衝突した際に、珪砂のように粉塵を発生することもない。したがって、PET及び/又はBHETをメディアとして用いたブラスト洗浄によれば、前記固着物を効率的に除去でき、PETのケミカルリサイクル設備を効率的に洗浄することができる。
【0016】
本発明のブラスト洗浄は、PETのケミカルリサイクル設備における、PET製品及びその原料由来の物質が固着した箇所に適用され、具体的には、例えば、反応器、配管の内壁等が挙げられる。
【0017】
本発明のブラスト洗浄におけるメディアであるPET及び/又はBHETの粒径は、特に限定されないが、前記固着物の効率的な除去の観点から、例えば、0.5~2.0mmの範囲とすることができる。
なお、ここで言う粒径は、所定の目開きのふるい分けに基づく値である。
【0018】
メディアのPET及び/又はBHETの粒形状は、特に限定されるものではなく、球状や長球状であってもよく、多面体状であってもよい。
【0019】
前記ブラスト洗浄におけるメディアの噴出圧力は、特に限定されないが、前記固着物の効率的な除去の観点から、例えば、0.3~0.7MPaの範囲とすることができる。
【実施例0020】
本発明を下記の例に基づいて説明するが、本発明は下記例により限定されるものではない。
【0021】
[ブラスト試験]
PET又はポリエチレンの試験板を、PET製品等の由来の物質が固着した箇所の模擬試料として、下記の各メディアを用いてブラスト試験(洗浄模擬試験)を行った。
(使用メディア)
・PET:粒径1.0~1.9mm、比重1.39
・珪砂:宇部珪砂 新得5A号、粒径0.2~1.6mm(カタログ値)、比重2.56
・クルミ殻:粒径1.5~2.0mm(カタログ値)、比重0.53
・ドライアイス:粒径2.0~3.0mm(カタログ値)
【0022】
(試験方法)
ブラストマシンのノズル(口径7mm)の先端からの距離が300mmの位置に、背面に鉄板を当てた試験板(PET又はポリエチレン;200mm×200mm、厚さ約5mm)を垂直固定し、試験板表面に対して垂直に各メディアをノズルから10秒間噴射させて、ブラスト試験を行った。噴出圧力は、PET、珪砂及びクルミ殻は0.5MPa、ドライアイスは1.2MPaとした。
試験後の試験板のメディア衝突箇所について、試験板の断面写真の画像から、試験前の厚さ(a)及び試験後の最小厚さ(b)をデジタルノギスにて測定し、厚さ減少量(a-b)を研削深さとして、メディアのブラスト性能を評価した。評価結果を表1に示す。
【0023】
【0024】
表1から分かるように、メディアとしてPETを用いた場合に、他のメディアを用いた場合よりも試験板の研削深さが大きく、また、PETの試験板における研削深さが最も大きかった。
また、ブラスト試験中、メディアとしてPETを用いた場合に、粉塵はほとんど生じなかった。
したがって、PETをメディアとして用いたブラスト洗浄によれば、PETのケミカルリサイクル設備におけるPET製品等の由来の物質の固着物を効率的に除去できると言える。