(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090301
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】基材に存在する不純物元素の測定方法、基材の製造方法および管理方法、並びに、粉末基材の樹脂包埋方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/225 20180101AFI20240627BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G01N23/225
G01N1/28 F
G01N1/28 U
G01N1/28 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206106
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 秀美
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA07
2G001BA11
2G001CA03
2G001GA01
2G001LA02
2G001LA05
2G001MA04
2G001NA04
2G001QA02
2G001RA04
2G001RA08
2G052AA11
2G052AA12
2G052AB01
2G052AB26
2G052AD12
2G052AD32
2G052AD52
2G052EC18
2G052FA02
2G052GA19
2G052GA35
(57)【要約】
【課題】基材に存在する不純物元素、特に当該基材の表面に存在する不純物元素の分布状態を測定出来る、基材に存在する不純物元素の測定方法を提供する。
【解決手段】走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置を用いた分析において、前記不純物元素が検出されない包埋樹脂を準備し、前記基材と前記包埋樹脂とを混合し、前記包埋樹脂を硬化させることで樹脂包埋試料を作製する包埋工程と、前記樹脂包埋試料を、集束イオンビーム装置で加工して測定用試料を作製する加工工程と、前記測定用試料を、走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置に装填し、前記基材における前記不純物元素の分布状態を測定する測定工程と、を有する基材に存在する不純物元素の測定方法を提供する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に存在する不純物元素の測定方法であって、
走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置を用いた分析において、前記不純物元素が検出されない包埋樹脂を準備し、前記基材と前記包埋樹脂とを混合し、前記包埋樹脂を硬化させることで樹脂包埋試料を作製する包埋工程と、
前記樹脂包埋試料を、集束イオンビーム装置で加工して測定用試料を作製する加工工程と、
前記測定用試料を、走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置に装填し、前記基材における前記不純物元素の分布状態を測定する測定工程と、を有する基材に存在する不純物元素の測定方法。
【請求項2】
前記基材が金属粉末、合金粉末、金属化合物粉末のいずれかである、請求項1に記載の基材に存在する不純物元素の測定方法。
【請求項3】
前記樹脂包埋試料の耐熱温度が110℃以上である、請求項1または2に記載の基材に存在する不純物元素の測定方法。
【請求項4】
前記不純物元素が塩素である、請求項1または2に記載の基材に存在する不純物元素の測定方法。
【請求項5】
前記包埋樹脂が2-シアノアクリレート系樹脂である、請求項1または2に記載の基材に存在する不純物元素の測定方法。
【請求項6】
所定の不純物元素を含む基材の製造方法であって、
走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置を用いた分析において、前記不純物元素が検出されない包埋樹脂を準備する準備工程と、
前記基材と前記包埋樹脂とを混合し、前記包埋樹脂を硬化させることで樹脂包埋試料を作製する包埋工程と、
前記樹脂包埋試料を、集束イオンビーム装置で加工して測定用試料を作製する加工工程と、
前記測定用試料を、走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置に装填し、前記基材における前記不純物元素の分布状態を測定し、前記基材の良否を判定する判定工程と、を有する基材の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂包埋試料の耐熱温度が110℃以上である、請求項6に記載の基材の製造方法。
【請求項8】
前記不純物元素が塩素である、請求項6または7に記載の基材の製造方法。
【請求項9】
前記包埋樹脂が2-シアノアクリレート系樹脂である、請求項6または7に記載に記載の基材の製造方法。
【請求項10】
所定の不純物元素を含む基材の管理方法であって、
走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置を用いた分析において、前記不純物元素が検出されない包埋樹脂を準備する準備工程と、
前記基材と前記包埋樹脂とを混合し、前記包埋樹脂を硬化させることで樹脂包埋試料を作製する包埋工程と、
前記樹脂包埋試料を、集束イオンビーム装置で加工して測定用試料を作製する加工工程と、
前記測定用試料を、走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置に装填し、前記基材における前記不純物元素の分布状態を測定し、前記基材の良否を判定する判定工程と、を有する金属粉末の管理方法。
【請求項11】
粉末基材の樹脂包埋方法であって、
基台上に包埋樹脂を塗布する工程と、
棒状治具の先端に包埋樹脂を保持させ、前記棒状治具の先端に保持された前記包埋樹脂を粉末基材に接触させて、前記粉末基材を前記棒状治具の先端に保持された前記包埋樹脂の表面に摂取させる工程と、
前記棒状治具の先端に保持された、前記粉末基材を表面に摂取した前記包埋樹脂を、前記基台上に塗布された前記包埋樹脂上へ塗布する工程と、
前記塗布された前記粉末基材を摂取した前記包埋樹脂上へ、さらに棒状治具の先端に保持された前記包埋樹脂を塗布する工程と、を有する粉末基材の樹脂包埋方法。
【請求項12】
前記樹脂包埋試料の耐熱温度が110℃以上である、請求項11に記載の粉末基材の樹脂包埋方法。
【請求項13】
前記包埋樹脂が2-シアノアクリレート系樹脂である、請求項11または12に記載の粉末基材の樹脂包埋方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に存在する不純物元素の測定方法、基材の製造方法および管理方法、並びに、粉末基材の樹脂包埋方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器の小型化、部品の集積化、微細化に従って、電子部品の変質や腐食への許容度が小さくなってきている。
例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極や外部電極においては原材料として金属粉末を構成する金属粒子が基材として用いられ、半導体の封止材としては樹脂が基材として用いられる。これらの基材に不純物元素として腐食性を有する元素が存在すると、電気絶縁性の低下、リード線の腐食等の発生原因となり、各種電気機器や電子部品へ悪影響を及ぼす可能性がある。
【0003】
特に基材が金属粉末で、不純物元素が、塩素(本発明において「Cl」と記載する場合がある)を初めとするハロゲンや硫黄、等のような腐食性元素である場合、基材を構成する粉末に存在する不純物元素量が少ない場合であっても、粉末表面において当該不純物元素を起点として腐食が始まる場合がある。そして一旦腐食が始まると、さらに、その部分を起点として、他の粉末へも連鎖的に腐食が発生する場合がある。
【0004】
以上のような状況から、基材に存在する不純物元素の分布状態の測定方法や、当該測定方法を用いた基材の評価方法に関する要請が増加している。
【0005】
一方、基材に存在する不純物元素量の測定方法として、当該基材を酸分解等によって溶液化し、当該溶液をイオンクロマトグラフィーにより定量分析する方法がある。しかし、この方法では、基材を構成する粉末のどの部分に不純物元素が存在しているかは解らない。
【0006】
基材における不純物元素の分布状態を測定するためには、エネルギー分散型X線分析装置を備えた走査電子顕微鏡である走査電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置(本発明において「SEM-EDS」と記載する場合がある)や、エネルギー分散型X線分析装置を備えた走査透過電子顕微鏡である走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置(本発明において「STEM-EDS」と記載することがある)を用いることが提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、麺類の断面における任意の直線上の各位置におけるCl量をSEM-EDSで測定し、当該麺類の断面における食塩の濃度分布を測定することが提案されている。
一方、特許文献2には、トナー粒子の断面中におけるClの分布をSTEM-EDSで測定し、Cl元素マッピングによりClドメインの面積、当該面積の変動係数、および当該面積割合について測定することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-300957号公報
【特許文献2】特開2018-180175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、試料である乾燥した麺類の太さが1~2mm程度である為、試料をポリエチレン製の樹脂を用いて固定し、SEM-EDSを用いた測定が可能である。
しかし、試料が0.1μm以下程度の基材であって、そこに存在するClの分布状態を測定する場合、SEM-EDSで測定することは困難である。
【0010】
特許文献2では、試料であるトナー粒子を25℃で錠剤成型圧縮機により圧縮成型し、得られたトナーペレットをウルトラミクロトーム250nm厚に薄片化し、得られた薄片をSTEM-EDSで測定して、Cl元素マッピングによりClドメインの面積、当該面積の変動係数、および当該面積割合について測定している。
【0011】
しかし、ウルトラミクロトームによる薄片加工では、薄切された切片をナイフボートの水面上に浮かし、この切片を観察用グリッド上に回収する操作が必要で、不純物元素が水溶性である場合、ナイフボートの水に溶解して失われてしまうことが考えられる。
また、粒子の表面に存在する不純物元素がトナーペレットを作製する際に失われたり、分布状態が変化してしまう場合があることが考えられる。
【0012】
本発明は上述の状況のもとで為されたものであり、その解決しようとする課題は、基材に存在する不純物元素、特に当該基材の表面に存在する不純物元素の分布状態を測定出来る、基材に存在する不純物元素の測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意検討を行った。
上述したように、基材が金属粉末の場合、不純物元素として腐食性を有するハロゲンや硫黄、等が含有されている場合、特に、それらの元素が基材表面に存在している場合、その存在部分を起点として他の基材にも腐食が発生する場合がある。
特に、基材が0.1μm以下程度の微粉末の場合は、より腐食が顕著となることが多い。
本発明者らは、基材が0.1μm以下程度の微粒子中や表面に存在する不純物元素の分布状態を測定する場合、10万倍以上の高倍率の画像が容易に撮像出来るSTEM-EDSを使用するのが好適であることに想到した。
【0014】
そして、基材中や表面に存在する不純物元素の分布状態を、STEM-EDSを用いて分析する際、基材と包埋樹脂とを混合し、当該包埋樹脂を硬化させることで樹脂包埋試料を作製し、当該樹脂包埋試料を、集束イオンビーム装置で加工して測定用試料を作製し、集束イオンビーム装置で加工して測定用試料を作製する方法、そして、当該測定用試料をSTEM-EDSに装填し、基材における不純物元素の分布状態を測定する方法にも想到し、本発明を完成した。
【0015】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
基材に存在する不純物元素の測定方法であって、
走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置を用いた分析において、前記不純物元素が検出されない包埋樹脂を準備し、前記基材と前記包埋樹脂とを混合し、前記包埋樹脂を硬化させることで樹脂包埋試料を作製する包埋工程と、
前記樹脂包埋試料を、集束イオンビーム装置で加工して測定用試料を作製する加工工程と、
前記測定用試料を、走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置に装填し、前記基材における前記不純物元素の分布状態を測定する測定工程と、を有する基材に存在する不純物元素の測定方法である。
第2の発明は、
前記基材が金属粉末、合金粉末、金属化合物粉末のいずれかである、第1の発明に記載の基材に存在する不純物元素の測定方法である。
第3の発明は、
前記樹脂包埋試料の耐熱温度が110℃以上である、第1または第2の発明に記載の基材に存在する不純物元素の測定方法である。
第4の発明は、
前記不純物元素が塩素である、第1または第2の発明に記載の基材に存在する不純物元素の測定方法である。
第5の発明は、
前記包埋樹脂が2-シアノアクリレート系樹脂である、第1または第2の発明に記載の基材に存在する不純物元素の測定方法である。
第6の発明は、
所定の不純物元素を含む基材の製造方法であって、
走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置を用いた分析において、前記不純物元素が検出されない包埋樹脂を準備する準備工程と、
前記基材と前記包埋樹脂とを混合し、前記包埋樹脂を硬化させることで樹脂包埋試料を作製する包埋工程と、
前記樹脂包埋試料を、集束イオンビーム装置で加工して測定用試料を作製する加工工程と、
前記測定用試料を、走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置に装填し、前記基材における前記不純物元素の分布状態を測定し、前記基材の良否を判定する判定工程と、を有する基材の製造方法である。
第7の発明は、
前記樹脂包埋試料の耐熱温度が110℃以上である、第6の発明に記載の基材の製造方法である。
第8の発明は、
前記不純物元素が塩素である、第6または第7の発明に記載の基材の製造方法である。
第9の発明は、
前記包埋樹脂が2-シアノアクリレート系樹脂である、第6または第7の発明に記載の基材の製造方法である。
第10の発明は、
所定の不純物元素を含む基材の管理方法であって、
走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置を用いた分析において、前記不純物元素が検出されない包埋樹脂を準備する準備工程と、
前記基材と前記包埋樹脂とを混合し、前記包埋樹脂を硬化させることで樹脂包埋試料を作製する包埋工程と、
前記樹脂包埋試料を、集束イオンビーム装置で加工して測定用試料を作製する加工工程と、
前記測定用試料を、走査透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置に装填し、前記基材における前記不純物元素の分布状態を測定し、前記基材の良否を判定する判定工程と、を有する基材の管理方法である。
第11の発明は、
粉末基材の樹脂包埋方法であって、
基台上に包埋樹脂を塗布する工程と、
棒状治具の先端に包埋樹脂を保持させ、前記棒状治具の先端に保持された前記包埋樹脂を粉末基材に接触させて、前記粉末基材を前記棒状治具の先端に保持された前記包埋樹脂の表面に摂取させる工程と、
前記棒状治具の先端に保持された、前記粉末基材を表面に摂取した前記包埋樹脂を、前記基台上に塗布された前記包埋樹脂上へ塗布する工程と、
前記塗布された前記粉末基材を摂取した前記包埋樹脂上へ、さらに棒状治具の先端に保持された前記包埋樹脂を塗布する工程と、を有する粉末基材の樹脂包埋方法である。
第12の発明は、
前記樹脂包埋試料の耐熱温度が110℃以上である、第11の発明に記載の粉末基材の樹脂包埋方法である。
第13の発明は、
前記包埋樹脂が2-シアノアクリレート系樹脂である、第11または第12の発明に記載の粉末基材の樹脂包埋方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基材が0.1μm以下程度の金属粉末であっても、当該粉末基材に含まれている不純物元素、特に粉末基材の表面に存在する不純物元素の分布状態を測定出来、当該不純物元素の分布状態も測定出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂硬化物の薄片中におけるClをSTEM-EDSで点分析測定した一例である。
【
図2】実施例1に係る金属酸化物粉末試料に対するSTEM像(×150,000倍)である。
【
図3】実施例1に係る金属酸化物粉末試料に対するSTEM-EDSによるClのマッピング測定結果(×150,000倍)である。
【
図4】エポキシ樹脂硬化物の薄片中におけるClをSTEM-EDSで点分析測定した一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態について、<1.準備工程>、<2.包埋工程>、<3.加工工程>、<4.測定工程>、<5.本発明の基材製造への適用>、の順に説明する。
【0019】
<1.準備工程>
本発明に係る準備工程について、基材表面に、不純物元素としてClが存在している場合を例として、準備工程について説明する。
(1)本発明に係る基材、(2)準備工程、の順に説明する。
【0020】
(1)本発明に係る基材
本発明に係る基材には、形状として、粉末、粒体、バルク体、等があり、組成として、鉄、ニッケル等の金属、黄銅、ハンダ等の合金、金属酸化物、金属水酸化物等の金属化合物、等がある。ここで、前記金属化合物を構成する元素と、測定対象である不純物元素とが同一元素である場合は、本発明の適用が困難になる。例えば、不純物元素がClであって、基材が金属塩化物の場合である。
【0021】
(2)準備工程
基材は、次亜塩素酸が噴霧されている環境で取り扱うことを控える。また、指等の皮膚が金属粉末に触れてしまうと、薬傷する可能性のみでなく、皮膚表面に付着している塩化ナトリウムによる汚染が懸念される。薬傷や皮膚表面に付着している塩化ナトリウムによる汚染を防ぐため、保護手袋を装着することが好ましい。但し、保護手袋の材質がポリ塩化ビニルまたはクロロプレンゴムの場合は、含有されるClによる汚染の懸念があるため、Clを含まない、例えばポリエチレン製、ラテックス製またはニトリル製の保護手袋を使用するとよい。
【0022】
<2.包埋工程>
基材を樹脂包埋する工程について、基材表面に、不純物元素としてClが存在している場合を例として、(1)包埋樹脂、(2)樹脂包埋方法、の順に説明する。
【0023】
(1)包埋樹脂
基材を包埋する包埋樹脂としては、浸透性が高く、透明性が高く、低伸縮性であり、観察の妨害になる物質の含有量が少ない、等の要件を満たすものを用いることが好ましい。一般的にはエポキシ樹脂が用いられ、その他、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂等の樹脂を用いることが出来る。しかし、エポキシ樹脂には不純物としてClが含まれている場合が殆どあり、不純物元素がClである場合は測定の妨害になる。
【0024】
本発明者らは、包埋樹脂として、瞬間接着剤として使用される2-シアノアクリレート系樹脂に着目した。STEM-EDSを用いた分析では、2-シアノアクリレート系樹脂中にClは検出されなかった。さらに、2-シアノアクリレート系樹脂には、硬化時間が短いだけではなく、空気中等の水分により硬化するため、硬化させる際に加熱が不要であるという利点もある。
【0025】
一方、本発明者らに検討によると、2-シアノアクリレート系樹脂は、「3.加工工程」で説明する集束イオンビーム装置(本発明において「FIB」と記載する場合がある)で加工を行う際に熱分解してしまう場合があるという問題があった。この問題についてさらに検討したところ、FIBで加工を行う際、ビーム照射により樹脂包埋試料が100℃程度まで加熱されることが判明した。
【0026】
本発明者らは、さらに検討を行い、2-シアノアクリレート系樹脂の中でも、110℃以上の耐熱性が付与された耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂に着目した。
耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂を包埋樹脂として用いれば、樹脂包埋試料を加熱する必要がなく、空気中等の水分との反応により包埋樹脂の硬化反応が進む。この結果、基材に存在する不純物元素が加熱により揮発したり、異常反応を起こすものである場合であっても、ロスの発生を回避することが出来る。そして、FIBで加工を行う際の熱分解も抑制される。
尚、110℃以上の耐熱性が付与された耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂は、耐熱型の瞬間接着剤(例えば、東亞合成株式会社製、アロンアルファ(Extra4000):耐熱温度120℃)として入手可能である。
【0027】
(2)樹脂包埋方法
基材を包埋樹脂に包埋する際、基材を包埋樹脂中に浸漬したり、基材と包埋樹脂とを混合して、基材を包埋樹脂に包埋することが出来る。
尤も、基材の形状が粉末であり、基材の表面に不純物元素が存在する場合であって、当該粉末基材における不純物元素の存在状態を担保したまま樹脂包埋したい場合は、以下の方法を用いることが好ましい。
【0028】
基台であるシリコンウエハ上に、耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂を薄く広げて塗布する。このとき、爪楊枝や縫い針のような、先端の尖った棒状治具を使うとよい。次に、先端に耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂が付着した当該棒状治具を粉末基材に接触させ、当該粉末基材を耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂の表面に摂取する。
【0029】
次に、上述したシリコンウエハ上に薄く広げて塗布した耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂へ、耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂の表面に摂取された粉末基材を付着させ、棒状治具を静かに動かして、粉末基材を、耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂中へ略均一になるように混合する。
【0030】
次に、新しい棒状治具の先端に耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂を付着させ、上述したシリコンウエハ上にある粉末基材および耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂の混合物上へ、平らな蓋部を形成するように、耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂を塗り載せる。このとき、当該塗り載せた部分に凹凸があると、後述する「3.加工工程」においてFIBによる薄片加工が難しくなるので、塗り載せた部分が平滑になるように注意する。
【0031】
上述した一連の作業は、湿度が低い環境で手早く行うことが好ましい。また、必要に応じて、余分な耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂を、例えば紙縒りまたは綿棒で除去してもよい。当該除去により、包埋する樹脂量を調節することが出来る。
耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂の塗り載せ後、これを放置することで、耐熱性2-シアノアクリレート系樹脂が硬化し、樹脂包埋試料が作製出来る。
【0032】
耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂は、水分により硬化するとともに、後述するFIBによる加工の際に熱分解しないものである。一方、樹脂包埋試料の温度が150℃を超えるような場合は、樹脂包埋試料に存在する不純物元素が揮発して失われてしまうことも考えられることから、耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂の耐熱温度の上限は150℃であればよい。
【0033】
尚、本発明において樹脂の耐熱温度とは、当該樹脂の硬化物に対し所定の加熱温度下において引張せん断接着強さを測定したとき、当該硬化物が所定の引張せん断接着強さを保持している温度をいう。
これは、当該硬化物が所定の引張せん断接着強さを保持している温度においては、当該樹脂の構造が崩壊することなく保たれている状態であると考えられることから、FIBによる加工の際に同様の温度まで加熱されても、当該硬化物は崩壊することなく包埋樹脂としての機能を担保することを知見したことによる。
具体的には、常温下(25℃)および所定の温度による加熱下で、当該硬化物の引張せん断接着強さをJISK6850に準拠して測定する。そして、当該硬化物の常温下の引張せん断接着強さの値を100としたとき、当該引張せん断接着強さの値が50以下となったときの加熱温度をもって、当該硬化物の耐熱温度とした。
【0034】
<3.加工工程>
樹脂包埋試料を、STEM-EDSでの分析に供する形状へ加工する工程である。
まず、樹脂包埋試料に白金等の蒸着を施す。その後、当該白金蒸着を施した箇所をFIBで切り出し試料片を得る。得られた試料片を銅製のメッシュに固定してFIBに設置し、当該メッシュに固定された試料片に対してガリウムイオンを照射して、厚さ100nm以下となるまで薄片加工を施し、測定用試料を作製する。
【0035】
本発明においては、樹脂包埋試料を構成する樹脂硬化物が110℃以上の耐熱性を有しているため、FIBによるガリウムイオンの照射にともなう発熱により、樹脂が熱分解してしまうことを抑制出来、所望の厚さを有する測定用試料を得ることが出来る。
【0036】
<4.測定工程>
上述した「3.加工工程」にて得られた測定用試料をSTEM-EDSに導入し、不純物元素の測定を行う工程である。
STEM-EDSによれば、所定の不純物元素の点分析測定、線分析測定、さらに、元素マッピング測定が可能である。例えば、基材のどの部分に不純物元素が存在しているかを測定するには、元素マッピング測定が好適である。
【0037】
EDSで検出される特性X線のエネルギー値は元素によって固有であり、例えば、Clの場合は2.6eV付近にピークが検出される。STEM-EDSの観察視野内を電子線で走査して、2.6eV付近のピークを取り出し画像化すれば、Clのマッピング像が得られ、基材における不純物元素(Cl)の分布状態が測定出来る。
【0038】
勿論、EDSによる元素マッピング測定は、Clに限定されることなく、EDSで検出可能な元素について適用出来る。例えば、基材に二酸化けい素膜が形成されていることを判定する場合、酸素の特性X線が検出される0.52eV付近のピーク、および、けい素の特性X線が検出される1.7eV付近のピークを取り出し、両者が重なった部分が二酸化けい素膜であることで測定出来る。このとき、取り出した酸素とけい素とのピークを異なる色で画像化すれば、基材における二酸化けい素膜の存在の状態がより理解しやすくなる。
【0039】
<5.本発明の基材製造への適用>
本発明に係る基材に存在する不純物元素の測定方法に関し、基材製造への適用について説明する。
上述したように、積層セラミックコンデンサ等の各種の電子部品における内部電極や外部電極において、原材料として各種の基材が用いられている。これらの基材に不純物元素として腐食性を有する元素が存在すると、電気絶縁性の低下、リード線の腐食等の発生原因となり、各種電気機器や電子部品へ悪影響を及ぼす可能性があるため、基材の製造工程において洗浄工程が設けられる場合がある。これらの洗浄工程においては、洗浄液として純水ばかりではなく、酸溶液やアルカリ溶液が用いられる場合もある。
【0040】
本発明者らの検討によると、洗浄液として酸溶液やアルカリ溶液が用いられた場合、微量の酸成分やアルカリ成分が、基材の表面や基材間の隙間に残留する場合があることに想到した。例えば、洗浄液として塩酸を用いた場合には、基材の表面や基材間の隙間に微量のClが残留する場合があること、そして、当該微量のClの残留によっても、後工程において、工程不良や製品の品質不良の原因になることを知見したものである。
【0041】
上述したような、基材の表面や基材間の隙間に、腐食の原因となるような元素(例えばハロゲン、硫黄、等)が数100重量ppm程度の微量で存在する場合、その元素の存在を確認し、基材のどの部分に存在しているかを把握することは、基材の製造方法および管理方法において、品質管理や品質向上の観点から有効かつ重要な工程であると考えられる。
【実施例0042】
以下、本発明を、詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
(実施例1)
(1)STEM-EDSを用いた耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂におけるCl量の測定
サイズが、縦2.5mm、横2.5mm、厚さ0.5mmであるシリコンウエハ基板の切片(イーエムジャパン株式会社製 「スーパースムースシリコンマウント No.G3390」)を準備した。一方、包埋樹脂として耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂(東亞合成株式会社製 「アロンアルファExtra4000:耐熱温度120℃」)を準備し、当該包埋樹脂を爪楊枝の先端に載せた。
当該包埋樹脂を載せた爪楊枝を用いて、前記シリコンウエハ基板の切片へ当該包埋樹脂を縦2mm、横2mm、厚み0.5mmとなるように載置後、放置して当該包埋樹脂を硬化させ、硬化樹脂を作製した。
【0043】
前記硬化樹脂に白金蒸着を施した後、FIB(日立ハイテクノロジーズ株式会社製「FB-2100」)に設置し、その上部を縦8μm、横17μm、厚さ3μmの大きさに切り出し、試料片を得た。次に、この試料片を銅製のメッシュに固定した。続いて、当該銅製のメッシュをFIBに設置し、固定した試料片に対してガリウムイオンを照射して、厚さ100nmとなるまで薄片加工を施し、測定用試料を得た。
【0044】
得られた測定用試料をSTEM(日立ハイテクノロジーズ株式会社製「HD-2300A」)に設置し、加速電圧200kVの電子線を照射し、撮像倍率を150,000倍に設定した。そして、当該STEMに備えられたEDS(アメテック株式会社製「GENESIS」)により、当該測定用試料の任意の点において点分析測定を実施した。
【0045】
当該点分析測定により得られたスペクトルを
図1に示す。
図1において、Clが存在する場合に検出される2.6eV付近にピークは検出されなかった。この結果より、STEM-EDSを用いたCl量の測定方法では、耐熱型2-シアノアクリレート-シアノアクリレート系樹脂の硬化物からはClが検出されず、Cl量の測定に対し妨害を与えないことが判明した。この結果、耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂は、基材に存在するCl量を測定する際、および、元素マッピング測定の際の包埋樹脂として採用出来ることが確認された。
【0046】
(2)金属酸化物粒子Aの塩素測定
基材として、一次粒子の大きさが0.1μm(100nm)から0.5μm(500nm)程度の不定形で、凝集体を形成している金属酸化物粉末基材A(本実施例において「試料A」と記載する場合がある)を準備した。
【0047】
「(1)STEM-EDSを用いた耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂における塩素量の測定」にて説明したのと同様の操作を行って、縦2.5mm、横2.5mm、厚さ0.5mmのシリコンウエハ基板の切片上へ、包埋樹脂を縦2mm、横2mm、厚み0.5mmとなるように載置した。
【0048】
先端部に耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂が付着した爪楊枝を試料Aにこすり付けて、当該樹脂中に試料Aを摂取した。当爪楊枝をシリコンウエハ上に載置した耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂にあてて静かに動かし、樹脂中に摂取された試料Aをシリコンウエハ上に載置した耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂中へ混入させた。次に、新しい爪楊枝へ耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂を塗り、シリコンウエハ上に載置した試料Aが混入した耐熱型2-シアノアクリレート系樹脂へ塗布し、当該樹脂の表面を平面化した。そして、試料Aが混入していない過剰部分の樹脂を、紙縒りを用いて除去した後、空気中で放置することで当該樹脂を硬化させた。これによって樹脂包埋試料を得た。
【0049】
次に、得られた樹脂包埋試料へ白金蒸着を施し、FIBに設置した。FIBにより樹脂包埋試料より縦8μm、横17μm、厚さ3μmの大きさの試料片を切り出した。次に、この試料片を銅製のメッシュに固定し、FIBに設置した。FIBにより当該試料片へガリウムイオンを照射して、厚さ100nmまで薄片加工を施し、実施例1に係る測定用試料を得た。
【0050】
得られた実施例1に係る測定用試料をSTEM-EDSに設置し、加速電圧200kVの電子線を照射し、撮像倍率を150,000倍に設定して、撮像した視野におけるClについての元素マッピング測定を実施した。
撮像した視野における試料Aの像を
図2に示し、同視野におけるClについての元素マッピング測定結果を
図3に示す。
図2、3より、凝集した粉末基材を構成する粒子の界面付近にClが存在することが確認出来た。
【0051】
(比較例1)
縦2.5mm、横2.5mm、厚さ0.5mmのシリコンウエハ上に爪楊枝に塗ったエポキシ樹脂(GATAN社製 「エポキシ(G2)」)を縦2mm、横2mm、厚み0.5mmの大きさになるように載置後、120℃で15分間加熱して、硬化樹脂を作製した。
【0052】
硬化樹脂に白金蒸着を施し、その上部をFIBにより縦8μm、横17μm、厚さ3μmの大きさに切り出し、試料片を得た。次に、この試料片を銅製のメッシュに固定した。続いて、銅製のメッシュに固定した試料片に対して、FIBによりガリウムイオンを照射して、厚さ100nmまで薄片加工を施し比較例1に係る測定用試料を得た。
【0053】
次に、得られた比較例1に係る測定用試料をSTEM-EDSに設置し、加速電圧200kVの電子線を照射し、撮像倍率を150,000倍に設定した。そして、当該測定用試料上の任意の点においてEDSにより点分析測定を実施した。得られたスペクトルを
図4に示す。
図4において、Clが存在する場合に検出される2.6eV付近にピークが検出されたことから、エポキシ樹脂の硬化物からClが検出されることを確認した。この結果、基材に含有するClを検出する際に包埋樹脂としてエポキシ樹脂を用いると、エポキシ樹脂に含有するClにより、基材に存在するClの検出に対して妨害となることが確認出来た。