(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090316
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ライナー、ティートカップ及び搾乳装置
(51)【国際特許分類】
A01J 5/04 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
A01J5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206135
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】近藤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】乾 洋治
(57)【要約】
【課題】乳汁の逆流を抑制して乳房炎への感染リスクを低減できるとともに、乳牛へのストレスを低減したライナー、ティートカップ及び搾乳装置を提供する。
【解決手段】筒状のシェル内に、前記シェルの内面との間に所定の空間が形成されるように配置され、開状態と閉状態との間で弾性変形可能なボア部と、前記ボア部の一端側に配置されて前記シェルの一端部を塞ぎ、乳頭が挿入されるとともにベントが設けられたマウスピース部と、前記ボア部の他端側に配置されて前記シェルの他端部を塞ぎ、前記ボア部において乳頭から吸引された乳汁が流通するショートミルクチューブ部と、を備える筒状のライナーであって、前記ライナーの内面における、ボア部の少なくともマウスピース部の内面に突起が設けられている搾乳装置のティートカップ用のライナーにより本課題を解決することができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のシェル内に、前記シェルの内面との間に所定の空間が形成されるように配置され、開状態と閉状態との間で弾性変形可能なボア部と、
前記ボア部の一端側に配置されて前記シェルの一端部を塞ぎ、乳頭が挿入されるとともにベントが設けられたマウスピース部と、
前記ボア部の他端側に配置されて前記シェルの他端部を塞ぎ、前記ボア部において乳頭から吸引された乳汁が流通するショートミルクチューブ部と、を備える筒状のライナーであって、
前記ボア部の少なくともマウスピース部の内面に突起が設けられている、搾乳装置のティートカップ用のライナー。
【請求項2】
前記突起の乳頭に接する部分が半球状である請求項1に記載のティートカップ用のライナー。
【請求項3】
前記突起の高さが3mm以上6mm以下である請求項1または請求項2に記載のティートカップ用のライナー。
【請求項4】
前記突起の幅が3mm以上8mm以下である請求項1または請求項2に記載のティートカップ用のライナー。
【請求項5】
前記突起同士の間隔が6mm以下である請求項1または請求項2に記載のティートカップ用のライナー。
【請求項6】
請求項1に記載のライナーと、前記シェルと、を備えるティートカップ。
【請求項7】
請求項6に記載のティートカップと、前記ショートミルクチューブ部が連結されるミルククローと、を具備する搾乳装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライナー、ティートカップ及び搾乳装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酪農家では、乳牛から搾乳する方法として、ティートカップを用いた搾乳装置による搾乳方法が通常採用されている。
【0003】
具体的に前記搾乳装置は、内部を乳汁が通過する筒状のライナーと、ライナーの上部の外周を覆い、ライナーとの間に空間を形成するシェルとを備える牛の乳頭に装着されるティートカップと、ライナー上部の内部に乳頭を挿入させた状態で、シェルとライナーの間の空間の圧力を変動させる装置とで構成される。これにより、ライナー上部を開状態と閉状態との間で弾性変形させることで乳頭をマッサージしつつ、搾乳が行われる。
【0004】
ここで、搾乳が行われる乳牛が乳房炎に罹患する場合がある。乳房炎に罹患すると、生産乳量及び乳質が低下し、乳房炎治療費がかかり、出荷制限期間の生乳廃棄が必要となり、さらに罹患牛の淘汰や代替牛の購入費がかかる場合がある。
【0005】
このような乳房炎の罹患率は、乳頭口が開いた状態にある乾乳初期の1週間と分娩前後の各1週間が高いと言われている。
【0006】
それは、搾乳前の清拭時に拭き取れなかった細菌が乳頭表面に存在し、搾乳時に乳汁中にそれらの細菌が混入し、ライナー内で乳汁の逆流(droplet現象)が生じた場合に、それらの細菌を含む乳汁が乳頭口から侵入するためである。
【0007】
乳房炎を防止するためには、乳汁の逆流を防止することが重要である。乳汁の逆流を防止する技術として、例えば、ライナーの乳頭下端部にクリップを取り付けて、ライナーの開き方を緩やかにしたティートカップ(特許文献1参照)、ライナーの上部に設けられたマウスピース部やシェル内に配置されるボア部の厚みや形状を調整することでライナーの潰れ方を調整したティートカップ(特許文献2参照)、マウスピース部にベントを開けたティートカップ(特許文献3参照)、ライナーの下部のショートミルクチューブ部にベントを開けたティートカップ(特許文献4、5参照)、ショートミルクチューブが接続される部分の容積を大きくしてライナー内で乳汁を滞留させないようにしたミルククロー(特許文献6参照)、ミルククローからの乳汁を排出する管の内径を太くした搾乳システム(特許文献7参照)が開示されている。
【0008】
また、非特許文献1には、ショートミルクチューブ部、マウスピース部における好ましい平均真空圧が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4359708号公報
【特許文献2】米国特許第6776120号明細書
【特許文献3】米国特許第8627785号明細書
【特許文献4】特表2016-073861号公報
【特許文献5】米国特許第3476085号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2014-020930号明細書
【特許文献7】米国特許第5896827号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】M.D.Rasmussen, N.P.Madsen、Effects of Milkline Vacuum, Pulsator Airline Vacuum, and Cluster Weight on Milk Yield, Teat Condition, and Udder Health、Journal of Dairy Science、U.S.A、American Dairy Science Association、January 2000、Vol. 83, Issue 1, p77-84
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1ないし特許文献7および非特許文献1に記載のティートカップは、乳房炎を防止しつつ搾乳を行なえる点で優れているが、機械的に処理を行なうため、手作業による搾乳と比べて乳牛へのストレスが発生し、ひいては、ストレスによる搾乳量の低下が発生するといった課題があった。
【0012】
したがって、本発明の課題は、乳汁の逆流を抑制して乳房炎への感染リスクを低減できるとともに、乳牛へのストレスを低減したライナー、ティートカップ及び搾乳装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、筒状のシェル内に、前記シェルの内面との間に所定の空間が形成されるように配置され、開状態と閉状態との間で弾性変形可能なボア部と、前記ボア部の一端側に配置されて前記シェルの一端部を塞ぎ、乳頭が挿入されるとともにベントが設けられたマウスピース部と、前記ボア部の他端側に配置されて前記シェルの他端部を塞ぎ、前記ボア部において乳頭から吸引された乳汁が流通するショートミルクチューブ部と、を備える筒状のライナーであって、前記ライナーの内面における、前記ボア部の少なくともマウスピース部の内面、すなわち乳頭が接触する部分に突起が設けられている搾乳装置のティートカップ用のライナーにより本課題を解決するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、
[1]筒状のシェル内に、前記シェルの内面との間に所定の空間が形成されるように配置され、開状態と閉状態との間で弾性変形可能なボア部と、
前記ボア部の一端側に配置されて前記シェルの一端部を塞ぎ、乳頭が挿入されるとともにベントが設けられたマウスピース部と、
前記ボア部の他端側に配置されて前記シェルの他端部を塞ぎ、前記ボア部において乳頭から吸引された乳汁が流通するショートミルクチューブ部と、を備える筒状のライナーであって、
前記ボア部の少なくともマウスピース部の内面に突起が設けられている、搾乳装置のティートカップ用のライナー。
[2]前記突起の乳頭に接する部分が半球状である前記[1]に記載のティートカップ用のライナー。
[3]前記突起の高さが3mm以上6mm以下である前記[1]または前記[2]に記載のティートカップ用のライナー。
[4]前記突起の幅が3mm以上8mm以下である前記[3]に記載のティートカップ用のライナー。
[5]前記突起同士の間隔が6mm以下である前記[1]に記載のティートカップ用のライナー。
[6]前記[1]に記載のライナーと、前記シェルと、を備えるティートカップ。
[7]前記[6]に記載のティートカップと、前記ショートミルクチューブ部が連結されるミルククローと、を具備する搾乳装置。
を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、マウスピース部の内面に突起を設けることで、乳汁の逆流を抑制して乳房炎への感染リスクを低減できるとともに、より授乳に近い感覚となり、乳牛へのストレスを低減することにより、搾乳量の低下が低減できる、ライナー、ティートカップ及び搾乳装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係るライナー3を有する搾乳装置10の部分縦断面図である。
【
図2】実施形態に係るライナー3を有する搾乳装置10を備える搾乳システム100を説明する図である。
【
図3】実施形態におけるマウスピース部内面の突起を説明する図である。
【
図4】実施形態におけるマウスピース部内面の突起配列の一例を示す図である。
【
図5】実施形態におけるマウスピース部内面の突起配列の一例を示す図である。
【
図6】実施形態におけるマウスピース部内面の突起配列の一例を示す図である。
【
図7】実施形態におけるマウスピース部内面の突起配列の一例を示す図である。
【
図8】実施形態におけるマウスピース部内面の突起配列の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明するが、本発明はこれらの図に限定されない。
【0018】
図1は、実施形態に係るライナー3を有する搾乳装置10の部分縦断面図である。搾乳装置10は、複数のティートカップ1と、ミルククロー30とを備える。
図1には、ティートカップ1に挿入された牛の乳頭50も示す。
図2は実施形態に係るライナー3を有する搾乳装置10を備える搾乳システム100を説明する図である。
【0019】
(ティートカップ1)
図1においては2つティートカップ1を図示するが、搾乳装置10はこれに限らず、例えば4個や6個のティートカップ1を備えていてもよい。
【0020】
ティートカップ1は、筒状のライナー3と、ライナー3の上部の外周を覆うシェル2と、を備える。
【0021】
(シェル2)
シェル2は内部圧力の変化により変形しない硬質部材(ステンレスや硬質樹脂)により製造された筒状部材である。シェル2の側面には、後述するミルククロー30の調圧室32に配管4を介して接続される連結口2aが設けられている。
【0022】
(ライナー3)
ライナー3は可撓性を有する材料により一体成形された筒状部材である。ライナー3は、上側から、マウスピース部3aと、ボア部3bと、ショートミルクチューブ部3dとを備える。
【0023】
(マウスピース部3a)
マウスピース部3aは、ライナー3の上端に設けられ、シェル2の上端部を塞ぐとともに、牛の乳頭50の挿入口となる。
【0024】
(ボア部3b)
ボア部3bは、マウスピース部3aから挿入された乳頭50が入り込む部分で、マウスピース部3aから連続して下方に延び、外周がシェル2に覆われている。ボア部3bの外面とシェル2の内面との間には空間Sが形成される。ボア部3bは、空間S内の圧力変動により、開状態と閉状態との間で弾性変形可能である。
【0025】
本発明では、ボア部3bの少なくともマウスピース部3aの内面、すなわち乳頭が接触する部分に突起が設けられている。詳細は後述する。
【0026】
(ショートミルクチューブ部3d)
ショートミルクチューブ部3dは、乳頭50から吸引された乳汁mが流通する部分である。ショートミルクチューブ部3dにおける上端のボア部3bから連続する部分には、ショートミルクチューブ部3dとボア部3bとの連結部であって、且つシェル2の下端部を保持する肉厚部3cが設けられている。ショートミルクチューブ部3dは肉厚部3cよりさらに下方に延び、下端は後述のミルククロー30に接続されるインレット部3eとなっている(
図1参照)。
【0027】
図1に示すように、インレット部3eの内径R2は、ショートミルクチューブ部3dの中で最小である。ただし、ショートミルクチューブ部3dにおける肉厚部3cより下部の部分の内径は、全体がインレット部3eの内径R2と等しい一定径であってもよい。
【0028】
(ミルククロー30)
ミルククロー30は、乳汁室31と、調圧室32とを備える。
【0029】
乳汁室31にはショートミルクチューブ部3dのインレット部3eが挿入されるインレット挿入口33が設けられ、複数のライナー3から流れてきた乳汁mが合流する。ミルククロー30の乳汁室31で合流した乳汁mは、排出口34に取り付けられたミルクライン12を通って
図2に示す乳受け容器13へと流れる。
【0030】
調圧室32は、乳汁室31の上部に配置される。この調圧室32には、上述の連結口2aからの延びる配管4が接続されるとともに、後述のパルセータ11(
図2参照)へ延びるパルセータライン15が接続されている。パルセータ11が作動すると、パルセータライン15及び配管4を通して、ボア部3bの外面とシェル2の内面との間に空間Sに搾乳用の脈動圧が供給される。
【0031】
(搾乳システム100)
図2に示すように、搾乳システム100は、上述のティートカップ1と、ミルククロー30と、パルセータライン15と、ミルクライン12との他に、乳受け容器13と、バルククーラ14と、トラップ16と、真空タンク17と、真空ポンプ18と、パルセータ11と、その他、真空調圧器19及び真空計20等とを備える。
【0032】
なお、以下の実施例、比較例では「ローレベル」の搾乳システム、つまり搾乳システム100から乳受け容器13に向かうミルクライン12が、ミルククロー30の位置よりも下側に設けられている搾乳システムを用いた。
【0033】
(パルセータ11)
パルセータ11は、パルセータライン15を介してミルククロー30の調圧室32に接続されている。パルセータ11は、調圧室32と配管4を介して接続されたボア部3bの外面とシェル2の内面との間の空間Sへの空気の導入及び排気を一定の時間間隔で制御する。この空間Sの圧力調整により、ボア部3bの開閉が行われる。
【0034】
すなわち、空間Sの内部の空気が排気されると、空間Sの圧力はボア部3bの内部と同じ圧力となり、ボア部3bは開状態となる。一方、空間Sの内部に空気が流入されると、空間Sの圧力が高まり、ボア部3bがへこんだ閉状態となる。このボア部3bが開状態と閉状態とを繰り返す伸縮運動によって、乳頭へのマッサージ効果が得られる。これにより、子牛が乳頭を吸って母牛の乳汁を飲むときに行われる授乳と同様の効果が得られ、射乳が促進される。
【0035】
この際、ボア部3bの少なくともマウスピース3a側の内面に突起があることにより、乳頭に突起が接触することで、表面に凹凸のある子牛の舌により乳頭を吸っている状態が再現され、より上述の授乳により近い効果が奏される。さらにより授乳に近い効果により、乳牛へのストレスも緩和される。
【0036】
(乳受け容器13)
乳受け容器13は、ミルククロー30からミルクライン12を介して運ばれた乳汁mが一旦、貯留される容器である。
【0037】
(バルククーラ14)
バルククーラ14は、乳受け容器13に溜められた乳汁mが、乳受け容器13の底部から配管21を通って送られて貯蔵される部分である。
(真空ポンプ18)
真空ポンプ18は、真空パイプ22等を通じてミルククロー30に接続される。
【0038】
本実施形態の搾乳システム100では、真空ポンプ18は、真空パイプ22を介して真空タンク17に接続される。真空タンク17は、真空調圧器19が取り付けられた真空パイプ23を介してトラップ16に接続される。トラップ16は真空パイプ24を介して乳受け容器13に接続されると共にパルセータ11を介してミルククロー30に接続される。
【0039】
そして、ショートミルクチューブ部3dのインレット部3eをミルククロー30のインレット挿入口33に挿入し、ミルククロー30の排出口34にミルクライン12を取り付ける。そして、シェル2の側部の連結口2aとミルククロー30の調圧室32との間を配管4で接続するとともに、ミルククロー30の調圧室32とパルセータ11との間をパルセータライン15で接続する。
【0040】
次いで、マウスピース部3aより乳頭50をボア部3b内に挿入する。
【0041】
この状態で、真空ポンプ18より搾乳用真空圧をライナー3内に連続的に供給すると共に、パルセータ11からの脈動真空圧を空間Sに供給する。
【0042】
この脈動真空圧によってボア部3bが伸縮し、泌乳が促されて、乳頭50からボア部3bの内部空間内に乳汁mが吐出される。吐出された乳汁mは、ミルククロー30を介してミルクライン12に送られる。
【0043】
(マウスピースベント3aa)
実施形態のライナー3では、マウスピース部3aにマウスピースベント3aaが設けられている。
【0044】
(ショートミルクチューブベント3da、クローベント36)
ベントは、マウスピースベント3aa以外に、ショートミルクチューブ部3d及びミルククロー30にも設けてもよい。
図1においては、ショートミルクチューブ部3dの肉厚部3cの側面のショートミルクチューブベント3da、ミルククロー30の側面のクローベント36を図示し、符号を括弧書きで示す。
【0045】
マウスピースベント3aaに加えて、ショートミルクチューブベント3da及び/またはクローベント30を設けることにより、より十分な量の空気が乳汁mと同じ向きに流通する。そのため、逆流の逆流をより抑制することができる。
【0046】
(突起の形状)
ボア部3bの内面に設けられる突起の形状は限定されるものではないが、乳頭を傷つけず、かつ適度なマッサージ圧を乳頭に加える観点から、乳頭に接触する部分が半球状であることが好ましい。
【0047】
(突起の高さ)
図3において図示するように、ボア部3bの内面に設けられる突起の高さHは、突起の頂点から2つの変曲点Q1を結んだ直線に下した垂線の長さである。
【0048】
突起の高さは限定されないが、3mm以上6mm以下が好ましい。突起の高さを上述の範囲とすることにより、乳頭を傷つけず、かつ適度なマッサージ圧を乳頭に加えることができる。また、この範囲の高さとすることにより、より乳汁の逆流を抑制して乳房炎への感染リスクを低減することができる。
【0049】
(突起の幅)
図3において図示するように、ボア部3bの内面に設けられる突起の幅Wは、2つの変曲点Q1を結んだ直線の長さである。
【0050】
突起の幅は限定されないが、3mm以上8mm以下が好ましい。突起の幅を上述の範囲とすることにより、乳頭を傷つけず、かつ適度なマッサージ圧を乳頭に加えることができる。
【0051】
(突起の間隔)
突起の間隔は、突起間に乳頭が入り込まないように1mm以上6mm以下とするのが好ましい。また、この範囲の間隔とすることにより、より乳汁の逆流を抑制して乳房炎への感染リスクを低減することができる。
【0052】
(突起の数)
突起の数は限定されないが、少なくともボア部3bのマウスピース部3a側、すなわち乳頭と接触する部分に10個以上200個以下設けることが好ましく、15個以上80個以下設けることがより好ましい。10個以上設けることにより、十分なマッサージ圧を乳頭に加えることができる。一方で、突起の数を200個以下とすることにより、乳頭へのマッサージ圧が過度にならないようにすることができる。
【0053】
(突起の位置)
突起を設ける位置は限定されないが、ボア部3bのマウスピース部3a側の全面に設けることが好ましい。突起を全面に設けることにより、より乳汁の逆流を抑制して乳房炎への感染リスクを低減することができる。
【0054】
また、突起の位置は、一様でも一定間隔としてもよい。例えば、一定間隔の同周円上に同数ずつ配置する(
図4~
図5参照)、一定間隔の同周円上に異なる数を配置する(
図6参照)、一定間隔の同周円上に互い違いに配置する(
図7参照)、一定間隔の同周円上に同数ずつ同周円上からみて異なる間隔で配置する(
図8参照)、等が例示される。
【0055】
(効果)
実施形態によると、マウスピースベント3aaが設けられているので、マウスピースベント3aaから、乳頭50側又はミルククロー30側に流れる空気の流れができ、乳汁の逆流の抑制ができる。マウスピースベント3aaを設けることで、乳汁を乳頭に近い場所から気液混合状態にできるので、他のベントより逆流防止効果が高い。また、常に空気がライナー内に導入されることにより、ボア部(膨張収縮部)の気圧の変動を少なくできる。
【0056】
しかし、マウスピースベント3aaのみで少なくともボア部3b内部のマウスピース部3a側の内面、すなわち乳頭が接触する部分に突起が設けられていないと、乳頭50が太い場合、乳頭50によってボア部3bが塞がり、真空ポンプ18によるマウスピース部3aの吸引が十分にできなくなる。そして、真空ポンプ18の脈動によって急激にボア部3bが開いたときに、マウスピース部3aの圧力が適正な真空圧(例えば20kPa)を下回る可能性がある。
【0057】
そうすると、ライナーの内部において、マウスピース部3aの真空圧が相対的に小さくなり(陰圧の値が小さくなり)、これにより乳汁が好適に吸引されず逆流が発生する可能性がある。
【0058】
実施形態では、少なくともボア部3b内部のマウスピース部3a側の内面、すなわち乳頭が接触する部分に突起があることにより、乳頭50によってボア部3bが塞がることがない。したがって、真空ポンプ18によるマウスピース部3aの吸引を十分に行うことができ、ボア部3bが開いたときに、マウスピース部3aの圧力を適正圧の20kPaより高い値に維持することができる。
【0059】
ゆえに、マウスピースベント3aaを設けた効果を十分に発揮することができる。すなわち、マウスピースベント3aaから、乳頭50側又はミルククロー30側への空気の流れを生じさせて、乳汁の逆流の抑制ができる。
【実施例0060】
(第1の実験)
次に、ライナー3のボア部3b内部のマウスピース部3a側の内面に半球状突起を設けた場合の効果を検証する第1の実験を行った結果を表1に示す。
【0061】
第1の実験は、マウスピース部3aに設けられたマウスピースベント3aaの開口面積が0.8mm
2で一定であり、突起のボア部内部への配置が異なるライナー3を
図4~
図8に示す通り、それぞれ5種類(実施例1・2・7・8,3,4,5,6)用意した。突起はボア部3bの長手方向と直交する方向に設けた。実施例1・2・7・8は、
図4に示す通り、突起の配置は同じであるが、突起の幅W及び/または突起の高さHが異なる。
【0062】
突起の間隔は、実施例1,6では3mm、実施例2~5,7,8では6mmとした。
【0063】
これらのライナー3を用いたティートカップ1を実際に搾乳装置10に取り付けて、それぞれ10回ずつ搾乳を行い、乳汁の逆流が発生した回数を調べた。
【0064】
なお、比較例として開口面積が0.8mm2で等しいマウスピースベントがマウスピース部に設けられているが、ボア部3b内部に突起が設けられていないライナーを備えるティートカップを用いて同様に10回搾乳を行い、乳汁の逆流が発生した回数を調べた。
【0065】
第1の実験の実施例及び比較例において、ベントはマウスピースベント3aaのみで他のベントは設けられていない。マウスピースベント3aaは1つで、ライナー3の上端から10mmの所に設けられ、円形で開口面積は0.8mm2(直径:1.0mm)である。
【0066】
半球状突起の幅Wは、実施例1・6が2mm、実施例2~5・7が4mm、実施例8が9mmである。
【0067】
また、半球状突起の高さHは、実施例1~6,8が4mm、実施例7が7mmである。
【0068】
それぞれの実施例について、10回ずつ測定して乳汁が逆流した本数を数えた。
【0069】
また、マウスピース部3aの真空圧を測定し、10回測定した際の平均値をとった。真空圧とは、大気圧を0kpaとした場合のマウスピース部3aの圧力の絶対値であり、真空ポンプ18によりライナー3内は吸気されているので、陰圧である。
【0070】
表1に示すように、ボア部3b内部に突起が設けられていない比較例においては、真空圧は12.7kPaであり、逆流本数は10本中8本であった。
【0071】
すなわち、比較例においては、ボア部3bが乳頭50によって塞がれるので、マウスピースベント3aaより導入された空気がボア部3bに流入せずに、マウスピースベント3aaの効果が発揮されなかったものと考えられる。また、ボア部3bが開いたときに逆流が生じた可能性もある。
【0072】
これに対して、実施例1~8では、いずれも真空圧が適正圧の20kPa以上であり、逆流本数は2本以下であった。
【0073】
すなわち、実施例1~8では、ボア部3bのマウスピース部3a側の内面に突起が設けられているので、ボア部3bに乳頭50が挿入されたときも、空気の通り道が確保されていると考えられる。また、ボア部3bが開いたときのマウスピース部3aの気圧変動が小さいため、逆流が発生しにくかったと考えられる。
【0074】
【0075】
表1に示すように、突起の幅Wが2mmである実施例1・6においては、若干逆流を起こすライナーが存在したが、突起の幅Wが4mmである実施例2~5はいずれも逆流本数が0であった。
【0076】
また、実施例7では突起の高さが7mmと高いため、突起が障害となり、乳頭が完全にボア部内に挿入されず、マウスピース部と乳頭との間に隙間ができたため、真空圧がやや低下した。そのため、2本逆流が発生した。
【0077】
実施例8では突起の幅が9mmと広いため、突起が障害となり、乳頭が完全にボア部内に挿入されず、マウスピース部と乳頭との間に隙間が出来たため、真空圧がやや低下した。そのため2本逆流が発生した。
【0078】
(第2の実験)
次に、マウスピースベント3aaとボア部3bのマウスピース部3a側の内面の突起とに加えて、他のベントとして、
図1において符号を括弧で示したクローベント36を設けた場合の効果を検証する第2の実験を行った結果を表2に示す。
【0079】
第2の実験が、第1の実験で用いた実施例と異なる点は、ミルククロー30の側面にクローベント36が設けられている点であり、他は同様である。クローベント36は1つで、断面円形で直径は1.0mmである。
【0080】
実験方法は第1の実験と同様で、実施例1と同じライナーを用意し、クローベント36が設けられたミルククロー30を用いたティートカップ1を実際に搾乳装置10に取り付けて、それぞれ10回ずつ搾乳を行い、乳汁の逆流が発生した回数を調べ、実施例1と比較した。
【0081】
【0082】
表2に示すように、クローベント36が設けられているミルククロー30を用いた実施例9の場合、クローベント36が設けられていないミルククロー30を用いた実施例1と比べてマウスピース部3aの真空圧は若干低下する。しかし、実施例1の逆流本数は2であったが実施例9の逆流本数は0であり、クローベント36をさらに設けることで、逆流効果が向上する。
【0083】
(第3の実験)
次に、マウスピースベント3aaとボア部3bのマウスピース部3a側の内面の突起とに加えて、他のベントとして、
図1において符号を括弧で示したショートミルクチューブベント3daを設けた場合の効果を検証する第3の実験を行った結果を表3に示す。
【0084】
第3の実験が、第1の実験で用いた実施例と異なる点は、ショートミルクチューブ部3dの上部にショートミルクチューブベント3daが設けられている点であり、他は同様である。ショートミルクチューブベント3daは1つで、断面円形で直径は0.5mmである。
【0085】
実験方法は第1の実験と同様で、実施例1と同じ内部突起の配置を有するライナーを用意し、このライナー3を備えるティートカップ1を実際に搾乳装置10に取り付けて、それぞれ10回ずつ搾乳を行い、乳汁の逆流が発生した回数を調べた。
【0086】
【0087】
表3に示すように、ショートミルクチューブベント3daが設けられている実施例10の場合、ショートミルクチューブベント3daが設けられていない実施例1と比べてマウスピース部3aの真空圧は若干低下する。しかし、実施例1の逆流本数は2であったが実施例10の逆流本数は0であり、ショートミルクチューブベント3daをさらに設けることで、逆流効果が向上する。