(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090425
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】プラスチック用離型剤および食品容器包装用プラスチックの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20240627BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20240627BHJP
C08K 5/06 20060101ALI20240627BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20240627BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20240627BHJP
C08J 3/03 20060101ALI20240627BHJP
C09K 3/00 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K5/103
C08K5/06
C08K5/42
C08L71/02
C08J3/03 CFH
C09K3/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206339
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】兒島 和彦
(72)【発明者】
【氏名】脇田 万里
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA52
4F070AA60
4F070AC12
4F070AC38
4F070AC43
4F070AC50
4F070AE14
4F070CA02
4F070CB02
4F070CB12
4J002CP031
4J002DE028
4J002ED037
4J002EV186
4J002EV236
4J002EW046
4J002FD161
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD316
4J002FD317
4J002GC00
4J002GG01
4J002HA07
(57)【要約】
【課題】保存安定性、機械的安定性、濡れ性および耐クラック性が良好であり、低重合度の環状シロキサン成分の含有量の少ないオルガノポリシロキサンのエマルジョン形態であるプラスチック用離型剤およびそれを用いる食品容器包装用プラスチックの製造方法を提供する。
【解決手段】 (A)25℃における動粘度が100~100,000mm2/sの、低重合度の環状シロキサン成分の含有量の少ないオルガノポリシロキサン:100質量部、(B)アニオン性界面活性剤:0.1~18.0質量部、(C)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤 0.1~10質量部、および(F)水:35~100,000質量部を含有し、平均粒子径が100nmを超えて1000nm以下のエマルジョンであるプラスチック用離型剤およびその使用。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表され、25℃における動粘度が100~100,000mm2/sであって、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンおよびドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ1質量%未満であるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式中、R
1は同一もしくは異なってもよく、ヒドロキシ基、水素原子、炭素数1~32の非置換の直鎖アルキル基、フェニル基のいずれかであり、Lは60から1,500の整数である。)
(B)アニオン性界面活性剤:0.1~18.0質量部、
(C)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤 0.1~10質量部、および
(F)水:35~100,000質量部
を含有し、レーザー回折・散乱法により測定されるエマルジョン粒子の平均粒子径が100nmを超えて1000nm以下のエマルジョンであることを特徴とするプラスチック用離型剤。
【請求項2】
(B)成分が、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエー テル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩から選択される1種又は2種以上のアニオン性界面活性剤である、請求項1に記載のプラスチック用離型剤。
【請求項3】
さらに、(D) 下記一般式(2):
【化2】
(R
2は炭素数8から24のアルキル基である。a、b、及びcは独立して0以上の整数であり、a+b+cの合計は8~30である。)
で表されるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル:0.1~15.0質量部を含む請求項1または請求項2に記載のプラスチック用離型剤。
【請求項4】
さらに、(E)下記一般式(3):
CmH2m+1(OCH2CH2)nOH (3)
(mは10~20の整数であり、nは4~50の整数である。)
で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル:0.1~10.0質量部 を含む、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のプラスチック用離型剤。
【請求項5】
前記プラスチックが食品容器包装用であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のプラスチック用離型剤。
【請求項6】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のプラスチック用離型剤を用いる、食品容器包装用プラスチックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂フィルムないしシート(以下、フィルム等と言う)の離型剤として 有用な水性のシリコーンエマルジョン組成物に関するものであり、特に食料包装材用フィルム等に好適なシリコーンエマルジョン形態のプラスチック用離型剤に関する。さらに、本発明は、当該プラスチック用離型剤を用いる食品容器包装用プラスチックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鮮度や衛生面の観点から、食品はプラスチックのトレー、シート、フィルム等で保護をして販売されている。各種食料品等の包装材としては、成形性、耐水性が優れているため、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリプロピレン(PP),ポリスチレン(PS)等の熱可塑性樹脂フィルムやシートが広く使用されている。樹脂フィルム等はその製造工程においてロール状に巻き、食料品の包装材として使用する場合にはロール状に巻かれたフィルム等を巻きもどしながらカップ又は袋状に成形される。しかし、離型剤を使用しない場合、樹脂フィルム等 の表面同士が付着し、巻きもどしが円滑にできず、剥がす際にフィルム等が変形したり破れたりするトラブルがあった。また、容器の型成形時には、型への接着の問題、取り出し性の低下等の問題が発生し、更に多数枚積重ねた打ち抜き成形の際には、製品間が接着する等の問題があった。さらに、シートやフィルムを成型したケース、トレー、カップなどの成形品は重ねて保管されるが、そこに離型剤が塗工されていないと、ブロッキングが起こる問題がある。
【0003】
これらの問題を解決する手段として、シリコーン離型剤の塗布、特に作業性、安全性の面からオルガノポリシロキサンエマルジョンが多用されている。離型性およびすべり性の観点から、食品容器包装用の合成樹脂の離型剤としては、25℃における動粘度が100~100,000mm2/sのオルガノポリシロキサンのエマルジョン組成物が好適である。(例えば、特許文献1)。
【0004】
オルガノポリシロキサンのエマルジョン組成物を離型剤としてプラスチックに塗布する場合は、オルガノポリシロキサンの濃度を0.1~5.0質量%になるように水で希釈し、ロータリーダンプニング、グラビア方式もしくはスプレー方式で塗工する。
【0005】
ロータリーダンプニングのような強い攪拌を伴う塗工方法では、エマルジョン自体が破壊され、ゲルやオイル浮き等を生じるおそれがある。ゲルやオイル浮きが発生している状態でエマルジョンをプラスチックに塗工すると、濡れムラが生じ、プラスチック同士の接着や、外観の不均一といった問題が生じる。また、エマルジョンの保存安定性が悪いと、経時でオイル浮き等が発生し濡れムラが生じる。
【0006】
また、プラスチックにノニオン界面活性剤を多く含むオルガノポリシロキサンのエマルジョンを塗布すると、ノニオン界面活性剤がプラスチックに含浸することでクラックが生じ、成形体にひびが入るといった問題が生じることがある。このようなクラックはプラスチックの中でも、特に二軸延伸ポリスチレンやポリスチレン(PS)で生じやすい。
【0007】
また、近年、オクタメチルシクロテトラシロキサンが欧州のREACH規制が定めた高懸念物質の候補となり、環境負荷物質として懸念されるようになったため、オクタメチルシクロテトラシロキサンの含有量を抑制した製品が求められている。
【0008】
従って、希釈安定性、機械安定性、保存安定性に優れ、濡れ性が良好、プラスチックに対してクラックを生じず、オクタメチルシクロテトラシロキサンの含有量の少ないオルガノポリシロキサンのエマルジョン型離型剤が求められている。
【0009】
日本では、食品衛生法の改正により2020年6月1日から「食品用器具・容器包装のポジティブリスト(PL)制度」が施行され、食品用の器具・容器包装に使用する原材料は安全性が確認されたもののみを使用することが求められている。また、プラスチック製食品用器具・容器包装を製造するために使用する塗布剤に関しても、従来はポリオレフィン等衛生協議会が、ポジティブリストに記載された物質及び制限条件に合致しており、かつ、衛生試 験に合格していることを確認して確認証明書を交付しており、2021年以降は、一般財団法人化学研究評価機構 食品接触材料安全センターが承継して行っている。そのため、食品に直接接触する容器包装の用途では安全性が確認されている原料製品を使用することが推奨されている。食品容器包装向けプラスチック用離型剤には、安全で、かつ上記の目的課題を解決しうるオルガノポリシロキサンのエマルジョンが望まれている。
【0010】
これまでに上記問題を解決するために様々な方法が検討されている。
【0011】
特許文献1はフィルムの白化が少ないシリコーン離型剤組成物を提案している。特許文献1の組成にはプロピレングリコールが含まれる。また、実施例では、オクタメチルシクロテトラシロキサンを原料にした乳化重合を行っているため、オクタメチルシクロテトラシロキサンが1%以上残存する懸念がある。また、オルガノポリシロキサンの機械乳化も行っているが、ノニオン系乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルを単独で使用しており、平均粒径は細かくならず、また安定性が悪い恐れがある。また、ポリオキシエチレンラウリルエーテルの中でも、ポリオキシエチレン鎖が1~6のものは、合成樹脂、特にPSやOPSに対してクラックを生じさせる恐れがあるため、特許文献1の実施例のエマルジョンでもPSやOPSの離型剤として使用した場合にクラックを発生させる恐れがある。
【0012】
特許文献2には優れた濡れ性であり透明性も良好であるオルガノポリシロキサンエマルジョン離型剤組成物が開示されている。しかしながら、実施例ではアニオン界面活性剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムが使用されているが、それは環境負荷物質として懸念されているので、食品容器包装に用いるプラスチック用離型剤としての使用は推奨されない。
【0013】
特許文献3に記載のジメチルポリシロキサン離型剤組成物は、けい素原子数20以下のジメチルシロキサンオリゴマーの含有量が500ppm以下である。その実施例ではノニオン乳化剤として、ポリオキシエチレン(8.5モル付加)ノニルフェニルエーテル系乳化剤、アニオン界面活性剤としてポリオキシエチレン(3.5モル付加) オクチルフェノールの硫酸エステルナトリウム塩型乳化剤が使用されているが、それは環境負荷物質として懸念されているので、食品容器包装に用いるプラスチック用離型剤としての使用は推奨されない。
【0014】
特許文献4は乳化する際にフェノキシエタノール類を配合した、粒度分布が狭く、安定性の優れたエマルジョンに関するものであるが、実施例の平均粒径はすべて1μm以上と大きく、希釈安定性や機械安定性が低いことが予想される。また、フェノキシエタノールはポジティブリストに登録されていない。
【0015】
特許文献5はアルミダイキャスト向けアルキルアラルキル共変性シリコーンエマルジョン離型剤である。アルキルアラルキル共変性シリコーンは、プラスチックに対してジメチルポリシロキサンより離型性が低く、プラスチック用離型剤には適していない。
【0016】
特許文献6には、アクリルゴムの加硫成型時に好適に用いられるソルビタン高級アルキルエステルおよびその他のノニオン界面活性剤を併用したシリコーン水分散型離型剤組成物が開示されている。当該シリコーンエマルジョンでは、アニオン界面活性剤を配合すると、エマルジョンのゼータ電位のマイナスの値が大きくなり、エマルジョン粒子同士の電子反発が強くなるため凝集しにくく、機械安定性が向上すると言われている。なお、特許文献6ではアニオン界面活性剤の配合はなく、機械安定性が低いことが予想される。また、実施例で使用されているシリコーンオイルは、ポリエーテル変性シリコーンオイルであり、離型性が不十分であることが予想される。
【0017】
特許文献7には、HLB10以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルによりオルガノポリシロキサンを乳化したエマルジョンが開示されている。特許文献6と同様にアニオン界面活性剤の配合はなく、機械安定性が低いことが予想される。また、HLB10以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルはプラスチックに塗工するとクラックを生じる懸念がある。
【0018】
特許文献8には、オルガノポリシロキサンをアルキル鎖の炭素数が8~11であるポリオキシエチレンアルキルエーテルとアニオン界面活性剤からなるシリコーンエマルジョン組成物が開示されている。しかしながら、炭素数が8~11であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含むエマルジョンでは、プラスチックに塗工するとクラックを生じる恐れがある。
【0019】
特許文献9には、オルガノポリシロキサンをポリオキシエチレンアルキルエーテルおよびショ糖脂肪酸エステルで乳化したシリコーンエマルジョン組成物が開示されている。その実施例にはポリオキシエチレンアルキルエーテルとしてポリオキシエチレン(3)デシルエーテルを使用しているが、アルキル基の炭素数が10以下のポリオキシエチレンアルキルエーテルはプラスチックに対してクラックを生じさせる恐れがある。
【0020】
特許文献10には、オルガノポリシロキサンをポリオキシエチレンヘキシルデシルエーテルまたはポリオキシエチレンイソステアリルエーテルにより乳化したシリコーンエマルジョンが開示されている。しかしながら、その実施例では平均粒径が約400nmであり比較的大きく、希釈安定性や機械安定性が悪い恐れがある。
【0021】
特許文献11には、オルガノポリシロキサンをアニオン界面活性剤および多価アルコールにより乳化したエマルジョンが開示されている。一般的にアニオン界面活性剤や多価アルコールは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン界面活性剤より表面張力を下げる機能は低い。特許文献11のエマルジョンは50倍に水で希釈したものの表面張力(25℃)が45dyne/cm以上と高く、また、ノニオン界面活性剤を含まないため、プラスチックに塗布した場合、濡れ性が悪くハジキを生じる恐れがある。
【0022】
特許文献12には、オルガノポリシロキサンをポリオキシエチレンアルキルエーテルなど用い、粒子径を100nm以下にしたエマルジョンが開示されている。しかしながら、エマルジョンの粒子径を100nm以下にするために、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを多量に用いているために、プラスチックに対してクラックを生じさせる恐れがある。
【0023】
これに対して、特許文献13では、オルガノポリシロキサンをアニオン性界面活性剤とポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを用い、粒子径を200nmから350nmにしたエマルジョンが提案されている。しかしながら、アニオン性界面活性剤とポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルはオルガノポリシロキサンエマルジョンの安定性を向上させる効果が弱く、得られるエマルジョン組成物、すなわち、プラスチック用の離型剤の経時安定性の点で懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2005-281409号公報
【特許文献2】特許第3106079号公報
【特許文献3】特公平7-91529号公報
【特許文献4】特開2000-169705号公報
【特許文献5】特開平4-84643号公報
【特許文献6】特開平8-283771号公報
【特許文献7】特許第3638087号公報
【特許文献8】特開2004-331784号公報
【特許文献9】特開2004-035820号公報
【特許文献10】特許第4828054号公報
【特許文献11】特許第3835646号公報
【特許文献12】特許第7142163号公報
【特許文献13】特許第7181915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、安全で、特に保存安定性および機械的安定性に優れ、プラスチックに塗工するときのはじきが少なく、濡れ性が良好であり、かつプラスチックに対してクラックが生じにくく、低重合度の環状シロキサン成分の含有量の少ないオルガノポリシロキサンのエマルジョン形態であるプラスチック用離型剤およびそれを用いる食品容器包装用プラスチックの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の課題は、(A)下記一般式(1)で表され、25℃における動粘度が100~100,000mm2/sであって、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンおよびドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ1質量%未満であるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式中、R
1は同一もしくは異なってもよく、ヒドロキシ基、水素原子、炭素数1~32の非置換の直鎖アルキル基、フェニル基のいずれかであり、Lは60から1,500の整数である。)
(B)アニオン性界面活性剤:0.1~18.0質量部、
(C)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤 0.1~10質量部、および
(F)水:35~100,000質量部
を含有し、レーザー回折・散乱法により測定されるエマルジョン粒子の平均粒子径が100nmを超えて1000nm以下のエマルジョンであることを特徴とするプラスチック用離型剤により、解決される。
【0027】
さらに、当該プラスチック用離型剤において、(B)成分は、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエー テル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩から選択される1種又は2種以上のアニオン性界面活性剤であってよい。
【0028】
同様に、当該プラスチック用離型剤は、
(D) 下記一般式(2):
【化2】
(R
2は炭素数8から24のアルキル基である。a、b、及びcは独立して0以上の整数であり、a+b+cの合計は8~30である。)
で表されるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル:0.1~15.0質量部;
および/または
(E)下記一般式(3):
C
mH
2m+1(OCH
2CH
2)
nOH (3)
(mは10~20の整数であり、nは4~50の整数である。)
で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル:0.1~10.0質量部
をさらに含んでもよい。
【0029】
本発明にかかるプラスチック用離型剤において、前記プラスチックは食品容器包装用プラスチックであることが好ましく、食品包装用のプラスチックシート(フィルムを含む)やその成形品等であることが特に好ましい。
【0030】
また、本発明にかかる課題は、本発明にかかるプラスチック用離型剤の使用に特徴づけられる、食品容器包装用プラスチックの製造方法により解決される。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、食品包装用に利用可能な安全性を有し、特に保存安定性および機械的安定性に優れ、プラスチックに塗工するときのはじきが少なく、濡れ性および希釈安定性が良好であり、かつプラスチックに対してストレスクラックが生じにくく、揮発性環状シロキサン成分(オクタメチルシクロテトラシロキサン等)の含有量の少ないプラスチック用離型剤を提供することができる。
【0032】
さらに、本発明にかかるプラスチック用離型剤を用いることにより、上記の食品容器包装用プラスチック、特に、食品包装用のプラスチックシート(フィルムを含む)やその成形品等を離型乃至金型成型により製造する、食品容器包装用プラスチックの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明にかかるプラスチック用離型剤について詳細に説明する。当該プラスチック用離型剤は、下記(A)~(C)成分、および(F)成分を含有し、任意で(D)成分、(E)成分およびその他の成分を本発明の技術的効果を損なわない範囲で含有してもよく、レーザー回折・散乱法により測定されるエマルジョン粒子の平均粒子径が100nmを超えて1000nm以下のエマルジョンであることを特徴とするプラスチック用離型剤である。なお、当該エマルジョンは、水相を連続相とする、水中油型のオルガノポリシロキサンエマルジョンの形態である。
【0034】
本発明にかかる、プラスチック用離型剤は、特に(C)成分であるポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤(例えば、ADEKA社のプルロニック(登録商標)シリーズなど)を併用することにより、公知のプラスチック用離型剤に比べて、特に保存安定性および機械的安定性に優れ、濡れ性およびプラスチック等の耐クラック性が向上する利点を有する。
【0035】
[(A)オルガノポリシロキサン]
(A)下記一般式(1)で表される、25℃における動粘度が100~100,000mm2/sのオルガノポリシロキサン:100質量部。
【化3】
【0036】
式(1)において、R1は同一もしくは異なってもよく、炭素数1~32の非置換の直鎖アルキル基、フェニル基、ヒドロキシ基、および水素原子のいずれかである。炭素数1~32の直鎖の非置換のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-テトラデシル基、n-ヘキサデシル基、n-オクタデシル基、エイコシル基等のアルキル基が挙げられる。R1として好ましくは炭素数1~20の直鎖の非置換のアルキル基、又はフェニル基であり、汎用性の観点からより好ましくはメチル基もしくはフェニル基である。また、離型性の観点から1分子中のR1の数の50モル%以上がメチル基であることが好ましく、75%以上がメチル基であることがより好ましい。 また、Lは60から1,500の整数であり、好ましくは、150から1,200である。
【0037】
上記(A)オルガノポリシロキサンは、低重合度の環状シロキサン成分を低減されていることを特徴の一つとする。具体的には、(A)成分中のオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンおよびドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量はそれぞれ1質量%未満であり、好ましくはそれぞれ0.5質量%未満であり、さらに好ましくはそれぞれ0.1%質量未満である。特に好適には、(A)成分中のこれらの低重合度の環状シロキサン成分の含有量が検出限界以下である。
【0038】
(A)オルガノポリシロキサン中に低重合度の環状シロキサン成分、特に、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンおよびドデカメチルシクロヘキサシロキサンが多く含まれると、乳化しにくくなる、もしくは平均粒径が大きくなる、もしくは保存安定性、希釈安定性、機械安定性が低下する、もしくはプラスチック塗工時にクラックが生じやすくなる恐れがある。また、環境問題の懸念もある。なお、(A)オルガノポリシロキサン中の低重合度の環状シロキサン成分は、ストリッピングや薄膜蒸留装置等により、低減することができる。
【0039】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は100~100,000mm2/sである。動粘度が100mm2/sより低いと、得られる組成物は充分な離型性を示さない場合がある。一方で、(A)成分のオルガノポリシロキサンの動粘度が100,000mm2/sよりも大きいと、フィルム等に塗布した場合、該表面にベタツキが生じる恐れがある。また、オルガノポリシロキサンの動粘度が100,000mm2/sよりも大きいと、乳化が困難になり、安定性の良好なエマルジョンが得られにくくなる。好ましくは200~50,000mm2/sであり、より好ましくは300~15,000
mm2/sであり、さらに好ましくは500~5,000mm2/sである。
【0040】
なお、上記動粘度は、JIS K7117-1に準拠した回転粘度計によって測定した、25℃における動粘度の値を指すものとする。ただし、前記動粘度の値が20,000mm2/sを超える場合は、上記JIS規格に記載の単一円筒型回転粘度計によって測定した25℃における粘度の値を、25℃の密度の測定値で除した値を採用する。
【0041】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは25℃における動粘度が上記の範囲であればよく、1種を単独で用いても2種以上混合しても良い。
【0042】
[(B)アニオン性界面活性剤]
(B)成分のアニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸アルキロールアミドの硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、モノアルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等のアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩、ジアルキルリン酸エステル塩等のアルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、α-スルホ脂肪酸エステル塩、N-アシルタウリン酸塩、脂肪酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N-アシルアミノ酸塩等が挙げられる。塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0043】
乳化剤である(B)アニオン性界面活性剤の使用量は、(A)成分であるオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1~18.0質量部の範囲である。好ましくは0.15~15.0質量部、より好ましくは0.2~12.0質量部、さらに好ましくは0.25質量部~10.0質量部の範囲である。(B)成分の使用量が0.1質量部より少ないと、本発明のプラスチック用離型剤の機械安定性および希釈安定性が低下する恐れがある。 一方で、(B)成分の使用量が18.0質量部より多いと、離型性が低下したり、基材に対する濡れ性が低下したりする恐れがある。
【0044】
(B)成分のアニオン性界面活性剤は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
[(C)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤]
(C)成分である、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤は、本発明の特徴的な構成の一つであり、前記の(A)、(B)成分および(F)水と所定の量的範囲で使用することにより、特に保存安定性および機械的安定性に優れたエマルジョンを形成し、かつ、得られるプラスチック用離型剤の濡れ性およびプラスチック等の耐クラック性(=耐ストレスクラック性)が向上する利点がある。特に、(B)成分のアニオン性界面活性剤だけでは(A)成分のオルガノポリシロキサンに対する乳化力が弱く、十分な保存安定性、機械安定性、希釈安定性を得られないが、(C)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤を特定の量的範囲で配合することにより、得られるプラスチック用離型剤の保存安定性、機械安定性、希釈安定性を向上させることができる。
【0046】
(C)成分のポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤は、 通常、下記一般式表される化合物である。
HO(CH2CH2O)a(CH(CH3)CH2O)b(CH2CH2O)CH (HO(CH(CH3)CH2O)d(CH2CH2O)e(CH(CH3)CH2O)fH
一般式(1)、(2)において、a、b、c、d、e及びfは、エチレンオキシドないし プロピレンオキシドの平均付加モル数であり、それぞれ独立して、1~350の数である 。(C)成分の重量平均分子量は、1,000~18,000が好ましく、より好ましく は1,500~10,000である。HLBは乳化安定性の観点から、10~18が好ましく。12~18がより好ましい。なお、(C)成分が固体状である場合は、水溶液にして使用することも可能である。
【0047】
(C)成分であるポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤は、ADEKA社の「プルロニック(登録商標)L」シリーズ、「プルロニック(登録商標)P」シリーズ、「プルロニック(登録商標)F」シリーズ、および「プルロニック(登録商標)TR」シリーズ、三洋化成社のニューポールPEシリーズ、BASF社のPEシリーズとして入手可能である。特に、本発明により得られるプラスチック用離型剤の安定性、濡れ性およびプラスチック等のストレスクラックの抑制の見地から、ADEKA社のプルロニック(登録商標)F-108、三洋化成社のニューポールPE75、PE108、PE128、PE68、PE78などを特に好適に使用することが出来る。 なお、(C)成分のポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
(C)成分の使用量は、(A)成分であるオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1~10.0質量部である。好ましくは0.15~8.0質量部、より好ましくは0.2~6.0質量部、さらに好ましくは0.25質量部~5.0質量部である。0.1質量部より少ないと、本発明のプラスチック用離型剤の安定性を向上させる効果が期待できない。一方で、10.0質量部より多いと、基材に対する濡れ性が低下したり、耐クラック性が低下したりする恐れがある。
【0049】
[(D)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル]
本発明にかかる、プラスチック用離型剤には、任意で、さらに、(D)成分として、下記一般式(2)で表されるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル:0.1~15.0質量部を添加してもよい。
【化4】
(R
2は炭素数8から24のアルキル基である。a、b、及びcは独立して0以上の整数であり、a+b+cの合計は8~30である。)
【0050】
式(2)において、a+b+cの合計が8未満では乳化性が不十分で安定性が不良となる場合がある。一方、+b+cの合計が30より大きいと粘度が高く、または固体状となり取り扱い作業性が低下する場合がある。
【0051】
(D)成分のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて使用してもよい。(D)成分のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルのHLBは10~18とすることができ、好ましくは12~18である。(D)成分のHLBがこれらの範囲内であれば、乳化力が良く、前記の(B)、(C)成分と併用することにより、さらに安定性を改善したプラスチック用離型剤を得られる場合がある。
【0052】
(D)成分であるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの使用量は、(A)成分であるオルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1~15.0質量部である。好ましくは0.2~13.0質量部、より好ましくは0.5~11.0質量部である。(D)成分の配合量が0.1質量部より少ないと、(A)成分であるオルガノポリシロキサンを乳化したエマルジョンの安定性を十分に改善できない場合がある。一方で、15.0質量部より多いと、本発明のプラスチック用離型剤をプラスチックに塗工した際にクラックが生じる恐れがある。
【0053】
[(E)ポリオキシエチレンアルキルエーテル]
本発明にかかる、プラスチック用離型剤には、任意で、さらに、(E)下記一般式(3)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル:0.1~10.0質量部を添加してもよい。
CmH2m+1(OCH2CH2)nOH (3)
(mは10~20の整数であり、nは4~50の整数である。)
【0054】
上記式(3)のmは10~20の整数であり、好ましくは11~18の整数である。また、アルキル基は分岐でも直鎖でもどちらでも使用可能であり、成分(A)のオルガノポリシロキサンの乳化のしやすさやプラスチックに塗工した際のクラックの生じにくさにより選択すればよい。
【0055】
上記式(3)のnは4~50の整数である。好ましくは4~30であり、より好ましくは4~25である。nが4より小さい場合、本発明のプラスチック用離型剤を塗工したプラスチックにクラックが生じやすくなる。一方で、nが50より大きい場合、安定性を向上させる効果が弱くなる。
【0056】
前記(E)成分は1種を単独で使用しても2種類以上併用してもよい。前記(E)成分のHLBは8~18とすることができ、好ましくは9~17であり、より好ましくは10~16である。
【0057】
(E)成分の具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
(E)成分であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの使用量は、(A)成分であるオルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1~10.0質量部である。(E)成分の配合量が0.1質量部より少ないと、(A)成分であるオルガノポリシロキサンを乳化したエマルジョンの安定性を十分に改善できない場合がある。一方で、10.0質量部より多いと、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの種類にもよるが、本発明のプラスチック用離型剤をプラスチックに塗工した際にクラックが生じる恐れがある。
【0059】
[(F)水]
本発明のプラスチック用離型剤はオルガノポリシロキサンのエマルジョン組成物であり、(E)水を分散媒(=連続相)とすることを特徴とする水中油型エマルジョンの形態である。
【0060】
(F)成分である水の使用量は、(A)成分であるオルガノポリシロキサン100質量部に対して、35~100,000質量部である。好ましくは50~20,000質量部である。(F)水が35質量部未満であると、本発明のプラスチック用離型剤をプラスチックに塗工した際にべたつき、塗工ムラ、クラックが生じる恐れがある上に、エマルジョン組成物の粘度が高くなってしまい好ましくない。一方で、(F)水が100,000質量部より多いと、機械安定性が低下し、希釈、攪拌後にオイル浮き等が生じる恐れがある上に、希釈倍率が高いと、離型剤として効果を発揮するために必要なエマルジョン組成物の使用量が増えてしまい、経済的に好ましくない状況となる。
【0061】
[その他成分]
本発明のプラスチック用離型剤には、(A)成分のオルガノポリシロキサンの分散性を向上させる目的等で、水溶性高分子を含んでいてもよい。水溶性高分子化合物は、特に限定されず、非イオン性水溶性高分子化合物、アニオン性水溶性高分子化合物、カチオン性水溶性高分子化合物、及び両イオン性水溶性高分子化合物が挙げられる。
【0062】
非イオン性水溶性高分子化合物としては、例えば、ビニルアルコールの重合体、ビニルアルコールと酢酸ビニルの共重合体、アクリルアミドの重合体、ビニルピロリドンの重合体、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体、ポリエチレングリコール、イソプロピルアクリルアミドの重合体、メチルビニルエーテルの重合体、デンプン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、グアーガム、キサンタンガム等が挙げられる。
【0063】
アニオン性水溶性高分子化合物としては、例えば、アクリル酸ナトリウムの重合体、アクリル酸ナトリウムとマレイン酸ナトリウムとの共重合体、アクリル酸ナトリウムとアクリルアミドの共重合体、スチレンスルホン酸ナトリウムの重合体、ポリイソプレンスルホン酸ナトリウムとスチレンとの共重合体、ナフタレンスルホン酸ナトリウムの重合体、カルボキシメチルデンプン、リン酸デンプン、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0064】
カチオン性水溶性高分子化合物としては、例えば、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドの重合体、ビニルイミダゾリンの重合体、メチルビニルイミダゾリウムクロライドの重合体、アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライドの重合体、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライドの重合体、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドの重合体、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドの重合体、エピクロルヒドリン/ジメチルアミン重合体、エチレンイミンの重合体、エチレンイミンの重合体の4級化物、アリルアミン塩酸塩の重合体、ポリリジン、カチオンデンプン、カチオン化セルロース、キトサン、及びこれらに非イオン性基やアニオン性基を持つモノマーを共重合する等したこれらの誘導体等が挙げられる。
【0065】
両イオン性水溶性高分子化合物としては、例えば、アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライドとアクリル酸とアクリルアミドの共重合体、メタアクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライドとアクリル酸とアクリルアミドの共重合体、アクリルアミドの重合体のホフマン分解物等が挙げられる。
【0066】
本発明のプラスチック用離型剤には、防菌防腐剤や抗菌剤を含んでいてもよい。防菌防腐剤としては、パラオキシ安息香酸アルキルエステル、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、フェノキシエタノール、イソチアゾリノン誘導体等、抗菌剤としては、安息香酸、サリチル酸、フェノール、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸アルキルエステル、p-クロロ-m-クレゾール、ヘキサクロロフェン、塩化ベンザルコニウム、塩化クロルヘキシジン、トリクロロカルバニリド、感光素、フェノキシエタノール等が挙げられる。また、この他にもpH調整剤、香料、酸化防止剤、防錆剤、染料、充填剤、硬化触媒、有機粉体、無機粉体などを配合してもよい。
【0067】
[組成物の調製]
本発明のプラスチック用離型剤は(A)オルガノポリシロキサンを(B)アニオン性界面活性剤、(C)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤、必要に応じて、(D)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、および、または(E)ポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いて(F)水に乳化することで水中油型エマルジョンの形態で得ることができる。なお、以下、「粒子径」または「粒径」とは、レーザー回折・散乱法により測定されるエマルジョン粒子の平均粒子径を意味する。
【0068】
乳化は一般的な乳化分散機を用いて行えばよい。該乳化分散機としては、例えば、ホモディスパー等の高速回転遠心放射型攪拌機、ホモミキサー等の高速回転剪断型攪拌機、圧力式ホモジナイザー等の高圧噴射式乳化分散機、コロイドミル、コンビミックス、インライン式連続乳化機、真空乳化機、連続混合装置、超音波乳化機等が挙げられる。
【0069】
乳化する際の温度について、好ましくは0~80℃、より好ましくは10~60℃である。10℃~80℃の温度では乳化しやすく、製造した乳化物がより安定になる傾向がある。乳化する際、圧力は常圧だけでなく減圧もしくは加圧でもよい。減圧もしくは加圧下で乳化する場合、泡が混入しにくくなり効果的に乳化できることがある。減圧にする場合の圧力は、原料が揮発しないよう原料の蒸気圧より高いことが好ましい。なお、バッチ式の乳化装置を用いる場合の乳化時間は、特に指定はなく、目的の粒径になった時間とすればよいが、一般的には360分間以下とすることが好ましい。
【0070】
本発明のプラスチック用離型剤の平均粒径は100nmを超えて1000nm以下である。好ましくは200nmを超えて800nm以下である。 1000nmより平均粒径が大きいと、希釈安定性および機械安定性が低下し、希釈や攪拌の際にオイル浮き等が生じる恐れがある。また、長期に保存した場合、濃淡分離を生じる恐れもある。他方、平均粒径が100nm以下のエマルジョンを製造するためには、一般に(A)オルガノポリシロキサンに対する、(C) ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤、(D)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、(E)ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどに代表されるノニオン性界面活性剤の含有量が多くなる傾向がある。このため、前記(C)、(D)、(E)成分を本発明の量的範囲内で使用した場合、エマルジョン粒子の粒径100nm以下を達成することは難しく、また本発明の範囲を超えて前記(C)、(D)、(E)を配合すると、離型性の低下やプラスチックに塗工した際にクラックが生じる恐れがある。
【0071】
[プラスチック用離型剤の使用および食品容器包装用プラスチックの製造方法]
上記により得られたエマルジョンは、食品包装用のプラスチックシートやその成形品等の離型剤、また金型成形時に用いる離型剤として極めて有用である。例えば(A)成分の含有量が0.1~2.0質量%である本発明のプラスチック用離型剤をローターダンプニング、グラビア方式もしくはスプレー方式で塗工できる。その塗布量は一般に乾燥基準で0.01~1.0g/m2、特に0.02~0.2g/m2が好適である。0.01g/m2以上であれば十分な離型性が得られ、また、1.0g/m2以下であれば、透明性およびベタつき感の観点から好ましい。
【0072】
食品容器包装用のプラスチックとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン・テトラシクロドデセンコポリマー、エチレン・2-ノルボルネンコポリマー、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレンコポリマー、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエンコポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリルスチレン、ポリメチルメタクリレート、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0073】
本発明によれば、オルガノポリシロキサンをアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤、必要に応じて、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、および、または(E)ポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いて水に乳化することで、優れた離型性を有し、かつ希釈安定性、機械安定性、保存安定性、濡れ性が良好で、さらにストレスクラックを生じにくいプラスチック用離型剤を提供することができる。
【0074】
さらに、本発明のプラスチック用離型剤に使用により特徴づけられる、食品容器包装用プラスチックの製造方法が提供可能である。具体的には、本発明にかかるプラスチック用離型剤を用いることにより、上記の食品容器包装用プラスチック、特に、食品包装用のプラスチックシート(フィルムを含む)やその成形品等を離型乃至金型成型により製造する、食品容器包装用プラスチックの製造方法を提供することができる。
【0075】
当該食品容器包装用プラスチックの製造方法は、
工程(I):本発明のプラスチック用離型剤を、スプレー等により金型等に塗工する工程;
工程(II):食品容器包装用のプラスチックを成型する工程;および
工程(II):成型後の食品容器包装用のプラスチックを離型する工程
を含んでなり、塗工方法、塗工量および使用可能なプラスチックの種類については前記の通りである。
【実施例0076】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0077】
下記実施例、および比較例で使用した各成分は以下の通りである。
【0078】
[成分(A)、および比較用オルガノポリシロキサン](A1)オルガノポリシロキサン:下記一般式(4)で表され、25℃における動粘度9970mm2/s、L1は580であり、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、およびドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量は各100ppm以下である。
【化5】
【0079】
[成分(B)](B1)40%アルカンスルホン酸ナトリウム水溶液 (商品名:ラテムルPS、花王(株)製)、(B2)65%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(商品名:ネオペレックスG-65、花王(株)製)(B3)70%ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム水溶液(商品名:ぺレックスOT-P、花王(株)製)、(B4)ラウリル硫酸ナトリウム(商品名:エマール2FG、花王(株)製)、(B5)70%ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム水溶液(商品名:エマール270J、花王(株)製)
【0080】
[成分(C)](C1)ポ リオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤(商品名プルロニック(登録商標)F108、(株)アデカ製)
【0081】
[成分(D)](D1)モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(商品名:レオドールTW-O120V、花王(株)製)、(D2)モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(商品名:ノニオンLT-221、日油(株)製)
【0082】
[成分(E)](E1)ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名:エマルゲン108、花王(株)製)、(E2)80%ポリオキシエチレンアルキルエーテル水溶液(商品名:レオコールTDN90-80、ライオン(株)製)
【0083】
[成分(F)] (F)水
[その他乳化剤](1)ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(商品名:エマルゲンA-60、花王(株)製)、(2)モノラウリン酸ソルビタン(ノニオンLP-20R(日油(株)製)
[その他成分] 安息香酸ナトリウム、クエン酸、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、p-ヒ ド ロキシ安息香酸プロピル
【0084】
[実施例1] (B1)アニオン性界面活性剤2質量部、(C1)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合型ノニオン乳化剤1質量部、(E1)ポリオキシエチレンアルキルエーテル3.0質量部、p-ヒドロキシ安息香酸メチル0.1質量部、p-ヒドロキシ安息香酸プロピル0.03質量部および(F)水4.0重量部をあらかじめ混合し、(A1)オルガノポリシロキサン60.0質量部の入った容器に入れ、連続乳化機を用いて、乳化した。得られた乳化物に、(F)水29.87質量部を加えて希釈し、均一になるまで攪拌し、実施例1にかかるプラスチック用離型剤(エマルジョン組成物の形態である)を調製した。
【0085】
[実施例2~3、比較例1~4]
実施例1と同様の手順で、表1の組成により、実施例2~3、比較例1~4にかかるプラスチック用離型剤(すべて、エマルジョン組成物の形態である)を調製した。なお、表1において、「部」は質量部を意味する。
【0086】
【0087】
以下、実施例1~3、比較例1~4のプラスチック用離型剤について、平均粒径、pH、保存安定性、フィルムに対する濡れ性、フィルムに対するストレスクラックの評価を行った。評価方法の詳細を以下に説明する。
【0088】
[平均粒径] 水を分散媒として、レーザー回折式粒度分布測定器(マルバーン・パナリティカル社のMastersizer 3000)でシリコーンエマルジョンの粒径を測定し、メジアン径(累積分布の50%に相当する粒径)の値を得た。
【0089】
[保存安定性] 各プラスチック用離型剤を、容量約30mLのガラス瓶に入れて、50℃オーブンで保管し、水分離、オイル分離、およびクリーミングを評価した。下記基準で評価した。
○:50℃で1カ月間、ほとんど分離が起きていないもの
△:50℃で2週間経過はほとんど分離が起きていないが、50℃1カ月経過すると水分離、オイル分離、クリーミングのいずれかが発生しているもの
×:50℃で2週間経過後に、水分離、オイル分離、クリーミングのいずれかが発生しているもの。
【0090】
[濡れ性]
各プラスチック用離型剤をマイヤーバーNo.3によりPETフィルム(東レ(株)製ルミラー(R) T60)に塗工する。
目視ではじきの発生の有無を確認する。○:全体に濡れる△:一部にはじきを生じる×:塗工後すぐに全体にはじきを生じる本明細書においては「○」および「△」を良好、「×」を不良と判断する。
【0091】
[耐クラック性]
上記乳化組成物を30ccのガラス瓶に10g入れ、2.5cm×6cmのOPSシート(=二軸延伸ポリスチレンシート、三菱ケミカル(株)製 サンクトリアSP)を丸めて浸漬させる。7時間50℃のオーブンに入れた後、目視でクラックの発生の有無を確認する。「○」を良好、「×」を不良と判断する。
【0092】
以下、実施例1~3および比較例1~4にかかるプラスチック用離型剤の評価結果を表2に記載する。
【表2】
【0093】
以上の評価結果から、本発明のプラスチック用離型剤(実施例1~3)は、保存安定性に優れ、濡れ性が比較的良好で、かつプラスチックに対してストレスクラックが生じ難く、耐クラック性にも優れるものであった。
【0094】
他方、本発明の(C)成分を欠く比較例1~4においては、耐クラック性、保存安定性、濡れ性のいずれかが不良となるほか、例え、(C)成分に代えて、(D)成分や(E)成分を用いたとしても、これらの特性全てにおいて本発明の実施例に相当するだけの良好な性能を実現することはできなかった。従って、(A)~(C)成分および(F)水を一定の量的範囲で使用した本発明のプラスチック用離型剤は、公知技術に対して、明らかな性能上の優位性を有するものであり、特に、食品容器包装用プラスチックの製造に使用することにより、十分な技術的な利益を実現可能であると期待される。