(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090466
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】シリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/324 20060101AFI20240627BHJP
H01L 21/322 20060101ALI20240627BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20240627BHJP
C30B 33/02 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
H01L21/324 X
H01L21/322 Y
C30B29/06 A
C30B33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206404
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】早川 兼
(72)【発明者】
【氏名】須藤 治生
(72)【発明者】
【氏名】南 俊郎
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077BA04
4G077CF10
4G077EB01
4G077EB06
4G077FE02
4G077FE12
4G077HA12
(57)【要約】
【課題】ウェーハの表層部及びバルク部においてもボイドやBMD等の欠陥を低減させること。
【解決手段】熱処理工程は、初期温度に保持された反応室内に投入し、酸素雰囲気中、最高到達温度よりも低い第一の温度までの昇温速度を1℃/min以上10℃/min以下で熱処理する工程と、不活性ガス雰囲気中、前記第一の温度から最高到達温度までの昇温速度を1℃/min以上10℃/min以下で熱処理する工程と、不活性ガス雰囲気中、最高到達温度で5min以上20min以下保持する工程と、酸素雰囲気中、最高到達温度で1h以上10h以下保持する工程と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により窒素ノンドープにてシリコン単結晶インゴットを育成する工程と、前記シリコン単結晶インゴットを切断してV-リッチ領域からなる円板状のウェーハを作製する工程と、前記作製したウェーハを平坦化する工程と、前記平坦化したウェーハを熱処理する工程と、前記熱処理を行ったウェーハの少なくとも半導体デバイス形成面となる表面を鏡面研磨する工程と、を備え、
前記熱処理工程は、
前記ウェーハを初期温度に保持された反応室内に投入し、酸素雰囲気中、最高到達温度よりも低い第一の温度までの昇温速度を1℃/min以上10℃/min以下で熱処理する工程と、
不活性ガス雰囲気中、前記第一の温度から最高到達温度までの昇温速度を1℃/min以上10℃/min以下で熱処理する工程と、
不活性ガス雰囲気中、最高到達温度で5min以上20min以下保持する工程と、
酸素雰囲気中、最高到達温度で1h以上10h以下保持する工程と、
を含むことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記最高到達温度は、1150℃以上1250℃以下であることを特徴とする請求項1に記載されたシリコンウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記第一の温度は、850℃以上950℃以下であることを特徴とする請求項1に記載されたシリコンウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記チョクラルスキー法により窒素ノンドープにてシリコン単結晶インゴットを育成する工程において、
前記育成されたシリコン単結晶インゴット中の酸素濃度は、5.0×1017atoms/cm3以下であることを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記チョクラルスキー法により窒素ノンドープにてシリコン単結晶インゴットを育成する工程において、
前記育成されたシリコン単結晶インゴット中の窒素濃度は、6.0×1013atoms/cm3以下であることを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記ウェーハを初期温度に保持された反応室内に投入し、酸素雰囲気中、最高到達温度よりも低い第一の温度までの昇温速度を1℃/min以上10℃/min以下で熱処理する工程の後、
不活性ガス雰囲気中、かつ前記第一の温度で、5min以上20min以下保持することを特徴とする請求項1に記載されたシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの製造方法に関し、特に、シリコンウェーハの表層部やバルク部のボイド(表面で検出される場合は、Crystal Originated Particle:COPと呼ぶこともある)やBMD(Balk MicroDefect)等の欠陥を低減させてデバイス特性の向上を図ることができるシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスは、複数の電子部品を集積して一つの回路を構成する集積回路(IC:Integrated Circuit)と、それ自身が一つの電子部品(トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等)となるディスクリート素子とに大別される。
いずれも、主として、シリコンウェーハ(以下、単に、ウェーハともいう)が基板材料として用いられるが、デバイス形成領域となる部分は、ICの場合には基板の表層部(例えば、表面から深さ5μmまでの深さ領域)に限られるのに対して、ディスクリート素子の場合は、基板の厚さ方向全体を用いる点で大きく相違する。
従って、シリコンウェーハをディスクリート素子用として使用する場合には、ウェーハの表層部のみならず、バルク部のボイドやBMD等の欠陥を低減させることが必要である。
【0003】
ボイド欠陥を低減させる方法として、特許文献1には、チョクラルスキー法(以下、CZ法ともいう)でシリコン単結晶インゴットを育成する際に、V/G値(V:引き上げ速度、G:シリコン融液から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値)を制御することで、単結晶の径方向全体において無欠陥領域を形成し、全面にGrown-in欠陥のないシリコンウェーハを製造する技術が開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、引き上げ速度を低く制御して行う必要があるため、シリコン単結晶インゴットの育成効率を低下させるという問題がある。
【0004】
また、特許文献2には、CZ法により製造された単結晶シリコンに対して酸化処理を行い、少なくとも1300℃近傍の温度で熱処理を行うことにより、単結晶シリコン中に存在するボイド欠陥を消滅させる技術が開示されている。
【0005】
加えて、特許文献3には、窒素をドープしたシリコン単結晶から切り出したシリコンウェーハに、水素及び/または不活性ガス雰囲気下で1000℃以上1350℃以下の温度で50時間以下の熱処理を施し、ボイド欠陥の内壁酸化膜を除去した後、800℃以上1350℃以下の温度範囲で50時間以下の酸化熱処理を行って強制的に格子間シリコン原子(以下、格子間Siという)を注入させることにより、Grown-in欠陥を少なくとも表面から10μmまで消滅させる技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の技術は、少なくとも1300℃近傍の温度で熱処理するため、スリップ転位が発生しやすいという問題がある。
更に、特許文献3に記載の技術は、COP及びボイドのサイズを縮小させることを目的として窒素をドープしているが、窒素をドープしたウェーハは、結晶内に窒素のas-grown析出核が多く形成されるため、この窒素を核としてサーマルドナーが発生し、抵抗値が不安定となりやすい問題がある。
【0007】
このような課題に対し本願出願人は、特許文献4において、窒素ノンドープのシリコン単結晶から切り出したシリコンウェーハに対し熱処理を施し、ウェーハ表層及びバルク中に存在するボイドを消失させる方法を提案している。
具体的には、熱処理工程において、シリコンウェーハを800℃以下に保持された反応室内に投入し、酸素分圧が1%以上8%以下である不活性ガス雰囲気中、1150℃以上1250℃以下の最高到達温度まで昇温した後、前記不活性ガス雰囲気の酸素分圧を5%以上15%以下として、前記最高到達温度で30分以上2時間以下保持する熱処理を行うようにしている。
【0008】
即ち、最高到達温度に達するまでの熱処理では、不活性ガスによりウェーハ表層及びバルク中に存在するボイドの内壁酸化膜を分解除去する。
続く最高到達温度での熱処理では、雰囲気中の酸素濃度の上昇によりシリコンウェーハの表面が酸化され、内壁酸化膜の除去されたボイドに対し格子間Siが供給される。これによりウェーハ表層及びバルク中に存在するボイドを消失させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8-330316号公報
【特許文献2】国際公開第2003/056621号パンフレット
【特許文献3】特開2000-203999号公報
【特許文献4】特開2013-201303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1に開示されたシリコンウェーハの製造方法における熱処理工程にあっては、1150℃以上1250℃以下の最高到達温度に達するまでは、不活性ガス優勢の不活性ガス雰囲気中での加熱処理が行われる。
しかしながら、酸化膜が形成されていないシリコンウェーハに対して、例えば900℃を越える温度で不活性ガス雰囲気での熱処理を行うと、シリコンウェーハ表面がアクティブ酸化(SiO生成によりエッチングされる)し、シリコンウェーハの表面特性に悪影響を及ぼすという課題があった。
【0011】
このため、熱処理開始時においては酸素雰囲気中での熱処理により、シリコンウェーハ表面に僅かに酸化膜を形成することが望ましいが、ウェーハ表面の酸化膜が厚すぎると、その後の不活性ガス雰囲気での熱処理においてボイドの内壁酸化膜の溶解が不十分となり、ウェーハ表面の酸化膜が薄すぎるとその後の不活性ガス雰囲気での熱処理において、ウェーハ表面のアクティブ酸化を防止できないという課題があった。
【0012】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、ウェーハの表層部及びバルク部においてもボイドやBMD等の欠陥を低減させることができ、ディスクリート素子用に好適なシリコンウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係るシリコンウェーハの製造方法は、チョクラルスキー法により窒素ノンドープにてシリコン単結晶インゴットを育成する工程と、前記シリコン単結晶インゴットを切断してV-リッチ領域からなる円板状のウェーハを作製する工程と、前記作製したウェーハを平坦化する工程と、前記平坦化したウェーハを熱処理する工程と、前記熱処理を行ったウェーハの少なくとも半導体デバイス形成面となる表面を鏡面研磨する工程と、を備え、前記熱処理工程は、初期温度に保持された反応室内に投入し、酸素雰囲気中、最高到達温度よりも低い第一の温度までの昇温速度を1℃/min以上10℃/min以下で熱処理する工程と、不活性ガス雰囲気中、前記第一の温度から最高到達温度までの昇温速度を1℃/min以上10℃/min以下で熱処理する工程と、不活性ガス雰囲気中、最高到達温度で5min以上20min以下保持する工程と、酸素雰囲気中、最高到達温度で1h以上10h以下保持する工程と、最高到達温度からを含むことに特徴を有する。
【0014】
なお、前記最高到達温度は、1150℃以上1250℃以下であることが望ましい。
また、前記第一の温度は、850℃以上950℃以下であることが望ましい。
また、前記チョクラルスキー法により窒素ノンドープにてシリコン単結晶インゴットを育成する工程において、前記育成されたシリコン単結晶インゴット中の酸素濃度は、5.0×1017atoms/cm3以下であることが望ましい。
また、前記チョクラルスキー法により窒素ノンドープにてシリコン単結晶インゴットを育成する工程において、前記育成されたシリコン単結晶インゴット中の窒素濃度は、6.0×1013atoms/cm3以下であることが望ましい。
また、前記ウェーハを初期温度に保持された反応室内に投入し、酸素雰囲気中、最高到達温度よりも低い第一の温度までの昇温速度を1℃/min以上10℃/min以下で熱処理する工程の後、不活性ガス雰囲気中、かつ前記第一の温度で、5min以上20min以下保持することが望ましい。
【0015】
このように本発明によれば、熱処理工程において、最初に酸素雰囲気中、第一の温度(望ましくは900℃)まで昇温速度を1℃/min以上10℃/min以下で熱処理する。これにより、シリコンウェーハの表面に酸化膜が形成される。
次いで、不活性ガス雰囲気下において、第一の温度から最高到達温度(望ましくは1150℃以上1250℃以下)まで昇温速度1℃/min以上10℃/min以下で昇温する。さらに、不活性ガス雰囲気中、最高到達温度のまま、5min以上20min以下保持する。これにより、ウェーハ表層の酸素濃度が飽和状態となることなくウェーハ表面層とバルク層中のCOP(ボイド)の内壁酸化膜がウェーハ中に効率よく溶け出し除去される。また、この不活性ガス雰囲気中での熱処理においては、ウェーハ表面に先に形成されていた酸化膜により、アクティブ酸化が防止される。
続けて、酸素雰囲気下、前記最高到達温度で、1h以上10h以下で熱処理を行う。これにより、シリコンウェーハの表面がさらに酸化され、内壁酸化膜の除去されたボイドに対し格子間Siが供給される。これによりウェーハ表層及びバルク中に存在するCOP(ボイド)を消失させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ウェーハの表層部及びバルク部においてもボイドやBMD等の欠陥を低減させることができ、ディスクリート素子用に好適なシリコンウェーハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るシリコンウェーハの製造方法を示す工程フロー図である。
【
図2】V/G値と育成されるシリコン単結晶インゴット中の点欠陥分布との関係を模式的に示す概念図である。
【
図3】熱処理工程における熱処理シーケンスの一例を示す概念図である。
【
図4】
図4は、実施例の試験1の結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例の試験2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面等を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るシリコンウェーハの製造方法を示す工程フロー図である。
本実施形態に係るシリコンウェーハの製造方法は、
図1に示すように、育成工程(S101)と、切断工程(S102)と、平坦化工程(S103)と、熱処理工程(S104)と、鏡面研磨工程(S105)を備える。
【0019】
育成工程(S101)では、CZ法により窒素ノンドープにてV-リッチ領域からなる酸素濃度が5×1017atoms/cm3以下であるシリコン単結晶インゴットを育成する。
具体的には、周知の単結晶引上装置を用いて、窒素ノンドープにてシリコン融液の液面に種結晶を接触させて、種結晶と石英ルツボを回転させながら種結晶を引き上げてネック部及び所望の直径まで拡径する拡径部を形成後、所望の直径を維持しながら、結晶の中心軸がV-リッチ領域となるようにV/G値(V:引き上げ速度、G:シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値)を所定値(例えば、0.25~0.35mm2/℃・min)に制御して直胴部を形成し、その後、所望の直径から縮径する縮径部を形成し、前記縮径部をシリコン融液から切り離すことで行う。
【0020】
なお、本発明にいう「窒素ノンドープ」とは、シリコン単結晶インゴットの育成時に、故意に窒素ドープ(例えば、石英ルツボ内へのポリシリコン積載時に窒化膜が形成されたシリコンウェーハ片を同時に積載)を行わないことをいう。
また、前記育成するシリコン単結晶インゴットの酸素濃度の調整は、石英ルツボの回転数や炉内圧力、ヒータ温度などを調整することにより周知の方法で行う。
【0021】
図2は、V/G値と育成されるシリコン単結晶インゴット中の点欠陥分布との関係を模式的に示す概念図である。
図2に示すように、ネック部2を形成した後、シリコン単結晶インゴット1の引き上げ速度V値を拡径部3側から縮径部4側にかけて漸減していくと、V/G値も減少し、これに伴って、シリコン単結晶インゴット1中の欠陥分布も変化する。なお、この場合は、G値はほとんど変化しない。
引き上げ速度V値が大きい、すなわち、V/G値が大きいときは、原子空孔(COP)が多く取り込まれたV-リッチ領域5が形成される。このV-リッチ領域5が消滅する臨界V/G値以下では、まず、酸化熱処理によってOSFがリング状に発生するOSFリング領域6が形成され、次に、空孔と格子間シリコン濃度との均衡により、原子の不足や余分の少ない無欠陥領域7が形成される。V/G値がさらに減少すると、格子間シリコンが多く取り込まれたI-リッチ領域8が形成される。
【0022】
このように本発明では、育成工程(S101)において、V-リッチ領域を含む直胴部からなるシリコン単結晶インゴットを育成するため、直胴部が無欠陥領域からなるシリコン単結晶インゴットを育成するよりも、引き上げ速度Vの高速化を図ることができる。従って、育成効率を低下させることなく、シリコン単結晶インゴットを育成することができる。
また、シリコン単結晶インゴットの育成を窒素ノンドープにて行うため、窒素のasgrown析出核の発生を抑制することができる。従って、窒素を核としたサーマルドナーの発生を抑制することができる。
【0023】
なお、シリコン単結晶インゴットの育成を窒素ドープにて行った場合でも、後述する熱処理工程(S104)においてウェーハの表層部の窒素を外方拡散させることが可能である。しかしながら、この場合であってもウェーハの内部であるバルク部の窒素は、外方拡散されにくいため、当該熱処理後も窒素が前記バルク部に残存する可能性がある。従って、バルク部で窒素のas-grown析出核が発生しやすくなるため、シリコン単結晶インゴットの育成は、窒素ノンドープにて行うことが好ましい。
【0024】
切断工程(S102)では、周知の切断装置(ワイヤソー等)を用いて、前記シリコン単結晶インゴットを切断してV-リッチ領域からなる円板状のウェーハを作製する。
【0025】
平坦化工程(S103)では、周知の平坦化処理(遊離砥粒を用いたラッピング処理、ダイヤモンド等の固定砥粒を用いた研削処理、酸性溶液(弗酸(HF)、硝酸(HNO3)、酢酸(CH3COOH)及び水(H2O)を一定の比率で混合した溶液)又はアルカリ性溶液(水酸化ナトリウム(NaOH)又は水酸化カリウム(KOH)溶液)を用いたエッチング処理、コロイダルシリカ等の研磨剤を用いた研磨処理等)により、前記作製したウェーハを平坦化する。
【0026】
平坦化工程(S103)は、具体的には、前記シリコン単結晶インゴットを切断して作製したウェーハの両面をラッピング処理した後、その両面を酸性溶液によりエッチング処理し、更に、少なくとも半導体デバイス形成面となる表面又は両面を鏡面研磨処理することが好ましい。また、前記ラッピング処理後、前記エッチング処理前に、ウェーハの両面を研削する研削処理を加えてもよい。
【0027】
熱処理工程(S104)では、周知の熱処理装置(縦型熱処理装置等)を用いて、前記平坦化したウェーハを、800℃以下の初期温度に保持された反応室内に投入し、酸素雰囲気中、第一の温度(例えば900℃とする)までの昇温速度を1℃/min以上10℃/min以下で熱処理する工程と、不活性ガス雰囲気中、第一の温度から最高到達温度(例えば1150℃以上1250℃以下とする)までの昇温速度を1℃/min以上10℃/min以下で熱処理する工程と、不活性ガス雰囲気中、最高到達温度で5min以上20min以下保持する工程と、酸素雰囲気中、最高到達温度で1h以上10h以下保持する工程と、を行う。
【0028】
図3は、熱処理工程(S104)における熱処理シーケンスの一例を示す概念図である。熱処理工程(S104)は、例えば、
図3に示すような熱処理シーケンスで行われる。
最初に、周知の縦型熱処理装置の初期温度T0(800℃以下)に保持された反応室内に、前記平坦化したウェーハを、例えば、周知の縦型ボードに枚葉で複数枚保持して投入し、酸素雰囲気中、温度T1(900℃)まで昇温速度を1℃/min以上10℃/min以下で熱処理する。これにより、シリコンウェーハの表面に厚さ3nm以上10nm以下の酸化膜が形成される。この酸化膜の厚さが10nmより大きいと、その後の不活性ガス雰囲気での熱処理においてボイドの内壁酸化膜の溶解が不十分となる虞がる。一方、ウェーハ表面の酸化膜が3nmより小さいと、その後の不活性ガス雰囲気での熱処理において、ウェーハ表面のアクティブ酸化を防止できない虞がある。
【0029】
次いで、反応室内の雰囲気を不活性ガス雰囲気とする。ここで、不活性ガス雰囲気中、且つ温度T1の状態で、5min以上20min以下保持することが望ましい。
次いで、不活性ガス雰囲気中、温度T1から最高到達温度T2(1150℃以上1250℃以下)まで昇温速度1℃/min以上10℃/min以下で昇温する。そして、不活性ガス雰囲気中、最高到達温度T2のまま、5min以上20min以下保持する。
これにより、ウェーハ表層の酸素濃度が飽和状態となることなくウェーハ表面層とバルク層中のCOP(ボイド)の内壁酸化膜がウェーハ中に効率よく溶け出し除去される。また、この不活性ガス雰囲気中での熱処理においては、ウェーハ表面に先に形成されていた酸化膜により、アクティブ酸化が防止される。
このように不活性ガス雰囲気中での熱処理は、最高到達温度T2のまま、5min以上20min以下保持するが、保持時間が5minより短いと、表層部及びバルク部のボイドの内壁酸化膜を全て除去できない虞がある。一方、保持時間が20minより長いと、ウェーハにスリップが発生する虞がある。
【0030】
続けて、反応室内の雰囲気を酸素雰囲気とし、最高到達温度T2(1150℃以上1250℃以下)で、1h以上10h以下で熱処理を行う。これにより、シリコンウェーハの表面が酸化され、内壁酸化膜の除去されたボイドに対し格子間Siが供給される。これによりウェーハ表層及びバルク中に存在するCOP(ボイド)が消失する。
なお、この酸素雰囲気中、最高到達温度T2での熱処理時間が1hより短いと、ボイドが完全に消滅しない虞がある。一方、最高到達温度T2での熱処理時間が10hより長いと、ウェーハにスリップが発生する虞がある。
【0031】
また、前記育成するシリコン単結晶インゴットの酸素濃度が5×1017atoms/cm3を超える場合は、酸素濃度が高くなるため、後の熱処理工程(S104)において、表層部及びバルク部(特に、バルク部)に存在するボイドの内壁酸化膜を溶解させにくくなる。また、表層部及びバルク部(特に、バルク部)においてシリコン単結晶インゴット育成時に発生しているBMD核をウェーハ内に溶解させにくくなる。従って、表層部及びバルク部(特に、バルク部)においてボイドが残存しやすくなり、かつ、BMDが析出されやすくなるため好ましくない。
前記酸素濃度は、後の熱処理工程(S104)や半導体デバイス形成時の熱処理工程におけるウェーハ強度確保(スリップ転位の発生の抑制)等の観点から、その下限値は、2×1017atoms/cm3以上であることが好ましい。
【0032】
前記熱処理工程(S104)における反応室内への投入温度が800℃を超える場合には、室温(クリーンルーム:約25℃)からの急激な温度変化によりウェーハにスリップ転位が発生しやすくなるため好ましくない。
前記投入温度は、生産性等の観点からその下限値は、300℃以上であることが好ましい。
【0033】
前記不活性ガスが、窒素ガスである場合には、当該熱処理後、ウェーハの表面に窒化膜が形成される場合があり、当該窒化膜を除去するためにエッチング工程等、新たに増やす必要があり、生産性が低下するため好ましくない。
前記不活性ガスが、水素ガスである場合には、水素と酸素の混合ガス雰囲気となるため、爆発の危険性があり好ましくない。
【0034】
前記最高到達温度が1150℃未満である場合には、温度が低いため、表層部及びバルク部(特に、バルク部)に存在するボイドの内壁酸化膜を溶解させにくくなる。また、表層部及びバルク部(特に、バルク部)においてシリコン単結晶インゴット育成時に発生しているBMD核をウェーハ内に溶解させにくくなる。従って、表層部及びバルク部(特に、バルク部)においてボイドが残存しやすくなり、かつ、BMDが析出されやすくなるため好ましくない。前記最高到達温度が1250℃を超える場合には、高温となるため、当該熱処理においてスリップ転位が発生しやすくなり好ましくない。
【0035】
鏡面研磨工程(S105)は、周知の鏡面研磨装置(片面研磨又は両面研磨を含む)を用いて、前記熱処理を行ったウェーハの少なくとも半導体デバイス形成面となる表面を鏡面研磨する。
【0036】
前述したように、熱処理工程(S104)では、昇温時に、酸素分圧が1%以上8%以下である不活性ガス雰囲気及び最高到達温度において酸素分圧が5%以上15%以下である不活性ガス雰囲気にて熱処理を行っている。そのため、昇温時からウェーハ内に酸素が内方拡散されやすくなるため、特に、表層部に存在するボイドの内壁酸化膜が溶解されにくくなり、表層部ではボイドが残存する。
従って、前記熱処理を行ったウェーハの少なくとも半導体デバイス形成面となる表面を鏡面研磨することで、前記ボイドが残存した表層部を除去することが好ましい。
【0037】
前記鏡面研磨工程(S105)では、前記表面を2μm以上5μm以下除去(研磨取代が2μm以上5μm以下)することが好ましい。
このような研磨取代とすることで、鏡面研磨工程(S105)においてウェーハの平坦度の悪化を抑制しつつ、生産性よく、前記ボイドが残存した表層部を除去することができる。
【0038】
前記育成されたシリコン単結晶インゴット中の窒素濃度は、6.0×1013atoms/cm3以下であることが好ましい。
このような窒素濃度とすることで、確実にサーマルドナーの発生を抑制することができる。
【0039】
以上のように、本発明に係るシリコンウェーハの製造方法は、ウェーハの表層部及びバルク部においてボイドやBMD等の欠陥を低減させることができる。従って、本発明で製造されたシリコンウェーハは、特に、ディスクリート素子用として好適に用いることができる。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により限定解釈されるものではない。
【0041】
(試験1)
(実施例1)
図1に示す工程フロー図に基づいて、サンプルを作製した。
具体的には、石英ルツボの回転数や炉内圧力を調整してCZ法により窒素ノンドープにてV/G値(V:引き上げ速度、G:シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値)を0.28~0.32mm2/℃・minに制御して直胴部がV-リッチ領域からなるN-type、面方位(100)、酸素濃度5.0×10
17atoms/cm
3であるシリコン単結晶インゴットを育成後、該インゴットの直胴部を切断してV-リッチ領域からなる窒素濃度が6.0×10
13/cm
3以下である直径300mmの円板状のスライスウェーハを得た。
この酸素濃度は、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を用いて測定したスライスウェーハの面内平均濃度である。また、窒素濃度は、窒化膜付きウェーハの投入量と窒素の偏析係数および結晶の固化率から推定した濃度である。
【0042】
次に、得られたスライスウェーハに対して、両面(表裏面)のラッピング処理を行い、更に、酸性溶液(弗酸(HF)、硝酸(HNO
3)、酢酸(CH
3COOH)及び水(H
2O)を一定の比率で混合した溶液)によりエッチング処理を行い、最後に、両面の鏡面研磨処理を行った。
次に、鏡面研磨を行ったウェーハを、表面に酸化膜が被膜されたSiCで構成された縦型ボートに枚葉で10枚保持して、周知の縦型熱処理装置の反応室内に投入し、
図3に示す熱処理シーケンスにて、熱処理を行った。
【0043】
その他の熱処理条件は下記の通りである。
・T0:600℃
・T1:900℃
・T2:1200℃
・t1:10分
・t2:50分
・ΔTu1:4℃/分
・ΔTu2:2℃/分
・ΔTd1:1℃/分
・ΔTd2:2℃/分
・ΔTd3:4℃/分
【0044】
熱処理を行ったウェーハに対してHF処理を行って、両面の酸化膜を除去した後、ウェーハの両面を再度、鏡面研磨処理した(半導体デバイス形成面となる表面側の研磨取代2μm)。
前記熱処理を行い、かつ、鏡面研磨を行なったウェーハの半導体デバイス形成面となる表面から深さ6μm研磨し、KLA TENCOR社製Surfscan SP2を用いて65nm以上のLPD(Light Point Defect)の数を測定し、ボイド欠陥の残存状態を評価した。
【0045】
(比較例1)
比較例1では、
図3に示す熱処理シーケンスにおいて、開始から終了まで反応室内の雰囲気を切り換えず、不活性ガスであるArガス雰囲気とした。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0046】
(比較例2)
比較例2では、
図3に示す熱処理シーケンスにおいて、開始から終了まで反応室内の雰囲気を切り換えず、酸素雰囲気とした。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0047】
実施例1、及び比較例1、2の結果を
図4のグラフに示す。
図4のグラフの縦軸は、65nm以上のLPD数(個)である。
図4のグラフに示すように、実施例1では、LPDは殆ど確認されなかった。また、確認されたLPDを走査電子顕微鏡(SEM)で実態評価したところ、すべて付着パーティクルであった。
【0048】
また、Arガス雰囲気下で熱処理を行った比較例1では、LPDは平均29.7個であった。また、確認されたLPDを走査電子顕微鏡(SEM)で実態評価したところ、内壁酸化膜が消失したボイドであった。
また、酸素雰囲気下で熱処理を行った比較例2では、LPDは平均8.2個であった。また、確認されたボイドを走査電子顕微鏡(SEM)で実態評価したところ、内壁酸化膜を残したままボイドが収縮して形成されたと思われるサイズ50nm程度のSiOx欠陥であった。
【0049】
(試験2)
試験2では、
図3の熱処理シーケンスにおいて、酸素雰囲気下での昇温速度ΔTu1の好ましい範囲について検証した。
(実施例2)
実施例2では、
図3の熱処理シーケンスにおいて、酸素雰囲気下での昇温速度ΔTu1を1℃/minとしてウェーハ酸化膜厚を測定した。
(実施例3)
実施例3では、
図3の熱処理シーケンスにおいて、酸素雰囲気下での昇温速度ΔTu1を5℃/minとしてウェーハ酸化膜厚を測定した。
(実施例4)
実施例4では、
図3の熱処理シーケンスにおいて、酸素雰囲気下での昇温速度ΔTu1を10℃/minとしてウェーハ酸化膜厚を測定した。
(比較例3)
比較例3では、
図3の熱処理シーケンスにおいて、酸素雰囲気下での昇温速度ΔTu1を0.5℃/minとしてウェーハ酸化膜厚を測定した。
(比較例4)
比較例4では、
図3の熱処理シーケンスにおいて、酸素雰囲気下での昇温速度ΔTu1を15℃/minとしてウェーハ酸化膜厚を測定した。
(比較例5)
比較例5では、
図3の熱処理シーケンスにおいて、酸素雰囲気下での昇温速度ΔTu1を20℃/minとしてウェーハ酸化膜厚を測定した。
【0050】
実施例2、3、4、比較例3、4、5の結果を
図5のグラフに示す。
図5のグラフにおいて、縦軸は酸化膜厚(nm)である。
図5に示すように、実施例2(ΔTu1:1℃/min)では、ウェーハの平均酸化膜厚が9.3nm、実施例3(ΔTu1:5℃/min)では、ウェーハの平均酸化膜厚が5.1nm、実施例4(ΔTu1:10℃/min)では、ウェーハの平均酸化膜厚が3.4nmとなり、アクティブ酸化を防止するために適切な厚さ3nm以上10nm以下の酸化膜が形成された。
一方、比較例3(ΔTu1:0.5℃/min)では、ウェーハの平均酸化膜厚が14.8nmとなり、アクティブ酸化を防止するには十分だが、その後の不活性ガス雰囲気での熱処理においてボイドの内壁酸化膜の溶解に影響を及ぼす虞があった。
また、比較例4(ΔTu1:15℃/min)では、ウェーハの平均酸化膜厚が2.0nm、比較例5(ΔTu1:20℃/min)では、ウェーハの平均酸化膜厚が1.5nmとなりアクティブ酸化を防止するために十分な酸化膜が形成されなかった。
この試験2の結果、ウェーハのアクティブ酸化を防ぎ、その後の不活性ガス雰囲気での熱処理において好適な酸化膜厚を形成するには、酸素雰囲気下での昇温速度(ΔTu1)を1℃/min以上10℃/min以下とするのが望ましいと確認した。
【0051】
(試験3)
試験3では、
図3の熱処理シーケンスにおいて、第一の温度(T1)と最高到達温度である第二の温度(T2)の好ましい保持時間について検証した。
表1に示すように、第一の温度(T1)と第二の温度(T2)の保持時間を条件とし、その他の条件は実施例1と同様にしてウェーハのボイドとスリップの評価を行った。実施例1と同様に、第一の温度(T1)と第二の温度(T2)は、それぞれ900℃と1200℃とした。
【0052】
【0053】
(実施例5)
実施例5では、表1に示すように、第一の温度(T1)の保持時間を5minとし、第二の温度(T2)の保持時間を1hとした。
(実施例6)
実施例6では、表1に示すように、第一の温度(T1)の保持時間を10minとし、第二の温度(T2)の保持時間を2hとした。
(実施例7)
実施例7では、表1に示すように、第一の温度(T1)の保持時間を20minとし、第二の温度(T2)の保持時間を10hとした。
(比較例6)
比較例6では、表1に示すように、第一の温度(T1)の保持時間を1min
とし、第二の温度(T2)の保持時間を0.5hとした。
(比較例7)
比較例7では、表1に示すように、第一の温度(T1)の保持時間を30minとし、第二の温度(T2)の保持時間を15hとした。
【0054】
表1に実施例5、6、7、比較例6、7の結果を示す。表1において、ボイド、スリップが発生したものを×、発生しなかったものを○で示す。
表1に示すように実施例5、6、7では、ウェーハにおいてスリップ及びボイドは発生しなかった。
一方、比較例6のように第一の温度(T1)と第二の温度(T2)の保持時間が短いと(それぞれ1minと0.5h)、スリップは発生しなかったが表層及びバルク部においてボイドが残存した。
また、比較例7にように第一の温度(T1)と第二の温度(T2)の保持時間を長くした場合(それぞれ30minと15h)、ボイドは消失したがウェーハにスリップが発生した。
試験3の結果、表層およびバルク部のボイドを消失させつつ、スリップを抑制するには、第一の温度(T1)の保持時間を不活性ガス雰囲気中で5min以上20min以下、最高到達温度である第二の温度(T2)の保持時間を酸素雰囲気中で1h以上10h以下が望ましいことを確認した。
【0055】
以上の実施例の結果、本発明のシリコンウェーハの製造方法によれば、シリコンウェーハの表面層及びバルク層におけるボイドを消失することができることを確認した。