(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090493
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】潤滑油組成物及び潤滑油用摩擦低減剤
(51)【国際特許分類】
C10M 153/04 20060101AFI20240627BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240627BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240627BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20240627BHJP
C10N 40/13 20060101ALN20240627BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20240627BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20240627BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20240627BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20240627BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20240627BHJP
C10N 40/24 20060101ALN20240627BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
C10M153/04
C10N30:06
C10N40:02
C10N40:00 A
C10N40:13
C10N40:08
C10N40:25
C10N40:04
C10N40:30
C10N40:20 Z
C10N40:24
C10N50:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206441
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】福本 こゆき
(72)【発明者】
【氏名】稲富 優
(72)【発明者】
【氏名】石川 達也
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 宏将
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104CH09C
4H104LA03
4H104PA01
4H104PA02
4H104PA03
4H104PA05
4H104PA07
4H104PA09
4H104PA20
4H104PA21
4H104PA23
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】末端にリン原子を付与した重合体を用いることで、リン含有量を低減しつつ、高い摩擦低減効果を示す潤滑油用摩擦低減剤及び潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】エチレン性不飽和化合物由来の構成単位を含む重合体(A)を含有する潤滑油組成物であって、前記重合体(A)は*-P+R1R2R3[ただし、Pはリン原子を表す。R1、R2、及びR3は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基である。*は、重合体(A)内の他原子との結合箇所を示す。]で表される構造(B)を重合体末端に含み、前記重合体(A)の重量平均分子量が3000~350000である、潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和化合物由来の構成単位を含む重合体(A)を含有する潤滑油組成物であって、前記重合体(A)は下記式(1)で表される構造(B)を重合体末端に含み、前記重合体(A)の重量平均分子量が3000~350000である、潤滑油組成物。
【化1】
[式(1)中、Pはリン原子を表す。R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基である。*は、重合体(A)内の他原子との結合箇所を示す。]
【請求項2】
エチレン性不飽和化合物由来の構成単位を含む重合体(A)を含有する潤滑油組成物であって、前記重合体(A)は下記式(1)で表される構造(B)を重合体末端に含み、前記重合体(A)のリン含有量が80~10000ppmである、潤滑油組成物。
【化2】
[式(1)中、Pはリン原子を表す。R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基である。*は、重合体(A)内の他原子との結合箇所を示す。]
【請求項3】
前記エチレン性不飽和化合物由来の構成単位が、下記式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位である、請求項1又は請求項2に記載の潤滑油組成物。
【化3】
[式(2)中、R
4は水素原子又はメチル基を表す。R
5は直鎖状又は分岐状の、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基である。]
【請求項4】
前記構造(B)のコーンアングルが180度以下である、請求項1又は請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記式(1)中、R1、R2、及びR3とリン原子との結合が、それぞれ炭素-リン結合である、請求項1又は請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記式(2)中、R5は炭素数1~16の直鎖状又は分岐状の、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基である、請求項1又は請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記式(2)中、R5は炭素数10~16の直鎖状又は分岐状の、ヘテロ原子を含まない炭化水素基、及び、炭素数1~5の直鎖状又は分岐状の、ヘテロ原子を含まない炭化水素基からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1又は請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記重合体(A)の重量平均分子量が10000~110000である、請求項1又は請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
請求項1又は請求項2に記載の潤滑油組成物を含む潤滑油用摩擦低減剤。
【請求項10】
下記式(4)で表される有機リン化合物(C)を用いて製造した、請求項1又は請求項2に記載の潤滑油組成物。
PR6R7R8 ・・・(4)
[式(4)中、Pはリン原子を表す。R6、R7、R8は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン含有官能基化した重合体を含む潤滑油組成物及び潤滑油用摩擦低減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油には、軸受油、タービン油、油圧作動油、エンジン油、ギヤー油、自動変速機油(ATF)、難燃性作動液、冷凍基油、コンプレッサー油、金属加工油、塑性加工油、グリース等、多くの種類が存在し、機器部品間の摺動面における摩擦摩耗を低減することで、機器の正常化及び長寿命化に貢献している。
昨今の省燃費の要求から、摩擦によるエネルギー損失を低減する機能性添加剤への需要が高まっている。
さらに、省燃費のためにトルク低減を図った低粘度化潤滑油においては、高圧条件において耐摩擦性が損なわれるという課題が浮き彫りになっており、摩擦特性の改善がますます強く求められている。
【0003】
摺動面の摩擦摩耗を防止するための潤滑油添加剤として、リン、硫黄、塩素、金属元素等を含む有機小分子である極圧剤や摩擦調整剤が使用されている。しかし、これらの元素は人体や環境へ悪影響を及ぼしたり摺動面の腐食を起こしたりする問題点があることから、使用量の削減や代替添加剤への切替えの動きが見られる。さらに、これらの極圧剤は接触面が高圧高温時に反応被膜を形成して高い耐摩耗効果を発揮する一方で、比較的低圧低温下の条件では十分な効果を示さない。
【0004】
そこで近年、比較的低温低圧時でも摩擦低減機能を示す高分子型摩擦低減剤の検討が進められている。
【0005】
特許文献1には、窒素含有官能基化あるいはリン含有官能基化した(メタ)アクリル酸エステル重合体からなる潤滑油用摩擦調整剤が記載されている。これらは耐摩擦摩耗性能を示す一方で摩擦特性の改良には至っておらず、摩擦低減の達成は容易でないことが推論される。
【0006】
特許文献2では、リン酸塩官能基化された(メタ)アクリル酸エステル重合体を有する潤滑剤組成物が、摩耗防止性と摩擦挙動を共に向上させることが示されている。しかしながら、リン酸塩官能基化された(メタ)アクリル酸エステルを単量体として用いるため、重合体中及び潤滑油組成物中のリン含有量が多くなるという問題がある。リン含有量が多いと潤滑油が環境に漏洩した際に生じる負荷が大きくなるため、好ましくない。
さらに、リン酸由来の官能基は潤滑油中で変性劣化しやすいという懸念点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-2747号公報
【特許文献2】特表2014-518925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、摩擦低減効果に優れ、リン含有量の少ない潤滑油組成物及び潤滑油用摩擦低減剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、重合体の末端にリン原子を付与した重合体を潤滑油用摩擦低減剤、及び潤滑油組成物に用いることで、顕著な摩擦低減効果が得られることを見出した。
【0010】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]エチレン性不飽和化合物由来の構成単位を含む重合体(A)を含有する潤滑油組成物であって、前記重合体(A)は下記式(1)で表される構造(B)を重合体末端に含み、前記重合体(A)の重量平均分子量が3000~350000である、潤滑油組成物。
【0011】
【0012】
[式(1)中、Pはリン原子を表す。R1、R2、及びR3は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基である。*は、重合体(A)内の他原子との結合箇所を示す。]
[2]エチレン性不飽和化合物由来の構成単位を含む重合体(A)を含有する潤滑油組成物であって、前記重合体(A)は下記式(1)で表される構造(B)を重合体末端に含み、前記重合体(A)のリン含有量が80~10000ppmである、潤滑油組成物。
【0013】
【0014】
[式(1)中、Pはリン原子を表す。R1、R2、及びR3は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基である。*は、重合体(A)内の他原子との結合箇所を示す。]
[3]前記エチレン性不飽和化合物由来の構成単位が、下記式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構成単位である、[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
【0015】
【0016】
[式(2)中、R4は水素原子又はメチル基を表す。R5は直鎖状又は分岐状の、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基である。]
[4]前記構造(B)のコーンアングルが180度以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[5]前記式(1)中、R1、R2、及びR3とリン原子との結合が、それぞれ炭素-リン結合である、[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[6]前記式(2)中、R5は炭素数1~16の直鎖状又は分岐状の、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基である、[1]~[5]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[7]前記式(2)中、R5は炭素数10~16の直鎖状又は分岐状の、ヘテロ原子を含まない炭化水素基、及び、炭素数1~5の直鎖状又は分岐状の、ヘテロ原子を含まない炭化水素基からなる群より選ばれる少なくとも1つである、[1]~[6]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[8]前記重合体(A)の重量平均分子量が10000~110000である、[1]~[7]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の潤滑油組成物を含む潤滑油用摩擦低減剤。
[10]下記式(4)で表される有機リン化合物(C)を用いて製造した、[1]~[8]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
PR6R7R8 ・・・(4)
[式(4)中、Pはリン原子を表す。R6、R7、R8は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を示す。]
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、摩擦低減効果に優れ、リン含有量の少ない潤滑油組成物及び潤滑油用摩擦低減剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0019】
「エチレン性不飽和化合物」は、分子内に1つ以上の二重結合を含有する重合性分子を意味する。
「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」から選ばれる少なくとも1種を意味する。
「単量体」は未重合の化合物を意味し、「構成単位」は単量体が重合することによって形成された前記単量体に由来する単位を意味する。「構成単位」は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、重合体を処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
「質量%」は質量百分率、すなわち全体量100質量%中に含まれる特定の成分の含有質量を示し、「質量ppm」は質量百万分率、すなわち全体量1000000質量ppm中に含まれる特定の成分の含有質量を示す。なお、本明細書において「ppm」と示した場合、「質量ppm」を意味するものとする。また「モル%」は、全体量100モル%中に含まれる特定の成分の物質量を示す。
特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0020】
<組成物>
「組成物」とは重合体(A)、重合体(A)の製造に用いた溶媒、触媒等の残留物、基油、及び他の添加剤等を任意に含む物を意味する。なお、重合体(A)を含有する組成物とは、少なくとも重合体(A)を含み、その他成分は任意で含まれることを意味する。
【0021】
<リン含有量>
「リン含有量」とは、重合体(A)全体質量におけるリン原子の含有質量を意味する。
【0022】
<リン含有官能基>
重合体(A)は下記式(1)で表されるリン含有官能基(以下、構造(B)ともいう。)を重合体末端に含む。
【0023】
【0024】
[式(1)中、Pはリン原子を表す。R1、R2、及びR3は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基である。*は、重合体(A)内の他原子との結合箇所を示す。]
【0025】
本発明の潤滑油組成物及び潤滑油用摩擦低減剤に用いる重合体(A)は、開始剤として後述の有機リン化合物(C)を用いて製造することにより、有機リン化合物(C)由来の構造を末端に結合させることができる。すなわち、任意の有機リン化合物(C)を使用することにより、任意の重合体末端構造(B)を有する重合体(A)を製造することができる。本発明では、このような方法で重合体(A)の末端にリン含有官能基を付加することを、「リン含有官能基化」と呼ぶ。
【0026】
R1、R2、及びR3とリン原子との結合は、それぞれ炭素-リン結合であることが好ましい。
R1、R2、及びR3において、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、n-ブチルフェニル基、イソブチルフェニル基、t-ブチルフェニル基などの芳香族炭化水素基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、n-プロポキシフェニル基、イソプロポキシフェニル基などのアルコキシ基含有アリール基、フェノキシ基、メチルフェノキシ基などのアリーロキシ基、テトラヒドロフリル基、フリル基、ジオキソリニル基などの含酸素複素環式化合物含有基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基などのジアルキルアミノ基含有アリール基、ジフェニルアミノフェニル基などのジアリールアミノ基含有アリール基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピペリジル基、ピリジル基、ピラジニル基、ピペラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアゾリル基などの含窒素複素環式化合物含有基、チアニル基、チオピラニウム基、チオニル基などの含硫黄複素環式化合物含有基、クロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基などの塩素化アリール基、フルオロフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基などのフッ素化アリール基などが挙げられる。なお、上記例示において、環式化合物上の置換基の数を特に指定しない場合、任意の数の置換基を含んでいても良く、置換基は1つ又は複数の位置に存在して良い。
【0027】
<重合体末端>
「重合体末端」は、単量体が重合するにつれて分子が伸長する方向、すなわち主鎖における一番端の部分を意味する。本明細書において「重合体末端」は、1つの重合体に存在する少なくとも1つの末端部分を意味する。1つの重合体に存在する複数の重合体末端は、同一の構造を有することもできるし、それぞれ独立に別の構造を有することもできる。
例えば、下記式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルを単量体とし、重合体末端構造(B)を有する重合体(A)は、下記式(3)のように表される。
【0028】
【0029】
[式(2)中、R4は水素原子又はメチル基を表す。R5は直鎖状又は分岐状の、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基である。]
【0030】
【0031】
[式(3)中、Pはリン原子を表す。R1、R2、及びR3は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基である。R4は水素原子又はメチル基を表す。R5は直鎖状又は分岐状の、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基である。複数のR4はそれぞれ同一でも異なっていても良い。複数のR5はそれぞれ同一でも異なっていても良い。*は、重合体(A)内の他原子との結合箇所を示す。]
重合体末端の位置は特に制限されるものでなく、例えば開始末端や停止末端等が挙げられる。
【0032】
R5において直鎖状又は分岐状の、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基としては、炭素数1~22のアルキル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、2-メトキシエチル基、ジメチルアミノエチル基、シアノエチル基等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらのうち、炭素数1~16のアルキル基が好ましく、炭素数1~5のアルキル基又は炭素数10~16のアルキル基がさらに好ましい。
【0033】
<エチレン性不飽和化合物>
本発明におけるエチレン性不飽和化合物の具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、イソプレン、テルペンスチレン、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
これらのエチレン性不飽和化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
<(メタ)アクリル酸エステル>
上記エチレン性不飽和化合物の具体例の一つとして上述の式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、これは、ヘテロ原子を含んでよい、脂肪族、脂環族、芳香族、芳香脂肪族、複素環族、及びこれらの各種のアルコール、又はヒドロキシ化合物由来の官能基を側鎖エステル部分に有する(メタ)アクリル酸エステルである。
【0035】
具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ドコシル、(メタ)アクリル酸ビニル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸シアノエチル等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
これらの(メタ)アクリル酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明の重合体(A)における(メタ)アクリル酸エステル単量体の種類として、側鎖エステル部分の炭素数が1~16である(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、側鎖エステル部分が炭素数1~16の炭化水素である(メタ)アクリル酸エステルがより好ましく、側鎖エステル部分が炭素数1~5の直鎖炭化水素である(メタ)アクリル酸エステル、又は側鎖エステル部分が炭素数10~16の直鎖炭化水素である(メタ)アクリル酸エステルがさらに好ましい。
【0037】
2種以上の単量体を併用する場合、重合体(A)はランダム重合体でもブロック重合体でも良い。リン周辺の立体障害の影響から、かさ高さの小さい単量体は重合体末端構造(B)付近に位置する方が好ましい。特に、単量体が(メタ)アクリル酸エステルの場合、エステル基の炭素数の少ない単量体が重合体末端構造(B)付近に位置する方が好ましい。
【0038】
<重量平均分子量(Mw)・分子量分布(Mw/Mn)>
(メタ)アクリル酸エステル重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による単分散ポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算値として求めることができ、具体的な測定方法は後述の実施例に示す通りである。
【0039】
重合体あたりの末端リン原子数が増えることから、分子量が小さいほど摩擦低減効果は良好である。また、分子量が増加すると粘度も増加するため、潤滑油の低粘度化の観点からも好適である。
一方で、分子鎖が短すぎると十分な厚さの油膜が得られないため、(メタ)アクリル酸エステル重合体の重量平均分子量の範囲は3000~350000が好ましく、5000~260000がより好ましく、10000~110000がさらに好ましく、20000~100000が最も好ましい。
【0040】
<リンの検出>
リンの含有量は、ICP発光分光分析法などによって測定することができる。
また、本発明の重合体(A)は、重合体末端にリン原子を有するものであり、末端のリン原子の存在は、31P-NMR測定によって確認することができる。
【0041】
<リン含有量>
重合体(A)あたりのリン含有量は、リンの原子量を重合体(A)の重量平均分子量で割ることで算出できる。
【0042】
前述のように好ましい重合体(A)の分子量の範囲から、リン含有量は80~10000ppmが好ましく、110~1500ppmがより好ましく、300~750ppmがさらに好ましい。
【0043】
<コーンアングル>
重合体末端構造(B)及び後述の有機リン化合物(C)におけるコーンアングル、すなわちリン原子周辺の配位子円錐角は、「Chemical Reviews、1977、77、313」に記載の値及び計算式に準じて規定する。
【0044】
リン周辺の立体障害の影響から、重合体末端構造(B)のコーンアングルが小さいほど摩擦低減効果は良好になる。好ましいコーンアングルの範囲は180度以下、より好ましくは170度以下である。
【0045】
本発明における潤滑油組成物の基油としては、通常の潤滑油に使用される基油を使用することができる。基油の種類は特に制限されるものではなく、例えば、鉱物油、高度精製基油、合成油、化学合成油等が挙げられる。上記基油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、API(American Petroleum Institute;米国石油協会)の定める基油カテゴリー、すなわちグループ1、グループ2、グループ3、グループ4に制限なく使用することができる。
【0046】
本発明の潤滑油組成物における上記基油の含有量は、特に制限されず使用することができる。
【0047】
本発明の潤滑油組成物において重合体(A)の含有量は特に制限されないが、潤滑油組成物の全量基準で0.1~50質量%、好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは0.5~20質量%である。
【0048】
本発明の潤滑油組成物は潤滑油用摩擦低減剤として好適に使用できる。
本発明の潤滑油組成物の使用用途は特に制限されるものではなく、例えば軸受油、タービン油、油圧作動油、エンジン油、ギヤー油、自動変速機油(ATF)、難燃性作動液、冷凍基油、コンプレッサー油、金属加工油、塑性加工油、グリース等の用途に使用できる。
【0049】
本発明の潤滑油組成物は、単独で用いてもよいし、他の添加剤及び他の添加剤を含む潤滑油添加剤と併用してもよい。他の添加剤は特に制限されるものではなく、例えば、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、油性剤、摩耗防止剤、極圧剤、防錆剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、乳化剤、抗乳化剤、かび防止剤、固体潤滑剤等と併用できる。
【0050】
[メタクリル酸エステル重合体の製造方法]
本発明における重合体(A)は、以下に示す有機リン化合物(C)と有機アルミニウム化合物(D)とを含む重合触媒(以下、「本発明の重合触媒」と称す場合がある。)の存在下でエチレン性不飽和化合物を重合することにより得られる。なお、本発明の重合触媒には、有機アルミニウム化合物(D)の他、有機ホウ素化合物やケイ素カチオンや無機塩類などを用いることもできる。
【0051】
以下、本発明の重合触媒を用いる本発明の重合体(A)の製造方法について説明するが、本発明の重合体(A)の製造方法は、本発明の重合体(A)を製造することができる方法であればよく、何ら以下の方法に限定されない。
【0052】
[1]重合触媒
<有機リン化合物(C)>
本発明の重合触媒の構成成分の一つであり、重合開始剤である有機リン化合物(C)は、下記式(4)で表される。
PR6R7R8 ・・・(4)
[式(4)中、Pはリン原子を表す。R6、R7、R8は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を示す。R6、R7、R8は、全て異なっていても良く、全て同じでも良く、R6、R7、R8のうち2つが同じで1つが異なっていても良い。]
【0053】
R6、R7、及びR8において、ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子、フッ素原子が挙げられる。これらのヘテロ原子のうち、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、塩素原子、フッ素原子が好ましい。さらに、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、フッ素原子がより好ましい。また、これらのヘテロ原子を含むヘテロ原子含有基としては、酸素原子含有基として、アルコキシアリール基、アリールオキシ基、含酸素複素環式化合物含有基が挙げられ、窒素原子含有基としては、ジアルキルアミノアリール基、ジアリールアミノアリール基、含窒素複素環式化合物含有基が挙げられ、硫黄原子含有基としては、含硫黄複素環式化合物含有基が挙げられ、ケイ素原子含有基としては、トリアルキルシリルアリール基、ジアルキルアリールシリルアリール基、アルキルジアリールシリルアリール基が挙げられ、塩素原子含有基としては、塩素化アリール基が挙げられ、フッ素原子含有基としては、フッ素化アリール基が挙げられる。
【0054】
R6、R7、及びR8は、2以上の同種のヘテロ原子、又は2以上の異種のヘテロ原子を含むことができる。
【0055】
R6、R7、及びR8の具体的な例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などの炭化水素基(アルキル基)、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、n-ブチルフェニル基、イソブチルフェニル基、t-ブチルフェニル基などの芳香族炭化水素基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、n-プロポキシフェニル基、イソプロポキシフェニル基などのアルコキシ基含有アリール基、フェノキシ基、メチルフェノキシ基などのアリーロキシ基、テトラヒドロフリル基、フリル基、ジオキソリニル基などの含酸素複素環式化合物含有基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基などのジアルキルアミノ基含有アリール基、ジフェニルアミノフェニル基などのジアリールアミノ基含有アリール基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピペリジル基、ピリジル基、ピラジニル基、ピペラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアゾリル基などの含窒素複素環式化合物含有基、チアニル基、チオピラニウム基、チオニル基などの含硫黄複素環式化合物含有基、クロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基などの塩素化アリール基、フルオロフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基などのフッ素化アリール基などが挙げられる。なお、上記例示において、環式化合物上の置換基の数を特に指定しない場合、任意の数の置換基を含んでいても良く、置換基は1つ又は複数の位置に存在して良い。
【0056】
このうち、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基などの炭化水素基、フェニル基、メチルフェニル基、t-ブチルフェニル基などの芳香族炭化水素基、メトキシフェニル基などのアルコキシ基含有アリール基、フェノキシ基、メチルフェノキシ基などのアリーロキシ基、フリル基などの含酸素複素環式化合物含有基、イミダゾリル基、ピリジニル基などの含窒素複素環式化合物含有基、チアニル基、チオニル基などの含硫黄複素環式化合物含有基、クロロフェニル基などの塩素化アリール基、フルオロフェニル基などのフッ素化アリール基が好ましい。これらのなかで、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基などの炭化水素基、フェニル基、メチルフェニル基などの芳香族炭化水素基、フェノキシ基、メチルフェノキシ基などのアリーロキシ基、フリル基などの含酸素複素環式化合物含有基、イミダゾリル基、ピリジニル基などの含窒素複素環式化合物含有基、チアニル基、チオニル基などの含硫黄複素環式化合物含有基、フルオロフェニル基などのフッ素化アリール基がさらに好ましい。
【0057】
有機リン化合物(C)の具体的な例としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリn-プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリn-ブチルホスフィン、トリイソブチルホスフィン、トリn-ブチルホスフィン、トリn-ペンチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリn-ヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、n-プロピルジフェニルホスフィン、イソプロピルジフェニルホスフィン、n-ブチルジフェニルホスフィン、イソブチルジフェニルホスフィン、t-ブチルジフェニルホスフィン、n-ペンチルジフェニルホスフィン、シクロプロピルジフェニルホスフィン、n-ヘキシルジフェニルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、ジ(n-プロピル)フェニルホスフィン、ジイソプロピルフェニルホスフィン、ジ(n-ブチル)フェニルホスフィン、ジイソブチルフェニルホスフィン、ジ(t-ブチル)フェニルホスフィン、ジ(n-ペンチル)フェニルホスフィン、ジシクロプロピルフェニルホスフィン、ジ(n-ヘキシル)フェニルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリ(1-テトラヒドロフリル)ホスフィン、トリ(2-テトラヒドロフリル)ホスフィン、トリ(3-テトラヒドロフリル)ホスフィン、トリ(1-フリル)ホスフィン、トリ(2-フリル)ホスフィン、トリ(3-フリル)ホスフィン、トリ(1-ピロリル)ホスフィン、トリ(2-ピロリル)ホスフィン、トリ(3-ピロリル)ホスフィン、トリ(1-イミダゾリル)ホスフィン、トリ(2-イミダゾリル)ホスフィン、トリ(3-イミダゾリル)ホスフィン、トリ(4-イミダゾリル)ホスフィン、トリ(5-イミダゾリル)ホスフィン、トリ(1-ピペリジル)ホスフィン、トリ(2-ピペリジル)ホスフィン、トリ(3-ピペリジル)ホスフィン、トリ(4-ピペリジル)ホスフィン、トリ(1-ピリジル)ホスフィン、トリ(2-ピリジル)ホスフィン、トリ(3-ピリジル)ホスフィン、トリ(4-ピリジル)ホスフィン、トリ(1-ピラジニル)ホスフィン、トリ(2-ピラジニル)ホスフィン、トリ(1-ピペラジニル)ホスフィン、トリ(2-ピペラジニル)ホスフィン、トリ(1-ピリミジニル)ホスフィン、トリ(2-ピリミジニル)ホスフィン、トリ(4-ピリミジニル)ホスフィン、トリ(1-ピリダジニル)ホスフィン、トリ(3-ピリダジニル)ホスフィン、トリ(4-ピリダジニル)ホスフィン、トリアゾリルホスフィン、トリ(1-チアニル)ホスフィン、トリ(2-チアニル)ホスフィン、トリ(3-チアニル)ホスフィン、トリ(4-チアニル)ホスフィン、トリチオピラニウムホスフィン、トリ(1-チエニル)ホスフィン、トリ(2-チエニル)ホスフィン、トリ(3-チエニル)ホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-t-ブチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(4-フルオロフェニル)ホスフィン、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリ(n-プロピル)、亜リン酸トリイソプロピル、亜リン酸トリ(n-ブチル)、亜リン酸トリイソブチル、亜リン酸トリ(t-ブチル)、亜リン酸トリ(n-ペンチル)、亜リン酸トリシクロペンチル、亜リン酸トリ(n-ヘキシル)、亜リン酸トリシクロヘキシル、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリクレジルが挙げられる。
【0058】
これらのうち、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリn-プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリn-ブチルホスフィン、トリイソブチルホスフィン、トリn-ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、n-プロピルジフェニルホスフィン、イソプロピルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、ジ(n-プロピル)フェニルホスフィン、ジイソプロピルフェニルホスフィン、トリ(1-テトラヒドロフリル)ホスフィン、トリ(2-テトラヒドロフリル)ホスフィン、トリ(3-テトラヒドロフリル)ホスフィン、トリ(1-フリル)ホスフィン、トリ(2-フリル)ホスフィン、トリ(3-フリル)ホスフィン、トリ(1-イミダゾリル)ホスフィン、トリ(2-イミダゾリル)ホスフィン、トリ(3-イミダゾリル)ホスフィン、トリ(4-イミダゾリル)ホスフィン、トリ(5-イミダゾリル)ホスフィン、トリ(1-ピペリジル)ホスフィン、トリ(2-ピペリジル)ホスフィン、トリ(3-ピペリジル)ホスフィン、トリ(4-ピペリジル)ホスフィン、トリ(1-チエニル)ホスフィン、トリ(2-チエニル)ホスフィン、トリ(3-チエニル)ホスフィン、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリ(n-プロピル)、亜リン酸トリイソプロピル、亜リン酸トリ(n-ブチル)、亜リン酸トリイソブチル、亜リン酸トリ(t-ブチル)が好ましく、さらにトリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィンがより好ましい。
【0059】
これらの有機リン化合物(C)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0060】
開始剤として前述の有機リン化合物(C)を用いることにより、カチオン化した有機リン化合物(C)由来の構造を重合体(A)の末端に結合させることができる。すなわち、すなわち、重合体末端構造(B)は、有機リン化合物(C)に由来する。
【0061】
<有機アルミニウム化合物(D)>
本発明の重合触媒の構成成分の一つである有機アルミニウム化合物(D)は、下記式(5)で表される。
R9Al(OAr1)(OAr2) ・・・(5)
[式(5)中、Alはアルミニウム原子、Oは酸素原子を表す。R9は炭素数1~10の炭化水素基を表す。Ar1、Ar2は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基である。]
【0062】
本発明において、式(5)中、R9は、炭素数1~10の炭化水素基を表す。R9は新たな単量体に立体的相互作用を及ぼし、重合活性に大きく影響すると考えられている。したがって、R9が過度に多いと、単量体の侵入が阻害される傾向がある。このため、好ましいR9としては、炭素数1~8であり、より好ましい炭素数は1~6である。
【0063】
R9の具体的な例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等のアルキル基を挙げることができる。このうち、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基が好ましく、さらにメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基が好ましい。
【0064】
式(5)中、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基を表す。
Ar1及びAr2は、Alの近傍にあって、立体的及び/又は電子的にAlに相互作用を及ぼす。こうした効果を及ぼすためには、Ar1及びAr2は、かさ高い置換基を含有することが好ましい。かさ高い置換基は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数3~6の炭化水素基又はヘテロ原子を含有してもよい炭素数6~7の芳香族炭化水素基である。
【0065】
ヘテロ原子含有基中に含まれるヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子、ケイ素原子、塩素原子、フッ素原子が挙げられる。これらのヘテロ原子のうち、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子が好ましい。また、これらのヘテロ原子を含むヘテロ原子含有基としては、酸素原子含有基として、アルコキシ基、アリーロキシ基が挙げられ、窒素原子含有基としては、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基が挙げられ、リン原子含有置換基としては、ジアルキルホスフィノ基、ジアリールホスフィノ基が挙げられ、硫黄原子含有基としては、チオアルコキシ基(アルキルチオ基)やチオアリーロキシ基(アリールチオ基)が挙げられ、ケイ素原子含有基としては、トリアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、アルキルジアリールシリル基が挙げられる。これらのヘテロ原子含有基のうち、最も好ましいのは、アルコキシ基、アリーロキシ基、トリアルキルシリル基である。
【0066】
かさ高い置換基の具体的な例としては、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル(t-ブチル)基、ネオペンチル基、シクロヘキシル基などの分岐又は環状炭化水素基(アルキル基)、フェニル基などの芳香族炭化水素基、イソプロポキシ基、イソブチロキシ基、t-ブトキシ基、ネオペンチロキシ基、シクロヘキシロキシ基などの分岐又は環状アルコキシ基、フェノキシ基などのアリーロキシ基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基などのトリアルキルシリル基などが挙げられる。
【0067】
かさ高い置換基を含有する芳香族炭化水素基の母核の具体的な例としては、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基が挙げられる(ただし、Al-O-Ar(アリール)結合の付け根の炭素位置を1としている)。これらのうち、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基が好ましい。
【0068】
かさ高い置換基が、芳香族炭化水素基の母核のどこについても問題はないが、Alに立体的及び/又は電子的に相互作用を及ぼす位置が好ましい。
【0069】
具体的な位置は、2位、6位、2位及び6位、2位及び4位及び6位が挙げられる。それらのうち、2位及び6位、2位及び4位及び6位が好ましい。
【0070】
Ar1及びAr2の具体的な例としては、2,6-ジイソプロピルフェニル基、2,6-ジイソプロピル-4-メチルフェニル基、2,6-ジイソプロピル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジイソブチルフェニル基、2,6-ジイソブチル-4-メチルフェニル基、2,6-ジイソブチル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジ-t-ブチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジネオペンチルフェニル基、2,6-ジネオペンチル-4-メチルフェニル基、2,6-ジネオペンチル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジシクロヘキシルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジフェニルフェニル基、2,6-ジフェニル-4-メチルフェニル基、2,6-ジフェニル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジイソプロポキシフェニル基、2,6-ジイソプロポキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジイソプロポキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ジイソブトキシフェニル基、2,6-ジイソブトキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジイソブトキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ジ-t-ブトキシフェニル基、2,6-ジ-t-ブトキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブトキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ジネオペンチロキシフェニル基、2,6-ジネオペンチロキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジネオペンチロキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ジシクロヘキシロキシフェニル基、2,6-ジシクロヘキシロキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシロキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ジフェノキシフェニル基、2,6-ジフェノキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジフェノキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)フェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)フェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェニル基、2,4,6-トリイソプロピルフェニル基、2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル基が挙げられる。
【0071】
これらのうち、2,6-ジイソプロピルフェニル基、2,6-ジイソプロピル-4-メチルフェニル基、2,6-ジイソプロピル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジ-t-ブチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジネオペンチルフェニル基、2,6-ジネオペンチル-4-メチルフェニル基、2,6-ジネオペンチル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジシクロヘキシルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジフェニルフェニル基、2,6-ジフェニル-4-メチルフェニル基、2,6-ジフェニル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジイソプロポキシフェニル基、2,6-ジイソプロポキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジイソプロポキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ジシクロヘキシロキシフェニル基、2,6-ジシクロヘキシロキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシロキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ジフェノキシフェニル基、2,6-ジフェノキシ-4-メチルフェニル基、2,6-ジフェノキシ-4-メトキシフェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)フェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)フェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェニル基、2,4,6-トリイソプロピルフェニル基、2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル基が好ましい。
【0072】
これらのうち、2,6-ジ-t-ブチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジシクロヘキシルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェニル基、2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェニル基、2,6-ジフェニルフェニル基、2,6-ジフェニル-4-メチルフェニル基、2,6-ジフェニル-4-メトキシフェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)フェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェニル基、2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)フェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェニル基、2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェニル基、2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル基がさらに好ましい。
【0073】
有機アルミニウム化合物(D)の具体的な例としては、メチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシルフェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニルフェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メチルフェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メトキシフェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)フェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)フェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、メチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メトキシフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)フェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)フェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジフェニルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メチルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メトキシフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)フェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)フェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、n-プロピルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)フェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)フェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)が挙げられる。
【0074】
これらのうち、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジシクロヘキシル-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジフェニル-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)フェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリメチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)フェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ビス(トリエチルシリル)-4-メトキシフェノキシド)が好ましい。
【0075】
これらの有機アルミニウム化合物(D)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0076】
[成分割合及び使用量]
本発明の重合触媒の構成成分の割合は、特に限定しないが、有機リン化合物(C)と有機アルミニウム化合物(D)は、(有機リン化合物(C)):(有機アルミニウム化合物(D))=1:100~100:1(モル比)、好ましくは1:10~10:1、より好ましくは1:5~5:1の範囲で用いることができる。
【0077】
本発明の重合触媒は、有機リン化合物(C)と有機アルミニウム化合物(D)とを上記の割合で、トルエンやベンゼン等の有機溶媒中、あるいは鉱物油、高度精製基油、合成油、化学合成油等の基油中で、減圧~加圧下で1~86,400秒間接触させることにより得ることができるが、有機リン化合物(C)と有機アルミニウム化合物(D)とを接触させる前に原料単量体であるエチレン性不飽和化合物の一部又は全部を添加してもよいし、その添加形態には特に制限はない。
即ち、上述のようにして得られた重合触媒にエチレン性不飽和化合物を添加して重合を開始してもよいし、エチレン性不飽和化合物に得られた重合触媒を添加してもよい。
また、有機リン化合物(C)と有機アルミニウム化合物(D)とを接触させる前にエチレン性不飽和化合物を混合してもよい。例えば、有機アルミニウム化合物(D)とエチレン性不飽和化合物との混合液に、有機リン化合物(C)を添加して重合を開始してもよいし、有機リン化合物(C)とエチレン性不飽和化合物との混合液に、有機アルミニウム化合物(D)を添加して重合を開始してもよい。これらの成分の添加は一度に入れてもよいし、ある一定の周期で間欠的に添加してもよいし、連続的に添加してもよい。
なお、有機リン化合物(C)と有機アルミニウム化合物(D)との接触後、重合触媒以外に(C)、(D)由来の他の成分や用いた溶媒成分が共存するが、本発明の重合反応を行う際に、これらの他の成分は、除去してもよいし、除去しなくてもよい。
【0078】
本発明の重合触媒の使用量については特に制限はなく、重合方式や目的とする重合体(A)の分子量によっても異なるが、摩擦低減特性に優れる比較的低分子量の重合体(A)を得るという観点から、エチレン性不飽和化合物合計100モル%に対して0.01~10モル%、特に0.1~5モル%であることが好ましい。このなかでも特に、0.1~2モル%が好適である。
【0079】
[2]重合方法
重合方法は、特に制限されるものではなく、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等が挙げられる。これらの重合方法の中でも、重合転化率が上がりやすく、重合発熱が発生した場合でも重合反応系内の温度制御が容易でありエチレン性不飽和化合物の製造安定性に優れる観点から、塊状重合法もしくは溶液重合法が好適である。
【0080】
溶液重合法の重合溶媒としては、触媒を失活させたり、単量体と反応してそれを変質させたりするものでなければ特に限定されず、例えば、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、ベンゼン、エチルベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロベンゼン等の有機溶媒もしくは鉱物油、高度精製基油、合成油、化学合成油等の基油が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒の中でも、溶解性、反応性、分離性に優れることから、ヘキサン、トルエン、キシレン、ベンゼン、エチルベンゼン、クロロホルム、鉱物油、高度精製基油、合成油、化学合成油が好ましい。
【0081】
重合温度の下限は、特に制限されるものではない。一般に、重合転化率を上げる観点から0℃以上が好ましい。一方、重合温度の上限は、特に制限されるものではなく、単量体又は使用する溶媒の沸点以上の温度とすることもできる。重合温度が高くなると、触媒が失活して重合転化率が下がる傾向があることから120℃以下が好ましい。110℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。
本発明の重合体(A)を得るための重合温度としては、分子量制御の観点から、-20~100℃が好ましく、-10~80℃がより好ましく、0~60℃が特に好ましい。
【0082】
重合方式はバッチ式及び連続式のいずれも採用できるが、例えば、単量体成分及び重合触媒等を反応容器の中に連続的に供給しながら、反応容器内に所定時間滞留させて得られる部分重合体を連続的に抜き出す方法により、高い生産性で重合体を得ることができる。
【0083】
前述の通り、有機リン化合物(C)と有機アルミニウム化合物(D)との接触で得られた重合触媒にエチレン性不飽和化合物を添加して重合を開始してもよいし、エチレン性不飽和化合物に得られた重合触媒を添加してもよい。また、この接触前にエチレン性不飽和化合物を混合してもよい。すなわち、有機アルミニウム化合物(D)とエチレン性不飽和化合物との混合液に、有機リン化合物(C)を添加して重合を開始してもよいし、有機リン化合物(C)とエチレン性不飽和化合物との混合液に、有機アルミニウム化合物(D)を添加して重合を開始してもよい。添加は一度に行ってもよいし、ある一定の周期で添加してもよい。
【0084】
反応後は、公知の揮発性成分除去装置を用いて、部分重合体中の揮発性成分を脱揮し、重合体(A)を得ることができる。揮発性成分除去装置は、脱揮効率に優れることから、単軸押出機、二軸押出機等の脱揮押出機が好ましい。揮発性成分を脱揮する時の、脱揮温度や減圧度は、当業者であれば、周知技術に基づいて適宜設定することができる。
【0085】
あるいは、重合反応物の揮発性成分を脱揮する操作などを行わず、重合反応物をそのまま潤滑油組成物として用いてもよい。
【実施例0086】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0087】
[測定・評価方法]
<質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)>
過塩素酸ナトリウム1水和物14gを特級テトラヒドロフラン(THF)1Lに溶解させることで溶離液を調製した。重合体(約4mg)をガラスバイアルに採取した後、溶離液を2mL加えて一晩静置することで、濃度約0.2質量%の試料溶液を調製した。
得られた試料溶液を0.45μm前処理フィルター(GLサイエンス社製「クロマトディスク13N」)にて濾過したものをGPC測定に供した。
カラムとしてポリマー・ラボラトリー社製「PLgel 10μ Mixed-B(7.5×300mm、10μm)」2本及びRI検出器を装着した島津製作所製「LC-10A」を使用してGPC測定を行った。
測定条件は、次のとおりとした。
試料注入量:100μL
カラム温度:40℃
溶出溶媒:0.1M過塩素酸ナトリウム特級THF溶液
送液流量:1mL/min
換算平均分子量の算出は以下のように行った。すなわち、標準試料として市販の単分散PMMAであるポリマー・ラボラトリー社製「Polymethyl Methacrylate Standard」を使用し、PMMA標準試料の保持時間と分子量に関する較正曲線を作成した後、較正曲線に基づいて質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
【0088】
[摩擦試験]
後述の実施例及び比較例で得られた重合体を2質量%含有するYUBASE4溶液を調製し、SRV5試験機(OptimolInstrumentsPruftechnikGmbH社製)を用いて、40℃における摩擦係数を測定した。測定条件は以下の通りとし、測定開始60分後の摩擦係数を評価した。
・試験方法:ボールオンディスク(ボールの直径:10mm、ボールとディスクの材質:SUJ2)
・試験モード:往復(50Hz、ストローク1mm)
・荷重:200N
【0089】
[原材料]
実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
MMA:メタクリル酸メチル
BMA:メタクリル酸ブチル
LMA:メタクリル酸ドデシル
LA:アクリル酸ドデシル
PMePh2:メチルジフェニルホスフィン
PMe2Ph:ジメチルフェニルホスフィン
PPh3:トリフェニルホスフィン
PCy3:トリシクロヘキシルホスフィン
YUBASE4:グループIII潤滑油基油に分類される、飽和炭化水素の工業用流動パラフィン超高度水素化精製基油(SKルブリカンツ社製)
iBuAl(BHT)2:イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)
iBuAl(BHT)2は、「J.App.Poly.Sci.2016、133、43276」に記載の方法に準じて、下記の製造例の通り合成した。
【0090】
[製造例:iBuAl(BHT)2の合成]
2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(7.58g、0.034mol)のトルエン溶液(8.0mL)に、トリイソブチルアルミニウム(2.90g、0.017mol)のトルエン溶液(11.5mL)を25℃、30分間で滴下した。その混合物を同温度で1時間撹拌することで、iBuAl(BHT)2を合成した。
【0091】
[実施例1]
50mLのシュレンクフラスコの内部を脱気し、精製窒素で置換した後、LAを5.7mL、脱水トルエン11.5mLを加えた。精製窒素雰囲気下において、溶液をメカニカルスターラーで撹拌しながら0℃にした。PMe2Phの0.1mol/Lトルエン溶液を1.0mL(単量体100モル%に対してPMe2Phを0.48モル%)、iBuAl(BHT)2の0.1mol/Lトルエン溶液を1.0mL加え、溶液を120分撹拌した。その後、反応停止剤としてメタノール3mLを加えた。ヘキサンを良溶媒、メタノールを貧溶媒とした再沈殿法による精製を行い、得られた重合体は減圧下で乾燥させた。
【0092】
[実施例2]
50mLのシュレンクフラスコの内部を脱気し、精製窒素で置換した後、LAを5.7mL、脱水トルエン11.5mLを加えた。精製窒素雰囲気下において、溶液をメカニカルスターラーで撹拌しながら0℃にした。PMePh2の0.1mol/Lトルエン溶液を1.0mL(単量体100モル%に対してPMePh2を0.48モル%)、iBuAl(BHT)2の0.1mol/Lトルエン溶液を1.0mL加え、溶液を120分撹拌した。その後、反応停止剤としてメタノール3mLを加えた。ヘキサンを良溶媒、メタノールを貧溶媒とした再沈殿法による精製を行い、得られた重合体は減圧下で乾燥させた。
【0093】
[実施例3]
50mLのシュレンクフラスコの内部を脱気し、精製窒素で置換した後、LAを5.7mL、精製窒素を用いて脱気したYUBASE4を7.9mL加えた。精製窒素雰囲気下において、溶液をメカニカルスターラーで撹拌しながら20℃にした。PCy3の0.1mol/Lトルエン溶液を1.7mL(単量体100モル%に対してPCy3を0.80モル%)、iBuAl(BHT)2の0.1mol/Lトルエン溶液を4.2mL加え、溶液を120分撹拌した。その後、反応停止剤としてメタノール3mLを加えた。ヘキサンを良溶媒、メタノールを貧溶媒とした再沈殿法による精製を行い、得られた重合体と基油の混合物は減圧下で乾燥させた。
【0094】
[実施例4]
50mLのシュレンクフラスコの内部を脱気し、精製窒素で置換した後、MMAを0.22mL、脱水トルエン2.5mLを加えた。精製窒素雰囲気下において、溶液をメカニカルスターラーで撹拌しながら20℃にした。PCy3の0.1mol/Lトルエン溶液を0.3mL(単量体100モル%に対してPCy3を0.16モル%)、iBuAl(BHT)2の0.1mol/Lトルエン溶液を0.8mL加え、溶液を120分撹拌した。続いて脱水トルエン9.8mL、LMA5.5mLを加え、さらに溶液を120分撹拌した。その後、反応停止剤としてメタノール3mLを加えた。ヘキサンを良溶媒、メタノールを貧溶媒とした再沈殿法による精製を行い、得られた重合体は減圧下で乾燥させた。
【0095】
[実施例5]
50mLのシュレンクフラスコの内部を脱気し、精製窒素で置換した後、BMAを0.7mL、脱水トルエン12.2mLを加えた。精製窒素雰囲気下において、溶液をメカニカルスターラーで撹拌しながら20℃にした。PCy3の0.1mol/Lトルエン溶液を0.4mL(単量体100モル%に対してPCy3を0.16モル%)、iBuAl(BHT)2の0.1mol/Lトルエン溶液を0.9mL加え、溶液を120分撹拌した。続いてLA5.0mLを加え、さらに溶液を120分撹拌した。その後、反応停止剤としてメタノール3mLを加えた。ヘキサンを良溶媒、メタノールを貧溶媒とした再沈殿法による精製を行い、得られた重合体は減圧下で乾燥させた。
【0096】
[実施例6]
50mLのシュレンクフラスコの内部を脱気し、精製窒素で置換した後、BMAを0.6mL、脱水トルエン12.3mLを加えた。精製窒素雰囲気下において、溶液をメカニカルスターラーで撹拌しながら20℃にした。PCy3の0.1mol/Lトルエン溶液を0.3mL(単量体100モル%に対してPCy3を0.16モル%)、iBuAl(BHT)2の0.1mol/Lトルエン溶液を0.8mL加え、溶液を120分撹拌した。続いてLMA5.2mLを加え、さらに溶液を120分撹拌した。その後、反応停止剤としてメタノール3mLを加えた。ヘキサンを良溶媒、メタノールを貧溶媒とした再沈殿法による精製を行い、得られた重合体は減圧下で乾燥させた。
【0097】
[比較例1]
50mLのシュレンクフラスコに2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を5.16mg秤量し、内部を脱気後、精製窒素で置換した。精製窒素で脱気したLA5.7mLと脱水トルエン13.5mLを加え、精製窒素雰囲気下において、溶液をメカニカルスターラーで撹拌しながら均一にした。ゆっくり昇温し、60℃の温度で360分撹拌した後、大気開放して冷却し、反応を停止させた。ヘキサンを良溶媒、メタノールを貧溶媒とした再沈殿法による精製を行い、得られた重合体は減圧下で乾燥させた。
【0098】
[比較例2]
50mLのシュレンクフラスコの内部を脱気し、精製窒素で置換した後、LAを5.7mL、精製窒素を用いて脱気したYUBASE4を12.7mL加えた。精製窒素雰囲気下において、溶液をメカニカルスターラーで撹拌しながら20℃にした。PCy3の0.1mol/Lトルエン溶液を0.3mL(単量体100モル%に対してPCy3を0.16モル%)、iBuAl(BHT)2の0.1mol/Lトルエン溶液を0.8mL加え、溶液を120分撹拌した。その後、反応停止剤としてメタノール3mLを加えた。ヘキサンを良溶媒、メタノールを貧溶媒とした再沈殿法による精製を行い、得られた重合体と基油の混合物は減圧下で乾燥させた。
【0099】
[比較例3]
50mLのシュレンクフラスコの内部を脱気し、精製窒素で置換した後、BMAを0.7mL、脱水トルエン11.3mLを加えた。精製窒素雰囲気下において、溶液をメカニカルスターラーで撹拌しながら20℃にした。PPh3の0.1mol/Lトルエン溶液を1.1mL(単量体100モル%に対してPPh3を0.48モル%)、iBuAl(BHT)2の0.1mol/Lトルエン溶液を1.1mL加え、溶液を120分撹拌した。続いて溶液の温度を0℃にし、LA5.0mLを加え、さらに120分撹拌した。その後、反応停止剤としてメタノール3mLを加えた。ヘキサンを良溶媒、メタノールを貧溶媒とした再沈殿法による精製を行い、得られた重合体は減圧下で乾燥させた。
【0100】
[比較例4]
重合体などを加えず、YUBASE4のみを用いた例である。
【0101】
実施例1~6及び比較例1~3において製造した重合体の詳細、及び実施例1~6及び比較例1~3において製造した重合体を含む潤滑油組成物の摩擦試験結果を表1に示す。
【0102】
【0103】
比較例4の結果から、基油のみからなる潤滑油では摺動面が焼き付き、非常に大きい摩耗と摩擦が生じることが確認された。
実施例1~6の結果から、重合体末端構造(B)を含む重合体(A)を含む潤滑油組成物は、重合体末端構造(B)を含まない重合体を含む潤滑油組成物の例である比較例1と比較して、良好な摩擦低減効果を得られることが確認された。また、コーンアングルが小さくなるにつれて摩擦挙動が向上した。
重合体(A)の重量平均分子量、及び、重合体(A)のリン含有量が本発明の範囲外である比較例2及び比較例3は重合体末端構造(B)を有するにも関わらず、良好な摩擦低減効果を示さなかった。