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特開2024-90545加熱炉用の処理対象物投入用柄杓、還元処理ユニット、還元処理方法、及び、ニッケル酸化鉱石の製錬方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090545
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】加熱炉用の処理対象物投入用柄杓、還元処理ユニット、還元処理方法、及び、ニッケル酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   F27D 3/12 20060101AFI20240627BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20240627BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20240627BHJP
   F27B 5/12 20060101ALI20240627BHJP
   F27B 5/13 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
F27D3/12 Z
C22B5/10
C22B23/00 102
F27B5/12
F27B5/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206519
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】丹 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】山内 逸平
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【テーマコード(参考)】
4K001
4K055
4K061
【Fターム(参考)】
4K001AA19
4K001BA02
4K001DA01
4K001GB01
4K001HA01
4K055AA06
4K055BA03
4K055BA05
4K055HA07
4K061AA01
4K061BA04
(57)【要約】
【課題】熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、処理対象物投入用柄杓を熱処理部の内部に保持したまま還元処理を行う場合に、処理対象物投入用柄杓の把持部の熱変形のリスクを低く抑えて、尚且つ、安定的に処理対象物の出し入れを行うことができるようにすること。
【解決手段】矩形状の載置面121を有する処理対象物載置部12と、棒状の把持部11と、矩形板状の一対の脚部122と、を備え、把持部11は、長手方向に直交する断面視において少なくともその一部が載置面121の裏面上に突出している態様で裏面に接続されていて、脚部122は、裏面における把持部11と平行な両側辺の全部分を起点として把持部11の突出方向に向けて延設されている、処理対象物投入用柄杓1とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉用の処理対象物投入用柄杓であって、
矩形状の載置面を有する処理対象物載置部と、
棒状の把持部と、
矩形板状の一対の脚部と、
を備え、
前記把持部は、長手方向に直交する断面視において少なくともその一部が前記載置面の裏面上に突出している態様で前記裏面に接続されていて、
前記脚部は、前記裏面における前記把持部と平行な両側辺の全部分を起点として前記把持部の前記裏面からの突出方向に向けて延設されている、
処理対象物投入用柄杓。
【請求項2】
請求項1に記載の処理対象物投入用柄杓と、還元炉と、からなる還元処理ユニットであって、
前記還元炉は、
箱型の熱処理部と、
前記熱処理部の側面に、ダンパーを介して連結されている、箱型の処理対象物貯留部と、
を備え、
前記ダンパーは、複数の板状のダンパー部材の組合せによって開閉可能に構成されていて、閉鎖時に前記処理対象物投入用柄杓の前記把持部を挿通させることができる貫通孔が形成され、
前記貫通孔の形状及び大きさが、前記処理対象物投入用柄杓の前記把持部を挿通させることができて、尚且つ、契合させることができる形状及び大きさである、
還元処理ユニット。
【請求項3】
前記処理対象物投入用柄杓は、前記把持部の前記裏面からの突出幅が、前記脚部の高さ以下であって、
前記還元炉は、前記熱処理部の床面及び/又は前記処理対象物貯留部の床面に、前記処理対象物投入用柄杓の挿入方向に沿って、前記処理対象物投入用柄杓の前記把持部を挟持して係合させることができる一対の凸状体であるガイドレールを有する、
請求項2に記載の還元処理ユニット。
【請求項4】
請求項1に記載の処理対象物投入用柄杓と、還元炉と、からなる還元処理ユニットであって、
前記処理対象物投入用柄杓は、前記把持部の前記裏面からの突出幅が、前記脚部の高さよりも大きく、
前記還元炉は、
箱型の熱処理部と、
前記熱処理部の側面に、ダンパーを介して連結されている、箱型の処理対象物貯留部と、
を備え、
前記ダンパーは、板状のダンパー部材によって開閉可能に構成されていて、閉鎖時において前記処理対象物投入用柄杓の前記把持部の上部と契合する切り欠き部が下端部に形成されていて、
前記熱処理部の床面と前記処理対象物貯留部の床面には、前記処理対象物投入用柄杓の挿入方向に沿う同一直線上に、前記処理対象物投入用柄杓の前記把持部の下部と係合するガイド溝を有し、
前記ダンパーの閉鎖時に、前記切り欠き部と前記ガイド溝が係合することによって、前記処理対象物投入用柄杓の前記把持部を挿通させることができる貫通孔が形成される、
還元処理ユニット。
【請求項5】
請求項2から4の何れかに記載の還元処理ユニットを用いて還元処理を行う還元処理方法であって、
原料鉱石及び還元剤を、前記処理対象物投入用柄杓の前記載置面上に載置した状態で前記熱処理部に挿入した後に、前記貫通孔に前記処理対象物投入用柄杓の前記把持部が挿通されている状態で前記ダンパーを閉鎖して、前記原料鉱石及び前記還元剤が前記載置面上に載置された状態のままで加熱する、
還元処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載の還元処理方法によって、前記原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と前記還元剤とを含む混合物を加熱して還元することによって、フェロニッケルを製造する、
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉用の処理対象物投入用柄杓、還元処理ユニット、還元処理方法、及び、ニッケル酸化鉱石の製錬方法に関する。本発明は、詳しくは、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物を還元することによりフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法の実施に好ましく用いることができる加熱炉用の処理対象物投入用柄杓、当該処理対象物投入用柄杓と特有の構造からなる還元炉とで構成される還元処理ユニット、当該還元処理ユニットを用いて行う還元処理方法及びニッケル酸化鉱石の製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄とニッケルを主成分とする合金であり、ステンレス鋼及び特殊鋼の原料として用いられているフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬においては、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合し、その混合物を加熱処理して還元する還元処理が行われる(特許文献1参照)。
【0003】
上記の還元処理を行う加熱炉の一つとして、図4及び図5に示すような箱型の還元炉(還元炉2)を用いることができる。この還元炉2においては、箱型の熱処理部21の側面に、箱型の処理対象物貯留部31が接続されており、熱処理部21と処理対象物貯留部31の間には、熱や炉内ガスの出入りを遮断するためのダンパー(扉)211が設けられている。
【0004】
上述のような構成からなる還元炉においては、原料鉱石と還元剤との混合物を還元処理するために、棒状の把持部の先端に処理対象物を載置する載置面を有する処理対象物載置部が接合されてなる加熱炉用の処理対象物投入用柄杓が用いられる。
【0005】
還元炉2においては、上記構造の加熱炉用の処理対象物投入用柄杓を用いて、上記の混合物を処理対象物貯留部31から熱処理部21に移動させる場合がある。還元処理の進行中は、熱処理部21内の温度低下を防ぐ必要があるが、仮に、ダンパー211を開放して原料鉱石や還元剤等の処理対象物を載置した処理対象物投入用柄杓を熱処理部21の内部に移動させた後、処理対象物投入用柄杓を熱処理部21の内部に保持したまま、尚且つ、熱処理部21内の温度低下を防ぎながら、還元処理を行うことができれば、必要に応じて、還元処理の途中での上記の処理対象物の出し入れや還元剤の追加が効率良く行えるようになる。
【0006】
上記態様による還元処理においては、処理対象物を熱処理部内の所定位置に安定的に正確に配置することが求められるが、処理対象物投入用柄杓を熱処理部21の内部に保持したまま、還元処理を進行させる場合には、処理対象物投入用柄杓の棒状の把持部が熱によって変形してしまうリスクが大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-39045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、処理対象物投入用柄杓を熱処理部の内部に保持したまま還元処理を行う場合に、処理対象物投入用柄杓の把持部の熱変形のリスクを低く抑えて、尚且つ、安定的に処理対象物の出し入れを行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、加熱炉用の処理対象物投入用柄杓を、矩形板状の一対の脚部を備える独自の構造とすることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1) 加熱炉用の処理対象物投入用柄杓であって、矩形状の載置面を有する処理対象物載置部と、棒状の把持部と、矩形板状の一対の脚部と、を備え、前記把持部は、長手方向に直交する断面視において少なくともその一部が前記載置面の裏面上に突出している態様で前記裏面に接続されていて、前記脚部は、前記裏面における前記把持部と平行な両側辺の全部分を起点として前記把持部の前記裏面からの突出方向に向けて延設されている、処理対象物投入用柄杓。
【0011】
(1)の処理対象物投入用柄杓によれば、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、処理対象物投入用柄杓を熱処理部の内部に保持したまま還元処理を行う場合に、処理対象物投入用柄杓の把持部の熱変形のリスクを低く抑えて、尚且つ、安定的に処理対象物の出し入れを行うことができる。
【0012】
(2) (1)に記載の処理対象物投入用柄杓と、還元炉と、からなる還元処理ユニットであって、前記還元炉は、箱型の熱処理部と、前記熱処理部の側面に、ダンパーを介して連結されている、箱型の処理対象物貯留部と、を備え、前記ダンパーは、複数の板状のダンパー部材の組合せによって開閉可能に構成されていて、閉鎖時に前記処理対象物投入用柄杓の前記把持部を挿通させることができる貫通孔が形成され、前記貫通孔の形状及び大きさが、前記処理対象物投入用柄杓の前記把持部を挿通させることができて、尚且つ、契合させることができる形状及び大きさである、還元処理ユニット。
【0013】
(2)の還元炉処理ユニットによれば、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、処理対象物投入用柄杓を熱処理部の内部に保持したまま還元処理を行う場合に、処理対象物投入用柄杓の把持部の熱変形のリスクを低く抑えて、尚且つ、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを、効率良く行うことができる。
【0014】
(3) 前記処理対象物投入用柄杓は、前記把持部の前記裏面からの突出幅が、前記脚部の高さ以下であって、前記還元炉は、前記熱処理部の床面及び/又は前記処理対象物貯留部の床面に、前記処理対象物投入用柄杓の挿入方向に沿って、前記処理対象物投入用柄杓の前記把持部を挟持して係合させることができる一対の凸状体であるガイドレールを有する、(2)に記載の還元処理ユニット。
【0015】
(3)の還元処理ユニットによれば、(2)に記載の還元処理ユニットにおいて、処理対象物の出し入れの際、処理対象物投入用柄杓を一対のガイドレールに沿う一定方向にのみ安定的に往復移動させることができるので、処理対象物を常に所望の位置に安定的に載置することができる。
【0016】
(4) (1)に記載の処理対象物投入用柄杓と、還元炉と、からなる還元処理ユニットであって、前記処理対象物投入用柄杓は、前記把持部の前記裏面からの突出幅が、前記脚部の高さよりも大きく、前記還元炉は、箱型の熱処理部と、前記熱処理部の側面に、ダンパーを介して連結されている、箱型の処理対象物貯留部と、を備え、前記ダンパーは、板状のダンパー部材によって開閉可能に構成されていて、閉鎖時において前記処理対象物投入用柄杓の前記把持部の上部と契合する切り欠き部が下端部に形成されていて、前記熱処理部の床面と前記処理対象物貯留部の床面には、前記処理対象物投入用柄杓の挿入方向に沿う同一直線上に、前記処理対象物投入用柄杓の前記把持部の下部と係合するガイド溝を有し、前記ダンパーの閉鎖時に、前記切り欠き部と前記ガイド溝が係合することによって、前記処理対象物投入用柄杓の前記把持部を挿通させることができる貫通孔が形成される、還元処理ユニット。
【0017】
(4)の還元処理ユニットによれば、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、処理対象物投入用柄杓を熱処理部の内部に保持したまま還元処理を行う場合に、処理対象物投入用柄杓の把持部の熱変形のリスクを低く抑えて、尚且つ、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを、効率良く行うことができる。又、処理対象物の出し入れの際、処理対象物投入用柄杓をガイド溝に沿う一定方向にのみ安定的に往復移動させることができるので、処理対象物を常に所望の位置に安定的に載置することができる。
【0018】
(5) (2)から(4)の何れかに記載の還元処理ユニットを用いて還元処理を行う還元処理方法であって、原料鉱石及び還元剤を、前記処理対象物投入用柄杓の前記載置面上に載置した状態で前記熱処理部に挿入した後に、前記貫通孔に前記処理対象物投入用柄杓の前記把持部が挿通されている状態で前記ダンパーを閉鎖して、前記原料鉱石及び前記還元剤が前記載置面上に載置された状態のままで加熱する、還元処理方法。
【0019】
(5)の還元処理方法によれば、(2)から(4)の何れかに記載の還元処理ユニットを用いることによって、処理対象物投入用柄杓を熱処理部の内部に保持したまま還元処理を行う場合に、処理対象物投入用柄杓の把持部の熱変形のリスクを低く抑えて、尚且つ、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを効率良く行うことができる。これにより、処理対象物の出し入れ時に伴う炉内の温度低下を補填する為の燃料ガスの消費を節約することができる。
【0020】
(6) (5)に記載の還元処理方法によって、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と前記還元剤とを含む混合物を加熱して還元することによって、フェロニッケルを製造する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【0021】
(6)のニッケル酸化鉱石の製錬方法によれば、(5)に記載の還元処理方法をニッケル酸化鉱石の製錬に適用することによって、フェロニッケルの生産性及び品質の安定性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、処理対象物投入用柄杓を熱処理部の内部に保持したまま還元処理を行う場合に、処理対象物投入用柄杓の把持部の熱変形のリスクを低く抑えて、尚且つ、安定的に処理対象物の出し入れを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の加熱炉用の処理対象物投入用柄杓の斜視図である。
図2】本発明の加熱炉用の処理対象物投入用柄杓の側面図である。
図3】本発明の加熱炉用の処理対象物投入用柄杓の正面図である。
図4】本発明の還元炉の本体部となる熱処理部の構成の説明に供する図面である。
図5】本発明の還元炉の熱処理部に接続された処理対象物貯留部の構成の説明に供する図面である。
図6】本発明の還元処理ユニットにおける処理対象物投入用柄杓と還元炉との係合態様の一例の説明に供する図面である。
図7】本発明の還元処理ユニットの他の実施形態における処理対象物投入用柄杓と還元炉との係合態様の一例の説明に供する図面である。
図8A】本発明の還元処理ユニットを構成する還元炉のダンパーの構造(閉鎖状態)の説明に供する図面である。
図8B】本発明の還元処理ユニットを構成する還元炉のダンパーの構造(開放状態)の説明に供する図面である。
図9】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れを示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下においては、本発明の加熱炉用の処理対象物投入用柄杓、還元処理ユニット、及び、還元処理方法を、ニッケル酸化鉱石の製錬方法に適用する場合の実施形態について、その詳細を説明する。但し、本発明の適用対象は、ニッケル酸化鉱石の製錬方法に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更を加えながら、原料鉱石の還元処理を含んでなる様々な金属製錬プロセスに用いることができる。
【0025】
又、近年は、ニッケル品位が高く不純物が少ない鉱石は少なくなりつつあり、上記のニッケル酸化鉱石の製錬において高品質のフェロニッケルを製造するためには様々な鉱石を効率良く処理してデータを蓄積することが求められている。本発明の還元炉は、このようなデータを取得するための試験操業を行うための試験炉としても好ましく用いることができる。試験炉としての実施態様の詳細については別途後述する。
【0026】
以下、先ずは、本発明の加熱炉用の処理対象物投入用柄杓、還元処理ユニット、及び、還元処理方法の好適な適用対象であり、本発明の実施態様の一つでもある、ニッケル酸化鉱石の製錬方法の概要について説明し、その後に、本発明の加熱炉用の処理対象物投入用柄杓、還元処理ユニット、及び、還元処理方法について詳細に説明する。
【0027】
<ニッケル酸化鉱石の製錬方法>
本発明の好適な適用対象プロセスであるニッケル酸化鉱石の製錬は、一例として図9に示すように、ニッケル酸化鉱石を含む原料と炭素質還元剤と混合する混合処理工程S1、得られた混合物を所定の形状に成形する混合物成形工程S2、成形された混合物(或いは、原料鉱石及び還元剤)を還元炉にて所定の還元温度で還元加熱する還元工程S3、及び、還元工程S3にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する回収工程S4、が順次行われるプロセスである。
【0028】
本発明の「ニッケル酸化鉱石の製錬方法」は、上記各工程のうち、少なくとも、還元工程S3を本発明の処理対象物投入用柄杓と還元炉との組合せからなる還元処理ユニット、又は、それを用いて行うことができる本発明の還元処理方法によって実施することを特徴とする新規な製錬プロセスである。還元処理ユニット及びこれを構成する処理対象物投入用柄杓、及び、還元炉の詳細については後述する。
【0029】
尚、以下においては、上記の4つの工程(S1~S4)について説明するが、本発明の「ニッケル酸化鉱石の製錬方法」においては、上記の混合処理工程S1及び混合物成形工程S2は、必ずしも必須の工程ではない。このような処理を行わずに原料鉱石及び還元剤を還元炉に投入する実施態様としても、本発明の「ニッケル酸化鉱石の製錬方法」を実施することは可能であり、そのような実施態様も本発明の技術的範囲である。
【0030】
[混合処理工程]
混合処理工程S1は、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末を混合して混合物を得る工程である。原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。尚、炭素質還元剤としては、石炭粉、コークス粉等を用いることができる。
【0031】
[混合物成形工程]
混合物成形工程S2は、混合処理工程S1で得られた混合物を成形する工程である。具体的には、原料粉末を混合して得られた混合物を、所定の大きさ以上の塊に成形し、次の還元工程S3での還元処理に際して、還元炉内に混合物を例えば積層して投入できるようにする。
【0032】
[還元工程]
還元工程S3は、混合物成形工程S2で得られた混合物(成形物)を、還元炉内において加熱することによって還元反応を進行させて、ニッケル酸化鉱石からメタルとスラグとを生成させる工程である。還元処理の温度(還元温度)としては、1200℃以上1500℃以下とすることが好ましく、1250℃以上1450℃以下とすることがより好ましい。このような範囲の還元温度とすることで、効率的に且つ確実に還元反応を進行させて、所望とする特性のフェロニッケルを得ることができる。尚、この還元工程S3の実施に好適な本発明の還元処理方法の詳細については追って後述する。
【0033】
[回収工程]
回収工程S4は、還元工程S3にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する工程である。具体的には、容器に充填させた状態の混合物に対する還元加熱処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混合物(混在物)からメタル相、即ち、フェロニッケルを分離して回収する。固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0034】
<還元処理ユニット>
本発明の還元処理ユニットとは、好ましい一例として、図1図3に示す本発明の加熱炉用の処理対象物投入用柄杓1と、図4及び図5に示す本発明に係る還元炉2と、の組合せからなる鉱工業用設備である。この還元処理ユニットは、上述の「ニッケル酸化鉱石の製錬方法」において、還元工程S3を行うために用いることができる技術的手段である。
【0035】
本発明の還元処理ユニットにおいては、還元炉2のダンパー211に形成されている貫通孔213(図8A参照)の内縁の形状及び大きさが、処理対象物投入用柄杓1の棒状の把持部(柄)11の部分の中心軸に直交する断面(即ち軸の外縁)の形状及び大きさに等しくなるように、両者の形状及び大きさがそれぞれ最適化されている。これにより、本発明の還元処理ユニットにおいては、処理対象物投入用柄杓1の把持部11を、ダンパー211の閉鎖時においても貫通孔213に挿通させることができて、尚且つ、その状態において、貫通孔213と処理対象物投入用柄杓1の把持部11の部分を契合させることができるので、処理対象物投入用柄杓1の処理対象物載置部12を還元炉2の熱処理部21の内部に置いたままの状態で還元工程S3等における還元処理を進行させることができる(図5参照)。又、この還元処理ユニットにおいては、上記還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを、効率良く行うことができる。
【0036】
[処理対象物投入用柄杓]
本発明の加熱炉用の処理対象物投入用柄杓は、一例として、以下に詳細を説明する還元炉と組合せて、本発明の還元処理ユニットを構成することによって、上述の「ニッケル酸化鉱石の製錬方法」における「還元工程S3」等の加熱炉内での高温での加熱処理を伴う工程を行うための技術的手段として好ましく用いることができる工業用具である。但し、本発明の加熱炉用の処理対象物投入用柄杓の用途は上記の「還元工程S3」に限定されるものではなく、その他の鉱工業の各種の加熱炉への材料や試料の出し入れの作業にも単独で用いることができる汎用性を有する工業用具である。
【0037】
図1図3は、本発明の加熱炉用の処理対象物投入用柄杓の好ましい実施形態の一例である処理対象物投入用柄杓1の構成を示す図面である。処理対象物投入用柄杓1は、棒状、好ましくは丸棒状の把持部(柄)11、把持部11の先端部分の側面と接合されていて矩形状の載置面121を有する処理対象物載置部12、及び、載置面121の裏面に設置されている矩形板状の一対の脚部122を備えてなる鉱工業用の柄杓である。
【0038】
把持部11は、作業者がその手により、或いは、機械により把持する部分であり、棒状体、好ましくは断面が円形である丸棒により構成されている。そして、この把持部11は、長手方向に直交する断面視において少なくともその一部が載置面121の裏面上に突出している態様で当該裏面に接合されている(図3参照)。
【0039】
処理対象物載置部12は、矩形状の載置面121を有し、上記の通りの態様で把持部11の先端部分に接合されている。そして、本発明の還元処理ユニットを構成して、還元処理を行う場合には、この載置面121に処理対象物が載置される。尚、図1図3では、処理対象物載置部の構成の一例として、処理対象物載置部の全体(一対の脚部122を除いた部分)が略直方体形状の部材で形成されていて、その天面が矩形状の載置面121となるように構成されている処理対象物載置部12が例示されているが、処理対象物載置部の形状は、これに限られず、載置面121が凹部を構成し、四方に壁面が立設され、上面が開口した箱状の部材で構成されていてもよい。
【0040】
本発明の処理対象物投入用柄杓1における特徴的な構成部分である、一対の脚部122は、載置面121の裏面における把持部11の長手方向と平行な両側辺の全部分を起点として把持部11の突出方向(処理対象物投入用柄杓1の使用時における鉛直下方)に向けて延設されている(図1図3参照)。「載置面121の裏面における把持部11の長手方向と平行な両側辺の全部分を起点として延設」とは、例えば、処理対象物載置部12が箱型で載置面121が側壁で囲まれている場合であれば、処理対象物載置部12の両側の側壁が、載置面121の裏面を超えて、更に下方に延びる態様で矩形板状の一対の脚部が形成されている構成であることを意味する。
【0041】
図3に示す通り、脚部122の高さh(載置面121の裏面を起点とした使用時における鉛直下方先端までの長さ)は、把持部11の突出幅h(載置面121の裏面を起点とした使用時における鉛直下方先端までの長さ)と等しいか、或いは、それ以上であることが好ましい。「載置面121の裏面における把持部11の長手方向と平行な両側辺の全部分を起点として」延設されている一対の脚部の高さhと把持部11の突出幅h2との関係をh≧hとすることによって、処理対象物投入用柄杓1を熱処理部21の床面(或いは、基台を設ける場合は、基台の床面)に置いたときに、処理対象物載置部12を処理対象物投入用柄杓1の装入方向に対して直交する方向から見た場合において、把持部11のうち処理対象物載置部12の裏側の面に接合されている部分については、脚部122によって遮蔽することができる。
【0042】
ここで、還元炉2においては、熱処理部21内における、還元ガス及び燃焼ガスの対流は、その大部分が熱処理部21の側壁の立設する方向(即ち、処理対象物投入用柄杓1の装入方向に直交する方向)に沿った流れである。このため、処理対象物載置部12の載置面121上に多量の還元ガス、及び燃焼ガスが流れることに起因して、処理対象物載置部12において入熱が過剰となることで、短期間のうちに処理対象物載置部12、及び把持部11に熱による変形が生じてしまう不具合が散見されていた。上述のように脚部122によって、把持部11の少なくとも一部をその両側面側において脚部122の外側の空間と遮蔽することによって、このような熱変形に起因する不具合の発生を抑制することができる。
【0043】
又、一対の脚部122によれば、処理対象物載置部12を処理対象物貯留部31の床面、及び熱処理部21の床面(或いは、基台を設ける場合は、基台の床面)に対して高い安定性で平行に維持できるため、処理対象物の偏りを防止して均一な処理が行いやすくなる。
【0044】
又、処理対象物投入用柄杓1における把持部11の処理対象物載置部12への接合は、例えば、処理対象物載置部12の載置面121の裏面に把持部11の側面を当接させ、その状態で溶接や螺子止め等の接合手段によることができる。このような接合態様によれば、把持部11の先端部(即ち、把持を行う側とは反対側の端部)を、処理対象物載置部12の処理対象物投入用柄杓1の装入方向に沿った先端部の位置にほぼ一致させた状態で、把持部11を処理対象物載置部12に接合することができる(図2参照)。このような接合態様とすることで、例えば、把持部11を処理対象物載置部12の側壁に接合する従来の一般的な鉱工業用の柄杓の構造と比較して、把持部11と処理対象物載置部12の接合部分の接合強度をより高めることができる。従来の鉱工業用の柄杓において、把持部11をこのように処理対象物載置部12の裏面に接合した場合には、これを床面に載置した場合の安定性を欠くものとせざるを得なかったが、本発明の処理対象物投入用柄杓1においては、脚部122を備える構成とすることによって、把持部11と処理対象物載置部12の接合部分の接合強度を高めることと、床面に載置した場合の高い安定性との両立を実現させている。
【0045】
処理対象物投入用柄杓1の各部の材料は、使用条件に応じた一定以上の耐熱性を有する各種のセラミックとすることができるが、アルミナ質のセラミック、或いは、マグネシア質のセラミックとすることが特に好ましい。又、把持部11を構成する材料としては、長尺形状であり割れやすく試料の出し入れが困難、或いは不可能となる懸念があるため、JIS規格に規定されるステンレス鋼(SUS材)とすることが好ましく、耐熱鋼(SUH材)とすることが特に好ましい。
[還元炉]
図4及び図5に示す還元炉2は、上記において詳細を説明した加熱炉用の処理対象物投入用柄杓1と組合せて本発明の還元処理ユニットを構成することができる。還元炉2は、処理対象物を加熱して還元処理を行う箱型の熱処理部21と、熱処理部21の側面の開口部分に、ダンパー211を介して連結されている処理対象物貯留部31とを備える箱型の加熱炉である。
【0046】
図4及び図5に示すように、還元炉2の熱処理部21には、熱処理部21の内部と外部とを仕切る開閉可能な扉であるダンパー211が設けられている。又、図5に示すように、熱処理部21の外部には、ダンパー211を介して、処理対象物貯留部31が連結されている。又、熱処理部21の内部には、公知の各種の加熱炉と同様に、加熱用のバーナー22、及び、排気口24が設けられている。又、熱処理部21の内部には、その床面におけるダンパー211の設置位置に隣接する位置に、基台23が設けられていることが好ましい。基台23は、本発明における必須の構成ではないが、原料鉱石と還元剤との混合物等の処理対象物を載置した処理対象物載置部12を安定的に支持するための台である。
【0047】
図8A、8Bに示す通り、ダンパー211は、複数の板状のダンパー部材212A、212Bの組合せによって構成されている開閉可能な扉状の仕切り部材である。ダンパー211には、図8Aに示す閉鎖時の状態において、処理対象物投入用柄杓1(図1図3)の把持部11の部分を挿通させ、尚且つ、隙間なく契合させることができる貫通孔213が形成される。尚、この貫通孔213の内径は、処理対象物投入用柄杓1の把持部11の太さに対する上記の要件を満たす大きさであるとともに、貫通孔213を通じた熱の出入りを最小限に止めるために、熱処理部21と処理対象物貯留部31とを結ぶ開口面の面積に対する貫通孔の面積の比率を、0.05以下とすることが好ましく、0.03以下とすることがより好ましい。一例として、上記開口面が100mm×130mmの矩形状の開口面である場合であれば、貫通孔213の内径は、28mm以下であることが好ましく、22mm以下であることがより好ましい。
【0048】
処理対象物投入用柄杓1と還元炉2との組合せからなる本発明の還元処理ユニットにおいては、処理対象物貯留部31から熱処理部21への処理対象物の装入、及び、熱処理部21から処理対象物貯留部31への取り出しは、図8Bに示すようにダンパー211を開放させた状態で、処理対象物を載置した処理対象物投入用柄杓1を、ダンパー211を通じて熱処理部21に速やかに出し入れすることによって行われる。
【0049】
そして、還元処理ユニットにおける処理対象物の還元処理は、図8Aに示すようにダンパー211を閉鎖させた状態で行う。この還元処理は、より具体的には、図5に示すように、熱処理部21の内部に処理対象物投入用柄杓1の処理対象物載置部12を挿入したまま、ダンパー211を閉鎖し、その状態で処理対象物載置部12の載置面121に載置されている処理対象物を加熱することによって行う。この際、ダンパー211は、処理対象物投入用柄杓1の把持部11をダンパー211の貫通孔213に挿通させて契合させた状態で閉鎖するようにする。
【0050】
一例として、ダンパー211は、図8A及び図8Bに示すように、それぞれの先端近傍領域にダンパー211の閉止時に貫通孔213を形成することができるように半円形の貫通孔形成用の切り欠き部213A、213B(図8B参照)が形成されているダンパー部材212A、212Bによって構成することができる。或いは、ダンパー211は、他の一例として、熱処理部21と処理対象物貯留部31とを結ぶ開口面を二つの領域に分割したときに、一方の領域を閉鎖する第1のダンパー部材と、他方の領域を閉鎖する第2のダンパー部材で構成し、ダンパーの閉鎖時において、処理対象物の挿入方向に沿って見た場合に、第1のダンパー部材と第2のダンパー部材のそれぞれの先端近傍領域が重なることとなるように、両ダンパーを配置することもできる。
【0051】
ここで、本発明の還元炉及び還元処理ユニットの代表的な使用対象プロセスとして想定されるニッケル酸化鉱石の製錬においては、上述した通り、還元炉の炉内温度は、最大1500℃程度に達するため、ダンパー部材212の耐熱温度を1500℃以上とすることが好ましい。又、このような高温での還元処理の実施時には、熱処理部21の内外における温度差が極めて大きくなるので、ダンパー211を構成する各々のダンパー部材212の材料としては、このような過酷な温度環境下でも十分な耐久性を有するものとすることが好ましい。以上より、ダンパー部材212の材料としては、上記各条件を満たす各種の板状の断熱ボードを適宜用いることができる。尚、ダンパー211を構成する各々のダンパー部材212の材料としては、具体的には、アルミナファイバー製の断熱ボードであって、密度が250kg/m以上の断熱ボードを、特に好ましく用いることができる。ダンパー部材の材料として、このような断熱ボードを採用することにより、適切な貫通孔を形成するための加工が容易に行えるようになる。又、上記の断熱ボードの採用により、ダンパー211全体の重量も軽量化されて開閉が容易になる。
【0052】
又、ダンパー211を構成する各々のダンパー部材212の材料としては、各種の断熱ボードの表面にコーティングを施すことも有効である。例えば、リフラクトリーセラミックファイバー(RCF)同士の接着に用いられ、バルクと結合剤を混錬した不定形耐火物用の接着剤である、コーティングセメント(イソライト工業製)、MBセメント(イソライト工業製)或いは、17Dセメント(イソライト工業製)等を、上記のコーティングを行うコート剤として好ましく使用することができる。これらは、一般的には、各種の断熱ボード等、不定形耐火物用の接着剤として用いられているものではあるが、コート性に優れるうえ、ダンパーの強度を向上することでダンパー各部の寸法減少を長期間抑制することが可能である。従って、ダンパー211を構成する各々のダンパー部材212の極めて好ましい材料として、アルミナファイバーからなる板材の表面に上述した各種の不定形耐火物用の接着剤がコートされてなる断熱ボードを挙げることができる。
【0053】
処理対象物貯留部31は、ダンパー211を介して、熱処理部21と連結されている。尚、処理対象物貯留部31には、ダンパー211と対向する位置に、「処理対象物」を出し入れするための装入/取出口312が設けられている。装入/取出口312は、蓋体であり、開閉可能な扉状の構造を有している。又、装入/取出口312は、極力空気が入らないように、二重構造の扉(二重扉)とすることが好ましい。処理対象物貯留部31に「処理対象物」を装入する際には、装入/取出口312を開放して行い、熱処理部21での還元処理時、処理対象物貯留部31での還元剤供給時、及び処理対象物貯留部31での冷却時には、装入/取出口312を閉めた状態で各操作を実行する。
【0054】
尚、処理対象物貯留部31は、雰囲気ガスを置換できる構造を有していることが好ましい。置換するガスとしては、不活性ガスであることが好ましい。不活性ガスを流して雰囲気を置換することで、還元済みの処理対象物を処理対象物貯留部31にて冷却する際に、流通させた不活性ガスが冷却用ガスとして作用して冷却を促進することができる。処理対象物貯留部31の内部の雰囲気ガスが不活性ガスであることにより、還元済みの処理対象物の酸化を抑制することもできる。尚、上記の不活性ガスとしては、比較的安価で、安定的に入手できる点から、窒素、アルゴン等を用いることができる。又、二酸化炭素も不活性ガスとして用いることができる。又、処理対象物貯留部31の内供に不活性ガスを流通させることによって、貫通孔213を通じた熱の対流によって起る処理対象物貯留部31の内部の温度上昇も抑制することができる。
【0055】
又、処理対象物貯留部31の熱処理部21側の開口部には、ダンパー211とは別途に、上述のような貫通孔213が形成されることなく当該開口部の全体を閉鎖することが可能な「補助ダンパー(図示せず)」を更に併設しておくこともできる。還元炉2においてこの「補助ダンパー」を設置した場合には、熱処理部21の内部に処理対象物投入用柄杓1の処理対象物載置部12が挿入されている状態においては、「補助ダンパー」を開放しておき、熱処理部21の外部に処理対象物投入用柄杓1が取り出されている状態においては、「補助ダンパー」を閉鎖すればよい。これにより、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを効率良く行うことができるという本願発明の基本的な作用・効果を享受しながら、尚且つ、熱処理部21の外部に処理対象物投入用柄杓1が取り出されている状態である場合を含めて、処理対象物貯留部の内部の処理対象物貯留部31の内部の温度上昇を更に抑制することができる。
【0056】
ここで、以上において詳細を説明した本発明の還元処理ユニットにおいては、図6に示すように、還元処理ユニットを構成する還元炉として、一組の凸状体である一対のガイドレール214を有する還元炉2Aを用いることもできる。還元炉2Aにおいて、ガイドレール214は、熱処理部21の床面及び/又は処理対象物貯留部31の床面に、好ましくは、これらの両床面に、処理対象物投入用柄杓1の挿入方向に沿って、処理対象物投入用柄杓1の把持部11を挟持して係合させることができる形状・大きさで形成されていればよい。ガイドレール214によって、処理対象物投入用柄杓1の熱処理部21への出し入れに際して、処理対象物投入用柄杓1の装入方向以外への移動が規制されるため、処理対象物載置部12の位置決めが、より行いやすくなる。
【0057】
尚、一対のガイドレール214を有する還元炉2Aによって還元処理ユニットを構成する場合には、前述の通り、処理対象物投入用柄杓1としては、把持部11の載置面121の裏面からの突出幅hが、脚部122の高さh以下であって、尚且つ、ガイドレール214と係合可能な最小限の高さ以上であるものを用いればよい(図6参照)。
【0058】
或いは、本発明の還元処理ユニットにおいては、図7に示すように、還元処理ユニットを構成する還元炉として、熱処理部21の床面と処理対象物貯留部31の床面に、ガイド溝215を有する還元炉2Bを用いることができる。還元炉2Bにおいて、ガイド溝215は、熱処理部21の床面及び処理対象物貯留部31の床面に、処理対象物投入用柄杓1の挿入方向に沿う同一直線上に、処理対象物投入用柄杓1の把持部11の下部と係合させることができる形状・大きさで形成されていればよい。ガイド溝215によっても、処理対象物投入用柄杓1の熱処理部21への出し入れに際して、処理対象物投入用柄杓1の装入方向以外への移動が規制されるため、処理対象物載置部12の位置決めが、より行いやすくなる。
【0059】
尚、ガイド溝215を有する還元炉2Bによって還元処理ユニットを構成する場合には処理対象物投入用柄杓1としては、把持部11の載置面121の裏面からの突出幅hが、脚部122の高さhよりも大きく、尚且つ、把持部11の断面形状がガイド溝215と係合可能な大きさ・形状ものを用いればよい(図7参照)。又、この場合においては、還元炉2のダンパーについては、閉鎖時において処理対象物投入用柄杓1の把持部11の上部と契合する切り欠き部が下端部に形成されているものとすることが好ましい。このような構成とすることによって、ダンパーの閉鎖時に、上記切り欠き部とガイド溝215が係合することによって、処理対象物投入用柄杓1の把持部11を挿通させることができる貫通孔を形成することができる。
【0060】
<還元処理方法>
本発明の「還元処理方法」(以下、単に「還元処理方法」とも言う)は、上述の「還元処理ユニット」を用いて、原料鉱石や還元剤等の処理対象物(以下、単に「処理対象物」とも言う)の還元処理を行う方法である。以下、この「還元処理方法」の具体的な手順の一例を説明する。
【0061】
「還元処理方法」においては、先ず、処理対象物貯留部31の装入/取出口312を開けて処理対象物貯留部31の内部に装入し、更に、ダンパー211を開放して、処理対象物貯留部31に連結されている熱処理部21の内部へと装入し、基台23に載置する。
【0062】
このとき、熱処理部21内に入れた処理対象物投入用柄杓1を、基台23の中央部付近まで移動させた後、処理対象物投入用柄杓1それ自体を基台23の上に置き、その状態のまま、「処理対象物」を、収容した処理対象物投入用柄杓1を載置させた状態のまま、還元処理を開始する。即ち、還元処理に際して、処理対象物投入用柄杓1を熱処理部21内に残したまま加熱を開始する。このような方法によれば、「処理対象物」を処理対象物投入用柄杓1の載置面121上に載置し、その後は、処理対象物投入用柄杓1を、処理対象物貯留部31を経由して熱処理部21に出し入れする操作を行うだけで、還元処理を実行することができる。これにより、ダンパー211を通じて熱処理部21に出し入れする際のダンパー211の開放時間を短縮して、ダンパー211開放中の熱処理部21内部の温度低下を抑制することができる。又、処理対象物投入用柄杓1から基台23上に「処理対象物」を移し変えるとき等にその「処理対象物」が基台23から落下するといった誤操作を防いだり、バーナー22による加熱が均一に生じなくなるといった不具合を防いだりすることができる。尚、このような実施態様の場合において、処理対象物投入用柄杓1の処理対象物載置部12に、灰や炭素質還元剤等を敷いておいてもよい。これにより、その処理対象物載置部12の載置面121上での「処理対象物」の融着を防ぐことができる。
【0063】
又、このように処理対象物投入用柄杓1を熱処理部21内に残した状態においては、その処理対象物投入用柄杓1の把持部11の主な部分は、処理対象物貯留部31に位置するようになる(図5参照)。そして、処理対象物投入用柄杓1の把持部11の主な部分が処理対象物貯留部31内に位置するようにして還元処理を開始することで、還元処理の加熱によって処理対象物投入用柄杓1の把持部11の熱変形を抑制することができる。
【0064】
又、「還元処理方法」においては、還元処理の途中の段階において「処理対象物」を熱処理部21から処理対象物貯留部31に移動させることもできる。この場合は、ダンパー211を開放した後に、処理対象物投入用柄杓1の把持部11を把持して処理対象物貯留部31の側からその処理対象物投入用柄杓1を引き出すようにして、「処理対象物」が載置された処理対象物載置部12の部分を処理対象物貯留部31内に移動させ、速やかにダンパー211を閉鎖する。そして、例えば、処理対象物載置部12に載置した「処理対象物」に更に炭素質還元剤を追加する作業等、必要な追加作業を処理対象物貯留部31の内部において、適宜行うことができる。このように、熱処理部21と処理対象物貯留部31との間の「処理対象物」の移動を、処理対象物投入用柄杓1を移動させることによって行うことで、円滑に且つ確実に移動させることができる。
【0065】
そして、還元処理の終了後には、処理対象物貯留部31の内部からダンパー211を開放して、還元処理により得られた還元物を、熱処理部21から処理対象物貯留部31を経由して取り出す。還元物の取り出しに際しては、処理対象物貯留部31において還元物の冷却を行う。処理対象物貯留部31での還元物の冷却は、処理対象物貯留部31の内部からダンパー211を閉鎖した状態で行う。これにより、熱処理部21からの高温の熱が処理対象物貯留部31内に入り込むことを防いで、効率的に冷却を行うことができる。
【0066】
又、処理対象物貯留部31での還元物の冷却を行う際には、処理対象物貯留部31の内部に、不活性ガスを流通させることが好ましい。これにより、不活性ガスが冷却用ガスとして作用して、還元処理により得られた還元物を所定の温度にまで効率良く冷却することができる。又、不活性ガスが充満している環境下では、還元処理により得られた還元物の酸化を抑制することもできる。又、還元炉2が上記の「補助ダンパー」を備えている場合であれば、「補助ダンパー」も閉鎖した状態で冷却処理を行うことにより、熱処理部21からの高温の熱が処理対象物貯留部31の内部に入り込むことによる処理対象物貯留部31内部の温度をより好ましい低温度範囲内により確実に防ぐことができる。
【0067】
又、処理対象物貯留部31は、熱処理部21に連続して連結されているため、熱処理部21での還元処理により得られた還元物を大気中に取り出すことなく冷却することができる。高温に加熱された状態の還元物をそのまま大気中に取り出した場合、生成したメタルの酸化が急速に進行して、メタル特性が低下するとともに、メタルの回収率が大きく低下する。この点、処理対象物貯留部31が熱処理部21に接続された還元炉2を用いて還元処理を行うことで、高温の還元物に対する冷却操作を、その処理対象物貯留部31にて効率的に行うことができ、メタルの酸化を効果的に防ぐことができる。
<試験操業としての実施形態>
【0068】
本発明の「還元処理ユニット」、「還元処理方法」は、何れも、還元処理を含む実装業に反映させるための各種データを取得することを目的とした還元処理の試験操業を行うための技術的手段としても好ましく用いることができる。例えば、還元炉2に少量のペレットを装入し、還元処理を行い、生成した還元物の取り出しを行って、上述の各種データを取得することができる。
【0069】
還元炉に限らず、一般的に炉には、試料等の処理産物の出し入れのための開口部が必要となる。酸素の巻き込みや熱の拡散、外気の影響等を防ぐために、その開口部の大きさは小さい方が好ましい。ところが、特に、試験操業用に比較的小規模な炉を用いる場合、相対的に開口部のサイズは大きくなり、試験によって得られるデータの誤差発生の要因になるという問題がある。この問題に対して、本発明の「還元処理ユニット」処理対象物投入用柄杓と試験用の還元炉との組合せによって構成し、これを還元処理の試験操業に用いることによって、開口部の大きさを確保しながら、急激な温度変化を抑制することができるので、炉内での還元状況の正確なデータを得て操業に反映させることができるようになる。
【実施例0070】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0071】
本発明の加熱炉用の処理対象物投入用柄杓について、加熱炉内での耐久性を検証するために以下の試験を行った。実施例・比較例とする全ての処理対象物投入用柄杓は、処理対象物載置部の載置面の裏面に把持部の側面を当接させ、その状態で螺子止めにより接合して作成した。これらの処理対象物投入用柄杓において、脚部の有無による把持部の熱変形の程度の差異を検証した。
【0072】
[実施例]
実施例(実施例1及び実施例2)の処理対象物投入用柄杓として、図1~3に示す接合形態の処理対象物投入用柄杓を準備した。この処理対象物投入用柄杓は、把持部を全長1.5m程度、直径φ18mmの「SUS310S」製の丸棒で構成し、処理対象物載置部は、処理対象物投入用柄杓の挿入方向に沿った長さが360mm程度、挿入方向に対して直交する方向の長さが90mm、高さが30mmで直方体状の上面が開放されたSUS310S」製の容器で構成した。又、脚部122も同様に「SUS310S」で構成し、その高さは18mmとした。又、還元炉として、図4及び図5に示す構成からなる還元炉2と同一構成の還元炉を実施例に用いる還元炉とした。この還元炉のダンパーの形状と配置は、図8A及び図8Bに示す通りとした。又、この還元炉において、ダンパーによって閉鎖される熱処理部の開口部のサイズは、130mm×100mmとし、処理対象物投入用柄杓の外径とダンパーの閉鎖時に形成される貫通孔の内径は20mmとした。
【0073】
尚、上記の処理対象物投入用柄杓と上記の還元炉の組合せからなる還元処理ユニットにおいては、熱処理部内に処理対象物載置部を配置したときに、処理対象物載置部を処理対象物投入用柄杓の装入方向に対して直交する方向から見た場合において、把持部は脚部によって脚部外側の空間から遮蔽される態様となっていることを目視により確認した。
【0074】
[比較例]
比較例(比較例1及び比較例2)の処理対象物投入用柄杓として、処理対象物載置部が脚部を有していないことを除いては、実施例と同一材料・同一形状・同一サイズの処理対象物投入用柄杓を準備した。還元炉は、実施例に用いた還元炉を用いた。
【0075】
[試験方法]
上記の実施例・比較例の各処理対象物投入用柄杓を、還元炉の熱処理部内に配置した状態で、それぞれ下記表1に示す、所定の温度、及び時間で加熱処理を施した後に、ダンパーを開放し、挿入時とは反対方向に処理対象物投入用柄杓を移動させることによって、処理対象物貯留部に移動させ、同室内においてダンパーを閉鎖した状態で10分冷却し、その冷却が完了した時点で大気中に取り出し、その時点での、各処理対象物投入用柄杓の把持部について、歪の程度を測定し、以下の評価基準で評価した。試験結果は下記表1に示す通りであった。
AA:把持部の歪が、1mm/m未満
A:把持部の歪が、1mm/m以上10mm/m未満
B:把持部の歪が、10mm/m以上
【0076】
【表1】
【0077】
以上より、本発明の処理対象物投入用柄杓によれば、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、処理対象物投入用柄杓を熱処理部の内部に保持したまま還元処理を行う場合に、処理対象物投入用柄杓の把持部の熱変形のリスクをより低く抑えることができることが確認された。
【符号の説明】
【0078】
1 処理対象物投入用柄杓
11 把持部
12 処理対象物載置部
121 載置面
122 脚部
2 還元炉
21 熱処理部
22 バーナー
23 基台
24 排気口
211 ダンパー
212(212A~D) ダンパー部材
213 貫通孔
214 ガイドレール
215 ガイド溝
31 処理対象物貯留部
312 装入/取出口
S1 混合処理工程
S2 混合物形成工程
S3 還元工程
S4 回収工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9