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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090757
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】電気音響変換器
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20240627BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20240627BHJP
   H10N 30/88 20230101ALI20240627BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
H04R17/00
H10N30/20
H10N30/88
B81B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206848
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 貴史
(72)【発明者】
【氏名】榎本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】情家 智也
(72)【発明者】
【氏名】山田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】川合 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】臼井 孝英
【テーマコード(参考)】
3C081
5D004
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081AA13
3C081BA03
3C081BA11
3C081BA22
3C081BA45
3C081BA48
3C081BA55
3C081CA17
3C081CA23
3C081CA31
3C081DA03
3C081DA07
3C081EA21
5D004AA01
5D004AA02
5D004BB02
5D004CC10
5D004DD03
(57)【要約】
【課題】良好なロールオフ周波数特性と良好な感度特性とを両立させること。
【解決手段】圧電素子部(3)は、板厚方向に貫通する貫通孔(35)と、固定端部(34a)から貫通孔に向かう延設方向に片持ち梁状に延設された振動部(34)とを備える。伸縮膜(4)は、少なくとも振動部の延設方向における先端側の自由端部(34b)を覆う振動板被覆部(41)と、貫通孔を覆う貫通孔被覆部(42)とを有する。貫通孔被覆部は、貫通孔の内縁を構成する壁面である内縁面(35a)との接合箇所に設けられた周縁部(44)と、板厚方向における寸法が周縁部よりも小さく形成された薄肉部(45)とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気音響変換器(1)であって、
圧電材料によって形成された圧電膜(31)を備え、指向軸(CA)に沿った板厚方向を有する板状に形成された圧電素子部(3)と、
前記指向軸と直交する面内方向における前記圧電素子部の外縁部である固定端部(34a)を固定的に支持するように設けられた支持部(2)と、
前記板厚方向に前記圧電素子部と積層されつつ前記圧電素子部に接合された伸縮膜(4)と、
を備え、
前記圧電素子部は、
前記板厚方向に貫通する貫通孔(35)と、
前記面内方向としての前記固定端部から前記貫通孔に向かう延設方向に片持ち梁状に延設された振動部(34)と、
を備え、
前記伸縮膜は、少なくとも前記振動部の前記延設方向における先端側の自由端部(34b)を覆う振動板被覆部(41)と、前記貫通孔を覆う貫通孔被覆部(42)とを有し、
前記貫通孔被覆部は、前記貫通孔の内縁を構成する壁面である内縁面(35a)との接合箇所に設けられた周縁部(44)と、前記板厚方向における寸法が前記周縁部よりも小さく形成された薄肉部(45)とを有する、
電気音響変換器。
【請求項2】
前記貫通孔、前記伸縮膜、または前記薄肉部は、前記面内方向における形状が円形状または多角形状に形成された、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項3】
前記貫通孔被覆部は、前記板厚方向における寸法が前記薄肉部よりも大きく形成された厚肉部(46)をさらに有する、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項4】
前記厚肉部は、前記貫通孔被覆部における応力集中箇所に設けられた、
請求項3に記載の電気音響変換器。
【請求項5】
前記伸縮膜は、ヤング率が前記振動部の1/10以下となるように形成された、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項6】
前記伸縮膜は、感光性樹脂材料によって形成された、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項7】
前記貫通孔被覆部は、前記貫通孔の前記板厚方向における全体にわたって設けられた、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項8】
前記薄肉部は、前記貫通孔被覆部の前記板厚方向における一方側の端部に設けられた、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項9】
前記薄肉部は、前記板厚方向における他方側に向かって開口するように前記伸縮膜に形成された薄肉部形成穴(43)の底部に設けられた、
請求項8に記載の電気音響変換器。
【請求項10】
前記周縁部は、前記板厚方向における寸法が前記振動部よりも大きく形成された
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項11】
前記薄肉部は、前記板厚方向における寸法が前記振動部よりも小さく形成された、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項12】
前記圧電素子部は、前記貫通孔を挟んで向き合う一対の前記振動部を備えた、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気音響変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の圧電素子は、圧電素子部と、圧電素子部の周縁部を支持する支持部と、圧電素子部より伸縮性が高い伸縮膜と、を備える。伸縮膜は、圧電素子部の周縁部の内側の振動領域に設けられている。圧電素子部における振動領域には、当該振動領域を厚み方向に貫通するスリットが設けられている。伸縮膜は、振動領域におけるスリットの開口の少なくとも一部を覆い、スリットにより分離された振動領域を一体化させるように配置されている。
【0003】
ところで、圧電膜にスリットを設けて片持ち梁構造としたこの種の圧電素子では、圧電膜の湾曲によって、実質的な梁間のギャップが大きくなり、音響抵抗が低下する場合があった。この点、特許文献1に記載の構成によれば、伸縮膜を設けることで振動領域の湾曲が抑制され、ギャップの増大が抑制される。また、仮に振動領域が湾曲した場合であっても、スリットの少なくとも一部を覆うように伸縮膜を配置することで、音響抵抗の低下の抑制を図ることができる。したがって、かかる構成によれば、SN比および感度特性の低下を抑制することができる。また、伸縮膜は、圧電素子部より伸縮性が高い。このため、伸縮膜の残留応力による共振周波数への悪影響を抑制することができる。また、振動領域の振動によって伸縮膜が破損することも抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/024865号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の構成において、スリットの開口面積が大きくなると、ロールオフ周波数特性が悪化することが知られている。この点、特許文献1に記載の構成においては、スリットの少なくとも一部を覆う伸縮膜を設けることで、スリットの開口面積を低減してロールオフ周波数特性の悪化を抑制しようとしている。一方、このような伸縮膜を設けると、振動領域の変形が抑制され、これにより感度低下が生じる懸念がある。本発明は、上記に例示した事情等に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、例えば、良好なロールオフ周波数特性と良好な感度特性とを両立させることを可能とする構成を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の電気音響変換器(1)は、
圧電材料によって形成された圧電膜(31)を備え、指向軸(CA)に沿った板厚方向を有する板状に形成された圧電素子部(3)と、
前記指向軸と直交する面内方向における前記圧電素子部の外縁部である固定端部(34a)を固定的に支持するように設けられた支持部(2)と、
前記板厚方向に前記圧電素子部と積層されつつ前記圧電素子部に接合された伸縮膜(4)と、
を備え、
前記圧電素子部は、
前記板厚方向に貫通する貫通孔(35)と、
前記面内方向としての前記固定端部から前記貫通孔に向かう延設方向に片持ち梁状に延設された振動部(34)と、
を備え、
前記伸縮膜は、少なくとも前記振動部の前記延設方向における先端側の自由端部(34b)を覆う振動板被覆部(41)と、前記貫通孔を覆う貫通孔被覆部(42)とを有し、
前記貫通孔被覆部は、前記貫通孔の内縁を構成する壁面である内縁面(35a)との接合箇所に設けられた周縁部(44)と、前記板厚方向における寸法が前記周縁部よりも小さく形成された薄肉部(45)とを有する。
【0007】
なお、出願書類中の各欄において、各要素に括弧付きの参照符号が付されている場合がある。この場合、参照符号は、同要素と後述する実施形態に記載の具体的構成との対応関係の単なる一例を示すものである。よって、本発明は、参照符号の記載によって、何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第一実施形態に係る電気音響変換器の概略的な構成を示す側断面図である。
図2図1に示された第一実施形態に係る電気音響変換器における圧電素子部および伸縮膜の概略的な構成を示す平面図である。
図3図1に示された第一実施形態に係る電気音響変換器における伸縮膜の各部の寸法関係を示す概略図である。
図4】本発明の第二実施形態に係る電気音響変換器の概略的な構成を示す側断面図である。
図5図4に示された第二実施形態に係る電気音響変換器における圧電素子部および伸縮膜の概略的な構成を示す平面図である。
図6図4に示された第二実施形態に係る電気音響変換器における伸縮膜の各部の寸法関係を示す概略図である。
図7図1および図4に示された圧電素子部における貫通孔の面内形状の一変形例を示す平面図である。
図8図1および図4に示された圧電素子部における貫通孔の面内形状の他の一変形例を示す平面図である。
図9図1および図4に示された圧電素子部における貫通孔の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図10図1および図4に示された圧電素子部における貫通孔の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図11図1および図4に示された圧電素子部における貫通孔の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図12図1および図4に示された圧電素子部における貫通孔の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図13図1および図4に示された圧電素子部における貫通孔の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図14図1および図4に示された圧電素子部における貫通孔の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図15図1および図4に示された圧電素子部における貫通孔の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図16図1および図4に示された圧電素子部における貫通孔の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図17図1および図4に示された圧電素子部における貫通孔の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図18図1および図4に示された圧電素子部における貫通孔の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図19図1および図4に示された電気音響変換器における伸縮膜の固定構造の一変形例を示す平面図である。
図20図1および図4に示された電気音響変換器におけるスリットおよび伸縮膜の形状の一変形例を示す平面図である。
図21図1および図4に示された薄肉部形成穴および薄肉部の面内形状の一変形例を示す平面図である。
図22図1および図4に示された薄肉部形成穴および薄肉部の面内形状の他の一変形例を示す平面図である。
図23図1および図4に示された薄肉部形成穴および薄肉部の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図24図1および図4に示された薄肉部形成穴および薄肉部の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図25図1および図4に示された薄肉部形成穴および薄肉部の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図26図1および図4に示された薄肉部形成穴および薄肉部の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図27図1および図4に示された薄肉部形成穴および薄肉部の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図28図1および図4に示された薄肉部形成穴および薄肉部の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図29図1および図4に示された薄肉部形成穴および薄肉部の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図30図1および図4に示された薄肉部形成穴および薄肉部の面内形状のさらに他の一変形例を示す平面図である。
図31】さらに他の変形例に係る圧電素子部および伸縮膜の概略的な構成を示す平面図である。
図32図4に示された厚肉部を有する伸縮膜における面内形状の一変形例を示す平面図である。
図33図4に示された厚肉部を有する伸縮膜における面内形状の他の一変形例を示す平面図である。
図34図4に示された厚肉部の形成態様の一変形例を示す側断面図である。
図35図4に示された厚肉部の形成態様の他の一変形例を示す側断面図である
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、一つの実施形態に対して適用可能な各種の変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中に挿入されると、当該実施形態の理解が妨げられるおそれがある。このため、変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中には挿入せず、その後にまとめて説明する。また、各図面の記載や、これに対応して以下に説明する装置構成やその機能あるいは動作の記載は、本発明の内容を簡潔に説明するために簡略化されたものであって、本発明の内容を何ら限定するものではない。このため、各図に示された例示的な構成と、実際に製造販売される具体的な構成とは、必ずしも一致するとは限らないということは、云うまでもない。すなわち、出願人が本願の出願経過により明示的に限定しない限りにおいて、本発明は、各図面の記載や、これに対応して以下に説明する装置構成やその機能あるいは動作の記載によって限定的に解釈されてはならないことは、云うまでもない。
【0010】
(第一実施形態)
図1および図2を参照しつつ、第一実施形態に係る電気音響変換器1について説明する。なお、図1は、図2におけるI-I断面図に相当する。また、説明の便宜上、図示の如く、Z軸が指向軸CAと平行となるように、右手系XYZ直交座標系を設定する。指向軸CAは、音波または超音波を送信または受信する電気音響変換器1における指向性の基準となる仮想直線であり、「指向中心軸」とも称され得る。指向軸CAは、典型的には、指向性の範囲、例えば、所定利得あるいは所定音響レベルが得られる範囲を、略円錐形状や略紡錘形状等の立体形状で表した場合の、当該立体形状の軸中心を示す仮想直線に相当するものである。具体的には、例えば、指向軸CAは、音圧半減角の中心軸である。
【0011】
指向軸CAに沿った方向、すなわち、指向軸CAと平行な方向を、以下「軸方向」と称する。よって、軸方向は、図中Z軸と平行な方向である。また、軸方向と交差する方向、典型的には、軸方向と直交する任意の方向を、「面内方向」と称する。「面内方向」は、図中XY平面と平行な方向である。面内方向における位置や形状を、以下「面内位置」や「面内形状」と称することがある。「面内形状」は、或る構成要素の形状をXY平面に写像した形状に相当する。「面内方向」は、場合によっては、「径方向」とも称され得る。「径方向」は、指向軸CAと直交しつつ当該指向軸CAから離隔する方向である。すなわち、「径方向」は、指向軸CAと直交する仮想平面と指向軸CAとの交点を起点として当該仮想平面内に半直線を描いた場合に、当該半直線が延びる方向と平行な方向である。換言すれば、「径方向」は、上記仮想平面と指向軸CAとの交点を中心として当該仮想平面内に円を描いた場合の、当該円の半径方向である。径方向のうち、指向軸CAに向かう方向を以下「求心方向」と称し、指向軸CAから遠ざかる方向を以下「遠心方向」と称する。また、「面内方向」は、場合によっては、「周方向」とも称され得る。「周方向」は、上記の円の円周方向である。
【0012】
電気音響変換器1は、いわゆる圧電MEMSマイクとしての構成を有している。MEMSはMicro Electro Mechanical Systemの略である。すなわち、電気音響変換器1は、図中Z軸正方向側の外部空間から伝播してきた音波または超音波の受信強度に対応する電気信号を発生するように構成されている。具体的には、図1に示されているように、電気音響変換器1は、支持部2と、圧電素子部3と、伸縮膜4とを備えている。以下、電気音響変換器1を構成する各部について順に説明する。なお、説明の簡略化のため、図中Z軸正方向側を「上」、Z軸負方向側を「下」と称することがある。これに対応して、図1における上方からZ軸と反対方向の視線で電気音響変換器1やその構成要素を見ることを、「平面視」と称することがある。さらに、軸方向に積層された多層構造において、最もZ軸正方向側すなわち上記の外部空間側の層を「最表層」と称したり、最もZ軸負方向側の層を「最下層」と称したりすることがある。また、Z軸正方向側に面する表面を「頂面」と称したり、Z軸負方向側に面する表面を「底面」と称したりすることがある。しかしながら、かかる記述は、あくまでも、電気音響変換器1の構成や作用・効果を簡略に説明するための便宜上のものであって、電気音響変換器1における指向軸CAの方向が重力作用方向と平行であることを意味するものではない。
【0013】
支持部2は、指向軸CAを囲む筒状あるいは環状に形成されている。本実施形態においては、支持部2は、指向軸CAを対称中心軸とする四角筒状あるいは四角環状の形状を有している。すなわち、支持部2は、径方向について一定厚さを有するとともに軸方向について一定高さを有していて指向軸CAと平行に配設された4枚の平板状の壁材が、継ぎ目なく一体に結合された構造を有している。また、支持部2は、面内形状が正方形状に形成されている。具体的には、支持部2における指向軸CAに面する内壁面22によって囲まれた空間である空洞部23は、正方形状の面内形状を有する四角柱状に形成されている。かかる空洞部23は、支持部2の図中Z軸正方向側の端面である上端面24が圧電素子部3と接合されることで、圧電素子部3により覆われている。支持部2は、例えば、アルミナ等のセラミックスやシリコン系の半導体基板等により形成され得る。
【0014】
圧電素子部3は、指向軸CAすなわち軸方向に沿った板厚方向を有する板状に形成されている。すなわち、圧電素子部3における一対の主面である上側表面30aおよび下側表面30bは、指向軸CAと直交する平面状に形成されている。「主面」は、板状の部分または部材における、板厚方向と直交する表面である。圧電素子部3は、下側表面30bの径方向における外縁部にて、支持部2における上端面24に接合されることで、支持部2に固定的に支持されている。本実施形態においては、支持部2の面内形状に対応して、圧電素子部3は、正方形状の面内形状に形成されている。圧電素子部3は、圧電材料によって形成された圧電膜31と、導電性材料によって形成された電極膜32とを備えている。本実施形態においては、圧電膜31は、圧電材料である窒化スカンジウムアルミニウム等により薄膜状に形成されている。また、圧電素子部3は、複数の圧電膜31を、電極膜32を挟んで軸方向に積層した、多層構造を有している。銅箔等の金属薄膜からなる電極膜32は、圧電膜31の両面に設けられている。
【0015】
圧電素子部3は、固定部33と振動部34とを有している。固定部33は、圧電素子部3の径方向における外縁部であって、支持部2における上端面24に接合されることで支持部2に固定されている。振動部34は、固定部33よりも径方向における内側すなわち求心方向側に設けられている。振動部34は、固定端部34aと自由端部34bとを有し、固定端部34aから自由端部34bに向かう延設方向に延設された片持ち梁状に形成されている。固定端部34aは、振動部34すなわち圧電素子部3の径方向における外縁部に設けられていて、支持部2により固定的に支持されている。
【0016】
本実施形態においては、圧電素子部3には、指向軸CAに向かって求心方向に延設された振動部34が、指向軸CAまわりの周方向に複数配列されている。具体的には、圧電素子部3の面内方向における中心位置には、圧電素子部3を板厚方向に貫通する貫通孔35が形成されている。貫通孔35は、面内形状が指向軸CAを中心とする円形状に形成されている。すなわち、貫通孔35は、円筒内面状の内周面である内縁面35aを有している。内縁面35aは、貫通孔35の内縁を構成する壁面である。圧電素子部3における振動領域である、複数の振動部34の各々は、固定部33すなわち固定端部34aから貫通孔35に向かって延設されていて、自由端部34bが指向軸CAに沿って移動する態様で振動可能に設けられている。複数の振動部34の各々は、同一の面内形状に形成されていて、周方向について等間隔に配置されている。より詳細には、圧電素子部3は、X軸と平行に延設されつつ貫通孔35を挟んで向き合う一対の振動部34と、Y軸と平行に延設されつつ貫通孔35を挟んで向き合う一対の振動部34とを備えている。図2における上側の振動部34は、Y軸負方向が延設方向となりX軸方向が幅方向となるように形成されている。同図における下側の振動部34は、Y軸正方向が延設方向となりX軸方向が幅方向となるように形成されている。同図における右側の振動部34は、X軸負方向が延設方向となりY軸方向が幅方向となるように形成されている。同図における左側の振動部34は、X軸正方向が延設方向となりY軸方向が幅方向となるように形成されている。
【0017】
振動部34の幅方向における、振動部34の両端には、スリット36が設けられている。スリット36は、圧電素子部3を厚さ方向に貫通するように形成されている。すなわち、振動部34は、一対のスリット36の間に設けられている。本実施形態においては、スリット36は、一定幅で形成されている。スリット36の「幅」を規定する方向は、スリット36が延びる方向および板厚方向と直交する方向であって、具体的には図中Z軸と直交し且つX軸およびY軸と45度交差する方向である。そして、振動部34が4個設けられていることに対応して、圧電素子部3には、4本のスリット36が、それぞれ、圧電素子部3の正方形状における角から指向軸CAに向かって延設されている。スリット36は、貫通孔35と連通するように設けられている。すなわち、スリット36は、貫通孔35から放射状に延設されている。
【0018】
伸縮膜4は、板厚方向に圧電素子部3と積層された状態で、圧電素子部3に接合されている。伸縮膜4は、圧電素子部3における上側表面30a側から、貫通孔35ならびにその周囲の振動部34およびスリット36の一部分(すなわち自由端部34b側の部分)を覆うように設けられている。すなわち、伸縮膜4は、上側表面30a上に膜形成されている。本実施形態においては、伸縮膜4は、貫通孔35よりも大きな外形を有し対角線がX軸およびY軸と平行となる正方形状の面内形状を有している。伸縮膜4は、圧電素子部3よりも高い伸縮性を有している。具体的には、伸縮膜4は、合成樹脂材料(例えば感光性樹脂材料)によって、ヤング率が振動部34の1/10以下となるように形成されている。
【0019】
伸縮膜4は、振動板被覆部41と貫通孔被覆部42とを有している。振動板被覆部41は、少なくとも、振動部34の延設方向における先端側の自由端部34b、および、スリット36における貫通孔35と連通する部分を覆うように設けられている。振動板被覆部41は、軸方向における厚さが略一定に形成されている。貫通孔被覆部42は、貫通孔35を覆うように設けられている。すなわち、貫通孔被覆部42は、面内方向における貫通孔35に対応する位置に配置されている。そして、貫通孔被覆部42は、貫通孔35を閉塞するように設けられている。より詳細には、貫通孔被覆部42は、周方向の全体にわたって貫通孔35の内縁面35aと隙間なく密着するように、貫通孔35内に収容されている。また、本実施形態においては、貫通孔被覆部42は、貫通孔35の板厚方向における全体にわたって設けられている。換言すれば、貫通孔被覆部42は、軸方向について、振動板被覆部41の最表面すなわち図1における上端部から圧電素子部3の下側表面30bに至る範囲で形成されている。
【0020】
貫通孔被覆部42は、薄肉部形成穴43と、周縁部44と、薄肉部45とを有している。非貫通穴である薄肉部形成穴43は、図中Z軸正方向に向かって開口するように形成されている。本実施形態においては、薄肉部形成穴43は、軸方向に沿って設けられた丸穴形状を有している。薄肉部形成穴43は、貫通孔35における内縁面35aとの接合箇所に設けられた筒状の周縁部44の、径方向における内側の内周面を構成するように設けられている。すなわち、周縁部44は、円筒状に形成されている。周縁部44は、軸方向について、振動板被覆部41の図1における上端部から圧電素子部3の下側表面30bに至る範囲で設けられている。換言すれば、周縁部44は、板厚方向における寸法が振動部34よりも大きく形成されている。薄肉部45は、周縁部44よりも径方向における内側に設けられている。薄肉部45は、板厚方向における寸法が周縁部44よりも小さく形成されている。薄肉部45は、伸縮膜4における膜厚が最も薄い部分であって、板厚方向における寸法が振動部34すなわち圧電素子部3よりも小さく形成されている。薄肉部45は、貫通孔被覆部42の板厚方向における一方側の端部、具体的には薄肉部形成穴43の底部に設けられている。
【0021】
図3は、圧電素子部3と伸縮膜4との寸法関係を示す。図3において、縦軸Zは、各図におけるZ軸と平行な板厚方向における位置を示し、原点(すなわちZ=0)は梁裏面Paの位置である。梁裏面Paは、片持ち梁構造の振動部34における、底面すなわち空洞部23側の主面である。具体的には、梁裏面Paは、図1における下側表面30b、あるいは、振動部34が有する多層構造における最下層の底面すなわち空洞部23に面する主面である。振動部34が有する多層構造における最下層は、例えば、最も空洞部23側に設けられた圧電膜31の底面に接合された電極膜32あるいはこれを被覆するコーティング層である。梁表面Pbは、振動部34における、梁裏面Paとは反対側の主面である。具体的には、梁表面Pbは、図1における上側表面30a、あるいは、振動部34が有する多層構造における最表層の主面である。多層構造における最表層は、例えば、最も振動板被覆部41側すなわち外部空間側に設けられた圧電膜31の頂面上に形成された電極膜32あるいはこれを被覆するコーティング層である。
【0022】
膜表面Pcは、伸縮膜4における振動板被覆部41の頂面すなわち外部空間に面する表面である。穴部表面Pdは、伸縮膜4における、貫通孔35に対応する面内位置での表面すなわち頂面である。なお、図3においては、伸縮膜4を、薄肉部形成穴43を設けずに梁表面Pb上に一定膜厚で形成することを企図して膜形成した状態を仮定した場合の、膜表面Pcおよび穴部表面Pdが、異なる複数の膜形成条件すなわち膜厚条件について、二点鎖線で示されている。薄肉部形成穴43が形成されている場合、穴部表面Pdは、薄肉部形成穴43の底面、すなわち、薄肉部45の頂面である。T1は、薄肉部45の厚さすなわち板厚方向における寸法である。T2は、振動部34すなわち圧電素子部3の厚さである。S1は、縦軸Zにおける、梁表面Pbの位置である。H1は、縦軸Zにおける、膜表面Pcの位置である。H2は、縦軸Zにおける、穴部表面Pdの位置である。
【0023】
伸縮膜4を、薄肉部形成穴43を設けずに梁表面Pb上に一定膜厚で形成しようとしても、圧電素子部3に貫通孔35を形成した影響で、図3にて二点鎖線で示されているように、貫通孔35に対応する面内位置にて、成り行きで浅い窪みあるいは凹部が生じることがあり得る。この点、本実施形態における薄肉部形成穴43は、このような、成り行きで生じた窪みあるいは凹部とは異なる。具体的には、例えば、伸縮膜4をスピンコート法で形成する場合、回転数を上昇させると、H1の高さが低くなり、これに対応してH2の高さも低くなる。しかしながら、薄肉部形成穴43を形成するための穴形成加工を行わない限り、H2は、S1よりも低くはならない。これに対し、薄肉部形成穴43を形成するための穴形成加工を行うことで、図3に示されているように、H2をS1よりも低く設定することが可能となる。このように、本実施形態においては、伸縮膜4すなわち貫通孔被覆部42は、H2<S1となるように形成されている。なお、上記の穴形成加工としては、例えば、感光性樹脂材料を用いた露光パターニング加工や、エキシマレーザの照射によるアブレーション加工等を用いることが可能である。
【0024】
(効果)
以下、本実施形態の構成による動作概要を、同構成により奏される効果とともに、各図面を参照しつつ説明する。
【0025】
本実施形態に係る電気音響変換器1においては、一対のスリット36の間に設けられた振動部34は、自由端部34bが指向軸CAに沿って図1にて上下に移動する態様で撓み振動する。そして、電気音響変換器1は、かかる撓みによる歪みと、圧電膜31の両面に設けられた一対の電極膜32の間の電圧との変換機能を有する。よって、例えば、音波あるいは超音波の受信による振動部34の撓み振動が、電極間電圧として取り出される。このようにして、電気音響変換器1は、図中Z軸正方向側の外部空間から伝播してきた音波または超音波の受信強度に対応する電気信号を発生する。
【0026】
ここで、圧電素子部3には、貫通孔35およびスリット36を形成することにより、片持ち梁状の振動部34が複数設けられている。このような構成においては、残留応力に起因する圧電膜31の湾曲によって振動部34に反りが発生すると、貫通孔35およびスリット36による開口幅すなわちギャップが大きくなって音響抵抗が低下し、低周波帯域における特性が劣化する。また、開口面積が大きくなると、ロールオフ周波数特性が悪化する。この点、本実施形態においては、片持ち梁状の振動部34における先端側の自由端部34bの周囲に設けられた、貫通孔35、および、スリット36の一部が、伸縮膜4によって覆われる。これにより、振動部34における反りの発生が良好に抑制されるとともに、開口面積が低減される。よって、音響抵抗の低下やロールオフ周波数特性の悪化が、良好に抑制される。
【0027】
一方、伸縮膜4を設けることで、振動部34における撓み変形が抑制され、これにより感度低下が生じる懸念がある。この点、上記の通り、成膜条件により伸縮膜4を薄膜化しようとしても、限界がある。そこで、本実施形態においては、伸縮膜4は、ヤング率が振動部34の1/10以下となるように形成されている。また、伸縮膜4における、貫通孔35を覆う貫通孔被覆部42に、薄肉部45が設けられている。これにより、伸縮膜4を設けても、振動部34が良好に撓み変形することが可能となる。したがって、本実施形態によれば、良好なロールオフ周波数特性と良好な感度特性とを両立させることが可能となる。
【0028】
(第二実施形態)
以下、第二実施形態について、図4図6を参照しつつ説明する。なお、以下の第二実施形態の説明においては、主として、上記第一実施形態と異なる部分について説明する。また、第一実施形態と第二実施形態とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の第二実施形態の説明において、第一実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記第一実施形態における説明が適宜援用され得る。
【0029】
本実施形態においては、貫通孔被覆部42は、板厚方向における寸法が薄肉部45よりも大きく形成された厚肉部46をさらに有している。厚肉部46は、上記第一実施形態において均一厚さに形成されていた薄肉部45のうちの、面内方向における一部分を厚膜化した部分に相当する。具体的には、厚肉部46は、薄肉部45から、指向軸CAに沿って、図4における上方すなわちZ軸正方向に突設されている。より詳細には、厚肉部46は、図4および図5に示されているように、指向軸CAを中心軸とする円柱状に形成されている。また、図6に示されているように、伸縮膜4すなわち貫通孔被覆部42は、H2<H3<H1となるように形成されている。H3は、厚肉部46の頂面の位置であり、厚肉部46の薄肉部45からの突出高さをT3とすると、H3=T1+T3である。このように、薄肉部45の一部を厚膜化することで、薄肉部45を設けることによる感度向上に加えて、信頼性向上を図ることが可能となる。
【0030】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。故に、上記実施形態に対しては、適宜変更が可能である。以下、代表的な変形例について説明する。以下の変形例の説明においては、上記実施形態との相違点を主として説明する。また、上記実施形態と変形例とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の変形例の説明において、上記実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記実施形態における説明が適宜援用され得る。
【0031】
本発明は、上記実施形態に記載された具体的な装置構成に限定されない。すなわち、上述した通り、上記実施形態の記載は、本発明の内容を簡潔に説明するために簡略化されたものである。このため、実際に製造販売される製品に通常設けられる構成要素、例えば、ケーシングや接合材(すなわち接着剤等)や端子や配線等は、上記実施形態やこれに対応する図面において、図示や説明が適宜省略されている。
【0032】
支持部2は、指向軸CAを囲む円筒状、楕円筒状、三角筒状、五角筒状、六角筒状、八角筒状、等の形状を有していてもよい。あるいは、支持部2は、指向軸CAを囲む円環状、楕円環状、三角環状、五角環状、六角環状、八角環状、等の形状を有していてもよい。同様に、圧電素子部3は、円状、楕円状、三角形状、五角形状、六角形状、八角形状、等の形状を有していてもよい。
【0033】
上記実施形態においては、圧電素子部3は、支持部2における上端面24に固定されているが、本発明は、かかる態様に限定されない。すなわち、例えば、圧電素子部3の面内方向あるいは径方向における外側の端縁が、支持部2における内壁面22に設けられた溝や接着層等により固定されていてもよい。この場合、固定部33と固定端部34aとは一致する。
【0034】
圧電素子部3に設けられる振動部34の個数についても、特段の限定はない。すなわち、例えば、圧電素子部3は、国際公開第2007/060768号に記載の構成と同様に、互いに向き合う一対の四角形状の振動部34を備えていてもよい。あるいは、例えば、圧電素子部3は、三個のあるいは五個以上の振動部34を備えていてもよい。
【0035】
貫通孔35の面内形状も、特段の限定はない。すなわち、例えば、図7図8に示されているように、貫通孔35は、四角形状に形成され得る。貫通孔35の向きについても、特段の限定はない。すなわち、例えば、正方形状の貫通孔35は、図7に示されているように各辺がX軸またはY軸と平行となるように設けられていてもよいし、図8に示されているように各辺がX軸またはY軸に対して所定角度(典型的には45度)傾斜するように設けられていてもよい。また、図9図10に示されているように、貫通孔35は、十字あるいはX字形状を有していてもよい。ここで、図10に示されているように、貫通孔35が、スリット36に沿って遠心方向に突出する四つの四角形状の突出部350を有するX字状に形成され、突出部350の幅方向がスリット36の幅方向と平行となる場合、突出部350は、スリット36の一部すなわち幅を広げた部分と捉えることが可能である。なお、図9図10における突出部350は、図11に示されているように、台形状に形成され得る。
【0036】
図12図13に示されているように、貫通孔35は、楕円十字状に形成され得る。「楕円十字状」とは、二つの楕円を十字状に重ねた形状である。具体的には、「楕円十字状」は、面内形状が同一で中心点を共通とする二つの楕円を、一方の長軸と他方の長軸とが交差(典型的には直交)するように重ねた形状である。ここで、図13の例においても、図10の例と同様に、スリット36における貫通孔35との連通箇所の幅が広げられた構成と捉えることが可能である。貫通孔35を楕円十字状に形成して端を丸めることで、貫通孔35と伸縮膜4の交わりを直交から回避することができ、以て信頼性を高めることが可能となる。
【0037】
貫通孔35およびこれを覆う(すなわち閉塞する)伸縮膜4における貫通孔被覆部42の面内形状と感度との関係について、以下考察する。伸縮膜4のバネ定数をk1とし、振動部34のバネ定数をk2とすると、全体の共振周波数を低減するためには、k1やk2を小さくする必要がある。ここで、バネ定数を小さくするためには、長さを増大するか、断面二次モーメントを低減するか、ヤング率を小さくするか、応力を小さくする必要がある。そこで、上記実施形態においては、伸縮膜4として低ヤング率の合成樹脂材料を用いた。また、貫通孔被覆部42に薄肉部45を設けて段差を形成した。一方、面内形状については、長さ増大および断面二次モーメント低減の観点から、上記実施形態のような円形、あるいは、これと同視し得る形状とすることが好適である。円形と同視し得る形状は、例えば、図14図16に示されているような多角形すなわちN角形である。好適にはNは5以上の整数であって、より好適には正N角形であり、さらに好適にはNは6や8や12等である。図14は正六角形の例を示し、図15および図16は正八角形の例を示す。Nの値が大きいほど(例えばN=16や24等)、円形に近づくため、円形とほぼ同一の効果が得られる。また、図15および図16に示されているように、N角形や正N角形の向きについても特段の限定はない。N角形における角部を丸めることも可能である。さらに、図17に示されているような星形多角形や、その角部を丸めた図18に示されている形状や、歯車形状や、円周に沿った正弦波形状も採用され得る。
【0038】
図19は、伸縮膜4およびその固定構造の別例を示す。なお、図19においては、振動部34における伸縮膜4を支持固定するための構造を視認しやすくするため、伸縮膜4を想像線すなわち二点鎖線で示している。図19に示されているように、本変形例においては、伸縮膜4は、貫通孔35の外径よりも小さな外径を有する略円柱状に形成されている。すなわち、図2図5に示された、振動部34における自由端部34bとスリット36の一部とを覆う振動板被覆部41は、本変形例においては、実質的には設けられていない。一方、平面視にて、貫通孔35の内縁と伸縮膜4の外縁との間には、圧電素子部3を板厚方向に貫通する隙間Gが設けられている。すなわち、隙間Gは、貫通孔35の径方向における外縁部に相当する。そして、振動部34は、伸縮膜4を固定するための把持爪351を備えている。把持爪351は、自由端部34bから貫通孔35に向かって突設されている。
【0039】
本変形例においては、貫通孔35内に設けられた伸縮膜4を、自由端部34bから貫通孔35に向かって突設した複数の把持爪351で把持した構造により、振動部34の反りが良好に抑制され得る。また、板厚方向に圧電素子部3を貫通する隙間Gを設けるとともに、スリット36の末端部すなわち貫通孔35との接続部を伸縮膜4で覆わない構造とすることで、伸縮膜4を設けることによる感度低下を良好に抑制することが可能となる。したがって、本変形例によれば、良好なロールオフ周波数特性と良好な感度特性とを両立させることが可能となる。
【0040】
スリット36の面内形状についても、図2等で示されているような一定幅の直線状の形状に限定されない。よって、例えば、スリット36は、指向軸CAに向かうにつれて幅が連続的すなわち直線的に増加するテーパ状に形成されていてもよい。あるいは、スリット36は、指向軸CAに向かうにつれて幅が断続的すなわちステップ状に増加する段付き形状に形成されていてもよい。あるいは、スリット36は、テーパ形状と段付き形状とを組み合わせた形状に形成されていてもよい。図20は、スリット36が、幅が二段階で変化する段付き形状に形成された例を示す。図20に示された例においては、スリット36における末端部すなわち貫通孔35との接続部には、広幅部361が形成されている。広幅部361における遠心方向側の端縁である外端縁362は、平面視にて、スリット36の延びる方向と直交する段差部として設けられている。この場合、面内形状が四角形状の貫通孔35と、かかる貫通孔35から放射状に延びる四つの広幅部361とは、図10に示されたX字状の貫通孔35に相当する。
【0041】
伸縮膜4は、スリット36の延設方向における全体ではなくその一部を閉塞するように設けられている。すなわち、伸縮膜4は、スリット36における広幅部361以外の部分(すなわち狭幅部)と、広幅部361における外端縁362とを閉塞しないように設けられている。具体的には、かかる外端縁362と伸縮膜4の外縁401との間には、隙間Gが形成されている。また、本変形例においては、貫通孔35と広幅部361とが形成する平面視X字形状に対応して、伸縮膜4は、平面視にてX字状に形成されている。すなわち、伸縮膜4は、平面視にて貫通孔35からスリット36すなわち広幅部361に沿って遠心方向に延設された形状を有している。よって、伸縮膜4は、指向軸CAを囲む周方向に配列された四つの切欠部402を有していると捉えることが可能である。切欠部402は、V字を形成するように周方向に隣接する一対の振動板被覆部41の間に設けられている。かかる構成によっても、良好なロールオフ周波数特性と良好な感度特性とを両立させることが可能となる。
【0042】
なお、広幅部361は、指向軸CAに向かうにつれて幅が連続的あるいは断続的に変化する形状に形成されていてもよい。連続的な変化は、直線状であってもよいし、曲線状、例えば、円弧状、楕円弧状、あるいは双曲線状であってもよい。スリット36における狭幅部についても同様である。また、広幅部361における外端縁362は、平面視にて、曲線状に形成されていてもよいし、狭幅部の延設方向に対して傾斜する直線状に形成されていてもよい。その他、スリット36における面内形状については、特段の限定はない。
【0043】
伸縮膜4は、軸方向すなわち圧電素子部3の厚さ方向について、スリット36の内部に進入していてもよいし、進入せずにスリット36を外側から被覆するように設けられていてもよい。また、伸縮膜4は、圧電素子部3の上側表面30a側に設けられる態様に限定されない。すなわち、上記実施形態においては、伸縮膜4は、梁(すなわち振動部34)の表面上に重ねる形で形成されているが、本発明は、かかる態様には限定されない。よって、密着性が担保されていれば、必ずしも梁の表面にある必要はない。したがって、例えば、伸縮膜4は、圧電素子部3の下側表面30b側から成膜されてもよい。密着性が低い場合、梁の縮む側、あるいは、上下に引っ張られる力により破断するため、密着性が低い場合は表面への被覆が必要となってくる。被覆する場合、梁の表面の伸縮膜4の被覆は、梁が硬くなることに繋がり、変形しづらくなり、感度低下の要因となるため、不用意に被覆量を増やすことは望ましくない。
【0044】
伸縮膜4の面内形状についても、特段の限定はない。すなわち、例えば、伸縮膜4の外形形状は、図2図5に示されているような正方形状や、図19に示されているような円形状や、図20に示されているような十字あるいはX字形状の他に、楕円十字状やN角形状や星形多角形状であってもよい。また、薄肉部形成穴43あるいは薄肉部45の面内形状も、図21図22に示されているような四角形(例えば正方形)状や、図23図26に示されているN角形(例えば正N角形)状や、図27図28に示されているような十字あるいはX字状や、図29図30に示されているような楕円十字状であってもよい。
【0045】
図31は、内壁面22が円筒内面状であり、3つの扇形状の振動部34が周方向に配置され、三角形状の貫通孔35が形成され、3本のスリット36が三角形状の貫通孔35における各辺と交わるように設けられた構成例を示す。図31に示された構成例においては、伸縮膜4が略三角形状に形成されている。具体的には、薄肉部形成穴43は三角形状に形成され、周縁部44は三角筒状に形成されている。かかる構成例においても、多角形化による効果が良好に奏され得る。なお、図31においては、伸縮膜4の略三角形状における3つの角部の各々には、切欠部402が設けられている。そして、かかる切欠部402の両側にて外側に突出するように設けられた振動板被覆部41によって、伸縮膜4が貫通孔35内にて係止されている。しかしながら、本発明は、かかる構成に限定されない。すなわち、切欠部402は、必須ではない。また、隙間Gは、設けられていなくてもよい。
【0046】
厚肉部46の面内形状や配置個数についても、特段の限定はなく、設計に応じて適宜設定され得る。具体的には、例えば、図32に示されているように、厚肉部46は、複数個設けられていてもよい。また、図33に示されているように、厚肉部46は、周縁部44と連続的に形成されていてもよい。すなわち、厚肉部46は、面内方向に対向する周縁部44同士を接続するように設けられていてもよい。この場合、かかる厚肉部46は、複数設けられ得る。図33は、二つの交差する厚肉部46によって十字形状あるいはX字形状が形成された例を示す。
【0047】
さらに、図34に示されているように、厚肉部46は、貫通孔被覆部42における応力集中箇所403に設けられ得る。かかる構成によれば、応力集中箇所403を厚くすることで、信頼性を向上することが可能となる。なお、応力集中箇所403は、例えば、接合・連結箇所、クラック等の欠陥の発生箇所、点対称部(すなわち例えば中央位置等)、エッジ部、等である。このため、図5図32図33の例のように、厚肉部46は、薄肉部45の少なくとも中央位置に設けられることが好適である。また、図35に示されているように、厚肉部46の薄肉部45からの立ち上がり部分に厚さすなわち突出高さが連続的あるいは断続的に変化する移行部461を設けることで、信頼性をよりいっそう向上することが可能となる。また、例えば、図1図4図31図32、および図33において、筒状の周縁部44と薄板状の薄肉部45との境界位置に、厚肉部46としての移行部461を設けることで、かかる境界位置における応力集中の発生が良好に抑制され得る。
【0048】
上記の説明において、互いに継ぎ目無く一体に形成されていた複数の構成要素は、互いに別体の部材を貼り合わせることによって形成されてもよい。同様に、互いに別体の部材を貼り合わせることによって形成されていた複数の構成要素は、互いに継ぎ目無く一体に形成されてもよい。また、上記の説明において、互いに同一の材料によって形成されていた複数の構成要素は、互いに異なる材料によって形成されてもよい。同様に、互いに異なる材料によって形成されていた複数の構成要素は、互いに同一の材料によって形成されてもよい。
【0049】
上記実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に本発明が限定されることはない。同様に、構成要素等の形状、方向、位置関係等が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に特定の形状、方向、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、方向、位置関係等に本発明が限定されることはない。
【0050】
変形例も、上記の例示に限定されない。すなわち、例えば、複数の実施形態が複合的に適用され得る。換言すれば、一の実施形態の一部と、他の一の実施形態の一部とが、組み合わされ得る。複数の実施形態の組み合わせの際の個数や態様についても特段の限定はない。また、複数の実施形態のうちの任意の1つと、複数の変形例のうちの任意の1つとが、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。同様に、複数の変形例のうちの1つと他の1つとが、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。
【0051】
(開示内容)
上記の通りの実施形態および変形例についての説明から明らかなように、本明細書には、少なくとも以下の観点が開示されている。
[観点1]
電気音響変換器(1)であって、
圧電材料によって形成された圧電膜(31)を備え、指向軸(CA)に沿った板厚方向を有する板状に形成された圧電素子部(3)と、
前記指向軸と直交する面内方向における前記圧電素子部の外縁部である固定端部(34a)を固定的に支持するように設けられた支持部(2)と、
前記板厚方向に前記圧電素子部と積層されつつ前記圧電素子部に接合された伸縮膜(4)と、
を備え、
前記圧電素子部は、
前記板厚方向に貫通する貫通孔(35)と、
前記面内方向としての前記固定端部から前記貫通孔に向かう延設方向に片持ち梁状に延設された振動部(34)と、
を備え、
前記伸縮膜は、少なくとも前記振動部の前記延設方向における先端側の自由端部(34b)を覆う振動板被覆部(41)と、前記貫通孔を覆う貫通孔被覆部(42)とを有し、
前記貫通孔被覆部は、前記貫通孔の内縁を構成する壁面である内縁面(35a)との接合箇所に設けられた周縁部(44)と、前記板厚方向における寸法が前記周縁部よりも小さく形成された薄肉部(45)とを有する、
電気音響変換器。
[観点2]
前記貫通孔、前記伸縮膜、または前記薄肉部は、前記面内方向における形状が円形状または多角形状に形成された、
観点1に記載の電気音響変換器。
[観点3]
前記貫通孔被覆部は、前記板厚方向における寸法が前記薄肉部よりも大きく形成された厚肉部(46)をさらに有する、
観点1または2に記載の電気音響変換器。
[観点4]
前記厚肉部は、前記貫通孔被覆部における応力集中箇所に設けられた、
観点3に記載の電気音響変換器。
[観点5]
前記伸縮膜は、ヤング率が前記振動部の1/10以下となるように形成された、
観点1~4のいずれか1つに記載の電気音響変換器。
[観点6]
前記伸縮膜は、感光性樹脂材料によって形成された、
観点1~5のいずれか1つに記載の電気音響変換器。
[観点7]
前記貫通孔被覆部は、前記貫通孔の前記板厚方向における全体にわたって設けられた、
観点1~6のいずれか1つに記載の電気音響変換器。
[観点8]
前記薄肉部は、前記貫通孔被覆部の前記板厚方向における一方側の端部に設けられた、
観点1~7のいずれか1つに記載の電気音響変換器。
[観点9]
前記薄肉部は、前記板厚方向における他方側に向かって開口するように前記伸縮膜に形成された薄肉部形成穴(43)の底部に設けられた、
観点8に記載の電気音響変換器。
[観点10]
前記周縁部は、前記板厚方向における寸法が前記振動部よりも大きく形成された
観点1~9のいずれか1つに記載の電気音響変換器。
[観点11]
前記薄肉部は、前記板厚方向における寸法が前記振動部よりも小さく形成された、
観点1~10のいずれか1つに記載の電気音響変換器。
[観点12]
前記圧電素子部は、前記貫通孔を挟んで向き合う一対の前記振動部を備えた、
観点1~11のいずれか1つに記載の電気音響変換器。
【符号の説明】
【0052】
1 電気音響変換器
3 圧電素子部
34 振動部
34a 固定端部
34b 自由端部
35 貫通孔
35a 内縁面
4 伸縮膜
42 貫通孔被覆部
45 薄肉部
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