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特開2024-90853光学フィルムおよびそれを用いた偏光フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090853
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】光学フィルムおよびそれを用いた偏光フィルム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240627BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20240627BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240627BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240627BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240627BHJP
   B32B 27/04 20060101ALI20240627BHJP
   B32B 5/08 20060101ALI20240627BHJP
   B32B 5/10 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/1335 510
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
B32B7/023
B32B27/30 102
B32B27/04 Z
B32B5/08
B32B5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207011
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(71)【出願人】
【識別番号】591121513
【氏名又は名称】クラレトレーディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】山田 佳実
(72)【発明者】
【氏名】細木 朋哉
(72)【発明者】
【氏名】勝谷 郷史
(72)【発明者】
【氏名】小野木 祥玄
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 康平
【テーマコード(参考)】
2H149
2H291
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AB03
2H149BA02
2H149BA12
2H149CA02
2H149DA02
2H149DA12
2H149EA02
2H149EA12
2H149EA22
2H149FA01X
2H149FA03W
2H149FA03Y
2H149FA12Z
2H149FA13Z
2H149FA61
2H149FD03
2H149FD09
2H149FD12
2H149FD25
2H291FA22
2H291FA94
2H291FA95
4F071AA28
4F071AD01
4F071AF30Y
4F071AF35
4F071AH12
4F071BB03
4F071BC01
4F071BC12
4F100AK21A
4F100AK21B
4F100AK42A
4F100BA02
4F100BA07
4F100DG01A
4F100DH02A
4F100EJ37A
4F100EJ52
4F100GB41
4F100JN01A
4F100JN10A
4F100JN18A
(57)【要約】      (修正有)
【課題】比較的単純な構成で偏光依存性の散乱機能を有し、安価に液晶表示装置の輝度および光利用効率の向上が可能な光学フィルムおよび偏光フィルムを提供する。
【解決手段】少なくとも1種以上のポリマーを含むポリマーマトリックスと、
前記ポリマーマトリックス内に長手方向に略平行状態に配置された、少なくとも1種のポリマーよりなる複数の単繊維を含み、
前記単繊維の長手方向の屈折率が、前記ポリマーマトリックの前記単繊維の長手方向と平行な方向の屈折率と異なり、
前記単繊維の長手方向に直交する方向に平行な偏光を入射させた際のヘイズ値が20%以下、
前記単繊維の長手方向と平行な偏光を入射させた場合の透過率が60%以下、
前記単繊維の径が500nm以下、
前記単繊維の前記ポリマーマトリックス中の体積分率が10%以上である光学フィルム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種以上のポリマーを含むポリマーマトリックスと、
前記ポリマーマトリックス内に長手方向に略平行状態に配置された、少なくとも1種のポリマーよりなる複数の単繊維を含み、
前記単繊維の長手方向の屈折率が、前記単繊維の長手方向と平行な方向の前記ポリマーマトリックスの屈折率と異なり、
前記単繊維の長手方向に直交する方向に平行な偏光を入射させた際のヘイズ値が20%以下、
前記単繊維の長手方向と平行な偏光を入射させた場合の透過率が60%以下、
前記単繊維の径が500nm以下、
前記単繊維の前記ポリマーマトリックス中の体積分率が10%以上である光学フィルム。
【請求項2】
前記ポリマーマトリクスが実質的に水溶性である請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記ポリマーマトリックスが含む少なくとも1種のポリマーがポリビニルアルコールを主な構成要素とするポリマーである請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記ポリマーマトリックスがポリビニルアルコールを20から100質量%含む請求項3に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記単繊維が含む少なくとも1種のポリマーが複屈折性を有する請求項1から4のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項6】
複数の前記単繊維を一群とする繊維構造体を複数含む請求項1から5のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の光学フィルムとポリビニルアルコールフィルムとが直接積層している偏光フィルム。
【請求項8】
少なくとも1種のポリマーを含む海相と、少なくとも1種のポリマーを含む島相が長手方向に連続して存在する断面海島構造を有する複合繊維を製造する工程、
前記複合繊維を複数束ねて繊維束を作製する工程、
前記繊維束における各前記複合繊維を互いに融着させ、フィルム状に成形する工程、
を含む、請求項1から6のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記複合繊維を延伸する工程を、前記繊維束を作製する工程の前に含む請求項8に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光分離性能を有する光学フィルム、光学フィルムの製造方法、および光学フィルムを有する偏光フィルムに関する。特に液晶表示装置に適した光学フィルム等に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビ、スマートフォンなどの液晶表示装置ではバックライト側の偏光フィルムを透過してバックライトから液晶層に取り込まれる光は理論上50%が限界であり、残り50%は偏光フィルムで吸収されていた。この吸収を低減して光利用効率を高め、輝度向上および低消費電力化の要望が高まっている。
この課題に対して、偏光フィルムで吸収される偏光を、偏光フィルム入射前に反射させバックライト側でリサイクルして光利用効率、輝度を向上させる輝度向上光学フィルムの検討がなされてきた。
【0003】
例えば、3M社のDBEF(登録商標)という商品が市販されている。DBEF(登録商標)は数百層以上の複層構成となっており、光の干渉により片方の偏光を透過させ、もう一方の偏光を反射させている。安定した光干渉機能を発現させるには各層の厚み制御、および各層の屈折率制御に高い技術を要する。
また特許文献1にはアスペクト比が1以上である散乱粒子を、該散乱粒子とは屈折率が異なる支持媒質中にほぼ一方向に分散配列する異方性散乱素子が提案されている。しかし散乱粒子をほぼ一方向に配列することは困難である。
【0004】
特許文献2では散乱繊維を充填剤中に配向して配置した複合繊維をポリマーマトリックス中に配置する構成が提案されている。しかし本構成では、反射光が大きく、光学性能は十分ではなかった。
【0005】
特許文献3では二色性色素を含浸した熱可塑性樹脂繊維を単一方向に並べた繊維と、光干渉機能を有する繊維を同一方向面上に並べ、光学樹脂に内包させる輝度上昇機能を有する偏光板が提案されている。しかし、本構成では光干渉機能を有する繊維を複数本並べ、かつ光干渉機能の方向を同一方向にそろえる必要があり、偏光板の大面積化、低コスト化は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3090890号
【特許文献2】特許第5209326号
【特許文献3】特開2007-233243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のとおり液晶表示装置において、バックライトの光利用効率の向上と液晶表示装置の輝度を向上させる目的で、種々の輝度向上光学フィルムの検討がなされているが、技術的に高度であるか光学性能的には未だ不十分であった。
本発明は比較的単純な構成で偏光依存性の散乱機能を有し、安価に液晶表示装置の輝度および光利用効率の向上が可能な光学フィルムおよび偏光フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために検討した結果、以下の本発明を完成させた。
[1]
少なくとも1種以上のポリマーを含むポリマーマトリックスと、
前記ポリマーマトリックス内に長手方向に略平行状態に配置された、少なくとも1種のポリマーよりなる複数の単繊維を含み、
前記単繊維体の長手方向の屈折率が、前記単繊維の長手方向と平行な方向の前記ポリマーマトリックスの屈折率と異なり、
前記単繊維体の長手方向に直交する方向に平行な偏光を入射させた際のヘイズ値が20%以下、
前記単繊維の長手方向と平行な偏光を入射させた場合の透過率が60%以下、
前記単繊維の径が500nm以下、
前記単繊維の前記ポリマーマトリックス中の体積分率が10%以上である光学フィルム。
【0009】
[2]前記ポリマーマトリックスが実質的に水溶性である前記[1]記載の光学フィルム。
[3]前記ポリマーマトリックスが含む少なくとも1種のポリマーがポリビニルアルコールを主な構成要素とするポリマーである前記[1]または[2]に記載の光学フィルム。
[4]前記ポリマーマトリックスがポリビニルアルコールを20から100質量%含む前記[3]に記載の光学フィルム。
[5]前記単繊維が含む少なくとも1種のポリマーが複屈折性を有する前記[1]から[4]のいずれかに記載の光学フィルム。
[6]複数の前記単繊維を一群とする繊維構造体を複数含む[1]から[5]のいずれかに記載の光学フィルム。
[7]前記[1]から[6]のいずれかに記載の光学フィルムとポリビニルアルコールフィルムとが直接積層している偏光フィルム。
【0010】
[8] 少なくとも1種のポリマーを含む海相と、少なくとも1種のポリマーを含む島相が長手方向に連続して存在する断面海島構造を有する複合繊維を製造する工程、
前記複合繊維を束ねて繊維束を作製する工程、
前記繊維束における各前記複合繊維を互いに融着させ、フィルム状に成形する工程、
を含む、前記[1]から[6]のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
[9]前記複合繊維を延伸する工程を、前記繊維束を作成する工程の前に含む前記[8]に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、複数の単繊維とポリマー材とからなる単純な構成で偏光依存性の散乱機能を有するため、安価に液晶表示装置の輝度、効率向上が可能な光学フィルムおよび偏光フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の光学フィルムの模式図である。
図2図1のA-A線に沿う断面図である。
図3】本発明の光学フィルムの断面図の別例である。
図4】本発明の光学フィルムと偏光子を組み合わせた断面図の例である。
図5】本発明の実施例1のフィルムに、単繊維と直交する方向の偏光のレーザーを入射させた場合の透過光の散乱状態を示す図である
図6】本発明の比較例1のフィルムに、単繊維と直交する方向の偏光のレーザーを入射させた場合の透過光の散乱状態を示す図である
図7】本発明の比較例2のフィルムに、単繊維と直交する方向の偏光のレーザーを入射させた場合の透過光の散乱状態を示す図である
図8】本発明の光学フィルムを得る工程の例を示す図である。
図9】単繊維の屈折率を変化させた時の、フィルム厚みに対する光学フィルムの透過率のシミュレーション結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の光学フィルムは、少なくとも1種以上のポリマーを含むポリマーマトリックスと、前記ポリマーマトリックス内に長手方向に略平行状態に配置された、少なくとも1種のポリマーよりなる複数の単繊維を含む。
ポリマーマトリックスに含まれるポリマー(以下、「ポリマー材A」とも記す)は透明性に優れるポリマーであり、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアルコールブチラート変性体(PVB)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)などが挙げられる。ポリマー材Aは2種以上のポリマーでもよい。2種以上のポリマーの場合、これらポリマーは、互いに相溶性に優れるのが透明性の観点から好ましい。
【0014】
前記ポリマーマトリックスは複屈折性を有していても良いが、複屈折が小さいか、単繊維を構成する材料と反対の複屈折を有するのが好ましい。複屈折を有している場合であっても、一般に複屈折材料を延伸配向した場合、熱を掛けると複屈折材料の配向が緩和され、延伸方向とそれと直行する方向の屈折率差が小さくなる。ポリマーマトリクスが水溶性である場合、低温でフィルム化できるため、複屈折材料の配向を緩和させずにフィルム化でき、延伸方向とそれと直行する方向の屈折率差の維持が容易となる。
【0015】
また本発明の光学フィルムと偏光子とを直接積層する場合、偏光子にポリビニルアルコールフィルムを用いるのが、高い偏光選択性による画面品位の観点から好ましい。積層の際にポリビニルアルコールと水糊で容易に貼り合わせることができるという観点からも、ポリマーマトリックスは水溶性であるのが好ましい。ポリマーマトリックスを水溶性とするために、ポリマー材Aとして、水溶性のポリマーを少なくとも1種用いることが好ましい。
水溶性のポリマーとしてはポリビニルアルコールが挙げられ、ポリマー材Aはポリビニルコールが好ましい。ポリマーマトリックスの質量を100質量%として、ポリマーマトリックスはポリマー材Aとしてポリビニルアルコールを20から100質量%含むのが水溶性の観点から好ましい。
【0016】
単繊維に含まれるポリマー(以下、「ポリマー材B」とも記す。)はポリカーボネート(PC)、ポリスチレン類(PS)、芳香族ポリエステル、半芳香族ポリエステル、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、などが挙げられる。ポリマー材Bは2種以上のポリマーでもよい。ポリマー材Bは繊維構造体とする時に延伸されるので、延伸時にポリマーマトリックスとの屈折率差を得るために、正の複屈折性を有するポリマーが好ましい。正の複屈折性を有するポリマーとしては、芳香族ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレート、ポリカーボネートが好ましい。
【0017】
本発明の光学フィルム1は図1に模式的に示したように、ポリマーマトリックス2内に単繊維3が長手方向に略平行状態に配置されている。長手方向とは図1の矢印で示したように、単繊維3の繊維方向である。単繊維3はこの長手方向に略平行状態に配置されている。略平行状態とは、各単繊維3の長手方向がほぼ同じ方向を向いている状態であり、全ての単繊維3の長手方向が±5°の範囲内に入る状態が好ましい。
各単繊維3は一列に並んでいる必要はなく、ポリマーマトリックスの面内(図1における紙面内)に互いに略平行状態で配置されていればよい。
【0018】
図2図1のA-A線に沿う断面図である。各単繊維3はポリマーマトリックスの厚み方向に対しては略平行方向に配置されている必要はなく、ランダムな方向を向いていてもよい。本発明の光学フィルムと偏光子と組み合わせて用いた場合の偏光効率の観点から、各単繊維3は厚み方向にも略平行状態に配置されているのが好ましい。略平行状態とは前記と同じである。
【0019】
本発明の光学フィルムにおいて、前記単繊維の長手方向の屈折率と、前記ポリマーマトリックスの前記単繊維の長手方向と平行な方向の屈折率とは異なる。両者の屈折率の差は0.05から0.35が好ましい。更に好ましくは、0.1から0.25である。このような屈折率の差となる前記ポリマー材Aと前記ポリマー材Bの組合せとしては、ポリマー材Aがポリビニルアルコール、ポリマー材Bがポリエステルテレフタレートであるのが好ましい。
なお、前記単繊維の長手方向の屈折率とは、前記単繊維の長手方向に平行な偏光を入れた場合の屈折率であり、前記ポリマーマトリックの前記単繊維の長手方向と平行な方向の屈折率とはポリマーマトリックスの前記単繊維の長手方向に平行な偏光を入れた場合の屈折率である。
【0020】
本発明の光学フィルムにおいて、前記単繊維の長手方向に直交する方向に平行な偏光を入射させた際のヘイズ値は20%以下である。長手方向に直交する方向とは、図1においてポリマーマトリックスの面内(図1の紙面内)において、長手方向に対して直交する方向である。
単繊維の長手方向に直交する方向に平行な偏光を入射させた際のヘイズ値は17%以下が好ましく、12%以下がより好ましい。
【0021】
本発明の光学フィルムにおいて、前記単繊維の長手方向と平行な偏光を入射させた場合の透過率は60%以下である。単繊維の長手方向と平行な偏光を入射させた際の透過率は50%以下が好ましく、45%以下がより好ましい。
【0022】
前記単繊維の繊維径は500nm以下であり、300nm以下であることが好ましい。単繊維径が500nmより大きくなると光の散乱を生じ、光学性能の低下を招く。可視光の波長の1/2以下の200nm以下がより好ましく、可視光波長より十分小さい1/4以下である100nm以下がさらに好ましい。
【0023】
図9に光線追跡ソフトLightTools(Synopsys社)を用いて反射したい側の偏光に対する透過率のフィルム厚み依存性の計算結果を示す。計算では、以下を仮定した。
1.光学フィルムはポリマー材料Aからなるポリマーマトリックス、およびポリマー材料Bからなる単繊維の2つの材料のみから構成されている。
2.材料吸収は全ての材料に対してゼロ、すなわち1-透過率が反射率と等しい。
3.ポリマーマトリックスの屈折率は1.5である。
4.Nは単繊維の長手方向と平行方向の偏光に対する単繊維の屈折率である。
5.繊維径が250nmの単繊維がポリマーマトリックスに分散している。
6.体積分率はポリマーマトリックと単繊維の体積合計を100%として、単繊維が63%、ポリマーマトリックスが37%である。
【0024】
図9の上図は光学フィルムの厚さが0から100μm、下図は100から300μmの場合の結果である。図9から分かるように、光学フィルムの厚みの増加に伴い、光が散乱する単繊維の量が増え、偏光選択性が高くなる。したがって光学性能の観点から、光学フィルムの厚みは厚い方が好ましいが、光学フィルムの厚みが厚いとコストが大きくなる。また、本発明の光学フィルムを液晶ディスプレイに用いた場合、液晶ディスプレイの重量や厚みが増える。このため光学フィルムの厚みは10μmから1000μmが好ましく、20μmから700μmがさらに好ましい。
【0025】
また光学フィルムの中の単繊維の体積割合が大きいほど、同じ厚みでも光が散乱する散乱体の量が増え、偏光選択性が高くなる。一方で、単繊維の体積割合が大きくなりすぎると、単繊維同士の距離が近くなるため単繊維が凝集すると界面が消失し、散乱性能が低下する。したがって、本発明の光学フィルム中の単繊維の体積分率は、ポリマーマトリックスと単繊維との体積合計を100%として、10%以上であり、10から80%が望ましく、更に望ましくは15から70%である。
【0026】
前記体積分率はポリマーマトリックスに含まれるポリマー材Aと単繊維に含まれるポリマー材Bとの重量および比重から計算することができる。
【0027】
本発明の光学フィルムは、図3に示したように、ポリマーマトリックス2内において単繊維3の周囲にさらにポリマーマトリックスを構成する第2のポリマー4(以下、「ポリマー材C」とも記す。)が存在するかもしれない。ポリマー材Cが存在する場合、図3においてポリマー材Aとポリマー材Cとの界面での光の反射を抑えるためにポリマー材Aとポリマー材Cとの屈折率差は0.05以下が好ましい。さらに好ましくは0.02以下であり、ポリマー材Aとポリマー材Cとを同じポリマーとして屈折率差を0にするのが最も好ましい。図3に示したように、ポリマーマトリックスを厚み方向に切断した断面を見たとき、ポリマー材Cは複数の単繊維3を包含するように存在するのが好ましく、ポリマー材Cは複数の単繊維3の長手方向に伸びた繊維状の繊維構造体であるのが好ましい。なお、ポリマー材Cが単繊維3の長手方向に延びた繊維状で複数の単繊維3を包含する場合、隣り合う繊維状のポリマー材Cの間に存在するポリマー材Aが多くなりすぎると、単繊維3の存在しない領域が増加し、光の散乱が増えるため好ましくない。ポリマー材Cが単繊維3の長手方向に延びた繊維状で複数の単繊維3を包含する場合、隣り合うポリマー材C間の厚さすなわち繊維構造体間の厚さは1μm以下が好ましい。
ポリマー材Cは前記ポリマー材Aと同じものが例示でき、同じポリマーであるのが好ましい。
【0028】
本発明の光学フィルムの製造方法を図8に模式的に示した。図8(a)のように前記ポリマー材Bを含有する単繊維3を複数本含むポリマー材Cに包含された断面が海島構造である複合繊維7を複数本同方向に略平行に配向するよう配置する。この時、海島構造の島相は前記ポリマー材Bを含み、海相は前記ポリマー材Cを含む。島相の長手方向は複合繊維7の長手方向に沿って配置される。さらに図8(b)に示したように、複合繊維7間の厚さが小さくなるように密集させ、必要に応じて周囲をポリマーマトリックス2となる前記ポリマー材Aで被覆する。その後、温度および圧力の印加により海島構造の配列を崩すことで、図8(c)に示したように前記ポリマー材Cを含むポリマーマトリックス2内に配置された単繊維3が得られる。
【0029】
前記複合繊維7は特開2014-005578に記載されているように海成分を構成するポリマー材Cと島成分構成するポリマー材Bを各々独立に溶融し、それぞれが海成分、島成分となるように溶融紡糸装置を用いて口金より紡出する。溶融紡糸装置の口金の形状や大きさによって、得られる複合繊維の断面形状や径を任意に設定することができる。
【0030】
前記本発明の光学フィルムは偏光子と積層することで偏光フィルムとなる。図4に本発明の光学フィルムを用いた偏光フィルムの一態様を模式的に示した。
図4では本発明の光学フィルム1と偏光子5とを積層し、その両表面に保護フィルム6
を積層した態様を示している。
光学フィルム1と偏光子5とを、熱融着、接着剤等により積層すればよい。光学フィルム1のポリマーマトリックスが水溶性であり、偏光子5がポリビニルアルコールからなる場合、水糊により積層できる。
【0031】
前記得られた偏光フィルムは液晶テレビ、スマートフォンなどの液晶表示装置に好適に用いることができる。
【実施例0032】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において採用された評価項目とその方法は、下記の通りである。
【0033】
実施例1
特開2014-005578記載の実施例の記載に従い、単繊維となる島成分がPET(比重1.38)であり、その繊維径が250nm、繊維本数726本をポリビニルアルコール(株式会社クラレ製エクセバールCP4104MI、比重1.20)中に配向した海島構造繊維を得た。この海島構造繊維の海成分は80wt%であり、島成分は20wt%であった。得られた海島構造繊維をステンレス板に巻き付けて配向させたのち、170℃で60秒プレスし、複数本の複合繊維を一体化させた。この後、プレスした後の一体化したフィルムを切り出し実施例1の光学フィルムを得た。このフィルム内での海島構造繊維の島成分の体積比率は、海島構造繊維の重量比率から換算し18%であり、フィルムの厚さは50μmであった。
【0034】
比較例1
特開2014-005578記載の実施例の記載に従い、単繊維となる島成分がPET(比重1.38)であり、その繊維径が250nm、繊維本数726本をポリビニルアルコール(株式会社クラレ製エクセバールCP4104MI、比重1.20)中に配向した海島構造繊維を得た。この海島構造繊維の海成分は80wt%であり、島成分は20wt%であった。得られた海島構造繊維をガラス板に巻き付けて配向させたのち、PET製の容器に入れ、完全に繊維が埋設する厚みになるよう、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製エクセバールCP4104MI)水溶液を容器に満たした。この後、常温で水を揮発させることにより繊維構造体が配向したフィルムを作製し比較例1の光学フィルムを得た。この光学フィルム内では、図8(a)のように、海島構造繊維がそのまま残っている状態であり、散乱が多い。このフィルムの厚さは120μmであり、海島構造繊維の島成分の比率は、フィルム厚さと海島構造繊維の重量比率から換算し7%であった。
【0035】
比較例2
特開2014-005578記載の実施例の記載に従い、単繊維となる島成分がPET(比重1.38)であり、その繊維径が1.5μm、繊維本数36本をポリビニルアルコール(株式会社クラレ製エクセバールCP4104MI、比重1.20)中に配向した海島構造繊維を得た。この海島構造繊維の海成分は40wt%であり、島成分は60wt%であった。得られた海島構造繊維をステンレス板に巻き付けて配向させたのち、170℃で60secプレスし、複数本の繊維を一体化させた。この後、プレスした後の一体化したフィルムを切り出して比較例2の光学フィルムを得た。このフィルム内での海島構造繊維の島成分の体積比率は、海島構造繊維の重量比率から換算し57%であり、フィルムの厚さは50μmであった。
【0036】
[測定]
(1)偏光透過率
分光光度計(日立ハイテクノロジーズ製U4100)に開口幅1mmのスリットを設置し・繊維状構造体と平行な偏光を入射して透過率を測定した。
【0037】
(2)全光線透過率およびヘイズ
ヘイズメータ(日本電色製NDH5000)に開口2mm×2mmのアパーチャーを取り付けた状態で標準校正を実施した。この後、偏光フィルムを取り付け、偏光フィルムの透過軸方向と繊維構造体の配向方向が直行するように設置し、全光線透過率およびヘイズを測定した。なお、偏光フィルムのヘイズは僅かであり、サンプルのヘイズ値の測定結果に対する影響は無視できる。一方で、偏光フィルムによって片方の偏光は吸収されるため、(1)における偏光透過率と異なり、この測定方法における透過率は最大で50%である。
【0038】
(3)散乱状態
波長633nmのHe-Neレーザー(メレスグリオ製)と繊維構造体との間に、繊維構造体の配向方向と直行する方向の光が入射するように偏光フィルムを挿入し、入射位置から600mm離れた位置でスクリーンに投影し、その散乱状態を撮影した。
【0039】
実施例1では繊維構造体と平行な方向の偏光を反射し、繊維状構造体と直交する偏光を透過させることができている。繊維構造体と直交する方向の偏光に対しては、散乱が少なく、光をそのまま透過させることができている。液晶ディスプレイの偏光板の透過軸に対して直交な方向に繊維を設けることによって、輝度の高いディスプレイを得ることができる。
【0040】
比較例1、2では繊維構造体と直交する方向の偏光に対して、光が散乱している。液晶ディスプレイに用いた場合、光が散乱して、輝度が低下してしまう。繊維と直交する方向の偏光に対して、光が散乱しているため、液晶ディスプレイに用いた場合、光が散乱して、輝度が低下してしまう。
【0041】
【表1】
【符号の説明】
【0042】
1 光学フィルム
2 ポリマーマトリックス
3 単繊維
4 繊維構造体を構成する第2のポリマー
5 偏光子
6 保護フィルム
7 複合繊維

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9