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特開2024-91016窒化物半導体基板の製造方法、および、窒化物半導体基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091016
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】窒化物半導体基板の製造方法、および、窒化物半導体基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240627BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
H01L21/304 611S
C30B29/38 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207267
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】藤本 哲爾
(72)【発明者】
【氏名】皿山 正二
(72)【発明者】
【氏名】村上 明繁
【テーマコード(参考)】
4G077
5F057
【Fターム(参考)】
4G077BE15
4G077FG12
4G077FG13
4G077HA12
5F057AA14
5F057AA34
5F057BA01
5F057BB06
5F057CA02
5F057DA16
5F057GA03
5F057GB21
(57)【要約】
【課題】窒化ガリウム等の窒化物半導体を高速にスライスし、窒化物半導体基板を効率よく製造できる技術を提供する。
【解決手段】窒化物半導体からなる被加工物を準備する工程と、被加工物の主面の中心を回転軸として、被加工物を回転速度N1で回転させる工程と、被加工物を回転させる方向と同じ方向に、内周刃を有するブレードを回転速度N2で回転させる工程と、被加工物を回転軸と交差する方向にブレードに対する相対速度vで相対移動させ、ブレードによって被加工物を主面と平行な方向にスライスする工程と、を有し、スライスにより被加工物の側面に形成される円環状の切削溝内において、ブレードが入っていない領域Z1と、ブレードが入っている領域Z2との内圧のバランスを保つように、回転速度N1、回転速度N2、相対速度v、加工液の供給量L、および、加工液の粘度ηの少なくともいずれかを制御する、窒化物半導体基板の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体からなる被加工物を準備する工程と、
前記被加工物の主面の中心を回転軸として、前記被加工物を回転速度N1で回転させる工程と、
前記被加工物を回転させる方向と同じ方向に、内周刃を有するブレードを回転速度N2で回転させる工程と、
前記被加工物を前記回転軸と交差する方向に前記ブレードに対する相対速度vで相対移動させ、前記ブレードによって前記被加工物を前記主面と平行な方向にスライスする工程と、
を有し、
前記スライスする工程では、スライスにより前記被加工物の側面に形成される円環状の切削溝内において、前記ブレードが入っていない領域Z1に、前記ブレードに供給する加工液を所定量滞留させ、前記領域Z1と、前記ブレードが入っている領域Z2との内圧のバランスを保つように、前記回転速度N1、前記回転速度N2、前記相対速度v、前記加工液の供給量L、および、前記加工液の粘度ηの少なくともいずれかを制御する、窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記スライスする工程では、前記被加工物をスライスする間、前記回転速度N1を次第に下げる、または、前記回転速度N2を次第に上げる、請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記スライスする工程では、前記ブレードの所定位置Pが、前記被加工物に接触してから、前記主面の平面視において、前記被加工物の外側に抜けるまでの時間Teが一定になるように、前記回転速度N1または前記回転速度N2を制御する、請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記スライスする工程では、前記被加工物を基板として分離するまで、前記回転速度N1を0にしない、請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記スライスする工程では、前記被加工物を基板として分離した後も、前記回転速度N1、前記回転速度N2、および、前記相対速度vを0にしない、請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記スライスする工程では、前記被加工物が1回転する間に、前記ブレードが切り込む面積を、2mm以下とする、請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記スライスする工程では、前記被加工物の中心に、φ0.2mm以上1mm以下の柱部が残るように前記被加工物を切り込み、前記柱部を破断させることによって、前記被加工物を基板として分離する、請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記被加工物は、面内のc軸分布が同心円状である窒化物半導体からなり、
前記スライスする工程では、前記窒化物半導体のc面と平行な方向にスライスする、請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項9】
前記被加工物は、窒化ガリウム結晶からなり、
前記スライスする工程では、前記窒化ガリウム結晶の+c面を鉛直下向きに保持して、前記窒化ガリウム結晶をスライスする、請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項10】
前記被加工物は、窒化ガリウム結晶からなり、
前記スライスする工程では、前記窒化ガリウム結晶の-c面を鉛直下向きに保持して、前記窒化ガリウム結晶をスライスする、請求項8に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項11】
直径4インチ以上の窒化物半導体基板であって、
+c面側の幾何学的形状は、凸型同心円状であり、
-c面側の幾何学的形状は、凹型同心円状であり、
いずれか一方の主面の中心に、高さ300μm以下、幅0.2mm以上1mm以下の微小凸部を有する、窒化物半導体基板。
【請求項12】
面内のc軸分布は同心円状である、請求項11に記載の窒化物半導体基板。
【請求項13】
少なくとも一方の主面に、6回対象のソーマークを有する、請求項11に記載の窒化物半導体基板。
【請求項14】
少なくとも一方の主面に、螺旋状のソーマークを有する、請求項11に記載の窒化物半導体基板。
【請求項15】
前記微小凸部を有する主面と反対側の主面の中心に、深さ300μm以下、幅0.2mm以上1mm以下の微小凹部を有する、請求項11に記載の窒化物半導体基板。
【請求項16】
直径4インチ以上の窒化物半導体基板であって、
+c面側の幾何学的形状は、凸型同心円状であり、
-c面側の幾何学的形状は、凹型同心円状である、窒化物半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体基板の製造方法、および、窒化物半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体結晶をスライスし、半導体基板を製造する方法は各種開示されている。例えば、特許文献1には、単結晶である被加工物を回転させる工程と、被加工物の回転軸と交差する方向にワイヤソーを走行させる工程と、走行中のワイヤソーを用いて、回転中の被加工物を切り込む工程と、を含み、切り込む工程において、被加工物の結晶方位に応じて切り込み量を変える、ことを特徴とする基板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-225564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、窒化ガリウム等の窒化物半導体を、割れやクラックを抑制しつつ高速にスライスし、窒化物半導体基板を効率よく製造できる技術を提供することである。本明細書で述べる「割れ」とは半導体結晶が割れて分離・分割する事であり、「クラック」とは分割迄には至っていないが半導体結晶内部に亀裂が入っている事を表している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
窒化物半導体からなる被加工物を準備する工程と、
前記被加工物の主面の中心を回転軸として、前記被加工物を回転速度N1で回転させる工程と、
前記被加工物を回転させる方向と同じ方向に、内周刃を有するブレードを回転速度N2で回転させる工程と、
前記被加工物を前記回転軸と交差する方向に前記ブレードに対する相対速度vで相対移動させ、前記ブレードによって前記被加工物を前記主面と平行な方向にスライスする工程と、
を有し、
前記スライスする工程では、スライスにより前記被加工物の側面に形成される円環状の切削溝内において、前記ブレードが入っていない領域Z1に、前記ブレードに供給する加工液を所定量滞留させ、前記領域Z1と、前記ブレードが入っている領域Z2との内圧のバランスを保つように、前記回転速度N1、前記回転速度N2、前記相対速度v、前記加工液の供給量L、および、前記加工液の粘度ηの少なくともいずれかを制御する、窒化物半導体基板の製造方法が提供される。
【0006】
本発明の他の態様によれば、
直径4インチ以上の窒化物半導体基板であって、
+c面側の幾何学的形状は、凸型同心円状であり、
-c面側の幾何学的形状は、凹型同心円状であり、
いずれか一方の主面の中心に、高さ300μm以下、幅0.2mm以上1mm以下の微小凸部を有する、窒化物半導体基板が提供される。
【0007】
本発明のさらに他の態様によれば、
直径4インチ以上の窒化物半導体基板であって、
+c面側の幾何学的形状は、凸型同心円状であり、
-c面側の幾何学的形状は、凹型同心円状である、窒化物半導体基板が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、窒化ガリウム等の窒化物半導体を、割れやクラックを抑制しつつ高速にスライスし、窒化物半導体基板を効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第1実施形態の窒化物半導体基板100の製造方法の一例を示すフロー図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態のスライス工程S104を説明する模式図である。
図3図3(a)は、本発明の第1実施形態のスライス工程S104におけるスライス途中の被加工物10を示す平面模式図であり、図3(b)は、スライス途中の被加工物10を示す側面断面図である。
図4図4は、本発明の第1実施形態に係る、時間Teの算出方法を説明するための平面模式図である。
図5図5は、本発明の第1実施形態に係る、被加工物10の未切断半径Rと、時間Teとの関係を示すグラフである。
図6図6(a)は、本発明の第1実施形態の窒化物半導体基板100の平面図であり、図6(b)は、図6(a)のA-A線断面図である。
図7図7は、本発明の第1実施形態の窒化物半導体基板100が有するソーマークを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<発明者の得た知見>
まず、発明者が得た知見について説明する。
【0011】
半導体結晶をスライスし、半導体基板を製造する方法は各種開示されている。しかしながら、窒化物半導体、特に窒化ガリウムは、高硬度、高脆性材料であるため、クラックや割れ等を抑制しつつ、高速にスライスすることは非常に困難である。例えば、特許文献1のように、ワイヤソーを用いた方法では、スライス速度を速くすると、クラックや割れが発生することがわかっている。本明細書で述べる「高脆性」とは脆性がより顕著であり脆性破壊し易い事を表している。
【0012】
本願発明者は、上述のような事象に対して鋭意研究を行った。その結果、内周刃を有するブレードを用い、被加工物をブレードと同じ方向に回転させながらスライスすることで、被加工物およびブレードから生じる加工屑を加工液と一緒にスラッジとして速やかに排出し、窒化ガリウム等の被加工物を高速にスライスできることを見出した。この方法によれば、被加工物とブレードとの接触部近傍にスラッジが滞在する時間を短くできるため、クラックや割れ等を抑制しつつ、高速にスライスすることが可能となる。
【0013】
また、本願発明者のさらなる鋭意研究の結果、スライスにより被加工物の側面に形成される円環状の切削溝内において、ブレードが入っていない領域に加工液が充分に滞留していない状態になると、ブレードが入っていない領域と、ブレードが入っている領域との内圧のバランスが崩れ、被加工物の回転中心軸が曲がってしまい、割れやクラックが発生しやすいことがわかった。したがって、ブレードが入っていない領域に、加工液を所定量滞留させ、ブレードが入っていない領域と、ブレードが入っている領域との内圧のバランスを保つように、被加工物の回転速度、ブレードの回転速度、ブレードに対する被加工物の相対速度(被加工物の送り速度)、加工液の供給量、および、加工液の粘度の少なくともいずれかを制御することで、クラックや割れ等を抑制しつつ高速にスライスすることが可能となることを見出した。
【0014】
[本発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0015】
<本発明の第1実施形態>
(1)窒化物半導体基板100の製造方法
まず、本実施形態の窒化物半導体基板100の製造方法について説明する。図1は、本実施形態の窒化物半導体基板100の製造方法の一例を示すフロー図である。図1に示すように、本実施形態の窒化物半導体基板100の製造方法は、例えば、被加工物準備工程S101と、被加工物回転工程S102と、ブレード回転工程S103と、スライス工程S104と、を有している。
【0016】
(被加工物準備工程S101)
被加工物準備工程S101は、例えば、窒化ガリウム等の窒化物半導体からなる被加工物10を準備する工程である。本実施形態では、被加工物10が、窒化ガリウムからなる円柱形状のバルク結晶である場合について説明する。なお、被加工物10の形状は円柱形状に限定されるものではない。被加工物10の直径は、例えば、4インチ以上8インチ以下である。被加工物10の主面は、例えば、c面であり、面内のc軸分布が同心円状になっている。ここでc面とは指数面としては{0001}であり、c軸とは[0001]であり、c軸分布が同心円状とはc面の中心付近から回転対称にc軸が分布している事である。このような被加工物10は、例えば、HVPE(ハイドライド気相成長法、Hydride Vapor Phase Epitaxy)等によって窒化ガリウムをエピタキシャル成長させることで得ることができる。
【0017】
(被加工物回転工程S102)
被加工物回転工程S102は、例えば、被加工物10の主面の中心を回転軸として、被加工物10を回転速度N1で回転させる工程である。回転速度N1は、スライス工程S104において変化させることがあるが、初期状態(スライス前)の回転速度N1は、例えば、50rpm以上500rpm以下である。被加工物10を回転させない場合、スライス時に結晶が割れてしまう可能性がある。これに対し、被加工物10を回転させながらスライスすることで、割れを抑制することができる。
【0018】
(ブレード回転工程S103)
ブレード回転工程S103は、例えば、被加工物10を回転させる方向と同じ方向に、内周刃を有するブレード20を回転速度N2で回転させる工程である。回転速度N2は、スライス工程S104において変化させることがあるが、初期状態の回転速度N2は、例えば、600rpm以上1200rpm以下である。被加工物10を回転させる方向と反対の方向に、ブレード20を回転させた場合、スライス時に結晶が割れてしまう可能性がある。これに対し、被加工物10を回転させる方向と同じ方向に、ブレード20を回転させながらスライスすることで、割れを抑制することができる。なお、ブレード回転工程S103は、被加工物回転工程S102の前、または同時に行ってもよい。
【0019】
本実施形態で用いるブレード20としては、例えば、台金の厚みが100μm以上150μm以下であり、内周部にダイヤモンド砥粒(40~70μm径)が電着されているものを用いることができる。ブレード20を張り上げる際は、例えば、顕微鏡でブレード20の刃先の位置を複数箇所確認し、刃先の芯ずれが10μm以下となるように調整することが好ましい。これにより、クラックや割れ等を抑制しつつ、被加工物10を高速にスライスすることができる。なお、台金の厚みは前記範囲に限らず、台金がブレード20の張り上げ時に掛かる張力に耐え得る高張力鋼の場合はさらに薄くする事で、後述のスライス工程S104において生じる結晶ロスを低減する事が出来る。またブレード20を張り上げるとは、内周刃切断装置の所定の箇所にブレード20を設置する際に、台金に張力を掛けながらブレード20を固定する事である。
【0020】
(スライス工程S104)
図2は、本実施形態のスライス工程S104を説明する模式図である。図2に示すように、スライス工程S104は、例えば、被加工物10を回転軸と交差(または略直交)する方向にブレード20に対する相対速度vで相対移動させ、ブレード20によって被加工物10を主面(例えば、c面)と平行な方向にスライスする工程である。スライス工程S104では、ブレード20に加工液を供給しながらスライスを行うことが好ましい。なお、本明細書において、被加工物10を主面と平行な方向にスライスするとは、例えば、スライスする方向が被加工物10の主面と完全に平行な場合の他、スライスする方向が被加工物10の主面から若干傾いている(例えば、5度以下の角度で傾いている)場合も含むものとする。
【0021】
スライス工程S104において、相対速度vは、例えば、0.1mm/min以上10mm/min以下とすることが好ましい。相対速度vが0.1mm/min未満では、スライスにかかる時間が長くなってしまい、効率が悪い。これに対し、相対速度vを0.1mm/min以上とすることで、スライスにかかる時間を短縮し、効率よくスライスすることができる。一方、相対速度vが10mm/minを超えると、所望の形状の窒化物半導体基板100が得られない可能性がある。これに対し、相対速度vを10mm/minとすることで、所望の形状の窒化物半導体基板100を得ることができる。
【0022】
図3(a)は、スライス途中の被加工物10を示す平面模式図であり、図3(b)は、スライス途中の被加工物10を示す側面断面図である。なお、図3(a)においては、ブレード20は内径の一部のみを示している。図3(b)に示すように、スライスにより、被加工物10の側面には円環状の切削溝11が形成される。ここで、切削溝11内、特に、ブレード20が入っていない領域Z1に、加工液が充分に滞留していない状態になると、領域Z1と、ブレード20が入っている領域Z2との内圧のバランスが崩れ、図3(b)に示す、被加工物10のブレード20より下側の領域が振動し、ブレード20から離れたり接触したりする事で、割れやクラックが発生しやすくなる。したがって、スライス工程S104では、切削溝11内において、領域Z1に加工液を所定量滞留させ、領域Z1と、領域Z2との内圧のバランスを保つように、回転速度N1、回転速度N2、相対速度v、加工液の供給量L、および、加工液の粘度ηの少なくともいずれかを制御することが好ましい。ここでの内圧とは、領域Z1において加工液が切削溝11内に滞留していることにより生じている圧力と、領域Z2においてブレード20が存在している事により生じる圧力を意味するものである。
【0023】
スライス工程S104では、被加工物10をスライスする間、例えば、加工液の供給量Lを次第に上げる、または、加工液の粘度ηを次第に上げることが好ましい。加工液の粘度ηを次第に上げるには、例えば、粘度の高い加工液Aと、粘度の低い加工液Bとを混合しながら供給し、その混合比を次第に変化させればよい。これにより、領域Z1に加工液が滞留しやすくなり、領域Z1と領域Z2との内圧のバランスを保ちやすくなる。なお、スライス工程S104では、加工液の供給量Lを次第に上げ、かつ、加工液の粘度ηを次第に上げても構わない。また、加工液の供給量L(加工液の粘度η)は、段階的に変化させてもよいし、連続的に変化させてもよい。
【0024】
スライス工程S104では、被加工物10をスライスする間、例えば、回転速度N1を次第に下げる、または、回転速度N2を次第に上げることが好ましい。被加工物10をスライスする間、ブレード20の加工能は次第に低下する可能性がある。したがって、上記のように回転速度N1または回転速度N2を制御することで、ブレード20の加工能が低下した状態でも、効率よくスライスすることができる。また、領域Z1と領域Z2との内圧のバランスを保ちやすくなる。なお、スライス工程S104では、回転速度N1を次第に下げ、かつ、回転速度N2を次第に上げても構わない。また、回転速度N1(回転速度N2)は、段階的に変化させてもよいし、連続的に変化させてもよい。
【0025】
さらに、ブレード20の加工能低下について、本願発明者が鋭意研究した結果、窒化ガリウム等の高硬度、高脆性材料のスライスにおいて、被加工物10とブレード20との接触部近傍に加工屑等を含むスラッジが滞在する時間が、ブレード20の加工能低下に大きな影響を及ぼしていることがわかった。したがって、スライス工程S104では、例えば、図4で示しているブレード20の所定位置Pが、被加工物10に接触してから、被加工物10の主面の平面視において、被加工物10の外側に抜けるまでの時間Teが一定となるように、回転速度N1または回転速度N2を制御することがより好ましいことがわかった。時間Teが一定であるということは、被加工物10とブレード20の所定位置Pの周りに存在しているスラッジが接触している時間が一定になっていることを意味し、これにより、ブレード20の加工能低下を抑制することが可能である。即ち、ブレード20の所定位置Pの周りに存在しているスラッジが被加工物10と接触している時間が長くなると加工能を低下させてしまう。
【0026】
以下、時間Teの算出方法について説明する。図4は、時間Teの算出方法を説明するための平面模式図である。なお、図4では、ブレード20の内径のみ示し、外径は省略している。図4に示すように、ブレード20の内周半径はRb、ブレード20の回転中心座標は(0,0)とする。被加工物10の半径はRs、被加工物10の回転中心座標は(Rb-R,0)とし(Rは被加工物10の未切断半径)、被加工物10はX軸方向(紙面右方向)に速度vで移動するものとする。ブレード20がN回転した際、ブレード20の所定位置Pが被加工物10に接触したタイミングの座標を(Xc,Yc)とし、前記位置Pが被加工物10の外側に抜けるタイミングの座標を(Xe,Ye)とする。時間Teを算出する際は、ブレード20が1回転すると、被加工物10の回転中心座標が、X軸方向にΔLsだけ移動すると近似する。ブレード20がN回転する時間Tは、T=N/N2、被加工物10の移動量Lsは、Ls=v×T、被加工物10の未切断半径Rは、R=Rs-Lsとなる。まず、(Xe,Ye)を求める。ブレード20については、Xe+Ye=Rbが成り立ち、被加工物10については、被加工物10の回転中心座標が(Rb-Rs+Ls,0)となるため、(Xe-(Rb-Rs+Ls))+Ye=Rsが成り立つ。これら2つの式から、Xe=[Rb-Rs+(Rb-Rs+Ls)]/2(Rb-Rs+Ls)となる。(Xc,Yc)と(Xe,Ye)とのなす角をθとすると、cosθ=Xe/Rbであるため、θ=cos-1(Xe/Rb)となる。次に、ブレード20と被加工物10の相対周速度Vを求める。ブレード20の周速度Vbは、Vb=2π×N2×Rbであり、被加工物10の周速度Vsは、Vs=2π×N1×Rである。ブレード20と被加工物10は、同方向に回転しているため、相対周速度Vは、V=Vb-Vsとなり、相対角速度ωに変換すると、ω=V/Rbとなる。したがって、位置Pが、(Xc,Yc)から(Xe,Ye)まで移動する時間Teは、Te=θ/ωで表される。
【0027】
上述の式を用いて、Rs=50mm、N1=100rpm、Rb=120mm、N2=900rpm、v=5mm/minの条件で時間Teを算出した。図5は、被加工物10の未切断半径Rと、時間Teとの関係を示すグラフである。図5に示すように、回転速度N1、回転速度N2、および、相対速度vが一定の条件においては、時間Teはスライス初期に大きく増加し、その後は緩やかに増加している。したがって、例えば、図5に示すような、被加工物10の未切断半径Rの減少に伴う、時間Teの増加量を打ち消すように、回転速度N1を下げる(または、回転速度N2を上げる)ことによって、時間Teを一定に保ちながら、スライスすることができる。これにより、ブレード20の切断能低下を抑制し、より高速なスライスが可能となる。
【0028】
スライス工程S104では、例えば、被加工物10を基板(窒化物半導体基板100)として分離するまで、回転速度N1を0にしない(被加工物10を回転させ続ける)ことが好ましい。被加工物10を基板として分離する際、回転速度N1を0にした場合、スライスした基板が回転しているブレード20と接触して割れてしまう可能性がある。これに対し、被加工物10を基板として分離するまで被加工物10を回転させることで、前述した領域Z1と領域Z2の内圧がバランスした状態が維持されてスライスした基板が割れたり、クラックが発生したりすることを抑制できる。
【0029】
スライス工程S104では、例えば、被加工物10を基板として分離した後も、回転速度N1、回転速度N2、および、相対速度vを0にしないことが好ましい。これにより、スライス後に残った被加工物10の切断面(特に中心付近)を平滑にすることができる。被加工物10を基板として分離した後、所定の時間が経過したら、回転速度N1、回転速度N2、および、相対速度vを0にし、スライス工程S104を終了すればよい。
【0030】
スライス工程S104では、例えば、被加工物10が1回転する間に、ブレード20が切り込む面積を、1mm以上2mm以下とすることが好ましい。被加工物10が1回転する間にブレード20が切り込む面積が1mm未満では、スライスにかかる時間が長くなってしまい、効率が悪い。これに対し、被加工物10が1回転する間にブレード20が切り込む面積を1mm以上とすることで、スライスにかかる時間を短縮し、効率よくスライスすることができる。一方、被加工物10が1回転する間にブレード20が切り込む面積が2mmを超えると、所望の形状の窒化物半導体基板100が得られない可能性がある。これに対し、被加工物10が1回転する間にブレード20が切り込む面積を2mm以下とすることで、所望の形状の窒化物半導体基板100を得ることができる。
【0031】
スライス工程S104では、例えば、ブレード20と被加工物10が接触し始める際に、相対速度vを一時的に下げる(例えば、相対速度vを0.1mm/min以上1mm/min未満とする)ことが好ましい。これにより、所望の形状の窒化物半導体基板100を得ることができる。なお、スライス中の所定のタイミングで一時的に下げた相対速度vを再び元の値に戻してもよい。
【0032】
スライス工程S104では、例えば、被加工物10を切り終える直前(具体的には、例えば、被加工物10の未切断半径R<0.1×Rsを満たす範囲)で、回転速度N1を10rpm以上50rpm未満まで下げることが好ましい。これにより、所望の形状の窒化物半導体基板100を得ることができる。
【0033】
スライス工程S104では、例えば、被加工物10の未切断半径Rが完全に0となるまで、ブレード20によるスライスを継続しなくてもよい。具体的には、例えば、被加工物10の中心に、φ0.2mm以上1mm以下の柱部が残るように被加工物10を切り込み、柱部を破断させることによって、被加工物10を基板として分離してもよい。柱部を破断させる際は、被加工物10の自重によって破断するようにしてもよいし、加工液の供給によって被加工物10の下側の切断する基板側に振動を与えて破断させるようにしてもよい。また、柱部を破断させる際、回転速度N1、回転速度N2、および、相対速度vは、0にしてもよいし、回転速度N2以外はそのまま維持してもよい。この柱部を残す場合、ブレード20の回転速度N2のみは0にしないと、切断した基板が回転しているブレード20と接触して割れ、クラックが生じる可能性がある。被加工物10をこのように分離することで、スライスした基板がブレード20や装置の他の箇所と接触することを抑制でき、かつ、クラックや割れを抑制することができる。また、被加工物10をこのように分離することで、主面の中心に微小凸部101(柱部の痕跡)を有する窒化物半導体基板100を製造することができる。主面の中心に微小凸部101を有する窒化物半導体基板100の詳細は後述する。
【0034】
本実施形態のスライス工程S104では、例えば、窒化ガリウム結晶の+c面(Ga面)を鉛直下向きに保持して、窒化ガリウム結晶をスライスしている。これにより、-c面(N面)側の主面の中心に微小凸部101を有する窒化物半導体基板100を製造することができる。窒化ガリウム結晶において、-c面側は、+c面側より柔らかく、加工が容易なため、-c面側の主面の中心に微小凸部101を有する窒化物半導体基板100は、微小凸部101を除去しやすいというメリットがある。
【0035】
(2)窒化物半導体基板100の構成
次に、本実施形態の窒化物半導体基板100の構成について説明する。図6(a)は、窒化物半導体基板100の平面図であり、図6(b)は、図6(a)のA-A線断面図である。窒化物半導体基板100は、例えば、直径4インチ以上8インチ以下の窒化物半導体結晶からなり、図6(a)および図6(b)に示すように、いずれか一方の主面(本実施形態では-c面側)の中心に微小凸部101を有している。窒化物半導体基板100の面内のc軸分布は、例えば、被加工物10と同様に同心円状になっている。窒化物半導体基板100の厚みは特に限定されないが、例えば、0.25mm以上である。
【0036】
微小凸部101の高さは、例えば、300μm以下であり、幅は0.2mm以上1mm以下である。上述したように、このような微小凸部101は、例えば、被加工物10の中心に、φ0.2mm以上1mm以下の柱部が残るように被加工物10を切り込み、柱部を破断させることによって、被加工物10を基板として分離することで形成される。本実施形態の窒化物半導体基板100は、主面の中心に敢えて微小凸部101を形成することで、クラックや割れのない基板を実現している。微小凸部101はサイズが小さいため、研磨等の方法により簡単に除去することができる。特に、本実施形態においては、-c面側に微小凸部101が形成されているため、微小凸部101を除去しやすい。
【0037】
図6(b)に示すように、本実施形態の窒化物半導体基板100は、微小凸部101を有する主面と反対側の主面(本実施形態では+c面側)の中心に、深さ300μm以下、幅0.2mm以上1mm以下の微小凹部102を有している。スライス工程S104において、柱部を破断させて被加工物10を基板として分離した際、残された被加工物10の切断面には、このような微小凹部102が形成されることがある。したがって、被加工物10を複数回スライスし、複数枚の窒化物半導体基板100を製造した場合、図6(b)に示すような、微小凸部101および微小凹部102を有する窒化物半導体基板100が得られる。この微小凹部102は、その後の研削や研磨等の加工により除去することができる。
【0038】
本実施形態の窒化物半導体基板100において、+c面側の幾何学的形状は、凸型同心円状であり、-c面側の幾何学的形状は、凹型同心円状になっている。これにより、その後の加工が少なく低コスト化が可能である。このような形状を有する窒化物半導体基板100は、例えば、面内のc軸分布が同心円状となっている被加工物10を、本実施形態で説明した方法によりスライスすることで得られる。以下、本明細書における、凸型同心円状および凹型同心円状の定義について説明する。
【0039】
本明細書において、以下の条件1または条件2のいずれか(好ましくは両方)を満たし、主面が凸型形状の場合、幾何学的形状が凸型同心円状というものとする。また、本明細書において、以下の条件1または条件2のいずれか(好ましくは両方)を満たし、主面が凹型形状の場合、幾何学的形状が凹型同心円状というものとする。
【0040】
(条件1)
窒化物半導体基板100の主面の基準点(主面の幾何中心、または、c軸分布が極値を取る点)から半径rの円周上に複数の測定点を設定し、各測定点における厚さ方向の座標zの最大値と最小値との差が、例えば、30μm以下であるとき、条件1を満たすものとする。
【0041】
(条件2)
窒化物半導体基板100の主面の基準点(主面の幾何中心、または、c軸分布が極値を取る点)から半径rの円周上に複数の測定点を設定し、各測定点における厚さ方向の座標zの標準偏差σが、例えば、20μm以下であるとき、条件2を満たすものとする。
【0042】
条件1および条件2の判定において、半径rは、例えば、1cm以上5cm以下の範囲で任意の値を選択すればよい。また、半径rの円周上に複数の測定点を設定する際は、回転角が均等になるように複数の測定点を設定することが好ましい。例えば、測定点を4点とする場合、測定点1の回転角を0度とし、測定点2、3、4の回転角を90度、180度、270度のように決めることが好ましい。該円周上における測定点数は、4点以上とすることが好ましく、8点以上とすることがより好ましく、12点以上とすることがさらに好ましい。なお、該円周上における測定点数の上限は、特に限定されない。
【0043】
図7は、窒化物半導体基板100が有するソーマークを示す模式図である。図7に示すように、窒化物半導体基板100は、少なくとも一方の主面に、6回対称のソーマーク103または螺旋状のソーマーク104を有していてもよい。このようなソーマーク103(ソーマーク104)を有する窒化物半導体基板100は、例えば、面内のc軸分布が同心円状となっている被加工物10を、本実施形態で説明した方法によりスライスすることで得られる。本実施形態のソーマーク103(ソーマーク104)は、段差が小さい(例えば、段差10μm以下)ため、研磨等の方法により簡単に除去することができる。
【0044】
(3)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0045】
(a)本実施形態の窒化物半導体基板100の製造方法においては、内周刃を有するブレード20を用い、被加工物10をブレード20と同じ方向に回転させながらスライスすることで、被加工物10およびブレード20から生じる加工屑を加工液と一緒にスラッジとして速やかに排出し、窒化ガリウム等の被加工物10を高速にスライスできる。本実施形態では、被加工物10とブレード20との接触部近傍にスラッジが滞在する時間を短くできるため、クラックや割れ等を抑制しつつ、高速にスライスすることが可能となる。
【0046】
(b)本実施形態の窒化物半導体基板100の製造方法においては、切削溝11内において、領域Z1に加工液を所定量滞留させ、領域Z1と、領域Z2との内圧のバランスを保つように、回転速度N1、回転速度N2、相対速度v、加工液の供給量L、および、加工液の粘度ηの少なくともいずれかを制御することで、被加工物10のブレード20より下側の領域が振動してブレード20から離れたり接触したりする事を防止し、クラックや割れ等を抑制しつつ、高速にスライスすることが可能となる。
【0047】
(c)内周刃によるスライスにおいては、例えば、単位時間当たりの切削仕事量を一定にするような制御も考えられる。しかしながら、窒化ガリウム等の高硬度、高脆性材料のスライスにおいて、より高速なスライスを実現し、所望の形状の窒化物半導体基板100を得るためには、単位時間当たりの切削仕事量を一定にするような制御ではなく、スライス進行に伴うブレード20の加工能低下を考慮する必要があることがわかった。本実施形態の窒化物半導体基板100の製造方法においては、被加工物10をスライスする間、回転速度N1を次第に下げる、または、回転速度N2を次第に上げることで、ブレード20の加工能が低下した状態でも、効率よくスライスすることができる。また、領域Z1と、領域Z2との内圧のバランスを保ちやすくなる。
【0048】
(d)さらに、被加工物10とブレード20との接触部近傍に加工屑等のスラッジが滞在する時間が、ブレード20の加工能低下に大きな影響を及ぼしていることがわかった。本実施形態の窒化物半導体基板100の製造方法においては、ブレード20の所定位置Pが、被加工物10に接触してから、被加工物10の主面の平面視において、被加工物10の外側に抜けるまでの時間Teが一定となるように、回転速度N1または回転速度N2を制御することで、ブレード20の切断能低下を抑制し、より高速なスライスが可能となる。具体的には、例えば、回転速度N1、回転速度N2、および、相対速度vが一定の条件において、時間Teを算出し、被加工物10の未切断半径Rの減少に伴う、時間Teの増加量を打ち消すように、回転速度N1を下げる(または、回転速度N2を上げる)ことによって、時間Teを一定に保ちながら、スライスすることができる。
【0049】
(e)本実施形態の窒化物半導体基板100の製造方法においては、被加工物10を基板として分離するまで、回転速度N1を0にしない(被加工物10を回転させ続ける)ことで、スライスした基板が回転しているブレード20と接触して割れてしまうことを抑制できる。
【0050】
(f)本実施形態の窒化物半導体基板100の製造方法においては、被加工物10を基板として分離した後も、回転速度N1、回転速度N2、および、相対速度vを0にしないことで、スライス後に残った被加工物10の切断面(特に中心付近)を平滑にすることができる。
【0051】
(g)本実施形態の窒化物半導体基板100の製造方法においては、被加工物10が1回転する間に、ブレード20が切り込む面積を、1mm以上とすることで、スライスにかかる時間を短縮し、効率よくスライスすることができる。また、被加工物10が1回転する間に、ブレード20が切り込む面積を、2mm以下とすることで、所望の形状の窒化物半導体基板100を得ることができる。
【0052】
(h)内周刃を有するブレード20によって、窒化ガリウム等の高硬度、高脆性材料のスライスを行った場合、基板の中心に結晶欠損(凸状の突起、または、凹状の窪み)が発生し、それが起点となり、クラックや割れが発生する可能性がある。本実施形態の窒化物半導体基板100の製造方法においては、例えば、被加工物10の中心に、φ0.2mm以上1mm以下の柱部が残るように被加工物10を切り込み、柱部を破断させることによって、被加工物10を基板として分離している。このような分離により、主面の中心に敢えて微小凸部101を形成することで、スライスした基板が回転しているブレード20と接触して割れてしまうことを抑制でき、かつ、クラックや割れを抑制することができる。
【0053】
(i)本実施形態の窒化物半導体基板100の製造方法においては、窒化ガリウム結晶の+c面(Ga面)を鉛直下向きに保持して、窒化ガリウム結晶をスライスしている。これにより、-c面(N面)側の主面の中心に微小凸部101を有する窒化物半導体基板100を製造することができ、微小凸部101を除去しやすくなる。
【0054】
(j)本実施形態の窒化物半導体基板100は、主面の中心に敢えて微小凸部101を形成することで、クラックや割れのない基板を実現している。微小凸部101は、上述の結晶欠損に比べてサイズが小さいため、研磨等の方法により簡単に除去することができる。また、本実施形態の窒化物半導体基板100は、+c面側の幾何学的形状が凸型同心円状、-c面側の幾何学的形状が凹型同心円状になっているため、その後の加工が少なく低コスト化が可能である。
【0055】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0056】
例えば、上述の第1実施形態では、スライス工程S104において、窒化ガリウム結晶の+c面(Ga面)を鉛直下向きに保持して、窒化ガリウム結晶をスライスする場合について説明したが、スライス工程S104では、例えば、窒化ガリウム結晶の-c面(N面)を鉛直下向きに保持して、窒化ガリウム結晶をスライスしてもよい。この場合、窒化ガリウム結晶のc軸分布が面内で同心円状になっているため、スライスされた基板は、ブレード20から離れるように変形する。したがって、スライスされた基板とブレード20とが接触するリスクを低減することができる。なお、この方法によって製造された窒化物半導体基板100は、+c面側の主面の中心に微小凸部101を有することになる。
【0057】
また、例えば、スライス工程S104の後に、例えば、窒化物半導体基板100の主面を研磨する研磨工程を行ってもよい。研磨によって、微小凸部101、微小凹部102、ソーマーク103(ソーマーク104)等は除去することができる。つまり、窒化物半導体基板100は、微小凸部101、微小凹部102、および、ソーマーク103(ソーマーク104)を有していなくてもよい。しかしながら、主面の幾何学的形状は、研磨前の形状が反映されるため、研磨後の窒化物半導体基板100は、例えば、直径4インチ以上8インチ以下の窒化物半導体結晶からなり、+c面側の幾何学的形状は、凸型同心円状であり、-c面側の幾何学的形状は、凹型同心円状である。
【0058】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様を付記する。
【0059】
(付記1)
窒化物半導体からなる被加工物を準備する工程と、
前記被加工物の主面の中心を回転軸として、前記被加工物を回転速度N1で回転させる工程と、
前記被加工物を回転させる方向と同じ方向に、内周刃を有するブレードを回転速度N2で回転させる工程と、
前記被加工物を前記回転軸と交差する方向に前記ブレードに対する相対速度vで相対移動させ、前記ブレードによって前記被加工物を前記主面と平行な方向にスライスする工程と、
を有し、
前記スライスする工程では、スライスにより前記被加工物の側面に形成される円環状の切削溝内において、前記ブレードが入っていない領域Z1に、前記ブレードに供給する加工液を所定量滞留させ、前記領域Z1と、前記ブレードが入っている領域Z2との内圧のバランスを保つように、前記回転速度N1、前記回転速度N2、前記相対速度v、前記加工液の供給量L、および、前記加工液の粘度ηの少なくともいずれかを制御する、窒化物半導体基板の製造方法が提供される。
【0060】
(付記2)
付記1に記載の窒化物半導体基板の製造方法であって、
前記スライスする工程では、前記被加工物をスライスする間、前記回転速度N1を次第に下げる、または、前記回転速度N2を次第に上げる。
【0061】
(付記3)
付記1に記載の窒化物半導体基板の製造方法であって、
前記スライスする工程では、前記ブレードの所定位置Pが、前記被加工物に接触してから、前記主面の平面視において、前記被加工物の外側に抜けるまでの時間Teが一定になるように、前記回転速度N1または前記回転速度N2を制御する。
【0062】
(付記4)
付記1に記載の窒化物半導体基板の製造方法であって、
前記スライスする工程では、前記被加工物を基板として分離するまで、前記回転速度N1を0にしない。
【0063】
(付記5)
付記1に記載の窒化物半導体基板の製造方法であって、
前記スライスする工程では、前記被加工物を基板として分離した後も、前記回転速度N1、前記回転速度N2、および、前記相対速度vを0にしない。
【0064】
(付記6)
付記1に記載の窒化物半導体基板の製造方法であって、
前記スライスする工程では、前記被加工物が1回転する間に、前記ブレードが切り込む面積を、2mm以下とする。
好ましくは、前記スライスする工程では、前記被加工物が1回転する間に、前記ブレードが切り込む面積を、1mm以上2mm以下とする。
【0065】
(付記7)
付記1に記載の窒化物半導体基板の製造方法であって、
前記スライスする工程では、前記被加工物の中心に、φ0.2mm以上1mm以下の柱部が残るように前記被加工物を切り込み、前記柱部を破断させることによって、前記被加工物を基板として分離する。
【0066】
(付記8)
付記1に記載の窒化物半導体基板の製造方法であって、
前記被加工物は、面内のc軸分布が同心円状である窒化物半導体からなり、
前記スライスする工程では、前記窒化物半導体のc面と平行な方向にスライスする。
【0067】
(付記9)
付記1に記載の窒化物半導体基板の製造方法であって、
前記スライスする工程では、前記窒化ガリウム結晶の+c面を鉛直下向きに保持して、前記窒化ガリウム結晶をスライスする。
【0068】
(付記10)
付記8に記載の窒化物半導体基板の製造方法であって、
前記スライスする工程では、前記窒化ガリウム結晶の-c面を鉛直下向きに保持して、前記窒化ガリウム結晶をスライスする。
【0069】
(付記11)
本発明の他の態様によれば、
直径4インチ以上の窒化物半導体基板であって、
+c面側の幾何学的形状は、凸型同心円状であり、
-c面側の幾何学的形状は、凹型同心円状であり、
いずれか一方の主面の中心に、高さ300μm以下、幅0.2mm以上1mm以下の微小凸部を有する、窒化物半導体基板が提供される。
【0070】
(付記12)
付記11に記載の窒化物半導体基板であって、
面内のc軸分布は同心円状である。
【0071】
(付記13)
付記11に記載の窒化物半導体基板であって、
少なくとも一方の主面に、6回対象のソーマークを有する。
【0072】
(付記14)
付記11に記載の窒化物半導体基板であって、
少なくとも一方の主面に、螺旋状のソーマークを有する。
【0073】
(付記15)
付記11に記載の窒化物半導体基板であって、
前記微小凸部を有する主面と反対側の主面の中心に、深さ300μm以下、幅0.2mm以上1mm以下の微小凹部を有する。
【0074】
(付記16)
本発明のさらに他の態様によれば、
直径4インチ以上の窒化物半導体基板であって、
+c面側の幾何学的形状は、凸型同心円状であり、
-c面側の幾何学的形状は、凹型同心円状である、窒化物半導体基板が提供される。
【符号の説明】
【0075】
10 被加工物
11 切削溝
20 ブレード
100 窒化物半導体基板
101 微小凸部
102 微小凹部
103、104 ソーマーク
S101 被加工物準備工程
S102 被加工物回転工程
S103 ブレード回転工程
S104 スライス工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7