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特開2024-91051サンプル選択装置及び方法、物性予測装置
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  • 特開-サンプル選択装置及び方法、物性予測装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091051
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】サンプル選択装置及び方法、物性予測装置
(51)【国際特許分類】
   G16C 60/00 20190101AFI20240627BHJP
   G06F 30/27 20200101ALI20240627BHJP
   G16C 20/70 20190101ALI20240627BHJP
【FI】
G16C60/00
G06F30/27
G16C20/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207334
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 智紀
(72)【発明者】
【氏名】社内 大介
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA10
5B146DC01
5B146DC03
(57)【要約】
【課題】予測精度の向上を図りながら、学習用データのサンプル数を増やすことができるサンプル選択装置及び方法、物性予測装置を提供する。
【解決手段】サンプル選択装置1は、複合材料の既存の物性の情報を含む既存物性データ35、及び、追加候補の物性の情報を含む追加候補物性データ37を読み込むデータ読込処理部24と、既存物性データ35における物性の標準偏差である既存標準偏差と、既存物性データ35に追加候補物性データ37を追加した際の物性の標準偏差である追加時標準偏差とを演算する標準偏差演算処理部25と、追加時標準偏差が、既存標準偏差よりも大きいとき、追加候補をサンプルとして選択するサンプル選択処理部26と、を備えた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料の既存の物性の情報を含む既存物性データ、及び、追加候補の物性の情報を含む追加候補物性データを読み込むデータ読込処理部と、
前記既存物性データにおける前記物性の標準偏差である既存標準偏差と、前記既存物性データに前記追加候補物性データを追加した際の前記物性の標準偏差である追加時標準偏差とを演算する標準偏差演算処理部と、
前記追加時標準偏差が、前記既存標準偏差よりも大きいとき、前記追加候補をサンプルとして選択するサンプル選択処理部と、を備えた、
サンプル選択装置。
【請求項2】
前記データ読込処理部は、前記追加候補の配合情報を含む追加候補組成データの入力を受け付け、予め作成された組成データと物性データとの相関性を表す回帰モデルを用いて、入力された前記追加候補組成データに対応する前記物性データを予測し、予測した前記物性データを前記追加候補物性データとして用いる、
請求項1に記載のサンプル選択装置。
【請求項3】
前記データ読込処理部は、前記回帰モデルの作成に用いた前記学習用データに含まれる前記物性データを、前記既存物性データとして用いる、
請求項2に記載のサンプル選択装置。
【請求項4】
前記複合材料が、電線の被覆材料又は磁性材料である、
請求項1に記載のサンプル選択装置。
【請求項5】
複合材料の既存の物性の情報を含む既存物性データ、及び、追加候補の物性の情報を含む追加候補物性データを読み込むデータ読込工程と、
前記既存物性データにおける前記物性の標準偏差である既存標準偏差と、前記既存物性データに前記追加候補物性データを追加した際の前記物性の標準偏差である追加時標準偏差とを演算する標準偏差演算工程と、
前記追加時標準偏差が、前記既存標準偏差よりも大きいとき、前記追加候補をサンプルとして選択するサンプル選択工程と、を備えた、
サンプル選択方法。
【請求項6】
複合材料の既存の配合情報を含む組成データ及び物性の情報を含む物性データを有する学習用データを用いて機械学習を行い、前記組成データと前記物性データとの相関性を表す回帰モデルを作成する回帰モデル作成処理部と、
前記回帰モデルを用いて前記物性データを予測する物性予測処理部と、
請求項1に記載のサンプル選択装置と、を備え、
前記データ読込処理部は、追加候補の配合情報を含む追加候補組成データの入力を受け付け、入力された前記追加候補組成データに対応する前記物性データを前記物性予測処理部により予測させ、予測した前記物性データを前記追加候補物性データとして用いる、
物性予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル選択装置及び方法、物性予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、データマイニングなどの情報科学を利用して新材料や代替材料を効率的に探索するマテリアルズインフォマティクス(Materials Informatics)が注目されている。また、日本では、マテリアルズインテグレーション(Materials Integration)による材料開発が検討されている。マテリアルズインテグレーションとは、材料科学の成果に、理論、実験、解析、シミュレーション、データベースなどの科学技術を融合して、材料の研究開発を支援することを目指す総合的な材料技術ツールと定義されている。
【0003】
電線の被覆材料として用いられる樹脂組成物等の複合材料を設計する際には、耐久物性等の物性を精度よく予測することが望まれる場合がある。物性の予測の際には、複合材料の配合情報を含む組成データ、及び複合材料の物性の情報を含む物性データを含む学習用データを用い、機械学習により組成データと物性データとの相関性を示す回帰モデルを作成し、当該回帰モデルを用いて、所望の組成データに対応する物性データを予測する。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-38495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のように機械学習を用いた予測を行う場合、予測に用いる学習用データの量を増やすことで、予測精度を向上させることが望まれる。しかしながら、同じようなサンプルのデータを追加するだけは予測精度の向上は見込めないという課題がある。
【0007】
例えば、電線の被覆材料として用いられる樹脂組成物には、ベースポリマに加えて、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、銅害防止剤、滑剤、着色剤、架橋助剤等の非常に多くの材料が使用されており、どのようなサンプルを追加すれば予測精度が向上するのかを判断することは困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、予測精度の向上を図りながら、学習用データのサンプル数を増やすことができるサンプル選択装置及び方法、物性予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複合材料の既存の物性の情報を含む既存物性データ、及び、追加候補の物性の情報を含む追加候補物性データを読み込むデータ読込処理部と、前記既存物性データにおける前記物性の標準偏差である既存標準偏差と、前記既存物性データに前記追加候補物性データを追加した際の前記物性の標準偏差である追加時標準偏差とを演算する標準偏差演算処理部と、前記追加時標準偏差が、前記既存標準偏差よりも大きいとき、前記追加候補をサンプルとして選択するサンプル選択処理部と、を備えた、サンプル選択装置を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、複合材料の既存の物性の情報を含む既存物性データ、及び、追加候補の物性の情報を含む追加候補物性データを読み込むデータ読込工程と、前記既存物性データにおける前記物性の標準偏差である既存標準偏差と、前記既存物性データに前記追加候補物性データを追加した際の前記物性の標準偏差である追加時標準偏差とを演算する標準偏差演算工程と、前記追加時標準偏差が、前記既存標準偏差よりも大きいとき、前記追加候補をサンプルとして選択するサンプル選択工程と、を備えた、サンプル選択方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、複合材料の既存の配合情報を含む組成データ及び物性の情報を含む物性データを有する学習用データを用いて機械学習を行い、前記組成データと前記物性データとの相関性を表す回帰モデルを作成する回帰モデル作成処理部と、前記回帰モデルを用いて前記物性データを予測する物性予測処理部と、前記サンプル選択装置と、を備え、前記データ読込処理部は、追加候補の配合情報を含む追加候補組成データの入力を受け付け、入力された前記追加候補組成データに対応する前記物性データを前記物性予測処理部により予測させ、予測した前記物性データを前記追加候補物性データとして用いる、物性予測装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、予測精度の向上を図りながら、学習用データのサンプル数を増やすことができるサンプル選択装置及び方法、物性予測装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態に係るサンプル選択装置を備えた物性予測装置の概略構成図である。
図2】(a)は回帰モデル作成処理、(b)は物性予測処理、(c)はデータ読込処理、(d)は標準偏差演算処理を説明する図である。
図3】本発明の一実施の形態に係るサンプル選択方法のフロー図である。
図4】(a)はデータ読込処理、(b)は標準偏差演算処理のフロー図である。
図5】サンプル選択処理のフロー図である。
図6】(a)は検討用の学習用データの作成方法を説明する図、(b)は作成した学習用データのデータサイズと目的変数の変動係数を示す図、(c)は検討結果を示す図である。
図7】(a)は検討用の学習用データの作成方法を説明する図、(b)は作成した学習用データのデータサイズと目的変数の変動係数を示す図、(c)は検討結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態に係るサンプル選択装置1を備えた物性予測装置10の概略構成図である。物性予測装置10は、複合材料の物性を予測する装置である。本実施の形態では、複数の材料を複合して形成される複合材料を対象とする。対象となる複合材料は、例えば、電線の被覆材料又はフェライト磁石等の磁性材料である。
【0016】
図1に示すように、物性予測装置10は、少なくとも、制御部2と、記憶部3と、図示しない通信部とを有している。制御部2は、物性予測装置10(及びサンプル選択装置1)の全体を統括的に制御しており、記憶部3は、制御部2による後述する各種処理に必要な情報等を記憶する。物性予測装置10は、例えば、パーソナルコンピュータやサーバ装置等のコンピュータであり、CPU等の演算素子、RAMやROM等のメモリ、ハードディスク等の記憶装置、LANカード等の通信デバイスである通信インターフェースを備えている。
【0017】
物性予測装置10は、回帰モデル作成処理部21と、物性予測処理部22と、予測結果提示処理部23と、本実施の形態に係るサンプル選択装置1と、を備えている。なお、本実施の形態では、物性予測装置10とサンプル選択装置1とが一体に構成されている場合について説明するが、物性予測装置10とサンプル選択装置1とが別体(別のハードウェア)で構成されていてもよい。
【0018】
制御部2は、回帰モデル作成処理部21、物性予測処理部22、及び予測結果提示処理部23を有している。各部の詳細については後述する。記憶部3は、メモリや記憶装置の所定の記憶領域により実現されている。また、物性予測装置10は、表示器4と、入力装置5と、を有している。表示器4は、例えば液晶ディスプレイ等であり、入力装置5は、例えばキーボードやマウス等である。なお、表示器4をタッチパネルで構成し、表示器4が入力装置5を兼ねる構成としてもよい。また、表示器4や入力装置5は、物性予測装置10と別体に構成され、無線通信等により物性予測装置10と相互に通信可能に構成されていてもよい。この場合、表示器4または入力装置5は、タブレットやスマートフォン等の携帯端末で構成されていてもよい。
【0019】
(回帰モデル作成処理部21)
図2(a)に示すように、回帰モデル作成処理部21は、予め記憶部3に記憶された学習用データ31を用いて機械学習を行い、回帰モデル32を作成する。本実施の形態では、学習用データ31として、複合材料の既存の配合情報を含む組成データ及び物性の情報を含む物性データを有するものを用いた。そして、回帰モデル作成処理部21では、組成データの各パラメータ(各材料の配合割合)を説明変数とし、物性データの任意のパラメータ(例えば、初期引張強さや初期伸び)を目的変数として、組成データと物性データとの相関性を表す回帰モデル32を作成した。
【0020】
回帰モデル作成処理部21は、説明変数の各パラメータに対する目的変数のパラメータの相関性を、機械学習により自ら学習するための学習アルゴリズム等のソフトウェアを含んでいる。学習アルゴリズムは特に限定されず、公知の学習アルゴリズムを用いることができ、例えば、3層以上の層をなすニューラルネットワークを用いた所謂ディープラーニング等を用いることができる。回帰モデル作成処理部21が学習するものは、説明変数の各パラメータと、目的変数のパラメータとの相関性を表すモデル構造に相当する。
【0021】
より具体的には、回帰モデル作成処理部21は、入力された学習用データ31を基に、説明変数の各パラメータのデータ(ここでは組成データ)と目的変数のパラメータのデータ(ここでは物性データ)とを含むデータ集合に基づく学習を反復実行し、両者の相関性を自動的に解釈する。なお、学習の開始時には相関性は未知の状態であるが、学習を進めるに従って説明変数の各パラメータに対する目的変数のパラメータの相関性を徐々に解釈し、その結果として得られた学習済みモデルである回帰モデル32を用いることで、説明変数の各パラメータに対する目的変数のパラメータの相関性を解釈可能になる。回帰モデル作成処理部21は、作成した回帰モデル32を記憶部3に記憶する。
【0022】
なお、組成データに加えて、組成データ以外のデータを説明変数として用いてもよい。例えば、製造条件を示すプロセスデータや、複合材料の組織の状態を示す組織データ等を説明変数に用いてもよい。
【0023】
(物性予測処理部22)
物性予測処理部22は、回帰モデル作成処理部21が作成した回帰モデル32を用いて、物性データを予測する。図2(b)に示すように、物性予測処理部22は、回帰モデル作成処理部21が作成した回帰モデル32と、予測元の組成データである予測元組成データ33とを基に、予測物性データ34を求める。求めた予測物性データ34は、記憶部3に記憶される。予測元組成データ33は、例えば、入力装置5により入力される。
【0024】
(予測結果提示処理部23)
予測結果提示処理部23は、例えば、予測物性データ34を表示器4に表示する等して、予測物性データ34を提示する。なお、予測物性データ34の提示のみならず、例えば、説明変数として用いたパラメータのリストや予測元組成データ33等、他の情報も提示するように構成されていてもよい。
【0025】
(サンプル選択装置1)
サンプル選択装置1は、サンプル選択装置1は、機械学習に用いる学習用データ31にデータ追加を行うにあたって、サンプルの適切な配合情報(配合割合)を選択するための装置である。サンプル選択装置1は、データ読込処理部24と、標準偏差演算処理部25と、サンプル選択処理部26と、を備えている。これらデータ読込処理部24、標準偏差演算処理部25、及びサンプル選択処理部26は、制御部2に搭載されている。以下、各部について詳細に説明する。
【0026】
(データ読込処理部24)
データ読込処理部24は、複合材料の既存の物性の情報を含む既存物性データ35、及び、追加候補の物性の情報を含む追加候補物性データ37を読み込むデータ読込処理を行う。
【0027】
図2(c)に示すように、本実施の形態では、回帰モデル32の作成に用いた学習用データ31に含まれる物性データを抽出し、抽出した物性データを既存物性データ35として用いるようにデータ読込処理部24を構成した。なお、これに限らず、予め用意された既存物性データ35を読み込むようデータ読込処理部24を構成してもよい。
【0028】
また、本実施の形態では、入力装置5等から追加候補の配合情報を含む追加候補組成データ36の入力を受け付け、予め作成された回帰モデル32を用いて、入力された追加候補組成データ36に対応する物性データを物性予測処理部22に予測させ、予測した物性データを追加候補物性データ37として用いるようにデータ読込処理部24を構成した。データ読込処理部24で読み込まれた追加候補組成データ36は、予測元組成データ33として物性予測処理部22に入力される。そして、データ読込処理部24は、物性予測処理部22での予測結果である予測物性データ34を受信し、受信した予測物性データ34を追加候補物性データ37として記憶部3に記憶する。
【0029】
(標準偏差演算処理部25)
標準偏差演算処理部25は、既存物性データ35における物性の標準偏差である既存標準偏差と、既存物性データ35に追加候補物性データ37を追加した際の物性の標準偏差である追加時標準偏差とを演算する標準偏差演算処理を行う。図2(d)に示すように、標準偏差演算処理部25は、入力された既存物性データ35と追加候補物性データ37を基に、既存標準偏差と追加時標準偏差とを演算し、標準偏差データ38として記憶部3に記憶する。
【0030】
(サンプル選択処理部26)
サンプル選択処理部26は、標準偏差演算処理部25で求めた追加時標準偏差が、既存標準偏差よりも大きいとき、追加候補をサンプルとして選択するサンプル選択処理を行う。サンプル選択処理部26は、追加時標準偏差が、既存標準偏差以下であるときには、追加候補をサンプルとして選択しない。
【0031】
すなわち、本実施の形態では、追加した際に物性データの標準偏差が大きくなるサンプルのみを、適切なサンプルとして選択している。これは、本発明者らの鋭意検討の結果、目的変数とするパラメータ(物性)の標準偏差が大きくなるほど、予測精度が高くなることが判明したためである。この点の詳細については、後述する。
【0032】
また、サンプル選択処理部26は、追加候補をサンプルとして選択するか否かを、表示器4に表示する等して、サンプル選択装置1の使用者に提示するよう構成されることが望ましい。
【0033】
(サンプル選択方法)
図3は、本実施の形態に係るサンプル選択方法のフロー図である。図3に示すように、まず、ステップS1にて、データ読込処理を行う。データ読込処理は、本発明のデータ読込工程に相当する。データ読込処理では、図4(a)に示すように、まず、ステップS11にて、データ読込処理部24が、機械学習に用いている既存の学習用データ31から、特性に関するデータを抽出し、ステップS12にて、抽出したデータを既存物性データ35として記憶部3に記憶する。その後、ステップS13にて、データ読込処理部24が、入力装置5等を用いた追加候補の組成のデータ入力を受け付け、ステップS14にて、入力されたデータを追加候補組成データ36として記憶部3に記憶する。その後、ステップS15にて、データ読込処理部24が、追加候補組成データ36を物性予測処理部22に入力して追加候補物性データ37を予測し、ステップS16にて、予測した追加候補物性データ37を記憶部3に記憶する。その後、リターンし、図3のステップS2に進む。
【0034】
ステップS2では、標準偏差演算処理を行う。標準偏差演算処理は、本発明の標準偏差演算工程に相当する。標準偏差演算処理では、図4(b)に示すように、まず、ステップS21にて、標準偏差演算処理部25が、既存物性データ35の標準偏差である既存標準偏差を演算する。その後、ステップS22にて、標準偏差演算処理部25が、既存物性データ35に追加候補物性データ37を加えた際の標準偏差である追加時標準偏差を演算する。そして、ステップS23にて、標準偏差演算処理部25が、ステップS21,S22での演算により得られた既存標準偏差、及び追加時標準偏差を標準偏差データ38として記憶部3に記憶する。その後、リターンし、図3のステップS3に進む。
【0035】
ステップS3では、サンプル選択処理を行う。サンプル選択処理は、本発明のサンプル選択工程に相当する。サンプル選択処理では、図5に示すように、ステップS31にて、追加時標準偏差が既存標準偏差よりも大きいかを判定する。ステップS31でYES(Y)と判定された場合、ステップS32にて、追加候補をサンプルに選択すると判定し、ステップS34に進む。ステップS31でNO(N)と判定された場合、ステップS33にて、追加候補をサンプルに選択しないと判定し、ステップS34に進む。ステップS34では、サンプル選択処理部26が、ステップS32,S33での判定結果を表示器4に表示する。その後、リターンし、図4のステップS1に戻る。
【0036】
(物性データの標準偏差と予測精度の検討)
回帰モデル32の作成に用いる学習用データ31として、物性データの標準偏差が異なるデータを用意し、予測精度に与える影響を検討した。ここでは、予測対象の物性(目的変数)を、初期引張強さと初期伸びとした。
【0037】
まず、図6(a)に示すように、物性値を昇順に並べた際の端のデータを順次削除していくことで、標準偏差が異なる物性データを作成した。使用した学習用データ31のデータサイズと標準偏差をまとめて図6(b)に示す。図6(b)で縦軸に用いた目的変数の変動係数Aは、下式
A=(目的変数の標準偏差)/(目的変数の平均値)
で表される。なお、上式における目的変数は物性データ(初期引張強さまたは初期伸び)に相当する。
【0038】
検討においては、学習用データ31のデータの70%をとして用いて回帰モデルを作成すると共に、30%をテスト用のデータとして検証を行い、決定係数Rを算出した。目的変数を初期引張強さ、初期伸びとしたそれぞれの場合についての検討結果を図6(c)にまとめて示す。図6(c)の横軸における測定値の変動係数Bは、下式
B=測定ばらつきσ/平均値
で表される。図6(c)より、標準偏差が大きくなるほど(横軸の値が大きくなるほど)、決定係数Rの値が大きくなっており、予測精度が高くなっていることがわかる。
【0039】
次に、図7(a)に示すように、削除するデータを変更することで、データサイズを一定にしつつ標準偏差が異なる学習用データ31を用意した。使用した学習用データ31のデータサイズと標準偏差をまとめて図7(b)に示す。検討においては、図6の場合と同様に、学習用データ31のデータの70%をとして用いて回帰モデル32を作成すると共に、30%をテスト用のデータとして検証を行い、決定係数Rを算出した。検討結果を図7(c)にまとめて示す。図7(c)に示すように、標準偏差が大きくなるほど(横軸の値が大きくなるほど)、決定係数Rの値が大きくなっており、予測精度が高くなっていることがわかる。
【0040】
以上の結果から、学習用データ31における物性データの標準偏差が大きくなるほど、予測精度が高くなることが分かった。よって、本実施の形態に係るサンプル選択装置1において、既存物性データ35に追加した際に標準偏差が大きくなるサンプルを選択することで、予測精度の向上を図ることが可能になる。
【0041】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るサンプル選択装置1では、既存物性データ35における物性の標準偏差である既存標準偏差と、既存物性データ35に追加候補物性データ37を追加した際の物性の標準偏差である追加時標準偏差とを演算する標準偏差演算処理部25と、追加時標準偏差が、既存標準偏差よりも大きいとき、追加候補をサンプルとして選択するサンプル選択処理部26と、を備えている。
【0042】
これにより、既存の学習用データ31にデータ追加することで、予測精度の向上が図れるサンプルを選択することが可能になる。すなわち、本実施の形態によれば、効率的に学習用データ31を拡充することができ、予測精度の向上を図りながら、学習用データ31のサンプル数を増やすことができる。
【0043】
(変形例)
上記実施の形態では、サンプルを選択する指標として標準偏差を用いたが、標準偏差を平均値で除した上記目的変数の変動係数Aを指標として、サンプルを選択してもよい。すなわち、既存物性データ35における目的変数の変動係数Aよりも、既存物性データ35に追加候補物性データ37を追加した際における目的変数の変動係数Aが大きいとき、サンプルを選択するようにしてもよい。
【0044】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0045】
[1]複合材料の既存の物性の情報を含む既存物性データ(35)、及び、追加候補の物性の情報を含む追加候補物性データ(37)を読み込むデータ読込処理部(24)と、前記既存物性データ(35)における前記物性の標準偏差である既存標準偏差と、前記既存物性データ(35)に前記追加候補物性データ(37)を追加した際の前記物性の標準偏差である追加時標準偏差とを演算する標準偏差演算処理部(25)と、前記追加時標準偏差が、前記既存標準偏差よりも大きいとき、前記追加候補をサンプルとして選択するサンプル選択処理部(26)と、を備えた、サンプル選択装置(1)。
【0046】
[2]前記データ読込処理部(24)は、前記追加候補の配合情報を含む追加候補組成データ(36)の入力を受け付け、予め作成された組成データと物性データとの相関性を表す回帰モデル(32)を用いて、入力された前記追加候補組成データ(36)に対応する前記物性データを予測し、予測した前記物性データを前記追加候補物性データ(37)として用いる、[1]に記載のサンプル選択装置(1)。
【0047】
[3]前記データ読込処理部(24)は、前記回帰モデル(32)の作成に用いた前記学習用データ(31)に含まれる前記物性データを、前記既存物性データ(35)として用いる、[2]に記載のサンプル選択装置(1)。
【0048】
[4]前記複合材料が、電線の被覆材料又は磁性材料である、[1]に記載のサンプル選択装置(1)。
【0049】
[5]複合材料の既存の物性の情報を含む既存物性データ(35)、及び、追加候補の物性の情報を含む追加候補物性データ(37)を読み込むデータ読込工程と、前記既存物性データ(35)における前記物性の標準偏差である既存標準偏差と、前記既存物性データ(35)に前記追加候補物性データ(37)を追加した際の前記物性の標準偏差である追加時標準偏差とを演算する標準偏差演算工程と、前記追加時標準偏差が、前記既存標準偏差よりも大きいとき、前記追加候補をサンプルとして選択するサンプル選択工程と、を備えた、サンプル選択方法。
【0050】
[6]複合材料の既存の配合情報を含む組成データ及び物性の情報を含む物性データを有する学習用データ(31)を用いて機械学習を行い、前記組成データと前記物性データとの相関性を表す回帰モデル(32)を作成する回帰モデル作成処理部(21)と、前記回帰モデル(32)を用いて前記物性データを予測する物性予測処理部(22)と、[1]に記載のサンプル選択装置(1)と、を備え、前記データ読込処理部(24)は、追加候補の配合情報を含む追加候補組成データ(36)の入力を受け付け、入力された前記追加候補組成データ(36)に対応する前記物性データを前記物性予測処理部(22)により予測させ、予測した前記物性データを前記追加候補物性データ(37)として用いる、物性予測装置(10)。
【0051】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…サンプル選択装置
10…物性予測装置
2…制御部
21 回帰モデル作成処理部
22…物性予測処理部
23…予測結果提示処理部
24…データ読込処理部
25…標準偏差演算処理部
26…サンプル選択処理部
3…記憶部
31…学習用データ
32…回帰モデル
33…予測元組成データ
34…予測物性データ
35…既存物性データ
36…追加候補組成データ
37…追加候補物性データ
38…標準偏差データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7