(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091052
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】トロリ線
(51)【国際特許分類】
B60M 1/13 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
B60M1/13 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207335
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 起基
(72)【発明者】
【氏名】蛭田 浩義
(72)【発明者】
【氏名】田村 和彦
(57)【要約】
【課題】左右両側に摩耗検知線としての光ファイバを備えたトロリ線であって、胴径の小さいドラムに巻き付ける場合であっても、光ファイバにおけるマイクロベンドの発生を抑えることができ、かつ架線張力に対する信頼性の低下が抑えられたトロリ線を提供する。
【解決手段】中心線30の両側に設けられた2つの摩耗検知線用孔14を内部に有するトロリ線本体10と、2つの摩耗検知線用孔14に収容された、摩耗検知線としての2本の光ファイバ20と、を備え、摩耗検知線用孔14の有効径が、1.5mm以上、1.6mm以下であり、光ファイバ20の径方向の断面積が、摩耗検知線用孔14の有効断面積の45%以下である、1600mを超える長さを有する、トロリ線1を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心線の両側に設けられた2つの摩耗検知線用孔を内部に有するトロリ線本体と、
前記2つの摩耗検知線用孔に収容された、摩耗検知線としての2本の光ファイバと、
を備え、
前記摩耗検知線用孔の有効径が、1.5mm以上、1.6mm以下であり、
前記光ファイバの径方向の断面積が、前記摩耗検知線用孔の有効断面積の45%以下である、
1600mを超える長さを有する、
トロリ線。
【請求項2】
前記光ファイバの直径が、0.99mm以上、1.01mm以下である、
請求項1に記載のトロリ線。
【請求項3】
前記トロリ線を胴径が1000mmのドラムに巻き付けたときの、前記2本の光ファイバのうちの前記ドラムに近い光ファイバの、前記トロリ線本体の長さ方向のマイクロベンドの量が、前記トロリ線本体の長さの20%以下である、
請求項1又は2に記載のトロリ線。
【請求項4】
前記トロリ線を胴径が1000mmのドラムに巻き付けたときの、前記2本の光ファイバのうちの前記ドラムに近い光ファイバの、前記トロリ線の架線後に残留する伸びひずみ量が0.44%以下である、
請求項1又は2に記載のトロリ線。
【請求項5】
前記トロリ線を胴径が1000mmのドラムに巻き付けたときの、前記2本の光ファイバのうちの前記ドラムに近い光ファイバの、前記トロリ線を架線する際の前記トロリ線本体内への引き込み量が35mm以上である、
請求項1又は2に記載のトロリ線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗検知線としての光ファイバを内蔵するトロリ線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、摩耗検知線としての光ファイバを内蔵する光ファイバ入りトロリ線が知られている(例えば、特許文献1参照)。一般的に、トロリ線をドラムに巻き付ける際には、横巻きにすることにより、架線後にトロリ線が波打つことに起因する波状摩耗の発生を抑えることができる。このとき、トロリ線が左右両側に収容された2本の光ファイバを備える場合、ドラムに近い方の光ファイバに圧縮ひずみが生じる。
【0003】
特許文献1によれば、この光ファイバの圧縮ひずみは、トロリ線の架線後に伸びひずみに変わり、光ファイバの寿命の低下の原因となるとされている。そこで、特許文献1に記載のトロリ線においては、光ファイバの径方向の断面積を摩耗検知線用溝の有効断面積の40%以下とすることにより、トロリ線の架線後の光ファイバの伸びひずみの量の最大値を0.35%以下に抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新幹線路に架線されるトロリ線のような、1600mを超える極めて長いトロリ線をドラムに巻き付けるためには、ドラムの胴径を小さくする必要がある。これは、ドラムを延線車両に搭載するために、ドラムの鍔径に制約があるためである。ドラムの胴径が小さくなると、横巻きに巻き付けられたトロリ線に収容された、ドラムに近い方の光ファイバに生じる圧縮ひずみがより大きくなり、その長さ方向に沿って多くのマイクロベンドが発生する。そして、マイクロベンドの発生により、光ファイバの寿命の低下に加え、伝送損失の増加が生じる。
【0006】
マイクロベンドの発生を抑えるためには、特許文献1に記載された発明のように、摩耗検知線用孔の有効断面積に対する光ファイバの径方向の断面積の割合を低減することにより、トロリ線に収容された光ファイバに生じる圧縮歪みを抑える方法が考えられる。しかしながら、摩耗検知線用孔の有効断面積に対する光ファイバの径方向の断面積の割合を低減するために摩耗検知線用孔の有効断面積を大きくすると、トロリ線本体の断面積が減少するため、トロリ線を架線したときの架線張力に対する信頼性が低下するという問題がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、左右両側に摩耗検知線としての光ファイバを備えたトロリ線であって、胴径の小さいドラムに巻き付ける場合であっても、光ファイバにおけるマイクロベンドの発生を抑えることができ、かつ架線張力に対する信頼性の低下が抑えられたトロリ線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、中心線の両側に設けられた2つの摩耗検知線用孔を内部に有するトロリ線本体と、前記摩耗検知線用孔の各々に収容された、摩耗検知線としての光ファイバと、を備え、前記摩耗検知線用孔の有効径が、1.5mm以上、1.6mm以下であり、前記光ファイバの径方向の断面積が、前記摩耗検知線用孔の有効断面積の45%以下であり、1600mを超える長さを有する、トロリ線を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、左右両側に摩耗検知線としての光ファイバを備えたトロリ線であって、胴径の小さいドラムに巻き付ける場合であっても、光ファイバにおけるマイクロベンドの発生を抑えることができ、かつ架線張力に対する信頼性の低下が抑えられたトロリ線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係るトロリ線の径方向の断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係るトロリ線の摩耗検知線用孔周辺を拡大した断面図である。
【
図3】
図3は、ドラムに巻き付けられた状態のトロリ線を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施の形態〕
(トロリ線の構造)
図1は、本発明の実施の形態に係るトロリ線1の径方向の断面図である。トロリ線1は、2つの摩耗検知線用孔14を内部に有するトロリ線本体10と、2つの摩耗検知線用孔14内に収容された摩耗検知線としての2本の光ファイバ20とを有する。また、トロリ線1は、新幹線路などの架線区間の距離に応じた、1600mを超える長さを有し、例えば、1600mより大きく、1830m以下の長さを有する。
【0012】
トロリ線1のトロリ線本体10は、異形丸形のトロリ線であり、上部の小弧面11、下部の大弧面12、両側部の小弧面11と大弧面12の間のV字状のイヤー溝13と、大弧面12の底部から所定の距離の位置にトロリ線本体10の長手方向に沿って設けられた線上の摩耗検知線用孔14とを有する。トロリ線本体10は、JISE2101、EN50149に規定されたみぞ付硬銅トロリ線に該当する。
【0013】
トロリ線本体10は、銅合金、例えば、Cu-Sn-In系合金又はCu-Sn系合金を主成分とする。トロリ線本体10の公称断面積は150mm2(150SQ)以上かつ170mm2(170SQ)以下である。
【0014】
トロリ線1を介して、例えば高速で走行する新幹線などの鉄道車両からなる電気車に給電が行われる際には、トロリ線本体10の大弧面12の底部が、パンタグラフ等の電気車の集電装置に接触する。このため、集電装置の摺動により、トロリ線本体10は大弧面12の底部から摩耗する。摩耗が進むと、設定された摩耗限度位置16に達する前に光ファイバ20が断線し、断線検知システムが作動して、トロリ線本体10が限界に近いところまで摩耗していることが検知される。
【0015】
図1中の距離L
1は、摩耗前のトロリ線本体10の底部と摩耗限度位置16との距離であり、摩耗しろと呼ばれる。また、距離L
2は、トロリ線本体の上端と摩耗限度位置16との距離である。距離L
2は、トロリ線本体10が摩耗して底面が摩耗限度位置16に達したときの残存するトロリ線本体10の高さであるため、残存高さと呼ばれる。距離Lは、トロリ線本体10の上端から下端までの距離であり、距離L
1と距離L
2の合計に等しい。
【0016】
摩耗検知線用孔14は、その上端の位置がトロリ線本体10の摩耗限度位置16に一致するような位置に設けられる。トロリ線本体10においては、トロリ線本体10の中心線30の両側に1つずつ、計2つの摩耗検知線用孔14が設けられ、それら2つの摩耗検知線用孔14の各々に1本ずつ光ファイバ20が収容されている。2本の光ファイバ20を用いることにより、偏摩耗が生じた場合にも摩耗を検知することができる。
【0017】
トロリ線本体10の残存高さである距離L2は、例えば、架線張力が2.5トンまでのトロリ線に適応させるため、8mm以上かつ13mm以下に設定される。この場合、摩耗検知線用孔14の上端とトロリ線本体10の上端とのトロリ線本体10の高さ方向の距離が8mm以上かつ13mm以下となる。
【0018】
図2は、トロリ線1の摩耗検知線用孔14周辺を拡大した断面図である。
図1、
図2における摩耗検知線用孔14内の点線で表される円15は、摩耗検知線用孔14の断面に含まれる最大の真円であり、円15の直径Dを摩耗検知線用孔14の有効径と呼び、円15の面積を摩耗検知線用孔14の有効断面積と呼ぶ。
【0019】
図3は、ドラム50に巻き付けられた状態のトロリ線1を模式的に示す断面図である。
図3に示されるように、トロリ線1は、通常、架線後の波状摩耗の発生を抑えるため、ドラムに横巻きで巻き付けられる。すなわち、トロリ線本体10の中心線30がドラム50の胴51の表面に対して垂直な方向から傾くように巻かれる。
【0020】
トロリ線1がドラム50に横巻きに巻き付けられると、2本の光ファイバ20のうちの、ドラム50に近い(胴51に近い)光ファイバ20aには圧縮ひずみが生じ、ドラム50から遠い(胴51から遠い)光ファイバ20bには伸びひずみが生じる。
【0021】
トロリ線1が1600mを超える長さを有し、また、ドラム50を延線車両に搭載するために鍔52の直径に制約があるため、ドラム50の胴径(円筒形の胴51の直径)が一般的なドラムよりも小さい、例えば、1000mm以下(通常は800μm以上)である必要がある。このため、ドラム50に巻き付けられたトロリ線1内の光ファイバ20aには大きな圧縮ひずみが生じ、その長さ方向に沿って多くのマイクロベンドが生じやすい状態にある。
【0022】
ここで、マイクロベンドとは、光ファイバがそのコア径に比べて小さい曲率半径で曲がることをいい、光ファイバ20にマイクロベンドが発生すると、光ファイバ20の寿命の低下に加え、架線されたトロリ線1における光ファイバ20の伝送損失が増大する。場合によっては、マイクロベンドの発生により、光ファイバ20のひずみや伝送損失が測定装置による測定限界を超えるほど大きくなる場合もある。
【0023】
通常、トロリ線1を架線すると光ファイバ20のひずみが開放されるが、光ファイバ20aにマイクロベンドが生じている場合には、光ファイバ20aと摩耗検知線用孔14の内壁との摩擦が大きくなり、光ファイバ20aが摩耗検知線用孔14内で動き難くなる。その結果、トロリ線1を架線する際にも光ファイバ20aの圧縮ひずみが十分に開放されず、架線後に大きな伸びひずみに変わり、伝送損失の増大の原因となる。なお、この場合、トロリ線1をドラム50に巻き付けることにより光ファイバ20bに生じる伸びひずみは、トロリ線1の架線後に圧縮ひずみに変わるが、この架線後の圧縮ひずみは光ファイバ20bの伝送損失や寿命にほとんど影響を及ぼさない。
【0024】
トロリ線1は、架線張力に対する信頼性の低下を抑えつつ、光ファイバ20aのマイクロベンドの発生を抑えるため、摩耗検知線用孔14の有効径が、1.5mm以上、1.6mm以下であり、かつ、光ファイバ20の径方向の断面積が、摩耗検知線用孔14の有効断面積の45%以下である、という特徴を有する。
【0025】
光ファイバ20の径方向の断面積が、摩耗検知線用孔14の有効断面積の45%以下であることにより、トロリ線1が曲げられた際に摩耗検知線用孔14の長手方向に対して光ファイバ20が動き易くなり、光ファイバ20に発生するひずみが低減する。そのため、胴径が小さいドラム50に横巻きで巻き付けた場合であっても、光ファイバ20aにおけるマイクロベンドの発生が抑えられる。
【0026】
例えば、トロリ線1を胴径が1000mmのドラム50に巻き付けたとき、すなわち500mmの曲げ半径でトロリ線1をドラム50に巻き付けたときの、トロリ線本体10の長さ方向の光ファイバ20aのマイクロベンドの量(マイクロベンドが発生している部分の長さ)は、トロリ線本体10の長さの20%以下である。マイクロベンドの量は、マイクロベンドがないと仮定した場合のトロリ線1内の光ファイバ20aの長さと、実際のトロリ線1内の光ファイバの長さから算出する。実際のトロリ線1内の光ファイバ20aの長さは、OTDR(光パルス試験機)を用いて測定することができる。
【0027】
また、例えば、トロリ線1を胴径が1000mmのドラム50に巻き付けたときの、トロリ線1を2.5トンの張力で架線した直後に光ファイバ20aに残留する伸びひずみ量の最大値が0.44%以下となる。これにより、光ファイバ20aの伝送損失の増大や寿命の低下を抑えることができる。なお、伸びひずみ量の平均値ではなく最大値を考慮するのは、光ファイバ20a中に伸びひずみ量が許容範囲を超える点が一点でもあれば、その点において断線などが生じる場合があるためである。この光ファイバ20aの伸びひずみ量は、BOTDR方式の光ファイバアナライザを用いて測定することができる。
【0028】
トロリ線1においては、光ファイバ20aのマイクロベンドの発生が抑えられているため、胴径の小さいドラム50に巻き付ける場合であっても、架線の際に光ファイバ20aが摩耗検知線用孔14内で動きやすい。そのため、例えば、トロリ線1を胴径が1000mmのドラム50に巻き付けたときの、トロリ線1を架線する際の光ファイバ20aのトロリ線本体10内への引き込み量が35mm以上になる。なお、トロリ線1の架線の際に光ファイバ20aがトロリ線本体10内へ引き込まれるのは、トロリ線1がドラム50に巻き付けられた状態では、トロリ線本体10の中心よりもドラムに近い光ファイバ20aのトロリ線1内の長さがトロリ線本体10の長さよりも短いためである。
【0029】
また、トロリ線1をドラム50に巻き付けると、胴51に近い側(延線終了側)の端部近傍の方が、胴51から遠い側(延線開始側)の端部近傍よりも、光ファイバ20aに生じる圧縮ひずみが大きくなる。このため、光ファイバ20aにおけるマイクロベンドが抑えられ、摩耗検知線用孔14内で光ファイバ20aが動き易くなっているトロリ線1においては、胴径の小さいドラム50に巻き付ける場合であっても、架線の際に生じる光ファイバ20aの引き込みの量が、その両方の端部で異なる。光ファイバ20aにマイクロベンドが発生している場合は、摩耗検知線用孔14の全領域で光ファイバ20aが動き難くなるため、架線の際のトロリ線1の両端における光ファイバ20aの引き込み量がともに極めて小さく、ほとんど差が無くなる。
【0030】
また、トロリ線1においては、摩耗検知線用孔14の有効径が、1.5mm以上、1.6mm以下と小さいことにより、摩耗検知線用孔14を設けることによるトロリ線本体10の断面積の減少量を抑え、トロリ線1を架線したときの架線張力に対する信頼性の低下を抑えることができる。新幹線路などの車両が高速走行する線路に架線されるトロリ線1は、高い張力で架線されるため、架線張力に対する信頼性は特に重要である。また、摩耗検知線用孔14の有効径が小さいことにより、架線されたトロリ線1の摩耗が進行して摩耗検知線用孔14が下方に開口したときの開口幅の広がりを抑え、光ファイバ20が摩耗検知線用孔14から脱落することを抑制できる。光ファイバ20が摩耗検知線用孔14から脱落して垂れ下がった場合、期待される摩耗検知機能を発揮できないばかりか、営業運転上の障害になるおそれがある。
【0031】
一方で、摩耗検知線用孔14の有効断面積に対する光ファイバ20の径方向の断面積が小さすぎると、摩耗検知線用孔14の内面と光ファイバ20との摩擦が極端に小さくなるため、トロリ線1が架線されて電気車が通過する際に、摩耗検知線用孔14の長手方向に対して光ファイバ20が動いてしまう波乗り現象と呼ばれる現象が生じる。そこで、光ファイバ20の径方向の断面積を摩耗検知線用孔14の有効断面積の30%以上にすることにより、波乗り現象を抑えることができる。
【0032】
上述の“摩耗検知線用孔14の有効径が、1.5mm以上、1.6mm以下であり、かつ、光ファイバ20の径方向の断面積が、摩耗検知線用孔14の有効断面積の45%以下”の条件を満たすために、例えば、光ファイバ20の直径を約1.0mm、製造誤差を考慮して0.99mm以上、1.01mm以下とすることができる。直径が約1.0mmの光ファイバ20は、例えば、従来一般的に用いられている直径が1.1mmの光ファイバの外部被覆を薄くすることにより得ることができる。
【0033】
例えば、光ファイバ20の直径が1.0mm、摩耗検知線用孔14の有効径が1.5mm以上、1.6mm以下である場合は、光ファイバ20の径方向の断面積が、摩耗検知線用孔14の有効断面積の39.1%以上、44.4%以下になる。ここで、従来一般的に用いられている直径が1.1mmの光ファイバを光ファイバ20の代わりに用いた場合は、光ファイバ20の径方向の断面積が、摩耗検知線用孔14の有効断面積の47.3%以上、53.8%以下になる。なお、光ファイバ20の直径が1.1mm、摩耗検知線用孔14の有効径が1.5mm又は1.6mmである場合には、トロリ線1の架線後にマイクロベンドに起因する光ファイバ20aの伝送損失の増大や寿命の低下が生じることが確認されている。
【0034】
なお、トロリ線1における摩耗検知線用孔14の位置により、光ファイバ20に生じるひずみの大きさは変化するが、公称断面積が150mm2以上かつ170mm2以下の範囲にあるトロリ線1においては、光ファイバ20の径方向の断面積が摩耗検知線用孔14の有効断面積の45%以下の範囲であれば、摩耗検知線用孔14の位置に依らず、トロリ線1をドラム50に横巻きで巻き付けたときの光ファイバ20aにおけるマイクロベンドの発生を抑えることができる。
【0035】
なお、トロリ線1をドラム50に横巻きで巻き付けたときの光ファイバ20aに生じる圧縮ひずみ量は、小さすぎると光ファイバ20aが摩耗検知線用孔14内で動き難くなる場合があるため、0.18%以上であることが好ましい。摩耗検知線用孔14の有効径が1.5mm以上、1.6mm以下であり、かつ、光ファイバ20の径方向の断面積が摩耗検知線用孔14の有効断面積の45%以下である場合、例えば、トロリ線1を胴径が1000mmのドラム50に巻き付けたときの光ファイバ20aに生じる圧縮ひずみ量は、0.18%以上になる。この光ファイバ20aの圧縮ひずみ量は、BOTDR方式の光ファイバアナライザを用いて測定することができる。
【0036】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、1600mを超える長さを有し、左右両側に摩耗検知線としての光ファイバ20を備えたトロリ線1において、摩耗検知線用孔14の有効径を1.5mm以上、1.6mm以下、かつ、光ファイバ20の径方向の断面積を摩耗検知線用孔14の有効断面積の45%以下とすることにより、トロリ線1を胴径の小さいドラム50に横巻きで巻き付ける場合であっても、光ファイバ20におけるマイクロベンドの発生を効果的に抑えることができる。それにより、架線されたトロリ線1における、マイクロベンドに起因する光ファイバ20の伝送損失の増大や寿命の低下を抑えることができる。
【0037】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0038】
[1]中心線(30)の両側に設けられた2つの摩耗検知線用孔(14)を内部に有するトロリ線本体(10)と、前記2つの摩耗検知線用孔(14)に収容された、摩耗検知線としての2本の光ファイバ(20)と、を備え、前記摩耗検知線用孔(14)の有効径が、1.5mm以上、1.6mm以下であり、前記光ファイバ(20)の径方向の断面積が、前記摩耗検知線用孔(14)の有効断面積の45%以下である、1600mを超える長さを有する、トロリ線(1)。
【0039】
[2]前記光ファイバ(20)の直径が、0.99mm以上、1.01mm以下である、上記[1]に記載のトロリ線(1)。
【0040】
[3]前記トロリ線(1)を胴径が1000mmのドラム(50)に巻き付けたときの、前記2本の光ファイバ(20)のうちの前記ドラム(50)に近い光ファイバ(20a)の、前記トロリ線本体(10)の長さ方向のマイクロベンドの量が、前記トロリ線本体(10)の長さの20%以下である、上記[1]又は[2]に記載のトロリ線(1)。
【0041】
[4]前記トロリ線(1)を胴径が1000mmのドラム(50)に巻き付けたときの、前記2本の光ファイバ(20)のうちの前記ドラム(50)に近い光ファイバ(20a)の、前記トロリ線(1)の架線後に残留する伸びひずみ量が0.44%以下である、上記[1]又は[2]に記載のトロリ線(1)。
【0042】
[5]前記トロリ線(1)を胴径が1000mmのドラム(50)に巻き付けたときの、前記2本の光ファイバ(20)のうちの前記ドラム(50)に近い光ファイバ(20a)の、前記トロリ線(1)を架線する際の前記トロリ線本体(10)内への引き込み量が35mm以上である、上記[1]又は[2]に記載のトロリ線(1)。
【0043】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0044】
また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0045】
1 トロリ線
10 トロリ線本体
14 摩耗検知線用孔
20、20a、20b 光ファイバ
50 ドラム