(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091159
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】複合固体電解質及び固体電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/10 20060101AFI20240627BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240627BHJP
H01M 10/056 20100101ALI20240627BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
H01B1/10
H01M10/052
H01M10/056
H01B1/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207656
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 真也
(72)【発明者】
【氏名】片山 祐
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA16
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AL11
5H029AM12
5H029AM16
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】電池抵抗の上昇が抑制される複合固体電解質;及び固体電池の提供。
【解決手段】硫化物固体電解質と、リチウムイミド塩及び炭素数4以上のアルキル側鎖を有するポリマー電解質と、を含有する、複合固体電解質;及び固体電池。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物固体電解質と、
リチウムイミド塩及び炭素数4以上のアルキル側鎖を有するポリマーを含むポリマー電解質と、
を含有する、複合固体電解質。
【請求項2】
前記ポリマーは、前記アルキル側鎖の炭素数が6以上8以下である、請求項1に記載の複合固体電解質。
【請求項3】
前記リチウムイミド塩に対する前記ポリマーのモル比(ポリマー/リチウムイミド塩)が4以上7以下である、請求項1に記載の複合固体電解質。
【請求項4】
前記ポリマーは、下記一般式(1)で表される化合物を含む、請求項1に記載の複合固体電解質。
【化1】
(上記一般式(1)中、mは4以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。)
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の複合固体電解質を含む、固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合固体電解質及び固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
二次電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質層に変えて、材質を固体化した固体電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
固体電池の分野において、硫化物固体電解質とポリマー電解質とを含む複合固体電解質に用いることにより、固体電池の抵抗を低く維持する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の複合固体電解質では、保管した際に、硫化物固体電解質と、ポリマー電解質に含まれるポリマーと接触面において、硫化物固体電解質とポリマーとが反応して反応生成物が生じ、これによりイオン伝導パスが阻害され、電池抵抗が上昇する傾向にあった。この現象は、高温で長期間保管(例えば60℃、3日間)するとより顕著である。特許文献1では、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質と、分岐型ポリマーと有する固体電解質とすることで、抵抗の上昇を抑制しようとしている。上述のように、前記複合固体電解質層を用いた際の抵抗の上昇を抑制するために、種々の研究がなされているが、さらなる技術の開発が望まれている。そこで本開示では、上記事情に鑑み、電池抵抗の上昇が抑制される複合固体電解質及び固体電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の手段が含まれる。
<1> 硫化物固体電解質と、
リチウムイミド塩及び炭素数4以上のアルキル側鎖を有するポリマーを含むポリマー電解質と、
を含有する、複合固体電解質。
<2> 前記ポリマーは、前記アルキル側鎖の炭素数が6以上8以下である、前記<1>に記載の複合固体電解質。
<3> 前記リチウムイミド塩に対する前記ポリマーのモル比(ポリマー/リチウムイミド塩)が4以上7以下である、前記<1>又は<2>に記載の複合固体電解質。
<4> 前記ポリマーは、下記一般式(1)で表される化合物を含む、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の複合固体電解質。
【化1】
(上記一般式(1)中、mは4以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。)
<5> 前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の複合固体電解質を含む、固体電池。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、電池抵抗の上昇が抑制される複合固体電解質及び固体電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
【0009】
<複合固体電解質>
本開示に係る複合固体電解質は、硫化物固体電解質と、リチウムイミド塩及び炭素数4以上のアルキル側鎖を有するポリマーを含むポリマー電解質と、を含有する、複合固体電解質である。
本開示によれば、ポリマー電解質に含まれるポリマーが炭素数4以上のアルキル側鎖を有する。そのため、このポリマーのアルキル側鎖が、硫化物固体電解質とポリマー電解質内のポリマーの主鎖との相互作用を抑制する。その結果、保管した際にも(例えば60℃、3日間)、硫化物固体電解質とポリマーと接触面において、硫化物固体電解質とポリマーとが反応して反応生成物が生じることが抑制される。その結果、前記反応生成物によりイオン伝導パスが阻害されず、抵抗が低く維持される。つまり、抵抗の上昇が抑制される。
【0010】
〔ポリマー電解質〕
ポリマー電解質は、ポリマー及びリチウムイミド塩を含む。
ポリマーは、炭素数4以上のアルキル側鎖を有し、リチウムイミド塩を解離することができるポリマーであれば特に制限されない。ポリマー電解質は、1種単独の使用であっても、2種以上の併用であってもよい。
ポリマーとしては、主鎖に極性基を有するポリマーであることが好ましく、例えば、ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;エーテル系ポリマー;エステル系ポリマー;ポリカーボネート等のカーボネート系ポリマー;アミド系ポリマー;糖鎖などが挙げられる。上記の中でも、高分子の種類としては、抵抗の上昇をより抑制する観点から、エーテル系ポリマーを含むことが好ましい。
【0011】
ニトリル系ポリマーとは、ニトリル基に由来する構成単位を含むポリマーを意味する。エーテル系ポリマーとは、エーテル結合を有する構成単位を含むポリマーを意味する。エステル系ポリマーとは、エステル基に由来する構成単位を含むポリマーを意味する。カーボネート系ポリマーとは、カーボネート基に由来する構成単位を含むポリマーを意味する。アミド系ポリマーとは、アミド基に由来する構成単位を含むポリマーを意味する。
【0012】
ポリマーは、炭素数4以上のアルキル側鎖を有し、抵抗の上昇をより抑制する観点から、前記アルキル側鎖の炭素数が4以上12以下であることが好ましく、5以上10以下であることがより好ましく、炭素数6以上8以下のアルキル側鎖を有することが更に好ましい。
【0013】
ポリマーは、下記一般式で表される化合物を含むことが好ましい。
ポリマーが下記一般式(1)で表される化合物を含むと、ポリマー電解質中のポリマーと硫化物固体電解質との接触面で両者の反応生成物が生じてイオン伝導パスが阻害されて抵抗が上昇することがより抑制され易い。
【化2】
一般式(1)中、nは、1以上の整数を表す。
一般式(1)中、mは4以上の整数を表し、抵抗の上昇をより抑制する観点から、4以上12以下であることが好ましく、5以上10以下であることがより好ましく、6以上8以下であることが更に好ましい。
【0014】
以下、一般式(1)で表される化合物の例示を下記に示すが、本開示はこれに限定されない。
【0015】
【0016】
ポリマーのゲルパーミネーションクロマトグラフ(GPC)法により求めたポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されず、例えば、10,000~300,000であってもよく、15,000~250,000であってもよい。
【0017】
リチウムイミド塩に対するポリマーのモル比(ポリマー/リチウムイミド塩)は、抵抗の上昇をより抑制する観点から、2以上であることが好ましく、3以上8以下であることがより好ましく、4以上7以下であることが好ましい。
【0018】
リチウムイミド塩としては、LiN(Rf1SO2)2、LiN(FSO2)2、LiN(Rf1SO2)(Rf2SO2)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)等が挙げられる。上記の中でも、リチウムイミド塩としては、電池性能の観点から、LiTFSIを含むことが好ましい。リチウムイミド塩は、1種単独の使用であっても、2種以上の併用であってもよい。
【0019】
〔硫化物固体電解質〕
硫化物固体電解質としては、アニオン元素の主成分として硫黄(S)を含有することが好ましく、更には例えばLi元素、A元素、及びS元素を含有することが好ましい。
A元素は、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、及びInよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。
硫化物固体電解質は、O及びハロゲン元素の少なくとも一方を更に含有してもよい。
ハロゲン元素(X)としては、例えば、F、Cl、Br、I等が挙げられる。硫化物固体電解質の組成は、特に限定されず、例えば、xLi2S・(100-x)P2S5(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLi2S・(1-x)P2S5)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)が挙げられる。硫化物固体電解質は、下記一般式(1)で表される組成を有していてもよい。
Li4-xGe1-xPxS4 (0<x<1) ・・・式(1)
式(1)において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbよりなる群から選ばれる少なくとも一つで置換されてもよい。また、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbよりなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。Liの一部は、Na、K、Mg、Ca及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。Sの一部は、ハロゲンで置換されてもよい。ハロゲンとしては、F、Cl,Br及びIの少なくとも1つである。
硫化物固体電解質は、1種単独の使用であっても、2種以上の併用であってもよい。
【0020】
硫化物固体電解質は、例えば、電池性能の観点から、Li2S-P2S5系の硫化物固体電解質であることが好ましい。Li2S-P2S5系の硫化物固体電解質であると、ポリマー電解質中のポリマーと硫化物固体電解質との接触面で両者の反応生成物が生じてイオン伝導パスが阻害され、抵抗が上昇し易い。しかしながら、本開示の複合固体電解質の構成であれば、この場合にも抵抗の上昇が抑制される。
【0021】
〔その他の成分〕
本開示に係る複合固体電解質は、必要に応じて、本開示の効果が奏される範囲内で、硫化物固体電解質、ポリマー及びリチウムイミド塩を含むポリマー電解質以外のその他の成分をさらに含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、酸化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、バインダー(例えば、ゴム系バインダー、フッ化物系バインダー等)、導電助剤(例えば、繊維状炭素材料など)などが挙げられる。
【0022】
〔複合固体電解質の製造方法〕
本開示の複合固体電解質の製造方法は、特に制限されず、公知の固体電解質の製造方法が適用できる。本開示の複合固体電解質は、例えば、ポリマー電解質及び固体電解質材料を溶媒中で混合してスラリーを作製し、このスラリーを基板上に塗工した後、溶媒を乾燥して複合固体電解質層を形成する方法;個別に作製したポリマー電解質層と硫化物固体電解質層とを接合して複合固体電解質層を形成する方法などが挙げられる。
【0023】
<固体電池>
本開示の固体電池は、本開示の複合固体電解質を含む。本開示の固体電池は、例えば、正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に配置された固体電解質層と、を備える。前記固体電解質層は、本開示の複合固体電解質を含む。なお、複合固体電解質には電解質全量の10質量%未満の電解液を含有してもよい。
本開示の複合固体電解質は、例えば、膨張収縮しやすい活物質を含む電極(例えば負極、より具体的にはケイ素を含有する負極)を備える固体電池においても、保管前後における、硫化物固体電解質とポリマー電解質中のポリマーとが電極の膨張収縮に伴う固体電解質層における軋轢等によって反応して抵抗が上昇することが抑制される。
【0024】
本開示の固体電池は、固体リチウムイオン二次電池である。固体電池は、車両、電子機器、及び電気貯蔵等の電源が挙げられる。車両としては、電動四輪車、電動二輪車、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等が挙げられる。電動四輪車としては、例えば、電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、及びハイブリッド自動車(BEV)等が挙げられる。電動二輪車としては、例えば、電動バイク、及び電動アシスト自転車等が挙げられる。電子機器としては、手持形機器(例えば、スマートフォン、タブレットコンピュータ、オーディオプレーヤ等)、可搬形機器(例えば、ノートブックコンピュータ、CD(Compact Disc)プレーヤ、可動形機器(例えば、電動工具、業務用ビデオカメラ等)等が挙げられる。中でも、本開示の固体電池の用途は、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車又は電気自動車の駆動用電源であることが好ましい。
【実施例0025】
<実施例1>
(硫化物固体電解質の作製)
LiIを含むLi2S-P2S5系ガラスセラミックスを、ボールミル混合および焼成により作製した。
【0026】
(ポリマー電解質溶液の作製)
塩基を用いて、脱離基を修飾した炭素数4のアルキル化合物に3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタンをウィリアムソンエーテル反応させることにより、炭素数4のアルキル側鎖を有するオキセタン誘導体を合成した。
前記オキセタン誘導体をモノマーとして、三フッカホウ素ジエチルエーテル錯体を触媒としたカチオン開環重合し、炭素数4のアルキル側鎖を有するポリマー(ポリオキセタン樹脂:一般式(1)で表される化合物であり、前記化合物m4)を得た。先述の測定方法により得た重量平均分子量は、47.5kg/molであった。
得られたポリマーとLiTFSIを、アセトニトリルに溶解させ、ポリマーとLiTFSIとのモル比(ポリマー:LiTFSI)が5:1となるポリマー電解質溶液を作製した。
【0027】
(ポリマー電解質膜の作製)
ポリマー電解質溶液をAl箔上にキャストし、アプリケーターを用いて、ブレード法により、Al箔上に塗工した。塗工した。電極は、130℃のホットプレート上で1時間乾燥させた後、真空雰囲気化で130℃、6時間乾燥させた。これにより、ポリマー電解質膜を得た。
【0028】
(複合固体電解質の作製)
硫化物固体電解質膜およびポリマー電解質膜を張り合わせることで複合固体電解質膜を得た。
【0029】
<実施例2~実施例3、比較例1~比較例2>
ポリマー電解質溶液の作製において、実施例1における脱離基を修飾した炭素数4のアルキル化合物を、脱離基を修飾した炭素数1、2、6又は8のアルキル化合物をそれぞれ用いることで、表1に示す炭素数のアルキル側鎖を有するポリマー電解質(ポリオキセタン樹脂:一般式(1)で表される化合物であり、前記化合物m6、m8及び下記化合物m1、m2)を得た。その後、実施例1と同様の仕様として、各例の複合固体電解質を得た。各ポリマー電解質の重量平均分子量の値は下記のとおりである。
m1:147.0kg/mol
m2: 48.4kg/mol
m6:172.7kg/mol
m8:135.1kg/mol
【0030】
【0031】
<高温保管前後における伝導度維持率の評価>
(高温保管前の抵抗値の算出)
露点-80℃のグローブボックス内で、各例の複合固体電解質膜をΦ11.28mmに打ち抜き、両端にAlタブに載せ、真空ラミシールすることで、評価用セルをそれぞれ得た。各例の評価用セルを1MPaの拘束圧で拘束し、60℃で3時間ソークした。ソーク後に交流インピーダンス法により抵抗値を求めた。測定には、ソーラトロン1260を用い、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz~1MHz、測定温度25℃とした。得られたインピーダンススペクトルの円弧成分に対してカーブフィッティングを行い、実軸との交点の高抵抗側を反応抵抗とした。
【0032】
(高温保管後の抵抗値の算出)
各例の評価用セルを、グローブボックス内で、60℃で3日間静置し保管試験とした。保管試験後の各例の評価用セルについて、先述の方法で抵抗値を求めた。保管後における抵抗値を基準としたときの保管前の抵抗値を、相対抵抗値として表1に示す。また、得られた相対抵抗値から求めた抵抗増加率(%)=(保管後の相対抵抗値-保管前の相対抵抗値)/保管前の相対抵抗値×100の値を表1に示す。
【0033】
【0034】
表1に示すように、実施例の複合固体電解質は、比較例の複合固体電解質に比べて、抵抗の上昇が抑制されることがわかった。