(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091166
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の評価方法及び検査キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240627BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G01N33/53 D
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207670
(22)【出願日】2022-12-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「ムーンショット型研究開発事業」「病気につながる血管周囲の微小炎症を標的とする量子技術、ニューロモデュレーション医療による未病時治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】弁理士法人IPアシスト
(72)【発明者】
【氏名】村上 正晃
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR72
4B063QR77
4B063QX02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候、予後又は疾患活動性を評価する方法、検査キットを提供する。
【解決手段】間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する被験者から採取された検体に含まれるCD4
+T細胞集団中のPD-1
+CD57
+CD4
+T細胞亜集団の比率又はCD95
+CD57
+CD4
+T細胞亜集団の比率を指標とする。また、CD4に特異的に結合可能な物質及びCD57に特異的に結合可能な物質を含み、さらにPD-1に特異的に結合可能な物質又はCD95に特異的に結合可能な物質を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率又はCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率を指標とする、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候、予後又は疾患活動性を評価する方法。
【請求項2】
評価が、前記PD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率又はCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率を、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する者から採取された対照検体に含まれるCD4+T細胞集団中の対応する細胞亜集団の比率と比較することによって、あるいは間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する者から採取された複数の検体の各々に含まれるCD4+T細胞集団中の対応する細胞亜集団の比率からROC解析によって決定されるカットオフ値と比較することによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対照検体が、被験者から予め採取された別の検体である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
対照検体が、被験者とは異なる者から採取された検体である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
検体が、血液、骨髄液、又は気管支肺胞洗浄液である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
PD-1+CD57+CD4+T細胞又はCD95+CD57+CD4+T細胞が、CXCR5-CCR6-CXCR3+である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
PD-1+CD57+CD4+T細胞又はCD95+CD57+CD4+T細胞が、CD45RA+CD25-CXCR5-CCR6-CXCR3+である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
PD-1+CD57+CD4+T細胞又はCD95+CD57+CD4+T細胞が、CD45RA+CD25-CXCR5-CCR6-CXCR3+T-bet+である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
CD4に特異的に結合可能な物質及びCD57に特異的に結合可能な物質を含み、さらにPD-1に特異的に結合可能な物質又はCD95に特異的に結合可能な物質を含む、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候、予後又は疾患活動性を評価するための検査キット。
【請求項10】
CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質及びCXCR3に特異的に結合可能な物質をさらに含む、請求項9に記載の検査キット。
【請求項11】
CD45RAに特異的に結合可能な物質、CD25に特異的に結合可能な物質、CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質及びCXCR3に特異的に結合可能な物質をさらに含む、請求項9に記載の検査キット。
【請求項12】
CD45RAに特異的に結合可能な物質、CD25に特異的に結合可能な物質、CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質、CXCR3に特異的に結合可能な物質及びT-betに特異的に結合可能な物質をさらに含む、請求項9に記載の検査キット。
【請求項13】
CD4に特異的に結合可能な物質及びCD57に特異的に結合可能な物質、並びにPD-1に特異的に結合可能な物質又はCD95に特異的に結合可能な物質の、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候、予後又は疾患活動性の評価における使用。
【請求項14】
CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質及びCXCR3に特異的に結合可能な物質の使用をさらに含む、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
CD45RAに特異的に結合可能な物質、CD25に特異的に結合可能な物質、CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質及びCXCR3に特異的に結合可能な物質の使用をさらに含む、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
CD45RAに特異的に結合可能な物質、CD25に特異的に結合可能な物質、CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質、CXCR3に特異的に結合可能な物質及びT-betに特異的に結合可能な物質の使用をさらに含む、請求項13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候、予後又は疾患活動性を評価する方法、及び間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候、予後又は疾患活動性を評価するための検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
間質性肺炎は、肺の間質に炎症及び線維化を生じる疾患の総称であり、線維化の進行に伴って肺活量及びガス交換能が低下し、呼吸困難の症状を呈する。間質性肺炎には、ウイルス、アレルゲン、粉塵等の要因によって発症する職業環境性間質性肺炎(過敏性肺炎、塵肺等)、自己免疫疾患によって発症する自己免疫性間質性肺炎、医原性間質性肺炎(薬剤性肺障害、放射線肺炎等)、さらには原因が不明な特発性間質性肺炎も包含される。
【0003】
間質性肺炎の診断補助指標の一つとして、KL-6が利用されている(例えば、非特許文献1)。KL-6は、ムチンの1種であるMUC1上に存在するシアル化糖鎖抗原である。血清KL-6値は、発症原因が異なる間質性肺炎に共通して高値を示し、健常者や細菌性肺炎、肺気腫といったその他の肺疾患ではほとんど上昇しないという特異性を有する。
【0004】
肺非結核性抗酸菌症は、結核菌以外の抗酸菌である非結核性抗酸菌(non tuberculous mycobacteria; NTM)の感染による難治性肺疾患であり、咳嗽、喀痰等の呼吸器症候に加えて、体重減少、微熱等の全身症候を呈する。肺非結核性抗酸菌症は、近年、世界的に罹患率が上昇している懸念すべき疾患である。肺非結核性抗酸菌の原因菌は多数知られており、日本ではMycobacterium avium及びMycobacterium intracellulareを原因とする肺MAC症が約90%を占めている。
【0005】
肺MAC症の診断補助指標の一つとして、抗GPL-IgA抗体が利用されている(例えば、非特許文献2)。抗GPL-IgA抗体は、非結核性抗酸菌が共通に有するGPL-coreに対するIgA抗体であり、血清中のその抗体価は肺MAC症において高い値を示し、肺結核その他の肺疾患ではほとんど上昇しないという特異性を有する。
【0006】
間質性肺炎、肺非結核性抗酸菌症のいずれも、無治療のまま長期間にわたって病状が安定している状態(非活動期)と急激に病状が悪化する状態(活動期又は急性増悪期)があることが知られている。これらの疾患活動性に影響を与える要因は解明されておらず、重症化や疾患活動性の評価は困難とされている。
【0007】
血清KL-6値は間質性肺炎の活動性を反映することから、間質性肺炎の疾患活動性の評価に用いられている。しかしながら、血清KL-6値は、間質性肺炎の急性増悪初期には上昇しないことがあるため、間質性肺炎の重症化及び疾患活動性を評価するための指標としては必ずしも適切なものではない。また、抗GPL-IgA抗体の血清中抗体価は、肺MAC症の重症化及び疾患活動性との関係性は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】N. Ishikawa, et al., Respiratory Investigation 2012; 50: 3-13.
【非特許文献2】S. Kitada, et al., American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2008; 177 (7): 793-7.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、CD4+T細胞集団中の特定の細胞亜集団が、間質性肺炎及び肺非結核性抗酸菌症の症候、予後及び疾患活動性の評価に利用可能であることを見出した。
【0010】
本開示は、以下の発明を提供する。
項1. 間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率又はCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率を指標とする、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候、予後又は疾患活動性を評価する方法。
項1A. CD4+T細胞集団が、CD4+CD8-T細胞集団である、項1に記載の方法。
項2. 評価が、前記PD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率又はCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率を、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する者から採取された対照検体に含まれるCD4+T細胞集団中の対応する細胞亜集団の比率と比較することによって、あるいは間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する者から採取された複数の検体の各々に含まれるCD4+T細胞集団中の対応する細胞亜集団の比率からROC解析によって決定されるカットオフ値と比較することによって行われる、項1又は1Aに記載の方法。
項3. 対照検体が、被験者から予め採取された別の検体である、項1、1A及び2のいずれか一項に記載の方法。
項4. 対照検体が、被験者とは異なる者から採取された検体である、項1、1A及び2のいずれ一項に記載の方法。
項5. 検体が、血液、骨髄液、又は気管支肺胞洗浄液である、項1、1A及び2~4のいずれか一項に記載の方法。
項6. PD-1+CD57+CD4+T細胞又はCD95+CD57+CD4+T細胞が、CXCR5-CCR6-CXCR3+である、項1、1A及び2~5のいずれか一項に記載の方法。
項7. PD-1+CD57+CD4+T細胞又はCD95+CD57+CD4+T細胞が、CD45RA+CD25-CXCR5-CCR6-CXCR3+である、項1、1A及び2~5のいずれか一項に記載の方法。
項8. PD-1+CD57+CD4+T細胞又はCD95+CD57+CD4+T細胞が、CD45RA+CD25-CXCR5-CCR6-CXCR3+T-bet+である、項1、1A及び2~5のいずれか一項に記載の方法。
項9. CD4に特異的に結合可能な物質及びCD57に特異的に結合可能な物質を含み、さらにPD-1に特異的に結合可能な物質又はCD95に特異的に結合可能な物質を含む、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候、予後又は疾患活動性を評価するための検査キット。
項9A. CD8に特異的に結合可能な物質をさらに含む、項9に記載の検査キット。
項10. CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質及びCXCR3に特異的に結合可能な物質をさらに含む、項9又は9Aに記載の検査キット。
項11. CD45RAに特異的に結合可能な物質、CD25に特異的に結合可能な物質、CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質及びCXCR3に特異的に結合可能な物質をさらに含む、項9又は9Aに記載の検査キット。
項12. CD45RAに特異的に結合可能な物質、CD25に特異的に結合可能な物質、CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質、CXCR3に特異的に結合可能な物質及びT-betに特異的に結合可能な物質をさらに含む、項9又は9Aに記載の検査キット。
項13. CD4に特異的に結合可能な物質及びCD57に特異的に結合可能な物質、並びにPD-1に特異的に結合可能な物質又はCD95に特異的に結合可能な物質の、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候、予後又は疾患活動性の評価における使用。
項13A. CD8に特異的に結合可能な物質の使用をさらに含む、項13に記載の使用。
項14. CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質及びCXCR3に特異的に結合可能な物質の使用をさらに含む、項13又は13Aに記載の使用。
項15. CD45RAに特異的に結合可能な物質、CD25に特異的に結合可能な物質、CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質及びCXCR3に特異的に結合可能な物質の使用をさらに含む、項13又は13Aに記載の使用。
項16. CD45RAに特異的に結合可能な物質、CD25に特異的に結合可能な物質、CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質、CXCR3に特異的に結合可能な物質及びT-betに特異的に結合可能な物質の使用をさらに含む、項13又は13Aに記載の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、間質性肺炎及び肺非結核性抗酸菌症の症候、予後及び疾患活動性を評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】COVID-19患者及び健常対照者のPBMCについて、CD4
+T細胞集団中のPD-1
+CD57
+CD4
+T細胞(ThES細胞とも呼ぶ)の比率を示すグラフである。
【
図2】
図2Aは、2回の血液採取を行ったCOVID-19患者の詳細を示す図である。
図2Bは回復したCOVID-19患者(重症又は重篤)のPBMCについて、CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率の推移を示すグラフである。
図2Cは回復したCOVID-19患者(非重症)のPBMCについて、CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率の推移を示すグラフである。
【
図3】後遺症を有する又は有しない、回復したCOVID-19患者のPBMCについて、CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率を示すグラフである。
【
図4】
図4Aは、ThES細胞の表現型解析の際のゲーティングを示す図である。
図4Bは、ゲートしたThES細胞のT-bet発現解析を示す図であり、上段はコントロール抗体での染色、下段は抗T-bet抗体での染色を示す。
【
図5】PBMCからのナイーブCD4
+T細胞及びThES細胞のソーティングの際のゲーティングを示す図である。
【
図6】
図6Aは、COVID-19患者から分離したナイーブCD4
+ T細胞及びThES細胞を単独培養又は共培養した培養上清中のIL-2濃度(n=7)、IL-13濃度(n=9)、及びIL-17濃度(n=6)を示すグラフである。
図6Bは、健常対照者(n=3)から分離したナイーブCD4
+ T細胞及びThES細胞を単独培養又は共培養した培養上清中のIL-2濃度を示すグラフである。ナイーブCD4
+ T細胞単培養とナイーブCD4
+ T細胞及びThES細胞共培養の間で、一対の測定値を線で結ぶ。
【
図7】間質性肺炎患者のPBMCについて、CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率と肺の線維化増悪の有無との関係性を示す図である。
【
図8】間質性肺炎患者のPBMCについて、CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率と血漿中LDHとの関係性を示す図である。
【
図9】間質性肺炎患者のPBMCについて、CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率と肺活量の変化量ΔVCとの関係性を示す図である。
【
図10】間質性肺炎患者のPBMCについて、CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率と努力性肺活量の変化量ΔFVCとの関係性を示す図である。
【
図11】間質性肺炎患者のPBMCについて、CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率と生存率との関係性を示す図である。
【
図12】肺非結核性抗酸菌症患者のPBMCについて、CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率と肺の線維化増悪の有無との関係性を示す図である。
【
図13】肺非結核性抗酸菌症患者のPBMCについて、CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率とNICEスコアとの関係性を示す図である。
【
図14】CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率と、CD95
+CD57
+CD4
+T細胞(ThES 95細胞とも呼ぶ)の比率との関係性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に示す説明は、代表的な実施形態又は具体例に基づくことがあるが、本発明はそのような実施形態又は具体例に限定されるものではない。本明細書において示される各数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。また、本明細書において「~」又は「-」を用いて表される数値範囲は、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値及び下限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[疾患]
間質性肺炎は、肺の間質の炎症及び線維化を生じる疾患の総称であり、肺胞中隔の肥厚、線維芽細胞の増殖、コラーゲン沈着及び肺線維化等の特徴を有する。間質性肺疾患は様々な基準によって分類し得る。本発明において、間質性肺炎は、どのような分類に属するものであってもよく、発病の経過(急性又は慢性)、原因(自己免疫性、職業環境性、医原性、特発性等)、形態学的パターン(通常型、非特異性、器質化)を問わない。
【0015】
本発明における間質性肺炎の例としては、自己免疫性間質性肺炎、職業環境性間質性肺炎、医原性間質性肺炎、特発性間質性肺炎(例えば、特発性肺線維症、特発性非特異性間質性肺炎、特発性器質化肺炎)を挙げることができる。
【0016】
肺非結核性抗酸菌症は、非結核性抗酸菌の感染による肺疾患である。肺非結核性抗酸菌(NTM)症の原因となる非結核性抗酸菌は多数知られており、日本におけるその例としては、Mycobacterium avium complex(MAC; Mycobacterium avium(マイコバクテリウム・アビウム)及びMycobacterium intracellulare(マイコバクテリウム・イントラセルラー)を含む)、Mycobacterium kansasii(マイコバクテリウム・カンサシ)、Mycobacterium abscessus(マイコバクテリウム・アブセッサス)を挙げることができる。本発明において、肺非結核性抗酸菌症は、原因となる非結核性抗酸菌の種類を問わない。
【0017】
本発明における肺非結核性抗酸菌症の例としては、MACを原因とする肺MAC症、Mycobacterium kansasiiを原因とする肺カンサシ症、Mycobacterium abscessusを原因とする肺アブセッサス症を挙げることができる。
【0018】
疾患の症候とは、疾患の症状又は徴候といった、疾患に伴って患者に生じる何らかの状態を意味する。また、予後とは、病状に関する将来的な見通しをいい、予後良好は、症候が改善する可能性が高いこと、予後不良は症候が悪化する可能性が高いことを意味する。
【0019】
疾患活動性とは疾患の勢いを意味し、疾患の進行度や症候の程度等の指標に基づいて医師の判断によって決定される。疾患活動期(急性増悪期とも呼ぶ)は疾患活動性が高い時期に、疾患非活動期は疾患活動性が低い時期に相当する。
【0020】
[被験者と検体]
本発明において、被験者は、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する者であればよく、医師の診断の有無にかかわらず間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症に罹患している者及び罹患のおそれのある者を包含する。
【0021】
検体は、T細胞を含む生体試料であれば特に限定はなく、例えば血液、骨髄液、気管支肺胞洗浄液等を挙げることができる。検体は、生体試料に含まれる細胞集団を濃縮したものであってもよく、その好適な例は末梢血単核細胞である。末梢血単核細胞は、密度勾配遠心法等の一般的な手法によって、血液から調製することができる。
【0022】
[細胞マーカー]
本明細書において、細胞の特性を表すために用いられるCD3、CD4、CD8、CD25、CD45RA、CD57、CCR6、CXCR3、CXCR5、PD-1(CD279とも呼ばれる)、T-bet等の因子を、細胞マーカーと称する。細胞における細胞マーカーの発現は陽性(+)又は陰性(-)で表され、例えば、PD-1陽性、CD57陽性、CD45RA陽性、CD25陰性、CXCR5陰性、CCR6陰性、CXCR3陽性、T-bet陽性かつCD4陽性のT細胞は、PD-1+CD57+CD45RA+CD25-CXCR5-CCR6-CXCR3+T-bet+CD4+T細胞と表される。
【0023】
細胞マーカーに関して陽性とは、当該細胞マーカーが発現している又は発現量が高いことを意味し、陰性とは、当該細胞マーカーが発現していない又は発現量が低いことを意味する。細胞が特定の細胞マーカーに関して陽性であるか陰性であるかは、例えば、標識物質で標識された、当該細胞マーカーに特異的に結合可能な物質を細胞と接触させ、抗体を介して細胞に結合した標識物質からのシグナルを、顕微鏡、フローサイトメーター等の手段を用いて検出し、解析することで決定することができる。
【0024】
細胞マーカーに特異的に結合可能な物質は、非標的タンパク質よりも細胞マーカーに優先的に結合可能な物質であって、細胞マーカーに高い結合親和性を有する物質と表すこともできる。細胞マーカーに特異的に結合可能な物質は、例えば、非標的タンパク質とのアフィニティーよりも少なくとも2倍強い、好ましくは少なくとも10倍強い、より好ましくは少なくとも20倍強い、最も好ましくは少なくとも100倍強いアフィニティーを有して、細胞マーカーに結合することができる。ある物質が細胞マーカーの存在を、望まれない結果、典型的には偽陽性又は偽陰性等を生じることなく検出することができるならば、当該物質は細胞マーカーに特異的に結合可能な物質であると考えられる。
【0025】
細胞マーカーに特異的に結合可能な物質の例としては、細胞マーカーに対する特異抗体及びその誘導体、アプタマー、受容体タンパク質等を挙げることができる。ここで特異抗体の誘導体は、抗原と特異的に結合する能力を保持した抗体の部分断片として定義される抗原結合性断片、例えばFab(fragment of antigen binding)、Fab'、F(ab')2、一本鎖抗体(single chain Fv)、ジスルフィド安定化抗体(disulfide stabilized Fv)及びCDRを含むペプチド等であり得るが、これらには限定されない。
【0026】
細胞マーカーに特異的に結合可能な物質の標識のために用いることができる標識物質としては、例えば、蛍光化合物(例えばFITC、ローダミン等)、蛍光タンパク質(例えばGFP等)、色素タンパク質(例えばフィコエリトリン、フィコシアニン等)、放射性同位体(例えば3H、14C、32P、35S、125I、131I等)、酵素(例えばペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等)、金コロイド等の金属粒子、ビオチン、ストレプトアビジンを挙げることができる。
【0027】
細胞マーカーがT-bet等の細胞内に存在する物質である場合、PCR、RNA-Seq等の遺伝子発現解析手法を用いて、特定の細胞マーカーが陽性であるか陰性であるかを決定することもできる。
【0028】
[細胞集団/細胞亜集団]
細胞亜集団とは、細胞集団全体の一部を構成する細胞集団をいう。また、ある細胞集団中の特定の細胞亜集団の比率とは、当該細胞集団全体に含まれる細胞の数に対する、特定の細胞亜集団に含まれる細胞の数の比率を意味する。
【0029】
フローサイトメーターを用いた解析において、ある細胞集団中の特定の細胞マーカーが陽性である細胞亜集団は、一般的なコントロール物質、例えばアイソタイプコントロール等を用いて当該細胞マーカーが発現しているか否かを区別するシグナル強度の境界値を設定し、細胞集団に含まれる、当該境界値を上回るシグナル強度を有する細胞亜集団を特定することで、決定することができる。同様に、ある細胞集団中の特定の細胞マーカーが陰性である細胞亜集団は、細胞集団に含まれる、当該境界値を下回るシグナル強度を有する細胞亜集団を特定することで、決定することができる。
【0030】
また、ある細胞集団をフローサイトメーターで解析した後、ゲーティングを1又は複数回行うことで、細胞集団中の所望の細胞亜集団を特定し、その細胞数を決定することができる。ゲーティングでは、解析パラメータ(前方散乱光(FSC)、側方散乱光(SSC)、細胞マーカーのシグナル強度)のうち2種類の組み合わせを軸としてデータをプロットし、所望の特徴を有する細胞亜集団の周囲を境界線で囲み、当該境界線内部の細胞亜集団のさらなる解析又は定量が行われる。
【0031】
本発明において、検体Aに含まれるCD4+T細胞集団中の「対応する細胞亜集団」とは、検体Aに含まれるCD4+T細胞集団中の、別の検体Bに含まれるCD4+T細胞集団中の細胞亜集団と同じ細胞マーカーで特定される細胞亜集団を意味する。例えば、被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団には、対照検体に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団が対応する。このとき、対照検体に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団は、被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団との関係において、対応する細胞亜集団と呼ばれる。
【0032】
[評価方法、情報を取得する方法]
本発明は、一態様において、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率又はCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率を指標とする、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を評価する方法、より詳細には、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候又は予後を評価する方法、及び間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の疾患活動性を評価する方法を提供する。
【0033】
本発明は、一態様において、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率又はCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率を指標とする、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症に関する情報を取得する方法、より詳細には、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候又は予後に関する情報を取得する方法、及び間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の疾患活動性に関する情報を取得する方法を提供する。
【0034】
本態様の評価方法及び情報を取得する方法は、被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率又は被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中のCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率(以下、「被験比率」とも呼ぶ)を決定するステップと、被験比率を、対照検体に含まれるCD4+T細胞集団中の対応する細胞亜集団の比率(以下、「対照比率」とも呼ぶ)と比較するステップとを含む。
【0035】
CD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率は、CD4+T細胞集団全体に含まれる細胞の数に対するPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団に含まれる細胞の数の比率であり、CD4+T細胞集団中のCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率とは、CD4+T細胞集団全体に含まれる細胞の数に対するCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団に含まれる細胞の数の比率である。
【0036】
ある実施形態において、CD4+T細胞集団は、CD4+CD8-T細胞集団である。
【0037】
PD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団及びCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団は、CXCR5-CCR6-CXCR3+であってもよく、CD45RA+CD25-CXCR5-CCR6-CXCR3+であってもよく、CD45RA+CD25-CXCR5-CCR6-CXCR3+T-bet+であってもよい。すなわち、ある実施形態において、PD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団は、PD-1+CD57+CXCR5-CCR6-CXCR3+CD4+T細胞亜集団である。別の実施形態において、PD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団は、PD-1+CD57+CD45RA+CD25-CXCR5-CCR6-CXCR3+CD4+T細胞亜集団である。さらに別の実施形態において、PD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団は、PD-1+CD57+CD45RA+CD25-CXCR5-CCR6-CXCR3+T-bet+CD4+T細胞亜集団である。
【0038】
また、ある実施形態において、CD95+CD57+CD4+T細胞亜集団は、CD95+CD57+CXCR5-CCR6-CXCR3+CD4+T細胞亜集団である。別の実施形態において、CD95+CD57+CD4+T細胞亜集団は、CD95+CD57+CD45RA+CD25-CXCR5-CCR6-CXCR3+CD4+T細胞亜集団である。さらに別の実施形態において、CD95+CD57+CD4+T細胞亜集団は、CD95+CD57+CD45RA+CD25-CXCR5-CCR6-CXCR3+T-bet+CD4+T細胞亜集団である。
【0039】
CD4+T細胞集団中の細胞亜集団の比率は、例えば次のようにしてCD4+T細胞集団、細胞亜集団それぞれの細胞数を決定することで、算出することができる。最初に、被験者から採取された末梢血単核細胞等の検体をフローサイトメーターを用いて解析し、FSCとSSCに基づいてリンパ球をゲートする。次に、必要に応じてFSC Height(前方散乱光の高さ)とFSC Area(前方散乱光の面積)に基づいて単一細胞をゲートすることでダブレットを除去する。その後、CD3等のT細胞マーカーのシグナル強度に基づいて全T細胞を、さらにCD4のシグナル強度に基づいてCD4+T細胞をゲートし、ゲート内の領域中の細胞数をカウントする。この細胞数は、CD4+T細胞集団全体に含まれる細胞数に相当する。
【0040】
続いて、所望の細胞亜集団の細胞マーカー発現プロファイルに応じたゲーティングを行うことで、CD4+T細胞集団に含まれる当該細胞亜集団を特定し、その細胞数をカウントする。例えば、PD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団を対象とする場合、PD-1とCD57のシグナル強度に基づいてCD4+T細胞集団内のPD-1+CD57+細胞をゲートし、ゲート内領域中の細胞数をカウントする。この細胞数は、PD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団に含まれる細胞数に相当する。
【0041】
決定された被験比率は、次いで、対照検体に含まれるCD4+T細胞集団中の対応する細胞亜集団の比率である対照比率と比較される。
【0042】
対照検体は、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する者から採取された検体であれば特に限定はなく、被験者から予め採取された別の検体であっても、被験者とは異なる者から採取された検体であってもよい。
【0043】
対照比率は、被験者から採取された検体と対照検体とを並行して分析することで被験比率と並行して決定してもよく、又は予め決定したものであってもよい。例えば、複数の対照検体の各々についてCD4+T細胞集団中の対応する細胞亜集団の比率を予め決定し、これらの比率から算出した平均値、中央値その他の基準値を、対照比率として被験比率との比較に用いてもよい。
【0044】
被験比率と対照比率の比較の結果から、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候又は予後に関する情報を取得し、症候又は予後を評価することができる。また、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の疾患活動性に関する情報を取得し、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の疾患活動性を、特に被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症が疾患活動期にあるか疾患非活動期にあるかを評価することができる。
【0045】
ここで症候の評価とは、症候の出現又は消失の可能性が高いと推定すること、あるいは症候の程度の増大又は減少の可能性が高いと推定することを意味し、予後の評価とは、予後が良好又は不良である可能性が高いと推定することを意味する。また、疾患活動性の評価とは、対象の疾患が活動期又は非活動期にある可能性が高いと推定することを意味する。
【0046】
本態様の方法によると、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候の有無又は程度を推定すること、例えば重症度、後遺症、肺線維化等を推定することが可能である。
【0047】
例えば、被験比率が対照比率よりも高い場合、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症は、対照検体が採取された者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症よりも症候が悪化している可能性が高いと、又はその後に症候が悪化する可能性が高い、すなわち予後が不良である可能性が高いと推定することができる。
【0048】
また、被験比率が対照比率よりも低い場合、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症は、対照検体が採取された者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症よりも症候が改善している可能性が高いと、又はその後に症候が改善する可能性が高い、すなわち予後が良好である可能性が高いと推定することができる。
【0049】
さらに、対照検体が間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症が軽症である者から採取された検体であるとき、被験比率が対照比率よりも高いことは、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症は重症である可能性が高いことを示す。また、対照検体が間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症が重症である者から採取された検体であるとき、被験比率が対照比率よりも低いことは、被験の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症は軽症である可能性が高いことを示す。
【0050】
対照検体が間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有し、かつ、その後に予後が良好であることが確認された者から採取された検体であるとき、被験比率が対照比率よりも高いことは、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症は予後が不良である可能性が高いことを示す。また、対照検体が間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有し、かつその後に予後が不良であることが確認された者から採取された検体であるとき、被験比率が対照比率よりも低いことは、被験の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症は予後が良好である可能性が高いことを示す。
【0051】
対照検体が間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の疾患非活動期にある者から採取された検体であるとき、被験比率が対照比率よりも高いことは、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症は疾患活動期にある可能性が高いことを示す。また、対照検体が、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の疾患活動期にある者から採取された検体であるとき、被験比率が対照比率よりも低いことは、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症が疾患非活動期にある可能性が高いことを示す。このように、本態様の方法は、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の疾患活動性の評価に有用である。
【0052】
加えて、対照検体が被験者から予め採取された別の検体である場合、被験比率が対照比率よりも高いことは、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症が、被験検体採取時点で、対照検体採取時点よりも症候が悪化している可能性が高いことを示し、被験比率が対照比率よりも低いことは、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症が、被験検体採取時点で、対照検体採取時点よりも症候が改善している可能性が高いことを示す。このように、本態様の方法は、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候のモニタリングにも有用である。
【0053】
また、本態様の方法において、被験比率を対照比率に代えてカットオフ値と比較することで、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候又は予後に関する情報を取得し、症候又は予後を評価することができる。また、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の疾患活動性に関する情報を取得し、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の疾患活動性を評価することができる。
【0054】
ここでカットオフ値は、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する複数の者から採取された検体の各々に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率又はCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率を用いてROC解析を行って決定される値である。ROC解析においては、横軸に1-特異度(偽陽性率)を、縦軸に感度(陽性率)を取ったROC曲線を作成し、次いで、ROC曲線からカットオフ値を求めるために通常用いられる方法、例えばYouden's index(感度+特異度-1)が最大となるポイントにカットオフ値を設定する方法、又はROC曲線の左上隅からの距離が最小となるポイントにカットオフ値を設定する方法等によって、カットオフ値が決定される。
【0055】
例えば、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症が重症か軽症かを推定することが望まれるならば、まず、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症が重症である複数の者、及び間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症が軽症である複数の者から採取された検体の各々に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率又はCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率を予め決定する。次いで、これらの比率のいずれかを説明変数とし、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症が重症であるか軽症であるかを目的変数としたROC解析を行ってカットオフ値を決定する。このカットオフ値を、被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中の対応する細胞亜集団の比率と比較し、前記比率がカットオフ値よりも高い場合、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症は重症である可能性が高いと推定し、前記比率がカットオフ値よりも低い場合、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症は軽症である可能性が高いと推定することができる。
【0056】
被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の予後が不良か良好かを推定することが望まれるならば、まず、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有し、かつその後に予後が不良であることが確認された複数の者、及び間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有し、かつその後に予後が良好であることが確認された複数の者から採取された検体の各々に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率又はCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率を予め決定し、これらの比率のいずれかを説明変数とし、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の予後が不良であるか良好であるかを目的変数としたROC解析を行ってカットオフ値を決定する。このカットオフ値を被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中の対応する細胞亜集団の比率と比較し、前記比率がカットオフ値よりも高い場合、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症は予後が不良である可能性が高いと推定し、前記比率がカットオフ値よりも低い場合、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症は予後が良好である可能性が高いと推定することができる。
【0057】
被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症が疾患活動期にあるか非活動期にあるかを推定することが望まれるならば、まず、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の疾患活動期にある複数の者、及び間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の疾患非活動期にある複数の者から採取された検体の各々に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率又はCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率を予め決定し、これらの比率のいずれかを説明変数とし、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症が疾患活動期にあるか非活動期にあるかを目的変数としたROC解析を行ってカットオフ値を決定する。このカットオフ値を被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中の対応する細胞亜集団の比率と比較し、前記比率がカットオフ値よりも高い場合、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症は疾患活動期にある可能性が高いと推定し、前記比率がカットオフ値よりも低い場合、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症は疾患非活動期にある可能性が高いと推定することができる。
【0058】
加えて、本態様の方法において、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する被験者から採取された検体に代えて、SARS-COV2感染症(COVID-19)を有する被験者から採取された検体を用いることで、COVID-19の症候又は予後に関する情報を取得し、症候又は予後を評価することができる。また、本態様の方法において、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する被験者から採取された検体に代えて、COVID-19に罹患していたが回復した被験者から採取された検体を用いることで、回復後の呼吸器症候等の症候(後遺症)に関する情報を取得し、回復後の呼吸器症候等の症候(後遺症)を評価することができる。
【0059】
[治療方法]
医師は、上述の方法によって得られた間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候又は予後に関する情報、あるいは間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の疾患活動性に関する情報に基づいて診断を行い、治療方針を決定し、治療を行うことができる。このように、本発明は、一態様において、被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率又は被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中のCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率を決定するステップ;被験比率を、対照検体に含まれるCD4+T細胞集団中の対応する細胞亜集団の比率と比較するステップ;比較の結果に基づいて間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候又は予後を評価する、あるいは間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の疾患活動性を評価するステップ;及び評価結果に基づいて間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を治療するステップとを含む、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を治療する方法を提供する。
【0060】
また、本発明は、一態様において、被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率又は被験者から採取された検体に含まれるCD4+T細胞集団中のCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率を決定するステップ;被験比率をカットオフ値と比較するステップ;比較の結果に基づいて間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候又は予後を評価する、あるいは間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の疾患活動性を評価するステップ;及び評価結果に基づいて間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を治療するステップとを含む、被験者の間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を治療する方法であって、カットオフ値が、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症を有する複数の者から採取された検体の各々に含まれるCD4+T細胞集団中のPD-1+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率又はCD95+CD57+CD4+T細胞亜集団の比率を用いてROC解析を行って決定される、前記方法を提供する。
【0061】
[検査キット]
本発明は、一態様において、CD4に特異的に結合可能な物質及びCD57に特異的に結合可能な物質を含み、さらにPD-1に特異的に結合可能な物質又はCD95に特異的に結合可能な物質を含む、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候、予後又は疾患活動性を評価するための検査キットを提供する。特異的に結合可能な物質の詳細は、細胞マーカーの項目において既に述べたとおりである。
【0062】
ある実施形態において、検査キットは、CD8に特異的に結合可能な物質をさらに含む。
【0063】
ある実施形態において、検査キットは、CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質及びCXCR3に特異的に結合可能な物質をさらに含む。別の実施形態において、検査キットは、CD45RAに特異的に結合可能な物質、CD25に特異的に結合可能な物質、CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質及びCXCR3に特異的に結合可能な物質をさらに含む。さらに別の実施形態において、検査キットは、CD45RAに特異的に結合可能な物質、CD25に特異的に結合可能な物質、CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質、CXCR3に特異的に結合可能な物質及びT-betに特異的に結合可能な物質をさらに含む。
【0064】
検査キットは、細胞マーカーの検出方法に応じて、試薬、例えばブロッキング溶液、洗浄液及び発色基質等;器具、例えば固相支持体及び反応容器等;並びに取扱説明書をさらに含んでもよい。
【0065】
本発明はまた、一態様において、CD4に特異的に結合可能な物質及びCD57に特異的に結合可能な物質、並びにPD-1に特異的に結合可能な物質又はCD95に特異的に結合可能な物質の、間質性肺炎又は肺非結核性抗酸菌症の症候、予後又は疾患活動性の評価における使用を提供する。
【0066】
ある実施形態において、前記使用は、CD8に特異的に結合可能な物質の使用をさらに含む。
【0067】
ある実施形態において、前記使用は、CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質及びCXCR3に特異的に結合可能な物質の使用をさらに含む。別の実施形態において、前記使用は、CD45RAに特異的に結合可能な物質、CD25に特異的に結合可能な物質、CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質及びCXCR3に特異的に結合可能な物質の使用をさらに含む。さらに別の実施形態において、前記使用は、CD45RAに特異的に結合可能な物質、CD25に特異的に結合可能な物質、CXCR5に特異的に結合可能な物質、CCR6に特異的に結合可能な物質、CXCR3に特異的に結合可能な物質及びT-betに特異的に結合可能な物質の使用をさらに含む。
【0068】
[免疫制御用組成物]
本発明は、一態様において、PD-1+CD57+CD4+T細胞及びCD95+CD57+CD4+T細胞のうちの少なくとも1つを含む、免疫制御用組成物を提供する。免疫制御用組成物は、T細胞活性化の抑制のために、例えばT細胞によるIL-2、IL-13及びIL-17等のサイトカイン産生の抑制のために用いることができる。
【0069】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の理解を助けるためのものであって、本発明の技術的範囲はこれらにより限定されるものではない。本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコル、細胞株、動物種及び属、コンストラクト並びに試薬に限定されるものではなく、これらは適宜変更することができるものであることは当業者に容易に理解されるものである。
【実施例0070】
[試験例.COVID-19患者を対象とした細胞集団解析]
(1) 試験方法
・被験者、血液採取
北海道大学病院倫理委員会の承認を受けて(IRB No.020-0094)、2020年10月から2022年5月までに北海道大学病院に入院したCOVID-19患者118名と健常対照者12名から末梢血を採取した。COVID-19患者118名の内訳は、非重症36名、重症64名、重篤18名であり、年齢の中央値はそれぞれ57.5歳、66歳、72歳、男性は69.4%、54.7%、61.1%、ステロイド療法を受けていたのは52.8%、96.9%、100%であった。さらに、後遺症を有する又は有しない、回復したCOVID-19患者188名(年齢中央値44.0歳、男性39.9%)から末梢血を採取した。
【0071】
・末梢血単核細胞(PBMC)の調製
全ての末梢血は、EDTA又はヘパリンチューブに採取し、2,000 rpmで20分間遠心分離した。標準的な方法でPBMCを分離し、D-PBSで洗浄後、1,500 rpmで5分間遠心分離した。
【0072】
・PBMCの染色
調製したPBMCの染色は、以下の1)、2)のいずれかによって行った。染色後のPBMCは、洗浄後、フローサイトメーターで解析した。
1) DuraClone IM T Cell Subsets Tube(Beckman Coulter, Cat #B53328)による染色
製造業者のプロトコルに従って、DuraClone試薬中でPBMCを5分間室温でインキュベートして染色した。
2) 表1に示す蛍光染色抗体を用いてPBMCを氷上で45分間染色した。各抗体は表1記載の濃度に希釈し、1×10
6細胞あたり1μLを使用した。
【表1】
【0073】
PBMCの表面を染色した後、細胞内染色キット#562574 (BD)を用いて、以下の方法でanti-t-bet染色を実施した。
Concentrate : diluent=1:4で混ぜる
30min RT
Wash Buffer(5x)をMiliQで1xにして、3mlをtubeに加えてwash.
Wash Buffer(1x)を400μl取り、抗体を入れる。
Wash後のtubeの上清を捨てて、抗体液を加えて30min on ice
Wash Bufferでwashx2~3回(細胞少なければ2回で)
Wash buffer 200μlを入れて、FCM
【0074】
・フローサイトメトリー
染色したPBMCは、CytoFLEX S又はCytoFLEX LX(Beckman Coulter)を用いて解析した。収集したデータの解析は、Flowjoソフトウェアv10.8.1(BD Bioscience)を用いて行った。
【0075】
・セルソーティング
以下に示す蛍光染色抗体を用いてPBMCを氷上で45分間染色した。各抗体は1:100で希釈し、1×106細胞あたり1μLを使用した。
BV510コンジュゲート抗CD3抗体(BioLegend, Cat #344828)
APCコンジュゲート抗CD4抗体(BD Pharmingen, Cat #555349)
PE-Dazzle594コンジュゲート抗CD57抗体(BioLegend, Cat #359620)
AF488コンジュゲート抗CD279((PD-1)抗体(BioLegend, Cat #329936)
PBコンジュゲート抗CD19抗体(BioLegend, Cat#302232)
BV510コンジュゲート抗HLA-DR抗体(BioLegend, Cat#307646)
【0076】
染色したPBMCは、0.186% EDTA及び5% FBSを含むD-PBSで2回洗浄し、40μmフィルターでろ過した後、Moflo Astrios EQ with Summit software(Beckman Coulter)を用いたセルソーティングを行った。分取した細胞は、RP10(10%FBSを含むRPMI)を入れたチューブに回収した。
【0077】
・In vitro T細胞活性化アッセイ
セルソーティングによって、COVID-19患者及び健常対照者のPBMCからナイーブCD4+T細胞及びPD-1+CD57+CD4+T細胞を分取した。96穴U底ウェルプレートの各ウェルに、200μLの10% FBS含有RPMIと1.0×104のナイーブCD4+T細胞及び/又は2×103個のPD-1+CD57+CD4+T細胞とを入れ、1μLの抗CD3抗体及び抗CD28抗体結合マイクロビーズ(Gibco, Cat #11132D)と共に24時間室温でインキュベートした後、培養上清を回収した。
【0078】
培養上清中のIL-2、IL-13、IL-17のレベルは、ELISAキット(BD Biosciences, Cat #555190)及び試薬セット(BD Biosciences, Cat #550536)を、又はBio-plex Human Cytokine/Chemokine Magnetic Bead Panel-Premixed 27 plex, 48 plex(BIO-RAD)を用いて、製造業者のプロトコルに従って測定した。
【0079】
・統計解析
統計解析は、Graphpad Prism v.9.1.1ソフトウェアを用いて、スチューデントのt検定又は一元配置分散分析によって行い、p値<0.05を統計的に有意とした。結果は平均±標準誤差(SEM)として示した。
【0080】
(2) COVID-19患者由来PBMCのCD4
+T細胞サブセット解析
COVID-19患者及び健常対照者の血液から調製したPBMCについてフローサイトメトリーによってCD4
+T細胞サブセットを解析した。ゲーティング戦略を
図4A上段に示す。最初に、FSCとSSCに基づいてリンパ球をゲートし、次にFSC A(前方散乱光の面積)/FSC-H(前方散乱光の高さ)に基づいてダブレットを除去した。その後、CD3でゲートしてCD3
+の細胞集団を全T細胞として同定し、続いて全T細胞をCD4及びCD8でゲートしてCD4
+CD8
-の細胞集団をナイーブCD4
+T細胞として同定した。さらに、ナイーブCD4
+T細胞をPD-1及びCD57でゲートして、PD-1
+CD57
+の細胞集団をPD-1
+CD57
+CD4
+T細胞(ThES細胞とも呼ぶ)として同定した。なお、試験例及び実施例において、CD4
+T細胞は、CD4
+CD8
- T細胞である。
【0081】
CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率を
図1に示す。図中、HCは健常対照者、Non-severeは非重症のCOVID-19患者、Severeは重症のCOVID-19患者、Criticalは重篤な症候を呈したCOVID-19患者に相当する。COVID-19患者では、重症度に応じてThES細胞が増加していた。
【0082】
対象としたCOVID-19患者のうち、58名については入院期間中に時間をおいて2回の血液採取を行っていた(
図2A)。これらの患者の中で、重症/重篤な症候を呈した41名中38名は回復して退院することができたが、3名の患者は死亡した。回復した患者では、1回目の採血から2回目の採血までの間でThES細胞は有意に減少していた(
図2B)。また、非重症であった17名の患者においてもThES細胞は減少していた(
図2C)。
【0083】
また、回復したCOVID-19患者から回復後に採取した血液を用いてPBMCを調製し、CD4
+T細胞サブセットを解析した。CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率を、後遺症のない者(Sym-)、呼吸器症候以外の後遺症を有する者(nRS)、呼吸器症候の後遺症を有する者(RS)に分けて
図3に示す。ThES細胞数は、呼吸器症候の後遺症を有する者において増加が確認された。以上から、ThES細胞は、COVID-19の重症度、予後及び呼吸器症候の後遺症の指標となることが示された。
【0084】
(3) ThES細胞の表現型解析
COVID-19患者の血液から調製したPBMCについて、フローサイトメトリーによってThES細胞の表現型を解析した。最初に、FSCとSSCに基づいてリンパ球をゲートし、次にFSC A-A/FSC-Hに基づいてダブレットを除去した。その後、CD3でゲートしてCD3+の細胞集団を全T細胞として同定し、続いて全T細胞をCD4及びCD8でゲートしてCD4+CD8-の細胞集団をナイーブCD4+T細胞として同定し、さらにナイーブCD4+T細胞をPD-1及びCD57でゲートして、PD-1+CD57+の細胞集団をThES細胞として同定した。
【0085】
次いで、ThES細胞をCD25及びCD45RA、CD197及びCD45RA、CCR6及びCXCR5、CXCR3及びCCR4で順にゲートした。ThES細胞の表現型は、PD-1
+CD57
+CD4
+CD45RA
+CD25
-CXCR5
-CCR6
-CXCR3
+であることが確認された(
図4A)。
【0086】
さらに、細胞内T-betの発現を調査したところ、ThES細胞はT-bet
+であることが確認された(
図4B)。
【0087】
(4) ThES細胞によるT細胞活性化抑制
COVID-19患者(n=6-9)及び健常対照者(n=3)の血液から調製したPBMCからナイーブCD4+T細胞及びThES細胞を分取した。ゲーティング戦略を
図5に示す。最初に、FSCとSSCに基づいてリンパ球をゲートし、次にFSC-A/FSC-Hに基づいてダブレットを除去した。その後、CD3及びCD4でゲートしてCD3
+CD4
+の細胞集団を全T細胞として同定し、続いて全T細胞をPD-1及びCD57でゲートして、CD57
low PD-1
low-mid の細胞集団をナイーブCD4
+T細胞として、PD-1
mid-high CD57
highの細胞集団をThES細胞として分取した。
【0088】
分取したナイーブCD4
+T細胞及びThES細胞をT細胞受容体刺激下で単独培養又は共培養し、上清中のIL-2、IL-13、IL-17レベルを測定した。COVID-19患者(
図6A)、健常対照者(
図6B)のいずれにおいても、ナイーブCD4
+T細胞はT細胞受容体刺激によってIL-2、IL-13、IL-17を産生したが、その産生はThES細胞によって抑制された。ThES細胞は、免疫抑制効果を有する制御性T細胞であることが示唆された。
【0089】
[実施例1.間質性肺炎患者を対象とした細胞集団解析]
(1) 試験方法
肺非結核性抗酸菌症患者から採取した血液を用いて、試験例と同様の手法でPBMCを調製し、CD4
+T細胞サブセットを解析した。被験者の情報を表2に示した。
【表2】
IPF: 特発性肺線維症、NSIP: 非特異性間質性肺炎、OP: 器質化肺炎、Drug-induced: 薬剤性間質性肺炎、VC: 肺活量、FVC: 努力肺活量、DLCO:肺拡散能
【0090】
表中、年齢、FC、FVC及び%DLCOは「中央値(四分位範囲)」、性別及び診断は「症例数(%)」の形式で数値を表す。21例のうち17例が臨床的に診断され、その内訳はIPF 6例、NSIP 5例、OP 1例、薬剤起因性 1例、その他 1例であった。診断は、アメリカ胸部医学会/ヨーロッパ呼吸器学会の国際分類(Travis WD, et al. Am J Respir Crit Care Med 2013; 188: 733-748.)にのっとり、病歴、CT画像、肺生検などの情報に、主にはHRCTでの画像的特徴に基づいて、主治医の判断によって行われた。
【0091】
また、採血時と採血後6~22ヶ月経過した時点の2回、肺活量と努力性肺活量を測定し、肺の高解像度CT(HRCT)画像を取得した。肺活量と努力性肺活量は、採血時からの採血後6~22ヶ月経過時の変化量を算出して評価した。肺CT画像は、十分な経験を積んだ専門医の判断によって、採血時と比較した採血後6~22ヶ月経過時の線維化増悪の有無を診断した。
【0092】
(2) 間質性肺炎患者におけるThES細胞の解析
CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率と、肺の線維化増悪の有無、血漿中LDH、肺活量の変化量ΔVC、及び努力性肺活量の変化量ΔFVCとの関係性を
図7~10に示す。血漿中LDHは、間質性肺炎の病勢に並行して上昇することが知られている。間質性肺炎患者では、線維化の増悪(p=0.007)、LDHレベルの上昇(p=0.041)、肺活量の低下(p=0.031)、努力性肺活量の低下(p=0.019)とThES細胞の比率との間に有意な相関が認められた。以上から、ThES細胞は、間質性肺炎の重症度及び疾患活動性の指標となることが示された。
【0093】
(3) ROC解析によるカットオフ値の決定
ソフトウェアJMP(SAS Institute Inc.)を用いて、目的変数を採血90日後の生存状況(生存又は死亡)、説明変数をCD4+T細胞集団中のThES細胞の比率とするROC解析を行い、ROC曲線を作製し、AUCを算出した。このROC曲線を参照して、Youden's index法によってカットオフ値を7.5に設定した。カットオフ値7.5での感度は71%、特異度は100%であった。
【0094】
このカットオフ値を用いて間質性肺炎患者をThES/CD4 high群(CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率>7.5、n=9)とThES/CD4 low群(CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率<7.5、n=12)の2群に分け、生存期間を評価した。ThES/CD4 low群では採血90日後の生存率が100%であったのに対し、ThES/CD4 high群では70%弱であった(
図11)。以上から、ThES細胞は、間質性肺炎の予後の指標となることが示された。
【0095】
[実施例2.肺非結核性抗酸菌症患者を対象とした細胞集団解析]
(1) 試験方法
肺非結核性抗酸菌症患者から採取した血液を用いて、試験例と同様の手法でPBMCを調製し、CD4
+T細胞サブセットを解析した。被験者の情報を表3に示した。
【表3】
【0096】
表中、年齢は「中央値(四分位範囲))」、性別及び診断は「症例数(%)」の形式で数値を表す。25例のうち19例が臨床的に診断され、その内訳はM.avium 12例、M.absessus 2例、M.intracelluler 2例、その他(上記以外の非結核性抗酸菌の症例)3例であった。
【0097】
また、採血の3ヶ月前と採血時の2回、肺の高解像度CT(HRCT)画像又は胸部X線(Xp)画像を取得した。この2つの時点の肺CT画像から、十分な経験を積んだ専門医の判断によって採血前3ヶ月間の線維化増悪の状態を診断した。また、肺CT画像及びXp画像を画像スコア法(NICE scoring system; Kurashima A, et al. J Mycobac Dis. 2013 ; 3 : 127. doi : 10.4172/2161-1068.1000127.)によってスコア化し、疾患活動性を評価した。
【0098】
(2) 肺非結核性抗酸菌症患者におけるThES細胞の解析
CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率と、肺の線維化増悪の有無、及びNICEスコアとの関係性を
図12及び13に示す。血肺非結核性抗酸菌症患者では、線維化の増悪(p=0.0012)、NICEスコアの上昇(p=0.0145)とThES細胞の比率との間に有意な相関が認められた。以上から、ThES細胞は、肺非結核性抗酸菌症の重症度及び疾患活動性の指標となることが示された。
【0099】
[実施例3.新たな細胞集団解析]
実施例1及び2においてCD4+T細胞サブセットを解析した間質性肺炎患者及び肺非結核性抗菌症患者由来のPBMCを用いて、新たなCD4+T細胞サブセット解析を行った。ゲーティング戦略を以下に示す。最初に、FSCとSSCに基づいてリンパ球をゲートし、次にFSC A/FSC-Hに基づいてダブレットを除去した。その後、CD3でゲートしてCD3+の細胞集団を全T細胞として同定し、続いて全T細胞をCD4及びCD8でゲートしてCD4+CD8-の細胞集団をナイーブCD4+T細胞として同定した。さらに、ナイーブCD4+T細胞をCD95及びCD57でゲートして、CD95+CD57+の細胞集団をCD95+CD57+CD4+T細胞(ThES 95細胞とも呼ぶ)として同定した。
【0100】
CD4
+T細胞集団中のThES細胞の比率と、CD4
+T細胞集団中のThES 95細胞の比率との関係性を
図14に示す。両比率の相関性は高かったことから、ThES 95細胞も、ThES細胞と同様に、COVID-19の重症度、予後及び呼吸器症候の後遺症、間質性肺炎の重症度、予後及び疾患活動性、並びに肺非結核性抗酸菌症の重症度及び疾患活動性の指標として利用可能と期待される。