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特開2024-91421関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤及びヒアルロニダーゼ阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091421
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤及びヒアルロニダーゼ阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/18 20060101AFI20240627BHJP
   A61K 36/54 20060101ALI20240627BHJP
   A61K 36/725 20060101ALI20240627BHJP
   A61K 36/65 20060101ALI20240627BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20240627BHJP
   A61K 36/9068 20060101ALI20240627BHJP
   A61K 36/284 20060101ALI20240627BHJP
   A61K 36/714 20060101ALI20240627BHJP
   A61K 36/076 20060101ALI20240627BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240627BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
A61K36/18
A61K36/54
A61K36/725
A61K36/65
A61K36/484
A61K36/9068
A61K36/284
A61K36/714
A61K36/076
A61P19/02
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023156571
(22)【出願日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2022205370
(32)【優先日】2022-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023149302
(32)【優先日】2023-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼ウェブサイトのアドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/pharm143/session/3P1303-324/category ウェブサイトの掲載開始日:令和5年2月1日 (日本薬学会第143年会(札幌)オンライン特設サイトのセッション情報) ▲2▼ウェブサイトのアドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/pharm143/top ウェブサイトの掲載開始日:令和5年3月3日 :令和5年3月15日(電子抄録アプリによる公開) (日本薬学会第143年会(札幌)オンライン特設サイト) ▲3▼ウェブサイトのアドレス:https://society.main.jp/pharm/poster/index.html ウェブサイトの掲載日:令和5年3月16日~3月31日 (日本薬学会第143年会(札幌)オンライン特設サイトのWebポスター展示会場) ▲4▼集会名:日本薬学会第143年会(札幌) 開催場所:北海道大学(北海道札幌市北区北8条西5丁目) 開催日:令和5年3月25日~28日(令和5年3月27日に発表)
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】上杉(松村) 晴香
(72)【発明者】
【氏名】柴原 豪了
(72)【発明者】
【氏名】松下 哲也
(72)【発明者】
【氏名】萩野 輝
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AA06
4C088AB12
4C088AB26
4C088AB32
4C088AB33
4C088AB58
4C088AB60
4C088AB81
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA07
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA96
4C088ZC20
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、関節の潤滑性に関連し、関節以外の体の部分にも存在していてもよい成分の減少を抑制できる医薬品を提供することである。
【解決手段】桂枝加苓朮附湯エキスは、関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤の有効成分となる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
桂枝加苓朮附湯エキスを含有する、関節の潤滑作用改善剤。
【請求項2】
桂枝加苓朮附湯エキスを含有する、関節の潤滑成分保持剤。
【請求項3】
前記潤滑成分が、軟骨基質及び/又はヒアルロン酸である、請求項2に記載の潤滑成分保持剤。
【請求項4】
桂枝加苓朮附湯エキスを含有する、関節の潤滑成分生成促進剤。
【請求項5】
前記潤滑成分が、軟骨基質及び/又はヒアルロン酸である、請求項4に記載の潤滑成分生成促進剤。
【請求項6】
桂枝加苓朮附湯エキスを含有する、ヒアルロニダーゼ阻害剤。
【請求項7】
関節の炎症及び疼痛がない対象に用いられる、請求項1に記載の関節の潤滑作用改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤及びヒアルロニダーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体関節の摩擦部分は、対偶する骨の端部を厚さ数ミリの薄い軟骨が覆い、隙間を関節液が満たす構造をとっている。関節包は摩擦部分を覆い、関節液(潤滑液ともいう。)をシールドしている。
【0003】
関節軟骨は、最表層、中間層、深層、石灰化層の四層からなる、厚さ数ミリの生体組織である。組成の比率は、軟骨細胞が1%程度、コラーゲン及びプロテオグリカンが20%程度
、残りの80%近くが水である(非特許文献1)。プロテオグリカンファミリーの一員であ
るアグリカンは、コラーゲン又はヒアルロン酸とマトリックスを作ることで軟骨をはじめとする関節組織を維持している。アグリカンの多糖類部分はグリコサミノグリカンと呼ばれ、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸がこれに相当する(非特許文献2)。関節運動及び加齢等によって、軟骨組織は、常に、少しずつ摩耗し、軟骨細胞では摩耗の修復が行われる。加齢が伴うと、摩耗する作用が優勢になり、軟骨組織が減少する。
【0004】
関節液(潤滑液)は、糖、タンパク質(アルブミン、グロブリン等)、尿酸、及びヒアルロン酸を含む粘稠度の高い非ニュートン流体である(非特許文献1)。関節液中のヒアルロン酸、関節液の粘弾性を高め、潤滑及び衝撃吸収作用等の重要な役割を果たしている(非特許文献3)。関節液中のヒアルロン酸は、加齢とともに濃度減少し、関節液の粘度低下をもたらす(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】藤江裕道、関節軟骨の滑りの秘密、精密工学会誌/Journal of the Japan Society for Precision Engineering Vol.86, No.8, 2020, 591-595
【非特許文献2】小椋真理、ヒアルロン酸と関節軟骨、Glycative Stress Research Vol.5, No.1, 2018, 012-020
【非特許文献3】岡本彰夫、総説 ヒアルロン酸および関節液、日本バイオレオロジー学会誌(B&R)第13巻 第4号 168-174, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軟骨組織及び関節液(潤滑液)の成分が減少すると、関節の潤滑性が失われていき、関節の可動域制限等の関節機能障害を生じたり、さらに症状が進むと、関節に、腫れ、痛みなどの炎症を引き起こしたりする。このような関節の症状に対する処置としては、通常、腫れ、痛みなどの炎症を伴う関節の症状に対し、抗炎症剤、鎮痛剤等の内服薬が選択される。また、内服薬又はサプリメントとして、関節成分であるグルコサミン又はコンドロイチンが配合された多くの市販品もあるが、その効果については必ずしも明確になっていない。
【0007】
関節の症状に対する効能効果が挙げられている内服薬は、関節の症状に対して、疼痛又は炎症を抑える作用を利用する。しかしながら、関節の潤滑性に関連する成分の減少を抑
制し良好に保持できる薬があれば、関節が潤滑化するため、関節の症状に対して根本的に対処することができ、疼痛又は炎症の症状に至る前に対処することもできると考えられる。さらに、関節の潤滑性に関連する成分のうち、関節以外の身体の部位にも存在する成分の減少を抑制し良好に保持できれば、関節以外の身体の部分についても好ましい効果を奏することができると考えられる。
【0008】
そこで、本発明は、関節の潤滑性に関連し、関節以外の体の部分にも存在していてもよい成分の減少を抑制できる医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、桂枝加苓朮附湯エキスに、関節の潤滑性に関連する成分を保つ、生成促進する、及び/又は関節を潤滑化する作用があることを見出した。さらに、本発明者は、桂枝加苓朮附湯エキスに、ヒアルロニダーゼを阻害する作用があることも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 桂枝加苓朮附湯エキスを含有する、関節の潤滑作用改善剤。
項2. 桂枝加苓朮附湯エキスを含有する、関節の潤滑成分保持剤。
項3. 前記潤滑成分が、軟骨基質及び/又はヒアルロン酸である、項2に記載の潤滑成分保持剤。
項4. 桂枝加苓朮附湯エキスを含有する、関節の潤滑成分生成促進剤。
項5. 前記潤滑成分が、軟骨基質及び/又はヒアルロン酸である、項4に記載の潤滑成分生成促進剤。
項6. 桂枝加苓朮附湯エキスを含有する、ヒアルロニダーゼ阻害剤。
項7. 関節の炎症及び疼痛がない対象に用いられる、項1に記載の関節の潤滑作用改善剤、項2又は3に記載の関節の潤滑成分保持剤、項4又は5に記載の関節の潤滑成分生成促進剤、若しくは項6に記載のヒアルロニダーゼ阻害剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、関節の潤滑性に関連し、関節以外の体の部分にも存在していてもよい成分の減少を抑制できる医薬品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】桂枝加苓朮附湯エキスの投与による軟骨組織中のプロテオグリカンの保持及び生成促進効果を示す。
図2】桂枝加苓朮附湯エキスの投与による軟骨組織中のヒアルロン酸の保持及び生成促進効果を示す。
図3】桂枝加苓朮附湯エキスによるヒアルロニダーゼ阻害効果を示す。
図4】桂枝加苓朮附湯エキスによるヒアルロン酸生成促進効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤は、桂枝加苓朮附湯エキスを含有することを特徴とする。以下、本開示の関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤について詳述する。本明細書において、2つの数値と「~」とにより示される数値範囲は、当該2つの数値を下限値及び上限値として含むものとする。例えば、2~15重量%との表記は、2重量%以上15重量%以下を意味する。
【0014】
桂枝加苓朮附湯エキス
桂枝加苓朮附湯の漢方処方としては、「新 一般用漢方処方の手引き」(合田 幸広・袴塚 高志監修、日本漢方生薬製剤協会編集、株式会社じほう発行)に記載されている漢方処方が好ましく、具体的には、ケイヒ、タイソウ、シャクヤク、カンゾウ、ショウキョウ、ビャクジュツ(ソウジュツも可)、ブシ、及びブクリョウからなる混合生薬が挙げられ、好ましくは、ケイヒ、タイソウ、シャクヤク、カンゾウ、ショウキョウ、ビャクジュツ、ブシ、及びブクリョウからなる混合生薬が挙げられる。また、桂枝加苓朮附湯には、現在繁用されている漢方関係の書簡に記載されている混合生薬(漢方処方)が包含される。
【0015】
また、桂枝加苓朮附湯を構成する各生薬の配合重量比率としては、ケイヒ2~5:タイソウ2~5:シャクヤク2~5:カンゾウ1~3:ショウキョウ0.5~2.5:ビャクジュツ(ソウジュツも可)2~5:ブシ0.1~2:及びブクリョウ3~5が挙げられる。
【0016】
本開示で使用される桂枝加苓朮附湯の製造に供される生薬調合物の好適な例としては、ケイヒ2重量部、タイソウ2重量部、シャクヤク2重量部、カンゾウ1重量部、ショウキョウ0.5重量部、ビャクジュツ(ソウジュツも可)2重量部、ブシ0.25重量部、及びブクリョウ2重量部が挙げられる。
【0017】
桂枝加苓朮附湯のエキスの形態としては、軟エキス等の液状のエキス、及び固形状の乾燥エキス末のいずれであってもよい。
【0018】
桂枝加苓朮附湯の液状のエキスは、桂枝加苓朮附湯処方に従った混合生薬を抽出処理し、得られた抽出液を必要に応じて濃縮することにより得ることができる。また、桂枝加苓朮附湯の乾燥エキス末は、液状のエキスを乾燥処理することにより得ることができる。
【0019】
桂枝加苓朮附湯のエキスの製造において、抽出処理に使用される抽出溶媒としては、特に限定されず、水又は含水エタノールが挙げられる。桂枝加苓朮附湯の抽出処理としては、特に限定されないが、例えば、桂枝加苓朮附湯に含まれる生薬の総重量(乾燥重量換算)に対して、5~20倍量程度の抽出溶媒で抽出した後、1/2容量になるまで濃縮し、固形分を除いたものを、桂枝加苓朮附湯の液状エキスとして得る方法が挙げられる。また、この液状エキスを乾燥処理に供することにより、桂枝加苓朮附湯の乾燥エキス末が得られる。乾燥処理としては、特に限定されず、公知の方法を用いればよく、例えば、スプレードライ法、及びエキスの濃度を高めた軟エキスに適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法等が挙げられる。
【0020】
本開示において桂枝加苓朮附湯としてエキスを使用する場合、前述の方法で調製したエキスを使用してもよいし、市販されたものを使用してもよい。
【0021】
本開示の関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤において、桂枝加苓朮附湯エキスの含有量としては、本開示の効果を奏する限り特に限定されないが、桂枝加苓朮附湯エキスの乾燥エキス末量換算で、通常5~100重量%、好ましくは10~90重量%、より好ましくは20~80重量%、更に好ましくは30~70重量%が挙げられる。なお、本開示において、桂枝加苓朮附湯の乾燥エキス末量換算とは、桂枝加苓朮附湯の乾燥エキス末を使用する場合にはそれ自体の量であり、桂枝加苓朮附湯の液状のエキスを使用する場合には、溶媒を除去した残量に換算した量である。また、桂枝加苓朮附湯の乾燥エキス末が、製造時に添加される吸着剤等の添加剤を含む場合は、当該添加剤を除いた量である。
【0022】
その他の成分
本開示の関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤は、桂枝加苓朮附湯エキス単独からなるものであってもよく、製剤形態に応じた添加剤及び/又は基剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0023】
また、本開示の関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤は、桂枝加苓朮附湯エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分及び/又は薬理成分を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。このような栄養成分及び薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス(桂枝加苓朮附湯エキス以外)、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分及び/又は薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類、関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0024】
製剤形態
本開示の関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤(ドライシロップを含む)、錠剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられる。これらの製剤形態の中でも、含有成分の安定性及び携帯性等の観点から、好ましくは固形状製剤が挙げられる。
【0025】
本開示の関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤を前記製剤形態に調製するには、桂枝加苓朮附湯エキス、並びに必要に応じて添加される添加剤、基剤、栄養成分及び/又は薬理成分を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0026】
用途
桂枝加苓朮附湯エキスは、ヒアルロニダーゼを阻害する作用がある。従って、本開示のヒアルロニダーゼ阻害剤は、ヒアルロニダーゼを阻害する用途に適用される。体内では、ヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸の合成及び分解が繰り返されるところ、本開示のヒアルロニダーゼ阻害剤によりヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸の分解が抑制されるため、本開示のヒアルロニダーゼ阻害剤は、体内の任意の部位のヒアルロン酸及び/又はコンドロイチン硫酸を増加させる用途に適用できる。当該体内の部位としては、ヒアルロン酸が存在する部位として、関節液、関節軟骨、皮膚、目の硝子体が挙げられ、コンドロイチン硫酸が存在する部位として、関節軟骨、骨、目の角膜、骨、臓器、皮膚等が挙げられる。
【0027】
桂枝加苓朮附湯エキスは、関節の潤滑成分を保持する(つまり、関節の潤滑性に寄与する成分を、関節の軟骨及び/又は潤滑液中にとどめる)作用がある。従って、本開示の関節の潤滑成分保持剤は、関節の潤滑成分を保持する用途に適用される。関節の潤滑成分については、関節の潤滑性に寄与する成分であれば特に限定されないが、好ましくは、軟骨基質及びヒアルロン酸の少なくともいずれかが挙げられる。また、軟骨基質としては、軟骨を構成する細胞外基質であれば特に限定されないが、好ましくは、コンドロイチン硫酸などのプロテオグリカンが挙げられる。
【0028】
桂枝加苓朮附湯エキスは、関節の潤滑成分の生成を促進する作用がある。従って、本開示の関節の潤滑成分生成促進剤は、関節の潤滑成分の生成を促進する用途に適用される。関節の潤滑成分については、関節の潤滑性に寄与する成分であれば特に限定されないが、好ましくは、軟骨基質及びヒアルロン酸の少なくともいずれかが挙げられる。また、軟骨基質としては、軟骨を構成する細胞外基質であれば特に限定されないが、好ましくは、コンドロイチン硫酸などのプロテオグリカンが挙げられる。本開示の関節の潤滑成分生成促進剤においては、これらの潤滑成分の中でも、好ましくはヒアルロン酸が挙げられる。
【0029】
桂枝加苓朮附湯エキスは、上述の通りヒアルロニダーゼ阻害作用、関節の潤滑成分の保持作用及び/又は関節の潤滑成分の生成促進作用を有し、関節において、潤滑液中のヒアルロン酸等を増加させて潤滑性を向上させること、並びに/若しくは、関節の潤滑性に寄与する成分を関節の軟骨及び/又は潤滑液中にとどめることにより、上述の関節の潤滑作用を改善(つまり、関節可動性を向上)できる。従って、本開示の関節の潤滑作用改善剤は、関節の潤滑作用を改善する用途に適用される。
【0030】
本開示の関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤の適用対象は、関節の潤滑作用改善、関節の潤滑成分保持、及び/又は体の任意の部位におけるヒアルロニダーゼ阻害を要する対象であれば特に限定されない。本開示の関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤は、上記の作用を利用するため、適用対象は、抗炎症剤及び鎮痛剤の適応にあるような、関節の炎症(関節の腫れ、こわばりを含む)及び疼痛を伴っていなくてもよい。このような適用対象としては、怪我、スポーツ、交通事故等によって、関節軟骨に外力が加わることにより、及び/又は、加齢等を原因として、関節の円滑性に寄与する成分が減少(例えば、軟骨組織が摩耗、及び/又は潤滑液のヒアルロン酸量が減少等)し、炎症及び/又は疼痛を起こす前の状態にある動物が挙げられる。
【0031】
関節については、体のどの部位の関節であってもよい。従って、関節としては、指関節、手首関節、肘関節、膝関節、肩関節等が挙げられる。
【0032】
本開示の関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤の適用対象となる動物種については、好ましくは哺乳類が挙げられ、より具体的には、ヒト、サル、ラット、マウス、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ等が挙げられる。
【0033】
用量・用法
本開示の関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤は経口投与によって使用される。本開示の関節の潤滑作用改善剤、関節の潤滑成分保持剤、関節の潤滑成分生成促進剤、及びヒアルロニダーゼ阻害剤の用量については、投与対象者の年齢、性別、体質、症状の程度等に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒト1人に対して1日当たり、桂枝加苓朮附湯エキスの乾燥エキス末量換算で1~4g程度、好ましくは1.5~3.7g程度、より好ましくは2~3.7g程度、さらに好ましくは3~3.7g程度となる量で、1日1~3回の頻度で服用すればよい。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
桂枝加苓朮附湯エキスの製造
原料生薬を、ケイヒ2重量部、タイソウ2重量部、シャクヤク2重量部、カンゾウ1重量部、ショウキョウ0.5重量部、ビャクジュツ(ソウジュツも可)2重量部、ブシ0.25重量部、及びブクリョウ2重量部の割合で用い、これらを刻んだ後、水12倍重量を用いて約100℃で1時間抽出し、遠心分離して抽出液を得、減圧下で濃縮してスプレードライヤーを用いて乾燥し、桂枝加苓朮附湯エキス末を得た。得られた桂枝加苓朮附湯エキス末は、原料生薬混合物11.75g当たり2.4gであった。なお、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給して行った。
【0036】
試験例1
7週齢のマウスを4群(正常群、コントロール群、桂枝加苓朮附湯エキス群、コンドロイチン硫酸群)に分け7週齢~14週齢までの50日間の試験期間中に以下の投与を行った。
【0037】
試験期間中、正常群及びコントロール群には水を投与し、桂枝加苓朮附湯エキス群には桂枝加苓朮附湯エキスを750mg/kg/日となるように1日1回投与し、コンドロイチン硫酸群にはコンドロイチン硫酸エステルナトリウムを260mg/kg/日となるように1日1回投与した。
【0038】
関節炎を発症させるため、コントロール群、桂枝加苓朮附湯エキス群、及びコンドロイチン硫酸群については、8週齢時に、タイプIIコラーゲン末/Freund's complete adjuvantを投与して一次免疫を行い、さらに、11週齢時に、二次免疫として同様の投与を行っ
た。
【0039】
試験期間終了後に、膝関節の関節軟骨組織を摘出し、組織切片を作成しサフラニンO染色(軟骨基質プロテオグリカンを染色)又はヒアルロン酸染色を行った。サフラニンO染色の結果を図1に示し、ヒアルロン酸染色の結果を図2に示す。
【0040】
図1及び図2に示される通り、正常群では軟骨部分が濃く染色されている(矢印部分)ことが確認できるが、コントロール群及びコンドロイチン硫酸群では、正常群に比べて染色が顕著に薄くなっていた。これに対し、桂枝加苓朮附湯エキス群では、正常群よりも濃い染色が確認できた。つまり、桂枝加苓朮附湯エキスの投与により、潤滑成分(プロテオグリカン及びヒアルロン酸)が良好に保持されたことが認められたことに加え、これら潤滑成分の生成が促進されたことも示唆された。
【0041】
試験例2
0.1M 酢酸緩衝液(pH4.0)を用い、桂枝加苓朮附湯エキスの終濃度が10、
2、0.4、0.08、又は0.0116mg/mlの濃度となる試料溶液を調製した。試料溶液50μlに、酵素溶液(ウシ由来ヒアルロニダーゼを4mg/mlで0.1M酢酸緩衝液(pH4.0)に溶解)25μlを加え、37℃で20分間インキュベートした。その後、酵素活性化液(Compound 48/80(シグマアルドリッチ)を0.5mg/mlとなるように酢酸緩衝液(pH4.0)に溶解して調製した液)50μlを入れ、37℃で20分間インキュベートした。さらに基質溶液(ヒアルロン酸カリウムを0.8mg/mlとなるように酢酸緩衝液(pH4.0)に溶解して調製した液)125μlを加え、37℃で40分間インキュベートすることで、酵素基質反応を行った。
【0042】
その後0.4N水酸化ナトリウム水溶液50μlを加え、酵素基質反応を停止させた。さらに0.8Mホウ酸緩衝液(pH9.0)50μlを入れ、5分間105℃のヒートブロックで加熱した後、十分に氷冷した。この溶液50μlに発色液(p‐ジメチルアミノ
ベンズアルデヒドを0.1mg/mlとなるように塩酸酢酸混合液に溶解し、使用直前に酢酸で10倍希釈して調製した液)200μlを加え、37℃で30分間インキュベートした後、585nmにおける吸光度を測定した。
【0043】
試料溶液を添加した際のヒアルロニダーゼ阻害率を吸光度の変化量から算出し、ヒアルロニダーゼ阻害活性とした。なお、試料溶液の代わりに酢酸緩衝液を用いたものをコントロール溶液、試料溶液及び酵素溶液の代わりに酢酸緩衝液を加えたものをコントロール溶液のブランク、酵素溶液の代わりに酢酸緩衝液を加えたものを試料溶液のブランクとした。ヒアルロニダーゼ阻害活性(%)は、具体的には以下の式により求めた。
【0044】
【数1】
【0045】
結果を図3に示す。図3に示される通り、桂枝加苓朮附湯エキスがヒアルロニダーゼの阻害活性を有することが認められた。
【0046】
試験例3
軟骨細胞増殖培地(C-27101,Takara bio)で培養していたヒト軟骨細胞(Human Chondrocyte:HCH,C-12710,Takara bio)を、150,000 cells/wellになるように6 wellプレートに播種し、一晩培養した。桂枝加苓朮附湯エキス末を蒸留水に溶解し、0.2μmフィルターでろ過したろ液を、桂枝加苓朮附湯エキスの最終濃度が1重量%になるように細胞に添加し、4日間培養した。培養後、培養上清を回収し、0.2μmフィルターでろ過した。ろ過した上清におけるヒアルロン酸量を、Hyaluronic Acid,ELIZA Kit,QnE(BTP-96200)を用いて測定した。
【0047】
結果を図4に示す(*:p<0.05)。図4に示される通り、桂枝加苓朮附湯エキスがヒアルロン酸の生成を促進することが認められた。この結果により、試験例1の図2において示唆された桂枝加苓朮附湯エキスによるヒアルロン酸の生成促進効果が裏付けられ、且つ、試験例2において確認された桂枝加苓朮附湯エキスにより奏されるヒアルロニダーゼの阻害活性が優れていることが示された。
図1
図2
図3
図4