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特開2024-91460イオン化装置、イオン検出装置及び気体分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091460
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】イオン化装置、イオン検出装置及び気体分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/68 20060101AFI20240627BHJP
   G01N 27/624 20210101ALI20240627BHJP
【FI】
G01N27/68 B
G01N27/624
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023196664
(22)【出願日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2022206620
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】氏本 勝也
(72)【発明者】
【氏名】丹 国広
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041AA07
2G041CA02
2G041DA10
2G041EA05
2G041FA10
2G041GA21
(57)【要約】
【課題】気体のイオン化率を高めることができるイオン化装置、イオン検出装置及び気体分析装置を提供する。
【解決手段】イオン化装置1は、放電領域を生成する一対の電極と、気体を流す流路管たる流出管とを備えている。一対の電極は、第一電極たる放電針2と、放電針2の先端を中心にして環状に設けられた第二電極たる電極部4aとで構成されている。流出管51bの放電領域へ気体を流す気体流出口54の径dが、電極部4aの径Dよりも小さくなっている。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電領域を生成する一対の電極と、
気体を流す流路管とを備えたイオン化装置において、
前記一対の電極は、第一電極と、前記第一電極の先端を中心にして環状に設けられた第二電極とで構成され、
前記流路管の前記放電領域へ気体を流す気体流出口の径が、前記第二電極の径よりも小さいことを特徴とするイオン化装置。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン化装置において、
前記流路管は、導電性であり、
前記流路管と前記第一電極とを同電位としたことを特徴とするイオン化装置。
【請求項3】
請求項2に記載のイオン化装置において、
前記第二電極を有する電極管を備え、
前記電極管は、前記流路管の少なくとも一部を覆っており、
前記第二電極と前記第一電極との前記気体の流れ方向に直交する方向の距離が、前記流路管と前記電極管との前記気体の流れ方向に直交する方向の距離よりも短いことを特徴とするイオン化装置。
【請求項4】
請求項3に記載のイオン化装置において、
前記第二電極は、前記電極管の気体の流れ方向下流側端部から内側に突出する部分であることを特徴とするイオン化装置。
【請求項5】
請求項4に記載のイオン化装置において、
前記第一電極の先端を、前記気体の流れ方向で前記第二電極と同一の位置に配置したことを特徴とするイオン化装置。
【請求項6】
請求項2に記載のイオン化装置において、
前記流路管を有する導電性の流路部材に取り付けられ、前記第一電極を保持する導電性の電極ホルダと、
前記流路部材と電気的に接続され、内部に気体を流す流路を有し、外周部に電圧が印加される電極アダプタと、
前記第二電極を有する電極管と前記電極アダプタとが取り付けられる絶縁性ホルダとを有することを特徴とするイオン化装置。
【請求項7】
請求項6に記載のイオン化装置において、
前記電極ホルダは、前記流路部材に着脱可能に構成され、
前記電極アダプタが、前記絶縁性ホルダに分離接合可能な構成としていることを特徴とするイオン化装置。
【請求項8】
請求項1に記載のイオン化装置において、
前記第二電極と前記流路管とが別部材により形成されていることを特徴とするイオン化装置。
【請求項9】
請求項1に記載のイオン化装置において、
前記流路管の前記気体流出口の気圧が、大気圧未満であることを特徴とするイオン化装置。
【請求項10】
イオン化装置と、
前記イオン化装置によってイオン化された気体を分類するイオンフィルタと、前記イオン化された気体を検出するイオン検出電極とを有するイオン検出部とを備えたイオン検出装置において、
前記イオン化装置として、請求項1に記載のイオン化装置を用いたことを特徴とするイオン検出装置。
【請求項11】
請求項10に記載のイオン検出装置において、
前記第二電極を有する電極管が、絶縁体を介してイオン検出部に接続されていることを特徴とするイオン検出装置。
【請求項12】
イオン検出装置を備え、前記イオン検出装置の検出結果に基づいて気体の分析を行う気体分析装置において、
前記イオン検出装置として、請求項10に記載のイオン検出装置を用いたことを特徴とする気体分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン化装置、イオン検出装置及び気体分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、放電領域を生成する一対の電極と、気体を流す流路管とを備えたイオン化装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、流路管たる試料導入配管内に、一対の電極として、放電針と対向電極とが配置されたものが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、気体のイオン化率が低いという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、放電領域を生成する一対の電極と、気体を流す流路管とを備えたイオン化装置において、前記一対の電極は、第一電極と、前記第一電極の先端を中心にして環状に設けられた第二電極とで構成され、前記流路管の前記放電領域へ気体を流す気体流出口の径が、前記第二電極の径よりも小さいことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、気体のイオン化率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態の気体分析装置の概略構成図である。
図2】イオン検出装置の機能図である。
図3】イオン検出装置を示す模式図である。
図4】イオン検出装置の概略分解図である。
図5】イオン検出装置の分解外観図である。
図6】イオン検出装置の概略断面図である。
図7】比較例のイオン化装置の要部概略斜視図である。
図8】比較例のイオン化装置の要部断面図である。
図9】本実施形態のイオン化装置1の要部概略構成図である。
図10】流出管の内部での気体の流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。なお、いわゆる当業者は特許請求の範囲内における本発明を変更・修正をして他の実施形態をなすことは容易であり、これらの変更・修正はこの特許請求の範囲に含まれるものである。以下の説明はこの発明における最良の形態の例であって、この特許請求の範囲を限定するものではない。
【0009】
図1は、本発明のイオン化装置を備える本実施形態の気体分析装置200の概略構成図である。また、図2は、気体分析装置200の機能図である。
本実施形態の気体分析装置200は、電界非対称波形イオン移動度分光分析(Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometry:FAIMS)装置であり、イオン化装置1を備えたイオン検出装置100と、気体搬送装置300とを備えている。気体搬送装置300は、流量センサ301と、真空ポンプ14とを備えており、真空ポンプ14は、流量センサ301の検知結果に基づいて、流量が一定となるように制御される。
【0010】
イオン検出装置100と、気体搬送装置300は、ケース200a内に収納されており、ケース200aの一方側の側面(図中右側面)に気体を取り入れる吸気部304を有し、他方側の側面(図中左側面)に気体を排出する排気部305が設けられている。吸気部304には、気体発生源から気体を取り込む吸気口が設けられており、排気部305には、気体を排出する排気口が設けられている。
【0011】
図2に示すように、真空ポンプ14により吸気部304の吸気口304aから取り入れられた気体3は、イオン検出装置100の流路内を流れ、イオン化装置1によりイオン化された後、イオンフィルタ110によって選別され、イオン検出電極120で検出される。イオン検出電極120の検出結果に基づいて、気体3の成分が分析される。分析結果は、装置に接続された外部モニター、あるいは、本気体分析装置200が備えるモニターに表示される。そして、イオン検出装置100を通過した気体3は、排気部305の排気口305aから排出される。
【0012】
本実施形態の気体分析装置200は、例えば、便が発する便臭ガスの成分の分析に用いることができる。近年、腸内の細菌フローラの状態と健康状態との関係が注目されている。ヒトの腸内には数百種類もの腸内細菌が住み着いており、善玉菌、悪玉菌及び日和見菌に大別されるという。また、これらの理想的な構成比(バランス)は「2:1:7」という説がある。これら腸内細菌のバランスはヒトによっても年齢によっても変わると言われ、健康状態のバロメータにもなりえる。食生活や生活習慣の乱れ、ストレス、便秘などは悪玉菌の増殖を促し、腐敗臭のするガスを発生させ、発がん性物質を生むこともあるといわれる。そこで、便が発する便臭ガスの成分を分析して細菌フローラの状態を調べ、健康状態の把握と病気の早期発見を行う研究が行われている。気体分析装置200は、このような便臭ガスの成分の分析に用いることができる。
【0013】
また、本実施形態の気体分析装置200は、例えば、ヒトの呼気に含まれる成分の分析に用いることもできる。近年、ヒトの呼気に含まれる微量な呼気ガス成分と疾病との関係が明らかになりつつあり、呼気中の濃度が疾病と相関をもつ呼気ガス成分はマーカ物質とよばれる。本実施形態の気体分析装置200は、このような呼気ガス成分の分析に用いることもできる。また、ヒトの呼気に含まれる呼気ガス成分としてアルコールの検出に本実施形態の気体分析装置200を用いることもできる。
【0014】
なお、これらは一例であり、例えば、食品や飲料物(アルコールの種類)の官能評価(臭覚)、室内等の所定の場所の環境評価、火災検知等にも本実施形態の気体分析装置200を用いることができる。
【0015】
図3は、イオン検出装置を示す模式図である。また、図4は、イオン検出装置100の概略分解図であり、図5は、イオン検出装置100の分解外観図であり、図6は、イオン検出装置100の概略断面図である。なお、図4は、上部が断面であり、下部が外観である。
イオン検出装置100は、イオン化装置1と、イオン検出部101とを有し、モジュール化されている。
【0016】
イオン化装置1は、放電電極であり第一電極である放電針2と、放電針2の先端に対向する第二電極たる電極部4aを備えた電極管4と、吸気口304aから取り込んだ気体発生源の気体を放電針2の放電領域へ流す流路部材5とを備えている。また、イオン化装置1は、放電針2を保持し、流路部材5のホルダ嵌め込み部53に嵌め込まれる導電性の電極ホルダ6を有している。放電針2は、流路部材5の流路管たる流出管51bを貫通し、放電針2の先端2aが、流出管51の気体が流出する流出口54よりも気体の流れ方向下流側に位置している。
【0017】
また、イオン化装置1は、絶縁アダプタ17と、電極アダプタ33とを備えている。電極アダプタ33は電源部に電気的に接続され、流路部材5および電極ホルダ6を介して放電針2に高電圧V1を入力する。また、イオン化装置1は、電極アダプタ33と電極管4との電気的な接続を防ぐ絶縁ホルダ7を備えている。
【0018】
イオン化装置1は、その外観形状は、直径約10mm程度の略円筒形状をしており、絶縁アダプタ17、電極アダプタ33、絶縁ホルダ7および電極管4を直径約10mm程度の略円筒形状として、イオン化装置1の外観形状を形成している。
【0019】
絶縁アダプタ17は、絶縁性の樹脂で構成され、円柱状の内部に穴を切削加工などで成形した円筒状の部材であり、この絶縁アダプタ17内を取り込んだ気体が移動する。絶縁アダプタ17の外周面の図6の矢印に示す気体の流れ方向下流側には、雄ネジ部17aが形成されており、電極アダプタ33の内周面の気体の流れ方向上流側に形成された雌ネジ部33aがネジ止めされる。これにより、電極アダプタ33と絶縁アダプタの接続部からの気体の漏れを抑制し、かつ、容易に絶縁アダプタ17から電極アダプタ33を取り外すことができる。
【0020】
また、本実施形態では、絶縁アダプタ17と電極アダプタ33とをネジ止めしているが、例えば、絶縁アダプタ17をポリアセタールやポリエチレンなど摺動性に優れた材料とし、はめ込み式で電極アダプタ33を絶縁アダプタ17に固定するようにしてもよい。
【0021】
絶縁アダプタ17内には、吸気口から取り込んだ気体発生源の気体が流れるため、絶縁アダプタ17の樹脂材としては、取り込む気体に対する密封性を考慮した材料を選定する。
【0022】
電極アダプタ33もその内部に気体を流すため円筒形状であり、導電性の材料で構成されている。本実施形態では、電極アダプタ33は、ステンレスやアルミなどの加工しやすい金属を切削加工して形成されている。電極アダプタ33の外周面には、高圧電源部に接続されたケーブルのコネクタが嵌め込まれるリング状の溝部26が形成されている。
【0023】
電極アダプタ33の外周面の気体の流れ方向下流側には、雄ネジ部33bが形成されており、この雄ネジ部33bが、絶縁ホルダ7の内周面の気体の流れ方向上流側に形成された雌ネジ部7aにネジ止めされている。
【0024】
流路部材5の外周面には、電極アダプタ33と電気的に接続する接続凸部52が設けられている。電極アダプタ33が絶縁ホルダ7にネジ止めされることで、接続凸部52が、電極アダプタ33と絶縁ホルダ7とに気体の流れ方向で挟持される。これにより、接続凸部52と電極アダプタ33とが密着し、電極アダプタ33と流路部材5とが電気的に接続され、流路部材5を電極アダプタ33と同電位にできる。
【0025】
なお、部材同士を精度よく加工して、流路部材5を電極アダプタ33にはめ込むことで流路部材5と電極アダプタ33との電気的に接続を行ってもよい。具体的には、流路部材5および電極アダプタ33を数ミクロンの精度で切削加工することで、嵌め込みによって流路部材5との電極アダプタ33とを良好に電気的に接続することができる。また、流路部材5と電極アダプタ33は、高硬度の金属で形成されるため、変形することはなく、嵌め込みによって流路部材5との電極アダプタ33との電気的な接続を良好に維持できる。
【0026】
流路部材5は、複数の流入管51aと、流路管たる流出管51bとを備え、導電性の材料で構成されている。流路部材5は、接続凸部52が、電極アダプタ33と絶縁ホルダ7とに挟持固定されるとともに、絶縁ホルダ7に嵌め合いで取り付けられている。そのため、流路部材5の材料としては、硬度が高く変形し難い金属が好ましい。後述するように、絶縁ホルダ7を摺動性のよい樹脂で構成しており、嵌め合いで取り付けても、簡単に流路部材5を絶縁ホルダ7から取り外すことができる。
流路部材5と電極アダプタ33とは、互いに金属であるため、取り外しの容易性から所定の遊びを有する隙間嵌めとしている。
【0027】
流路部材5は、円管の導体で形成されており、板厚は気体の圧力に耐えうる程度でよく、数100um以上あればよい。円柱材料から切削加工などによって円管状に成形されている。流路部材5はアルミ、銅、黄銅など加工が容易で、変形し難い金属が好ましい。
【0028】
流入管51aは、流路部材5の円周方向に所定の間隔を開けて複数設けられており、流出管51bは、流路部材5の中心に設けられている。なお、流入管51aは、一つでもよいが、流入管51aを複数設けることで、気体の流入口の総面積を大きくすることができ、流入の際の空気抵抗が低減でき好ましい。
各流入管51aに流れた気体は、中央部付近で合流して、流出管51bの流出口54から放電針2の先端へ向けて放出される。
【0029】
また、流路部材5の気体の流れ方向上流側の側面の中央には、放電針2を保持する電極ホルダ6が嵌め込まれるホルダ嵌め込み部53を有している。電極ホルダ6は、導電性で加工しやすい材料で構成されており、放電針2の根元が嵌め込まれる形で保持し、電極ホルダ6と放電針2とを電気的に接続している。
【0030】
導電性の材料で構成された電極ホルダ6を、流路部材5のホルダ嵌め込み部53に嵌め込むことで、流路部材5と電極ホルダ6とが電気的に接続される。これにより、電極アダプタ33に入力された高電圧V1が、流路部材5、電極ホルダ6を介して放電針2に入力される。また、電極ホルダ6を、流路部材5のホルダ嵌め込み部53に嵌め込むことで、放電針2が流出管51bを貫通し、放電針2の先端2aが、流出管51bの流出口54よりも気体の流れ方向下流側に位置する。
【0031】
また、本実施形態では、放電針2に入力する高電圧V1が、電極アダプタ33、流路部材5および電極ホルダ6を介して入力される。これにより、流路部材5と放電針2と電極ホルダ6とを同電位にすることができ、流出管51bと放電針2との間の異常放電を防いでいる。
【0032】
電極アダプタ33と電極管4との電気的な接続を防ぐ絶縁ホルダ7は、円筒形状であり、内周面の気体流れ方向上流側には、雌ネジ部7aを有している。そして、この雌ネジ部7aによって、電極アダプタ33の外周の気体流れ方向の下流側に設けられた雄ネジ部33bにネジ止めされる。
【0033】
また、絶縁ホルダ7の外周面の気体流れ方向下流側には、雄ネジ部7bが形成されており、筒状の電極管4の内周面の気体流れ方向上流側の雌ネジ部4bがネジ止めされている。なお、嵌め合いで絶縁ホルダ7を電極アダプタ33と電極管4とに取り付けるようにしてもよい。
【0034】
絶縁ホルダ7は、一般的な樹脂を素材とし、切削加工で精度が出せる加工性を有し、高い絶縁耐性を有する材料を選定する。これは、電極管4は、アースに落とされ、一方、電極アダプタ33や流路部材5は、数kVの高電圧V1が印加されている。そのため、電極管4と電極アダプタ33および流路部材5との間で数kVの電界が発生し、その絶縁を絶縁ホルダ7が担う。そのため、絶縁ホルダ7としては、高い絶縁耐性を有する材料を選定する必要がある。
【0035】
また、絶縁ホルダ7に嵌め合いで取り付けられる流路部材5が、容易に絶縁ホルダ7から取り外せるようにポリアセタールやポリエチレンなどの若干やわらかい材料が好ましい。若干やわらかい材料とすることで、応力によってクラックなどが入るのを抑制することができる。これにより、クラックによる絶縁耐性の低下を抑制できる。
【0036】
また、電極管4と流路部材5の接続凸部52の間で短絡や放電が生じないように、絶縁ホルダ7の電極管4と流路部材5の接続凸部52との間の厚みX1(図6参照)は、十分な厚みを有する構造とする。
【0037】
電極管4は、筒状であり、放電針2先端と放電領域を生成する一対の電極を形成する電極部4aが設けられている。電極管4の外周面の気体の流れ方向略中央部には、アースに接続されたケーブルのコネクタが嵌め込まれるリング状の溝部24が形成されている。電極管4をアースに接続することで、電極管4の電極部4aの電位を回路動作の基準となる電位にすることができる。
【0038】
電極管4は、放電の安定性を確保するため、表面に酸化物の形成や異物の付着されることを避ける必要がある。そのため、電極管4の材料としては、ステンレスが好ましい。
【0039】
また、電極管4の気体流れ方向下流側端部に設けられ、内側に突出する電極部4aと放電針2との距離が、電極管4と流出管51bとの距離よりも短くなっている。
電極管4の外周面の気体流れ方向下流側には、雄ネジ部4cが形成されており、イオン検出部101とイオン化装置1と連結する連結ホルダ15がネジ止めされている。
【0040】
連結ホルダ15は、絶縁性の材料で構成された筒状形状である。本実施形態では、連結ホルダ15を樹脂で形成している。連結ホルダ15の内周面の両側には、それぞれ雌ネジ部15a,15bが形成されている。気体の流れ方向上流側の雌ネジ部15aには、電極管4がネジ止めされている。気体の流れ方向下流側の雌ネジ部15bには、イオン検出部101の第一フランジ16の外周面に形成された雄ネジ部16aがネジ止めされている。
【0041】
連結ホルダ15の内周面の気体の流れ方向の略中央部には、内側に突出した絶縁凸部28を有している。連結ホルダ15によってイオン検出部101とイオン化装置1とを連結したとき、この絶縁凸部28は、気体の流れ方向において、電極管4の気体の流れ方向下流側端部と、第一フランジ16の気体流れ方向上流側端部とに挟まれるような形で位置する。これにより、第一フランジ16と電極管4との絶縁を確実に確保できる。
【0042】
後述するように、放電針2でイオン化された電荷を有する気体を、イオンフィルタ110へ移動させるために、第一フランジ16とイオンフィルタ110を保持するチップホルダ19には、電圧V2が印加されている。連結ホルダ15に絶縁凸部28を設けて第一フランジ16と電極管4との絶縁を確実に確保することで、良好に第一フランジ16およびチップホルダ19と電極管との間の電位差を維持することができる。これにより、電荷を有していない中性の気体とイオン化された気体とを、良好に分別することができる。
【0043】
なお、第一フランジ16のイオン化された気体が流れる流路部16bにかける電圧を、気体の流れる方向に段階的に大きくして、電荷を有するイオン化された気体を良好にイオンフィルタ110へ移動させるようにしてもよい。
【0044】
イオン検出部101は、イオンフィルタ110と、イオン検出電極120とを備えている。イオンフィルタ110は、チップホルダ19に保持され、イオン検出電極120は、回路基板10に実装されている。
【0045】
また、イオン検出部101は、チップホルダ19を保持する第一フランジ16を備えている。第一フランジ16は、イオン化装置1でイオン化された気体を、イオンフィルタ110へ向けて流す流路部16bを有している。
また、イオン検出部101は、イオンフィルタ110の配線を取り出す取り出し口と、イオン検出電極120を通過した気体を気体搬送装置300へ流す流路20aとを備えた第二フランジ20を備えている。第二フランジ20を、ネジによって第一フランジ16に固定することで、回路基板10が、第一フランジ16と第二フランジ20との間で挟持固定される。
【0046】
イオンフィルタ110は、対向する一対のイオンフィルタ電極を有し、通過するイオンの移動度を制御する。イオン検出電極120には、イオンフィルタ110を通過した通過イオンが衝突する。すなわち、通過イオンはイオン検出電極120に接触する。そして、イオン検出電極120は通過イオンを検出し、接触した強さに応じた電気特性値を出力する。電気特性値としては、例えば、電流値、電圧値及び抵抗値等が挙げられる。イオン検出部101は、イオン検出電極120をイオンフィルタ110の一対のイオンフィルタ電極から電気的に絶縁する絶縁材を設けるのが好ましい。
【0047】
イオン検出装置100は、イオン検出電極120に接続されたイオン電流検出回路を有している。イオン検出電極120に衝突したイオンの量に応じて発生した電流または電圧がイオン電流検出回路により検出される。
【0048】
第一フランジ16と、イオンフィルタ110とを保持するチップホルダ19とには、電圧V2が印加されており、電極管4とこれらとの間に数Vから数十Vの電位差を形成している。この電位差によって、放電針2でイオン化された気体は、その電位によってドリフトされ、優先的に、イオンフィルタ110へ移動することになる。これによって、イオンフィルタ110へ移動する気体を、電荷を有さない中性の気体と電荷をイオン化された気体とに選別することが可能となり、イオンフィルタ110へ移動する気体のイオン化濃度を向上させることができる。
【0049】
真空ポンプ14によって吸気口304aから取り入れられた気体発生源の気体3(図2参照)は、絶縁アダプタ17と電極アダプタ33の管内を流れた後、流路部材5の複数の流入管51aへ流れ込む。そして、各流入管51aに流れ込んだ気体3は、流れの向きを90°変えられて、中央部付近で合流し、流出管51bを流れる。そして、流出管51bの流出口54から流速方向を揃えた形で放出され、放電針2の先端に効率的に誘導される。
【0050】
この気体3が、電極管4内を移動し、放電針2と先端と、電極管4の気体流れ方向下流側端部に設けられた内側に突出する電極部4aとで形成された放電領域を通過する際に、放電針2の先端の放電によりイオン化される。イオン化した気体3は、イオン検出部101の第一フランジ16の流路部16b内をイオンフィルタ110へ向けて移動し、イオンフィルタ110によって移動度が制御される。その後、イオン検出電極120に衝突して、イオン検出電極120により検出される。イオン検出電極120を通過した気体は、第二フランジ20内を移動して、気体搬送装置300へ流れた後、真空ポンプ14によって、排気部305の排気口から排出される。
【0051】
図7は、比較例のイオン化装置1Zの要部概略斜視図であり、図8は、比較例のイオン化装置1Zの要部断面図である。
図7図8に示すように、比較例のイオン化装置1Zは、取り込んだ気体を放電針2の先端へ流す流路管9が、電極管4の機能を兼用していた。放電針2は、電界集中させるために針形状が用いられ、気体がイオン化する領域は放電針2の先端の局所的な領域に限定される。
【0052】
比較例のイオン化装置1Zでは、流路管9内を流れる気体は、放電針2の先端の局所的な放電領域とは異なる位置を大量に流れてしまう。そのため、取り込んだ気体の大部分がイオン化されずイオン化効率が低い。
そこで、流路管9の直径を短くすることも考えられるが、流路管9の直径を短くすると、放電針の先端以外で放電が発生するおそれがあり、放電範囲が広くなってしまう。放電範囲が広がることで、放電にムラが生じて、イオン化される気体にムラが生じるおそれがある。
【0053】
また、図7、8に示す比較例では、放電針2の先端が、電極管としての流路管9内に位置している。かかる構成においては、放電針2の先端の放電は、電極管4内壁の気体の流れ方向下流側に広がってしまう。このように、放電が気体の流れ方向下流側に広がることで、気体との接触確率が低下し、イオン効率が低下するおそれがある。
【0054】
また、一般的なイオン化装置は、一気に大面積の静電気を中性化することを目的としている。そのため、イオン化装置は流路入り口付近を加圧して、気体を流路に流し込み、気体は出口付近で勢いよく噴出させている。特に近年ではラバールノイズ形状などの収縮拡大型のノズル形状の開発が加速されている。確かに、これらのノズル形状であれば、音速を超えるような高速の流速を実現でき、大量に気体を放電領域へ送り込むことが可能である。
【0055】
しかしながら、放電針2の放電でイオン化する単位時間当たりの量には限りがあるため、流速が速すぎると、イオン化した分子数と中性の分子数との比であるイオン化分子濃度が低下する。
【0056】
このように、比較例のイオン化装置は、イオン化の効率が悪いという課題があった。そこで、本実施形態のイオン化装置は、流路の形状や、電極管と流路管と別体とし機能分離することで、イオン化効率を高めた。以下、本実施形態の特徴部について、図面を用いて説明する。
【0057】
図9は、本実施形態のイオン化装置1の要部概略構成図である。
図9に示すように、本実施形態では、放電針2の先端2aを、電極管4の気体の流れ方向の下流側端部に設けられた内側に突出する電極部4aと、気体の流れ方向で同位置に位置させている。なお、ここでいう同一位置とは、放電針2の先端2aが突出する電極部4aの幅(電極部の気体の流れ方向の長さ)内に位置することを意味する。また、電極管4の気体の流れ方向下流側端部に内側に突出させて設けた電極部4aと放電針2の先端2aとの距離L1を、電極管4と流出管51bとの距離L2よりも短くしている(L1<L2)。
【0058】
本実施形態では、上述したように、流出管51bと放電針2との異常放電を防止するために、流出管51bは、放電針2と同電位としている。また、図6図9に示すように、アースに接続された電極管4の一部は、流出管51bの一部と対向しており、電極管4と流出管51bとの間に電場が形成される。
【0059】
しかし、本実形態では、電極管4の放電針2の先端2aに対向する電極部4aを内側に突出させ、放電針2との距離L1を、電極管4と流出管51bとの距離L2よりも短くしている(L1<L2)。これにより、放電針2の先端2aと電極部4aとの間の電場を最も高くでき、放電針2の先端2aと電極部4aとの間で優位に安定した放電を発生させることができる。これにより、電極管4と流出管51bとの間での異常放電の発生を良好に抑制できる。また、放電針2の先端2aと電極部4aとの間で安定した放電が行われることで、イオン化効率を高めることができる。
【0060】
なお、例えば、絶縁ホルダ7を、流出管51bの流出口54よりも気体の流れ方向下流側に位置させ、絶縁ホルダ7を流出管51bと電極管4との間に介在させて絶縁して、電極管4と流出管51bとの間での異常放電を抑制してもよい。
【0061】
放電針2の先端2aが、放電針2の先端2aを、電極管4の気体の流れ方向の下流側端部に設けられた内側に突出する電極部4aと同一の位置(電極部4aの幅内)に配置することで、安定した放電が行われ、イオン化効率を高めることができる。また、放電針2の先端2aを、電極部4aの気体の流れ方向の下流側端部(電極管4の下流側端部でもある)と気体の流れ方向同位置に配置することで、さらにイオン量を増やすことができより好ましい。これは、鋭意実験した結果、最もイオン量が多くなる効果が得られた結果によっている。その一致精度は100ミクロンメートル程度であれば、十分効果が見込めることが分かっている。
【0062】
電極部4aの気体の流れ方向下流側端部は、鋭利な形状であるため、その端部には電気力線が引き寄せられる。これにより、放電を電極部4aの端部に集中させることができ、図7図8に示した放電針2の先端が電極管内に位置する従来装置に比べて、放電が気体の流れ方向下流側に広がるのを抑制できる。これにより、気体の流れ方向に対し直交する方向に良好に放電することができ、気体との接触確率を向上することができ、イオン化する気体分子の量が向上し、イオン効率が向上したと考えられる。
【0063】
電極部4aの放電針2の先端2aに気体の流れ方向に垂直な方向で対向する表面は、研磨処理され、その表面性は、算術平均粗さ(Ra)にして、10um以下としている。また、電極部4aの下流側端部と放電針2の先端2aとの一致精度は、製造工程の高精度実装技術を用いて、再現性良く製造できるように高い検査精度で製造される。
【0064】
具体的には、機械精度によって合わせこむパッシブ実装方法によって電極部4aの下流側端部と放電針の先端2aと一致させる。パッシブ実装方法は、放電針2を仮固定した状態で、電極管4の端部に平板を押し当てて、それよりはみ出している放電針2を、平板によって押し込むようにして、その平板の平坦性による精度で、電極管4の下流側端部でもある電極部4aの下流側端部と放電針2の先端2aとの位置を一致させる。そして、テレセントリックの光学系を有した顕微鏡を用いて、電極部4aの下流側端部と放電針2の先端2aとの一致する状況を顕微鏡モニタ画面上によって検査する。
【0065】
電極管4の電極部4aは、環状であることが望ましい。環状であると、円の中心に放電針2を配置することで、電極部4aと放電針2の先端2aとは、すべて等距離となり、放電領域が電極部4aに沿って円周方向で均等に形成され、気体を効率よく、かつ再現性よくイオン化を実現できる。
【0066】
一方、電極部4aが環状でない場合は、放電針2の先端2aと、電極部4aとの距離が、周方向で異なってしまい、不均一な放電領域が形成され、イオン化する分子も不均一な分布を有する。不均一なイオン化生成分布では、気体の分析結果の精度を低下させる。特に、再現性の良い気体分析結果を示す製品を製造する場合には、環状の電極部4aによる均一な放電領域が望まれる。
【0067】
上述したように、電極管4は、直径約10mm程度の円筒形状のイオン化装置1の外観の一部を構成する。そのため、電極管4の外径は、10mm程度となっている。また、イオン化装置1の外観の一部を構成する外径が10mm程度の絶縁ホルダ7の雄ネジ部に電極管4をネジ止めするため、図9に示すように、電極管4の内径Dも大きくなる。比較例のように、電極管4が、放電針2の先端2aへ取り込んだ気体を流す流路管の機能も兼ねる場合は、放電針2の先端2aの局所的な放電領域とは異なる位置を取り込んだ気体が大量に流れてしまう。そのため、取り込んだ気体の大部分がイオン化されずイオン化効率が低い。
【0068】
これに対し、本実施形態では、放電針2と一対の電極を形成する電極管4とは、別に放電針2の先端2aに気体を流すための流路部材5を設け機能分離している。これにより、それぞれの形状は、お互いに制約を受けることなく設計が可能となる。よって、流路部材5の取り込んだ気体を放電領域へ流す流出管51bの形状を、取り込んだ気体を最も効率的にイオン化することができる形状にすることが可能となる。
【0069】
具体的には、流路部材5の取り込んだ気体を放電領域へ流す流出管51bの形状を、放電針2を同心位置に配置して放電針2と平行に延伸させた形状とする。そして、気体を放電領域へ流す流出管51bの流出口54の径(内径)dを、電極部4aの径(内径)Dに比べて小さくした(D>d)形状とする。
【0070】
放電針2と流出管51bが平行であるため、流出管51bの流出口54から放出される気体が、放電針2の先端2aに誘導されて気体が流れ込む。また、流出口54の直径dを、電極部4aの内径Dに比べて小さくすることで、取り込んだ気体が、放電針2の先端の局所的な放電領域とは異なる位置へ流れるのを抑制できる。
【0071】
このように、放電針2の周辺のみに、取り込んだ気体が通過するように流出管51bを設計(放電針2を同心位置に配置して放電針2と平行に延伸させ、先端に気体を放電領域へ流す流出口54の径(内径)dを、電極管4の径(内径)Dに比べて小さくする設計)しているため、多くの気体をイオン化することができる。これにより、取り込んだ気体を効率よくイオン化することができる。
【0072】
また、本実施形態では、気体の流れのレイノルズ数を、流出管51bに供給されたときよりも低下させて流出口54から放出されるように、流出管51bの流路長L4が設定されている。好ましくは、気体の流れを層流にして流出口54から放出されるように、流出管51bの流路長L4が設定されている。
【0073】
なお、レイノルズ数とは、流体力学において、粘性の流体の流れにおける粘性力と慣性力の比を表している(式は後述)。一般的に、レイノルズ数が小さい流れでは、流体の粘性力が支配的であるため、流れは安定する(層流となる)。一方、レイノルズ数が大きい流れでは、慣性力が支配的であるため、流れは不安定となる(乱流となる)。気体の流れのレイノルズ数を、流出管51bに供給されたときよりも低下させ、層流として、流出口54から放出することで、流出口54から放出された気体は、乱流に比べ、流出管51bの方向と平行(放電針2の先端に向かって真っすぐ)に流すことができる。これにより、放電針2の周辺のみに、取り込んだ気体を通過させることができ、取り込んだ気体を効率よくイオン化することが可能となる。以下に、図10を用いて具体的に説明する。なお、本実施形態では流出管51bは円環状であるが、矩形状であっても、側壁があれば以下の理論は成り立つ。
【0074】
図10は、流出管51bの内部での気体の流れを示す模式図である。
図10に示すように、気体が流出管51bに供給されると、気体は流出管51bの内部にある側壁の影響を受ける。この側壁の影響を受ける気体の流れを境界層136と呼び、流出管内で下流に向かうにつれて、境界層136が発達する。そして、境界層136の発達につれて流れの速度分布は放物線状に変化し、最終的には、発達した流れ(層流)137となり、流出口54から放出される。このように、層流137として流出口54から放出されることで、流出口54から放出された気体は、流出管51bの方向と平行(放電針2の先端2aに向かって真っすぐ)に流れる。
【0075】
なお、流出管51bにおける発達した流れ137に至るまでの助走区間の長さXは次の(1)式で示される。(1)式において、Reはレイノルズ数、dは管の半径であり、レイノルズ数Reは次の(2)式で示される。(1)式において、Vは流速、νは動粘度であり、例えば、空気の動粘度は1.512×10-5/secである。
【0076】
X=(0.065)×Re×d ・・・(1)
Re=V×d/ν・・・(2)
【0077】
また、ν動粘度は、粘性係数μと密度から(3)式の関係が成り立つ。
【0078】
ν=μ/ρ・・・(3)
ν 空気の動粘性係数 [m2/s]
μ 空気の粘性係数 [N・s/m2]
ρ 空気の密度 [kg/m3]
【0079】
νは動粘度であり、これは大気圧の数値である。ρは圧力に比例するため、減圧になると、動粘性係数νは上昇する。動粘性係数νが上昇すると、(2)式の関係により、レイノルズ数Reは低減する。つまり、減圧化にすると、レイノルズ数Reは低減する。
【0080】
レイノルズ数が低下することで、同じ助走区間であっても、発達させた流れ(層流)を作ることが容易になる。このように、電極管4とは別に流路部材5を設けることで、放電針2の先端2aへ向けて取り込んだ気体を流す流出管51bの形状を、層流が作ることが可能な形状にでき、取り込んだ気体を効率よくイオン化することが可能となる。
【0081】
また、本実施形態では、図1に示したように、イオン検出装置100よりも気体の流れ方向下流側に気体搬送装置300を設け、真空ポンプ14によりイオン検出装置100の気体の流れる流路を大気圧に対して減圧して気体を取り込んでいる。真空ポンプ14は、数十kPa程度、数十リットル/分程度のものでよい。これによって、イオン検出装置100の気体の流れる流路を大気圧に対して減圧して気体を取り込むことができる。
【0082】
イオン検出装置100の気体の流れる流路を大気圧に対して減圧して気体を取り込むことで、流出管51bの流出口54付近が負圧となり、流出口54から一方向に整った分子移動のベクトル群を有した流体となる。これは加圧によって流出口54から噴出する気体との分子移動とは著しく異なり、分子間の衝突が少なく、ブラウン運動を起こしにくいためである。
【0083】
減圧化で流出口54から出てくる気体は、流出管51bに沿った方向に気体の移動方向が束のまとまった状態となる。上述した従来の加圧方式では流出口54から四方八方に拡散される状態となる。このように、流出管51bに沿った方向にまとまった状態で流出口54から気体が放出されることで、放電針2の先端2aに良好に取り込んだ気体を流すことができ、イオン化効率を向上できる。
【0084】
また、減圧化であるため、加圧化に比べ、流出管内での気体同士の衝突により移動方向を変更させることなく、流れ込む気体分子が流路表面との衝突が少なくなる可能性も高くなる。これにより、流出管内で良好に層流化することができ、放電針2の周辺のみに、取り込んだ気体を通過させることができ、取り込んだ気体を効率よくイオン化することが可能となる。
【0085】
なお、流路部材5の流路は、変形が可能であり、流入管51aから流出管51bへの流路をテーパー状にして気体分子の移動方向をそろえることも可能である。また、流入管51aや流出管51bの内周面は平坦な研磨加工を施すのが好ましい。これにより、気体分子が管の内周面に衝突した後に、気体分子の反射方向が出口方向に沿う形になる可能性を高めることができる。また、本実施形態では、真空ポンプ14によって、減圧化しているが、ファンやブロワ等を用いて、減圧化してもよい。
【0086】
また、本実施形態のイオン検出装置100は、流路部材5以外は、ネジにより接合す構成であり、簡単に各部材を分離することができる。また、流路部材5は、電極アダプタ33と絶縁ホルダ7に嵌め合いで取り付けられており、流路部材5の電極アダプタ33と絶縁ホルダ7から簡単に取り外すことができる。このように、イオン検出装置100各部材が簡単に分離接合可能であるため、容易に部材の交換を行うことができる。
【0087】
例えば、放電針2の先端が劣化した際には、電極アダプタ33を絶縁ホルダ7から分離し、電極ホルダ6を露出させ、電極ホルダ6を流路部材5のホルダ嵌め込み部53から抜き出すことで、放電針2のみ容易に交換することができる。これにより常に新鮮な放電針2を容易に利用するこができ、安定した放電により安定したイオン検出が可能となる。
【0088】
また、本実施形態では、イオン検出装置100の外径の一部を構成する電極アダプタ33を介して、イオン検出装置の内部に配置された流路部材5および放電針2に高電圧を印加している。これにより、高電圧を印加する外部電源との電気的な接続をイオン検出装置の外周で行うことができ、イオン検出装置100の気密性を良好に維持でき、取り込んだ気体の漏れ出しを抑制できる。同様に、電極管4もイオン検出装置100の外径の一部を構成することで、電極管のアースとの接続をイオン検出装置の外周で行うことができ、イオン検出装置100の気密性を良好に維持でき、取り込んだ気体の漏れ出しを抑制できる。
【0089】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0090】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様1)
放電領域を生成する一対の電極と、放電領域に気体を流す流出管51bなどの流路管とを備えたイオン化装置1において、一対の電極は、放電針2などの第一電極と、第一電極の先端を中心にして環状に設けられた電極部4aなどの第二電極とで構成され、流路管の放電領域へ気体を流出口54などの流す気体流出口の径dが、第二電極の径Dよりも小さい。
これによれば、実施形態で説明したように、流路管の気体流出口の径(内径)を、第二電極の径よりも小さくしたことで、流路管の気体流出口の径が第二電極の径以上のものに比べて、第一電極の周辺に流れる気体の量を多くすることができる。これにより、第一電極の放電によって効率的に取り込んだ気体をイオン化させることができ、気体のイオン化率を高めることができる。
【0091】
(態様2)
態様1において、流出管51bなどの流路管は、導電性であり、流路管と放電針2などの第一電極とを同電位とした。
これによれば、実施形態で説明したように、流路管と放電針などの第一電極との間で異常放電が生じるのを抑制することができる。
【0092】
(態様3)
態様2において、電極部4aなどの第二電極を有する電極管4を備え、電極管4は、流出管51bなどの流路管の一部を覆っており、第二電極と放電針2などの第一電極との気体の流れ方向に直交する方向の距離L1が、流路管と電極管4との気体の流れ方向に直交する方向の距離L2よりも短い。
これによれば、実施形態で説明したように、電極管4と流出管51bなどの流路管との間での異常放電の発生が抑制され、放電針2などの第一電極と電極部4aなどの第二電極との間で優位に安定的に放電を発生させることができ、効率的に気体をイオン化することができる。
【0093】
(態様4)
態様3において、電極部4aなどの第二電極を有する電極管4を備え、第二電極は、電極管4の気体の流れ方向下流側端部から内側に突出する部分である。
これによれば、実施形態で説明したように、第二電極と放電針2などの第一電極との気体の流れ方向に直交する方向の距離L1を、流路管と電極管4との気体の流れ方向に直交する方向の距離L2よりも短くできる。
【0094】
(態様5)
態様4において、放電針2などの第一電極の先端は、気体の流れ方向で電極部4aなどの第二電極と同一の位置に配置した。
これによれば、放電を電極部4aに集中させることができ、放電が気体の流れ方向下流側に広がるのを抑制できる。これにより、気体の流れ方向に対し直交する方向に良好に放電することができ、気体との接触確率を向上することができ、イオン化する気体分子の量が向上し、イオン効率を向上することができる。
【0095】
(態様6)
態様2乃至5いずれかにおいて、流出管51bなどの流路管を有する導電性の流路部材5に取り付けられ、放電針2などの第一電極を保持する導電性の電極ホルダ6と、流路部材5と電気的に接続され、内部に気体が流れる流路を有し、外周部に電圧が印加される電極アダプタ33と、電極管4と電極アダプタ33とが取り付けられる絶縁ホルダ7などの絶縁性ホルダとを有する。
これによれば、実施形態で説明したように、電極アダプタ33、流路部材5、電極ホルダ6を介して、放電針2などの第一電極に電圧を入力することができる。また、流路部材と第一電極とを同電位にすることができ、流路管と第一電極との間での異常放電を防止できる。
さらに、絶縁ホルダ7などの絶縁性ホルダによって、電極アダプタ33と電極管4とを絶縁することができ、電極アダプタ33と電極管4との間で短絡や異常放電の発生を防止できる。また、電極アダプタの外周部に電圧が印加されることで、内部の気密性を確保することができる。
【0096】
(態様7)
態様6において、電極ホルダ6は、流路部材5に着脱可能に構成され、電極管4および電極アダプタ33が、絶縁ホルダ7などの絶縁性ホルダに分離接合可能な構成としている。
これによれば、実施形態で説明したように、電極アダプタ33を絶縁ホルダ7などの絶縁性ホルダから分離し、電極ホルダ6を流路部材5から取り外すことで、放電針2などの劣化した放電電極の交換を行うことができる。これにより、これにより常に新鮮な放電電極を容易に利用するこができ、安定した放電により効率的に気体をイオン化することができる。
【0097】
(態様8)
態様1乃至7いずれかにおいて、電極管4と流出管51bなどの流路管とが別部材により形成されている。
これによれば、実施形態で説明したように、電極管4と流出管51bなどの流路管のそれぞれの形状を、お互いに制約を受けることなく設計が可能となる。これにより、放電針2などの放電電極と電極管4との良好な放電を発生させ、かつ、取り込んだ気体を最も効率的にイオン化できるように、気体を放電領域へ流すことができる。これにより、イオン化効率を高めることができる。
【0098】
(態様9)
態様1乃至8いずれかにおいて、流出管51bなどの流路管の流出口54などの気体流出口の気圧が、大気圧未満である。
これによれば、実施形態で説明したように、流路管内を大気圧よりも高くして、加圧により気体流出口から気体を流す場合に比べて、流出口54などの気体流出口から流れた方向に沿って気体を流すことができる。これにより、気体流出口から流れた出た気体を、放電針2などの放電電極の先端2aに良好に流すことができ、気体のイオン化効率を高めることができる。
【0099】
(態様10)
イオン化装置1と、イオン化装置1によってイオン化された気体を分類するイオンフィルタ110と、イオン化された気体を検出するイオン検出電極120とを有するイオン検出部101とを備えたイオン検出装置100において、イオン化装置1として、態様1乃至9いずれかのイオン化装置を用いた。
これによれば、イオン化装置1により効率的に気体をイオン化することができることで、イオン検出部101に流入する気体のイオン濃度を高めることができる。これにより、ノイズ成分の中性分子が少なくなり、検出感度を向上することができる。
【0100】
(態様11)
態様10において、電極管4が、絶縁体を介してイオン検出部101に接続されている。
これによれば、実施形態で説明したように、電極管とイオン検出部のチップホルダとの間に電荷を有するイオン化された気体をイオンフィルタ110へ流すための電位差を形成することができる。
【0101】
(態様12)
イオン検出装置100を備え、イオン検出装置100の検出結果に基づいて気体の分析を行う気体分析装置において、イオン検出装置として、態様10または11に記載のイオン検出装置を用いた。
これによれば、精度よく気体を分析することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 :イオン化装置
2 :放電針
2a :放電針の先端
4 :電極管
4a :電極部
4b :雌ネジ部
4c :雄ネジ部
5 :流路部材
6 :電極ホルダ
7 :絶縁ホルダ
7a :雌ネジ部
7b :雄ネジ部
9 :流路管
10 :回路基板
14 :真空ポンプ
15 :連結ホルダ
15a :雌ネジ部
15b :雌ネジ部
16 :第一フランジ
16a :雄ネジ部
16b :流路部
17 :第一絶縁ホルダ
17a :雄ネジ部
19 :チップホルダ
20 :第二フランジ
20a :流路
24 :溝部
26 :溝部
28 :絶縁凸部
33 :電極アダプタ
33a :雌ネジ部
33b :雄ネジ部
51a :流入管
51b :流出管
52 :接続凸部
53 :ホルダ嵌め込み部
54 :流出口
100 :イオン検出装置
101 :イオン検出部
110 :イオンフィルタ
120 :イオン検出電極
136 :境界層
137 :層流
200 :気体分析装置
200a :ケース
300 :気体搬送装置
301 :流量センサ
304 :吸気部
304a :吸気口
305 :排気部
D :電極管の内径
d :流出口の直径
L1 :電極管と放電針との距離
L2 :電極管と流出管と距離
L4 :流出管の流路長
【先行技術文献】
【特許文献】
【0103】
【特許文献1】特許第5094520号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10