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特開2024-91602シリコンエッチング液、シリコン基板の処理方法および半導体デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091602
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】シリコンエッチング液、シリコン基板の処理方法および半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
H01L21/308 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217011
(22)【出願日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2022207631
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清家 吉貴
(72)【発明者】
【氏名】人見 達矢
(72)【発明者】
【氏名】野呂 幸佑
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA02
5F043BB01
(57)【要約】
【課題】新たな技術的構成による、高いシリコンエッチング速度をもつ新規なエッチング液を提供することを課題とする。
【解決手段】アルカリ性有機化合物及び水を含むシリコンエッチング液であって、
さらに、下記式(1)で表される化合物を含み、前記式(1)で示される化合物の含有量が100質量ppm以上である、シリコンエッチング液。
(式(1)において、Rは、単結合、または炭素数1~5の炭化水素基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、アセチル基、カルボキシ基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、チオ基、セレノ基、または炭素数1~10の炭化水素基であり、これらの基はさらに置換基を有していてもよい。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性有機化合物及び水を含むシリコンエッチング液であって、
さらに、下記式(1)で表される化合物を含み、前記式(1)で示される化合物の含有量が100質量ppm以上である、シリコンエッチング液。
【化1】
(式(1)において、Rは、単結合、または炭素数1~5の炭化水素基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、アセチル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、チオ基、セレノ基、または炭素数1~10の炭化水素基であり、これらの基はさらに置換基を有していてもよい。)
【請求項2】
前記シリコンエッチング液のpHが10.0以上14.0以下である、請求項1に記載のシリコンエッチング液。
【請求項3】
前記Rが単結合である、請求項1又は2に記載のシリコンエッチング液。
【請求項4】
前記RおよびRが、それぞれ独立して、水素原子、またはヒドロキシ基である、請求項1又は2に記載のシリコンエッチング液。
【請求項5】
前記アルカリ性有機化合物が、水酸化第四級アンモニウムである、請求項1又は2に記載のシリコンエッチング液。
【請求項6】
シリコンウェハ、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜、およびアモルファスシリコン膜からなる群から選択される少なくとも1つのシリコン材料を含むシリコン基板の処理方法であって、
請求項1又は2に記載のシリコンエッチング液を用いて、前記シリコン材料をエッチングする工程を含む、シリコン基板の処理方法。
【請求項7】
シリコンウェハ、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜、およびアモルファスシリコン膜からなる群から選択される少なくとも1つのシリコン材料を含むシリコン基板を有する半導体デバイスの製造方法であって、
請求項1又は2に記載のシリコンエッチング液を用いて前記シリコン材料をエッチングする工程を含む、半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種シリコンデバイスを製造する際の表面加工、エッチング工程で使用されるシリコンエッチング液に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン(Si)は、その優れた機械特性、および電気特性から様々な分野に応用されている。機械特性を利用して、バルブ;ノズル;プリンタ用ヘッド;又は流量、圧力もしくは加速度等の各種物理量を検知するための半導体センサ(例えば半導体圧力センサのダイヤフラム又は半導体加速度センサのカンチレバーなど)等に応用されている。また、電気特性を利用して、金属配線の一部、又はゲート電極等の材料としてメモリデバイスやロジックデバイス等といった種々の半導体デバイスに応用されている。
【0003】
半導体デバイスの製造におけるシリコンの加工は、主にエッチング処理により行われる。エッチング方法としては、RIE(反応性イオンエッチング)もしくはALE(原子層エッチング)等のドライエッチング、又は酸性水溶液もしくはアルカリ性水溶液によるウェットエッチングがある。ウェットエッチングは、加工の微細性の点ではドライエッチングには劣る場合が多いものの、同時に加工できる面積が広いため、また同時に複数枚のウェハを処理できるため生産性の点ではドライエッチングに優っており、中でもアルカリ性水溶液によるウェットエッチングは、不要なシリコン層全体をエッチングにより除去する場合等、生産性が重視されるプロセスにおいて好適に用いられている。
【0004】
生産性が高い、すなわちシリコンを高速で除去できるエッチング液はいくつか提案されている。例えば、アルカリ化合物と酸化剤とフッ酸化合物とを水中に含有させ、そのpHを10以上に調液したエッチング薬液が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-135081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、ウェットエッチング工程の生産性はエッチング速度を上昇させることで改善する。そして半導体チップ等の生産においては、シリコンをウェットエッチングする場合でも、製造する半導体チップの構造等により、常に同じようなエッチング剤が適用できるとは限らず、状況に応じて選択ができるよう技術の豊富化が求められている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、新たな技術的構成による、高いシリコンエッチング速度をもつ新規なエッチング液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。そして、特定の構造を有する化合物とアルカリ性有機化合物と水とを含むシリコンエッチング液を用いることによりシリコンエッチング速度が飛躍的に上昇することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、本発明の構成は以下の通りである。
項1 アルカリ性有機化合物及び水を含むシリコンエッチング液であって、
さらに、下記式(1)で表される化合物を含み、前記式(1)で示される化合物の含有量が100質量ppm以上である、シリコンエッチング液。
【化1】
(式(1)において、Rは、単結合、または炭素数1~5の炭化水素基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、アセチル基、カルボキシ基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、チオ基、セレノ基、または炭素数1~10の炭化水素基であり、これらの基はさらに置換基を有していてもよい。)項2 前記シリコンエッチング液のpHが10.0以上14.0以下である、項1に記載のシリコンエッチング液。
項3 前記Rが単結合である、項1又は2に記載のシリコンエッチング液。
項4 前記RおよびRが、それぞれ独立して、水素原子、またはヒドロキシ基である、項1~3のいずれか1項に記載のシリコンエッチング液。
項5 前記アルカリ性有機化合物が、水酸化第四級アンモニウムである、項1~4のいずれか1項に記載のシリコンエッチング液。
項6 シリコンウェハ、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜、およびアモルファスシリコン膜からなる群から選択される少なくとも1つのシリコン材料を含むシリコン基板の処理方法であって、
項1~5のいずれか1項に記載のシリコンエッチング液を用いて、前記シリコン材料をエッチングする工程を含む、シリコン基板の処理方法。
項7 シリコンウェハ、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜、およびアモルファスシリコン膜からなる群から選択される少なくとも1つのシリコン材料を含むシリコン基板を有する半導体デバイスの製造方法であって、
項1~5のいずれか1項に記載のシリコンエッチング液を用いて前記シリコン材料をエッチングする工程を含む、半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新たな技術的構成による、高いシリコンエッチング速度をもつ新規なエッチング液を提供することができる。そのため、処理対象の材質などにより、従来からある高速化技術(エッチング液)を適用しにくい場合などでも、本発明により高速でエッチングすることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。以下の説明は、本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「記載されている下限値以上、上限値以下」を意味しており、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
<シリコンエッチング液>
本発明の一実施形態に係るシリコンエッチング液(以下、単に「エッチング液」とも記す。)は、半導体チップの製造等に際してシリコン(結晶性シリコン、又はアモルファス
シリコン)のエッチングに用いるものである。シリコンのエッチングは酸性条件で行うものと、アルカリ性条件で行うものがあるが、本実施形態に係るエッチング液は、アルカリ性有機化合物を含有するアルカリ性の水溶液(pHが7超)であり、アルカリ性条件でエッチングするためのものである。
【0013】
[アルカリ性有機化合物]
アルカリ性が高いほどエッチング速度が速くなる傾向があるため、エッチング液は、アルカリ性有機化合物を含む。当該アルカリ性有機化合物は、アルカリ性を示す有機化合物(水に溶解してアルカリ性を示す有機化合物)であれば特段制限されない。アルカリ性有機化合物は、第一級~第三級の各種アミン、又は水酸化第四級アンモニウムが好ましく、pHを後述する範囲に設定しやすい点で、水酸化第四級アンモニウムが好ましい。これらの物質は、エッチング液中では水酸化第四級アンモニウム等の状態で存在していてもよく、そのイオンとして存在していてもよい。なお、後述する式(1)で表される化合物もRやRの態様によってはアルカリ性有機化合物となり得るが、本明細書においては、式(1)で表される化合物は、アルカリ性有機化合物ではなく、式(1)で表される化合物として扱う。
【0014】
当該水酸化第四級アンモニウムを具体的に例示すると、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)、エチルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド(ETMAH)、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムハイドロオキサイド(水酸化コリン)、ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムハイドロオキサイド、メチルトリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムハイドロオキサイド、フェニルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド、又はベンジルトリメチルアンモニウムハイドロキサイド等を挙げることができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0015】
水酸化第四級アンモニウムは、サイズが小さいほどエッチング速度が上がる傾向にあり、上記のなかでも総炭素数が8以下の水酸化第四級アンモニウムが好ましく、さらには総炭素数が6以下の水酸化第四級アンモニウム(TMAH、又はETMAH等)が特に好ましい。
【0016】
エッチング液中で、これら水酸化第四級アンモニウムは、解離して水酸化物イオンと第四級アンモニウムイオンとして存在していることが通常である。換言すればエッチング液は、通常、アルカリ性であるための水酸化物イオンと、そのカウンターイオン(第四級アンモニウムイオン)とを含有する液体である。
【0017】
水酸化第四級アンモニウム等のアルカリ性有機化合物が含有されていれば、通常、エッチング液はアルカリ性になり、所望のpHに応じて適宜含有量を調整することができる。
エッチング液中の水酸化第四級アンモニウムの含有量は、他の成分の種類や含有量にもよるが、通常35mmol/kg以上である。該アルカリ性有機化合物の含有量は、多い方がアルカリ性が高くなり、50mmol/kg以上であることが好ましく、100mmol/kg以上であることがより好ましく、150mmol/kg以上であることが特に好ましい。また、該アルカリ性有機化合物の含有量は、1200mmol/kg以下でよく、1000mmol/kg以下でもよく、通常800mmol/kg以下でも十分な性能を得ることができる。
【0018】
アルカリ性有機化合物の含有量は、小さい場合にはpHからも計算できるが、大きい場合は誤差が大きくなる。従って、カウンターカチオンの含有量をイオンクロマトグラフなどにより測定し、そこから算出する方法が、正確性が高く好ましい。
【0019】
[式(1)で表される化合物]
本実施形態に係るシリコンエッチング液の最大の特徴は、下記式(1)で表される、ピロリジン骨格とカルボキシ基を有する化合物(以下、化合物(1)とも記す。)を含有することにある。当該式(1)で表される化合物を含むことで、シリコンのエッチング速度が、含まない場合に比べて大幅に向上する。化合物(1)は、エッチング液中では式(1)で表される化合物の状態で存在していてもよく、そのイオン(例えばカルボキシ基から水素原子が脱離してイオン化したものや、窒素原子にプロトンが付加してイオン化したもの)として存在していてもよい。
【0020】
【化2】
【0021】
式(1)において、Rは、単結合、または炭素数1~5の炭化水素基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、アセチル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、チオ基、セレノ基、または炭素数1~10の炭化水素基であり、これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
なお、式(1)中、置換基を明示していない部分(ピロリジン基を構成する炭素原子、具体的にはピロリジン基の2位(α位)、3位、4位、および5位の炭素原子)では、水素原子との結合の表記が省略されている。なお、本明細書では、ピロリジン基の環を構成する炭素原子のうち、Rが結合する炭素原子を2位(α位)として扱う。
【0022】
上記の化合物(1)は、ピロリジン基の1位のアミノ基の窒素原子、および3位の炭素原子は置換基を有していない。また、ピロリジン基の2位(α)の炭素原子は式(1)に記載される-RCOOH以外の置換基を有していない。本発明者らは、カルボキシ基中いずれかの酸素原子とピロリジン基の1位に含まれる窒素原子によってシリコンを分子間力で挟み込むことで、原子数5以上の環状構造を形成し、その結果、シリコンのバックボンドが弱まり、シリコンの脱離が促進されていると推測している。このため、これらの炭素原子および窒素原子が置換基を有する場合、環状構造形成時の立体障害が大きくなるため所望の効果を発揮できない。なお、ピロリジン基の4位および5位の炭素原子は、立体障害に与える影響が小さいため、置換基を有していても有していなくとも所望の効果を得ることができる。
【0023】
式(1)におけるRは、単結合、または炭素数1~5の炭化水素基であるが、立体障害の低減によるエッチング速度の向上の観点から、単結合であることが好ましい。
上記炭化水素基は立体障害を小さくすることができる観点からアルキレン基であることが好ましく、また、炭化水素基の炭素数は1~5であれば特段制限されず、1~3であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。また、該炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0024】
式(1)におけるRおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、アセチル基、カルボキシ基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、チオ基、セレノ基、または炭素数1~10の炭化水素基である。また、これらの基(具体的には、アミノ基、アセチル基、シリル基、ボリル基、または炭素数1~10の炭化水素
基)はさらに置換基を有していてもよく、有していなくともよい。
【0025】
式(1)におけるRおよびRは、取り扱いやすさの観点から、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、アセチル基、カルボキシ基、ニトリル基、又は炭素数1~10の炭化水素基が好ましく、アルカリに対する安定性の観点から、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、又は炭素数1~10の炭化水素基がより好ましい。また、式(1)におけるRおよびRは、エッチング速度の向上の観点から、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、又はヒドロキシ基であることがさらに好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、又はヒドロキシ基であることが特に好ましく、シリコン表面との疎水性相互作用によるエッチング速度低下防止の観点から水素原子、又はヒドロキシ基であることが最も好ましい。
また、RおよびRは、互いに結合しない。つまり、化合物(1)はRおよびRが結合して環が形成される態様を含まない。
【0026】
およびRが有し得る置換基は、本発明の効果が得られる範囲であれば特段制限されず、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、アセチル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、チオ基、セレノ基、または炭素数1~10の炭化水素基等が挙げられる。
【0027】
およびR、並びにRおよびRが有し得る置換基におけるハロゲン原子の種類は特段制限されず、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素等であってよいが、後述するように、アルカリ性条件下で二酸化ケイ素(SiO)のエッチングを促進するような成分は含まれていないことが好ましいため、フッ素原子以外、つまり、塩素、臭素、又はヨウ素等であることが好ましい。
【0028】
およびR、並びにRおよびRが有し得る置換基における炭化水素基はアルキル基であることが好ましく、また、炭化水素基の炭素数は1~10であれば特段制限されないが、立体障害の低減によるエッチング速度の向上の観点から、1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。また、該炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0029】
エッチング液中の化合物(1)の含有量は、エッチング速度の向上の観点から、100質量ppm以上(0.01質量%以上)であれば特段制限されないが、エッチング速度のさらなる向上の観点から、また、溶解して均一な溶液を形成しやすい観点から、好ましくは0.01~20.0質量%であり、より好ましくは0.01~10.0質量%であり、さらに好ましくは0.1~7.0質量%であり、特に好ましくは1.0~5.0質量%である。
エッチング液中のアルカリ性有機化合物と化合物(1)のモル質量比率(化合物(1)/アルカリ性有機化合物)は、エッチング速度向上の観点から好ましくは0.001~5.00であり、より好ましくは0.10~4.00であり、さらに好ましくは0.30~3.00であり、特に好ましくは0.80~2.00である。
【0030】
化合物(1)は、公知の方法により、又は公知の方法を組み合わせて合成することができるが、市販品を用いてもよい。
【0031】
[水]
本実施形態に係るエッチング液は水を必須成分とする。エッチング液に水が含まれていないとエッチングが進まない。エッチング液中の水の含有量は特に制限されず、一般的なエッチング液中の含有量で含まれていてよく、他の成分の種類や量にもよるが、30質量
%以上が好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上が特に好ましい。また他の成分を所望の量で含有できる限り上限は特に定められないが、通常は99.5質量%以下でよく、99質量%以下でも十分な効果を得ることができる。
【0032】
[その他の物質]
本実施形態に係るシリコンエッチング液は、本発明の効果が得られる範囲で、上述したアルカリ性有機化合物、化合物(1)、および水以外の物質(以下、「その他の物質」とも記す。)を含んでいてもよい。その他の物質としては、一般的なシリコンエッチング液に含まれ得る物質が挙げられ、例えば、金属防食剤、有機溶媒、触媒、錯化剤、キレート剤、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、安定化剤、可溶化剤、又は析出防止剤等が挙げられる。なお、これらの物質に該当するものであっても、上述したアルカリ性有機化合物、又は化合物(1)に該当する物質は、上述したアルカリ性有機化合物、又は化合物(1)として扱う。その他の物質がエッチング液に含まれる場合、シリコンのエッチング速度を低下させるような物質であっても、なんらかの目的をもって配合する必要がある場合には、上記のとおり化合物(1)を含有させることでエッチング速度を向上させることができる。よって当該その他の物質の配合によるエッチング速度低下の影響を低減することができる。
【0033】
また、エッチング液などの処理液が金属を含んでいると、それが被処理体(エッチング対象のシリコン面に限らない)に悪影響を与える場合が多い。
【0034】
そのためエッチング液は、金属を含んでいないこと(検出限界未満であること)が好ましい。より具体的には、少なくとも不純物レベルを超える濃度で含まれることは避けることが好ましい。さらに好ましくは、Ag、Al、Ba、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、K、Li、Mg、Mn、Na、Ni、Pb、およびZnの含有量がいずれも1質量ppm以下であり、特に好ましくは上記各金属の含有量がいずれも1質量ppb以下である。なおここに列記した各金属は、半導体製造に用いる薬液において、品質に影響を与えると目されている金属である。
【0035】
また、半導体チップの製造においてシリコンをエッチングする際には、半導体チップが有する二酸化ケイ素部分(面)をエッチングしたくない場合が多い。従って、エッチング液には、アルカリ性条件下で二酸化ケイ素(SiO)のエッチングを促進するような成分は含まれていないことが好ましい。このような成分の代表的なものとしては、フッ化物イオンがある。よって、上述したアルカリ性有機化合物及び/又は化合物(1)はフッ素原子を含まないものが好ましい。
【0036】
また、疎水性の物質はシリコンに吸着しやすいため、エッチング液に疎水性の物質が含まれるとエッチング速度が遅くなってしまうおそれが高い。よって、エッチング液中の疎水性の物質の含有量は、1質量ppm以下であることが好ましく、1質量ppb以下であることがより好ましく、含まれないこと(検出限界未満であること)がさらに好ましい。
よって、一般的に、研磨等の処理液に含まれる洗浄剤等には疎水性エッチング液が含まれやすいため、本実施形態に係るエッチング液は、洗浄液又は有機溶媒等を含まないことが好ましい。
【0037】
また、化合物(1)が酸化開裂によりアンモニア、アミン化合物、ギ酸、又は二酸化炭素等に分解するという理由から、エッチング液は、酸化剤を含まないことが好ましい。
【0038】
また、エッチング液は、配合される全ての成分が溶解している均一な溶液であることが好ましい。さらに、エッチング時の汚染を防ぐという意味で200nm以上のパーティク
ルが100個/mL以下であることが好ましく、50個/mL以下であることがより好ましく、10個/mL以下であることが特に好ましい。
【0039】
シリコンのエッチングでは、アルカリ濃度が高い(そのためアルカリ性が高い)ほどエッチング速度が速くなる傾向にある。従って本実施形態に係るエッチング液のpHは、10.0以上、14.0以下であることが好ましく、10.5以上、13.5以下であることがより好ましく、11.0以上、13.5以下であることがさらに好ましく、12.0以上、13.4以下であることが特に好ましい。なおこのpHは、ガラス電極法により24℃で測定した値を指す。
【0040】
<シリコンエッチング液の製造方法>
上述したシリコンエッチング液の製造方法は特に限定されるものではなく、アルカリ性有機化合物、上述した化合物(1)、および水を混合する工程を有する製造方法であってよく、例えば、上述したアルカリ性有機化合物および化合物(1)を所望の濃度となるように水と混合し、均一になるように溶解させる方法が挙げられる。
【0041】
アルカリ性有機化合物および化合物(1)の原料には、上述の金属不純物や不溶性の不純物が可能な限り少ないものを用いることが好ましく、必要に応じて市販品を再結晶、カラム精製、イオン交換精製、蒸留、昇華、又は濾過処理等により精製して使用することができる。
アルカリ性有機化合物として水酸化第四級アンモニウムを採用する場合、その種類によっては半導体製造用として極めて高純度なものが製造・販売されており、そのようなものを用いることが好ましい。なお半導体製造用の高純度水酸化第四級アンモニウムは水溶液などの溶液として販売されているのが一般的である。シリコンエッチング液の製造にあたっては、この溶液をそのまま使用し、水や化合物(1)等と混合すればよい。
【0042】
水もまた不純物が少ない高純度のものを使用することが好ましい。不純物の多寡は電気抵抗率で評価できる。具体的に、水の電気抵抗率は、0.1MΩ・cm以上であることが好ましく、15MΩ・cm以上であることがより好ましく、18MΩ・cm以上であることがさらに好ましい。このような不純物の少ない水は、半導体製造用の超純水として容易に製造および入手することができる。さらに超純水であれば、電気抵抗率に影響を与えない(寄与が少ない)不純物も著しく少なく、エッチング液への適性が高い。
【0043】
また前述のように、必要に応じてその他の物質を配合してもよい。
【0044】
また、アルカリ性有機化合物として水酸化第四級アンモニウムを採用する場合、エッチング液には、テトラメチルアンモニウムクロライド、エチルトリメチルアンモニウムアイオダイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、又はデシルトリメチルアンモニウムブロミド等の第四級アンモニウムのハロゲン塩を配合してもよい。
【0045】
なお前述したように、エッチング液はフッ化物イオンを含まないことが好ましく、そのため半導体製造用薬液の成分と知られている化合物であっても、フッ化アンモニウム、又はテトラメチルアンモニウム・フルオリド等のフッ化物は配合しないことが好ましい。PF塩、又はBF塩等も同様に配合しないことが好ましい。
【0046】
エッチング液の製造においては、各成分を混合溶解させたのち、数nm~数十nmのフィルターを通し、パーティクルを除去することも好ましい。必要に応じ、フィルター通過処理は複数回行ってもよい。
【0047】
さらに、エッチング液の製造においては、高純度窒素ガス等の不活性ガスでのバブリン
グにより溶存酸素を減らすなど、その他、半導体製造用薬液の製造において必要な物性を得るために行われる公知の種々の処理を施すことができる。
【0048】
混合と溶解(及び保存)にあたっては、半導体製造用薬液の内壁として公知である材料、具体的にはポリフルオロエチレン又は高純度ポリプロピレンなど、エッチング液中に汚染物質が溶出し難い材料で形成又はコーティングなどされた容器や装置を用いることが好ましい。これら容器や装置は、予め洗浄しておくことも好適である。
【0049】
<用途及び使用方法>
上述のシリコンエッチング液は、シリコン基板の処理方法に用いることができる。本発明の別の実施形態であるシリコン基板の処理方法は、シリコンウェハ、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜、およびアモルファスシリコン膜からなる群から選択される少なくとも1つのシリコン材料(以下、「シリコンウェハ等」とも記す。)を含むシリコン基板の処理方法であって、上述したシリコンエッチング液を用いて、前記シリコン材料をエッチングする工程を含む、処理方法である。
したがって、上記のシリコンエッチング液は、シリコンデバイスの製造方法に好適に用いることもできる。本発明の別の実施形態であるシリコンデバイスの製造方法は、シリコンウェハ、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜、およびアモルファスシリコン膜からなる群から選択される少なくとも1つのシリコン材料を含むシリコン基板を有するシリコンデバイスの製造方法であって、上述したシリコンエッチング液を用いて前記シリコン材料をエッチングする工程を含む、シリコンデバイスの製造方法である。
なお、本明細書では、シリコンウェハ、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜、およびアモルファスシリコン膜を総称して、シリコン材料と称する。
また、シリコン単結晶膜は、エピタキシャル成長によって作られたものを含む。
【0050】
上述のシリコンエッチング液を用いたエッチングは、ウェットエッチングにより行う。即ち、シリコン(Si)面を有する基板に、シリコンエッチング液を接触させることにより、当該Si面をエッチングする処理を行うことができる。他方、任意で配合される成分にもよるが、通常、本実施形態に係るエッチング液は二酸化ケイ素(SiO)や窒化ケイ素(SiN)をエッチングしない。従って、該エッチング液を用いた処理の対象物としては、被処理面に窒化ケイ素面および二酸化ケイ素面から選択される少なくとも1つの面と、シリコン(シリコン単結晶、ポリシリコン、又はアモルファスシリコンを含む)面を有する基板が挙げられる。基板は、各種金属膜なども含んでいてもよい。例えば、シリコンおよび二酸化ケイ素を交互に積層したものや、シリコン単結晶上にポリシリコン、窒化ケイ素、又は二酸化ケイ素を使ってパターン形成された構造体などが挙げられる。
【0051】
上述のシリコンエッチング液を用いた基板の処理方法は、基板を水平姿勢に保持する基板保持工程と、当該基板の中央部を通る、鉛直な回転軸線まわりに前記基板を回転させながら、前記基板の主面に上述のエッチング液を供給する処理液供給工程とを含むことが好ましい。
【0052】
上述のシリコンエッチング液を用いた他の基板の処理方法は、複数の基板を直立姿勢で保持する基板保持工程と、処理槽に貯留された上述のエッチング液に前記基板を直立姿勢で浸漬する工程とを含むことが好ましい。
【0053】
上述のシリコンエッチング液は、シリコンウェハ等、特に窒化ケイ素および二酸化ケイ素から選択される少なくとも1つを含むシリコンウェハ等を有する各種シリコン複合半導体デバイスの製造において、シリコンウェハをエッチングする際に、エッチング液を供給して、シリコンウェハ等に含まれるシリコンを選択的にエッチングする工程を含むシリコンデバイスの製造に用いる。
【0054】
ウェットエッチングは、被エッチング物をシリコンエッチング液に接触させるだけでもよいが、シリコン材料をシリコンエッチング液に浸漬した後に正電圧を印加する陽極酸化法等の被エッチング物に一定の電位を印加する電気化学エッチング法を採用することもできる。
【0055】
上述のシリコンエッチング液を用いたエッチングの際、シリコンエッチング液の温度は、所望のエッチング速度、生産性、並びにエッチング後のシリコンの形状および表面状態などを考慮して20~95℃の範囲から適宜決定することができるが、35~90℃の範囲とすることが好適である。
【0056】
上述のシリコンエッチング液を用いたエッチングの際には、真空下もしくは減圧下での脱気、または不活性ガスによるバブリングを行いながらエッチングを行うことができる。このような操作によりエッチング中の溶存酸素の上昇を抑え、あるいは低減することでエッチング速度を安定化することができる。
【実施例0057】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例、および比較例での実験方法/評価方法は以下の通りである。
【0059】
<実験I>
(エッチング液の調製)
半導体製造用として市販されているTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)水溶液(2730mmol/kg、トクヤマ製)を超純水で希釈して薬液が均一になるように混合した後、各種添加剤を入れて、表1に示す各実施例及び比較例に係るエッチング液の組成となるように調製した。調製に用いた各添加剤の形態は以下のとおりである。
【0060】
<調製に用いた各添加剤の形態>
・プロリン、ヒドロキシプロリン、チオプロリン、α-メチルプロリン、N-メチルプロリン、グリシン、(2S,3aS,7aS)-オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸:単一の粉末
・ヘキサン酸:液体
【0061】
実施例1~10、比較例1~11では、アルカリ性有機化合物であるTMAHの最終濃度が260mmol/kg(2.38質量%)となるように調整して配合した。
また、比較例12および13では、アルカリ性有機化合物であるTMAHの最終濃度が、それぞれ54mmol/kg(0.5質量%)および1.1mmol/kg(0.01質量%)となるように調整して配合した。
【0062】
(エッチング液のpHの測定方法)
堀場製作所製の卓上pHメータF-73、及び堀場製作所製の強アルカリ試料用pH電極9632―10Dを用いて24℃の温度条件下でエッチング液のpHを測定した。
【0063】
(エッチング速度(単位:nm/min)の評価方法)
液温を表1(表1-1および1-2)に記載の処理温度に加熱したシリコンエッチング液100gを用意し、そこへ2×1cmサイズのシリコン-ゲルマニウム(SiGe)基板上にシリコン(Si)をエピタキシャル成長させて得た基板(シリコン(100面)膜、グローバルネット株式会社製)を、液温が43℃の場合には15秒、70℃の場合には
5秒浸漬した。その後、窒素バブリングを適用する場合においては、エッチング中は600rpmで液を攪拌するとともに、0.2L/minでの窒素バブリングを継続して行った。表1における窒素バブリング0L/minは、窒素バブリングを適用していないことを表している。そして、各基板のエッチング前とエッチング後の膜厚を分光エリプソメーターで測定し、処理前後の膜厚差からシリコン膜のエッチング量を求め、エッチング時間で除することによりその温度でのシリコン(100面)膜のエッチング速度(R’100)を求めた。
【0064】
なお、表1において、「-」と記載されているものは、含有されていないこと、また、その測定が行われていないことなどを表す。
【0065】
【表1-1】
【0066】
【表1-2】
【0067】
表1から、プロリンを100質量ppm以上含有させることにより、エッチング速度が
速いエッチング液を得ることができることが分かった。液温の違いおよび窒素バブリングの有無によらず、エッチング速度が速いエッチング液を得ることが出来ることが分かった。
また、立体障害および親水性への影響が軽微であるL-ヒドロキシプロリンを3質量%添加させることでも、エッチング速度が速いエッチング液を得ることができた。しかしながら、他のプロリン類似化合物であるチオプロリン、α-メチルプロリン、N-メチルプロリン、(2S,3aS,7aS)-オクタヒドロ-1H-インドール-2-カルボン酸、プロリン骨格を有さないグリシン、アミノ基を有さないヘキサン酸を添加したエッチング液のエッチング速度は、それぞれ変化しない又は遅くなった。