(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091722
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】イリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料、及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/081 20210101AFI20240628BHJP
C25B 11/056 20210101ALI20240628BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20240628BHJP
C25B 11/063 20210101ALI20240628BHJP
C25B 11/069 20210101ALI20240628BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240628BHJP
C25B 11/079 20210101ALI20240628BHJP
B01J 23/656 20060101ALI20240628BHJP
B01J 35/61 20240101ALI20240628BHJP
B01J 35/56 20240101ALI20240628BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240628BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C25B11/081
C25B11/056
C25B11/065
C25B11/063
C25B11/069
C25B11/052
C25B11/079
B01J23/656 M
B01J35/61
B01J35/56 E
B01J37/02 301N
B01J37/08
B01J37/02 101Z
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063256
(22)【出願日】2024-04-10
(62)【分割の表示】P 2023529853の分割
【原出願日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2021099336
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/非貴金属触媒を利用した固体高分子型水電解の変動電源に対する劣化解析と安定性向上の研究開発」に係る委託業務、産業技術強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(72)【発明者】
【氏名】中村 龍平
(72)【発明者】
【氏名】コウ ソウ
(72)【発明者】
【氏名】リ アイロン
(72)【発明者】
【氏名】伏見 和奈
(72)【発明者】
【氏名】末次 和正
(72)【発明者】
【氏名】岡田 拓弥
(57)【要約】
【課題】 水電解における酸素発生用陽極触媒として使用される、安価で、高触媒活性を有するイリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料、及びこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】 マンガン酸化物表面にイリジウムが分散配置され、且つイリジウムの金属原子価が3.1以上3.8以下であることを特徴とするイリジウム-マンガン酸化物複合材料、及び上記イリジウム-マンガン酸化物複合材料が、少なくとも一部に被覆された繊維から構成される導電性基材からなるイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリジウム-マンガン酸化物複合材料が、導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に被覆され、前記イリジウム-マンガン酸化物複合材料のイリジウムの含有量が、前記導電性基材の幾何面積あたり、0.01mg/cm2以上0.2mg/cm2以下であることを特徴とするイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
【請求項2】
前記イリジウム-マンガン酸化物複合材料が、前記導電性基材の幾何面積あたり、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
【請求項3】
前記導電性基材が、カーボン、チタン、又は白金被覆されたチタンで構成される請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
【請求項4】
前記イリジウム-マンガン酸化物複合材料が、金属含有比(イリジウム/(マンガン+イリジウム))が、0.2原子%以上10原子%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
【請求項5】
前記イリジウム-マンガン酸化物複合材料が、XAFS測定から得られた動径構造関数におけるイリジウムと酸素の結合に相当するピーク位置が1.0Å以上2.0Å以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
【請求項6】
前記イリジウム-マンガン酸化物複合材料が、BET比表面積が、15m2/g以上100m2/g以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
【請求項7】
前記イリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガン酸化物のマンガン金属原子価が3.5以上4.0以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
【請求項8】
前記イリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガン酸化物が電解二酸化マンガンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
【請求項9】
前記イリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガン酸化物がγ型、β型、ε型、あるいはα型のいずれかの結晶相、または混晶の二酸化マンガンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
【請求項10】
前記イリジウム-マンガン酸化物複合材料を担持させた電極と、高分子電解質膜とを有する膜-電極接合体。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法であって、硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液を電解して、マンガン酸化物を導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に電析させ、続いて、イリジウム塩溶液に浸漬または接触させてイリジウムを少なくともマンガン酸化物表面に均一分散して吸着させた後に、アニール処理を行うことを特徴とするイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法。
【請求項12】
前記硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液の硫酸濃度が、5g/L以上65g/L以下であることを特徴とする請求項11に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法。
【請求項13】
前記硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液の電解が、0.3mA/cm2以上20mA/cm2以下の電流密度で行われることを特徴とする請求項11に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法。
【請求項14】
前記イリジウム塩溶液におけるイリジウム塩が、K2IrCl6であることを特徴とする請求項11に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法。
【請求項15】
前記アニール処理が、100℃を超え600℃以下、10分以上24時間以内で行われることを特徴とする請求項11に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分解触媒用のイリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料、膜-電極接合体及びこれらの製造方法に関する。より詳しくは、アルカリ性条件下、中性条件下、又は酸性条件下で行われる工業的な水電解や、固体高分子膜(PEM)型電解槽を用いる水電解において、酸素発生用陽極触媒として使用されるイリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料、膜-電極接合体及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の枯渇問題や環境汚染問題から、クリーンなエネルギーとしての水素の利用とその製造手法に注目が集まっている。水電解法は、水を電気分解して陰極から高純度の水素ガスを製造する有効な手段のひとつであるが、この際、対極の陽極からは酸素発生が同時に起こることが特徴である。水電解法において水分解反応を効率よく進行させるには、陰極では水素過電圧の低い電極触媒を、陽極では酸素過電圧の低い電極触媒を用いて、電気分解にかかる電解電圧を低く保ちながら電解する必要がある。このうち、陽極の低酸素過電圧に優れた電極触媒材料として、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)などの希少な白金族金属や、それらの元素を含んだ酸化物をはじめとする化合物が提案されている(特許文献1、2、非特許文献1~3)。
【0003】
中でもイリジウム(Ir)は、非常に高活性な酸素発生電極触媒として広く知られているが、他の貴金属と比べても埋蔵量が極めて少なく、特定地域に偏在している実態から世界生産量も非常に少ないため、将来的に水電解技術が普及しても十分な触媒量を賄いきれないとする危惧が予測されている(非特許文献4)。
このような白金族金属で構成される電極触媒は非常に高価であることから、安価な遷移金属を用いた代替電極触媒の開発が進められてきている。例えば、近年では、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などで構成される遷移金属材料が提案されている(特許文献3、4、非特許文献5~8)。
【0004】
しかしながら、これまで提案されてきた遷移金属で構成される触媒材料は、白金族金属系の電極触媒と比べると著しく活性が低い(酸素過電圧が高い)という課題があった。即ち、安価な遷移金属で構成され、且つ、PtやIrなどの白金族金属系に匹敵する高い触媒活性を有する酸素発生電極触媒材料は実現されていなかった。
このような課題に対して、Ptと同等以上の酸素発生電極触媒活性を有するマンガン酸化物も見出されたが、白金族金属元素の中で最も高活性を示すとされるIr系の触媒の活性には及ばず、更なる開発が待ち望まれていた(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開平8-269761号公報
【特許文献2】日本国特表2007-514520号公報
【特許文献3】日本国特開2015―192993号公報
【特許文献4】国際公開(WO)2009/154753
【特許文献5】国際公開(WO)2019/117199
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.Trasatti,G.Buzzanca,J.Electroanal.Chem.,1971,29,A1.
【非特許文献2】A.Harriman,I.J.Pickering,J.M.Thomas,P.A.Christensen,J.Chem.Soc.,Faraday Trans.1,1988,84,2795.
【非特許文献3】Y.Zhao,N.M.Vargas-Barbosa,E.A.Hernandez-Pagan,T.E.Mallouk,Small,2011,7,2087.
【非特許文献4】F.Birol,World Energy Outlook 2016,International Energy Agency (IEA),Paris,2016.
【非特許文献5】M.M.Najafpour,G.Renger,M.Holynska,A.N.Moghaddam,E.-M.Aro, R.Carpentier,H.Nishihara,J.J.Eaton-Rye,J.-R.Shen,S.I.Allakhverdiev,Chem.Rev.,2016,116,2886.
【非特許文献6】T.Takashima,K.Ishikawa,H.Irie,J.Phys.Chem.C,2016,120,24827.
【非特許文献7】J.B.Gerken,J.G.McAlpin,J.Y.C.Chen,M.L.Rigsby,W.H.Casey,R.D.Britt,S.S.Stahl,J.Am.Chem.Soc.,2011,133,14431.
【非特許文献8】M.Dinca,Y.Surendranath,D.G.Nocera,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2010,107,10337.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、水分解触媒用のイリジウム-マンガン酸化物複合材料並びにイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料、膜-電極接合体及びそれらの製造方法の提供に関するものである。
より詳しくは、アルカリ性条件下、中性条件下、又は酸性条件下で行われる工業的な水電解や、固体高分子膜(PEM)型電解槽を用いる水電解における酸素発生用陽極触媒材料であって、現行のイリジウム触媒系よりも安価で、高い酸素発生触媒活性を有する水分解触媒用のイリジウム-マンガン酸化物複合材料(以下、本発明のイリジウム-マンガン酸化物という場合がある。)、水分解触媒用イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料、イリジウム-マンガン酸化物複合材料を使用した膜-電極接合体及びそれらの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水電解の酸素発生電極触媒として使用される触媒材料について鋭意検討を重ねた結果、少なくともマンガン酸化物表面にイリジウムが分散配置され、且つイリジウムの金属原子価が3.1以上3.8以下のイリジウム-マンガン酸化物複合材料が極めて少量のイリジウム量であっても高い酸素発生電極触媒活性と優れた耐久性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、少なくともマンガン酸化物表面にイリジウムが分散配置され、且つイリジウムの金属原子価が3.1以上3.8以下であることを特徴とする水電解における酸素発生電極触媒用のイリジウム-マンガン酸化物複合材料である。
本発明者らは、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料によって導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部が被覆されたイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料が、特に高い酸素発生電極触媒活性を示すことを見出した。すなわち、本発明は、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料が導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部を被覆した酸素発生電極用のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料である
。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]少なくともマンガン酸化物表面にイリジウムが分散配置され、且つイリジウムの金属原子価が3.1以上3.8以下であることを特徴とするイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
[2] 導電性基材の少なくとも一部をイリジウム-マンガン酸化物複合材料で被覆した際のイリジウムの含有量が、導電性基材の幾何面積あたり、0.01mg/cm2以上0.2mg/cm2以下であることを特徴とする上記[1]に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
[3] 金属含有比(イリジウム/(マンガン+イリジウム))が、0.2原子%以上10原子%以下であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
[4] XAFS測定から得られたIr L3吸収端スペクトルのXANES領域に現れるピーク位置が11200eV以上11230eV以下であることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
[5] XAFS測定から得られた動径構造関数におけるイリジウムと酸素の結合に相当するピーク位置が1.0Å以上2.0Å以下であることを特徴とする上記[1]~[4]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
[6] BET比表面積が、15m2/g以上100m2/g以下であることを特徴とする上記[1]~[5]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
[7] マンガン酸化物のマンガン金属原子価が3.5以上4.0以下であることを特徴とする上記[1]~[6]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
[8] 導電性基材の少なくとも一部をイリジウム-マンガン酸化物複合材料で被覆した際のマンガンの含有量が、導電性基材の幾何面積あたり、0.12mg/cm2以上14.35mg/cm2以下であることを特徴とする上記[1]~[7]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
[9] マンガン酸化物が電解二酸化マンガンであることを特徴とする上記[1]~[8]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
[10] マンガン酸化物がγ型、β型、ε型、あるいはα型のいずれかの結晶相、または混晶の二酸化マンガンであることを特徴とする上記[1]~[9]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
[11] 上記[1]~[10]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料が、導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に被覆されていることを特徴とするイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
[12] 上記イリジウム-マンガン酸化物複合材料が、上記導電性基材の幾何面積あたり、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下被覆されていることを特徴とする上記[11]に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
[13] 上記導電性基材が、カーボン、チタン、又は白金被覆されたチタンで構成される上記[11]又は[12]に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
[14] 上記[1]~[10]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料を担持させた電極と、高分子電解質膜とを有する膜-電極接合体。
[15] 上記[1]~[10]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の製造方法であって、硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液の電解で得られたマンガン酸化物をイリジウム塩溶液に浸漬または接触させた後、アニール処理を行うことを特徴とするイリジウム-マンガン酸化物複合材料の製造方法。
[16] 上記硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液の硫酸濃度が、5g/L以上65g/L以下であることを特徴とする上記[15]に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の製造方法。
[17] 上記硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液の電解が、0.3mA/cm2以上20mA/cm2以下の電流密度で行われることを特徴とする上記[15]又は[16]に
記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の製造方法。
[18] 上記イリジウム塩溶液におけるイリジウム塩が、K2IrCl6であることを特徴とする上記[15]~[17]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の製造方法。
[19] 上記アニール処理が、100℃を超え600℃以下、10分以上24時間以内で行われることを特徴とする上記[15]~[18]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の製造方法。
[20] 上記[11]~[13]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法であって、硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液を電解して、マンガン酸化物を導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に電析させ、続いて、イリジウム塩溶液に浸漬または接触させてイリジウムを少なくともマンガン酸化物表面に均一分散して吸着させた後に、アニール処理を行うことを特徴とするイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法。
[21] 上記硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液の硫酸濃度が、5g/L以上65g/L以下であることを特徴とする上記[20]に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法。
[22] 上記硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液の電解が、0.3mA/cm2以上20mA/cm2以下の電流密度で行われることを特徴とする上記[20]又は[21]に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法。
[23] 上記イリジウム塩溶液におけるイリジウム塩が、K2IrCl6であることを特徴とする上記[20]~[22]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法。
[24] 上記アニール処理が、100℃を超え600℃以下、10分以上24時間以内で行われることを特徴とする上記[20]~[23]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法。
[25] 上記[1]~[10]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料を含む水電解における酸素発生電極活物質。
[26] 上記[25]に記載の酸素発生電極活物質を含む酸素発生電極。
[27] 上記[26]に記載の酸素発生電極と、高分子電解質膜とを有する膜-電極接合体。
[28] 上記[11]~[13]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料又は上記[26]に記載の酸素発生電極を有する水電解装置。
[29] 上記[11]~[13]のいずれかに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料又は上記[26]に記載の酸素発生電極を使用して水電解する水素の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料、及び本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、アルカリ下、中性下、又は酸性下で行われる工業的な水電解や、PEM型電解槽を用いる水電解において、高い活性と耐久性を示し、安価で優れた酸素発生用陽極触媒として作用する。
また、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料、及び本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を用いる上記電解系に二酸化炭素を添加等することにより、該二酸化炭素等を陰極において還元して、炭化水素化合物(ギ酸、ホルムアルデヒド、メタノール、メタン、エタン、プロパン等)を製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の表面SEM写真である。
【
図2】実施例1のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の断面SEM写真である。
【
図3】実施例1のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料におけるイリジウム-マンガン酸化物複合材料層のSEM写真に対応するO、Ir、Mnの各元素の分布写真である。
【
図4】実施例1のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料、及び白金被覆チタン網導電基材のXRDパターンである。
【
図5】実施例1~3、比較例1、比較例3の、酸素発生時(水電解時)における、<PEM型電解槽>を用いて測定した電流と電位(電圧)との関係を示すリニアスイープボルタモグラムである。
【
図6】実施例1~3の、酸素発生時(水電解時)における、<PEM型電解槽>を用いて、80℃、導電性基材の幾何面積あたり、1A/cm
2で測定した電解電圧の時間推移を示したデータである。
【
図7】実施例4~6の酸素発生時(水電解時)における、<PEM型電解槽>を用いて測定した電流と電位(電圧)との関係を示すリニアスイープボルタモグラムである。
【
図8】実施例4~6の酸素発生時(水電解時)における、<PEM型電解槽>を用いて、80℃、1.5A/cm
2で測定した電解電圧の時間推移を示したデータである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
まず、電解による水の分解について、PEM型の水電解のように反応場が酸性環境下になるような反応を例にとって、説明する。陰極触媒上では、式1に示されるように、2つのプロトンと2つの電子の反応により、水素が生成する。
2H+ + 2e- → H2 … 式1
【0012】
一方、陽極触媒上では、式2に示されるように、2つの水分子から4つの電子と4つのプロトンと共に酸素が生成する。
2H2O → O2 + 4H+ + 4e- … 式2
そして、全体として、式3に示されるように、2つの水分子から、2つの水素分子とひとつの酸素分子が生成する反応となる。
2H2O → 2H2 + O2 … 式3
【0013】
上記式2における酸素発生反応は、一般的には、全反応の律速過程とされ、同反応を最小限のエネルギーで進めることのできる触媒の開発が、該技術分野において、重要な位置づけにあり、本発明は、この水の酸化触媒能が高い酸素発生電極触媒を提供するものである。
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料は、少なくともマンガン酸化物表面にイリジウムが分散配置され、且つイリジウムの金属原子価が3.1以上3.8以下である。イリジウムは少なくともマンガン酸化物表面に分散配置されている。例えば
図3に示されたように、イリジウム-マンガン酸化物複合材料層のSEM写真像に対し、Mn、Oの各元素の存在場所を示す明コントラスト部分が全面的にあることが明らかであり、また
図4のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のXRDパターンから、イリジウム-マンガン酸化物複合材料層がγ構造のマンガン酸化物で構成されることが明らかであることから、まず主成分はマンガン酸化物である。次に、イリジウムは、例えば
図3に示されたように、イリジウム-マンガン酸化物複合材料層のSEM写真像に対し、Ir元素の存在場所を示す明コントラスト部分が全面的にあることが明らかであり、また後述する製法により、Ir元素はマンガン酸化物が形成された後に導入されるものであることから、合理的に、イリジウムは少なくともマンガン酸化物表面に分散配置されていると考えられる。イリジウムの金属原子価が3.1を下回ると、触媒材料としての化学安定性が低く、特にPEMなどの酸性環境下で使用する場合にはイリジウムイオンとして溶出し消耗し易い。逆にイリジウムの金属原子価が3.8を超えると、活性中心として有効に作用する3価のイリジウムが少ないため、酸素電極触媒活性が低下する。優れた酸素電極触媒活性を発現する
ために、イリジウムの金属原子価は3.15以上3.6以下が好ましく、3.2以上3.5以下が更に好ましい。
【0014】
導電性基材の少なくとも一部を本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料で被覆した際のイリジウムの含有量が、導電性基材の幾何面積あたり、0.01mg/cm2以上0.2mg/cm2以下であることが好ましい。イリジウムの含有量が0.01mg/cm2を下回ると、マンガン酸化物単独触媒程度の特性となり、一方、イリジウムの含有量が0.2mg/cm2を越えると、イリジウム酸化物単独と同等の触媒活性は発現されるが、希少元素であるイリジウムを多く使用するため、高価となりコストパフォーマンスが損なわれる。リーズナブルに優れた特性を得るために、イリジウムの含有量は0.015mg/cm2以上0.15mg/cm2以下がより好ましく、0.02mg/cm2以上0.1mg/cm2以下が更に好ましい。ここで、幾何面積とは、導電性基材の投影面積に相当するものであり、基材の厚みは考慮しないものである。
【0015】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料は、イリジウムの金属含有比(イリジウム/(イリジウム+マンガン))が0.2原子%以上10原子%以下であることが好ましい。イリジウムの金属含有比は、少なくともマンガン酸化物表面にイリジウムを分散配置するために重要であり、また、相互関係は明らかではないが、本発明のイリジウムの金属原子価範囲内に制御することにも影響を与えているものと推定している。イリジウムの金属含有比が0.2原子%を下回ると、マンガン酸化物単独触媒程度の特性となり、一方、イリジウムの金属含有比が10原子%を越えると、イリジウム酸化物単独と同等の触媒活性は発現されるが、希少元素であるイリジウムを多く使用するため、極めて高価となりコストパフォーマンスが損なわれる。リーズナブルに優れた特性を得るために、イリジウムの金属含有比は0.3原子%以上5原子%以下が好ましく、0.4原子%以上2原子%以下が更に好ましい。
【0016】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料は、XAFS測定から得られたIr L3吸収端スペクトルのXANES領域に現れるピーク位置が11200eV以上11230eV以下であることが好ましい。一般に、XANES領域におけるスペクトルのピーク位置は金属原子価に影響される傾向にあり、そのピーク位置は金属原子価が低いほど低エネルギー側に、金属原子価が高いほど高エネルギー側に位置する。Ir L3吸収端スペクトルのXANES領域に現れるピーク位置が11200eV以上であることで、イリジウムの金属原子価をより高く維持することに伴い、触媒材料としての化学安定性をより高く維持し、特にPEMなどの酸性環境下で使用する場合にはイリジウムイオンとしての溶出をより防止できる。一方で、Ir L3吸収端スペクトルのXANES領域に現れるピーク位置が11230eV以下であることで、活性中心として有効に作用するイリジウムの量をより高く維持し、酸素電極触媒活性をより高く維持できる。優れた酸素電極触媒活性を発現するために、Ir L3吸収端スペクトルのXANES領域に現れるピーク位置が11210eV以上11220eV以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料は、XAFS測定から得られた動径構造関数におけるイリジウムと酸素の結合に相当するピーク位置が1.0Å以上2.0Å以下であることが好ましい。上記で指定した値が1.0Å以上であることで、イリジウム同士の凝集をより防止し、マンガン酸化物上におけるイリジウムの分散性をより高く維持できる。一方で、上記で指定した値が2.0Å以下であることで、イリジウムと酸素の間の相互作用をより強くでき、崩壊をより防止できる。このイリジウム-マンガン酸化物複合材料は、イリジウムを安定に分散配置させるために、XAFS測定から得られた動径構造関数におけるイリジウムと酸素の結合に相当するピーク位置が1.3Å以上1.6Å以下であることがより好ましい。
【0018】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料は、BET比表面積が15m2/g以上100m2/g以下であることが好ましい。BET比表面積は主にマンガン酸化物の状態を反映しており、BET比表面積が15m2/g下回ると、イリジウムが吸着する活性点が制限され、触媒として有効に作用するイリジウムの分散状態が低下する。一方で、BET比表面積が100m2/gを超えると、イリジウムが吸着可能な活性点は増加するが、マンガン酸化物被膜がポーラスで強度が低下して崩壊し易くなる。イリジウム-マンガン酸化物複合材料のBET比表面積は、20m2/g以上70m2/g以下がより好ましく、30m2/g以上60m2/g以下が更に好ましい。
【0019】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガン酸化物は、マンガン金属原子価が3.5以上4.0以下であることが好ましい。金属原子価が3.5を下回るマンガン酸化物の場合、触媒材料としての化学安定性が低く、特にPEMなどの酸性環境下で使用する場合には2価のマンガンイオンとして一方的に溶出し続け消耗し易い。一方、金属原子価が4.0価を超えるマンガン酸化物の場合も、溶解性の5価マンガン、7価マンガンを含むために化学安定性が低い。従って、イリジウムを安定に分散配置させるためにマンガン酸化物は、マンガン金属原子価が3.6以上4.0以下であることがより好ましく、3.7以上4.0以下であることが更に好ましい。
【0020】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料は、XAFS測定から得られたMn K吸収端スペクトルのXANES領域におけるエッジジャンプを1と規格化したときの0.5に対応するエネルギーが6520eV以上6600eV以下であることが好ましい。先述したように、XANES領域に現れるスペクトルのエネルギー位置は金属原子価に影響される傾向にある。上記で指定した値が6520eV以上であることで、触媒材料としての化学安定性をより高く維持し、特にPEMなどの酸性環境下で使用する場合には2価のマンガンイオンとしての溶出をより防止できる。一方で、上記で指定した値が6600eV以下であることで、5価マンガン、7価マンガンイオンとしての溶出を防止でき、化学安定性をより高く維持できる。イリジウムを安定に分散配置させるためにマンガン酸化物は、Mn K吸収端スペクトルのXANES領域におけるエッジジャンプを1と規格化したときの0.5に対応するエネルギーが6530eV以上6560eVであることがより好ましい。
【0021】
導電性基材の少なくとも一部を本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料で被覆した際のマンガンの含有量が、導電性基材の幾何面積あたり、0.12mg/cm2以上14.35mg/cm2以下であることが好ましい。マンガンの含有量が0.12mg/cm2以上であることで、マンガン酸化物上に吸着できるイリジウム量を維持できるため、触媒活性をより高く維持できる。一方で、マンガンの含有量が14.35mg/cm2以下であることで、マンガン酸化物の抵抗をより低く維持し、触媒活性をより高く維持できる。従って、マンガンの含有量は0.30mg/cm2以上2.40mg/cm2以下がより好ましく、0.60mg/cm2以上1.20mg/cm2以下が更に好ましい。ここに、幾何面積とは、導電性基材の投影面積に相当するものであり、基材の厚みは考慮しないものである。
【0022】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料は、XAFS測定から得られた動径構造関数におけるマンガンと酸素の結合に相当するピーク位置が1.0Å以上2.0Å以下であることが好ましい。上記で指定した値が1.0Å以上であることで、マンガン同士の凝集をより防止でき、イリジウムの分散性をより高く維持できる。一方で、上記で指定した値が2.0Å以下であることで、マンガンと酸素、マンガンとマンガンの相互作用をより強くでき、崩壊をより防止できる。更に、このイリジウム-マンガン酸化物複合材料は、XAFS測定から得られた動径構造関数におけるマンガンと酸素の結合に相当するピーク位置が1.3Å以上1.7Å以下であることがより好ましい。
【0023】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガン酸化物は、例えば、電解法で得られる電解二酸化マンガン、化学法で得られる二酸化マンガン等があげられるが、電解二酸化マンガンが好ましい。
また、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガン酸化物は、γ型、β型、ε型、あるいはα型のいずれかの基本結晶構造を有する結晶相、または、これらの結晶構造が混合された混晶の二酸化マンガンであっても良い。
【0024】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料を電極に担持させることにより、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料が水電解における酸素発生電極活物質となり、酸素発生電極に水分解反応における触媒能を付与させることができる。この酸素発生電極活物質を含む酸素発生電極、高分子電解質膜、及び水素発生触媒を付与された電極を積層することにより膜-電極接合体となる。ここで、高分子電解質膜としては、例えば、フッ素樹脂系の陽イオン交換膜等が挙げられ、水素発生触媒としては、例えば、白金微粒子等が挙げられる。本発明では、この酸素発生電極を有することにより、水電解装置となり、この酸素発生電極を使用して水電解することにより水素を製造することができる。
【0025】
以下には、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の製造方法を説明する。
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料は、例えば、電解液として、硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液を用いて、純チタン板などの電極基材にマンガン酸化物を電解析出させ、イリジウム塩溶液に浸漬または接触させた後、アニール処理することで得ることができる。
【0026】
マンガン酸化物は、硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液を用いて電解析出させた後に、電極基材から剥離し、粉砕するなどして、粉体状としても良い。
硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液中の各成分の濃度について、硫酸濃度としては5g/L以上65g/L以下に制御されることが好ましく、20g/L以上50g/L以下に制御されることがより好ましい。
【0027】
上記混合溶液中のマンガン(硫酸マンガンのマンガンイオン)の濃度としては、溶解度以下であれば特に制限はないが、5g/L以上50g/L以下が好ましく、10g/L以上30g/L以下がより好ましい。
上記混合溶液の成分濃度を維持するために、電解酸化で消費されたマンガンに相当する硫酸マンガンを適宜加えるか、あるいは硫酸マンガン溶液を連続的に供給することが有効である。
【0028】
なお、上記の硫酸-硫酸マンガンの混合溶液における硫酸濃度とは、硫酸マンガンの二価の陰イオン(硫酸イオン)を除いた値である。
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガン酸化物の電解析出方法では、電解電流密度は、特に限定するものではないが、導電性基材の幾何面積あたり、0.3mA/cm2以上20mA/cm2以下であることが好ましい。これにより、効率的、かつ安定的にマンガン酸化物を電解析出させることができる。より安定的に本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料を得るために、電解電流密度は1mA/cm2以上10mA/cm2以下がより好ましく、3mA/cm2以上8mA/cm2以下がさらに好ましい。ここに、幾何面積とは、導電性基材の投影面積に相当するものであり、基材の厚みは考慮しないものである。
【0029】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガン酸化物の電解析出方法における、電解温度は93℃以上98℃以下が例示できる。電解温度が高いほど、析出するマンガン酸化物の電解製造効率が上がるため、電解温度は94℃を超えることが好ましい。
純チタン板などの電極基材上に電解析出したマンガン酸化物は、該電極基材から剥離した後に、ジョークラッシャーなどの粗粉砕を経て、ローラーミル、竪型ミル、ロッシェミルやジェットミルなどで、マンガン酸化物単体として、所定の平均二次粒径になるように粉砕調整される。次に、製造したマンガン酸化物は、洗浄工程、中和工程を経て、残電解液などを除去した後に、フラッシュ乾燥装置などを用いて乾燥される。このフラッシュ乾燥時には、粉砕工程で過粉砕により副生したサブミクロンのマンガン酸化物の微粉を集塵機バグフィルターなどで回収し、分離することができる。また、さらに200℃以上500℃以下の焼成工程を施し、マンガン酸化物を得る場合もある。
【0030】
次に、このマンガン酸化物を、イリジウム塩溶液を入れた容器に浸漬させる、またはマンガン酸化物とイリジウム塩溶液と接触させる。
イリジウム塩溶液のイリジウム塩の種類としては、ヘキサクロロイリジウム酸カリウム(K2IrCl6)又はヘキサクロロイリジウム酸(H2IrCl6)が例示される。
イリジウム塩溶液中のイリジウム濃度としても溶解度以下であれば特に制限はないが、0.1g/L以上10g/L以下が好ましく、0.3g/L以上5g/L以下がより好ましい。
【0031】
マンガン酸化物をイリジウム塩溶液に浸漬させる、またはマンガン酸化物とイリジウム塩溶液とを接触させる条件は、特に限定されないが、20℃以上100℃以下の温度下で、30分以上24時間以下浸漬又は接触させることが好ましい。浸漬時間または接触時間並びに浸漬温度または接触温度が上記範囲内であることにより、マンガン酸化物上へのイリジウムの吸着量を制御することができる。
【0032】
続いてアニール処理を行う。アニール処理条件について、特に限定されないが、空気下または窒素気流下で100℃を超え600℃以下が例示され、アニール処理時間は10分以上24時間以下が例示される。アニール処理温度は、300℃以上550℃以下が好ましく、350℃以上500℃以下がより好ましい。また、アニール処理時間は、1時間以上16時間以下が好ましく、2時間以上8時間以下がより好ましい。このアニール処理の効果は明確ではないが、アニール処理条件を選択することにより、イリジウムとマンガン酸化物との相互作用が高められ、より望ましい範囲のイリジウムの金属原子価に制御できるものと推定している。
【0033】
次に、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料について説明する。
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、上記本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料が、導電性繊維から構成される導電性基材の少なくとも一部に被覆されているものである。この場合、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の被覆量は、導電性基材の幾何面積あたり、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下が好ましい。ここに、幾何面積とは、導電性基材の投影面積に相当するものであり、基材の厚みは考慮しないものである。
【0034】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の被覆量が上記範囲の場合、導電性基材を構成する繊維の径や空隙率にも依存するが、繊維上にはイリジウム-マンガン酸化物複合材料が島状に若しくは繊維外面を全面被覆するような形態で被覆され、その平均被覆厚みは概ね25μm以下にできる。なお、繊維上に被覆するイリジウム-マンガン酸化物複合材料は二次粒子により構成されるので、通常、平均被覆厚みと、それを構成するイリジウム-マンガン酸化物複合材料の平均二次粒径とは一致する。
【0035】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料においては、被覆しているイリジウム-マンガン酸化物複合材料の量に依存して、導電性基材の繊維を被覆するイリジウム-マンガン酸化物複合材料の平均厚みが厚くなる関係にある。なかでも、上記イリジウム-
マンガン酸化物複合材料の被覆量は、0.2mg/cm2以上10mg/cm2以下がより好ましく、0.3mg/cm2以上7mg/cm2以下がさらに好ましく、0.5mg/cm2以上5mg/cm2以下が特に好ましい。なお、イリジウム-マンガン酸化物複合材料の被覆層の厚みは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)の像から、導電性基材の構成単位である導電性繊維の線径太さ分を差し引いて求めることもできる。
【0036】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、上記導電性基材が、カーボン、チタン、又は白金被覆されたチタンで構成されることが好ましい。カーボンとしては、例えば、導電性カーボン繊維で構成されるカーボンペーパーが例示され、チタンとしては、例えば、繊維状の導電性金属チタン線で構成されるチタン網、焼結チタンなどが例示され、白金被覆されたチタンとしては、繊維状の導電性金属チタン線の表面を白金被覆した白金被覆されたチタン網、焼結チタンが例示される。
【0037】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、上記純チタン板の電極基材に替えて、例えば、カーボン、チタン、又は白金被覆されたチタンなどに代表される導電性基材を用いて、硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液を電解して、マンガン酸化物を導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に電析させ、続いて、イリジウム塩溶液に浸漬または接触させてイリジウムを少なくともマンガン酸化物表面に均一分散して吸着させた後に、アニール処理を行うことで得られる。この場合、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、導電性基材の幾何面積あたりのイリジウム-マンガン酸化物複合材料の被覆量が上記した好ましい範囲になるように行われるのが好適である。なお、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造の際には、硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液の電解で得られたマンガン酸化物をイリジウム塩溶液に浸漬または接触させた後、アニール処理を行っているものであり、導電性基材にイリジウム-マンガン酸化物複合材料が析出しており、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料が得られる。
【0038】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造に用いる硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液中の各成分の濃度について、硫酸濃度としては5g/L以上65g/L以下が好ましく、20g/L以上50g/L以下がより好ましい。
上記混合溶液のマンガン(硫酸マンガンのマンガンイオン)の濃度としては、溶解度以下であれば特に制限はないが、5g/L以上50g/L以下が好ましく、10g/L以上30g/L以下がより好ましい。
上記混合溶液の成分濃度を維持するために、電解酸化で消費されたマンガンに相当する硫酸マンガンを適宜加えるか、あるいは硫酸マンガン溶液を連続的に供給することが有効である。
【0039】
なお、上記の硫酸-硫酸マンガンの混合溶液における硫酸濃度とは、硫酸マンガンの二価の陰イオン(硫酸イオン)を除いた値である。
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のマンガン酸化物の電解析出方法では、電解電流密度は、特に限定するものではないが、導電性基材の幾何面積あたり、0.3mA/cm2以上20mA/cm2以下であることが好ましい。これにより、効率的、かつ安定的にマンガン酸化物を電解析出させることができる。より安定的に本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を得るために、電解電流密度は1mA/cm2以上10mA/cm2以下がより好ましく、3mA/cm2以上8mA/dm2以下がさらに好ましい。
【0040】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のマンガン酸化物の電解析出方法における電解温度は93℃以上98℃以下が例示できる。電解温度が高いほど、析出するマンガン酸化物の電解製造効率が上がるため、電解温度は94℃を超えることが好ましい。
イリジウム塩溶液のイリジウム塩の種類としては、ヘキサクロロイリジウム酸カリウム
(K2IrCl6)又はヘキサクロロイリジウム酸(H2IrCl6)が例示される。
イリジウム塩溶液のイリジウム濃度としても溶解度以下であれば特に制限はないが、0.1g/L以上10g/L以下が好ましく、0.3g/L以上5g/L以下がより好ましい。
【0041】
導電性基材は、例えば、100μm以下の線直径の太さを有するカーボンやチタン金属などの導電性繊維を成型又は焼結し、基材の厚みが1mm以下の板状にしたものが好ましい。導電性基材の空隙率は、例えば、40%以上が好ましく、50%以上90%以下がより好ましい。ここで空隙率は、導電性基材の体積中に占める導電性繊維などがない空間部分の体積で定義される。
【0042】
導電性基材は、マンガン酸化物を電解析出させる前に、塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸などで酸処理を施し、基材表面の不働態被膜除去や親水化を行うことも有効である。一方で、導電性基材内のマンガン酸化物の電析位置を制御する、又は実際に水電解の電極として用いる際に重要なガス拡散特性を付与することを目的に、フッ素系樹脂のディスパージョン液などに導電性基材を浸漬させ、撥水化を行うことも有効である。
【0043】
導電性基材に本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガン酸化物を電解析出させる条件として、例えば、前記したような、硫酸-硫酸マンガンの混合溶液の硫酸濃度、マンガン濃度、電解電流密度、電解温度などの各々の範囲を選択し、電解時間を5分~120分の範囲で行う。マンガン酸化物を導電性基材に電解析出させた後に、水洗、乾燥し、次いで、マンガン酸化物が電解析出した導電性基材ごとイリジウム塩溶液を入れた容器などに浸漬させる、またはマンガン酸化物が電解析出した導電性基材とイリジウム塩溶液を接触させるなどして、少なくともマンガン酸化物表面にイリジウムを吸着させ、最後に、空気又は窒素雰囲気下、100℃を超え600℃以下、10分を超え24時間以内で、アニール処理を行うことにより、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料とすることができる。
【0044】
導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に電析させたマンガン酸化物をイリジウム塩溶液に浸漬させる、又はマンガン酸化物とイリジウム塩溶液とを接触させる条件は、特に限定されないが、20℃以上100℃以下の温度下で、30分以上24時間以下浸漬又は接触させることが好ましい。浸漬時間又は接触時間並びに浸漬温度または接触温度が上記範囲内であることにより、マンガン酸化物上へのイリジウムの吸着量を制御することができる。
アニール処理温度は、300℃以上550℃以下が好ましく、350℃以上500℃以下がより好ましい。また、アニール処理時間は、1時間以上16時間以下が好ましく、2時間以上8時間以下がより好ましい。
【0045】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、マンガン酸化物の電解析出時に、導電性基材の片面を樹脂性の膜などで遮蔽すると、一面にのみイリジウム-マンガン酸化物複合材料を優先的に被覆できる一方で、もう片面は殆どイリジウム-マンガン酸化物複合材料を被覆させることなく、イリジウム-マンガン酸化物複合材料を意識的に偏って被覆させることもできる。
また、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、アニール処理時に、イリジウムとマンガン酸化物との相互作用が高められ、望ましい範囲のイリジウムの金属原子価に制御できるだけでなく、イリジウム-マンガン酸化物複合材料と導電性繊維との密着性がより高まる、又は、イリジウム-マンガン酸化物複合材料の結晶性がより高まるなど好適な効果があるものと推定している。
【0046】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料、高分子電解質膜、及び水素発生触
媒を付与された電極を積層することで、積層体となる。本発明では、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を有することにより、水電解装置となり、このイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を使用して水電解することにより水素を製造することができる。
【実施例0047】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
<硫酸-硫酸マンガンの混合溶液、またはイリジウム塩溶液の金属濃度分析>
硫酸-硫酸マンガンの混合溶液を希釈し、ICP-AES(パーキンエルマー社製 Optima 8300)を用いてマンガン元素を定量測定した。また、イリジウム塩溶液を希釈し、UV-Visスペクトロメータ(島津社製 UV-2550)を用いて、イリジウム元素の濃度を定量測定した。
【0049】
<イリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のSEM表面観察と組成分析>
SEM-EDX装置(Hoskin Scientific社製 JSF-7800F)を使用して、表面形態、イリジウムの分散状態、並びに、断面の元素分析を行った。断面の元素分析を行う際には、導電性カーボンテープを用いてテーリングを防止した。
【0050】
<イリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の金属原子価の算出>
XPS分析装置(ULVAC社製 PHI 5000 Versa ProveII)を使用して、イリジウム、マンガンの金属原子価を求めた。線源にはAlKα(1486.6eV)を用いて、284.6eVのC1sスペクトルを結合エネルギーの基準とし、パスエナジー187.85eVとしてサーベイスキャン機能を利用した。Ir4fの高解像度分析には、11.75eVの低いパスエナジーを使用し、その他の元素の分析には、23.5eVのパスエナジーを使用した。得られたスペクトルの解析は、CasaXPSソフトウェアを用いて実施し、Ir4fスペクトルのフィッティングにはPfeiferが提唱するフィッティングモデルを、Mn2pスペクトルのフィッティングにはEugene S.Iltonが報告したモデルを使用した。
【0051】
<イリジウム-マンガン酸化物複合材料のXAFS分析>
大型放射光施設SPring-8のビームラインBL14B2を用いてXAFS測定を行った。Mn K吸収端スペクトルは、二結晶分光器のSi(111)面を用いて透過法により測定した。Ir L3吸収端スペクトルは、二結晶分光器のSi(311)面を用いて蛍光法により測定した。
【0052】
<イリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のBET比表面積の算出>
BET比表面積はBET1点法の窒素吸着により測定した。測定装置にはガス吸着式比表面積測定装置(フローソーブIII,島津社製)を用いた。測定に先立ち、150℃で40分間加熱することで測定試料を脱気処理した。イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の測定では、あらかじめ導電性基材であるカーボン網やチタン網あるいは、白金被覆したチタン網だけのBET比表面積を測定しておき、導電性基材分のBET比表面積を差し引くことで、イリジウム-マンガン酸化物複合材料だけのBET比表面積を求めた。
【0053】
<イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のXRD測定>
X線回折装置(Rigaku社製 Ultima+)を使用して、線源にはCuKα線
(λ=1.5418Å)を用い、操作電位40kV、操作電流40mAでXRD測定を行った。イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のXRD測定では、導電性基材に由来するPtやTiの回折線も同時に検出された。
【0054】
<マンガン酸化物の電析量及びイリジウム-マンガン酸化物複合材料の被覆量の測定>
マンガン酸化物の電析量及びイリジウム-マンガン酸化物複合材料の被覆量は、以下の方法に従って測定された。
電解析出前に、あらかじめ基材(チタンなどの電極基材や導電性基材)の重量1を天秤で測定しておき、電解析出後にマンガン酸化物が電析した基材の重量2を天秤で測定し、重量1と重量2の差分(重量2-重量1)から、マンガン酸化物の電析量を求めた。
イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料におけるイリジウム-マンガン酸化物複合材料の被覆量は、マンガン酸化物の電解析出、イリジウム塩溶液との接触、アニール処理を終えた後のイリジウム-マンガン酸化物複合材料が被覆された基材の重量3を天秤で測定し、基材の重量1と重量3の差分(重量3-重量1)から求めた。
【0055】
<酸素発生電極触媒特性の評価のためのPEM型電解槽の構築>
イリジウム-マンガン酸化物複合材料を被覆させた導電性基材の電極材料を使用したPEM型電解槽の構築は、以下のように行った。電極材料(平板網形状:1cm×1cm)を作用極とし、対極用の触媒として、20wt%白金担持カーボン触媒(20% Platinum on Vulcan XC-72,Item#PTC20-1,Fuel Cell Earth)を用い、導電性触媒インクの作製、カーボンペーパーへの塗布を行い、風乾により対極の作製を行った。電解質膜としては、ナフィオン膜(ナフィオン115,Sigma-Aldrich社製)を用いた。電解質膜は、3%過酸化水素水、純水、1M硫酸水溶液、次いで純水中で各1時間煮沸することで洗浄・プロトン化(前処理)を行った。次に、作用極・対極の触媒塗布面で電解質膜を挟み、ホットプレス機(A-010D,FC-R&D社製)を用いて135℃、型締力400kg/cm2で3分間ホットプレスすることで膜/電解質接合体(MEA)を製作した。このMEAは、陰極側にステンレスメッシュ(#100)、陽極側にチタンメッシュ(#100)を介して、電解運転時でも密着性を向上させ、PEM型電解槽(WE-4S-RICW、エフシー開発社製)の筐体に取り付けた。
【0056】
<電気化学測定1 電流-電圧曲線の測定>
実デバイス中での水の酸化触媒能を評価するために、イリジウム-マンガン酸化物複合材料を被覆させた導電性基材の電極材料を用いて構築したPEM型電解槽を用いて、動作温度80℃で、電流-電圧曲線の測定を行った。本測定では、作用極・対極のみの二電極系を用い、印加する電圧を徐々に増加させることで電流-電圧曲線を測定した。PEM型電解槽には、純水を供給した。電圧の増加速度は、電流が立ち上がる電圧が判別し易いように留意して5mV/sとした。
【0057】
<電気化学測定2 電解電圧安定性の測定>
実デバイス中での水の酸化触媒能の安定性を評価するために、イリジウム-マンガン酸化物複合材料を被覆させた導電性基材の電極材料を用いて構築したPEM型電解槽を用いて、動作温度80℃で、電解電圧の測定を行った。本測定では、作用極・対極のみの二電極系を用い、両極間に印加する電流密度を導電性基材の幾何面積あたり1A/cm2に保ちながら、電解電圧の時間変化を測定した。PEM型電解槽には、純水を供給した。
【0058】
実施例1
硫酸35g/L及び硫酸マンガン濃度31g/Lの硫酸-硫酸マンガン混合溶液が入った電解槽内で電解を行い、白金被覆したTi網(ADL-414302-5056、エフシー開発社製)の導電性基材上にマンガン酸化物を電解析出させた。次に、ヘキサクロロ
イリジウム酸カリウム(K2IrCl6)2.5g/L、硫酸0.5g/Lの入ったイリジウム塩溶液槽に、上記マンガン酸化物が電析した導電性基材を95℃で12時間浸漬し、マンガン酸化物表面にイリジウムを吸着させた。尚、イリジウムを吸着させた前後のイリジウム塩溶液槽の液を、UV-Visスペクトロメータ(島津社製 UV-2550)を用いて測定し、イリジウムが全てマンガン酸化物に吸着され、イリジウム塩溶液槽には残存していないことを確認している。続いて、空気下で400℃-5時間のアニール処理を行い、導電性基材にイリジウム-マンガン酸化物複合材料を析出させたイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を作製した。この合成条件について表1に示した。
【0059】
【表1】
この電極材料の表面のSEM写真を
図1に、断面のSEM写真を
図2に示した。
図2か
ら、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、白金被覆したTi網の繊維上にイリジウム-マンガン酸化物複合材料の触媒層が析出した状態であることが確認された。次に、イリジウム-マンガン酸化物複合材料触媒層の断面のSEM-EDXデータを
図3に示した。
図3から、イリジウムが少なくともマンガン酸化物表面に均一に分散配置されていることが確認された。
【0060】
実施例1で得られたイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のXRDパターンを
図4に示した。
図4から、導電性基材に由来するPtやTiの回折線に加えて、γ型-MnO
2に帰属される回折線が観測されたが、イリジウムは微量であるために回折線として検出されなかった。このイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料におけるマンガン酸化物の電析量は3.80mg/cm
2、イリジウム-マンガン酸化物複合材料の重量は3.88mg/cm
2であったことから、イリジウム-マンガン酸化物複合材料のイリジウム量は0.08mg/cm
2で、イリジウムの金属含有比(イリジウム/(マンガン+イリジウム))は、0.94原子%であった。また、このイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のイリジウム-マンガン酸化物複合材料をXPSで測定解析し、イリジウムの平均金属原子価は3.3、マンガンの平均金属原子価は3.7と算出された。このイリジウム-マンガン酸化物複合材料のBET比表面積は42m
2/gであった。これらの評価結果について表2に示した。
【0061】
【表2】
このイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を1cm×1cmのサイズに切出して、<酸素発生電極触媒特性の評価のためのPEM型電解槽の構築>の方法に従って、PEM型電解槽を構築し、<電気化学測定1 電流-電圧曲線の測定>に従って、酸素発生電極触媒特性評価を行った。その結果を表2、
図5に示した。また、<電気化学測定2 電流-電圧曲線の測定>に従って、電解電圧の時間変化測定を行った。その結果を
図6に示した。
【0062】
このイリジウム-マンガン酸化物複合材料についてXAFS測定を行い、Ir L3吸収端スペクトルのXANES領域におけるエネルギーのピーク位置(ピーク位置1)が11215eV、Mn K吸収端スペクトルXANES領域におけるエッジジャンプを1と規格化したときの0.5に対応するエネルギーのピーク位置(ピーク位置2)が6550eVであった。イリジウム-マンガン酸化物複合材料をXAFSで測定解析した結果、動径構造関数におけるマンガンと酸素の結合に相当するピーク位置(ピーク位置3)は1.5Åであった。同じく、イリジウム-マンガン酸化物複合材料をEXAFSで測定解析した結果、動径構造関数におけるイリジウムと酸素の結合に相当するピーク位置(ピーク位置4)は1.6Åと算出された。これらの評価結果について表3に示した。
【表3】
【0063】
実施例2~3
マンガン酸化物電析の電解液組成、電析時間、イリジウム塩溶液組成などを変更した以外は実施例1の合成条件に従って、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を作製した。これらの合成条件を表1に、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料におけるイリジウム-マンガン酸化物複合材料の物性、並びに特性値を表2に示した。また、酸素発生電極触媒特性評価の結果を
図5に、電解電圧の時間変化測定の結果を
図6に示した。
【0064】
実施例4~6
マンガン酸化物電析の電析時間とアニール処理温度を変更した以外は実施例1の合成条件に従って、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を作製した。これらの合成条件を表4に、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料におけるイリジウム-マンガン酸化物複合材料の物性、並びに特性値を表5に示した。また、酸素発生電極触媒特性評価の結果を
図7に、電解電圧の時間変化測定の結果を
図8に示した。
【0065】
【0066】
【0067】
比較例1
市販の酸化イリジウム触媒(Elyst社製)を用い、イリジウム含有量0.08mg/cm
2の陽極、膜-電極接合体を作製してPEM型電解槽を構築し、<電気化学測定1
電流-電圧曲線の測定>に従って、酸素発生電極触媒評価を行った。その特性評価結果を表2、
図5に示した。
【0068】
比較例2
イリジウム含有量を1mg/cm2とする以外は比較例1に従って陽極、膜-電極接合体を作製し、酸素発生電極触媒評価を行った。その特性評価結果を表2に示した。
【0069】
比較例3
硫酸35g/L及び硫酸マンガン濃度31g/Lの硫酸-硫酸マンガン混合溶液が入った電解槽内で電解を行い、白金被覆したチタン網(ADL-414302-5056、エフシー開発社製)の導電性基材上にマンガン酸化物を電解析出させた。続いて、空気下で450℃-5時間のアニール処理を行い、マンガン酸化物電極材料を作製した。この合成条件について表1に、このマンガン酸化物複合材料の物性を表2に示した。次にこのマンガン酸化物電極材料を用いてPEM型電解槽を構築し、<電気化学測定 電流-電圧曲線の測定>に従って、酸素発生電極触媒評価を行った。その特性評価結果を表2、
図5に示した。
【0070】
図5、
図6に示されるように、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料並びにイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、原理的にエネルギー変換効率が高くなる構造であり、触媒の非貴金属化が望まれているPEM型電解槽中において、市販のイリジウム系触媒に比べてイリジウムの通常使用量を9割以上大幅に削減した上で、極めて良好な酸素発生電極触媒活性と耐久性を示すことが明らかになった。
【0071】
図7、
図8に示されるように、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料並びにイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、マンガン酸化物の析出量が1mg/cm
2以下であっても、極めて良好な酸素発生電極触媒活性と耐久性を示すことが明らかになった。
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料及びイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、従前のイリジウム系触媒に比べてイリジウムの使用量が大幅に少ないにも関わらず、従前の貴金属系触媒に匹敵する高い酸素発生電極触媒活性を有するため、アルカリ下、中性下で行われる工業的な水電解や、PEM型電解槽を用いる水電解において酸素発生用陽極触媒として使用することで、極めて製造原価の低い水素、酸素を得ることが可能となる。
また、上記水電解などの反応系に二酸化炭素を存在させることにより、該二酸化炭素等を陰極において還元して、炭化水素化合物(ギ酸、ホルムアルデヒド、メタノール、メタン、エタン、プロパン等)を製造することもできる。
なお、2021年6月15日に出願された日本特許出願2021-99336号の明細書、特許請求の範囲、図面、および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。