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特開2024-91817空間充填構造体の製造方法およびモータの製造方法
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  • 特開-空間充填構造体の製造方法およびモータの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091817
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】空間充填構造体の製造方法およびモータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/02 20060101AFI20240628BHJP
   D04H 1/58 20120101ALI20240628BHJP
   D04H 1/54 20120101ALI20240628BHJP
   H02K 15/03 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
B29C65/02
D04H1/58
D04H1/54
H02K15/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024067485
(22)【出願日】2024-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】井上 由輝
(72)【発明者】
【氏名】権田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】勝谷 郷史
(57)【要約】
【課題】挿入性および膨張性を維持しつつ、被固定材からの被固定材の剥離性が改善された空間充填構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】空間充填材(2)と被固定材(3)とが接着して一体化された空間充填構造体(1)を製造する方法は、空間充填材を準備する工程と、空間充填材の接着面(2a)のみを加熱して被固定材と一体化させる工程と、を含む。空間充填材は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含み、強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともそれらの交点の一部が熱可塑性樹脂で接着されてなり、加熱時に熱可塑性樹脂の軟化により強化繊維の残留応力が解放されて膨張する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間充填材と被固定材とが接着して一体化された空間充填構造体を製造する方法であって、前記方法は、
空間充填材を準備する工程と、
前記空間充填材の接着面のみを加熱して被固定材と一体化させる工程と、
を含み、
前記空間充填材は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含み、前記強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともそれらの交点の一部が前記熱可塑性樹脂で接着されてなり、加熱時に前記熱可塑性樹脂の軟化により前記強化繊維の残留応力が解放されて膨張する、空間充填構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、前記空間充填材の接着面の加熱が、振動加熱、超音波加熱、および通電加熱の少なくとも1つにより行われる、空間充填構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法において、前記空間充填材を準備する工程は、
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む複合シートを準備する工程と、
前記複合シートを前記熱可塑性樹脂の軟化点以上に加熱し、厚み方向に圧力をかけて熱プレスする工程と、
圧力をかけたまま、前記熱可塑性樹脂の軟化点より低い温度まで冷却する工程と、
を含む、空間充填構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法によって得られる空間充填構造体であって、前記被固定材が永久磁石である空間充填構造体を、モータのロータまたはステータに挿入する工程と、
前記熱可塑性樹脂の軟化温度以上で加熱することにより前記空間充填材を膨張させて永久磁石をロータまたはステータ内に固定する工程と、
を含む、モータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間充填構造体の製造方法およびモータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロータに永久磁石を設けたモータが使用され、それらの孔内に永久磁石を挿入して隙間にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を充填し、硬化させることにより接着して固定する方法が用いられている。しかしながら、熱硬化性樹脂を用いる場合、せん断接着強さを高めるためには長い硬化時間が必要となり、製造する際のサイクルタイムが長くなってしまう。
【0003】
そこで、近年、強化繊維および樹脂を含む空間充填材が固定材として提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2020/183945号)には、膨張材としての強化繊維と、樹脂とで構成され、前記強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部が樹脂で接着された空間充填材であり、所定の空間内で加熱時の膨張応力で少なくとも厚み方向に充填する空間充填材、ならびに空間充填材とその少なくとも一部に接して一体化した被固定材とを備える空間充填構造体が開示されており、被固定材として永久磁石を固定するためのモールド材として用いることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2(特許第7363700号公報)には、絶縁部材によって磁石本体の表面のうちの第1面及び前記第1面とは反対側に位置する第2面の少なくとも一方が覆われている磁石の製造方法であって、熱可塑性樹脂繊維及び無機繊維を含んで構成される不織布の前記絶縁部材を、前記磁石本体の前記第1面及び前記第2面の少なくとも一方に配置する配置工程と、前記絶縁部材を前記熱可塑性樹脂繊維のガラス転移温度以上に加熱しながら加圧することで、前記無機繊維が弾性圧縮された状態で前記絶縁部材を前記磁石本体に熱圧着する熱圧着工程とを有する磁石の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/183945号
【特許文献2】特許第7363700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モータの組立て時には、ロータへの永久磁石の挿入を容易にし、且つ膨張力を発揮させるために、空間充填材が十分に圧縮されて形成されていることが望ましい。一方で、使用後のモータのリサイクルを進めることを考えれば、空間充填材からの永久磁石の剥離が容易であることが望ましい。
【0007】
特許文献1には、空間充填材の形成後、被固定材としての永久磁石を一体化させることにより空間充填構造体を形成することが開示されているが、空間充填材と永久磁石との剥離については記載されていない。
【0008】
また、特許文献2では、熱圧着により空間充填材の形成および永久磁石との接着を同時に行っているが、その際に無機繊維が弾性復帰しないように熱プレスで高い圧力をかけて加熱すると、空間充填材の接着が過大となり、空間充填材を剥離させることが困難となる。それに対して、剥離性を改善するために低圧で熱プレスを行うと、空間充填材が十分に圧縮されず、接着性も不十分であるため、挿入性および膨張性が悪化する。
【0009】
したがって、本発明の目的は、このような従来技術における問題点を解決するものであり、挿入性および膨張性を維持しつつ、空間充填材からの被固定材の剥離性が改善された空間充填構造体の製造方法、ならびにその空間充填構造体を用いたモータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明者らは、空間充填材と被固定材とが接着して一体化された空間充填構造体を製造する際に、空間充填材の接着面のみを加熱して被固定材と一体化させることにより、空間充填構造体の挿入性および膨張性を維持しつつ、被固定材からの空間充填材の剥離性を改善できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
空間充填材と被固定材とが接着して一体化された空間充填構造体を製造する方法であって、前記方法は、
空間充填材を準備する工程と、
前記空間充填材の接着面のみを加熱して被固定材と一体化させる工程と、
を含み、
前記空間充填材は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含み、前記強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともそれらの交点の一部が前記熱可塑性樹脂で接着されてなり、加熱時に前記熱可塑性樹脂の軟化により前記強化繊維の残留応力が解放されて膨張する、空間充填構造体の製造方法。
〔態様2〕
態様1に記載の製造方法において、前記空間充填材の接着面の加熱が、振動加熱、超音波加熱、および通電加熱の少なくとも1つにより行われる、空間充填構造体の製造方法。
〔態様3〕
態様1または2に記載の製造方法において、前記空間充填材を準備する工程は、
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む複合シートを準備する工程と、
前記複合シートを前記熱可塑性樹脂の軟化点以上に加熱し、厚み方向に圧力をかけて熱プレスする工程と、
圧力をかけたまま、前記熱可塑性樹脂の軟化点より低い温度まで冷却する工程と、
を含む、空間充填構造体の製造方法。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の製造方法によって得られる空間充填構造体であって、前記被固定材が永久磁石である空間充填構造体を、モータのロータまたはステータに挿入する工程と、
前記熱可塑性樹脂の軟化温度以上で加熱することにより前記空間充填材を膨張させて永久磁石をロータまたはステータ内に固定する工程と、
を含む、モータの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の空間充填構造体の製造方法によれば、空間充填構造体の挿入性および膨張性を維持しつつ、空間充填材からの被固定材の剥離性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明から、より明瞭に理解されるであろう。図面は必ずしも一定の縮尺で示されておらず、本発明の原理を示す上で誇張したものになっている。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。
図1】空間充填構造体の製造を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明について詳細に説明する。
本発明の一態様に係る空間充填構造体を製造する方法は、空間充填材と被固定材とが接着して一体化された空間充填構造体を製造する方法であって、空間充填材を準備する工程と、前記空間充填材の接着面のみを加熱して被固定材と一体化させる工程と、を含む。
【0015】
<空間充填材>
空間充填材は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含んで構成されている。前記強化繊維同士は複数の交点を有し、少なくともそれらの交点の一部が前記熱可塑性樹脂で接着されている。そして、空間充填材は、加熱時に前記熱可塑性樹脂の軟化により前記強化繊維の残留応力が解放されて膨張する。ここで、残留応力とは、空間充填材の形成時に加えられた圧力により湾曲した強化繊維に生じる応力である。そして、所定の空間内で空間充填材を膨張させると、当該空間を囲んでいる外報部材に対して膨張応力を生じて被固定材を固定することができる。また、空間充填材は、所定の空間を全て充填してもよいし、一部を充填してもよい。
【0016】
<強化繊維>
強化繊維は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、有機繊維であってもよく、無機繊維であってもよい。また強化繊維は、有機繊維および無機繊維のいずれか一方を単独で用いてもよく、あるいは有機繊維および無機繊維を組み合わせて用いてもよい。本発明において、空間充填材内で、熱可塑性樹脂で接着されている強化繊維が残留応力を有しており、熱可塑性樹脂の軟化により前記残留応力が解放され、その残留応力が解放された強化繊維の反発力により空間充填材が膨張することになる。
【0017】
前記無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、各種セラミック繊維、各種金属繊維などが挙げられる。
前記各種セラミック繊維としては、例えば、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維などが挙げられる。前記各種金属繊維としては、例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、チタン、ステンレスなどの金属で形成される繊維が挙げられる。
前記有機繊維としては、そのガラス転移温度または融点が強化繊維の交点を接着する熱可塑性樹脂の軟化点より高い限り特に制限されない。前記有機繊維として、例えば、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、パラ系アラミド繊維、ポリスルホンアミド繊維、フェノール樹脂繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維などが挙げられる。
これらのうち、空間充填材を膨張させる際の反発力を高くする観点から、ガラス繊維または炭素繊維などの高弾性率の無機繊維を用いるのが好ましい。膨張後の空間充填材において、絶縁性が要求される用途の場合、絶縁性繊維であってもよい。この絶縁性繊維としては、例えば、ガラス繊維、窒化ケイ素繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維などが挙げられる。
【0018】
強化繊維は、非連続繊維であってもよく、その平均繊維長は、繊維の反発力を高くする観点から、3~100mmであることが好ましい。より好ましくは4~80mm、さらに好ましくは5~50mmであってもよい。なお、平均繊維長は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0019】
強化繊維は、繊維の反発力を高くする観点から、単繊維の平均繊維径が2~40μmであることが好ましい。より好ましくは3~30μm、さらに好ましくは4~25μmであってもよい。なお、平均繊維径は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0020】
強化繊維は、強化繊維の反発力を高くする観点から、10GPa以上の引張弾性率をもつものが好ましい。より好ましくは30GPa以上、さらに好ましくは50GPa以上であってもよい。上限に関しては特に制限はないが、1000GPa以下であってもよい。なお、引張弾性率は、炭素繊維の場合はJIS R 7606、ガラス繊維の場合はJIS R 3420、有機繊維の場合はJIS L 1013など、それぞれの繊維に合った規格に準拠した方法により測定することができる。
【0021】
<熱可塑性樹脂>
本発明において、空間充填材の構成材料として熱可塑性樹脂を用いており、前記熱可塑性樹脂の軟化により、熱可塑性樹脂に拘束された強化繊維を解放して空間充填材を膨張させる。その結果、空間充填材を膨張させた後に熱可塑性樹脂をマトリクスとして利用することができる。空間充填材では、空間充填材の残留応力により外方部材に高い押圧力が加えられると同時に、溶融した熱可塑性樹脂マトリクスが外方部材に押し付けられて接着する力も作用させることができる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ビニル系樹脂(ビニル基CH=CH-またはビニリデン基CH=C<を有するモノマーから合成されるポリマーまたはその誘導体);脂肪族ポリアミド系樹脂(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612など)、半芳香族ポリアミド系樹脂、全芳香族ポリアミド系樹脂などのポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン系樹脂などのフッ素系樹脂;半芳香族ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂などの熱可塑性ポリイミド系樹脂;ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂などのポリスルホン系樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトンケトン系樹脂などのポリエーテルケトン系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;非晶性ポリアリレート系樹脂;全芳香族ポリエステル系樹脂などの液晶ポリエステル系樹脂;ウレタン系、スチレン系、オレフィン系、塩化ビニル系、エステル系、アミド系の熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、熱可塑性樹脂は、膨張後の空間充填材を含む構造体において耐熱性が要求される用途の場合、ガラス転移温度が100℃以上の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。例えば、ガラス転移温度が100℃以上である熱可塑性樹脂として、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂などが挙げられる。これらのうち、熱可塑性樹脂は、力学特性や成型性の点から、熱可塑性ポリイミド系樹脂(好ましくは、ポリエーテルイミド系樹脂)、ポリエーテルケトン系樹脂(好ましくは、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂)、半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂およびポリスルホン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂であってもよい。耐熱性が要求される用途においては、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、好ましくは105℃以上、さらに好ましくは110℃以上であってもよい。前記ガラス転移温度の上限に関しては特に制限はないが、空間充填材を経済的に使用する観点から、300℃以下であってもよい。なお、ガラス転移温度は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0023】
また、熱可塑性樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤を含んでいてもよい。
【0024】
<空間充填材の製造方法>
空間充填材の製造方法は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む複合シートを準備する工程と、前記複合シートを前記熱可塑性樹脂の軟化点以上に加熱し、厚み方向に圧力をかけて熱プレスする工程と、圧力をかけたまま、前記熱可塑性樹脂の軟化点より低い温度まで冷却する工程と、を備えていてもよい。本発明において、「軟化点」とは、熱可塑性樹脂において、主に熱変形温度を意味し、例えば、荷重たわみ温度(JIS K 7207)であってもよい。特に、非晶性樹脂の場合はそのガラス転移温度を意味する。
【0025】
複合シートは、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含み、熱プレス工程および冷却工程により空間充填材を形成し得る材料であり、さまざまな形態のシートを使用することができる。複合シートとしては、例えば、強化繊維と熱可塑性繊維との混合不織布、または粒子状(または粉粒状)の熱可塑性樹脂が分散した強化繊維の不織布などが挙げられ、好ましくは強化繊維と熱可塑性繊維との混合不織布であってもよい。また、強化繊維および熱可塑性繊維の分布の均一性の観点から、強化繊維と熱可塑性繊維とを含む湿式不織布(例えば、混抄紙、以下、本発明では、湿式抄紙法による混合不織布を混抄紙と称する)であることがより好ましい。
【0026】
複合シートとして混合不織布を使用する場合、上記熱可塑性樹脂を公知の方法により繊維化した熱可塑性繊維を使用することができる。
【0027】
熱可塑性繊維の単繊維繊度は、強化繊維の分散性を良好にする観点から、0.1~20dtexであることが好ましい。加熱時の膨張応力に優れた空間充填材を得るためには、混合不織布中の強化繊維を斑なく分散させることが望ましい。熱可塑性繊維の単繊維繊度は、より好ましくは0.5~18dtex、さらに好ましくは1~16dtexであってもよい。なお、単繊維繊度は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0028】
熱可塑性繊維の平均繊維長は、強化繊維の分散性を良好にする観点から、0.5~60mmであることが好ましく、より好ましくは1~55mm、さらに好ましくは3~50mmであってもよい。なお、平均繊維長は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。なお、その際の繊維の断面形状に関しても特に制限はなく、円形、中空、扁平、あるいは星型等異型断面であってもよい。
【0029】
また、熱可塑性繊維として軟化点が100℃以上の熱可塑性繊維を用いる場合、必要に応じてバインダー成分を含んでいてもよい。バインダー成分の割合は、混合不織布に対して、例えば、10wt%以下であってもよい。バインダー成分の形状としては、繊維状、粒子状、液状などであってもよいが、不織布を形成する観点からは、バインダー繊維が好ましい。バインダー成分としては、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂などが挙げられるが、ポリエステル系樹脂が好ましい。これらのバインダー成分は、得られる空間充填材の熱可塑性樹脂を構成する成分に該当する。バインダー成分が熱可塑性樹脂としてマトリクスの一部となる観点から、熱可塑性繊維と相溶性を有しているバインダー成分を用いることが好ましく、その場合、得られる空間充填材は、マトリクスが一体化しているため、強度に優れる。
【0030】
ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸成分のうち、テレフタル酸成分(a)とイソフタル酸成分(b)を、その共重合割合(モル比)が(a)/(b)=100/0~40/60(好ましくは99/1~40/60)として含むポリエステル系ポリマーで構成されていてもよい。このようなポリエステル系樹脂を用いることで、良好なバインダー特性により混合不織布の強度を向上させることができるため工程通過性に優れると共に、高温の成形時においての熱分解を抑制できる。また、このようなポリエステル系樹脂は、熱可塑性ポリイミド系樹脂(好ましくは、ポリエーテルイミド系樹脂)と相溶性を有しているため、ポリイミド系樹脂からなる熱可塑性繊維を用いる場合には、バインダー成分として特に好ましい。より好ましくは(a)/(b)=90/10~45/55であり、さらに好ましくは(a)/(b)=85/15~50/50である。
【0031】
前記ポリエステル系樹脂は、本発明の効果を損なわない限り、テレフタル酸とイソフタル酸以外の少量(例えば、5モル%以下)の他のジカルボン酸成分を、一種または複数種類組み合わせて含んでもよい。
また、ポリエステル系樹脂を構成するジオール成分としては、エチレングリコールをジオール成分として用いることができるが、エチレングリコール以外の少量(例えば、5モル%以下)の他のジオール成分を、一種または複数種類組み合わせて含んでもよい。
【0032】
不織布の製造方法は、特に制限はなく、スパンレース法、ニードルパンチ法、スチームジェット法、乾式抄紙法、湿式抄紙法(ウェットレイドプロセス)などが挙げられる。中でも、生産効率や強化繊維の不織布中での均一分散の面から、湿式抄紙法が好ましい。例えば、湿式抄紙法では、熱可塑性繊維および強化繊維を含む水性スラリーを作製し、ついでこのスラリーを通常の抄紙工程に供すればよい。なお、水性スラリーは、必要に応じて上記のバインダー繊維(例えば、ポリビニルアルコール系繊維などの水溶性ポリマー繊維、ポリエステル系繊維などの熱融着繊維)などを含んでいてもよい。また、不織布の均一性や圧着性を高めるために、スプレードライによりバインダー成分を塗布したり、湿式抄紙工程後に熱プレス工程を加えたりしてもよい。
【0033】
湿式抄紙法を用いる場合、得られる空間充填材の厚さや目付の均一性を高める観点から、さらに分散剤を含む水性スラリーを使用してもよい。分散剤としては、強化繊維や熱可塑性繊維を水中に分散させることが可能な公知の分散剤を使用することができ、例えば、ポリアルキレンオキサイド系分散剤、ポリアクリルアミド系分散剤、ポリアクリル酸系分散剤、ウレタン樹脂系分散剤等の高分子型分散剤が挙げられる。
【0034】
また、得られる空間充填材の厚さや目付の均一性を高める観点から、さらに増粘剤を含む水性スラリーを使用してもよい。増粘剤としては、アニオン性ポリアクリルアミド、ノニオン性ポリエチレンオキシド等を挙げることができる。中でも増粘剤としては、アニオン性ポリアクリルアミドを用いることが好ましい。カチオン系化合物を添加した際に混合集束繊維束が得られやすくなるためである。
【0035】
不織布の目付は、特に限定されるものではないが、5~1500g/mであることが好ましい。より好ましくは10~1000g/m、さらに好ましくは20~500g/mであってもよい。
【0036】
熱プレス工程では、複合シートを熱可塑性樹脂の軟化点以上に加熱し、厚み方向に圧力をかけて熱プレスしてもよい。複合シートを厚み方向に加熱加圧することにより、強化繊維が厚み方向への残留応力を付与することができる。熱プレスする方法について特に制限はなく、スタンパブル成型や加圧成型、真空圧着成型、GMT成型のような一般的な圧縮成型が好適に用いられる。その時の成型温度は用いる熱可塑性樹脂の軟化点や分解温度に併せて設定すればよい。加熱温度は熱可塑性樹脂の軟化点以上であることが好ましく、例えば、熱可塑性樹脂が結晶性の場合、加熱温度は熱可塑性樹脂の融点以上、(融点+100)℃以下の範囲であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂が非晶性の場合、加熱温度は熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上、(ガラス転移温度+200)℃以下の範囲であることが好ましい。なお、必要に応じて、熱プレスする前にIRヒーターなどで予備加熱してもよい。
【0037】
また、熱プレスする際の圧力も特に制限はないが、通常は0.05MPa以上の圧力で行われる。より好ましくは0.1MPa以上、さらに好ましくは0.5MPa以上であってもよい。上限は特に限定されないが、30MPa程度であってもよい。熱プレスする際の時間も特に制限はないが、長時間高温に曝すと熱可塑性樹脂が劣化してしまう可能性があるので、通常は30分以内であることが好ましく、より好ましくは25分以内、さらに好ましくは20分以内であってもよい。下限は特に限定されないが、1分程度であってもよい。
【0038】
熱プレス工程では、上記の複合シートを一枚ないしは複数枚積層して熱プレスすることができ、例えば、複合シートの目付や所望の空間充填材の厚さ等に応じて好ましい条件は異なるが、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、上記の複合シートを複数枚(例えば、2~100枚、好ましくは3~50枚)重ね合わせた多層体を熱プレスしてもよい。
【0039】
また、得られる空間充填材の厚さや密度を調整するために、強化繊維の種類や加える圧力を適宜設定可能である。更には、得られる空間充填材の形状にも特に制限は無く、適宜設定可能である。目的に応じて、仕様の異なる混合不織布などを複数枚積層したり、仕様の異なる混合不織布などをある大きさの金型の中に別々に配置したりして、熱プレスすることも可能である。
【0040】
冷却工程では、熱プレス工程における圧力をかけたまま、熱可塑性樹脂の軟化点より低い温度まで冷却することにより、所定の形状を有する空間充填材を得ることができる。
【0041】
空間充填材は、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、熱可塑性樹脂の重量比率が10~90wt%であることが好ましく、より好ましくは40~85wt%、さらに好ましくは50~80wt%であってもよい。熱可塑性樹脂の重量比率とは、空間充填材の全重量中の熱可塑性樹脂の重量割合を示す。なお、空間充填材に含まれる熱可塑性樹脂として、複合シートとしての不織布の製造に必要に応じて用いられるバインダー成分を含んでいてもよい。
【0042】
空間充填材は、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、強化繊維の重量比率が10~90wt%であることが好ましく、より好ましくは15~60wt%、さらに好ましくは20~50wt%であってもよい。強化繊維の重量比率とは、空間充填材の全重量中の強化繊維の重量割合を示す。
【0043】
空間充填材は、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、空間充填材における強化繊維と熱可塑性樹脂との体積比(強化繊維:熱可塑性樹脂)は、10:90~70:30であってもよい。強化繊維に対して熱可塑性樹脂が占める体積比率が小さすぎる場合、所定の空間内で空間充填材が膨張してその空間の壁面(または被固定材)に接触した際に熱可塑性樹脂が接する接触面積が小さくなるため、被固定材を固定する強度に寄与する膨張応力が不十分となる可能性がある。また、強化繊維に対して熱可塑性樹脂が占める体積比率が大きすぎる場合、強化繊維の存在量が不足し、膨張性が不十分となる可能性がある。強化繊維と熱可塑性樹脂との体積比(強化繊維:熱可塑性樹脂)は、好ましくは15:85~65:35、より好ましくは20:80~60:40であってもよい。空間充填材を構成する強化繊維および熱可塑性樹脂の体積比率は、重量比率を、それぞれの密度により換算して、互いの体積比(強化繊維:熱可塑性樹脂)として算出することができる。
【0044】
空間充填材は、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、空隙率(膨張前または使用前)が70%以下であってもよく、好ましくは60%以下、より好ましくは40%以下であってもよい。膨張前の空隙率が大きすぎる場合、膨張する余地が小さいため、膨張性が不十分となる可能性がある。また、空隙率(膨張前または使用前)の下限は特に限定されず、0%であってもよく、空間充填材内の強化繊維に対して無理な圧縮力がかかることを防止する観点から、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上であってもよい。なお、ここで空隙率とは、空間充填材の嵩体積に対する、空隙の占める体積の割合を示す。
【0045】
空間充填材の厚さは、充填させる空間および用途に応じて様々な厚さとすることが可能であり、例えば、0.01~20mmの広い範囲から選択可能であるが、狭い隙間に挿入し、精度良く充填可能とする観点から、10~1000μmであってもよく、好ましくは20~500μm、より好ましくは50~300μmであってもよい。なお、空間充填材の厚さは後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0046】
空間充填材の目付は、充填させる空間および用途に応じて様々な目付とすることが可能であり、例えば、10~10000g/mの広い範囲から選択可能であるが、狭い空間でも精度良く充填可能とする観点から、10~500g/mであってもよく、好ましくは20~400g/m、より好ましくは50~300g/mであってもよい。なお、空間充填材の目付は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0047】
空間充填材の密度は、充填させる空間および用途に応じて様々な密度とすることが可能であるが、0.5~3g/cmであってもよく、好ましくは0.6~2.5g/cm、より好ましくは0.7~2g/cmであってもよい。なお、空間充填材の密度は目付および厚さから算出することができる。
【0048】
空間充填材の形状は、充填させる空間および用途に応じて様々な形状とすることが可能であり、三次元構造を有している立体状も含まれる。立体状の場合、熱膨張する方向を厚み方向とする。狭い隙間に挿入し、精度良く充填可能とする観点からは、板状であることが好ましい。
【0049】
空間充填材は、厚み方向の最大膨張率が120%以上であることが好ましく、より好ましくは150%以上、さらに好ましくは170%以上、さらにより好ましくは250%以上であってもよい。厚み方向の最大膨張率の上限は特に限定されないが、500%であってもよい。厚み方向の最大膨張率が上記のような範囲である場合、補強および/または固定についての強度を十分なものとすることができる。なお、空間充填材の厚み方向の最大膨張率は、無加圧下で加熱膨張させた際の膨張率を示し、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0050】
空間充填材は、ガスの発生を抑制する観点から、加熱させる際に揮発する揮発性物質(例えば、加熱温度より沸点の低い低分子化合物等)、発泡剤、膨張黒鉛等を実質的に含まないことが好ましく、空間充填材中の揮発性物質の総量は0.5wt%未満であってもよい。
【0051】
<空間充填構造体の製造方法>
本発明の一態様に係る空間充填構造体の製造方法は、空間充填材を準備する工程と、空間充填材の接着面のみを加熱して被固定材と一体化させる工程とを含む。空間充填材の接着面とは、被固定材と接触して熱可塑性樹脂により接着する表面である。空間充填構造体では、加熱により熱可塑性樹脂が軟化して接着面と接している被固定材を接着することができる。接着面は、主として熱可塑性樹脂で構成されている面を示し、例えば、平面視において空間充填材の全体の面積のうち50%以上が熱可塑性樹脂で構成されている面であってもよい。
【0052】
このように、強化繊維を熱プレスで湾曲させた状態で固定することにより膨張性を有する空間充填材を形成する工程と、その後の空間充填材と被固定材とを接着する工程とを別々で行い(2段階)、空間充填構造体の形成時には、空間充填材全体を加熱するのではなく、接着面のみを加熱して接着することにより、空間充填材と被固定材との間の接着力を制御しやすくできる。これにより、空間充填構造体の剥離性を高めることができる。また、空間充填材全体を加熱しないので、加熱により生じ得る空間充填材および/または被固定材の表面の荒れや空間充填材の意図しない膨張を避けることができる。したがって、そのようにして得られる空間充填構造体は、挿入性および膨張性を維持することができる。
【0053】
空間充填材の接着面の加熱は、振動加熱、超音波加熱、および通電加熱の少なくとも1つにより行ってもよい。振動加熱、超音波加熱、および通電加熱は公知の方法で行うことができる。
【0054】
振動加熱では、空間充填材または被固定材の一方を加圧側に、他方を振動側に配置し、加圧側を振動側に押し付けながら振動側を空間充填材の接着面と平行な方向に振動させる。振動により、被固定材と接する空間充填材の接着面で摩擦熱が生じ、接着面の熱可塑性樹脂が軟化することで、空間充填材と被固定材とが接着して一体化される。振動加熱の条件は適宜設定できる。
【0055】
超音波加熱では、空間充填材と被固定材とを重ね合わせた状態で、超音波溶接機のホーンと受台との間に配置し、これらにホーンを押し当てながら超音波を加える。ホーンからの超音波振動により、被固定材と接する空間充填材の接着面で摩擦熱が生じ、接着面の熱可塑性樹脂が軟化することで、空間充填材と被固定材とが接着して一体化される。超音波加熱の条件は適宜設定できる。
【0056】
通電加熱では、空間充填材と被固定材とを重ね合わせた状態で、被固定材に通電する。このとき、被固定材が電気抵抗により発熱し、被固定材と接する空間充填材の接着面のみが加熱されて接着面の熱可塑性樹脂が軟化することで、空間充填材と被固定材とが接着して一体化される。通電加熱の条件は適宜設定できる。
【0057】
例えば、超音波加熱による態様として図1を用いて説明する。図1は、空間充填構造体1の製造を説明するための概略断面図である。空間充填構造体1は、空間充填材2と被固定材3とを超音波溶接機のホーン4と受台5との間に配置し、ホーン4からの超音波振動により空間充填材2の接着面2aのみを加熱することで、熱可塑性樹脂を軟化させて空間充填材2と被固定材3とを融着させることにより、製造することができる。
【0058】
<空間充填構造体>
このようにして得られる空間充填構造体では、空間充填材と被固定材とが接着して一体化されている。
【0059】
空間充填構造体では、被固定材が前記空間充填材により挟まれていてもよい。空間充填構造体は、被固定材が、対向する少なくとも2方向で空間充填材により挟まれていてもよく、例えば、被固定材の厚み方向で挟まれていてもよく、厚み方向およびそれに直交する方向で挟まれていてもよい。例えば、被固定材が直方体形状である場合に被固定材の厚み方向をZ方向とすると、前記厚み方向に直交する方向とは、被固定材の所定の一辺に平行で且つZ方向に直交する方向であるX方向(図1参照)と、このX方向およびZ方向に直交するY方向(図1参照)とを含む。したがって、空間充填構造体は、被固定材の厚み方向であるZ方向およびXまたはY方向で構成される4方向で挟まれていてもよく、X方向、Y方向、Z方向で構成される6方向で挟まれていてもよい。また、空間充填構造体では、X方向、Y方向、Z方向のそれぞれにおいて、空間充填材に対して被固定材が双方向に配設されていてもよいし、いずれか一方向のみに被固定材が配設されていてもよい。
【0060】
<モータの製造方法>
本発明の一態様に係るモータ(例えば、自動車の駆動用モータ)の製造方法は、上記で得られた空間充填構造体であって、被固定材が永久磁石である空間充填構造体を、モータのロータ(回転子)またはステータ(固定子)に挿入する工程と、前記熱可塑性樹脂の軟化温度以上で加熱することにより前記空間充填材を膨張させて永久磁石をロータまたはステータ内に固定する工程と、を含んでいてもよい。空間充填構造体は、ロータまたはステータに形成された複数の孔部または凹部内に挿入されて、空間充填材は、永久磁石の固定材として用いられる。これにより、永久磁石を十分な固定強度で固定することができるとともに、連通孔として存在する空隙に冷却液を通液することによりモータを冷却することが可能であり、絶縁性を付与することも可能である。また、空隙を有しているにもかかわらず固定強度が高いため、空間に占める材料の比率を少なくすることができるため、コストの削減をすることも可能である。
【0061】
例えば、ロータに永久磁石を使用するモータとしては、埋込磁石型永久磁石モータ(IPMモータ)や表面磁石型永久磁石モータ(SPMモータ)が挙げられる。SPMモータではロータ表面の各凹部内に永久磁石を固定し、IPMモータではロータの各孔部内に永久磁石を固定する。
【実施例0062】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0063】
[単繊維繊度]
JIS L 1015:2010「化学繊維ステープル試験方法」の8.5.1のB法に準じて、後述の方法で算出した平均繊維長を用いて、単繊維繊度を測定した。
【0064】
[平均繊維長]
ランダムに選択した100本の繊維について、その繊維長を測定し、その測定値の平均値を平均繊維長とした。
【0065】
[平均繊維径]
ランダムに選択した30本の繊維について、顕微鏡観察により繊維径を測定し、その測定値の平均値を平均繊維径とした。
【0066】
[熱可塑性樹脂のガラス転移温度]
熱可塑性繊維のガラス転移温度は、レオロジー社製固体動的粘弾性装置「レオスペクトラDVE-V4」を用い、周波数10Hz、昇温速度10℃/minで損失正接(tanδ)の温度依存性を測定し、そのピーク温度から求めた。ここで、tanδのピーク温度とは、tanδの値の温度に対する変化量の第1次微分値がゼロとなる温度のことである。
【0067】
[目付]
縦250mm、横250mmのサンプルを、縦50mm、横15mmに切り出し、全ての小片の重量(g)を計測し、目付(g/m)を算出し、全小片の目付の平均値を空間充填材の目付(g/m)とした。
【0068】
[厚さ]
縦250mm、横250mmのサンプルを、50mm×15mmに切り出し、各小片の中央の厚さ(μm)をマイクロメータで計測し、全小片の厚さの平均値を空間充填材の厚さ(μm)とした。
【0069】
[剥離性]
実施例および比較例にて得られた空間充填構造体を空間充填材と被固定材とに分解できるかどうかを評価した。
〇:分解できる
×:分解できない
【0070】
[膨張性]
実施例および比較例にて得られた空間充填構造体を、360℃に設定した送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社製「DN411H」)中に入れて10分加熱後、取り出して25℃まで冷却した。その後、加熱前後のサンプルの厚さより、下記式を用いて最大膨張率(%)を測定した。
最大膨張率(%)=膨張後の空間充填材の厚さ(μm)/膨張前の空間充填材の厚さ(μm)×100
次いで、以下の基準で膨張性を評価した。
〇:膨張率250%以上
×:膨張率250%未満
【0071】
[参考例1]
(ポリエーテルイミド繊維の製造)
ポリエーテルイミド(以下、PEIと略称することがある)系ポリマー(サービックイノベイティブプラスチックス製「ULTEM9001」)を150℃で12時間真空乾燥した。前記PEI系ポリマーを紡糸ヘッド温度390℃、紡糸速度1500m/min、吐出量50g/minの条件で丸孔ノズルより吐出し、2640dtex/1200fのPEI繊維のマルチフィラメントを作製した。得られたマルチフィラメントを15mmにカットし、PEI繊維のショートカットファイバーを作製した。得られた繊維の外観は毛羽等なく良好で、単繊維繊度は2.2dtex、平均繊維長は15.0mmであり、ガラス転移温度(非晶性熱可塑性樹脂における軟化点)は217℃であり、密度は1.27g/cmであった。
【0072】
[参考例2]
(PET系バインダー繊維の製造)
重合反応装置を用い、常法により280℃で重縮合反応を行い、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸の共重合割合(モル比)が70/30、ジオール成分としてエチレングリコール100モル%からなる、固有粘度(η)が0.81であるPET系ポリマーを製造した。得られたポリマーは、重合装置底部よりストランド状に水中に押し出し、ペレット状に切断した。得られたPET系ポリマーを、270℃で加熱された同方向回転タイプのベント式2軸押し出し機に供給し、滞留時間2分を経て280℃に加熱された紡糸ヘッドに導き、吐出量45g/分の条件で丸孔ノズルより吐出し、紡糸速度1200m/分で引き取ることで2640dtex/1200fのPET系ポリマーからなるマルチフィラメントを作製した。次いで得られた繊維を5mmにカットした。得られた繊維の外観は毛羽等なく良好で、単繊維繊度は2.2dtex、平均繊維長は5mm、密度は1.38g/cmであった。
【0073】
[参考例3]
(増粘剤の調製)
パムオール(明成化学工業製)2gを水2Lに添加し溶解させ、完全に溶解するまで攪拌する事で、増粘剤を調整した。
【0074】
[参考例4]
(分散剤の調製)
アルコックスCP-B1(明成化学工業製)3.75gを2Lの水に溶解させたものと、パルセットHA(明成化学工業製)3.75gを2Lの水に溶解させたものを分散剤としてそれぞれ調整した。各分散剤を20mLずつスラリーに添加して使用した。
【0075】
[参考例5]
(混合不織布の製造)
熱可塑性繊維としてPEI繊維50wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日本電気硝子製:平均繊維径10.5μm、比重2.54g/cm)45wt%、バインダー繊維としてPET系バインダー繊維5wt%を水1.5L、分散剤40mL中に投入し、離解機を用いて540rpmで1500回攪拌し、スラリーを作製した。得られたスラリーに増粘剤60~80mLを加え、ウェットレイドプロセスにより目付80g/mの混合不織布(混抄紙)を得た。
【0076】
[参考例6]
(空間充填材の製造)
得られた混合不織布を2枚積層し、テストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、積層方向に対して垂直な面に対して3MPaにて加圧しながら、340℃で10分間加熱し、ガラス繊維の間に溶融したPEI樹脂を含浸させた後、加圧を維持したまま、PEIのガラス転移温度以下である150℃まで冷却し、空間充填材を作製した。得られた空間充填材を20mm×50mmのサイズにカットした。
【0077】
[実施例1]
被固定材としてSUS304製のテストピース(サイズ:20mm×50mm)を用意し、得られた空間充填材を被固定材の上に乗せた。3MPaにて加圧しながら、周波数240Hz、振幅1.0mmにて3秒間振動させ、空間充填材と被固定材とが一体化した空間充填構造体を得た。
得られた空間充填構造体について、各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0078】
[実施例2]
被固定材としてSUS304製のテストピース(サイズ:20mm×50mm)を用意し、得られた空間充填材を被固定材の上に乗せた。3MPaにて加圧しながら、周波数15kHz、振幅10μmにて3秒間超音波をかけ、空間充填材と被固定材とが一体化した空間充填構造体を得た。
得られた空間充填構造体について、各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0079】
[実施例3]
被固定材としてSUS304製のテストピース(サイズ:20mm×50mm)を用意し、得られた空間充填材を被固定材の上に乗せた。3MPaにて加圧しながら、被固定材に1000Aの電流を60秒間流し、空間充填材と被固定材とが一体化した空間充填構造体を得た。
得られた空間充填構造体について、各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0080】
[比較例1]
参考例2によって得られた混合不織布と被固定材としてのSUS304製のテストピース(サイズ:20mm×50mm)とを重ね合わせて、テストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、積層方向に対して垂直な面に対して3MPaにて加圧しながら、340℃で10分間加熱して圧着し、加圧を維持したまま、PEIのガラス転移温度以下である150℃まで冷却し、空間充填構造体を作製した。
得られた空間充填構造体について、実施例1と同様に各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0081】
[比較例2]
得られた空間充填材と被固定材としてのSUS304製のテストピース(サイズ:20mm×50mm)とを重ね合わせて、テストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、積層方向に対して垂直な面に対して5MPaにて加圧しながら、340℃で10分間加熱して圧着し、加圧を維持したまま、PEIのガラス転移温度以下である150℃まで冷却し、空間充填構造体を作製した。
得られた空間充填構造体について、実施例1と同様に各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0082】
[比較例3]
得られた空間充填材と被固定材としてのSUS304製のテストピース(サイズ:20mm×50mm)とを重ね合わせて、テストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、積層方向に対して垂直な面に対して0.5MPaにて加圧しながら、340℃で10分間加熱して圧着し、加圧を維持したまま、PEIのガラス転移温度以下である150℃まで冷却し、空間充填構造体を作製した。
得られた空間充填構造体について、実施例1と同様に各種評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1より、実施例1~3の空間充填構造体は、膨張性に優れており、またテストピースとの剥離性が良く、テストピースと空間充填材を分離しやすいことが分かる。
比較例1は、混抄紙の状態からテストピースと圧着したため、膨張性は十分であったが、剥離性が悪く、テストピースと空間充填材を分離できなかった。
比較例2は、空間充填材を高い圧力でテストピースと圧着したため、膨張性は十分であったが、剥離性が悪く、テストピースと空間充填材を分離できなかった。
比較例3は、空間充填材を低い圧力でテストピースと圧着したため、圧着時に空間充填材が膨張してしまった。そのため、剥離性は良好なものの膨張性は不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の空間充填構造体の製造方法は、例えば、モータ(例えば、自動車の駆動用モータ)において、ロータに形成された複数の孔部内に永久磁石(被固定材)を固定するためのモールド材として用いるために適した空間充填構造体を製造するために有用である。
【0086】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本件明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。
【符号の説明】
【0087】
1・・・空間充填構造体
2・・・空間充填材
2a・・・接着面
3・・・被固定材
4・・・ホーン
5・・・受台
図1