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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091988
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】ダイヤモンド基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20240628BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20240628BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20240628BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C30B29/04 G
C23C16/27
C30B25/18
H01L21/205
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024073649
(22)【出願日】2024-04-30
(62)【分割の表示】P 2019232061の分割
【原出願日】2019-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019208258
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】野口 仁
(72)【発明者】
【氏名】徳田 規夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 翼
(57)【要約】
【課題】 下地基板上に、規定された条件でCVDを行うことで、NV軸が[111]高配向、かつ高密度な窒素-空孔センター(NVC)を有する、ダイヤモンド結晶を形成できるダイヤモンド基板の製造方法を提供する。
【解決手段】 CVD法により、炭化水素ガスと水素ガスとを含む原料ガスを用いて、下地基板上にダイヤモンド結晶を形成する方法において、前記ダイヤモンド結晶の少なくとも一部に、窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を形成するために、前記原料ガスに窒素ガスまたは窒化物ガスを混入すると共に、前記原料ガスに含まれる各ガスの量を、炭化水素ガス0.005体積%以上6.000体積%以下、水素ガス93.500体積%以上99.995体積%未満、窒素ガスまたは窒化物ガス5.0×10-5体積%以上5.0×10-1体積%以下として、前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を形成するダイヤモンド基板の製造方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱フィラメントCVD法により、炭化水素ガスと希釈用ガスである水素ガスとを含む原料ガスを用いて、下地基板上にダイヤモンド結晶を形成してダイヤモンド基板を製造する方法において、
前記下地基板上に形成するダイヤモンド結晶の少なくとも一部に、窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を形成するために、前記原料ガスに窒素ガスまたは窒化物ガスを混入すると共に、前記原料ガスに含まれる各ガスの量を、
炭化水素ガスの量を0.005体積%以上6.000体積%以下、
水素ガスの量を93.500体積%以上99.995体積%未満、
窒素ガスまたは窒化物ガスの量を5.0×10-5体積%以上5.0×10-1体積%以下
として、前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を形成することを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項2】
前記炭化水素ガスとして、メタンガスを用い、
前記原料ガスに混入する窒素ガスまたは窒化物ガスとして、窒素ガスを用い、
前記原料ガスに含まれる各ガスの量を、
メタンガスの量を0.1体積%以上6.000体積%以下、
水素ガスの量を93.500体積%以上99.900体積%未満、
窒素ガスの量を5.0×10-5体積%以上5.0×10-1体積%以下
とすることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項3】
前記CVD法によるダイヤモンド結晶の形成におけるガス圧力を、1.3kPa(10Torr)以上50.0kPa(376Torr)以下とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項4】
前記CVD法によるダイヤモンド結晶の形成におけるガス圧力を、12.0kPa(90Torr)以上33.3kPa(250Torr)以下とすることを特徴とする請求項3に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項5】
前記CVD法によるダイヤモンド結晶の形成における放電電力密度を、188W/cm以上942W/cm以下とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項6】
前記CVD法によるダイヤモンド結晶の形成における放電電流密度を、0.09A/cm以上0.85A/cm以下とすることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項7】
前記下地基板を、単結晶ダイヤモンドの単層基板とすることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項8】
前記単結晶ダイヤモンドの単層基板を、単結晶ダイヤモンド(111)であって、主表面が結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-1 2]方向又はその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下又は+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることを特徴とする請求項7に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項9】
前記単結晶ダイヤモンドの単層基板を、高温高圧合成単結晶ダイヤモンド、ヘテロエピタキシャル単結晶ダイヤモンド、CVD合成ホモエピタキシャルダイヤモンド、及びこれらを組み合わせた単結晶ダイヤモンドのいずれかとすることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項10】
前記下地基板を、下層基板と該下層基板上の中間層から成る積層構造とすることを特徴する請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項11】
前記中間層の最表面を、Ir、Rh、Pd及びPtから選択される金属層とすることを特徴とする請求項10に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項12】
前記下層基板を、単一のSi、MgO、Al、SiO、Si、若しくはSiCからなる基板、又は、Si、MgO、Al、SiO、Si、若しくはSiCから選択される層の複数層からなる積層体とすることを特徴とする請求項10又は請求項11に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項13】
前記下層基板をSi(111)とするか、又は、前記下層基板と前記中間層との間にSi(111)の層を更に含むものとすることを特徴とする請求項10から請求項12のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項14】
前記下層基板のSi(111)又は前記下層基板と前記中間層との間のSi(111)の層を、主表面が結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-1 2]方向又はその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下又は+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることを特徴とする請求項13に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項15】
前記下層基板をMgO(111)とするか、又は、前記下層基板と前記中間層との間にMgO(111)の層を更に含むものとすることを特徴とする請求項10から請求項12のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項16】
前記下層基板のMgO(111)又は前記下層基板と前記中間層との間のMgO(111)の層を、主表面が結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-1 2]方向又はその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下又は+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることを特徴とする請求項15に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項17】
請求項1から請求項16のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法において、前記CVD法によるダイヤモンド結晶の形成を行うチャンバーにはSi含有の部材を使用しないことを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項18】
前記チャンバーの覗窓に、サファイアを用いることを特徴とする請求項17に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項19】
請求項1から請求項18のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法により得られた、前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を含むダイヤモンド基板から、前記下地基板を除去して、前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を含む単結晶ダイヤモンド自立基板を得ることを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項20】
請求項1から請求項19のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法により得られた、前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を含むダイヤモンド基板の前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層の表面を平滑化することを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、室温で5.47eVという広いバンドギャップを持ち、ワイドバンドギャップ半導体として知られている。
【0003】
ワイドバンドギャップ半導体の中でも、ダイヤモンドは、絶縁破壊電界強度が10MV/cmと非常に高く、高電圧動作が可能である。また、既知の物質として最高の熱伝導率を有していることから放熱性にも優れている。さらに、キャリア移動度や飽和ドリフト速度が非常に大きいため、高速デバイスとして適している。
【0004】
そのため、ダイヤモンドは、高周波・大電力デバイスとしての性能を示すJohnson性能指数を、炭化ケイ素や窒化ガリウムといった半導体と比較しても最も高い値を示し、究極の半導体と言われている。
【0005】
さらにダイヤモンドには、結晶中に存在する窒素-空孔センター(NVC)の現象があり、室温で単一スピンを操作及び検出することが可能で、その状態を光検出磁気共鳴でイメージングできる特徴がある。この特徴を活かして、磁場、電場、温度、圧力などの高感度センサーとして幅広い分野での応用が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.Hatano et al., OYOBUTURI 85, 311 (2016)
【非特許文献2】T.Fukui,et al.,APEX 7,055201(2014).
【非特許文献3】H.Ozawa,et.al.,NDF Dia.Symp.29,16(2015).
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US2013/0143022A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、ダイヤモンドは、半導体材料や電子・磁気デバイス用材料としての実用化が期待されており、大面積かつ高品質なダイヤモンド基板の供給が望まれている。例えば、特許文献1には、化学気相成長法によるヘテロエピタキシャル成長で、ダイヤモンド(111)結晶を形成する技術について報告されている。また、特に、ダイヤモンドの用途のうち重要度の高いNVCデバイス用途では、窒素-空孔軸(NV軸)が高配向であることが必要で、そのためダイヤモンド表面はNV軸が[111]方向に揃う(111)結晶面であることが望ましい(非特許文献1)。また、例えば医療用のMRI分野への適用を考えると、磁気センサー部となるダイヤモンド基板が大直径(大口径)であれば、より広い領域を効率良く測定できる装置が実現できる。また、製造コスト的にも有利である。
【0009】
また、当該ダイヤモンド基板を電子・磁気デバイスに用いる場合、センサー部分は、ダイヤモンド結晶中にNV軸が[111]方向に揃うことだけでなく、更に、高密度に形成する必要もある。
【0010】
これまでに報告されている、[111]配向した高密度NVC形成ダイヤモンド結晶の作製は、次の通りである。
【0011】
高温高圧合成(HPHT)法により合成された単結晶ダイヤモンドを下地基板として、マイクロ波プラズマ化学気相成長(CVD)法で、水素希釈メタンに窒素を添加して成長させることで検討されている(非特許文献2、3)。
【0012】
しかしながら、報告されている文献では、実用上大形サイズを得るのが困難なHPHTIb(111)のみをベース基板としており、更に、非特許文献2ではCVDにおけるガス組成の詳細が不明である。また、非特許文献3では文献中のCVD条件が最適化されているのか不明である。
【0013】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、下地基板上に、規定された条件でCVDを行うことで、NV軸が[111]高配向、かつ高密度な窒素-空孔センター(NVC)を有する、ダイヤモンド結晶を形成できるダイヤモンド基板の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、そのようなダイヤモンド基板を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、
マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法及びアーク放電プラズマジェットCVD法のいずれか1つのCVD法により、炭化水素ガスと希釈用ガスである水素ガスとを含む原料ガスを用いて、下地基板上にダイヤモンド結晶を形成してダイヤモンド基板を製造する方法において、前記下地基板上に形成するダイヤモンド結晶の少なくとも一部に、窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を形成するために、前記原料ガスに窒素ガスまたは窒化物ガスを混入すると共に、前記原料ガスに含まれる各ガスの量を、炭化水素ガスの量を0.005体積%以上6.000体積%以下、水素ガスの量を93.500体積%以上99.995体積%未満、窒素ガスまたは窒化物ガスの量を5.0×10-5体積%以上5.0×10-1体積%以下として、前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を形成することを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法を提供する。
【0015】
このようなCVD条件のダイヤモンド基板の製造方法によれば、高結晶性で、NV軸が[111]高配向、かつ高密度なNVCを有するダイヤモンド結晶層が形成されたダイヤモンド基板を製造することができる。このようなダイヤモンド結晶は、電子・磁気デバイス用に好適なものとすることができる。
【0016】
このとき、前記炭化水素ガスとして、メタンガスを用い、前記原料ガスに混入する窒素ガスまたは窒化物ガスとして、窒素ガスを用い、前記原料ガスに含まれる各ガスの量を、メタンガスの量を0.1体積%以上6.000体積%以下、水素ガスの量を93.500体積%以上99.900体積%未満、窒素ガスの量を5.0×10-5体積%以上5.0×10-1体積%以下とすることができる。
【0017】
このようなCVD条件のダイヤモンド基板の製造方法とすることにより、より効果的に、高結晶性で、NV軸が[111]高配向、かつ高密度なNVCを有するダイヤモンド結晶層が形成されたダイヤモンド基板を製造することができる。
【0018】
このとき、前記CVD法によるダイヤモンド結晶の形成におけるガス圧力を、1.3kPa(10Torr)以上50.0kPa(376Torr)以下とすることができる。
【0019】
さらに、前記CVD法によるダイヤモンド結晶の形成におけるガス圧力を、12.0kPa(90Torr)以上33.3kPa(250Torr)以下とすることができる。
【0020】
このようなガス圧力の条件により、より効果的に非単結晶ダイヤモンドの成長が抑えられて、高結晶性を有する単結晶ダイヤモンドが得られる。
【0021】
また、前記CVD法によるダイヤモンド結晶の形成における放電電力密度を、188W/cm以上942W/cm以下とすることができる。
【0022】
このような放電電力密度の条件により、より効果的に非単結晶ダイヤモンドの成長が抑えられて、高結晶性を有する単結晶ダイヤモンドが得られる。
【0023】
また、前記CVD法によるダイヤモンド結晶の形成における放電電流密度を、0.09A/cm以上0.85A/cm以下とすることができる。
【0024】
このような放電電流密度の条件により、より効果的に非単結晶ダイヤモンドの成長が抑えられて、高結晶性を有する単結晶ダイヤモンドが得られる。
【0025】
また、本発明のダイヤモンド基板の製造方法では、前記下地基板を、単結晶ダイヤモンドの単層基板とすることができる。
【0026】
このように下地基板として単結晶ダイヤモンドを採用することによって、より効果的にNVC含有ダイヤモンド結晶のNV軸を[111]高配向、高密度で形成することができる。
【0027】
このとき、前記単結晶ダイヤモンドの単層基板を、単結晶ダイヤモンド(111)であって、主表面が結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-1 2]方向又はその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下又は+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることが好ましい。
【0028】
このような単結晶ダイヤモンド(111)を下地基板として用いることにより、ステップフロー成長をしやすく、より、ヒロック、異常成長粒子、転位欠陥等が少ない高品質な単結晶ダイヤモンドを形成することができる。
【0029】
また、前記単結晶ダイヤモンドの単層基板を、高温高圧合成単結晶ダイヤモンド、ヘテロエピタキシャル単結晶ダイヤモンド、CVD合成ホモエピタキシャルダイヤモンド、及びこれらを組み合わせた単結晶ダイヤモンドのいずれかとすることができる。
【0030】
本発明のダイヤモンド基板の製造方法における下地基板としては、これらの単結晶ダイヤモンドを好適に採用することができる。
【0031】
また、本発明のダイヤモンド基板の製造方法では、前記下地基板を、下層基板と該下層基板上の中間層から成る積層構造とすることができる。
【0032】
本発明のダイヤモンド基板の製造方法における下地基板としては、このような積層構造を有する基板も採用することができる。
【0033】
この場合、前記中間層の最表面を、Ir、Rh、Pd及びPtから選択される金属層とすることができる。
【0034】
このような種類の金属層で中間層の最表面を形成することにより、核形成処理(バイアス処理)した際にダイヤモンド核が高密度になりやすく、その上に単結晶ダイヤモンド層が形成されやすくなる。
【0035】
また、前記下層基板を、単一のSi、MgO、Al、SiO、Si、若しくはSiCからなる基板、又は、Si、MgO、Al、SiO、Si、若しくはSiCから選択される層の複数層からなる積層体とすることができる。
【0036】
これらの材料を下層基板とすると、中間層とともに、下地基板の主表面の結晶面方位(オフ角を含む)の設定が容易であるため、下地基板の下層基板の材料として好ましい。
【0037】
また、前記下層基板をSi(111)とするか、又は、前記下層基板と前記中間層との間にSi(111)の層を更に含むものとすることができる。
【0038】
このような構成とすることにより、ダイヤモンド基板の大面積化に有利なエピタキシャル成長が可能となる。
【0039】
この場合、前記下層基板のSi(111)又は前記下層基板と前記中間層との間のSi(111)の層を、主表面が結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-1 2]方向又はその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下又は+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることができる。
【0040】
下地基板の積層構造をこのように構成することにより、ステップフロー成長をしやすく、ヒロック、異常成長粒子、転位欠陥等が少ない高品質単結晶ダイヤモンド結晶を形成できる。
【0041】
また、前記下層基板をMgO(111)とするか、又は、前記下層基板と前記中間層との間にMgO(111)の層を更に含むものとすることができる。
【0042】
このような構成とすることにより、ダイヤモンド基板の大面積化に有利なエピタキシャル成長が可能となる。
【0043】
このとき、前記下層基板のMgO(111)又は前記下層基板と前記中間層との間のMgO(111)の層を、主表面が結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-1 2]方向又はその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下又は+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることができる。
【0044】
下地基板の積層構造をこのように構成することにより、ステップフロー成長をしやすく、ヒロック、異常成長粒子、転位欠陥等が少ない高品質単結晶ダイヤモンド結晶を形成できる。また、このようなMgO(111)は、ダイヤモンドと格子定数が近いため高品質なダイヤモンド結晶のエピタキシャル成長が可能となる。
【0045】
また、本発明は、上記のダイヤモンド基板の製造方法において、前記CVD法によるダイヤモンド結晶の形成を行うチャンバーにはSi含有の部材を使用しないようにすることができる。
【0046】
これにより、形成するダイヤモンド結晶へのSiの混入が無くなり、製造したダイヤモンド基板を電気・磁気デバイスとして用いる場合に、シリコン-空孔センターからのノイズ影響がなく、高感度化が得られる。
【0047】
この場合、前記チャンバーの覗窓に、サファイアを用いることができる。
【0048】
これにより、形成するダイヤモンド結晶へのSiの混入無しに、CVD中のプロセスの様子を目視することが可能になるとともに、放射温度計で温度の確認などを行うことが可能となる。
【0049】
また、本発明は、上記のダイヤモンド基板の製造方法により得られた、前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を含むダイヤモンド基板から、前記下地基板を除去して、前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を含む単結晶ダイヤモンド自立基板を得ることもできる。
【0050】
これにより、高結晶性で、NV軸が[111]高配向、かつ高密度なNVCを有するダイヤモンド結晶層を含む単結晶ダイヤモンド自立基板を得ることができる。これは、電子・磁気デバイスに適用可能である。
【0051】
また、本発明は、上記のダイヤモンド基板の製造方法により得られた、前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を含むダイヤモンド基板の前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層の表面を平滑化することもできる。
【0052】
これにより、NVCを有するダイヤモンド結晶層の表面における光の乱反射が抑えられて、取り出せるNVセンター光を増加させることができる。
【0053】
また、本発明は、窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を含むダイヤモンド基板であって、前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を、フォトルミネッセンス装置により、励起光波長532nm、励起光強度2.0mW、積算時間1秒、積算回数3回、ホール径100μm、対物レンズ15倍、298Kの室温測定の条件で測定したときに、NVセンター光(波長637nm)光強度INV-が、INV-≧2800countsであることを特徴とするダイヤモンド基板を提供する。
【0054】
このようなダイヤモンド基板は、高結晶性で、NV軸が[111]高配向、かつ高密度なNVCを有するものである。また、そのため、電子・磁気デバイスに適用可能である。
【0055】
この場合、前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を、前記フォトルミネッセンス装置により、励起光波長532nm、励起光強度2.0mW、積算時間1秒、積算回数3回、ホール径100μm、対物レンズ15倍、298Kの室温測定の条件で測定したときに、NVセンター光(波長637nm)光強度INV-とRaman散乱光(波長573nm)光強度IRamanとの比INV-/IRamanが、INV-/IRaman≧0.04であることが好ましい。
【0056】
また、前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層における窒素濃度[N]が、5×1017atoms/cm≦[N]≦9×1019atoms/cmであることが好ましい。
【0057】
これらの物性を有することにより、より特性のよいNVC含有ダイヤモンド結晶を有するダイヤモンド基板とすることができる。
【0058】
また、前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層の表面の平均表面粗さRaが、Ra≦270nmであることが好ましい。
【0059】
このような表面粗さであれば、NVCを有するダイヤモンド結晶層の表面における光の乱反射が抑えられて、取り出せるNVセンター光を増加させることができる。
【発明の効果】
【0060】
以上のように、本発明のダイヤモンド基板の製造方法によれば、高結晶性で、NV軸が[111]高配向、かつ高密度なNVCを有するダイヤモンド結晶層が形成されたダイヤモンド基板を製造することができる。このようなダイヤモンド結晶は、電子・磁気デバイス用に好適なものとすることができる。
【0061】
また、本発明のダイヤモンド基板によれば、高結晶性で、NV軸が[111]高配向、かつ高密度なNVCを有する、電子・磁気デバイスに適用可能なダイヤモンド基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】本発明に係る単層の下地基板上にNVC含有ダイヤモンドを形成した例を示す。
図2】本発明に係る積層の下地基板上にNVC含有ダイヤモンドを形成した例を示す。
図3】本発明に係る積層の下地基板上に窒素アンドープダイヤモンド、NVC含有ダイヤモンドを形成した例を示す。
図4】本発明に係るNVC含有ダイヤモンド層/窒素アンドープダイヤモンド層を残したダイヤモンド基板の例を示す。
図5】基板の面方位を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
上述のように、電子・磁気デバイス用に好適な、大直径(大口径)、高結晶性で、NV軸が[111]高配向、かつ高密度なNVCを有するダイヤモンド基板を得ることが求められていた。
【0065】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法及びアーク放電プラズマジェットCVD法のいずれか1つのCVD法により、炭化水素ガスと希釈用ガスである水素ガスとを含む原料ガスを用いて、下地基板上にダイヤモンド結晶を形成してダイヤモンド基板を製造する方法において、前記下地基板上に形成するダイヤモンド結晶の少なくとも一部に、窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を形成するために、前記原料ガスに窒素ガスまたは窒化物ガスを混入すると共に、前記原料ガスに含まれる各ガスの量を、炭化水素ガスの量を0.005体積%以上6.000体積%以下、水素ガスの量を93.500体積%以上99.995体積%未満、窒素ガスまたは窒化物ガスの量を5.0×10-5体積%以上5.0×10-1体積%以下として、前記窒素空孔中心を有するダイヤモンド結晶層を形成することを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法により、高結晶性で、NV軸が[111]高配向、かつ高密度なNVCを有するダイヤモンド基板を得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0066】
NVCを有するダイヤモンド結晶層を形成するための原料ガスにおいて、炭化水素ガスとしてメタンガス、アセチレン、エチレン、エタン、プロパンなどを用いることができるが、メタンガスが高純度ガスを安価に入手しやすく、取り扱いも容易なので好ましい。
【0067】
メタンガスなどの炭化水素ガスの量が0.005体積%未満では水素によるエッチング効果が高くなってダイヤモンドが成長しにくくなる。炭化水素ガス量のより好ましい範囲は0.01体積%以上、更に好ましくは0.05体積%以上、最も好ましくは0.1体積%以上が良い。一方、炭化水素ガスの量が6.0体積%超では、長時間成長を行うとダイヤモンドが多結晶化してしまうため、良質な単結晶が得られにくい。炭化水素ガスの量は、より好ましくは5.5体積%以下、更に好ましくは5.0体積%以下が良い。
【0068】
また、この原料ガスにおいて、窒素ガスまたは窒化物ガスの量が5.0×10-5体積%未満では、ダイヤモンド結晶への窒素ドープ量が少な過ぎて、NVC密度も低くなってしまう。窒素ガスまたは窒化物ガスのより好ましい範囲は5.0×10-4体積%以上、更に好ましくは1.0×10-3体積%以上が良い。一方、この窒素ガスまたは窒化物ガスの量が5.0×10-1体積%超では、長時間成長を行うとダイヤモンドが多結晶化しやすくなるため、良質な単結晶が得られにくい。より好ましい窒素ガスまたは窒化物ガス量の範囲は1.0×10-2体積%以下が良い。窒化物ガスとしては、アンモニア、酸化窒素、二酸化窒素などを用いることができるが、窒素ガスが高純度ガスを安価に入手しやすく、取り扱いも容易なので好ましい。
【0069】
上記のように、炭化水素ガスとしてメタンガスを用いることが好ましく、原料ガスに混入する窒素ガスまたは窒化物ガスとして窒素ガスを用いることが好ましい。この場合、原料ガスに含まれる各ガスの量としては、メタンガスの量を0.1体積%以上6.000体積%以下、水素ガスの量を93.500体積%以上99.900体積%未満、窒素ガスの量を5.0×10-5体積%以上5.0×10-1体積%以下とすることが好ましい。
【0070】
このとき、各CVD法によるダイヤモンド結晶の形成におけるガス圧力は、1.3kPa(10Torr)以上50.0kPa(376Torr)以下とするとダイヤモンドの多結晶化を効果的に防止できるため、良質な単結晶を得ることができるので好ましい。ガス圧力が低すぎると、放電が発生し難く、またプラズマ密度が低すぎて良質な単結晶ダイヤモンドが得られ難い。一方、ガス圧力が高すぎると、やはり放電が発生し難くなったり、高温化による結晶性の低下、更にダイヤモンドの形成範囲が小さくなるなど問題が発生し易くなる。ガス圧力のより好ましい範囲は12.0kPa(90Torr)以上であり、33.3kPa(250Torr)以下である。
【0071】
また、各CVD法によるダイヤモンド結晶の形成における放電電力密度を高めることによって、ダイヤモンドの成長を効果的に進めることができるので、188W/cm以上942W/cm以下とすることが好ましい。この放電電力密度は、より好ましくは210W/cm以上が良い。放電電力密度が高過ぎると長時間成長を行うとダイヤモンドの多結晶化が起こり易くなるので、より好ましくは、800W/cm以下が良い。これによって良質な単結晶を得ることができる。
【0072】
また、各CVD法によるダイヤモンド結晶の形成における放電電流密度を高めることによってダイヤモンドの成長を効果的に進めることができるので、0.09A/cm以上0.85A/cm以下とすることが好ましい。この放電電流密度は、より好ましくは0.10A/cm以上が良い。放電電流密度が高すぎると長時間成長を行うとダイヤモンドの多結晶化が起こり易く成るので、より好ましくは0.70A/cm以下が良い。これによって良質な単結晶を得ることができる。
【0073】
以下、図面を参照して説明する。まず、本明細書で使用する用語について定義する。
【0074】
本明細書では、主表面が(111)面である結晶層、結晶膜を、単に「(111)層」、「(111)膜」という。例えば、主表面が(111)面である単結晶ダイヤモンド層は「単結晶ダイヤモンド(111)層」という。
【0075】
また、オフ角の関係を図5に示す。図5には、主面が(111)面である基板の、
[-1-1 2]方向とその三回対称方向である、[-1 2-1]、[ 2-1-1]方向とオフ角の概念図を示した。なお、本明細書では、
【数1】
方向を[-1-1 2]方向と表記する。他の方向も同様であり、通常のミラー指数の表記で数字の上に付ける線を、数字の前の「-」で代用する。
【0076】
(NVC含有ダイヤモンド基板の製造方法)
上記のように、本発明で下地基板上にダイヤモンド結晶を形成するためのCVD(化学気相成長)法には、マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、アーク放電プラズマジェットCVD法が挙げられる。中でも、マイクロ波プラズマCVD法や直流プラズマCVD法で得られるダイヤモンドは、高結晶性で、ヒロック、異常成長粒子、転位欠陥が少なく、かつ不純物制御性が良好な高品質単結晶ダイヤモンドである。
【0077】
NV軸を[111]高配向、高密度で形成するには、下地基板を単結晶ダイヤモンドの単層基板とすることが好ましく、特に、下地基板に単結晶ダイヤモンド(111)を用いたエピタキシャル成長とすると良い。図1に、下地基板11上にNVC含有ダイヤモンド層12を形成したダイヤモンド基板100を示す。図1を参照して説明すると、下地基板11として単結晶ダイヤモンドの単層基板、特に単結晶ダイヤモンド(111)を用いることが好ましい。
【0078】
また、この場合、下地基板11として用いる単結晶ダイヤモンド(111)として、主表面が、結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-1 2]方向又はその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下又は+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることが好ましい。このような単結晶ダイヤモンド(111)を下地基板11として用いることにより、ステップフロー成長をしやすく、より、ヒロック、異常成長粒子、転位欠陥等が少ない高品質な単結晶ダイヤモンドを形成することができる。
【0079】
また、下地基板11として用いる単結晶ダイヤモンドの単層基板は、高温高圧合成単結晶ダイヤモンド、ヘテロエピタキシャル単結晶ダイヤモンド、CVD合成ホモエピタキシャルダイヤモンド、及びこれらを組み合わせた単結晶ダイヤモンドのいずれかとすることができる。本発明の下地基板11としてはこれらの単結晶ダイヤモンドを好適に採用することができる。
【0080】
他にも、本発明のダイヤモンド基板の製造方法においては、下地基板を、下層基板と該下層基板上の中間層から成る積層構造のものとしてもよい。図2に積層構造の下地基板上にNVC含有ダイヤモンド層を形成したダイヤモンド基板200を示した。すなわち、図2のダイヤモンド基板200は、下地基板21として、下層基板13と中間層14からなる積層構造のものを用いて該下地基板21上にNVC含有ダイヤモンド層15を形成したダイヤモンド基板200である。
【0081】
中間層14は、一層でも良いし、複数層の積層体でも良い。中間層14の最表面は、Ir、Rh、Pd及びPtから選択される金属層とすることが好ましい。このような金属膜を用いると、核形成処理(バイアス処理)した際にダイヤモンド核が高密度になりやすく、その上に単結晶ダイヤモンド層が形成されやすくなるので好ましい。
【0082】
また、この場合、下層基板13を、単一のSi、MgO、Al、SiO、Si、若しくはSiCからなる基板、又は、Si、MgO、Al、SiO、Si、若しくはSiCから選択される層の複数層からなる積層体としてもよい。これらの材料を下層基板13とすると、中間層14とともに、下地基板21の主表面の結晶面方位(オフ角を含む)の設定が容易であるため、下地基板21の下層基板13の材料として好ましい。しかも、これらの材料は、比較的価格が安価であり、容易に入手できるものである。
【0083】
また、下層基板13をSi(111)とするか、又は、下層基板13と中間層14との間にSi(111)の層を更に含むものとしてもよい。このようなSi(111)からなる下層基板13や、Si(111)層を有する下地基板21を用いることにより、直径4インチ(100mm)以上の基板など、ダイヤモンド基板200の大面積化に有利なエピタキシャル成長が可能となる。
【0084】
また、この場合の下層基板13のSi(111)又は下層基板と中間層との間のSi(111)の層を、主表面が結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-1 2]方向又はその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下又は+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることが好ましい。このようなSi(111)からなる下層基板13や、Si(111)層を有する下地基板21を用いることにより、ステップフロー成長をしやすく、ヒロック、異常成長粒子、転位欠陥等が少ない高品質単結晶ダイヤモンド結晶を形成できる。オフ角が-0.5°超の範囲や、+0.5°未満の範囲では、ステップ方向への成長が行われ難いため、良好な結晶が得られない。また、オフ角が-8.0°未満の範囲や、+8.0°超の範囲では、長時間成長を行うと、多結晶化してしまうため、良質な単結晶が得られない。
【0085】
また、図2のように、積層構造の下地基板21を用いる場合、下層基板13をMgO(111)とするか、又は、下層基板13と中間層14との間にMgO(111)の層を更に含むものとしてもよい。このようなMgO(111)からなる下層基板13や、MgO(111)層を有する下地基板21を用いることにより、直径4インチ(100mm)以上の基板など、ダイヤモンド基板200の大面積化に有利なエピタキシャル成長が可能となる。また、このようなMgO(111)は、ダイヤモンドと格子定数が近いため高品質なダイヤモンド結晶のエピタキシャル成長が可能となる。
【0086】
また、この場合の下層基板13のMgO(111)又は下層基板13と中間層14との間のMgO(111)の層を、主表面が結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-1 2]方向又はその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下又は+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることが好ましい。このようなMgO(111)からなる下層基板13や、MgO(111)層を有する下地基板21を用いることにより、ステップフロー成長をしやすく、ヒロック、異常成長粒子、転位欠陥等が少ない高品質単結晶ダイヤモンド結晶を形成できる。オフ角が-0.5°以下の範囲や、+0.5°以上の範囲であれば、ステップ方向への成長が行われやすいため、良好な結晶が得られやすい。またオフ角が-8.0°以上の範囲や、+8.0°以下の範囲では、長時間成長を行っても多結晶化しにくく、良質な単結晶が得られやすい。
【0087】
また、本発明のダイヤモンド基板の製造方法においては、CVD法によるダイヤモンド結晶の形成を行うチャンバーにSi含有の部材を使用しないことが好ましい。従来のダイヤモンド製造を行う通常のCVD装置においては、チャンバー内壁はステンレス鋼、ステージ類はステンレス鋼及びモリブデン、絶縁物類はSi、SiC、Al、BNなど、覗き窓はSiOが使用されている。このような通常のCVD装置を用いてダイヤモンド製造を行うと、ダイヤモンド結晶中にSiが混入して、これは珪素-空孔センター(SiVC)を形成して、ダイヤモンド基板を電子・磁気センサーに使用する場合のノイズ源となる。そこで、本発明において、各CVD法によるダイヤモンド結晶の形成を行うチャンバーの部材(チャンバー内壁、ステージ類、覗き窓等)にはSi含有の部材を使用しないことが好ましい。
【0088】
特に、Si混入源と考えられるのはCVD装置のチャンバーの覗窓である。従って、チャンバーの覗窓に、サファイアを用いることが好ましい。
【0089】
また、本発明においては、上記のダイヤモンド基板の製造方法により得られた、NVCを有するダイヤモンド結晶層を含むダイヤモンド基板から、下地基板を除去することができる。これにより、NVCを有するダイヤモンド結晶層を含む単結晶ダイヤモンド自立基板を得ることができる。このようにして、NVC含有部分の存在割合を大きくしたダイヤモンド基板では、実使用でのノイズの原因を減らせるため、高感度な電子・磁気デバイスの実現が可能となる。なお、下地基板が単層の場合は下地基板全体を除去することができる。また、下地基板が下層基板と中間層からなる場合は、下層基板のみを除去することもできるし、下層基板と中間層の両方を除去することもできる。また、下地基板の一部を除去することもできる。
【0090】
図3には、積層構造の下地基板21上に、(単結晶からなる)窒素アンドープダイヤモンド層16、更に(単結晶からなる)NVC含有ダイヤモンド層15の順で形成した場合のダイヤモンド基板300を示した。図4には、図3のダイヤモンド基板300から、下地基板21の部分(下層基板13及び中間層14)を除去して、NVC含有ダイヤモンド層15/窒素アンドープダイヤモンド層16からなるダイヤモンド基板400(ダイヤモンド基板の自立構造基板)とした場合を示した。
【0091】
下地基板11、21の除去方法は特に限定されない。研磨等の機械的処理、ウェット又はドライエッチング処理など、下地基板11、21や、下層基板13及び中間層14の材料に合わせて適宜選択すればよい。また、上記の各処理を組み合わせることもできる。
【0092】
また、NVC含有ダイヤモンド結晶層の表面を平滑化する工程を入れてもよい。平滑化を行うには、機械的研磨、化学・機械的研磨、プラズマ処理、スパッタ処理、化学エッチング、などを行うとよい。NVC含有ダイヤモンド結晶層の表面の平均表面粗さRaを270nm以下とすると、光の乱反射が抑えられて、取り出せるNVセンター光を増大させることができる。
【0093】
上記本発明のダイヤモンド基板の製造方法により、以下のようなダイヤモンド基板を得ることができる。すなわち、NVCを有するダイヤモンド結晶層を含むダイヤモンド基板であって、NVCを有するダイヤモンド結晶層を、フォトルミネッセンス装置により、励起光波長532nm、励起光強度2.0mW、積算時間1秒、積算回数3回、ホール径100μm、対物レンズ15倍、298Kの室温測定の条件で測定したときに、NVセンター光(波長637nm)光強度INV-が、INV-≧2800countsであるダイヤモンド基板である。上記測定に用いるフォトルミネッセンス装置は、堀場製作所製、LabRAM-HR PLとすることができる。
【0094】
このようなダイヤモンド基板は、高結晶性で、NV軸が[111]高配向、かつ高密度なNVCを有するものである。また、そのため、電子・磁気デバイスに適用可能である。
【0095】
ここで、上記のNVCを有するダイヤモンド結晶層は、上記フォトルミネッセンス装置により、励起光波長532nm、励起光強度2.0mW、積算時間1秒、積算回数3回、ホール径100μm、対物レンズ15倍、298Kの室温測定の条件で測定したときに、NVセンター光(波長637nm)光強度INV-とRaman散乱光(波長573nm)光強度IRamanとの比INV-/IRamanが、INV-/IRaman≧0.04であることが好ましい。
【0096】
また、上記のNVCを有するダイヤモンド結晶層における窒素濃度[N]が、5×1017atoms/cm≦[N]≦9×1019atoms/cmであることが好ましい。
【0097】
これらの物性を有することにより、より特性のよいNVC含有ダイヤモンド結晶を有するダイヤモンド基板とすることができる。
【0098】
また、上記のように、NVC含有ダイヤモンド結晶層の表面の平均表面粗さRaを270nm以下とすると、光の乱反射が抑えられて、取り出せるNVセンター光を増大させることができるので好ましい。
【実施例0099】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0100】
(実施例1)
下地基板として、直径20.0mm、厚さ1.0mm、主表面が(111)面で、結晶軸[-1-1 2]方向に2°のオフ角を有する、片面研磨された単結晶MgO基板(以下、「単結晶MgO(111)基板」という)を用意した。
【0101】
次に、用意した単結晶MgO(111)基板の表面に、R.F.マグネトロンスパッター法によって単結晶Ir膜の中間層を形成した。単結晶Ir膜の形成には、直径6インチ(150mm)、厚さ5.0mm、純度99.9%以上のIrをターゲットとした、高周波(RF)マグネトロンスパッター法(13.56MHz)を用いた。
【0102】
下層基板である単結晶MgO(111)基板を800℃に加熱し、ベースプレッシャーが6×10-7Torr(約8.0×10-5Pa)以下になったのを確認した後、Arガスを50sccmで導入した。次に、排気系に通じるバルブの開口度を調節して圧力を3×10-1Torr(約39.9Pa)とした後、RF電力1000Wを入力して15分間成膜を行った。これにより、厚さ1.0μmの単結晶Ir膜が得られた。
【0103】
上述のようにして得られた、単結晶MgO(111)基板上に単結晶Ir膜を積層させたものは、単結晶MgO基板に付けられたオフ角にならって、ヘテロエピタキシャル成長した。この単結晶Ir膜を、波長λ=1.54ÅのX線回折法で分析したところ、表面が(111)面で結晶軸[-1-1 2]方向に2°のオフ角が付いていた。また、Ir(111)帰属の2θ=40.7°における回折ピークの半値幅(FWHM)が0.187°であった。この単結晶Ir膜を、以下、「Ir(111)膜」という。
【0104】
次に、ダイヤモンドの核形成を行うための前処理として、核形成処理(バイアス処理)を行った。処理室内の直径25mmの平板型電極上に、Ir(111)膜側を上にして基板をセットした。ベースプレッシャーが1×10-6Torr(約1.3×10-4Pa)以下になったのを確認した後、水素希釈メタンガス(CH/(CH+H)=5.0体積%)を、処理室内に500sccmの流量で導入した。排気系に通じるバルブの開口度を調整して、圧力を100Torr(約1.3×10Pa)とした後、基板側電極に負電圧を印加して90秒間プラズマにさらして、基板(Ir(111)膜)表面をバイアス処理した。
【0105】
上述のようにして作製したIr(111)膜/単結晶MgO(111)基板上に、直流プラズマCVD法によってダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させた。バイアス処理を行ったIr(111)膜/単結晶MgO(111)基板を、直流プラズマCVD装置のチャンバー内にセットし、ベースプレッシャーが1×10-6Torr(約1.3×10-4Pa)以下になったのを確認した後、原料であるメタンガス、水素ガスの混合ガスを、
メタンガス 5.000体積%、
水素ガス 95.000体積%、
の体積比で、チャンバー内に200sccmの流量で導入した。排気系に通じるバルブの開口度を調節して、チャンバー内のプレッシャーを110Torr(約1.5×10Pa)にした後、6.0Aの直流放電電流を流して20時間製膜を行うことで、厚さが約130μmに達するまで製膜を行った。
【0106】
引き続き、原料であるメタンガス、水素ガス、更に窒素ガスを添加した混合ガスを、
メタンガス 2.000体積%、
水素ガス 97.995体積%
窒素ガス 5.0×10-3体積%,
の体積比に変更して、チャンバー内に200sccmの流量で導入した。プレッシャー、放電電流は同一のままとした。この条件で、6時間製膜を行うことで、窒素ドープ層を厚さ約20μmに達するまで製膜を行った。
【0107】
このようにして、Ir(111)膜/単結晶MgO(111)基板上に、ダイヤモンド層をヘテロエピタキシャル成長させて、積層基板を得た。
【0108】
この後、Ir(111)膜/単結晶MgO(111)基板を除去して自立基板化を行った。まず、単結晶MgO(111)基板をエッチング除去した後、Ir(111)膜を研磨で除去した。その結果、直径20mm、窒素ドープ単結晶ダイヤモンド膜約20μmとアンドープ単結晶ダイヤモンド(111)基板約130μm厚とから成る、単結晶ダイヤモンド(111)積層基板が得られた。
【0109】
当該積層構造のダイヤモンド基板の表面側を研磨加工して仕上げた。
【0110】
最後に、仕上がった積層基板についてSIMS、XRD、PL、表面粗さの各分析を行った。
【0111】
二次イオン質量分析(SIMS)装置(CAMECA IMS-7f)で結晶中の窒素濃度[N]を測定した。その結果、膜最表面から約10μmの深さにおける窒素濃度[N]は、
[N]=8×1018atoms/cm
であった。
【0112】
X線回折(XRD)装置(RIGAKU SmartLab)で、膜最表面から結晶性を測定した。その結果、2θ=43.9°のダイヤモンド(111)帰属の回折強度ピークのみが見られ、窒素ドープ単結晶ダイヤモンド膜は、アンドープ単結晶ダイヤモンド(111)層に対して、エピタキシャル成長していることを確認した。
【0113】
更に、フォトルミネッセンス(PL)装置(堀場製作所 LabRAM-HR PL)で、励起光波長532nm、励起光強度2.0mW、積算時間1秒、積算回数3回、ホール径100μm、対物レンズ15倍、室温測定(298K)の条件で測定した。その結果、NVセンター光(波長637nm)光強度INV-が、
NV-= 15090 (counts)
であった。
【0114】
また、INV-とRaman散乱光(波長573nm)光強度IRamanとの比INV-/IRamanが、
NV-/IRaman=1.54
であった。
【0115】
従って、得られた窒素ドープ膜は、NVCが高密度に形成された、単結晶ダイヤモンド(111)結晶であった。
【0116】
なお、ダイヤモンド基板の表面を、光学式表面粗さ計(ZYGO社 New View 5032)を用いて、290μm×218μm領域を測定したところ、平均表面粗さRaは147nmであった。
【0117】
当該NVC含有ダイヤモンド(111)基板を、電子・磁気デバイスに適用すれば、高性能デバイスを得ることができる。例えば高感度な磁気センサーを得ることができる。
【0118】
(実施例2)
下地基板として、直径20mm、厚さ125μm、主表面が(111)で、結晶軸[-1-1 2]方向に2°のオフ角を有する、片面研磨された単結晶ダイヤモンド基板を用意した。この単結晶ダイヤモンド基板の製造方法は、以下の通りである。まず、実施例1と同様な手順で、窒素アンドープ単結晶ダイヤモンド層形成までを行って、窒素アンドープ単結晶ダイヤモンド層/Ir(111)膜/単結晶MgO(111)基板を得た。次に、Ir(111)膜/単結晶MgO(111)基板を除去して自立基板化を行った。具体的には、単結晶MgO(111)基板をエッチング除去した後、Ir(111)膜を研磨で除去した。その結果、直径20mm、厚さ約130μmの窒素アンドープ単結晶ダイヤモンド(111)自立単層基板が得られた。当該基板の表面側を研磨加工して、下地基板となる、直径20mm、厚さ約120μm、主表面が(111)で、結晶軸[-1-1 2]方向に2°のオフ角を有する、片面研磨された単結晶ダイヤモンド基板を得た。
【0119】
上述のようにして作製した下地基板上に、直流プラズマCVD法によって窒素ドープ単結晶ダイヤモンドをエピタキシャル成長させた。下地基板を、直流プラズマCVD装置のチャンバー内にセットし、ベースプレッシャーが1×10-6Torr(約1.3×10-4Pa)以下になったのを確認した後、原料であるメタンガス、水素ガス、更に窒素ガスを添加した混合ガスを、
メタンガス 0.200体積%、
水素ガス 99.795体積%
窒素ガス 5.0×10-3体積%,
の体積比で、チャンバー内に200sccmの流量で導入した。排気系に通じるバルブの開口度を調節して、チャンバー内のプレッシャーを110Torr(約1.5×10Pa)にした後、6.0Aの直流放電電流を流して20時間製膜を行うことで、窒素ドープ単結晶ダイヤモンド層を厚さ約70μmに達するまで製膜を行った。
【0120】
このようにして、窒素ドープ単結晶ダイヤモンド層/アンドープ単結晶ダイヤモンド(111)基板の積層ダイヤモンド基板を得た。
【0121】
最後に、仕上がった積層基板についてSIMS、XRD、PL、表面粗さの各分析を行った。
【0122】
二次イオン質量分析(SIMS)装置(CAMECA IMS-7f)で結晶中の窒素濃度[N]を測定した。その結果、膜最表面から約15μmの深さにおける窒素濃度[N]は、
[N]=8×1018atoms/cmであった。
【0123】
X線回折(XRD)装置(RIGAKU SmartLab)で、膜最表面から結晶性を測定した。その結果、2θ=43.9°のダイヤモンド(111)帰属の回折強度ピークのみが見られ、Nドープ膜は、アンドープ単結晶ダイヤモンド(111)基板に対して、エピタキシャル成長していることを確認した。
【0124】
更に、フォトルミネッセンス(PL)装置(堀場製作所 LabRAM-HR PL)で、励起光波長532nm、励起光強度2.0mW、積算時間1秒、積算回数3回、ホール径100μm、対物レンズ15倍、室温測定(298K)の条件で測定した。その結果、NVセンター光(波長637nm)光強度INV-が、
NV-= 341213 (counts)
であった。
また、INV-とRaman散乱光(波長573nm)光強度IRamanとの比INV-/IRamanが、
NV-/IRaman=4.35
であった。
【0125】
従って、得られた窒素ドープ膜は、NVCが高密度に形成された、単結晶ダイヤモンド(111)結晶であった。
【0126】
なお、ダイヤモンド基板の表面を、光学式表面粗さ計(ZYGO社 New View 5032)を用いて、290μm×218μm領域を測定したところ、平均表面粗さRaは261nmであった。
【0127】
当該NVC含有ダイヤモンド(111)基板を、電子・磁気デバイスに適用すれば、高性能デバイスを得ることができる。例えば高感度な磁気センサーを得ることができる。
【0128】
(実施例3)
実施例2と同様にして作製した直径20mm、厚さ約120μm、主表面が(111)で、結晶軸[-1-1 2]方向に2°のオフ角を有する、片面研磨されたアンドープ単結晶ダイヤモンドから成る下地基板上に、以下のように、直流プラズマCVD法によって窒素ドープ単結晶ダイヤモンドをエピタキシャル成長させた。
【0129】
まず、下地基板を、直流プラズマCVD装置のチャンバー内にセットし、ベースプレッシャーが1×10-6Torr(約1.3×10-4Pa)以下になったのを確認した後、原料であるアセチレン(C)ガス、水素ガス、更にアンモニア(NH)ガスを添加した混合ガスを、
アセチレンガス 0.500体積%、
水素ガス 99.485体積%
アンモニアガス 1.5×10-2体積%,
の体積比に変更して、チャンバー内に200sccmの流量で導入した。排気系に通じるバルブの開口度を調節して、チャンバー内のプレッシャーを110Torr(約1.5×10Pa)にした後、6.0Aの直流放電電流を流して、5時間製膜を行うことで、窒素ドープ層を厚さ約20μmに達するまで製膜を行った。
【0130】
このようにして、直径20mm、窒素ドープ単結晶ダイヤモンド膜約20μmとアンドープ単結晶ダイヤモンド(111)基板約120μm厚とから成る、単結晶ダイヤモンド(111)積層基板が得られた。
【0131】
当該積層構造のダイヤモンド基板の表面側を研磨加工して仕上げた。
【0132】
最後に、仕上がった積層基板についてSIMS、XRD、PL、表面粗さの各分析を行った。
【0133】
二次イオン質量分析(SIMS)装置(CAMECA IMS-7f)で結晶中の窒素濃度[N]を測定した。その結果、膜最表面から約10μmの深さにおける窒素濃度[N]は、
[N]=1×1019atoms/cm
であった。
【0134】
X線回折(XRD)装置(RIGAKU SmartLab)で、膜最表面から結晶性を測定した。その結果、2θ=43.9°のダイヤモンド(111)帰属の回折強度ピークのみが見られ、窒素ドープ単結晶ダイヤモンド膜は、アンドープ単結晶ダイヤモンド(111)層に対して、エピタキシャル成長していることを確認した。
【0135】
更に、フォトルミネッセンス(PL)装置(堀場製作所 LabRAM-HR PL)で、励起光波長532nm、励起光強度2.0mW、積算時間1秒、積算回数3回、ホール径100μm、対物レンズ15倍、室温測定(298K)の条件で測定した。その結果、NVセンター光(波長637nm)光強度INV-が、
NV-= 84290 (counts)
であった。
【0136】
また、INV-とRaman散乱光(波長573nm)光強度IRamanとの比INV-/IRamanが、
NV-/IRaman=2.93
であった。
【0137】
従って、得られた窒素ドープ膜は、NVCが高密度に形成された、単結晶ダイヤモンド(111)結晶であった。
【0138】
なお、ダイヤモンド基板の表面を、光学式表面粗さ計(ZYGO社 New View 5032)を用いて、290μm×218μm領域を測定したところ、平均表面粗さRaは12nmであった。
【0139】
当該NVC含有ダイヤモンド(111)基板を、電子・磁気デバイスに適用すれば、高性能デバイスを得ることができる。例えば高感度な磁気センサーを得ることができる。
【0140】
(実施例4)
下地基板として、角形2.0mm、厚さ0.5mm、主表面が(111)面で、結晶軸[-1-1 2]方向に2°のオフ角を有する、片面研磨された高温高圧合成Ib型単結晶ダイヤモンド基板(以下、「HPHT(111)基板」という)を用意した。
【0141】
次に用意したHPHT(111)基板上に、直流プラズマCVD法によってダイヤモンドをエピタキシャル成長させた。当該基板を、直流プラズマCVD装置のチャンバー内にセットし、ベースプレッシャーが1×10-6Torr(約1.3×10-4Pa)以下になったのを確認した後、原料であるメタンガス、水素ガス、更に窒素ガスを添加した混合ガスを、
メタンガス 0.005体積%、
水素ガス 99.995体積%、
窒素ガス 5.0×10-5体積%
の体積比で、チャンバー内に200sccmの流量で導入した。排気系に通じるバルブの開口度を調節して、チャンバー内のプレッシャーを110Torr(約1.5×10Pa)にした後、6.0Aの直流放電電流を流して20時間製膜を行うことで、厚さが約3μmに達するまで製膜を行った。
【0142】
この様にして、角形2.0mm、窒素ドープ単結晶ダイヤモンド膜約3μmと下地のHPHT(111)基板約0.5mm厚とから成る、単結晶ダイヤモンド(111)積層基板が得られた。
【0143】
最後に、仕上がった積層基板についてSIMS、XRD、PL、表面粗さの各分析を行った。
【0144】
二次イオン質量分析(SIMS)装置(CAMECA IMS-7f)で結晶中の窒素濃度[N]を測定した。その結果、膜最表面から約10μmの深さにおける窒素濃度[N]は、
[N]=5×1017atoms/cm
であった。
【0145】
X線回折(XRD)装置(RIGAKU SmartLab)で、膜最表面から結晶性を測定した。その結果、2θ=43.9°のダイヤモンド(111)帰属の回折強度ピークのみが見られ、窒素ドープ単結晶ダイヤモンド膜は、アンドープ単結晶ダイヤモンド(111)層に対して、エピタキシャル成長していることを確認した。
【0146】
更に、フォトルミネッセンス(PL)装置(堀場製作所 LabRAM-HR PL)で、励起光波長532nm、励起光強度2.0mW、積算時間1秒、積算回数3回、ホール径100μm、対物レンズ15倍、室温測定(298K)の条件で測定した。その結果、NVセンター光(波長637nm)光強度INV-が、
NV-= 2890 (counts)
であった。
【0147】
また、INV-とRaman散乱光(波長573nm)光強度IRamanとの比INV-/IRamanが、
NV-/IRaman=0.05
であった。
【0148】
従って、得られた窒素ドープ膜は、NVCが高密度に形成された、単結晶ダイヤモンド(111)結晶であった。
【0149】
なお、ダイヤモンド基板の表面を、光学式表面粗さ計(ZYGO社 New View 5032)を用いて、290μm×218μm領域を測定したところ、平均表面粗さRaは40nmであった。
【0150】
当該NVC含有ダイヤモンド(111)基板を、電子・磁気デバイスに適用すれば、高性能デバイスを得ることができる。例えば高感度な磁気センサーを得ることができる。
【0151】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0152】
11…下地基板、 12…NVC含有ダイヤモンド層、
13…下層基板、 14…中間層、 15…NVC含有ダイヤモンド層、
16…アンドープダイヤモンド層、
21…下地基板、
100、200、300、400…ダイヤモンド基板。
図1
図2
図3
図4
図5