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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092065
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】脂質排泄促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/17 20060101AFI20240628BHJP
   A61K 36/232 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 36/234 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 36/238 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 36/346 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 36/534 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 36/538 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 36/539 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 36/634 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 36/65 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 36/725 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 36/744 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 36/9068 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
A61K36/17
A61K36/232
A61K36/234
A61K36/238
A61K36/346
A61K36/484
A61K36/534
A61K36/538
A61K36/539
A61K36/634
A61K36/65
A61K36/725
A61K36/744
A61K36/9068
A61P3/04
A61P3/00
A61K33/06
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024077813
(22)【出願日】2024-05-13
(62)【分割の表示】P 2022102647の分割
【原出願日】2017-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】赤木 淳二
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、摂取した脂質の便中への排泄を促進させる便中脂質排泄促進剤を提供することである。
【解決手段】防風通聖散エキスには、摂取した脂質の便中への排泄を促進させる作用があり、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人に対しても、脂質の過剰摂取による健康障害を改善又は回避することが可能になる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防風通聖散の水エキスを含有し、40~50歳代の人に対して適用され、コレステロールの便中への排泄促進のために使用される、便中脂質排泄促進剤。
【請求項2】
摂取した脂質の便中への排泄を促進するために用いられる、請求項1に記載の便中脂質排泄促進剤。
【請求項3】
防風通聖散の水エキスの抽出に使用された生薬調合物が、当該生薬調合物100重量部当たり、ショウキョウを1~5重量部含んでいる、請求項1又は2に記載の便中脂質排泄促進剤。
【請求項4】
6日以上継続的に服用される、請求項1~3のいずれかに記載の便中脂質排泄促進剤。
【請求項5】
体脂肪率が25%以上でウエストサイズが85cm以上である状態が5年以上続いている人に対して適用される、請求項1~4のいずれかに記載の便中脂質排泄促進剤。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摂取した脂質の便中への排泄を促進させる便中脂質排泄促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食文化の欧米化に伴い、日本人の脂質摂取量は増加しており、過剰に摂取された脂質は体重増加をもたらし、肥満等の原因となっている。脂質の過剰摂取による悪影響は、体内における脂質の分解能や代謝能を高めることによってある程度は改善できるが、服薬によって脂質の分解能や代謝能を向上させるには限界がある。特に、体脂肪率が25%以上でウエストサイズが85cm以上である状態が5年以上続いている人、中高年以上で長年肥満体質の人等では、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質になっており、このような体質の人に対しては脂質の分解能や代謝能を向上させることは困難と考えられている。そこで、脂質を便と共に排泄させて脂質の排泄量を増加させることが、脂質の過剰摂取による健康障害を改善又は回避するのに役立ち、特に、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人にとっては、脂質摂取による悪影響を避ける上で有効であると考えられている。
【0003】
一方、防風通聖散には、内臓脂肪の低減やメタボリックシンドロームの改善等に有効な漢方薬として知られている。また、防風通聖散の作用機序についても、交感神経系を介した褐色脂肪細胞における熱産生の活性化、白色脂肪細胞における脂肪の分解促進等が明らかにされている(非特許文献1参照)。また、防風通聖散エキスについては、内臓脂肪の低減効果の向上、呈味改善等の観点から、様々な製剤処方が開発されている(例えば、特許文献1及び2)。
【0004】
しかしながら、防風通聖散について、摂取した脂質の便中への排泄を促進させる作用があることを実際に検証した報告はない。また、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人は、脂質の分解能や代謝能の向上による効果は期待できないと考えられており、通常、防風通聖散を服薬していないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】漢方医学、Vol.37、No.1、2013年、38~40頁
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-242354号公報
【特許文献2】特開2009-242330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、摂取した脂質の便中への排泄を促進させる便中脂質排泄促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、防風通聖散エキスには、摂取した脂質の便中への排泄を促進させる作用があり、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人に対しても、脂質の過剰摂取による健康障害を改善又は回避することが可能になることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 防風通聖散エキスを含有する、便中脂質排泄促進剤。
項2. コレステロールの便中への排泄促進のために使用される、項1に記載の便中脂質排泄促進剤。
項3. 防風通聖散エキスの抽出に使用された生薬調合物が、当該生薬調合物100重量部当たり、ショウキョウを1~5重量部含んでいる、項1又は2に記載の便中脂質排泄促進剤。
項4. 6日以上継続的に服用される、項1~3のいずれかに記載の便中脂質排泄促進剤。
項5. 体脂肪率が25%以上でウエストサイズが85cm以上である状態が5年以上続いている人に対して適用される、項1~4のいずれかに記載の便中脂質排泄促進剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、摂取された脂質の便中への排泄を促進させることができ、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人に対しても、脂質の過剰摂取による健康障害を改善又は回避することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の便中脂質排泄促進剤は、防風通聖散エキスを含有することを特徴とする。以下、本発明の便中脂質排泄促進剤について詳述する。
【0012】
防風通聖散エキス
防風通聖散を構成する生薬は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)によれば、トウキ、シャクヤク、センキュウ、サンシシ、レンギョウ、ハッカ、ショウキョウ、ケイガイ、ボウフウ、マオウ、ダイオウ、ボウショウ、ビャクジュツ、キキョウ、オウゴン、カンゾウ、セッコウ、及びカッセキである。書簡によっては、前記生薬の内、ビャクジュツを含まないもの(例えば「経験漢方処方分量集」、大塚敬節・矢数道明監集、医道の日本社発行)や、オウゴンを含まないもの(例えば「続漢方あれこれ」大阪読売新聞社編、浪速社発行)がある。本発明で使用される防風通聖散エキスは、これらのいずれの防風通聖散から得られるものであってもよい。
【0013】
また、防風通聖散を構成する各生薬の分量は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)、「第十七改正日本薬局方」等によれば、トウキ1.2重量部、シャクヤク1.2重量部、センキュウ1.2重量部、サンシシ1.2重量部、レンギョウ1.2重量部、ハッカ1.2重量部、ショウキョウ0.3~1.2重量部、ケイガイ1.2重量部、ボウフウ1.2重量部またはハマボウフウ1.2重量部、マオウ1.2重量部、ダイオウ1.5重量部、ボウショウ(硫酸ナトリウム無水物換算量)0.6~1.5重量部、ビャクジュツ2重量部、キキョウ2重量部、オウゴン2重量部、カンゾウ2重量部、セッコウ2~3重量部、及びカッセキ3~5重量部である。また、書簡によっては、前記分量中、1.2重量部を全て1.5重量部としているものもある(例えば「明解漢方処方」、西岡一夫、高橋真太郎共著、浪速社発行)。
【0014】
防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物における各生薬の分量については、特に制限されず、前記で例示した書簡に示されている各生薬の分量で使用してもよいが、好適な例として、トウキ1.2重量部、シャクヤク1.2重量部、センキュウ1.2重量部、サンシシ1.2重量部、レンギョウ1.2重量部、ハッカ1.2重量部、ケイガイ1.2重量部、ボウフウ1.2重量部、マオウ1.2重量部、ダイオウ1.5重量部、ボウショウ(硫酸ナトリウム無水物換算量)0.6~1.5重量部、ビャクジュツ2重量部、キキョウ2重量部、オウゴン2重量部、カンゾウ2重量部、セッコウ2~3重量部(好ましくは2重量部)、及びカッセキ3~5重量部(好ましくは3重量部)であり、且つショウキョウが0.3~1.5重量部、好ましくは0.3~1.2重量部、更に好ましくは0.3~0.4重量部、特に好ましくは0.3重量部であるもの(以下、「態様A」と表記することもある)が挙げられる。防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物におけるショウキョウの分量を前記範囲に調節することによって、脂質の便中への排泄をより効果的に促進させることができる。また、前記の態様Aにおいて、ボウショウの分量が、硫酸ナトリウム無水物換算で、好ましくは0.6~1重量部、更に好ましくは0.6~0.75重量部、特に好ましくは0.7重量部が挙げられる。ボウショウの分量がこのような範囲を充足することによって、脂質の便中への排泄をより効果的に促進させることが可能になる。なお、本発明において、「防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物」とは、防風通聖散エキスの製造において、抽出に供される原料調合物、即ち、防風通聖散を構成する所定量の生薬を含む調合物である。また、ボウショウの硫酸ナトリウム無水物換算とは、ボウショウとして硫酸ナトリウムの水和物を使用する場合には、当該水和物を無水物重量に換算することを指す。なお、ボウショウとしては、硫酸ナトリウムの水和物(例えば、10水和物)及び/又は硫酸ナトリウム無水物が使用される。
【0015】
本発明で使用される防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例として、当該生薬調合物の全量100重量部当たり、ショウキョウが1~5重量部、好ましくは1~4重量部、更に好ましくは1~3重量部、特に好ましくは1~2重量部含まれているものが挙げられる。このようにショウキョウの比率が低い生薬調合物から防風通聖散エキスを得ることによって、脂質の便中への排泄をより効果的に促進させることが可能になる。
【0016】
また、本発明で使用される防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例として、当該生薬調合物の全量100重量部当たり、ボウショウが硫酸ナトリウム無水物換算で2~6重量部、好ましくは2~4重量部、更に好ましくは2~3重量部、特に好ましくは2~2.5重量部含まれているものが挙げられる。このような比率で生薬調合物中にボウショウが含まれることによって、脂質の便中への排泄をより効果的に促進させることが可能になる。
【0017】
また、本発明で使用される防風通聖散エキスの好適な例として、生薬由来成分の総量100重量部当たり、6-ギンゲロールが0.005~0.04重量部であるものが挙げられる。6-ギンゲロールは、ショウキョウに含まれている成分であり、従来の防風通聖散エキスでは、通常、生薬由来成分の総量100重量部当たり6-ギンゲロールが0.05重量部以上含まれている。本発明では、6-ギンゲロールの含有量が低減された防風通聖散エキスを使用することによって、脂質の便中への排泄をより効果的に促進させることが可能になる。脂質の便中への排泄をより効果的に促進させるという観点から、生薬由来成分の総量100重量部当たり、6-ギンゲロールが、好ましくは0.007~0.03重量部、更に好ましくは0.007~0.025重量部、特に好ましくは0.007~0.015重量部が挙げられる。ここで、生薬由来成分とは、防風通聖散を構成する生薬から抽出された成分である。即ち、賦形剤等の添加剤が配合されていない防風通聖散エキス末の場合であれば、当該エキス末の重量が生薬由来成分の総量になり、賦形剤等の添加剤が配合されている防風通聖散エキス末の場合であれば、当該エキス末の重量から含有する添加剤の重量を差し引いた重量が生薬由来成分の総量になる。
【0018】
ショウキョウに含まれる6-ギンゲロール含量は、ショウキョウの産地や生育年数等に応じて異なり、またショウキョウからの6-ギンゲロールの抽出効率も抽出条件等によって変動する。そのため、6-ギンゲロールを前記比率で含む防風通聖散エキスを得るには、ショウキョウに含まれる6-ギンゲロール含量に応じて、生薬調合物におけるショウキョウの比率や、抽出に供されるショウキョウ(即ち、生薬調合物に使用されるショウキョウ)の形状等を適宜設定すればよい。ショウキョウは、1~8mm程度角となるように細切物したものを抽出に供するよりも、厚さ1~3mm程度にスライス状にした加工品を抽出に供した方が、6-ギンゲロールの抽出量を低減でき、6-ギンゲロールを前記比率で含む防風通聖散エキスを好適に得ることができる。例えば、生薬調合物の全量100重量部当たりのショウキョウの比率を前述する態様Aに示す範囲に設定したうえで、ショウキョウの形状を調整することにより、6-ギンゲロールを前記含有量の範囲内で含む防風通聖散エキスを好適に得ることができる。
【0019】
本発明で使用される防風通聖散エキスは、前記生薬調合物を公知の手法で抽出することによって得ることができる。前記生薬調合物を抽出する方法については、従来の防風通聖散エキスの抽出法と同様の方法で行えばよく、例えば、前記生薬調合物に対して、約10~20倍量の水を加え、80~100℃程度で1~3時間程度撹拌して抽出する方法が挙げられる。抽出後に、遠心分離、濾過等の固液分離に供して固形分を除去し、必要に応じて、濃縮処理や乾燥処理に供することによって防風通聖散エキスが得られる。
【0020】
防風通聖散エキスをエキス末として得るには、固形分を除去した抽出液を、必要に応じて濃縮した後に、スプレードライ、減圧濃縮乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理に供すればよい。また、乾燥処理(特に、スプレードライによる乾燥処理)に供する際に、必要に応じて抽出液に、デキストリン等の賦形剤を添加してもよい。このように賦形剤を添加することにより、乾燥時間を短縮することが可能になる。添加される賦形剤の種類や添加量については、一般的な漢方エキス末を製造する場合と同様である。
【0021】
また、防風通聖散エキスを軟エキスとして得るには、形分を除去した抽出液を、減圧濃縮等によって濃縮すればよい。また、軟エキスに、適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末としてもよい。
【0022】
本発明で使用される防風通聖散エキスは、エキス末又は軟エキスのいずれであってもよく、本発明の便中脂質排泄促進剤の形態に応じて、エキス末又は軟エキスを適宜選択すればよい。
【0023】
その他の成分
本発明の便中脂質排泄促進剤は、防風通聖散エキス単独からなるものであってもよく、製剤形態に応じた添加剤や基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、便中脂質排泄促進剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0024】
また、本発明の便中脂質排泄促進剤は、防風通聖散エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類、便中脂質排泄促進剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0025】
製剤形態
本発明の便中脂質排泄促進剤の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤(ドライシロップを含む)、錠剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられる。これらの製剤形態の中でも、含有成分の安定性や携帯性等の観点から、好ましくは固形状製剤が挙げられる。
【0026】
本発明の便中脂質排泄促進剤を前記製剤形態に調製するには、防風通聖散エキス、及び必要に応じて添加される添加剤、基剤、及び薬理成分を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0027】
用途
本発明の便中脂質排泄促進剤は、摂取した脂質の便中への排泄を促進させるために使用される。このように、脂質の便中への排泄を促進させることができ、ひいては脂質の過剰摂取による健康障害(体重増加、内臓脂肪増加等)を改善又は回避することが可能になる。また、本発明の便中脂質排泄促進剤は、コレステロールの便中への排泄を促進させる作用が優れているので、摂取したコレステロールや血中のコレステロールの便中への排泄を促進させるために好適に使用される。
【0028】
また、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人では、従来の肥満改善剤では、脂質の分解能や代謝能の改善が期待できず、従来の肥満改善剤を服用する習慣がなかったが、本発明の便中脂質排泄促進剤によれば、脂質の便中への排泄を促進させることにより、このような脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人に対しても、脂質の摂取による悪影響を抑制することが可能になる。このような本発明の効果を鑑みれば、本発明の便中脂質排泄促進剤の好適な適用対象として、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人が挙げられる。このような体質の人としては、具体的には、体脂肪率が25%以上でウエストサイズが85cm以上である状態が5年以上続いている人;中高年以上(45歳以上)で肥満(例えば、体脂肪率が25%以上)の人;下記脂肪分解力評価試験で測定される脂肪分解力が5mEq/g以下、好ましくは3mEq/g以下、より好ましくは1mEq/g以下、さらに好ましくは0.5mEq/g以下、特に好ましくは0.3mEq/g以下である脂肪組織を有する人等が挙げられる。
<脂肪分解力評価試験>
先ず、対象者の皮下から脂肪組織を採取する。得られた脂肪組織をKrebs Ringer緩衝液(pH7.4)で洗浄する。洗浄後の脂肪組織の重量を計測し、洗浄後の脂肪組織0.2gに、1μg/mLのノルアドレナリン、及び2重量%牛血清アルブミン(BSA)を含むKrebs Ringer緩衝液(pH7.4)5mLに加え、37℃で2時間インキュベートする。その後、上清を回収し、ノルアドレナリン刺激により上清中に放出された遊離脂肪酸量を測定し、脂肪組織1g当たりの遊離脂肪酸の放出量(mEq/g)を脂肪分解力として求める。
【0029】
なお、脂肪組織はノルアドレナリン刺激により活性化され、蓄積した脂肪が分解し、遊離脂肪酸を放出することが知られている。前記脂肪分解力評価試験では、脂肪組織の分解力を、この遊離脂肪酸の放出量を測定することで評価している。
【0030】
用量・用法
本発明の便中脂質排泄促進剤は経口投与によって使用される。本発明の便中脂質排泄促進剤の用量については、投与対象者の年齢、性別、体質等に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒト1人に対して1日当たり、防風通聖散エキスの生薬由来成分の総量が1~10g程度、好ましくは1.5~8g程度、より好ましくは1.5~6g程度となる量で、1日1~3回、好ましくは2又は3回の頻度で服用すればよい。服用タイミングについては、特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよいが、食前(食事の30分前)又は食間(食後2時間後)が好ましい。
【0031】
また、本発明の便中脂質排泄促進剤による脂質の便中への排泄促進効果は、継続的な服用によって奏されるので、本発明の便中脂質排泄促進剤は、継続的な服用(具体的には6日間以上の継続的な服用、好ましくは12日間以上の継続的な服用)を行うことが好ましい。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
防風通聖散エキスの製造及び分析
1.防風通聖散エキス末の製造
表1に示す各生薬を細切又はスライスして、所定の分量を混合し、細切して生薬調合物を得た。生薬調合物に、重量比で20倍量の水を加えて、約100℃で1時間撹拌しながら抽出を行った。その後、遠心分離にて抽出液を回収し、減圧濃縮した後に、スプレードライヤーを用いて乾燥させ、防風通聖散エキス末を得た。
【0034】
なお、製造例1及び2では、ショウキョウは1~8mm角に細切したものを使用し、製造例3では、ショウキョウは厚さ1~3mmのスライス状にしたものを使用した。また、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の熱風を供給することにより行った。
【0035】
【表1】
【0036】
2.防風通聖散エキス末中の6-ギンゲロール含量の測定
防風通聖散のエキス末約1gを精密に量り、共栓遠心沈殿管に入れ、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)30mLを加え、20分間振り混ぜた後、遠心分離し、抽出液を分取した。残留物にメタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)30mLを加えて、更にこの操作を2回繰り返した。全抽出液を合わせ、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)を加えて正確に100mLとし、試料溶液とした。別に定量用6-ギンゲロール約5mgを精密に量り、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)に溶かし、正確に100mLとし、標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液10μLずつを正確にとり、次の試験条件で液体クロマトグラフィーによる測定を行った。
(試験条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:205nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したもの(COSMOSIL 5C18 MS-II(5μm,4.6×150mm)(ナカライテスク株式会社))。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:水/アセトニトリル/リン酸混液(水:アセトニトリル:リン酸の容量比3800:2200:1)
流速:6-ギンゲロールの保持時間が約19分になるように調整した。
【0037】
下記式に従って、試料溶液中の6-ギンゲロール量を算出し、各防風通聖散のエキス末中の6-ギンゲロール含量を求めた。
【数1】
【0038】
結果を表2に示す。生薬調合物100重量部に対するショウキョウの比率が1.11重量部と低い生薬調合物から得られた防風通聖散エキスでは、6-ギンゲロールの含有量が0.010重量%と低くなっていた(製造例1)。また、抽出に供するショウキョウを厚さ1~3mmのスライス状にした場合には、1~8mm角に細切した場合に比べて、得られた防風通聖散エキス中の6-ギンゲロールの含有量が低減されていた(製造例2及び3)。
【0039】
【表2】
【0040】
試験例1:脂質の糞便中への排泄促進効果及び体重低減効果の評価
マウス(C57BL/6Jマウス、5週齢、雄)に高脂肪食(HFD32、日本クレア株式会社)を4週間自由摂食させて飼育し、肥満モデルマウスを作製した。この肥満モデルマウスの体重を測定後、各群の平均体重が約26gとなるようにコントロール群(対照例)、試験群1、及び試験群2の合計3つの群に分けた(各群6~11匹)。試験群1では、肥満モデルマウスに、前記高脂肪食に製造例1の防風通聖散エキスを4重量%となるように配合した飼料を20日間給餌した。試験群2では、肥満モデルマウスに、前記高脂肪食に製造例2の防風通聖散エキスを4重量%となるように配合した飼料を20日間給餌した。コントロール群では、防風通聖散エキスを配合していない高脂肪食を20日間給餌した。試験期間中に糞便を2日分毎に回収した。回収した糞便は凍結乾燥した。
【0041】
凍結乾燥した糞便から低極性溶媒で脂質を抽出し、重量法にて糞便中の総脂質量を測定した。具体的には、凍結乾燥した糞便を粉砕後、100mgを秤取し、クロロホルム/エタノール溶液(クロロホルム:エタノール(容量比)=2:1)500μLで2回抽出し、この抽出液を30℃で真空乾燥後、抽出物(脂質)の重量を測定した。以下の算出式に従って各群の総脂質排泄量を求め、各群の総脂質排泄量を各群のマウスの頭数で除することにより、マウス1匹当たりの総脂質排泄量を算出した。
【数2】
【0042】
更に、試験開始から12~14日目の間で排泄された糞便から抽出した抽出物(脂質)については、イソプロパノールに再溶解し、コレステロールEテストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いてキット付属の取扱説明書に従い操作することで、コレステロールの重量を測定し、以下の算出式に従って各群のコレステロール排泄量を求め、各群のコレステロール排泄量を各群のマウスの頭数で除することにより、マウス1匹当たりのコレステロール排泄量を求めた。
【数3】
【0043】
コントロール群のマウス1匹当たりの総脂質排泄量を100%として、試験群1及び2におけるマウス1匹当たりの総脂質排泄量の相対値を算出した。また、同様に、コントロール群のマウス1匹当たりのコレステロール排泄量を100%として、試験群1及び2におけるマウス1匹当たりのコレステロール排泄量の相対値を算出した。
【0044】
また、飼育開始時(0日目)と飼育最終日(20日目)の各群の肥満モデルマウスの体重を測定した。各群の飼育開始時の体重を100%として、飼育最終日の体重の割合を体重変化率(%)として算出した。
【0045】
総脂質排泄量の結果を表3、コレステロール排泄量の結果を表4、及び体重変化率を表5に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
飼育期間中、全てのマウスにおいて下痢は認められなかった。また、各マウスの1日当
たりの糞便量は乾燥重量にて211.5~315.1mg/日/匹であり、群間で有意な差は認められなかった。
【0050】
表3から分かるように、防風通聖散エキス末を摂取させた試験群1及び2では、飼育6日目以降において、コントロール群に比して総脂質の排泄量の増大が認められた。群間での乾燥糞便量に有意な差はなかったため、防風通聖散エキス末を摂取させることで、糞便中の脂質濃度が増加していたことが明らかとなった。特に、飼育12日目以降では、試験群1における脂質の排泄量は、試験群2よりも増大しており、ショウキョウの分量が少ない生薬調合物から得られた防風通聖散エキス末(製造例1)を使用することによって、脂質の排泄促進効果が高まることが明らかとなった。なお、生薬調合物におけるショウキョウの分量を0.4重量部としたこと以外は、製造例1と同条件で製造した防風通聖散エキス末(防風通聖散エキス末(生薬由来成分の総量)100重量部当たりの6-ギンゲロール量:0.012重量部)についても、同様の試験を行ったところ、製造例2の防風通聖散エキス末を使用した場合よりも、脂質の排泄促進効果が高まることが認められた。
【0051】
また、表4から明らかなように、総脂質の排泄量の結果と同様、防風通聖散エキス末を摂取させた試験群1及び2では、コントロール群に比してコレステロールの排泄量が増大していた。また、製造例1の防風通聖散エキス末を摂取させた試験群1では、製造例2の防風通聖散エキスを摂取させた試験群2よりも、コレステロールの排泄量が増加していた。
【0052】
また、表5に示されているように、コントロール群では飼育開始時に比べて飼育終了時に体重が増加していたのに対して、防風通聖散エキスを摂取させた試験群1及び2では体重の増加が抑えられていた。特に、製造例1の防風通聖散エキスを摂取させた試験群1では、製造例2の防風通聖散エキスを摂取させた試験群2よりも、高い体重低減効果が認められた。このような防風通聖散エキスによる体重の増加抑制は、脂質の糞便中への排泄を促進する作用が一因になっていると考えられる。
【0053】
参考試験例1:内臓脂肪及び体重の低減効果の評価
若齢性肥満モデルマウスの作製
若齢マウス(C57BL/6Jマウス、5週齢、雄)に高脂肪食(HFD32、日本クレア株式会社)を4週間自由摂食させて飼育し、若齢性肥満モデルマウスを作製した。
【0054】
また、加齢マウス(C57BL/6Jマウス、40-60週齢、雄)に高脂肪食(HFD32,日本クレア株式会社)を1週間自由摂食させて飼育し、加齢性肥満モデルマウスを作製した。
【0055】
また、上記で作製した若齢性肥満モデルマウス及び加齢性肥満モデルマウス各3匹から副睾丸周囲脂肪を摘出し、脂肪分解力の測定を行った。具体的には、先ず、副睾丸周囲から摘出した脂肪組織をKrebs Ringer緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の脂肪組織の重量を計測し、洗浄後の脂肪組織0.2gに、1μg/mLのノルアドレナリン、及び2重量%牛血清アルブミン(BSA)を含むKrebs Ringer緩衝液(pH7.4)5mLに加え、37℃で2時間インキュベートした。その後、上清を回収し、ノルアドレナリン刺激により上清中に放出された遊離脂肪酸量をNEFA-Cテストワコー(和光純薬工業株式会社)にて測定し、脂肪組織1g当たりの遊離脂肪酸の放出量(mEq/g)を脂肪分解力として求めた。
【0056】
防風通聖散エキスの投与試験
前記で作製した若齢性肥満モデルマウスの体重を測定後、各群の平均体重が約26gとなるようにコントロール群A(対照例)、試験群A1、及び試験群A2に分けた(各群6~11匹)。また、前記で作製した加齢性肥満モデルマウスの体重を測定後、各群の平均体重が約42gとなるようにコントロール群B(対照例)、及び試験群Bに分けた(各群6匹)。
【0057】
試験群A1では、前記高脂肪食に製造例1の防風通聖散エキス末を2重量%となるように配合した飼料を21日間給餌した。試験群A2では、前記高脂肪食に製造例1の防風通聖散エキス末を4重量%となるように配合した飼料を21日間給餌した。試験群Bでは、前記高脂肪食に製造例1の防風通聖散エキス末を2重量%となるように配合した飼料を21日間給餌した。コントロール群A及びBでは、防風通聖散エキスを配合していない高脂肪食を21日間給餌した。試験最終日に各マウスの体重を測定し、更に内臓脂肪を摘出し重量を測定した。
【0058】
コントロール群Aの試験最終日のマウスの平均体重を100%として、試験群A1及びA2の試験最終日のマウスの平均体重の相対値を算出した。また、コントロール群Bの試験最終日のマウスの平均体重を100%として、試験群Bの試験最終日のマウスの平均体重の相対値を算出した。コントロール群Aの試験最終日のマウスの内臓脂肪の平均重量を100%として、試験群A1及びA2の試験最終日のマウスの平均体重の相対値を算出した。コントロール群Bの試験最終日のマウスの内臓脂肪の平均重量を100%として、試験群Bの試験最終日のマウスの内臓脂肪重量の相対値を算出した。
【0059】
結果
得られた結果を表6に示す。この結果から、若齢性肥満モデルマウス及び加齢性肥満モデルマウス共に、防風通聖散エキス末によって体重及び内臓脂肪の低減が認められ、特に加齢性肥満モデルマウスでは、2重量%の防風通聖散エキス末を含む飼料の給餌で、4重量%の防風通聖散エキス末を含む飼料を給餌した若齢性肥満モデルマウスよりも、体重及び内臓脂肪の低下量が高まっていた。
【0060】
なお、副睾丸周囲脂肪における脂肪分解力は、若齢性肥満モデルマウスでは平均値が5.6mEq/gであるのに対して、加齢性肥満モデルマウスは0.28mEq/gであり、加齢に伴い脂肪分解力は20分の1にまで低下していた。このように脂肪分解力が低下している加齢性肥満マウスモデルでも、防風通聖散エキス末によって、効果的な体重及び内臓脂肪の低下が認められたことは、極めて予想外の結果である。
【0061】
【表6】
【0062】
参考試験例2:年代別の体重の低減効果の評価
脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人に対する防風通聖散エキスの体重低減効果を評価した。具体的には、体脂肪率が25%以上でウエストサイズが85cm以上である状態が5年以上続いている男女9名(各年代(20代、30代、40~50代)の平均体重の差が5kg以内になるように選定した)について、製造例1の防風通聖散エキス末5000mgを1日3回に分けて2週間服用させ、服用開始前に対する体重変化を測定した。
【0063】
結果を表7に示す。脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人に対して、防風通聖散エキスを服用させることによって、全体の平均で約1kgの体重の減少が認められ、世代別に解析すると、加齢とともにその効果は高まることが確認された。40~50歳代の人の加齢性肥満では、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下しており、従来、防風通聖散エキスでは効果が認められないと考えられていたが、防風通聖散エキスには、前記試験例1で示したように便中への脂質排泄促進作用があり、当該作用が一因となって加齢性肥満に対する体重低下効果が奏されたと考えられる。
【0064】

【表7】
【0065】
処方例
表8~13に示す処方に従い防風通聖散エキス末を含有する錠剤(1錠当たり400mg)を調製した。防風通聖散エキス末として、前記製造例1又は2に従い製造したエキス末を使用した。得られた錠剤はいずれも糞便中への脂質排泄促進効果が期待される錠剤であった。
【0066】
【表8】
【0067】
【表9】
【0068】
【表10】
【0069】
【表11】
【0070】
【表12】
【0071】
【表13】