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特開2024-92098解析プログラム、解析装置、および解析方法
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  • 特開-解析プログラム、解析装置、および解析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092098
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】解析プログラム、解析装置、および解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2055 20180101AFI20240701BHJP
【FI】
G01N23/2055 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207788
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大典
(72)【発明者】
【氏名】林 徹太郎
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001FA29
2G001GA13
(57)【要約】
【課題】解析者の作業負荷を軽減でき、また、解析者に依存しない適正な結果が得られる解析プログラム、解析装置、および解析方法を提供する。
【解決手段】解析プログラムは、試料をX線回折測定して得られたX線回折データを読み込むデータ読込処理S10と、プロファイル関数のパラメータの初期値を予め定められた値に設定し、可変パラメータの選択とX線回折データに基づく可変パラメータの精密化とを予め定められた順序で自動的に繰り返し行うリートベルト解析処理S20とをコンピュータに実行させる。予め定められた手順に従って自動的にリートベルト解析が行われるので、解析者の作業負荷を軽減できる。同種の物質に対して共通の手順でリートベルト解析が行われるので、解析者に依存しない適正な結果が得られる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを解析装置として機能させるためのプログラムであって、
試料をX線回折測定して得られたX線回折データを読み込むデータ読込処理と、
プロファイル関数のパラメータの初期値を予め定められた値に設定し、可変パラメータの選択と前記X線回折データに基づく前記可変パラメータの精密化とを予め定められた順序で自動的に繰り返し行うリートベルト解析処理と、をコンピュータに実行させる
ことを特徴とする解析プログラム。
【請求項2】
前記リートベルト解析処理は、
前記プロファイル関数の前記パラメータの前記初期値を設定する初期値設定処理と、
前記パラメータのうち第1パラメータ群を前記可変パラメータとして選択し、前記可変パラメータの精密化を行う第1精密化処理と、
前記パラメータのうち前記可変パラメータとして選択されていない新たなパラメータ群を前記可変パラメータとして追加選択し、前記可変パラメータの精密化を行う後続精密化処理と、を有し、
前記初期値、前記第1パラメータ群、および前記後続精密化処理で選択される前記パラメータ群は、前記試料と同種の物質に対して予め定められている
ことを特徴とする請求項1記載の解析プログラム。
【請求項3】
前記後続精密化処理を複数回繰り返す
ことを特徴とする請求項2記載の解析プログラム。
【請求項4】
前記リートベルト解析処理により得られた結果をファイル出力するファイル出力処理をコンピュータに実行させる
ことを特徴とする請求項1記載の解析プログラム。
【請求項5】
前記データ読込処理、前記リートベルト解析処理、および前記ファイル出力処理を自動的に繰り返し行い、同種の物質の複数の試料の前記X線回折データを解析する
ことを特徴とする請求項4記載の解析プログラム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の解析プログラムがインストールされたコンピュータからなる
ことを特徴とする解析装置。
【請求項7】
請求項6記載の解析装置を用いて前記X線回折データを解析する自動解析工程と、
前記自動解析工程により得られた結果が適正か否かを評価する評価工程と、
前記評価工程において不適正と評価された場合に、前記X線回折データを再度リートベルト解析する再解析工程と、を備える
ことを特徴とする解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析プログラム、解析装置、および解析方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、X線回折データをリートベルト解析するためのプログラム、装置、および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折データから試料の結晶構造を特定する方法としてリートベルト解析が知られている(例えば、特許文献1)。リートベルト解析は、測定により得られた回折パターンを、結晶構造情報をパラメータとしたプロファイル関数でフィッティングし、試料の結晶構造情報を得る方法である。
【0003】
リートベルト解析は、パラメータの初期値を変更しながら、また、可変パラメータの選択を変更しながらフィッティングを繰り返し、試行錯誤で最適解を導く方法である。そのため、一つの試料の結晶構造を特定するのにも多くの時間と労力が必要となる。特に、新しい素材を開発する現場では、原料の組成または処理条件を少しずつ変えながら多数の試料を作製し、各試料の結晶構造の違いを判別することが要求される。このような場合、リートベルト解析の処理件数が多くなり、解析者の作業負荷が非常に高くなる。
【0004】
また、リートベルト解析はパラメータの初期値および可変パラメータの選択順によって結果が異なる。したがって、解析者によって結果が異なり、適正な結果を得るには熟練を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2017/141973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、解析者の作業負荷を軽減でき、また、解析者に依存しない適正な結果が得られる解析プログラム、解析装置、および解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様の解析プログラムは、コンピュータを解析装置として機能させるためのプログラムであって、試料をX線回折測定して得られたX線回折データを読み込むデータ読込処理と、プロファイル関数のパラメータの初期値を予め定められた値に設定し、可変パラメータの選択と前記X線回折データに基づく前記可変パラメータの精密化とを予め定められた順序で自動的に繰り返し行うリートベルト解析処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
第2態様の解析プログラムは、第1態様において、前記リートベルト解析処理は、前記プロファイル関数の前記パラメータの前記初期値を設定する初期値設定処理と、前記パラメータのうち第1パラメータ群を前記可変パラメータとして選択し、前記可変パラメータの精密化を行う第1精密化処理と、前記パラメータのうち前記可変パラメータとして選択されていない新たなパラメータ群を前記可変パラメータとして追加選択し、前記可変パラメータの精密化を行う後続精密化処理と、を有し、前記初期値、前記第1パラメータ群、および前記後続精密化処理で選択される前記パラメータ群は、前記試料と同種の物質に対して予め定められていることを特徴とする。
第3態様の解析プログラムは、第2態様において、前記後続精密化処理を複数回繰り返すことを特徴とする。
第4態様の解析プログラムは、第1~第3態様のいずれかにおいて、前記リートベルト解析処理により得られた結果をファイル出力するファイル出力処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
第5態様の解析プログラムは、第4態様において、前記データ読込処理、前記リートベルト解析処理、および前記ファイル出力処理を自動的に繰り返し行い、同種の物質の複数の試料の前記X線回折データを解析することを特徴とする。
第6態様の解析装置は、第1~第5態様のいずれかの解析プログラムがインストールされたコンピュータからなることを特徴とする。
第7態様の解析方法は、第6態様の解析装置を用いて前記X線回折データを解析する自動解析工程と、前記自動解析工程により得られた結果が適正か否かを評価する評価工程と、前記評価工程において不適正と評価された場合に、前記X線回折データを再度リートベルト解析する再解析工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1、第2または第3態様によれば、予め定められた手順に従って自動的にリートベルト解析が行われるので、解析者の作業負荷を軽減できる。また、同種の物質に対して共通の手順でリートベルト解析が行われるので、解析者に依存しない適正な結果が得られる。
第4態様によれば、リートベルト解析の結果が自動的にファイル出力されるので、解析者の作業負荷をさらに軽減できる。
第5態様によれば、複数の試料に対するリートベルト解析が自動的に行われるので、解析者の作業負荷をさらに軽減できる。
第6態様によれば、予め定められた手順に従って自動的にリートベルト解析が行われるので、解析者の作業負荷を軽減できる。また、同種の物質に対して共通の手順でリートベルト解析が行われるので、解析者に依存しない適正な結果が得られる。
第7態様によれば、自動的にリートベルト解析した結果が不適正な場合にのみ再解析すればよいので、解析者が手動で解析する頻度が減り、作業負荷を軽減できる。しかも、解析者が評価済みの適正な結果を自動的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る解析装置の機能ブロック図である。
図2】解析装置が行う処理を示すフローチャートである。
図3】リートベルト解析処理を示すフローチャートである。
図4】一実施形態に係る解析方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(原理)
まず、本発明の原理を説明する。
リートベルト解析は測定回折パターンをプロファイル関数でフィッティングすることにより行われる。測定回折パターンは試料をX線回折測定して得られた回折強度のパターンである。プロファイル関数はバックグラウンドモデル関数と回折ピーク毎のピーク形状モデル関数との和である。
【0011】
プロファイル関数は種々のパラメータを含む。例えば、バックグラウンドに関するパラメータとしてバックグラウンドパラメータが挙げられる。ピーク強度に関するパラメータとして、構造パラメータ(原子の種類、原子位置の席占有率、原子の位置座標、原子変位パラメータ)、スケール因子、および選択配向パラメータが挙げられる。ピーク位置に関するパラメータとして格子定数(a、b、c、α、β、γ)およびピークシフトパラメータが挙げられる。ピーク形状に関するパラメータとして半値幅パラメータ、非対称パラメータ、減衰パラメータ、および異方性拡がりパラメータが挙げられる。
【0012】
フィッティングは、通常、測定回折パターンとプロファイル関数との差分を最小二乗法で最小化することにより行われる。しかし、プロファイル関数は多数のパラメータを有するため、全てのパラメータを可変パラメータとしてフィッティングしても適正な結果が得られにくい。そのため、一部のパラメータを可変パラメータとし残りのパラメータを固定パラメータとして、可変パラメータを少しずつ増やしながらフィッティングを繰り返す。ここで、固定パラメータとは初期値で固定してフィッティングにより値を調整しないパラメータである。可変パラメータとはフィッティングにより値を調整するパラメータである。また、可変パラメータの値をフィッティングにより調整することを「精密化」という。
【0013】
本来、リートベルト解析は、解析者がパラメータの初期値および可変パラメータの選択順を試行錯誤しながら最適解を導く方法である。そのため、解析者の作業負荷が高く、また、解析結果が解析者に依存したものとなる。しかし、本願発明者らは、同種の物質であれば、結晶構造が多少異なっても、回折パターンが類似したものとなるため、同一の手順でリートベルト解析しても適正な結果が得られることを見出した。ここで、リートベルト解析の「手順」とは、プロファイル関数のパラメータの初期値の設定および可変パラメータの選択順を意味する。
【0014】
例えば、リチウムイオン二次電池の正極活物質として、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(NMC)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)などのリチウム金属複合酸化物が用いられる。リチウム金属複合酸化物は一般式:LiNi1-xα(式中、s、x、およびαは、例えば、0.95≦s≦1.30、0<x≦0.65、1.9≦α≦4.2であり、Mは、Co、Mn、W、Mo、V、Ca、Mg、Sr、Ba、Ti、Cr、Zr、Al、Nb、Ta、Si、P、B、Sからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素)で表される。
【0015】
新しいリチウム金属複合酸化物を開発する現場では、原料の組成または処理条件を少しずつ変えながら多数の試料を作製し、試料の結晶構造(格子定数、席占有率など)、特に各元素の席占有率を特定することが行われている。このような場合、リチウム金属複合酸化物であれば、異なる試料でも回折パターンが類似したものとなるため、同一の手順でリートベルト解析しても適正な結果が得られる。
【0016】
そこで、予め、特定の物質のほとんどの試料で適正な結果が得られるように汎用的に使えるリートベルト解析の手順を確立しておく。すなわち、同種の物質に関連付けて、その同種の物質専用のリートベルト解析の手順を確立する。例えば、リチウム金属複合酸化物に対してリートベルト解析の手順を確立する。リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(NMC)とリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)とで別の手順としてもよい。
【0017】
なお、本明細書において「同種の物質」とは、類似の結晶構造を有する物質を意味する。例えば、「リチウム金属複合酸化物」に含まれる物質、「リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物」に含まれる物質、「リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物」に含まれる物質が、それぞれ「同種の物質」に該当する。また、「リチウム金属複合酸化物」に限らず、複数種の金属元素を含む結晶、例えば、セシウムタングステン複合酸化物(CWO(登録商標))に含まれる物質、ガドリニウムガリウムガーネット単結晶(SGGG)に含まれる物質なども、それぞれ「同種の物質」に該当する。
【0018】
リートベルト解析の手順を一度確立しておけば、それ以降、その同種の物質の試料をリートベルト解析する際には確立された手順を適用すればよく、試行錯誤する必要がない。また、リートベルト解析の手順を確立しておけば、コンピュータを用いて自動的にリートベルト解析できるので、解析者の作業負荷を軽減できる。なお、リートベルト解析の手順の確立は解析者が手動で行う必要があるが、所謂通常のリートベルト解析を1回または数回行う作業負荷と同等である。
【0019】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(解析プログラム、解析装置)
本発明の一実施形態に係る解析装置AAは、X線回折データをリートベルト解析して試料の結晶構造を特定するための装置である。X線回折データは粉末状の試料をX線回折測定して得られる。
【0020】
図1に示すように、解析装置AAは各種の機能を有する。解析装置AAは、CPU、メモリなどで構成されたコンピュータからなる。コンピュータに解析プログラムをインストールすることで、解析装置AAとしての機能が実現する。解析プログラムは複数のサブプログラムから構成されてもよいし、プログラムが読み込む設定ファイルを有してもよい。解析プログラムは市販のリートベルト解析ソフトウエアとロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)ソフトウエアとを組み合わせて構成してもよい。RPAソフトウエアでリートベルト解析ソフトウエアを自動操作することでリートベルト解析を自動化できる。解析プログラムは特定の一種の物質をリートベルト解析する専用プログラムでもよいし、多種類の物質に対応できる汎用プログラムでもよい。汎用プログラムの場合、解析対象の同種の物質ごとにリートベルト解析の手順を変更する必要がある。例えば、リートベルト解析の手順を記載した設定ファイルを同種の物質ごとに用意しておき、プログラムに読み込ませる設定ファイルを変更することで、リートベルト解析の手順を変更できる。また、解析プログラムはコンピュータによる読み取り可能な記憶媒体(非一過性のものを含む)に記憶してもよい。
【0021】
解析装置AAは、記憶部11、データ読込部12、リートベルト解析部13、およびファイル出力部14を有する。これらは、ハードウエアで構成されてもよいし、プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現してもよい。また、解析装置AAは、キーボード、マウスなどの入力装置、およびディスプレイ、プリンターなどの出力装置を有してもよい。
【0022】
記憶部11はハードディスクなどの記憶装置の一部領域、例えば特定のフォルダである。記憶部11には一または複数のX線回折データが記憶されている。X線回折データはX線回折装置により生成され、解析者の操作により、記憶部11に記憶される。X線回折データは試料ごとのファイルである。複数の試料をX線回折測定した場合には、試料と同数のX線回折データファイルが生成され、記憶部11に記憶される。X線回折データは回折角2θごとの回折強度の値を含む。記憶部11に複数のX線回折データが記憶される場合、それらは同種の物質の複数の試料のX線回折データである。ただし、記憶部11に異なる種類の物質の複数のX線回折データを物質の種類を区別できる態様で記憶してもよい。
【0023】
データ読込部12は記憶部11に記憶されたX線回折データを読み込む。X線回折データを読み込むことで、横軸を回折角2θ、縦軸を回折強度とした回折パターンが得られる。
【0024】
リートベルト解析部13はX線回折データをリートベルト解析して試料の結晶構造を特定する。
【0025】
ファイル出力部14はリートベルト解析により得られた結果をファイル出力する。解析結果ファイルは記憶部11に記憶される。解析結果ファイルは試料ごとのファイルでもよいし、複数の試料の解析結果をまとめた一つのファイルでもよい。解析結果ファイルには、少なくとも、試料名など試料を一意に特定する情報と、解析により得られた結晶構造情報とが含まれる。解析結果ファイルは、測定回折パターン、結晶構造情報から計算により得られる計算回折パターン、および信頼性係数などが含まれてもよい。なお、信頼性係数はS=Rwp/Reで表される。ここで、Rwpは測定値と計算値のずれ度合いを表す重み付き残差である。Reは測定値について見積もられた誤差に相当する。
【0026】
つぎに、図2に示すフローチャートに基づき、解析装置AAが行う処理を説明する。
まず、データ読込部12は記憶部11に記憶されたX線回折データを読み込む(データ読込処理S10)。ここで、記憶部11に複数のX線回折データが記憶されている場合には、そのうちの一つを読み込む。
【0027】
つぎに、リートベルト解析部13は読み込んだX線回折データをリートベルト解析する(リートベルト解析処理S20)。リートベルト解析処理S20の詳細は後述する。
【0028】
つぎに、ファイル出力部14はリートベルト解析処理S20により得られた結果をファイル出力する(ファイル出力処理S30)。すなわち、ファイル出力部14は解析結果を記載した解析結果ファイルを記憶部11に保存する。
【0029】
記憶部11に複数のX線回折データが記憶されている場合、解析装置AAは処理対象のX線回折データを変更しつつ、データ読込処理S10、リートベルト解析処理S20、およびファイル出力処理S30を繰り返し行う。すなわち、複数のX線回折データを一つずつ読み込んで処理を行い、全てのX線回折データをリートベルト解析する。未解析のX線回折データがなくなれば処理を終了する。
【0030】
つぎに、リートベルト解析処理S20の詳細を説明する。
リートベルト解析処理S20は、解析対象の試料と同種の物質に対して予め確立しておいた手順で行われる。すなわち、リートベルト解析に用いられるプロファイル関数のパラメータの初期値を試料と同種の物質に対して予め定められた値に設定する。また、可変パラメータの選択とX線回折データに基づく可変パラメータの精密化とを試料と同種の物質に対して予め定められた順序で自動的に繰り返し行う。
【0031】
具体的には、図3に示すように、まず、プロファイル関数のパラメータの初期値を設定する(初期値設定処理S21)。ここで設定される初期値は、解析対象の試料と同種の物質に対して予め定められた値である。
【0032】
つぎに、第1パラメータ群を可変パラメータとして選択し、可変パラメータの精密化を行う(第1精密化処理S22)。ここで、第1パラメータ群とは、プロファイル関数が有する複数のパラメータのうち、最初に精密化を行うパラメータとして選択された一または複数のパラメータである。プロファイル関数が有する複数のパラメータのうち第1パラメータ群以外のパラメータは固定パラメータとする。
【0033】
つぎに、第2パラメータ群を可変パラメータとして追加選択し、可変パラメータの精密化を行う(第2精密化処理S23)。ここで、第2パラメータ群とは、プロファイル関数が有する複数のパラメータのうち、2回目に精密化を行うパラメータとして選択された一または複数のパラメータである。
【0034】
可変パラメータとして「追加」選択するとは、それ以前に選択された可変パラメータは可変パラメータとして維持しつつ、新たなパラメータを固定パラメータから可変パラメータに変更するという意味である。したがって、第2精密化処理S23において可変パラメータは第1パラメータ群および第2パラメータ群である。
【0035】
第1パラメータ群の値は第1精密化処理S22により調整されており、初期値設定処理S21で設定された初期値とは異なる値となることが多い。第2精密化処理S23において第1パラメータ群は、第1精密化処理S22により調整された後の値を初期値として、再度調整される。
【0036】
以降同様の精密化処理を繰り返す。すなわち、n回目の精密化処理では、第nパラメータ群を可変パラメータとして追加選択し、可変パラメータの精密化を行う(第n精密化処理)。合計N回の精密化処理を行うとすると、最後の精密化処理では、第Nパラメータ群を可変パラメータとして追加選択し、可変パラメータの精密化を行う(第N精密化処理S24)。なお、第2精密化処理~第N精密化処理は、それぞれ、特許請求の範囲に記載の「後続精密化処理」に相当する。このように、後続精密化処理は複数回繰り返し行ってもよい。
【0037】
第1、第2、…、第n、…、第Nパラメータ群は、解析対象の試料と同種の物質に対して予め定められている。これは、可変パラメータの選択順を予め定めた順序にすることを意味する。
【0038】
以上のように、解析装置AAを用いれば、予め定められた手順に従って自動的にリートベルト解析が行われるので、解析者は操作を行う必要がなく、作業負荷を軽減できる。しかも、ファイル出力処理S30(図2参照)でリートベルト解析の結果が自動的にファイル出力されるので、解析者の作業負荷をさらに軽減できる。また、同種の物質に対して共通の手順でリートベルト解析が行われるので、解析者に依存しない適正な結果が得られる。
【0039】
図2に示すように、解析装置AAは、記憶部11に未解析のX線回折データが存在する限り、処理対象のX線回折データを変更しつつ、データ読込処理S10からファイル出力処理S30までを繰り返し行う。記憶部11に記憶されているX線回折データの全てが同種の物質の試料のデータであれば、リートベルト解析の手順を変更せずとも解析できる。したがって、全てのX線回折データを解析する間、解析装置AAは解析者の操作を必要とせず、自動的に処理を行う。このように、複数の試料に対するリートベルト解析が自動的に行われるので、解析者の作業負荷を大幅に軽減できる。
【0040】
(解析方法)
つぎに、本発明の一実施形態に係る解析方法を説明する。
図4に示すように、まず、試料をX線回折測定してX線回折データを得る(X線回折測定工程S100)。同種の物質の複数の試料が存在する場合には、その複数の試料をX線回折測定してそれぞれのX線回折データを得る。また、得られたX線回折データを解析装置AAの記憶部11に記憶する。
【0041】
つぎに、解析装置AAを用いてX線回折データを解析する(自動解析工程S200)。解析装置AAが行う処理は図2および図3のフローチャートに記載したとおりである。すなわち、解析装置AAは同種の物質の複数の試料を測定して得られた全てのX線回折データを自動的にリートベルト解析する。また、リートベルト解析の結果をファイル出力する。
【0042】
つぎに、解析者は、自動解析工程S200により得られた結果が適正か否かを評価する(評価工程S300)。ここで、解析者は、解析装置AAの記憶部11に記憶された解析結果ファイルを閲覧して解析結果を評価する。
【0043】
解析結果の評価には様々な指標を用いることができる。例えば、信頼性係数Sを指標として評価すればよい。信頼性係数Sが閾値(例えば1.3)未満であれば適正、閾値以上であれば不適正と判断する。また、測定回折パターンと計算回折パターンとを比較し、ピークにずれがあるなどの異常がないか解析者が判断してもよい。
【0044】
評価工程S300において不適正と評価された解析結果があれば、そのX線回折データのみを再度リートベルト解析する(再解析工程S400)。再解析は解析者が一部のパラメータの初期値を変更したり、可変パラメータの選択順を一部変更したりして行う。再解析した試料については、自動解析により得られた結果に代えて、再解析により得られた結果を採用する。一方、不適正と評価された解析結果がなければ、再解析を行わずに、処理を終了する。
【0045】
以上のように、自動的にリートベルト解析した結果が不適正な場合にのみ再解析すればよいので、解析者が手動で解析する頻度が減り、作業負荷を軽減できる。しかも、解析者が評価済みの適正な結果を自動的に得ることができる。
【符号の説明】
【0046】
AA 解析装置
11 記憶部
12 データ読込部
13 リートベルト解析部
14 ファイル出力部
図1
図2
図3
図4