(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092140
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】塗装システムおよび塗装方法
(51)【国際特許分類】
B05C 11/10 20060101AFI20240701BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20240701BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240701BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20240701BHJP
B05B 12/00 20180101ALI20240701BHJP
B05C 9/12 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B05C11/10
B05D1/26 Z
B05D3/00 D
B05C5/00 101
B05B12/00 A
B05C9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207858
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】一ノ渡 潤
(72)【発明者】
【氏名】前田 崇秀
【テーマコード(参考)】
4D075
4F035
4F041
4F042
【Fターム(参考)】
4D075AA37
4D075AC06
4D075AC09
4D075AC88
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4D075DA23
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4D075EA05
4F035AA03
4F035BA03
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4F035BC03
4F041AA07
4F041AB01
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4F041BA38
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4F042AA09
4F042AB00
4F042BA08
4F042BA12
4F042BA27
4F042CB08
4F042CC04
4F042CC08
4F042DF16
4F042DH09
4F042ED03
(57)【要約】
【課題】全体の塗装時間を短縮することが可能な塗装システムを提供する。
【解決手段】
塗装データに基づいて塗装物の塗装領域に液滴を吐出する複数のノズルを有したヘッドと、前記塗装データに基づいて前記塗装物と前記ヘッドとを相対移動させる移動手段と、を備える塗装システムであって、前記塗装領域の塗装の進行とともに、前記複数のノズルのうち前記塗装領域に前記液滴を吐出するノズル数を漸次増加または漸次減少するように、前記ヘッドおよび前記移動手段を制御する制御手段を備える。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装データに基づいて塗装物の塗装領域に液滴を吐出する複数のノズルを有したヘッドと、
前記塗装データに基づいて前記塗装物と前記ヘッドとを相対移動させる移動手段と、を備える塗装システムであって、
前記塗装領域の塗装の進行とともに、前記複数のノズルのうち前記塗装領域に前記液滴を吐出するノズル数を漸次増加または漸次減少するように、前記ヘッドおよび前記移動手段を制御する制御手段を備えることを特徴とする塗装システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ノズル数を漸次増加させた後、前記ノズル数を漸次減少させることを特徴とする請求項1記載の塗装システム。
【請求項3】
前記ヘッドは、前記塗装領域の塗装の開始に先立ち洗浄されたヘッドであることを特徴とする請求項1記載の塗装システム。
【請求項4】
前記塗装物の前記塗装領域を仮想境界線によって第一塗装領域と第二塗装領域とに分割するとともに、前記第一塗装領域で見た前記仮想境界線を塗装終了境界線と定義し、前記第二塗装領域で見た前記仮想境界線を塗装開始境界線と定義したとき、
前記第一塗装領域から前記第二塗装領域に連続して塗装を実行する場合の、前記第一塗装領域内での前記相対移動の方向は、前記塗装終了境界線に対してほぼ平行とし、
前記第一塗装領域から前記第二塗装領域に連続して塗装を実行する場合の、前記第二塗装領域内での前記相対移動の方向は、前記塗装開始境界線に対してほぼ平行とする
ことを特徴とする請求項1記載の塗装システム。
【請求項5】
前記塗装領域は、前記塗装物の塗装対象範囲を複数に区分けしたうちの1つであることを特徴とする請求項1または4記載の塗装システム。
【請求項6】
前記第一塗装領域と前記第二塗装領域は同一部品に存在することを特徴とする請求項4記載の塗装システム。
【請求項7】
前記第一塗装領域は第一の部品に存在し、
前記第二塗装領域は前記第一の部品とは異なる第二の部品に存在し、
前記仮想境界線は前記第一の部品と前記第二の部品との接合部をなすとき、
前記接合部を塗装しない場合の、前記第一塗装領域内での前記相対移動の方向および前記第二塗装領域内での前記相対移動の方向は、前記接合部に対してほぼ平行とすることを特徴とする請求項4記載の塗装システム。
【請求項8】
前記塗装物は車体であり、前記第一の部品はルーフパネルであり、前記第二の部品はサイドパネルであることを特徴とする請求項7記載の塗装システム。
【請求項9】
前記複数のノズルが二次元配置されていることを特徴とする請求項1記載の塗装システム。
【請求項10】
塗装データに基づいて塗装物の塗装領域に液滴を吐出する複数のノズルを有したヘッドと、
前記塗装データに基づいて前記塗装物と前記ヘッドとを相対移動させる移動手段と、を備える塗装システムの塗装方法であって、
前記複数のノズルのうち前記塗装領域に前記液滴を吐出するノズル数を漸次増加または漸次減少させながら前記塗装領域を塗装することを特徴とする塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装システムおよび塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワーク(塗装物)の曲面に塗料を塗布する際は、複数のノズルのうち、ノズルとワークの表面との距離が一定の範囲であるノズルのみを選定し、選定されたノズルのみから塗料を吐出させる印刷装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような構成の場合、選定されなかったノズルに対しては、それまで吐出していた塗料をノズル内に付着させたまま放置してしまうと塗料が乾いてノズルを詰まらせるため、空吐出を実施し、ノズル内の塗料を吐き出させる必要がある。一方で、空吐出時にノズルから吐出された塗料が塗装物に飛散しないようにするため、空吐出で吐出された塗料を収容する収容部(空吐出受け)は、塗装物から十分離れた位置に設置される。そのため、塗装物および空吐出受け間のノズル(ヘッド)の往復移動に時間がかかり、塗装開始から塗装終了までの全体の塗装時間が長くなるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、塗装データに基づいて塗装物の塗装領域に液滴を吐出する複数のノズルを有したヘッドと、前記塗装データに基づいて前記塗装物と前記ヘッドとを相対移動させる移動手段と、を備える塗装システムであって、前記塗装領域の塗装の進行とともに、前記複数のノズルのうち前記塗装領域に前記液滴を吐出するノズル数を漸次増加または漸次減少するように、前記ヘッドおよび前記移動手段を制御する制御手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、全体の塗装時間を短縮することが可能な塗装システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る塗装システムの一例を示す概略構成図。
【
図2】実施形態に係る塗装システムの一例を示す概略構成図。
【
図7】制御装置のハードウエア構成の一例を示す説明図。
【
図10】比較例の塗装軌跡におけるノズル数の変遷を示す説明図。
【
図12】実施形態の塗装軌跡におけるノズル数の変遷を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら発明を実施するための形態を説明する。図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0009】
<塗装システムの概要>
はじめに
図1および
図2を用いて塗装システムの概要について説明する。
図1および
図2は、実施形態に係る塗装システムの一例を示す概略構成図である。
図1および
図2には、自動車の車体を塗装する塗装ロボットを含む塗装システムが例示されている。
【0010】
塗装システム10000において、塗装物の一例である車体Uの右側には塗装ロボット1000Aが設置され、車体Uの左側には塗装ロボット1000Bが設置されている。例えば、塗装ロボット1000Aは車体Uの外板全体のうち右側半分を塗装し、塗装ロボット1000Bは車体Uの外板全体のうち左側半分を塗装する。以降、塗装ロボット1000Aと塗装ロボット1000Bを総称して説明する場合は「塗装ロボット1000」という。
【0011】
塗装ロボット1000は、例えば多関節ロボットであり、ベース1001、ベース1001と連結した第1アーム1002、第1アーム1002と連結した第2アーム1003、および第2アーム1003と連結したエンドエフェクタ1004を備える。また、塗装ロボット1000は、ベース1001と第1アーム1002とを連結する第1ジョイント1005、第1アーム1002と第2アーム1003とを連結する第2ジョイント1006、および第2アーム1003とエンドエフェクタ1004とを連結する第3ジョイント1007を備える。
【0012】
ベース1001は、Z軸と平行な軸を回転軸にして矢印a方向に旋回可能である。また、ベース1001は、第1アーム1002が水平軸(X-Y平面と平行な軸)を回転軸にして矢印b方向に回動可能となるように、第1ジョイント1005を介して第1アーム1002の一端部を支持している。第1アーム1002の他端部は、第2アーム1003が水平軸(X-Y平面と平行な軸)を回転軸にして矢印c方向に回動可能となるように、第2ジョイント1006を介して第2アーム1003の一端部に接続されている。
【0013】
第2アーム1003は、矢印c方向の回転軸と直交する軸も備え、この直交する軸を回転軸にして第2ジョイント1006に対し矢印d方向の回転も可能である。第2アーム1003の他端部は、エンドエフェクタ1004が水平軸(X-Y平面と平行な軸)を回転軸にして矢印e方向に回動可能となるように、第3ジョイント1007を介してエンドエフェクタ1004を支持している。エンドエフェクタ1004は、矢印e方向の回転軸と直交する軸も備え、この直交する軸を回転軸にして第3ジョイント1007に対し矢印f方向の回転も可能である。
【0014】
上記構成の塗装ロボット1000は、車体Uに対してエンドエフェクタ1004を自由に動かし、エンドエフェクタ1004に取り付けられたヘッド100を車体Uの塗装を施す位置に正確に配置することができる。ヘッド100は、塗装位置に配置されると車体Uに向けて液体の一例である塗料を吐出し、車体Uを塗装する。ここで、塗装ロボット1000は移動手段の一例である。
【0015】
塗装システム10000は、
図2に示されるように塗装ロボット1000が届く範囲内に維持ステーション2000を備える。維持ステーション2000は、維持・洗浄部2001を備え、塗装終了時または塗装時間が規定の時間を経過した時、ヘッド100は塗装ロボット1000によって維持・洗浄部2001に移される。
【0016】
維持・洗浄部2001には、例えば、ヘッド100のノズル面に対して拭き取り清掃を実行する清掃機構、ヘッド100に対して空吐出を実行させた際にノズルから吐出された塗料を受けるための収容部(空吐出受け)等の維持装置が備えられている。また、維持・洗浄部2001には、ヘッド100のノズル面に対して洗浄液や洗浄エアを吹き付けてノズル面を洗浄する洗浄装置が備えられている。
【0017】
なお、本実施形態において塗装システム10000は、車体Uの両側に塗装ロボット1000を1台ずつ設置した構成としたが、これに限るものではない。塗装ロボットの数は、車体Uの塗装面積、作業効率等を踏まえて適宜決めてよく、塗装ロボットは塗装システム10000内に1台であってもよいし、3台以上であってもよい。
【0018】
また、塗装ロボット1000が複数台の場合、維持ステーション2000は、複数の塗装ロボットで共用にしてもよいし、塗装ロボット毎に設置してもよい。維持ステーション2000は、上述の空吐出によってノズルから吐出された塗料や、ノズル面洗浄時の洗浄液などが車体Uに付着しないよう、車体Uから離れた位置に設置される。
【0019】
なお、塗装物は自動車の車体に限るものではなく、航空機の機体、船舶の船体、鉄道車両の車体等、自動車以外の乗り物であってもよい。また、塗装ロボットは、定置型のロボットに限るものではなく、例えば、遠隔操作や自律走行によって移動が可能なロボットであってもよい。その場合の移動型ロボットは、地上を移動するものに限らず、壁面の登り降りが可能なクライミングロボット、あるいはドローンに代表される飛行が可能な無人飛行機を含む。移動型ロボットの場合、塗装物は乗り物に限らず、道路や建物も塗装物の対象となり、道路の路面標示(横断歩道、停止線、速度表示等)の塗装や、建物の外壁塗装等に対応することが可能になる。
【0020】
<ヘッドの構成>
次に、
図3を用いてヘッドの構成について説明する。
図3は、ヘッドの概略構成を説明する図であり、
図3(a)はノズルを閉じた状態を示す要部概略図、
図3(b)はノズルを開いた状態を示す要部概略図である。
【0021】
塗装ロボット1000のエンドエフェクタ1004には、複数のノズルを備えたヘッドを搭載するが、
図3にはヘッド最小単位(1ノズル)の構成が図示されている。
【0022】
ヘッド100は、中空状に形成されたハウジング110と、ハウジング110の一端部に設けられたノズル板101を備える。ノズル板101は、塗料を吐出するノズル102が形成された板状の部材である。
【0023】
ハウジング110は、ノズル102に近い側面に、塗料が供給される供給口113を備える。供給口113に供給された塗料は、ハウジング110内の液室114へ送られる。液室114は、概略としてノズル板101と、ハウジング110内に設けた封止部材135との間の空間によって形成される。
【0024】
封止部材135は、例えばゴム等の弾性体からなる。本実施形態では、封止部材135としてゴム製のOリングが用いられ、ハウジング110の内面と、液室114内に配置したニードル弁131の外周面との間の隙間を封止するように、ニードル弁131にOリングが嵌められている。これにより、封止部材135は液室114の塗料が圧電素子132側へ流入することを防止する。
【0025】
圧電素子132は、封止部材135を境に液室114の隣(
図3では上方)に形成されたハウジング110の空間110a内に設けられる。圧電素子132には、ニードル弁131が接合されており、後述するヘッド制御部902からの制御信号に応じて、圧電素子132はニードル弁131を、ノズル102を閉塞する位置とノズル102を開放する位置との間で移動させる。ノズル102を閉塞する位置では、ニードル弁131の先端がノズル板101に当接した状態となり、ノズル102を開放する位置では、ニードル弁131の先端がノズル板101から離間した状態となる。圧電素子132は、ジルコニアセラミックス等を用いて形成されたピエゾ素子であり、圧電素子132の形状等は、吐出される塗料の量などに応じて適宜設定される。
【0026】
上記構成において、例えば、圧電素子132に駆動電圧(開放電圧)が印加されると、
図3(b)に示されるように圧電素子132が矢印Aの方向に収縮する。圧電素子132の収縮に伴いニードル弁131はノズル板101から離間する。これにより、ノズル102が開き、ノズル102と液室114とが連通し、液室114内の塗料はノズル102から吐出される。圧電素子132は、例えば2kHzの周波数でノズル102を高速開閉させ、塗料を一滴ずつ液滴Dとして吐出することができる。
【0027】
一方、圧電素子132に駆動電圧(閉塞電圧)が印加された場合は、圧電素子132が矢印Aと反対の方向に伸長する。圧電素子132の伸長に伴いニードル弁131はノズル板101に当接する。これにより、ノズル102が閉じ、ノズル102と液室114とが遮断され、液室114内の塗料の吐出は停止される。
【0028】
続いて、
図4を用いてヘッドのノズル部分の汚れについて説明する。
図4は、ノズル汚れの様子を説明する図である。
【0029】
ニードル弁131によるノズル開閉によって塗料を吐出させる弁開閉方式のヘッドの場合、吐出開始前はノズル102がニードル弁131によって閉塞されているため、液室114内の塗料が乾燥したり増粘することはない。しかし、一度吐出が行われた後は、
図4(a)および
図4(b)に示すようにノズル102およびノズル板101には増粘した塗料Laが残ることがある。また、
図4(c)に示すように吐出時に発生するミストによってノズル102の周囲に残液が付着し、固着物Lbとなって残ることがある。
【0030】
増粘した液体Laや固着物Lbは、ノズル102から塗料を吐出する際に抵抗となり、塗料の吐出曲がりをまねき、塗料を狙いの位置へ正しく吐出することができなくなる。また、液体Laの増粘が大きい場合には、不吐出(ノズル102からの液体吐出不能)をまねくことがある。したがって、吐出品質を維持するためには、増粘した液体Laおよび固着物Lbを取り除く必要がある。
【0031】
増粘した液体Laや固着物Lbは、例えば、ノズル板101の表面に対して拭き取り(または掻き取り)清掃を行うことで除去される。または、例えば、定期的に塗装に寄与しない液滴を吐出させて、増粘した液体Laや固着物Lbをノズル102から吐き出させる空吐出(予備吐出、スピッティングなどともいう)を行うことで除去される。または、例えば、ノズル板101およびノズル102を洗浄することで除去される。
【0032】
<ノズル洗浄の概略>
図5は、ノズル洗浄を説明する図である。
【0033】
ノズル102の周囲に発生した固着物Lbや増粘した液体Laは、吐出曲がりや不吐出の原因となる。そこで本実施形態では、例えば、加圧された洗浄液Lcを洗浄ノズルからノズル板101に吹き付けてノズル板101およびノズル102を洗浄する。ノズル102の洗浄を行う際は、
図5に示されるようにニードル弁131の先端をノズル102に当接(密着)させ、ノズル102を閉じた状態で洗浄液Lcを吹き付ける。これにより、ノズル板101およびノズル102に付着した固着物Lbや増粘した液体La等の異物を洗い流すことができ、ヘッド100の吐出品質を保つことが可能となる。
【0034】
なお、洗浄液Lcに加えてノズル板101およびノズル102に洗浄エアを吹き付ける機構を備えてもよい。洗浄エアを用いることで、洗浄液Lcが付着したノズル板101およびノズル102を速く乾かすことが可能となり、ヘッド100の洗浄時間を短縮することができる。また、洗浄液Lcで流しきれずにノズル板101およびノズル102に残留した異物を洗浄エアが吹き飛ばし、洗浄の仕上がりを良好にできる。これら洗浄液供給機構、洗浄エア供給機構等のヘッド維持機構は、
図2に示された維持ステーション2000の維持・洗浄部2001に設けられる。
【0035】
<塗装システムの機能構成>
次に、
図6を用いて実施形態に係る塗装システムの機能構成について説明する。
図6は、塗装システムの機能構成の一例を示す図である。
【0036】
図6において、塗装システム10000は、制御装置901、ヘッド制御部902、端末装置903、ロボット制御部904、維持制御部905、塗装ロボット1000、および維持ステーション2000を備える。ここで、制御装置901は制御手段の一例である。
【0037】
制御装置901は、算出部9011、特定部9012、判断部9013、記憶・読出部9014、記憶部9015、撮影制御部9016、画像処理部9017、同期制御部9018および環境情報取得部9019等を備える。
【0038】
制御装置901は、車体Uの塗装データや指示を端末装置903から受信し、塗装システム10000の全体動作を制御する。
【0039】
算出部9011は、後述のCPU9001の処理によって実現され、端末装置903から受信する塗装データに基づいて車体Uの塗装領域におけるヘッド100の移動方向、および当該塗装領域において塗料を吐出させるノズル数を算出する。
【0040】
特定部9012は、後述のCPU9001の処理によって実現され、端末装置903から受信する塗装データに基づいて車体Uの塗装領域を第一塗装領域と第二塗装領域とに分割する仮想境界線等を特定する。
【0041】
判断部9013は、後述のCPU9001の処理によって実現され、各種判断を行う。
【0042】
記憶・読出部9014は、主に、後述のCPU9001の処理によって実現され、記憶部9015に各種データ(または情報)を記憶したり、記憶部9015から各種データ(または情報)を読み出したりする。
【0043】
記憶部9015は、後述のROM(Read Only Memory)9002、RAM(Random Access Memory)9003、HDD(Hard Disk Drive)/SSD(Solid State Drive)9004等によって構築され、端末装置903から受信した塗装データ、塗装対象範囲(塗装対象サイズ)データ、塗装領域データ、塗料の仕様データ等を格納する。
【0044】
撮影制御部9016は、主に、後述するI/Oインターフェース9005に対するCPU9001の処理によって実現され、例えば、塗装ロボット1000がカメラ等の撮影装置を備える場合、塗装ロボット1000の撮影部1010に対する撮影処理を制御する。撮影制御部9016は、例えば、撮影部1010に対する撮影処理を指示する。また、撮影制御部9016は、例えば、撮影部1010による撮影処理で得られた撮影画像を取得する。
【0045】
画像処理部9017は、主に、後述のCPU9001の処理によって実現され、撮影制御部9016が撮影部1010から取得した撮影画像に対して所定の処理を実行する。画像処理部9017は、例えば、撮影制御部9016が取得したヘッド100の試し打ち画像(テストパターンを撮影した画像)に対して所定の処理を実行し、塗料の吐出状態の判断に用いる画像データを生成する。
【0046】
同期制御部9018は、後述のCPU9001の処理によって実現され、端末装置903から受信した塗装データおよび塗装指示等に基づき、塗装ロボット1000の動作と、塗料吐出部1030の吐出動作とを同期させる。
【0047】
環境情報取得部9019は、主に、後述するI/Oインターフェース9005に対するCPU9001の処理によって実現され、例えば、塗装システム10000内の環境温度、あるいは塗料の温度等を示す温度情報を取得する。
【0048】
ヘッド制御部902は、制御装置901からの指示に基づき塗料吐出部1030における塗料の吐出動作を制御する。なお、ヘッド制御部902は、制御装置901の一部であってもよい。
【0049】
端末装置903は、RIP(Routing Information Protocol)部9031、レンダリング部9032、表示制御部9033および受付部9034を備える。
【0050】
RIP部9031は、カラープロファイルやユーザの設定に応じて画像処理を行う。
【0051】
レンダリング部9032は、塗装データを走査毎(例えばヘッド100の主走査方向の移動毎)の画像データに分解する。
【0052】
表示制御部9033は、主に、後述のCPU9001の処理によって実現され、ディスプレイ等の表示部に各種画面を表示させる。
【0053】
受付部9034は、主に、通信インターフェース9006に対するCPU9001の処理によって実現され、ユーザから各種の選択または入力を受け付ける。受付部9034は、例えば、車体Uに施す塗装データおよび座標データの設定や、塗装モードの選択、塗装範囲(塗装開始位置、塗装終了位置)の設定、塗装指示等を受け付ける。なお、受付部9034はタッチパネルで構成されてもよい。
【0054】
また、端末装置903は、受付部9034が受け付けた塗装データ、および塗装ロボット1000が備えるヘッド位置測定部1020から取得した位置データに基づき、塗装ロボット1000の移動軌跡を生成する。
【0055】
ロボット制御部904は、制御装置901からの指示に基づきアーム駆動部1050の駆動を制御する。アーム駆動部1050の駆動を制御することによって、塗装ロボット1000の第1アーム1002、第2アーム1003およびエンドエフェクタ1004(ヘッド100)は所望の位置に移動する。また、ロボット制御部904は、アーム駆動部1050の駆動状態を示す駆動状態情報を制御装置901に送信する。
【0056】
維持制御部905は、制御装置901からの指示に基づき維持ステーション2000の洗浄液供給部2010、洗浄エア供給部2020および維持駆動部2030を制御する。また、維持制御部905は、維持ステーション2000の動作状態を示す動作状態情報を制御装置901に送信する。
【0057】
塗装ロボット1000は、撮影部1010、ヘッド位置測定部1020、塗料吐出部1030、アーム位置検出部1040およびアーム駆動部1050を備える。
【0058】
撮影部1010は、例えば、塗装ロボット1000に取り付けたヘッド100の近くに設置されるカメラ等の撮影装置によって実現され、撮影制御部9016からの指示に応じて撮影処理を実行する。また、撮影部1010は、撮影制御部9016からの指示に応じて撮影処理で得られた撮影画像を制御装置901へ送信する。
【0059】
ヘッド位置測定部1020は、例えば、塗装ロボット1000に取り付けたヘッド100の近傍に設置されるセンサによって実現され、車体Uの表面(塗装面)に対するヘッド100の位置や姿勢(塗装面に対する傾き等)を測定する。ヘッド位置測定部1020には、3Dセンサ、3Dカメラ、レーザ変位計等を用いることができる。例えば、3Dセンサや3DカメラによってXY方向の位置や傾きの測定、塗装開始位置の検出、および塗装対象サイズの検出等を行う。また、レーザ変位計によってZ方向の測定、塗装面までの距離、および塗装面の表面形状(曲率等)の検出等を行う。また、ヘッド位置測定部1020は、上記の測定結果および検出結果を制御装置901へ送信する。
【0060】
塗料吐出部1030は、塗装ロボット1000に取り付けたヘッド100によって実現され、ヘッド制御部902からの指示に基づき塗料を吐出する。
【0061】
アーム位置検出部1040は、例えば第1ジョイント1005、第2ジョイント1006および第3ジョイント1007等が備えるエンコーダの各スリットを光学的に検出する。そして、第1アーム1002、第2アーム1003およびエンドエフェクタ1004の回転量からそれらの位置を検出し、エンドエフェクタ1004の3次元での位置情報を取得する。
【0062】
アーム駆動部1050は、ロボット制御部904からの指示に基づき塗装ロボット1000の第1アーム1002、第2アーム1003およびエンドエフェクタ1004(ヘッド100)等を所望の位置へ動かす。また、アーム駆動部1050は、第1アーム1002、第2アーム1003およびエンドエフェクタ1004等の駆動状態を示す駆動状態情報等をロボット制御部904に送信する。
【0063】
維持ステーション2000は、洗浄液供給部2010、洗浄エア供給部2020および維持駆動部2030を備える。維持ステーションは、洗浄液供給部2010および洗浄エア供給部2020の供給動作の状態を示す動作状態情報、ならびに維持駆動部2030の駆動状態を示す駆動状態情報を維持制御部905に送信する。
【0064】
洗浄液供給部2010は、ヘッド100のノズル板101およびノズル102に洗浄液Lcを吹き付ける洗浄ノズル等を備え、維持制御部905からの指示に基づき洗浄液を吐出する。
【0065】
洗浄エア供給部2020は、例えば、ヘッド100のノズル板101およびノズル102に洗浄エアを吹き付けるエアノズル等を備え、維持制御部905からの指示に基づき洗浄エアを吐出する。
【0066】
維持駆動部2030は、例えば、洗浄ノズルやエアノズルをヘッド100に対して進退移動させる移動機構、ノズル面を拭き取り清掃する清掃部材を移動させる移動機構、空吐出受けをヘッド100に対して進退移動させる移動機構等、各種移動機構を駆動する。また、維持駆動部2030は、維持ステーション2000が、ヘッド100にテストパターンを打たせるためのメディア板を備えている場合、当該メディア板をヘッド100に対して進退移動させる移動機構を駆動する。
【0067】
なお、ヘッド制御部902およびロボット制御部904は、塗装ロボットを複数台(1000A,1000B,・・・)設置する場合は、塗装ロボット毎に設けられる。また、端末装置903に設けたRIP部9031、レンダリング部9032の機能、ならびにヘッド制御部902、ロボット制御部904および維持制御部905の機能は、制御装置901に設ける構成としてもよい。
【0068】
<制御装置のハードウェア構成>
次に、
図7を用いて制御装置901のハードウエア構成について説明する。
図7は、制御装置のハードウエア構成の一例を示す説明図である。なお、
図7に示されているハードウエア構成は、必要に応じて構成要素が追加または削除されてもよい。
【0069】
制御装置901は、CPU(Central Processing Unit)9001、ROM(Read Only Memory)9002、RAM(Random Access Memory)9003、HDD(Hard Disk Drive)/SSD(Solid State Drive)9004、I/O(Input/Output)インターフェース9005、通信インターフェース9006、およびバスライン9007を備える。
【0070】
CPU9001は、ROM9002に格納されたプログラムもしくはデータをRAM9003上に読み出し、処理を実行することで、対象とする装置または対象とするユニットの各機能を実現する演算装置である。
【0071】
ROM9002は、電源を切ってもプログラムまたはデータを保持することができる不揮発性のメモリである。
【0072】
RAM9003は、CPU9001のワークエリア等として用いられる揮発性のメモリである。
【0073】
HDD/SSD9004は、CPU9001の制御にしたがって各種データの読み出し、または書き込みを制御する。
【0074】
I/Oインターフェース9005は、塗装ロボット1000、ヘッド制御部902、ロボット制御部904、維持制御部905等の機器との間で入出力するためのインターフェースである。
【0075】
通信インターフェース9006は、通信ネットワークを経由して端末装置903などのデータ処理を行う機器との通信(接続)を行うインターフェースである。
【0076】
バスライン9007は、上記各構成要素を電気的に接続するためのアドレスバスやデータバス等であり、アドレス信号、データ信号、および各種制御信号等を伝送する。CPU9001、ROM9002、RAM9003、HDD/SSD9004、I/Oインターフェース9005、および通信インターフェース9006は、バスライン9007を介して相互に接続されている。
【0077】
<塗装物>
図8は、塗装物の一例を示す説明図であり、
図8(a)は塗装物の一例である車体Uの平面図、
図8(b)は車体Uの側面図である。
【0078】
車体Uは、フードUa、フロントフェンダUb、フロントピラーUc、ルーフUd、フロントドアUe、センタピラーUf、リヤドアUg、リヤピラーUh、リヤフェンダUi、トランクリッドUj、リヤUkから構成され、車体Uは中心線O-Oに対して実質的に左右対称形状である。以降、この車体Uに対して塗装を行う場合を前提に説明することとする。
【0079】
<車体塗装の動作説明>
以下、車体塗装におけるヘッドの動作について説明する。
<<比較例>>
まず、
図9および
図10を用いて比較例に基づく動作について説明する。
図9は、比較例の塗装軌跡を説明する図であり、
図9(a)は車体Uの一部を示した平面図、
図9(b)は車体Uの一部を示した側面図である。
図10は、比較例の塗装軌跡におけるノズル数の変遷を示す説明図である。
【0080】
車体Uの外板塗装は、中心線O-Oを境にして右側半分と左側半分を塗装ロボット1000Aと塗装ロボット1000Bとで分担して行われるので、以降は
図1において左側に対応する側を例に説明する。
【0081】
例えば、車体UのルーフUd、フロントピラーUcおよびリアピラーUhを1工程、つまり1ジョブで行う塗装領域とした場合、塗装ロボット1000は、ヘッド100から塗料を吐出しつつルーフUdに対してヘッド100を往復動させてルーフUdを塗装する。
【0082】
ルーフUdを塗装する際、ヘッド100の往復動の方向は、
図9(a)に破線で示されるように車体Uの中心線O-Oと平行をなすように設定される。この場合、ルーフUdを塗装するヘッド100は、
図10(a)に示されるようにすべてのノズルから塗料を吐出している。
【0083】
ルーフUdからピラーUc,Uhに切り替わる部位に表した仮想境界線R-Rは、
図9(a)に示されるように中心線O-Oに対して平行を成さない場合がある。この場合、ルーフUdと同様にすべてのノズルから塗料を吐出してしまうと、塗料が仮想境界線R-Rをはみ出し、仮想境界線R-R付近の塗装品質を低下させる。
【0084】
そこで比較例では、ルーフUdの仮想境界線R-R付近を塗装するヘッド100は、
図10(b)に示されるように、塗装面積が小さくなるに連れて塗料を吐出するノズル数を減らし、仮想境界線R-Rを塗料がはみ出さないようにしている。
図10(b)において、点線で示された円は塗料を吐出していないノズルを示す。
【0085】
上記のようにしてルーフUdの塗装が完了したならば、続いてヘッド100は
図9(a)の仮想境界線R-Rの下側(フロントピラーUc、リアピラーUh等)を塗装する。ここで、
図9(b)に示された仮想境界線R´-R´は、
図9(a)に示された仮想境界線R-Rと同じ線であり、車体Uの側面から見た場合、仮想境界線R-Rは仮想境界線R´-R´のように湾曲状をなしていることを表している。ピラーUc,Uhを塗装する際、ヘッド100は、
図10(c)に示されるように、塗料を吐出するノズル数を増やしたり減らしたりしながらピラーUc,Uhに向けて塗料を吐出する。
【0086】
以上のように比較例の場合、ルーフUdを塗装する際のヘッド100は、
図10(a)のように全てのノズル102で塗料を吐出しながら移動する。続いてルーフUdからピラーUc,Uhに切り替わる部位を塗装する際のヘッド100は、
図10(b)のように始めは全てのノズル102で塗料を吐出するが、仮想境界線R-Rの傾きに応じて、塗料を吐出するノズル102を次第に減少させながら移動する。つまり、塗料を吐出するノズル102(実線で示されたノズル)は次第に減少し、仮想境界線R-Rをはみ出すノズル102(点線で示されたノズル)からの塗料の吐出は中断される。続いてピラーUc,Uhを塗装する際のヘッド100は、
図10(c)のように仮想境界線R´-R´の形状に応じて、ノズル102からの吐出と中断を切り替えながら移動する。
【0087】
ここで、
図10に示されたノズル102Aに着目した場合、ノズル102Aは、ルーフUdからピラーUc,Uhに切り替わる部位の最初まで塗料を吐出するが、その後は、ヘッド100を改行してピラーUc,Uhの塗装に入るまで中断状態となる。ノズル102Aのように一度中断したノズルの吐出動作を再開させるためには空吐出を行なう必要がある。
【0088】
しかし、空吐出によってノズルから吐出された塗料が車体Uに飛散しないようにするため、空吐出で吐出された塗料を収容する空吐出受けは、車体Uの近くに設置することはできない。一方で、空吐出受けを車体Uから十分離した位置に設置すると、ヘッド100が空吐出受けに到着するまでの時間内にノズル板101やノズル102に付着した塗料が乾いて増粘してしまう。また、塗装中に
図5に示したようなノズル洗浄を実施し、増粘した塗料をノズル板101やノズル102から除去する方法も考えられるが、洗浄工程が介在する分、全体の塗装時間が長くなり、塗装システムの生産性が低下する。また、洗浄液の消費量も増え、コストアップを招いてしまう。
【0089】
<<実施形態>>
そこで、本発明では、塗装領域の塗装の進行とともに、ヘッド100の複数のノズル102のうち塗装領域に塗料を吐出するノズル数を漸次増加するように、ヘッド100を制御する。つまり、1ジョブで行う塗装領域に対して塗装を開始したならば、当該塗装領域に対する塗装が終了するまでの間、塗料を吐出するノズル数は増加していくだけとなる。これにより、比較例のように塗装中に吐出を一旦中断し、その後、再び吐出を開始するノズルが発生しなくなる。その結果、途中でノズルの空吐出や洗浄を行う必要もなく、全体の塗装時間を短縮することが可能な塗装システムを提供できるようになる。
【0090】
以下、
図11および
図12を用いて実施形態に基づく動作について説明する。
図11は、実施形態の塗装軌跡を説明する図であり、
図11(a)は車体Uの一部を示した平面図、
図11(b)は車体Uの一部を示した側面図である。
図12は、実施形態の塗装軌跡におけるノズル数の変遷を示す説明図である。
【0091】
車体Uの塗装は、中心線O-Oを境にして右側半分と左側半分を塗装ロボット1000Aと塗装ロボット1000Bとで分担して行われる。以降は比較例と同様、
図1において左側に対応する側を例に説明する。
【0092】
例えば、車体UのルーフUd、フロントピラーUcおよびリアピラーUhを1工程、つまり1ジョブで行う塗装領域とした場合、塗装ロボット1000はヘッド100から塗料を吐出しつつルーフUdに対してヘッド100を往復動させてルーフUdを塗装する。
【0093】
比較例ではルーフUdを塗装する際、ヘッド100の往復動の方向は、車体Uの中心線O-Oと平行をなすように設定されていたが、実施形態ではヘッド100の往復動の方向は、
図11(a)に破線で示されるように仮想境界線R-Rと平行に設定される。
【0094】
ここで、車体Uの塗装領域を、仮想境界線R-RによってルーフUd側の塗装領域(以下、ルーフ塗装領域ともいう)と、ピラーUc,Uh側の塗装領域(以下、ピラー塗装領域ともいう)とに分割した場合、ルーフ塗装領域で見た仮想境界線R-Rを「塗装終了境界線」と定義し、ピラー塗装領域から見た仮想境界線R-Rを「塗装開始境界線」と定義する。比較例の場合と同様、仮想境界線R-Rと仮想境界線R´-R´は、見る方向が異なるものであり、同じ線であるので、塗装開始境界線は仮想境界線R´-R´であるとも言える。なお、ルーフ塗装領域は第一塗装領域の一例であり、ピラー塗装領域は第二塗装領域の一例である。
【0095】
ルーフ塗装領域からピラー塗装領域に連続して塗装を実行する場合の、ルーフ塗装領域内でのヘッド100の移動方向は、塗装終了境界線(仮想境界線R-R)に対してほぼ平行となるように設定される。この場合、ルーフUdを塗装するヘッド100は、
図12(a)に示されるように、塗装面積が大きくなるに連れて塗料を吐出するノズル数を増やしていき、中心線O-Oに沿ってノズルから塗料を吐出している。
図12(a)において、点線で示したドットは塗料を吐出していないノズルを示す。
【0096】
上述のようにヘッド100の往復動の方向は、ルーフ塗装領域の塗装終了境界線をなす仮想境界線R-Rに対して平行に設定されるため、仮想境界線R-R付近を塗装するヘッド100は、
図12(b)に示されるようにすべてのノズルから塗料を吐出している。
【0097】
続いてルーフ塗装領域からピラー塗装領域に連続して塗装を実行する場合の、ピラー塗装領域内でのヘッド100の移動方向は、塗装開始境界線(仮想境界線R-RまたはR´-R´)に対してほぼ平行となるように設定される。この場合も、ピラーUc,Uhを塗装するヘッド100は、
図12(c)に示されるようにすべてのノズルから塗料を吐出させて塗装することができる。
【0098】
以上のように実施形態の場合、ルーフUdを塗装する際のヘッド100は、
図12(a)のように中心線O-Oからヘッド100が離れていくに連れて、塗料を吐出するノズル102(実線で示されたノズル)を次第に増加させながら移動する。続いてルーフUdからピラーUc,Uhに切り替わる部位を塗装する際のヘッド100は、
図12(b)のように、全てのノズル102で塗料を吐出しながら仮想境界線R-Rまで移動する。続いてピラーUc,Uhを塗装する際のヘッド100は、
図12(c)のように全てのノズル102で塗料を吐出しながら仮想境界線R´-R´に対して平行に移動する。
【0099】
このように、実施形態の構成ではルーフ塗装領域からピラー塗装領域に連続して塗装を実行する場合に、途中で塗料の吐出が一旦中断され、その後に再び吐出が再開されるノズルが発生しない。そのため、途中で洗浄工程を挟む必要もなく、塗装システムの生産性を向上させることが可能になる。また、洗浄液の使用量も減らすことができる。
【0100】
なお、実施形態では、塗装領域の塗装の進行とともに、塗料を吐出するノズル数を漸次増加させる例を説明したが、塗料を吐出するノズル数を漸次減少するように制御してもよい。または、塗料を吐出するノズル数を漸次増加させた後、当該状態から前記ノズル数を漸次減少させるように制御してもよい。
【0101】
また、ロボットの場合、塗料を吐出させたい位置にヘッド100を自由に移動させることができるため、例えば1つのノズルを用いて塗装する領域を最初にすべて塗装し、次に2つのノズルを用いて塗装する領域をすべて塗装すると言うようにして、塗装の進行とともに、塗料を吐出するノズル数を増加させて行ってもよい。
【0102】
または、それとは反対に4つのノズルを用いて塗装する領域を最初にすべて塗装し、次に3つのノズルを用いて塗装する領域をすべて塗装すると言うようにして、塗装の進行とともに、塗料を吐出するノズル数を減少させて行ってもよい。つまり、1ジョブで行う塗装領域を塗装している間に、一度吐出を中断したノズル(以下、中断ノズルともいう)を復帰させる動作が発生しなければよい。
【0103】
ここで、中断ノズルとは、例えば、
図11に示されたヘッド100の移動軌跡において、ヘッド100の改行動作に要する改行時間よりも長い時間、塗料を吐出しない期間が継続しているノズルを指すものとする。
【0104】
上述のように、本実施形態は、塗装データに基づいて車体Uの塗装領域に塗料を吐出する複数のノズル102を有したヘッド100と、塗装データに基づいて車体Uに対しヘッド100を移動させる塗装ロボット1000と、を備える塗装システム10000であって、塗装領域の塗装の進行とともに、複数のノズル102のうち塗装領域に塗料を吐出するノズル数を漸次増加または漸次減少するように、ヘッド100および塗装ロボット1000を制御する制御装置901を備える。
【0105】
なお、実施形態において、塗装領域は、車体Uの塗装対象範囲(車体U全体)を複数に区分けしたうちの1つの領域としたが、複数に区分けせずに車体U全体を塗装領域としてもよい。
【0106】
また、1ジョブで行う塗装領域の規模については、例えば車体1台分、車体のルーフパネル1枚分、サイドパネル1枚分等、所望の単位で適宜設定されてよい。
【0107】
また、上述の説明では、第一塗装領域の一例であるルーフ塗装領域と、第二塗装領域の一例であるピラー塗装領域とが同一部品、つまり1つの車体外板に連続状に形成されて存在することを前提としたが、これに限るものではない。例えば、ルーフ塗装領域は第一の部品の一例であるルーフパネルに存在し、ピラー塗装領域は第一の部品とは異なる第二の部品の一例であるサイドパネルに存在し、これら2つの部品の接合部に沿って仮想境界線R-R(R´-R´)を設定するようにしてもよい。この場合、ルーフ塗装領域内でのヘッド100の移動方向およびピラー塗装領域内でのヘッド100の移動方向は、接合部に沿って設定された仮想境界線R-R(R´-R´)に対してほぼ平行となるようにする。
【0108】
これにより、例えば、2つの部品を溶接で接合し、溶接部分を塗装したくない場合にも、ルーフ塗装領域は溶接部分に対してほぼ平行をなして塗装が終了し、ピラー塗装領域は溶接部分に対してほぼ平行をなして塗装が開始するようになる。その結果、溶接部分を塗装せずに連続塗装を行うことが可能になる。
【0109】
図13は、塗装工程の比較図であり、
図13(a)は比較例の構成でルーフからルーフ側面までを連続塗装する場合の一例を示すフローチャート、
図13(b)は実施形態の構成でルーフからルーフ側面までを連続塗装する場合の一例を示すフローチャートである。
【0110】
図9および
図10に示された比較例の構成において連続塗装が開始されると、まずルーフ塗装領域の塗装の開始に先立ち、ヘッド100を洗浄するためのヘッド洗浄工程が実行される(ステップS1)。ヘッド洗浄は、塗装ロボット1000によってヘッド100を維持ステーション2000の維持・洗浄部2001に移動させ、維持・洗浄部2001において、例えば、
図5に示したような洗浄液Lcの吹き付けによって実施される。
【0111】
次に、ヘッド100のノズル102からの吐出状態を検査するための吐出検査工程が実行される(ステップS2)。維持ステーション2000は例えばメディア板を備えている。吐出検査では、ヘッド100のすべてのノズル102から塗料を吐出させ、メディア板上にテストパターンを形成させる。
【0112】
次に、メディア板上に形成されたテストパターンに基づき、ヘッド100のすべてのノズル102から塗料が吐出されているか(塗料が吐出されていない不吐出ノズルがないか)を判断する(ステップS3)。
【0113】
ステップS3での判断結果がN(全ノズルから塗料が吐出されていない)であった場合は、ステップS1へ戻り、再びヘッド洗浄工程が実行される。ステップS3での判断結果がY(全ノズルから塗料が吐出されている)であった場合は、ルーフ塗装領域を塗装するためのルーフ塗装工程が実行される(ステップS4)。
【0114】
比較例の場合、上述のようにルーフ塗装の途中より中断状態に入るノズル(中断ノズル)が発生するため、ピラー塗装領域等、ルーフ側面の塗装開始前には、再びヘッド100を洗浄するためのヘッド洗浄工程が実行される(ステップS5)。ステップS5でのヘッド洗浄もステップS1と同様、塗装ロボット1000によってヘッド100を維持ステーション2000の維持・洗浄部2001に移動させ、維持・洗浄部2001において
図5に示したような洗浄液Lcの吹き付けによって実施される。
【0115】
ステップS5が終了したならば、ステップS2と同様の吐出検査工程(ステップS6)、およびステップS3と同様の判断工程(ステップS7)が実行される。ステップS7での判断結果がNであった場合は、ステップS5へ戻り、再びヘッド洗浄工程が実行される。ステップS7での判断結果がYであった場合は、ルーフ側面を塗装するためのルーフ側面塗装工程が実行される(ステップS8)。
【0116】
これに対し、
図11および
図12に示された実施形態の構成の場合は、ルーフ塗装の途中で中断ノズルが発生しないため、ルーフ塗装工程S4の終了後にヘッド洗浄工程S5、吐出検査工程S6および判断工程S7を行う必要がなく、ルーフ塗装工程S4が終了したならば続けてルーフ側面塗装工程S8に入ることができる。これにより、全体の塗装時間を短縮することができる。また、ヘッド洗浄工程の回数が削減されるため、洗浄液の使用量を低減することができる。
【0117】
<ヘッドの変形例>
【0118】
図14は、ヘッドの変形例を示す図であり、ノズル板側から見た平面図である。
【0119】
ヘッド700は、複数(本例では6個)のサブヘッド100a~100fから構成される。各サブヘッド100a~100fはノズル板101を備え、ノズル板101にはそれぞれ複数(本例では8個)のノズル102a~102hが形成されている。8個のノズル102a~102hのうち、ノズル102a,102b,102c,102dで1つのノズル列を形成し、ノズル102e,102f,102g,102hでもう1つのノズル列を形成している。
【0120】
2つのノズル列は、図において上からノズル102e、ノズル102a、ノズル102f、ノズル102b・・・のようにノズルが互い違いにノズル板101に形成されている。つまり、複数のノズルが二次元配置されている。各ノズル102a~102hには、上述のようにニードル弁131および圧電素子132がノズル毎に設けられており、圧電素子132に駆動電圧が印加されるとニードル弁131がノズル102を開く方向に移動し、ノズル102から塗料が吐出される。
【0121】
6つのサブヘッド100a~100fは、それぞれのノズル102a~102hが相互に重ならないよう、上下方向にわずかに位置をずらしてヘッド700のハウジング710に取り付けられている。これにより、例えばサブヘッド100aのノズル102eとノズル102aとの間は、別のサブヘッドのノズルによって補間され、高解像度での記録が可能になる。
【0122】
上記構成のヘッド700は、塗装ロボット1000のエンドエフェクタ1004に取り付けることが可能であり、車体Uに対して高解像度で塗装することができる。なお、
図14に示されたサブヘッドの数、ノズルの数は一例であり、これらに限るものではない。例えば、サブヘッドは6つより少なくてもよいし、多くてもよい。1つのノズル板101に形成されるノズルは8つより少なくてもよいし、多くてもよい。また、1つのノズル板101に形成されるノズル列は2列に限らず、3列以上としてもよい。また、塗装ロボット1000のエンドエフェクタ1004に取り付けられるヘッド700は、1つに限らず、複数のヘッド700を隣接させて設けてもよい。これにより、解像度をより高めることができる。
【0123】
以上説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
【0124】
[第1態様]
第1態様は、塗装データに基づいて塗装物(例えば車体U)の塗装領域に液滴を吐出する複数のノズル(例えばノズル102)を有したヘッド(例えばヘッド100)と、前記塗装データに基づいて前記塗装物と前記ヘッドとを相対移動させる移動手段(例えば塗装ロボット1000)と、を備える塗装システム(例えば塗装システム10000)であって、前記塗装領域の塗装の進行とともに、前記複数のノズルのうち前記塗装領域に前記液滴を吐出するノズル数を漸次増加または漸次減少するように、前記ヘッドおよび前記移動手段を制御する制御手段(例えば制御装置901)を備えることを特徴とするものである。
【0125】
[第2態様]
第2態様は、第1態様において、前記制御手段は、前記ノズル数を漸次増加させた後、前記ノズル数を漸次減少させることを特徴とするものである。
【0126】
[第3態様]
第3態様は、第1態様において、前記ヘッドは、前記塗装領域の塗装の開始に先立ち洗浄されたヘッドであることを特徴とするものである。
【0127】
[第4態様]
第4態様は、第1態様において、前記塗装物(例えば車体U)の前記塗装領域を仮想境界線(例えば仮想境界線R-R)によって第一塗装領域(例えばルーフ塗装領域)と第二塗装領域(例えばピラー塗装領域)とに分割するとともに、前記第一塗装領域で見た前記仮想境界線を塗装終了境界線と定義し、前記第二塗装領域で見た前記仮想境界線を塗装開始境界線と定義したとき、前記第一塗装領域から前記第二塗装領域に連続して塗装を実行する場合の、前記第一塗装領域内での前記相対移動の方向は、前記塗装終了境界線に対してほぼ平行とし、前記第一塗装領域から前記第二塗装領域に連続して塗装を実行する場合の、前記第二塗装領域内での前記相対移動の方向は、前記塗装開始境界線に対してほぼ平行とすることを特徴とするものである。
【0128】
[第5態様]
第5態様は、第1態様または第4態様において、前記塗装領域は、前記塗装物の塗装対象範囲を複数に区分けしたうちの1つであることを特徴とするものである。
【0129】
[第6態様]
第6態様は、第4態様において、前記第一塗装領域と前記第二塗装領域は同一部品に存在することを特徴とするものである。
【0130】
[第7態様]
第7態様は、第4態様において、前記第一塗装領域は第一の部品に存在し、前記第二塗装領域は前記第一の部品とは異なる第二の部品に存在し、前記仮想境界線(例えば仮想境界線R-R)は前記第一の部品と前記第二の部品との接合部をなすとき、前記接合部を塗装しない場合の、前記第一塗装領域内での前記相対移動の方向および前記第二塗装領域内での前記相対移動の方向は、前記接合部に対してほぼ平行とすることを特徴とするものである。
【0131】
[第8態様]
第8態様は、第7態様において、前記塗装物は車体であり、前記第一の部品はルーフパネルであり、前記第二の部品はサイドパネルであることを特徴とするものである。
【0132】
[第9態様]
第9態様は、第1態様において、前記複数のノズルが二次元配置されていることを特徴とするものである。
【0133】
[第10態様]
第10態様は、塗装データに基づいて塗装物の塗装領域に液滴を吐出する複数のノズルを有したヘッドと、前記塗装データに基づいて前記塗装物と前記ヘッドとを相対移動させる移動手段と、を備える塗装システムの塗装方法であって、前記複数のノズルのうち前記塗装領域に前記液滴を吐出するノズル数を漸次増加または漸次減少させながら前記塗装領域を塗装することを特徴とするものである。
【符号の説明】
【0134】
100 ヘッド
101 ノズル板
102 ノズル
131 ニードル弁
132 圧電素子
901 制御装置(制御手段の一例)
902 ヘッド制御部
903 端末装置
904 ロボット制御部
905 維持制御部
1000 塗装ロボット(移動手段の一例)
2000 維持ステーション
10000 塗装システム
U 車体(塗装物の一例)