(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092154
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】推定装置、プログラム及び推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20240701BHJP
G01N 33/24 20060101ALI20240701BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G01N33/24 A
G01N33/24 E
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207886
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】吉川 たかし
(72)【発明者】
【氏名】増井 之人
(72)【発明者】
【氏名】小橋 一裕
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059CC20
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE11
2G059FF01
2G059KK04
2G059MM05
(57)【要約】
【課題】対象物の含水量等を推定するにあたって、周辺環境に影響を受けづらい推定装置等を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様によれば、対象物の含水量を推定する推定装置が提供される。この推定装置は、光学特性取得部と、含水モデル情報取得部と、含水量推定部と、を備える。光学特性取得部は、対象物と、対象物とは異なる基準板と、のそれぞれの光学特性を取得する。含水モデル情報取得部は、対象物の光学特性と、対象物の含水量と、が関連付けられて作成された含水モデル情報を取得する。含水量推定部は、対象物の光学特性と、基準板の光学特性と、含水モデル情報と、に基づいて対象物の含水量を推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の含水量を推定する推定装置であって、
光学特性取得部と、含水モデル情報取得部と、含水量推定部と、を備え、
前記光学特性取得部は、前記対象物と、前記対象物とは異なる基準板と、のそれぞれの光学特性を取得し、
前記含水モデル情報取得部は、前記対象物の光学特性と、前記対象物の含水量と、が関連付けられて作成された含水モデル情報を取得し、
前記含水量推定部は、前記対象物の光学特性と、前記基準板の光学特性と、前記含水モデル情報と、に基づいて前記対象物の含水量を推定する、
推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の推定装置において、
前記光学特性取得部は、前記対象物及び/又は前記基準板の、互いに異なる複数の波長の光に対する光学特性を取得する、推定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の推定装置において、
前記光学特性取得部は、前記光学特性として、前記対象物及び/又は前記基準板の、吸収率、反射率及び透過率のうちいずれか1つ以上を取得する、推定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の推定装置において、
前記光学特性取得部は、前記対象物と、前記基準板と、を同一画角内に含めて撮像することで、それぞれの光学特性を取得する、推定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の推定装置において、
前記光学特性取得部の取得する前記対象物及び/又は前記基準板の光学特性は、ハイパースペクトルカメラ又はマルチスペクトルカメラを用いて取得される、推定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の推定装置において、
前記基準板は、前記ハイパースペクトルカメラ又は前記マルチスペクトルカメラの筐体に連結されて設けられる、推定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の推定装置において、
前記基準板は、前記基準板の位置及び/又は向きを調整可能に前記筐体に連結されて設けられる、推定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の推定装置おいて、
さらに検知部と、調整部と、を備え、
前記検知部は、前記ハイパースペクトルカメラ又は前記マルチスペクトルカメラに対して照射される光に関する情報を検知し、
前記調整部は、前記検知部が検知した前記光に関する情報に基づいて、前記基準板の位置及び/又は向きを調整する、推定装置。
【請求項9】
請求項1に記載の推定装置において、
前記対象物は、製鉄原料又は発電燃料である、推定装置。
【請求項10】
対象物の中の薬剤の含有の有無又は含有量を推定する推定装置であって、
光学特性取得部と、薬剤含有モデル情報取得部と、薬剤情報推定部と、を備え、
前記光学特性取得部は、前記対象物と、前記対象物とは異なる基準板と、のそれぞれの光学特性を取得し、
前記薬剤含有モデル情報取得部は、前記対象物の光学特性と、前記対象物の中の薬剤の有無又は含有量と、が関連付けられて作成された薬剤含有モデル情報を取得し、
前記薬剤情報推定部は、前記対象物の光学特性と、前記基準板の光学特性と、前記薬剤含有モデル情報と、に基づいて前記対象物の中の含有の有無又は含有量を推定する、
推定装置。
【請求項11】
請求項10に記載の推定装置において、
前記光学特性取得部は、前記対象物及び/又は前記基準板の、互いに異なる複数の波長の光に対する光学特性を取得する、推定装置。
【請求項12】
プログラムであって、
コンピュータを、請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の推定装置の各部として機能させるためのプログラム。
【請求項13】
対象物の含水量を推定する推定方法であって、
光学特性取得工程と、含水モデル情報取得工程と、含水量推定工程と、を備え、
前記光学特性取得工程は、前記対象物と、前記対象物とは異なる基準板と、のそれぞれの光学特性を取得し、
前記含水モデル情報取得工程は、前記対象物の光学特性と、前記対象物の含水量と、が関連付けられて作成された含水モデル情報を取得し、
前記含水量推定工程は、前記対象物の光学特性と、前記基準板の光学特性と、前記含水モデル情報と、に基づいて前記対象物の含水量を推定する、
推定方法。
【請求項14】
対象物の中の薬剤の含有の有無又は含有量を推定する推定方法であって、
光学特性取得工程と、薬剤含有モデル情報取得工程と、薬剤情報推定工程と、を備え、
前記光学特性取得工程は、前記対象物と、前記対象物とは異なる基準板と、のそれぞれの光学特性を取得し、
前記薬剤含有モデル情報取得工程は、前記対象物の光学特性と、前記対象物の中の薬剤の有無又は含有量と、が関連付けられて作成された薬剤含有モデル情報を取得し、
前記薬剤情報推定工程は、前記対象物の光学特性と、前記基準板の光学特性と、前記薬剤含有モデル情報と、に基づいて前記対象物の中の含有の有無又は含有量を推定する、
推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置、プログラム及び推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄原料や発電燃料としての鉄鉱石や石炭等の物質については、その含水量を適切な範囲内に維持することが必要である。これらの物質は、乾燥しすぎると粉塵が発生し、一方で、含水量が多すぎると搬送時の詰まりが起こったり、乾燥のための熱量が多く必要になりエネルギー効率が低下したりすることがある。
【0003】
そこで、乾燥している場合には散水をし、含水量が多すぎる場合には遮水剤等の薬剤を散布して、含水量を適切な範囲に維持するために、それらの物質中に含まれる含水量を把握する必要がある。
【0004】
物質中に含まれる含水量を把握し、粉塵防止の目的で散水を行うため、例えば特許文献1には、近赤外線式含水率計を用いて鉄鉱石のパイルの表面の含水量を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、上述のようなパイルの表面の含水量等を推定するに際しては、周辺環境に影響を受けることが多く、適正な数値管理が難しい場合があった。
【0007】
本発明では上記事情に鑑み、対象物の含水量等を推定するにあたって、周辺環境に影響を受けづらい推定装置等を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、対象物の含水量を推定する推定装置が提供される。この推定装置は、光学特性取得部と、含水モデル情報取得部と、含水量推定部と、を備える。光学特性取得部は、対象物と、対象物とは異なる基準板と、のそれぞれの光学特性を取得する。含水モデル情報取得部は、対象物の光学特性と、対象物の含水量と、が関連付けられて作成された含水モデル情報を取得する。含水量推定部は、対象物の光学特性と、基準板の光学特性と、含水モデル情報と、に基づいて対象物の含水量を推定する。
【0009】
具体的に、本発明は以下のものを提供する。
(1)
対象物の含水量を推定する推定装置であって、
光学特性取得部と、含水モデル情報取得部と、含水量推定部と、を備え、
前記光学特性取得部は、前記対象物と、前記対象物とは異なる基準板と、のそれぞれの光学特性を取得し、
前記含水モデル情報取得部は、前記対象物の光学特性と、前記対象物の含水量と、が関連付けられて作成された含水モデル情報を取得し、
前記含水量推定部は、前記対象物の光学特性と、前記基準板の光学特性と、前記含水モデル情報と、に基づいて前記対象物の含水量を推定する、
推定装置。
(2)
(1)に記載の推定装置において、
前記光学特性取得部は、前記対象物及び/又は前記基準板の、互いに異なる複数の波長の光に対する光学特性を取得する、推定装置。
(3)
(1)又は(2)に記載の推定装置において、
前記光学特性取得部は、前記光学特性として、前記対象物及び/又は前記基準板の、吸収率、反射率及び透過率のうちいずれか1つ以上を取得する、推定装置。
(4)
(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の推定装置において、
前記光学特性取得部は、前記対象物と、前記基準板と、を同一画角内に含めて撮像することで、それぞれの光学特性を取得する、推定装置。
(5)
(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の推定装置において、
前記光学特性取得部の取得する前記対象物及び/又は前記基準板の光学特性は、ハイパースペクトルカメラ又はマルチスペクトルカメラを用いて取得される、推定装置。
(6)
(5)に記載の推定装置において、
前記基準板は、前記ハイパースペクトルカメラ又は前記マルチスペクトルカメラの筐体に連結されて設けられる、推定装置。
(7)
(6)に記載の推定装置において、
前記基準板は、前記基準板の位置及び/又は向きを調整可能に前記筐体に連結されて設けられる、推定装置。
(8)
(7)に記載の推定装置おいて、
さらに検知部と、調整部と、を備え、
前記検知部は、前記ハイパースペクトルカメラ又は前記マルチスペクトルカメラに対して照射される光に関する情報を検知し、
前記調整部は、前記検知部が検知した前記光に関する情報に基づいて、前記基準板の位置及び/又は向きを調整する、推定装置。
(9)
(1)ないし(8)のいずれか1項に記載の推定装置において、
前記対象物は、製鉄原料又は発電燃料である、推定装置。
(10)
対象物の中の薬剤の含有の有無又は含有量を推定する推定装置であって、
光学特性取得部と、薬剤含有モデル情報取得部と、薬剤情報推定部と、を備え、
前記光学特性取得部は、前記対象物と、前記対象物とは異なる基準板と、のそれぞれの光学特性を取得し、
前記薬剤含有モデル情報取得部は、前記対象物の光学特性と、前記対象物の中の薬剤の有無又は含有量と、が関連付けられて作成された薬剤含有モデル情報を取得し、
前記薬剤情報推定部は、前記対象物の光学特性と、前記基準板の光学特性と、前記薬剤含有モデル情報と、に基づいて前記対象物の中の含有の有無又は含有量を推定する、
推定装置。
(11)
(10)に記載の推定装置において、
前記光学特性取得部は、前記対象物及び/又は前記基準板の、互いに異なる複数の波長の光に対する光学特性を取得する、推定装置。
(12)
プログラムであって、
コンピュータを、(1)ないし(11)のいずれか1項に記載の推定装置の各部として機能させるためのプログラム。
(13)
対象物の含水量を推定する推定方法であって、
光学特性取得工程と、含水モデル情報取得工程と、含水量推定工程と、を備え、
前記光学特性取得工程は、前記対象物と、前記対象物とは異なる基準板と、のそれぞれの光学特性を取得し、
前記含水モデル情報取得工程は、前記対象物の光学特性と、前記対象物の含水量と、が関連付けられて作成された含水モデル情報を取得し、
前記含水量推定工程は、前記対象物の光学特性と、前記基準板の光学特性と、前記含水モデル情報と、に基づいて前記対象物の含水量を推定する、
推定方法。
(14)
対象物の中の薬剤の含有の有無又は含有量を推定する推定方法であって、
光学特性取得工程と、薬剤含有モデル情報取得工程と、薬剤情報推定工程と、を備え、
前記光学特性取得工程は、前記対象物と、前記対象物とは異なる基準板と、のそれぞれの光学特性を取得し、
前記薬剤含有モデル情報取得工程は、前記対象物の光学特性と、前記対象物の中の薬剤の有無又は含有量と、が関連付けられて作成された薬剤含有モデル情報を取得し、
前記薬剤情報推定工程は、前記対象物の光学特性と、前記基準板の光学特性と、前記薬剤含有モデル情報と、に基づいて前記対象物の中の含有の有無又は含有量を推定する、
推定方法。
【0010】
上記態様によれば、対象物の含水量等を推定するにあたって、周辺環境に影響を受けづらい推定装置等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】情報処理システム1の全体構成を示す図である。
【
図2】情報処理部2aのハードウェア構成を示す図である。
【
図3】推定装置2の機能を示す機能ブロック図である。
【
図4】推定装置2を用いた情報処理の流れを表すアクティビティ図である。
【
図5】本実施形態に用いられる光学特性測定部2bの模式図である。
【
図6】光学特性測定部2bの撮像する内容を説明するための模式図である。
【
図7】光学特性測定部2bの調整機構を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0013】
ところで、本実施形態に登場するソフトウェアを実現するためのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体(Non-Transitory Computer-Readable Medium)として提供されてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよいし、外部のコンピュータで当該プログラムを起動させてクライアント端末でその機能を実現(いわゆるクラウドコンピューティング)するように提供されてもよい。
【0014】
また、本実施形態において「部」とは、例えば、広義の回路によって実施されるハードウェア資源と、これらのハードウェア資源によって具体的に実現されうるソフトウェアの情報処理とを合わせたものも含みうる。また、本実施形態においては様々な情報を取り扱うが、これら情報は、例えば電圧・電流を表す信号値の物理的な値、0または1で構成される2進数のビット集合体としての信号値の高低、または量子的な重ね合わせ(いわゆる量子ビット)によって表され、広義の回路上で通信・演算が実行されうる。
【0015】
また、広義の回路とは、回路(Circuit)、回路類(Circuitry)、プロセッサ(Processor)、およびメモリ(Memory)等を少なくとも適当に組み合わせることによって実現される回路である。すなわち、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、およびフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等を含むものである。
【0016】
1.ハードウェア構成
本節では、本実施形態に係る情報処理システム1のハードウェア構成について説明する。
図1は、情報処理システム1の全体構成を示す図である。
【0017】
1.1 情報処理システム1
本実施形態の情報処理システム1は、対象物の含水量を推定する推定方法や、対象物の中の薬剤の含有の有無又は含有量を推定する推定方法を実行可能に構成されるシステムである。そのため、かかる情報処理システム1について、単に「推定システム」と称してもよい。
ここで、本実施形態の情報処理システム1は、推定装置2を備える。なお、本明細書では、便宜上、情報処理システム1が、この推定装置2が推定する対象である物質Sも包含する概念として扱う。
図1に示す推定装置2は、情報処理部2aと光学特性測定部2bとを備える。情報処理部2aは情報処理システム1における物質S中の含水量の推定のための情報処理等を制御するものである。なお、情報処理システム1に例示されるシステムとは、1つ又はそれ以上の装置又は構成要素からなるものである。したがって、情報処理部2a単体であってもシステムの一例となる。一方、詳細は図示していないが、複数の装置により所定の情報処理が行われる態様も例示することができる。
【0018】
ここで、本実施形態の情報処理システム1の物質Sは、含水量等を推定する必要のある対象物である。この物質Sは、公知の物質の中から適宜選択される。この物質Sは無機物であっても有機物あってもよい。なお、例示的な実施形態において、この物質S(対象物)は、製鉄原料又は発電燃料である。
「製鉄原料」とは、製鉄所等の製鉄設備における製鉄の原料及び燃料として使用されるものをいい、例えば石炭、鉄鋼、ダスト、スラグ、コークス、焼結鉱の他、石灰石、ドロマイト等の副原料等が挙げられる。また、「発電燃料」とは、発電所等の発電設備における発電の燃料として使用されるものをいい、例えば石炭、バイオマス燃料等が挙げられる。より典型的な例では、物質Sは、石炭又は鉄鉱石である。
なお、本明細書における「含水量」とは、絶対的な質量であってもよいし、物質の単位質量あたりの含水量、すなわち含水率をも含む概念である。
【0019】
1.2 推定装置2
前述の通り、
図1に示される推定装置2は、情報処理部2aと光学特性測定部2bとを備える。以下、各構成について説明する。
【0020】
[情報処理部2a]
情報処理部2aは、所定の情報処理により、物質Sの含水量等を推定する装置である。
図2は、情報処理部2aのハードウェア構成を示す図である。情報処理部2aは、制御部21と、記憶部22と、入力部23と、表示部24と、通信部25とを有しており、これらの各部を通信バス20が電気的に接続することで構成される。以下、情報処理部2aに備えられる各部について説明を行う。
【0021】
(制御部21)
制御部21は、例えば不図示の中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)である。制御部21は、記憶部22に記憶された所定のプログラムを読み出すことによって、推定装置2に係る種々の機能を実現する。すなわち、記憶部22に記憶されているソフトウェアによる情報処理が、ハードウェアの一例である制御部21によって具体的に実現されることで、制御部21に含まれる各機能部として実行されうる。これらについては、次節においてさらに詳述する。なお、制御部21は単一であることに限定されず、機能ごとに複数の制御部21を有するように実施してもよい。またそれらの組合せであってもよい。
【0022】
(記憶部22)
記憶部22は、前述の記載により定義される様々な情報を記憶する。これは、例えば、制御部21によって実行される推定装置2に係る種々のプログラム等を記憶するソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等のストレージデバイスとして、あるいは、プログラムの演算に係る一時的に必要な情報(引数、配列等)を記憶するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)等のメモリとして実施されうる。記憶部22は、制御部21によって実行される推定装置2に係る種々のプログラムや変数等を記憶している。
【0023】
(入力部23)
入力部23は、情報処理部2aの筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。例えば、入力部23は、表示部24と一体となってタッチパネルとして実施されてもよい。タッチパネルであれば、ユーザは、タップ操作、スワイプ操作等を入力することができる。もちろん、タッチパネルに代えて、スイッチボタン、マウス、QWERTYキーボード等を採用してもよい。すなわち、入力部23がユーザによってなされた操作入力を受け付ける。当該入力が命令信号として、通信バス20を介して制御部21に転送され、制御部21が必要に応じて所定の制御や演算を実行しうる。
【0024】
(表示部24)
表示部24は、例えば、情報処理部2aの筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。表示部24は、ユーザが操作可能なグラフィカルユーザインターフェース(Graphical User Interface:GUI)の画面を表示する。これは例えば、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ及びプラズマディスプレイ等の表示デバイスを、情報処理部2aの種類に応じて使い分けて実施することが好ましい。
【0025】
(通信部25)
通信部25は、情報処理部2aから種々の電気信号を外部の構成要素に送信可能に構成される。また、通信部25は、外部の構成要素から推定装置2への種々の電気信号を受信可能に構成される。なお、通信部25がネットワーク通信機能を有し、これにより通信回線を介して、光学特性測定部2bや推定装置2と外部機器との間で種々の情報を通信可能に実施してもよい。
【0026】
[光学特性測定部2b]
光学特性測定部2bは、推定対象である物質Sの光学特性を測定するように構成されるものである。
光学特性の測定範囲やその分け方は、用途等に応じて適宜選択することができ、光学特性測定部2bも、光学特性の測定範囲やその分け方に応じて適宜選択すればよく、光学特性を測定できるものであれば特に限定されない。例えば、ヤード内にパイル状に積まれた物質Sを測定する場合には、光学特性測定部2bとして、ハイパースペクトルカメラやマルチスペクトルカメラを用いることができる。この場合において、ハイパースペクトルカメラやマルチスペクトルカメラは、ヤード上空から測定する必要がある。そこで、このような光学特性測定部2bを、物質Sのパイルの最大高さよりも高い位置を飛行することができる飛行体(例えば、ドローン等の無人飛行体UAV)等や、パイルの最大高さよりも高い位置まで伸長することができるリクレーマー等のブームに取り付けて用いればよい。すなわち、このような場合においては、推定対象である物質Sの光学特性は、ハイパースペクトルカメラ又はマルチスペクトルカメラを用いて測定され、特に飛行体に取り付けられたハイパースペクトルカメラ又はマルチスペクトルカメラを用いて測定される。
【0027】
なお、前述のようなヤード内にパイル状に積まれた物質Sを測定する場合、光学特性測定部2bの配置される高さは、特に限定されないが、ヤードから20m以上200m以下高い位置に配置されることが好ましい。具体的に、光学特性測定部2bの配置される高さとしては、例えば25m以上、30m以上、35m以上、40m以上、45m以上、50m以上、55m以上、60m以上、65m以上、70m以上、75m以上、80m以上、85m以上、90m以上、95m以上、100m以上、105m以上、110m以上、115m以上、120m以上、125m以上、130m以上、135m以上であってよく、また、195m以下、190m以下、185m以下、180m以下、175m以下、170m以下、165m以下、160m以下であってもよい。
【0028】
また、光学特性測定部2bの具体的な構造や機能は追って説明を行うこととする。
【0029】
なお、光学特性測定部2bによって測定した光学特性情報は、情報処理部2aとの通信を介して、情報処理部2aに送信してもよいし、光学特性測定部2bに記録媒体を付して取得情報をそこに記録し、その記録媒体を介して、情報処理部2aに光学特性情報を取得させてもよい。なお、このように記憶媒体を介して情報処理部2aが所定の情報処理を実行し得ることから、情報処理部2aのみを「推定装置」と称することもできる。
【0030】
2.機能構成
本節では、本実施形態の機能構成について説明する。
図3は、推定装置2の機能を示す機能ブロック図である。前述の通り、ソフトウェア(記憶部22に記憶されている)による情報処理がハードウェア(制御部21)によって具体的に実現されることで、制御部21に含まれる各機能部として実行されうる。
【0031】
具体的には、推定装置2(制御部21)は、各機能部として光学特性取得部211と、含水モデル情報取得部212と、含水量推定部213と、検知部214と、調整部215と、薬剤含有モデル情報取得部216と、薬剤情報推定部217と、表示制御部218と、記憶管理部219と、を備え得る。なお、このような各機能部については、推定装置2を適用する用途等に応じて適宜増加又は省略されていてもよい。
【0032】
(光学特性取得部211)
光学特性取得部211は、光学特性取得工程を実行可能に構成される。光学特性取得工程において、光学特性取得部211は、対象物と、対象物とは異なる基準板と、のそれぞれの光学特性を取得する。なお、ここでの取得は光学特性測定部2bが測定した情報を取得する態様と、光学特性測定部2bが測定したものではない情報を取得する態様との双方を採用し得る。また、対象物と、基準板と、のそれぞれについて情報の取得経路を異なるものとしてもよい。
【0033】
(含水モデル情報取得部212)
含水モデル情報取得部212は、含水モデル情報取得工程を実行可能に構成される。含水モデル情報取得工程において、含水モデル情報取得部212は、対象物の光学特性と、対象物の含水量と、が関連付けられて作成された含水モデル情報を取得する。この含水モデル情報の詳細については追って説明する。
【0034】
(含水量推定部213)
含水量推定部213は、含水量推定工程を実行可能に構成される。含水量推定工程において、含水量推定部213は、対象物の光学特性と、基準板の光学特性と、含水モデル情報と、に基づいて対象物の含水量を推定する。
【0035】
(検知部214)
検知部214は、検知工程を実行可能に構成される。検知工程において、検知部214は、ハイパースペクトルカメラ又はマルチスペクトルカメラに対して照射される光に関する情報を検知する。
【0036】
(調整部215)
調整部215は、調整工程を実行可能に構成される。調整工程において、調整部215は、検知部214が検知した光に関する情報に基づいて、基準板の位置及び/又は向きを調整する。この検知と調整にかかる具体的な態様は追って説明することとする。
【0037】
(薬剤含有モデル情報取得部216)
薬剤含有モデル情報取得部216は、薬剤含有モデル情報取得工程を実行可能に構成される。薬剤含有モデル情報取得工程において、薬剤含有モデル情報取得部216は、対象物の光学特性と、対象物の中の薬剤の有無又は含有量と、が関連付けられて作成された薬剤含有モデル情報を取得する。この薬剤含有モデル情報の詳細については追って説明する。
【0038】
(薬剤情報推定部217)
薬剤情報推定部217は、薬剤情報推定工程を実行可能に構成される。薬剤情報推定工程において、薬剤情報推定部217は、対象物の光学特性と、基準板の光学特性と、薬剤含有モデル情報と、に基づいて対象物の中の含有の有無又は含有量を推定する。
【0039】
(表示制御部218)
表示制御部218は、表示制御工程を実行可能に構成される。表示制御工程において、表示制御部218は、記憶部22に記憶された種々の情報又はこれらを含む画面等を視認可能な態様で表示させる。具体的には、表示制御部218は、画面、画像、アイコン、メッセージ等の視覚情報を、推定装置2の表示部24等に表示させるように制御する。表示制御部218は、視覚情報を推定装置2に表示させるためのレンダリング情報だけを生成してもよい。
【0040】
(記憶管理部219)
記憶管理部219は、記憶管理工程を実行可能に構成される。記憶管理工程において、記憶管理部219は、情報処理システム1に関連する、記憶すべき種々の情報について管理するように構成される。典型的には、記憶管理部219は、光学特性測定部2bが測定した情報や推定装置2が推定した情報等を記憶領域に記憶させるように構成される。この記憶領域は、たとえば推定装置2の記憶部22や各種端末の記憶部が例示されるが、この記憶領域は必ずしも情報処理システム1のシステム内である必要はなく、記憶管理部219は、種々の情報を外部記憶装置などに記憶するように管理することもできる。
【0041】
3.情報処理の詳細
第3節では、アクティビティ図等を参照しながら、推定装置2等が実行する情報処理方法について説明する。
図4は、推定装置2を用いた情報処理の流れを表すアクティビティ図である。なお、推定装置2等が実行する情報処理方法(推定方法)としては、「対象物の含水量を推定する推定方法」や「対象物の中の薬剤の含有の有無又は含有量を推定する推定方法」が例示されるが、以下、これらについて順を追って説明し、適宜、重複する内容は適宜割愛することとする。
【0042】
[対象物の含水量を推定する推定方法]
図4に示されるように、本実施形態の情報処理方法においては、推定装置2の光学特性取得部211が、対象物と、対象物とは異なる基準板と、のそれぞれの光学特性を取得する(工程S1)。
【0043】
この工程は、光学特性測定部2b等が測定した対象物の光学特性を情報処理部2aが取得するとともに、この対象物とは異なる基準板の光学特性を取得することで達成される。なお、この基準板の光学特性の取得は、対象物の光学特性を取得する光学特性測定部2bとは異なる測定装置によって測定された光学特性を情報処理部2aの光学特性取得部211が取得することによっても達成することができる。一方、対象物の光学特性を測定する光学特性測定部2bと同一の構成によって測定された基準板の光学特性を、情報処理部2aの光学特性取得部211が取得することによっても達成することができる。より典型的な例では、光学特性取得部211は、対象物と、基準板と、を同一画角内に含めて撮像することで、それぞれの光学特性を取得することができる。
【0044】
この光学特性を取得する態様について、図を示しながら説明を続ける。
図5は、本実施形態に用いられる光学特性測定部2bの模式図である。
【0045】
この光学特性測定部2bは、カメラ筐体260と、レンズ261と、基準板262と、支持部材263とを備える。なお、前述の通り、この光学特性測定部2bは、飛行体に取り付けられてもよい。
【0046】
カメラ筐体260は、所定の物体を撮像する構成を備えるものである。また、カメラ筐体260は、撮像対象の光学特性を取得可能に構成される。このカメラ筐体260としては、公知の撮像装置を用いることができるが、典型的には、ハイパースペクトルカメラ又はマルチスペクトルカメラである。すなわち、光学特性取得部211の取得する対象物及び/又は基準板の光学特性は、ハイパースペクトルカメラ又はマルチスペクトルカメラを用いて取得され得る。
【0047】
レンズ261は、カメラ筐体260に取り付けられ、焦点距離等を調整するように設けられる。
【0048】
基準板262は、例えば表面の色の経時変化少なく、拡散反射面を有する部材により構成される。典型的には、所定の色の顔料等を添加した樹脂からなる部材の表面に粗し加工を施した板を、基準板262として使用することができる。なお、基準板262の表面を構成する樹脂は適宜選択することができるが、例えばフッ素樹脂(PTFE;パーテトラフルオロエチレン)等により構成される。また、市販されており、入手容易性の高いものとしては、SphereOptics社製「Zenith Polymer標準拡散反射ターゲット」等を使用することができる。なお、基準板262の表面の色は物質Sの色調等に応じて適宜設定すればよく、好ましくは、物質Sとほぼ同色調の色により構成される。
【0049】
また、本実施形態の光学特性測定部2bは、この基準板262をカメラ筐体260に支持するための支持部材263が備えられている。すなわち、この支持部材263を備えることによって、基準板262は、ハイパースペクトルカメラ又はマルチスペクトルカメラの筐体に連結されて設けられ得る。
【0050】
すなわち、本実施形態の例示的な光学特性測定部2bでは、カメラ筐体260が基準板262の存在する方向を撮像することにより、対象物(物質S)と、基準板262と、を同一画角内に含めて撮像する。また、こうすることで、それぞれの光学特性が測定可能となる。
図6は、光学特性測定部2bの撮像する内容を説明するための模式図である。この光学特性測定部2bの撮像する画角AG1には、基準板262と、物質Sとの双方が収められて撮像されており、それぞれの光学特性を測定可能である。また、このようにして測定された光学特性は、通信回路等を介して、情報処理部2aが取得可能である。
【0051】
ここで、光学特性測定部2bの測定する光学特性(すなわち光学特性取得部211の取得する光学特性)は、対象物及び/又は基準板についての、公知の光学特性のいずれであってよいが、典型的には吸収率、反射率及び透過率のうちいずれか1つ以上である。
【0052】
また、光学特性測定部2bの測定する光学特性は、1の波長に対する光学特性であってもよいが、好ましくは互いに異なる複数の波長の光に対する光学特性である。すなわち、光学特性取得部211は、対象物及び/又は基準板の、互いに異なる複数の波長の光に対する光学特性を取得し得る。
【0053】
この光学特性の取得に関し、典型的にはモデル(含水モデル情報/薬剤含有モデル情報)に適合する波長の光に対する光学特性を取得する。具体的な態様は、続く含水モデルを取得する工程に関する説明にて詳述する。
【0054】
すなわち、前述の工程S1とは別に、推定装置2の含水モデル情報取得部212は、対象物の光学特性と、対象物の含水量と、が関連付けられて作成された含水モデル情報を取得する(工程S2)。なお、この工程S1と工程S2を行う順序は任意であり、工程S1を工程S2に先立って行うことも、工程S2を工程S1に先立って行うことも、双方の工程を同時に行うことも可能である。
【0055】
ここで、含水モデル情報について説明する。
この含水モデル情報は、推定対象である物質Sと同一の物質の、所定の波長の光に対する光学特性と、物質中の含水量との関係を示すものである。なお、後述するように本実施形態の推定方法においては、対象物の光学特性は、基準板の光学特性に応じて補正されるものである。このような観点から、当該含水モデル情報は、このような補正された対象物の光学特性と、物質中の含水量との関係が示されればよい。
【0056】
典型的には、当該含水モデル情報は、推定対象である物質Sと同一の物質の、異なる2つの波長の光に対する2つの光学特性の差の関数として算出する含水指数と、物質中の含水量との関係を示すものである。
【0057】
なお、上述の所定の波長の光は、800nm~2400nmの波長範囲内の波長の光が例示される。800nm~2400nmの波長範囲内では、水分子が吸収を示す波長ピークが複数存在する。したがって、この波長範囲内で測定する光学特性(特に反射率)は、実際の物質Sの含水量と相関性が高い傾向がある。特に、800nm~2400nmの波長範囲内の異なる2つの波長の光に対する2つの光学特性の差の関数として算出する含水指数は、2つの波長における影響を反映しているため、実際の物質Sの含水量と特に相関性が高く、物質Sの含水指数と含水量との関係を示す含水モデル情報を用いることに測定距離及び気象条件にかかわらず、精度よく物質Sの含水量を推定することができる。
【0058】
なお、上述した2つの波長を選択するための波長範囲としては、800nm~1100nm、1160nm~1340nm及び1440nm~2400nmの範囲内であることが好ましい。このような波長範囲を採用することで、大気中の水分の影響を受けづらくすることができ、結果、測定距離や天候(晴天、曇天)の影響を小さくして、物質Sの含水量を推定することができる。
【0059】
ここで、「物質の、800nm~2400nmの波長範囲内の異なる2つの波長の光に対する2つの光学特性の差の関数」(以下、「差の関数」ということもある。)について説明する。一例として、2つの光の波長として1050nm及び1330nmを選択し、光学特性として反射率を選択する場合について具体的に説明する。波長1050nmの光に対する反射率をR1050、波長1330nmの光に対する反射率をR1330とすると、2つの光学特性の差はR1330-R1050と示される。差の関数はf(R1330-R1050)と示される。
【0060】
これを一般化すると、波長inm、jnmの光に対する光学特性をそれぞれOi、Ojとすると、2つの光学特性の差はOj-Oiと示され、差の関数はf(Oj-Oi)と示される。なお、Oi、Ojは、それぞれ同一の光学特性であっても、異なる光学特性であってもよい。「同一の光学特性」とは、例えばOi、Ojともに反射率であるような場合をいい、「異なる光学特性」とは、例えばOiは反射率、Ojは吸収率であるような場合をいう。
【0061】
また、差の関数の形態としては、Oj-Oiの関数であれば特に限定されるものではなく、Oj-Oi、C(Oj-Oi)、C/(Oj-Oi)、COj-Oi、eOj-Oi、log(Oj-Oi)(式中、Cは任意の定数である。)等の関数を用いることができる。また、差の関数としては、式中にさらに、Oi、Ojが含まれていてもよく、例えば、以下の式(1)~(3)のようなものを用いることもできる。
【0062】
(Oj-Oi)/Oj ・・・(1)
(Oj-Oi)/Oi ・・・(2)
(Oj-Oi)/(Oj+Oi) ・・・(3)
【0063】
一実施形態において、差の関数としては、正規化分光反射指数(NDSI;Normalization Difference Spectral Index)を用いることもできる。具体的に、この正規化分光反射指数は、波長inm、jnmの光に対する反射率をそれぞれRi、Rjとすると、以下の式(4)で表される。
【0064】
NDSI=(Rj-Ri)/(Rj+Ri) ・・・(4)
【0065】
含水モデル情報としては、物質Sの含水指数と含水量との関係を示すものであれば特に限定されないが、例えば含水指数と含水量との関係を示す関数、ルックアップテーブル又はそれらの関係の学習済モデル等を用いることができる。
【0066】
含水モデル情報として、物質Sの含水指数と含水量との関係を示す関数を用いる場合において、このような関数を作成する方法の一例について説明する。想定し得る含水量の範囲をカバーするように(想定し得る含水量の上限を上回るものと、下限を下回るものが少なくとも1点ずつ存在すると好ましいが、その限りではない。)含水量を変化させた複数の含水量既知の物質Sを用意する。それぞれについて、例えば800nm~2400nmの波長範囲内で、一定間隔(例えば10nm)ごとに刻み、刻んだ波長のうちから2つの波長を選択し、これらの波長に対する、含水量既知の物質Sの光学特性をそれぞれ測定する。2つの波長に対する2つの光学特性の差と、含水量(既知)とについて回帰分析を行い、特に決定係数が高い2つの波長を求め、その波長における関数を、物質Sの含水指数と含水量との関係を示す関数として用いる。また、このような関数については、測定距離及び気象条件を変えて、決定係数を一定以上(例えば、R2>0.8)となる2つの波長の組み合わせを用いて、推定の精度をより高めることもできる。また、さらに物質Sの銘柄にかかわらずに物質の含水量を推定したい場合には、物質の銘柄を変えて決定係数を一定以上(例えば、R2>0.8)となる2つの波長の組み合わせを用いればよい。
【0067】
2つの波長を選択する波長範囲としては、850nm以上、900nm以上であることが好ましい。2つの波長を選択する波長範囲としては、2300nm以下、2200nm以下、2100nm以下、2000nm以下、1900nm以下、1800nm以下、1700nm以下であることが好ましい。
【0068】
刻みの間隔としては、特に限定されないが、5nm以上、6nm以上、7nm以上、8nm以上、9nm以上、10nm以上であることが好ましい。刻みの間隔が所要量以上であることにより、含水モデル情報の作成を容易にすることができる。一方、刻みの間隔としては、50nm以下、45nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下、15nm以下、10nm以下であることが好ましい。刻みの間隔が所要量以下であることにより、含水モデル情報を精度よく作成することができる。
【0069】
回帰分析としては、特に限定されないが、単回帰分析、重回帰分析等を用いることができる。
【0070】
また、本実施形態の情報処理方法においては、工程S1と、工程S2と、を実行した上で、含水量推定部213が、対象物の光学特性と、基準板の光学特性と、含水モデル情報と、に基づいて対象物の含水量を推定する(工程S3)。
【0071】
すなわち、前述の通り光学特性取得部211が対象物の光学特性を、含水モデル情報取得部212が含水モデル情報を取得することから、理論上はこれらの情報に基づき対象物(物質S)の含水量を推定可能であるともいえる。しかしながら、本発明者らの検討によれば、以下の事情があることがわかってきた。すなわち、対象物の光学特性は、外的要因(太陽の位置や天候等)によって影響を受けやすく、推定されるデータの確度を高めるための余地があった。これに対し、本実施形態の推定方法は、含水量の推定にあたって基準板の光学特性を参照することによって、上述のような課題を解決することができるものである。
【0072】
換言すれば、本実施形態の推定方法においては、基準板の光学特性によって、推定される対象物の含水量が補正されるものである。この補正は、必ずしも以下には限定されないが、典型的には次のように行われる。
【0073】
すなわち、測定された基準板の光学特性をOSTとし、測定された対象物の光学特性をOOBとしたときに、本工程S3においては、以下の式(5)で表される値を含水量推定工程に用いられる含水指数(I)として扱い、前述の含水モデル情報に基づき演算することで、対象物の含水量を推定する。
【0074】
I=OOB/OST ・・・(5)
【0075】
なお、本実施形態の推定方法では、最終的に出力される含水量が補正後の値となっていればよい。そのため、光学特性が測定された対象物(物質S)の測定値そのものに基づいて、含水モデル情報との関係から推定される含水量をいったん求め、別途測定された基準板の光学特性との関係をもとにいったん求められた含水量を補正することでも本実施形態の推定方法は達成される。
【0076】
このようにして推定された物質Sの含水量は、適宜ユーザに表示(出力)される。ここで、具体的な出力方法としては、例えば以下の態様が挙げられる。
例えば、物質Sのパイル等が広い範囲に物質Sが配置されている場合等には、その範囲を一定の範囲(面積)に分けて光学特性を測定し、特定の範囲(面積)ごとに推定された含水量を出力してもよく、また、物質Sのパイル等が広い範囲に物質Sが配置されている場合等には、その範囲を一定の範囲(面積)に分けて光学特性を測定し、その全部又は一部を積算してより大きい範囲の光学特性を出力してもよい。光学特性の測定範囲を一定の範囲(面積)に分ける場合において、その測定範囲、出力範囲は等分しても不等分してもよく、また、例えばパイルごと等、測定範囲や出力範囲を一定の単位に分けて光学特性を測定し、推定された含水量を出力してもよく、例えば測定範囲をパイルよりも小さな単位で均等に分けて、分けた範囲の中でパイルの含まれる範囲を積算して、パイルごとに推定された含水量を出力してもよい。このように、光学特性の測定範囲やその分け方と、出力範囲やその分け方は、用途等に応じて適宜組み合わせることができる。
また、含水量の大小で区分けし、ヤードの画像や模式図の中のパイルの上に着色したり、文字で示したりしてもよい。これらの出力結果は、たとえば表示部24に表示されるが、典型的には、推定装置2の表示制御部218の機能によって当該表示は実現可能である。
【0077】
なお、本実施形態の推定方法においては、以下の構成を採用することもできる。
図7は、光学特性測定部2bの調整機構を説明するための模式図である。
すなわち、光学特性測定部2bの基準板262は、基準板262の位置及び/又は向きを調整可能に筐体(カメラ筐体260)に連結されて設けられてもよい。すなわち、前述の含水量の推定を行うにあたって、基準板262や対象物が日陰に入ってしまうと、推定精度が低下するおそれがある。これに対し、基準板262を、基準板262の位置及び/又は向きを調整可能にカメラ筐体260に連結することにより、推定精度の低下が起こる事態を防ぎやすくなる。具体的に、
図7の光学特性測定部2bにおいては、支持部材263が可動となるように構成されており、カメラ筐体260との付け根を中心に回転したり(
図7a部分参照)、支持部材263が軸回転を行ったりすることができる(
図7b部分参照)。また、基準板262が可動となるように構成されてもよく、基準板262が、支持部材263との付け根を中心に回転するように構成されてもよい(
図7c部分参照)。もちろん、基準板262の位置や向きの調整機構はこれらには限られない。
【0078】
なお、このような基準板262の調整は手動で行ってもよいが、以下のような構成も採用することができる。すなわち、検知部214が、カメラ筐体260(ハイパースペクトルカメラ又はマルチスペクトルカメラ)に対して照射される光に関する情報を検知するように構成されてよく、調整部215が、検知部214が検知した光に関する情報に基づいて、基準板262の位置及び/又は向きを調整するように構成されてもよい。すなわち、推定装置2に備えられる検知部214、調整部215の機能に基づき、基準板262や対象物の日照状況を推定し、これに基づいて、基準板262の位置及び/又は向きを自動で調整することもできる。これによって、含水量等の推定精度の向上に寄与することができる。
【0079】
[対象物の中の薬剤の含有の有無又は含有量を推定する推定方法]
本推定方法においては、対象物の中の薬剤の含有の有無又は含有量を推定する。この推定方法においても、前述の工程S1、工程S2、工程S3に相当する各工程が実行されるが、この推定方法においては、用いられるモデル情報が、対象物の光学特性と、対象物の中の薬剤の有無又は含有量と、が関連付けられて作成された薬剤含有モデル情報であるという違いがある。
【0080】
すなわち、物質Sに水が含まれる場合と同様に、物質Sに所定の薬剤が含まれる場合は。本実施形態の推定装置2にて、含有の有無や、含有量の推定が可能である。ここで、「薬剤」は、物質Sと組み合わせることが可能な公知の薬剤のいずれであってもよい。例えば、この物質S(対象物)が、製鉄原料又は発電燃料であり、当該物質Sがパイル状に積まれている場合は、薬剤は防塵剤であってもよい。
【0081】
防塵剤としては、特に限定されないが、ワックスエマルション溶液や、樹脂エマルション溶液、シリコーンオイル、鉱物油や重油等を用いることができる。ワックスエマルションは、ワックスの原料について、天然ワックスと合成ワックスとに分けられる。このうち、天然ワックスとしては、特に限定されないが、動物系ワックス(蜜蝋、鯨蝋等)、植物系ワックス(カルナバ蝋、ライスワックス、キャンデリラワックス等)、石油系ワックス(パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等)、鉱物系ワックス(モンタンワックス、セレシンワックス等)等が挙げられる。また、合成ワックスとしては、特に限定されないが、ポリエチレンワックス、天然ワックス変性物、油脂類の硬化油等を用いることができる。エマルジョン樹脂溶液のエマルジョン樹脂としては、特に限定されず、例えばアクリル系樹脂、アクリル系共重合樹脂、酢酸ビニル系樹脂、合成ゴム、ウレタン樹脂、アスファルト(乳化剤)、アクリル・スチレン系エマルション、スチレン・ブタジエン系エマルション、エチレン・酢酸ビニル系、エマルション、バーサチック酸アクリル酸等を用いることができる。シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、有機官能性シリコーンオイル(官能基として、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、フェニル基、長鎖アルキル基、水素基等)を用いることができる。なお、このような樹脂エマルション溶液からなる防塵剤は、パイルの表面に疎水性の被膜を形成するものである。
【0082】
本推定方法においても、光学特性取得部211が、対象物及び/又は基準板262の、互いに異なる複数の波長の光に対する光学特性を取得するように構成されてよい等、前述の対象物の含水量を推定する推定方法と同種の構成を適宜採用することができる。例えば、互いに異なる複数の波長の光に対する光学特性を取得する場合、薬剤の含有状況(含有の有無及び/又は含有量)の推定精度を向上させることができる。
【0083】
以上、本実施形態の推定装置2等によれば、対象物の含水量等を推定するにあたって、周辺環境に影響を受けづらい推定装置等を実現することができる。
【0084】
4.変形例
第4節では、前述した推定装置2等の情報処理方法の変形例について説明する。
【0085】
前述の実施形態は、推定装置2の構成として説明したが、コンピュータを、推定装置2の各部として機能させるプログラムが提供されてもよい。
【0086】
前述の実施形態では、所定のモデルを用いた推定方法を示したが、モデル情報を作成するにあたって関連付けられる情報は、上述のものに限らない。すなわち、本実施形態で用いられるモデル情報は、他に、気象条件、地域に関する条件等の各種条件が関連付けられていてもよい。
【0087】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
1 :情報処理システム
2 :推定装置
2a :情報処理部
2b :光学特性測定部
20 :通信バス
21 :制御部
22 :記憶部
23 :入力部
24 :表示部
25 :通信部
211 :光学特性取得部
212 :含水モデル情報取得部
213 :含水量推定部
214 :検知部
215 :調整部
216 :薬剤含有モデル情報取得部
217 :薬剤情報推定部
218 :表示制御部
219 :記憶管理部
260 :カメラ筐体
261 :レンズ
262 :基準板
263 :支持部材
AG1 :画角
S :物質