(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092273
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】成膜装置、成膜方法及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/35 20060101AFI20240701BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240701BHJP
H10K 50/82 20230101ALI20240701BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240701BHJP
H10K 71/16 20230101ALI20240701BHJP
H10K 85/00 20230101ALI20240701BHJP
H10K 102/20 20230101ALN20240701BHJP
【FI】
C23C14/35 B
H10K50/10
H10K50/82
H10K59/10
H10K71/16
H10K85/00
H10K102:20
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208086
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 達哉
(72)【発明者】
【氏名】内田 敏治
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC45
3K107DD28
3K107DD44Y
3K107GG05
3K107GG28
3K107GG32
3K107GG42
3K107GG43
4K029AA24
4K029BA04
4K029BA22
4K029BB02
4K029BC03
4K029BD01
4K029CA05
4K029DA03
4K029DC04
4K029DC13
4K029DC45
4K029EA00
4K029KA01
4K029KA09
(57)【要約】
【課題】2成分以上の合金からなるロータリターゲットを用いてスパッタリングにより成膜対象物に成膜することが可能な成膜装置を提供する。
【解決手段】2成分以上の合金からなる円筒形のターゲットと、ターゲットの内部に、円筒形の中心軸線に平行な回転軸回りの角度が可変に設けられ、ターゲットの外周面から漏洩する漏洩磁場を生成する磁場発生手段と、を有し、ターゲットを回転させながらターゲットに対向して配置される成膜対象物にスパッタリングにより合金薄膜を成膜する成膜装置であって、合金薄膜の組成比の情報に基づき、磁場発生手段の角度を制御することを特徴とする成膜装置。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2成分以上の合金からなる円筒形のターゲットと、
前記ターゲットの内部に、前記円筒形の中心軸線に平行な回転軸回りの角度が可変に設けられ、前記ターゲットの外周面から漏洩する漏洩磁場を生成する磁場発生手段と、
を有し、
前記ターゲットを回転させながら前記ターゲットに対向して配置される成膜対象物にスパッタリングにより合金薄膜を成膜する成膜装置であって、
前記合金薄膜の組成比の情報に基づき、前記磁場発生手段の角度を制御することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記ターゲットを構成する前記合金の組成比と、前記成膜対象物に成膜する前記合金薄膜の組成比の目標値と、に基づき、前記磁場発生手段の角度を制御する請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記成膜装置によって複数の前記成膜対象物に対し連続的に成膜を行う場合に、先行して成膜が行われた前記成膜対象物の前記合金薄膜の組成比の情報に基づき、前記磁場発生手段の角度を制御する請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
予め実験的に求められた、複数の前記成膜対象物に対し連続的に成膜を行った場合の成膜される前記合金薄膜の組成比の時間変化の情報に基づき、前記磁場発生手段の角度を制御する請求項1に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記成膜対象物に成膜された前記合金薄膜の組成比を測定する測定手段を備え、
前記測定手段により測定された組成比の情報に基づき、前記磁場発生手段の角度を制御する請求項1に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記磁場発生手段の角度と、前記成膜対象物に成膜される前記合金薄膜の組成比と、の予め求められた関係に基づき、前記磁場発生手段の角度を制御する請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記成膜装置によって複数の前記成膜対象物に対し連続的に成膜を行う場合に、所定数の前記成膜対象物に対する成膜を行うごとに、前記磁場発生手段の角度の調整を行う請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記成膜装置によって複数の前記成膜対象物に対し連続的に成膜を行う場合に、所定時間の成膜を行うごとに、前記磁場発生手段の角度の調整を行う請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記合金薄膜の組成比と目標の組成比との差が0.5%以下になるように、前記磁場発生手段の角度を制御する請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記ターゲットを構成する前記合金の第1成分はMgであり、第2成分はAgである請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記ターゲットを構成する前記合金の第1成分はLi、Na、Mg、K、Ca、Cs、Ybのいずれかであり、第2成分はAg又はAlである請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項12】
前記ターゲットを用いて前記成膜対象物に成膜した場合に、前記ターゲットを構成する
前記合金の第1成分の堆積量分布は第2成分の堆積量分布と比較して幅が広くかつピークが低い山形の形状となる請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項13】
前記磁場発生手段は、基準位置からの角度が大きくなるほど前記合金薄膜の前記第1成分の組成比が大きくなるように構成され、
前記合金薄膜の組成比に基づき、前記第1成分の組成比を大きくする場合には前記磁場発生手段の角度を増加させ、前記第1成分の組成比を小さくする場合には前記磁場発生手段の角度を減少させる請求項10に記載の成膜装置。
【請求項14】
前記磁場発生手段の角度に応じて、前記ターゲットに印加する電圧及び成膜時間の少なくともいずれかを調整する請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項15】
複数の前記成膜対象物に対し連続的に成膜を行う請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項16】
前記合金薄膜は、有機EL素子の陰極を構成する請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項17】
前記成膜装置は、インライン型の成膜装置である請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項18】
前記成膜装置は、クラスタ型の成膜装置である請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項19】
2成分以上の合金からなる円筒形のターゲットと、
前記ターゲットの内部に、前記円筒形の中心軸線に平行な回転軸回りの角度が可変に設けられ、前記ターゲットの外周面から漏洩する漏洩磁場を生成する磁場発生手段と、
を有する成膜装置を用いた成膜方法であって、
前記ターゲットを回転させながら前記ターゲットに対向して配置される成膜対象物にスパッタリングにより合金薄膜を成膜する工程と、
前記合金薄膜の組成比の情報に基づき、前記磁場発生手段の角度を制御する工程と、
を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項20】
請求項19に記載の成膜方法を用いて電子デバイスを製造することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板にスパッタリングによって成膜を行う成膜装置、成膜方法及び電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板等の成膜対象物に金属や金属酸化物等の薄膜を成膜する成膜装置として、円筒形のターゲット(以下、ロータリターゲット)と基板とを対向させ、ロータリターゲットを回転させながらスパッタリングを行うスパッタ装置がある。ロータリターゲットを用いるスパッタ装置は、平板状のターゲットを用いるプレーナ型スパッタ装置に比べて、ターゲットの表面をより均一にスパッタリングすることができる利点がある。また、ロータリターゲットの内側に磁石を配置し、ロータリターゲットの外部に漏洩するように磁場を形成することで、ロータリターゲットの表面付近のプラズマ密度を増加させることを図ったマグネトロンスパッタリング方式のスパッタ装置がある(特許文献1)。
【0003】
スパッタ装置によって成膜可能な薄膜の一例として有機EL(エレクトロルミネセント)素子の有機層上に形成される陰極金属膜がある。陰極金属膜の成分としては、有機層への電子注入性の点からはMg等の仕事関数が低いアルカリ金属、アルカリ土類金属、又はこれらの合金が好ましいが、耐酸化性の観点からはAu、Ag、Al等の仕事関数の高い金属が好ましい。電子注入性と耐酸化性を両立させるために、Mg及びAgを主成分とする合金により陰極金属膜を構成したものがある(特許文献2)。特許文献2では、チャンバ内にMgからなる平板状のターゲットとAgからなる平板状のターゲットの2個のターゲットを設置し、両方のターゲットに同時に電圧印加してスパッタリングを行うことでMg-Ag合金からなる層を有機層の上に形成し、次にAgターゲットのみ電圧印加してスパッタリングを行うことでMg-Ag合金層の上にAgからなる層を形成することで、膜厚方向でMgとAgの組成比に差がある多層膜からなる陰極金属膜を形成している。
【0004】
特許文献3にはMg-Ag合金からなるロータリターゲットの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-200520号公報
【特許文献2】特開2004-200047号公報
【特許文献3】特開2013-204052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のスパッタ装置は合金の各成分からなる独立の複数の平板状ターゲットを用いており、合金からなるロータリターゲットを用いたスパッタ装置については記載がない。特許文献3には2成分の合金からなるロータリターゲットの記載はあるが、それを用いたスパッタ装置について記載していない。
【0007】
本発明は、2成分以上の合金からなるロータリターゲットを用いてスパッタリングにより成膜対象物に成膜することが可能な成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、2成分以上の合金からなる円筒形のターゲットと、
前記ターゲットの内部に、前記円筒形の中心軸線に平行な回転軸回りの角度が可変に設けられ、前記ターゲットの外周面から漏洩する漏洩磁場を生成する磁場発生手段と、
を有し、
前記ターゲットを回転させながら前記ターゲットに対向して配置される成膜対象物にスパッタリングにより合金薄膜を成膜する成膜装置であって、
前記合金薄膜の組成比の情報に基づき、前記磁場発生手段の角度を制御することを特徴とする成膜装置である。
【0009】
本発明は、2成分以上の合金からなる円筒形のターゲットと、
前記ターゲットの内部に、前記円筒形の中心軸線に平行な回転軸回りの角度が可変に設けられ、前記ターゲットの外周面から漏洩する漏洩磁場を生成する磁場発生手段と、
を有する成膜装置を用いた成膜方法であって、
前記ターゲットを回転させながら前記ターゲットに対向して配置される成膜対象物にスパッタリングにより合金薄膜を成膜する工程と、
前記合金薄膜の組成比の情報に基づき、前記磁場発生手段の角度を制御する工程と、
を有することを特徴とする成膜方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、2成分以上の合金からなるロータリターゲットを用いてスパッタリングにより成膜対象物に成膜することが可能な成膜装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】実施例の基板搬送型のスパッタ装置の構成を示す模式図。
【
図5】実施例の基板搬送型のスパッタ装置の構成を示す模式図。
【
図6】実施例のスパッタ装置の磁石ユニットの構成を示す模式図。
【
図7】実施例のスパッタ装置の磁石ユニットの角度を説明する図。
【
図8】実施例の回転カソードユニット移動型のスパッタ装置の構成を示す模式図。
【
図9】実施例のツインカソード型のスパッタ装置の構成を示す模式図。
【
図10】実施例のツインカソード型のスパッタ装置の構成を示す模式図。
【
図11】実施例のツインカソード型のスパッタ装置の磁石ユニットの角度を示す図。
【
図12】実施例のツインカソード型のスパッタ装置の磁石ユニットの角度を示す図。
【
図13】実施例のスパッタ装置の磁石ユニットの揺動動作を示す図。
【
図14】実施例のスパッタ装置の磁石ユニットの角度とMg組成比の関係を示す図。
【
図15】実施例のスパッタ装置における合金の成分による堆積量の相違を示す図。
【
図16】実施例2のスパッタ成膜時間とMg組成比の関係を示す図。
【
図17】実施例3のスパッタ成膜時間とMg組成比の関係を示す図。
【
図18】実施例4の基板におけるデバイス領域と検査領域を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施例について詳細に説明する。ただし、以下の実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状等は、特に記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。実施例には複数の特徴が記載されているが、これらの複
数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一又は同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
本発明に係る成膜装置は、半導体デバイス、磁気デバイス、電子部品等の各種電子デバイスや、光学部品等の製造において基板(基板上に積層体が形成されているものも含む)上に薄膜を堆積形成するために用いられる。より具体的には、本発明の成膜装置は、発光素子や光電変換素子、タッチパネル等の電子デバイスの製造において好ましく用いられる。特に、OLED(Organic Light Emitting Diode)等の有機発光素子や、有機薄膜太陽電池等の有機光電変換素子の製造において特に好ましく適用可能である。なお、本発明における電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL(Electro-Luminescence)表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOSイメージセンサ)も含むものである。また、以下の各実施例による成膜装置又は本発明の範囲内で各実施例の成膜装置を変形した成膜装置を用いて基板に薄膜を形成する工程を有する電子デバイスの製造方法も本発明に含まれる。
【0014】
図1は、以下の実施例の成膜装置を用いて製造可能な有機EL素子の一般的な層構成を模式的に示している。OLEDは、基板6に陽極61、有機発光層62、陰極65が積層された構成が一般的である。本発明に係る成膜装置は、有機発光層62上に陰極65を成膜する際に好適に用いられる。陰極65は、2成分の金属材料からなる合金薄膜である。陰極65を構成する合金の第1成分は、有機発光層62への電子注入性の観点からMg等の仕事関数が低いアルカリ金属、アルカリ土類金属、又はこれらの合金を採用し、第2成分は、耐酸化性の観点からAu、Ag、Al等の仕事関数が高い金属を採用する。以下の実施例では、第1成分はMg、第2成分はAgとする。
【0015】
陰極65は、第1層63と、第1層63の上に形成される第2層64とからなる多層膜により構成することが好ましい。これは、有機発光層62に近い側ではMg組成比を高くして電子注入性を高くすることが好ましい一方で、外部環境に近い側ではAg組成比を高くして耐酸化性を高くすることが好ましいからである。陰極65を組成比の異なる多層膜とすることで、電子注入性と耐酸化性を両立させることができる。そこで、第1層63及び第2層64はともにMg-Ag合金であるが、第1層63はMg組成比を第2層64より大きくするとともに、第2層64はAg組成比を第1層63より大きくする。すなわち、陰極65は、膜厚方向に合金の組成比が異なる(組成比に勾配を有する)多層膜により構成される。
【0016】
なお、陰極65を構成する合金はこの例に限られず、電子注入性に優れる第1成分と耐酸化性に優れる第2成分とを主成分とするその他の合金でもよい。第1成分としてはLi、Na、Mg、K、Ca、Cs、Yb等を例示できる。第2成分としてはAg、Al等を例示できる。
【0017】
また、本発明の成膜装置は、OLEDの陰極の成膜や膜厚方向に合金の組成比が異なる多層膜の成膜に限らず、2成分以上の合金からなる成膜一般に適用可能である。特に、本発明は、多層膜からなる陰極の成膜に限定されず、単層の合金薄膜からなる陰極の成膜にも適用可能である。また、本発明の成膜装置は、有機膜上への成膜に限定されず、金属材料や酸化物材料等のスパッタで成膜可能な材料の組み合わせであれば、多様な面に成膜が可能である。
【0018】
本発明は、
図2に示すようなインライン型の成膜装置と、
図3に示すようなクラスタ型の成膜装置と、のいずれにも適用可能である。
【0019】
図2は、複数の成膜室が接続されたインライン型の成膜装置100の一部を模式的に示す図である。この成膜装置100は、成膜室101、102、103、104を有し、成膜室104の後段に検査室105を有する。各成膜室では、陽極61、有機発光層62、陰極65の第1層63、陰極65の第2層64が成膜される。成膜室104で成膜された基板6は、後段の検査室105に搬入される。検査室105には合金薄膜のMg組成比を測定可能な検査装置(例えばEPMA(電子線マイクロアナライザー))が設置されており、成膜室104でMg-Ag合金薄膜が成膜された基板6に対して組成分析を行うことができる。なお、1つの成膜室で陰極65を構成する第1層63及び第2層64の両方が成膜される構成としてもよい。
【0020】
図3は、複数の真空チャンバが接続されたクラスタ型の成膜装置111の一部を模式的に示す図である。この成膜装置111では、第1クラスタC1、第2クラスタC2、第3クラスタC3が直列に接続されている。各クラスタに成膜室101~104に加えてマスクストッカ等の公知の室を適宜有するがここでは説明を省略する。第2クラスタC2と第3クラスタC3の間に検査室105が設けられる。第2クラスタC2で成膜された合金薄膜に対し、検査室105で組成分析が行われる。
【0021】
各成膜室には、スパッタリングや蒸着により成膜を行う装置が設けられる。以下、スパッタ装置を設けた例について説明する。
【0022】
(基板搬送型のスパッタ装置)
図4を参照して、本発明を適用可能なスパッタ装置の一例を説明する。以下の説明において、スパッタ装置1内を搬送される基板6の搬送方向Sに平行な方向をX方向、スパッタ装置1に備わる円筒形のターゲット2の回転軸に平行な方向をY方向、鉛直上向きをZ方向とする。
図4はY方向から見たスパッタ装置1の内部構成を模式的に示す図である。
【0023】
図4に示すスパッタ装置1は、成膜対象物である基板6及びターゲット2が内部に配置されるチャンバ10と、を有している。スパッタ装置1では、ターゲット2は基板6に対し鉛直方向下方に配置され、基板6の成膜面が鉛直方向下方を向いた状態でデポアップによる成膜が行われる。なお、本発明はこれに限定されず、ターゲット2が基板6に対し鉛直方向上方に配置され、基板6の成膜面が鉛直方向上方を向いた状態でデポダウンによる成膜が行われる構成であってもよい。また、基板6が垂直に立てられ、基板6の成膜面が鉛直方向と平行な状態で成膜が行われる構成であってもよい。
【0024】
回転カソードユニット8は、円筒形のロータリターゲットであるターゲット2と、ターゲット2の内側の中空部に配置されターゲット2の外周に磁場を発生させる磁場発生手段としての磁石ユニット3とを有する。ターゲット2の内側にはバッキングチューブ2aが設けられる。回転カソードユニット8は、チャンバ10に対して固定され、ターゲット2は、円筒の中心軸線の回りに回転可能にチャンバ10に対して支持される。ターゲット2は、ターゲット駆動装置11の駆動力がギア等の駆動伝達手段によって伝達されることで、矢印R方向に回転する。矢印Rは、
図4に示すY方向に垂直の断面で時計回り方向である。
【0025】
ターゲット2は、スパッタリングによって基板6に成膜を行うための成膜材料により構成され、成膜材料の供給源として機能する。ここでは、
図1に示すOLEDの陽極61及び有機発光層62が既に形成されている基板6にMg-Ag合金からなる陰極65(上部電極)をスパッタリングにより成膜する場合を例に説明する。したがってターゲット2を構成する材料はAg及びMgの2成分の合金である。
【0026】
バッキングチューブ2aの外側に、ターゲット2における成膜用材料が形成された層が形成されている。バッキングチューブ2aには、電源13が接続され、電源13からマイナスの電圧が印加されるカソードとして機能する。なお、電圧はターゲット2に直接印加してもよく、その場合、バッキングチューブ2aを有しない構成としてもよい。電源13はターゲット2の材料に応じてDC電源、AC電源又は高周波電源が用いられる。チャンバ10は接地されている。また、ターゲット2は円筒形のターゲットであるが、ここで言う「円筒形」は数学的に厳密な円筒形のみを意味するのではなく、母線が直線ではなく曲線であるものや、中心軸に垂直な断面が数学的に厳密な「円」ではないものも含む。すなわち、本発明におけるターゲット2は、中心軸を軸に回転可能な円筒形のものであればよい。
【0027】
磁石ユニット3によって、ターゲット2の表面側の一部には磁場が形成される。磁石ユニット3は、ターゲット2の内部に、ターゲット2の円筒形の中心軸線と平行な中心軸線の回りの角度が可変に設けられる。磁石ユニット3は、中心軸線に対して回転可能に支持される。磁石ユニット3は、マグネット駆動装置110の駆動力がギア等の駆動伝達手段によって伝達されることで、矢印Mで示すように、
図4に示すY方向に垂直の断面で時計回り方向及び反時計回り方向に回転する。磁石ユニット3は、任意の角度で静止することが可能である。ターゲット駆動装置11によるターゲット2の回転と、マグネット駆動装置110による磁石ユニット3の回転とは、独立に制御される。
【0028】
基板6は、チャンバ10の側壁に設けられた一方のゲートバルブ17から搬入される。基板6は、搬送部材120によってチャンバ10内で水平方向(矢印Sで示す方向)に搬送されつつ、スパッタリングにより成膜が行われる。基板6の成膜対象面の全体に成膜が行われた後、基板6はチャンバ10の他方の側壁に設けられたゲートバルブ18から搬出される。
【0029】
チャンバ10には、ガス導入手段16及び排気手段15が接続され、内部を所定の圧力に調節することができる構成となっている。チャンバ10の内部には、スパッタリングガス(アルゴン等の不活性ガスや酸素や窒素等の反応性ガス)が、ガス導入手段16により、チャンバ10に設けられた導入口41を通じて導入される。また、チャンバ10の内部からは、排気口5を通じて真空ポンプ等の排気手段15によって排気が行われる。これにより、チャンバ10の内部の圧力は所定の圧力に調節される。
【0030】
ガス導入手段16は導入口41を有し、不図示のガスボンベ等の供給源と、供給源と導入口41を接続する配管系と、配管系に設けられる各種真空バルブ、マスフローコントローラ等から構成され、マスフローコントローラの流量制御弁によって、供給量を調節可能である。流量制御弁は、電磁弁等の電気的に制御可能な構成を有する。導入口41は、チャンバ10の垂直の側壁に配置される。なお、導入口41の設置位置は側壁に限定されず、底壁に設けられていてもよいし、天井壁に設けられていてもよい。また、配管がチャンバ10内に延びて、導入口がチャンバ10内に開口していてもよい。また、導入口41は複数設けられ、ターゲット2の回転軸方向に沿って配置される構成とすることもできる。
【0031】
排気手段15は、真空ポンプと、真空ポンプと排気口5を接続する配管系と、を有し、配管系にはコンダクタンスバルブ等の電気的に制御可能な流量制御弁が設けられ、制御弁によって排気量を調節可能である。排気口5は、チャンバ10の底壁に設けられる。なお、排気口5の設置位置は、底壁に限定されず、垂直の側壁に設けられていてもよいし、天井壁に設けられていてもよい。また、配管がチャンバ10内に延びて、排気口5がチャンバ10内に開口していてもよい。
【0032】
制御部14は、磁石ユニット3の角度を固定したまま、ターゲット駆動装置11を制御
してターゲット2を矢印R方向に駆動回転させるとともに、電源13を制御してターゲット2にマイナスの電圧を印加する。ターゲット2に電圧が印加されると、磁石ユニット3の生成する磁場が存在する領域が、プラズマが集中して生成されスパッタ粒子が発生するスパッタリング領域Aとなる。成膜処理中、磁石ユニット3はチャンバ10に対して静止しているため、スパッタリング領域Aと基板6の成膜対象面との対向角度は、成膜処理中、一定である。プラズマ中の陽イオン状態の不活性ガスイオンがターゲット2の表面に衝突し、叩き出されたターゲット2を構成する材料の原子や分子がターゲット2から放出される。ターゲット2から放出された成膜材料の粒子は、基板6の成膜対象面に付着し、堆積する。
【0033】
ここで、スパッタリング領域Aと基板6の成膜対象面との対向角度とは、例えば、ターゲット2の回転軸に垂直な仮想面内で、ターゲット2の円筒表面のうちスパッタリング領域Aに対応する円弧の中心角を2等分する線分と基板6の成膜対象面を含む仮想面とのなす角度として定義する。
【0034】
基板6が搬送部材120によって水平方向(矢印Sで示す)に移動することにより、スパッタリング領域Aと対向する基板6において成膜対象領域が水平方向に移動する。これにより、基板6の成膜対象面には、搬送方向Sの下流側端部から上流側端部に向かって順次、成膜が行われる。これにより、基板6の表面全体にわたって均一にスパッタ成膜が行われる。
【0035】
ターゲット2の表面においてスパッタ粒子が放出される領域は、ターゲット2の回転に伴って周方向に移動する。したがって、ターゲット2の表面のある局所的な領域に着目すると、ターゲット2の回転速度によって決まる周期で、間欠的にスパッタリングされることになる。
【0036】
図5はX方向から見たスパッタ装置1の内部構成を模式的に示す図である。ターゲット2は、Y方向の端部をサポートブロック210及びエンドブロック220によって回転可能に支持されている。サポートブロック210及びエンドブロック220には、回転駆動装置であるターゲット駆動装置11からの駆動力をターゲット2に伝達する動力伝達機構が設けられる。ターゲット駆動装置11は、モータ等の駆動源を有し、動力伝達機構を介してターゲット2を回転駆動する。
【0037】
図6はターゲット2の内部に設けられる磁石ユニット3の構成を模式的に示す図である。磁石ユニット3は、ターゲット2の回転軸と平行方向に延びる中心磁石31と、中心磁石31とは異極の、中心磁石31を取り囲む周辺磁石32と、ヨーク板33とを備えている。周辺磁石32は、中心磁石31と平行に延びる一対の直線部32a及び32bと、当該直線部32a及び32bの両端を連結する転回部32c及び32dとによって構成されている。磁石ユニット3によって形成される磁場は、中心磁石31の磁極から、周辺磁石32の直線部32a及び32bへ向けてループ状に戻る磁力線を有している。これにより、ターゲット2の表面近傍には、ターゲット2の回転軸方向に延びたトロイダル型の磁場のトンネルが形成される。この磁場によって、電子が捕捉され、ターゲット2の表面近傍にプラズマを集中させ、スパッタリングの効率が高められている。この磁石ユニット3の磁場により、高密度のプラズマが形成され、スパッタ粒子が集中的に生じる領域をスパッタリング領域Aとする。
【0038】
磁石ユニット3は台座34上に固定されており、台座34には回転軸35が固定されている。回転軸35は円筒形のターゲット2の中心軸線と平行に延び、チャンバ10に対して台座34を回転可能に支持するとともに、マグネット駆動装置110の駆動力により回転する。これにより磁石ユニット3は中心軸線に対して回転可能に支持され、ターゲット
2の円筒形の中心軸線に平行な回転軸35の回りの角度が可変に設けられる。磁石ユニット3の回転移動は、マグネット駆動装置110の駆動力により行われる。マグネット駆動装置110は、磁石ユニット3を任意の角度に回転させ、その角度で静止させることができるように構成される。これにより、成膜処理中は磁石ユニット3を静止させた状態でスパッタリングを行ったり、後述するように成膜処理中に磁石ユニット3を揺動させたり、成膜処理を行っていないときに組成比の制御のために磁石ユニット3の角度を変更したり、といった動作を行うことができる。スパッタ装置1では、回転軸35の中心軸線はターゲット2の中心軸線と一致する例を説明したが、回転軸35の中心軸線はターゲット2の中心軸線と平行であればよい。マグネット駆動装置110の駆動力は不図示の動力伝達機構を介して回転軸35に伝達される。マグネット駆動装置110は、モータ等の駆動源を有する。
【0039】
図7は、円筒形のターゲット2を用いてターゲット2の上方に配置された基板6の鉛直方向下方の面にデポアップでスパッタ成膜する場合の基板6、ターゲット2、及び磁石ユニット3の位置関係を示す。
【0040】
ターゲット2にマイナスの電圧を印加することにより生成したスパッタリングガスイオン(例えばAr+)がターゲット2の表面に衝突すると、ターゲット2を構成する成膜材料の原子や分子がスパッタ粒子としてターゲット2から放出される。スパッタリング時にターゲット2の表面からこれらの放出物(スパッタ粒子)が放出される場所及び放出される方向は、磁石ユニット3によりターゲット2の表面近傍に形成される磁場により設定できる。
【0041】
図7において、ターゲット2の回転中心Oと磁石ユニット3の回転軸35の回転中心とは一致している。磁石ユニット3の回転軸35の回転中心と、中心磁石31及び周辺磁石32の間の位置と、を通る線分D2、D3の位置により規定されるスパッタリング領域Aにスパッタ粒子が集中的に生じる。なお、スパッタリング領域Aは、磁石ユニット3により形成される磁場の磁束分布に基づいて決まる領域としてもよい。また、磁場強度が一定以上の値を有したターゲット2の表面上の領域としてもよい。また、磁石ユニット3の磁石の配置や構造、スパッタ粒子が集中的に発生する位置、スパッタリング時にターゲット2表面からの放出物が放出される方向として一般的、統計的、経験的、実験的に観察される事象等に基づいて決めてもよい。
【0042】
磁石ユニット3の回転軸35の回転中心とスパッタリング領域Aの中心を通る線分D1の角度θを磁石ユニット3の角度とする。磁石ユニット3の角度θは、線分D1が基板6の成膜対象面に垂直となる位置(
図7で破線で示す位置に磁石ユニット3があるとき)を基準とする角度であり、
図7で時計回り方向を正とする。
【0043】
(カソード移動型のスパッタ装置)
図8を参照して、本発明を適用可能なスパッタ装置の他の一例を説明する。上記の基板搬送型のスパッタ装置と共通の要素については共通の名称及び符号を用いて詳細な説明を省略する。
【0044】
図8に示すスパッタ装置1Xは、基板6をチャンバ10に固定し、チャンバ10内で回転カソードユニット8Xが往復移動可能なスパッタ装置である。
図8は、スパッタ装置1Xに備わる円筒形のターゲット2の回転軸に平行な方向(Y方向とする)から見たスパッタ装置1Xの内部構成を模式的に示す図である。
【0045】
図4のスパッタ装置1は、チャンバ10に対して回転カソードユニット8が移動せず、基板6がチャンバ10に対して移動することによって、基板6の搬送方向下流側の端部か
ら順次、基板6の成膜対象面に成膜が行われた。
図8のスパッタ装置1Xは、チャンバ10に対して回転カソードユニット8Xが移動し、基板6はチャンバ10に対して移動せず、回転カソードユニット8Xの移動方向上流側の端部から順次、基板6の成膜対象面に成膜が行われる。
【0046】
回転カソードユニット8Xは、移動台230を有し、移動台230には、ターゲット2の周囲に配置された仕切部材260が設けられる。仕切部材260は、基板6が配置される方向(鉛直上方向)に開口している。
【0047】
移動台230は、リニアベアリング等の搬送ガイドを介して一対の案内レール250に沿って水平方向(矢印Tで示す)に移動自在に支持されている。案内レール250はX方向に平行に設けられる。移動台230は、直線駆動装置12によって、X方向に直線駆動される。直線駆動装置12は、回転モータの回転運動を直線運動に変換するボールねじ等を用いたねじ送り機構、リニアモータ等、公知の種々の直線運動機構を用いることができる。したがって回転カソードユニット8XはXY平面内をX方向に移動し、ターゲット2はY方向に平行な回転軸周りに回転しながらXY平面内をX方向に移動する。
【0048】
基板6は、チャンバ10内に搬入されると、回転カソードユニット8Xに対し鉛直方向上方でホルダ6aによって保持される。成膜処理中、基板6はチャンバ10に対して移動せず、回転カソードユニット8Xが水平方向(矢印Tで示す方向)に移動しつつ、スパッタリングにより成膜が行われる。基板6の成膜対象面の全体に成膜が行われた後、基板6はチャンバ10の他方の側壁に設けられたゲートバルブ18から搬出される。
【0049】
スパッタ装置1Xにおいてスパッタリングによる成膜を行う際には、制御部14は、ターゲット駆動装置11を制御してターゲット2を矢印R方向に回転駆動するとともに、電源13を制御してターゲット2にマイナスの電圧を印加する。
【0050】
回転カソードユニット8Xは直線駆動装置12によってチャンバ10に対して矢印T方向に移動するため、スパッタリング領域Aはチャンバ10に対して矢印T方向に移動する。また、磁石ユニット3は、成膜処理中は、ターゲット2とともに回転しないため、スパッタリング領域Aと基板6の成膜対象面との対向角度は、成膜処理中、一定である。成膜処理中、基板6はホルダ6aによって保持されてチャンバ10に対して移動しない。
【0051】
回転カソードユニット8Xが直線駆動装置12によって水平方向に移動することにより、ターゲット2のスパッタリング領域Aが、回転カソードユニット8Xの移動とともに、基板6の成膜対象面に沿ってチャンバ10に対して移動する。これにより、基板6の成膜対象面には、回転カソードユニット8Xの移動に伴って、回転カソードユニット8Xの移動方向Tの上流側端部から下流側端部に向かって順次、成膜が行われる。
【0052】
(ツインカソード型のスパッタ装置)
図9、
図10を参照して、本発明を適用可能なスパッタ装置の他の一例を説明する。上記のシングルカソード型のスパッタ装置1、1Xと共通の要素については共通の名称及び符号を用いて詳細な説明を省略する。
【0053】
図9はスパッタ装置1Yに備わる円筒形の第2ターゲット2Rの回転軸に平行な方向(Y方向とする)から見たスパッタ装置1Yの内部構成を模式的に示す図である。
図10はスパッタ装置1Y内を移動する回転カソードユニット8Yの移動方向Tに平行な方向(X方向とする)から見たスパッタ装置1Yの内部構成を模式的に示す図である。
【0054】
図9のスパッタ装置1Yは、
図8のスパッタ装置1Xと同様、チャンバ10に対して回
転カソードユニット8Yが移動し、基板6はチャンバ10に対して移動せず、回転カソードユニット8Yの移動方向上流側の端部から順次、基板6の成膜対象面に成膜が行われる。
【0055】
図4のスパッタ装置1の回転カソードユニット8は、円筒形のターゲット2及び磁石ユニット3から構成されていたが、
図9のスパッタ装置1Yの回転カソードユニット8Yは、円筒形の第1ターゲット2Lと、第1ターゲット2Lの内部に、当該円筒形の中心軸線に平行な回転軸回りの角度が可変に設けられ、第1ターゲット2Lの外周面から漏洩する漏洩磁場を生成する第1磁場発生手段である第1磁石ユニット3Lと、円筒形の第2ターゲット2Rと、第2ターゲット2Rの内部に、当該円筒形の中心軸線に平行な回転軸回りの角度が可変に設けられ、第2ターゲット2Rの外周面から漏洩する漏洩磁場を生成する第2磁場発生手段である第2磁石ユニット3Rと、から構成されている。第1ターゲット2L及び第1磁石ユニット3Lの構成、並びに、第2ターゲット2R及び第2磁石ユニット3Rの構成は、
図4のスパッタ装置1のターゲット2及び磁石ユニット3の構成と同様であるが、ターゲット駆動装置11Yによる回転方向は第1ターゲット2Lと第2ターゲット2Rとで互いに逆方向である。第1ターゲット2Lは矢印L方向に回転し、第2ターゲット2Rは矢印L方向と逆向きの矢印R方向に回転する。第1磁石ユニット3L及び第2磁石ユニット3Rは、マグネット駆動装置110Yの駆動力により矢印ML、MRで示すように回転する。
【0056】
回転カソードユニット8Yがチャンバ10内で移動可能な構成は
図8のスパッタ装置1Xと同様である。回転カソードユニット8Yは、移動台230と、第1ターゲット2L及び第2ターゲット2Rを回転自在に支持するサポートブロック210とエンドブロック220と、を有する。移動台230上で、第1ターゲット2L及び第2ターゲット2Rは回転カソードユニット8Yの移動方向T(X方向に平行)に並べて配置される。移動台230には、第1ターゲット2L及び第2ターゲット2Rを取り囲むように配置された仕切部材260が設けられる。なお、
図10では、煩雑さを避けるため仕切部材260の記載は省略した。仕切部材260は、基板6が配置される方向(鉛直上方向)に開口している。
【0057】
スパッタ装置1Yにおいてスパッタリングによる成膜を行う際には、制御部14は、ターゲット駆動装置11Yを制御して第1ターゲット2L及び第2ターゲット2Rを矢印L及びR方向にそれぞれ回転駆動するとともに、電源13を制御して第1ターゲット2L及び第2ターゲット2Rにマイナスの電圧を印加する。スパッタリングによる成膜の態様は
図8のスパッタ装置1Xと同様である。
【0058】
図11は、
図9のスパッタ装置1Yの第1磁石ユニット3L、第2磁石ユニット3R、第1ターゲット2L、第2ターゲット2R、及び基板6の位置関係を示す図である。
図11において、第1ターゲット2Lの回転中心Oと第1磁石ユニット3Lの回転軸35Lの回転中心とは一致している。第1磁石ユニット3Lの回転軸35Lの回転中心と、中心磁石31L及び周辺磁石32Lの間の位置と、を通る線分D2L、D3Lの位置により規定されるスパッタリング領域ALにスパッタ粒子が集中的に生じる。また、第2ターゲット2Rの回転中心Oと第2磁石ユニット3Rの回転軸35Rの回転中心とは一致している。第2磁石ユニット3Rの回転軸35Rの回転中心と、中心磁石31R及び周辺磁石32Rの間の位置と、を通る線分D2R、D3Rの位置により規定されるスパッタリング領域ARにスパッタ粒子が集中的に生じる。
【0059】
第1磁石ユニット3Lの回転軸35Lの回転中心とスパッタリング領域ALの中心を通る線分D1Lの角度θLを第1磁石ユニット3Lの角度とする。また、第2磁石ユニット3Rの回転軸35Rの回転中心とスパッタリング領域ARの中心を通る線分D1Rの角度θRを第2磁石ユニット3Rの角度とする。第1磁石ユニット3L、第2磁石ユニット3
Rの角度θL、θRは、線分D1L、D1Rが基板6の成膜対象面に垂直となる位置(
図11で破線で示す位置に第1磁石ユニット3L、第2磁石ユニット3Rがあるとき)を基準とする角度であり、
図11で時計回り方向を正とする。
【0060】
第1ターゲット2L、第2ターゲット2Rは同一組成のMg-Ag合金を材料とし、第1磁石ユニット3L、第2磁石ユニット3Rの角度θL、θRは等しい。すなわち、第1磁石ユニット3Lの線分D1Lと、第2磁石ユニット3Rの線分D1Rは、同じ向きに向く。
【0061】
なお、
図12に示すように、第1磁石ユニット3L、第2磁石ユニット3Rの角度θL、θRを、絶対値が互いに等しく、符号が逆になるように設定してもよい。この場合、第1磁石ユニット3Lの線分D1Lと、第2磁石ユニット3Rの線分D1Rは、回転カソードユニット8Yの移動方向T(X方向)で対称の向きとなる。
【0062】
第1ターゲット2L及び第2ターゲット2Rの外径は140mm、第1ターゲット2L及び第2ターゲット2Rの中心間の距離は300mmとした。
【0063】
なお、
図9のツインカソード型のスパッタ装置1Yは、回転カソードユニット移動型のスパッタ装置においてカソードを2個備えた構成だが、
図4のスパッタ装置1のように基板搬送型のスパッタ装置においてカソードを2個備えたツインカソード型のスパッタ装置にも本発明は適用可能である。
【0064】
(磁石ユニット揺動型のスパッタ装置)
図13を参照して、本発明を適用可能なスパッタ装置の他の一例を説明する。上記のシングルカソード型のスパッタ装置1と共通の要素については共通の名称及び符号を用いて詳細な説明を省略する。
【0065】
図4のスパッタ装置1では、成膜開始前に磁石ユニット3の角度θを調整し、成膜処理中は、調整後の角度θにおいて磁石ユニット3を静止させる例を示した。これに対し、成膜処理中に、調整後の角度θを中心として前後微小角度の範囲内で磁石ユニット3を揺動させてもよい。
【0066】
図13は、磁石ユニット3を揺動させる場合の動作を示す図である。
図13において、実線で示す磁石ユニット3は、線分D1で示すように、成膜開始前に決定した角度θの位置にある。破線で示すように、成膜処理中、磁石ユニット3は、角度θの位置を中心に角度δの範囲内で、線分D11で示す第1位置と線分D12で示す第2位置との間で揺動(スイング)するように動き続ける。すなわち、成膜処理中、磁石ユニット3の線分D1は、θ-δ/2度~θ+δ/2度の範囲で揺動する。これにより、磁石ユニット3を構成する中心磁石31、周辺磁石32等の磁石の形状や配置に起因する堆積むらを均一化することができる。
【0067】
なお、後述するように、磁石ユニット3の角度θは成膜される合金薄膜の組成比に影響するため、揺動範囲の角度δは小さい方が好ましい。例えば、揺動範囲は初期の角度θを中心に±5度以内とする。この場合、成膜処理中、磁石ユニット3は、θ-5度~θ+5度の範囲で揺動する。
【0068】
(Mg組成比と磁石ユニットの角度との関係)
次に、本発明の特徴である磁石ユニットの角度調整によるMg組成比の制御について説明する。
【0069】
本実施例では、ターゲット2として、AgとMgの合金材料からなる円筒形スパッタリングターゲットを用いた。Mg-Ag合金ターゲットのMgの組成比は、おおよそ10vol.%とした。
【0070】
ターゲット2の製造方法を説明する。純度が99.9%以上のAgと純度99.9%以上のMgを溶解合金化後、坩堝の底から溶湯を落下させアルゴン等の不活性ガスを吹き付けることにより、Mg-Ag合金アトマイズ粉を作製した。アトマイズ粉の粒径は1μm以上1000μm以下とした。このアトマイズ粉を高速の不活性ガスとともにバッキングチューブ2aに吹き付けることにより、円筒形のMg-Ag合金からなるターゲット2を作製した。バッキングチューブ2aとしては、ステンレス(SUS304、SUS630等)やチタンなどを用いることができる。
【0071】
なお、本実施例では、Mg-Ag合金ターゲットを用いているが、目的に応じて、Cu、Al、Ti、Mo、Cr、Ag、Au、Ni等を含む合金又は化合物を採用してもよい。OLEDの陰極に用いる場合には第1成分としてはLi、Na、Mg、K、Ca、Cs、Yb等を例示できる。また、第2成分としてはAg、Al等を例示できる。Mg-Ag合金ターゲットの製造方法は、アトマイズ粉の吹き付けに限らず、鋳造、溶射、焼結などの任意の方法で作製することができる。
【0072】
作製したMg-Ag合金からなる円筒形のターゲット2をスパッタ装置1に設置し、基板6に成膜を行った。ターゲット2の内部(
図4のスパッタ装置1ではバッキングチューブ2aの内部)には、磁石ユニット3が配置されており、この磁石ユニット3の向きを任意の角度に変更できるようになっている。成膜開始前に磁石ユニット3を所定の角度θに調整し、角度を固定したままターゲット2を10rpmで回転させた状態でスパッタ成膜を行った。
【0073】
スパッタ成膜時のArガス圧は0.6Paとし、基板6の温度は室温とした。ターゲット2の上方において、基板6を所定の速度で矢印Sで示す方向(
図7参照)に搬送することで成膜を行った。
【0074】
成膜した合金薄膜に対して蛍光X線法により組成分析を行った。ここでは蛍光X線法による組成分析を行ったが、合金薄膜の組成分析方法として、XRF(蛍光X線)、EDS(エネルギー分散X線分光)、EPMA(電子線マイクロアナライザー)、XPS(X線光電子分光)、SIMS(二次イオン質量分析)、GDMS(グロー放電質量分析)、ICP(誘導結合プラズマ質量分析)等を用いることができる。他にも、透過スペクトルや反射スペクトル、発光スペクトル、分光エリプソメトリ等の手法を用いてもよい。
【0075】
本発明者らが鋭意検討する中で、バッキングチューブ2a内の磁石ユニット3の角度θをさまざまな角度に変更して成膜を行うと、角度θによって成膜される合金薄膜のMg組成比に変化が生じることを見出した。例えば、磁石ユニット3の角度θを0度に設定して成膜した場合、Mg組成比は7.9vol.%であった。一方で、磁石ユニット3の角度θを20度、40度に傾けて成膜した場合、Mg組成比はそれぞれ8.4vol.%、9.4vol.%であった。この結果を
図14に示す。
図14において、横軸は磁石ユニット3の角度θを表し、縦軸は成膜された合金薄膜のMg組成比を表す。この結果に示すように、磁石ユニット3の角度θが大きいほど、Mg組成比の大きいMg-Ag合金薄膜が得られた。すなわち、本実施例の磁石ユニット3は、基準位置(θ=0度)からの角度が大きくなるほど合金薄膜のMg組成比が大きくなるように構成されている。Mg-Ag合金薄膜に対して、Mg組成比がこのような傾向を示すことは本発明者らが鋭意検討をすすめることで得られた新しい知見である。本実施例では、この知見に基づき、磁石ユニット3の角度θを調節することによってMg-Ag合金薄膜のMg組成比を制御することを特
徴とする。
【0076】
磁石ユニット3の角度θと成膜されるMg-Ag合金薄膜のMg組成比との間に、上記のような関係があることについて、本発明者らは以下の観点から検証した。磁石ユニット3の角度θを0度に設定し、円筒形のターゲット2の直上に基板6を静止させてスパッタ成膜し、基板6上のAgとMgの堆積量分布を調べた。
図15にその結果を示す。
図15において、横軸は基板6において最も堆積量(膜厚)が大きくなる位置(以下、最大膜厚位置という)からの距離を表す。最大膜厚位置は、本実施例では、
図7でθ=0の場合の線分D1と基板6との交点の位置であり、ターゲット2の回転中心Oから最も近い位置である。縦軸は膜厚を最大膜厚位置での膜厚で正規化した値を表す。
図15に示すように、Mg、Agともに、最大膜厚位置からから離れるにつれて膜厚が小さくなった。また、Mgの方がAgに比べて、最大膜厚位置からの距離による膜厚の変化(減少)が緩やかであった。すなわち、Mgの堆積量分布はAgの堆積量分布と比較して幅が広くピークが低い山形の形状となる。このことは、広角側の位置(最大膜厚位置から距離が遠い位置)において最大膜厚位置より相対的にMgの組成比が大きくなることを示しており、上記のように搬送成膜において磁石ユニット3の角度θを大きくするとMg組成比が大きくなった結果と整合する。
【0077】
このようにMg-Ag合金ターゲットを用いたマグネトロンロータリスパッタ成膜においては、磁石ユニット3の角度θを変更することで成膜される合金薄膜のMg組成比を制御することができる。この知見に基づいて、スパッタ装置1やスパッタ成膜プロセスを制御することで、所望のMg組成比を有したMg-Ag合金薄膜を安定して形成することが可能となる。
【0078】
なお、磁石ユニット3の角度θを変更すると、組成比だけでなく膜厚(成膜レート)も変化するが、これに対してはターゲット2の印加電圧や磁石の高さの調整により所望の膜厚を得ることが可能である。
【0079】
以上の知見は、Mg-Ag合金ターゲットに限らず、
図15に示すように、マグネトロンロータリスパッタ成膜を行った場合に最大膜厚位置からの距離による膜厚の変化の傾向が異なる2種類の材料を主成分とする合金ターゲットを用いたマグネトロンロータリスパッタ装置にも適用できる。すなわち、ターゲット2は2成分以上の合金からなり、ターゲット2を用いて成膜対象物に成膜した場合に、第1成分の堆積量分布は第2成分の堆積量分布と比較して幅が広くピークが低い山形の形状となるような2成分の組み合わせであればよい。そして、磁石ユニット3は、基準位置(θ=0度の位置)からの角度が大きくなるほど合金薄膜の第1成分の組成比が大きくなるように構成されている場合、制御部14は、合金薄膜の組成比情報に基づき、第1成分の組成比を大きくする場合には磁石ユニット3の角度θを増加させ、第1成分の組成比を小さくする場合には磁石ユニット3の角度θを減少させる。
【0080】
なお、本実施例のように、基準位置からの角度の絶対値が大きくなるほどMg(第1成分)の組成比が大きくなるような磁石ユニット3の構成及び角度θの定義がなされている場合、制御部14は、合金薄膜の組成比情報に基づき、Mg(第1成分)の組成比を大きくする場合には磁石ユニット3の角度θの絶対値を増加させ、Mg(第1成分)の組成比を小さくする場合には磁石ユニット3の角度θの絶対値を減少させる。
【0081】
磁石ユニット3を構成する各磁石の形状、配置、磁気特性、ターゲット2内における磁石ユニット3の配置、ターゲット2を構成する合金の成分、組成比、磁石ユニット3の角度θの定義、ターゲット2と基板6との位置関係等の種々の条件によっては、磁石ユニット3の角度θとMg組成比との関係は
図14に例示した関係と必ずしも同一にならないこ
とも考えられる。そのような場合も、本発明の開示する思想により、実際のスパッタ装置1における磁石ユニット3の角度θとMg組成比との関係を用いて、成膜される合金薄膜の組成比情報に基づき、磁石ユニット3の角度θを調整することで、Mg組成比を高精度に制御することが可能となる。
【0082】
<具体的な制御例>
スパッタ装置1においてスパッタリングによる成膜を行う際には、制御部14は、組成比取得部130から基板6に成膜する合金薄膜の組成比の情報を取得する。組成比取得部130が取得する情報としては、基板6に成膜する合金薄膜の目標組成比の情報、ターゲット2を構成する合金材料の組成比の情報、過去にスパッタ装置1において成膜された合金薄膜についてスパッタ装置1の外部に設置される検査装置によって測定された組成比の情報、磁石ユニット3の角度と組成比との関係の情報、長期間の連続成膜を行った場合の時間経過や成膜枚数による組成比の変化の情報等を例示できる。組成比取得部130がこれらの組成比に関する情報を取得する方法としては、ユーザによる情報の入力、外部の測定装置や実験装置からの有線又は無線による通信経路を介した情報の取得、記録媒体を介した情報の取得、光学的な識別模様の読み取りによる情報の取得等を例示できる。
【0083】
制御部14は、このような組成比に関する情報に基づき、成膜開始前に磁石ユニット3の角度を調整する。以下、本発明に特徴的な、磁石ユニット3の角度の調整による組成比の制御方法のいくつかの実施例について説明する。
【0084】
<実施例1>
組成比情報に基づく磁石ユニット3の角度制御としては、成膜の目標となるMg組成比とターゲット2のMg組成比とに応じて、磁石ユニット3の角度θを調整する制御が考えられる。磁石ユニット3の角度θとMg組成比との関係は、予め実験等により
図14のように測定された結果を用いることができる。制御部14は、目標のMg組成比と、ターゲット2のMg組成比と、予め取得した磁石ユニット3の角度θとMg組成比との関係と、に基づき、実際の成膜時の磁石ユニット3の角度θを決定する。
【0085】
例えば、陰極65の第1層63のMg-Ag合金薄膜をマグネトロンロータリスパッタ成膜する場合を考える。ターゲット2のMg組成比を10 vol.%とし、第1層63のMg組成比の目標値を9 vol.%とする。この場合、
図14のグラフから、磁石ユニット3の角度θを30度程度に設定して成膜を行うことで、目標のMg組成比を有する第1層63を形成することができる。
【0086】
また、実際に成膜された第1層63についてMg組成比を分析測定し、その結果に基づいて磁石ユニット3の角度θを微調整することで、Mg組成比を目標値に近づける調整をすることもできる。例えば、Mg組成比の目標値との差が0.5%以下になるように、磁石ユニット3の角度θを調整する。
【0087】
<実施例2>
組成比情報に基づく磁石ユニット3の角度制御としては、先行する基板6において成膜された薄膜のMg組成比の情報をフィードバックする制御が考えられる。この制御では、複数の基板6に対して連続成膜を行う場合において、磁石ユニット3の角度θを定期的に調整することで、Mg組成比を長時間にわたり目標値に維持する。
【0088】
まず、第1の成膜として円筒形のターゲット2内の磁石ユニット3を鉛直上向きに向けた状態(角度θ=10度)で成膜を行う。この第1の成膜で形成されたMg-Ag合金薄膜に対して、蛍光X線法により組成分析を行って第1のMg組成比を測定する。第1のMg組成比と目標とするMg組成比との差分情報を基に、磁石ユニット3の角度θを変更す
る。磁石ユニット3の角度θを変更した後に、第2の成膜を行う。磁石ユニット3の角度θを適切に変更することで、第2の成膜において得られるMg-Ag合金薄膜のMg組成比を目標のMg組成比に近づけることができる。
【0089】
例えば、Mg組成比の目標値が9vol.%で、第1の成膜で得られた合金薄膜のMg組成比が8.4vol%であった場合には、この測定評価値と目標値との差の情報を基に、例えば、磁石ユニット3の角度θを10度増やす方向に変更して、第2の成膜を行う。磁石ユニット3の角度θの変更量は、あらかじめ実験等により評価しておいた
図14に示すような磁石ユニット3の角度θとMg組成比との関係に基づいて決定できる。磁石ユニット3の角度θとMg組成比との関係は、関数やテーブルとして制御部14のメモリに記憶しておく。メモリから読み出した当該関係と、測定により得られた目標値と測定評価値との差と、に基づき、磁石ユニット3の角度θの変更量を求めることができる。このようにして磁石ユニット3の角度θの変更後に行われる第2の成膜で得られる合金薄膜では、Mg組成比は、目標値に近づく(例えば8.9vol.%となる)。
【0090】
このようにして、成膜、組成分析、磁石ユニット3の角度θの調整を繰り返すことで(すなわち、組成評価情報を基に、磁石ユニット3の角度θをフィードバック制御することで)、目標のMg組成比を有したMg-Ag合金薄膜を得ることができる。長期間(数100時間)にわたる連続製造工程においては、Mg組成比が時間とともに変動する場合があるが、このような場合にも、定期的に上記のような磁石ユニット3の角度θの調整を実施することで、目標に近いMg組成比の合金薄膜を長期間にわたり安定して形成することができる。
【0091】
図16は、長時間にわたる連続製造工程において得られる合金薄膜のMg組成比の時間変化を示す図である。実線のグラフAは磁石ユニット3の角度θのフィードバック制御を行った場合を示し、破線のグラフBは磁石ユニット3の角度θを固定した場合を示す。
図16に示すように、磁石ユニット3の角度θをフィードバック制御した場合、Mg組成比を長期間にわたり安定して維持して、成膜を行うことができる。
【0092】
磁石ユニット3の角度θを調整する間隔は、成膜する基板ごとに調整してもよいし、所定数の基板に成膜するごと(例えば100枚ごと)に、磁石ユニット3の角度θのフィードバック制御をしてもよい。また、所定時間の成膜を行うごと(例えば50時間ごと)に、磁石ユニット3の角度θのフィードバック制御をしてもよい。また、磁石ユニット3の角度θを変更する際には、同時に成膜時間や投入電力を調整してもよい。成膜時間や投入電力を調整することで、Mg組成比だけでなく、膜厚も一定に維持して薄膜を形成することができる。
【0093】
<実施例3>
組成比情報に基づく磁石ユニット3の角度制御としては、成膜開始前の成膜試験から得られる組成比変化の情報をフィードフォワードする制御が考えられる。
【0094】
この制御では、円筒形のターゲット2内の磁石ユニット3を所定の角度(例えば、鉛直上向きから5度傾けた状態(角度θ=5度))で、予め所定時間(例えば、500時間)の連続成膜試験を行う。この連続成膜試験において、定期的に成膜された合金薄膜のMg組成比を分析する。組成分析には蛍光X線法等の手法を用いることができる。これにより、Mg-Ag合金ターゲットを用いた連続成膜においてMg組成比がどのように時間変化するかを事前に把握することができる。
そして、この事前試験の結果を基に、実際の連続成膜において、Mg組成比の時間変化を予測し、予測されたMg組成比に応じて磁石ユニット3の角度θを調整することができる。例えば、角度θ=5度、目標Mg組成比8.0vol%で開始した事前試験において5
0時間経過時に計測されたMg組成比が7.6vol%であった場合は、実際の連続成膜において50時間経過時に磁石ユニット3の角度θ=10度に変更する調整を行う、といった制御を行うことができる。これにより、長時間の連続成膜においてMg組成比が一定した薄膜を形成することができる。
【0095】
図17は、長時間にわたる連続製造工程において得られる薄膜のMg組成比の時間変化を示す図である。実線のグラフAは磁石ユニット3の角度θを、事前試験の結果から予測されるMg組成比に基づきフィードフォワード制御した場合を示し、破線のグラフBは磁石ユニット3の角度θを固定した場合を示す。
図17に示すように、磁石ユニット3の角度θをフィードフォワード制御した場合、Mg組成比を長期間にわたり安定して維持して、成膜を行うことができる。
【0096】
なお、上記の例では事前試験により連続的なスパッタ成膜の経過時間とMg組成比との関係を調べて実際の成膜時の磁石ユニット3の角度制御にフィードフォワードする例を示したが、事前試験により調べる関係はこれに限らない。例えば、連続的なスパッタ成膜により成膜を行った基板の枚数の積算値とMg組成比との関係を調べて、実際の成膜時の成膜枚数に応じて磁石ユニット3の角度を調整するようにしてもよい。
【0097】
<実施例4>
組成比情報に基づく磁石ユニット3の角度制御としては、成膜装置内に設置された測定手段から得られる組成比情報をフィードバックする制御が考えられる。測定手段は、例えば
図2に示すインライン型の成膜装置100の検査室105に設けられる。
【0098】
基板6には、
図18に示すように、陰極65が成膜されるデバイス領域340とは別の領域に、組成を評価するための成膜を行う検査領域330が設けられている。検査室105の検査装置は、基板6の検査領域330に成膜された合金薄膜に対して、組成の測定を行う。これにより、デバイス領域340に成膜された薄膜に影響を与えずに、成膜室104において成膜された合金薄膜のMg組成比の評価を行うことが可能となる。
【0099】
成膜室104で成膜した合金薄膜は、真空一貫の生産ライン途中に設けられた検査室105で組成分析がなされ、その組成分析結果を基に、成膜室104のスパッタ装置1における磁石ユニット3の角度θの調整が行われる。このようにして、薄膜の連続生産プロセスにおいて、成膜された合金薄膜の組成をモニターして、この情報をもとに磁石ユニット3の角度θを調整し、組成をフィードバック制御することができる。この制御により、成膜と磁石ユニット3の角度θの調整のタイムラグを小さくするとともに、長時間の生産にわたり、組成比を一定に維持して成膜を行うことができる。
【0100】
実施例4は、
図3に示すようなクラスタ型の成膜装置111に適用することも可能である。この場合、検査室105におけるMg組成比の測定結果は、第2クラスタC2の成膜室104のスパッタ装置1の磁石ユニット3の角度θの調整にフィードバックされる。なお、他のクラスタにもスパッタ装置1と同様の設定のスパッタ装置が設けられる場合、それらのスパッタ装置の制御にも検査室105におけるMg組成比の測定結果をフィードバックしてもよい。
【0101】
<実施例5>
組成比情報に基づく磁石ユニット3の角度制御を、
図9に示すツインカソードのスパッタ装置1Yに適用した場合について説明する。成膜処理前に、組成比情報に基づき、
図11又は
図12に示す第1磁石ユニット3L、第2磁石ユニット3Rの角度θL、θRを算出し、第1磁石ユニット3L、第2磁石ユニット3Rを回転させる。第1磁石ユニット3L、第2磁石ユニット3Rの角度θL、θRを調整した後、調整後の角度で第1磁石ユニ
ット3L、第2磁石ユニット3Rを静止させた状態で、スパッタ成膜が行われる。
【0102】
図14で説明した磁石ユニット3の角度θと成膜される合金薄膜の組成比との関係は、
図4のスパッタ装置1、
図8のスパッタ装置1X、
図9のスパッタ装置1Yでは、角度θの符号にはよらないため、
図11の設定と
図12の設定では合金薄膜の組成比は変わらない。
【0103】
スパッタ装置1Yの構成においても、スパッタ装置1で説明した通り、基板6に成膜された合金薄膜の組成比情報に基づいて円筒形のカソードである第1ターゲット2L、第2ターゲット2R内に配置された第1磁石ユニット3L、第2磁石ユニット3Rの角度θL、θRを調整することにより、合金薄膜の組成比を高精度に制御することができる。また、磁石ユニット3の角度θを異ならせて複数回の成膜を行うことで、組成比の異なる多層膜を成膜することができる。
【0104】
以上説明した実施例1~5の制御によれば、2成分以上の合金ターゲットを用いたマグネトロンロータリスパッタ成膜において、基板6に成膜された合金薄膜の組成比情報に基づいて円筒形のカソードであるターゲット2内に配置された磁石ユニット3の角度θを調整するため、合金薄膜の組成比を高精度に制御することができる。これにより、長期間にわたるスパッタ成膜を行う場合にも、組成変動が少ない合金薄膜を成膜することができ、デバイス特性の基板間のばらつきを少なくすることができる。生産の歩留まりを高め、長期間にわたり安定してデバイスを作製することができる。
【0105】
なお、実施例1~5で説明した、2成分以上の合金ターゲットを用いたマグネトロンロータリスパッタ成膜において、基板6に成膜された合金薄膜の組成比情報に基づいて磁石ユニット3の角度θを調整する成膜方法や、回転カソードユニット8の磁石ユニット3の角度θを変更して複数回の成膜を行うことで、2成分の合金材料からなるロータリターゲットを用いたマグネトロンスパッタリングによって膜厚方向で組成比の異なる(組成比の勾配を有する)多層膜を成膜する成膜方法は、
図2に示すインライン型の成膜装置100、
図3に示すクラスタ型の成膜装置111、
図4に示す基板搬送型のスパッタ装置1、
図8に示す回転カソードユニット移動型のスパッタ装置1X、
図9に示すツインカソードかつ回転カソードユニット移動型のスパッタ装置1Y、図示しないツインカソードかつ基板搬送型のスパッタ装置、
図13に示す磁石ユニット揺動型のスパッタ装置に適用できる。
【0106】
上記の実施例は本発明の一例を示したものであるが、本発明は上記の実施例の構成に限定されないし、その技術思想の範囲内で適切に変形してもよい。例えば、チャンバ内に固定された回転カソードユニットに対して基板が移動する構成やチャンバ内に固定された基板に対して回転カソードユニットが移動する構成に限らず、例えば、チャンバ内に基板及び回転カソードユニットが固定され、回転カソードユニットを構成するターゲットの数を増やすことで全体としてスパッタリング領域が成膜対象領域全体をカバーする構成や、チャンバ内に固定された回転カソードユニットに対して基板が水平面内で揺動する構成や、チャンバ内に固定された基板に対して回転カソードユニットが水平面内で揺動する構成としてもよい。
図9ではターゲットを2個有するツインカソード型のスパッタ装置を例示したが、ターゲットの数は3個以上としてもよい。
【符号の説明】
【0107】
1:スパッタ装置
2:ターゲット
3:磁石ユニット
6:基板
35:回転軸
100:成膜装置