(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092338
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】インクジェット印刷用基材、アクリル樹脂積層体、キーホルダー、ストラップ及びアクリルスタンド
(51)【国際特許分類】
B41M 5/50 20060101AFI20240701BHJP
B41M 5/52 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B41M5/50 120
B41M5/52 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208197
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】大森 俊彦
【テーマコード(参考)】
2H186
【Fターム(参考)】
2H186BA08
2H186DA10
(57)【要約】
【課題】透明性、表面硬度、耐熱性に優れ、インクジェット印刷用インクから形成されるインクジェット印刷層に対して、プライマー層を設けることなく、より高い密着性を得ることが可能な、インクジェット印刷用基材を提供する。
【解決手段】メタクリル酸メチルとアクリル酸エステル(a)を含有する単量体組成物を含む重合性原料を重合してなるアクリル樹脂組成物からなるインクジェット印刷用基材であって、前記インクジェット印刷用基材についてISO14577に準拠して測定した表面硬度が50MPa以上400MPa以下である、インクジェット印刷用基材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチルとアクリル酸エステル(a)を含有する単量体組成物を含む重合性原料を重合してなるアクリル樹脂組成物からなるインクジェット印刷用基材であって、
前記インクジェット印刷用基材についてISO14577に準拠して測定した表面硬度が50MPa以上400MPa以下である、インクジェット印刷用基材。
【請求項2】
前記単量体組成物中のメタクリル酸メチルの含有割合が70質量%以上99質量%以下である、請求項1に記載のインクジェット印刷用基材。
【請求項3】
前記単量体組成物中のメタクリル酸メチルの含有割合が80質量%以上97質量%以下である、請求項2に記載のインクジェット印刷用基材。
【請求項4】
前記単量体組成物中のメタクリル酸メチルの含有割合が85質量%以上95質量%以下である、請求項3に記載のインクジェット印刷用基材。
【請求項5】
前記単量体組成物中のアクリル酸エステル(a)の含有割合が1質量%以上30質量%以下である、請求項1に記載のインクジェット印刷用基材。
【請求項6】
前記単量体組成物中のアクリル酸エステル(a)の含有割合が3質量%以上20質量%以下である、請求項5に記載のインクジェット印刷用基材。
【請求項7】
前記単量体組成物中のアクリル酸エステル(a)の含有割合が5質量%以上15質量%以下である、請求項6に記載のインクジェット印刷用基材。
【請求項8】
前記重合性原料中にさらにモノテルペノイド(C)を含有する、請求項1に記載のインクジェット印刷用基材。
【請求項9】
前記重合性原料中の前記モノテルペノイド(C)の含有割合が、前記重合性原料の総質量に対して1ppm以上300ppm以下である、請求項8に記載のインクジェット印刷用基材。
【請求項10】
前記重合性原料中の前記モノテルペノイド(C)の含有割合が、前記重合性原料の総質量に対して5ppm以上100ppm以下である、請求項9に記載のインクジェット印刷用基材。
【請求項11】
前記モノテルペノイド(C)が、テルピノレン、リモネン、ミルセン、α-ピネン、及びβ-ピネンから選ばれる少なくとも一つである、請求項8に記載のインクジェット印刷用基材。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のインクジェット印刷用基材と、該インクジェット印刷用基材の表面に形成されたインクジェット印刷層を含む、アクリル樹脂積層体。
【請求項13】
前記インクジェット印刷層が、エネルギー線硬化性組成物を硬化してなる、請求項12に記載のアクリル樹脂積層体。
【請求項14】
請求項12に記載のアクリル樹脂積層体を含むキーホルダー。
【請求項15】
請求項12に記載のアクリル樹脂積層体を含むストラップ。
【請求項16】
請求項12に記載のアクリル樹脂積層体を含むアクリルスタンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷用基材、アクリル樹脂積層体、キーホルダー、ストラップ及びアクリルスタンドに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂、ポリカーボネート系樹脂及びスチレン系樹脂等の透明樹脂は、透明性や機械的性質等に優れており、装飾品、表示用看板や広告等の表示物及びディスプレイ等の幅広い用途に使用されている。特に、アクリル樹脂は、レーザー切断加工時に切断面を綺麗に仕上げることができ、臭気の発生が少ないことから、近年、上記の用途で採用が進めつつある。
【0003】
上述した装飾品の主たる用途としては、キーホルダー、ストラップ、アクリルスタンドがある。具体的には、ワークサイズに切断したアクリル樹脂組成物からなるシート状の成形体(アクリル樹脂シート)の表面に、インクジェット印刷を行い、キャラクター等の画像を印刷した後、印刷形状に応じてレーザー切断加工機で最終製品の形状に切り出し、所定の形状に加工することにより、キーホルダーやストラップ、アクリルスタンドとして商品化されている。
【0004】
キーホルダーやストラップ、アクリルスタンド等の装飾品の用途では、アクリル樹脂シートの表面にキャラクター等の画像を印刷したときに、印刷された画像の色合いや形状が鮮明に視認されるように、透明性を有するアクリル樹脂シートが要求されている。
また、上述した装飾品の用途では、人や物との接触により製品に傷が付くことがあるため、高い表面硬度を有したアクリル樹脂シートが要求されている。
また、製品からインクジェット印刷層が剥がれないように、インクジェット印刷用インクから形成されるインクジェット印刷層に対して、高い密着性(インクジェット印刷密着性)を有したアクリル樹脂シートが要求されている。
さらに、夏場の屋外のような高温環境下で、製品が使用される場合、アクリル樹脂シートが熱で変形してインクジェット印刷層に割れや剥離が生じるため、耐熱性に優れたアクリル樹脂シート要求されている。
【0005】
アクリル樹脂シートのインクジェット印刷密着性を向上する技術として、例えば、特許文献1には、アクリル樹脂など基材の表面に粘着性を有するプライマー層を設けたUVインク固定構造が開示されている。
特許文献2には、アクリル樹脂など基材の表面に、硬化性樹脂、重合開始剤及びアクリル系レベリング剤を含有するハードコート層を設けたインクジェット印刷用ハードコートフィルムが開示されている。
特許文献3には、透明基板の表面にアクリル共重合ポリマーからなる受像層を設けたインクジェット印刷用基材が開示されている。
特許文献4には、特定のメタクリル酸メチル由来の繰り返し単位量及びアクリル酸エステル由来の繰り返し単位量を有するアクリル共重合ポリマーからなるインクジェット印刷用基材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-52378号公報
【特許文献2】特開2017-177600号公報
【特許文献3】特開2014-46586号公報
【特許文献4】特開2019-214200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に開示されている技術では、プライマー層を新たに設ける必要があり、本来アクリル樹脂が有する透明性の低下や、コストアップに繋がるといった課題があった。
また、特許文献4に開示されているインクジェット印刷用基材では、インクジェットの印刷密着性において、更なる改良の余地があった。
【0008】
本発明は以上の各課題を解決すべくなされたものである。すなわち、本発明の目的は、透明性、表面硬度、耐熱性に優れ、インクジェット印刷用インクから形成されるインクジェット印刷層に対して、プライマー層を設けることなく、より高い密着性を得ることが可能な、インクジェット印刷用基材、アクリル樹脂積層体、キーホルダー、ストラップ及びアクリルスタンドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため検討を重ねた結果、インクジェット印刷用基材の表面硬度が所定の範囲内にあることで、上記課題を解決し得ることを知見した。
【0010】
すなわち、本発明の第1の要旨は、メタクリル酸メチルとアクリル酸エステル(a)を含有する単量体組成物を含む重合性原料を重合してなるアクリル樹脂組成物からなるインクジェット印刷用基材であって、前記インクジェット印刷用基材についてISO14577に準拠して測定した表面硬度が50MPa以上400MPa以下である、インクジェット印刷用基材にある。
本発明の第2の要旨は、前記インクジェット印刷用基材と、該インクジェット印刷用基材の表面に形成されたインクジェット印刷層を含むアクリル樹脂積層体を含む、アクリル樹脂積層体にある。
本発明の第3の要旨は、前記アクリル樹脂積層体を含むキーホルダーにある。
本発明の第4の要旨は、前記アクリル樹脂積層体を含むストラップにある。
本発明の第5の要旨は、前記アクリル樹脂積層体を含むアクリルスタンドにある。
【0011】
本発明はより具体的には以下の通りである。
[1] メタクリル酸メチルとアクリル酸エステル(a)を含有する単量体組成物を含む重合性原料を重合してなるアクリル樹脂組成物からなるインクジェット印刷用基材であって、前記インクジェット印刷用基材についてISO14577に準拠して測定した表面硬度が50MPa以上400MPa以下である、インクジェット印刷用基材。
[2] 前記単量体組成物中のメタクリル酸メチルの含有割合が70質量%以上99質量%以下である、[1]に記載のインクジェット印刷用基材。
[3] 前記単量体組成物中のメタクリル酸メチルの含有割合が80質量%以上97質量%以下である、[2]に記載のインクジェット印刷用基材。
[4] 前記単量体組成物中のメタクリル酸メチルの含有割合が85質量%以上95質量%以下である、[3]に記載のインクジェット印刷用基材。
[5] 前記単量体組成物中のアクリル酸エステル(a)の含有割合が1質量%以上30質量%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のインクジェット印刷用基材。
[6] 前記単量体組成物中のアクリル酸エステル(a)の含有割合が3質量%以上20質量%以下である、[5]に記載のインクジェット印刷用基材。
[7] 前記単量体組成物中のアクリル酸エステル(a)の含有割合が5質量%以上15質量%以下である、[6]に記載のインクジェット印刷用基材。
[8] 前記重合性原料中にさらにモノテルペノイド(C)を含有する、[1]~[7]のいずれかに記載のインクジェット印刷用基材。
[9] 前記重合性原料中の前記モノテルペノイド(C)の含有割合が、前記重合性原料の総質量に対して1ppm以上300ppm以下である、[8]に記載のインクジェット印刷用基材。
[10] 前記重合性原料中の前記モノテルペノイド(C)の含有割合が、前記重合性原料の総質量に対して5ppm以上100ppm以下である、[9]に記載のインクジェット印刷用基材。
[11] 前記モノテルペノイド(C)が、テルピノレン、リモネン、ミルセン、α-ピネン、及びβ-ピネンから選ばれる少なくとも一つである、[8]~[10]のいずれかに記載のインクジェット印刷用基材。
[12] [1]~[11]のいずれかに記載のインクジェット印刷用基材と、該インクジェット印刷用基材の表面に形成されたインクジェット印刷層を含む、アクリル樹脂積層体。
[13] 前記インクジェット印刷層が、エネルギー線硬化性組成物を硬化してなる、[12]に記載のアクリル樹脂積層体。
[14] [12]又は[13]に記載のアクリル樹脂積層体を含むキーホルダー。
[15] [12]又は[13]に記載のアクリル樹脂積層体を含むストラップ。
[16] [12]又は[13]に記載のアクリル樹脂積層体を含むアクリルスタンド。
【発明の効果】
【0012】
本発明のインクジェット印刷用基材は、透明性、表面硬度、耐熱性に優れ、インクジェット印刷用インクから形成されるインクジェット印刷層に対して、プライマー層を設けることなく高い密着性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
【0014】
本発明において、「単量体」は未重合の化合物を意味し、「繰り返し単位」は単量体が重合することによって形成された該単量体に由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって該単位の一部が別の構造に変換されたものであってもよい。
また、「質量部」は特定の成分の重量部数を示す。
特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0015】
<インクジェット印刷用基材>
本発明のインクジェット印刷用基材は、メタクリル酸メチルとアクリル酸エステル(a)を含有する単量体組成物(以下、「本発明の単量体組成物」と称す場合がある。)を含む重合性原料(以下、「本発明における重合性原料」と称す場合がある。)を重合してなるアクリル樹脂組成物(以下、「本発明のアクリル樹脂組成物」と称す場合がある。)からなるインクジェット印刷用基材であって、
前記インクジェット印刷用基材についてISO14577に準拠して測定した表面硬度が50MPa以上400MPa以下である、インクジェット印刷用基材である。
【0016】
<表面硬度>
本発明のインクジェット印刷用基材は、表面硬度が50MPa以上400MPa以下の範囲内にあるインクジェット印刷用基材であることで、透明性、表面硬度、耐熱性に優れ、プライマー層を設けることなく高いインクジェット印刷の密着性が得られるので、装飾品、表示用看板や広告等の表示物及びディスプレイ等の用途に好適である。装飾品の中でも、特に、キーホルダーやストラップ、アクリルスタンドの用途に好適である。
本発明のインクジェット印刷用基材の表面硬度は、上記効果をより有効に得る観点から70MPa以上、特に100MPa以上であることが好ましく、380MPa以下、特に350MPa以下であることが好ましい。
【0017】
前記インクジェット印刷用基材の表面硬度が50MPa以上400MPa以下の範囲に制御する方法としては、後述するメタクリル酸メチル、アクリル酸エステル(a)、モノテルペノイド(C)の量や種類を適宜選択し、調整することで50MPa以上400MPa以下の範囲内にする方法が挙げられる。
本発明のインクジェット印刷用基材の表面硬度は、具体的には、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0018】
<単量体組成物>
本発明の単量体組成物は、本発明のインクジェット印刷用基材の構成するアクリル樹脂組成物の重合性原料に含有されるものであり、後述するメタクリル酸メチルとアクリル酸エステル(a)を含有する。
前記単量体組成物が、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」という。)とアクリル酸エステル(a)を含有することにより、本発明のインクジェット印刷用基材の透明性、表面硬度、耐熱性が優れたものとなり、プライマー層を設けることなく高いインクジェット印刷密着性を得ることができる。
【0019】
前記MMAは、本発明のインクジェット印刷用基材に、透明性と機械強度を付与するための成分である。
【0020】
前記アクリル酸エステル(a)は、本発明のインクジェット印刷用基材に、プライマー層を設けることなく高いインクジェット印刷密着性を付与するための成分である。
【0021】
(アクリル酸エステル(a))
前記アクリル酸エステル(a)としては、表面硬度、耐熱性を維持しつつ、インクジェット印刷密着性を向上できる観点から、炭素数1~13の炭化水素基を側鎖に有するアクリル酸エステルが挙げられる。具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-ペンチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル等のアクリル酸アルキルエステルが挙げられる。これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの単量体の中でも、インクジェット印刷密着性が良好となる観点から、炭素数4~13の炭化水素基を側鎖に有するアクリル酸エステルがより好ましく、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-ブチルがさらに好ましい。
これらのアクリル酸エステル(a)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
(MMAとアクリル酸エステル(a)の含有割合)
本発明の単量体組成物中のMMAの含有割合の下限は、特に限定されないが、単量体組成物の総質量100質量%に対して、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が特に好ましい。一方、MMAの含有割合の上限は、特に限定されないが、単量体組成物の総質量100質量%に対して、99質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、95質量%以下が特に好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0023】
本発明の単量体組成物中のアクリル酸エステル(a)の含有割合の下限は、特に限定されないが、インクジェット印刷用基材のインクジェット印刷密着性が良好となる観点から、該単量体組成物の総質量100質量%に対して、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上が特に好ましい。一方、アクリル酸エステル(a)の含有割合の上限は、特に限定されないが、インクジェット印刷用基材の耐熱性、表面硬度を良好に維持できる観点から、単量体組成物の総質量100質量%に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下が特に好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0024】
なお、上記のMMAとアクリル酸エステル(a)の含有割合は、後述の実施例に示されるように、好ましくはMMAとアクリル酸エステル(a)の合計100質量%中の含有割合である。
【0025】
(他のビニル単量体)
本発明の単量体組成物は、本発明のインクジェット印刷用基材の性能を損なわない範囲において、MMAとアクリル酸エステル(a)以外の他のビニル単量体を含有していても良い。前記他のビニル単量体としては、具体的には、メタクリル酸メチル以外のメタクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド誘導体、酢酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン及びそれらの誘導体、メタクリルアミド、アクリロニトリル等の窒素含有単量体、(メタ)アクリル酸グリシジルアクリレート等のエポキシ基含有単量体、スチレン、α-メチルスチレン等の分子中にエチレン性不飽和結合を有する芳香族化合物などが挙げられる。これらの他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
<その他の添加剤>
前記単量体組成物には、連鎖移動剤および重合開始剤を除く公知の添加剤を添加することができる。具体的には、界面活性剤、レベリング剤、染料、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、難燃剤、可塑剤等や機能を付与するための単官能単量体を挙げることができる。
【0027】
添加剤の添加量は、得られるインクジェット印刷用基材の物性が損なわれない範囲内で適宜定められるが、前記単量体組成物100質量部に対し、10質量部以下とすることができる。
【0028】
<重合性原料>
重合性原料は、本発明のインクジェット印刷用基材の原料である。
重合性原料は、MMAとアクリル酸エステル(a)を含有する単量体組成物と、さらに公知の重合開始剤、連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に制限はないが、得られるインクジェット印刷用基材の表面硬度を制御しやすい観点から、モノテルペノイド(C)(テルペン炭化水素類)を用いることが好ましい。
【0029】
(モノテルペノイド(C))
モノテルペノイド(C)は、本発明における重合性原料において含有することが好ましい。
重合性原料にモノテルペノイド(C)を含むことによって、本発明のインクジェット印刷用基材の表面硬度を適切に制御して、優れたインクジェット印刷密着性を安定して発現することができる。
【0030】
本発明の重合性原料がモノテルペノイド(C)を含有することによってインクジェット印刷密着性が良好となる理由については定かではないが、モノテルペノイド(C)が連鎖移動剤として機能することで、印刷用基材の表層部分(表面から数十nm付近)の硬度が柔らかくなりインクジェット印刷用のインクが印刷用基材に浸透しやすくなるため、この結果、優れたインクジェット印刷密着性が得られることが考えられる。
【0031】
モノテルペノイド(C)としては、インクジェット印刷用基材の安定したインクジェット印刷密着性の観点から、テルピノレン、リモネン、ミルセン、α-ピネン、β-ピネンが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
モノテルペノイド(C)の含有割合は、特に制限はないが、本発明における重合性原料の総質量100質量%に対して、0.1ppm以上500ppm以下含有することが好ましい。また優れたインクジェット印刷性を有する観点から、モノテルペノイド(C)の含有量は、1ppm以上がより好ましく、5ppm以上がさらに好ましく、10ppm以上が特に好ましい。一方、表面硬度、耐熱性、鋳型からの剥離性の観点から、モノテルペノイド(C)の含有量は、300ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましい。上記の好ましい上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0033】
ラジカル重合を行う為に重合性原料に添加するラジカル重合開始剤は、特に制限されるものではなく、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤;ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート等の有機過酸化物系重合開始剤が挙げられる。これらは1種を単独で、又は必要に応じて2種以上を併用できる。
ラジカル重合開始剤の添加量は、本発明における重合性原料100質量%に対し、0.05~1質量%が好ましい。
【0034】
<その他の添加剤>
重合性原料には、必要に応じて従来から使用されている種々の添加剤を添加することができる。具体的には、界面活性剤、レベリング剤、染料、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、難燃剤、可塑剤等や機能を付与するための単官能単量体を挙げることができる。
【0035】
添加剤の添加量は、得られるインクジェット印刷用基材の物性が損なわれない範囲内で適宜定められるが、前記重合性原料100質量部に対し、10質量部以下とすることができる。
【0036】
<アクリル樹脂組成物>
本発明のアクリル樹脂組成物は、重合性原料を重合したものであり、アクリル樹脂組成物を成形した本発明のインクジェット印刷用基材は、透明性、表面硬度、耐熱性が優れたものとなると共に、プライマー層を設けることなく高いインクジェット印刷密着性を得ることができる。
【0037】
本発明のアクリル樹脂組成物は、該アクリル樹脂組成物の総質量100質量%に対して、アクリル系重合体(P)を80質量%以上含有することができる。本発明のアクリル樹脂組成物中のアクリル系重合体(P)の含有割合が80質量%以上であれば、アクリル系重合体(P)が本来有する透明性に加え、機械的強度や耐候性を良好に維持することができる。
【0038】
<アクリル系重合体(P)>
アクリル系重合体(P)は、本発明のアクリル樹脂組成物の構成成分である。アクリル系重合体(P)は、本発明の単量体組成物中のMMA、アクリル酸エステル(a)及び必要に応じて用いられるその他のビニル単量体の重合物であり、インクジェット印刷密着性が良好となる観点から、メタクリル酸メチル由来の繰り返し単位(以下、「MMA単位」という。)及び前述のアクリル酸エステル(a)由来の繰り返し単位(以下、「アクリル酸エステル(a)単位」という。)を含む。
【0039】
前記MMA単位は、本発明のインクジェット印刷用基材に、透明性と機械強度を付与するための成分である。
【0040】
前記アクリル酸エステル(a)単位は、本発明のインクジェット印刷用基材に、プライマー層を設けることなく高いインクジェット印刷密着性を付与するための成分である。
前記アクリル酸エステル(a)としては、上述した(アクリル酸エステル(a))に記載のものが挙げられる。
【0041】
アクリル系重合体(P)中のMMA単位の含有割合の下限は、特に限定されないが、アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が特に好ましい。一方、MMA単位の含有割合の上限は、特に限定されないが、アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、99質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、95質量%以下が特に好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0042】
アクリル系重合体(P)中のアクリル酸エステル(a)単位の含有割合の下限は、特に限定されないが、インクジェット印刷用基材のインクジェット印刷密着性が良好となる観点から、該アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上が特に好ましい。一方、アクリル酸エステル(a)単位の含有割合の上限は、特に限定されないが、インクジェット印刷用基材の耐熱性、表面硬度を良好に維持できる観点から、アクリル系重合体(P)の総質量100質量%に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下が特に好ましい。上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0043】
さらに、アクリル系重合体(P)は、本発明のインクジェット印刷用基材の性能を損なわない範囲において、MMA単位及びアクリル酸エステル(a)単位以外の他のビニル単量体に由来する繰り返し単位を含有していても良い。前記他のビニル単量体としては、前述した(他のビニル単量体)が挙げられる。
【0044】
<インクジェット印刷用基材の製造方法>
本発明のインクジェット印刷用基材は、前述の重合性原料を加熱して、重合することにより製造できる。
本発明のインクジェット印刷用基材の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、セルキャスト法や連続キャスト法等の公知の注型重合法、或いは又、押出成形法及び射出成形法を用いて製造できる。得られるインクジェット印刷用基材が優れた印刷密着性や耐熱性有する観点から、特に注型重合法が好ましい。
【0045】
注型重合法は、対向配置された2枚の無機ガラス板または金属板(SUS板)の周辺を、軟質樹脂チューブ等のガスケットでシールして、これを鋳型とし、続いて、前述の本発明における重合性原料を前記鋳型に注入して、塊状重合により重合及び硬化させ、その硬化物を鋳型から剥離して得られたアクリル樹脂組成物からなるシート状の成形体を、インクジェット印刷用基材とする方法である。
【0046】
セルキャスト法に用いられる鋳型としては、例えば、無機ガラス板、クロムメッキ金属板、ステンレス鋼板等の2枚の板状体を所定間隔で対向配置し、その縁部に軟質樹脂製のガスケットを配置して、板状体とガスケットにより密封空間を形成させたものが挙げられる。
【0047】
連続キャスト法に用いられる鋳型としては、例えば、同一方向へ同一速度で走行する一対のエンドレスベルトの対向する面と、エンドレスベルトの両側辺部においてエンドレスベルトと同一速度で走行する軟質樹脂製のガスケットとにより密封空間を形成させたものが挙げられる。
【0048】
鋳型の空隙の間隔は所望の厚さの樹脂板が得られるように、上述した軟質樹脂製のガスケットの直径によって、適宜調整されるが、一般的には1~30mmである。
注型重合法を用いた場合の重合方法は、特に制限されるものではなく、例えば、アクリル系重合体やスチレン系樹脂の製造に用いられる公知の重合方法を採用できる。具体的には、単量体を重合溶媒として用いるいわゆるバルク重合法(塊状重合法)を、ラジカル重合の条件下で行うことができる。
【0049】
ラジカル重合を行う為に重合性原料に添加するラジカル重合開始剤は、特に制限されるものではなく、前述の通り、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤;ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート等の有機過酸化物系重合開始剤が挙げられる。これらは1種を単独で、又は必要に応じて2種以上を併用できる。前述の通り、ラジカル重合開始剤の添加量は、本発明における重合性原料100質量%に対し、0.05~1質量%が好ましい。
【0050】
また、前述の通り、重合性原料には、ラジカル重合開始剤以外に、必要に応じて離型剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤等の添加剤を加えることもできる。
【0051】
重合温度は特に制限されないが、好ましくは40~180℃、より好ましくは50~150℃である。重合時間は、重合硬化の進行に応じて適宜決定すればよい。
【0052】
<インクジェット印刷用インク>
本発明のインクジェット印刷用基材に使用できるインクジェット印刷用インクの種類は、特に限定はされるものではなく、活性エネルギー線を照射することにより、液状から固体に秒単位で硬化し、インクジェット印刷層の皮膜形成を行うエネルギー線硬化性組成物を用いることができる。
活性エネルギー線としては、例えば、電子線、紫外線及び可視光線挙げられるが、装置コストや生産性の観点から紫外線が好ましい。活性エネルギー線の光源としては、例えば、紫外線LEDランプ、蛍光紫外線ランプ、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、Arレーザー、He-Cdレーザー、固体レーザー、キセノンランプ、高周波誘導水銀ランプ及び太陽光が挙げられる。
【0053】
インクジェット印刷用インクは、光重合性を有する公知の単官能モノマー、公知の多官能モノマー及び公知のオリゴマーから選ばれる少なくとも一種、並びに、公知の光重合開始剤を含む、公知のエネルギー線硬化性組成物を用いることができる。前記エネルギー線硬化性組成物は、必要に応じて、増感剤、顔料、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、溶剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、界面活性剤等を含むことができる。
インクジェット印刷用インクの市販品としては、例えば、LH-100、LUS-120、LUS-350(ミマキエンジニアリング社製)やECO-UVインク(ローランド ディー.ジー.社製)等が挙げられる。
【0054】
<アクリル樹脂積層体及びその製造方法>
本発明のアクリル樹脂積層体は、本発明のインクジェット印刷用基材と、該インクジェット印刷用基材の表面に隣接して形成されたインクジェット印刷層を含む樹脂積層体である。
本発明のアクリル樹脂積層体を製造する方法としては、本発明のインクジェット印刷用基材の表面に、インクジェット印刷用インクを用いて、例えば文字、数字、記号、模様及びキャラクター等の画像をまとめて印刷してインクジェット印刷用インクの皮膜を形成し、紫外線等の活性エネルギー線を該皮膜に照射・硬化して、アクリル樹脂シートの表面にインクジェット印刷層を形成する方法が挙げられる。
【0055】
本発明のインクジェット印刷用基材の表面に、インクジェット印刷用インクを印刷する方法としては、インクジェットプリンターを用いて、該プリンタの吐出ヘッドから、インクジェット印刷用インクを、インクジェット印刷用基材の表面に吐出して、皮膜を形成する方法が挙げられる。
【0056】
本発明のアクリル樹脂積層体は、表面硬度と耐熱性に優れ、さらに、インクジェット印刷用基材の表面にプライマー層を設けることなく、インクジェット印刷用インクから形成されるインクジェット印刷層とインクジェット印刷用基材との間の密着性が十分に良好となるので、生産性に優れている。
【0057】
<キーホルダー、アクリルスタンド、ストラップ>
上述した、文字、数字、記号、模様及びキャラクター等の画像が印刷された本発明のアクリル樹脂積層体を、前記画像の形状に応じてレーザー加工機等の切断手段を用いて、最終製品の形状に切り出すことにより、本発明のキーホルダー、アクリルスタンド、ストラップが得られる。
【0058】
本発明のインクジェット印刷用基材及びアクリル樹脂積層体は、高い表面硬度を有しているので、人や物との接触により製品に傷が付きにくく、また、耐熱性に優れているので、本発明のキーホルダー、アクリルスタンド、ストラップは、夏場の屋外のような高温環境下で、製品が使用されても、インクジェット印刷用基材が熱変形することでインクジェット印刷層に割れや剥離が生じるという問題がない。さらに、本発明のキーホルダー、アクリルスタンド、ストラップは、インクジェット印刷用インクから形成されるインクジェット印刷層とインクジェット印刷用基材との間の密着性を、プライマー層を設けることなく、十分に良好にできるので、安価に生産性良く製造できるとともに、製品からインクジェット印刷層が剥がれるという問題がない。
即ち、本発明のインクジェット印刷用基材及びアクリル樹脂積層体は、上述した特徴を有しているので、鍵を束ねるためのキーホルダー、携帯電話等のストラップ、キャラクター等の画像を印刷したアクリルスタンドに、特に好適である。
【実施例0059】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
<化合物の略号>
以下の実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
MMA :メタクリル酸メチル(三菱ケミカル株式会社製)
BA :アクリル酸n-ブチル(三菱ケミカル株式会社製)
EHA :アクリル酸2-エチルヘキシル(三菱ケミカル株式会社製)
【0061】
<連鎖移動剤>
以下の実施例及び比較例で使用した連鎖移動剤は以下の通りである。
(モノテルペノイド(C))
テルピレノン:1-メチル-4-プロパン-2-イリデンシクロヘキセン(商品名:Terpinolen、東京化成工業株式会社製)
リモネン:1-メチル-4-(1-メチルエチニル)-シクロヘキセン(商品名:(+)-Limonen、東京化成工業株式会社製)
ミルセン:7-メチル-3-メチレン-1,6-オクタジエン(商品名:Myrcene,東京化成工業株式会社製)
α-ピネン:(±)-2-ピネン,2,6,6-トリメチルビシクロ[3.1.1]ヘプタ-2-エン(商品名:(1S)-(-)-α-ピネン、Sigma-Aldrich社製)
β-ピネン:(1S,5S)-6,6-ジメチル-2-メチレンビシクロ[3.1.1]ヘプタン(商品名:(-)-β-ピネン、Sigma-Aldrich社製)
(その他の連鎖移動剤)
n-ドデシルメルカプタン:1-ドデカンチオール(商品名:1-Dodecanethiol、東京化成工業株式会社製)
【0062】
<評価方法>
実施例及び比較例における評価は以下の方法により実施した。
【0063】
(1)インクジェット印刷密着性
インクジェット印刷用基材のインクジェット印刷密着性の指標として、下記の方法に従い、インクジェットプリンター(ミマキエンジニアリング社製 UJF7151)を用いて、実施例及び比較例で得られたインクジェット印刷用基材にインクジェット印刷用インク(ミマキエンジニアリング社製 LH-100)でカラー画像を印刷した。
次いで、得られた印刷部について、JIS K5600-5-6に準拠してクロスカット法を用いた剥離試験を行った。以下の判定基準に従って、インクジェット印刷密着性を評価した。
AA:印刷部の剥離部の面積割合が5%未満
A :印刷部の剥離部の面積割合が5%以上15%未満
B :印刷部の剥離部の面積割合が15%以上
【0064】
(2)インクジェット印刷用基材の表面硬度の測定
インクジェット印刷用基材の表面硬度の指標として、ISO14577に準拠して、実施例及び比較例で得られたインクジェット印刷用基材の表面硬度を測定した。具体的にはナノインデンター(Bruker製 装置名:TI980)を用いて、圧子の材質はダイヤモンドを選択し、形状はバーコビッチ型を用いて、インクジェット印刷用基材を常温にて7μNの圧力で5秒間下方に押圧した後、2秒間維持(creep)し、再び5秒かけて上方に上昇させ圧力0μNになるように調整しながら行った。得られたプロファイルから、表面硬度を算出した。
【0065】
(3)耐熱性の評価(荷重たわみ温度)
インクジェット印刷用基材の耐熱性の指標として、JIS K7191に準拠して、実施例及び比較例で得られたインクジェット印刷用基材の試験片(長さ127mm×幅12.7mm)を作製し、試験片の荷重たわみ温度(℃)を測定した。以下の判定基準に従って、耐熱性を評価した。
AA:荷重たわみ温度が85℃以上
A :荷重たわみ温度が65℃以上85℃未満
B :荷重たわみ温度が65℃未満
【0066】
(4)鉛筆硬度
インクジェット印刷用基材の表面硬度の指標として、JIS K5600-5-4に準拠して、実施例及び比較例で得られたインクジェット印刷用基材の鉛筆硬度を測定した。以下の判定基準に従って、鉛筆硬度を評価した。
AA:鉛筆硬度が2H以上
A :鉛筆硬度がH
B :鉛筆硬度がHB以下
【0067】
(5)ヘーズ値
透明性の指標として、積分球式光線透過率測定装置(日本電色工業(株)製、機種名:NDH4000)を用い、JIS K7136に準拠して、実施例及び比較例で得られたインクジェット印刷用基材(厚さ:3mm)に平行光を入射して、波長380~780nmの範囲における、ヘーズ値(%)(平衡入射光束に対する拡散透過光束の割合)を測定した。試験片3点を用いて、各試験片につき1回測定を行い、その平均値をヘーズ値とした。以下の判定基準に従って、ヘーズ値を評価した。
AA:ヘーズ値が2.0未満
A :ヘーズ値が2.0以上10.0未満
B :ヘーズ値が10.0以上
【0068】
(6)鋳型からの剥離性
鋳型からの剥離性の指標として、インクジェット印刷用基材を製造後、鋳型温度の際に剥離可能かを判断し、以下の判定基準に従って評価した。
AA:70℃以上でも剥離可能
A :60℃以上70℃未満で剥離可能
B :60℃以上では剥離困難
【0069】
<実施例1>
(1)シラップ(A)の製造
冷却管、温度計及び攪拌機を備えた反応器(重合釜)にMMA 90質量部、BA 10質量部の単量体組成物を供給し、撹拌しながら、窒素ガスでバブリングした後、反応器内の単量体組成物の温度が80℃になるまで昇温した。単量体組成物の温度が80℃に達した時点で、単量体組成物100質量部に対して、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.1質量部及び連鎖移動剤としてテルピノレン1.0ppmを添加し、更に反応器内の単量体組成物の温度が100℃になるまで昇温した後、11分間保持した。次いで、反応器を室温まで冷却して固形分25%を含有するシラップ(A)を得た。
【0070】
(2)注型重合
使用するSUS板表面の酸化被膜形成を目的に、事前にSUSを130℃で2時間加熱処理を行った。二枚のSUS板を対向させ、その周囲を軟質樹脂製のガスケットで封じ、注型重合用の鋳型を作製した。この鋳型内に、上記のシラップ(A)100質量部に、重合開始剤としてt-ヘキシルパーオキシピバレート0.3質量部を添加した混合物を注入した後、対向するステンレス板の間隔を4.1mmに調整した。次いで、この鋳型を80℃の水浴中で1時間、更に130℃の空気炉で1時間加熱することにより、鋳型内の混合物を重合硬化させた。その後鋳型を冷却し、ガラス板を取り除いて厚さ3mmの、MMA単位90質量%とBA単位10質量%(ただし、MMA単位とBA単位の合計で100質量%)を含むアクリル系樹脂組成物からなるシート状の成形体を得て、これをインクジェット印刷用基材とした。得られたインクジェット印刷用基材の評価結果を表1に示す。
【0071】
<実施例2~15、比較例1~2>
メタクリル酸メチルの添加量及びアクリル酸エステル(a)の種類と添加量、連鎖移動剤の種類と添加量を表-1,2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の製造条件で、アクリル系樹脂組成物からなるシート状の成形体を作製して、これをインクジェット印刷用基材とした。得られたインクジェット印刷用基材の評価結果を表-1,2に示す。
【0072】
【0073】
【0074】
表-1,2より次のことが分かる。
実施例1~13で得られたインクジェット印刷用基材は、メタクリル酸メチルとアクリル酸エステル(a)を含有する単量体組成物を含む重合性原料を重合してなるアクリル樹脂組成物からなるインクジェット印刷用基材であって、前記インクジェット印刷用基材の表面硬度が50MPa以上400MPa以下である、インクジェット印刷用基材であるので、透明性、表面硬度、耐熱性、インクジェットの印刷密着性に優れる。
これに対して、比較例1~3のインクジェット印刷用基材は、表面硬度が400MPaを超えているので印刷密着性が不十分である。
比較例4では、表面硬度が50MPa未満であるので、耐熱性、表面硬度、鋳型からの剥離性が不十分となる。
本発明によれば、透明性、表面硬度、耐熱性に優れ、プライマー層を設けることなく高いインクジェット印刷密着性が得られる、インクジェット印刷用基材を提供することができる。
本発明のインクジェット印刷用基材は、装飾品、表示用看板や広告等の表示物及びディスプレイ等に好適に使用できる。特に、キーホルダーやストラップ、アクリルスタンド等の装飾品に好適である。