IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京応化工業株式会社の特許一覧

特開2024-92350保護膜形成剤、保護膜、保護膜の製造方法、及び半導体チップの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092350
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】保護膜形成剤、保護膜、保護膜の製造方法、及び半導体チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240701BHJP
   H01L 21/314 20060101ALI20240701BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20240701BHJP
   C09D 101/00 20060101ALI20240701BHJP
   C09D 129/02 20060101ALI20240701BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240701BHJP
   B23K 26/364 20140101ALI20240701BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/78 S
H01L21/314 A
H01L21/302 105A
C09D101/00
C09D129/02
C09D7/61
B23K26/364
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208225
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞庭 瞳
(72)【発明者】
【氏名】木下 哲郎
【テーマコード(参考)】
4E168
4J038
5F004
5F058
5F063
【Fターム(参考)】
4E168AD01
4E168DA04
4E168DA24
4E168JA12
4J038BA021
4J038CE021
4J038HA266
4J038HA336
4J038HA376
4J038KA06
4J038PB09
5F004DA00
5F004DA18
5F004DB01
5F004FA05
5F004FA08
5F058BC20
5F058BF46
5F058BH12
5F058BH20
5F063AA02
5F063AA05
5F063AA15
5F063BA07
5F063CA01
5F063CA08
5F063CB02
5F063CB06
5F063CB22
5F063CB27
5F063CC23
5F063DD42
5F063DD48
5F063DF02
5F063DF06
5F063DF11
5F063DF19
5F063DF20
5F063DF23
5F063DF24
5F063EE21
(57)【要約】
【課題】保護膜とする際の成膜性に優れ、かつ、プラズマエッチング耐性に優れた保護膜を得ることができる保護膜形成剤、及びその製造方法、さらには、かかる保護膜形成剤によって得られる保護膜、及び半導体チップの製造方法を提供すること。
【解決手段】芳香環を有しない第1の樹脂と、金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属塩と、溶剤とを含有する保護膜形成剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属塩と、
芳香環を有しない第1の樹脂と、
溶剤と
を含有する保護膜形成剤。
【請求項2】
さらに、芳香環を有する第2の樹脂を含有する、
請求項1に記載の保護膜形成剤。
【請求項3】
前記保護膜形成剤から溶剤を除いた成分の総量における、前記金属塩の前記金属の含有比率が、0.15質量%以上である、
請求項1又は2に記載の保護膜形成剤。
【請求項4】
前記金属塩の前記金属が、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Ag、Cd、In、Cs、Ba、La、及びCeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項1又は2に記載の保護膜形成剤。
【請求項5】
前記金属塩が、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、及びこれらの水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項1又は2に記載の保護膜形成剤。
【請求項6】
前記第1の樹脂が、セルロース系樹脂及びビニル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項1又は2に記載の保護膜形成剤。
【請求項7】
前記第1の樹脂が、下記式(1a)で表される繰り返し単位を含む樹脂(1A)、下記式(1b-1)で表される繰り返し単位及び下記式(1b-2)で表される繰り返し単位を含む樹脂(1B)、下記式(1c)で表される繰り返し単位を含む樹脂(1C)、並びに下記式(1d)で表される繰り返し単位を含む樹脂(1D)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項1又は2に記載の保護膜形成剤。
【化1】

(式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、-H、-CH、-CHCH、又は-CHCH(OH)CHで表される置換基であり、かつ、全てのR、R、及びRのうち、少なくとも1つは、-H以外の置換基である。)
【化2】

【化3】

【化4】
【請求項8】
前記第2の樹脂が、下記式(2a-1)で表される繰り返し単位及び下記式(2a-2)で表される繰り返し単位を含む樹脂(2A)、下記式(2b-1)で表される繰り返し単位及び下記式(2b-2)で表される繰り返し単位を含む樹脂(2B)、並びに下記式(2c)で表される繰り返し単位を含む樹脂(2C)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項2に記載の保護膜形成剤。
【化5】

(式中、Xは、アルカリ金属カチオン、プロトン、又はN であり、Rは、水素原子、アルキル基、又はヒドロキシアルキル基である。)
【化6】

(式中、M1+及びM2+は、それぞれ独立に、アルカリ金属カチオン、プロトン、又はN であり、Rは、水素原子、アルキル基、又はヒドロキシアルキル基である。)
【化7】
【請求項9】
金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属塩と、
芳香環を有しない第1の樹脂と
を含有する、保護膜。
【請求項10】
さらに、芳香環を有する第2の樹脂を含有する、
請求項9に記載の保護膜。
【請求項11】
前記保護膜における前記金属塩の前記金属の含有率が、0.15質量%以上である、
請求項9又は10に記載の保護膜。
【請求項12】
前記金属塩の金属が、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Ag、Cd、In、Cs、Ba、La、及びCeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項9又は10に記載の保護膜。
【請求項13】
膜厚が、0.1μm以上100μm以下である、
請求項9又は10に記載の保護膜。
【請求項14】
基板上に請求項1又は2に記載の保護膜形成剤を塗布して、保護膜を形成する工程を含む、
保護膜の製造方法。
【請求項15】
プラズマダイシングにより半導体ウエハーを切断する半導体チップの製造方法であり、
半導体ウエハー上に請求項1又は2に記載の保護膜形成剤を塗布して、保護膜を形成する工程と、
前記半導体ウエハー上における前記保護膜を含む1以上の層の所定の位置にレーザー光を照射し、前記半導体ウエハーの表面を露出させ、かつ、半導体チップの形状に応じたパターンの加工溝を形成する工程と、
前記加工溝が形成された前記半導体ウエハーに、プラズマを照射して、前記半導体ウエハーの前記加工溝の位置を切断して、半導体チップを得る工程と、
を含む、半導体チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護膜形成剤、保護膜、保護膜の製造方法、及び半導体チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程において形成されるウエハーは、シリコン基板等の半導体基板の表面に絶縁膜及び機能膜が積層された積層体を、ストリートと呼ばれる格子状の分割予定ラインによって区画されたものである。このストリートに沿ってウエハーを切断することによって、複数の半導体チップが得られる(チップ化)。つまり、ストリートで区画されている各領域が、ICやLCI等の半導体チップとなる。
【0003】
このストリートに沿ってウエハーを切断することによって複数の半導体チップが得られる。例えば、光デバイスウエハーでは、窒化ガリウム系化合物半導体等が積層された積層体がストリートによって複数の領域に区画される。このストリートに沿っての切断により、光デバイスウエハーは、発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイスに分割される。これらの光デバイスは、電気機器に広く利用されている。
【0004】
このようなウエハーの切断は、例えば、プラズマダイシングによって行われる。プラズマダイシングは、真空下又は減圧下でドライエッチングを行うことによって、ウエハーを切断してチップ化する加工技術である。プラズマダイシングでは、例えば、ウエハーを深堀できるBoschプロセス等が用いられている。
【0005】
特許文献1には、複数のICを含む基板をダイシングする方法であって、基板上にICを被覆し保護するマスクを形成する工程であって、マスクはICの上面と接触する水溶性材料の層を含む工程と、レーザスクライビングプロセスによってマスクをパターニングして、ギャップを有するパターニングされたマスクを提供し、IC間の基板の領域を露出させる工程と、パターニングされたマスク内のギャップを貫通して基板をプラズマエッチングして、ICを個片化する工程を含む方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2014-523112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プラズマダイシングによってウエハーを切断する際、ウエハーを保護するために、ウエハーの表面に保護膜を設けることが行われる。保護膜は、例えば、ダイシング時に発生するカットくずやその他のパーティクル等の不純物が、ウエハーの表面に付着することを防ぐものであるが、保護膜の性能について、未だ改善の余地がある。
【0008】
通常、保護膜は、保護膜形成剤をウエハーに塗布し、成膜することによって、形成される。しかし、保護膜にクラックが発生すると、カットくずやその他のパーティクル等の不純物がウエハーに付着してしまい、ウエハーが汚染されたり、ウエハーが損傷したりする。また、段差のあるデバイスにプラズマダイシングを行う際、段差上部では保護膜の厚さが十分に確保できず、意図せず薄膜化してしまうことがある。このようなことから、保護膜形成剤には、クラックの発生を抑制できる、優れた成膜性が要求される。
【0009】
また、プラズマダイシングでは、フッ素系ガス等のエッチングガスを用いて、ウエハーをエッチングする。その際、このようなエッチングガスから発生するラジカル(例えば、フッ素系ガスから発生するフッ素ラジカル等)が、ウエハーを不必要にエッチングしたり、傷つけたりすることも起こりうる。このような意図しないエッチングが起こると、保護膜の膜減りが進んでしまう。このようなことから、保護膜形成剤には、優れたプラズマエッチング耐性が要求される。
【0010】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、保護膜とする際の成膜性に優れ、かつ、プラズマエッチング耐性に優れた保護膜を得ることができる保護膜形成剤、及びその製造方法、さらには、かかる保護膜形成剤によって得られる保護膜、及び半導体チップの製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討した結果、金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属塩と、芳香環を有しない第1の樹脂と、溶剤とを含有する保護膜形成剤とすることに知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
<1>
金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属塩と、芳香環を有しない第1の樹脂と、溶剤とを含有する保護膜形成剤である。
<2>
さらに、芳香環を有する第2の樹脂を含有する、<1>に記載の保護膜形成剤である。
<3>
前記保護膜形成剤から溶剤を除いた成分の総量における、前記金属塩の前記金属の含有比率が、0.15質量%以上である、<1>又は<2>に記載の保護膜形成剤である。
<4>
前記金属塩の前記金属が、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Ag、Cd、In、Cs、Ba、La、及びCeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、<1>~<3>のいずれかに記載の保護膜形成剤である。
<5>
前記金属塩が、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、及びこれらの水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、<1>~<4>のいずれかに記載の保護膜形成剤である。
<6>
前記第1の樹脂が、セルロース系樹脂及びビニル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、<1>~<5>のいずれかに記載の保護膜形成剤である。
<7>
前記第1の樹脂が、下記式(1a)で表される繰り返し単位を含む樹脂(1A)、下記式(1b-1)で表される繰り返し単位及び下記式(1b-2)で表される繰り返し単位を含む樹脂(1B)、下記式(1c)で表される繰り返し単位を含む樹脂(1C)、並びに下記式(1d)で表される繰り返し単位を含む樹脂(1D)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、<1>~<6>のいずれかに記載の保護膜形成剤である。
【化1】

(式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、-H、-CH、-CHCH、又は-CHCH(OH)CHで表される置換基であり、かつ、全てのR、R、及びRのうち、少なくとも1つは、-H以外の置換基である。)
【化2】
【化3】
【化4】
<8>
前記第2の樹脂が、下記式(2a-1)で表される繰り返し単位及び下記式(2a-2)で表される繰り返し単位を含む樹脂(2A)、下記式(2b-1)で表される繰り返し単位及び下記式(2b-2)で表される繰り返し単位を含む樹脂(2B)、並びに下記式(2c)で表される繰り返し単位を含む樹脂(2C)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、<2>~<7>のいずれかに記載の保護膜形成剤である。
【化5】

(式中、Xは、アルカリ金属カチオン、プロトン、又はN であり、Rは、水素原子、アルキル基、又はヒドロキシアルキル基である。)
【化6】

(式中、M1+及びM2+は、それぞれ独立に、アルカリ金属カチオン、プロトン、又はN であり、Rは、水素原子、アルキル基、又はヒドロキシアルキル基である。)
【化7】

<9>
金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属塩と、芳香環を有しない第1の樹脂とを含有する、保護膜である。
<10>
さらに、芳香環を有する第2の樹脂を含有する、<9>に記載の保護膜である。
<11>
前記保護膜における前記金属塩の前記金属の含有率が、0.15質量%以上である、<9>又は<10>に記載の保護膜である。
<12>
前記金属塩の金属が、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Ag、Cd、In、Cs、Ba、La、及びCeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、<9>~<11>のいずれかに記載の保護膜である。
<13>
膜厚が、0.1μm以上100μm以下である、<9>~<12>のいずれかに記載の保護膜である。
<14>
基板上に<1>~<7>のいずれかに記載の保護膜形成剤を塗布して、保護膜を形成する工程を含む、保護膜の製造方法である。
<15>
プラズマダイシングにより半導体ウエハーを切断する半導体チップの製造方法であり、半導体ウエハー上に<1>~<7>のいずれかに記載の保護膜形成剤を塗布して、保護膜を形成する工程と、前記半導体ウエハー上における前記保護膜を含む1以上の層の所定の位置にレーザー光を照射し、前記半導体ウエハーの表面を露出させ、かつ、半導体チップの形状に応じたパターンの加工溝を形成する工程と、前記加工溝が形成された前記半導体ウエハーに、プラズマを照射して、前記半導体ウエハーの前記加工溝の位置を切断して、半導体チップを得る工程と、を含む、半導体チップの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保護膜とする際の成膜性に優れ、かつ、プラズマエッチング耐性に優れた保護膜を得ることができる保護膜形成剤、及びその製造方法、さらには、かかる保護膜形成剤によって得られる保護膜、及び半導体チップの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0015】
<保護膜形成剤>
【0016】
本実施形態に係る保護膜形成剤は、金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属塩と、芳香環を有しない第1の樹脂と、溶剤とを含有する保護膜形成剤である。保護膜形成剤は、例えば、半導体ウエハーをダイシングする際、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成するために用いることができる。本発明者らが、鋭意研究したところ、意外にも、芳香環を有しない樹脂と金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属塩とを併用することによって、保護膜とする際の成膜性に優れ、かつ、プラズマエッチング耐性に優れた保護膜を得ることができるとの知見を得た。
【0017】
(金属塩、金属)
【0018】
本実施形態に係る保護膜形成剤は、金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属塩を含有する。
【0019】
金属塩の金属の種類(金属種)は、金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属であれば、金属の種類は特に限定されない。金属塩の金属としては、成膜性やプラズマエッチング耐性を一層向上させることができるといった観点から、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Ag、Cd、In、Cs、Ba、La、及びCeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0020】
ここで、一例として、下記表に、各金属のフッ化物の沸点を示す。なお、「金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である」とは、当該金属がとり得るフッ化物の少なくとも1種が900℃以上であればよいことを意味する。例えば、Agの場合、AgF、AgF、AgF、AgFといった複数のフッ化物が考えられるが、少なくともそのうちの1つ(例えば、AgF)が900℃以上の沸点であればよい。
【0021】
【表1】
【0022】
金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属の含有率は、特に限定されないが、優れた成膜性を有しつつ、選択比を一層高くすることができるといった観点から、保護膜形成剤から溶剤を除いた成分の総量における、金属塩の金属の含有比率((金属塩の金属)/(保護膜形成剤から溶剤を除いた成分の総量))が、0.15質量%以上であることが好ましい。この含有比率の下限は、1.0質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが更に好ましい。この含有比率の上限は、3.5質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましく、2.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0023】
本実施形態に係る保護膜形成剤は、金属塩として、金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属の塩だけでなく、金属フッ化物である場合の沸点が900℃未満である金属の塩も含有していてもよいが、成膜性やプラズマエッチング耐性を一層高いレベルで両立させる観点から、本実施形態に係る保護膜形成剤は、金属塩として、金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属の塩のみを含有することが好ましい。すなわち、保護膜形成剤が含有する金属塩の金属は、金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属のみであることが好ましい。
【0024】
そして、本実施形態に係る保護膜形成剤は、成膜性やプラズマエッチング耐性を一層高いレベルで両立させる観点から、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Ag、Cd、In、Cs、Ba、La、及びCe以外の金属の塩(金属塩)は、実質的に含有しないことが好ましい。さらに、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Ag、Cd、In、Cs、Ba、La、及びCe以外の金属の塩(金属塩)の含有率は、0質量%であることがより好ましい。なお、本明細書中の「実質的に含有しない」とは、当該成分を積極的に添加又は混合しないことを意味し、不可避的に含有又は混合されることを除外するものではない。
【0025】
また、本実施形態に係る保護膜形成剤が含有する金属塩の塩の種類は、特に限定されない。金属塩の塩の種類としては、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、及びこれらの水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの塩は、水溶性が高い傾向にあるため、保護膜形成剤中の他成分との相溶性が一層高くなり、成膜性も更に向上させることができる。
【0026】
本実施形態に係る保護膜形成剤は、金属塩として、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、及びこれらの水和物だけでなく、これら以外の金属塩も含有していてもよいし、金属塩として、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、及びこれらの水和物以外の金属塩を含有しなくてもよい。
【0027】
本実施形態に係る保護膜形成剤おいて、金属塩の含有量は、特に限定されないが、保護膜形成剤中の固形分100質量部に対する、金属塩の含有量の合計は、15.0質量部以下であることが好ましく、9.4質量部以下であることがより好ましく、9.3質量部以下であることが更に好ましく、9.0質量部以下であることがより更に好ましい。また、保護膜形成剤中の固形分100質量部に対する、金属塩の含有量の合計は、0.15質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましく、0.4質量部以上であることが更に好ましい。
【0028】
(第1の樹脂)
【0029】
第1の樹脂は、芳香環を有しない樹脂(「非芳香族系樹脂」と呼ぶことがある。)である。第1の樹脂は、水溶性であること(「水溶性樹脂」と呼ぶことがある。)が好ましい。水溶性であれば、水や水性媒体等の溶剤に溶解させて塗布・乾燥することによって、効果的に保護膜を成膜することができる。また、プラズマエッチング加工後に、水洗によって保護膜を容易に除去することができる。なお、本明細書において「水溶性」とは、25℃の水100gに対して、溶質(当該樹脂)が0.5g以上溶解するこという。
【0030】
この点、従来では、水溶性材料を用いて保護膜を形成すると、クラックが発生しやすいという問題がある。特に保護膜が厚い場合、クラックが発生しやすい傾向にある。また、水溶性材料を用いることで、プラズマエッチング耐性が低下しやすい傾向にある。しかしながら、本実施形態によれば、意外にも、上述した金属塩と第1の樹脂を併用することで、このような問題発生を効果的に抑制できる。
【0031】
なお、水溶性樹脂には、加水分解反応や、水性媒体中での塩基による処理を施すことによって、水に対して可溶化させた樹脂も含まれる。例えば、このような反応や処理を施された結果、25℃の水100gに対して、溶質(当該樹脂)が0.5g以上溶解可能となった樹脂も、本明細書でいう「水溶性樹脂」に該当する。
【0032】
第1の樹脂は、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアルキレンオキサイド(例えば、ポリエチレングリコール等のポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール等のポリプロピレンオキサイド等)、ポリグリセリン、及び水溶性ナイロンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、セルロース系樹脂及びビニル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。これらは、水溶性であることが好ましい。
【0033】
第1の樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常、100以上300000以下であることが好ましい。この重量平均分子量の下限は、1000以上であることがより好ましく、10000以上であることが更に好ましい。また、この重量平均分子量の上限は、200000以下であることがより好ましく、150000以下であることが更に好ましい。
【0034】
なお、特に断りがない限り、本明細書の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により得られる、ポリスチレン換算の重量平均分子量(M)をいう。
【0035】
セルロース系樹脂としては、セルロース又はセルロース誘導体であり、水溶性を有することが好ましい。セルロース誘導体としては、例えば、セルロースをアルキル基(メチル基、エチル基等)で修飾したものや、セルロースをヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等)で修飾したもの等が挙げられる。セルロース誘導体の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース等からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0036】
セルロース系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、1000以上300000以下であることが好ましい。この重量平均分子量の下限は、10000以上であることがより好ましい。また、この重量平均分子量の上限は、200000以下であることがより好ましく、150000以下であることが更に好ましい。
【0037】
ビニル系樹脂としては、ビニル基を有する単量体の単独重合体、又は、ビニル基を有する単量体の共重合体であって、水溶性の樹脂であることが好ましい。ビニル系樹脂の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(N-アルキルアクリルアミド)、ポリアリルアミン、ポリ(N-アルキルアリルアミン)、部分アミド化ポリアリルアミン、ポリ(ジアリルアミン)、アリルアミン・ジアリルアミン共重合体、及びポリアクリル酸等からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0038】
ポリビニルアルコール系樹脂の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール(酢酸ビニル共重合体も含む)、ブテンジオール・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコールポリアクリル酸ブロック共重合体、ポリビニルアルコールポリアクリル酸エステルブロック共重合体等が挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0039】
半導体ウエハー表面に形成される保護膜は、通常、加工溝の形成後の適切な時点で、水洗によって半導体ウエハー又は半導体チップの表面から除去される。このため、保護膜の水洗性の観点から、水との親和性の高い水溶性樹脂であることが好ましい。上述した樹脂の中で水との親和性の高い水溶性樹脂としては、極性基として水酸基、アミド結合、及び/又はエーテル結合のみを有する樹脂、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が好ましい。
【0040】
さらに、保護膜の熱ダレ等による加工溝の形状悪化等をより効果的に抑制できることが期待できる観点から、セルロース系樹脂及びビニル系樹脂が好ましく、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリビニルピロリドン等がより好ましい。
【0041】
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
第1の樹脂のより具体的な好適例について説明する。第1の樹脂は、下記式(1a)で表される繰り返し単位を含む樹脂(1A)、下記式(1b-1)で表される繰り返し単位及び下記式(1b-2)で表される繰り返し単位を含む樹脂(1B)、下記式(1c)で表される繰り返し単位を含む樹脂(1C)、及び下記式(1d)で表される繰り返し単位を含む樹脂(1D)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0043】
【化8】
【0044】
(式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、-H、-CH、-CHCH、又は-CHCH(OH)CHで表される置換基であり、かつ、全てのR、R、及びRのうち、少なくとも1つは、-H以外の置換基である。)
【0045】
【化9】
【0046】
【化10】
【0047】
【化11】
【0048】
樹脂(1A)は、式(1a)で表される繰り返し単位を含む樹脂であればよく、その他の繰り返し単位も有していてもよい。保護膜の成膜性、プラズマエッチング耐性、水洗性、加工溝の形状の精密さ等の観点から、樹脂(1A)は、式(1a)で表される繰り返し単位のみを有する樹脂であることが好ましい。樹脂(1A)の具体例としてはセルロース誘導体が挙げられる。樹脂(1A)の好適例としては、上述したメチルセルロース、エチルセルロース、及びプロピレンセルロース等が挙げられる。
【0049】
式(1a)のR、R、及びRは、それぞれ独立に、-H、-CH、-CHCH、又は-CHCH(OH)CHで表される置換基であればよいが、式(1a)のR、R、及びRは、それぞれ独立に、-H又は-CHCH(OH)CHで表される置換基であり、全てのR、R、及びRのうち、少なくとも1つは、-CHCH(OH)CHであることが好ましい。
【0050】
樹脂(1A)の重量平均分子量は、特に限定されないが、10000以上300000以下であることが好ましい。重量平均分子量の下限は、15000以上であることがより好ましく、20000以上であることが更に好ましい。また、重量平均分子量の上限は、200000以下であることがより好ましく、100000以下であることが更に好ましく、50000以下であることがより更に好ましい。
【0051】
樹脂(1B)は、式(1b-1)で表される繰り返し単位及び式(1b-2)で表される繰り返し単位を含む樹脂(式(1b)参照)であればよく、その他の繰り返し単位も含んでいてもよい。保護膜の成膜性、プラズマエッチング耐性、水洗性、加工溝の形状の精密さ等の観点から、樹脂(1B)は、式(1b-1)で表される繰り返し単位及び式(1b-2)で表される繰り返し単位のみを有する樹脂(式(1b)参照)であることが好ましい。
【0052】
樹脂(1B)の水溶性は、例えば、式(1b-1)で表される繰り返し単位の含有量、式(1b-2)で表される繰り返し単位の含有量、及び式(1b-1)で表される繰り返し単位と式(1b-2)で表される繰り返し単位のモル比率等を調整することによって、向上させることができる。
【0053】
式(1b-1)で表される繰り返し単位及び式(1b-2)で表される繰り返し単位の比率は、特に限定されないが、上述した観点から、式(1b-1)で表される繰り返し単位及び式(1b-2)で表される繰り返し単位の合計における、式(1b-1)で表される繰り返し単位のモル比率(式(1b-1)/(式(1b-1)+式(1b-2)))の上限は、0.965以下であることが好ましく、0.890以下であることが好ましい。このモル比率の下限は、特に限定されないが、0.500以上であることが好ましく、0.695以上であることがより好ましい。
【0054】
樹脂(1B)の好適例としては、上述したポリビニルアルコール等が挙げられる。ポリビニルアルコールは、例えば、酢酸ビニルモノマーを重合したポリ酢酸ビニルをケン化して得ることができる。その場合、式(1b)で表されるように、式(1b-1)で表される繰り返し単位及び式(1b-2)で表される繰り返し単位の両方を有する樹脂を得ることができる。
【0055】
樹脂(1B)の重合度は、特に限定されないが、300以上2500以下であることが好ましい。重合度の下限は、500以上であることがより好ましい。また、重合度の上限は、2000以下であることがより好ましい。
【0056】
樹脂(1C)は、式(1c)で表される繰り返し単位を含む樹脂であればよく、その他の繰り返し単位も含んでいてもよい。保護膜の成膜性、プラズマエッチング耐性、水洗性、加工溝の形状の精密さ等の観点から、樹脂(1C)は、式(1c)で表される繰り返し単位のみを有する樹脂であることが好ましい。樹脂(1C)の好適例としては、上述したポリ-N-ビニルアセトアミド等が挙げられる。
【0057】
樹脂(1C)の重量平均分子量は、特に限定されないが、200000以上1500000以下であることが好ましい。重量平均分子量の下限は、250000以上であることがより好ましく、500000以上であることが更に好ましい。また、重量平均分子量の上限は、成膜性等の観点から、1000000以下であることがより好ましい。
【0058】
樹脂(1D)は、式(1d)で表される繰り返し単位を含む樹脂であればよく、その他の繰り返し単位も有していてもよい。保護膜の成膜性、プラズマエッチング耐性、水洗性、加工溝の形状の精密さ等の観点から、樹脂(1D)は、式(1d)で表される繰り返し単位のみを有する樹脂であることが好ましい。樹脂(1D)の好適例としては、上述したポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0059】
樹脂(1D)の重量平均分子量は、特に限定されないが、10000以上1500000以下であることが好ましい。重量平均分子量の下限は、40000以上であることがより好ましく、50000以上であることが更に好ましく、100000以上であることがより更に好ましい。また、重量平均分子量の上限は、1200000以下であることがより好ましい。
【0060】
(第2の樹脂)
【0061】
第2の樹脂は、芳香環を有する樹脂(「芳香族系樹脂」と呼ぶことがある。)である。単環構造の芳香環としては、ベンゼン環が挙げられる。多環構造の芳香環としては、ナフタレン環、ビフェニル環、アントラセン環、フェナントレン環等が挙げられる。
【0062】
第2の樹脂は、水溶性であることが好ましい。第2の樹脂が水溶性樹脂である場合、芳香環と水溶性基とを有する水溶性樹脂であることがより好ましい。ここでいう水溶性樹脂には、上述したように、加水分解反応や、水性媒体中での塩基による処理を施すことによって、水に対して可溶化させた樹脂も含まれる。水溶性基としては、例えば、-SO (Aは、アルカリ金属カチオン、プロトン、又はNである。Rは、水素原子、アルキル基、又はヒドロキシアルキル基である。)、-COO(Aは、アルカリ金属カチオン、プロトン、又はNである。Rは、水素原子、アルキル基、又はヒドロキシアルキル基である。)、カルボン酸無水物基(-CO-O-CO-)、水酸基、エーテル結合(-O-)等が挙げられる。
【0063】
なお、上記のアルキル金属カチオンとしては、例えば、ナトリウムカチオン(Na)、カリウムカチオン(K)、ストロンチウムカチオン(Sr)等が挙げられる。上記のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(例えば、n-プロピル基、イソプロピル基)等が挙げられる。ヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。また、カルボン酸無水物基(-CO-O-CO-)は、加水分解、又は水中での塩基による処理により-COOを与える基である。
【0064】
第2の樹脂としては、例えば、スチレン系単位を含有する樹脂や、フェノール系単位を含有する樹脂等が挙げられる。スチレン系単位としては、例えば、スチレン、又はα位やベンゼン環上に置換基を有するスチレン誘導体に由来する構成単位等が挙げられる。フェノール系単位としては、例えば、フェノール性水酸基を含有する樹脂等が挙げられる。
【0065】
フェノール性水酸基を有する樹脂は、その構造次第で、水溶性である場合と、水に難溶である場合(非水溶性である場合)とがある。フェノール性水酸基を有する樹脂が、水に難溶である場合、当該樹脂を、塩基水性媒体中で処理し、フェノール性水酸基を塩に変換することにより、当該樹脂が水に可溶化させてもよい。
【0066】
第2の樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常、100以上300000以下であることが好ましい。この重量平均分子量の下限は、1000以上であることがより好ましく、10000以上であることが更に好ましい。また、この重量平均分子量の上限は、200000以下であることがより好ましく、150000以下であることが更に好ましい。
【0067】
第2の樹脂のより具体的な好適例について説明する。第2の樹脂は、下記式(2a-1)で表される繰り返し単位及び下記式(2a-2)で表される繰り返し単位を含む樹脂(2A)、下記式(2b-1)で表される繰り返し単位及び下記式(2b-2)で表される繰り返し単位を含む樹脂(2B)、並びに下記式(2c)で表される繰り返し単位を含む樹脂(2C)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの樹脂を、上述した金属塩及び第1の樹脂と併用することによって、少なくとも成膜性及びプラズマエッチング耐性を一層向上させることができる。
【0068】
【化12】
【0069】
(式中、Xは、アルカリ金属カチオン、プロトン、又はN であり、Rは、水素原子、アルキル基、又はヒドロキシアルキル基である。)
【0070】
【化13】
【0071】
(式中、M1+及びM2+は、それぞれ独立に、アルカリ金属カチオン、プロトン、又はN であり、Rは、水素原子、アルキル基、又はヒドロキシアルキル基である。)
【0072】
【化14】
【0073】
樹脂(2A)は、式(2a-1)で表される繰り返し単位及び式(2a-2)で表される繰り返し単位を含む樹脂(式(2a)参照)であればよく、その他の繰り返し単位も有していてもよい。保護膜の成膜性、プラズマエッチング耐性、水洗性、加工溝の形状の精密さ等の観点から、樹脂(2A)は、式(2a-1)で表される繰り返し単位及び式(2a-2)で表される繰り返し単位のみを有する樹脂(式(2a)参照)であることが好ましい。
【0074】
式(2a-2)中、Xは、アルカリ金属カチオン、プロトン、又はN であり、Rは、水素原子、アルキル基、又はヒドロキシアルキル基であればよい。アルキル金属カチオンとしては、例えば、ナトリウムカチオン(Na)、カリウムカチオン(K)、ストロンチウムカチオン(Sr)等が挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(例えば、n-プロピル基、イソプロピル基)等が挙げられる。ヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。
【0075】
上記の中でも、Xは、N であることが好ましく、Rは、水素原子であることがより好ましい。Xの具体例としては、例えば、Xは、NH であることが好ましい。
【0076】
樹脂(2A)の水溶性は、例えば、高い親水性を有する式(2a-2)で表される繰り返し単位の含有量を多くすることによって、向上させることができる。
【0077】
式(2a-1)で表される繰り返し単位及び式(2a-2)で表される繰り返し単位の比率は、特に限定されないが、上述した観点から、式(2a-2)で表される繰り返し単位に対する式(2a-1)で表される繰り返し単位のモル比率(式(2a-1)/(式(2a-2))は、水溶性の付与し易さの観点から、0.1以上9以下であることが好ましい。このモル比の下限は、0.25以上であることがより好ましい。また、このモル比の上限は、7以下であることがより好ましく、4以下であることが更に好ましい。
【0078】
樹脂(2A)の好適例としては、式(2a-2)のXがNH である樹脂が挙げられる。この樹脂は、例えば、ジヒドロキシジフェニルスルホン型の繰り返し単位(式(2a-1)参照)及びスルホン酸ナトリウムのフェノール型の繰り返し単位(式(2a-2)のXがNaである場合参照)を含有する共重合体を、塩酸処理で脱金属(脱メタル)した後、アンモニア水で希釈することによって得ることができる。
【0079】
樹脂(2A)の重量平均分子量は、特に限定されないが、5000以上300000以下であることが好ましい。重量平均分子量の下限は、10000以上であることがより好ましく、15000以上であることが更に好ましく、20000以上であることがより更に好ましい。また、重量平均分子量の上限は、200000以下であることがより好ましく、100000以下であることが更に好ましく、50000以下であることがより更に好ましく、25000以下であることが一層更に好ましい。
【0080】
樹脂(2B)は、式(2b-1)で表される繰り返し単位及び式(2b-2)で表される繰り返し単位を含む樹脂(式(2b)参照)であればよく、その他の繰り返し単位も有していてもよい。保護膜の成膜性、プラズマエッチング耐性、水洗性、加工溝の形状の精密さ等の観点から、樹脂(2B)は、式(2b-1)で表される繰り返し単位及び式(2b-2)で表される繰り返し単位のみを有する樹脂(式(2b)参照)であることが好ましい。
【0081】
式(2b-2)中、M1+及びM2+は、例えば、1価のカチオンであり、それぞれ独立に、アルカリ金属カチオン、プロトン、又はN であり、Rは、水素原子、アルキル基、又はヒドロキシアルキル基であればよい。アルキル金属カチオンとしては、例えば、ナトリウムカチオン(Na)、カリウムカチオン(K)、ストロンチウムカチオン(Sr)等が挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(例えば、n-プロピル基、イソプロピル基)等が挙げられる。ヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。
【0082】
上記の中でも、M1+及びM2+は、少なくとも1つが、N であることが好ましく、Rは、水素原子であることがより好ましい。また、M1+及びM2+は、同一であることが更に好ましい。M1+及びM2+の具体例としては、少なくとも1つが、NH であることが好ましく、M1+及びM2+のいずれもが、NH であることが好ましい。
【0083】
樹脂(2B)の水溶性は、例えば、高い親水性を有する式(2b-2)で表される繰り返し単位の含有量を多くすることによって、向上させることができる。
【0084】
式(2b-1)で表される繰り返し単位及び式(2b-2)で表される繰り返し単位の比率は、特に限定されないが、上述した観点から、式(2b-2)で表される繰り返し単位に対する式(2b-1)で表される繰り返し単位のモル比率(式(2b-1)/(式(2b-2))は、水溶性の付与し易さの観点から、1以上8以下であることが好ましい。このモル比の下限は、2以上であることがより好ましい。また、このモル比の上限は、6以下であることがより好ましく、5以下であることが更に好ましく、4以下であることがより更に好ましい。
【0085】
樹脂(2B)の好適例としては、上述したように、式(2b-2)のM1+及びM2+のいずれもが、NH である樹脂が挙げられる。この樹脂は、例えば、スチレン-無水マレイン酸共重合体を、アンモニア水で希釈することによって得ることができる。
【0086】
樹脂(2B)の重量平均分子量は、特に限定されないが、5000以上200000以下であることが好ましい。重量平均分子量の下限は、7000以上であることがより好ましく、8000以上であることが更に好ましい。また、重量平均分子量の上限は、100000以下であることがより好ましく、50000以下であることが更に好ましく、40000以下であることがより更に好ましく、30000以下であることが一層更に好ましい。
【0087】
樹脂(2C)は、式(2c)で表される繰り返し単位を含む樹脂であればよく、その他の繰り返し単位も含んでいてもよい。保護膜の成膜性、プラズマエッチング耐性、水洗性、加工溝の形状の精密さ等の観点から、樹脂(2C)は、式(2c)で表される繰り返し単位のみを有する樹脂であることが好ましい。樹脂(2C)の好適例としては、ポリスチレンスルホン酸が挙げられる。
【0088】
樹脂(2C)の重量平均分子量は、特に限定されないが、5000以上1200000以下であることが好ましい。重量平均分子量の下限は、10000以上であることがより好ましく、15000以上であることが更に好ましく、20000以上であることがより更に好ましい。また、重量平均分子量の上限は、500000以下であることがより好ましく、300000以下であることがより好ましく、100000以下であることが更に好ましく、50000以下であることがより更に好ましく、30000以下であることがより一層更に好ましい。
【0089】
なお、本実施形態に係る保護膜形成剤は、樹脂としては、水溶性樹脂のみを含有することが好ましい。その場合、本実施形態に係る保護膜形成剤は、上述した第1の樹脂及び第2の樹脂以外のその他の樹脂を更に含有してもよい。例えば、本実施形態に係る保護膜形成剤が、樹脂として、第1の樹脂のみを含有する場合は、第1の樹脂が水溶性樹脂であることが好ましい。本実施形態に係る保護膜形成剤が、樹脂として、第1の樹脂及び第2の樹脂のみを含有する場合は、第1の樹脂及び第2の樹脂が水溶性樹脂であることが好ましい。本実施形態に係る保護膜形成剤が、樹脂として、第1の樹脂、第2の樹脂、並びに、第1の樹脂及び第2の樹脂以外のその他の樹脂を含有する場合は、第1の樹脂、第2の樹脂、及びその他の樹脂が、いずれも、水溶性樹脂であることが好ましい。
【0090】
本実施形態に係る保護膜形成剤おいて、第1の樹脂及び第2の樹脂の含有率は、特に限定されないが、保護膜形成剤中の固形分100質量部に対する、第1の樹脂及び第2の樹脂の含有量の合計は、99.8質量部以下であることが好ましく、99.6質量部以下であることがより好ましい。また、保護膜形成剤中の固形分100質量部に対する、第1の樹脂及び第2の樹脂の含有量の合計は、80.0質量部以上であることが好ましく、90.0質量部以上であることがより好ましい。
【0091】
(添加剤等)
【0092】
本実施形態に係る保護膜形成剤は、必要に応じて、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、吸光剤、塩基性化合物、染料、色素、可塑剤、防腐剤、及び界面活性剤等が挙げられる。
【0093】
(吸光剤)
【0094】
吸光剤としては、一般的に保護膜形成剤に使用されている吸光剤を用いることができる。吸光剤としては、例えば、カルボキシ基及び/又はスルホ基等を有する有機酸類;これら有機酸類のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、及び第4級アンモニウム塩;ヒドロキシ基を有する化合物等が挙げられる。
【0095】
吸光剤の具体例としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、桂皮酸系化合物、アントラキノン系化合物、ナフタレン系化合物、ビフェニル系化合物、水溶性アミン類等が挙げられる。
【0096】
ベンゾフェノン系化合物の具体例としては、例えば、ベンゾフェノン、4,4’-ジカルボキシベンゾフェノン、ベンゾフェノン-4-カルボン酸、テトラヒドロキシベンゾフェノン、2-(4-ジエチルアミノ-2-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸(DHBA)、EAB-F(4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン)等が挙げられる。
【0097】
桂皮酸系化合物の具体例としては、例えば、桂皮酸、4-アミノ桂皮酸、3-アミノ桂皮酸、2-アミノ桂皮酸、シナピン酸(3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシ桂皮酸)、フェルラ酸、カフェイン酸等が挙げられる。これらの中でも、4-アミノ桂皮酸、3-アミノ桂皮酸、2-アミノ桂皮酸、及びフェルラ酸が好ましく、4-アミノ桂皮酸、フェルラ酸がより好ましく、4-アミノ桂皮酸が更に好ましい。
【0098】
アントラキノン系化合物の具体例としては、例えば、アントラキノン、2-カルボキシアントラキノン、2,6-アントラキノンジスルホン酸、2,7-アントラキノンジスルホン酸等が挙げられる。
【0099】
ナフタレン系化合物の具体例としては、例えば、ナフタレン、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0100】
ビフェニル系化合物の具体例としては、例えば、ビフェニル、ビフェニル-4-スルホン酸等が挙げられる。
【0101】
水溶性アミン類の具体例としては、例えば、クルクミン等が挙げられる。
【0102】
上記の中でも、ベンゾフェノン系化合物、桂皮酸系化合物等が好ましく、テトラヒドロキシベンゾフェノン、2-(4-ジエチルアミノ-2-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸(DHBA)、4-アミノ桂皮酸等がより好ましい。
【0103】
本実施形態に係る保護膜形成剤おける吸光剤の含有率は、本実施形態の目的を阻害しない範囲であれば特に限定されないが、保護膜形成剤中の固形分100質量部に対する、吸光剤の含有量は、1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。保護膜形成剤中の固形分100質量部に対する、吸光剤の含有量の下限は、1.5質量部以上であることがより好ましい。また、保護膜形成剤中の固形分100質量部に対する、吸光剤の含有量の上限は、7質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることが更に好ましく、3質量部以下であることがより更に好ましい。
【0104】
(塩基性化合物)
【0105】
本実施形態に係る保護膜形成剤は、固形分をより溶解させやすくする目的で塩基性化合物を含んでいてもよい。塩基性化合物としては、無機化合物、及び有機化合物のいずれも用いることができる。塩基性化合物としては、有機化合物が好ましい。
【0106】
塩基性化合物の具体例としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア等の塩基性無機化合物;エチルアミン、n-プロピルアミン、モノエタノールアミン(MEA)、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、ピロール、ピペリジン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]-5-ノナン等の塩基性有機化合物;等が挙げられる。これらの中でも、塩基性有機化合物が好ましく、モノエタノールアミン(MEA)、アンモニア、等がより好ましい。
【0107】
本実施形態に係る保護膜形成剤おける塩基性化合物の含有率は、本実施形態の目的を阻害しない範囲であれば特に限定されないが、保護膜形成剤中の固形分100質量部に対する、塩基性化合物の含有量は、0.1質量部以上3.0質量部以下であることが好ましい。保護膜形成剤中の固形分100質量部に対する、塩基性化合物の含有量の上限は、1.5質量部以下であることがより好ましく、1.0質量部以下であることが更に好ましい。また、保護膜形成剤中の固形分100質量部に対する、塩基性化合物の含有量の下限は、0.3質量部以上であることがより好ましい。
【0108】
また、吸光剤に対する塩基性化合物のモル比(塩基性化合物/吸光剤)は、1以上であることが好ましく、1以上20以下であることがより好ましい。吸光剤に対する塩基性化合物のモル比の下限は、1.5以上であってよく、2以上であってよく、3以上であってもよい。吸光剤に対する塩基性化合物のモル比の上限は、15以下であってよく、10以下であってよく、5以下であってもよい。
【0109】
(染料)
【0110】
染料としては、水溶性染料であることが好ましい。水溶性染料の具体例としては、例えば、アゾ染料(モノアゾ及びポリアゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、スチルベンアゾ染料、チアゾールアゾ染料)、アントラキノン染料(アントラキノン誘導体、アントロン誘導体)、インジゴイド染料(インジゴイド誘導体、チオインジゴイド誘導体)、フタロシアニン染料、カルボニウム染料(ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料)、キノンイミン染料(アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料)、メチン染料(シアニン染料、アゾメチン染料)、キノリン染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ペリノン染料、その他の染料等が挙げられる。
【0111】
(色素)
【0112】
色素としては、水溶性色素であることが好ましい。水溶性色素の具体例としては、例えば、食用赤色2号、食用赤色40号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色NY、食用黄色4号タートラジン、食用黄色5号、食用黄色5号サンセットエローFCF、食用オレンジ色AM、食用朱色No.1、食用朱色No.4、食用朱色No.101、食用青色1号、食用青色2号、食用緑色3号、食用メロン色B、食用タマゴ色No.3等の食品添加用色素が挙げられる。食品添加用色素は、環境負荷が低い観点等から好適である。
【0113】
(可塑剤)
【0114】
可塑剤を用いることで、保護膜のクラックの発生をより効果的に抑制でき、かつ、保護膜の柔軟性、弾性、レーザー加工性等をより効果的に向上させることができる。可塑剤の具体例としては、例えば、単糖類、二糖類等が挙げられる。
【0115】
単糖類の具体例としては、例えば、アルドース(ホルミル基を有する単糖)、ケトース(カルボニル基を有する単糖)、これらの誘導体が挙げられる。誘導体としては、アルドン酸(アルドースの1位のホルミル基がカルボキシ基に変換されたカルボン酸)、ウロン酸(単糖の主鎖の末端のヒドロキシメチル基がカルボキシ基に変換されたカルボン酸)、アルダル酸(アルドースの1位のホルミル基と、主鎖の末端のヒドロキシメチル基がともにカルボキシル基に変わったジカルボン酸)等が挙げられる。
【0116】
アルドースの具体例としては、例えば、D-グリセルアルデヒド、D-エリトロース、D-トレオース、D-リボース、D-アラビノース、D-キシロース、D-リキソース、D-グルコース、D-ガラクトース、D-アロース、D-アルトロース、D-マンノース、D-グロース、D-イドース、D-タロース等が挙げられる。
【0117】
ケトースの具体例としては、例えば、ジヒドロキシアセトン、D-エリトルロース、D-キシルロース、D-リブロース、D-フルクトース、D-プシコース、D-ソルボース、D-タガトース、D-セドヘプツロース等が挙げられる。
【0118】
誘導体の具体例としては、グルコン酸、グルクロン酸、グルカル酸、イノシトール等が挙げられる。
【0119】
二糖類としては、単糖類として説明した上記の単糖からなる二糖が挙げられる。二糖類の具体例としては、例えば、マルトース、スクロース、ラクトース、ラクツロース、トレハロース、セロビオースが挙げられる。
【0120】
上記の中でも、D-リボース、D-キシロース、D-グルコース、D-ガラクトース、D-フルクトース、イノシトール、マルトースが好ましく、D-リボース、D-グルコース、D-ガラクトース、D-フルクトース、イノシトール、マルトースがより好ましい。
【0121】
(防腐剤)
【0122】
本実施形態に係る保護膜形成剤の防腐効果をより向上させ、かつ、半導体ウエハー洗浄後の廃液の処理負荷をより軽減させる観点から、防腐剤を使用することが好ましい。防腐剤としては、例えば、安息香酸、ブチルパラベン、エチルパラベン、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、フェノール、フェニルエチルアルコール、2-フェノキシエタノール、硝酸フェニル第二水銀、チメロサール、メタクレゾール、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0123】
(界面活性剤)
【0124】
界面活性剤は、例えば、保護膜形成剤製造時の消泡性、保護膜形成剤の安定性、及び保護膜形成剤の塗布性等を高めるために使用される。保護膜形成剤の製造時の消泡性の観点から、界面活性剤を使用することが好ましい。
【0125】
保護膜は、例えば、保護膜形成剤をスピンコートすることによって成膜される。しかし、保護膜を形成する際に気泡に起因する凹凸が発生する場合がある。このような凹凸の発生を抑制するために、界面活性剤等の消泡剤を使用することが好ましい。
【0126】
界面活性剤としては、水溶性の界面活性剤が好ましく使用できる。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及び両性界面活性剤のいずれも使用することができる。界面活性剤は、シリコーン系であってもよい。洗浄性の点からノニオン系界面活性剤が好ましい。
【0127】
(溶剤)
本実施形態に係る保護膜形成剤は、上述した固形成分を溶解させるために、溶剤を含有する。溶剤としては、水(例えば、純水、超純水(DIW)、イオン水、蒸留水、精製水等)、有機溶剤、又はその両方を用いることができる。使用時の引火等の危険が少ないことや、コストの点等で、溶剤は水を含むことが好ましい。具体的には、溶剤は、水、及び有機溶剤の水溶液が好ましく、水と有機溶媒の併用がより好ましい。
【0128】
有機溶剤の具体例としては、特に限定されないが、メチルアルコール、エチルアルコール、アルキレングリコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0129】
アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0130】
有機溶剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0131】
本実施形態に係る保護膜形成剤は、水と有機溶剤を併用してもよい。水と有機溶剤の組み合わせとしては、例えば、水とアルキレングリコールモノアルキルエーテルの混合溶剤が好ましく、水とプロピレングリコールモノメチルエーテルの混合溶剤がより好ましい。
【0132】
水と有機溶剤を併用する混合溶剤を用いる場合、混合溶剤中の有機溶剤の含有率(水及び有機溶剤の合計に対する有機溶剤の含有率;(有機溶剤/(水+有機溶剤)))は、特に限定されないが、引火性の観点から、混合溶剤中の有機溶剤の含有率の上限は、50質量%未満であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましく、15質量%以下であることがより更に好ましい。
【0133】
また、引火性の観点からは、混合溶剤中の有機溶剤の含有率を低減することが望まれるが、本実施形態によれば、樹脂として水溶性樹脂のみを使用する場合には、有機溶剤の含有率を十分に低減することができる。そのような観点から、本実施形態が達成し得る好適な態様としては、混合溶剤中の有機溶剤の含有率の下限を、好ましくは5質量%まで低減でき(5質量%以上)、より好ましくは3質量%まで低減でき(3質量%以上)、更に好ましくは0質量%まで低減することができる(0質量%以上)。
【0134】
本実施形態において樹脂として水溶性樹脂のみを使用する場合、有機溶剤の含有率を上記範囲まで低減しても、保護膜形成剤中の固形分を効果的に溶解させることができるので、好ましい。
【0135】
溶剤は、保護膜形成剤が1気圧下において引火点を持たないように選択されるのが好ましい。具体的には、保護膜形成剤における水の含有量を調整することにより、保護膜の引火点や、引火点の有無が調整される。
【0136】
引火点をもたない保護膜形成剤は一層高い安全性を確保できる。例えば、保護膜形成剤を非防爆環境下に置くことができる。具体的には、保護膜形成剤の保管、輸送、使用等の取扱いを非防爆環境下に行うことができる。例えば、保護膜形成剤の半導体工場への導入のみならず、保護膜の形成を非防爆環境下に行うことができる。したがって、通常高価な防爆設備等の防爆環境が不要である点で、引火点をもたない保護膜形成剤は、産業上非常に有利である。
【0137】
引火点は、1気圧下において、液温80℃以下ではタグ密閉式で測定し、液温80℃超ではクリーブランド開放式で測定することにより得られる。本明細書では、クリーブランド開放式で測定しても、引火点が測定できなかった場合を、引火点なしとする。
【0138】
<保護膜の製造方法、保護膜>
【0139】
本実施形態によれば、上述した保護膜形成剤を、保護対象である基板等の上に塗布することによって、保護膜を得ることができる。具体的には、本実施形態に係る保護膜の製造方法は、基板上に上述した保護膜形成剤を塗布して、保護膜を形成する工程を含むことが好ましい。塗布の方法は、特に限定されないが、保護対象の形状や材質等に応じて、スピンコート、スプレーコート、ダイコート、ロールコート、フローコート、カーテンコート等を採用することができる。さらに、塗布後に、自然乾燥や熱風乾燥等の乾燥工程や、紫外線照射等の光照射工程等の後処理を行ってもよい。
【0140】
通常、半導体ウエハーの保護膜を作製する場合、スピンコート等が採用される。スピンコートは、例えば、(i)スピンコーターのステージ上に固定された塗布対象物(半導体ウエハー等)に保護膜形成剤を塗布する工程(吐出工程)、(ii)ステージを回転させることによって、余分な保護膜形成剤を遠心力で除去して、薄い膜を成膜する工程(回転処理工程)、(iii)スピンコーターからワークを取り外して、自然乾燥、熱風乾燥等によって、薄膜を作製する工程(乾燥工程)を行う。スピンコートは、膜厚偏差が少ない成膜が可能であるという利点や、真空でなくても実施可能であるので成膜コストや成膜速度に優れるという利点等を有するため、半導体ウエハーの保護膜、さらにはプラズマダイシング用保護膜として好適である。
【0141】
本実施形態によって得られる保護膜は、金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属塩と、芳香環を有しない第1の樹脂とを含有する、保護膜である。さらに、保護膜は、芳香環を有する第2の樹脂を更に含有することが好ましい。金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属の塩(金属塩)、第1の樹脂、及び第2の樹脂等は、上述したものを採用することができる。
【0142】
そして、本実施形態に係る保護膜における、金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属塩の含有率は、特に限定されないが、優れた成膜性を有しつつ、選択比を一層高くすることができるといった観点から、保護膜における金属塩の含有比率(金属/保護膜)が、0.15質量%以上であることが好ましい。この含有比率の下限は、1.0質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが更に好ましい。この含有比率の上限は、3.5質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましく、2.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0143】
金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属は、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Ag、Cd、In、Cs、Ba、La、及びCeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。この金属については、上述した物性、特性を有するものを適宜採用することができる。
【0144】
本実施形態によれば、薄い膜厚から厚い膜厚まで、幅広い膜厚にわたって、成膜性とエッチング耐性に優れる保護膜を成膜することが期待できる。その好適な態様としては、保護膜の膜厚が、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。膜厚の下限は、1μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることが更に好ましい。また、膜厚の上限は、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更に好ましく、20μm以下であることがより更に好ましく、10μm以下であることが一層更に好ましい。これに関して、例えば、スピンコートによって保護膜を成膜した場合、上記範囲の膜厚について、成膜性とエッチング耐性に優れる成膜をより効果的に行うことが可能である。
【0145】
<半導体チップの製造方法>
【0146】
本実施形態に係る保護膜形成剤を用いることによって、プラズマダイシングによる半導体ウエハーを好適に製造することができる。典型的には、上記の半導体チップの製造方法は、半導体ウエハーにおける加工溝の位置(ストリートの位置に対応する位置)を切断することを含む。本実施形態に係る半導体チップの製造方法の好適例は、プラズマダイシングにより半導体ウエハーを切断する半導体チップの製造方法であり、
(1)半導体ウエハー上に上述した保護膜形成剤を塗布して、保護膜を形成する工程と、
(2)半導体ウエハー上における保護膜を含む1以上の層の所定の位置にレーザー光を照射し、半導体ウエハーの表面を露出させ、かつ、半導体チップの形状に応じたパターンの加工溝を形成する工程と、
(3)加工溝が形成された半導体ウエハーに、プラズマを照射して、半導体ウエハーの加工溝の位置を切断して、半導体チップを得る工程と、
を含む、半導体チップの製造方法が挙げられる。
【0147】
以下、保護膜を形成する工程(工程(1)参照)について、「保護膜形成工程」とも記載する。加工溝を形成する工程(工程(2)参照)について、「加工溝形成工程」とも記載する。半導体ウエハーにおける加工溝の位置を切断する工程(工程(3)参照)について、「切断工程」とも記載する。
【0148】
(保護膜形成工程)
【0149】
保護膜形成工程では、半導体ウエハー上に、上述の保護膜形成剤を塗布して、保護膜が形成される。保護膜形成剤の塗布は、スピンコートによって塗布することが好ましい。
【0150】
半導体ウエハーの加工面の形状は、半導体ウエハーに対して所望する加工を施すことができる限りにおいて特に限定されない。典型的には、半導体ウエハーの加工面は、多数の凹凸を有している。そして、ストリートに相当する領域に凹部が形成されている。半導体ウエハーの加工面では、半導体チップに相当する複数の領域が、ストリートによって区画される。
【0151】
加工後の水洗による保護膜の除去が容易であることや、後述する切断工程においてプラズマ照射を行う場合のプラズマ照射に対する保護膜の耐久性(例えば、プラズマエッチング耐性等)を一層向上させること等から、保護膜の膜厚は、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。膜厚の下限は、1μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることが更に好ましい。また、膜厚の上限は、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更に好ましく、20μm以下であることがより更に好ましく、10μm以下であることが一層更に好ましい。
【0152】
以下に、格子状のストリートで区画された複数の半導体チップを備える半導体ウエハーに対して、保護膜形成剤を用いてダイシング加工を行う半導体チップの製造方法について、半導体チップの製造方法の好ましい一態様として説明する。なお、半導体チップの形状及びサイズは特に限定されず、半導体チップの設計に応じて、適宜設定することができる。
【0153】
半導体ウエハーでは、シリコン等の半導体基板(シリコン基板等)の表面上に、絶縁膜と回路とを形成する機能膜が積層された積層体が設けられている。この積層体には、IC、LSI等の半導体チップがマトリックス状に複数形成されている。各半導体チップは、格子状に形成されたストリートによって区画されている。そして、絶縁膜としては、例えば、SiO膜、又はSiOF、BSG(SiOB)等の無機物系の膜や、ポリイミド系、パリレン系等のポリマー膜である有機物系の膜、からなる低誘電率絶縁体被膜(Low-k膜)等を採用できる。
【0154】
そして、半導体基板上の積層体の表面上に、保護膜形成剤を塗布して、保護膜を形成させる。保護膜形成工程では、例えば、スピンコーターによって半導体ウエハーの表面に保護膜形成剤を塗布する。なお、保護膜形成剤の塗布方法は、所望する膜厚の保護膜を形成できる限り特に限定されず、上述した種々の塗布方法を採用できる。
【0155】
続いて、必要に応じて、表面を被覆する液状の保護膜形成剤を乾燥させる。これによって、半導体ウエハー上の表面に保護膜が形成される。上述したように、本実施形態に係る保護膜は、クラックの発生が抑制され、クラックが無い又はクラックの少ない保護膜であり、優れたプラズマエッチング耐性を有する。さらには、ベタツキも抑制された保護膜を形成することができる。
【0156】
このようにして半導体ウエハーの表面に保護膜が形成された後、必要に応じて、半導体ウエハーの裏面に保護テープを貼着してもよい。
【0157】
(加工溝形成工程)
【0158】
加工溝形成工程では、半導体ウエハー上における保護膜を含む1以上の層の所定の位置にレーザー光を照射し、半導体基板の表面が露出させ、かつ、半導体チップの形状に応じたパターンの加工溝が形成させる。本実施形態に係る保護膜形成剤及び保護膜によれば、成膜性やプラズマエッチング耐性に優れるだけでなく、加工溝の直進性(加工溝を構成する保護膜の側壁の直進性)や、加工溝の断面の矩形性(加工溝を構成する保護膜の断面の矩形性)も向上することが期待される。加工性に優れると、プラズマエッチングによって切断する際に、所望の位置からずれることなく正確に切断することができるので、より高い位置精度で切断することも可能となる。
【0159】
具体的には、半導体ウエハー上の表面(ストリート)に、保護膜を通してレーザー光が照射される。レーザーは強度の観点から、波長100nm以上400nm以下である紫外線レーザーが好ましい。また、波長266nm、355nm等のYVO4レーザー、YAGレーザーが好ましい。
【0160】
加工溝形成工程における上記レーザー光照射は、例えば、以下の加工条件で行うことができる。なお、集光スポット径は加工溝の幅を勘案して、適宜選択できる。
レーザー光の光源 :YVO4レーザー又はYAGレーザー
波長 :355nm
繰り返し周波数:50kHz以上100kHz以下
出力 :0.1W以上4.0W以下
加工送り速度 :1mm/秒以上800mm/秒以下
【0161】
上述した加工溝形成工程を実施することにより、半導体ウエハーにおけるストリートを備える積層体において、ストリートに沿って加工溝が形成される。上述したように、本実施形態に係る保護膜は、クラックの発生を抑制できており、かつ、優れた耐久性(例えば、プラズマエッチング耐性等)を有している。これにより、保護膜にレーザー光を照射することにより、直進性及び断面矩形性に優れた溝(加工溝)を、保護膜中に形成することができる。
【0162】
上述したように所定のストリートに沿ってレーザー光の照射を実行したら、チャックテーブルに保持されている半導体ウエハーをストリートの間隔だけ割り出し移動し、再びレーザー光の照射を遂行する。
【0163】
このようにして、所定方向に延在する全てのストリートについてレーザー光の照射と割り出し移動とを遂行した後、チャックテーブルに保持されている半導体ウエハーを90度回動させて、上記所定方向に対して直角に延びる各ストリートに沿って、上記と同様にレーザー光の照射と割り出し移動とを実行する。このようにして、半導体ウエハー上の積層体に形成されている全てのストリートに沿って、加工溝を形成することができる。
【0164】
(切断工程)
【0165】
切断工程では、加工溝が形成された半導体ウエハーに、プラズマを照射して、半導体ウエハーの加工溝の位置を切断して、半導体チップを得る。具体的には、ストリートの位置に対応する位置に加工溝を備える半導体ウエハーを、プラズマエッチングによって切断する。本実施形態に係る保護膜は、プラズマエッチング用保護膜として好適であるため、プラズマエッチングによる切断方法を行う半導体ウエハーの製造方法において、その利点を発揮することができる。
【0166】
プラズマを照射する際、加工溝の表面にプラズマが暴露されるように、半導体ウエハーの保護膜を備える面の一部又は全面にプラズマが照射される。以下、プラズマ照射による切断方法の一例について説明する。
【0167】
まず、保護膜と加工溝とを備える半導体ウエハーにプラズマを照射する。そうすることにより、半導体ウエハーにおける加工溝の位置が切断される。具体的には、保護膜で被覆された半導体ウエハーにおいて、上述したように加工溝を形成した後、保護膜と、加工溝から露出する半導体基板の表面とに対して、プラズマ照射を行う。これによって、半導体ウエハーが、半導体チップの形状に従って切断され、半導体ウエハーが個々の半導体チップに分割される。
【0168】
プラズマ照射条件については、加工溝の位置における半導体ウエハーの切断を良好に行うことができれば特に限定されない。プラズマ照射条件は、半導体ウエハーの材質やプラズマ種等を勘案して、半導体基板に対するプラズマエッチングとして適した条件を選択することができる。
【0169】
プラズマ照射においてプラズマ生成に用いられるガス(エッチングガス)は、半導体ウエハーの材質等に応じて適宜選択できるが、例えば、SFガス等を使用できる。また、Boschプロセスを採用して、CガスやCガス等のフッ素系ガスの供給による側壁保護と、プラズマ照射による半導体ウエハーのエッチングとを交互に行うことによって、半導体ウエハーの切断を行うことが好ましい。Boschプロセスは、高アスペクト比でのエッチングが可能であり、半導体ウエハーが厚い場合でも、半導体ウエハーの切断が容易であるという利点がある。
【0170】
さらに、Boschプロセスでは、真空下又は減圧下で、上述したフッ素系ガスをエッチングガスとして使用するため、系内でフッ素ラジカルが発生する。しかし、本実施形態に係る保護膜は、金属フッ化物である場合の沸点が900℃以上である金属を含有するため、フッ素ラジカルが系内で揮発することを効果的に抑制できる。その結果、揮発したフッ素ラジカルが、ウエハーを不必要に汚染したり、エッチングしたり、傷つけたりするといった不具合を、効果的に抑制できるという利点も有する。
【0171】
そして、本実施形態に係る保護膜は、少なくとも、優れたプラズマエッチング耐性を有する。かかる保護膜を用いることで、直進性及び断面矩形性に優れる加工溝にできることも期待される。その結果、プラズマ照射によって、所望の位置を正確に切断でき、かつ、直進性に優れた半導体チップを得ることもできるであろう。
【0172】
また、本実施形態に係る保護膜は、少なくとも、クラックの発生が抑制されており、優れた成膜性を有する。このため、切断する位置以外を十分に保護することができ、望まない位置(加工溝以外の位置)のプラズマ照射等による切断を効果的に防止できる。そして、プラズマ照射で使用するフッ素系ガス等のガスによる半導体基板の汚染や損傷等も効果的に抑制できる。
【0173】
続いて、半導体チップの表面を被覆する保護膜を除去する。上述したように保護膜が水溶性樹脂を含有する場合、保護膜を水によって効率よく洗い流すことができる。
【0174】
以上、半導体ウエハーを加工することによる半導体チップの製造方法の一例を説明した。本実施形態に係る半導体チップの製造方法は、半導体ウエハー表面に保護膜を形成し、半導体ウエハーの保護膜を備える面においてストリートに相当する位置に加工溝を形成することを含み、プラズマ照射によってこれを切断する方法であれば、種々の半導体チップの製造方法に対して適用することができる。
【0175】
そして、近年、ウエハー1枚あたりのチップ取り出し個数(チップ数)を増やすために、狭ストリート化が進んでいる。さらに、モバイルデバイスやIoT向けに需要がある小チップデバイスについては、品質及び生産性の更なる向上が望まれている。このような、高品質及び高生産性が要求されるデバイスの半導体製造プロセスにおいて、本実施形態に係る製造方法は、プラズマダイシングが有する上記の問題を解決できるものとして、特に好適であろう。
【実施例0176】
以下の実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下において特に断りがない限り、数量は質量基準であり、実験は25℃、大気圧の条件下で行った。
【0177】
<使用した成分>
【0178】
本実施例において使用した樹脂、金属塩、及び添加剤等について説明する。
【0179】
(1)第1の水溶性樹脂(非芳香族系樹脂)
・樹脂(1Aa):
ヒドロキシプロピルセルロース(下記式(1Aa)で表される繰り返し単位を有する樹脂、重量平均分子量25000、日本曹達社製、商品名「HPC-SSL」、HPC-SSL)
【0180】
【化15】
【0181】
(式中、式中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、-H又は-CHCH(OH)CHで表される置換基あり、かつ、樹脂に含まれる全てのR、R、及びRのうち、少なくとも1つは、-CHCH(OH)CHである。)
【0182】
・樹脂(1Bb):
ポリビニルアルコール(式(1b):下記式(1b-1)で表される繰り返し単位及び式(1b-2)で表される繰り返し単位を有する樹脂、推定重合度500、クラレ社製、商品名「クラレポバール PVA-505C」、PVA-505C)
【化16】
【0183】
・樹脂(1Cc):
ポリ-N-ビニルアセトアミド(下記式(1c)で表される繰り返し単位を有する樹脂、重量平均分子量300000、昭和電工社製、商品名「PNVA GE191-104」、PNVA 104)
【0184】
【化17】
【0185】
・樹脂(1Dd):
ポリビニルピロリドン(下記式(1d)で表される繰り返し単位を有する樹脂、重量平均分子量1200000、第一工業製薬社製、商品名「ピッツコール K-90」、PVP K-90)
【0186】
【化18】
【0187】
(2)第2の水溶性樹脂(芳香族系樹脂)
・樹脂(2Aa):
式(2a-1)で表される繰り返し単位及び式(2a-2)で表される繰り返し単位を有する樹脂(式(2Aa)参照、重量平均分子量22000)を準備して、これを用いた。
【0188】
【化19】
【0189】
樹脂(2Aa)は、原料である樹脂(2Aaa)(下記式(2Aaa)参照、式(2aa-1)で表される繰り返し単位と式(2aa-2)で表される繰り返し単位を、4:1のモル比で有する樹脂(2Aaa)、すなわち式(2aa-2)で表される繰り返し単位に対する式(2aa-1)で表される繰り返し単位のモル比率(式(2a-1)/(式(2a-2))が4、重量平均分子量22000、小西化学工業社製の商品名「WSR-SP82」)を、塩酸処理した後、アンモニア水溶液で希釈処理したことによって得た(WSR-SP82(NH))。
【0190】
【化20】
【0191】
・樹脂(2Bb):
式(2b-1)で表される繰り返し単位及び式(2b-2)で表される繰り返し単位を有する樹脂(式(2Bb)参照、重量平均分子量10000)を準備して、これを用いた。
【0192】
【化21】
【0193】
樹脂(2Bb)は、原料であるスチレン-無水マレイン酸共重合体(下記式(2Bbb)参照、式(2bb-1)で表される繰り返し単位と式(2bb-2)で表される繰り返し単位を、3:1のモル比で有する樹脂(2Bbb)、すなわち式(2bb-2)で表される繰り返し単位に対する式(2bb-1)で表される繰り返し単位のモル比が3、重量平均分子量10000、POLYSCOPE社製の商品名「XIRAN 3000P」)を、樹脂固形分濃度14質量%となるように、超純水(DIW)及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)の混合溶媒(DIW/PGME=85/15の質量比率)中で、アンモニア水溶液(アンモニア濃度5質量%)で希釈処理して、無水マレイン酸を開環させたことによって得た(XIRAN-3000P(NH))。
【0194】
【化22】
【0195】
・樹脂(2Cc):
ポリスチレンスルホン酸(下記式(2c)で表される繰り返し単位を有する樹脂、重量平均分子量22000、東ソーファインケム社製、商品名「PS-1H」、PS-1H)
【0196】
【化23】
【0197】
なお、上述した第1の水溶性樹脂及び第2の水溶性樹脂は、いずれも、25℃の水100gに対して当該樹脂が0.5g以上溶解するものであった。
【0198】
(3)金属塩
・硫酸ナトリウム
・硝酸ナトリウム
・硝酸カルシウム・四水和物
・硝酸ジルコニウム・二水和物
・硝酸アルミニウム・九水和物
なお、各表に記載されている金属塩水和物の質量部数は、水和物の水を除く金属塩のみの質量部数である。
【0199】
(4)添加剤
・吸光剤:2-(4-ジエチルアミノ-2-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸(DHBA)
・塩基性化合物:モノエタノールアミン(MEA)
【0200】
<実施例1>
【0201】
まず、超純水(DIW:De-ionized water)とプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)の混合溶剤(DIW/PGME=85/15の質量比率、混合溶剤中の有機溶剤の含有率15質量%)に、表2に記載の成分(第1の樹脂(セルロースに酸化プロピレンを反応させて得られるセルロース誘導体、日本曹田社製、商品名「NISSO HPC-SSL」)99.54質量部及び硫酸ナトリウム0.46質量部)を加えて、表2に記載の固形分濃度(目的固形分濃度、溶剤質量比率=DIW/PGME=85/15)となるように希釈した。そして、系内が均一系になるまで撹拌して、保護膜形成剤を得た。この保護膜形成剤は、固形分として第1の樹脂(非芳香族系樹脂)99.54質量部及び金属塩0.46質量部を含有する、固形分濃度が20質量%である保護膜形成剤である。
【0202】
次に、スピンコーターを用いて、シリコン基板の表面に保護膜形成剤を塗布した後、室温で15分間、自然乾燥させて、膜厚5μmの保護膜を形成させた。
【0203】
続いて、Si基板の保護膜側の面に対して、直線状にプラズマ照射を行い、分割溝を形成するためのエッチングを行った。なお、プラズマ照射は、Boschプロセスにより、以下のレーザー照射条件で行った。

・Boschプロセス:
フッ素ガス(Cガス)の供給による側壁保護工程(フッ素ガスをプラズマ化してCF系保護膜をシリコン基板に堆積させる工程)と、エッチング工程(イオンアシスト効果により底面の膜を除去するとともに、SFプラズマ照射によって露出したシリコン基板のSiと、プラズマ化して発生したF原子とを反応させて、四フッ化ケイ素(SiF)として除去するエッチング工程)とを、交互に繰り返し行った。

・レーザー照射条件:
波長:355nm
周波数:100kHz
出力:0.1W
デフォーカス:-0.1mm
送り速度:100mm/s
Pass:2
【0204】
(固形分濃度の測定)
まず、アルミケースを精秤した(風袋A(g))。次に、保護膜形成剤1gを精秤して、これをアルミケース内に入れた(計量値:B(g))。これを、140℃で120分間の条件で乾燥させた。乾燥後、室温まで冷却した後に精秤した(計量値:C(g))。そして、下記の式に基づき固形分濃度を計算した。なお、精秤する際に使用する電子天秤は、0.0001g単位まで秤量できるものを使用した。

固形分濃度(質量%)=(C-A)/(B-A)×100
A:風袋の質量(g)
B:試料と風袋の合計質量(g)
C:乾燥後の試料と風袋の合計質量(g)
【0205】
(金属含有量の測定)
誘導結合プラズマ発光分光分析法により、保護膜形成剤中の金属含有量を定量した。なお、測定は検量線法により行い、濃度4水準以上で検量線を作成し、その検量線が0.99以上の相関係数において測定を行った。検量線法に用いた金属試薬としては、SPEX社製の多元素混合標準液「XSTC-622」(金属元素濃度10mg/L)1質量部と、ジメチルアセトアミド(DMAC)99質量部との混合溶液(金属元素濃度100質量ppb)を用いた。
【0206】
(成膜性(保護膜のクラック)の評価)
上述した条件によって、保護膜形成剤をスピンコート法によってシリコン基板上に塗布して、膜厚が5μmである保護膜を得た。得られた保護膜を、SEM(走査電子顕微鏡)の測定環境(6.0Pa)まで減圧乾燥した。そして、減圧乾燥後の塗布膜を、10倍の光学顕微鏡で観察して、以下の基準に基づき、成膜性(保護膜のクラックの有無)を評価した。なお、クラックが発生していた場合(「×」の場合)は、選択比の測定は行わなかった(各表中の「-」)。

・「〇」:クラックの発生が確認されなかった。
・「×」:クラックの発生が確認された。

なお、実施例1~17については、保護膜の表面を指で触れて、べたつき(タック)の有無を確認したところ、いずれの実施例もべたつきがないことが確認された。
【0207】
(選択比の測定)
下記式に基づき選択比を計算によって求めた。

選択比=シリコン基板の膜減り量/保護膜の膜減り量
・シリコン基板の膜減り量=照射前のシリコン基板の膜厚-照射後のシリコン基板の膜厚
・保護膜の膜減り量=照射前の保護膜の膜厚-照射後の保護膜の膜厚
【0208】
<実施例2~11>
【0209】
保護膜形成剤の成分を表2に記載の成分に変更した点以外は、実施例1に準拠して保護膜形成剤を調製した。なお、実施例7の保護膜形成剤は、固形分として、第1の樹脂91.26質量部及び金属塩5.54質量部に加えて、2-(4-ジエチルアミノ-2-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸(DHBA)2.5質量部とモノエタノールアミン(MEA)0.7質量部も含有する、固形分濃度が20質量%である保護膜形成剤である。また、実施例7の保護膜形成剤は、MEA/DHBAのモル比は、1.1(=(0.7÷61.08)/(2.5÷246.22)であった。
【0210】
<実施例12~17>
【0211】
保護膜形成剤の成分を表3に記載の成分に変更した点以外は、実施例1に準拠して保護膜形成剤を調製した。例えば、実施例12の保護膜形成剤は、固形分として、第1の樹脂(非芳香族系樹脂)85.01質量部、第2の樹脂(芳香族系樹脂)9.45質量部、及び金属塩5.54質量部を含有する、固形分濃度が18質量%である保護膜形成剤である。
【0212】
なお、実施例1~17については、以下の基準に基づき直進性も評価した。その結果、すべての実施例が、少なくとも「〇」以上(「〇」又は「◎」)であることが確認された。

・「◎」:保護膜の断面(加工溝の側壁)が平坦であり、ガタツキの無い真っすぐな溝(トレンチ)が形成された。
・「〇」:保護膜の断面は比較的平坦であり、ガタツキがややあるが比較的真っすぐな溝(トレンチ)が形成された。
・「△」:保護膜の断面は平坦ではなく、ガタツキが大きい溝(トレンチ)が形成された。
・「×」:加工不良(レーザーの熱よりパターンが軟らかくなって形状が保てなくなり、加工溝を形成できなかった。)
【0213】
<比較例1~12>
【0214】
保護膜形成剤の成分を表4に記載の成分に変更した点以外は、実施例1に準拠して保護膜形成剤を調製した。例えば、比較例1の保護膜形成剤は、固形分として、第1の樹脂(非芳香族系樹脂)100質量部のみを含有する、固形分濃度が18質量%である保護膜形成剤である。
【0215】
実施例1~11の配合及び評価結果を表2に示し、実施例12~17の配合及び評価結果を表3に示し、比較例1~12の配合及び評価結果を表4に示す。
【0216】
【表2】


【0217】
【表3】
















【0218】
【表4】
【0219】
以上より、本実施例に係る保護膜形成剤によれば、成膜性に優れ、かつ、高い選択比を有する保護膜を作製できることが少なくとも確認された。