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特開2024-92569フェノキシ樹脂、樹脂組成物、硬化物、電気・電子回路用積層板、及びフェノキシ樹脂の製造方法
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  • 特開-フェノキシ樹脂、樹脂組成物、硬化物、電気・電子回路用積層板、及びフェノキシ樹脂の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092569
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】フェノキシ樹脂、樹脂組成物、硬化物、電気・電子回路用積層板、及びフェノキシ樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/34 20060101AFI20240701BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20240701BHJP
   C08L 71/10 20060101ALI20240701BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240701BHJP
   C08G 65/48 20060101ALI20240701BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C08G65/34
C08K5/14
C08L71/10
C08L101/00
C08G65/48
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208604
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 広樹
(72)【発明者】
【氏名】宗 正浩
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 圭太
【テーマコード(参考)】
4J002
4J005
4M109
【Fターム(参考)】
4J002AA02X
4J002BG03X
4J002BH02X
4J002CC03X
4J002CD00X
4J002CF00X
4J002CH08W
4J002CK02X
4J002EK006
4J002EK036
4J002FD146
4J002GF00
4J002GQ00
4J005AA21
4J005BB00
4J005BD00
4M109AA01
4M109EA02
4M109EA07
4M109EA11
4M109EB02
4M109EB04
4M109EC05
4M109EC07
(57)【要約】
【課題】 低粘度、誘電特性に優れたフェノキシ樹脂、これを含む樹脂組成物を硬化して耐熱性、誘電特性に優れた硬化物を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で表され、重量平均分子量が10,000~200,000であるフェノキシ樹脂。
【化1】
式中、Xはアルケニル含有芳香族基を含む2価の基である。Yは独立に、水素原子、炭素数2~20のアシル基、又はグリシジル基である。Zは炭素数2~20のアシル基又は水素原子であり、5モル%以上はアシル基である。nは繰り返し数であり、その平均値は15以上500以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表され、重量平均分子量が10,000~200,000であるフェノキシ樹脂。
【化1】
式中、Xはアルケニル含有芳香族基を含む2価の基である。Yは独立に、水素原子、炭素数2~20のアシル基、又はグリシジル基である。Zは炭素数2~20のアシル基又は水素原子であり、5モル%以上はアシル基である。nは繰り返し数であり、その平均値は15以上500以下である。
【請求項2】
アルケニル含有芳香族基が、下記式(2)及び/又は式(3)で表されるアルケニル含有芳香族基である請求項1に記載のフェノキシ樹脂。
【化2】
式中、Aは直接結合、炭素数1~13の2価の炭化水素基、-S-、-SO-、-SO-、-S-S-、-O-、-CO-、-COO-、及び-C(CF-から選ばれる基である。Rは炭素数3~12のアルケニル基であり、Rは独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数3~12のアルケニル基である。kは0又は1である。
【請求項3】
アルケニル当量が、100~1000g/eq.である請求項1に記載のフェノキシ樹脂。
【請求項4】
請求項1に記載のフェノキシ樹脂と、ラジカル重合開始剤又は硬化剤とを含む樹脂組成物。
【請求項5】
フェノキシ樹脂100質量部に対し、ラジカル重合開始剤又は硬化剤0.1~30質量部を含む請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1に記載のフェノキシ樹脂と、熱硬化性樹脂とを含む樹脂組成物。
【請求項7】
フェノキシ樹脂と熱硬化性樹脂の質量比が、99/1~1/99である請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を硬化して硬化物。
【請求項9】
請求項4~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いてなる電気・電子回路用積層板。
【請求項10】
請求項1に記載のフェノキシ樹脂を製造する方法であって、下記式(4)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(5)で表される化合物とを反応させることを特徴とするフェノキシ樹脂の製造方法。
【化3】
式中、Xは、式(4)と式(5)の少なくとも一方において、アルケニル含有芳香族基を含む。Gはグリシジル基である。mは繰り返し数であり、その平均値は0以上6以下である。Zは炭素数2~20の炭化水素基を有するアシル基又は水素原子であり、5モル%以上はアシル基である。
【請求項11】
アルケニル含有芳香族基が、下記式(2)及び/又は式(3)で表されるアルケニル含有芳香族基である請求項10に記載のフェノキシ樹脂の製造方法。
【化4】
式中、Aは直接結合、炭素数1~13の2価の炭化水素基、-S-、-SO-、-SO-、-S-S-、-O-、-CO-、-COO-、及び-C(CF-から選ばれる基である。Rは炭素数3~12のアルケニル基であり、Rは独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数3~12のアルケニル基である。kは0又は1である。
【請求項12】
請求項1に記載のフェノキシ樹脂を製造する方法であって、下記式(6)で表されるフェノキシ樹脂のアルコール性水酸基1モルに対して、アシル化剤のアシル基を0.05モル以上2.0モル以下で反応させることを特徴とするフェノキシ樹脂の製造方法。
【化5】
式中、X、nは式(1)におけるX、nと同義である。Gは独立に、水素原子又はグリシジル基である。
【請求項13】
Xが、下記式(2)及び/又は式(3)で表されるアルケニル含有芳香族基である請求項12に記載のフェノキシ樹脂の製造方法。
【化6】
式中、Aは直接結合、炭素数1~13の2価の炭化水素基、-S-、-SO-、-SO-、-S-S-、-O-、-CO-、-COO-、及び-C(CF-から選ばれる基である。Rは炭素数3~12のアルケニル基であり、Rは独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数3~12のアルケニル基である。kは0又は1である。
【請求項14】
アシル化剤が下記式(7)で表される酸無水物である請求項12又は13に記載のフェノキシ樹脂の製造方法。
【化7】
式中、Zは炭素数2~20のアシル基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粘度、溶剤溶解性、誘電特性に優れたフェノキシ樹脂に関するものである。また、該フェノキシ樹脂と硬化剤とを含む樹脂組成物、及び耐熱性、誘電特性に優れたその硬化物、並びに該樹脂組成物からなる電気・電子回路用積層板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は耐熱性、接着性、耐薬品性、耐水性、機械的強度及び電気特性等に優れていることから、塗料、土木、接着、電気材料用途等の分野で広く使用されている。そして種々の方法で高分子量化することで製膜性が付与される。その高分子量化されたエポキシ樹脂はフェノキシ樹脂と称される。特にビスフェノールA型のフェノキシ樹脂は、主に塗料用ワニスのベース樹脂、フィルム成形用のベース樹脂としてや、エポキシ樹脂ワニスに添加して流動性の調整や硬化物としたときの靭性改良、接着性改良の目的に使用される。また、リン原子や臭素原子を骨格中に有するものは、エポキシ樹脂組成物や熱可塑性樹脂に配合される難燃剤として使用されている。
【0003】
電気・電子回路用積層板等の電気材料用途となるフェノキシ樹脂には、耐熱性等に加えて、溶剤溶解性、誘電特性が要求される。近年、情報機器の小型化、高性能化が急速に進んでおり、それに伴い、半導体や電子部品の分野で用いられる材料に対し、これまでよりも高い性能が要求され、特に基板の薄型化と高機能化に伴う低誘電特性も求められている。
このような要求に対して、フェノキシ樹脂の側鎖に存在する水酸基をアセチル基やベンゾイル基を用いてエステルに変換することで誘電特性を向上させる方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、2官能エポキシ樹脂とジエステル系化合物とを反応させて得られるエポキシ樹脂を提案している。しかし、このような方法で得られたエポキシ樹脂は粘度が高く、製造時のプロセス性や相溶性に劣る欠点があった。
特許文献2では、2官能エポキシ樹脂と二価の水酸基含有化合物とを反応させて得られるエポキシ樹脂を提案している。しかし、得られたエポキシ樹脂は、誘電特性に劣る欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-89165号公報
【特許文献2】特開2019-35087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、低粘度、誘電特性に優れたフェノキシ樹脂を提供することである。また、これを含む樹脂組成物を硬化して、耐熱性、誘電特性に優れた硬化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明者はフェノキシ樹脂について鋭意検討した結果、アルケニル基を有するフェノキシ樹脂が、低粘度、誘電特性及に優れることを見出し、更にこれを含む樹脂組成物を硬化させた硬化物が耐熱性、誘電特性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表され、重量平均分子量が10,000~200,000であるフェノキシ樹脂である。
【化1】
式中、Xはアルケニル含有芳香族基を含む2価の基である。Yは独立に、水素原子、炭素数2~20のアシル基、又はグリシジル基である。Zは炭素数2~20のアシル基又は水素原子であり、5モル%以上はアシル基である。nは繰り返し数であり、その平均値は15以上500以下である。
【0009】
本発明のフェノキシ樹脂は、アルケニル含有芳香族基が、下記式(2)及び/又は式(3)で表されるアルケニル含有芳香族基であることが好ましい。
【化2】
式中、Aは直接結合、炭素数1~13の2価の炭化水素基、-S-、-SO-、-SO-、-S-S-、-O-、-CO-、-COO-、及び-C(CF-から選ばれる基である。Rは炭素数3~12のアルケニル基であり、Rは独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数3~12のアルケニル基である。kは0又は1である。
【0010】
上記フェノキシ樹脂のアルケニル当量は、100~1000g/eq.が好ましい。
【0011】
また、本発明は上記のフェノキシ樹脂と、ラジカル重合開始剤又は硬化剤のいずれか有する、又は両方を有する樹脂組成物である。
【0012】
上記の樹脂組成物において、フェノキシ樹脂100質量部に対し、ラジカル重合開始剤又は硬化剤が0.1~30質量部であることが好ましい。熱硬化性樹脂を併用する場合、フェノキシ樹脂と熱硬化性樹脂の質量比が、99/1~1/99であることが好ましい。
【0013】
また本発明は、上記の樹脂組成物を硬化してなる硬化物であり、上記の樹脂組成物を用いてなる電気・電子回路用積層板である。
【0014】
また本発明は、下記式(4)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(5)で表される化合物とを反応させることを特徴とする上記のフェノキシ樹脂の製造方法である。
【化3】
式中、Xは、式(4)と式(5)の少なくとも一方において、アルケニル含有芳香族基を含む。Gはグリシジル基である。mは繰り返し数であり、その平均値は0以上6以下である。Zは炭素数2~20の炭化水素基を有するアシル基又は水素原子であり、5モル%以上はアシル基である。
【0015】
本発明のフェノキシ樹脂の製造方法は、式(4)又は式(5)において、Xに含まれるアルケニル含有芳香族基が、式(2)及び/又は式(3)で表されるアルケニル含有芳香族基であることが好ましい。
更に本発明は、下記式(6)で表されるフェノキシ樹脂のアルコール性水酸基1モルに対して、アシル化剤のアシル基を0.05モル以上2.0モル以下で反応させることを特徴とする上記のフェノキシ樹脂の製造方法である。アシル化剤は下記式(7)で表される酸無水物が好ましい。
【化4】
式中、X、nは式(1)におけるX、nと同義である。Zは炭素数2~20のアシル基である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低粘度、溶剤溶解性かつ誘電特性に優れたフェノキシ樹脂を提供することができる。また、このフェノキシ樹脂を用いた樹脂組成物で、耐熱性、誘電特性及び耐折性に優れた硬化物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1で得られたフェノキシ樹脂のGPCチャートを示す。
図2】実施例1で得られたフェノキシ樹脂のIRチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のフェノキシ樹脂は、下記式(1)で表される重量平均分子量(Mw)が10,000~200,000であるフェノキシ樹脂であり、アルケニル含有芳香族基を含み、更に水酸基中の水素原子の一部又は全部がアシル基(Z)で置換された構造を有する。
【化5】
【0019】
ここで、Mwが10,000より小さいと、製膜性や機械物性(特に耐折性)が低下する恐れがあり好ましくない。Mwが200,000より大きいと相溶性が低下する恐れがあり、樹脂の取り扱いが困難となる場合があり好ましくない。Mwは、15,000~150,000が好ましく、20,000~100,000がより好ましく、20,000~50,000が更に好ましい。なお、フェノキシ樹脂のMwは実施例に記載のゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定することができる。
【0020】
本発明のフェノキシ樹脂は、水酸基中の水素原子がアシル基で置換された構造を有することにより、低極性となり、誘電特性に優れる効果が得られる。また、溶剤溶解性が良好になる。
【0021】
本発明のフェノキシ樹脂は、更に、芳香環にアルケニル基を導入することで、自由体積が大きくなり、低粘度化し、さらなる低極性となることで、誘電特性がより向上する。
ここで、アルケニル当量(g/eq.)としては、100~1000が好ましく、150~800がより好ましく、200~500が更に好ましい。この範囲であれば、低粘度化や誘電特性向上の効果が得られ、更に硬化反応に関与し、架橋構造に組み込まれることが可能である。なお、アルケニル当量の測定条件は実施例に記載の条件に準じる。
【0022】
式(1)において、
Xは2価の基であり、アルケニル含有芳香族基(Xa)とそれ以外の2価の基(Xb)である。
アルケニル含有芳香族基(Xa)は、X全体のモル数に対して、10モル%以上が好ましく、25モル%以上がより好ましく、45モル%以上が更に好ましい。この範囲を外れると粘度や誘電特性が悪化する恐れがある。
アルケニル含有芳香族基(Xa)は、下記式(2)又は式(3)で表されるものが好ましい。
【化6】
【0023】
式(2)において、
Aは直接結合、炭素数1~13の2価の炭化水素基、-S-、-SO-、-SO-、-S-S-、-O-、-CO-、-COO-、及び-C(CF-から選ばれる基である。
【0024】
炭素数1~13の2価の炭化水素基としては、炭素数1~12のアルキレン基又は炭素数6~13のアリーレン基が好ましく、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、例えば、-CH-、-C(CH-、-CH(CH)-、-CHPh-、-C(CH)Ph-、-C(CH)(C)-、-C(Ph)-、-C-、-C-、-C-、1,1-シクロペンチレン基、1,1-シクロヘキシレン基、1,1-シクロヘプチレン基、メチル-1,1-シクロヘキシレン基、1,1-シクロノニレン基、1,1-シクロオクチレン基、3,3,5-トリメチル-1,1-シクロヘキシレン基、1,1-シクロデシレン基、1,1-シクロドデシレン基、1,2-シクロペンチレン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロペンチレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,2-キシリレン基、1,4-キシリレン基、テトラヒドロジシクロペンタジエニレン基、テトラヒドロトリシクロペンタジエニレン基、1,1-フルオレンジイル基等が挙げられるが、これらに限定されない。Phはフェニル基(-C)を示し、全炭素数が13以下であればフェニル基は置換基を有してもよい。
【0025】
式(2)及び式(3)において、
は炭素数3~12のアルケニル基であり、
は独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数3~12のアルケニル基である。
kは0又は1である。
【0026】
炭素数3~12のアルケニル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、例えば、2-プロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基、シンナミル基、ナフチルビニル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
炭素数1~12のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、シクロヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、n-オクチル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル基、n-デシル基、シクロデシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、シクロドデシル基、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、トリメチルベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基、2-フェニルイソプロピル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
炭素数1~12のアルコキシ基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペントキシ基、イソペントキシ基、ネオペントキシ基、t-ペントキシ基、シクロペントキシ基、n-ヘキシロキシ基、イソヘキシロキシ基、シクロヘキシロキシ基、n-ヘプトキシ基、シクロヘプトキシ基、メチルシクロヘキシロキシ基、n-オクチロキシ基、シクロオクチロキシ基、n-ノニロキシ基、3,3,5-トリメチルシクロヘキシロキシ基、n-デシロキシ基、シクロデシロキシ基、n-ウンデシロキシ基、n-ドデシロキシ基、シクロドデシロキシ基、ベンジロキシ基、メチルベンジロキシ基、ジメチルベンジロキシ基、トリメチルベンジロキシ基、ナフチルメトキシ基、フェネチロキシ基、2-フェニルイソプロポキシ基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
炭素数6~12のアリール基としては、例えば、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、エチルフェニル基、スチリル基、キシリル基、n-プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、メシチル基、エチニルフェニル基、ナフチル基、ビニルナフチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
以上で挙げた中でも、Rとしては、炭素数3~5のアルケニル基が好ましく、炭素数3のアルケニル基がより好ましく、2-プロペニル基が特に好ましい。これは置換基が大きいと耐熱性が低下する恐れがあるためである。
【0031】
以上で挙げた中でも、Rとしては、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、及び炭素数3~5のアルケニル基が好ましく、水素原子及び炭素数3のアルケニル基がより好ましく、1つ以上は炭素数3のアルケニル基が更に好ましい。炭素数3のアルケニル基としては、2-プロペニル基が特に好ましい。これは置換基が大きいと耐熱性が低下する恐れがあるためである。また、Rを含めアルケニル基が2つ以上あると、低粘度化と誘電特性が更に向上し、樹脂組成物の耐熱が更に向上する。
【0032】
本発明のフェノキシ樹脂は、一般式(1)において、XがXa基以外のアルケニル基を有さない2価の基(Xb基)であってもよい。XにおけるXb基の含有割合は、90モル%以下であり、好ましくは75モル%以下であり、より好ましくは55モル%以下である。
Xb基としては、例えば、2価の炭化水素基又は炭化水素鎖中に、-O-、-CO-、-S-、-COO-、-SO-、-SO-、-S-S-、-C(CF-等の基を有してもよい炭化水素基である。例えば、式(2)及び式(3)で表される2価の基において、R及びRが独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基となる構造である。
【0033】
2価の基としては、例えば、芳香族ジオール化合物から水酸基を2個除いた残骨格を表す芳香族骨格(Xb1)、脂肪族ジオール化合物から水酸基を2個除いた残骨格を表す脂肪族骨格(Xb2)、脂環ジオール化合物から水酸基を2個除いた残骨格を表す脂環式骨格(Xb3)、芳香族ジエステル化合物からアシルオキシ基を2個除いた残骨格を表す芳香族骨格(Xb1)、脂肪族ジエステル化合物からアシルオキシ基を2個除いた残骨格を表す脂肪族骨格(Xb2)、脂環ジエステル化合物からアシルオキシ基を2個除いた残骨格を表す脂環式骨格(Xb3)、芳香族ジオール化合物を原料とするジエポキシ化合物からグリシジルオキシ基を2個除いた残骨格を表す芳香族骨格(Xb1)、脂肪族ジオール化合物を原料とするジエポキシ化合物からグリシジルオキシ基を2個除いた残骨格を表す脂肪族骨格(Xb2)、脂環ジオール化合物を原料とするジエポキシ化合物からグリシジルオキシ基を2個除いた残骨格を表す脂環式骨格(Xb3)、シクロアルカンジエポキシ化合物から酸素原子を2個除いた残骨格を表す脂環式骨格(Xb4)が挙げられる。
【0034】
芳香族骨格(Xb1)となる芳香族ジオール化合物、芳香族ジエステル化合物、又は芳香族ジエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールアセトフェノン、ビスフェノールAF、ビスフェノールAD、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールG、ビスフェノールM、ビスフェノールS、ビスフェノールP、ビスフェノールPH,ビスフェノールトリメチルシクロヘキサン、ビスフェノールシクロヘキサン、ジヒドロキシベンゾフェノン、ジヒドロキシジフェニルエーテル、フェノールフタレイン、フェノールフタレインアニリド及びフルオレセイン等の無置換又は炭素原子数1~10のアルキル基を置換基として有していてもよいビスフェノール型や、無置換又は炭素原子数1~10のアルキル基を置換基として有していてもよいジヒドロキシビフェニル類等のビフェニル型や、ビスフェノールフルオレン等の無置換又は炭素原子数1~10のアルキル基を置換基として有していてもよいビスフェノールフルオレン類やビスナフトールフルオレン類等のフルオレン型や、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(DOPO-HQ)、10-(2,7-ジヒドロキシナフチル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(DOPO-NQ)、10-(1,4-ジヒドロキシ-2-ナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、ジフェニルホスフィニルヒドロキノン、ジフェニルホスフィニル-1,4-ジオキシナフタリン、1,4-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール、1,5-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール等の無置換又は炭素原子数1~10のアルキル基、アリール基もしくはアラルキル基を置換基として有していてもよいリン含有フェノール型等や、これら芳香族ジオール化合物をアシル化したジエステル化合物や、これら芳香族ジオール化合物を原料とするジエポキシ化合物が挙げられる。
好ましくは、ビスフェノールアセトフェノン、ビスフェノールAF、ビスフェノールトリメチルシクロヘキサン、ビスフェノールシクロヘキサン、ジヒドロキシベンゾフェノン、ジヒドロキシジフェニルエーテル、フェノールフタレイン、フェノールフタレインアニリド及びフルオレセインの無置換体又は炭素原子数1~10のアルキル基置換体や、ジヒドロキシビフェニルの無置換体又は炭素原子数1~10のアルキル基置換体や、ビスフェノールフルオレンの無置換体又は炭素原子数1~10のアルキル基置換体や、ビスナフトールフルオレンの無置換体又は炭素原子数1~10のアルキル基置換体や、DOPO-HQ、DOPO-NQの無置換体又は炭素原子数1~10のアルキル基、アリール基もしくはアラルキル基置換体や、好ましい芳香族ジオール化合物をアシル化したジエステル化合物や、好ましい芳香族ジオール化合物を原料とするジエポキシ化合物である。特に好ましくは、ビスフェノールアセトフェノン、ビスフェノールAF、ビスフェノールトリメチルシクロヘキサン、ビスフェノールシクロヘキサン、ジヒドロキシベンゾフェノン、ジヒドロキシジフェニルエーテル、フェノールフタレインや、ジヒドロキシビフェニルや、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾーフルオレン、ビスナフトールフルオレンや、DOPO-HQ、DOPO-NQや、特に好ましい芳香族ジオール化合物をアシル化したジエステル化合物や、特に好ましい芳香族ジオール化合物を原料とするジエポキシ化合物である。
【0035】
式(2)又は式(3)で表される基以外であっても、例えば、芳香族骨格(Xb1)で例示した構造において、アルケニル基を置換基として有していれば、アルケニル含有芳香族基(Xa)となる。その場合、アルケニル基はRと同義のものが好ましい。
【0036】
脂肪族骨格(Xb2)となる脂肪族ジオール化合物、脂肪族ジエステル化合物、又は脂肪族ジエポキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール及びブチレングリコール等のアルキレングリコール骨格等や、これら脂肪族ジオール化合物をアシル化したジエステル化合物や、これら脂肪族ジオール化合物を原料とするジエポキシ化合物が挙げられる。
【0037】
脂環式骨格(Xb3)となる脂環ジオール化合物、脂環ジエステル化合物、又は脂環ジエポキシ化合物としては、例えば、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールF及び水素化ビスフェノールアセトフェノン等の水素化ビスフェノール骨格や、これら脂環ジオール化合物をアシル化したジエステル化合物や、これら脂環ジオール化合物を原料とするジエポキシ化合物が挙げられる。
【0038】
脂環式骨格(Xb4)となるシクロアルカンジエポキシ化合物としては、例えば、シクロヘキシルメチルシクロヘキサンカルボキシレート、テトラヒドロインデン、及び水素化トリシクロペンタジエン等のジエポキシ化物が挙げられる。好ましくは、シクロヘキシルメチルシクロヘキサンカルボキシレートのジエポキシ化物である。
【0039】
式(1)において、
Yは独立に、水素原子、炭素数2~20のアシル基、又はグリシジル基である。Yが水素原子である場合は末端に水酸基を与え、アシル基である場合は末端にエステル基を与え、グリシジル基である場合は末端にエポキシ基を与えるので、用途に応じてその割合を制御することがよい。
【0040】
アシル基(R-CO-)において、Rは、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~13のアラルキル基が好ましく、Rにおいて例示した基が挙げられる。アシル基としては、炭素数2~7のアシル基がより好ましく、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ベンゾイル基、メチルベンゾイル基が更に好ましく、アセチル基、ベンゾイル基が特に好ましい。
【0041】
式(1)において、Zは炭素数2~20のアシル基又は水素原子である。Zの5モル%以上はアシル基であり、残りは水素原子である。Zの10モル%以上、好ましくは20モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%モ以上がアシル基である。また、上限は100%が好ましいが、実質的には95%あればよい。炭素数1~20の炭化水素基を有するアシル基は、Yで例示したものと同様であり、好ましいアシル基も同様である。
Zが全て(100モル%)がアシル基の場合、本発明のフェノキシ樹脂は二級水酸基を含まないものとなり、誘電特性や耐湿性を更に改良することができる。一方で、例えば金属に対する接着性を微調整する際に、Zの一部を水素原子として残すことで、耐湿性を始めとする他の物性に大きな影響を及ぼさない範囲で、本発明のフェノキシ樹脂中に敢えて適量の二級水酸基を存在させることもできる。
【0042】
式(1)において、nは繰り返し数であり、その平均値の範囲は15以上500以下である。成形性及び取り扱い性の観点から好ましくは17以上400以下であり、より好ましくは20以上300以下である。n数はGPC法により得られた数平均分子量(Mn)より算出することができる。
【0043】
本発明のフェノキシ樹脂のエポキシ当量は、特に限定されないが、2,000~50,000g/eq.の範囲が好ましい。この範囲であれば、本発明のフェノキシ樹脂はそれ自体が硬化反応に関与し、架橋構造に組み込まれることが可能である。
【0044】
本発明のフェノキシ樹脂は、二級水酸基の一部又は全部がアシル化したものであり、様々な方法で得ることができる。好ましい製造方法としては、例えば、次のような製造方法がある。
(A);式(4)で表される2官能エポキシ樹脂と、式(5)で表されるジエステル系化合物及び/又は2官能フェノール化合物とを反応させる製造方法。以下、製造方法(A)と称することがある。
(B);式(6)で表されるフェノキシ樹脂(本発明のフェノキシ樹脂と区別するために、フェノキシ樹脂(a)と称することがある。)と、有機酸の酸無水物、有機酸のハロゲン化物、有機酸のエステル化物等の酸成分(アシル化剤)とを反応させる製造方法。以下、製造方法(B)と称することがある。
製造方法(A)及び(B)で得られるフェノキシ樹脂は、本発明のフェノキシ樹脂であり、同じ式(1)で表される。
【0045】
製造方法(A)は、式(4)で表される2官能エポキシ樹脂と、式(5)で表される化合物とを反応させる方法である。
式(4)において、Gはグリジル基であり、mは繰り返し数であり、その平均値は0以上6以下である。
式(5)において、Zの5モル%以上は炭素数1~20の炭化水素基を有するアシル基で、残りは水素原子である。ここで、式(5)で表される化合物は、Zの両者がアシル基である化合物、一方がアシル基で、他方が水素原子である化合物及び両方が水素原子である化合物から選ばれる2種以上の混合物であってもよい。Zの両者がアシル基である場合は、ジエステルとなり、両方が水素原子である場合はジフェノール類となる。式(5)で表される化合物をジエステル系化合物という。ジエステル系化合物は、Zの両者がアシル基である化合物又は主成分(50%以上)が該化合物である混合物であることがよい。
【0046】
式(4)及び式(5)におけるXは、式(1)のXを与えるように選択される。従って、式(4)及び式(5)におけるXは、いずれかにアルケニル含有芳香族基を含み、式(4)及び式(5)の全体としてアルケニル含有芳香族基を含む。例えば、式(4)又は式(5)の一方のXに式(2)で表されるアルケニル含有芳香族基を含み、他方に式(3)で表されるアルケニル含有芳香族基を含むことや、式(4)又は式(5)の一方のXのみに式(2)及び式(3)で表されるアルケニル含有芳香族基を含み、他方には含まないことなどができる。
本発明のフェノキシ樹脂には、アルケニル含有芳香族基が必ず含まれるものであり、これを満たす限り、アルケニル含有芳香族基が、原料の式(4)で表される2官能エポキシ樹脂及び/又は式(5)で表されるエステル化合物のいずれに含まれるものであってもよく、またその割合も制限されるものではない。
また、式(4)又は式(5)におけるXとして、アルケニル含有芳香族基を含む限り、他の2価の基(Xb)が併存してもよい。
【0047】
本発明の製造方法(A)に用いられる2官能エポキシ樹脂は、上記式(4)で表されるエポキシ樹脂であり、例えば、下記式(8)で表される2官能フェノール化合物と、エピハロヒドリンとを、アルカリ金属化合物存在下で反応させて得られるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【化7】
式(8)において、Xは式(4)又は(5)のXと同様である。
エピハロヒドリンとしては、例えば、エピクロルヒドリンやエピブロモヒドリン等が挙げられる。
アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩や、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシドや、酢酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機酸のアルカリ金属塩や、アルカリ金属フェノキシド、水素化ナトリウム、水素化リチウム等が挙げられる。
【0048】
原料エポキシ樹脂を得るための2官能フェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応には、2官能フェノール化合物中の官能基に対して0.80~1.20倍モル、好ましくは0.85~1.05倍モルのアルカリ金属化合物が用いられる。これより少ないと残存する加水分解性塩素の量が多くなり好ましくない。アルカリ金属化合物としては、水溶液、アルコール溶液又は固体の状態で使用される。
【0049】
エポキシ化反応に際しては、2官能フェノール化合物に対しては過剰量のエピハロヒドリンが使用される。通常、2官能フェノール化合物中の官能基1モルに対して、1.5~15倍モルのエピハロヒドリンが使用されるが、好ましくは2~10倍モル、より好ましく5~8倍モルである。これより多いと生産効率が低下し、これより少ないとエポキシ樹脂の高分子量体の生成量が増え、フェノキシ樹脂の原料に適さなくなる。
【0050】
エポキシ化反応は、通常、120℃以下の温度で行われる。反応の際、温度が高いと、いわゆる難加水分解性塩素量が多くなり高純度化が困難になる。好ましくは100℃以下であり、更に好ましくは85℃以下の温度である。
【0051】
式(8)で表される2官能フェノール化合物とエピハロヒドリンを反応させると、mは0より大きくなるのが通常である。mを0とするためには、公知の方法で製造したエポキシ樹脂を蒸留、晶析等の手法で高度に精製するか、式(8)で表される2官能フェノール化合物をアルコキシ化した後に、オレフィン部分の一部を酸化することでエポキシ化する方法がある。
【0052】
また、本発明の製造方法(A)に用いられるジエステル系化合物は、例えば、式(8)で表される2官能フェノール化合物を、有機酸の酸無水物、有機酸のハロゲン化物、又は有機酸との縮合反応でアシル化して得られる。
【0053】
式(4)におけるmが0のエポキシ樹脂を原料にすることで、本発明のフェノキシ樹脂は二級水酸基を含まないものとなり、誘電特性や耐湿性を更に改良することができる。また、例えば金属に対する接着性を微調整する際に、適当なm数のエポキシ樹脂を使用することで、耐湿性を始めとする他の物性に大きな影響を及ぼさない範囲で、本発明のフェノキシ樹脂中に敢えて適量の二級水酸基を存在させることもできる。
【0054】
製造方法(A)に使用する2官能エポキシ樹脂又はジエステル系化合物には、式(2)及び式(3)で表される化学構造が、式(4)及び式(5)中のX全体のモル数に対して1~100モル%含まれていることが好ましい。式(2)及び(3)で表される化学構造に起因する低粘度及び誘電特性を十分に発現させるという観点から、より好ましくは式(2)及び式(3)で表される化学構造が10モル%以上、更に好ましくは30モル%以上、特に好ましくは50モル%以上である。
【0055】
2官能エポキシ樹脂とジエステル系化合物の使用量は、エポキシ基1当量に対し、エステル基は0.8~1.0当量が好ましい。この当量比であると、分子末端にエポキシ基を有した状態での高分子量化を進行させやすくなるために好ましい。また、ジエステル系化合物の一部を、式(8)で表される2官能フェノール化合物に置き換えることも可能である。これにより前述のように、本発明のフェノキシ樹脂中に敢えて適量の二級水酸基を存在させることで物性の微調整ができる。
製造方法(A)では、重合反応とエステル交換反応が生じて、Mwが増加してフェノキシ樹脂が生成すると共に、フェノキシ樹脂のOH基の一部がエステル化される。
【0056】
製造方法(A)において、触媒を用いてもよく、その触媒としては、エポキシ基とエステル基との反応を進めるような触媒能を持つ化合物であればどのようなものでもよい。例えば、第3級アミン、環状アミン類、イミダゾール類、有機リン化合物、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。また、これらの触媒は単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
第3級アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
環状アミン類としては、例えば、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン-5(DBN)、N-メチルモルホリン、ピリジン、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
イミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
有機リン化合物としては、例えば、トリ-n-プロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(p-トリル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ(t-ブチル)ホスフィン、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン、パラメチルホスフィン、1,2-ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン等のホスフィン類や、テトラメチルホスホニウムブロミド、テトラメチルホスホニウムヨージド、テトラメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムクロリド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムブロミド、トリメチルベンジルホスホニウムクロリド、トリメチルベンジルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、トリフェニルメチルホスホニウムブロミド、トリフェニルメチルホスホニウムヨージド、トリフェニルエチルホスホニウムクロリド、トリフェニルエチルホスホニウムブロミド、トリフェニルエチルホスホニウムヨージド、トリフェニルベンジルホスホニウムクロリド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロミド等のホスホニウム塩類等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
第4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヨージド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、フェニルトリメチルアンモニウムクロリドなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
以上に挙げた触媒の中でも、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン-5、2-エチル-4-メチルイミダゾール、トリス(p-トリル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ(t-ブチル)ホスフィン、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィンが好ましく、特に4-(ジメチルアミノ)ピリジン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン-5、2-エチル-4-メチルイミダゾールが好ましい。
【0063】
触媒の使用量は、反応固形分中、通常0.001~1質量%であるが、これらの化合物を触媒として使用した場合、得られるフェノキシ樹脂中にこれらの触媒が残渣として残留し、プリント配線板の絶縁特性を悪化させたり、組成物のポットライフを短縮させたりする恐れがあるので、フェノキシ樹脂中の窒素の含有量は、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましい。また、フェノキシ樹脂中のリンの含有量は、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%がより好ましい。
【0064】
製造方法(A)において、反応用の溶媒を用いてもよく、その溶媒としては、フェノキシ樹脂を溶解するものであればどのようなものでもよい。例えば、芳香族系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、エステル系溶媒等が挙げられる。また、これらの溶媒は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
芳香族系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0066】
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-オクタノン、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、ジオキサン、ジイソブチルケトン、イソホロン、メチルシクロへキサノン、アセトフェノン等が挙げられる。
【0067】
アミド系溶媒としては、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0068】
グリコールエーテル系溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類や、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル類や、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類や、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等のエチレングリコールジアルキルエーテル類や、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル等のポリエチレングリコールジアルキルエーテル類や、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキルエーテル類や、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル等のポリプロピレングリコールジアルキルエーテル類や、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類や、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類や、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類等が挙げられる。
【0069】
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸ベンジル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、バレロラクトン、ブチロラクトンなどが挙げられる。
等が挙げられる。
【0070】
また、その他の溶媒としては、例えば、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる
【0071】
製造方法(A)において、反応時の固形分濃度は35~95質量%が好ましい。また、反応途中で高粘性生成物が生じたときは溶媒を追加添加して反応を続けることもできる。反応終了後、溶媒は必要に応じて、除去することもできるし、更に追加することもできる。
【0072】
反応温度は、使用する触媒が分解しない程度の温度範囲で行う。反応温度が高すぎると触媒が分解して反応が停止したり、生成するフェノキシ樹脂が劣化したりする恐れがある。反応温度が低すぎると反応が十分に進まずに目的の分子量にならない恐れがある。そのため反応温度は、好ましくは50~230℃、より好ましくは120~200℃である。また、反応時間は通常1~12時間、好ましくは3~10時間である。アセトンやメチルエチルケトンのような低沸点溶媒を使用する場合には、オートクレーブを使用して高圧下で反応を行うことで反応温度を確保することができる。また、反応熱の除去が必要な場合は、通常、反応熱による使用溶媒の蒸発・凝縮・還流法、間接冷却法、又はこれらの併用により行われる。
【0073】
次に、本発明の製造方法(B)について説明する。
製造方法(B)は、式(6)で表されるフェノキシ樹脂(a)と、フェノキシ樹脂(a)のアルコール性水酸基1モルに対して、アシル化剤のアシル基を0.05モル以上2.0モル以下で反応させて、重量平均分子量が10,000~200,000である式(1)で表されるフェノキシ樹脂、すなわち本発明のフェノキシ樹脂を得る方法である。
【0074】
原料のフェノキシ樹脂(a)は、式(6)のX中に、アルケニル含有芳香族基を必須として含む。アルケニル含有芳香族基としては、式(2)又は式(3)で表されるものが好ましい。
このフェノキシ樹脂(a)は従来知られている方法で得ることができる。例えば、アルケニル含有芳香族基を必須とする2官能フェノール化合物類と、エピハロヒドリンとをアルカリ金属化合物存在下で反応させて製造する方法(以下、「一段法」と称する)や、2官能エポキシ樹脂類と2官能フェノール化合物類のうち少なくとも一方に、アルケニル含有芳香族基を含む2官能エポキシ樹脂類と2官能フェノール化合物類とを触媒存在下で反応させて製造する方法(以下、「二段法」と称する)が挙げられる。フェノキシ樹脂(a)はいずれの製造方法により得られるものであってもよいが、一般的にフェノキシ樹脂は一段法よりも二段法の方が得やすいため、二段法を使用することが好ましい。
【0075】
フェノキシ樹脂(a)の重量平均分子量やエポキシ当量は、一段法ではエピハロヒドリンと2官能フェノール化合物類の仕込みモル比を、二段法では2官能エポキシ樹脂類と2官能フェノール化合物類の仕込みモル比を適宜調整することで、目的の範囲のものを製造することができる。
【0076】
一段法及び二段法の製造で使用される2官能フェノール化合物類としては、アルケニル基を有する2官能フェノール化合物を必須とする。
アルケニル基を有する2官能フェノール化合物としては、例えば、ジアリルビスフェノールA、ジアリルビスフェノールS、ジアリルジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。
【0077】
また、本発明の目的を損なわない限り、これ以外の2官能フェノール化合物を併用してもよい。併用してもよい2官能フェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールE、ビスフェノールC、ビスフェノールアセトフェノン、ビスフェノールフルオレン、ジヒドロキシビフェニルエーテル、ジヒドロキシビフェニルチオエーテル等のビスフェノール類、4,4’-ビフェノール、2,4’-ビフェノール等のビフェノール類、1,1-ビ-2-ナフトールなどが挙げられる。
また、これらの2官能フェノール化合物は複数種を併用してもよい。
【0078】
まず、一段法について説明する。
一段法の場合は、2官能フェノール化合物類1モルに対して、エピハロヒドリン0.985~1.015モル、好ましくは0.99~1.012モル、より好ましくは0.995~1.01モルを、アルカリ金属化合物の存在下、非反応性溶媒中で反応させ、エピハロヒドリンが消費され、重量平均分子量が10,000以上になるように縮合反応させることにより、フェノキシ樹脂(a)を得ることができる。なお、反応終了後に、副生した塩を濾別又は水洗により除去する必要がある。アルカリ金属化合物としては、本発明の製造方法(A)に用いられる原料としての式(4)で表わされる2官能エポキシ樹脂の製造時に使用されるアルカリ金属化合物と同様のものが例示される。
【0079】
この反応は常圧下又は減圧下で行うことができる。反応温度は通常、常圧下の反応の場合は20~200℃が好ましく、30~170℃がより好ましく、40~150℃が更に好ましく、50~100℃が特に好ましい。減圧下の反応の場合は20~100℃が好ましく、30~90℃がより好ましく、35~80℃が更に好ましい。反応温度がこの範囲内であれば、副反応が起こしにくく反応を進行させやすい。反応圧力は通常、常圧である。また、反応熱の除去が必要な場合は、通常、反応熱により使用溶媒の蒸発・凝縮・還流法、間接冷却法、又はこれらの併用により行われる。
【0080】
反応性溶媒としては、本発明の製造方法(A)で例示した反応用の溶媒の他、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコールなどのアルコール類も使用できる。1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0081】
次に、二段法について説明する。
二段法の原料エポキシ樹脂となる2官能エポキシ樹脂としては、本発明の製造方法(A)に用いられる式(4)で表わされる2官能エポキシ樹脂と同様のものを使用する。
【0082】
二段法の原料となる2官能エポキシ樹脂としては、式(4)で表わされる2官能エポキシ樹脂が好ましいが、本発明の目的を損なわない限りこれ以外の2官能エポキシ樹脂を併用してよい。併用できる2官能エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールアセトフェノン型エポキシ樹脂、ジフェニルスルフィド型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ジフェニルジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アルキレングリコール型エポキシ樹脂、脂肪族環状エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂はアルキル基、アリール基などの悪影響のない置換基で置換されていてもよい。これらのエポキシ樹脂は複数種を併用してもよい。
【0083】
二段法の場合は、触媒を使用することができ、エポキシ基とフェノール性水酸基との反応を進めるような触媒能を持つ化合物であればどのようなものでもよい。例えば、本発明の製造方法(A)の例示した触媒と同様のものが挙げられる。また、式(4)で表わされる2官能エポキシ樹脂の製造時に使用されるアルカリ金属化合物も使用可能である。これらの触媒は単独でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、使用量も本発明の製造方法(A)で例示した使用量と同様である。
【0084】
二段法の場合、溶媒を用いてもよく、その溶媒としてはフェノキシ樹脂を溶解し、反応に悪影響のないものであればどのようなものでもよい。例えば、本発明の製造方法(A)で例示した溶媒と同様のものが例示される。これらの溶媒は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0085】
使用する溶媒の量は反応条件に応じて適宜選択することができるが、例えば、二段法の場合は固形分濃度が35~95質量%が好ましい。また、反応中に高粘性生成物が生じる場合は反応途中で溶媒を添加して反応を続けることができる。反応終了後、溶媒は必要に応じて蒸留などにより除去することもできるし、更に追加することもできる。
【0086】
反応温度は、使用する触媒が分解しない程度の温度範囲で行う。反応温度が高すぎると触媒が分解して反応が停止したり、生成するフェノキシ樹脂が劣化したりする恐れがある。反応温度が低すぎると反応が十分に進まずに目的の分子量にならない恐れがある。そのため反応温度は、50~230℃が好ましく、100~210℃がより好ましく、120~200℃が更に好ましい。また、反応時間は通常1~12時間であり、3~10時間が好ましい。アセトンやメチルエチルケトンのような低沸点溶媒を使用する場合には、オートクレーブを使用して高圧下で反応を行うことで反応温度を確保することができる。また、反応熱の除去が必要な場合は、通常、反応熱による使用溶媒の蒸発・凝縮・還流法、間接冷却法、又はこれらの併用により行われる。
【0087】
このようにして得られた式(6)で表されるフェノキシ樹脂(a)中の水酸基をアシル化することにより、本発明のフェノキシ樹脂が得られる。アシル化は直接エステル化するだけでなくエステル交換等の方法を用いてもよい。
【0088】
アシル化に使用する酸成分としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ペンタン酸、オクタン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ヘキサヒドロ安息香酸、フェノキシ酢酸、アクリル酸、メタクリル酸等の有機酸や、有機酸の酸無水物や、有機酸のハロゲン化物や、有機酸のエステル化物等を使用することができる。これらのアシル化剤の中では、下記式(7)で表される酸無水物が好ましい。
【0089】
【化8】
式中、Zは炭素数2~20のアシル基である。
【0090】
有機酸の酸無水物としては、例えば、無水酢酸、安息香酸無水物、フェノキシ酢酸無水物等が挙げられる。
有機酸のエステル化物としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル等が挙げられる。有機酸のハロゲン化物としては、例えば、酢酸クロリド、安息香酸クロリド、フェノキシ酢酸クロリド等が挙げられる。
【0091】
エステル化に使用する化合物としては、酢酸クロリド、安息香酸クロリド、フェノキシ酢酸クロリド等の有機酸のハロゲン化物や無水酢酸、安息香酸無水物、フェノキシ酢酸無水物などの酸ハロゲン化物や有機酸の酸無水物が好ましく、エステル化の後水洗が不要で、電材用途で嫌われるハロゲンの混入を避ける意味で、無水酢酸や安息香酸無水物などの酸無水物がより好ましい。
【0092】
フェノキシ樹脂(a)が有する水酸基のエステル化に使用する有機酸、有機酸の酸無水物、有機酸のハロゲン化物、有機酸のエステル化物等の酸成分とフェノキシ樹脂(a)とを反応させる際の仕込み割合は、目的のエステル化比率と同様の仕込み比率でもよいし、反応性が低い場合には水酸基に対し過剰に酸成分を仕込み、目的のエステル化率まで反応させた後、未反応の酸成分を除去してもよい。
ここで、原料のフェノキシ樹脂(a)に対するアシル化剤の使用量は、フェノキシ樹脂(a)のアルコール性水酸基1モルに対して、アシル化剤のアシル基が0.05モル以上2.0モル以下、好ましくは0.1~1.0モル、より好ましくは0.2~0.8モルである。そして、アシル化剤が式(7)で表される酸無水物である場合は、アシル化剤1モルに対し、アシル基を2モル有すると解される。
【0093】
酸成分により直接エステル化する場合、例えばパラトルエンスルホン酸、リン酸等の酸触媒やテトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、塩化亜鉛等の金属触媒等の種々のエステル化触媒を用い脱水しながら行うことができる。通常、窒素雰囲気下で100~250℃で行うのが好ましく、より好ましくは130~230℃である。
【0094】
エステル化に酸ハロゲン化物や酸無水物を使用する場合、生じた酸を除去するには、塩基性化合物を使用し中和後に塩を濾過する方法、塩基性化合物を使用し中和後水洗する方法、中和せずに水洗する方法、蒸留や吸着などで除去する方法のいずれの方法を用いてもよく、併用しても構わない。反応溶媒よりも低沸点の酸を除く場合には、蒸留し除くことが好ましい。
【0095】
フェノキシ樹脂(a)をエステル交換によりエステル化する場合は、通常窒素雰囲気下で、例えばジブチル錫オキシドやジオクチル錫オキシド、スタノキサン触媒、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸亜鉛、三酸化アンチモン等の有機金属触媒や塩酸、硫酸、リン酸、スルホン酸等の酸触媒、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等の塩基性触媒など公知のエステル化触媒を用いて脱アルコールしながら行うことが望ましい。
【0096】
本発明の製造方法(B)において、反応用の溶媒を用いてもよく、その溶媒としては、フェノキシ樹脂を溶解するものであればどのようなものでもよい。例えば、本発明の製造方法(A)で例示した溶媒等が挙げられる。これらの溶媒はフェノキシ樹脂(a)の調製で用いたものと同じものでもよいし、異なるものでもよい。また、1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0097】
本発明の樹脂組成物は、式(1)で表されるフェノキシ樹脂を必須成分として含有し、ラジカル重合開始剤又は硬化剤のいずれかを有する、又は両方を有する樹脂組成物である。また、本発明の樹脂組成物には、さらに熱硬化性樹脂を併用してもよく、必要に応じて、無機フィラー、カップリング剤、酸化防止剤等の各種添加剤を適宜配合することができる。本発明の樹脂組成物は、各種用途に要求される諸物性を十分に満たす硬化物を与えるものである。
【0098】
本発明において硬化剤とは、フェノキシ樹脂と架橋反応に寄与する物質を示す。なお、本発明においては、硬化促進剤と呼ばれるものであってもフェノキシ樹脂の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質であれば、硬化剤とみなすこととする。本発明における硬化反応は、アルケニル基との架橋反応又はエポキシ基との架橋反応である。
フェノキシ樹脂の固形分100質量部に対し、ラジカル重合開始剤又は硬化剤は固形分として0.1~30質量部であり、より好ましくは0.1~25質量部以下であり、更に好ましくは0.1~10質量部以下である。フェノキシ樹脂と熱硬化性樹脂の固形分の質量比は、99/1~1/99であり、より好ましくは90/10~70/30であり、更に好ましくは80/20~40/60である。
【0099】
本発明の樹脂組成物に使用する硬化剤としては、特に制限はなく、一般的にアルケニル基との硬化剤として知られているものはすべて使用できる。硬化剤としては、ラジカル重合開始剤の他、マレイミド化合物やビニル化合物等が挙げられる。
ラジカル重合開始剤(ラジカル重合触媒ともいう。)としては、例えば、本発明の樹脂組成物は後述するように加熱等の手段により架橋反応を起こして硬化するが、その際の反応温度を低くしたり、不飽和基の架橋反応を促進したりする目的でラジカル重合開始剤を含有させて使用してもよい。ラジカル重合開始剤はラジカル重合触媒であるので、以下、ラジカル重合開始剤で代表する。
【0100】
ラジカル重合開始剤の代表的な例を挙げると、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド、トリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイド等の過酸化物があるがこれらに限定されない。また過酸化物ではないが、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタンもラジカル重合開始剤(又は重合触媒)として使用できる。しかし、本樹脂組成物の硬化に用いられる触媒、ラジカル重合開始剤はこれらの例に限定されない。
【0101】
ビニル化合物の代表的な例を挙げると、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物や、スチレン、ジビニルベンゼン等のビニルベンジル化合物等があるがこれらに限定されない。
【0102】
熱硬化性樹脂の代表的な例を挙げると、マレイミド樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリビニルベンジル樹脂、ポリアリル樹脂、オキセタン樹脂、アクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリシアナート樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。耐熱性や相溶性の観点からマレイミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましい。
【0103】
本発明の樹脂組成物に配合できるマレイミド樹脂(マレイミド化合物)としては、1分子中に1個以上のマレイミド基を有する化合物であれば、特に、限定されることはない。式(1)で表されるフェノキシ樹脂の硬化剤としても機能する。
例えば、N-フェニルマレイミド、フェニルメタンマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4,4-ジフェニルエーテルビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、p-フェニレンビスマレイミド、2,2’-[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、ビス(3,5-ジメチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5-ジエチル-4-マレイミドフェニル)メタン、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、N,N’-エチレンジマレイミド、N,N’-ヘキサメチレンジマレイミド、下記一般式(9)で表されるマレイミド樹脂や、これらマレイミド化合物のプレポリマー、若しくはマレイミド化合物とアミン化合物のプレポリマー等が挙げられる。これらのマレイミド化合物は、1種以上混合して用いることができる。この中でも、フェニルメタンマレイミドオリゴマーや、下記一般式(9)で表されるマレイミド樹脂が好ましい。
【0104】
【化9】
ここで、
は独立に、水素原子又はメチル基を示す。
は独立に、炭素数1~5のアルキル基又は芳香族基を示す。
aは0~4の整数であり、0又は1が好ましい。
bは0~3の整数であり、0又は1が好ましい。
r及びqは0又は1である。
sは繰り返し数であり、その平均値は1~10であり、1~7が好ましく、1~5がより好ましい。
【0105】
本発明の樹脂組成物に配合されるエポキシ樹脂としては、必要に応じて各種エポキシ樹脂を1種類又は2種類以上併用してもよい。エポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を2個以上有する通常のエポキシ樹脂はすべて使用できる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ヒドロキノン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスチオエーテル型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキルフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、芳香族変性フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビナフトール型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、β-ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、α-ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂等の3官能エポキシ樹脂、テトラキスフェニルエタン型エポキシ樹脂等の4官能エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、トリメチロールエタンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等の多価アルコールポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等のアルキレングリコール型エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル等の脂肪族環状エポキシ樹脂、ダイマー酸ポリグリシジルエステル等のグリシジルエステル類、フェニルジグリシジルアミン、トリルジグリシジルアミン、ジアミノジフェニルメタンテトラグリシジルアミン、アミノフェノール型エポキシ樹脂等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂、セロキサイド2021P(株式会社ダイセル製)等の脂環式エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、臭素含有エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらのエポキシ樹脂は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。入手容易さの観点から、下記一般式(10)で表されるエポキシ樹脂や、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、芳香族変性フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、α-ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を使用することが更に好ましい。
【0106】
【化10】
ここで、
は独立に炭素数1~8の炭化水素基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基であり、お互いに同じであっても異なっていてもよい。
Vは2価の有機基を示し、例えば、メチレン基、エチレン基、イソプロピレデン基、イソブチレン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基等のアルキレン基、-CO-、-O-、-S-、-SO-、-S-S-、又は式(10a)で示されるアラルキレン基を示す。
は独立に、水素原子又は炭素数1以上の炭化水素基を示し、例えば、メチル基であり、お互いに同じであっても異なっていてもよい。
Arはベンゼン環又はナフタレン環であり、これらのベンゼン環又はナフタレン環は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数6~11のアリール基、炭素数7~12のアラルキル基、炭素数6~11のアリールオキシ基、又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を置換基として有してもよい。
【0107】
本発明の樹脂組成物にエポキシ樹脂を使用する場合には、必要に応じてエポキシ樹脂硬化剤を使用することができる。エポキシ樹脂硬化剤としては、一般に公知のものが使用でき、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、リン系硬化剤などが挙げられる。前述したカチオン重合開始剤もエポキシ樹脂硬化剤としても使用できる。これらの硬化剤は1種類又は2種類以上を併用してもよい。
【0108】
配合できるビニル樹脂として、分子中に1個以上の重合性不飽和炭化水素基を有する1種以上のビニル化合物類である場合、その種類は特に限定されない。すなわち、ビニル化合物類は、本発明のフェノキシ樹脂と反応させることによって、架橋を形成させて、硬化させることができるものであればよい。重合性不飽和炭化水素基が炭素-炭素不飽和二重結合であるものがより好ましく、炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に2個以上有する化合物がより好ましい。
【0109】
ビニル樹脂としては、例えば、末端が(メタ)アクリロイル基やスチリル基で変性された変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレート樹脂、ポリブタジエン等のように分子中にビニル基を2個以上有するビニル樹脂類(多官能ビニル樹脂類)等が挙げられる。
【0110】
本発明の樹脂組成物は、特性を損ねない範囲で熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー類等の種々の高分子化合物を配合してもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、PPS樹脂、ポリシクロペンタジエン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂等が挙げられる。熱可塑性エラストマー類としては、例えば、スチレン-エチレン-プロピレン共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、水添スチレン-ブタジエン共重合体、水添スチレン-イソプレン共重合体等が挙げられる。また、ポリブタジェン、ポリイソプレン等のゴム類等を配合することも可能である。
【0111】
本発明のフェノキシ樹脂組成物には、得られる硬化物の難燃性の向上を目的に、信頼性を低下させない範囲で、公知の各種難燃剤を使用することができる。使用できる難燃剤としては、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機系難燃剤、有機金属塩系難燃剤等が挙げられる。環境に対する観点から、ハロゲンを含まない難燃剤が好ましく、特にリン系難燃剤が好ましい。これらの難燃剤は単独又は2種類以上併用して使用できる。
【0112】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、その他の成分を含んでもよく、例えば、シリカや炭素繊維等の充填材、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、紫外線防止剤、酸化防止剤、カップリング剤、可塑剤、フラックス、揺変性付与剤、平滑剤、着色剤、顔料、分散剤、乳化剤、低弾性化剤、離型剤、消泡剤、イオントラップ剤などが挙げられる。
その他の成分の配合量は、樹脂組成物中の全固形分に対して、0.01~20質量%の範囲が好ましい。
【0113】
本発明の樹脂組成物には、取り扱い時に、樹脂組成物の粘度を適度に調整するために溶剤を配合してもよい。
【0114】
これらの溶剤は、不揮発分として90質量%以下で使用することが好ましく、その適正な種類や使用量は用途によって適宜選択される。例えば、プリント配線板用途では、メチルエチルケトン、アセトン、1-メトキシ-2-プロパノールなどの沸点が160℃以下の極性溶媒であることが好ましく、その使用量は不揮発分で40~80質量%が好ましい。また、接着フィルム用途では、例えば、ケトン類、酢酸エステル類、カルビトール類、芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどを使用することが好ましく、その使用量は不揮発分で30~60質量%が好ましい。
【0115】
本発明の樹脂組成物は、上記各成分を均一に混合することにより得られる。本発明のフェノキシ樹脂、ラジカル重合開始剤又は硬化剤、更に必要により各種成分の配合された樹脂組成物は、従来知られている方法と同様の方法で容易に硬化物とすることができる。この硬化物は、低吸湿性、誘電特性、耐熱性、密着性等のバランスに優れ、良好な硬化物性を示すものである。ここでいう硬化とは、熱及び/又は光等により樹脂組成物を意図的に硬化させることを意味するものであり、その硬化の程度は所望の物性、用途により制御すればよい。
【0116】
本発明の樹脂組成物は、公知のエポキシ樹脂組成物と同様な方法で硬化することによって硬化物を得ることができる。硬化物を得るための方法としては、公知のエポキシ樹脂組成物と同様の方法をとることができ、注型、注入、ポッティング、ディッピング、ドリップコーティング、トランスファ一成形、圧縮成形等や樹脂シート、樹脂付き銅箔、プリプレグ等の形態とし積層して加熱加圧硬化することで積層板とする等の方法が好適に用いられる。その際の硬化温度は通常、80~300℃の範囲であり、硬化時間は通常、硬化時間は10~360分間程度である。この加熱は80~180℃で10~90分の一次加熱と、120~200℃で60~150分の二次加熱との二段処理で行うことが好ましく、また、ガラス転移温度(Tg)が二次加熱の温度を超える配合系においては、更に150~280℃で60~120分の三次加熱を行うことが好ましい。
【0117】
本発明の樹脂組成物を用いて得られるプリプレグについて説明する。シート状基材としては、ガラス等の無機繊維や、ポリエステル等、ポリアミン、ポリアクリル、ポリイミド、ケブラー、セルロース等の有機質繊維の織布又は不織布を使用することができるが、これに限定されるものではない。本発明の樹脂組成物及び基材からプリプレグを製造する方法としては、特に限定するものではなく、例えば上記の基材を、上記の樹脂組成物を溶剤で粘度調整した樹脂ワニスに浸漬して含浸した後、加熱乾燥して樹脂成分を半硬化(Bステージ化)して得られるものであり、例えば100~200℃で1~40分間加熱乾燥することができる。ここで、プリプレグ中の樹脂量は、樹脂分30~80質量%とすることが好ましい。
【0118】
プリプレグや絶縁接着シートを用いて積層板を製造する方法を説明する。プリプレグを用いて積層板を形成する場合は、プリプレグを一枚又は複数枚積層し、片側又は両側に金属箔を配置して積層物を構成し、この積層物を加熱・加圧して積層一体化する。ここで金属箔としては、銅、アルミニウム、真鍮、ニッケル等の単独、合金、複合の金属箔を使用することができる。積層物を加熱加圧する条件としては、樹脂組成物が硬化する条件で適宜調整して加熱加圧すればよいが、加圧の圧量があまり低いと、得られる積層板の内部に気泡が残留し、電気的特性が低下する場合があるため、成型性を満足する条件で加圧することが望ましい。例えば温度を160~220℃、圧力を49.0~490.3N/cm(5~50kgf/cm)、加熱時間を40~240分間にそれぞれ設定することができる。また、窒素雰囲下で成形することが好ましい。
【0119】
更にこのようにして得られた積層板を内層材として、多層板を作成することができる。この場合、まず積層板にアディティブ法やサブトラクティブ法等にて回路形成を施し、形成された回路表面を酸溶液で処理して黒化処理を施して、内層材を得る。この内層材の片面又は両側の回路形成面に、プリプレグや絶縁接着シートにて絶縁層を形成するとともに、絶縁層の表面に導体層を形成して、多層板を形成するものである。
【0120】
絶縁接着シートにて絶縁層を形成する場合は、複数枚の内層材の回路形成面に絶縁接着シートを配置して積層物を形成する。あるいは内層材の回路形成面と金属箔の間に絶縁接着シートを配置して積層物を形成する。そしてこの積層物を加熱加圧して一体成型することにより、絶縁接着シートの硬化物を絶縁層として形成するとともに、内層材の多層化を形成する。あるいは内層材と導体層である金属箔を絶縁接着シートの硬化物を絶縁層として形成するものである。ここで、金属箔としては、内層材として用いられる積層板に用いたものと同様のものを使用することができる。
また加熱加圧成形は、内層材の成型と同様の条件にて行うことができる。積層板に樹脂組成物を塗布して絶縁層を形成する場合は、内層材の最外層の回路形成面樹脂を上記の樹脂組成物を好ましくは5~100μmの厚みに塗布した後、100~200℃で1~90分加熱乾燥してシート状に形成する。一般にキャスティング法と呼ばれる方法で形成されるものである。乾燥後の厚みは5~80μmに形成することが望ましい。このようにして形成された多層積層板の表面に、更にアディティブ法やサブストラクティブ法にてバイアホール形成や回路形成を施して、プリント配線板を形成することができる。
また更にこのプリント配線板を内層材として上記の工法を繰り返すことにより、更に多層の積層板を形成することができるものである。
【0121】
プリプレグにて絶縁層を形成する場合は、内層材の回路形成面に、プリプレグを一枚又は複数枚を積層したものを配置し、更にその外側に金属箔を配置して積層物を形成する。そしてこの積層物を加熱加圧して一体成型することにより、プリプレグの硬化物を絶縁層として形成するとともに、その外側の金属箔を導体層として形成するものである。
ここで、金属箔としては、内層材として用いられる積層板に用いたものと同様のものを使用することもできる。また加熱加圧成形は、内層材の成型と同様の条件にて行うことができる。このようにして成形された多層積層板の表面に、更にアディティブ法やサブトラクティブ法にてバイアホール形成や回路形成を施して、プリント配線板を成型することができる。
また更にこのプリント配線板を内層材として上記の工法を繰り返すことにより、更に多層の多層板を形成することができる。
【0122】
本発明の樹脂組成物から得られる硬化物や電気・電子回路用積層板は、優れた難燃性及び耐熱性を有する。
【実施例0123】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。特に断りがない限り、部は「質量部」を表し、%は「質量%」を表す。分析方法、測定方法を以下に示す。また、各種当量の単位は全て「g/eq.」である。
【0124】
(1)重量平均分子量(Mw):
GPC測定により求めた。具体的には、本体HLC8320GPC(東ソー株式会社製)にカラム(TSKgel SuperH-H、SuperH2000、SuperHM-H、SuperHM-H、以上東ソー株式会社製)を直列に備えたものを使用し、カラム温度は40℃にした。また、溶離液はテトラヒドロフラン(THF)を使用し、1mL/分の流速とし、検出器は示差屈折率検出器を使用した。測定試料は固形分で0.1gを10mLのTHFに溶解し、0.45μmのマイクロフィルターでろ過したものを20μL使用した。標準ポリエチレンオキシド(東ソー株式会社製、SE-2、SE-5、SE-8、SE-15、SE-30、SE-70、SE-150)より求めた検量線より換算して、Mwを求めた。なお、データ処理は東ソー株式会社製GPC8020モデルIIバージョン6.00を使用した。
【0125】
(2)不揮発分:
JIS K7235規格に準拠して測定した。乾燥温度は220℃で、乾燥時間は60分間とした。
【0126】
(3)ガラス転移温度(Tg):
ガラス転移温度(Tg):JIS C6481規格に準拠して測定した。動的粘弾性測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、EXSTAR DMS6100)にて5℃/分の昇温条件で測定を行った時のtanδピークトップで表した。
【0127】
(4)誘電特性:
IPC-TM-650 2.5.5.9に準拠して測定した。具体的には、マテリアルアナライザー(AGILENT Technologies社製)を用い、容量法により周波数1GHzにおける誘電正接を求めた。
【0128】
(5)溶液粘度:
JIS Z8803規格、単一円筒型回転粘度計による粘度測定方法に準じた。具体的には、不揮発分40重量%に調整した樹脂溶液をビーカーに入れ、B型粘度計を用いて、25℃で粘度を測定した。
【0129】
(6)エポキシ当量:
JIS K7236に準じた。具体的には、電位差滴定装置を用い、溶媒としてクロロホルムを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸-酢酸溶液を用いた。
【0130】
(7)アルケニル当量:
JIS K0070規格に準拠して測定した。具体的には、試料にウィイス液(一塩化ヨウ素溶液)を反応させ、暗所に放置し、その後、過剰の塩化ヨウ素をヨウ素に還元し、ヨウ素分をチオ硫酸ナトリウムで滴定してヨウ素価を算出した。ヨウ素価をアルケニル当量に換算した。
【0131】
(8)水酸基当量:
JIS K0070規格に準拠して測定した。具体的には、電位差滴定装置を用い、1、4-ジオキサンを溶剤に用い、1.5mol/L塩化アセチルでアセチル化を行い、過剰の塩化アセチルを水で分解して0.5mol/L-水酸化カリウムを使用して滴定した。
【0132】
(9)耐溶剤性:
サンプル瓶にテトラヒドロフランを50g入れ、そこに硬化物1gを浸し、室温で12時間以上放置し、様子を目視で確認した。
○:分散せず、硬化物を維持できている。
×:分散又は膨潤し、硬化物を維持できない。
【0133】
実施例、比較例の使用する略号を以下の通りである。
【0134】
[2官能エポキシ樹脂]
A1:合成例1で得たジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量225、m≒0.07)
【化11】
A2:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、エポトートYD-128、エポキシ当量186、m≒0.09)
【化12】
A3:2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、エポトートYDC-1312、エポキシ当量154、m≒0.05)
【化13】
【0135】
[ジエステル系化合物]
B1:合成例2で得たジアセトキシ-ジアリルビスフェノールS(活性エステル当量=207)
【化14】
B2:合成例3で得た2,7-ジアセトキシ-ジアリルナフタレン(活性エステル当量=154)
【化15】
B3:合成例4で得たジアセトキシフェノールフタレイン(活性エステル当量=201)
【化16】
B4:2,7-ジアセトキシナフタレン(富士フイルム和光純薬株式会社製、活性エステル当量=122)
【化17】
B5:4,4-ジアセトキシビフェニル(富士フィルム和光純薬株式会社製、活性エステル当量=135)
【化18】
B6:合成例5で合成したジアセトキシ-ビスフェノールS(活性エステル当量=167)
【化19】
【0136】
[2官能フェノール化合物]
C1:ジアリルビスフェノールA(大和化成工業株式会社製、水酸基当量154)
C2:ジアリルビスフェノールS(WEIFANG DAYOO BIOCHEMICAL CO., LTD.、水酸基当量165)
C3:2,7-ナフタレンジオール(東京化成工業株式会社製、水酸基当量80)
C4:フェノールフタレイン(富士フィルム和光純薬株式会社製、水酸基当量159)
【0137】
[触媒]
D1:N,N’-ジメチルアミノピリジン(東京化成工業株式会社製)
D2:テトラブチルホスホニウム・テトラフェニルボレート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリン PX-4PB)
D3:ピリジン(富士フィルム和光純薬株式会社製)
【0138】
[溶媒・溶剤]
S1:シクロヘキサノン
S2:メチルエチルケトン(MEK)
【0139】
[酸無水物]
E1:無水酢酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)
【0140】
[硬化剤]
H1:フェニルメタンマレイミドオリゴマー(大和化成工業株式会社製、BMI-2300)
【0141】
[過酸化物]
Z1:α,α’-ビス(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(日油株式会社製、パーブチルP)
【0142】
合成例1
撹拌機、温度計、窒素吹き込み管、滴下ロート、及び冷却管を備えた反応装置に、ジアリルビスフェノールA(C1)を400部、エピクロルヒドリンを720部加えて65℃に加温した。125mmHgの減圧下、63~67℃の温度に保ちながら、200部の49%水酸化ナトリウム水溶液を4時間で滴下した。この間、エピクロルヒドリンは水と共沸させて、流出してくる水は順次系外へと除去した。反応終了後、5mmHg、140℃になる条件でエピクロルヒドリンを回収し、600部のメチルイソブチルケトンを加えて生成物を溶解した。その後、150部の水を加えて副生した食塩を溶解し、静置して下層の食塩水を分離除去した。リン酸水溶液にて中和した後、水洗液が中性になるまで樹脂溶液を水洗し、ろ過した。5mmHgの減圧下、150℃に加温して、メチルイソブチルケトンを留去し、ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)を500部得た。エポキシ当量は225、m=0.07、全塩素含有量は1500ppm、アルケニル当量は219であった。
【0143】
合成例2
撹拌機、温度計、窒素吹き込み管、滴下ロート、及び冷却管を備えた反応装置に、ジアリルビスフェノールS(C2)を200部、無水酢酸(E1)を250部加えて140℃に加温した。140℃で2時間攪拌した後、5mmHg、180℃になる条件で未反応のC2を除去し、ジアセトキシ-ジアリルビスフェノールS(B1)を220部得た。アルケニル当量は204であった。
【0144】
合成例3
Chem.Eur.J.2015,21,9970.に記載の方法を参考に、2,7-ナフタレンジオール(C3)を原料としてジアリル-2,7-ジヒドロキシナフタレンを合成した。水酸基当量は、112であった。撹拌機、温度計、窒素吹き込み管、滴下ロート、及び冷却管を備えた反応装置に、合成したジアリル-2,7-ジヒドロキシナフタレンを168部、無水酢酸(E1)を210部、ピリジン(D3)を158部加えて120℃に加温した。120℃で3時間攪拌した後、5mmHg、140℃になる条件で未反応のE1を除去し、2,7-ジアセトキシ-ジアリルナフタレン(B2)を220部得た。アルケニル当量は152であった。活性エステル当量は、ジアリル-2,7-ジヒドロキシナフタレンの水酸基当量から計算して、154である。
【0145】
合成例4
撹拌機、温度計、窒素吹き込み管、滴下ロート、及び冷却管を備えた反応装置に、フェノールフタレイン(C4)を300部、無水酢酸(E1)を391部加えて140℃に加温した。140℃で3時間攪拌した後、5mmHg、180℃になる条件で未反応のE1を除去し、ジアセトキシ-フェノールフタレイン(B3)を320部得た。
【0146】
合成例5
ジアリルビスフェノールSに代えてビスフェノールSを153部使用し、合成例2と同様な操作を行い、4,4-ジアセトキシビスフェノールS(B6)を合成した。
【0147】
実施例1
撹拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、冷却管、及び滴下装置を備えたガラス製反応容器に、室温下で、合成例1で得たジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)を100部、合成例4で得たジアセトキシフェノールフタレイン(B3)を85.0部、反応溶媒としてS1を46部仕込み、窒素ガスを流し撹拌しながら130℃まで昇温し、触媒としてD1を0.1部添加した後、145℃まで昇温し、同温度で7時間反応を行った。希釈溶剤としてS1を46部、S2を185部使用して希釈混合して、不揮発分40%のフェノキシ樹脂ワニス(R1)を得た。
【0148】
実施例2~8、比較例1~4
表1に示す各原料の仕込み量(部)に従い、実施例1と同様操作を行い、フェノキシ樹脂ワニスを得た。なお、表中の「モル比」は、ジエステル系化合物及び2官能フェノール化合物に対する2官能エポキシ樹脂のモル比を表す。
【0149】
【表1】
【0150】
実施例9
合成例1で得たジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂(A1)とフェノールフタレイン(C4)とを反応させることにより、比較例1として得られたフェノキシ樹脂ワニス(RH1)を100部(固形分で40部)使用し、S1を600部配合し、100℃まで昇温後、無水酢酸(E1)を5部(フェノキシ樹脂RH1のアルコール性水酸基1モルに対して0.22モル)加えて4時間反応を行った。得られた樹脂ワニスをメタノールに加え、析出した不溶解分を濾別した後、濾液を真空乾燥器にて150℃、0.4kPa(3torr)の条件で1時間乾燥させ、フェノキシ樹脂を得た。得られたフェノキシ樹脂に対して、S1を21部、S2を42部加えて、均一に溶解させて不揮発分40%のフェノキシ樹脂ワニス(R9)を得た。
【0151】
実施例1~9及び比較例1~4で得たフェノキシ樹脂ワニスR1~R9及びRH1~RH4について、Mwと溶液粘度を測定した。その結果を表2に示す。
【0152】
また、樹脂ワニスを離型フィルムに溶剤乾燥後の厚みが60μmになる様にローラーコーターにて塗布し、150℃で60分間乾燥した後、離形フィルムから得られた乾燥フィルムをはがした。この乾燥フィルムを、真空プレス機を使用して、真空度0.5kPa、加熱温度200℃、プレス圧力2MPaの条件で60分間プレスして、厚さ1mm樹脂板を得た。なお、厚み調整のために、厚さ1mmのスペーサーを使用した。得られた樹脂板の誘電特性、アルケニル当量を測定した。その結果を表2に示す。
【0153】
実施例1~9及び比較例1~4で得たフェノキシ樹脂ワニスR1~R9及びRH1~RH4について、Mw、溶液粘度、誘電特性、アルケニル当量の結果を表2に示す。なお、表中の「Xa率」は全X中のアルケニル基含有基の含有率(モル%)を、「アシル化率」は全Z中のアシル基の含有率(モル%)をそれぞれ表す。また、樹脂ワニスRH1~RH4を使用した例は比較例である。
【0154】
【表2】
【0155】
表2からわかるように、実施例1~9に示す本発明のフェノキシ樹脂は低粘度(8000mPa・s以下)でありながら、誘電特性に優れる。特に、実施例4と比較例3、実施例5と比較例4の比較では、アルケニル基の有無のみの差で、それ以外の構造に差はない。アルケニル基を有することで実施例は低粘度化し、誘電特性が優れることがわかる。実施例8と比較例2の比較では、アシル化率の違いにより誘電特性は悪化するが、低粘度化する 。
【0156】
実施例10、比較例5
実施例1、比較例1で得られたフェノキシ樹脂ワニス(R1、RH1)を離型フィルムに溶剤乾燥後の厚みが60μmになる様にローラーコーターにて塗布し、150℃で60分間乾燥した後、離形フィルムから得られた乾燥フィルムをはがした。得られた乾燥フィルムを10部、ラジカル重合開始剤としてZ1を0.1部、MEKを10部配合して、樹脂組成物を得た。更にこれらを離型フィルムに溶剤乾燥後の厚みが60μmになる様にローラーコーターにて塗布し、乾燥機を用いて120℃、15分間乾燥して、離型フィルムから乾燥フィルムをはがした。この乾燥フィルムを真空度0.5kPa、加熱温度200℃、プレス圧力2MPaの条件で80分間プレスして、厚さ1mmの硬化物を得た。なお、厚み調整のために、1mmのスペーサーを使用した。
【0157】
実施例11
実施例10と同様な操作によって、フェノキシ樹脂ワニス(R2)の硬化物を作成した。
【0158】
実施例12
実施例10と同様な操作において、過酸化物(Z1)の使用量を1部に変更し、フェノキシ樹脂ワニス(R2)の硬化物を作成した。
【0159】
実施例10~12、比較例5で得られた硬化物の誘電特性、耐溶剤性を測定し、その結果を表3に示す。
【0160】
【表3】
【0161】
実施例13、14、比較例6、7
実施例1、5及び比較例1、4で得られたフェノキシ樹脂ワニス(R1,R5、RH1、RH4)を離型フィルムに溶剤乾燥後の厚みが60μmになる様にローラーコーターにて塗布し、150℃で60分間乾燥した後、離形フィルムから得られた乾燥フィルムをはがした。得られた乾燥フィルムを10部、硬化剤としてH1を2.5部、MEKを18.9部配合して、樹脂組成物を得た。更にこれらを離型フィルムに溶剤乾燥後の厚みが60μmになる様にローラーコーターにて塗布し、乾燥機を用いて120℃、15分間乾燥して、離型フィルムから乾燥フィルムをはがした。この乾燥フィルムを真空度0.5kPa、加熱温度200℃、プレス圧力2MPaの条件で80分間プレスして、厚さ1mmの硬化物を得た。なお、厚み調整のために、1mmのスペーサーを使用した。
【0162】
上記実施例13、14、比較例6、7で得られた硬化物のTg、誘電正接及び耐溶剤性を測定し、その結果を表4に示す。
【0163】
【表4】
【0164】
実施例15,16、比較例8,9
実施例13,14、比較例6、7と同様な操作において、硬化剤(H1)とMEKの配合時に更に過酸化物(Z1)を0.1部加え、硬化物を作成した。
【0165】
実施例15、16、比較例8、9で得られた硬化物のTg、誘電正接及び耐溶剤性を測定し、その結果を表5に示す。
【0166】
【表5】
【0167】
表4、5からわかるように、本発明のフェノキシ樹脂と熱硬化性樹脂からなる硬化物は耐熱性、誘電特性に優れる。比較例7、9では、アルケニル基がないため硬化物が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明のフェノキシ樹脂及び樹脂組成物は、接着剤、塗料、土木用建築材料、電気・電子部品の絶縁材料等、様々な分野に適用可能であり、特に電気・電子分野における絶縁注型、積層材料、封止材料等として有用である。本発明のフェノキシ樹脂及びそれを含む樹脂組成物は、多層プリント配線基板、キャパシタ等の電気・電子回路用積層板、フィルム状接着剤、液状接着剤等の接着剤、半導体封止材料、アンダーフィル材料、3D-LSI用インターチップフィル材料、絶縁シート、プリプレグ、放熱基板等に好適に使用することができる。

図1
図2