(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092571
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】イオン伝導体、イオン伝導性焼結体、前駆体溶液、およびイオン伝導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/45 20060101AFI20240701BHJP
C04B 35/447 20060101ALI20240701BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240701BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C01B25/45 G
C01B25/45 D
C01B25/45 T
C01B25/45 Z
C04B35/447
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208606
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】秋本 順二
(72)【発明者】
【氏名】片岡 邦光
(72)【発明者】
【氏名】藤田 陸人
(72)【発明者】
【氏名】杉井 かおり
(72)【発明者】
【氏名】田上 幸治
(72)【発明者】
【氏名】藤田 英史
(72)【発明者】
【氏名】阿部 大介
【テーマコード(参考)】
5G301
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
(57)【要約】
【課題】β-Li
3PO
4型の結晶構造を基本とする酸化物において、リチウムイオン伝導性を改善したイオン伝導体を提供する。
【解決手段】上記課題は、β-Li
3PO
4型構造の結晶相を主相に持ち、Li、M元素、P、あるいは更にSiを構成元素に含むイオン伝導体によって達成できる。ここで、M元素はAl、Mg、Ga、Geから選ばれる1種以上の元素である。M/(M+P)原子比あるいは(M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.01以上0.80以下、Li/(M+P)原子比あるいはLi/(M+Si+P)原子比が2.00以上3.50以下である組成を有するものが特に好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-Li3PO4型構造の結晶相を主相に持ち、Li、M元素、Pを構成元素に含むイオン伝導体。
ここで、M元素はAl、Mg、Ga、Geから選ばれる1種以上の元素である。
【請求項2】
M/(M+P)原子比が0.01以上0.80以下、Li/(M+P)原子比が2.00以上3.50以下である組成を有する、請求項1に記載のイオン伝導体。
ここで、前記MはAl、Mg、Ga、Geの合計量である。
【請求項3】
M元素のうち少なくともAlを含有し、Al/(Al+P)原子比が0.01以上0.80以下である組成を有する、請求項1に記載のイオン伝導体。
【請求項4】
さらにSiを構成元素に含む、請求項1に記載のイオン伝導体。
【請求項5】
(M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.01以上0.80以下、Li/(M+Si+P)原子比が2.00以上3.50以下である組成を有する、請求項4に記載のイオン伝導体。
ここで、前記MはAl、Mg、Ga、Geの合計量である。
【請求項6】
M元素のうち少なくともAlを含有し、(Al+Si)/(Al+Si+P)原子比が0.01以上0.80以下である組成を有する、請求項4に記載のイオン伝導体。
【請求項7】
請求項1または4に記載のイオン伝導体を用いたイオン伝導性焼結体。
【請求項8】
Li、M元素、Pを含むコロイド粒子が懸濁した水溶液からなる前駆体溶液であって、M/(M+P)原子比が0.01以上0.80以下、Li/(M+P)原子比が2.00以上3.50以下である組成を有し、当該水溶液を70℃で蒸発乾固させたのち150℃で2時間加熱して得た固形分に、空気中300℃で12時間加熱する熱処理を施したとき、β-Li3PO4型構造の結晶相が形成される性質を有する、イオン伝導体の前駆体溶液。
ここで、M元素はAl、Mg、Ga、Geから選ばれる1種以上の元素であり、原子比を算出する式中のMはAl、Mg、Ga、Geの合計量である。
【請求項9】
前記コロイド粒子は、水系溶媒、リチウム化合物、M元素化合物、リン化合物の混合生成物である、請求項8に記載のイオン伝導体の前駆体溶液。
ここで、M元素化合物は、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、ガリウム化合物、ゲルマニウム化合物から選ばれる1種以上の化合物である。
【請求項10】
さらにSiを含むコロイド粒子が懸濁した水溶液からなる前駆体溶液であって、(M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.01以上0.80以下、Li/(M+Si+P)原子比が2.00以上3.50以下である組成を有し、当該水溶液を70℃で蒸発乾固させたのち150℃で2時間加熱して得た固形分に、空気中300℃で12時間加熱する熱処理を施したとき、β-Li3PO4型構造の結晶相が形成される性質を有する、請求項8に記載のイオン伝導体の前駆体溶液。
【請求項11】
前記コロイド粒子は、水系溶媒、リチウム化合物、M元素化合物、ケイ素アルコキシド、リン化合物の混合生成物である、請求項10に記載のイオン伝導体の前駆体溶液。
ここで、M元素化合物は、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、ガリウム化合物、ゲルマニウム化合物から選ばれる1種以上の化合物である。
【請求項12】
水系溶媒中で、リチウム化合物、M元素化合物、リン化合物を混合して得られたコロイド粒子の懸濁液から、溶媒成分を除去する手法により形成させた、M/(M+P)原子比が0.01以上0.80以下、Li/(M+P)原子比が2.00以上3.50以下である組成を有する前駆体粉体を用意し、その前駆体粉体に、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加熱保持する熱処理を施すことによってβ-Li3PO4型構造の結晶相を生成させる、イオン伝導体の製造方法。
ここで、M元素化合物は、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、ガリウム化合物、ゲルマニウム化合物から選ばれる1種以上の化合物であり、原子比を算出する式中のMはAl、Mg、Ga、Geの合計量である。
【請求項13】
前記コロイド粒子の懸濁液は、水系溶媒中で、リチウム化合物、M元素化合物、ケイ素アルコキシド、リン化合物を混合して得られたものであり、前記前駆体粉体は、(M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.01以上0.80以下、Li/(M+Si+P)原子比が2.00以上3.50以下である組成を有するものである、請求項12に記載のイオン伝導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性を示す酸化物系のイオン伝導体、イオン伝導性焼結体に関する。また、上記イオン伝導体の合成に適した前駆体溶液に関する。また、上記イオン伝導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体リチウムイオン二次電池への適用が検討されている酸化物系のイオン伝導物質の1つとして、γ-Li3PO4型の結晶構造を持つLISICONと呼ばれる酸化物が挙げられる。一方、Li3PO4酸化物には、高温相であるγ-Li3PO4の他に、低温相であるβ-Li3PO4があることが知られている。
【0003】
非特許文献1には、40℃での湿式反応で合成したβ-Li3PO4と、リチウム化合物、リン化合物を含む775℃の混合融体を急冷する乾式法で合成したγ-Li3PO4とについて、X線回折により結晶構造解析を行ったことが記載されている。イオン伝導性については、γ-Li3PO4の方がβ-Li3PO4より高いという。
【0004】
非特許文献2には、室温での湿式反応で合成したβ-Li3PO4を種々の温度に加熱することによって、γ-Li3PO4への相転移を調べた実験が記載されている。それによると、上記の相転移は概ね450℃付近で起こり、Cu-Kα線によるX線回折パターンの特徴点として、γ-Li3PO4相では2θ=20度付近に回折ピーク(Fig.7の矢印)が観測されることが指摘されている。また、β-Li3PO4からγ-Li3PO4への相転移は連続的な構造変化として起こることが示されている(Fig.8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nur I. P. Ayu, et al. Crystal structure analysis of Li3PO4 powder prepared by wet chemical reaction and solid-state reaction by using X-ray diffraction (XRD). Ionics, DOI 10.1007/s11581-016-1643-z, published online: 25 January 2016.
【非特許文献2】Norikazu Ishigaki, et al. Room temperature synthesis and phase transformation of lithium phosphate Li3PO4 as solid electrolyte. Journal of Asian Ceramic Societies 2021, Vol. 9, No. 2, 452-458.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
全固体二次電池において、イオン伝導体は固体電解質層の構成材料として使用される他、例えば正極活物質粒子間のイオン伝導を担う材料としても使用される。酸化物系のイオン伝導体には、硫化物系で問題となる有毒ガスの発生リスクが回避できるというメリットがある。酸化物の粉体は硬質であるため、酸化物系のイオン伝導体を使用した全固体リチウムイオン二次電池の工業的な製造過程では、一般的に、焼結の工程を実施することが想定される。その焼結工程では、電極活物質と反応するなどの悪影響を防止する必要などから加熱温度が制限され、例えば550℃程度以下、あるいは更に低温域の450℃以下といった温度域で焼結させることが望まれる。γ-Li3PO4型の結晶構造を有するLISICONと呼ばれる上述のイオン伝導物質は、結晶性の良い酸化物構造を得るために例えば600℃以上といった高温で合成、焼結させる必要がある。したがって、γ-Li3PO4型構造を基本とする酸化物を用いた全固体リチウムイオン二次電池の工業的な普及は、現時点では難しいとされる。
【0007】
一方、低温相であるβ-Li3PO4はイオン伝導性に乏しい。
本発明は、β-Li3PO4型の結晶構造を基本とする酸化物において、リチウムイオン伝導性を改善したイオン伝導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは研究の結果、Li3PO4化合物の主要元素であるLi、Pに加えて、Al、Mg、Ga、Geから選ばれる1種以上の元素を含み、あるいは更にSi含む懸濁液を湿式反応プロセス(水溶液合成)で生成させ、その懸濁液から回収した固形分を前駆体として用いることによって、例えば550℃以下といった低い熱処理温度で、リチウムイオン伝導性の改善されたβ-Li3PO4型構造の結晶相が合成可能になることを見出した。この知見に基づき、本明細書では以下の発明を開示する。
【0009】
[1]β-Li3PO4型構造の結晶相を主相に持ち、Li、M元素、Pを構成元素に含むイオン伝導体。
ここで、M元素はAl、Mg、Ga、Geから選ばれる1種以上の元素である。
[2]M/(M+P)原子比が0.01以上0.80以下、Li/(M+P)原子比が2.00以上3.50以下である組成を有する、上記[1]に記載のイオン伝導体。
ここで、前記MはAl、Mg、Ga、Geの合計量である。
[3]M元素のうち少なくともAlを含有し、Al/(Al+P)原子比が0.01以上0.80以下である組成を有する、上記[1]または[2]に記載のイオン伝導体。
[4]さらにSiを構成元素に含む、上記[1]に記載のイオン伝導体。
[5](M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.01以上0.80以下、Li/(M+Si+P)原子比が2.00以上3.50以下である組成を有する、上記[4]に記載のイオン伝導体。
ここで、前記MはAl、Mg、Ga、Geの合計量である。
[6]M元素のうち少なくともAlを含有し、(Al+Si)/(Al+Si+P)原子比が0.01以上0.80以下である組成を有する、上記[4]または[5]に記載のイオン伝導体。
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載のイオン伝導体を用いたイオン伝導性焼結体。
[8]Li、M元素、Pを含むコロイド粒子が懸濁した水溶液からなる前駆体溶液であって、M/(M+P)原子比が0.01以上0.80以下、Li/(M+P)原子比が2.00以上3.50以下である組成を有し、当該水溶液を70℃で蒸発乾固させたのち150℃で2時間加熱して得た固形分に、空気中300℃で12時間加熱する熱処理を施したとき、β-Li3PO4型構造の結晶相が形成される性質を有する、イオン伝導体の前駆体溶液。
ここで、M元素はAl、Mg、Ga、Geから選ばれる1種以上の元素であり、原子比を算出する式中のMはAl、Mg、Ga、Geの合計量である。
[9]前記コロイド粒子は、水系溶媒、リチウム化合物、M元素化合物、リン化合物の混合生成物である、上記[8]に記載のイオン伝導体の前駆体溶液。
ここで、M元素化合物は、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、ガリウム化合物、ゲルマニウム化合物から選ばれる1種以上の化合物である。
[10]さらにSiを含むコロイド粒子が懸濁した水溶液からなる前駆体溶液であって、(M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.01以上0.80以下、Li/(M+Si+P)原子比が2.00以上3.50以下である組成を有し、当該水溶液を70℃で蒸発乾固させたのち150℃で2時間加熱して得た固形分に、空気中300℃で12時間加熱する熱処理を施したとき、β-Li3PO4型構造の結晶相が形成される性質を有する、上記[8]または[9]に記載のイオン伝導体の前駆体溶液。
[11]前記コロイド粒子は、水系溶媒、リチウム化合物、M元素化合物、ケイ素アルコキシド、リン化合物の混合生成物である、上記[10]に記載のイオン伝導体の前駆体溶液。
ここで、M元素化合物は、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、ガリウム化合物、ゲルマニウム化合物から選ばれる1種以上の化合物である。
[12]水系溶媒中で、リチウム化合物、M元素化合物、リン化合物を混合して得られたコロイド粒子の懸濁液から、溶媒成分を除去する手法により形成させた、M/(M+P)原子比が0.01以上0.80以下、Li/(M+P)原子比が2.00以上3.50以下である組成を有する前駆体粉体を用意し、その前駆体粉体に、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加熱保持する熱処理を施すことによってβ-Li3PO4型構造の結晶相を生成させる、イオン伝導体の製造方法。
ここで、M元素化合物は、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、ガリウム化合物、ゲルマニウム化合物から選ばれる1種以上の化合物であり、原子比を算出する式中のMはAl、Mg、Ga、Geの合計量である。
[13]前記コロイド粒子の懸濁液は、水系溶媒中で、リチウム化合物、M元素化合物、ケイ素アルコキシド、リン化合物を混合して得られたものであり、前記前駆体粉体は、(M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.01以上0.80以下、Li/(M+Si+P)原子比が2.00以上3.50以下である組成を有するものである、上記[12]に記載のイオン伝導体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、β-Li3PO4型の結晶構造を基本とする酸化物において、リチウムイオン伝導性を改善したイオン伝導体が提供可能となった。このイオン伝導体や、それを用いた焼結体は、例えば120~550℃といった比較的低温の温度域で得ることができる。また、このイオン伝導体は酸化物系であるため、従来の硫化物系イオン伝導体で問題となる有毒ガスの発生リスクが回避できる。そのため、本発明のイオン伝導体は全固体リチウムイオン二次電池の構成材料としての有用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】比較例1、実施例1~5で得られた焼成粉体についてのX線回折パターン(2θが10~40度の範囲)を例示した図。
【
図2】実施例1、3、5で得られた焼成粉体についてのX線回折パターンを例示した図。
【
図3】実施例7で得られた焼成粉体についてのX線回折パターンを例示した図。
【
図4】実施例9で得られた焼成粉体についてのX線回折パターンを例示した図。
【
図5】実施例10、11で得られた焼成粉体についてのX線回折パターンを例示した図。
【
図6】実施例12で得られた焼成粉体についてのX線回折パターンを例示した図。
【
図7】比較例1、実施例1~6で得られた焼成粉体に400℃12時間の熱処理を施した粉体についてのX線回折パターンを例示した図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[イオン伝導体]
本発明の対象である「イオン伝導体」は、リチウムイオン伝導性を有する物質である。このイオン伝導体は、Li3PO4化合物の主要元素であるLi、Pに加えて、Al、Mg、Ga、Geから選ばれる1種以上の元素が含有される前駆体物質を熱処理することによって合成することができる。前駆体物質には更にSiが含まれていてもよい。このイオン伝導体は、β-Li3PO4型構造の結晶相を主相に持つ。「β-Li3PO4型構造の結晶相」は、X線回折パターンにおいてβ-Li3PO4酸化物結晶の回折ピークに対応する結晶面からの回折ピークが観測される結晶相を意味する。このイオン伝導体中には、前駆体物質の組成に応じて、Li、Pの他にAl、Mg、Ga、Geから選ばれる1種以上の元素、あるいは更にSiが構成元素として含有される。本明細書では、前駆体物質あるいはイオン伝導体中に含有される「Al、Mg、Ga、Geから選ばれる1種以上の元素」を「M元素」と呼んでいる。
【0013】
イオン伝導体中に含有されるM元素およびSiの存在形態は現時点では明らかにされていない。M元素やSiを添加することによってβ-Li3PO4型結晶の格子体積が変化する場合があることから、M元素やSiの一部はβ-Li3PO4型構造の結晶格子中に存在し得ると推察される。β-Li3PO4型構造の結晶相以外の相を「異相」と呼ぶとき、比較的良好なイオン伝導性を呈するイオン伝導体であっても、異相の存在が認められる場合があることから、イオン伝導体に含有される元素の必ずしも全部がβ-Li3PO4型構造の結晶格子中に存在している必要はない。
【0014】
β-Li3PO4型構造の結晶相を「主相」に持つイオン伝導体とは、当該イオン伝導体のX線回折パターンにおいて、β-Li3PO4型結晶の回折ピークのうち最もピーク高さの高い回折ピークの積分強度をI0、異相(β-Li3PO4型構造の結晶相以外の相)の回折ピークのうち最もピーク高さの高い回折ピークの積分強度をI1とするとき、I0>I1の関係が成り立つイオン伝導体であることを意味する。ここで、異相が検出されない場合はI1=0となり、上記I0>I1の関係が成り立つ。本発明の効果(特にイオン伝導性の改善や有毒ガスの発生リスク回避)を阻害しない範囲で異相の混在は許容されるが、異相の存在量は少ない方が好ましい。例えば、0.5I0>I1であることがより好ましく、0.1I0>I1であることがさらに好ましい。0.1I0>I1である場合の態様として、β-Li3PO4型構造の結晶相からなる(すなわち異相が検出されない)イオン伝導体や、β-Li3PO4型構造の結晶相を主相に持ち、残部が製造上不可避的に混入する不純物相からなるイオン伝導体が挙げられ、そのようなイオン伝導体は後述の製造方法によって得ることができる。
【0015】
本発明の対象である「イオン伝導体」は、M元素とリンの合計量に対するM元素の原子割合を表すM/(M+P)原子比が0.01以上0.80以下の範囲にあることが好ましく、0.03以上0.80以下の範囲にあることがより好ましい。ケイ素が含有される場合は、M元素とケイ素とリンの合計量に対するM元素とケイ素の原子割合を表す(M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.01以上0.80以下の範囲にあることが好ましく、0.03以上0.80以下の範囲にあることがより好ましい。このM/(M+P)原子比あるいは(M+Si)/(M+Si+P)原子比は異相も含めたイオン伝導体中の元素含有量に基づくものである。M/(M+P)原子比あるいは(M+Si)/(M+Si+P)原子比が大きくなると異相の混在量が多くなる場合がある。イオン伝導体のM/(M+P)原子比あるいは(M+Si)/(M+Si+P)原子比は、0.05以上0.50以下の範囲に管理してもよい。
【0016】
これまでの研究によれば、M元素の中でもAlはイオン伝導性の改善効果が比較的大きい元素である。したがって、M元素のうち少なくともAlを含有させることがより効果的である。この場合、M元素は、Alと、Mg、Ga、Geの3元素群から選ばれる1種以上の元素を意味する。Alを含有させる場合、M/(M+P)原子比あるいは(M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.01以上0.80以下、かつAl/(Al+P)原子比あるいは(Al+Si)/(Al+Si+P)原子比が0.01以上0.80以下である組成とすることが好ましく、M/(M+P)原子比あるいは(M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.03以上0.80以下、かつAl/(Al+P)原子比あるいは(Al+Si)/(Al+Si+P)原子比が0.03以上0.80以下である組成とすることがより好ましい。M/(M+P)原子比あるいは(M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.05以上0.50以下、かつAl/(Al+P)原子比あるいは(Al+Si)/(Al+Si+P)原子比が0.05以上0.50以下である組成に管理してもよい。
【0017】
また、本発明の対象である「イオン伝導体」は、M元素とリンの合計量に対するリチウムの原子割合を表すLi/(M+P)原子比が2.00以上3.50以下であることが好ましい。ケイ素が含有される場合は、M元素とケイ素とリンの合計量に対するリチウムの原子割合を表すLi/(M+Si+P)原子比が2.00以上3.50以下であることが好ましい。このLi/(M+P)原子比あるいはLi/(M+Si+P)原子比は異相も含めたイオン伝導体中の元素含有量に基づくものである。β-Li3PO4型構造の結晶相を主相に持つ物質において、Li/(M+P)原子比あるいはLi/(M+Si+P)原子比を2.00以上3.50以下に調整することによって、主相であるβ-Li3PO4型構造の結晶相の質量割合が多くなり、異相の形成を抑制する上で効果的である。イオン伝導体中のLi/(M+P)原子比あるいはLi/(M+Si+P)原子比は2.10以上3.20以下であることがより好ましい。
【0018】
β-Li3PO4型構造の結晶相が合成できる前駆体物質を使用した場合であっても、熱処理温度を例えば600℃程度に高めると、Cu-Kα線によるX線回折パターンにはγ-Li3PO4型構造の結晶に特有な2θ=20度付近の回折ピーク(非特許文献2参照)が観測されるようになる。β-Li3PO4型構造からγ-Li3PO4型構造への相転移は連続的な構造変化として現れるものと考えられるので、γ-Li3PO4型構造への構造変化が起こり始める極めて初期の段階では、2θ=20度付近に非常に小さいピーク、あるいはピークと呼べるかどうか紛らわしい程度の微小な強度変化が観測され得る。γ-Li3PO4型構造への構造変化が起こり始める段階であっても、本発明の対象であるβ-Li3PO4型構造の結晶相を主相に持つ物質に特有のイオン伝導性改善効果が得られる限り、不都合は生じない。発明者らの検討の結果、イオン伝導性の観点から、Cu-Kα線によるX線回折パターンにおいてβ-Li3PO4酸化物結晶の回折ピークに対応する結晶面からの回折ピークが観測されると同時に、2θ=20度付近に非常に小さいピーク、あるいはピークと呼べるかどうか紛らわしい程度の微小な強度変化が観測される場合は、β-Li3PO4型構造を有するとみなすことができる。より具体的には、前駆体物質を550℃以下の温度域に保持して形成された酸化物相からなる結晶相は、β-Li3PO4型構造の結晶相であるとみなされる。
【0019】
(イオン伝導体の製造方法)
本発明の対象である上記のイオン伝導体は、前駆体粉体を、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加熱保持する手法によって製造することができる。前駆体粉体としては、水系溶媒中で、リチウム化合物、M元素化合物、リン化合物を混合して得られたコロイド粒子の懸濁液から、溶媒成分を除去する手法により形成させたものを使用することができる。Siを含有させる場合は、水系溶媒中で、リチウム化合物、M元素化合物、ケイ素アルコキシド、リン化合物を混合して得られたコロイド粒子の懸濁液から、溶媒成分を除去する手法により形成させたものを使用することができる。ここで、M元素化合物は、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、ガリウム化合物、ゲルマニウム化合物から選ばれる1種以上の化合物である。上記の懸濁液から溶媒成分を除去する手法としては、例えば、蒸発乾固法、フィルトレーション法、遠心分離法などが挙げられる。
【0020】
前駆体粉体の組成は、M/(M+P)原子比あるいは(M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.01以上0.80以下、かつLi/(M+P)原子比が2.00以上3.50以下に調整されていることが好ましい。M/(M+P)原子比あるいは(M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.03以上0.80以下、かつLi/(M+P)原子比が2.00以上3.50以下に調整されていることがより好ましい。M/(M+P)原子比あるいは(M+Si)/(M+Si+P)原子比は0.05以上0.50以下の範囲に管理されていても構わない。Li/(M+P)原子比は2.10以上3.20以下に調整されていることがより好ましい。ここで、原子比を算出する式中のMはAl、Mg、Ga、Geの合計量である。
【0021】
また、本発明の対象である上記のイオン伝導体は、前記の懸濁液(すなわち後述の前駆体溶液)を直接、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加熱保持する製造態様によっても得ることができる。この製造態様では、上記温度域での加熱保持の途中段階で溶媒成分が除去された前駆体粉体が形成されるとみなすことができる。したがって、この製造態様も、「前駆体粉体を、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加熱保持する」場合の1態様に含まれる。活物質粒子の表面に本発明の対象である上記のイオン伝導体の層を形成させる場合には、例えば、活物質粉体と前記の前駆体粉体との混合粉、あるいは活物質粉体と前記の懸濁液(すなわち後述の前駆体溶液)との混合物を上記の温度域での熱処理に供する手法が適用できる。
【0022】
熱処理の酸化性雰囲気としては、大気圧下の空気が利用できる。M元素やSiを含有しない場合は常温での湿式プロセスでもβ-Li3PO4酸化物を合成することが可能であるが、M元素やSiを含有する前駆体物質からβ-Li3PO4型構造の酸化物を合成するためには、120℃以上に加熱することが望ましい。一方、全固体リチウムイオン二次電池の工業的生産を考慮すると、熱処理温度は低い方が良い。発明者らの検討によれば、550℃以下の温度域でM元素やSiを含有する前駆体物質からβ-Li3PO4型構造の結晶相を生成させることができる。熱処理の最高到達温度は250℃以上とすることがより効率的である。熱処理温度をあまり高めなくない場合は、例えば最高到達温度を450℃以下、あるいは350℃以下に管理してもよい。
【0023】
熱処理は複数回の加熱過程に分けて行ってもよい。また、120~550℃の範囲における保持温度を変動させるヒートパターンで行ってもよい。これら複数回の加熱過程や温度変動を伴う加熱過程で熱処理を行う態様としては、例えば、まず120℃以上200℃以下といった比較的低温域で1時間以上3時間以下といった比較的短時間の保持による第1段目の熱処理を行い、その後、一旦室温まで冷却したのち必要に応じて粉砕を行い、第1段目より高温長時間の第2段目の熱処理を施すヒートパターンや、前記の第1段目の熱処理に引き続いて昇温して第1段目より高温長時間の第2段目の熱処理を施すヒートパターンなどが例示できる。このような、熱処理の初期段階で比較的低温短時間の加熱履歴を付与する多段階のヒートパターンは、例えば前駆体粉体に含まれる揮発成分などを熱処理の初期段階で十分に除去したのちに結晶化の反応を進行させることができ、異相の少ないイオン伝導体を得る上で有効である。また、第1段目あるいは第2段目の熱処理後に洗浄工程を行ったのち、更に次段階目の熱処理を施すプロセスを採用することも、最終的に異相の少ないイオン伝導体を得る上で効果的である。いずれにしても、焼結体を形成させる際の熱処理を含めて、最終的なイオン伝導体製品を得るまでに付与する熱処理の最高到達温度を120~550℃の範囲とすればよい。
【0024】
熱処理時間、すなわち、120℃以上550℃以下の温度範囲に保持されるトータルの時間は、2時間以上とすることが好ましく、10時間以上とすることがより好ましい。ただし、経済性を考慮すると、熱処理時間は30時間以下の範囲で設定することが好ましく、20時間以下に管理してもよい。原料物質に硝酸塩を使用した場合には硝酸リチウムを主成分とする異相が混在しやすい。このような水溶性の異相をできるだけ除去するためには、熱処理によって得られた粉体に、例えば水系溶媒中に浸漬する手法などによる、洗浄工程を実施することが有効である。本明細書では、粉体状態のイオン伝導体を「イオン伝導体粉体」と呼ぶ。
【0025】
[イオン伝導性焼結体]
イオン伝導体を全固体リチウムイオン二次電池の構成材料に用いる際の好ましい態様として、焼結体が挙げられる。例えば、上記のイオン伝導体粉体の焼結体は、正極層と負極層の間に介在させる固体電解質層の構成部材として有用である。また、上記のイオン伝導体に被覆された正極活物質粒子の焼結体や、正極活物質粒子とそれらの間を埋める上記のイオン伝導体の粒子との焼結体は、正極層を構成する部材として有用である。
【0026】
(イオン伝導性焼結体の製造方法)
上記のイオン伝導性焼結体は、(i)前駆体粉体の粒子を含む粉体を焼結させる方法、(ii)上記のイオン伝導体粉体の粒子を含む粉体を焼結させる方法、などよって得ることができる。
(i)前駆体粉体の粒子を含む粉体を焼結させる方法
この場合は、焼結のための加熱が、酸化物合成のための熱処理を兼ねている。具体的には、前駆体粉体の粒子を含む粉体の成形体を、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加圧力を付与しながら加熱保持することにより、β-Li3PO4型構造の結晶相を生成させるとともに焼結体を得る手法が適用できる。酸化性雰囲気としては大気圧下の空気が利用できる。焼結を効率的に進行させるために、加熱温度は300℃以上とすることがより効果的である。また、成形体が120℃以上550℃以下の温度範囲に保持される時間は、2時間以上とすることが好ましく、10時間以上とすることがより好ましい。ただし、経済性を考慮すると、加熱時間は30時間以下の範囲で設定することが好ましく、20時間以下に管理してもよい。全固体電池の固体電解質層に適用する焼結体を構築する場合には、前記の成形体として前駆体粉体からなるものを適用すればよい。電極層を構築する場合には、前記の成形体として例えば活物質粉体と前駆体粉体とを含む混合粉体からなるものを適用することができる。
【0027】
(ii)イオン伝導体粉体の粒子を含む粉体を焼結させる方法
この場合は、上述のイオン伝導体粉体の粒子を含む粉体の成形体を、120℃以上550℃以下の温度域で加圧力を付与しながら加熱保持することにより焼結体を得る手法が適用できる。酸化物の合成は既に終えているので、この加熱は焼結を進行させる目的で行われる。120℃以上550℃以下の温度域での保持時間は30分以上15時間以下の範囲とすればよく、1時間以上10時間以下の範囲とすることがより好ましい。焼結を効率的に進行させるためには粉体が粒成長する条件が必要であることを考慮すると、加熱温度は例えば以下のようにすることが効果的である。すなわち、イオン伝導体粉体作製工程での最高到達温度をT0(℃)、この焼結工程での最高到達温度をT1(℃)とするとき、T1≧T0-150、かつ120≦T1≦550を満たす条件とすることが好ましい。全固体電池の固体電解質層に適用する焼結体を構築する場合には、前記の成形体として上記のイオン伝導体粉体からなるものを適用すればよい。電極層を構築する場合には、前記の成形体として例えば活物質粉体と上記のイオン伝導体粉体とを含む混合粉体からなるものを適用することができる。
焼結工程で加熱中の材料に付与する圧力は、例えば125MPa以上1000MPa以下の範囲で設定すればよい。
【0028】
[前駆体溶液]
イオン伝導体を合成するための熱処理に供する前駆体粉体を得るための中間製品として、Li、M元素、P、あるいは更にSiを含むコロイド粒子が懸濁した水溶液を挙げることができる。この水溶液を本明細書では「前駆体溶液」と呼んでいる。この前駆体溶液は、例えば、Li、M元素、P、あるいは更にSiを含むコロイド粒子が懸濁している水溶液である点、および当該水溶液を70℃で蒸発乾固させたのち150℃で2時間加熱して得た固形分に、空気中300℃で12時間加熱する熱処理を施したとき、β-Li3PO4型構造の結晶相が形成される性質を有する点、によって特定される。前記コロイド粒子は、例えば水系溶媒、水溶性リチウム化合物、水溶性M元素化合物、水溶性リン化合物、Siを含有させる場合は更にケイ素アルコキシド、の混合生成物として特定される。ここで、M元素化合物は、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、ガリウム化合物、ゲルマニウム化合物から選ばれる1種以上の化合物である。
【0029】
前駆体溶液の組成は、熱処理に供するための前駆体粉体(上述)と同様、M/(M+P)原子比あるいは(M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.01以上0.80以下、かつLi/(M+P)原子比が2.00以上3.50以下に調整されていることが好ましい。M/(M+P)原子比あるいは(M+Si)/(M+Si+P)原子比が0.03以上0.80以下、かつLi/(M+P)原子比が2.00以上3.50以下に調整されていることがより好ましい。M/(M+P)原子比あるいは(M+Si)/(M+Si+P)原子比は0.05以上0.50以下の範囲に管理されていても構わない。Li/(M+P)原子比は2.10以上3.20以下に調整されていることがより好ましい。ここで、原子比を算出する式中のMはAl、Mg、Ga、Geの合計量である。
【0030】
(前駆体溶液の製造方法)
発明者らは研究の結果、水系溶媒中で、リチウム化合物、M元素化合物、Siを含有させる場合はケイ素アルコキシド、および水溶性リン化合物を撹拌混合する手法によって、β-Li3PO4型構造の結晶相を主相に持ち、Li、M元素、P、あるいは更にSiを構成元素に含むイオン伝導体を形成させることが可能な前駆体物質を得ることができることを見出した。水系溶媒とは、水を主成分とする(すなわち水の質量割合が50%以上である)液状媒体である。
【0031】
上記の撹拌混合は、以下の手順で行うことが好適である。
まず、リチウム化合物が溶解している水溶液を作る。この水溶液に、M元素化合物を添加する。Siを含有させる場合はケイ素アルコキシドも添加する。そして十分に撹拌する。この撹拌は常温付近の温度(例えば15℃以上45℃以下)で行うことが好ましい。撹拌時の液が接する気相の雰囲気は、大気圧下の空気とすることができる。添加物質と水の混合が不十分であると不純物相が形成されやすい。できるだけ均一性の高い溶液とするために、この段階での撹拌は15分以上行うことが望ましい。その後、液中にリン化合物を添加して溶解させる。なお、リン化合物は、M元素化合物やケイ素アルコキシドを添加する前に、液中に溶解させておいてもよいが、Li3PO4の生成を抑制する観点からは、M元素化合物やケイ素アルコキシドを液中に混合した後に、リン化合物を添加することが好ましい。
【0032】
次に、上記の撹拌によって得られた溶液を加温し、撹拌することにより、溶液とリン化合物を反応させる。この反応を進行させるとコロイド粒子を含む白色の懸濁液が生成する。この懸濁液が前述のイオン伝導体を得るための前駆体溶液として利用できる。反応を十分に進行させるために、例えば、撹拌中の液温は50~95℃とすることが好ましい。撹拌時間は30分以上とすることが好ましい。経済性を考慮すると、撹拌時間は通常120分以下の範囲で設定すればよい。撹拌時の液が接する気相の雰囲気は、大気圧下の空気とすることができる。この反応で生成するコロイド粒子の構造は現時点で明らかにされていないが、LiとM元素とPとOを含む化合物がこの段階で形成されている可能性がある。
【0033】
上記の撹拌混合に供するために使用する原料物質であるリチウム化合物、M元素化合物、Siを含有させる場合のケイ素アルコキシド、およびリン化合物の量(仕込み量)は、Li、M元素、Siを含有させる場合のSi、Pの組成(仕込み組成)が、「前駆体溶液の組成」として記載した上述の原子比を満たすように調整することが好ましい。
【0034】
リチウム化合物としては、水酸化リチウム一水和物、酢酸リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウムなどが例示できる。
M元素化合物のうち、アルミニウム化合物としては、硝酸アルミニウム九水和物などが例示できる。マグネシウム化合物としては、塩化マグネシウムなどが例示できる。ガリウム化合物としては、硝酸ガリウムn水和物などが例示できる。ゲルマニウム化合物としては、酸化ゲルマニウムなどが例示できる。
ケイ素アルコキシドとしては、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、トリブトキシシランなどが例示できる。
リン化合物としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸などが例示できる。
【実施例0035】
[比較例1]
(前駆体溶液の作製)
リチウム化合物として水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(高純度化学研究所製、純度99%以上)、リン化合物としてリン酸二水素アンモニウムNH4H2PO4(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)をそれぞれ用意した。
原料物質の仕込み組成が組成式Li3PO4を満たすLi:Pの比率、すなわち原子比でLi:P=3.00:1.00となるように、水酸化リチウム一水和物3.147g、リン酸二水素アンモニウム2.876gを秤量した。50mLのイオン交換水に上記の量の水酸化リチウム一水和物を溶解させ、水酸化リチウム水溶液を得た。この水酸化リチウム水溶液に、イオン交換水に上記の量のリン酸二水素アンモニウムを溶解させた水溶液を加え、液温を70℃に昇温し、70℃で1時間撹拌した。このようにしてコロイド溶液である前駆体溶液を得た。
表1に、仕込み組成を示す(以下の各例において同じ)。
【0036】
(前駆体粉体の作製)
70℃1時間の撹拌を終えた上記のコロイド溶液から撹拌子を取り出し、70℃で15時間加熱して蒸発乾固させることにより、蒸発乾固生成物である前駆体粉体を得た。
【0037】
(熱処理)
上記の前駆体粉体を空気中150℃で2時間加熱したのち、メノウ乳鉢で軽く粉砕し、その後、アルミナるつぼに入れ、電気炉(ヤマト科学製FP102)を用いて、空気中300℃で12時間保持する方法で熱処理を行い、白色の粉体(以下これを「焼成粉体」と言う。)を得た。本例では150℃および300℃の2段階の熱処理工程を実施したことになり、焼成粉体を得る段階までの熱処理において、最高到達温度は300℃、トータルの熱処理時間は14時間である。
表2中に、焼成粉体を得る段階までの最高到達温度を「焼成の最高到達温度」として示してある(以下の各例において同じ)。
【0038】
(X線回折パターンの測定)
焼成粉体の試料について、X線回折装置(リガク社製、SmartLab)により、Cu-Kα線、管電圧40kV、管電流30mA、測定ステップ0.01度、スキャン速度2度/分の条件でX線回折パターンを測定した。
図1中に、本例で得られた焼成粉体のX線回折パターンを示す。本例で得られた焼成粉体はβ-Li
3PO
4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。X線回折パターンからは異相の存在は確認されなかった。
表3に、X線回折パターンから求めたβ-Li
3PO
4型結晶の格子定数および単位格子の体積を示す(以下の各例において同じ)。
【0039】
(焼結体の作製)
上記の焼成粉体を材料に用いて、熱プレス装置(アズワン社製)により、圧力375MPaを付加した状態で、空気中400℃で2時間加熱することによって、焼結体を作製した。焼結体を得る段階までの熱処理において、最高到達温度は400℃、トータルの熱処理時間は16時間となる。
表2中には、焼結体作製時の熱処理温度を「焼結温度」の欄に記載し、その熱処理を含めた全熱処理の最高到達温度も併記してある(以下の各例において同じ)。
【0040】
(イオン伝導性の評価)
得られた焼結体について、周波数応答アナライザ(FRA)(ソーラトロン社製、1260型)を用いて、周波数32MHz~100Hz、振幅電圧100mVの条件で200℃のインピーダンスを測定し、ナイキストプロットの円弧より抵抗値を求め、この抵抗値から導電率を算出した。なお、ブロッキング電極にはAu電極を使用した。
表4に、200℃の導電率を示す(以下の各例において同じ)。
本例の焼結体の200℃での導電性(リチウムイオン伝導性)は6.199×10-8S/cmであった。このイオン伝導性は全固体電池を構成する固体電解質層としての用途においては十分とは言えないレベルである。以下の各例では、本例焼結体のイオン伝導性をリファレンスとして、イオン伝導性の改善効果を評価する。
【0041】
表2に、焼成粉体の組成、焼結温度、焼結体のイオン伝導性を示す(以下の各例において同じ)。なお、本例では後述の実施例1で説明する洗浄工程を行っていない。表2中の焼成粉体の組成の欄には、洗浄工程を行っていない例では仕込み組成(表1)を、洗浄工程を行った例では焼成粉体の分析組成を、それぞれ表示してある。
【0042】
[実施例1]
(前駆体溶液の作製)
本例ではM元素としてAlを含有させた。
リチウム化合物として水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(高純度化学研究所製、純度99%以上)、M元素化合物として硝酸アルミニウム九水和物Al(NO3)3・9H2O(富士フイルム和光純薬社製、純度98%以上)、リン化合物としてリン酸二水素アンモニウムNH4H2PO4(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)をそれぞれ用意した。
原料物質の仕込み組成が原子比でLi:Al:P=3.00:0.10:1.00となるように、水酸化リチウム一水和物2.518g、硝酸アルミニウム九水和物0.751g、リン酸二水素アンモニウム2.301gを秤量した。50mLのイオン交換水に上記の量の水酸化リチウム一水和物を溶解させ、水酸化リチウム水溶液を得た。この水酸化リチウム水溶液に、イオン交換水に上記の量の硝酸アルミニウム九水和物を溶解させた水溶液を加え、スターラーにより室温で30分撹拌した。次に、前記撹拌後の液に、イオン交換水に上記の量のリン酸二水素アンモニウムを溶解させた水溶液を加え、液温を70℃に昇温し、70℃で1時間撹拌した。このようにしてコロイド溶液である前駆体溶液を得た。
【0043】
この前駆体溶液を用いて、比較例1と同様の方法で前駆体粉体の作製および熱処理を行い、焼成粉体を得た。
【0044】
得られた焼成粉体についてX線回折パターンを測定したところ、硝酸リチウムと考えられる異相の存在が認められた。硝酸リチウムは水溶性であることから、以下の方法で焼成粉体を洗浄し、洗浄後の焼成粉体について組成分析を行った。
(洗浄)
上記の焼成粉体を、100mLのイオン交換水中に投入し、室温で12時間浸漬することにより硝酸リチウムと考えられる異相成分を溶出させ、その後、濾過、水洗を施した。
(組成分析)
洗浄後の焼成粉体の化学組成を、ICP-AES分析装置(Agilent社製、Agilent720-ES)によって調べた。この分析値に基づく組成を表2中に示してある(以下の実施例2~5において同様)。
【0045】
洗浄後の焼成粉体を用いて、比較例1と同様の方法でX線回折パターンの測定、焼結体の作製、イオン伝導性の評価を行った。
図1、
図2中に、本例で得られた焼成粉体(洗浄後)のX線回折パターンを示す。これらの図中に記載のAl量は仕込み組成に基づく公称値である。本例で得られた洗浄後の焼成粉体はβ-Li
3PO
4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。X線回折パターンからは異相の存在は確認されなかった。
本例で得られた焼結体は200℃で4.395×10
-7S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。M元素を含有しない比較例1の焼結体との対比において、イオン伝導性の明らかな向上が認められた。
【0046】
[実施例2]
前駆体溶液の作製において、仕込み組成が原子比でLi:Al:P=3.00:0.15:0.95となるように、原料物質の使用量を、水酸化リチウム一水和物2.518g、硝酸アルミニウム九水和物1.126g、リン酸二水素アンモニウム2.186gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で洗浄後の焼成粉体および焼結体の作製を行うとともに各種測定を行った。
図1中に、本例で得られた焼成粉体(洗浄後)のX線回折パターンを示す。本例で得られた洗浄後の焼成粉体はβ-Li
3PO
4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。X線回折パターンからは異相の存在は確認されなかった。
本例で得られた焼結体は200℃で8.749×10
-7S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。実施例1よりも更にイオン伝導性の向上が認められた。
【0047】
[実施例3]
前駆体溶液の作製において、仕込み組成が原子比でLi:Al:P=3.00:0.20:0.90となるように、原料物質の使用量を、水酸化リチウム一水和物2.518g、硝酸アルミニウム九水和物1.501g、リン酸二水素アンモニウム2.071gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で洗浄後の焼成粉体および焼結体の作製を行うとともに各種測定を行った。
図1、
図2中に、本例で得られた焼成粉体(洗浄後)のX線回折パターンを示す。本例で得られた洗浄後の焼成粉体はβ-Li
3PO
4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。X線回折パターンからは異相の存在は確認されなかった。
本例で得られた焼結体は200℃で2.479×10
-6S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。実施例2よりも更にイオン伝導性の向上が認められた。
【0048】
[実施例4]
前駆体溶液の作製において、仕込み組成が原子比でLi:Al:P=3.00:0.25:0.85となるように、原料物質の使用量を、水酸化リチウム一水和物2.519g、硝酸アルミニウム九水和物1.879g、リン酸二水素アンモニウム1.956gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で洗浄後の焼成粉体および焼結体の作製を行うとともに各種測定を行った。
図1中に、本例で得られた焼成粉体(洗浄後)のX線回折パターンを示す。本例で得られた洗浄後の焼成粉体はβ-Li
3PO
4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。X線回折パターンからは異相の存在は確認されなかった。
【0049】
[実施例5]
前駆体溶液の作製において、仕込み組成が原子比でLi:Al:P=3.00:0.30:0.80となるように、原料物質の使用量を、水酸化リチウム一水和物2.518g、硝酸アルミニウム九水和物2.251g、リン酸二水素アンモニウム1.840gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で洗浄後の焼成粉体および焼結体の作製を行うとともに各種測定を行った。
図1、
図2中に、本例で得られた焼成粉体(洗浄後)のX線回折パターンを示す。本例で得られた洗浄後の焼成粉体はβ-Li
3PO
4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。X線回折パターンからは異相の存在は確認されなかった。
本例で得られた焼結体は200℃で2.820×10
-4S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。実施例3よりも更にイオン伝導性の向上が認められた。
【0050】
[実施例6]
前駆体溶液の作製において、仕込み組成が原子比でLi:Al:P=3.00:0.40:0.70となるように、原料物質の使用量を、水酸化リチウム一水和物3.148g、硝酸アルミニウム九水和物3.752g、リン酸二水素アンモニウム2.014gとしたことを除き、実施例1と同様の条件で洗浄後の焼成粉体および焼結体の作製を行うとともに各種測定を行った。
本例で得られた洗浄後の焼成粉体はβ-Li3PO4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。また、AlPO4であると考えられる異相の存在が認められた。
本例で得られた焼結体は200℃で2.464×10-5S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈し、実施例1~3よりもイオン伝導性は良好であった。
【0051】
[実施例7]
(前駆体溶液の作製)
本例ではM元素としてMgを含有させた。
リチウム化合物として水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(高純度化学研究所製、純度99%以上)、M元素化合物として塩化マグネシウムMgCl2(高純度化学研究所製、純度99.9%)、リン化合物としてリン酸二水素アンモニウムNH4H2PO4(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)をそれぞれ用意した。
原料物質の仕込み組成が原子比でLi:Mg:P=3.00:0.20:0.90となるように、水酸化リチウム一水和物2.518g、塩化マグネシウム0.381g、リン酸二水素アンモニウム2.071gを秤量した。50mLのイオン交換水に上記の量の水酸化リチウム一水和物を溶解させ、水酸化リチウム水溶液を得た。この水酸化リチウム水溶液に、イオン交換水に上記の量の塩化マグネシウムを溶解させた水溶液を加え、スターラーにより室温で30分撹拌した。次に、前記撹拌後の液に、イオン交換水に上記の量のリン酸二水素アンモニウムを溶解させた水溶液を加え、液温を70℃に昇温し、70℃で1時間撹拌した。このようにしてコロイド溶液である前駆体溶液を得た。
【0052】
この前駆体溶液を用いて、比較例1と同様の条件で焼成粉体および焼結体の作製を行うとともに各種測定を行った。焼成粉体の洗浄は行っていない。
図3に、本例で得られた焼成粉体のX線回折パターンを示す。本例で得られた焼成粉体はβ-Li
3PO
4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。X線回折パターンからは異相の存在は確認されなかった。
本例で得られた焼結体は200℃で2.608×10
-7S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。M元素を含有しない比較例1の焼結体との対比において、イオン伝導性の向上が認められた。
【0053】
[実施例8]
前駆体溶液の作製において、仕込み組成が原子比でLi:Mg:P=3.00:0.30:0.80となるように、原料物質の使用量を、水酸化リチウム一水和物2.518g、塩化マグネシウム0.571g、リン酸二水素アンモニウム1.841gとしたことを除き、実施例7と同様の条件で焼成粉体および焼結体の作製を行うとともに各種測定を行った。
本例で得られた焼成粉体はβ-Li3PO4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。X線回折パターンからは異相の存在は確認されなかった。
【0054】
[実施例9]
(前駆体溶液の作製)
本例ではM元素としてGaを含有させた。
リチウム化合物として水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(高純度化学研究所製、純度99%以上)、M元素化合物として硝酸ガリウムn水和物Ga(NO3)3・nH2O(富士フイルム和光純薬社製、純度99.9%)、リン化合物としてリン酸二水素アンモニウムNH4H2PO4(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)をそれぞれ用意した。
原料物質の仕込み組成が原子比でLi:Ga:P=3.00:0.30:0.80となるように、水酸化リチウム一水和物2.518g、硝酸ガリウムn水和物2.349g、リン酸二水素アンモニウム1.841gを秤量した。50mLのイオン交換水に上記の量の水酸化リチウム一水和物を溶解させ、水酸化リチウム水溶液を得た。この水酸化リチウム水溶液に、イオン交換水に上記の量の硝酸ガリウムn水和物を溶解させた水溶液を加え、スターラーにより室温で30分撹拌した。次に、前記撹拌後の液に、イオン交換水に上記の量のリン酸二水素アンモニウムを溶解させた水溶液を加え、液温を70℃に昇温し、70℃で1時間撹拌した。このようにしてコロイド溶液である前駆体溶液を得た。
【0055】
この前駆体溶液を用いて、比較例1と同様の条件で焼成粉体および焼結体の作製を行うとともに各種測定を行った。焼成粉体の洗浄は行っていない。
図4に、本例で得られた焼成粉体のX線回折パターンを示す。本例で得られた焼成粉体はβ-Li
3PO
4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。X線回折パターンからは異相の存在は確認されなかった。
本例で得られた焼結体は200℃で8.340×10
-8S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。M元素を含有しない比較例1の焼結体との対比において、イオン伝導性の向上が認められた。
【0056】
[実施例10]
(前駆体溶液の作製)
本例ではM元素としてAlおよびGeを含有させた。
リチウム化合物として水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(高純度化学研究所製、純度99%以上)、M元素化合物として硝酸アルミニウム九水和物Al(NO3)3・9H2O(富士フイルム和光純薬社製、純度98%以上)、および酸化ゲルマニウムGeO2(STREM Chemical INC.製、純度99.999%)、リン化合物としてリン酸二水素アンモニウムNH4H2PO4(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)をそれぞれ用意した。
原料物質の仕込み組成が原子比でLi:Al:Ge:P=3.00:0.20:0.10:0.80となるように、水酸化リチウム一水和物2.518g、硝酸アルミニウム九水和物1.501g、酸化ゲルマニウム0.209g、リン酸二水素アンモニウム1.841gを秤量した。50mLのイオン交換水に上記の量の水酸化リチウム一水和物を溶解させ、水酸化リチウム水溶液を得た。この水酸化リチウム水溶液に上記の量の酸化ゲルマニウムを溶解させたのち、イオン交換水に上記の量の硝酸アルミニウム九水和物を溶解させた水溶液を加え、スターラーにより室温で30分撹拌した。次に、前記撹拌後の液に、イオン交換水に上記の量のリン酸二水素アンモニウムを溶解させた水溶液を加え、液温を70℃に昇温し、70℃で1時間撹拌した。このようにしてコロイド溶液である前駆体溶液を得た。
【0057】
この前駆体溶液を用いて、比較例1と同様の条件で焼成粉体および焼結体の作製を行うとともに各種測定を行った。焼成粉体の洗浄は行っていない。
図5中に、本例で得られた焼成粉体のX線回折パターンを示す。本例で得られた焼成粉体はβ-Li
3PO
4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。X線回折パターンからは異相の存在は確認されなかった。
本例で得られた焼結体は200℃で4.330×10
-7S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。M元素を含有しない比較例1の焼結体との対比において、イオン伝導性の明らかな向上が認められた。
【0058】
[実施例11]
(前駆体溶液の作製)
本例ではM元素としてAl、GaおよびGeを含有させた。
リチウム化合物として水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(高純度化学研究所製、純度99%以上)、M元素化合物として硝酸アルミニウム九水和物Al(NO3)3・9H2O(富士フイルム和光純薬社製、純度98%以上)、硝酸ガリウムn水和物Ga(NO3)3・nH2O(富士フイルム和光純薬社製、純度99.9%)、および酸化ゲルマニウムGeO2(STREM Chemical INC.製、純度99.999%)、リン化合物としてリン酸二水素アンモニウムNH4H2PO4(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)をそれぞれ用意した。
原料物質の仕込み組成が原子比でLi:Al:Ga:Ge:P=3.00:0.10:0.10:0.10:0.80となるように、水酸化リチウム一水和物2.518g、硝酸アルミニウム九水和物0.751g、硝酸ガリウムn水和物0.783g、酸化ゲルマニウム0.209g、リン酸二水素アンモニウム1.841gを秤量した。50mLのイオン交換水に上記の量の水酸化リチウム一水和物を溶解させ、水酸化リチウム水溶液を得た。この水酸化リチウム水溶液に上記の量の酸化ゲルマニウムを溶解させたのち、イオン交換水に上記の量の硝酸アルミニウム九水和物を溶解させた水溶液と、イオン交換水に上記の量の硝酸ガリウムn水和物を溶解させた水溶液とを加え、スターラーにより室温で30分撹拌した。次に、前記撹拌後の液に、イオン交換水に上記の量のリン酸二水素アンモニウムを溶解させた水溶液を加え、液温を70℃に昇温し、70℃で1時間撹拌した。このようにしてコロイド溶液である前駆体溶液を得た。
【0059】
この前駆体溶液を用いて、比較例1と同様の条件で焼成粉体および焼結体の作製を行うとともに各種測定を行った。焼成粉体の洗浄は行っていない。
図5中に、本例で得られた焼成粉体のX線回折パターンを示す。本例で得られた焼成粉体はβ-Li
3PO
4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。X線回折パターンからは異相の存在は確認されなかった。
本例で得られた焼結体は200℃で5.011×10
-7S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。M元素を含有しない比較例1の焼結体との対比において、イオン伝導性の明らかな向上が認められた。
【0060】
[実施例12]
(前駆体溶液の作製)
本例ではM元素としてのAl、GaおよびGeと、Siを含有させた。
リチウム化合物として水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(高純度化学研究所製、純度99%以上)、M元素化合物として硝酸アルミニウム九水和物Al(NO3)3・9H2O(富士フイルム和光純薬社製、純度98%以上)、硝酸ガリウムn水和物Ga(NO3)3・nH2O(富士フイルム和光純薬社製、純度99.9%)、および酸化ゲルマニウムGeO2(STREM Chemical INC.製、純度99.999%)、ケイ素アルコキシドとしてテトラエトキシシランSi(OC2H5)4(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)、リン化合物としてリン酸二水素アンモニウムNH4H2PO4(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)をそれぞれ用意した。
原料物質の仕込み組成が原子比でLi:Al:Ga:Ge:Si:P=2.60:0.10:0.10:0.10:0.10:0.60となるように、水酸化リチウム一水和物2.728g、硝酸アルミニウム九水和物0.938g、硝酸ガリウムn水和物1.017g、酸化ゲルマニウム0.262g、テトラエトキシシラン0.784g、リン酸二水素アンモニウム1.726gを秤量した。50mLのイオン交換水に上記の量の水酸化リチウム一水和物を溶解させ、水酸化リチウム水溶液を得た。この水酸化リチウム水溶液に上記の量の酸化ゲルマニウムを溶解させたのち、イオン交換水に上記の量の硝酸アルミニウム九水和物を溶解させた水溶液と、イオン交換水に上記の量の硝酸ガリウムn水和物を溶解させた水溶液と、イオン交換水に上記の量のテトラエトキシシランを投入して撹拌混合した液とを加え、スターラーにより室温で30分撹拌した。次に、前記撹拌後の液に、イオン交換水に上記の量のリン酸二水素アンモニウムを溶解させた水溶液を加え、液温を70℃に昇温し、70℃で1時間撹拌した。このようにしてコロイド溶液である前駆体溶液を得た。
【0061】
この前駆体溶液を用いて、比較例1と同様の条件で焼成粉体および焼結体の作製を行うとともに各種測定を行った。焼成粉体の洗浄は行っていない。
図6に、本例で得られた焼成粉体のX線回折パターンを示す。本例で得られた焼成粉体はβ-Li
3PO
4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。X線回折パターンからは異相の存在は確認されなかった。
本例で得られた焼結体は200℃で6.540×10
-7S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。M元素を含有しない比較例1の焼結体との対比において、イオン伝導性の明らかな向上が認められた。
【0062】
[実施例13]
(前駆体溶液の作製)
本例ではM元素としてのAlと、Siを含有させた。
リチウム化合物として水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(高純度化学研究所製、純度99%以上)、M元素化合物として硝酸アルミニウム九水和物Al(NO3)3・9H2O(富士フイルム和光純薬社製、純度98%以上)、ケイ素アルコキシドとしてテトラエトキシシランSi(OC2H5)4(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)、リン化合物としてリン酸二水素アンモニウムNH4H2PO4(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)をそれぞれ用意した。
原料物質の仕込み組成が原子比でLi:Al:Si:P=3.00:0.20:0.10:0.80となるように、水酸化リチウム一水和物3.148g、硝酸アルミニウム九水和物1.877g、テトラエトキシシラン0.689g、リン酸二水素アンモニウム2.302gを秤量した。50mLのイオン交換水に上記の量の水酸化リチウム一水和物を溶解させ、水酸化リチウム水溶液を得た。この水酸化リチウム水溶液に、イオン交換水に上記の量の硝酸アルミニウム九水和物を溶解させた水溶液と、イオン交換水に上記の量のテトラエトキシシランを投入して撹拌混合した液とを加え、スターラーにより室温で30分撹拌した。次に、前記撹拌後の液に、イオン交換水に上記の量のリン酸二水素アンモニウムを溶解させた水溶液を加え、液温を70℃に昇温し、70℃で1時間撹拌した。このようにしてコロイド溶液である前駆体溶液を得た。
【0063】
この前駆体溶液を用いて、比較例1と同様の条件で焼成粉体および焼結体の作製を行うとともに各種測定を行った。焼成粉体の洗浄は行っていない。
本例で得られた焼成粉体はβ-Li3PO4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。X線回折パターンからは異相の存在は確認されなかった。
本例で得られた焼結体は200℃で2.980×10-5S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。M元素を含有しない比較例1の焼結体との対比において、イオン伝導性の明らかな向上が認められた。
【0064】
[実施例14]
(前駆体溶液の作製)
本例ではM元素としてのAlおよびGaと、Siを含有させた。
リチウム化合物として水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(高純度化学研究所製、純度99%以上)、M元素化合物として硝酸アルミニウム九水和物Al(NO3)3・9H2O(富士フイルム和光純薬社製、純度98%以上)、および硝酸ガリウムn水和物Ga(NO3)3・nH2O(富士フイルム和光純薬社製、純度99.9%)、ケイ素アルコキシドとしてテトラエトキシシランSi(OC2H5)4(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)、リン化合物としてリン酸二水素アンモニウムNH4H2PO4(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)をそれぞれ用意した。
原料物質の仕込み組成が原子比でLi:Al:Ga:Si:P=3.00:0.10:0.10:0.10:0.80となるように、水酸化リチウム一水和物3.148g、硝酸アルミニウム九水和物0.938g、硝酸ガリウムn水和物0.979g、テトラエトキシシラン0.682g、リン酸二水素アンモニウム2.302gを秤量した。50mLのイオン交換水に上記の量の水酸化リチウム一水和物を溶解させ、水酸化リチウム水溶液を得た。この水酸化リチウム水溶液に、イオン交換水に上記の量の硝酸アルミニウム九水和物を溶解させた水溶液と、イオン交換水に上記の量の硝酸ガリウムn水和物を溶解させた水溶液と、イオン交換水に上記の量のテトラエトキシシランを投入して撹拌混合した液とを加え、スターラーにより室温で30分撹拌した。次に、前記撹拌後の液に、イオン交換水に上記の量のリン酸二水素アンモニウムを溶解させた水溶液を加え、液温を70℃に昇温し、70℃で1時間撹拌した。このようにしてコロイド溶液である前駆体溶液を得た。
【0065】
この前駆体溶液を用いて、比較例1と同様の条件で焼成粉体および焼結体の作製を行うとともに各種測定を行った。焼成粉体の洗浄は行っていない。
本例で得られた焼成粉体はβ-Li3PO4型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。X線回折パターンからは異相の存在は確認されなかった。
本例で得られた焼結体は200℃で4.331×10-5S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。M元素を含有しない比較例1の焼結体との対比において、イオン伝導性の明らかな向上が認められた。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
参考のため、
図7に、比較例1、実施例1~6で得られた焼成粉体に400℃12時間の熱処理を施した粉体についてのX線回折パターンを例示する。これらはいずれもβ-Li
3PO
4型構造の結晶相を主相に持つ形態を維持していることから、400℃2時間の焼結を行った上述の各焼結体は、β-Li
3PO
4型構造の結晶相を主相に持つイオン伝導体であることが肯定される。