(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092596
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】樹脂円筒体の補強方法、熱膨張拘束体及び樹脂円筒体
(51)【国際特許分類】
F16L 9/12 20060101AFI20240701BHJP
B29C 70/32 20060101ALI20240701BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240701BHJP
B29C 63/14 20060101ALI20240701BHJP
B29C 65/70 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
F16L9/12
B29C70/32
B29C70/16
B29C63/14
B29C65/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208644
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】大堀 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】香川 琢
【テーマコード(参考)】
3H111
4F205
4F211
【Fターム(参考)】
3H111AA01
3H111BA15
3H111CB03
3H111CB04
3H111CB14
3H111CB23
3H111CC13
3H111CC17
3H111DA19
3H111EA12
4F205AC03
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4F205HA45
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4F205HL02
4F205HT11
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4F211AA36
4F211AB11B
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4F211SN03
4F211SP13
4F211TA08
4F211TC07
4F211TD11
4F211TN85
(57)【要約】
【課題】樹脂円筒体の端部を補強する端部補強の際に、繊維強化プラスチックシートの座屈を防止するとともに、繊維強化プラスチックシートと樹脂円筒体との間に形成されるギャップを小さくすることを目的とする。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなる樹脂円筒体11の端部に、加熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化プラスチックシート12を巻き回して配設する巻き回しステップと、前記繊維強化プラスチックシート12及び前記樹脂円筒体11の熱膨張を、熱膨張拘束体17で抑制しながら、加熱処理を行う加熱ステップと、を有することを特徴とする樹脂円筒体11の補強方法。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる樹脂円筒体の端部に、加熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化プラスチックシートを巻き回して配設する巻き回しステップと、
前記繊維強化プラスチックシート及び前記樹脂円筒体の熱膨張を、熱膨張拘束体で抑制しながら、加熱処理を行う加熱ステップと、
を有することを特徴とする樹脂円筒体の補強方法。
【請求項2】
前記マトリックス樹脂は、フェノキシ樹脂である、
ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【請求項3】
前記熱膨張拘束体は、前記繊維強化プラスチックシート及び前記樹脂円筒体の径方向における熱膨張を抑制するリング状部材である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【請求項4】
前記熱膨張拘束体は、更に、前記リング状部材と前記繊維強化プラスチックシートとの間に介在する熱収縮テープを含む、
ことを特徴とする請求項3に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【請求項5】
前記熱膨張拘束体としての前記リング状部材は、一端部を該樹脂円筒体の周方向に引っ張り、弾性変形した状態で、両端部が重ね合わせられている、
ことを特徴とする請求項3に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【請求項6】
前記熱膨張拘束体としての前記リング状部材は、一端部を該樹脂円筒体の周方向に引っ張り、弾性変形した状態で、両端部が重ね合わせられている、
ことを特徴とする請求項4に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【請求項7】
前記熱膨張拘束体は、前記繊維強化プラスチックシートの外周面に巻き付けられる熱収縮テープである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【請求項8】
前記熱収縮テープは、前記繊維強化プラスチックシートに巻き付けられた状態において、テープ厚み及びテープ巻き数を乗算することにより算出される層厚が、0.15mm以上である、
ことを特徴とする請求項7に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【請求項9】
前記熱膨張拘束体は、前記繊維強化プラスチックシートの外周面に巻き付けられる金属箔である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【請求項10】
前記熱膨張拘束体は、更に、前記繊維強化プラスチックシートと前記金属箔との間に介在する熱収縮テープを含む、
ことを特徴とする請求項9に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【請求項11】
前記樹脂円筒体は、中空円筒状又は中実円筒状である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【請求項12】
請求項5に記載の熱膨張拘束体。
【請求項13】
請求項6に記載の熱膨張拘束体。
【請求項14】
熱可塑性樹脂からなる樹脂円筒体と、
前記樹脂円筒体の端部に巻き回された、加熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化プラスチックシートと、
を有し、
繊維強化プラスチックシートは、皺の本数が所定値以下である、
ことを特徴とする樹脂円筒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂円筒体の補強方法などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上水、下水及びガスなどの輸送には、鋳鉄管や鋼管などの金属管が使用されてきた。しかしながら、金属管は、腐食に弱く、例えば水道管として使用した場合には、赤錆の混じった水が給水されることとなり衛生上問題があるとともに、管の寿命が短いといった問題がある。また、金属管には、重量が重く、施工性が悪いという欠点もある。
【0003】
かかる問題を解決するために、近年、ポリエチレン管、HIVP管(耐衝撃性硬質ポリ塩化ビニル管)などの樹脂管への置き換えが進んでいる。樹脂管は、単管だけで使用されることが少なく、施工現場で単管を繋いで長管とされる場合が多い。単管の継手部分である端部は、流量確保などの観点から薄肉化されることが多いため、端部補強せずに単管を繋ぐと、強度不足となる。
【0004】
特許文献1には、管路更新のために既設管に内装される液輸送管の製造方法において、熱可塑性樹脂により成形された液輸送管の受け口の外周部分を薄肉化し、この薄肉化された外周部分に補強部を形成する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、上水、下水及びガス管などの輸送管として使用されるプラスチック管の外周面に、テープ状又はシート状の強化繊維に樹脂を含侵させた強化繊維補強材を連続して螺旋状に巻き付ける方法が開示されている。
【0006】
特許文献3には、埋設及び露出水道用ポリエチレン配管において、ポリエチレン配管の外周に金属シートを巻き付けるとともに、この金属シートの外周をポリエチレンで被覆した複合管が開示されている。
【0007】
ここで、施工現場で施工する前に、予め樹脂管の端部に強化繊維シートを巻き付けて、端部補強する技術が知られている。具体的には、熱可塑性樹脂からなる樹脂円筒管の端部に加熱硬化性樹脂等からなる繊維強化プラスチックシートを巻き付け、繊維強化プラスチックシートの上から熱収縮テープを更に巻き付けた状態で、加熱処理を行うことにより、端部補強する方法(以下、従来法1ともいう)が知られている。
【0008】
図12に基づいて、従来法1について、より具体的に説明する。101は樹脂円筒管、102は繊維強化プラスチックシート、103は熱収縮テープである。上述の通り、樹脂円筒管101の端部に、繊維強化プラスチックシート102が巻き付けられ、繊維強化プラスチックシート102の上から熱収縮テープ103が巻き付けられる。
図12(a)は、強度繊維強化プラスチックシート102及び熱収縮テープ103が巻き付けられた直後の状態を示している。
【0009】
ここで、熱収縮テープ103は、繊維強化プラスチックシート102を加圧するために巻き付けられる。繊維強化プラスチックシート102は、加圧しながら加熱しないと、成形体としての強度が発現しないからである。かかる強度発現のために、熱収縮テープ103の巻き数は、一般的に、数周程度(層厚に換算すると、0.15mm未満)とされている。
【0010】
樹脂円筒管101を加熱すると、熱収縮テープ103の収縮力に抗しながら、樹脂円筒管101及び繊維強化プラスチックシート102が径方向に熱膨張する。そして、樹脂円筒管101が拡径した状態で、繊維強化プラスチックシート102は、樹脂円筒管101に密着した状態で加熱硬化する(
図12(b)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2022-154030号公報
【特許文献2】特開2003-225951号公報
【特許文献3】特開2002-36431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
樹脂円筒管101は、加熱処理後に冷却され、元の径に戻る。この際、繊維強化プラスチックシート102が樹脂円筒管101から剥離するとともに、熱収縮テープ103に押圧されることにより、座屈することがわかった(
図12(c)参照)。すなわち、樹脂円筒管101が縮径する際に、繊維強化プラスチックシート102と樹脂円筒管101との間にギャップが形成されるとともに、繊維強化プラスチックシート102がTg温度(ガラス転移温度)以上である場合には、まだ硬化しきれていないため、熱収縮テープ103に押圧されることにより、繊維強化プラスチックシート102が座屈することがわかった。
【0013】
本発明は、樹脂円筒体の端部を補強する端部補強の際に、繊維強化プラスチックシートと樹脂円筒体との間に形成されるギャップを小さくして、繊維強化プラスチックシートの座屈を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る樹脂円筒体の補強方法は、(1)熱可塑性樹脂からなる樹脂円筒体の端部に、加熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化プラスチックシートを巻き回して配設する巻き回しステップと、前記繊維強化プラスチックシート及び前記樹脂円筒体の熱膨張を、熱膨張拘束体で抑制しながら、加熱処理を行う加熱ステップと、を有することを特徴とする。
【0015】
(2)前記マトリックス樹脂は、フェノキシ樹脂である、ことを特徴とする上記(1)に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【0016】
(3)前記熱膨張拘束体は、前記繊維強化プラスチックシート及び前記樹脂円筒体の径方向における熱膨張を抑制するリング状部材である、ことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【0017】
(4)前記熱膨張拘束体は、更に、前記リング状部材と前記繊維強化プラスチックシートとの間に介在する熱収縮テープを含む、ことを特徴とする上記(3)に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【0018】
(5)前記熱膨張拘束体としての前記リング状部材は、一端部を該樹脂円筒体の周方向に引っ張り、弾性変形した状態で、両端部が重ね合わせられている、ことを特徴とする上記(3)に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【0019】
(6)前記熱膨張拘束体としての前記リング状部材は、一端部を該樹脂円筒体の周方向に引っ張り、弾性変形した状態で、両端部が重ね合わせられている、ことを特徴とする上記(4)に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【0020】
(7)前記熱膨張拘束体は、前記繊維強化プラスチックシートの外周面に巻き付けられる熱収縮テープである、 ことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【0021】
(8)前記熱収縮テープは、前記繊維強化プラスチックシートに巻き付けられた状態において、テープ厚み及びテープ巻き数を乗算することにより算出される層厚が、0.15mm以上である、ことを特徴とする上記(7)に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【0022】
(9)前記熱膨張拘束体は、前記繊維強化プラスチックシートの外周面に巻き付けられる金属箔である、ことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【0023】
(10)前記熱膨張拘束体は、更に、前記繊維強化プラスチックシートと前記金属箔との間に介在する熱収縮テープを含む、ことを特徴とする上記(9)に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【0024】
(11)前記樹脂円筒体は、中空円筒状又は中実円筒状である、ことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の樹脂円筒体の補強方法。
【0025】
(12)上記(5)に記載の熱膨張拘束体。
【0026】
(13)上記(6)に記載の熱膨張拘束体。
【0027】
(14)熱可塑性樹脂からなる樹脂円筒体と、前記樹脂円筒体の端部に巻き回された、加熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化プラスチックシートと、を有し、繊維強化プラスチックシートは、皺の本数が所定値以下である、ことを特徴とする樹脂円筒体。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、樹脂円筒体の端部を補強する端部補強の際に、繊維強化プラスチックシートと樹脂円筒体との間に形成されるギャップを小さくして、繊維強化プラスチックシートの座屈を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図9】
図7の調整機構とは異なる別の調整機構の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、本実施形態の樹脂円筒体の補強方法を実施することにより製造された端部補強樹脂円筒体の概略斜視図である。端部補強樹脂円筒体とは、樹脂円筒体の端部が補強された円筒体のことである。例えば、樹脂円筒体の端部が他の樹脂円筒体と繋ぐ継手として使用される場合、当該端部は予め減肉されていることが多い。この減肉箇所の強度補強のために、繊維強化プラスチックシートが巻かれる。ただし、樹脂円筒体の端部は、必ずしも減肉されていることを要しない。
【0031】
図1を参照して、端部補強樹脂円筒体10は、樹脂円筒体11及び繊維強化プラスチックシート12を含む。樹脂円筒体11は、中空円筒状に形成されており、例えば、配水管,導水管など管体の内部に内圧を受ける内圧管、構造材などの用途に用いることができる。
ただし、樹脂円筒体11は、中空円筒状に限るものではなく、中実円筒状であってもよい。中実円筒状の樹脂円筒体11は、例えば、構造材として用いることができる。
【0032】
(樹脂円筒体11について)
樹脂円筒体11は熱可塑性樹脂からなる。熱可塑性樹脂であれば、樹脂種及び繊維の種類は限定しない。
熱可塑性樹脂には、例えば、オレフィン系樹脂、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル、ポリアリーレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、塩化ビニルを用いることができる。オレフィン系樹脂には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)を用いることができる。また力学特性向上などの観点より、変性ポリオレフィンを用いることもできる。変性ポリオレフィンとしては、極性を付与するようポリオレフィンを変性したものであれば特に限定されないが、例えば(無水)カルボン酸、エポキシド、オキサゾリン、イソシアネート、カルボジイミド等で変性されたポリオレフィンを用いることができる。なお、ポリオレフィンは水素添加されていてもよい。
繊維には、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、アルミナ繊維などのセラミックス系の無機繊維やアラミドやビニロン、PBO繊維、超高分子量ポリエチレン樹脂、高強力ポリアリレート樹脂などの有機繊維、セルロースなどの天然繊維を用いることができ、これらの1種以上を使用することができる。
【0033】
(繊維強化プラスチックシート12について)
繊維強化プラスチックシート12は、加熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする。なお加熱硬化性樹脂は熱硬化性樹脂の前駆体(プリプレグ)を表している。マトリックス樹脂は、好ましくはフェノキシ樹脂である。フェノキシ樹脂は、現場重合型フェノキシ樹脂であってもよいし、重合済みのフェノキシ樹脂であってもよい。
マトリックス樹脂のTg温度(ガラス転移温度)は、好ましくは80℃以上、より好ましくは120℃以上である。
繊維強化プラスチックシート12に含有される強化繊維は特に限定しないが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、バサルト繊維、アルミナ繊維などのセラミックス系の無機繊維やアラミドやビニロン、PBO繊維、超高分子量ポリエチレン樹脂、高強力ポリアリレート樹脂などの有機繊維、セルロースなどの天然繊維を用いることができ、これらの1種以上を使用することができる。
【0034】
次に、本実施形態の樹脂円筒体の補強方法について、説明する。
【0035】
(巻き回しステップ)
樹脂円筒体11の端部に繊維強化プラスチックシート12を巻き付ける。ここで、繊維強化プラスチックシート12の巻き回し方向は、樹脂円筒体11の周方向であってもよいし、周方向に対して傾斜した傾斜方向であってもよい。傾斜方向の傾斜角(周方向を0度としたときの傾斜方向の角度)をX度としたとき、X度は、好ましくは45度以下である。
なお、繊維強化プラスチックシート12を樹脂円筒体11の長手方向に配設することは、補強とならないため、避けることが望ましい。
【0036】
樹脂円筒体11及び強化プラスチックシート12は、必要に応じて接着してもよい。
【0037】
ここで、樹脂円筒体11がオレフィン系樹脂によって構成されている場合、樹脂円筒体11及び繊維強化プラスチックシート12を接着することは、一般的に困難である。樹脂円筒体11及び繊維強化プラスチックシート12が接着されていない場合、端部補強樹脂円筒体10は曲げや捩れに対して脆弱となる。しかしながら、端部補強樹脂円筒体10の用途が内圧管である場合、繊維強化プラスチックシート12は、非接着の状態で巻き付けられているだけでも、樹脂円筒体11を補強し、耐圧性能が向上するため、有効な補強方法と言える。
【0038】
曲げや捩れに対する耐性が求められる用途にオレフィン系樹脂からなる樹脂円筒体11を用いる場合には、適切な接着手段を用いて、樹脂円筒体11及び繊維強化プラスチックシート12を接着すればよい。
例えば、大気プラズマ処理、コロナ処理、サンドブラストなどによる表面改質を行うことによって、樹脂円筒体11及び繊維強化プラスチックシート12を接着することができる。プラズマガスを基材表面と反応させることで、基材表面に親水性の官能基を発現させ、接着剤との親和性を高めるとともに、表面に微細な凹凸を形成することによって、接着剤との接触面積が増加するため、接着力を高めることができる。
【0039】
樹脂円筒体11として、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)を使用した場合には、樹脂円筒体11及び繊維強化プラスチックシート12の接着が比較的容易である。
接着方法は、特に限定しないが、樹脂円筒体11を熱融着させる方法、接着剤を用いる方法、プライマーを用いる方法などが考えられる。接着剤には、例えば、上述の特許文献1に記載のスチレンブタジエンゴム系接着剤を用いることができる。プライマーには、例えば、ポリオレフィンに極性基を導入した変性ポリオレフィンを主成分とする液状のプライマー(ユニストール(登録商標)三井化学社製)、ポリオレフィンを塩素化または酸変性した樹脂((ハードレン(登録商標)TOYOBO社製)、アミン系(PPX-3 セメダイン社製)、変性アクリル(Scotch-Weld(登録商標)3M社製)などを用いることが可能であり、これらは大気圧プラズマ処理や接着剤などと併せて用いることもできる。
【0040】
樹脂円筒体11及び繊維強化プラスチックシート12を接着することにより、端部補強樹脂円筒体10の曲げや捩れに対する強度を高めることができる。したがって、かかる端部補強樹脂円筒体10は、曲げや捩れに対する強度が必要な構造材として好適に用いることができる。
【0041】
(加熱ステップについて)
樹脂円筒体11及び繊維強化プラスチックシート12の熱膨張を抑制しながら、加熱処理を行う。「熱膨張を抑制する」とは、一定程度の熱膨張は許容する趣旨である。すなわち、従来法では、繊維強化プラスチックシート12の強度発現のため、熱収縮テープが巻き付けられていた。しかしながら、熱収縮テープの厚みが薄いため (一般的に層厚換算で0.15mm未満)、樹脂円筒体及び繊維強化プラスチックの熱膨張量が過大であった。この従来法よりも熱膨張が抑えられていれば、熱膨張が十分に抑制されている、と評価することができる。
加熱処理を行いながら、繊維強化プラスチックシート12に熱収縮テープによる加圧力を加えることによって、繊維強化プラスチックシート12を硬化しながら、強度発現させることができる。
なお、加熱処理には、例えば、オーブンを用いることができる。
【0042】
熱膨張を抑制する方法(熱膨張拘束体)として、熱膨張拘束体A~Eを用いることができる。これらの熱膨張拘束体A~Eのうちいずれかの手段を用いて、樹脂円筒体11及び繊維強化プラスチックシート12の熱膨張を抑制しながら、加熱処理を行うことができる。
なお、本発明は、樹脂円筒体11及び繊維強化プラスチックシート12の熱膨張率が大きい場合に、特に好適な発明である。
【0043】
(熱膨張拘束体A)
図2は、熱膨張拘束体Aの配置図である。同図を参照して、繊維強化プラスチックシート12には、熱膨張拘束体としての熱収縮テープ13が巻き付けられている。熱収縮テープ13とは、ポリオレフィン、フッ素系ポリマー、熱可塑性エラストマーなどを主原料とし、加熱時に熱収縮するテープのことである。
【0044】
熱収縮テープ13が繊維強化プラスチックシート12に巻き付けられた状態において、テープ厚みt及びテープ巻き数Nを乗算することにより算出される層厚は、好ましくは0.15mm以上であり、より好ましくは0.2mm以上であり、さらに好ましくは0.3mm以上である。層厚が増大することによって、熱膨張を拘束する効果が高まる。したがって、熱収縮テープ13の巻き数は特に限定しない。厚みが大きい熱収縮テープ13を使用した場合には、比較的少ない巻き数で熱収縮テープ13の層厚を0.15mm以上に増厚することができる。厚みが薄い熱収縮テープ13を使用した場合には、熱収縮テープ13の層厚を0.15mm以上にするために、巻き数を相対的に増やす必要がある。
【0045】
熱収縮テープ13は、所定の巻きピッチにて、スパイラルに巻くことができる(後述する他の熱膨張拘束体で利用される熱収縮テープも同様である)。スパイラルに巻くとは、繊維強化プラスチックシート12の周方向(言い換えると、樹脂円筒体11の周方向)に対して傾斜した方向に熱収縮テープ13を巻くことである。
図3は、熱収縮テープの巻き方を示した図である。繊維強化プラスチックシート12の中に描かれた矢印方向に向かって、熱収縮テープ13はスパイラルに巻かれる。同図では、一例として、熱収縮テープ13のテープ幅w、テープ厚みt及び巻きピッチpをそれぞれ25mm、0.025mm及び4.17mmとしており、テープ巻き数Nを6としている。この例では、テープ厚みt及びテープ巻き数Nを乗算した層厚は、0.15mmと算出される。
【0046】
このように、熱収縮テープ13の層厚を0.15mm以上に設定することにより、樹脂円筒体11及び繊維強化プラスチックシート12の熱膨張を抑制しながら、加熱処理を行うことができる。
【0047】
(熱膨張拘束体B)
図4は、熱膨張拘束体Bの配置図である。同図を参照して、繊維強化プラスチックシート12には、熱膨張拘束体としての積層体14が巻き付けられている。
積層体14は、熱収縮テープ及び金属箔を積層することにより構成されている。繊維強化プラスチックシート12の上に熱収縮テープを巻き付け、熱収縮テープの上に金属箔が巻き付けられている。金属箔は、樹脂円筒体11よりも弾性率が大きく、熱膨張係数が小さい。金属箔の巻き数は特に限定しないが、好ましくは、層厚が0.24mm以上となるように、金属箔を巻くことが望ましい。
【0048】
熱収縮テープの層厚は、熱膨張拘束体Aよりも薄くてよい。この場合、熱収縮テープだけでは、樹脂円筒体11及び繊維強化プラスチックシート12の熱膨張を効果的に抑制することができない。熱膨張拘束体Bでは、層厚の薄い熱収縮テープに金属箔を積層した積層体14を用いることによって、熱膨張を効果的に抑制することができる。
金属箔には、例えば、ステンレスを用いることができる。ステンレスの鋼種は、特に限定しないが、例えばSUS304を用いることができる。
金属箔は、接着剤を用いて、熱収縮テープに接着することができる。接着剤には、例えばアクリル系の粘着剤を用いることができる。
また、金属箔と接着剤が一体化した金属箔テープなどを用いることもできる。
なお、熱収縮テープを省略して、金属箔のみで熱膨張拘束体Bを構成してもよい。
【0049】
(熱膨張拘束体C)
図5は、熱膨張拘束体Cの配置図である。同図を参照して、繊維強化プラスチックシート12には、熱膨張拘束体としてのリング状部材16が取り付けられている。リング状部材16は半割状に形成されており、一端には水平方向に延びる第1フランジ部16aが形成され、他端には水平方向に延びる第2フランジ部16bが形成されている。
リング状部材16は、厚肉に形成されており、剛性が高い。したがって、樹脂円筒体11の径に合わせて、現場でリング状部材16のサイズ調整を行うことはできない。
リング状部材16には、金属を用いることができる。
【0050】
第1フランジ部16a及び第2フランジ部16bの間には、間隙が形成されている。したがって、繊維強化プラスチックシート12には、リング状部材16によって覆われていない隙間が存在する。この隙間は、例えばパテなどで埋めてもよい。パテには、例えば、エポキシ樹脂を用いることができる。
【0051】
スタッドボルト21は、第1フランジ部16a及び第2フランジ部16bを貫通して、上下方向に延びるとともに、下端部が図示しない接地面に締結されている。さらに、ナット22がスタッドボルト22に締結されることで、リング状部材16は、第1フランジ部16a及び第2フランジ部16bを介して、スタッドボルト21に固定されている。
なお、位置合わせ精度の高い半円リングを作製し、これらの半円リングを現場で取り付けることによって、間隙の発生を防止してもよい。
熱膨張拘束体Cにおいても、リング状部材16と繊維強化プラスチックシート12との間に不図示の熱収縮テープが配設されている。ただし、熱収縮テープは省略してもよい。
【0052】
(熱膨張拘束体D)
図6は、熱膨張拘束体Dの概略配置図である。
図7は、ピンの固定とリング状部材の長さを調整するピン固定・調整機構の概略図である。ただし、
図6では、ピン固定・調整機構40の一部だけを図示する。
熱膨張拘束体Dは、リング状部材17である。リング状部材17は、薄肉鋼板である点で、厚肉に形成されたリング状部材16とは異なる。リング状部材17は、予め曲げ加工によりリング状に形成されている。リング状部材17の一端には、左右両側以外を切り欠くことによって、腕部17bが形成されている。腕部17bの先端は、ピン18に巻き付けられた状態で、ピン18に固定されている。なお、薄肉鋼板の厚みによっては巻き付けることが困難であることも想定される。その際には、先端を予め円管状に加工し、その孔にピン18を通すことで固定するなどの方法も可能である。
【0053】
図6(a)に図示するように、リング状部材17は、繊維強化プラスチックシート12及び熱収縮テープ13が巻かれた樹脂円筒体11よりも周長が長く設定されているため、リング状部材17の径は一部拡径方向に撓んでおり、熱収縮テープ13及びリング状部材17の間に、隙間が形成されている。リング状部材17の腕部17bを矢印A方向に引っ張り、ピン18に巻き付けて固定する。この際、リング状部材17が弾性変形しながら周方向に引っ張られるため、隙間が縮小する。続いて、ピン18を矢印A方向に移動させると、前述の隙間が無くなり、リング状部材の一端17aの上にリング状部材17の腕部17bが乗り上げる。つまり、リング状部材17の両端が径方向において重ね合わされた状態となる(
図6(b)参照)。この状態でリング状部材の一端17aに固定されているピン固定・調整機構40に対してピン18を固定すれば、樹脂円筒体11の周長に誤差やバラつきがあっても、樹脂円筒体11を包囲する位置にリング状部材17を配設することができる。
【0054】
図7を参照しながら、ピン18を矢印A方向に移動させるピン固定・調整機構について詳細に説明する。
図7(a)はリング状部材17の腕部17bをピン18に巻き付けた直後の状態を示しており、
図7(b)はリング状部材17の長さ調整が終了した直後の状態を示している。なお、上述の通り、予め腕部17bを円管状に加工し、その孔にピン18を通すことで、リング状部材17をピン18に固定してもよい。ピン固定・調整機構40は、上述の通りリング状部材の一端17aの上に固定されており、調整ボルト41、調整ボックス42及び当接部43を有している。調整ボルト41は、ボルト頭部41a及びネジ部41bを有しており、調整ボルト41のネジ部41bは、調整ボックス42の壁部を貫通して、調整ボックス42の内部に延出している。ネジ部41bは、調整ボックス42の壁部(貫通孔部)に形成された不図示の雌ネジ部に螺合している。したがって、ボルト頭部41aを回転させると、ネジ部41bが螺進して、調整ボックス42内におけるネジ部41bの突き出し長さを調節することができる。当接部43は、ネジ部41bの先端に設けられており、ピン18に接触している。なお、調整ボックス42の幅方向両端は開口しており、当該開口から調整ボックス42の外部に向かってピン18の両端が延出しており、ピン18は矢印A方向に向かって調整ボックス42の内部を移動できるように配設されている。
【0055】
図7(a)に図示する状態において、ボルト頭部41aを回転させると、矢印A方向に調整ボルト41が螺進するため、当接部43を介してピン18を押し込むことができる。ピン18が押し込まれると、腕部17bを介してリング状部材17が矢印A方向に引っ張られて、弾性変形する。
図7(b)に図示するように、ボルト頭部41aが調整ボックス42の壁面に当接すると、調整ボルト41は回転不能となる。なお、ボルト頭部41aを逆回転させることにより、
図7(a)に図示する位置に調整ボルト41を復帰させることができる。
したがって、両矢印で示す調整代の範囲内で、リング状部材17の長さを調整することができる。
【0056】
熱膨張拘束体Dによれば、大径の樹脂円筒体11の端部補強を行うときに生じる課題、すなわち、樹脂円筒体11の周長の誤差及びバラつきといった課題を、薄肉鋼板の長さを調整して、端部を重ね合わせるだけで解決することができる。
なお、熱収縮テープを省略して、リング状部材17のみで熱膨張拘束体Dを構成してもよい(下記の熱膨張拘束体Eも同様である)。
熱膨張拘束体Dでは、撓み状態のリング状部材17を引っ張り、弾性変形させることによって、リング状部材17の周長を調整したが、調整方法はこれに限るものではない。例えば、不図示のローラにリング状部材17の端部(以下、延出薄肉鋼板ともいう)を巻き付けておき、当該ローラから延出薄肉鋼板を繰り出すことによって、リング状部材17の周長を調整してもよい。この場合も、リング状部材17の両端が重ね合わされた状態となる。
また、
図8に図示するように、当接部43を省略してもよい。同図を参照して、ボルト頭部41aは、調整ボックス42内に配設されている。ネジ部41bは、調整ボックス42のボックス外に延出しており、このネジ部41bの延出部分は、リング状部材17に固定されたリブ44の孔部に対して回転可能に支持されている。なお、当該孔部にはネジが切られていない。そして、リブ44の孔部から延出するネジ部41bに対してナット45を締結することにより、ピン18を調整ボックス42に固定することができる。この構成によれば、調整ボルト41を矢印A方向に螺進させることにより、ボルト頭部41aを介してピン18を押し込むことができる。これにより、リング状部材17の長さ調整を行うことができる。
【0057】
(熱膨張拘束体E)
熱膨張拘束体Eは、リング状部材17を引っ張り、弾性変形させた状態で、両端部を重ね合わせている点で、熱膨張拘束体Dと同じである。一方、外周長に応じたバラツキ調整を行う調整機構の構成が異なる。
図9は、調整機構の概略図である。
【0058】
同図を参照して、ピン固定・調整機構50は、スタッドボルト51、固定ナット52、固定ブラケット53、移動ブラケット54及び移動ナット55を含む。移動ブラケット54はリング状部材17の腕部17bに固定されており、移動ナット55とともに、ネジ軸部51の軸方向に移動する。固定ブラケット53は、リング状部材17の一端17aに固定されている。
【0059】
上述の構成において、移動ナット55を回転させると、移動ナット55は回転しながら矢印A方向に螺進する。そして、移動ナット55に押し込まれることにより、移動ブラケット54は回転せずに矢印A方向に移動する。そして、移動ブラケット54に固定されたリング状部材17の腕部17bが移動ブラケット54とともに矢印A方向に移動し、リング状部材17の両端が径方向において重ね合わされた状態となる。これにより、固定ブラケット53及び移動ブラケット54の間の間隙(調整代)の範囲内で、リング状部材17を弾性変形させて、長さを調整することができる。なお、スタッドボルト51及び固定ナット52に代えて、頭部を備えたボルトを用いてもよい。
【0060】
加熱処理の後に、樹脂円筒体11及び繊維強化プラスチックシート12は、冷却される。熱収縮テープ13、積層体14、リング状部材16、リング状部材17は、冷却処理の後に取り外してもよいし、取り外さずにそのままとしてもよい。
加熱処理の際に、樹脂円筒体11及び繊維強化プラスチックシート12の膨張を抑制することにより、冷却時に樹脂円筒体11と繊維強化プラスチックシート12との間に形成されるギャップを小さくすることができる。これにより、繊維強化プラスチックシート12の座屈が防止される。
【0061】
(実施例)
実施例を示して、本発明について具体的に説明する。PP(ポリプロピレン)製の丸棒(樹脂円筒体に相当する)を用いて、検証実験を行った。丸棒の実測平均径は52.45mm、実測密度は0.92g/cm3であった。
【0062】
丸棒の外周面5か所に、現場重合型フェノキシ樹脂及びPAN系の炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックシート(以下、プリプレグシートともいう)を巻き回した。巻き回し方向は、いずれも丸棒の周方向とした。巻き回し数はいずれも3層とした。FAW(Fiber Areal Weight)を150g/m2とし、RC(Resin Content)を35質量%とし、プリプレグシートの幅を20mmとした。
【0063】
各プリプレグシートの上に熱収縮テープをスパイラルに巻き付けた。熱収縮テープとして、厚みが25μm、幅が25mmの東レ製のセラピール(登録商標)を使用した。熱収縮テープの巻き数は、以下の表1に示すように、ケース1,4,5が3周、ケース2が6周、ケース3が12周とした。
【0064】
ケース4では、熱収縮テープの上からSUS304からなる金属箔を巻き付けて、厚みが80μmの粘着テープで接着した。当該金属箔の箔厚は40μmとし、幅は38mmとし、巻き数は6周とした。粘着テープの粘着剤には、アクリル系の粘着剤を使用した。
ケース5では、熱膨張拘束体Cに相当するサクションバンドを、熱収縮テープの上に配設した。サクションバンドの隙間には、エポキシ樹脂からなるパテを充填した。
【表1】
図10は、各ケース1~5の配置図である。
図10に図示する丸棒をオーブンで加熱して、プリプレグシートを硬化させた。加熱条件は、130℃×2hourとした。加熱処理の後にヒータ電源をオフして、丸棒を室温まで炉内冷却した。冷却後にリング状のプリプレグシートを丸棒から取り外した。
図11は、取り外したプリプレグシートの写真であり、写真中の番号はケース番号に対応している。
【0065】
丸棒の加熱前後における径変化量をノギス(Mitutoyo社製)で測定して、調べた。リング状のプリプレグシートの表面を観察して、皺の本数を調べた。また、ノギスを用いて、丸棒の外径とプリプレグシートの内径との差分を、周方向数か所で測定した。表2に測定結果を示した。
【表2】
ケース1は、熱収縮テープの層厚が1.5mm未満であるため、プリプレグシートが過度に座屈して、皺本数が7本となった。したがって、ケース1は、熱膨張を抑制する効果が不十分と評価した。つまり、ケース1の3周巻かれた熱収縮テープ(厚み:0.75mm)は、熱膨張拘束体としての機能がなかった。
【0066】
ケース2~3は、熱収縮テープの層厚が1.5mm以上であるため、プリプレグシートの座屈が抑えられ、皺本数をケース1よりも減らすことができた。したがって、ケース2~3は、熱膨張を抑制する効果が十分と評価した。なお、ケース2~3は、ケース1よりも径ギャップ量は大きいが、皺の本数が少ないため、熱膨張を拘束した効果が現れており、トータルのギャップ量としてはケース1よりも少ないと評価することができる。ギャップはプリプレグシートを丸棒から取り外し、丸棒外径とプリプレグシート内径との差として求められる。そのため、皴が生じているとプリプレグシート内径が小さくなるため、見かけ上のギャップは小さくなることに起因している。すなわち、ケース2~3は、ケース1と比較して、皺の本数が少なく、相対的にプリプレグシートの周長が小さくならなかったため、熱膨張を拘束する効果が十分に発現したもの、と評価することができる。
ケース2では、6周巻かれた熱収縮テープ(層厚:1.5mm)が熱膨張拘束体である。ケース3では、12周巻かれた熱収縮テープ(層厚:3.0mm)が熱膨張拘束体である。
【0067】
ケース4は、熱収縮テープ及び金属箔の積層体により、プリプレグシートの座屈が抑えられ、更に、径ギャップ量も抑えることができた。
ケース5は、熱収縮テープ及びサクションバンドにより、プリプレグシートの座屈が抑えられ、更に、径ギャップ量も抑えることができた。なお、ケース5では、パテを充填した位置に皴が集中した。したがって、熱膨張拘束体D(
図6参照)及びE(
図9参照)のように、隙間なく薄肉鋼板によって包囲する構成に変更することにより、皺の本数が減らせると推察される。
ケース4では、熱収縮テープ及び金属箔の積層体が熱膨張拘束体である。ケース5では、熱収縮テープ及びサクションバンドの積層体が熱膨張拘束体である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によって得られる端部が補強された樹脂円筒体は、薄肉化が可能となることで上水、下水及びガスなどの輸送管に好適である。またギャップ、座屈も抑制できていることから長期間の補強効果を有しており、主に地中に埋設される大径の輸送管以外にも、地上など外環境にさらされる場所に配置される小径の農業用支柱や水産用支柱などの各種支柱の補強方法、補強部材として各種の用途に幅広く用いることができる。
【符号の説明】
【0069】
10 端部補強樹脂円筒体
11 樹脂円筒体
12 繊維強化プラスチックシート
13 熱収縮テープ
14 積層体
16 17 リング状部材
16a 第1フランジ部
16b 第2フランジ部
17a リング状部材の一端
17b リング状部材の腕部
18 ピン
40 ピン固定・調整機構
41 調整ボルト
42 調整ボックス
43 当接部
44 リブ
45 ナット
50 ピン固定・調整機構
51 スタッドボルト
52 固定ナット
53 固定ブラケット
54 移動ブラケット
55 移動ナット