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特開2024-92599ポリアミド酸、ポリイミド、樹脂フィルム、金属張積層板及び回路基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092599
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】ポリアミド酸、ポリイミド、樹脂フィルム、金属張積層板及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20240701BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C08G73/10
B32B15/08 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208650
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永易 杏菜
(72)【発明者】
【氏名】王 宏遠
(72)【発明者】
【氏名】橘高 直樹
【テーマコード(参考)】
4F100
4J043
【Fターム(参考)】
4F100AB01B
4F100AB33B
4F100AK49A
4F100BA02
4F100BA04
4F100GB43
4F100JA02
4F100JG05
4J043PA04
4J043QB15
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA05
4J043RA34
4J043SA06
4J043SA47
4J043SA61
4J043SB03
4J043TA22
4J043TA32
4J043TA71
4J043TB04
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA151
4J043UA152
4J043UB021
4J043UB131
4J043UB132
4J043UB172
4J043UB401
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA041
4J043VA062
4J043WA07
4J043XA16
4J043ZA32
4J043ZA41
4J043ZA42
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】 エステル基含有酸二無水物を使用しながらもFPC材料として必要な高い靭性を有し、誘電正接が十分に低いポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】 全酸二無水物残基に対し、下記の一般式(1);
【化1】
[一般式(1)中、Arは、置換されていてもよいビフェニル骨格、ナフタレン骨格を示す]で表される酸二無水物から誘導される残基を20モル%以上含有するとともに、BPADA等の酸二無水物から誘導される残基を5~50モル%の範囲内で含有し、全ジアミン残基に対し、m-TBなどのジアミン化合物から誘導される残基を50モル%以上含有するポリアミド酸、及びこれをイミド化してなるポリイミド。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物成分から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有するポリアミド酸であって、
全テトラカルボン酸二無水物残基に対し、下記の一般式(1);
【化1】
[一般式(1)中、Arは、下式から選ばれる2価の基を示す。]
【化2】
[上記式において、Rは炭素数1~3のアルキル基を示し、mは独立に0~4の整数を示す。]
で表されるテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基を20モル%以上含有するとともに、下記の一般式(2);
【化3】
[一般式(2)中、連結基Xは、下式から選ばれる2価の基を示す。]
【化4】
で表されるテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基を5~50モル%の範囲内で含有し、
全ジアミン残基に対し、下記の一般式(3);
【化5】
[一般式(3)中、Rは独立に、炭素数1~3の1価のアルキル基もしくは炭素数1~3のアルコキシ基、又はアルケニル基を示し、nは独立に0~4の整数を示す。]
で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を50モル%以上含有することを特徴とするポリアミド酸。
【請求項2】
下記の一般式(4);
【化6】
[一般式(4)中、Yで表される環状部分は、下式から選ばれる4価の基を示す。]
【化7】
で表されるテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基を20モル%以上含有する請求項1に記載のポリアミド酸。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリアミド酸をイミド化してなるポリイミド。
【請求項4】
単層又は複数層のポリイミド層を含む樹脂フィルムであって、
前記ポリイミド層の少なくとも1層が、請求項3に記載のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するものである樹脂フィルム。
【請求項5】
温度24~26℃、湿度45~55%の環境下でスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が0.003未満であり、25μm厚みで測定した端裂抵抗が1Nを超えるものである請求項4に記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
単層もしくは複数層からなる絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の片側もしくは両側に積層されている金属層と、を備えた金属張積層板であって、
前記絶縁樹脂層の少なくとも1層が、請求項4に記載の樹脂フィルムによって構成されている金属張積層板。
【請求項7】
単層もしくは複数層からなる絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の片側もしくは両側に積層されている導体回路層と、を備えた回路基板であって、
前記絶縁樹脂層の少なくとも1層が、請求項4に記載の樹脂フィルムによって構成されている回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド酸、ポリイミド、樹脂フィルム、金属張積層板及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気、電子機器の高性能、高機能化に伴い、情報の高速伝送化が要求されており、これらに使用される部品や部材にも高速伝送への対応が求められている。高周波信号を伝送する場合、電気信号のロスや信号の遅延時間が長くなるなどの不都合が生じ易くなることから、高周波機器に使用されるフレキシブルプリント基板(FPC;Flexible Printed Circuits)などの回路基板について、高速伝送化に対応した電気特性を有するように改善が進められている。そのため、FPC材料として使用されるポリマーについても、伝送損失を低減すべく、誘電正接を下げる検討がなされている。
【0003】
分子内にエステル構造を有するポリイミド(ポリエステルイミド)は、従来の変性ポリイミド(MPI)と比較して誘電正接や吸湿率が低いことが知られている。例えば、樹脂フィルムの誘電正接を低下させるために、ポリイミド分子鎖中にエステル構造を導入することが提案されている(特許文献1~3)。
また、樹脂フィルムの低熱膨張性や低吸湿性などの特性の改善を目的として、ポリイミド分子鎖へエステル構造を導入することも提案されている(特許文献4~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-074894号公報
【特許文献2】CN112940316A
【特許文献3】特許第7183377号公報
【特許文献4】特開平10-36506号公報
【特許文献5】特開2006-336011号公報
【特許文献6】WO2010/093021号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリイミド分子鎖へエステル構造を導入するために、エステル基を含有するテトラカルボン酸二無水物(本発明において、「エステル基含有酸二無水物」と記すことがある)が用いられている。エステル基含有酸二無水物は、ポリイミドの低誘電正接化に有効なモノマーであるが、剛直であり、結晶性をとりやすい構造のため、これを使用して得られるポリイミドフィルムが脆くなり、靭性が低下するという問題があった。そのため、特にFPCの絶縁樹脂層へ適用する上で改善の余地があった。例えば特許文献1では、エステル基含有酸二無水物を用いてポリイミド分子鎖中にエステル構造を導入して誘電正接を下げているが、靭性の向上という視点はなく、しかも、実施例において10GHzでの誘電正接が0.003を上回っており、高周波信号の伝送損失の低減という観点でも満足のいくものではなかった。特許文献2は、ポリイミド分子鎖中にエステル構造だけでなくターフェニル骨格やハロゲン含有置換基を導入することによって秩序性を高めることを主眼とする発明であり、低誘電正接化や耐熱性向上には有効であるものの、剛直性が強くなりすぎる傾向があり、靭性の向上には注意が払われていない。さらに、特許文献3も靭性の向上に対して全く注意が払われていない。
【0006】
エステル基含有酸二無水物を使用したポリイミドフィルムにおいて、低誘電正接化と靭性の向上はトレードオフの関係にあり、両立が困難であった。例えば10GHzにおける誘電正接が0.003以下になるまで低誘電正接化させようとする場合、FPC材料として必要な靭性が確保できていなかった。
【0007】
従って、本発明の目的は、エステル基含有酸二無水物を使用しながらもFPC材料として必要な高い靭性を有し、誘電正接が十分に低いポリイミドフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ポリイミドを形成するためのモノマーとして、エステル基含有酸二無水物と、屈曲しやすい部位を有するテトラカルボン酸二無水物と、ビフェニル骨格を有するジアミン化合物とを所定の比率で用いることによって、ポリイミドの低誘電正接化に有効な秩序構造の形成を阻害することなく分子鎖の絡み合いのみを増加させ、低誘電正接化と靭性の確保との両立が可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明のポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物成分から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有するものであって、
全テトラカルボン酸二無水物残基に対し、下記の一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基を20モル%以上含有するとともに、下記の一般式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基を5~50モル%の範囲内で含有する。
【0010】
【化1】
【0011】
一般式(1)中、Arは、下式から選ばれる2価の基を示す。
【0012】
【化2】
【0013】
上記式において、Rは炭素数1~3のアルキル基を示し、mは独立に0~4の整数を示す。
【0014】
【化3】
一般式(2)中、連結基Xは、下式から選ばれる2価の基を示す。
【0015】
【化4】
【0016】
また、本発明のポリアミド酸は、全ジアミン残基に対し、下記の一般式(3)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を50モル%以上含有する。
【0017】
【化5】
【0018】
一般式(3)中、Rは独立に、炭素数1~3の1価のアルキル基もしくは炭素数1~3のアルコキシ基、又はアルケニル基を示し、nは独立に0~4の整数を示す。
【0019】
また、本発明のポリアミド酸は、下記の一般式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基を20モル%以上含有してもよい。
【0020】
【化6】
【0021】
一般式(4)中、Yで表される環状部分は、下式から選ばれる4価の基を示す。
【0022】
【化7】
【0023】
本発明のポリイミドは、本発明のポリアミド酸をイミド化してなるものである。
【0024】
本発明の樹脂フィルムは、単層又は複数層のポリイミド層を含む樹脂フィルムであって、前記ポリイミド層の少なくとも1層が、本発明のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するものである。
【0025】
本発明の樹脂フィルムは、温度24~26℃、湿度45~55%の環境下でスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が0.003未満であってもよく、25μm厚みで測定した端裂抵抗が1Nを超えるものであってもよい。
【0026】
本発明の金属張積層板は、単層もしくは複数層からなる絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の片側もしくは両側に積層されている金属層と、を備えた金属張積層板であって、前記絶縁樹脂層の少なくとも1層が、本発明の樹脂フィルムによって構成されている。
【0027】
本発明の回路基板は、単層もしくは複数層からなる絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の片側もしくは両側に積層されている導体回路層と、を備えた回路基板であって、前記絶縁樹脂層の少なくとも1層が、本発明の樹脂フィルムによって構成されている。
【発明の効果】
【0028】
本発明のポリアミド酸及びポリイミドは、エステル基含有酸二無水物と、屈曲しやすい部位を有するテトラカルボン酸二無水物と、ビフェニル骨格を有するジアミン化合物とを所定の比率で用いることによって、FPC材料として必要な靭性が十分に高く、極めて低い誘電正接を有する樹脂フィルムを形成できる。したがって、本発明の樹脂フィルムを利用することによって、高速伝送への対応が可能なFPC等の回路基板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
【0030】
<ポリアミド酸・ポリイミド>
本発明のポリアミド酸は、ポリイミドの前駆体であり、特定の酸二無水物成分と特定のジアミン成分とを反応させて得られるポリアミド酸であって、テトラカルボン酸二無水物残基及びジアミン残基を含むものである。
また、本発明のポリイミドは、上記ポリアミド酸をイミド化してなるものであり、特定のテトラカルボン酸二無水物残基及び特定のジアミン残基を含むものである。
本発明において、テトラカルボン酸二無水物残基とは、テトラカルボン酸二無水物から誘導された4価の基のことを表し、ジアミン残基とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基のことを表す。原料であるテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物をほぼ等モルで反応させた場合には、原料の種類とモル比に対して、ポリイミド中に含まれるテトラカルボン酸二無水物残基及びジアミン残基の種類やモル比などをほぼ対応させることができる。なお、本発明で「ポリイミド」という場合、分子構造中にイミド基を有するポリマーを意味する。
【0031】
以下、本発明の一実施の形態のポリアミド酸及びポリイミドに含まれるテトラカルボン酸二無水物残基及びジアミン残基について、その原料とともに説明する。
【0032】
(テトラカルボン酸二無水物残基)
本発明のポリアミド酸及びポリイミドは、全テトラカルボン酸二無水物残基に対し、下記の一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基を20モル%以上含有する。なお、本発明において、一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基を「酸二無水物残基(1)」と記すことがある。
【0033】
【化8】
【0034】
一般式(1)中、Arは、下式から選ばれる2価の基を示す。
【0035】
【化9】
【0036】
上記式において、Rは炭素数1~3のアルキル基を示し、mは独立に0~4の整数を示す。
【0037】
一般式(1)で表される化合物は、エステル基含有酸二無水物であり、分子内にビフェニル骨格又はナフタレン骨格と、該ビフェニル骨格又はナフタレン骨格に結合した2つのエステル構造(-CO-O-)を有している。ビフェニル骨格及びナフタレン骨格は剛直性を有し、エステル構造は分子間相互作用によってポリマー全体に秩序構造を付与する作用を有している。また、一般式(1)で表される化合物は、比較的分子量が大きいためイミド基濃度を低減できるにもかかわらず、熱膨張係数を低く抑える作用も有している。そのため、酸二無水物残基(1)を含有することによって、熱膨張係数の低減(低CTE化)が可能になるとともに、分子の秩序構造の向上と運動抑制により誘電正接を効果的に低下させること(低誘電正接化)が可能になる。
【0038】
一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の中で好ましいものとしては、例えば、p-ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無二水物)(BP-TME)、2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチル[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイル=ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-5-カルボキシラート)(TMPBP-TME)、2,6-ナフタレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(26DHN-TME)、1,3-ジヒドロ-1,3-ジオキソ-5,5’-(3,3’-ジメチル[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイル)エステル、1,3-ジヒドロ-1,3-ジオキソ-5,5’-(3,3’,5,5’-テトラメチル[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイル)エステルなどを挙げることができる。これらの中でも、BP-TME、26DHN-TMEは、熱膨張係数と誘電正接を下げる効果が大きいため、特に好ましい。なお、一般式(1)で表される化合物は、2種以上を併用してもよい。
【0039】
一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の類縁化合物として、一般式(1)中のビフェニル骨格又はナフタレン骨格にパーフルオロアルキル基、フェニル基などの置換基が存在するものが知られている。しかし、ビフェニル骨格やナフタレン骨格に嵩高いパーフルオロアルキル基、フェニル基などが結合していると、ポリイミド分子鎖の立体障害が大きくなることで結晶構造や秩序構造の形成を阻害し、低誘電正接化が困難となる弊害がある。したがって、一般式(1)中のビフェニル骨格又はナフタレン骨格の置換基としては炭素数1~3のアルキル基が好ましく、置換基を有しないこと(m=0であること)がより好ましい。
【0040】
また、一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と同様に2つのエステル構造を有する酸二無水物として、1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物(TAHQ)のように、一般式(1)中の基Arが単環のフェニレン基であるものも知られている。TAHQは、フェニレン基に2つのエステル構造が結合した構造であることから、剛直性を有するものの、ビフェニル骨格又はナフタレン骨格を有しないため、ポリイミド分子鎖間で十分なスタッキング相互作用を形成することができず、一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物に比べて分子運動抑制効果が小さい。そのため、一般式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物と組み合わせて使用すると誘電正接を下げる効果が十分に得られない。また、TAHQは一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物に比べて分子量が小さいため、相対的にポリイミドのイミド基濃度が高くなり、吸湿性と誘電正接に悪影響を与える傾向がある。
【0041】
さらに、一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物と同様に2つのエステル構造を有する酸二無水物として、一般式(1)中の基Arが3環のターフェニル構造であるターフェニルテトラカルボン酸二無水物(TPDA)も知られている。TPDAは、ターフェニル骨格に2つのエステル構造が結合した構造であることから分子量が大きく、ポリイミドのイミド基濃度の低減には有効であるものの、一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物に比べてポリイミドの結晶性が大幅に向上することで靭性向上の点で劣り、FPCとして必要な靭性を維持する効果が十分に得られない。
【0042】
本発明のポリアミド酸及びポリイミドにおける酸二無水物残基(1)の含有量は、全テトラカルボン酸二無水物残基に対して20モル%以上であり、25~75モル%の範囲内が好ましく、50~75モル%の範囲内がより好ましい。酸二無水物残基(1)の含有量が20モル%未満では、分子の秩序構造の向上と運動抑制による低誘電正接化及び低CTE化の双方の効果が十分に発揮されない。
【0043】
また、本発明のポリアミド酸及びポリイミドは、下記の一般式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基を5~50モル%の範囲内で含有する。なお、本発明において、一般式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基を「酸二無水物残基(2)」と記すことがある。
【0044】
【化10】
【0045】
一般式(2)中、連結基Xは、下式から選ばれる2価の基を示す。
【0046】
【化11】
【0047】
一般式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、分子構造中に屈曲しやすい部位を有する屈曲性酸二無水物である。分子内に屈曲しやすい部位を有することによって、ポリイミドの分子鎖に屈曲性や捻じれを付与し、分子鎖の絡み合いを増加させることによって、樹脂フィルムの高靭性化に寄与する。一般式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、連結基Xの部分で屈曲し、ポリイミド分子鎖に絡み合いを生じさせる。したがって、酸二無水物残基(1)とともに酸二無水物残基(2)を含有することによって、秩序構造を悪化させることなく、分子鎖に適度な絡み合いを付与し、低誘電正接化と高靭性化の両立を図ることができる。
【0048】
一般式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、4,4'-(4,4'-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物(BPADA)などを挙げることができる。これらの中でも、ODPA及びBPADAは、ポリマーの秩序構造を崩すことなく、分子鎖に適度な絡み合いを付与できるため特に好ましいモノマーである。また、一般式(2)で表される化合物は、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本発明のポリアミド酸及びポリイミドにおける酸二無水物残基(2)の含有量は、全テトラカルボン酸二無水物残基に対して5~50モル%の範囲内であり、10~50モル%の範囲内が好ましく、15~50モル%の範囲内がより好ましい。酸二無水物残基(2)の含有量が5モル%未満の場合、ポリイミド分子鎖に屈曲や捻じれを付与することが出来ず、分子鎖どうしの絡み合いが十分に生じないため、FPC材料として必要な靭性が発現しない。一方、酸二無水物残基(2)の含有量が50モル%を超える場合、ポリイミド分子鎖の絡み合いが増加して高靭性化するが、分子鎖の秩序性が乱れ、誘電正接が増大する。
【0050】
また、本発明のポリアミド酸及びポリイミドは、下記の一般式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基を20モル%以上含有することが好ましい。なお、本発明において、一般式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基を「酸二無水物残基(4)」と記すことがある。
【0051】
【化12】
【0052】
一般式(4)中、Yで表される環状部分は、下式から選ばれる4価の基を示す。
【0053】
【化13】
【0054】
一般式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、分子中にYで表される環状部分として剛直な構造であるベンゼン環又はナフタレン骨格を有する剛直性酸二無水物である。そのため、酸二無水物残基(4)は、構造的に平面性と剛直性とに優れ、分子鎖間のスタッキング相互作用を増大させることができ、ポリイミドの誘電正接を低くすることができる。また、ポリイミド分子骨格の平面性についても高めることができるため、熱膨張係数を低くすることができる。しかしながら、酸二無水物残基(4)が多くなりすぎると、ポリイミド分子鎖の絡み合いが少なくなり、FPC材料として必要な靭性が発現しないため、低誘電正接化と高靭性化の両立を図る上で配合量が限定される。酸二無水物残基(1)及び酸二無水物残基(2)とともに、酸二無水物残基(4)を限定的な量で含有させる場合には、酸二無水物残基(4)がポリイミドの秩序構造の維持に対して補助的な役割を担い、誘電正接の悪化を回避しながら靭性の向上を図ることができる。
【0055】
一般式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、ベンゼン-1,2,3,4-テトラカルボン酸無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。一般式(4)で表される化合物は、2種以上を併用してもよい。一般式(4)で表される化合物の中でも、PMDAは、構造的に平面性と剛直性とに優れ、分子鎖間のスタッキング性を増大させることができるため、ポリイミドの誘電正接を低減するという観点で特に好ましいモノマーである。
【0056】
本発明のポリアミド酸及びポリイミドにおいて、酸二無水物残基(4)を含有量は、全テトラカルボン酸二無水物残基に対して20モル%以上が好ましく、20~35モル%の範囲内がより好ましく、20~30モル%の範囲内が最も好ましい。酸二無水物残基(4)の含有量が20モル%未満の場合、酸二無水物残基(2)の作用が強くなってポリイミド分子鎖の剛直性が低下し、秩序構造の形成が困難となり、誘電正接が悪化したり、ポリイミド分子鎖が配向しにくくなることで熱膨張係数の増大を招いたりすることがある。一方、酸二無水物残基(4)の含有量が35モル%を超える場合、相対的に酸二無水物残基(1)及び酸二無水物残基(2)の含有量が低下することから、低誘電正接化と高靭性化の両立を図ることが困難となり、発明の効果が得られなくなる。
【0057】
(他のテトラカルボン酸二無水物残基)
本発明のポリアミド酸及びポリイミドは、上記酸二無水物残基(1)、酸二無水物残基(2)及び必要に応じて含まれる酸二無水物残基(4)のほかに、発明の効果を損なわない範囲で、一般にポリイミドの原料として用いられるテトラカルボン酸二無水物の残基を含有することができる。例えば、本発明のポリアミド酸及びポリイミドは、分子内にビフェニル骨格を有するテトラカルボン酸二無水物[ただし、一般式(1)で表されるものを除く]から誘導される残基を任意で含有することができる。そのようなテトラカルボン酸残基としては、例えば3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸二無水物から誘導される残基を挙げることができる。これらの残基は、低誘電正接化と高靭性化の両立を図る観点から、全テトラカルボン酸二無水物残基に対して20モル%以下の量で含有することが好ましく、5~20モル%の範囲内で含有することがより好ましい。また、一般式(2)で表される化合物であるODPAに対し、全テトラカルボン酸二無水物残基に対して20モル%以下の含有量となるように少量のBPDAを併用すると、誘電正接を増加させずに樹脂フィルムの靭性を大幅に向上させることが可能となる。
なお、分子内にハロゲン原子を有するテトラカルボン酸二無水物については、ポリイミド分子鎖へ柔軟性を付与し、運動性抑制効果を低減することで誘電正接を悪化させるため、配合比率が20モル%以上の主要モノマーとしての使用は回避することが好ましい。
【0058】
以上のとおり、本発明のポリアミド酸及びポリイミドでは、エステル基を含有する酸二無水物残基(1)と、屈曲性を有する酸二無水物残基(2)と、必要に応じて剛直性の高い酸二無水物残基(4)を所定の比率で含有させることによって、ポリイミドフィルムの誘電正接の低減と靭性向上とのバランスを図っている。そのため本発明では、特にテトラカルボン酸二無水物残基の配合比率が最も重要である。ここで、全酸無水物残基の合計量をM(100モル%)、酸二無水物残基(1)の比率(モル%)をM1、酸二無水物残基(2)の比率(モル%)をM2、酸二無水物残基(4)の比率(モル%)をM4、とすると、10GHzにおいて0.003以下という非常に低い誘電正接と、FPC材料に要求される靭性の確保とを両立させるという本発明の効果を十分に発現させる観点から、
M ≧ (M1+M2) ≧ 0.65×M … (i)
の関係が成り立つことが好ましく、
M ≧ (M1+M2) ≧ 0.70×M … (ii)
の関係が成り立つことがより好ましい。
【0059】
また、酸二無水物残基(4)を含有する場合は、発明の効果を十分に発現させる観点から、
M ≧ (M1+M2+M4) ≧ 0.75×M … (iii)
の関係が成り立つことが好ましく、
M ≧ (M1+M2+M4) ≧ 0.80×M … (iv)
の関係が成り立つことがより好ましく、
M ≧ (M1+M2+M4) ≧ 0.95×M … (v)
の関係が成り立つことが最も好ましい。
ここで、M1とM2の合計と、M4との関係は、発明の効果を十分に発現させる観点から、
(M1+M2) ≧ 2×M4 … (vi)
の関係を満たすことが好ましい。式(vi)を満たさない場合は、靭性の向上が不十分になることがある。
また、M1とM4の合計と、M2との関係は、発明の効果を十分に発現させる観点から、
(M1+M4) ≧ M2 … (vii)
の関係を満たすことが好ましく、
(M1+M4) ≧ 1.5×M2 … (viii)
の関係を満たすことが好ましい。式(vii)を満たさない場合は、誘電正接の低減が不十分になることがある。
【0060】
さらに、上記いずれの場合においても酸二無水物残基(1)と酸二無水物残基(2)との二つの残基の相対的なモル比としては、発明の効果を十分に発現させる観点から、
酸二無水物残基(1):酸二無水物残基(2)=95:5~40:60 … (ix)
の関係を満たすことが好ましく、
酸二無水物残基(1):酸二無水物残基(2)=85:15~60:40 … (x)
の関係を満たすことがより好ましい。式(ix)を満たさない場合は、低誘電正接化と靭性の向上とのバランスが崩れ、両立ができなくなることがある。
【0061】
(ジアミン残基)
本発明のポリアミド酸及びポリイミドは、全ジアミン残基に対し、下記の一般式(3)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を50モル%以上含有する。なお、本発明において、一般式(3)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を「ジアミン残基(3)」と記すことがある。
【0062】
【化14】
【0063】
一般式(3)中、Rは独立に、炭素数1~3の1価のアルキル基もしくは炭素数1~3のアルコキシ基、又はアルケニル基を示し、nは独立に0~4の整数を示す。なお、上記一般式(3)において、末端の二つのアミノ基における水素原子は置換されていてもよく、例えば-NR(ここで、R,Rは、独立してアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0064】
一般式(3)で表されるジアミン化合物は、ビフェニル骨格による剛直構造を有し、ポリイミドの平面性と剛直性とを向上させることで、分子鎖間のスタッキング相互作用を向上させることができる。そのため、ジアミン残基(3)は運動性が低く、ポリイミドの誘電正接を低くすることができる。また、ポリイミドの分子骨格の平面性を高めることによって、面方向の熱膨張係数を低くすることができる。
また、ジアミン残基(3)を含有することによって、モノマー由来単位の分子量を大きくできるのでイミド基濃度が低下し、低吸湿性のポリイミドが得られ、分子鎖内部の水分を低減できる点においても誘電正接を下げることができる。
さらに、酸二無水物残基(1)及び酸二無水物残基(2)がジアミン残基(3)と共通する構造としてビフェニル骨格を含む場合には、ポリマー全体の秩序構造が形成されやすくなることから、低誘電正接化に有効である。
【0065】
一般式(3)で表されるジアミン化合物の好ましい例としては、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EB)、2,2’-ジエトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EOB)、2,2’-ジプロポキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-POB)、2,2’-ジ-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-NPB)、2,2’-ジビニル-4,4’-ジアミノビフェニル(VAB)、4,4’-ジアミノビフェニルなどを挙げることができる。これらの中でも、樹脂フィルムの熱膨張係数を下げ、誘電正接を下げる効果が大きなものとして、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)が最も好ましい。
【0066】
なお、一般式(3)で表されるジアミン化合物の類縁化合物として、一般式(3)中のビフェニル骨格に嵩高いパーフルオロアルキル基、フェニル基などの置換基が存在するものが知られている。しかし、ビフェニル骨格に嵩高いパーフルオロアルキル基、フェニル基などが結合して存在すると、ポリイミド分子鎖の立体障害が大きくなり、結晶構造や秩序構造の形成を阻害することで、誘電正接の改善が困難となる弊害がある。したがって、一般式(3)中のビフェニル骨格の置換基としては炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
【0067】
また、芳香環が単結合した構造を有するジアミン化合物として、4,4’’-ジアミノ-p-テルフェニル(DATP)のように主骨格が3環のターフェニル構造であるものも知られている。このようにターフェニル骨格を有するジアミン化合物は、ポリイミドのイミド基濃度の低減には有効であるものの、一般式(3)で表されるジアミン化合物に比べてポリイミドの結晶性が高まり、靭性が悪化する。また、分子サイズが2環のビフェニル構造よりも大きくなることで、秩序構造の形成が困難となり、誘電正接を下げる効果が十分に得られない。
【0068】
本発明のポリアミド酸及びポリイミドにおけるジアミン残基(3)の含有量は、全ジアミン残基に対して50モル%以上であり、60モル%以上が好ましく、70~95モル%の範囲内がより好ましい。ジアミン残基(3)の含有量が50モル%未満では、熱膨張係数と誘電正接を低下させる効果が十分に発揮されない。なお、熱膨張係数と誘電正接を低下させるという観点では、全ジアミン残基中に占めるジアミン残基(3)の割合を出来るだけ大きくすることが好ましく、ジアミン残基(3)の含有量が100モル%であってもよい。その一方で、屈曲性ジアミン(後述)などの他のジアミン化合物を併用する場合は、ジアミン残基(3)の含有量を、全ジアミン残基に対して95モル%以下に設定することが好ましい。
【0069】
また、本発明のポリアミド酸及びポリイミドは、ジアミン残基(3)とともに、屈曲性を有するジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含有することが好ましい。なお、本発明において、屈曲性を有するジアミン化合物を「屈曲性ジアミン」、そこから誘導されるジアミン残基を「屈曲性ジアミン残基」と記すことがある。屈曲性ジアミンとしては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル等のジアミン化合物を好ましく挙げることができる。これらの屈曲性ジアミンは、芳香環の連結基として、屈曲部位となりやすい-O-、-S-、-CO-、-SO-、-SO-、-CH-、-C(CH-、-NH-等の2価の基を有している。このため、ポリイミド分子鎖の屈曲や回転の自由度を高め、ポリイミド分子鎖の柔軟性を向上させることで、分子鎖間の相互作用と絡み合い量のバランスをとることができる。これらの屈曲性ジアミンの中でも、秩序構造の形成を補助する作用を有し、誘電正接を下げる効果も期待できることから、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-M)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)が特に好ましい。
【0070】
本発明のポリアミド酸及びポリイミドにおいて、屈曲性ジアミンを使用する場合の屈曲性ジアミン残基の含有量は、全ジアミン残基に対して30モル%以下が好ましく、5~30モル%の範囲内がより好ましい。屈曲性ジアミン残基の含有量が30モル%を超える場合、相対的にジアミン残基(3)の含有量が低下することから、熱膨張係数の低減と低誘電正接化を図ることが困難となる。
なお、屈曲性ジアミン残基の含有量が30モル%を超えて大きくなっても、ポリイミドフィルムの靭性はあまり向上しないことが確認されている。このことから、靭性の改善には、ポリイミド分子鎖中のテトラカルボン酸二無水物残基の部分における屈曲性や回転性が重要であると推測される。
【0071】
(他のジアミン残基)
本発明のポリアミド酸及びポリイミドは、ジアミン残基(3)及び屈曲性ジアミンから誘導されるジアミン残基のほかに、発明の効果を損なわない範囲で一般にポリイミドの原料として用いられるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含有することができる。ただし、分子内にハロゲン原子を有するジアミン化合物については、ポリイミド分子鎖の立体障害を増加させ、秩序構造の形成を阻害することで誘電正接を悪化させるため、配合比率が20モル%以上の主要モノマーとしての使用は回避することが好ましい。
【0072】
本発明のポリアミド酸及びポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸二無水物残基及びジアミン残基の種類や、2種以上のテトラカルボン酸二無水物残基又はジアミン残基を含有する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、吸湿性、誘電特性、靭性、熱膨張係数、貯蔵弾性率、引張り弾性率等を制御することができる。また、本発明のポリアミド酸及びポリイミドにおいて、構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0073】
また、本発明のポリアミド酸及びポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物残基及びジアミン残基が、芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される芳香族テトラカルボン酸二無水物残基及び芳香族ジアミンから誘導される芳香族ジアミン残基からなることが好ましい。ポリアミド酸及びポリイミドに含まれるテトラカルボン酸二無水物残基及びジアミン残基を、いずれも芳香族基を有する残基のみとすることで、樹脂フィルムの高温環境下での寸法精度を向上させることができる。
【0074】
(ポリアミド酸及びポリイミドの合成)
一般にポリイミドは、酸二無水物とジアミン化合物を溶媒中で反応させ、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を生成したのち加熱閉環(イミド化)させることにより製造できる。例えば、酸二無水物とジアミン化合物をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることでポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~30重量%の範囲内、好ましくは10~20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0075】
合成されたポリアミド酸は溶媒可溶性に優れるので反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500cps~100,000cpsの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0076】
また、本発明のポリアミド酸は、樹脂組成物の形態とすることができる。樹脂組成物は、任意成分として、例えば、有機溶媒、有機フィラー、無機フィラー、閉環化剤、イミド化触媒、硬化剤、可塑剤、エラストマー、カップリング剤、顔料、難燃剤、放熱剤等を含有することができる。有機溶媒としては、重合反応に用いる有機溶媒と同様のものを使用できる。有機溶媒の含有量としては特に制限されるものではないが、ポリアミド酸の濃度が5~30重量%程度となるようにすることが好ましい。
【0077】
ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。なお、ポリアミド酸のイミド化を加熱により行う場合、樹脂組成物は実質的に閉環化剤及びイミド化触媒を含有しないことが好ましい。ここで「実質的に閉環化剤及びイミド化触媒を含有しない」とは、閉環化剤及びイミド化触媒の含有量がイミド化を進行させ得る量よりも十分に少ないことを意味し、例えば0.1重量%以下である。
【0078】
(イミド基濃度)
本発明のポリイミドのイミド基濃度は、例えば30重量%以下であることが好ましく、25重量%以下であることがより好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(-(CO)-N-)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が30重量%を超えると、極性基の増加によって吸湿性が増加する。上記酸二無水物とジアミン化合物の組み合わせを選択することによって、ポリイミド中の分子の配向性を制御することで、イミド基濃度低下に伴うCTEの増加を抑制し、低吸湿性を担保することができる。
【0079】
(重量平均分子量)
本発明のポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~400,000の範囲内が好ましく、50,000~350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、フィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際にフィルム厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0080】
[樹脂フィルム]
本発明の一実施の形態に係る樹脂フィルムは、単層又は複数層のポリイミド層を含む樹脂フィルムであって、ポリイミド層の少なくとも1層が、本発明のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するものであり、好ましくは、主たるポリイミド層が、本発明のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有することがよい。ここで、「樹脂成分の主成分」とは、全樹脂成分に対して50重量%を超えて含まれる成分を意味する。また、「主たるポリイミド層」とは、樹脂フィルム全体の厚みの50%超、好ましくは60~100%の厚みを占める層を意味する。主たるポリイミド層は、本発明のポリイミドを、全樹脂成分に対して70重量%以上含有することが好ましく、80重量%以上含有することがより好ましく、樹脂成分の全てが本発明のポリイミドからなることが最も好ましい。主たる層が本発明のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有することによって、樹脂フィルム全体の低誘電正接化と靭性の確保を図ることができる。
なお、本発明の樹脂フィルムは、任意成分として、例えば、有機フィラー、無機フィラー、可塑剤、エラストマー、カップリング剤、顔料、難燃剤、放熱剤等を含有することができる。
【0081】
本発明の樹脂フィルムは、第1のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するポリイミド層(A)と、該ポリイミド層(A)に積層されており、第1のポリイミドとは異なる第2のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するポリイミド層(B)と、を含む多層樹脂フィルムとしてもよい。この場合、ポリイミド層(B)が、樹脂成分の主成分として本発明のポリイミドを含有する主たるポリイミド層であることが好ましい。また、ポリイミド層(B)は、非熱可塑性ポリイミド層であることが好ましい。ここで、「非熱可塑性ポリイミド」とは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定された30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、かつ、ガラス転移温度+30℃以内の温度域での貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上を示すものを意味する。「熱可塑性ポリイミド」とは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定された30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、かつ、ガラス転移温度+30℃以内の温度域での貯蔵弾性率が1.0×10Pa未満を示すものを意味する。
【0082】
本発明の多層樹脂フィルムは、ポリイミド層(A)/ポリイミド層(B)の2層が積層された構造でもよいし、ポリイミド層(A)/ポリイミド層(B)/ポリイミド層(A)の3層積層構造でもよく、さらに任意のポリイミド層が積層されていてもよい。本発明のポリイミドで構成されたポリイミド層(B)は、気体透過性が比較的に低く、ポリイミド層(A)との間に溶剤やイミド化水が滞留することで、発泡が生じ易くなる傾向がある。そこで、ポリイミド層(A)における樹脂成分の主成分を以下に述べる構成とすることで、ポリイミド層(B)の気体透過性が低いとしても発泡現象の発生を効果的に抑制することができる。
【0083】
<ポリイミド層(A)の構成>
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とを反応させて得られる非熱可塑性ポリイミドであることが好ましく、酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基とジアミン化合物から誘導されるジアミン残基とを含有する。
【0084】
(テトラカルボン酸二無水物残基)
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、全テトラカルボン酸二無水物残基中に、ピロメリット酸二無水物から誘導されたテトラカルボン酸二無水物残基(PMDA残基)と、分子内にケトン基(-CO-)を有するテトラカルボン酸二無水物から誘導されたテトラカルボン酸二無水物残基(本発明において、「ケトン基含有残基」と記すことがある)とを含有する。
【0085】
ここで、PMDA残基は、構造的に平面性と剛直性とに優れ、分子鎖間のスタッキング相互作用を増大させることができ、ポリイミドの誘電正接を低くすることができる。また、高温での弾性率を比較的高いレベルに維持することができ、発泡現象の発生を抑制することが期待できる。しかしながら、PMDA残基のみでは分子鎖の絡み合いが少なく、金属層とのピール強度が低下し易く、また他のポリイミド層との間の層間の接着性が低下することで、発泡現象が生じ易くなる。一方、ケトン基含有残基は、ケトン基を有しているために、隣接して積層されるポリイミド層中に含まれる官能基との相互作用や化学反応によって、ポリイミド層間の接着性を向上させ、発泡現象の発生を抑制できる。また、2種以上のテトラカルボン酸二無水物残基を併用することで分子鎖の絡み合いを向上させ、ピール強度が向上することが期待できる。また分子配列の規則性が低下することで電場に対する運動性が抑制され低誘電正接化についても期待できる。そこで、ポリイミド層(A)を構成するポリイミドにおいては、低誘電正接と発泡現象抑制とピール強度の向上とをバランス良く実現するために、テトラカルボン酸二無水物残基として、PMDA残基とケトン基含有残基とを併用する。
【0086】
PMDA残基は、全テトラカルボン酸二無水物残基中に好ましくは5モル%以上90モル%以下、より好ましくは20モル%以上80モル%以下で含有させる。PMDA残基の全テトラカルボン酸二無水物残基中の含有量がこの範囲を下回ると、誘電特性や300℃及び350℃での貯蔵弾性率の低下が懸念され、この範囲を上回ると、発泡現象が発生し易くなり、またピール強度が低下する傾向がある。
【0087】
また、ケトン基含有残基は、全テトラカルボン酸二無水物残基中に好ましくは10モル%以上95モル%以下、より好ましくは20モル%以上80モル%以下で含有させる。ケトン基含有残基の全テトラカルボン酸二無水物残基中の含有量がこの範囲を下回ると、発泡現象の抑制、ピール強度の向上が難しくなり、この範囲を上回ると、誘電特性が悪化する傾向がある。
【0088】
ここで、ケトン基含有残基としては、例えば、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,3’,3,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(パラフェニレンジカルボニル)ジフタル酸二無水物、4,4’-(メタフェニレンジカルボニル)ジフタル酸二無水物等から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基を挙げることができる。これらの中でも、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基が好ましい。また、ケトン基と相互作用する性質を有する官能基としては、ケトン基との間で、例えば分子間力による物理的相互作用や、共有結合による化学的相互作用などを生じ得る官能基であれば特に制限はないが、その代表例としてアミノ基(-NH)を挙げることができる。
【0089】
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドにおいて、全テトラカルボン酸二無水物残基中のPMDA残基並びにケトン基含有残基の含有量は、低誘電正接化と発泡現象の発生抑制とピール強度の向上とをバランス良く実現するために、合計で、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上である。
【0090】
(その他のテトラカルボン酸二無水物残基)
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、上記PMDA残基及びケトン基含有残基以外に、一般にポリイミドの原料として用いられる酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸二無水物残基を含有することができる。
【0091】
(ジアミン残基)
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、上記一般式(3)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基(3)を含有することが好ましい。この場合、ジアミン残基(3)は、全ジアミン残基中に好ましくは5モル%以上90モル%以下、より好ましくは20モル%以上80モル%以下で含有させることがよい。全ジアミン残基中のジアミン残基(3)の含有量がこの範囲を下回ると、ポリイミド層(A)の誘電正接や面方向の熱膨張係数を低くすることが難しくなり、この範囲を上回ると、剛直性が高くなり過ぎて、分子鎖の絡み合い量が少なくなるため、ポリイミド層(A)の金属層とのピール強度が低下する。また、ジアミン残基部分の配列の規則性が高まることで電場に対する応答性が変化し誘電正接が悪化しやすくなる。
【0092】
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、全ジアミン残基中に、一般式(3)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基(3)以外に、前述の屈曲性ジアミンから誘導されるジアミン残基を含有することが好ましい。
【0093】
(その他のジアミン残基)
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、上記ジアミン残基以外に、一般にポリイミドの原料として用いられるジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有することができる。
【0094】
(テトラカルボン酸二無水物残基とジアミン残基の比率)
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドにおいて、剛直なモノマーである一般式(3)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基(3)の含有量とPMDA残基の含有量の合計(T1)は、全テトラカルボン酸二無水物残基の含有量と全ジアミン残基の含有量との合計に対し90モル%以上であることが望ましい。90モル%以上であると、平面性の向上と分子鎖間のスタッキング性の向上とにより、高温での貯蔵弾性率を高く維持することができる。また、ポリイミド層(A)を構成するポリイミドにおいて、ジアミン残基(3)の含有量とPMDA残基の含有量の合計をT1、屈曲性ジアミンから誘導されるジアミン残基の含有量をT2としたとき、比率(T1/T2)が1より大きいことが望ましい。該比率が1を超えることで、屈曲性のモノマーと比較し剛直性のモノマー割合が多くなり、分子鎖の運動が抑制されるため、誘電正接をより低く抑えることが可能となる。
【0095】
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、ポリイミド層(B)を構成するポリイミドと同様の任意成分を含有することができる。
【0096】
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定される300℃における貯蔵弾性率E’が、好ましくは1.0×10Pa以上、より好ましくは5.0×10Pa以上、且つ350℃における貯蔵弾性率E’が、好ましくは1.0×10Pa以上であることがよい。300℃における貯蔵弾性率E’を1.0×10Pa以上、且つ350℃における貯蔵弾性率E’を1.0×10Pa以上とすることにより、熱処理時に溶媒やイミド化水の気化による体積膨張により発泡現象が生ずることを抑制することができる。
【0097】
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドの重量平均分子量は、好ましくは10,000以上400,000以下、より好ましくは50,000以上350,000以下である。重量平均分子量がこの範囲を下回るとポリイミドのフィルムが脆化し易くなり、上回ると粘度が増加し、塗工時に厚みムラ、スジ等の不良となることが懸念される。重量平均分子量の測定はゲル浸透クロマトグラフィー装置により行うことができる。
【0098】
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、ポリイミド層(B)を構成する本発明のポリイミドと同様に、常法により製造することができる。
【0099】
ポリイミド層(A)の熱膨張係数(CTE)は、好ましくは60ppm/K以下、より好ましくは30ppm/K以上55ppm/K以下である。熱膨張係数を60ppm/K以下とすることにより、樹脂フィルムや金属張積層板の寸法変化率の制御が容易となる。ポリイミド層(A)の熱膨張係数(CTE)の調整は、主に、ポリイミドを構成するポリイミド中のテトラカルボン酸二無水物残基やジアミン残基の種類や存在割合、イミド化工程における熱処理条件によって調節することができる。
【0100】
ポリイミド層(A)を構成するポリイミドは、例えば回路基板の配線層に接する接着層となるため、銅の拡散を抑制するために完全にイミド化された構造が最も好ましい。但し、ポリイミドの一部がアミド酸となっていてもよい。そのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm-1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm-1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出される。
【0101】
<樹脂フィルムの形態>
本発明の樹脂フィルム(多層樹脂フィルムを含む。以下、同様である)は、絶縁樹脂からなるフィルム(シート)であってもよく、例えば、銅箔などの金属箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂シート等の基材に積層された状態であってもよい。
【0102】
<熱膨張係数(CTE)>
本発明の樹脂フィルムは、例えば回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、反りの発生や寸法安定性の低下を防止するために、熱膨張係数(CTE)が30ppm/K未満であることが好ましく、より好ましくは1ppm/K以上30ppm/K未満の範囲内であり、最も好ましくは10ppm/K以上25ppm/K未満の範囲内である。樹脂フィルムの熱膨張係数(CTE)が30ppm/K以上であると、反りが発生したり、寸法安定性が低下したりする。使用する原料の組合せ、厚み、乾燥・硬化条件を適宜変更することで所望のCTEを有する樹脂フィルムとすることができる。
【0103】
<誘電正接>
本発明の樹脂フィルムは、例えば、回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、高周波信号の伝送時における誘電損失を低減するために、フィルム全体として、温度24~26℃、湿度45~55%の環境下でスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が、0.003以下であることが好ましく、0.003未満であることがより好ましい。回路基板の伝送損失を改善するためには、特に絶縁樹脂層の誘電正接を制御することが重要であり、10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が、好ましくは0.003以下、より好ましくは0.003未満であることで、伝送損失を下げる効果が増大する。従って、樹脂フィルムを高周波回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合、伝送損失を効率よく低減できる。10GHzにおける誘電正接が0.003を超えると、樹脂フィルムを回路基板の絶縁樹脂層として適用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスが大きくなるなどの不都合が生じやすくなる。
【0104】
<比誘電率>
本発明の樹脂フィルムは、例えば回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、インピーダンス整合性を確保するために、温度24~26℃、湿度45~55%の環境下でスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの10GHzにおける比誘電率(ε)が4.0以下であることが好ましい。10GHzにおける比誘電率(ε)が4.0を超えると、樹脂フィルムを回路基板の絶縁樹脂層として適用した際に、誘電損失の悪化に繋がり、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスが大きくなるなどの不都合が生じやすくなる。
【0105】
<端裂抵抗>
本発明の樹脂フィルムは、25μm厚みで測定した端裂抵抗が1Nを超えることが好ましく、2N以上であることがより好ましい。端裂抵抗は樹脂フィルムの靭性を示す指標の一つであるため、端裂抵抗の値が高いほど高靭性であり、端裂抵抗が1Nを超える値であることにより、FPC材料として十分な靭性を具備することとなる。なお、端裂抵抗は後述の実施例に記載した方法によって測定できる。
【0106】
(引張弾性率)
樹脂フィルムの引張り弾性率は、2.0~10.0GPaの範囲内が好ましく、4.0~9.0GPaの範囲内がより好ましい。引張弾性率が2.0GPa未満の場合、ハンドリング性が低下する。引張弾性率が10.0GPaを超えると、基材と樹脂フィルムを積層したときに反りの発生や寸法安定性が低下したりする。
【0107】
<厚み>
本発明の樹脂フィルムの厚みは、特に制限はなく、例えば5~60μmの範囲内が好ましく、15~50μmの範囲内がより好ましい。
多層樹脂フィルムの場合、ポリイミド層(A)の厚みは、例えば1~15μmの範囲内が好ましく、2~10μmの範囲内がより好ましい。ポリイミド層(B)は、絶縁樹脂層の全厚みに対して好ましくは50%超、より好ましくは60%以上の厚みを有することがよい。
【0108】
[樹脂フィルムの製造方法]
本発明の樹脂フィルムの製造方法の好ましい態様として、例えば、以下の[1]~[3]を例示することができる。
[1]支持基材に、ポリアミド酸溶液を塗布・乾燥することを1回ないし複数回繰り返し行った後、イミド化して樹脂フィルムを製造する方法。
[2]支持基材に、ポリアミド酸溶液を塗布・乾燥することを1回ないし複数回繰り返し行った後、ポリアミド酸のゲルフィルムを支持基材から剥がし、イミド化して樹脂フィルムを製造する方法。
[3]多層押出により、同時にポリアミド酸溶液を多層に積層した状態で塗布・乾燥した後、イミド化を行うことによって樹脂フィルムを製造する方法(以下、多層押出法)。
【0109】
上記[1]の方法は、例えば、次の工程1a~1c;
(1a)支持基材にポリアミド酸溶液を塗布し、乾燥させる工程と、
(1b)支持基材上でポリアミド酸を熱処理してイミド化することによりポリイミド層を形成する工程と、
(1c)支持基材とポリイミド層とを分離することにより樹脂フィルムを得る工程と、
を含むことができる。
【0110】
上記[2]の方法は、例えば、次の工程2a~2c;
(2a)支持基材にポリアミド酸溶液を塗布し、乾燥させる工程と、
(2b)支持基材とポリアミド酸のゲルフィルムとを分離する工程と、
(2c)ポリアミド酸のゲルフィルムを熱処理してイミド化することにより樹脂フィルムを得る工程と、
を含むことができる。
【0111】
上記[1]の方法又は[2]の方法において、工程1a又は工程2aを複数回繰り返し行うことによって、支持基材上にポリアミド酸の積層構造体を形成することができる。なお、ポリアミド酸溶液を支持基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0112】
上記[3]の方法は、上記[1]の方法の工程1a、又は[2]の方法の工程2aにおいて、多層押出により、同時にポリアミド酸の積層構造体を塗布し、乾燥させる以外は、上記[1]の方法又は[2]の方法と同様に実施できる。
【0113】
本実施の形態で製造される樹脂フィルムは、支持基材上でポリアミド酸のイミド化を完結させることが好ましい。ポリアミド酸の樹脂層が支持基材に固定された状態でイミド化されるので、イミド化過程におけるポリイミド層の伸縮変化を抑制して、樹脂フィルムの厚みや寸法精度を維持することができる。
【0114】
[金属張積層板]
本発明の一実施の形態に係る金属張積層板は、絶縁樹脂層と、その片面又は両面に積層された金属層と、を備えた金属張積層板であり、絶縁樹脂層が、単層又は複数層のポリイミド層を含むとともに、ポリイミド層の少なくとも1層が、本発明のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するものである。
【0115】
金属張積層板の好ましい態様として、前記絶縁樹脂層が、前記金属層に接するポリイミド層(A)と、該ポリイミド層(A)に積層されたポリイミド層(B)を含む複数のポリイミド層を有し、ベース層として機能する主たるポリイミド層であるポリイミド層(B)を構成するポリイミドが、本発明のポリイミドであるものを挙げることができる。ここで、ポリイミド層(A)及びポリイミド層(B)の構成は、多層樹脂フィルムで説明した内容と同様である。このような金属張積層板は、熱膨張係数(CTE)が低く、誘電正接が低いにもかかわらず高靭性であるポリイミド層(B)を有することによって、高周波信号伝送に用いられるFPC材料として特に有用である。
【0116】
金属張積層板におけるポリイミド層(A)の厚みは、特に制限はなく、例えば1~15μmの範囲内が好ましく、2~10μmの範囲内がより好ましい。ポリイミド層(B)は、絶縁樹脂層の全厚みに対して好ましくは50%超、より好ましくは60%以上の厚みを有することがよい。
【0117】
(金属層)
本発明の金属張積層板を構成する金属層としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。なお、後述する回路基板における配線層の材質も金属層と同様である。
【0118】
金属層の厚みは特に限定されるものではないが、例えば銅箔に代表される金属箔を用いる場合、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは5μm以上25μm以下の範囲内がよい。生産安定性及びハンドリング性の観点から金属箔の厚みの下限値は5μmとすることが好ましい。なお、銅箔を用いる場合は、圧延銅箔でも電解銅箔でもよい。また、銅箔としては、市販されている銅箔を用いることができる。
【0119】
また、金属層のポリイミド層(A)に接する面における十点平均粗さ(Rzjis)は、1.2μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましい。金属層が金属箔を原料とする場合、表面粗さRzjisを1.2μm以下にすることで、高密度実装に対応する微細配線加工が可能となり、また、高周波信号伝送時の伝送損失を低減できるため、高周波信号伝送用の回路基板への適用が可能となる。
【0120】
また、金属層は、例えば、防錆処理や、接着力の向上を目的として、例えばサイディング、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等による表面処理を施しておいてもよい。
【0121】
本発明の金属張積層板は、常法に従って製造することができ、例えば、以下の[1]、[2]の方法を例示することができる。
【0122】
[1]金属層となる金属箔に、ポリアミド酸溶液を塗布・乾燥することを、1回もしくは複数回繰り返した後、イミド化してポリイミド絶縁層を形成した金属張積層板を製造する方法。
【0123】
[2]金属層となる金属箔に、多層押出により同時にポリアミド酸溶液を多層に積層した状態で塗布・乾燥した後、イミド化を行うことによってポリイミド絶縁層を形成した金属張積層を製造する方法(以下、多層押出法)。
【0124】
上記[1]の方法は、例えば、次の工程(1a)、(1b):
(1a)金属箔にポリアミド酸溶液を塗布し、乾燥させる工程と、
(1b)金属箔上でポリアミド酸を熱処理してイミド化することによりポリイミド層を形成する工程と、を含むことができる。この場合、工程(1a)の乾燥工程における加熱条件と、特に工程(1b)のイミド化の際の加熱条件を調整することにより、ポリイミドの面内配向をコントロールして、ポリイミドの複屈折率やCTEなどの特性を制御することが可能になる。
【0125】
上記[1]の方法において、ポリイミド層(A)を構成するポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液と、ポリイミド層(B)を構成するポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液について、工程(1a)を繰り返し行うことによって、金属箔上にポリアミド酸の積層構造体を形成することができる。なお、ポリアミド酸溶液を金属箔上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0126】
上記[2]の方法は、上記[1]の方法の工程(1a)において、多層押出により、ポリイミド層(A)を構成するポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液と、ポリイミド層(B)を構成するポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液を同時に塗布し、乾燥させる以外は、上記[1]の方法と同様に実施できる。
【0127】
このように製造される金属張積層板は、金属箔上でポリアミド酸のイミド化を完結させることによって、ポリアミド酸の樹脂層が金属箔に固定された状態でイミド化されるので、イミド化過程におけるポリイミド層の伸縮変化を抑制して、ポリイミド絶縁層の厚みや寸法精度を維持することができる。
【0128】
[回路基板]
本発明の金属張積層板は、主にFPCなどの回路基板材料として有用である。本発明の金属張積層板の金属層を常法によってパターン状に加工して配線層を形成することによって、本発明の実施の一形態である回路基板を製造できる。本発明の金属張積層板の金属層が配線に加工されている回路基板も本発明の一態様となる。
すなわち、本発明の回路基板は、単層又は複数層のポリイミド層を含む絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に設けられている配線層と、を備えており、ポリイミド層の少なくとも1層が、本発明のポリイミドを樹脂成分の主成分として含有するものである。例えば、絶縁樹脂層が上記ポリイミド層(B)を含んでいればよい。この場合、絶縁樹脂層と配線層との接着性を高めるために、絶縁樹脂層における配線層に接する層は、ポリイミド層(A)であることがよい。
【実施例0129】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0130】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV-II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%~90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0131】
[ガラス転移温度(Tg)、貯蔵弾性率及びポリイミドフィルムの非熱可塑性、熱可塑性の分類]
ガラス転移温度は、5mm×70mmのサイズのポリイミドフィルムを、動的粘弾性測定装置(DMA:TAインスツルメント社製、商品名;RSA G2)を用いて、30℃から400℃まで昇温速度4℃/分、周波数1Hzで測定を行い、弾性率変化(tanδ)が最大となる温度をガラス転移温度とした。なお、DMAを用いて測定された30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、ガラス転移温度+30℃以内の温度域での貯蔵弾性率が1.0×10Pa未満を示すものを「熱可塑性」とし、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、ガラス転移温度+30℃以内の温度域での貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上を示すものを「非熱可塑性」とした。
【0132】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(日立ハイテクテクノロジー社(旧セイコーインスツルメンツ社製)、商品名;TMA/SS6100)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から260℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。
【0133】
[比誘電率及び誘電正接の測定]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名;E8363C)及びスプリットポスト誘電体共振器(SPDR共振器)を用いて、周波数10GHzにおけるポリイミドフィルムの比誘電率(ε)および誘電正接(Tanδ)を測定した。
なお、調湿時のε及びTanδは、測定に使用したポリイミドフィルムを温度;24~26℃、湿度;45~55%の条件下で、24時間放置した後に測定したものである。
【0134】
[銅箔の表面粗度の測定]
銅箔の表面粗度は、AFM(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名;Dimension Icon型SPM)、プローブ(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名;TESPA(NCHV)、先端曲率半径10nm、ばね定数42N/m)を用いて、タッピングモードで、銅箔表面の80μm×80μmの範囲で測定し、十点平均粗さ(Rzjis)を求めた。
【0135】
[引張り弾性率]
ストログラフR-1(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、幅12.7mm×長さ127mmのポリイミドフィルムを温度23℃、相対湿度50%RHの環境下、50mm/minで引張り試験を実施し算出した。
【0136】
[端裂抵抗]
幅20mm×長さ200mmのポリイミドフィルムを温度23℃、相対湿度50%RHの環境下で24時間調湿し、測定フィルムを得た。専用の試験治具を用い、治具の屈曲部に測定フィルムをかけ、ストログラフR-1(株式会社東洋精機製作所製)で速度200mm/minで引張り、端裂抵抗を測定した。試験片数は5とし、平均値を算出した。
【0137】
[ポリイミド層の厚みの測定]
銅張積層板について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムを短冊状に切り出し、樹脂包埋した後、ミクロトームにてフィルム厚み方向の切断を行い約100nmの超薄切片を作製した。作製した超薄切片について、日立ハイテクテクノロジー社製SEM(SU9000)のSTEM機能を用いて、加速電圧30kVで観察を行い、ポリイミド各層の厚みを各5点測定し、その平均値を各ポリイミド層の厚みとし、各層の和を多層ポリイミドフィルムの厚みとした。
【0138】
[イミド基濃度の計算]
イミド基部を(-(CO)-N-)とし、以下の式より算出した。
イミド基濃度(重量%)=(イミド基部分子量/ポリイミドの構造全体の分子量)×100
【0139】
実施例及び比較例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
BP-TME:p-ビフェニレンビス(トリメリット酸物エステル酸無水物)
26DHN-TME:2,6-ナフタレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3',4,4'‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BPADA:4,4'-(4,4'-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物
ODPA:4,4'-オキシジフタル酸無水物
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
m-TB:2,2'‐ジメチル‐4,4'‐ジアミノビフェニル
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
【0140】
(合成例1)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、7.8166gのm-TB(0.03682モル)及び10.7636gのTPE-R(0.03682モル)並びに重合後の固形分濃度が12重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、4.6984gのBTDA(0.01458モル)及び12.7214gのPMDA(0.05832モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Aを得た。ポリアミド酸溶液Aの溶液粘度は8,500cpsであった。
【0141】
(合成例2)
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、2.7701gのm-TB(0.01305モル)及び15.2580gのTPE-R(0.05219モル)並びに重合後の固形分濃度が12重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、13.6386gのBPDA(0.04636モル)及び4.3333gのPMDA(0.01987モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液Bを得た。ポリアミド酸溶液Bの溶液粘度は1600cpsであった。
【0142】
[実施例1]
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、6.7149gのm-TB(0.03159モル)及び0.6837gのBAPP(0.00166モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に12.4637gのBP-TME(0.02292モル)、0.8526gのBPADA(0.00164モル)、1.7855gのPMDA(0.00819モル)を添加した後、室温で6時間攪拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液1を得た。ポリアミド酸溶液1の粘度は42784cpsであった。
【0143】
[実施例2~16]
表1に示す原料組成とした他は、実施例1と同様にして、ポリアミド酸溶液2~16を得た。
【0144】
比較例1、2
表1に示す原料組成とした他は、実施例1と同様にして、ポリアミド酸溶液17、18を得た。
【0145】
【表1】
【0146】
[実施例17]
銅箔1(電解銅箔、厚み;12μm、樹脂側の表面粗さRzjis;0.6μm)の上に、ポリアミド酸溶液1を硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を10分間で行い、イミド化を完結し、銅張積層板19を得た。この際、フィルム表面に発泡は見られなかった。次に得られた銅張積層板19について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルム19を調製した。ポリイミドフィルム19の各種評価結果は以下のとおりである。
ε;3.31、Tanδ;0.0025、CTE;13ppm/K、Tg;245℃、引張り弾性率;8.5MPa、端裂抵抗;2N
なお、ポリイミドフィルム19の貯蔵弾性率を測定した結果、「非熱可塑性」と判定された。
【0147】
[実施例18~32]
ポリアミド酸溶液2~16を使用したこと以外、実施例17と同様にして、ポリイミドフィルム20~34を得た。ポリイミドフィルム20~34の各種評価結果は表2に示す。
なお、ポリイミドフィルム20~34の貯蔵弾性率を測定した結果、いずれも、「非熱可塑性」と判定された。
【0148】
比較例3
ポリアミド酸溶液17を使用したこと以外、実施例17と同様にして、ポリイミドフィルム35を得た。ポリイミドフィルム35の各種評価結果は表2に示す。
【0149】
比較例4
ポリアミド酸溶液18を使用したこと以外、実施例17と同様にして、ポリイミドフィルム36を得た。ポリイミドフィルム36の各種評価結果は表2に示す。
【0150】
【表2】
【0151】
[実施例33]
銅箔1上に、銅箔と接する第1層としてポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。次に第1層上に第2層であるポリアミド酸溶液1を硬化後の厚みが21μmとなるように均一に塗布した後、120℃で2分間加熱乾燥して溶媒を除去した。更に、第2層上に第3層であるポリアミド酸溶液Bを硬化後厚みが2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。続いて120℃から360℃まで段階的な熱処理を10分間で行い、イミド化を完結し、多層ポリイミドを有する銅張積層板37を得た。この際、フィルム表面に発泡は見られなかった。
得られた多層ポリイミドを有する銅張積層板37を用いて初期ピール強度を測定した結果、0.92kN/mであった。また多層ポリイミドを有する銅張積層板37について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、多層ポリイミドフィルム37を調製した。
なお、第1層としてポリアミド酸溶液Aを硬化して作製されるポリイミドフィルムの300℃における貯蔵弾性率は、8.3×10Paであり、350℃における貯蔵弾性率は1.9×10Paである。また、このポリイミドフィルムは「非熱可塑性」と判定された。
【0152】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。