(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092743
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】マルチ荷電粒子ビーム装置と通信可能なプロセッサシステム、およびその方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20240701BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/28 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208879
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】酒井 薫
(72)【発明者】
【氏名】大崎 真由香
(72)【発明者】
【氏名】川野 源
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101EE03
5C101FF02
5C101HH11
5C101HH25
5C101HH38
5C101HH40
5C101HH43
5C101HH44
5C101JJ06
(57)【要約】
【課題】
マルチ荷電粒子ビーム装置で発生するクロストークの影響を軽減する。
【解決手段】
マルチ荷電粒子ビーム装置と通信可能なプロセッサシステムは、第2走査領域からの2次電子を第1検出器が検出したことで生じる第1クロストーク、の影響軽減として、第2画像を用いて、第1クロストークで生じた第1ゴーストを前記第1画像から認識する。そしてプロセッサシステムは、前記第1ゴーストの第1発生領域を修正する、又は第1発生領域より外側に検出した欠陥候補位置がある場合は、欠陥候補位置を欠陥位置として出力する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のメモリ資源と、1以上のプロセッサと、を有し、マルチ荷電粒子ビーム装置と通信可能なプロセッサシステムであって、
前記マルチ荷電粒子ビーム装置は、
第1荷電粒子ビームを試料上の第1走査領域に照射し、
前記第1荷電粒子ビームの照射と並行して、第2荷電粒子ビームを前記試料上の第2走査領域に照射し、
第1画像を生成するため、第1検出器によって、少なくとも前記第1走査領域からの2次電子を検出し、
第2画像を生成するため、第2検出器によって、少なくとも前記第2走査領域からの2次電子を検出する、
装置であり、
前記プロセッサは、
前記第1画像と前記第2画像と、を前記メモリ資源に格納し、
前記第2走査領域からの2次電子を前記第1検出器が検出したことで生じる第1クロストーク、の影響軽減として、
(A)前記第2画像を用いて、前記第1クロストークで生じた第1ゴーストを前記第1画像から認識し、
(B)前記第1ゴーストの第1発生領域を、修正する、
プロセッサシステム。
【請求項2】
請求項1記載のプロセッサシステムであって、
前記(A)は、前記第1発生領域と、前記第1発生領域に含まれる画素毎の前記第1ゴーストの第1発生強度と、を取得することを含み、
前記(B)は、前記第1発生領域内の前記画素毎に、当該画素の輝度から前記第1発生強度を差し引く、ことを含む、
プロセッサシステム。
【請求項3】
請求項2記載のプロセッサシステムであって、
前記(A)の第1発生領域の取得は、
(A1)前記第1画像とゴーストの特徴から、ゴースト候補画像を生成し、
(A2)前記ゴースト候補画像と、前記第2画像と、に基づいて、前記第1発生領域を取得し、
ここで、前記(A2)は、前記ゴースト候補画像の相対位置の補正を行いつつ、前記ゴースト候補画像と前記第2画像との照合スコアを算出する、ことを含む、
プロセッサシステム。
【請求項4】
請求項2記載のプロセッサシステムであって、
前記(A)の第1発生領域の取得は、
(A3)前記第2画像から、実像候補画像を生成し、
(A4)前記実像候補画像と、前記第1画像と、に基づいて、前記第1発生領域を取得し、
ここで、前記(A4)は、前記実像候補画像の相対位置の補正を行いつつ、前記実像候補画像と前記第1画像との照合スコアを算出する、ことを含む、
プロセッサシステム。
【請求項5】
請求項3又は4記載のプロセッサシステムであって、
前記マルチ荷電粒子ビーム装置はさらに、
前記第1荷電粒子ビーム及び前記第2荷電粒子ビームの照射と並行して、第3荷電粒子ビームを前記試料上の第3走査領域に照射し、
第3画像を生成するため、第3検出器によって、少なくとも前記第3走査領域からの2次電子を検出し、
前記プロセッサはさらに、
前記第3画像を前記メモリ資源に格納し、
前記第3走査領域からの2次電子を前記第1検出器が検出したことで生じる第2クロストーク、の影響軽減として、
(C)前記第3画像を用いて、前記第2クロストークで生じた第2ゴーストを前記第1画像から認識し、
(D)前記第1画像内の領域である、前記第2ゴーストの第2発生領域を、補正する、
プロセッサシステム。
【請求項6】
請求項3記載のプロセッサシステムであって、
前記試料は半導体ウェハであり、
前記(A1)の前記ゴースト候補画像の生成は、前記第1画像に含まれる画素の輝度又は当該輝度に基づいて生成された信号、を対象とした、少なくとも、微分処理、フーリエ変換、ウェーブレット変換の1つの処理を用いて行われる、
プロセッサシステム。
【請求項7】
請求項4記載のプロセッサシステムであって、
前記試料は半導体ウェハであり、
前記(A3)の前記実像候補画像の生成は、前記第1画像に含まれる画素の輝度又は当該輝度に基づいて生成された信号、を対象とした、少なくとも、微分処理、フーリエ変換、ウェーブレット変換の1つの処理を用いて行われる、
プロセッサシステム。
【請求項8】
請求項3記載のプロセッサシステムであって、
前記照合スコアは、前記相対位置の補正後の前記ゴースト候補画像から算出される位相、及び前記第2画像から算出される位相に基づいて算出される、
プロセッサシステム。
【請求項9】
請求項4記載のプロセッサシステムであって、
前記照合スコアは、前記相対位置の補正後の前記実像候補画像から算出される位相、及び前記第2画像から算出される位相以下に基づいて算出される、
プロセッサシステム。
【請求項10】
請求項1記載のプロセッサシステムであって、
前記プロセッサは、
(E)前記第2画像から、前記第1ゴーストに対応する領域である欠損領域を特定し、
(F)前記欠損領域内の画素毎に、前記第1発生領域に含まれる画素毎の前記第1ゴーストの第1発生強度を補填する、
プロセッサシステム。
【請求項11】
1以上のメモリ資源と、1以上のプロセッサと、を有し、マルチ荷電粒子ビーム装置と通信可能なプロセッサシステムであって、
前記マルチ荷電粒子ビーム装置は、
第1荷電粒子ビームを試料上の第1走査領域に照射し、
前記第1荷電粒子ビームの照射と並行して、第2荷電粒子ビームを前記試料上の第2走査領域に照射し、
第1画像を生成するため、第1検出器によって、少なくとも前記第1走査領域からの2次電子を検出し、
第2画像を生成するため、第2検出器によって、少なくとも前記第2走査領域からの2次電子を検出する、
装置であり、
前記プロセッサは、
前記第1画像と前記第2画像と、を前記メモリ資源に格納し、
前記第1画像内の欠陥候補位置を検出し、
前記第2走査領域からの2次電子を前記第1検出器が検出したことで生じる第1クロストーク、の影響軽減として、
(1)前記第2画像を用いて、前記第1クロストークで生じた第1ゴーストを前記第1画像から認識し、
(2)前記第1ゴーストの第1発生領域より外側に前記欠陥候補位置がある場合は、当該欠陥候補位置を欠陥位置として出力する、
プロセッサシステム。
【請求項12】
請求項11記載のプロセッサシステムであって、
前記プロセッサは、前記第1クロストークの影響軽減として、
(3)前記第1発生領域より内側に、前記欠陥候補位置が含まれる場合は、前記欠陥候補位置を欠陥として出力しない、
プロセッサシステム。
【請求項13】
請求項11記載のプロセッサシステムであって、
前記欠陥候補位置の検出は、基準画像と前記第1画像とを比較することで行われ、
前記基準画像は、前記試料の設計データに基づいて生成される、
プロセッサシステム。
【請求項14】
1以上のメモリ資源と、1以上のプロセッサと、を有し、マルチ荷電粒子ビーム装置と通信可能なプロセッサシステムにおけるクロストーク補正方法であって、
前記マルチ荷電粒子ビーム装置は、
第1荷電粒子ビームを試料上の第1走査領域に照射し、
前記第1荷電粒子ビームの照射と並行して、第2荷電粒子ビームを前記試料上の第2走査領域に照射し、
第1画像を生成するため、第1検出器によって、少なくとも前記第1走査領域からの2次電子を検出し、
第2画像を生成するため、第2検出器によって、少なくとも前記第2走査領域からの2次電子を検出する、
装置であり、
前記プロセッサで実行される前記クロストーク補正方法は、
前記第1画像と前記第2画像と、を前記メモリ資源に格納し、
前記第2走査領域からの2次電子を前記第1検出器が検出したことで生じる第1クロストーク、の影響軽減として、
(A)前記第2画像を用いて、前記第1クロストークで生じた第1ゴーストを前記第1画像から認識し、
(B)前記第1画像内の領域である、前記第1ゴーストの第1発生領域を、補正する、
クロストーク補正方法。
【請求項15】
請求項14記載のクロストーク補正方法であって、
前記(A)は、前記第1発生領域と、前記第1発生領域に含まれる画素毎の前記第1ゴーストの第1発生強度と、を取得することを含み、
前記(B)は、前記第1発生領域内の前記画素毎に、当該画素の輝度から前記第1発生強度を差し引く、ことを含む、
クロストーク補正方法。
【請求項16】
請求項15記載のクロストーク補正方法であって、
前記(A)の第1発生領域の取得は、
(A1)前記第1画像とゴーストの特徴から、ゴースト候補画像を生成し、
(A2)前記ゴースト候補画像と、前記第2画像と、に基づいて、前記第1発生領域を取得し、
ここで、前記(A2)は、前記ゴースト候補画像の相対位置の補正を行いつつ、前記ゴースト候補画像と前記第2画像との照合スコアを算出する、ことを含む、
クロストーク補正方法。
【請求項17】
請求項15記載のクロストーク補正方法であって、
前記(A)の第1発生領域の取得は、
(A3)前記第2画像から、実像候補画像を生成し、
(A4)前記実像候補画像と、前記第1画像と、に基づいて、前記第1発生領域を取得し、
ここで、前記(A4)は、前記実像候補画像の相対位置の補正を行いつつ、前記実像候補画像と前記第1画像との照合スコアを算出する、ことを含む、
クロストーク補正方法。
【請求項18】
請求項16又は17記載のクロストーク補正方法であって、
前記マルチ荷電粒子ビーム装置はさらに、
前記第1荷電粒子ビーム及び前記第2荷電粒子ビームの照射と並行して、第3荷電粒子ビームを前記試料上の第3走査領域に照射し、
第3画像を生成するため、第3検出器によって、少なくとも前記第3走査領域からの2次電子を検出し、
前記プロセッサによる前記クロストーク補正方法はさらに、
前記第3画像を前記メモリ資源に格納し、
前記第3走査領域からの2次電子を前記第1検出器が検出したことで生じる第2クロストーク、の影響軽減として、
(C)前記第3画像を用いて、前記第2クロストークで生じた第2ゴーストを前記第1画像から認識し、
(D)前記第1画像内の領域である、前記第2ゴーストの第2発生領域を、補正する、
クロストーク補正方法。
【請求項19】
請求項16記載のクロストーク補正方法であって、
前記試料は半導体ウェハであり、
前記(A1)の前記ゴースト候補信号の抽出は、前記第1画像に含まれる画素の輝度又は当該輝度に基づいて生成された信号、を対象とした、少なくとも、微分処理、フーリエ変換、ウェーブレット変換の1つの処理を用いて行われる、
クロストーク補正方法。
【請求項20】
請求項17記載のクロストーク補正方法であって、
前記試料は半導体ウェハであり、
前記(A4)の前記実像候補信号の抽出は、前記第1画像に含まれる画素の輝度又は当該輝度に基づいて生成された信号、を対象とした、少なくとも、微分処理、フーリエ変換、ウェーブレット変換の1つの処理を用いて行われる、
クロストーク補正方法。
【請求項21】
請求項16記載のクロストーク補正方法であって、
前記照合スコアは、前記相対位置の補正後の前記ゴースト候補画像から算出される位相、及び前記第2画像から算出される位相に基づいて算出される、
クロストーク補正方法。
【請求項22】
請求項17記載のクロストーク補正方法であって、
前記照合スコアは、前記相対位置の補正後の前記実像候補画像から算出される位相、及び前記第2画像から算出される位相以下に基づいて算出される、
クロストーク補正方法。
【請求項23】
請求項14記載の方法であって、
前記プロセッサによる前記クロストーク補正方法はさらに、
(E)前記第2画像から、前記第1ゴーストに対応する領域である欠損領域を特定し、
(F)前記欠損領域内の画素毎に、前記第1発生領域に含まれる画素毎の前記第1ゴーストの第1発生強度を補填する、
クロストーク補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ荷電粒子ビーム装置と通信可能なプロセッサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製品の多機能化、高速・大容量化、小型化の進展に伴い、検査対象となる半導体ウェハ上に形成される回路パターンの微細化、複雑化が急速に進んでいる。半導体ウェハの開発、生産ラインにおいては、高歩留まり安定生産と信頼性確保を目的として、ウェハ上の不良を検出する検査、又はウェハ上の観察が行われているが、回路パターンの微細化に伴い、検出すべき欠陥の寸法も相対的に小さくなっており、検査装置には、更なる高感度化の要求が高まっている。なお、高感度化のニーズはウェハ観察でも存在する。
【0003】
微細パターンを有する被検査体に存在する欠陥を検出する装置として、光学式検査装置がある。光学式検査装置は、波長の短いレーザ光を被検査体に照射し、その反射光を検出して画像化し、画像処理により欠陥を検出する。しかし、レーザ光による高感度化には限界がある。
【0004】
光学式検査装置の限界を超える装置として、電子線検査装置がある。電子線検査装置は、被検査体上へ1次電子ビーム(荷電粒子ビームの一例である)を照射し、照射スポットから発生する2次電子を検出して画像化し、欠陥を検出する。これは、レーザ光に比べ、分解能の高い画像を得ることができる。
【0005】
従来、電子線検査装置による検査又は観察はスループットが課題であったが、近年は、複数の電子ビームを1枚の半導体ウェハに照射し、複数の照射スポットから発生する2次電子を複数の検出器で検出することで広範な画像を一括取得及び検査を行うマルチ電子ビームによる検査装置も存在する。しかし、マルチ電子ビームによる検査装置には、2次電子の各々を対応する検出器で同時に検出する際に、他のビームの2次電子が混入する、いわゆるクロストークが発生するという本質的な課題がある。クロストークはノイズの要因となり、検査画像の画質を劣化させるとともに、欠陥検出の際の感度阻害要因となる。
【0006】
これに対応する従来技術として、特許文献1に記載の方法がある。特許文献1に開示のマルチ電子ビーム検査装置では、クロストークの影響により発生する像(本願ではゴーストと呼ぶ)を含む被検査画像と合成参照画像とを比較することで、欠陥検出を行う。なお、前述の合成参照画像は、参照画像(設計データより生成)に対して被検査画像以外の2次電子画像を疑似的なゴースト象となるように合成することで生成される。なお、当該合成の割合に相当する意味を持つゲインは、2次元電子画像取得のための1次電子ビームの照射の前に、1次電子ビームを照射することで行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された方法は、以下の少なくとも1つの課題を有する。
(課題1)マルチ電子ビームけん査装置で得られた2次電子画像には、ゴーストが含まれたままであるため、利便性が悪い。以下が具体例である。
(1)ゴーストがユーザ又はプログラムによる2次電子画像の観察のノイズとなるため、観察の邪魔となる。
(2)試料がパターンを持つ半導体ウェハで、プログラムによる自動測長(例えばパターン間の距離やパターンの幅)を行おうとした場合に、ゴーストを測長の始点や終点に相当する部位(パターンでいえばパターンの端が例)と誤認識してしまう。もしその誤認識がパターン間の真ん中に生じたゴーストで発生するのであれば、パターン間の測長値は半分となるため、もはや自動測長(および自動測長に基づいた欠陥検出や検査)が成立しない。
【0009】
(課題2)試料の帯電に由来するクロストークの影響が強くなってしまう。特許文献1のゲインの取得には、撮像用とは「別に」1次電子ビームを照射するため、結果として試料の帯電に由来するクロストークの影響が強くなってしまうことがある。
【0010】
(課題3)クロストークの影響の時系列変化に追従することが難しい。特許文献1のゲインの取得には、撮像より「前に」1次電子ビームを照射するため、ゲイン取得後からのクロストーク影響の時間変化に追従することが難しい。特にクロストークが試料の帯電に由来する場合、試料の荷電量が時間変化するため、試料帯電由来のクロストークの場合、そしてその影響が設計データから事前に推定できない場合、当該課題が顕著となる。
【0011】
本発明の目的は、これら課題の少なくとも1つを解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一つの視点では、本発明は以下である。
1以上のメモリ資源と、1以上のプロセッサと、を有し、マルチ荷電粒子ビーム装置と通信可能なプロセッサシステムであって、
前記マルチ荷電粒子ビーム装置は、
第1荷電粒子ビームを試料上の第1走査領域に照射し、
前記第1荷電粒子ビームの照射と並行して、第2荷電粒子ビームを前記試料上の第2走査領域に照射し、
第1画像を生成するため、第1検出器によって、少なくとも前記第1走査領域からの2次電子を検出し、
第2画像を生成するため、第2検出器によって、少なくとも前記第2走査領域からの2次電子を検出する、
装置であり、
前記プロセッサは、
前記第1画像と前記第2画像と、を前記メモリ資源に格納し、
前記第2走査領域からの2次電子を前記第1検出器が検出したことで生じる第1クロストーク、の影響軽減として、
(A)前記第2画像を用いて、前記第1クロストークで生じた第1ゴーストを前記第1画像から認識し、
(B)前記第1ゴーストの第1発生領域を、修正する、
プロセッサシステム。
【0013】
また、別な視点では本発明は以下である。
1以上のメモリ資源と、1以上のプロセッサと、を有し、マルチ荷電粒子ビーム装置と通信可能なプロセッサシステムであって、
前記マルチ荷電粒子ビーム装置は、
第1荷電粒子ビームを試料上の第1走査領域に照射し、
前記第1荷電粒子ビームの照射と並行して、第2荷電粒子ビームを前記試料上の第2走査領域に照射し、
第1画像を生成するため、第1検出器によって、少なくとも前記第1走査領域からの2次電子を検出し、
第2画像を生成するため、第2検出器によって、少なくとも前記第2走査領域からの2次電子を検出する、
装置であり、
前記プロセッサは、
前記第1画像と前記第2画像と、を前記メモリ資源に格納し、
前記第1画像内の欠陥候補位置を検出し、
前記第2走査領域からの2次電子を前記第1検出器が検出したことで生じる第1クロストーク、の影響軽減として、
(1)前記第2画像を用いて、前記第1クロストークで生じた第1ゴーストを前記第1画像から認識し、
(2)前記第1ゴーストの第1発生領域より外側に前記欠陥候補位置がある場合は、当該欠陥候補位置を欠陥位置として出力する、
プロセッサシステム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前述の1以上の課題を解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1におけるマルチ電子ビーム検査システムの概念構成図である。
【
図2】実施例1における電子光学系の構成模式図である。
【
図3】マルチ電子ビーム装置における課題を示すクロストークの説明図である。
【
図4】実施例1におけるクロストーク補正の処理フロー図である。
【
図5】
図4におけるクロストーク補正の処理手順の具体例である。
【
図6】実施例1におけるクロストーク補正の他の処理フロー図である。
【
図7】実施例1における画像照合の詳細処理を説明する図である。
【
図8】実施例1におけるクロストーク補正による処理結果を示す図である。
【
図9】実施例2におけるゴースト情報を欠陥判定に活用する例を説明する図である。
【
図10】実施例3における設計データ活用によるゴースト認識処理を説明する図である。
【
図11】実施例3における設計データを活用したゴースト認識処理の詳細フローである。
【
図12】実施例3における設計データを活用したゴースト特定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面に用いて説明する。なお、以下の例は理解の容易化のため、主に以下の具体例について説明するが、本発明の権利範囲は以下に限定されるものではない。
荷電粒子:電子。
マルチ荷電粒子ビーム装置:マルチ電子ビーム装置(
図1の10)。
プロセッサシステム:プロセッサシステム(
図1の20)。なお、プロセッサシステムが行う処理は画像補正に加えて欠陥検出を伴った検査も行う。
試料:微細回路パターンを有する半導体ウェハ。
2次電子:試料より継続的に放出されることでビーム状となっている2次電子の群(2次電子ビームと呼ぶ)
【0017】
なお、以後の説明では、画像の何か(ゴーストや領域が例)を認識することを、画像の何かを特定すると表現することがある。
【実施例0018】
図1は、本実施例におけるマルチ電子ビーム検査システムの概念構成図である。
図1において、マルチ電子ビーム検査システム100は、マルチ電子ビーム装置10とプロセッサシステム20で構成される。さらに、マルチ電子ビーム装置10は、電子光学系1と画像生成部8で構成される。なお、画像生成部のハードウェア構成は後程説明する。
【0019】
電子光学系1は、少なくとも、電子源2と、1次電子照射部3、2次電子検出部7を備えて構成される。電子源2は電子ビームを発生させ、電子ビームが1次電子照射部3へ入射する。1次電子照射部3は、電子ビームを複数の1次電子ビーム4に分岐し、試料5の各照射位置に1次電子ビーム4を照射する。微細回路パターンを有する試料の照射位置に1次電子ビーム4が照射されると、照射スポット又はその近傍から2次電子6が発生する。なお、2次電子は照射スポットの近傍からも発生する場合があるが、説明の簡易化のため、以後の文章では省略する。発生した2次電子は2次電子検出部7で検出され、2次電子強度信号に変換される。この2次電子強度信号は画像生成部8に入力される。なお、以後の説明では2次電子がビーム状に移動する場合について説明しているが、必ずしもそうでなくてもよい。
【0020】
<電子光学系>
図2は、電子光学系1の構成模式図である。
図2において、被検査体である試料5は、主に半導体ウェハであり、表面に微細構造の回路パターンなどが形成されている。電子源2は、1次電子照射部3に向けて(図中のZ方向へ)、1次電子ビームを発生させる。1次電子照射部3では、入射した1次電子ビームをレンズ3-1でコリメート形状のビームに整え、ソース変換ユニット3-2で垂直入射した1次電子ビームを偏向後、ビームセパレータ3-3で所定の数のサブビーム(マルチ電子ビーム)に分岐し、対物レンズ3-4で試料5上に合焦して照射する。
図2では、1つの電子源2から発生した1次電子ビーム4を3つのサブビーム(B1~B3)に分割し、試料5のXY面上の異なる領域に同時に照射することを示している。なお、
図2では省略したが、電子光学系は、サブビームを走査するための偏向器(サブビームと同数でもよく、複数のサブビームで共通としてもよい)も含む。
【0021】
1次電子サブビームを照射したスポット(前述の通り近傍からの場合もある)からは2次電子6が発生し、それを2次電子検出部7で検出する。2次電子検出部7には所定の数の検出器7aが配置されており、対応する2次電子を各々検出する。サブビーム、走査領域、2次電子ビーム、検出器の関係を
図2の例で具体化すると以下の通りである。
(1)1次電子サブビームB1の試料上の照射スポットP1及びその近傍にて2次電子ビームSE1が発生し、当該ビームを第1検出器7a1で検出する。サブビーム走査を意識した表現をすると、1次電子サブビームB1の試料上の走査領域R1にて2次電子ビームSE1が発生し、当該ビームを第1検出器7a1で検出する。
(2)1次電子サブビームB2の試料上の照射スポットP2及びその近傍にて2次電子ビームSE2が発生し、当該2次電子ビームを第2検出器7a2で検出する。サブビーム走査を意識した表現をすると、1次電子サブビームB2の試料上の走査領域R2にて2次電子ビームSE2が発生し、当該2次電子ビームを第2検出器7a2で検出する。
(3)1次電子サブビームB3の試料上の照射スポットP3及びその近傍にて2次電子ビームSE3が発生し、当該2次電子ビームを第3検出器7a3で検出する。サブビーム走査を意識した表現をすると、1次電子サブビームB3の試料上の走査領域R3にて2次電子ビームSE3が発生し、当該2次電子ビームを第3検出器7a3で検出する。
【0022】
なお、厳密に言えば、前述の2次電子ビームは、照射スポットや走査領域で発生する「すべて」の2次電子ではない。また、2次電子の発生・移動方向は試料の形状等によって変化することがあるため、検出器の数は1次電子サブビームの数、又はその整数倍(N)である場合がある。よって、サブビーム、走査領域、検出器、の対応関係は1:1:Nであるといえる。
【0023】
なお、一部説明した通り、2次元の画像を得るため、偏向器は、サブビームの照射スポットを走査領域内で移動させる、いわゆる走査を担う。走査パターンの例がラスタ走査である。画像生成部8は、当該偏向器への走査のための制御量と検出器の信号とに基づいて、2次元の画像を生成している。そして、画像生成部8によるこのような画像生成は、各検出器(言い方を変えれば各サブビーム、各撮像領域)毎に個別かつ他の検出器の画像生成処理と並列して行われる。そのため、マルチ電子ビーム装置の試料撮像スループットはシングル電子ビーム装置よりも高速となる。
【0024】
なお、
図1、
図2では、電子光学系1は、電子ビームを複数の1次電子サブビームに分岐することでマルチ電子ビームの照射を行うとして説明した。なお、電子光学系1は1次電子サブビームと同数の電子源を備えることで、セパレートを省略する構成でもよい。
【0025】
なお、一部説明済であるが、
図1および
図2の構成物の具体例は以下である。
(1)電子源2:電子銃。
(2)1次電子照射部3:少なくとも1以上の走査用の偏向器を含む。電子源を複数の1次電子サブビームで共有する場合は、ビームセパレータ。なお、偏向器の実現形態はコイル(駆動回路を含めてもよい)や電極板ペア(駆動回路含めてもよい)である。コイルの場合、制御量は電流又は電流を供給する駆動回路への入力値である。電極版ペアの場合、制御量は電極版間の電位差又は電位差を生成する駆動回路への入力値である。
(3)2次電子検出部7:少なくとも複数の検出器7aを含む。検出器7aの例は、SiPM、シンチレータとホトマルのペア、である。なお、
図2の7bのように複数の検出器7aで共有される構成物が存在してもよい。
【0026】
なお、本実施例のプロセッサシステムと通信可能なマルチ荷電粒子ビーム装置は、少なくとも以下を満たせば、どのような構成であってもよい。なお、カッコ内の英数字は
図2との対応を例示するものである、
第1荷電粒子ビーム(B1)を試料上の第1走査領域(R1)に照射し、
前記第1荷電粒子ビーム(B1)の照射と並行して、第2荷電粒子ビーム(B2)を前記試料上の第2走査領域(R2)に照射し、
第1画像を生成するため、第1検出器(7a1)によって、少なくとも前記第1走査領域(R1)からの2次電子(SE1)を検出し、及び
第2画像を生成するため、第2検出器(7a2)によって、少なくとも前記第2走査領域(R2)からの2次電子(SE2)を検出する。
さらには、マルチ荷電粒子ビーム装置は、照射検出サブセット(前述のような所定の荷電粒子ビームと、所定の荷電粒子ビームに対応する走査領域と、所定の荷電粒子ビームに対応する検出器と、のセットを指す)を2つに限らず、3つ以上有してもよい。3つの場合を例とすれば、マルチ荷電粒子ビーム装置は、
前記第1荷電粒子ビーム(B1)の照射と並行して、第3荷電粒子ビーム(B3)を前記試料上の第3走査領域(R3)に照射し、及び
第3画像を生成するため、第3検出器(7a3)によって、少なくとも前記第3走査領域(R3)からの2次電子(SE3)を検出する、ことを行ってもよい。
【0027】
<画像生成部8(コントローラ)>
図1に戻り、画像生成部8を説明する。画像生成部8は、入力された2次電子強度信号を内蔵するA/D変換器を用いてデジタル信号に変換する。なお、A/D変換器は、画像生成部の外(例えば2次電子検出部7内部)に位置してもよい。その場合は当然ながら、画像生成部8にA/D変換器は含まれなくてもよい。画像生成部8のハードウェアは、プロセッサとメモリ資源とを少なくとも有するコントローラ(電子光学系1を制御する計算機である)であることが一例であるが、同種の構成物を有する存在があれば、コントローラ以外であってもよい。なお、コントローラは、プロセッサとメモリ資源以外にも制御回路を備えてもよい。また、プロセッサとメモリ資源の具体例は本明細書にて説明するプロセッサシステムのプロセッサとメモリ資源と同種の存在が一例である。
【0028】
一部説明した通り、画像生成部8は、偏向器に与える走査用の制御量と、2次電子強度信号のデジタル値に基づいて、走査領域の2次電子像(本明細書では単に画像と呼ぶ場合もあるほか、ビーム像と呼ぶ場合もある。)を生成する。なお、画像生成部8は、複数の2次電子像をつなぎ合わせて広領域画像を生成してもよい。また、画像生成部8は2次電子像や広領域画像を用いて、公知の欠陥検出や寸法計測を行ってもよい。なお、画像生成部8による2次電子像の生成は、特許文献1の処理を採用してもよく、ほかを採用してもよい。本明細書では、先程定義した照射検出サブセットに、当該サブセットに含まれる検出器7aの2次電子強度信号に基づいて生成された2次電子像も含めた定義で用いることがある。
【0029】
<プロセッサシステム>
プロセッサシステム20は、ハードウェアイメージとしては、プロセッサとメモリ資源と通信装置より構成される装置、または当該装置の集合体である(ただし
図1では図示を省略している)。計算機、サーバ計算機、クラウドサーバ、ノートパソコン、スマートフォン、タブレットコンピュータが前述の装置の一例である。また、集合体に含まれる装置同士は異種であってもよい。サーバ計算機とタブレットコンピュータの集合体が例である。プロセッサシステム20は、記憶装置に記憶されているプログラムがメモリにロードされ、ロードされたプログラムがCPUによって実行されることにより各種機能を実現するソフトウェア処理を行う。
図1に示すように、プロセッサシステム20は、その機能として、マルチ電子ビーム装置10と通信可能であって、クロストーク補正部21、欠陥検出部22、データ出力部23、パラメータ設定部24を適宜有して構成される。
【0030】
クロストーク補正部21は、マルチ電子ビーム装置10(典型的には画像生成部8(コントローラ))から入力された2次電子像に対し、後述する信号処理を行なうことによって、電子光学系1で発生するクロストークを補正する。クロストーク補正部21は、プロセッサによって本明細書で説明する処理を行うことで実現される。もしプロセッサがプログラムを実行できるデバイスである場合は、本明細書で説明する処理はプログラム(以後クロストーク補正プログラムと呼ぶことがある)に実装されることになる。なお、後程説明する実施例2では、クロストーク補正部21で2次電子像の補正を省略し、ゴーストの認識までに留める形態がある。このような形態まで含める意味では、クロストーク補正部21はクロストーク認識部と呼んでもよい。
【0031】
欠陥検出部22は2次電子像を対象に後述する処理を行い、欠陥を検出する。検出の時、クロストーク補正部21の処理で生成される情報(途中情報も含む)を用いることがある。欠陥検出部は、プロセッサによって本明細書で説明する処理を行うことで実現される。もしプロセッサがプログラムを実行できるデバイスである場合は、本明細書で説明する処理はプログラム(以後クロストーク補正プログラムと呼ぶことがある)に実装されることになる。
【0032】
データ出力部23は、クロストーク補正部21又は欠陥検出部22等のプロセッサシステム20から出力されるデータを、実際に出力するハードウェアである。データ出力部23は、例えば、ディスプレイやプリンタといった表示装置である。また、データ出力部23としてネットワークインターフェースデバイス(例えば無線ネットワークLSIや、優先ネットワークLSI)を含めてもよい。プロセッサシステム20の外部に存在する表示用計算機(タブレットコンピュータ等)を表示装置とみなした場合には、表示用計算機と通信するためのネットワークインターフェースデバイスは表示装置の一部ともみなせるからである。この場合、クロストーク補正部21又は欠陥検出部22で行うデータ出力処理の一部である表示処理は、表示用計算機に表示に直接的又は間接的に用いるデータをネットワークインターフェースを介して送信すること、を含む意味を持つとする。
【0033】
なお、
図1には図示を省略しているが、プロセッサシステムは、表示用途でなくてもネットワークインターフェースデバイスと、入力装置を有してもよい。入力装置は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルである。なお、入力装置は必ずしもデータ出力部と別なハードウェアである必要はない。また、データ出力部23と同様の意味として、ネットワークインターフェースデイバスを入力装置の例として扱ってもよい。
【0034】
パラメータ設定部24は、外部(例えば入力装置を操作するユーザ)から入力される画像処理条件などのパラメータを受け付け、クロストーク補正部21、欠陥検出部22へセットする。なお、パラメータ設定部24はデータベースと接続されていてもよい。なお、以後の説明で行われるユーザ操作(指示)の受信は、実際にはパラメータ設定部24を介して行われる。
【0035】
なお、プロセッサは、以下に示す処理を実行するのであれば、CPU以外にも、GPUやFPGAであってもよく、LSIであってもよい。また、メモリ資源は揮発メモリと不揮発メモリのいずれか一方または両方の組み合わせが一例である。不揮発メモリは、例えばHDDやフラッシュメモリ、USBメモリ、光ディスク、PRAMが例である。揮発メモリはDRAM、SRAMが例である。
【0036】
また、クロストーク補正部21、欠陥検出部22、パラメータ設定部24と、記憶装置に記憶されているプログラムとの関係は、1つのプログラムで、これら各部を実現する必要はない。クロストーク補正プログラム、欠陥検出プログラム、パラメータ設定プログラム、といった別々なプログラムに分け、各部を実現させてもよい。また、これらプログラムは、コンピュータが読み取り可能なストレージ媒体に格納されてもよい。このようなプログラムが格納されたコンピュータが読み取り可能な不揮発メモリは、プログラム配布(物理的、電子的問わず)に用いられる。
【0037】
なお、前述の通りプロセッサシステムは、クロストーク補正や欠陥検出処理を担うサーバ計算機と、表示用計算機(例えばノートパソコンやタブレットコンピュータ)と、の集合体であってもよい。この場合、データ出力部は表示用計算機が有し、サーバ計算機は処理結果自体、又は処理結果に基づいて生成された表示用データを、表示用計算機に出力する形態が「データ出力」の一例である。
【0038】
<クロストーク、ゴースト、欠損、実像>
前述したクロストークの意味をより明確化する。クロストークは、照射検出サブセット(クロストーク元の照射検出サブセットや、短く「元」と付して呼ぶことがある)に含まれる走査領域からの2次電子が、ほかの照射検出サブセット(クロストーク先の照射検出サブセットや、短く「先」と付して呼ぶことがある)に含まれる検出器7aによって検出されてしまうことを指す。照射検出サブセットという言葉を用いずに、
図2及び対応する説明を用いてクロストークを説明すると「第2走査領域(R2)からの2次電子(SE2)の全て又は一部を第1検出器(7a1)が検出してしまう」ことである(「元」を第2、「先」を第1として説明した場合)。このようなクロストークの「元」と「先」は任意の照射検出サブセットの組み合わせがあり得ることは否定しないが、典型的には走査領域が近いどうしの照射検出サブセット同士が「元」と「先」となりやすい。
【0039】
なお、クロストーク発生の代表的理由は以下の理由である(全ての理由で発生する場合もあれば、一部の理由で発生する場合もある)。
(1)電子光学系1の調整不足や経年変化。
(2)試料の帯電(特に局所帯電)。前述の通り、1次電子ビームの照射でも試料帯電量は増加する。なお、試料の所定領域の帯電量は、試料からの放電や電子光学系1が行うステージへの電荷移動、試料内の他の領域への電荷移動でも変化する。これら電荷移動の速度は、試料の材料やパターンによって変化し得る。
【0040】
次に本実施例における2次電子像に係る「ゴースト」と「欠損」について明確にする。クロストーク先の照射検出サブセットの2次電子像に係るゴーストは、クロストークの影響により、「先」照射検出サブセットの走査領域の像として本来得られるべき実像に、重畳する形で現れた像である。その代わりとして、他の照射検出サブセットの2次電子像はクロストークで失った2次電子に相当する輝度成分が欠損(欠損後の輝度の絶対値がゼロになるとは限らない意味では減少とも言える)するため、マイナスの輝度成分が重畳した減少が発生する。このマイナスの輝度成分を持つ像を欠損と呼ぶ。後程明らかとなるが、本実施例は、「先」照射検出サブセットの「先」2次電子像内のゴースト発生領域の座標(当該「先」画像の左上を原点とする)と、「元」照射検出サブセットの2次電子像内の欠損領域の座標と(当該「元」画像の左上を原点とする)、とは異なっていても対応できる。すなわち、クロストーク元の画像上の欠損の位置と、クロストーク先の画像のゴーストが載る位置が異なっていても対応できる。
【0041】
なお、「実像」とは、クロストークがないときの2次電子像に存在する画像全体又はその一部であり、マルチ電子ビーム装置のユーザが本来得たい像である、ともいえる。本実施例を用いずに実像を得るとしたら、クロストークが発生する原因を取り除いた状態の電子ビーム装置で2次電子像を生成すればよい。その一例が、十分に調整されたマルチ電子ビーム装置を用いて、十分に帯電を放電した試料に対して、不要な帯電をさせないようにシングル電子ビームで2次電子像を生成することである。
【0042】
典型的なゴーストは、「元」2次電子像の一部又はすべての像の輝度を割り引いた上で、「先」2次電子像に重畳する。しかし本実施例はそうでない場合でも対応でき得る。欠損は「元」2次電子像の一部又はすべての像の輝度をマイナスにしたうえで割り引いた「マイナスの」輝度を持つ。しかし本実施例のそうでない場合でも対応でき得る。なお、「先」2次電子像におけるゴースト重畳位置(より正確には「先」2次電子像の原点からの座標)と、「元」2次電子像における欠損重畳位置(より正確には「元」2次電子像の原点からの座標)とは、ずれる場合がある。
また、画像生成部8が2次電子像に対してブライトネス調整を行った場合、欠損は「元」の2次電子像に現れない場合がある。
【0043】
図3の模式図を用いてゴーストと欠損を説明する。
図3は試料5より検出された2次電子像の一例である。301は座標系であり、図中の31~34は、試料5のXY面上を走査して得られた2次電子像の一例である。なお、2次電子像の座標原点は各像の左上とする。また、
図3および今後説明する
図5においては、本明細書の印刷の都合により、
図3および5の輝度と、明細書で説明する輝度を逆転させている。つまり
図3と5で最も白い位置は明細書の説明文としては最も輝度が低い位置となる。
【0044】
31、32は、異なる照射検出サブセットの2次電子像(以下、ビーム像とも記載)であり、ゴーストや欠損が発生していない場合を示している。これに対し、33、34は、ゴースト又は欠損が発生したビーム像を示している。ビーム像33では、領域33Rにて欠損が発生していることを示すため、縦パターン情報の一部の輝度が低下しているように図示した。ビーム像34では、領域34G1と領域34G2とにゴーストが重畳していることを示すため、縦パターンを、像32に対して重畳させた図としている。なお、以後の説明では33Rは欠損そのものを指す場合に使うが、前述の通りその領域を指す場合にも使う。同様に34G1と34G2は、ゴーストそのものを指す場合に使うが、前述の通りゴーストの発生領域を指す場合もある。ここで、ビーム像34の左側のゴースト(34G1)はビーム像33が属する照射検出サブセットを「元」とし、ビーム像34が属する照射検出サブセットを「先」とするクロストークにより発生した例である。ビーム像34の右側のゴースト(34G2)は、同様にクロストークにより発生した例であるが、クロストーク「元」はビーム像33が属する照射検出サブセット以外の照射検出サブセットである。このような、パターンの一部の欠損やゴーストの重畳は、チップ比較や設計データ比較などの後段の欠陥判定処理において、虚報(誤検出)となる可能性が高い。また、観察像としての画質の劣化、パターン寸法測定時の精度低下などの要因ともなる。
【0045】
<プロセッサシステムによる2次電子像の取得とメモリ資源への格納>
図1が例示の通り、本実施例のプロセッサシステム20は、画像生成部8が生成した2次電子像を取得し、取得した2次電子像をプロセッサシステム20のメモリ資源に格納する。これによって、クロストーク補正部21や欠陥検出部22は2次電子像の参照が可能となる。なお
図1では2次電子像の取得と格納は、クロストーク補正部21が行うものとして例示したが、プロセッサシステム20の他の機能部(やプログラム)が担当してもよい。なお、2次電子像の取得の一例としては、プロセッサシステム20が有するネットワークインターフェースデバイスを介したデータ受信であり、プロセッサシステム20が有するI/Oインターフェースデバイスを介して接続された外部メモリデバイス(USBメモリ)からのデータ読み込みである。
【0046】
<クロストーク補正処理(ゴースト候補画像利用)>
図4は、本実施例におけるクロストーク補正部の処理を示すフロー図である。また、
図5は、
図4におけるクロストーク補正の処理手順の具体例である。以下、
図4を用いて、
図5を参照しながら説明する。なお、
図4で説明する補正処理は、以下の説明でわかる通りゴースト候補画像を用いるため、
図4の処理と明記するときに「ゴースト候補画像利用」といった言葉で単語や複合語を形容する場合がある。
【0047】
図4において、ステップS401~S406の処理は、プロセッサシステム20のクロストーク補正部21が行う処理である。なお、クロストーク補正部21を主語とした処理は、主語をプロセッサに置き換えてもよく、プロセッサで実行可能なプログラム(便宜上、クロストーク補正プログラムと呼ぶ)に置き換えてもよい。
図4において、まず、画像生成部8で生成された母集団となる複数の2次電子像のうちの2枚のビーム像41、42がクロストーク補正部21へ適宜入力される。ここで、ビーム像41は、画像内にゴーストの有無を探索するビーム像G、ビーム像42は、参照ビーム像Rと仮定する。本実施例では、ビーム像にゴーストが存在する場合、他のビーム像のいずれかに実像があると仮定し、実像を探索しにいくビーム像を参照ビーム像Rと定義する。すなわち、参照ビーム像Rに実像があれば、ビーム像Gにゴーストの存在を認識する。
図5にビーム像41(ビーム像G)、ビーム像42(ビーム像R)の模擬画像を示す。
【0048】
なお、以後に示すステップS401からステップS406は、入力(指定されたともいえる)されたビーム像Gとビーム像Rに対する処理として説明しているが、これらビーム像は、画像生成部8により生成されたビーム像群を母集団として、所定の基準で選定される。なお、以後の説明では母集団のビーム像群を「母集団ビーム像群」と呼ぶことがある。そして、母集団ビーム像群からのビーム像Gとビーム像Rの選定については後程説明する。
【0049】
<ステップS401、ステップS402>
まず、クロストーク補正部21は、ビーム像G41から、ゴースト候補画像を生成する。
図4の例ではこの処理を2つのステップS401とステップS402で例示している。各々のステップを説明する。クロストーク補正部21は、ビーム像G41から、ゴースト候補信号41Sと、実像候補信号41Mに信号分離する(S401)。なお、本図における処理においては、実像候補信号41Mの信号分離は省略してもよい。次に、クロストーク補正部21は、ゴースト候補信号41Sからゴースト候補画像43を生成する(S402)。なお、ゴースト候補画像が生成できるのであれば、クロストーク補正部21は、ステップS401とステップS402の2つに分離してシーケンシャルに実行する必要はなく、また分離した信号のデータを生成する必要もない。
【0050】
<分離される「信号」の例>
本明細書における、ゴースト候補信号や実像候補信号の「信号」のデータ形態は、ステップS402で画像化できる中間的なデータ形態であればよい。その一例が以下である。
(1)画像ファイルと同じデータ形態。ビットマップファイルであれば、画像の原点からラスタ走査にそって輝度を示す固定長ビット群(典型的には1バイトや2バイト)が並ぶデータ構造となる。なお、特定座標の画素が輝度を持たないことを示すために、対応する位置の固定長ビットを事前に定めた値にすることで「その座標の画素がない」ことを示してもよい。
(2)画素の座標と輝度のペアをリスト型で格納したデータ形態。
(3)ステップS402で画像化するときのデータ形態(言い方を変えると信号化を省略していきなり画像化するともいえる)。
(4)画像処理で用いられる変換処理(例えばフーリエ変換やウェーブレット変換)で得た特徴量又は特徴量の集合を示すデータ形態。
【0051】
<信号からの画像生成の例>
信号からの画像生成(
図4の場合は、ゴースト候補信号からゴースト候補画像生成、後程説明する
図6の場合は、実像候補信号から実像候補画像生成)は、例えばステップS401で行った信号分離結果に基づき、ビーム像G41より、ゴースト候補信号座標の輝度値を残し、それ以外の座標の輝度値を0とする。他には、ビーム像G41のフーリエ変換(またはウェーブレット変換)後の周波数空間において、高周波成分を除外した後、逆フーリエ変換(または逆ウェーブレット変換)を行ってもよい。つまり、ペアリスト型データ形態からの画像ファイルデータ形態への変換である。
【0052】
<ゴーストの特徴と信号分離処理の例>
図5は、ビーム像G41、ビーム像R42、ゴースト候補画像43の例を示している。なお、ゴースト候補画像43は模式的にゴースト候補信号41Sとなった画素のみを抽出して画像化したゴースト候補画像の例を示している。また、
図5の41Mは実像候補信号を模式的に示してる。ゴースト候補画像43の利用例は後程のステップで説明するが、当該画像の理想は、実像が除かれ、クロストーク元は問わないがゴーストだけが含まれる(ただし、ゴーストの位置は「元」の欠損位置からずれていてもよい)画像である。なお、ゴースト候補画像利用のクロストーク補正処理において、実像候補信号41Mの画像化は必須ではなく、前述の通り実像候補信号41Mの分離も必須ではない。また、ゴースト候補画像には、実像以外のノイズ成分が含まれてもよい。
【0053】
このような理想に近いゴースト候補画像43の元となるゴースト候補信号41Sを分離するための分離処理の一例について述べる。発明者による分析によれば、実像であればパターンエッジコントラストが高く、ゴーストであればパターンコントラストは低いと予想される。よほど調整不足の装置や想定外の試料帯電でない限り、クロストークで他の照射検出サブセットで検出されてしまう2次電子の割合は小さいからである。こうした分析の結果得られたゴーストの特徴を踏まえた分離処理の例が以下である。
(1)ビーム像G41の微分値(微分フィルタを畳込んだフィルタにより得る)に対して、しきい値より小さい画素の輝度を画素の座標と共にゴースト候補信号41Sに含め、しきい値以上の画素の輝度を画素の座標と共に実像候補信号41Mに含める。
(2)各画素及びその輝度において、局所輝度勾配変化量を算出して画像内のヒストグラムを生成する。そしてヒストグラムを基に高コントラスト部に含まれる画素は実像候補信号41Mに含め、低コントラスト部に含まれる画素はゴースト候補信号41Sに含める。
(3)周波数特性に基づき、高周波成分を実像候補信号41Mに含め、低周波成分をゴースト候補信号と41Sとする(実像に高周波成分が多い場合。高周波と低周波の関係が逆であってもよい)。
【0054】
<ステップS403、ステップS404>
ゴースト候補画像43が生成された後、クロストーク補正部21は、少なくともゴースト候補画像とビーム像R42とに基づいて、ゴーストの認識(具体的にはゴーストの発生領域とクロストーク発生強度の取得)を行う。
図4の例ではその処理をステップS403とステップS404で例示しているが、これらステップはシーケンシャルに行う必要はない。例えば、ステップS404のゴースト認識の延長でステップS403のすべて又は一部の処理を実行してもよく、両ステップで共通化できる処理を共通化してもよい。
【0055】
<ステップS403>
クロストーク補正部21は、ゴースト候補画像43とビーム像R42とを照合して位相が一致する領域(ゴースト候補画像の一部領域である)を抽出する(S403)。なお、本ステップの目指すところは、ビーム像R42に実像がないゴーストや、ノイズに起因する画像内の絵を除去することにあるが、本ステップで完全にこれらを除去するという意味ではない。
【0056】
なお、ステップS403は、例えば以下で実現する。
(S403A)クロストーク補正部21は、ゴースト候補画像を複数の領域に分割する。分割は指定画素数で、分割する方法や、所定値以上の輝度が連続する画像中の領域を1領域として抽出することを繰り返す方法があるが、ほかの分割方法でもよい。なお、以後の説明ではゴースト候補画像の分割された領域を「ゴースト候補分割後領域」と呼んだり、当該領域の画像を「ゴースト候補分割後画像」と呼ぶことがある。
(S403B)クロストーク補正部21は、ゴースト候補分割後領域およびその画像の各々について以下を処理する。
(S403B1)ビーム像42の相対位置(ゴースト候補分割後画像に対する)を移動させながら、照合スコアを複数算出する。なお、照合スコアは、ゴースト候補分割後画像と相対位置移動後のビーム像42との位相の一致度を示すスコアである。また、移動範囲は所定の基準に基づいて限定することで、照合スコアの算出コストを低減してもよい。
(S403B2)ステップS403B1で算出した照合スコアの最大値が所定の閾値以下の場合は、当該ゴースト候補分割後領域およびその画像を以後のステップS403B3以降の処理対象から除外する。なお、照合スコアの最大値は局所最大値で代替してもよい。このことは以後の説明でも同様である。
(S403B3)ステップS403B2で除外しなかった当該ゴースト候補分割後領域(およびその画像)の最大の照合スコアを算出した時の相対位置を、当該最大値と共にメモリ資源に格納する。当該情報はステップS404で利用する。なお、本ステップの実現形態として、ステップS403B2で算出した、各相対位置毎の照合スコアをメモリ資源に格納してもよい。この形態であっても、最大値とその相対位置はわかるからである。なお、相対位置は、例えば両画像の所定箇所(例えば左上隅や中心)の位置関係を示すことが例である。なお、当該位置関係は、言い方を変えると、両画像を所定箇所が重なるようにした後に、片方の画像の相対移動量を示す、ともいえる。
(S403C)クロストーク補正部21は、ステップS403Bで除外されなかったゴースト候補分割後領域を結合し、「位相が一致する領域」(以後、位相一致領域と呼ぶことがある)とする。
【0057】
ステップS403の別の例として、以下の通り、輝度勾配方向符号による位相の照合を行うことも可能である。
(S403A)クロストーク補正部21は、ゴースト候補画像43およびビーム像R42の各々について以下を処理する。
各画素について、周辺の8近傍画素との輝度差を各々算出し、輝度差が最大となる近傍画素との位置関係を表現するラベルを付与する(8方向あるので、ラベルは8種)。すなわち、両画像内の各画素を0~7のいずれかの値をとるラベル画像に変換する。
(S403B1)ビーム像R42より変換したラベル画像の相対位置(ゴースト候補画像より変換したラベル画像に対する)をX,Y方向に移動させながら、照合スコアを算出する。なお、照合スコアは、両ラベル画像間で、ラベルが一致する画素数を計数することで算出し、ゴースト候補画像と相対位置移動後のビーム像42との位相の一致度を示すスコアである。また、移動範囲は所定の基準に基づいて限定することで、照合スコアの算出コストを低減してもよい。
(S403B2)ステップS403B1で算出した照合スコアの最大値が所定の閾値以下の場合は、ゴースト候補画像内に、ビーム像Rに対するゴーストはないと判断し、以後のS403B3以降の処理対象から除外する。
(S403B3)ステップS403B2で除外しなかった当該ゴースト候補画像とビーム像Rとの、最大の照合スコアを算出した時の相対位置を、当該最大値と共にメモリ資源に格納する。当該情報はステップS404で利用する。なお、本ステップの実現形態として、ステップS403B2で算出した、各相対位置毎の照合スコアをメモリ資源に格納してもよい。この形態であっても、最大値とその相対位置はわかるからである。なお、相対位置は、両画像の、X,Yそれぞれの方向のずれ量を示す。なお、当該位置関係は、言い方を変えると、両画像を所定箇所が重なるようにした後に、片方の画像の相対移動量を示す、ともいえる。
(S403C)クロストーク補正部21は、ゴースト候補画像のうち、「位相が一致する領域」(以後、位相一致領域と呼ぶことがある)をゴースト領域とする。
【0058】
<位相を用いた照合スコアの例>
位相を用いた照合スコアは例えば以下の算出例がある。
(例1)ゴースト候補画像43のフーリエ変換後の位相情報と、ビーム像R42のフーリエ変換後の位相情報との差分に基づいた統計値を算出する。フーリエ変換の代わりとしてウェーブレット変換を用いてもよい。
(例2)例1の発展形として、ゴースト候補画像の位相情報から復元した画像と、ビーム像R42の位相情報から復元した画像との同一位置の画素の輝度差を求める。そして、当該輝度差に基づいて統計値を算出する。
(例3)ゴースト候補画像の輝度勾配の方向を符号化(以後、輝度勾配方向符号化と呼ぶことがある)し、同様に輝度勾配方向符号化をビーム像R42にも適用する。そして、符号化した両画像間での符号の一致度の統計値を算出する。
(例4)非正規化相互相関関数を用いる。
【0059】
以上がステップS403の例である。なお、「位相」は比較対象の画像間で、平均輝度、コントラスト等が異なっていた場合でも、両画像の重なりの程度を示す指標として好適である。しかし、位相の代わりとして他の指標(例えば両画像の輝度差の統計値)を用いて照合スコアを算出してもよい。
【0060】
<ステップS404>
クロストーク補正部21は、ゴースト候補画像43の位相一致領域に基づいてゴーストを認識する(S404)。なお、ゴーストの認識とは、ゴースト候補画像43内(又は後述するビーム像G41内)のゴースト発生領域を取得することであり、オプションとして当該発生領域に関するクロストーク発生強度を取得することである。ステップS403の場合、相対位置を変化させながら繰り返し照合スコアを算出するため、計算負荷の視点で複雑な指標を用いることは困難であったが、ステップS404の場合はステップS403で得られた結果でより複雑な指標を使ってゴーストの発生領域やクロストーク発生強度を精度よく計算する。
【0061】
なお、ゴーストの認識とは、ビーム像G41内のゴースト発生領域を取得することであってもよい。そのために、ゴースト候補画像43内のゴースト発生領域を、ビーム像G41内の領域に座標変換してもよい。もし、ステップS401およびステップS402の処理の特徴として、ビーム像G41の実像に混ざったゴーストの領域(座標)と、ゴースト候補画像に於けるゴーストの領域(座標)とが一致するのであれば、当該座標変換は不要である。もしそうでないのであれば、ステップS401とステップS402の処理内容に基づいた変換関数や情報に基づいて座標変換を行う。なお、このような領域(座標)変換は、ステップS404で行う代わりとして、後術するステップS605やステップS606の一環として行ってもよい。なお、ゴーストの認識については後程再度説明する。
【0062】
<ステップS403とS404の結果>
図5に認識したゴースト44の模擬画像を示す(「候補」ではないゴースト画像を生成することは必須ではない)。なお、
図5の例では、ゴースト候補信号41Sは、左右2つの候補があるが、ステップS403とステップS404の処理の結果、濃淡の上下の間隔、周期性、又は/及び位相等から左側の逆L字の絵の領域をゴーストとして認識する。
【0063】
<認識したゴーストに基づいた補正>
次に、認識したゴースト44を基に、ビーム像41、42をクロストークの影響の無い(軽減でもよい)画像に補正する。なお、本実施例ではステップS405とステップS406を両方行ってもよく、片方だけ行ってもよい。
【0064】
<ステップS405(ビーム像Gのゴーストを軽減)>
クロストーク補正部21は、認識したゴーストに基づいて、ビーム像G41内のゴースト発生領域を特定し、ビーム像G41内のゴースト発生領域を補正する。以上がステップ405である。
【0065】
なお、前述のゴースト発生領域の補正は、具体的には、ゴースト発生領域に含まれる画素毎に、ゴースト発生強度を取得(算出)し、当該画素の輝度からゴースト発生強度を差し引く(減算する)、ことが一例である。なお、ゴースト発生強度は、ステップS404の認識の結果として生成したゴースト画像の画素(減算対象画素に対応する画素である)の輝度や、当該輝度に所定の係数を乗算した係数適用後の輝度を使ってもよい。また、ゴースト画像を生成しない場合は、ゴースト候補画像43(ゴースト候補画像43内のゴースト発生領域を示す情報も組み合わせる)を代替で使用してもよい。
【0066】
図5の画像45は、ゴースト補正後のビーム像G(
図4ではビーム像G’45と表現)である。ゴースト補正後のビーム像G45は、左側のゴーストは軽減(除去)されているが、右側のゴーストは軽減されず残る。しかし、後述するようにステップS401~S405の処理は全ビーム像に対して組み合わせを変えて実施されるため、今後軽減されることになる。
【0067】
<ステップS406(ビーム像Rの欠損を補填)>
クロストーク補正部21は、ビーム像R42から、認識したゴーストに対応する領域である欠損領域を特定し、ビーム像R42内の欠損領域の画素の輝度を修正(より具体的には補填)する。以上がステップ406である。なお、輝度の補填量の例を以下に示す。
(1)補填対象の画素に対応する減算対象の画素をビーム像G41から特定し、特定した画素に関するゴースト発生強度を補填量とする。なお、当該発生強度に所定の係数を乗算した値を補填量としてもよい。
(2)欠損領域の画素の輝度に所定の係数を乗算した値を補填量とする。所定の係数は、欠損領域に共通の係数として、前述のゴースト発生強度を統計処理(平均演算)することで算出してもよく、本装置のユーザによる入力値であってもよい。
【0068】
図5の画像46は、欠損補填後のビーム像R(
図4ではビーム像R’46と表現)である。欠損補填後のビーム像R46は、ビーム像R42の中心および左側に逆L字型に暗くなっていた欠損領域が補填されていることを示している。
【0069】
<ビーム像Gとビーム像Rの選定方法>
以上が、前述の母集団ビーム像群から選択した所定の(ビーム像Gとなる)ビーム像と、別な所定の(ビーム像Rとなる)ビーム像を選択した後のステップS401からステップS406の説明である。なお、母集団ビーム像群は、撮像期間中に並行して照射される複数の1次電子サブビーム及びその照射検出サブセットに基づいて生成された、ビーム像の群である。また、並行照射される1次電サブビームの各々の照射開始タイミングと照射終了タイミングは、必ずしもほかの全ての1次電子サブビームと完全一致している必要はない。電子光学系の仕様により、照射開始や終了のタイミングが他の1次電子ビームとずれてもよい、ということである。
【0070】
母集団ビーム像群からのビーム像Gとビーム像Rの選択方法は、例えば以下が考えられる。
(母集団選択1)母集団ビーム像群から、(ビーム像Gとビーム像Rの)ペアのすべてのコンビネーションを生成し、各ペアについてステップS401からステップS406を行う。
(母集団選択2)装置ユーザによる指定を受信する。指定は、ビーム像Gだけでもよく、両ビーム像であってもよい。ビーム像Gだけを指定される場合、クロストーク補正部21が所定の基準(ビーム像R選択基準と呼ぶことがある)に基づいてビーム像Rを1以上選択し、その後、指定されたビーム像Gと、選択された1以上のビーム像Rの各々と、についてステップS401からステップS406を行う。
(母集団選択3)母集団選択2のバリエーションとして、クロストーク補正部21が所定の基準(ビーム像G選択基準と呼ぶことがある)に基づいて、ビーム像Gを選択する。
【0071】
以上が選択方法の例である。ここでビーム像Gに対応する検出器(対応関係は照射検出サブセットを介する)を起点として、より近い検出器に対応するビーム像から順にステップS401からステップS406の処理を行うことがビーム像R選択基準の例である。なお、前述のビーム像R選択基準のバリエーションとして、検出器間の遠近に替えて走査領域間の遠近で処理順序を判断してもよい。試料帯電に起因するクロストークの場合、クロストークの原因となる2次電子に与える力(例えばクーロン力)は、2次電子に近い箇所が帯電している程影響が大きくなる。よって、クロストークが潜在的に発生しやすい、より近い検出器間又はより近い走査領域間を優先して処理してもよい、ということである。
【0072】
<ゴースト候補画像43に複数の「元」由来のゴーストが含まれる場合>
前述の通り、ビーム像G41についてステップS402で生成されるゴースト候補画像43には、異なる「元」のビーム像Rに由来するゴーストが同時に含まれることがある。
図5のゴースト候補画像43はその例として、前述の通りビーム像R42に由来する逆L字のゴーストと共に、ほかのビーム像(便宜上ビーム像Rその2と呼ぶ)に由来するL字のゴーストが画像中に存在する。<ビーム像Gとビーム像Rの選定方法>で説明した通り、1つのビーム像Gに対して、複数のビーム像をビーム像Rとして選定するため、例えば、最初のビーム像R41では逆L字のゴーストのみ補正し、補正後のビーム像Gと、次のビーム像Rその2とに対してステップS401からステップS406を行うことで、L字のゴーストも補正できる。
【0073】
つまり、第3画像(ビーム像Rその2)を前記メモリ資源に格納し、
第3走査領域(ビーム像Rその2に対応する照射検出サブセットの走査領域)からの2次電子を第1検出器(ビーム像G41に対応する照射検出サブセットの検出器)が検出したことで生じる第2クロストーク、の影響軽減として、
(C)第3画像を用いて、第2クロストークで生じた第2ゴーストを第1画像から認識し、
(D)前記第1画像内の領域である、前記第2ゴーストの第2発生領域を補正、
してもよいということである。
【0074】
<欠陥検出部22の処理>
前述のゴースト及び欠損部の補正を行ったあと、欠陥検出部22は、補正後のビーム像を用いて欠陥の検出を行う。欠陥の検出方法は、例えば以下が例であるが、ほかの検出方法でもよい。
(1)隣接する同一パターンの画像を比較してその差異の大きな箇所を欠陥とするチップ比較やセル比較方法。
(2)設計データより2次電子による画像を推定し、ビーム像と比較する設計データ比較方法。
(3)AIを用いて推定した画像と比較するAI良品画像比較方法。
【0075】
<クロストーク補正処理(実像候補画像利用)>
図6は、本実施例におけるクロストーク補正部21が行うクロストーク補正処理を示す別のフロー図である。
図6において、
図4と同様な処理は同じ符号を付し、その説明は省略する。
図6において、
図4と異なる点は、以下である。
(1)ステップS402のゴースト候補画像生成の代わりとして、ステップS602では、実像候補画像63を生成する。なお、本代替により、
図6のステップS401で分離(分離による生成)が必須なのは、実像候補信号41Mであり、ゴースト候補信号41Sの分離は省略してもよい。
(2)ステップS403b(S403のバリエーション)への入力が、ビーム像G41と、実像候補画像63となる。
【0076】
<ステップS602>
クロストーク補正部21は、実像候補信号41Mから実像候補画像63を生成する。信号から画像を生成する処理は、ステップS402と同様である。
【0077】
<
図6におけるステップS403bの補足>
図4のステップS403では、ゴースト候補画像43とビーム像R42であったが、
図6のステップS403bでは、ゴースト候補画像43に替えてビーム像G41を、ビーム像R42に替えて実像候補画像63を、使う。そのため、ステップS403で抽出される位相一致領域は、ビーム像R42由来で発生している、ビーム像G41内のゴースト発生領域となる。
い。
【0078】
<ゴースト候補画像利用と実像候補画像利用を併用したクロストーク補正処理>
クロストーク補正部21は、
図4で説明したゴースト候補画像利用のクロストーク補正処理と、
図6で説明した実像候補画像利用のクロストーク補正処理と、を併用してもよい。併用の仕方としては、母集団ビーム像群から選択されたビーム像Gやビーム像Rの画像特性に応じて使用する処理を切り替えてもよく、あるビーム像G41とビーム像R42の組み合わせに対して両方の処理を実行し、両方の処理(又は少なくとも一方の処理)が認識したゴーストに対して、ステップS405以降の処理を行ってもよい。
【0079】
<ゴースト認識処理>
図7を用いて、
図4及び
図6のゴースト認識(S404)の詳細処理を説明する。なお、
図7には以下が示されているが、各提示内容の更なる説明は追って行う。
(1)画像71:ビーム像Rに相当する、
図3および
図5の例とは異なる新たな画像である。
(2)画像72:ビーム像Gに相当する、
図3および
図5の例とは異なる新たな画像である。
(3)画像73:
図6の処理に関連するビーム像Gの実像候補領域(二重白線で示す)を示す図である。
(4)グラフ74:ステップS403で算出された、最大の照合スコアを算出した時のY方向の相対位置と、最大の照合スコアの例を示す図である。なお、本グラフには、ステップS403B2で算出した各相対位置毎の照合スコアも表している。
(5)グラフ75:画像71(ビーム像R)の破線A-B上の輝度プロファイル(点線の円で一部囲われた線)と、画像72(ビーム像G)の破線A-B上の輝度プロファイル(相対位置移動前の(1)と移動後(2))である。なお、輝度プロファイルとは、指定線分上の輝度変化を示したグラフである。本グラフでは、ビーム像Rの相対移動の有無を示すために、ビーム像G側の輝度プロファイルを移動したグラフとしている。
(6)下部のステップS404:ゴースト認識処理の詳細を示した図である。
【0080】
以下にゴースト認識処理(S404)の詳細を述べる。
<ステップS701>
クロストーク補正部21は、位相一致領域に対する照合スコアに(グラフ74が例)基づいて、ゴースト発生の有無を判定する。例えば、当該判定は、ゴースト候補領域の位相一致領域に対する最大の照合スコア(S403で算出)を所定の閾値を上回る場合は、ゴースト発生有りと判定する。なお、当該判定として、照合スコアの最大値の代わりとして、照合スコアの尖度を用いてもよく、尖度と最大値とを組み合わせてもよい。なお、ゴースト発生の有無は、後程説明するステップS703、S704、S705の結果を用いて判定してもよい。
【0081】
ゴースト発生無しと判定した場合、クロストーク補正部21の処理対象のビーム像G41とビーム像R42に対する補正処理は終え、<ビーム像Gとビーム像Rの選定方法>で説明した基準に従って選ばれた次のビーム像G41と次のビーム像R42に対するステップS401からステップS406(
図6で言えばステップS602とステップS403bに代替される)の処理を行う。
【0082】
<ステップS702>
クロストーク補正部21は、ゴースト候補領域の位相一致領域に対する最大の照合スコアを算出した時の相対位置に、ビーム像Rを相対移動(つまりXY位置補正)させる。その目的は、ステップS703で示す特徴量算出を容易とするためである。グラフ74の例では、ビーム像Rの相対位置が6の時が照合スコアが最大値となる時であるため、ビーム像RをY方向に6画素、相対移動させる。なお、誤解を回避する趣旨で述べると、当該相対移動はステップS403で行った相対移動にさらに重ねて行うものではなく、ステップS403で相対移動する前の状態からの相対移動である。なお、ステップS404で行った相対移動は、ステップS404終了後に元に戻すものとする。
【0083】
なお、ビーム像RをY方向にn画素相対移動させることは、実際にビーム像RをY方向にn画素移動させることで実現できるが、他に相対移動の元となるビーム像(ゴースト候補像等)をY方向に「マイナス」n画素移動させることでも実現できることは言うまでもない。以後の説明ではこの「マイナス」を省略して説明することがある。
【0084】
<ステップ703>
クロストーク補正部21は、相対移動後のビーム像Rと、以下で示す少なくとも1つの画像(以後、ステップS703相手画像と呼ぶことがある)と、に基づいて特徴量を算出する。
(1)ゴースト候補画像のステップS403又はステップS403bで抽出した領域部分。
(2)ビーム像G41、ビーム像G41のステップS403又はステップS403bで抽出した領域部分、又はビーム像G41のステップS403又はステップS403bで抽出しなかった領域部分(つまり実像が含まれることが期待できる領域部分)。
【0085】
なお、算出する特徴量は例えば以下である(組み合わせてもよい)。
(1)相対移動後のビーム像Rの所定座標上の画素の輝度その1と、ステップS703相手画像の前述の所定座標上の画素の輝度その2と、の差分。
(2)当該輝度その1と当該輝度その2との比。
(3)ビーム像G41のステップS403又はステップS403bで抽出しなかった領域部分の輝度分布に対する、当該輝度その2の輝度の距離。
【0086】
ここまでの処理を画像71から画像73とグラフ75を使って補足する。より詳細に述べると、画像71(ビーム像R)は、所定画素としてY方向に6画素相対移動した場合を示していて、横ラインパターン(実線で描画)が含まれる。画像72(ビーム像G)は実像として実線(横ラインパターンで描画)が含まれるほか、ゴースト(横方向の破線で描画)が発生している例である。
【0087】
画像73は、
図6の処理に関連するビーム像Gの実像候補領域(二重白線で示す)を示す図であるが、前述のビーム像G41のステップS403又はステップS403bで抽出しなかった領域、の例ととらえてもよい。
【0088】
前述の通りグラフ75は、画像71(ビーム像R)の破線A-B上の輝度プロファイル(点線の円で一部囲われた線)と、画像72(ビーム像G)の破線A-B上の輝度プロファイル(相対位置移動前は(1)を付与し、移動後は(2)を付与した)である。そしてグラフ75は、ステップS703相手画像が画像72のビーム像Gの場合の、相対移動を行ったことによる特徴量の変化を例示する図でもある。
【0089】
仮に算出特徴量が両輝度の差分である場合、画像71と画像72との輝度差分は、輝度プロファイル(1)の場合よりも、相対移動後の輝度プロファイル(2)のほうがピーク位置が一致するため、より意味のある特徴量が得られることが分かる。
【0090】
<ステップS704>
クロストーク補正部21は、ステップS703で算出した特徴量に基づいて、ゴースト発生領域を求める。なお、ステップS404の説明で述べたように、求めるゴースト発生領域は、ゴースト候補画像43内の領域であってもよく、ビーム像G41内の領域でもよい。
【0091】
<ステップS705>
クロストーク補正部21は、ステップS703で算出した特徴量に基づいて、クロストーク発生強度を取得(より具体的には算出)する。なお、クロストーク発生強度の具体的意味はステップS405およびステップS406で説明した意味が一例であり、クロストークの発生程度を示す値であれば、ほかの意味を持つ値を本ステップで取得(算出)してもよい。
【0092】
<ゴースト補正と欠損部補填用のクロストーク発生強度算出方法の例>
ステップS405のゴースト補正とステップS406の欠損補填に適するクロストーク発生強度の算出の例は以下である。
(例1):
ゴースト発生領域内の画素gのクロストーク発生強度=
ゴースト候補画像43のゴースト発生領域内の画素gの輝度 -
ビーム像G41の背景領域の代表輝度
なお、代表輝度は、当該領域に含まれる画素の輝度の統計値(平均、最大、再頻出値等)である。
また、背景領域とは、画像72(つまりビーム像G)において、実像(明るい、かつ太い横線で例示)とゴースト発生領域(細い破線で例示)を除く領域である。当該領域の取得方法は、例えば、ステップS401とステップS402で、ゴースト候補画像43と、実像候補画像と、を両方求め、いずれの領域にも属さないビーム像G41の領域を取得することが一例である。
【0093】
(例2):
ゴースト発生領域内の画素gのクロストーク発生強度=
画素gに対応するビーム像R内の画素rの輝度 * 所定係数
ここで、所定係数=ゴースト候補画像43の代表輝度 / ビーム像Rの欠損領域の代表輝度
【0094】
以上が例である。例1はゴーストと実像が重複していたとしてもステップS401でゴースト候補信号を分離できる場合はより好適である。例2は、欠損領域を高精度に求められる場合はより好適である。なお、例1に於いて背景輝度の引き算を省略してもよく、例1と例2とも各演算中に所定の係数を加算又は乗算してもよい。また、例2の所定係数の分母に、「ゴースト候補画像43の代表輝度」を加えてもよい。
【0095】
<
図7の例におけるゴースト補正の例>
図8は、
図7を例とした、ゴースト補正(S405)による処理結果を示す。なお、
図8には以下が示されているが、各提示内容の更なる説明は追って行う。
(1)画像81:
図7の画像72に相当するビーム像G。
図7と同様にゴースト(横方向の破線で描画)を含む。
(2)画像82:画像81のゴースト補正後の図。
(3)グラフ83:画像81および82の破線A-B上の輝度プロファイルを用いて、ゴースト補正のコンセプトを示すグラフである。
【0096】
前述の通り、ステップS405はクロストーク発生強度に基づいて、ビーム像G41(
図8でいえば画像81)を補正することで、ビーム像G41に含まれるゴーストを軽減(理想的には除去)する。画像82はゴーストが除去できた場合を示す図である。
【0097】
グラフ83は画像81と画像82の輝度プロファイルを重ねて表示させたグラフである。グラフ中の下方向の矢印で指し示す箇所がゴーストに対応する位置を示す。ゴースト補正前は、矢印箇所には小さなピークが存在するが、ゴースト補正により当該ピークが消滅している例をこのグラフで示している。
【0098】
なお、グラフ83でわかる通り、ビーム像G41は、必ずしも背景領域の輝度が0であるとは限らない。そのため、ゴースト補正としてゴースト発生領域の輝度を必ずゼロにしてしまうと、視覚的には輝度が異なるゴーストが残っているように見えるため、これまでの説明のような処理にすることが好ましい。ただし、次点の策としてゴースト発生領域の輝度をゼロにしてもよい。測長用途の場合は輝度の高い画素を測長始点又は終点とする場合が多いからである。
【0099】
<データ出力の例>
クロストーク補正部21又は欠陥検出部22は、実施例1及び後述する実施例2乃至3にて生成、取得、算出したいかなる情報をデータ出力部23を介してデータ出力してもよい。好適には以下の情報をデータ出力する。
(1)ゴースト補正後又は欠損補填後のビーム像(ビーム像G’45やビーム像R’46が例)や、ゴースト補正後又は欠損補填後のビーム像を統合した統合ビーム像47。なお、統合ビーム像47の意味は後述する実施例2にて説明する。
(2)欠陥検出部22が検出した欠陥に関する情報。
(3)ゴースト発生領域、欠損領域、クロストーク発生強度。
(4)ゴースト候補画像、実像候補画像、ステップS702の相対移動量、ステップS703の特徴量。これら画像はクロストーク補正部のパラメータチューニングに有益な情報である。
(5)後述する実施例2にて説明するゴーストマップ49。なお、ゴーストマップ49は、元となる情報(少なくともゴースト発生領域。オプションとして欠損領域とクロストーク発生強度)が生成された後、他の実施例で参照されるまでに、クロストーク補正部21が生成すればよい。
【0100】
<実施例1まとめ>
以上に説明した本実施例は前述した特許文献1の1以上の課題を解決することができる。
なお、欠陥候補マップ93、ゴーストマップ94、欠陥マップ95のデータ構造は、処理の高速化の視点では、輝度に特定の意味を持たせたグレースケール又は白黒の画像ファイルが好ましい。ここで、「輝度に特定の意味」とは、マップが包含する情報の内容を輝度で示すということである。例えば、領域を示すのであれば、輝度が255の画素を領域内、輝度が0の画素を領域外とする、ことが例である。また、クロストーク発生強度を示すのであれば、最大輝度をする最大(と想定される)クロストーク発生強度に対応にさせ、最小輝度を最小のクロストーク発生強度(つまりゼロであり、ゴースト発生なし)に対応させる、ことが例である。しかし、各マップは必ずしも画像ファイル相当のデータ構造で表現される必要はない。
なお、試料上に同一回路パターンが複数含む状況は、例えば、同じチップの回路パターンを共通の試料(ウェハ)上に複数形成する場合である。以後の説明では当該例で説明するが、本実施例はチップ以外の単位で回路パターンが繰り返し形成された試料(ウェハ)であってもよい。
欠陥候補マップ93は、欠陥検出部22が統合ビーム像91で検出した欠陥検出位置(本実施例の場合は欠陥「候補」位置という意味合いとなる)を含む情報である。欠陥検出部22による欠陥検出アルゴリズムは、いかなる公知の方法を用いてもよいが、これら方法は実際の欠陥を検出するが、ゴーストを欠陥候補として誤検出してしまう可能性が高く、欠陥検出感度向上の阻害要因となる。このような誤検出を抑止する手段がゴーストマップ94である。
ゴーストマップ94は、前述の通り、統合ビーム像91の領域上でゴーストが発生している領域を示す情報である。欠陥検出部22による当該情報の生成方法は、例えば以下の少なくとも1つが考えられる。
(方法1)クロストーク補正部21で取得したゴースト発生領域を示す情報をゴーストマップ94にコピーする(統合ビーム像がビーム像そのものの場合)。
(方法2)統合ビーム像に統合されたビーム像のゴースト発生領域を示す情報を、座標変換を伴ってゴーストマップ94にコピーする。なお、当該座標変換は、統合ビーム像内のビーム像統合位置に基づいて、ビーム像における座標を統合ビーム像における座標に変換することである。
(方法3)ゴースト発生領域の取得方法がゴースト補正前のビーム像と、ゴースト補正後のビーム像と、を比較することで、当該ビーム像のゴースト発生領域を取得する。その後は方法1又は方法2と同様である。
欠陥検出部22は、このような欠陥候補マップ93とゴーストマップ94に基づいて、欠陥マップ95を生成する。そして、欠陥検出部22は、欠陥マップ95をデータ出力部23を用いて出力する。なお、データ出力対象は欠陥候補マップ93を追加で加えてもよい。この時、欠陥検出部22は、パラメータ設定部24を介してマルチ電子ビーム装置10のユーザからの切り替え操作を契機として、表示対象を欠陥候補マップ93と欠陥マップ95と、を切り替えてもよい。なお、欠陥候補マップ93と欠陥マップ95とは別々な情報である必要はなく、ゴーストマップ94に基づいて欠陥候補マップを修正することで、欠陥マップ95を生成してもよい。マルチ電子ビーム装置10のユーザから見れば欠陥候補マップ93からゴーストをマスク(隠す)しているように見える点は変わりないからである。以後の説明では、本処理を「ゴーストマスク処理」と呼ぶことがある。