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特開2024-92791ポリイミド系樹脂、樹脂組成物、および積層体
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  • 特開-ポリイミド系樹脂、樹脂組成物、および積層体 図1
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  • 特開-ポリイミド系樹脂、樹脂組成物、および積層体 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092791
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】ポリイミド系樹脂、樹脂組成物、および積層体
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20240701BHJP
   C08G 81/00 20060101ALI20240701BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20240701BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240701BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C08G73/10
C08G81/00
B32B17/10
B32B27/30 D
B32B27/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208949
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100172605
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 郁子
(72)【発明者】
【氏名】池内 淳一
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 佳久
(72)【発明者】
【氏名】大松 一喜
(72)【発明者】
【氏名】吉田 秀和
【テーマコード(参考)】
4F100
4J031
4J043
【Fターム(参考)】
4F100AG00B
4F100AH06A
4F100AK17A
4F100AK50A
4F100AK53A
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100EJ67A
4F100GB41
4F100JA06A
4F100JA07A
4F100JK06
4F100JK17
4F100JL10
4F100JN01
4F100YY00A
4J031AA57
4J031AB04
4J031AC13
4J031AF21
4J043PA11
4J043PB19
4J043QB15
4J043QB23
4J043QB26
4J043RA05
4J043RA34
4J043SA06
4J043SA47
4J043SA54
4J043SB01
4J043TA01
4J043TA22
4J043TA26
4J043TA47
4J043TA71
4J043TB04
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA672
4J043UB062
4J043UB122
4J043UB401
4J043VA012
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA041
4J043VA042
4J043VA052
4J043XA16
4J043YB40
4J043ZA52
4J043ZB21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ガラス層に対して高い密着性を有する樹脂層を形成でき、視認性が十分に高い積層体を提供することが可能なポリイミド系樹脂を提供する。
【解決手段】フッ素原子を含有するポリイミド系樹脂であって、式(I):
A=α/α(I)
[αは、式(I-I):log[η]=αlogM+logK(I-I)
〔[η]は前記ポリイミド系樹脂の固有粘度(単位:dl/g)、Mは前記ポリイミド系樹脂の絶対分子量、Kは定数〕により表わされる直線の傾きの値であり、
αは、式(I-II):log[η]=αlogM+logK(I-II)
〔[η]はポリスチレン標準物質SRM706aの固有粘度(単位:dl/g)、Mはポリスチレン標準物質SRM706aの絶対分子量、Kは定数〕により表される直線の傾きの値である、
で定義される値Aが0.40以上1.20以下であるポリイミド系樹脂。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素原子を含有するポリイミド系樹脂であって、式(I):
A=α/α (I)
[式(I)中、
αは、
光散乱検出器と粘度検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される前記ポリイミド系樹脂の絶対分子量と固有粘度のデータを、絶対分子量の対数を横軸、固有粘度の対数を縦軸としてプロットし、前記プロットのデータを、前記ポリイミド系樹脂の重量平均分子量の対数以上、z平均分子量の対数以下の範囲において最小二乗法近似することにより得られる式(I-I):
log[η]=αlogM+logK (I-I)
〔式(I-I)中、[η]は前記ポリイミド系樹脂の固有粘度(単位:dl/g)を表し、Mは前記ポリイミド系樹脂の絶対分子量を表し、Kは定数である〕
により表わされる直線の傾きの値であり、
αは、
光散乱検出器と粘度検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン標準物質SRM706a(米国国立標準技術研究所製)の絶対分子量と固有粘度のデータを、絶対分子量の対数を横軸、固有粘度の対数を縦軸としてプロットし、前記プロットのデータを、ポリスチレン標準物質SRM706aの重量平均分子量の対数以上、z平均分子量の対数以下の範囲において最小二乗法近似することにより得られる式(I-II):
log[η]=αlogM+logK (I-II)
〔式(I-II)中、[η]はポリスチレン標準物質SRM706aの固有粘度(単位:dl/g)を表し、Mはポリスチレン標準物質SRM706aの絶対分子量を表し、Kは定数である〕
により表される直線の傾きの値である、
ここで、前記ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリイミド系樹およびポリスチレン標準物質SRM706aの絶対分子量と固有粘度の測定において、移動相は10mMのリン酸および30mMのLiBrを含むジメチルホルムアミドであり、測定温度は40℃である]
で定義される値Aが0.40以上1.20以下であるポリイミド系樹脂。
【請求項2】
分岐構造を有する、請求項1に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項3】
シランカップリング剤から形成されてなる構造を有する、請求項1に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項4】
前記シランカップリング剤から形成されてなる構造として、アミノ基を有するシランカップリング剤から形成されてなる構造を含む、請求項3に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項5】
前記シランカップリング剤から形成されてなる構造として、エポキシ基を有するシランカップリング剤から形成されてなる構造をさらに含む、請求項4に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項6】
ポリイミド系原料樹脂とシランカップリング剤とを混合することにより請求項1~5のいずれかに記載のポリイミド系樹脂を得る工程を含む、ポリイミド系樹脂の製造方法。
【請求項7】
シランカップリング剤として、アミノ基を有するシランカップリング剤を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
シランカップリング剤として、エポキシ基を有するシランカップリング剤をさらに含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載のポリイミド系樹脂と溶媒とを含む樹脂組成物。
【請求項10】
ガラス層と、該ガラス層に直接積層された樹脂層とを含み、
前記樹脂層は、請求項1~5のいずれかに記載のポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物から形成されてなる、積層体。
【請求項11】
黄色度が2.0以下である、請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
フレキシブル表示装置の前面板用の積層体である、請求項10に記載の積層体。
【請求項13】
請求項1~5のいずれかに記載のポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物をガラス層上に塗布し、塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を加熱して樹脂層を形成する工程とを含む、
積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド系樹脂、該ポリイミド系樹脂と溶媒とを含む樹脂組成物、および、該樹脂組成物から形成されてなる樹脂層を含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
無機ガラスとも称されるガラス基板は、電子表示装置などの種々の装置に使用されている。ガラス基板は、硬く割れやすい性質を有するため、ガラス基板に樹脂フィルムを積層させ、ガラス基板の耐衝撃性と割れたときの飛散防止機能を持たせることが行われている。ガラス基板補強用の樹脂フィルムとしては、種々のものが使用され、提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、溶液塗工により薄板ガラス上に樹脂層を形成して透明基板を得る方法、および、接着層を介して薄板ガラス上に樹脂フィルムを貼着することにより樹脂層を形成して透明基板を得る方法が記載されている。特許文献2には、末端に水酸基を有する熱可塑性樹脂とエポキシ基末端カップリング剤を含むキャスティング溶液を無機ガラスの上に塗布することにより、ガラス上に熱可塑性樹脂層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-88789号公報
【特許文献2】国際公開第2010/053092号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子表示装置において使用されるガラス層と樹脂層とを含む積層体には、樹脂層とガラス層とが強く密着していることが求められると共に、表示装置に組み込まれた際の高い視認性が求められる。
【0006】
したがって、本発明は、ガラス層に対して高い密着性を有する樹脂層を形成することが可能であると共に、視認性が十分に高い積層体を提供することが可能なポリイミド系樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定のポリイミド系樹脂によって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明には、以下の態様が含まれる。
【0008】
〔1〕フッ素原子を含有するポリイミド系樹脂であって、式(I):
A=α/α (I)
[式(I)中、
αは、
光散乱検出器と粘度検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される前記ポリイミド系樹脂の絶対分子量と固有粘度のデータを、絶対分子量の対数を横軸、固有粘度の対数を縦軸としてプロットし、前記プロットのデータを、前記ポリイミド系樹脂の重量平均分子量の対数以上、z平均分子量の対数以下の範囲において最小二乗法近似することにより得られる式(I-I):
log[η]=αlogM+logK (I-I)
〔式(I-I)中、[η]は前記ポリイミド系樹脂の固有粘度(単位:dl/g)を表し、Mは前記ポリイミド系樹脂の絶対分子量を表し、Kは定数である〕
により表わされる直線の傾きの値であり、
αは、
光散乱検出器と粘度検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン標準物質SRM706a(米国国立標準技術研究所製)の絶対分子量と固有粘度のデータを、絶対分子量の対数を横軸、固有粘度の対数を縦軸としてプロットし、前記プロットのデータを、ポリスチレン標準物質SRM706aの重量平均分子量の対数以上、z平均分子量の対数以下の範囲において最小二乗法近似することにより得られる式(I-II):
log[η]=αlogM+logK (I-II)
〔式(I-II)中、[η]はポリスチレン標準物質SRM706aの固有粘度(単位:dl/g)を表し、Mはポリスチレン標準物質SRM706aの絶対分子量を表し、Kは定数である〕
により表される直線の傾きの値である、
ここで、前記ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリイミド系樹およびポリスチレン標準物質SRM706aの絶対分子量と固有粘度の測定において、移動相は10mMのリン酸および30mMのLiBrを含むジメチルホルムアミドであり、測定温度は40℃である]
で定義される値Aが0.40以上1.20以下であるポリイミド系樹脂。
〔2〕分岐構造を有する、〔1〕に記載のポリイミド系樹脂。
〔3〕シランカップリング剤から形成されてなる構造を有する、〔1〕または〔2〕に記載のポリイミド系樹脂。
〔4〕前記シランカップリング剤から形成されてなる構造として、アミノ基を有するシランカップリング剤から形成されてなる構造を含む、〔3〕に記載のポリイミド系樹脂。
〔5〕前記シランカップリング剤から形成されてなる構造として、エポキシ基を有するシランカップリング剤から形成されてなる構造をさらに含む、〔4〕に記載のポリイミド系樹脂。
〔6〕ポリイミド系原料樹脂とシランカップリング剤とを混合することにより〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のポリイミド系樹脂を得る工程を含む、ポリイミド系樹脂の製造方法。
〔7〕シランカップリング剤として、アミノ基を有するシランカップリング剤を含む、〔6〕に記載の製造方法。
〔8〕シランカップリング剤として、エポキシ基を有するシランカップリング剤をさらに含む、〔7〕に記載の製造方法。
〔9〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のポリイミド系樹脂と溶媒とを含む樹脂組成物。
〔10〕ガラス層と、該ガラス層に直接積層された樹脂層とを含み、
前記樹脂層は、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物から形成されてなる、積層体。
〔11〕黄色度が2.0以下である、〔10〕に記載の積層体。
〔12〕フレキシブル表示装置の前面板用の積層体である、〔10〕または〔11〕に記載の積層体。
〔13〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物をガラス層上に塗布し、塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を加熱して樹脂層を形成する工程とを含む、
積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガラス層に対して高い密着性を有する樹脂層を形成することが可能であると共に、視認性が十分に高い積層体を提供することが可能なポリイミド系樹脂を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】樹脂層とガラス層との間の剥離強度の測定方法を説明するための図である。
図2】実施例1の積層体における樹脂層を構成するポリイミド系樹脂のNMRスペクトルである。
図3】実施例1の樹脂組成物中のポリイミド系樹脂のNMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。また、特定のパラメータについて複数の上限値および下限値が記載されている場合、これらの上限値および下限値のうち任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。
【0012】
(ポリイミド系樹脂)
本発明のポリイミド系樹脂は、フッ素原子を含有するポリイミド系樹脂であって、式(I):A=α/αで定義される値Aが0.40以上1.20以下であるポリイミド系樹脂である。値Aが0.40以上1.20以下であることは、該ポリイミド系樹脂が適度な分枝構造を有していることを意味する。ポリイミド系樹脂が適度な分枝構造を有する場合、ポリイミド系樹脂の分子鎖の絡み合いが生じやすい。ゆえに、該ポリイミド系樹脂を含む樹脂層は、凝集破壊されにくい。さらには、樹脂層が凝集破壊されにくい層である結果、界面破壊の起点となり得る剥離も防止することができる。そのため、このような樹脂層は、例えばガラス層などの基材層に積層させた際に、該基材層に対する密着性が高い積層体を得ることができる。
【0013】
値Aが0.40未満である場合、ポリイミド系樹脂に含まれる分枝構造が多すぎることとなり、その結果、樹脂構造の剛直性に起因する機械的強度が失われ、かえって界面付近での破壊が生じやすくなる。基材との密着性の観点からは、値Aは好ましくは0.45以上、より好ましくは0.5以上である。値Aが1.20を超える場合、ポリイミド系樹脂に含まれる分枝構造が少なすぎることとなり、その結果、ガラス層などの基材層に対する十分な密着性が得られない。また、同様の観点から、好ましくは1.19以下、より好ましくは1.18以下、さらに好ましくは1.17以下である。
【0014】
値Aは、式(I):A=α/αで定義される値である。式(I)中のαおよびαは次のようにして算出することができる。なお、ここで用いる絶対分子量、固有粘度、重量平均分子量、z平均分子量は後述の絶対法GPC測定から求めた。
αは、光散乱検出器と粘度検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される前記ポリイミド系樹脂の絶対分子量と固有粘度のデータを、絶対分子量の対数を横軸、固有粘度の対数を縦軸としてプロットし、前記プロットのデータを、前記ポリイミド系樹脂の重量平均分子量の対数以上、z平均分子量の対数以下の範囲において最小二乗法近似することにより得られる式(I-I):
log[η]=αlogM+logK (I-I)
〔式(I-I)中、[η]は前記ポリイミド系樹脂の固有粘度(単位:dl/g)を表し、Mは前記ポリイミド系樹脂の絶対分子量を表し、Kは定数である〕
により表わされる直線の傾きの値である。
【0015】
αは、光散乱検出器と粘度検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーによりポリスチレン標準物質SRM706a(米国国立標準技術研究所製)の絶対分子量と固有粘度を測定し、絶対分子量の対数を横軸、固有粘度の対数を縦軸として測定したデータをプロットし、前記プロットのデータを、ポリスチレン標準物質SRM706aの重量平均分子量の対数以上、z平均分子量の対数以下の範囲において最小二乗法近似することにより得られる式(I-II):
log[η]=αlogM+logK (I-II)
〔式(I-II)中、[η]はポリスチレン標準物質SRM706aの固有粘度(単位:dl/g)を表し、Mはポリスチレン標準物質SRM706aの絶対分子量を表し、Kは定数である〕
により表される直線の傾きの値である。
なお、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリイミド系樹およびポリスチレン標準物質SRM706aの絶対分子量と固有粘度の測定において、移動相は10mMのリン酸および30mMのLiBrを含むジメチルホルムアミドであり、測定温度は40℃である。
【0016】
光散乱検出器により得られたデータから絶対分子量を求め、粘度検出器により固有粘度([η])を求めるにあたっては、Malvern社のデータ処理ソフトOmniSEC(version4.7)を利用し、文献「Size Exclusion Chromatography,Springer(1999)」を参考にして計算を行ってよい。上記の計算においては、OmniSECの「Use Viscometric Correction on RALLS」の機能を用いてよい。なお、屈折率増分とは、濃度変化に対する屈折率の変化率である。
前記ポリスチレン標準物質SRM706a(米国国立標準技術研究所製)は分枝構造を持たない。前記式(I-I)および式(I-II)は、重合体の固有粘度と絶対分子量の相関を表すMark-Houwink-Sakuradaの式と称され、前記αが小さいほど、分枝構造による高分子鎖の絡み合いの数が多い。前記ポリスチレン標準物質SRM706aは、分枝構造を形成していないため、分枝構造による高分子鎖の絡み合いは生じない。前記ポリスチレン標準物質SRM706aのαに対するαの比である値Aが小さいほど、重合体中に含まれる長鎖分枝構造の量が多いといえる。
【0017】
ポリイミド系樹脂は、上記のようにして算出される値Aが上記の範囲内である、フッ素原子を含有するポリイミド系樹脂である限り、特に限定されない。含フッ素置換基の具体例としては、フルオロ基およびトリフルオロメチル基が挙げられる。ポリイミド系樹脂がフッ素原子を含むことにより、該樹脂の層を有するフィルムや積層体のYIを低減させやすく、透明性を高めやすく、さらにフィルムや積層体の柔軟性および耐屈曲性を両立させやすい。得られるフィルムや積層体のYIの低減等の観点からは、ポリイミド系樹脂は、フッ素原子含有ジアミンおよび/またはフッ素原子含有テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位を少なくとも有することが好ましい。ここで、ポリイミド系樹脂がフッ素原子を含む場合、YIの低減などの上記利点がある一方で、ガラス層などの基材層に樹脂層を直接積層する際には、基材層に対する樹脂層の密着性が低下しやすい。本発明によれば、上記のような値Aを満たすフッ素原子含有ポリイミド樹脂により、YIを低減させやすく、透明性を高めやすく、ガラス層などの基材層と樹脂層との密着性が十分に高い積層体を得ることができる。
【0018】
本発明のポリイミド系樹脂におけるフッ素原子の含有量は、YIの低減、透明性の向上、吸水率の低減、および積層体における樹脂層の変形抑制等の観点から、ポリイミド系樹脂の質量に基づいて、好ましくは3~40質量%、より好ましくは5~35質量%、さらに好ましくは10~32質量%である。
【0019】
本発明のポリイミド系樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量は、積層体におけるガラス保護効果の向上、経時的な黄変抑制、耐屈曲性の向上の観点からは、好ましくは100,000以上、より好ましくは130,000以上、さらに好ましくは150,000以上、さらにより好ましくは180,000以上である。ポリイミド系樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量は、ワニスの製造しやすさや、高分子材料を製造する際の成膜性の観点からは、好ましくは800,000以下、より好ましくは600,000以下、さらに好ましくは500,000以下、さらにより好ましくは450,000以下である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により測定される。測定条件としては、実施例に記載する条件を使用してよい。
【0020】
本発明におけるポリイミド系樹脂とは、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂またはポリイミド樹脂およびポリアミドイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸樹脂である。ポリイミド系樹脂は、ガラス層などの基材層に対する樹脂層の密着性、得られる積層体の透明性、耐屈曲性の向上や樹脂層の黄変抑制の観点から、好ましくはポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂であり、より好ましくはポリアミドイミド樹脂である。
【0021】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、式(1):
【化1】
[式(1)中、Xは2価の有機基を表し、Yは4価の有機基を表し、*は結合手を表す]
で表される構成単位を含むポリイミド樹脂であるか、または、式(1)で表される構成単位および式(2):
【化2】
[式(2)中、XおよびZは、互いに独立に、2価の有機基を表し、*は結合手を表す]
で表される構成単位を含むポリアミドイミド樹脂であることが好ましい。ポリイミド系樹脂は、樹脂層と基材層との密着性、透明性、耐屈曲性の向上や樹脂層の黄変抑制の観点から、式(1)で表される構成単位を少なくとも有することが好ましく、式(1)で表される構成単位および式(2)で表される構成単位を有するポリアミドイミド樹脂であることがより好ましい。以下において式(1)および式(2)について説明するが、式(1)についての説明は、ポリイミド樹脂およびポリアミドイミド樹脂の両方に関し、式(2)についての説明は、ポリアミドイミド樹脂に関する。
【0022】
式(1)で表される構成単位は、テトラカルボン酸化合物とジアミン化合物とが反応して形成される構成単位であり、式(2)で表される構成単位は、ジカルボン酸化合物とジアミン化合物とが反応して形成される構成単位である。
【0023】
ポリイミド系樹脂が、式(1)で表される構成単位を有するポリイミド樹脂であるか、または、式(1)で表される構成単位および式(2)で表される構成単位を有するポリアミドイミド樹脂である本発明の一態様において、式(1)中のYは、互いに独立に、4価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の4価の有機基を表す。前記有機基は、有機基中の水素原子が炭化水素基またはフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基であり、その場合、炭化水素基およびフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。本発明の一実施態様である上記ポリイミド系樹脂は、複数のYを含み得、複数のYは、互いに同一であっても、異なっていてもよい。Yとしては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)または式(29)で表される基;それらの式(20)~式(29)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基またはトリフルオロメチル基で置換された基;並びに4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0024】
【化3】
【0025】
[式(20)~式(29)中、*は結合手を表し、
は、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-Ar-、-SO-、-CO-、-O-Ar-O-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH-Ar-、-Ar-C(CH-Ar-、-Ar-SO-Ar-または-CO-O-Ar-O-CO-を表す。Arは、水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリーレン基を表し、具体例としてはフェニレン基またはビフェニレン基が挙げられる。]
【0026】
式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)および式(29)で表される基の中でも、積層体の透明性および耐屈曲性の向上の観点から、式(20)~式(27)で表される基が好ましく、式(26)で表される基がより好ましい。また、Wは、積層体の透明性および耐屈曲性の向上、ならびに、積層体の黄変抑制の観点から、互いに独立に、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-または-C(CF-であることが好ましく、単結合、-O-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-または-C(CF-であることがより好ましく、単結合、-O-、-C(CH-または-C(CF-であることがさらに好ましく、-O-または-C(CF-であることがことさら好ましい。
【0027】
上記態様において、式(1)中の複数のYの少なくとも一部は、式(5):
【化4】
[式(5)中、R18~R25は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表し、R18~R25に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
*は結合手を表す。]
で表される構成単位であることが好ましい。式(1)中の複数のYの少なくとも一部が式(5)で表される基であると、得られる積層体において、積層体の透明性を高めやすい。また、高い屈曲性骨格に由来して、該ポリイミド系樹脂の溶媒への溶解性を向上し、ポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物の粘度を低く抑制することができるために塗工しやすく、積層体の製造を容易にすることができると共に、得られる積層体の光学特性を向上させやすい。
【0028】
式(5)において、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表し、好ましくは水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基および炭素数6~12のアリール基としては、式(3)における炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基または炭素数6~12のアリール基として後述するものが挙げられる。ここで、R18~R25に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。R18~R25は、積層体の透明性および耐屈曲性の向上、ならびに、積層体の黄変抑制の観点から、互いに独立に、さらに好ましくは水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基またはトリフルオロメチル基であり、特に好ましくは水素原子またはトリフルオロメチル基である。
【0029】
本発明の好適な実施態様においては、式(5)で表される構成単位は、式(5’):
【化5】
[式(5’)中、*は結合手を表す]
で表される基であり、すなわち、複数のYの少なくとも一部は、式(5’)で表される構成単位である。この場合、該ポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物から形成されてなる樹脂層を含む積層体は、高い透明性を有することができる。
【0030】
本発明の好適な実施態様において、上記ポリイミド系樹脂中のYの、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上が式(5)、特に式(5’)で表される。上記ポリイミド系樹脂における上記範囲内のYが式(5)、特に式(5’)で表されると、該ポリイミド系樹脂を含んでなるフィルムは高い透明性を有することができ、さらにフッ素元素を含有する骨格により該ポリイミド系樹脂の溶媒への溶解性を向上し、ポリイミド系樹脂を含むワニスの粘度を低く抑制することができ、またフィルムの製造が容易である。なお、好ましくは、上記ポリイミド系樹脂中のYの100モル%以下が式(5)、特に式(5’)で表される。上記ポリイミド系樹脂中のYは式(5)、特に式(5’)であってもよい。上記ポリイミド系樹脂中のYの式(5)で表される構成単位の含有率は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、または原料の仕込み比から算出することもできる。
【0031】
ポリイミド系樹脂が式(1)で表される構成単位および式(2)で表される構成単位を有するポリアミドイミド樹脂である本発明の一態様において、式(2)中のZは、互いに独立に、2価の有機基を表し、好ましくは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基、(これらの基における水素原子はハロゲン原子、好ましくはフッ素原子で置換されていてもよい)で置換されていてもよい、炭素数4~40の2価の有機基を表し、さらに好ましくは炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基(これらの基における水素原子はハロゲン原子、好ましくはフッ素原子で置換されていてもよい)で置換されていてもよい、環状構造を有する炭素数4~40の2価の有機基を表す。なお、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基の例としては、後述する式(3)中のR~Rに関する例示が同様にあてはまる。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。本発明の一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、複数種のZを含み得、複数種のZは、互いに同一であっても異なっていてもよい。前記2価の有機基は、好ましくは炭素数4~40の2価の有機基を表す。前記有機基は、炭化水素基またはフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、炭化水素基およびフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。Zの有機基としては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)または式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基並びに炭素数6以下の2価の鎖式炭化水素基が例示される。フィルムの光学特性を向上、例えばYI値を低減しやすい観点から、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)または式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基で表される基が好ましい。本発明の一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、Zとして1種類の有機基を含んでいてもよいし、2種類以上の有機基を含んでいてもよい。
【0032】
Zの有機基としては、式(20’)、式(21’)、式(22’)、式(23’)、式(24’)、式(25’)、式(26’)、式(27’)、式(28’)および式(29’):
【化6】
[式(20’)~式(29’)中、Wおよび*は、式(20)~式(29)において定義する通りである]
で表される2価の有機基がより好ましい。なお、式(20)~式(29)および式(20’)~式(29’)における環上の水素原子は、炭素数1~8の炭化水素基、フッ素置換された炭素数1~8の炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、フッ素置換された炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基(これらの基における水素原子はハロゲン原子、好ましくはフッ素原子で置換されていてもよい)で置換されていてもよい。
【0033】
ポリアミドイミド樹脂が、式(2)中のZが上記の式(20’)~式(29’)のいずれかで表される構成単位を有する場合、ポリアミドイミド樹脂は、該構成単位に加えて、次の式(d1):
【化7】
[式(d1)中、R24は、互いに独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基または炭素数6~12のアリール基を表し、R25は、R24または-C(=O)-*を表し、*は結合手を表す]
で表されるカルボン酸由来の構成単位をさらに有することが、樹脂組成物の粘度を低くしやすく、樹脂組成物の成膜性を高めやすく、得られる樹脂層の均一性を高めやすい観点から好ましい。
【0034】
24において、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基および炭素数6~12のアリール基としては、それぞれ、後述する式(3)中のR~Rに関して例示のものが挙げられる。構成単位(d1)としては、具体的には、R24およびR25がいずれも水素原子である構成単位(ジカルボン酸化合物に由来する構成単位)、R24がいずれも水素原子であり、R25が-C(=O)-*を表す構成単位(トリカルボン酸化合物に由来する構成単位)等が挙げられる。
【0035】
本発明の一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、複数種のZを含み得、複数種のZは、互いに同一であっても異なっていてもよい。特に、得られる積層体の透明性および耐屈曲性を向上しやすい観点から、Zの少なくとも一部が、式(3a):
【化8】
[式(3a)中、RおよびRは、互いに独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、または炭素数6~12のアリール基を表し、RおよびRに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、A、mおよび*は式(3)中のA、mおよび*と同じであり、tおよびuは互いに独立に0~4の整数である]
で表されることが好ましく、式(3):
【化9】
[式(3)中、R~Rは、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、または炭素数6~12のアリール基を表し、R~Rに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
Aは、互いに独立に、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-または-N(R)-を表し、Rは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、
mは0~4の整数であり、
*は結合手を表す]
で表されることがより好ましい。
【0036】
式(3)および式(3a)において、Aは、互いに独立に、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-または-N(R)-を表し、得られる積層体におけるガラスがフレキシブルガラスである場合に、該積層体の耐屈曲性を高めやすい観点から、好ましくは-O-または-S-を表し、より好ましくは-O-を表す。
、R、R、R、R、R、RおよびRは、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、または炭素数6~12のアリール基を表す。RおよびRは、互いに独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、または炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。炭素数1~6のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。炭素数6~12のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。ワニスから得られるフィルムの表面硬度および柔軟性の観点から、R~Rは、互いに独立に、好ましくは水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表し、さらに好ましくは水素原子を表す。ここで、R~R、RおよびRに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。炭素数1~12の1価の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、tert-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられ、これらはハロゲン原子で置換されていてもよい。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。ポリイミド系樹脂は、複数種のAを含み得、複数種のAは、互いに同一でよく、異なっていてもよい。
【0037】
式(3a)中のtおよびuは、互いに独立に、0~4の整数であり、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0または1、さらにより好ましくは0である。
【0038】
式(3)および式(3a)において、mは0~4の範囲の整数であり、mがこの範囲内であると、ワニスの安定性、および、ワニスから得られるフィルムの耐屈曲性や弾性率が良好になりやすい。また、式(3)および式(3a)において、mは、好ましくは0~3の範囲の整数、より好ましくは0~2の範囲の整数、さらに好ましくは0または1、さらにより好ましくは0である。mがこの範囲内であると、フィルムの耐屈曲性や弾性率を向上させやすい。また、Zは、式(3)または式(3a)で表される構成単位を1種または2種類以上含んでいてもよく、フィルムの弾性率および耐屈曲性の向上、YI値低減の観点、フィルムの黄変抑制の観点から、特にmの値が異なる2種類以上の構成単位、好ましくはmの値の異なる2種類または3種類の構成単位を含んでいてもよい。その場合、ワニスから得られるフィルムの高い弾性率、耐屈曲性および低いYI値を発現しやすい観点から、樹脂がZにおいて、mが0である式(3)または式(3a)で表される構成単位を含有することが好ましく、該構成単位に加えてmが1である式(3)または式(3a)で表される構成単位をさらに含有することがより好ましい。また、mが0である式(3)で表されるZを有する式(2)で表される構成単位に加えて、上記の式(d1)で表される構成単位をさらに有することも好ましい。
【0039】
本発明の好ましい一実施形態において、樹脂は、式(3)で表される構成単位として、m=0であり、かつR~Rが、互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基である構成単位を有する。
本発明のより好ましい一実施形態において、樹脂は、式(3)で表される構成単位として、mが0であり、かつR~Rが、互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基である構成単位を有する。この場合、本発明のフィルムの耐凹み性をより向上させやすい。
【0040】
本発明の別の好ましい一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、式(3)で表される構成単位として、m=0であり、かつR~Rが水素原子である構成単位に加えて、式(3’):
【化10】
で表される構成単位を有していてもよい。この場合、樹脂層の表面硬度および耐屈曲性を向上させやすく、また、積層体のYI値を低減しやすい。
【0041】
本発明の好ましい一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂の式(1)で表される構成単位および式(2)で表される構成単位の合計を100モル%としたときに、式(3)または式(3a)で表される構成単位の割合は、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上、さらにより好ましくは50モル%以上、とりわけ好ましくは60モル%以上であり、好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下、さらにより好ましくは75モル%以下である。式(3)または式(3a)で表される構成単位の割合が上記の下限以上であると、樹脂層とガラス層との密着性、透明性や耐屈曲性を高めやすい。式(3)または式(3a)で表される構成単位の割合が上記の上限以下であると、式(3)または式(3a)由来のアミド結合間水素結合による樹脂組成物の粘度上昇を抑制し、樹脂組成物の加工性を向上しやすい。
【0042】
また、ポリアミドイミド樹脂がm=1~4である式(3)または式(3a)の構成単位を有する場合、ポリアミドイミド樹脂の式(1)で表される構成単位および式(2)で表される構成単位の合計を100モル%としたときに、m=1~4である式(3)または式(3a)の構成単位の割合は、好ましくは2モル%以上、より好ましくは4モル%以上、さらに好ましくは6モル%以上、さらにより好ましくは8モル%以上であり、好ましくは70モル%以下、より好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下、さらにより好ましくは15モル%以下、ことさら好ましくは12モル%以下である。mが1~4である式(3)または式(3a)の構成単位の割合が上記の下限以上であると、樹脂層とガラス層との密着性、透明性や耐屈曲性を高めやすい。mが1~4である式(3)または式(3a)の構成単位の割合が上記の上限以下であると、式(3)または式(3a)由来のアミド結合間水素結合による樹脂組成物の粘度上昇を抑制し、積層体を製造しやすい。なお、式(1)、式(2)、式(3)または式(3a)で表される構成単位の含有量は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、または原料の仕込み比から算出することもできる。
【0043】
本発明の好ましい一実施形態において、上記ポリアミドイミド樹脂中のZの、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、さらに好ましくは45モル%以上、さらにより好ましくは50モル%以上、とりわけ好ましくは70モル%以上が、mが0~4である式(3)または式(3a)で表される構成単位である。Zの上記の下限以上が、mが0~4である式(3)または式(3a)で表される構成単位であると、樹脂層とガラス層との密着性、透明性や耐屈曲性を向上しやすいと共に、樹脂層の黄変を抑制しやすい。また、ポリアミドイミド樹脂中のZの100モル%以下が、mが0~4である式(3)または式(3a)で表される構成単位であればよい。なお、樹脂中の、mが0~4である式(3)または式(3a)で表される構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、または原料の仕込み比から算出することもできる。
【0044】
本発明の好ましい一実施形態において、上記ポリアミドイミド樹脂中のZの、好ましくは5モル%以上、より好ましくは8モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上、さらにより好ましくは12モル%以上が、mが1~4である式(3)または式(3a)で表される。ポリアミドイミド樹脂のZの上記の下限以上が、mが1~4である式(3)または式(3a)で表されると、樹脂層とガラス層との密着性、透明性や耐屈曲性を向上しやすい。また、Zの、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは50モル%以下、さらにより好ましくは30モル%以下が、mが1~4である式(3)または式(3a)で表されることが好ましい。Zの上記の上限以下が、mが1~4である式(3)または式(3a)で表されると、mが1~4である式(3)または式(3a)由来のアミド結合間水素結合による樹脂組成物の粘度上昇を抑制し、積層体の加工性を向上しやすい。なお樹脂中のmが1~4である式(3)または式(3a)で表される構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、または原料の仕込み比から算出することもできる。
【0045】
式(1)および式(2)において、Xは、互いに独立に、2価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の2価の有機基、より好ましくは環状構造を有する炭素数4~40の2価の有機基を表す。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。前記有機基は、有機基中の水素原子が炭化水素基またはフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、炭化水素基およびフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。本発明の一実施形態において、ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂は、複数種のXを含み得、複数種のXは、互いに同一であっても異なっていてもよい。Xとしては、式(10)、式(11)、式(12)、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)、式(17)および式(18)で表される基;それらの式(10)~式(18)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基またはトリフルオロメチル基で置換された基;並びに炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0046】
【化11】
【0047】
式(10)~式(18)中、*は結合手を表し、
、VおよびVは、互いに独立に、単結合、-O-、-S-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-CO-または-N(Q)-を表す。ここで、Qはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。炭素数1~12の1価の炭化水素基としては、Rについて上記に述べた基が挙げられる。
1つの例は、VおよびVが単結合、-O-または-S-であり、かつ、Vが-CH-、-C(CH-、-C(CF-または-SO-である。VとVとの各環に対する結合位置、および、VとVとの各環に対する結合位置は、互いに独立に、好ましくは各環に対してメタ位またはパラ位であり、より好ましくはパラ位である。
【0048】
式(10)~式(18)で表される基の中でも、樹脂層とガラス層との密着性、透明性や耐屈曲性を向上しやすい観点から、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)および式(17)で表される基が好ましく、式(14)、式(15)および式(16)で表される基がより好ましい。また、V、VおよびVは、樹脂層とガラス層との密着性、透明性や耐屈曲性を向上しやすい観点から、互いに独立に、好ましくは単結合、-O-または-S-、より好ましくは単結合または-O-である。
【0049】
本発明の好ましい一実施形態において、式(1)および式(2)中のXの少なくとも一部は、式(4):
【化12】
[式(4)中、R10~R17は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基または炭素数6~12のアリール基を表し、R10~R17に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、*は結合手を表す]
で表される構成単位である。式(1)および式(2)中のXの少なくとも一部が式(4)で表される基であると、樹脂層とガラス層との密着性、透明性や耐屈曲性を高めやすい。
【0050】
式(4)において、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16およびR17は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基または炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基または炭素数6~12のアリール基としては、式(3)における炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基または炭素数6~12のアリール基として例示のものが挙げられる。R10~R17は、互いに独立に、好ましくは水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表し、ここで、R10~R17に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R10~R17は、互いに独立に、フィルムの表面硬度、透明性および耐屈曲性の観点から、さらに好ましくは水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基またはトリフルオロメチル基を表し、さらにより好ましくはR10、R12、R13、R14、R15およびR16が水素原子、R11およびR17が水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基またはトリフルオロメチル基を表し、とりわけ好ましくはR11およびR17がメチル基またはトリフルオロメチル基を表す。
【0051】
本発明の好ましい一実施形態において、式(4)で表される構成単位は式(4’):
【化13】
で表される構成単位であり、すなわち、式(1)および式(2)で表される構成単位中のXの少なくとも一部は、式(4’)で表される構成単位である。この場合、フッ素元素を含有する骨格によりポリイミド系樹脂の溶媒への溶解性を高めやすい。また、樹脂組成物の粘度を低減しやすく、積層体の加工性を向上しやすい。また、フッ素元素を含有する骨格により、樹脂組成物から形成されてなる樹脂層を含む積層体の光学特性を向上しやすい。
【0052】
本発明の好ましい一実施形態において、上記ポリイミド系樹脂中のXの、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上が式(4)、とりわけ式(4’)で表される。ポリイミド系樹脂における上記範囲内のXが式(4)、とりわけ式(4’)で表されると、フッ素元素を含有する骨格によりポリイミド系樹脂の溶媒への溶解性を向上させやすい。また、樹脂組成物の粘度を低減しやすく、樹脂組成物から得られる積層体の加工性を向上しやすい。さらに、フッ素元素を含有する骨格により、樹脂組成物から得られる積層体の光学特性も向上しやすい。なお、好ましくは、上記ポリイミド系樹脂中のXの100モル%以下が式(4)、とりわけ式(4’)で表される。上記ポリアミドイミド樹脂中のXは式(4)、とりわけ式(4’)であってもよい。上記樹脂中のXの式(4)で表される構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、または原料の仕込み比から算出することもできる。
【0053】
ポリイミド系樹脂は、式(30)で表される構成単位および/または式(31)で表される構成単位を含むことができ、式(1)および式(2)で表される構成単位に、式(30)で表される構成単位および/または式(31)で表される構成単位を含むものであってもよい。
【化14】
【0054】
式(30)において、Yは、互いに独立に、4価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基またはフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。Yとしては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)および式(29)で表される基、それらの式(20)~式(29)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基またはトリフルオロメチル基で置換された基、並びに4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、複数種のYを含み得、複数種のYは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0055】
式(31)において、Yは3価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基またはフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。Yとしては、上記の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)および式(29)で表される基の結合手のいずれか1つが水素原子に置き換わった基、および3価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、複数種のYを含み得、複数種のYは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
式(30)および式(31)において、XおよびXは、互いに独立に、2価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基またはフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。XおよびXとしては、上記の式(10)、式(11)、式(12)、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)、式(17)および式(18)で表される基;それら式(10)~式(18)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基またはトリフルオロメチル基で置換された基;並びに炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0057】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、式(1)および/または式(2)で表される構成単位、並びに場合により式(30)および/または式(31)で表される構成単位を含む。また、ワニスから得られるフィルムの光学特性、表面硬度および耐屈曲性の観点から、上記ポリイミド系樹脂において、式(1)および式(2)で表される構成単位は、式(1)および式(2)、並びに場合により式(30)および式(31)で表される全構成単位に基づいて、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。なお、ポリイミド系樹脂において、式(1)および式(2)で表される構成単位は、式(1)および式(2)、並びに場合により式(30)および/または式(31)で表される全構成単位に基づいて、通常100%以下である。なお、上記割合は、例えば、H-NMRを用いて測定することができ、または原料の仕込み比から算出することもできる。同様の観点から、ポリイミド系樹脂がポリイミド樹脂の場合、式(1)で表される構成単位は、ポリイミド樹脂に含まれる全構成単位に基づいて、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。また、ポリイミド系樹脂がポリアミドイミド樹脂の場合、式(1)および式(2)のいずれかで表される構成単位は、ポリイミド樹脂に含まれる全構成単位に基づいて、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
【0058】
ポリイミド系樹脂がポリアミドイミド樹脂である場合、ポリアミドイミド樹脂において、式(2)で表される構成単位の含有量は、式(1)で表される構成単位1モルに対して、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.5モル以上、さらに好ましくは1.0モル以上、さらにより好ましくは1.5モル以上であり、好ましくは6.0モル以下、より好ましくは5.0モル以下、さらに好ましくは4.5モル以下である。式(2)で表される構成単位の含有量が上記の下限以上であると、ガラス層との密着性を高めやすいと共に、樹脂層の表面硬度を高めやすく、ガラス保護効果を高めやすい。また、式(2)で表される構成単位の含有量が上記の上限以下であると、式(2)中のアミド結合間の水素結合による増粘を抑制し、積層体を製造する際の加工性を向上させやすい。
【0059】
ポリイミド系樹脂のイミド化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは96%以上である。フレキシブルガラスを使用する場合の耐屈曲性の低下を抑制しやすい観点、および、積層体のYIを低下しやすく、かつ、透明性を高めやすい観点から、イミド化率が上記の下限以上であることが好ましい。また、イミド化率の上限は100%以下である。イミド化率は、ポリイミド系樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値に対する、ポリイミド系樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。なお、ポリイミド系樹脂がトリカルボン酸化合物を含む場合には、ポリイミド系樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値と、トリカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量との合計に対する、ポリイミド樹脂およびポリアミドイミド樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。イミド化率は、IR法、NMR法などにより求めることができ、例えば、NMR法においては、実施例に記載の方法により測定できる。
【0060】
値Aが上記の範囲内である本発明のポリイミド系樹脂は、通常、分枝構造を有するポリイミド系樹脂である。分枝構造の導入方法は、値Aが上記の範囲内となる限り特に限定されないが、基材層に対する密着性を向上させやすい観点から、例えば長鎖のフッ素原子含有ポリイミド系原料樹脂を互いに結合して得られるような長鎖分枝構造であることが好ましく、アルコキシシリル基および/またはシラノール基を有する長鎖のフッ素原子含有ポリイミド系原料樹脂を互いに結合して得られるような長鎖分枝構造であることがより好ましい。
【0061】
本発明のポリイミド系樹脂は、好ましくはシランカップリング剤から形成されてなる構造を有する。
後述のように、本発明のポリイミド系樹脂は、例えば、ポリイミド系原料樹脂とシランカップリング剤とを混合することにより得ることができる。ポリイミド系原料樹脂とシランカップリング剤とを混合することにより上記ポリイミド系樹脂を得る場合、得られたポリイミド系樹脂は、シランカップリング剤から形成されてなる構造、例えば、アルコキシシリル基およびシラノール基の少なくとも何れかを有すると推測される。
アルコキシシリル基は、-Si(-Rb)で表される基であり、前記-Rbは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アリール基、またはアルコキシ基であり、但し、前記-Rbの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは3つ全てが、アルコキシ基である。好ましい一態様において、アルコキシシリル基は、前記-Rbが炭素数1~6のアルキル基、ヒドロキシル基、または炭素数1~3のアルコキシ基を表し、前記-Rbの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは3つ全てが、炭素数1~3のアルコキシ基を表す基である。シラノール基は、-Si(-OH)で表される基である。
ポリイミド系樹脂は、より好ましくは少なくとも一部の末端にアルコキシシリル基および/またはシラノール基を有し得る。
フッ素系樹脂含有ポリイミド系樹脂が、シランカップリング剤から形成されてなる構造、例えばアルコキシシリル基および/またはシラノール基を有することは、フッ素系樹脂含有ポリイミド系樹脂を製造する際のモノマーの混合比および反応させる成分の構造等から確認することができ、あるいはNMR、IR等の分析手段によっても確認することができる。
【0062】
シランカップリング剤から形成されてなる構造としては、アミノ基を有するシランカップリング剤から形成されてなる構造が挙げられる。ガラス層との密着性を良好にする点で、本発明のポリイミド系樹脂は、アミノ基を有するシランカップリング剤から形成されてなる構造を有する場合、エポキシ基を有するシランカップリング剤から形成されてなる構造をさらに含むことが好ましい。
【0063】
シランカップリング剤から形成されてなる構造の形成に関し、例えば、ポリイミド系原料樹脂としてフッ素原子含有ポリイミド系原料樹脂(PI)と、シランカップリング剤としてアミノ系シランカップリング剤(S1)を用いて、本発明のポリイミド系樹脂が得られる場合を例として、次に説明する。まず、反応式(A1)に示されるように、シランカップリング剤(S1)は、フッ素原子含有ポリイミド系原料樹脂(PI)の例えば末端のカルボキシル基と反応し、アミド結合とアルコキシシリル基とを有する末端構造を含むポリイミド系原料樹脂(PI-S1)を形成する。
【化15】
なお、(PI)および(PI-S1)中の波線はポリマーの長鎖構造を表す。また、本説明の例では、フッ素原子含有ポリイミド系原料樹脂(PI)のジカルボン酸末端のカルボキシル基がシランカップリング剤(S1)のアミノ基と反応する場合を例としたが、テトラカルボン酸末端のカルボキシル基等の別の基が反応してもよい。
【0064】
【化16】
【0065】
次に、反応式(A2)に示されるように、ポリイミド系原料樹脂(PI-S1)は、分子鎖間でさらに反応し、(2-PI-S1)で示される構造となる。(2-PI-S1)中のアルコキシシリル基部分は、別のポリイミド系原料樹脂(PI-S1)等と分子鎖間でさらに反応し、値Aが上記の範囲内であるような分枝構造を有するポリイミド系樹脂が得られる。このような縮合反応は、水の存在下で進行しやすい傾向がある。また、室温以上で加熱することで進行しやすく、低温にすることで進行が抑制される傾向がある。また、分子構造等に依存するが、溶液のpHが4~7程度の場合に反応速度が極小となり、それよりも大きくするか、小さくすることで縮合反応を進めることができる。
【0066】
なお、上記の説明は、特定のポリイミド系原料樹脂と、アミノ基を有するシランカップリング剤(S1)とを用いた場合を一例として用いて説明したものであり、上記の例は本発明のポリイミド系樹脂の構造を何ら限定するものではない。
【0067】
ポリイミド系原料樹脂とシランカップリング剤との反応において、マロン酸等の多価カルボン酸(好ましくはジカルボン酸)を添加することにより、値Aを本発明の範囲内に容易に調製することができる。当該反応において、多価カルボン酸化合物が存在する場合、溶液中でシランカップリンク剤と相互作用し、ポリアミドイミドがシランカップリンク剤を介して架橋する反応を抑制させ、分岐度を適当な範囲に調整することができる。また、成膜過程でポリイミド系樹脂とシランカップリング剤との反応を促進し、ガラスとの密着効果をより高めると考えられる。
【0068】
多価カルボン酸としては、例えば、2つのカルボキシル基が直接結合しているシュウ酸、または、2価の炭化水素基の両末端にカルボキシル基が結合した化合物が挙げられる。該2価の炭化水素基は、直鎖状であっても分枝状であってもよく、脂肪族炭化水素基であっても芳香族炭化水素基であってもよく、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基であってもよい。該2価の炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~3である。該2価の炭化水素基の両末端以外の炭素原子は、アルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の置換基を有していてもよい。多価カルボン酸が有するカルボキシル基の数は、2以上であれば特に限定されないが、好ましくは2~4個、より好ましくは2または3個である。
【0069】
多価カルボン酸としては、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、酒石酸、リンゴ酸、フタル酸、イタコン酸、ムコン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等のジカルボン酸;トリカルバリル酸、クエン酸、アコニット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ビフェニル-3,4’,5-トリカルボン酸等のトリカルボン酸;ブタンテトラカルボン酸等のテトラカルボン酸等が挙げられる。
【0070】
多価カルボン酸の分子量は、ポリイミド系樹脂との相互作用を高めやすく、樹脂層の密着性を向上させやすい観点から、好ましくは1,000以下、より好ましくは700以下、さらに好ましくは500以下であり、好ましくは50以上、より好ましくは80以上である。
【0071】
本発明の好ましい一実施形態において、多価カルボン酸は、式(e1):
【化17】
[式(e1)中、
e1およびRe2は、それぞれ独立して、単結合、カルボキシル基を有していてもよい炭素数1~10の2価の脂肪族炭化水素基、または、カルボキシル基を有していてもよい炭素数6~10の2価の芳香族炭化水素基を表し、
e3およびRe4は、それぞれ独立して、カルボキシル基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基または水素原子を表し、
q1は0または1を表す]
で表される化合物である。
【0072】
e1およびRe2は、それぞれ独立して、単結合、カルボキシル基を有していてもよい炭素数1~10の2価の脂肪族炭化水素基、または、カルボキシル基を有していてもよい炭素数6~10の2価の芳香族炭化水素基を表す。炭素数1~10の2価の脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分枝状または環状であってよく、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルカンジイル基等が挙げられる。炭素数6~10の2価の芳香族炭化水素基としては、具体的にはフェニレン基が挙げられる。これらの基はカルボキシル基を有していてもよい。
【0073】
e3およびRe4は、それぞれ独立して、カルボキシル基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基または水素原子を表す。炭素数1~10のアルキル基は、直鎖状、分枝状または環状であってよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
【0074】
式(e1)中のRe1は、好ましくは単結合またはカルボキシル基を有していてもよい炭素数1~10の2価の脂肪族炭化水素基である。
e2は、好ましくは単結合である。
e3は、好ましくは水素原子である。
e4は、好ましくは水素原子である。
【0075】
本発明のポリイミド系樹脂を製造する際に原料として用いるフッ素原子含有ポリイミド系原料樹脂は、好ましくは、末端にテトラカルボン酸化合物に由来するカルボン酸基、および/または、ジアミン化合物に由来するアミノ基、および/または、ジカルボン酸化合物に由来するカルボン酸基を有する。なお、一般に、カルボン酸基(-C(=O)-OH)に含まれる-OH基は、水酸基とは称されない。フッ素系樹脂含有ポリイミド系原料樹脂の上記の構造は、フッ素系樹脂含有ポリイミド系樹脂を製造する際のモノマーの混合比及び混合順序から特定することができ、あるいはNMR、IR等の分析手段によっても特定することができる。
【0076】
値Aが上記の範囲内であるポリイミド系樹脂は、例えば、フッ素原子含有ポリイミド系原料樹脂にアルコキシシリル基および/またはシラノール基を導入し、これらの基をさらに他の基に結合させる方法、長鎖のフッ素原子含有ポリイミド系原料樹脂を架橋剤と反応させて架橋する方法、などによっても製造することができる。
【0077】
原料として使用するポリイミド系原料樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量は、本発明の効果を高めやすい観点から、好ましくは100,000以上、より好ましくは130,000以上、さらに好ましくは150,000以上、さらにより好ましくは180,000以上である。また、ポリイミド系原料樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量は、ワニスの製造しやすさや、高分子材料を製造する際の成膜性の観点からは、好ましくは800,000以下、より好ましくは600,000以下、さらに好ましくは500,000以下、さらにより好ましくは450,000以下である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により測定される。測定条件としては、実施例に記載する条件を使用してよい。
【0078】
シランカップリング剤としては、例えば、アミノ基、イソシアネート基、ウレイド基、イソシアヌレート基、エポキシ基(グリシジル基)、ビニル基、(メタ)アクリル基、メルカプト基、カルボキシル基、及びジカルボン酸無水物基の少なくとも何れかを有する、シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤は、樹脂層とガラス層との密着性の向上、透明性の向上、積層体の黄変抑制、および場合により耐屈曲性の向上の観点から、好ましくはアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基およびジカルボン酸無水物基の少なくとも何れかを有するシランカップリング剤であり、より好ましくはアミノ基を有するシランカップリング剤である。
ポリイミド系原料樹脂と反応させるシランカップリング剤は1種類であっても複数種類であってもよい。複数種類のシランカップリング剤をポリアミドイミド原料樹脂と反応させる場合、アミノ基を有するシランカップリング剤とエポキシ基を有するシランカップリング剤とを併用することが好ましい。
上記シランカップリング剤の例として、式(c1)、(c2)または(c3):
【化18】
[式中、
c1およびRc2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、またはフェニル基を表し
c3は、単結合または炭素数1~8のアルキレン基を表し、
c4は、炭素数1~3のアルキレン基を表し、
c5は、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表し、
c6は、炭素数1~6のアルキル基を表し、
rは1または2であり、
sは0~3のいずれかであり、
tは0または1である]
で表されるシランカップリング剤が挙げられる。
【0079】
式(c1)~(c3)中のRc1およびRc2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、またはフェニル基を表す。炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。Rc1およびRc2は、それぞれ独立に、好ましくはエチル基である。
【0080】
式(c1)~(c3)中のRc3は、単結合または炭素数1~8のアルキレン基を表す。炭素数1~8のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基および、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基等が挙げられる。Rc3は、好ましくはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、より好ましくはエチレン基である。
【0081】
式(c1)~(c3)中のRc4は、炭素数1~3のアルキレン基を表す。炭素数1~3のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。Rc4は、好ましくはエチレン基である。
【0082】
式(c1)~(c3)中のRc5は、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表す。炭素数1~3のアルキル基としては、Rc1およびRc2に関して上記に記載した基が挙げられる。Rc5は、好ましくはメチル基、エチル基、より好ましくはエチル基である。
【0083】
式(c1)~(c3)中のRc6は、炭素数1~6のアルキル基を表す。炭素数1~6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、t-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。Rc6は、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、より好ましくはメチル基、エチル基である。
【0084】
式(c2)中のrは1または2であり、好ましくは1である。式(c1)~(c3)中のsは0~3のいずれかであり、好ましくは0~2であり、より好ましくは0または1である。式(c1)~(c3)中のtは0または1であり、好ましくは0である。
【0085】
本発明の好ましい一実施形態において、ガラス基材に対する密着性をより高めやすい観点から、ポリイミド系樹脂は、好ましくは、ポリイミド系原料樹脂と上記の式(c1)、(c2)または(c3)で表されるシランカップリング剤(第1のシランカップリング剤とも称する)とを反応させた樹脂であり、より好ましくは、ポリイミド系原料樹脂と上記の式(c1)で表されるシランカップリング剤とを反応させた樹脂である。また、本発明のポリイミド系樹脂は、好ましくは、アミノ基を有するシランカップリング剤から形成された結合L’を含み、より好ましくは式(c1)で表されるシランカップリング剤から形成された結合を含む。
【0086】
本発明の別の好ましい一実施形態において、本発明のポリイミド系樹脂は、シランカップリング剤から形成されてなる構造として、アミノ基を有するシランカップリング剤(好ましくは式(b1-1)で表されるシランカップリング剤)から形成されてなる構造を含む。また、この態様において、本発明のポリイミド系樹脂は、エポキシ基を有するシランカップリング剤(好ましくは式(b1-4)で表されるシランカップリング剤)から形成されてなる構造をさらに含む。
【0087】
本発明の好ましい一実施形態において、ガラス基材に対する密着性をより高めやすい観点から、ポリイミド系樹脂は、ポリイミド系原料樹脂と、上記の式(c1)、(c2)または(c3)で表されるシランカップリング剤、より好ましくは上記の式(c1)で表されるシランカップリング剤(第1のシランカップリング剤とも称する)と、式(f):
【化19】
[式(f)中、
f1は、単結合または炭素数1~8のアルキレン基を表し、
f2は、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表し、
f3は、炭素数1~6のアルキル基を表し、
uは0または1である]
で表されるシランカップリング剤(第2のシランカップリング剤とも称する)とを反応させたポリイミド系樹脂である。式(c1)で表されるシランカップリング剤と、式(f)で表されるシランカップリング剤とを用いる場合、それぞれを単独で用いる場合と比較して、樹脂層の密着性を向上させやすい。これは、式(c1)で表されるシランカップリンク剤のアミノ基が樹脂のアミド結合またはイミド結合と交換し、アミノ末端を有する樹脂成分が生じ、それが式(f)で表されるシランカップリンク剤のエポキシ基と反応する結果、より多くのシランカップリング剤が樹脂と反応し、ガラスとの結合が増加するためと考えられる。例えば上記の方法で得られる本発明のポリイミド系樹脂は、好ましくは、アミノ基を有するシランカップリング剤から形成された結合L’とエポキシ基を有するシランカップリング剤から形成された結合L’’とを含む。
【0088】
式(f)中のRf1は、単結合または炭素数1~8のアルキレン基を表す。炭素数1~8のアルキレン基としては、式(c1)~(c3)中のRc3について上記に記載した基が挙げられる。Rf1は、好ましくはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、より好ましくはエチレン基である。
【0089】
式(f)中のRf2は、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表し、炭素数1~3のアルキレン基としては、Rc1およびRc2に関して上記に記載した基が挙げられる。Rf2は、好ましくはメチル基またはエチル基、より好ましくはメチル基である。
【0090】
式(f)中のRf3は、炭素数1~6のアルキル基を表す。炭素数1~6のアルキル基としては、式(c1)~(c3)中のRc6について上記に記載した基が挙げられる。Rf3は、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、より好ましくはメチル基、エチル基である。
【0091】
式(f)中のuは0または1であり、好ましくは0である。
【0092】
シランカップリング剤として具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕プロピルトリメトキシシラン、〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕プロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤(グリシジル基を有するシランカップリング剤を含む);3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド基を有するシランカップリング剤;3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基を有するシランカップリング剤;トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート基を有するシランカップリング剤;4-(トリメトキシシリル)ブタン酸、4-(トリエトキシシリル)ブタン酸、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、N-t-ブチル-3-(3-トリメトキシシリルプロピル)コハク酸イミド等のカルボキシル基又はジカルボン酸無水物基を有するシランカップリング剤が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
シランカップリング剤は、好ましくは、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、4-(トリメトキシシリル)ブタン酸、4-(トリエトキシシリル)ブタン酸、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、及びN-t-ブチル-3-(3-トリメトキシシリルプロピル)コハク酸イミドからなる群から選択され、より好ましくは、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、及びN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランからなる群から選択され、さらに好ましくは、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン及び3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミンからなる群から選択される。
【0094】
本発明の好ましい一態様において、シランカップリング剤として2種類以上のシランカップリング剤を使用することが好ましい。この場合、第1のシランカップリング剤は、好ましくはアミノ有するシランカップリング剤から選択され、より好ましくは式(b1-1)で表されるシランカップリング剤から選択され、さらに好ましくは3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、4-(トリメトキシシリル)ブタン酸、4-(トリエトキシシリル)ブタン酸、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、及びN-t-ブチル-3-(3-トリメトキシシリルプロピル)コハク酸イミドからなる群から選択され、さらにより好ましくは、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、及びN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランからなる群から選択され、とりわけ好ましくは、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン及び3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミンからなる群から選択される。第2のシランカップリング剤は、好ましくはエポキシ基を有するシランカップリング剤(グリシジル基を有するシランカップリング剤を含む)から選択され、より好ましくは式(b1-4)で表されるシランカップリング剤から選択され、さらに好ましくは2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕プロピルトリメトキシシラン、〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕プロピルトリエトキシシランからなる群から選択され、さらにより好ましくは3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランからなる群から選択される。
【0095】
(ポリイミド系樹脂等の製造方法)
ポリイミド系樹脂及びポリイミド系原料樹脂は、例えば、テトラカルボン酸化合物およびジアミン化合物を主な原料として製造でき、ポリアミドイミド樹脂及びその原料樹脂は、例えば、テトラカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物およびジアミン化合物を主な原料として製造できる。
【0096】
樹脂の製造に使用されるジアミン化合物としては、例えば、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミンおよびこれらの混合物が挙げられる。なお、本実施形態において「芳香族ジアミン」とは、アミノ基が芳香環に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基またはその他の置換基を含んでいてもよい。この芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環およびフルオレン環等が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環である。また「脂肪族ジアミン」とは、アミノ基が脂肪族基に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に芳香環やその他の置換基を含んでいてもよい。
【0097】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン等の非環式脂肪族ジアミン、並びに1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミンおよび4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の環式脂肪族ジアミン等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組合せて用いることができる。
【0098】
芳香族ジアミンとしては、例えばp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等の、芳香環を1つ有する芳香族ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMBと記載することがある)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン等の、芳香環を2つ以上有する芳香族ジアミンが挙げられる。これらは単独または2種以上を組合せて使用できる。
【0099】
芳香族ジアミンは、好ましくは4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルであり、より好ましくは4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルである。これらは単独または2種以上を組合せて使用できる。
【0100】
上記ジアミン化合物の中でも、樹脂層の高表面硬度、高透明性、高柔軟性、高屈曲耐性や低着色性の観点からは、ビフェニル構造を有する芳香族ジアミンからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルおよび4,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上を用いることがより好ましく、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)を用いることがよりさらに好ましい。
【0101】
樹脂の製造に用いられるテトラカルボン酸化合物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物;および脂肪族テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸化合物等が挙げられる。テトラカルボン酸化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。テトラカルボン酸化合物は、二無水物の他、酸クロリド化合物等のテトラカルボン酸化合物類縁体であってもよい。
【0102】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物および縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDAと記載することがある)、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。また、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物が挙げられ、縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0103】
これらの中でも、好ましくは4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDAと記載することがある)、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDAと記載することがある)、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物および4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられ、より好ましくは4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物および4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。これらは単独または2種以上を組合せて使用できる。
【0104】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、環式または非環式の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは、脂環式炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物であり、その具体例としては、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等のシクロアルカンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物およびこれらの位置異性体が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組合せて用いることができる。非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、および1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組合せて用いることができる。また、環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物および非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物を組合せて用いてもよい。
【0105】
上記テトラカルボン酸二無水物の中でも、樹脂層の高表面硬度、高透明性、高柔軟性、高屈曲耐性や低着色性の観点から、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、並びにこれらの混合物が好ましく、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、並びにこれらの混合物がより好ましく、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)がさらに好ましい。
【0106】
樹脂の製造に用いられるジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸およびそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。具体例としては、テレフタル酸;2,5-ビス(トリフルオロメチル)テレフタル酸;イソフタル酸;2,5-ジメチルテレフタル酸;2,5-ジメトキシテレフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ビフェニルジカルボン酸;炭素数8以下である鎖式炭化水素のジカルボン酸化合物および2つの安息香酸が単結合、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-またはフェニレン基で連結された化合物並びに、それらの酸クロリド化合物が挙げられる。これらのジカルボン酸化合物の中でも、樹脂層の高表面硬度や高透明性の観点から、4,4’-オキシビス安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-メトキシテレフタル酸クロリド、2,5-ジメチルテレフタル酸、2,5-ジメトキシテレフタル酸、2,5-ビス(トリフルオロメチル)テレフタル酸、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ビフェニルジカルボン酸およびそれらの酸クロリドが好ましく、2-メトキシテレフタル酸クロリド(以下、OMTPCと記載することがある)、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)(以下、OBBCと記載することがある)、2,5-ジメチルテレフタル酸クロリド、2,5-ジメトキシテレフタル酸クロリド、2,5-ビス(トリフルオロメチル)テレフタル酸クロリド、テレフタル酸ジクロリド(以下、TPCと記載することがある)、イソフタル酸ジクロリド(以下、IPCと記載することがある)がより好ましく、OBBC、TPC、IPC、2-メトキシテレフタル酸クロリド、2,5-ジメチルテレフタル酸クロリド、2,5-ジメトキシテレフタル酸クロリドがさらに好ましい。
【0107】
ポリイミド樹脂がポリアミドイミド樹脂である場合には、ジカルボン酸化合物は少なくとも式(3”)で表される化合物を含むことが好ましい。
【化20】
[式(3”)中、R~Rは、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、または炭素数6~12のアリール基を表し、R~Rに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
Aは、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-または-N(R)-を表し、
は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、
mは0~4の整数であり、
31およびR32は、互いに独立に、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基または塩素原子を表す。]
【0108】
なお、ポリイミド系樹脂の製造にジカルボン酸化合物を使用する場合、未反応のジカルボン酸化合物がポリイミド系樹脂に含まれないように、ポリイミド系樹脂を十分に精製することが望ましい。純度の高いポリイミド系樹脂を使用することによって、該ポリイミド系樹脂を含むワニスにおけるジカルボン酸の含有量を10ppm以下に調整しやすくなる。
【0109】
本発明の好ましい一実施形態において、ジカルボン酸化合物は、mが0である、式(3”)で表される化合物である。ジカルボン酸化合物として、mが0である式(3”)で表される化合物に加えて、Aが酸素原子である式(3”)で表される化合物を使用してもよい。また、別の好ましい一実施形態においては、ジカルボン酸化合物は、R31およびR32が塩素原子である、式(3”)で表される化合物である。また、ジアミン化合物に代えて、ジイソシアネート化合物を用いてもよい。
【0110】
なお、上記ポリイミド系樹脂は、フィルムの各種物性を損なわない範囲で、上記テトラカルボン酸化合物に加えて、テトラカルボン酸およびトリカルボン酸並びにそれらの無水物および誘導体をさらに反応させたものであってもよい。
【0111】
テトラカルボン酸としては、上記テトラカルボン酸化合物の無水物の水付加体が挙げられる。
【0112】
トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸およびそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物;1,3,5-ベンゼントリカルボン酸の酸クロリド化合物;2,3,6-ナフタレントリカルボン酸-2,3-無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-若しくはフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
【0113】
樹脂の製造において、ジアミン化合物、テトラカルボン酸化合物および/またはジカルボン酸化合物の使用量は、所望とするポリイミド系樹脂の各構成単位の比率に応じて適宜選択できる。
【0114】
樹脂の製造において、ジアミン化合物、テトラカルボン酸化合物およびジカルボン酸化合物の反応温度は、特に限定されないが、例えば5~350℃、好ましくは20~200℃、より好ましくは25~100℃である。反応時間も特に限定されないが、例えば30分~10時間程度である。必要に応じて、不活性雰囲気または減圧の条件下において反応を行ってよい。好ましい態様では、反応は、常圧および/または不活性ガス雰囲気下、撹拌しながら行う。また、反応は、反応に不活性な溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、反応に影響を与えない限り特に限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、GBL、γ-バレロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;テトラヒドロフランおよびジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;クロロホルムおよびクロロベンゼン等の塩素含有溶媒;DMAc、DMF等のアミド系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;およびそれらの組合せなどが挙げられる。これらの中でも、溶解性の観点から、アミド系溶媒を好適に使用できる。
【0115】
上記のような、テトラカルボン酸化合物、ジアミン化合物および場合によりジカルボン酸化合物を反応させることにより、本発明のポリイミド系原料樹脂を製造してもよいし、さらに、得られた反応物をイミド化することによってポリイミド系原料樹脂を製造してもよい。
【0116】
ポリイミド系樹脂の製造におけるイミド化工程では、イミド化触媒の存在下で、イミド化することができる。イミド化触媒としては、例えばトリプロピルアミン、ジブチルプロピルアミン、エチルジブチルアミン等の脂肪族アミン;N-エチルピペリジン、N-プロピルピペリジン、N-ブチルピロリジン、N-ブチルピペリジン、およびN-プロピルヘキサヒドロアゼピン等の脂環式アミン(単環式);アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン、アザビシクロ[3.2.1]オクタン、アザビシクロ[2.2.2]オクタン、およびアザビシクロ[3.2.2]ノナン等の脂環式アミン(多環式);並びにピリジン、2-メチルピリジン(2-ピコリン)、3-メチルピリジン(3-ピコリン)、4-メチルピリジン(4-ピコリン)、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、3,4-シクロペンテノピリジン、5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン、およびイソキノリン等の芳香族アミンが挙げられる。また、イミド化反応を促進しやすい観点から、イミド化触媒とともに、酸無水物を用いることが好ましい。酸無水物は、イミド化反応に用いられる慣用の酸無水物等が挙げられ、その具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等の脂肪族酸無水物、フタル酸無水物等の芳香族酸無水物などが挙げられる。
【0117】
上記のようにして、ポリイミド系原料樹脂、例えば、イミド化されたポリイミド系原料樹脂を製造し、さらに、シランカップリング剤、例えば、上記の式(c1)で表されるシランカップリング剤、式(c2)で表されるシランカップリング剤、または、式(c3)で表されるシランカップリング剤と反応させることにより、アルコキシシリル基および/またはシラノール基を含む構造を導入し、さらにこれらの基を反応させることによって製造することができる。また、ポリイミド系原料樹脂を製造し、該ポリイミド系原料樹脂と第1のシランカップリング剤、例えば、上記の式(c1)で表されるシランカップリング剤とを反応させると共に、第2のシランカップリング剤、例えば、式(f)で表されるシランカップリング剤とを反応させることにより、本発明のポリイミド系樹脂を製造してもよい。本発明は、ポリイミド系原料樹脂とシランカップリング剤とを混合することにより、値Aが0.40以上1.20以下であるポリイミド系樹脂を得る工程を含む、ポリイミド系樹脂の製造方法も提供する。本発明の製造方法で使用するシランカップリング剤としては、上記に述べたシランカップリング剤が挙げられ、好ましい記載が同様にあてはまる。
【0118】
ポリイミド系原料樹脂とシランカップリング剤とを反応させる際の反応割合としては、樹脂層とガラス層との密着性を向上させやすく、ガラスの保護効果を高めやすい観点から、ポリイミド系原料樹脂100質量部に対して、合計で、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上、さらにより好ましくは0.7質量部以上のシランカップリング剤を反応させることが好ましい。また、ワニスの安定性の観点からは、ポリイミド系原料樹脂100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下のシランカップリング剤を反応させることが好ましい。
【0119】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系原料樹脂と、アミノ基を有するシランカップリング剤、好ましくは式(c1)で表される第1のシランカップリング剤と、さらにエポキシ基を有するシランカップリング剤、好ましくは式(f)で表される第2のシランカップリング剤とを反応させる場合、第1のシランカップリング剤の100質量部に対する第2のシランカップリング剤の量は、特に限定されないが、樹脂層とガラス層との密着性を向上させやすく、ガラスの保護効果を高めやすい観点から、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上、さらに好ましくは100質量部以上である。また、得られる積層体の光学特性の観点からは、第1のシランカップリング剤の量に対する第2のシランカップリング剤の量は、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは700質量部以下、さらに好ましくは500質量部以下である。
ポリイミド系原料樹脂とシランカップリング剤との混合は、上述の溶媒の存在下で行うことが好ましい。上記混合の条件は特に限定されないが、例えば0~50℃の温度下で、常圧で行うことができる。好ましくは5~40℃であり、さらに好ましくは10~30℃である。混合時間は、特に限定されないが、例えば5分以上で好ましくは10分以上であり、60分以下であってもよい。
【0120】
ポリイミド系樹脂は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組合せた分離手段により単離(分離精製)してもよく、好ましい態様では、透明イミド系樹脂を含む反応液に、多量のメタノール等のアルコールを加え、樹脂を析出させ、濃縮、濾過、乾燥等を行うことにより単離することができる。
【0121】
〔樹脂層〕
本発明のポリイミド系樹脂は、樹脂層の形成に使用することができる。本発明は、ガラス層と、該ガラス層に直接積層された樹脂層とを含み、前記樹脂層が、本発明のポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物から形成されてなる積層体も提供する。樹脂層は単層であってもよいし、多層であってもよいが、単層が生産性の観点で好ましい。
【0122】
本発明の一実施形態において、樹脂層は、本発明のポリイミド系樹脂および溶媒を含む樹脂組成物から形成されてなる層である。本発明は、該樹脂組成物も提供する。本発明の樹脂組成物は、1種類の本発明のポリイミド系樹脂を含有してもよいし、2種以上の本発明のポリイミド系樹脂を含有してもよい。また、本発明の樹脂組成物は、1種類の溶媒を含有してもよいし、2種以上の溶媒を含有してもよい。さらに、樹脂組成物は、本発明のポリイミド系樹脂および溶媒以外の他の成分を含有してもよい。本発明の積層体における樹脂層は、本発明の一実施形態において、本発明の樹脂組成物から形成されてなる層であり、好ましくは、本発明の樹脂組成物をガラス層に直接積層させ、加熱することによって形成されてなる層である。
【0123】
(溶媒)
樹脂組成物は、本発明のポリイミド系樹脂に加えて、さらに溶媒を含む。溶媒は、前記ポリイミド系樹脂を溶解可能であれば特に限定されない。かかる溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒;GBL、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;およびそれらの組合せなどの有機溶媒が挙げられる。これらの中でも、アミド系溶媒またはラクトン系溶媒が好ましい。ポリイミド系樹脂の溶解性、塗布性及び乾燥性等の観点からは、該有機溶媒の沸点は、好ましくは120~300℃、より好ましくは120~270℃、さらに好ましくは120~250℃、とりわけ好ましくは120~230℃である。ポリイミド系樹脂に対する溶解性に優れることから、DMAc(沸点:165℃)、GBL(沸点:204℃)、N-メチルピロリドン(沸点:202℃)、酢酸ブチル(沸点:126℃)、シクロペンタノン(沸点:131℃)及び酢酸アミル(沸点:149℃)からなる群から選択される溶媒が好ましい。溶媒は単独または二種以上組合せて使用できる。なお、2種以上の溶媒を用いる場合には、用いる溶媒の中で最も沸点の高い溶媒の沸点が上記範囲に入るよう溶媒の種類を選択することが好ましい。また、樹脂組成物には水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、非環状エステル系溶媒、エーテル系溶媒などが含まれてもよい。樹脂組成物の固形分濃度は、好ましくは1~25質量%、より好ましくは5~20質量%、さらに好ましくは5~15質量%である。
【0124】
(フィラー)
本発明の樹脂組成物は、本発明のポリイミド系樹脂および溶媒に加えて、さらにフィラーを含んでいてよい。フィラーとしては、例えば有機粒子、無機粒子などが挙げられ、好ましくは無機粒子が挙げられる。無機粒子としては、シリカ、ジルコニア、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、ITOとも称されるインジウムスズ酸化物、酸化アンチモン、酸化セリウム等の金属酸化物粒子、フッ化マグネシウム、フッ化ナトリウム等の金属フッ化物粒子などが挙げられ、これらの中でも、好ましくはシリカ粒子、ジルコニア粒子、アルミナ粒子が挙げられ、より好ましくはシリカ粒子が挙げられる。これらのフィラーは単独または2種以上を組合せて使用できる。
【0125】
フィラー、好ましくはシリカ粒子の平均一次粒子径は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは15nm以上、とりわけ好ましくは20nm以上であり、好ましくは100nm以下、より好ましくは90nm以下、さらに好ましくは80nm以下、さらにより好ましくは70nm以下、とりわけ好ましくは60nm以下、とりわけより好ましくは50nm以下、とりわけさらに好ましくは40nm以下である。フィラー、好ましくはシリカ粒子の平均一次粒子径が上記範囲内であると、フィラー、好ましくはシリカ粒子の凝集を抑制し、得られる積層体の光学特性を向上しやすい。フィラーの平均一次粒子径は、BET法により測定できる。なお、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡の画像解析により、平均一次粒子径を測定してもよい。
【0126】
本発明の樹脂組成物がフィラー、好ましくはシリカ粒子を含有する場合、フィラー、好ましくはシリカ粒子の含有量は、樹脂組成物の固形分量に対して、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、さらにより好ましくは20質量%以上、とりわけ好ましくは30質量%以上であり、好ましくは60質量%以下である。フィラーの含有量が上記の下限以上であると、得られる積層体における樹脂層の弾性率を向上しやすい。また、フィラーの含有量が上記の上限以下であると、樹脂組成物の保管安定性が向上され、得られるフィルムの光学特性を向上しやすい。
【0127】
(紫外線吸収剤)
本発明の樹脂組成物は、本発明のポリイミド系樹脂および溶媒に加えて、さらに紫外線吸収剤を含んでいてよい。紫外線吸収剤は、樹脂材料の分野で紫外線吸収剤として通常用いられているものから、適宜選択することができる。紫外線吸収剤は、400nm以下の波長の光を吸収する化合物を含んでいてもよい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、およびトリアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。本発明の樹脂組成物が紫外線吸収剤を含有することにより、得られる樹脂層においてポリイミド系樹脂の劣化が抑制されるため、フィルムの視認性を高めることができる。
なお、本明細書において、「系化合物」とは、当該「系化合物」が付される化合物の誘導体を指す。例えば、「ベンゾフェノン系化合物」とは、母体骨格としてのベンゾフェノンと、ベンゾフェノンに結合している置換基とを有する化合物を指す。
【0128】
本発明の樹脂組成物が紫外線吸収剤を含有する場合、紫外線吸収剤の含有率は、樹脂組成物の固形分量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下である。好適な含有率は用いる紫外線吸収剤により異なるが、400nmの光線透過率が20~60%程度になるように紫外線吸収剤の含有率を調節すると、積層体の耐光性が高められるとともに、透明性の高い積層体を得ることができる。
【0129】
(他の添加剤)
本発明の樹脂組成物は、フィラー、紫外線吸収剤以外の他の添加剤をさらに含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、離型剤、安定剤、ブルーイング剤、難燃剤、pH調整剤、シリカ分散剤、滑剤、増粘剤、およびレベリング剤等が挙げられる。他の添加剤を含有する場合、その含有量は、樹脂組成物の固形分量に対して、好ましくは0.001~20質量部、より好ましくは0.01~15質量部、さらに好ましくは0.1~10質量部であってよい。
【0130】
本発明の一実施形態において、樹脂組成物に含まれるポリイミド系樹脂の含有量は、樹脂組成物の固形分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上であり、好ましくは100質量部以下、より好ましくは99.5質量部以下である。ポリイミド系樹脂の含有量が上記範囲内であると、樹脂層とガラス層との密着性、透明性や耐屈曲性を向上しやすく、樹脂層の黄変を抑制しやすい。
【0131】
本発明の積層体に含まれる樹脂層の厚さは、ガラス層の保護効果、ガラス層との密着性を高めやすい観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは25μm以上であり、積層体の視認性、および積層体の耐屈曲性を向上しやすい観点からは、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。樹脂層の厚さは、接触式のデジマチックインジケーター、断面SEM等により測定される。
【0132】
上記に述べた樹脂組成物は、ガラス保護膜形成用組成物として使用することができる。したがって、上記に述べた樹脂組成物からなるガラス保護膜形成用組成物も本発明により提供することができる。なお、本明細書において、ガラス保護膜形成用組成物は、ガラスの表面を一時的に保護する目的で使用される剥離可能な保護フィルムを形成するための組成物ではなく、ガラス表面に密着性の非剥離性の保護膜を形成するための組成物である。
【0133】
〔ガラス層〕
ガラス層は、無機ガラスの層であれば特に限定されない。ガラスの組成としては、例えば、下記に例示する金属および半金属酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを50~80モル%、Alを0.1~25モル%、LiOとNaOとKOとの合計を3~30モル%、MgOを0~25モル%、CaOを0~25モル%およびZrOを0~5モル%含むガラスが挙げられる。より具体的には、以下のガラスの組成が挙げられる。なお、例えば、「MgOを0~25モル%含む」とは、MgOは必須ではないが25モル%まで含んでもよいことを意味する。以下に示す(i)のガラスはソーダライムシリケートガラスに含まれ、(ii)、(iii)および(iv)のガラスはアルミノシリケートガラスに含まれる。
(i)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを63~73モル%、Alを0.1~5.2モル%、NaOを10~16モル%、KOを0~1.5モル%、LiOを0~5モル%、MgOを5~13モル%およびCaOを4~10モル%を含むガラス。
(ii)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを50~74モル%、Alを1~10モル%、NaOを6~14モル%、KOを3~11モル%、LiOを0~5モル%、MgOを2~15モル%、CaOを0~6モル%、およびZrOを0~5モル%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が75モル%以下であり、NaOおよびKOの含有量の合計が12~25モル%であり、MgOおよびCaOの含有量の合計が7~15モル%であるガラス。
(iii)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを68~80モル%、Alを4~10モル%、NaOを5~15モル%、KOを0~1モル%、LiOを0~5モル%、MgOを4~15モル%およびZrOを0~1モル%含有するガラス。
(iv)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiOを67~75モル%、Alを0~4モル%、NaOを7~15モル%、KOを1~9モル%、LiOを0~5モル%、MgOを6~14モル%、およびZrOを0~1.5モル%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が71~75モル%であり、NaOおよびKOの含有量の合計が12~20モル%であり、CaOを含有する場合その含有量が1モル%未満であるガラス。
【0134】
ガラス層を構成するガラスの製造方法は、特に限定されず、例えば以下に記載するような工程を適切に選択すればよく、典型的には従来公知の工程を適用できる。例えば、まず、各成分の原料を後述する組成となるように調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。バブリング、撹拌、清澄剤の添加等によりガラスを均質化し、従来公知の成形法により所定の厚さのガラス板に成形し、徐冷する。
【0135】
ガラスの成形法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法、ダウンドロー法およびロールアウト法が挙げられ、大量生産に適することから好ましくはフロート法が挙げられる。また、フロート法以外の連続成形法である、フュージョン法やダウンドロー法も好適である。成形したガラスを、必要に応じて、研削や研磨などの処理を行ってから化学強化処理し、洗浄および乾燥する。その後、切断、研磨などの加工を施してよい。
【0136】
ガラスの洗浄方法としては、溶剤による洗浄、コロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理など、ガラス表面を親水化させる処理が挙げられ、好ましくはコロナ放電処理が挙げられる。コロナ放電処理とは、電極間にガラスを設置し、電極間に高電圧をかけて放電し、ガラス表面を活性化する処理である。コロナ放電処理の条件は、電極の形状、電極間隔、放電量、湿度などによっても異なるが、例えば、電極の形状としては、ワイヤ状電極、セグメント電極等が挙げられ、電極間隔を1~5mm、放電量として10~200W・分/m、コロナ放電処理速度を3~20m/分程度に設定するのが好ましい。また、コロナ放電処理部の絶対湿度は、好ましくは10~30g/mである。絶対湿度が前記の範囲にあると、スパークが発生することなく安定して放電がされる。
【0137】
ガラス層として、市販のガラスを使用してもよい。市販のガラスとしては、例えば、S9213(松浪硝子工業(株))やG-Leaf(日本電気硝子(株))等が挙げられる。また、屈曲性を有するフレキシブルガラスを用いることにより、本発明の積層体をフレキシブル表示装置の前面板として、用いることができる。
【0138】
ガラス層の厚さは、積層体の強度を高めやすい観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上である。また、ガラス層の厚さは、積層体の視認性を高めやすい観点から、例えば2,000μm以下、1,500μm以下、1,000μm以下等であってよいが、画像表示装置において使用しやすい観点およびフレキシブル性を付与しやすい観点からは、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。
【0139】
本発明の好ましい一実施形態において、ガラス層はフレキシブルガラスの層である。フレキシブルガラスは、湾曲できるほど薄くした、フレキシブル性を有するガラスである。フレキシブルガラスは、好ましくは後述する化学強化ガラスである。ガラス層としてフレキシブルガラスを使用する場合、該ガラス層の厚さは、積層体の強度および耐屈曲性の観点から、好ましくは10~200μm、より好ましくは20~150μmである。フレキシブルガラス層と、該ガラス層に直接積層されたポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物から形成されてなる樹脂層とを含む積層体において、該ガラス層と該樹脂層との密着性を向上させる点では比較的高温で製造することが好ましい。一方、フレキシブルガラス層のフレキシブル性や、YIなどの光学特性に鑑みれば、比較的低温、例えば250℃以下で加熱することにより当該積層体を製造することが好ましい。本発明の積層体によれば、例えば250℃以下、好ましくは230℃以下などの比較的低温の加熱条件で積層体を製造しても、ガラス層と樹脂層との密着性を十分に高めることができるため、密着性と、低いYI値と、フレキシブル性とを兼ね備えた積層体を提供することが可能となる。
【0140】
本発明の好ましい一実施形態において、ガラス層は化学強化ガラスの層であってよい。無機ガラスを化学強化処理すると、表面に圧縮応力層が形成され、無機ガラスの強度および耐擦傷性が高められる。化学強化処理は、無機ガラスの主面に存在するイオン半径が小さいアルカリ金属イオンをイオン半径が大きいアルカリ金属イオンに交換することによって行われ、具体的には、無機ガラスと、融点が450℃弱である溶融塩とを接触させて、無機ガラス中のLiイオンまたはNaイオンを、溶融塩中のイオン半径のより大きいアルカリイオン、典型的にはLiイオンに対してはNaイオンまたはKイオン、Naイオンに対してはKイオンに、それぞれ、交換することによって行われる。化学強化処理は従来公知の方法によって実施でき、一般的には硝酸カリウム溶融塩に無機ガラスを浸漬する。この溶融塩に、炭酸カリウムを溶融塩に対して、10質量%程度入れて使用してもよい。これにより無機ガラスの表層のクラックなどを除去でき高強度の無機ガラスが得られる。また、化学強化処理は1回に限らず、例えば異なる条件で2回以上実施してもよい。
【0141】
ガラス層が化学強化ガラスの層である場合、該ガラス層は優れた耐衝撃性および耐屈曲性を有するため、ガラス層の厚さを薄くすることができる。また、ガラス層にフレキシブル性を付与することができる。ガラス層が化学強化ガラスの層である場合、ガラス層の厚さは、積層体の強度および耐屈曲性の観点から、好ましくは10~200μm、より好ましくは20~150μmである。ガラス層が化学強化ガラスの層であることは、例えば、表面に圧縮応力層が形成されているか否かを判断することで確認でき、具体的には、ガラスの表面から厚さ方向へのNaイオン、Kイオン等の濃度分布を測定することによって、これらの交換されたイオンがより高い濃度で表面に存在しているかどうかを判断することによって、確認することができる。このような化学強化ガラス層に本発明のポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物から形成されてなる樹脂層を直接積層して積層体を製造する場合にも、加熱温度が低いと密着性を十分に高めることができず、加熱温度が高いと、化学強化ガラス層の耐衝撃性および耐屈曲性が低下すると共に、YIも低くしにくい場合があった。本発明の積層体によれば、例えば250℃以下、好ましくは230℃以下などの比較的低温の加熱条件で製造しても、ガラス層と樹脂層との密着性を十分に高めることができるため、密着性と、低いYI値と、フレキシブル性とを兼ね備えた積層体を提供することが可能となる。
【0142】
本発明の好ましい一実施形態において、積層体は、ガラス層の両面に直接積層されたポリイミド系樹脂および溶媒を含む樹脂組成物から形成されてなる樹脂層を備えてもよい。また、本発明の積層体は、樹脂層とは反対側のガラス層の面に、別のポリイミド系樹脂フィルムを粘着層、接着剤層等を介して貼合してもよい。このような構成とすることで、ガラスが割れたときの飛散防止機能をさらに高めることができる。飛散防止機能を高める観点では、ガラスの両面にポリイミド系樹脂層が直接積層された構成が特に好ましい。
【0143】
(その他の層)
本発明の積層体は、上記のガラス層と、該ガラス層の少なくとも一方の面に直接積層された樹脂層とを含む限り、その他の層構成は何ら限定されず、該ガラス層と樹脂層と、その他のさらなる層とを含む積層体であってもよいし、その他の層を有さない、該ガラス層と樹脂層とからなる積層体であってもよい。その他の層としては、例えば機能層が挙げられ、具体的には、紫外線吸収層、ハードコート層、プライマー層、ガスバリア層、粘着層、色相調整層、屈折率調整層などが挙げられる。機能層は単独または二種以上を組合せて使用できる。
【0144】
紫外線吸収層は、紫外線吸収の機能を有する層であり、例えば、紫外線硬化型の透明樹脂、電子線硬化型の透明樹脂、および熱硬化型の透明樹脂から選ばれる主材と、この主材に分散した紫外線吸収剤とから構成される。
【0145】
本発明の積層体の少なくとも一方の面、好ましくは樹脂層側の面には、ハードコート層が設けられていてもよい。ハードコート層の厚さは特に限定されず、例えば、2~100μmであってもよい。前記ハードコート層の厚さが前記の範囲にあると、耐衝撃性を高めやすい。ハードコート層は、活性エネルギー線照射、或いは熱エネルギー付与により架橋構造を形成し得る反応性材料を含むハードコート組成物を硬化させて形成することができ、活性エネルギー線照射によるものが好ましい。活性エネルギー線は、活性種を発生する化合物を分解して活性種を発生させることができるエネルギー線と定義され、可視光、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線および電子線などが挙げられ、好ましくは紫外線が挙げられる。前記ハードコート組成物は、ラジカル重合性化合物およびカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物を含有する。
【0146】
前記ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合性基を有する化合物である。前記ラジカル重合性化合物が有するラジカル重合性基としては、ラジカル重合反応を生じ得る官能基であればよく、炭素-炭素不飽和二重結合を含む基などが挙げられ、具体的には、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などが挙げられる。なお、前記ラジカル重合性化合物が2個以上のラジカル重合性基を有する場合、これらのラジカル重合性基はそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。前記ラジカル重合性化合物が1分子中に有するラジカル重合性基の数は、ハードコート層の硬度を向上する点から、好ましくは2以上である。前記ラジカル重合性化合物としては、反応性の高さの点から、好ましくは(メタ)アクリロイル基を有する化合物が挙げられ、具体的には1分子中に2~6個の(メタ)アクリロイル基を有する多官能アクリレートモノマーと称される化合物やエポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートと称される分子内に数個の(メタ)アクリロイル基を有する分子量が数百から数千のオリゴマーが挙げられ、好ましくはエポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートおよびポリエステル(メタ)アクリレートから選択された1種以上が挙げられる。
【0147】
前記カチオン重合性化合物は、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル結合を有する基等のカチオン重合性基を有する化合物である。前記カチオン重合性化合物が1分子中に有するカチオン重合性基の数は、ハードコート層の硬度を向上する点から、好ましくは2以上であり、より好ましくは3以上である。
また、前記カチオン重合性化合物としては、中でも、カチオン重合性基としてエポキシ基およびオキセタニル基の少なくとも1種を有する化合物が好ましい。エポキシ基、オキセタニル基等の環状のエーテル結合を有する基は、重合反応に伴う収縮が小さいという点から好ましい。また、環状のエーテル結合を有する基のうちエポキシ基を有する化合物は多様な構造の化合物が入手し易く、得られたハードコート層の耐久性に悪影響を与えず、ラジカル重合性化合物との相溶性もコントロールし易いという利点がある。また、環状のエーテル結合を有する基のうちオキセタニル基は、エポキシ基と比較して重合度が高くなりやすく、低毒性であり、得られたハードコート層のカチオン重合性化合物から得られるネットワーク形成速度を早め、ラジカル重合性化合物と混在する領域でも未反応のモノマーを膜中に残さずに独立したネットワークを形成する等の利点がある。
エポキシ基を有するカチオン重合性化合物としては、例えば、脂環族環を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテルまたは、シクロヘキセン環、シクロペンテン環含有化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化する事によって得られる脂環族エポキシ樹脂;脂肪族多価アルコール、またはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテル、脂肪族長鎖多塩基酸のポリグリシジルエステル、グリシジル(メタ)アクリレートのホモポリマー、コポリマーなどの脂肪族エポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールFや水添ビスフェノールA等のビスフェノール類、またはそれらのアルキレンオキサイド付加体、カプロラクトン付加体等の誘導体と、エピクロルヒドリンとの反応によって製造されるグリシジルエーテル、およびノボラックエポキシ樹脂等でありビスフェノール類から誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0148】
前記ハードコート組成物は重合開始剤をさらに含むことができる。重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、ラジカルおよびカチオン重合開始剤等が挙げられ、適宜選択して用いられる。これらの重合開始剤は、活性エネルギー線照射および加熱の少なくとも一種により分解されて、ラジカルまたはカチオンを発生してラジカル重合とカチオン重合を進行させるものである。
ラジカル重合開始剤は、活性エネルギー線照射および加熱の少なくともいずれかによりラジカル重合を開始させる物質を放出することが可能であればよい。例えば、熱ラジカル重合開始剤としては、過酸化水素、過安息香酸等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等があげられる。
活性エネルギー線ラジカル重合開始剤としては、分子の分解でラジカルが生成されるType1型ラジカル重合開始剤と、3級アミンと共存して水素引き抜き型反応でラジカルを生成するType2型ラジカル重合開始剤があり、それらは単独でまたは併用して使用される。
カチオン重合開始剤は、活性エネルギー線照射および加熱の少なくともいずれかによりカチオン重合を開始させる物質を放出することが可能であればよい。カチオン重合開始剤としては、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、シクロペンタジエニル鉄(II)錯体等が使用できる。これらは、構造の違いによって活性エネルギー線照射または加熱のいずれかあるいはいずれでもカチオン重合を開始することができる。
【0149】
前記重合開始剤は、前記ハードコート組成物全体100質量%に対して好ましくは0.1~10質量%を含むことができる。前記重合開始剤の含量が前記の範囲にあると、硬化を十分に進行させることができ、最終的に得られる塗膜の機械的物性や密着力を良好な範囲とすることができ、また、硬化収縮による接着力不良や割れ現象およびカール現象が発生し難くなる傾向がある。
【0150】
前記ハードコート組成物は、溶剤および添加剤からなる群から選択される一つ以上をさらに含むことができる。
前記溶剤は、前記重合性化合物および重合開始剤を溶解または分散させることができるもので、本技術分野のハードコート組成物の溶剤として知られている溶剤であれば、本発明の効果を阻害しない範囲で、使用することができる。
前記添加剤は、無機粒子、レベリング剤、安定剤、界面活性剤、帯電防止剤、潤滑剤、防汚剤などをさらに含むことができる。
【0151】
粘着層は、粘着性の機能を有する層であり、本発明の積層体を他の部材に接着させる機能を有する。粘着層の形成材料としては、通常知られたものを用いることができる。例えば、熱硬化性樹脂組成物または光硬化性樹脂組成物を用いることができる。この場合、事後的にエネルギーを供給することで樹脂組成物を高分子化し硬化させることができる。
【0152】
粘着層は、感圧型接着剤(Pressure Sensitive Adhesive、PSA)と呼ばれる、押圧により対象物に貼着される層であってもよい。感圧型接着剤は、「常温で粘着性を有し、軽い圧力で被着材に接着する物質」(JIS K6800)である粘着剤であってもよく、「特定成分を保護被膜(マイクロカプセル)に内容し、適当な手段(圧力、熱等)によって被膜を破壊するまでは安定性を保持できる接着剤」(JIS K6800)であるカプセル型接着剤であってもよい。
【0153】
色相調整層は、色相調整の機能を有する層であり、本発明の積層体を目的の色相に調整することができる層である。色相調整層は、例えば、樹脂および着色剤を含有する層である。この着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、弁柄、チタニウムオキサイド系焼成顔料、群青、アルミン酸コバルト、およびカーボンブラック等の無機顔料;アゾ系化合物、キナクリドン系化合物、アンスラキノン系化合物、ペリレン系化合物、イソインドリノン系化合物、フタロシアニン系化合物、キノフタロン系化合物、スレン系化合物、およびジケトピロロピロール系化合物等の有機顔料;硫酸バリウム、および炭酸カルシウム等の体質顔料;並びに塩基性染料、酸性染料、および媒染染料等の染料を挙げることができる。なお、本発明の積層体のYIは、好ましくは2.0以下であり、より好ましくは、上記のような色相調整層を含まない積層体であるか、ブルーイング剤を含有しない積層体であって、YIが2.0以下である。
【0154】
屈折率調整層は、屈折率調整の機能を有する層であり、例えば本発明の積層体に含まれる樹脂層およびガラス層とは異なる屈折率を有し、積層体に所定の屈折率を付与することができる層である。屈折率調整層は、例えば、適宜選択された樹脂、および場合によりさらに顔料を含有する樹脂層であってもよいし、金属の薄膜であってもよい。屈折率を調整する顔料としては、例えば、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化錫、酸化チタン、酸化ジルコニウムおよび酸化タンタルが挙げられる。該顔料の平均一次粒子径は、0.1μm以下であってもよい。顔料の平均一次粒子径を0.1μm以下とすることにより、屈折率調整層を透過する光の乱反射を防止し、透明度の低下を防止することができる。屈折率調整層に用いられる金属としては、例えば、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ケイ素、酸化インジウム、酸窒化チタン、窒化チタン、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素等の金属酸化物または金属窒化物が挙げられる。
【0155】
〔積層体〕
本発明の積層体は、ガラス層と、該ガラス層に直接積層された、本発明の樹脂組成物から形成されてなる樹脂層を含む。本発明の積層体のYIは、好ましくは2.0以下である。なお、YIは黄色度である。積層体のYIは、表示装置の視認性を向上させやすい観点から、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.6以下、さらにより好ましくは1.5以下、とりわけ好ましくは1.4以下、とりわけより好ましくは1.3以下である。積層体のYIが上記範囲内であると透明性を向上させやすく、例えば表示装置の前面板に使用した場合に視認性を高めやすい。YIは、通常-5以上、好ましくは-2以上より好ましくは0以上、さらに好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.5以上、特に好ましくは0.7以上である。YIは、JIS K 7373:2006に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計を用いて300~800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求め、YI=100×(1.2769X-1.0592Z)/Yの式に基づいて算出できる。
【0156】
本発明の積層体の全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは91%以上である。全光線透過率が上記の下限以上であると、積層体を表示装置に組み込んだ際に視認性を高めやすい。本発明の積層体は、通常、高い全光線透過率を示すので、例えば、全光線透過率の低い積層体を用いた場合と比べて、一定の明るさを得るため必要な表示素子等の発光強度を抑えることが可能となる。このため、消費電力を削減することができる。例えば、本発明の積層体を表示装置に組みこむ場合、バックライトの光量を減らしても明るい表示を得られる傾向があり、エネルギーの節約に貢献できる。全光線透過率の上限は、通常100%以下である。なお、全光線透過率は、例えばJIS K7361-1:1997に準拠してヘイズコンピュータを用いて測定できる。全光線透過率は、後述する積層体の厚さの範囲における全光線透過率であってよい。
【0157】
本発明の積層体のヘイズは、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.3%以下である。積層体のヘイズが上記の上限以下であると透明性が良好となり、例えば画像表示装置の前面板に使用した場合に、画像の視認性を高めやすい。またヘイズの下限は通常0.01%以上である。なお、ヘイズは、JIS K7136:2000に準拠してヘイズコンピュータを用いて測定できる。
【0158】
本発明の積層体の厚さは、用途に応じて適宜調整してよいが、好ましくは25μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは50μm以上であり、好ましくは600μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは400μm以下である。積層体の厚さは、フレキシブル性を有する積層体を提供する観点からは、好ましくは300μm以下、より好ましくは280μm以下、さらに好ましくは250μm以下、さらにより好ましくは230μm以下である。積層体の厚さは、膜厚計などで測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0159】
本発明の積層体において、樹脂層とガラス層との間の剥離強度は、これらの層の十分な密着性を得やすい観点から、好ましくは4.0N/inch以上、より好ましくは4.5N/inch以上、さらに好ましくは5.0N/inch以上である。また、該剥離強度は、好ましくは50N/inch以下、より好ましくは30N/inch以下、さらに好ましくは20N/inch以下である。樹脂層とガラス層との間の剥離強度は、例えば、精密万能試験機オートグラフシリーズ(株式会社島津製作所製)を用いて測定される、ガラス層から樹脂層を、50mm/分の剥離速度で180°剥離する際の剥離強度であり、例えば25mm幅の樹脂層を備える測定サンプルを用い、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0160】
本発明の好ましい一態様において、本発明の積層体は優れた耐屈曲性を有し、具体的には、屈曲半径2mmでの耐屈曲性試験における耐屈曲回数が、好ましくは10万回以上、より好ましくは13万回以上、さらに好ましくは15万回以上である。積層体の耐屈曲回数は、例えば面状態無負荷U字伸縮試験機(ユアサシステム機器(株)製「DMLHB-FS」(商品名))で求めることができる。
【0161】
〔積層体の製造方法〕
本発明の積層体の製造方法は、ガラス層と、該ガラス層に直接積層された特定の樹脂組成物から形成されてなる樹脂層とを含む積層体が得られる限り特に限定されないが、例えば以下の工程:
(a)本発明のポリイミド系樹脂を含む樹脂組成物をガラス層上に塗布し、塗布膜を形成する工程、および
(b)前記塗布膜を加熱して樹脂層を形成する工程
を少なくとも含む製造方法であってよい。
【0162】
塗布膜を形成するために使用する樹脂組成物は、本発明のポリイミド系樹脂を溶媒に溶解させ、必要に応じて、前記フィラー、紫外線吸収剤等の添加剤を添加して撹拌混合することにより調製する。なお、フィラーとしてシリカ粒子を用いる場合、シリカ粒子を含むシリカゾルの分散液を、前記樹脂が溶解可能な溶媒で置換したシリカゾルを樹脂に添加してもよい。樹脂組成物に含まれ得る溶媒は、上記に述べた通りである。
【0163】
塗布膜の形成は、公知の塗布方法により、ガラス層上に樹脂組成物を直接塗布して行う。公知の塗布方法としては、例えばワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング法、グラビアコーティング法等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法、流涎成形法等が挙げられる。
【0164】
塗布膜を加熱して乾燥することによって樹脂層を形成し、本発明の積層体を製造することができる。塗布膜の乾燥は、YI値を低くしやすい観点、および、ガラス層の特性、好ましくは耐屈曲性の低下を抑制しやすい観点からは、250℃以下、好ましくは50~250℃の温度にて行うことが好ましい。必要に応じて、不活性雰囲気または減圧の条件下において塗布膜の乾燥を行ってよい。なお、得られる樹脂層には、樹脂層に含まれていた溶媒以外の成分が含まれるため、樹脂層に含まれる各成分の含有量は、樹脂組成物に含まれる各成分の、樹脂組成物の固形分濃度に基づく含有量に等しい。また、樹脂層には、溶媒の一部がわずかに残存していてもよい。樹脂層に含まれる溶媒の量は、樹脂層の質量に対して、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.2%以下、さらに好ましくは1.1%以下、さらにより好ましくは1.0%以下である。溶媒の量の下限は、好ましくは0%以上、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.1%以上、さらにより好ましくは0.3%以上である。
【0165】
塗布膜を加熱し、乾燥する工程は、予備乾燥を行った後、本乾燥を行うことで実施してもよい。予備乾燥温度は、樹脂層表面の品質保持の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下である。予備乾燥時間は、樹脂組成物に含まれる溶媒の種類、予備乾燥温度等に応じて適宜選択すればよく、好ましくは5~150分間、より好ましくは10~120分間、さらに好ましくは20~60分間である。予備乾燥は、必要に応じて、不活性雰囲気下または減圧条件下で行ってよい。
【0166】
本乾燥温度は、樹脂層中の溶媒除去の観点および樹脂層とガラス層との密着性を高める観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上、さらに好ましくは200℃以上であり、YI値を低くしやすい観点、および、ガラス層としてフレキシブルガラス層および/または化学強化ガラス層を用いる場合に、これらのガラス層の特性、好ましくは耐屈曲性の低下を抑制しやすい観点からは、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは230℃以下、さらにより好ましくは220℃以下である。本乾燥温度は、予備乾燥温度より高い温度であり、予備乾燥温度よりも好ましくは30℃以上高い温度、より好ましくは40℃以上高い温度、さらに好ましくは50℃以上高い温度である。本乾燥時間は、予備乾燥後の樹脂塗膜の固形分濃度等に応じて適宜選択すればよく、好ましくは1~120分間、より好ましくは5~80分間、さらに好ましくは10~40分間である。本乾燥は、必要に応じて、不活性雰囲気下または減圧条件下で行ってよい。
【0167】
本発明の一実施形態において、本発明の積層体は、少なくとも一方の面(片面または両面)に剥離性の保護フィルムを有していてもよい。例えば本発明のフィルムの片面に機能層を有する本発明の積層体の場合、保護フィルムは、本発明の積層体の樹脂層側の表面またはガラス層側の表面に積層されていてもよく、本発明の積層体の両方の表面に積層されていてもよい。保護フィルムは、本発明の積層体の表面を一時的に保護するためのフィルムであり、積層体の表面を保護できる剥離可能なフィルムである限り特に限定されない。保護フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂フィルム;ポリエチレン、ポリプロピレンフィルムなどのポリオレフィン系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム等が挙げられ、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムおよびアクリル系樹脂フィルムからなる群から選択されることが好ましい。本発明の積層体が保護フィルムを2つ有する場合、各保護フィルムは同一または異なっていてもよい。
【0168】
保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、通常、10~120μm、好ましくは15~110μm、より好ましくは20~100μmである。本発明の積層体が保護フィルムを2つ有する場合、各保護フィルムの厚さは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0169】
本発明の積層体は、表示装置、中でもフレキシブル表示装置の前面板、特にローラブルディスプレイやフォルダブルディスプレイの前面板として好適に使用できる。すなわち、本発明の積層体は、好ましくは光学積層体であり、より好ましくは表示装置の前面板用の積層体であり、さらに好ましくはフレキシブル表示装置の前面板用の積層体である。本発明は、フレキシブル表示装置の前面板用の積層体である本発明の積層体、および、本発明の積層体を備えるフレキシブル表示装置の前面板も提供する。該前面板は、フレキシブル表示装置の表示素子を保護する機能を有する。なお、フレキシブル表示装置とは、画像表示装置を繰り返し折り曲げる、繰り返し巻く等の操作を伴い使用される表示装置である。このような繰り返しの折り曲げ操作等を伴い使用されるフレキシブル表示装置の前面板には高い耐屈曲性、特に高い耐折性が求められる。また、前面板には、高い視認性も求められる。画像表示装置の内部で使用される画像表示装置の基板用のフィルムと比較して、画像表示装置の前面板、特にフレキシブル表示装置の前面板用の積層体には、高い視認性が求められると共に、高い耐屈曲性が求められる。例えば、本発明の積層体は、フレキシブル表示装置の前面板用に用いる場合の視認性を高めやすい観点から、上記に記載したようなYIを有し、さらに、好ましくは上記に記載したような全光線透過率、および/またはヘイズを有する。また、フレキシブル表示装置の前面板として用いる場合の耐屈曲性、特に耐折性を高めやすい観点から、上記に記載したような耐屈曲回数を満たすことが好ましい。表示装置としては、テレビ、スマートフォン、携帯電話、カーナビゲーション、タブレットPC、携帯ゲーム機、電子ペーパー、インジケーター、掲示板、時計、およびスマートウォッチ等のウェアラブルデバイス等が挙げられる。フレキシブルディスプレイとしては、フレキシブル特性を有する表示装置、例えばテレビ、スマートフォン、携帯電話、スマートウォッチ等が挙げられる。フレキシブル表示装置としては、フレキシブル特性を有する全ての画像表示装置が挙げられ、例えば上記のようなローラブルディスプレイやフォルダブルディスプレイが挙げられる。ローラブルディスプレイとは、前面板を含む画像表示部分がロール状に巻き取られており、該画像表示部分を引き出して平面または曲面にした状態で使用される画像表示装置であり、ロール状に巻き取る等の操作が使用の度に行われるような画像表示装置である。また、フォルダブルディスプレイとは、前面板を含む画像表示部分が折り曲げられており、該画像表示部分を開いて平面または曲面にした状態で使用される画像表示装置であり、折り曲げ等の操作が使用の度に行われるような画像表示装置である。このような巻き取り、折り曲げ等の操作が繰り返し行われる画像表示装置をフレキシブル画像表示装置と称する。
【0170】
〔フレキシブル表示装置〕
本発明は、本発明の積層体を備える、フレキシブル表示装置も提供する。本発明の積層体は、好ましくはフレキシブル表示装置において前面板として用いられ、該前面板はウインドウフィルムと称されることがある。該フレキシブル表示装置は、フレキシブル表示装置用積層体と、有機EL表示パネルとからなり、有機EL表示パネルに対して視認側にフレキシブル表示装置用積層体が配置され、折り曲げ可能に構成されている。フレキシブル表示装置用積層体としては、さらに偏光板、タッチセンサを含有していてもよく、それらの積層順は任意であるが、視認側からウインドウフィルム、偏光板、タッチセンサまたはウインドウフィルム、タッチセンサ、偏光板の順に積層されていることが好ましい。タッチセンサよりも視認側に偏光板が存在すると、タッチセンサのパターンが視認されにくくなり表示画像の視認性が良くなるので好ましい。それぞれの部材は接着剤、粘着剤等を用いて積層することができる。また、前記ウインドウフィルム、偏光板、タッチセンサのいずれかの層の少なくとも一面に形成された遮光パターンを具備することができる。
【0171】
<偏光板>
本発明のフレキシブル表示装置は、上記の通り、偏光板、中でも円偏光板をさらに備えることが好ましい。円偏光板は、直線偏光板にλ/4位相差板を積層することにより右円偏光成分または左円偏光成分のみを透過させる機能を有する機能層である。例えば外光を右円偏光に変換して有機ELパネルで反射されて左円偏光となった外光を遮断し、有機ELの発光成分のみを透過させることで反射光の影響を抑制して画像を見やすくするために用いられる。円偏光機能を達成するためには、直線偏光板の吸収軸とλ/4位相差板の遅相軸は理論上45°である必要があるが、実用的には45±10°である。直線偏光板とλ/4位相差板は必ずしも隣接して積層される必要はなく、吸収軸と遅相軸の関係が前述の範囲を満足していればよい。全波長において完全な円偏光を達成することが好ましいが実用上は必ずしもその必要はないので本発明における円偏光板は楕円偏光板をも包含する。直線偏光板の視認側にさらにλ/4位相差フィルムを積層して、出射光を円偏光とすることで偏光サングラスをかけた状態での視認性を向上させることも好ましい。
【0172】
〔タッチセンサ〕
本発明のフレキシブル表示装置は、上記の通り、タッチセンサをさらに備えることが好ましい。タッチセンサは入力手段として用いられる。タッチセンサとしては、抵抗膜方式、表面弾性波方式、赤外線方式、電磁誘導方式、静電容量方式等様々な様式が挙げられ、好ましくは静電容量方式が挙げられる。
静電容量方式タッチセンサは活性領域および前記活性領域の外郭部に位置する非活性領域に区分される。活性領域は表示パネルで画面が表示される領域(表示部)に対応する領域であって、使用者のタッチが感知される領域であり、非活性領域は表示装置で画面が表示されない領域(非表示部)に対応する領域である。タッチセンサはフレキシブルな特性を有する基板と、前記基板の活性領域に形成された感知パターンと、前記基板の非活性領域に形成され、前記感知パターンとパッド部を介して外部の駆動回路と接続するための各センシングラインを含むことができる。フレキシブルな特性を有する基板としては、前記ウインドウフィルムの透明基板と同様の材料が使用できる。
【0173】
〔接着層〕
前記フレキシブル表示装置用積層体を形成する各層(ウインドウフィルム、円偏光板、タッチセンサ)並びに各層を構成するフィルム部材(直線偏光板、λ/4位相差板等)は接着剤によって接合することができる。該接着剤としては、水系接着剤、有機溶剤系、無溶剤系接着剤、固体接着剤、溶剤揮散型接着剤、水系溶剤揮散型接着剤、湿気硬化型接着剤、加熱硬化型接着剤、嫌気硬化型、活性エネルギー線硬化型接着剤、硬化剤混合型接着剤、熱溶融型接着剤、感圧型接着剤(粘着剤)、再湿型接着剤等、通常使用されている接着剤等が使用でき、好ましくは水系溶剤揮散型接着剤、活性エネルギー線硬化型接着剤、粘着剤を使用できる。接着剤層の厚さは、求められる接着力等に応じて適宜調節することができ、好ましくは0.01~500μm、より好ましくは0.1~300μmである。前記フレキシブル表示装置用積層体には、複数の接着層が存在するが、それぞれの厚さや種類は、同じであっても異なっていてもよい。
【実施例0174】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「%」および「部」はそれぞれ、特記しない限り、「質量%」および「質量部」である。
【0175】
<製造例1:ポリアミドイミド樹脂(1)の製造>
窒素ガス雰囲気下、撹拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMB)45g(140.52mmol)及びN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)770.40gを加え、室温で撹拌しながらTFMBをDMAcに溶解させた。
次に、フラスコに4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)19.01g(42.80mmol)を添加し、室温で3時間撹拌した。その後、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)(OBBC)4.21g(14.27mmol)、次いでテレフタロイルクロリド(TPC)17.38g(85.60mmol)をフラスコに加え、室温で1時間撹拌した。
次いで、フラスコに4-メチルピリジン4.65g(49.93mmol)と無水酢酸13.11g(128.39mmol)とを加え、室温で30分間撹拌後、オイルバスを用いて70℃に昇温し、さらに3時間撹拌し、反応液を室温まで冷却した。次に反応液中を攪拌しながらメタノールを投入し、析出した沈殿物を取り出した。沈殿物をメタノールで12時間浸漬後、大量のメタノールで洗浄し、次に、100℃にて沈殿物の減圧乾燥を行い、ポリアミドイミド樹脂(1)を得た。ポリアミドイミド樹脂(1)の重量平均分子量Mwは190,000であり、イミド化率は99.7%であった。なお、重量平均分子量及びイミド化率は、次の手順で測定した。
【0176】
(重量平均分子量(Mw))
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
・前処理方法
ポリアミドイミド樹脂に下記DMF溶離液をポリアミドイミド樹脂濃度が1.0mg/mLとなるように加え、得られた溶液を80℃にて60分間攪拌しながら加熱し、さらに冷却した後、0.2μmメンブランフィルターでろ過したものを測定溶液とした。
・測定条件
GPC装置 : 東ソー HLC-8220GPC
検出器 : RI
GPCカラム :TSKgel α-M×2、α-2500×1(7.8mm I.D.×300mm)
溶離液 :DMF(30mM臭化リチウム、10mMリン酸含有)
流量 :1.0mL/min.
測定温度 :40℃
注入量 :100μL
分子量標準 :標準ポリスチレン
【0177】
(イミド化率)
イミド化率は、H-NMR測定により以下のようにして求めた。
(1)前処理方法
ポリイミド系樹脂を重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d)に溶解させて、ポリイミド系樹脂濃度2質量%の溶液としたものを測定試料とした。
(2)測定条件
測定装置:JEOL製 400MHz NMR装置 JNM-ECZ400S/L1
標準物質:DMSO-d(2.5ppm)
試料温度:室温
積算回数:256回
緩和時間:5秒
(3)イミド化率解析方法
(ポリイミド樹脂のイミド化率)
ポリイミド樹脂を含む測定試料で得られたH-NMRスペクトルにおいて、観測されたベンゼンプロトンのうちイミド化前後で変化しない構造に由来するベンゼンプロトンAの積分値をIntとした。また、観測されたポリイミド樹脂中に残存するアミック酸構造に由来するアミドプロトンの積分値をIntとした。これらの積分値から以下の式に基づいてポリイミド樹脂のイミド化率を求めた。
イミド化率(%)=100×(1-Int/Int
(ポリアミドイミド樹脂のイミド化率)
ポリアミドイミド樹脂を含む測定試料で得られたH-NMRスペクトルにおいて、観測されたベンゼンプロトンのうちイミド化前後で変化しない構造に由来し、ポリアミドイミド樹脂中に残存するアミック酸構造に由来する構造に影響を受けないベンゼンプロトンCの積分値をIntとした。また、観測されたベンゼンプロトンのうちイミド化前後で変化しない構造に由来し、ポリアミドイミド樹脂中に残存するアミック酸構造に由来する構造に影響を受けるベンゼンプロトンDの積分値をIntとした。得られたIntおよびIntから以下の式によりβ値を求めた。
β=Int/Int
次に、複数のポリアミドイミド樹脂について上記式のβ値および上記式のポリイミド樹脂のイミド化率を求め、これらの結果から以下の相関式を得た。
イミド化率(%)=k×β+100
上記相関式中、kは定数である。
βを相関式に代入してポリアミドイミド樹脂のイミド化率(%)を得た。
【0178】
<実施例1>
製造例1で得たポリアミドイミド樹脂(1)(原料樹脂)を、室温下、ポリアミドイミド樹脂(1)の濃度が8.2%になるようにガンマブチロラクトンに加え、撹拌して溶解させた。次に、アミノ系シランカップリング剤(商品名:KBE-903、信越シリコーン製)の含有量がポリアミドイミド樹脂(1)100質量部に対して1質量部になるよう、エポキシ系シランカップリング剤(商品名:KBM-403、信越シリコーン製)の含有量がポリアミドイミド樹脂(1)100質量部に対して5質量部になるよう、それぞれ添加し、30分間室温で撹拌して、混合することにより、ポリアミドイミド樹脂(1)とアミノ系シランカップリング剤と、エポキシ系シランカップリング剤とを反応させて、ポリアミドイミド樹脂(2)を含む樹脂組成物(1)を作製した。
【0179】
得られた樹脂組成物(1)を、イーグルガラス(厚さ0.5mm)にアプリケーターを用いて塗工し、120℃で30分間乾燥した。さらに40分かけて室温から220℃まで昇温し、220℃で20分間維持して乾燥し、厚さ30μmの樹脂層を形成することにより、樹脂層とガラスとの積層体(1)を得た。
【0180】
(樹脂とシランカップリング剤の結合の確認)
上記のようにして製造した積層体(1)から樹脂層を剥離し、得られた試料10mgを重DMSO0.75mLに溶解し、下記の測定条件1でH-NMR測定を行った。得られたH-NMRスペクトルにおいて、化学シフト7.1~8.7ppmのポリアミドイミド樹脂の芳香環由来の水素原子のピークの積分比(int-A)、化学シフト3.7ppmのシランカップリング剤のアルコキシシリル基に由来する水素原子のピークの積分比(int-B)、及び、化学シフト2.5ppmのDMSOに由来する水素原子のピークの積分比(int-C)を得た。得られた結果を表1に示すと共に、得られたH-NMRスペクトルを図2に示す。
(測定条件1)
測定装置:BRUKER製 800MHz NMR装置 AVANCE―NEO
標準物質:DMSO-d(2.5ppm)
試料温度:303K
積算回数:128回
拡散時間:10ms
磁場勾配パルス幅:2ms
磁場勾配:5%
【0181】
次に、拡散フィルター法を用いた下記の測定条件2で測定を行い、測定条件1で得られたスペクトルと同様に解析を行って、int-a、int-b、int-cの積分比を得た。得られた結果を表1に示すと共に、得られたH-NMRスペクトルを図2に示す。
(測定条件2)
測定装置:BRUKER製 800MHz NMR装置 AVANCE―NEO
標準物質:DMSO-d(2.5ppm)
試料温度:303K
積算回数:128回
拡散時間:10ms
磁場勾配パルス幅:2ms
磁場勾配:95%
【0182】
【表1】
【0183】
拡散フィルター法を用いたH-NMRスペクトルでは、拡散係数の小さな高分子量成分の置換基はシグナルが強く検出されるが、拡散係数の大きな低分子量成分の置換基はシグナルが弱く検出される。そのため、高分子量成分の置換基は測定条件1の場合も測定条件2の場合も同様に積分比で検出されるのに対し、低分子量成分の置換基は測定条件1の場合にはピークの積分比が大きく、測定条件2の場合にはH-NMRスペクトルにおけるピークの積分比が小さくなる。
表1及び図2より、低分子量成分であるDMSOに由来する水素原子のピークに関しては、測定条件2の場合のint-cは、測定条件1の場合のint-Cに比べ顕著に低減されたが、高分子量成分であるポリアミドイミド樹脂に由来する水素原子のピークは、測定条件1の場合のint-Aと測定条件2の場合のint-aで同等であったことがわかる。
表1及び図2に示されるように、アルコキシシリル基の水素原子に帰属されるピークに関しては、測定条件1の場合のint-Bと測定条件2の場合のint-bで同様の測定値であった。シランカップリング剤は低分子量で拡散係数が大きいため、int-Bのピークに対応するアルコキシシリル基がシランカップリング剤として存在しているとすると、拡散フィルター法を用いた測定条件(2)の場合にはint-bが低減されると考えられる。しかし、int-Bとint-bが同様の測定値であったことから、該アルコキシシリル基は、ポリアミドイミド樹脂に結合していると考えられ、シランカップリング剤とポリアミドイミド樹脂とが反応し、アルコキシシリル基を有するポリアミドイミド樹脂が形成されていることを示している。したがって、樹脂層とガラスとの積層体(1)における樹脂層が、アルコキシシリル基を有するポリアミドイミド樹脂からなることが確認された。
また、測定条件1で検出されたアルコキシシリル基に帰属されるピークを含むシランカップリング剤由来のピークの形状は、未反応のシランカップリング剤と比較して広幅化していた。このこともアルコキシシリル基がポリアミドイミド樹脂と結合したことを示している。
【0184】
樹脂組成物(1)100mgを重DMSO0.75mLに溶解したサンプルについても、測定条件1および測定条件2にて、同様にH-NMR測定を行った。その結果を、表2及び図3に示す。なお、測定条件1で検出されたアルコキシシリル基に帰属される3.7ppmのピーク及びその他のシランカップリング剤由来のピークの形状は、未反応のシランカップリング剤と比較して広幅化していた。
【表2】
【0185】
上記の結果より、樹脂組成物(1)中においても、アルコキシシリル基を有するポリアミドイミド樹脂(1)が形成されていることが確認できた。
【0186】
<実施例2>
製造例1で得たポリアミドイミド樹脂(1)を、室温下、ポリアミドイミド樹脂(1)の濃度が8.2%になるようにガンマブチロラクトンに加え、撹拌して溶解させた。次に、アミノ系シランカップリング剤(商品名:KBE-903、信越シリコーン製)の含有量がポリアミドイミド樹脂(1)100質量部に対して1質量部になるよう添加して撹拌した。さらに、マロン酸を含有量がポリアミドイミド100質量部に対して0.05質量部になるよう添加して撹拌し、最後にエポキシ系シランカップリング剤(商品名:KBM-403、信越シリコーン製)の含有量がポリアミドイミド100質量部に対して5質量部になるよう添加し、30分間室温で撹拌し、完全に混合することにより、ポリアミドイミド樹脂(1)とアミノ系シランカップリング剤と、エポキシ系シランカップリング剤とを反応させて、ポリアミドイミド樹脂(3)を含む樹脂組成物(2)を作製した。
【0187】
樹脂組成物(1)に代えて樹脂組成物(2)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂層とガラスとの積層体(2)を得た。
【0188】
<比較例1>
シランカップリング剤を加えなかったこと以外は実施例1と同様にして、ポリアミドイミド樹脂(1)を含む樹脂組成物(3)を得た。樹脂組成物(1)に代えて樹脂組成物(3)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂層とガラスとの積層体(3)を得た。
【0189】
<実施例3>
KBE-903の含有量がポリアミドイミド樹脂(1)100質量部に対して2質量部、KBM-403の含有量がポリアミドイミド樹脂(1)100質量部に対して5質量部になるようそれぞれ添加し、40℃で終夜撹拌して混合した以外は実施例1と同様にして、ポリアミドイミド樹脂(1)と、アミノ系シランカップリング剤およびエポキシ系シランカップリング剤とを反応させて、ポリアミドイミド樹脂(4)を含む樹脂組成物(4)を得た。そして、樹脂組成物(4)を使用した以外は実施例1と同様にして、樹脂層とガラスとの積層体(4)を得た。
【0190】
実施例及び比較例で得た樹脂及び積層体について、次の試験を行った。得られた結果を表3に示す。
【0191】
<値Aの算出>
以下の条件で実施例および比較例の樹脂組成物をGPC分析し、値Aを算出した。
(測定試料の調製)
下記DMF溶離液に、樹脂組成物に含まれるポリアミドイミド樹脂あるいはポリスチレン標準物質SRM706a(米国国立標準技術研究所製)を、濃度が1.4mg/mLとなるように加え、得られた溶液を80℃にて60分間撹拌しながら加熱した後、冷却し、孔径0.2μmのPTFE製メンブランフィルターでろ過した。得られたろ液をGPC分析の測定試料とした。
【0192】
(絶対法GPC測定条件)
GPC装置:東ソー HLC-8220GPC
検出器:Viscotek TDA302(光散乱検出器、示差屈折率検出器および差圧粘度検出器を直列で内蔵)
使用した光散乱角度:90°
GPCカラム:TSKgel α-M×2、α-2500×1(7.8mm I.D.×300mm)
溶離液:DMF(30mM臭化リチウム、10mMリン酸含有)
流量:1.0mL/min.
測定温度(カラムおよび各検出器):40℃
注入量:100μL
検出器間の遅れ容量補正および各検出器の較正に使用した標準物質:東ソー TSKgel標準ポリスチレンF-10(重量平均分子量:96,400、多分散度:1.01、DMF溶離液中での固有粘度:0.30dL/g、溶液濃度:1mg/mL)
ポリアミドイミド樹脂のDMF溶離液中での屈折率増分(dn/dc)は0.141mL/g、ポリスチレン標準物質のDMF溶離液中でのdn/dcは0.159mL/gとした。各検出器のデータから絶対分子量および固有粘度([η])を求めるにあたっては、Malvern社のデータ処理ソフトOmniSEC(version4.7)を利用し、文献「Size Exclusion Chromatography,Springer(1999)」を参考にして計算を行った。上記の計算においては、OmniSECの「Use Viscometric Correction on RALLS」の機能を用いた。なお、屈折率増分とは、濃度変化に対する屈折率の変化率である。
【0193】
以下の方法により、式(I)のαとαを求め、両者を式(I)に代入してAを求めた。なお、以下の方法で用いられる絶対分子量、固有粘度、重量平均分子量、z平均分子量は前記した絶対法GPC測定から求めた。
A=α/α (I)
(αの算出)
ポリアミドイミド樹脂の絶対分子量の対数を横軸、ポリアミドイミド樹脂の固有粘度の対数を縦軸として、測定したデータをプロットし、前記プロットのデータを、前記ポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量の対数以上、z平均分子量の対数以下の範囲において最小二乗法近似することにより、式(I-I)により表される直線を作成した。式(I-I)を表す直線の傾きの値をαとした。
log[η]=αlogM+logK (I-I)
[式(I-I)中、[η]はポリアミドイミド樹脂の固有粘度(単位:dL/g)を表し、Mはポリアミドイミド樹脂の絶対分子量を表し、Kは定数である。]
(αの算出)
ポリスチレン標準物質SRM706aの絶対分子量の対数を横軸、ポリスチレン標準物質SRM706aの固有粘度の対数を縦軸として、測定したデータをプロットし、前記プロットのデータを、前記ポリスチレン標準物質SRM706aの重量平均分子量の対数以上、z平均分子量の対数以下の範囲において最小二乗法近似することにより、式(I-II)により表される直線を作成した。式(I-II)を表す直線の傾きの値をαとした。
log[η]=αlogM+logK (I-II)
[式(I-II)中、[η]はポリスチレン標準物質SRM706aの固有粘度(単位:dl/g)を表し、Mはポリスチレン標準物質SRM706aの絶対分子量を表し、Kは定数である。]
【0194】
<180°剥離試験>
180°剥離試験に使用した測定サンプルの概略図を図1に示す。実施例および比較例で得られた積層体を用いて、ガラス上のポリイミド系樹脂層に25mm幅で切り込みを入れ、幅25mmを有する部分以外の樹脂層を取り除き、図1に示すようなガラス層2と、幅25mmの樹脂層1とを有する測定サンプルを作製した。該25mm幅の短冊状の樹脂層の末端を少し剥離して、剥離試験機のチャックに挟むためのテープ4を取り付けた。なお、テープ4の長さ方向の一方の端から10mmの長さの範囲を取付け端部とした。また、ガラス層の樹脂層と反対側の表面にも、ガラスの割れを防止するためにテープ3を取り付けた。該測定サンプルを用いて、剥離用テープのうち積層体の取付け端部とは反対側の把持側端部を剥離装置のチャックで把持し、積層体の面方向に対する角度(剥離角度)を180°として、以下の測定条件で樹脂層1を剥離方向5の方向に剥離し、180°剥離強度を測定した。
装置:Autograph AGS-X (島津製作所製)
サンプル幅:25mm
剥離速度:60mm/min
【0195】
<厚さの測定>
積層体、樹脂層およびガラス層の厚さは、接触式のデジマチックインジケーター((株)ミツトヨ製、「ID-C112BS」)により測定した。
【0196】
<光学物性評価>
(1)全光線透過率
実施例及び比較例で得られた積層体を30mm×30mmの大きさにカットし、ヘイズコンピューター(スガ試験機(株)製、「HGM-2DP」)を用いて、全光線透過率(%)を測定した。
【0197】
(2)黄色度(YI値)
実施例及び比較例で得られた積層体のそれぞれの黄色度(Yellow Index:YI値)を、日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-670によって測定した。サンプルがない状態でバックグランド測定を行った後、積層体をサンプルホルダーにセットして、300~800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求めた。YI値を、下記の式に基づいて算出した。
YI=100×(1.2769X-1.0592Z)/Y
【0198】
(3)ヘイズ(Haze)
実施例及び比較例で得られた積層体を30mm×30mmの大きさにカットし、ヘイズコンピューター(スガ試験機(株)製、「HGM-2DP」)を用いてヘイズ(%)を測定した。
【0199】
【表3】
【0200】
<実施例4:積層体の調製>
実施例1と同様にして得た樹脂組成物(1)を、フレキシブル性を有する化学強化ガラス(厚み50μm)にアプリケーターを用いて塗工し、50℃で30分間、次いで140℃で15分間乾燥する。さらに40分かけて室温から220℃まで昇温し、220℃で20分間維持して乾燥し、厚さ30μmの層を形成することにより、化学強化ガラス層と、該ガラス層に直接積層された樹脂層とを含む積層体を得る。該積層体は、実施例1で得た積層体と同程度の180°剥離強度、全光線透過率、YIおよびHazeを示す。また、後述する耐屈曲試験にて測定される、屈曲半径2mmでの耐屈曲性試験において、耐屈曲回数が10万回以上である。
【0201】
<実施例5:積層体の調製>
樹脂組成物(1)に代えて実施例2と同様にして得た樹脂組成物(2)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、積層体を得る。該積層体は、実施例2で得た積層体と同程度の180°剥離強度、全光線透過率、YIおよびHazeを示す。また、後述する耐屈曲試験にて測定される、屈曲半径2mmでの耐屈曲性試験において、耐屈曲回数が10万回以上である。
【0202】
<耐屈曲試験>
屈曲性試験は温度25℃において行った。実施例で得られる光学積層体を、樹脂層を内側にして曲げられるように面状態無負荷U字伸縮試験機(ユアサシステム機器(株)製「DMLHB-FS」(商品名))の治具にセットして、対向する前面板間の距離が4.0mmとなるように(屈曲半径2mm)、毎分30回の速度で、180°屈曲させては伸ばす操作を繰り返し行い、光学積層体が破断したときの屈曲回数を評価する。
【0203】
値Aが0.40以上1.20以下の範囲内であるポリイミド系樹脂を含む樹脂層が、ガラス層に直接積層された本発明の積層体は、ガラス層と樹脂層との間の密着性が良好であると共に、YIが小さく、視認性が十分に高いものであった。これに対し、比較例の積層体は、ガラス層と樹脂層との密着性が十分とはいえないものであった。
【符号の説明】
【0204】
1 樹脂層
2 ガラス層
3 テープ
4 テープ
5 剥離方向
図1
図2
図3