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特開2024-92941窒化物蛍光体の製造方法及び窒化物蛍光体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092941
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】窒化物蛍光体の製造方法及び窒化物蛍光体
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20240701BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C09K11/64
C09K11/00 B
C09K11/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023148336
(22)【出願日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2022208395
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023083237
(32)【優先日】2023-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】涌井 貞一
(72)【発明者】
【氏名】國本 晃平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 浩之
(72)【発明者】
【氏名】金井 瑛志
【テーマコード(参考)】
4H001
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CC03
4H001CC04
4H001CC05
4H001CC08
4H001CF02
4H001XA03
4H001XA07
4H001XA11
4H001XA12
4H001XA13
4H001XA14
4H001XA19
4H001XA20
4H001XA38
4H001XA56
4H001YA25
4H001YA58
4H001YA63
4H001YA65
(57)【要約】
【課題】窒化物蛍光体の製造方法及び窒化物蛍光体を提供する。
【解決手段】Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Alと、必要に応じてSiと、Nとを含む組成を有する蛍光体コアを含む窒化物蛍光体の製造方法であって、フッ化物を含む第1の膜を蛍光体コアの表面に備えた焼成物を準備することと、焼成物を、Si、Al、Ti、Zr、Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素M2を含有する金属アルコキシドを含む溶液に、雰囲気温度以下の温度で接触させて、元素M2を含む酸化物を含む第2の膜を形成することと、250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理することを含む、窒化物蛍光体の製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Alと、必要に応じてSiと、Nとを含む組成を有する蛍光体コアを含む窒化物蛍光体の製造方法であって、
フッ化物を含む第1の膜を前記蛍光体コアの表面に備えた焼成物を準備することと、
前記焼成物を、Si、Al、Ti、Zr、Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素M2を含有する金属アルコキシドを含む溶液に、雰囲気温度以下の温度で接触させ、前記金属アルコキシドを加水分解及び縮重合させて、前記元素M2を含む酸化物を含む第2の膜を形成することと、
250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理することを含む、窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記焼成物と、前記金属アルコキシドを含む溶液を接触させることを2回以上含む、請求項1に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記焼成物と、前記金属アルコキシドを含む溶液を接触させた後、乾燥させることをさらに含む、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記第1の膜を有する前記焼成物を、前記金属アルコキシドを含む溶液に接触させる温度が、0℃よりも高い温度である、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記焼成物と、前記金属アルコキシドを含む溶液を接触させるときに、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素M1からなるイオンを存在させる、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記焼成物と、前記金属アルコキシドを含む溶液を接触させるときに、塩基性触媒を存在させる、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記金属アルコキシドを含む溶液は、水及び/又はアルコールを含む、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記金属アルコキシドを含む溶液中に含まれる金属アルコキシドは、前記焼成物100質量%に対して、前記金属アルコキシドを加水分解及び縮重合させて得られる前記元素M2を含む酸化物が5質量%以上20質量%以下の範囲内となる量である、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記金属アルコキシドが、テトラエトキシシランである、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項10】
前記焼成物を準備することにおいて、
前記蛍光体コアが、下記式(I)で表される組成を有する、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
Al3-ySi (I)
(式中、Mは、Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、v、w、x、y及びzは、それぞれ0.8≦v≦1.2、0.5≦w≦1.8、0.001<x≦0.1、0≦y≦0.5、1.5≦z≦5.0を満たす。)
【請求項11】
前記熱処理することにおいて、
前記熱処理を大気中又は不活性ガス雰囲気中で行う、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理することにおいて、
前記熱処理の温度が、300℃以上400℃以下である、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項13】
前記焼成物を準備することにおいて、
前記蛍光体コアを、120℃以上500℃以下の温度でフッ素含有物質を含む雰囲気中で第1の熱処理をして、前記第1の膜を前記蛍光体コアの表面に備えた焼成物を準備することを含み、
前記熱処理が第2の熱処理である、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項14】
Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Alと、必要に応じてSiと、Nとを含む組成を有する蛍光体コアと、
前記蛍光体コアの表面に配置されたSi、Al、Ti、Zr、Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素M2を含む酸化物を含む膜と、を有する窒化物蛍光体であって、
下記式(1)から導かれる前記膜の膜厚Tに対する、下記式(2)から導かれる前記膜の最小膜厚Tminの膜厚比Tmin/Tの最小値が0.3以上1以下の範囲内である、窒化物蛍光体。
膜厚T=(S2-Sc)/[(P2+Pc)/2] (1)
最小膜厚Tmin=(Ss-Sc)/[(Ps+Pc)/2] (2)
(式(1)、(2)中、走査型電子顕微鏡を用いて撮影して得られる窒化物蛍光体の断面のSEM画像において、P2は、膜の外周に沿って膜の外周に内接するように描いた閉じた線から導き出される膜の外周長であり、Pcは、蛍光体コアの外周に沿って蛍光体コアの外周に内接するように描いた閉じた線から導き出される蛍光体コアの外周長であり、Psは、蛍光体コアの外周と直交する方向において、蛍光体コアの外周から最短距離となる膜の外周に内接するように蛍光体コアの外周を拡大した閉じた線の外周長であり、S2は、膜の外周長P2から導き出される蛍光体コア及び膜を含む断面積であり、Scは、蛍光体コアの外周長Pcから導き出される蛍光体コアの断面積であり、Ssは外周長Psから導き出される断面積である。)
【請求項15】
前記窒化物蛍光体の前記膜厚比Tmin/Tの算術平均値が0.45以上1以下である、請求項14に記載の窒化物蛍光体。
【請求項16】
前記窒化物蛍光体の前記膜厚Tの算術平均値が、100nm以上200nm以下の範囲内である、請求項14又は15に記載の窒化物蛍光体。
【請求項17】
前記窒化物蛍光体の前記最小膜厚Tminの算術平均値が、50nm以上100nm以下の範囲内である、請求項14又は15に記載の窒化物蛍光体。
【請求項18】
前記窒化物蛍光体の前記膜厚Tの標準偏差が25nm以下である、請求項14又は15に記載の窒化物蛍光体。
【請求項19】
前記窒化物蛍光体の前記膜厚Tの中央値が100nm以上である、請求項14又は15に記載の窒化物蛍光体。
【請求項20】
前記膜厚Tの最小値が70nm以上である、請求項14又は15に記載の窒化物蛍光体。
【請求項21】
レーザー回折散乱法により測定した体積基準の粒度分布における小径側からの累積頻度が50%の中心粒径が15μm以上30μm以下の範囲内である、請求項14又は15に記載の窒化物蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物蛍光体の製造方法及び窒化物蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、発光ダイオード(LED)と組み合わせて形成された発光装置に用いられる。蛍光体は、LEDから発せられた励起光を吸収して特定の波長範囲に発光ピーク波長を有する光を発する。
【0003】
特許文献1には、金属硫化物からなる蛍光体を湿気等から保護するために、蛍光体結晶又は蛍光体粒子の表面を二酸化ケイ素でコーティングした蛍光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009-526089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属硫化物からなる蛍光体とは組成の異なる窒化物蛍光体等においても、湿気や温度等の外部環境による劣化を抑制するために、蛍光体の耐久性を改善することが求められる。
本開示は、外部環境による劣化を抑制し、窒化物蛍光体の耐久性を改善する窒化物蛍光体の製造方法及び窒化物蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様は、Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Alと、必要に応じてSiと、Nとを含む組成を有する蛍光体コアを含む窒化物蛍光体の製造方法であって、フッ化物を含む第1の膜を前記蛍光体コアの表面に備えた焼成物を準備することと、前記焼成物を、Si、Al、Ti、Zr、Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素M2を含有する金属アルコキシドを含む溶液に、雰囲気温度以下の温度で接触させ、前記金属アルコキシドを加水分解及び縮重合させて、前記元素M2を含む酸化物を含む第2の膜を形成することと、250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理することを含む、窒化物蛍光体の製造方法である。
【0007】
第二態様は、Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Alと、必要に応じてSiと、Nとを含む組成を有する蛍光体コアと、前記蛍光体コアの表面に配置されたSi、Al、Ti、Zr、Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素M2を含む酸化物を含む膜と、を有する窒化物蛍光体であって、下記式(1)から導かれる前記膜の膜厚Tに対する、下記式(2)から導かれる前記膜の最小膜厚Tminの膜厚比Tmin/Tの最小値が0.3以上1以下の範囲内である、窒化物蛍光体である。
膜厚T=(S2-Sc)/[(P2+Pc)/2] (1)
最小膜厚Tmin=(Ss-Sc)/[(Ps+Pc)/2] (2)
(式(1)、(2)中、走査型電子顕微鏡を用いて撮影して得られる窒化物蛍光体の断面のSEM画像において、P2は、膜の外周に沿って膜の外周に内接するように描いた閉じた線から導き出される膜の外周長であり、Pcは、蛍光体コアの外周に沿って蛍光体コアの外周に内接するように描いた閉じた線から導き出される蛍光体コアの外周長であり、Psは、蛍光体コアの外周と直交する方向において、蛍光体コアの外周から最短距離となる膜の外周に内接するように蛍光体コアの外周を拡大した閉じた線の外周長であり、S2は、膜の外周長P2から導き出される蛍光体コア及び膜を含む断面積であり、Scは、蛍光体コアの外周長Pcから導き出される蛍光体コアの断面積であり、Ssは外周長Psから導き出される断面積である。)
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、外部環境による劣化を抑制し、窒化物蛍光体の耐久性を改善する窒化物蛍光体の製造方法及び窒化物蛍光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、窒化物蛍光体の製造方法の一例のフローチャートである。
図2図2は、窒化物蛍光体の製造方法の一例のフローチャートである。
図3図3は、窒化物蛍光体の製造方法の一例のフローチャートである。
図4図4は、窒化物蛍光体の製造方法の一例のフローチャートである。
図5図5は、窒化物蛍光体の製造方法の一例のフローチャートである。
図6】蛍光体コア及び膜の模式的断面を示す図である。
図7図7は、発光装置の一例を示す概略断面図である。
図8図8は、実施例4に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体の耐久試験後の外観写真である。
図9図9は、比較例1に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体の耐久試験後の外観写真である。
図10図10は、実施例3に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体の断面の反射電子像のSEM写真である。
図11図11は、比較例1に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体の断面の反射電子像のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る窒化物蛍光体の製造方法を説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本開示の技術思想を具体化するための例示であって、本開示は、以下の窒化物蛍光体のその製造方法に限定されない。なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係は、JIS Z8110に従う。
【0011】
窒化物蛍光体の製造方法は、Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Alと、必要に応じてSiと、Nとを含む組成を有する蛍光体コアを含む窒化物蛍光体の製造方法であって、フッ化物を含む第1の膜を蛍光体コアの表面に備えた焼成物を準備することと、焼成物を、Si、Al、Ti、Zr、Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素M2を含有する金属アルコキシドを含む溶液に、雰囲気温度以下の温度で接触させ、金属アルコキシドを加水分解及び縮重合させて、元素M2を含む酸化物を含む第2の膜を形成することと、250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理することを含む。
【0012】
窒化物蛍光体の製造方法において、フッ化物を含む第1の膜を蛍光体コアの表面に備えた焼成物を、元素M2を含有する金属アルコキシドを含む溶液に接触させることにより、フッ化物を含む第1の膜の表面に、元素M2含む酸化物を付着させて、元素M2を含む酸化物を含む第2の膜が形成される。雰囲気温度以下の温度で、焼成物と元素M2を含有する金属アルコキシドを含む溶液を接触させることにより、第1の膜の劣化を抑制しながら、比較的遅い反応速度で金属アルコキシドの加水分解及び縮重合の反応を進行させると、元素M2を含む酸化物を含む第2の膜が蛍光体コアの第1の膜に付着しやすくなり、第2の膜の被覆率を大きくすることができる。蛍光体コアの表面の第1の膜に、大きい被覆率で第2の膜が付着されると、第2の膜を形成した後、250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理する場合の蛍光体コアの劣化を抑制することができ、耐久性を改善した窒化物蛍光体を製造することができる。本開示の製造方法によって得られた窒化物蛍光体は、第1の膜及び第2の膜によって蛍光体コアが保護されるため、湿気や温度等の外部環境から蛍光体コアが保護され、耐久性が改善される。蛍光体コアの表面に形成されたフッ化物を含む第1の膜は、第2の膜を形成した後、250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理すると、第1の膜が蛍光体コアと一体化し、蛍光体コアと第1の膜の境目の判別がしにくくなる。本明細書において、第2の膜を形成した後、250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理した後の「第1の膜」は、蛍光体コアの「フッ素を含む組成の部分」という場合がある。また、本明細書において、第2の膜を形成し、250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理した後の「第2の膜」は、「元素M2を含む酸化物を含む膜」又は「酸化物を含む膜」という場合がある。
【0013】
本件明細書において、被覆率は、フッ化物を含む第1の膜を蛍光体コアの表面に備えた焼成物の、表面積に対する酸化物によって覆われた面積の比率として算出される。得られた第2の膜を有する窒化物蛍光体は、第1の膜を蛍光体コアの表面に備えた焼成物の表面が酸化物で覆われているため、焼成物に由来するエネルギーの低い特性X線のピーク強度は、焼成物を覆う酸化物量に応じて遮蔽され、減少する。また、焼成物に由来するエネルギーの高い特性X線のピーク強度は、透過力が高いため、表面を覆う酸化物の影響を無視することができ、遮蔽されない。したがって、第1の膜を蛍光体コアの表面に備えた焼成物に由来する特性X線のピーク強度と、酸化物を含む第2の膜を備えた窒化物蛍光体に由来する特性X線のピーク強度を比較して評価することで、酸化物を含む第2の膜による被覆状態を評価することができる。具体的には、蛍光X線(XRF)元素分析法において、焼成物におけるSr元素のKα線のピーク強度に対するAl元素のKα線のピーク強度の相対強度を以下の式(3)により算出し、被覆率0%の焼成物の相対強度RIを算出する。酸化物を含む第2の膜が形成された窒化物蛍光体におけるSr元素のKα線のピーク強度に対するAl元素のKα線のピーク強度の相対強度を以下の式(4)から算出する。式(4’)に示すように、複数の窒化物蛍光体の相対強度のうち、最も高い数値の相対強度を、酸化物を含む第2の膜の被覆率100%の窒化物蛍光体の相対強度RI100とする。横軸を相対強度、縦軸を被覆率とし、相対強度RIと相対強度RI100をプロットすると、相対強度RIから相対強度RI100との間に直線が引ける。以下の式(4)から酸化物を含む第2の膜が形成された窒化物蛍光体のSr元素のKα線のピーク強度に対するAl元素のKα線のピーク強度の相対強度RIを算出し、相対強度RIと前述の直線が交わる点から各窒化物蛍光体の被覆率を導き出すことができる。
【数1】
【数2】
【数3】
【0014】
被覆率が大きい数値であるほど、焼成物の表面積に対して、窒化物蛍光体の酸化物を含む第2の膜が被覆している表面積が大きくなる。被覆率は、例えば、75%以上であってよく、好ましくは90%以上であってよく、100%であってもよい。窒化物蛍光体における第2の膜の被覆率が75%以上であると蛍光体コアの劣化を抑制することができ、耐久性を改善した窒化物蛍光体を用いた発光装置における信頼性をより効果的に向上させることができる。
【0015】
図1は、窒化物蛍光体の製造方法の一例を示すフローチャートである。窒化物蛍光体の製造方法は、フッ化物を含む第1の膜を蛍光体コアの表面に備えた焼成物を準備することS101と、元素M2を含む金属アルコキシドを含む溶液に雰囲気温度以下の温度で接触させ、元素M2を含む酸化物を含む第2の膜を形成することS102と、250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理することS103を含む。
【0016】
窒化物蛍光体の製造方法の焼成物を準備することにおいて、蛍光体コアは、下記式(I)で表される組成を有することが好ましい。
Al3-ySi (I)
(式中、Mは、Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、v、w、x、y及びzは、それぞれ0.8≦v≦1.2、0.5≦w≦1.8、0.001<x≦0.1、0≦y≦0.5、1.5≦z≦5.0を満たす。)
【0017】
蛍光体コアは、高い発光強度を得る観点から、式(I)における元素Mが、Sr及びCaの少なくとも一方を含むことが好ましい。元素MがSr及びCaの少なくとも一方を含む場合、元素Mに含まれるSr及びCaの総モル比率は、例えば85モル%以上であり、90モル%以上が好ましい。また、式(I)における元素Mは、結晶構造の安定性の観点から、少なくともLiを含むことが好ましい。式(I)における元素MがLiを含む場合、Mに含まれるLiのモル比率は、例えば80モル%以上であり、90モル%以上が好ましい。
【0018】
式(I)における変数v、w、及びxについて、結晶構造の安定性の観点から、変数vが0.90以上1.03以下(0.90≦v≦1.03)を満たしてもよく、変数wが0.90以上1.20以下(0.90≦w≦1.20)を満たしてもよく、変数xが、0.001を超えて0.02以下(0.001<x≦0.020)を満たしてもよく、0.002以上0.015以下(0.002≦x≦0.015)を満たしてもよい。
【0019】
蛍光体コアは、元素Mと、元素Mと、元素Mと、Alと、必要に応じてSiと、Nとを含む組成となるように原料を混合し、得られた原料混合物を、例えば温度が1000℃以上1300℃以下、圧力が0.2MPa以上200MPa以下の窒素ガスを含む雰囲気中で焼成することによって得ることができる。蛍光体コアを得る方法としては、例えば特開2017-155209号公報に記載された方法を用いることができる。原料混合物は、例えばガス加圧電気炉で焼成してもよく、焼成温度は、1000℃以上1400℃以下の範囲で行ってもよく、800℃以上1000℃以下で一段目の焼成を行い、徐々に昇温して1000℃以上1400℃以下で二段目の焼成を行う二段階焼成であってもよい。蛍光体コアを得る方法は、特開2019-44039号公報に記載された方法を用いてもよい。
【0020】
窒化物蛍光体の製造方法の焼成物を準備することにおいて、蛍光体コアを、120℃以上500℃以下の温度でフッ素含有物質を含む雰囲気中で第1の熱処理をして、フッ化物を含む第1の膜を蛍光体コアの表面に備えた焼成物を準備することが好ましい。蛍光体コアを120℃以上500℃以下の温度でフッ素含有物質を含む雰囲気中で行う熱処理を第1の熱処理とするとき、第2の膜を形成した後の250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理することは第2の熱処理という。第1の熱処理を行う雰囲気は、フッ素含有物質を含む不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気とは、アルゴン、ヘリウム、窒素等を雰囲気中の主成分とし、雰囲気中に含まれる酸素の濃度が15体積%以下である雰囲気をいう。不活性ガス雰囲気は、不可避的に酸素を含むことがあり、不活性ガス雰囲気中の酸素の濃度は、10体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であることがより好ましく、1体積%以下であることがさらに好ましい。フッ素含有物質は、フッ素ガス(F)又は、CHF、CF、NHHF、NHF,SiF、KrF、XeF、XeF、及びNFからなる群から選択される少なくとも1種のフッ素化合物が挙げられる。フッ素含有物質が、常温で固体又は液体である場合には、蛍光体コアとフッ素含有物質の合計量100質量%に対してフッ素含有物質が1質量%以上10質量%以下の範囲内の状態で蛍光体コアとフッ素含有物質を接触させることが好ましい。また、フッ素含有物質が気体である場合は、雰囲気中のFの濃度が2体積%以上25体積%以下の範囲内であることが好ましい。第1の熱処理温度は、120℃以上500℃以下でもよく、150℃以上450℃以下でもよく、400℃以下でもよく、350℃以下でもよい。第1の熱処理時間は、特に制限されないが、1時間以上10時間以内であることが好ましい。フッ化物を含む第1の膜を蛍光体コアの表面に備えた焼成物を準備することは、特開2019-44039号公報に記載された方法で準備することが好ましい。
【0021】
窒化物蛍光体の製造方法の焼成物を準備することにおいて、蛍光体コアを、120℃以上500℃以下の温度でフッ素含有物質を含む雰囲気中で第1の熱処理をして、フッ素を含む組成の部分を蛍光体コアの表面に備えた焼成物を準備してもよい。
【0022】
図2は、窒化物蛍光体の製造方法の一例を示すフローチャートである。窒化物蛍光体の製造方法は、フッ素を含む組成の部分を表面に備えた蛍光体コアを含む焼成物を準備することS101’と、元素M2を含む金属アルコキシドを含む溶液と焼成物を雰囲気温度以下の温度で接触させ、元素M2を含む酸化物を含む膜を形成することS102’と、250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理することS103を含む。
【0023】
窒化物蛍光体の製造方法は、第1の熱処理を行う前に、蛍光体コアと酸性溶液とを接触させることを含んでもよい。蛍光体コアは、酸性溶液と接触させることにより、蛍光体コアの表面に存在する不純物を溶解させて除去することができる。蛍光体コアの表面から不純物が除去されていると、蛍光体コアの表面にフッ化物を含む第1の膜を密着させて形成することができる。酸性溶液は、硝酸、塩酸、酢酸、硫酸、ギ酸、及びリン酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸を含む水溶液であることが好ましい。溶媒としては、脱イオン水を用いることができる。酸性溶液の溶媒は、脱イオン水と、アルコールを含んでいてもよい。アルコールは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。酸性溶液は、pHが4から6の範囲内であることが好ましく、pHが3から6.5の範囲内であってもよい。
【0024】
窒化物蛍光体の製造方法は、第2の膜を形成することにおいて、焼成物を液体中に分散させて、焼成物を分散させた液体中に金属アルコキシドを含む溶液を滴下して、焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させてもよい。本件明細書において、焼成物を分散させる液体を反応溶液ともいう。反応溶液の溶媒としては、脱イオン水が挙げられる。反応溶液は、脱イオン水を溶媒として、後述する塩基性触媒が含まれていてもよい。反応溶液は、脱イオン水を溶媒として、後述するアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素M1をからなるイオン(M1イオン)が含まれていてもよい。
【0025】
窒化物蛍光体の製造方法の第2の膜を形成することにおいて、焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させる温度は、雰囲気温度以下の温度であり、金属アルコキシドを含む溶液の凝固を防ぐため、金属アルコキシドを含む溶液に含まれる溶媒及び/又は反応溶液に含まれる溶媒の凝固点温度より高い温度であることが好ましい。窒化物蛍光体の製造方法の第2の膜を形成することにおいて、焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させる温度は、0℃よりも高い温度であることが好ましい。焼成物を分散させた反応溶液中に、金属アルコキシドを含む溶液を滴下して、焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させる場合は、反応溶液の温度が、0℃よりも高く、雰囲気温度以下であることが好ましい。焼成物は、フッ化物を含む第1の膜を蛍光体コアの表面に備えており、焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を反応溶液中で接触させた場合であっても、フッ化物を含む第1の膜により蛍光体コアの劣化を抑制しながら、金属アルコキシドを加水分解及び縮重合させて元素M2を含む酸化物を含む第2の膜を形成することができる。雰囲気温度以下の温度で、焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させるため、フッ化物を含む第1の膜の劣化を抑制しながら、比較的遅い反応速度で元素M2を含む酸化物を含む第2の膜が形成されるため、第1の膜と第2の膜の密着性が向上し、大きい被覆率で第2の膜が形成される。焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させる温度は、雰囲気温度よりも10℃以上の差のある低い温度であることが好ましく、15℃以上の差のある低い温度であってもよい。窒化物蛍光体の製造方法の第2の膜を形成することにおいて、フッ化物を含む第1の膜の劣化を抑制しながら、より大きい被覆率で第2の膜を形成するために、焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させる温度は、0℃を超えて30℃以下であることが好ましく、0℃を超えて25℃以下であることがより好ましく、0℃を超えて20℃以下であることがより好ましく、0℃を超えて15℃以下であることがさらに好ましく、0℃を超えて10℃以下であることがよりさらに好ましく、0℃を超えて10℃未満であることが特に好ましく、1℃以上9℃以下でもよい。
【0026】
窒化物蛍光体の製造方法は、第2の膜を形成することにおいて、蛍光体コア及び第1の膜に対する第2の膜の被覆率を大きくするために、焼成物と金属アルコキシドを含む溶液と接触させる時間が、1時間以上であることが好ましく、1.5時間以上でもよく、2時間以上でもよく、5時間以上であることが好ましく、生産性を向上するために、24時間以内でもよい。
【0027】
金属アルコキシドは、Si、Al、Ti、Zr、Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素M2を含有する金属アルコキシドである。金属アルコキシドは、アルコキシル基を2つ以上有するシラン化合物であることが好ましい。金属アルコキシドは、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラブドキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリプロポキシド、アルミニウムトリブドキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、スズテトラブトキシド、亜鉛テトラプロポキシド、亜鉛テトラブトキシドが挙げられる。金属アルコキシドは、作業性及び入手容易性を考慮して、テトラエトキシシランであることが好ましい。
【0028】
焼成物と、金属アルコキシドを含む溶液とを、接触させて、金属アルコキシドを加水分解及び縮重合させることによって、元素M2を含む酸化物を含む第2の膜が焼成物の表面に形成される。例えば金属アルコキシドがテトラエトキシシラン(Si(OC)である場合、焼成物をテトラエトキシシラン(Si(OC)を含む溶液に接触させて、テトラエトキシシランを加水分解させることによって、オルトケイ酸(Si(OH))が形成され、オルトケイ酸(Si(OH))の縮重合による脱水反応が進み、二酸化ケイ素(SiO)を含む第2の膜が形成される。第2の膜には、テトラエトキシシランを加水分解及び縮重合させることによって形成されたに二酸化ケイ素(SiO)が含まれるが、第2の膜には一部に水酸基(OH)が残存したケイ素化合物も含まれる。
【0029】
金属アルコキシドを含む溶液は、焼成物100質量%に対して、金属アルコキシドを加水分解及び縮重合させて得られる元素M2を含む酸化物が5質量%以上20質量%以下の範囲内となる量の金属アルコキシドを含むことが好ましい。元素M2を含む酸化物が、焼成物100質量%に対して、5質量%以上20質量%以下の範囲内となるように、金属アルコキシドが溶液中に含まれていれば、焼成物に対して、元素M2を含む酸化物を含む第2の膜の被覆率を大きくすることができる。金属アルコキシドを含む溶液は、元素M2を含む酸化物が、5質量%以上15質量%以下の範囲内となる量の金属アルコキシドを含むことがより好ましく、5質量%以上10質量%以下の範囲内となる量の金属アルコキシドを含むことがさらに好ましい。
【0030】
第2の膜は、例えばゾルゲル法により形成することができる。第2の膜は、金属アルコキシドを含む溶液を化学蒸着(CVD)法により焼成物の表面に付着させて形成してもよく、金属アルコキシドを含む溶液を原子層堆積(ALD)法により焼成物の表面に付着させて形成してもよい。
【0031】
窒化物蛍光体の製造方法は、第2の膜を形成することにおいて、焼成物と、金属アルコキシドを含む溶液を接触させるときに、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素M1からなるイオン(以下、「M1イオン」とも記載する。)を存在させることが好ましい。M1イオンは、Li、Na、K、Rb、Cs、Be2+、Sr2+、Ca2+、Ba2+、及びMg2+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンであることが好ましい。焼成物と、金属アルコキシドを含む溶液を接触させるときに、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素M1からなるイオンが存在することにより、元素M2を含む酸化物の結晶化を促すことができる。M1イオンは、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素M1からなるイオンであることがより好ましく、Sr2+、Ca2+、Ba2+及びMg2+からなる群から選択される少なくとも1種のイオンであることが好ましく、Sr2+であることがより好ましい。M1イオンは、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素M1を含む化合物を、焼成物を分散させた反応溶液中に溶解させてM1イオンとし、例えば金属アルコキシドを含む溶液を、焼成物を分散させた反応溶液に滴下し、焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させるときに、M1イオンを存在させるようにしてもよい。元素M1を含む化合物を、金属アルコキシドを含む溶液に添加して、焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させるときに、M1イオンを存在させるようにしてもよい。
【0032】
M1イオン源となる、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素M1を含む化合物は、元素M2を含む酸化物の結晶化を促すために、焼成物の100質量%に対して、0.03質量%以上0.20質量%以下の範囲内で存在させるようにしてもよく、0.05質量%以上0.18質量%以下の範囲内で存在させるようにしてもよく、0.08質量%以上0.15質量%以下の範囲内で存在させるようにしてもよい。M1イオン源となる元素M1を含む化合物を、焼成物の100質量%に対して、0.03質量%以上0.20質量%以下の範囲内となるように存在させると、元素M2を含む酸化物の結晶化をより促進して、第1の膜を備えた蛍光体コアからなる焼成物に対する第2の膜の被覆率を大きくすることができる。
【0033】
窒化物蛍光体の製造方法の第2の膜を形成することにおいて、焼成物と、金属アルコキシドを含む溶液とを接触させるときに、塩基性触媒を存在させることが好ましい。焼成物と金属アルコキシドを含む溶液と接触させるときに、塩基性触媒を存在させることによって、雰囲気温度以下の低い温度においても、金属アルコキシドの加水分解及び縮重合の反応を促進させて、焼成物に対して大きい被覆率で元素M2を含む酸化物を含む第2の膜を形成することができる。塩基性触媒は、特に限定されないが、アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。塩基性触媒は、焼成物を分散させた反応溶液に添加して、焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させるときに、塩基性触媒が存在するようにしてもよい。塩基性触媒は、金属アルコキシドを含む溶液に添加して、焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させるときに、塩基性触媒が存在するようにしてもよい。塩基性触媒を反応溶液又は金属アルコキシドを含む溶液に添加する場合は、塩基性触媒となる化合物を0.001モル/L以上1.0モル/L以下の範囲内で各溶液に添加してもよい。
【0034】
窒化物蛍光体の製造方法は、第2の膜を形成することにおいて、金属アルコキシドを含む溶液は、水及び/又はアルコールを含むことが好ましい。金属アルコキシドを含む溶液は、溶媒として水及び/又はアルコールを含むことが好ましい。水は、脱イオン水を用いることができる。アルコールは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0035】
窒化物蛍光体の製造方法は、第2の膜を形成することにおいて、焼成物と、金属アルコキシドを含む溶液とを接触させた後、乾燥させることを含むことが好ましい。焼成物と金属アルコキシドを接触させた後に、乾燥させると、蛍光体コア及び第1の膜の表面には、元素M2が水酸基(OH)を含む状態で結合した状態となり、その後、熱処理することによって、水酸基(OH)から水素を除去し、蛍光体コアの第1の膜に密着させた状態で第2の膜を形成することができる。乾燥は、温風乾燥機、真空乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレーター、スプレードライ等の工業的に通常用いられる装置を用いて行うことができる。乾燥温度は、50℃以上120℃以下の範囲内であることが好ましく、60℃以上115℃以下の範囲内であることがより好ましく、70℃以上110℃以下の範囲内であることがさらに好ましい。乾燥時間は、特に制限されないが、1時間以上30時間以内であることが好ましく、2時間以上25時間以内であることがより好ましく、3時間以上24時間以内であることがさらに好ましい。
【0036】
図3は、窒化物蛍光体の製造方法の一例を示すフローチャートである。図3において、第2の膜を形成することS102は、元素M2を含む金属アルコキシドを含む溶液と焼成物を雰囲気温度以下の温度で接触させて、元素M2を含む酸化物を含む第2の膜を形成することS102aと、乾燥することS102bを含む。フッ化物を含む第1の膜を蛍光体コアの表面に備えた焼成物を準備することS101と、250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理することS103を含むことは、図1に示す窒化物蛍光体の製造方法のフローチャートと同様である。
【0037】
窒化物蛍光体の製造方法は、第2の膜を形成することにおいて、焼成物と、金属アルコキシドを含む溶液を接触させることを2回以上含むことが好ましい。焼成物と、金属アルコキシドを含む溶液を接触させることを2回以上含むことにより、第2の膜の被覆率がより大きくなり、蛍光体コアの第1の膜の表面により緻密な又はより厚い第2の膜が形成される。蛍光体コアの第1の膜の表面により緻密な又はより厚い第2の膜が形成されると、得られる窒化物蛍光体の耐久性がより改善される。焼成物と、金属アルコキシドを含む溶液を接触させることは、2回以上であればよく、3回以上でもよく、生産性を考慮すると、5回以下であることが好ましい。焼成物と、金属アルコキシドを含む溶液を接触させることを2回以上の複数回行う場合は、接触させる温度は、いずれも雰囲気温度以下である。
【0038】
図4は、窒化物蛍光体の製造方法の一例を示すフローチャートである。図4において、元素M2を含む金属アルコキシドを含む溶液と焼成物を雰囲気温度以下の温度で接触させ、元素M2を含む酸化物を含む第2の膜を形成することS102を2回以上行うことを含む。フッ化物を含む第1の膜を蛍光体コアの表面に備えた焼成物を準備することS101と、250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理することS103を含むことは、図1に示す窒化物蛍光体の製造方法のフローチャートと同様である。
【0039】
窒化物蛍光体の製造方法は、第2の膜を形成することにおいて、焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させることと、乾燥することを含む場合は、乾燥後に、焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させることを行うことが好ましい。焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させた後、乾燥後に、2回目の焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させることにより、1回目の焼成物と金属アルコキシドを含む溶液との接触と乾燥によって、元素M2が水酸基(OH)を含む状態で結合し、2回目の焼成物と金属アルコキシドを含む溶液との接触で、さらに元素M2が水酸基(OH)を含む状態で結合し、蛍光体コアの第1の膜の表面により緻密な又はより厚い第2の膜が形成される。蛍光体コアの第1の膜の表面により緻密な又はより厚い第2の膜が形成されると、得られる窒化物蛍光体の耐久性がより改善される。
【0040】
図5は、窒化物蛍光体の製造方法の一例を示すフローチャートである。図5において、第2の膜を形成することS102は、元素M2を含む金属アルコキシドを含む溶液と焼成物を雰囲気温度以下の温度で接触させて、元素M2を含む酸化物を含む第2の膜を形成することS102aと、乾燥することS102bを含み、乾燥後に、2回目又は2回目以上の第2の膜を形成することS102aと、乾燥することS102bを含む。フッ化物を含む第1の膜を蛍光体コアの表面に備えた焼成物を準備することS101と、250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理することS103を含むことは、図1に示す窒化物蛍光体の製造方法のフローチャートと同様である。
【0041】
窒化物蛍光体の製造方法は、元素M2を含む酸化物を含む第2の膜が形成された焼成物を、250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理することを含む。窒化物蛍光体の製造方法において、蛍光体コアを120℃以上500℃以下の温度でフッ素含有物質を含む雰囲気中で第1の熱処理を行う場合には、元素M2を含む酸化物を含む第2の膜が形成された焼成物を熱処理することを第2の熱処理ともいう。第2の膜が形成された焼成物を熱処理(第2の熱処理)することによって、水酸基(OH)を含む第2の膜中で脱水反応が進み、元素M2を含む酸化物を含む強固な膜となる。第2の膜に含まれている元素M2を含む酸化物中の酸素は、フッ化物を含む第1の膜に作用し、第1の膜にも元素M2が含まれる場合もある。第2の膜が形成された焼成物を熱処理(第2の熱処理)した後に得られる窒化物蛍光体は、第2の膜に含まれる元素M2の量が、第1の膜に含まれる元素M2よりも多い。第1の膜にも元素M2が含まれることから、第2の熱処理によって、第1の膜に含まれているフッ化物と、第2の膜に含まれている元素M2を含む酸化物とが反応し、水酸基(OH)を含む第2の膜中で脱水反応が進み、第2の膜に含まれている元素M2(例えばSi)の一部が、酸素を介して、第1の膜のフッ化物中に含まれる蛍光体コアを由来とする元素(例えばSr又はAl)と結合して、第1の膜にも元素M2が含まれるようになると推測される。得られた窒化物蛍光体は、第1の膜と被覆率の大きい第2の膜が二重の保護膜として機能し、窒化物蛍光体の外部環境による劣化を抑制し、得られる窒化物蛍光体の耐久性をより向上することができる。第1の膜は、第2の熱処理後に蛍光体コアと一体化するとともに、元素M2が含まれる場合もあるフッ素を含む組成の部分となった場合も、元素M2を含む酸化物を含む膜とともに、窒化物蛍光体を外部環境から保護し、耐久性をより向上することができる。
【0042】
第1の膜を有する焼成物に元素M2を含む酸化物を含第2の膜を形成し、第2の膜を形成後に熱処理(第2の熱処理)を行なうと、第2の膜に含まれる元素M2を含む酸化物に含まれる酸素が、第1の膜にも作用し、第2の膜にもフッ素が含まれるようになる場合がある。第2の熱処理後に得られる窒化物蛍光体は、第1の膜に含まれるフッ素の量が、第2の膜に含まれるフッ素の量よりも多いことが好ましい。
【0043】
第2の膜を形成した後の焼成物の熱処理(第2の熱処理)の温度は、250℃を超えて500℃以下であり、250℃を超えて450℃以下であることが好ましく、300℃以上400℃以下であることがより好ましい。第2の膜を形成した後の焼成物の熱処理(第2の熱処理)の温度が、250℃以下であると、温度が低いために、第2の膜中に含まれる元素M2を含む酸化物中の酸素が第1の膜に作用しにくくなり、第2の膜に含まれる元素M2を含む酸化物と、第1の膜に含まれる蛍光体コアを由来とする元素が酸素を介して結合しにくくなり、第2の膜の密着性が低減し、蛍光体コア及び第1の膜を保護する機能が低下する場合がある。第2の膜を形成した後の焼成物の熱処理(第2の熱処理)の温度が500℃を超えると、焼成物に含まれる蛍光体コアの結晶構造が破壊されやすくなる。
【0044】
第2の膜を形成した後の焼成物の熱処理(第2の熱処理)は、大気中又は不活性ガス雰囲気中で行なうことが好ましい。第2の膜を形成した後の焼成物の熱処理(第2の熱処理)を大気中又は不活性ガス雰囲気中で行なうことにより、水酸基(OH)を含む第2の膜中で脱水反応が進み、第2の膜に含まれている元素M2(例えばSi)の一部が、酸素を介して、第1の膜のフッ化物中の蛍光体コアを由来とする元素(例えばSr又はAl)とより強固に結合する。
【0045】
第2の膜を形成した後の焼成物の熱処理(第2の熱処理)の時間は、特に制限されないが、1時間以上20時間以内であることが好ましく、2時間以上15時間以内であることがより好ましく、3時間以上10時間以内であることがさらに好ましい。第2の膜を形成した後の焼成物の熱処理(第2の熱処理)の時間が1時間以上20時間以内であれば、熱処理によって蛍光体コアの構造に影響を与えることなく、含まれる水酸基(OH)の量が少ない、元素M2を含む酸化物を含む第2の膜を形成することができる。
窒化物蛍光体の製造方法は、第1の熱処理と第2の熱処理の後に、得られた焼成物又は窒化物蛍光体の解砕処理、粉砕処理、分級処理等を行う後処理を含んでいてもよい。
【0046】
得られる窒化物蛍光体は、前記式(I)で表される組成を有する蛍光体コアを含み、紫外線から可視光の短波長側領域である400nm以上570nm以下の範囲内の光を吸収して、発光ピーク波長が630nm以上670nm以下の範囲内にある蛍光を発することが好ましい。窒化物蛍光体の発光スペクトルは、発光ピーク波長が640nm以上660nm以下の範囲内にあることがより好ましい。また発光スペクトルの半値全幅は、例えば65nm以下であることが好ましく、60nm以下であることが好ましく、45nm以上であることが好ましい。本明細書において、半値全幅は、発光スペクトルにおいて、最大の発光強度を示す発光ピーク波長における発光強度に対して50%となる波長幅をいう。
【0047】
得られる窒化物蛍光体は、レーザー回折散乱法により測定した体積基準の粒度分における小径側からの累積頻度が50%の中心粒径Dmが、14μm以上50μm以下の範囲内であることが好ましく、15μm以上40μm以下の範囲内であることがより好ましく、15μm以上35μm以下の範囲内であることがさらに好ましく、16μm以上30μm以下の範囲内であることがよりさらに好ましい。前述の製造方法により得られた窒化物蛍光体は、蛍光体コアの表面にフッ化物を含む第1の膜及び元素M2を含む酸化物を含む第2の膜を備えるため、中心粒径Dmが比較的大きくなる。また、得られる中心粒径Dmが14μm以上50μm以下の範囲内の窒化物蛍光体は、第1の膜及び第2の膜、又は、フッ素を含む組成の部分及び元素M2を含む酸化物を含む膜により外部環境から保護されて、劣化が抑制され、耐久性が改善される。中心粒径Dmは、レーザー回折散乱法により測定した体積基準の粒度分布における小径側からの累積頻度が50%の中心粒径(メジアン径)をいう。中心粒径Dmは、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置(MASTER SIZER(マスターサイザー)3000、MALVERN社製)を用いて測定することができる。
【0048】
得られる窒化物蛍光体は、発光装置の波長変換部材の構成要素として利用することができる。
【0049】
窒化物蛍光体は、Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Alと、必要に応じてSiと、Nとを含む組成を有する蛍光体コアと、蛍光体コアの表面に配置されたSi、Al、Ti、Zr、Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素M2を含む酸化物を含む膜と、を有する窒化物蛍光体であって、下記式(1)から導かれる前記膜の膜厚Tに対する、下記式(2)から導かれる前記膜の最小膜厚Tminの膜厚比Tmin/Tの最小値が0.3以上1以下の範囲内である。窒化物蛍光体は、前述の製造方法によって製造された窒化物蛍光体であることが好ましい。
膜厚T=(S2-Sc)/[(P2+Pc)/2] (1)
最小膜厚Tmin=(Ss-Sc)/[(Ps+Pc)/2] (2)
(式(1)、(2)中、走査型電子顕微鏡を用いて撮影して得られる窒化物蛍光体の断面のSEM画像において、P2は、膜の外周に沿って膜の外周に内接するように描いた閉じた線から導き出される膜の外周長であり、Pcは、蛍光体コアの外周に沿って蛍光体コアの外周に内接するように描いた閉じた線から導き出される蛍光体コアの外周長であり、Psは、蛍光体コアの外周と直交する方向において、蛍光体コアの外周から最短距離となる膜の外周に内接するように蛍光体コアの外周を拡大した閉じた線の外周長であり、S2は、膜の外周長P2から導き出される蛍光体コア及び膜を含む断面積であり、Scは、蛍光体コアの外周長Pcから導き出される蛍光体コアの断面積であり、Ssは外周長Psから導き出される断面積である。)窒化物蛍光体の膜の膜厚を算出する場合は、典型的には、蛍光体コアの中心部又は中心部の近傍を通る窒化物蛍光体の断面で算出する。
【0050】
図6は、蛍光体コア及び膜の模式的断面図である。
【0051】
窒化物蛍光体1の模式的断面に示すように、窒化物蛍光体1は、断面において、表面に凹凸があり、真円ではない。蛍光体コア1aの外周に沿って蛍光体コア1aの外周に内接するように閉じた線を蛍光体コア1aの外周長Pcとして測定する。外周長Pcから蛍光体コア1aの断面を真円とした場合の断面積であるScを導き出すことができる。また、蛍光体コア1aの外周と直交する方向において、蛍光体コア1aの外周から最短距離となる膜1bの外周に内接するように蛍光体コア1aの外周を拡大した閉じた線の外周長Psを測定する。外周長Psから、蛍光体コア1aと膜厚が最も小さい場合の膜1bとを含み、蛍光体コア1a及び膜厚が最も小さい場合の膜1bを真円とした場合の断面積Ssを導き出すことができる。膜1bの外周に沿って膜1bの外周に内接するように描いた閉じた線から導き出される膜1bの外周長P2として測定する。膜1bの外周長P2から膜1bの外周を真円とした場合の蛍光体コア1aを含む膜1bの断面積S2を導き出すことができる。
【0052】
本件明細書において、蛍光体コア1aの外周長Pc、膜1bの外周長P2、又は蛍光体コア1aの外周から最短距離となる膜1bの外周に内接する外周長Psのそれぞれの外周長を表す閉じた線は、閉曲線でもよく、閉曲線の一部に直線を含む閉じた線でもよい。
【0053】
蛍光体コアの外周長Pc、膜の外周長P2、及び蛍光体コアの外周から最短距離となる膜の外周に内接する外周長Psは、具体的には、窒化物蛍光体を樹脂に包埋し、樹脂を硬化させた後に窒化物蛍光体の断面が露出するように切削し、表面を紙やすりで研磨した後、クロスセクションポリッシャー(CP)で表面を仕上げ、電解放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)によって得られた窒化物蛍光体の断面のSEM写真から測定することができる。
【0054】
蛍光体コアの外周長Pc、蛍光体コアの断面積Sc、膜の外周長P2、及び蛍光体コア及び膜の断面積S2に基づき、前記式(1)から導き出した膜の膜厚Tと、蛍光体コアの外周長Pc、蛍光体コアの断面積Sc、蛍光体コアの外周から最短距離となる膜の外周に内接する外周長Ps、及び、蛍光体コアと膜厚が最も小さい場合の膜とを含む断面積Ssに基づき、前記式(2)から導き出した膜の最小膜厚Tminの膜厚比Tmin/Tが0.3以上1以下の範囲内であれば、窒化物蛍光体は、膜によって蛍光体コアが保護され、外部環境による窒化物蛍光体の劣化が抑制され、窒化物蛍光体の耐久性をより向上することができる。膜厚比Tmin/Tは、1を超えることはなく、0.3を超えてもよい。
【0055】
所定個数の窒化物蛍光体の前記式(1)から導き出される膜の膜厚Tに対する前記式(2)から導き出される膜の最小膜厚Tminの膜厚比Tmin/Tの算術平均値が0.45以上1以下であることが好ましい。本件明細書において、算術平均値を算出するための窒化物蛍光体の所定個数は、10個である。所定個数の窒化物蛍光体の膜厚比Tmin/Tの算術平均値が0.45以上1以下であれば、前述の製造方法によって得られた窒化物蛍光体は、膜が蛍光体コアを十分に保護し、外部環境による劣化が抑制され、窒化物蛍光体の耐久性をさらに向上することができる。
【0056】
所定個数の窒化物蛍光体の前記式(1)から導き出される膜の膜厚Tの算術平均値は、100nm以上200nm以下の範囲内であることが好ましい。所定個数の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの算術平均値が100nm以上200nm以下の範囲内であれば、膜によって、フッ素を含む組成の部分を含む蛍光体コアが十分に保護され、外部環境による劣化が抑制され、耐久性を向上することができる。所定個数の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの算術平均値は、105nm以上190nm以下の範囲内でもよく、110nm以上185nm以下の範囲内でもよく、112nm以上180nm以下の範囲内でもよい。
【0057】
所定個数の窒化物蛍光体の前記式(2)から導き出される膜の最小膜厚Tminの算術平均値は、50nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましい。所定個数の窒化物蛍光体の膜の最小膜厚Tminの算術平均値が50nm以上100nm以下の範囲内であれば、膜厚が最小の部分においても、膜が蛍光体コアを十分に保護し、フッ素を含む組成の部分を含む蛍光体コアが十分に保護され、外部環境による劣化が抑制され、耐久性を向上することができる。所定個数の窒化物蛍光体の膜の最小膜厚Tminの算術平均値は、51nm以上90nm以下の範囲内でもよく、52nm以上80nm以下の範囲内でもよい。
【0058】
所定個数の窒化物蛍光体の前記式(1)から導き出される膜の膜厚Tの標準偏差が25nm以下であることが好ましい。所定個数の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの標準偏差が25nm以下であれば、膜厚のばらつきが小さく、膜によって、外部環境から蛍光体コアを保護し、窒化物蛍光体の劣化が抑制され、耐久性を向上することができる。所定個数の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの標準偏差は、24nm以下でもよく、23nm以下でもよく、1nm以上でもよく、2nm以上でもよい。
【0059】
所定個数の窒化物蛍光体の前記式(1)から導き出される膜の膜厚Tの中央値が100nm以上であることが好ましい。窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの中央値は、10個の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの最大値と最小値の中央値である。窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの第1中央値が100nm以上であれば、フッ素を含む組成の部分を含む蛍光体コアの表面に蛍光体コアを十分に保護し得る膜厚の膜が、蛍光体コアの表面に形成されている。所定個数の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの中央値は、110nm以上でもよく、120nm以上でもよく、200nm以下でもよく、180nm以下でもよく、150nm以下でもよい。
【0060】
所定個数の窒化物蛍光体の前記式(1)から導き出される膜の膜厚Tの最小値は、70nm以上であることが好ましい。所定個数の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの最小値が70nm以上であれば、フッ素を含む組成の部分を含む蛍光体コアの表面に蛍光体コアを十分に保護し得る膜厚を有し、フッ素を含む組成の部分を含む蛍光体コアの表面に略均一な膜厚の膜が形成されている。所定個数の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの最小値は、72nm以上でもよく、74nm以上でもよく、100nm以下でもよい。
【0061】
所定個数の窒化物蛍光体の前記式(1)から導き出される膜の膜厚Tの最大値は、150nm以下であることが好ましい。所定個数の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの最大値が150nm以下であれば、蛍光体コアの表面に膜を有する場合であっても、光源からの光を吸収して、発光強度の低下を抑制し、蛍光を発することができる。所定個数の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの最大値は、148nm以下でもよく、145nm以下でもよく、143nm以下でもよい。
【0062】
所定個数の窒化物蛍光体の前記式(2)から導き出される膜の最小膜厚Tminの標準偏差は20nm以下でもよく、18nm以下でもよい。所定個数の窒化物蛍光体の膜の最小膜厚Tminの標準偏差が20nm以下であれば、所定個数の窒化物蛍光体の膜の最小膜厚Tminの標準偏差は0nmでもよく、1nm以上でもよく、2nm以上でもよく、5nm以上でもよく、10nm以上でもよく、12nm以上でもよい。
【0063】
所定個数の窒化物蛍光体の前記式(2)から導き出される膜の最小膜厚Tminの中央値が50nm以上であることが好ましい。窒化物蛍光体の膜の最小膜厚Tminの中央値は、10個の窒化物蛍光体の膜の最小膜厚Tminの最大値と最小値の中央値である。所定個数の窒化物蛍光体の膜の最小膜厚Tminの中央値が50nm以上であれば、フッ素を含む組成の部分を含む蛍光体コアの表面に蛍光体コアを十分に保護し得る膜厚の膜が、蛍光体コアの表面に形成されている。所定個数の窒化物蛍光体の膜の最小膜厚Tminの中央値は、52nm以上でもよく、55nm以上でもよく、57nm以上でもよく、90nm以下でもよく、80nm以下でもよい。
【0064】
所定個数の窒化物蛍光体の前記式(2)から導き出される膜の最小膜厚Tminの最小値は、22nm以上であることが好ましい。所定個数の窒化物蛍光体の膜の最小膜厚Tminの最小値が20nm以上であれば、フッ素を含む組成の部分を含む蛍光体コアの表面に蛍光体コアを十分に保護し得る膜厚を有し、フッ素を含む組成の部分を含む蛍光体コアの表面に略均一な膜厚の膜が形成されている。所定個数の窒化物蛍光体の膜の最小膜厚Tminの最小値は、23nm以上でもよく、24nm以上でもよく、40nm以下でもよい。
【0065】
所定個数の窒化物蛍光体の前記式(2)から導き出される膜の最小膜厚Tminの最大値は、100nm以下でもよく、90nm以下でもよい。蛍光体コアの表面により均一な膜厚の膜を有する場合は、最小膜厚Tminの最大値が60nm以上であることが好ましく、70nm以上でもよく、75nm以上でもよい。
【0066】
前述の製造方法によって製造された窒化物蛍光体、膜厚比Tmin/Tの最小値が0.3以上1以下の範囲内である窒化物蛍光体は、発光装置の波長変換部材の構成要素として利用することができる。
【0067】
発光装置は、400nm以上570nm以下の波長範囲の光を発する励起光源を備える。発光装置の励起励起光源として、発光素子を用いることができる。発光素子は、発光ピーク波長が400nm以上570nm以下の範囲内にあることが好ましく、420nm以上500nm以下の範囲内にあることがより好ましく、420nm以上460nm以下の範囲内にあることがさらに好ましい。発光ピーク波長が400nm以上570nm以下の範囲内にある発光素子を励起光源として用いることにより、発光素子からの光と蛍光体からの蛍光との混色光を発する発光装置を構成することが可能となる。
【0068】
発光素子には、窒化物系半導体(InAlGa1-X-YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)を用いた半導体発光素子を用いることが好ましい。発光装置の励起光源として半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。発光素子の発光スペクトルの半値全幅は、例えば30nm以下であることが好ましい。
【0069】
発光装置は、前述の製造方法によって製造された窒化物蛍光体、膜厚比Tmin/Tの最小値が0.3以上1以下の範囲内である窒化物蛍光体を含むことができる。窒化物蛍光体は、蛍光体コアが式(I)で表される組成を有し、400nm以上570nm以下の波長範囲の光で励起され、630nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する蛍光を発することが好ましい。発光装置は、窒化物蛍光体を含む第1蛍光体と、窒化物蛍光体とは異なる組成を有し、第1蛍光体の発光ピーク波長とは異なる発光ピーク波長を有する蛍光を発する第2蛍光体を含んでもよい。
【0070】
第1蛍光体は、例えば励起光源を覆う波長変換部材に含有されて発光装置を構成することができる。励起光源が第1蛍光体を含有する波長変換部材で覆われた発光装置は、励起光源から出射された光の一部が第1蛍光体に吸収されて、赤色光として放射される。400nm以上570nm以下の波長範囲の光を発する励起光源を用いることで、放射される光をより有効に利用することができる。
【0071】
発光装置に含まれる第1蛍光体の含有量は特に制限されない。例えば第1蛍光体の含有量は、波長変換部材を構成する樹脂100質量部に対して1質量部以上200質量部以下とすることができ、2質量部以上180質量部以下であることが好ましい。
【0072】
第1蛍光体及び/又は第2蛍光体(以下、単に「蛍光体」ともいう。)は、樹脂とともに発光素子を被覆する波長変換部材を構成することができる。波長変換部材を構成する樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0073】
波長変換部材は、樹脂及び蛍光体に加えて、フィラー、光拡散材等を更に含んでいてもよい。例えば光拡散材を含むことで、発光素子からの指向性を緩和させ、視野角を増大させることができる。フィラーとしては、例えばシリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、アルミナ等を挙げることができる。波長変換部材がフィラーを含む場合、その含有量は目的等に応じて適宜選択することができる。フィラーの含有量は、例えば樹脂に対して1質量%以上20質量%以下とすることができる。
【0074】
図7は、発光装置の一例を示す概略断面図である。
【0075】
発光装置100は、リード電極20、30と成形体40により形成された凹部を有するパッケージと、発光素子10と、発光素子10を被覆する波長変換部材50とを備える。発光素子10は、パッケージの凹部内に配置されており、成形体40に備えられた正負一対のリード電極20、30に導電性ワイヤ60によって電気的に接続されている。波長変換部材50は、パッケージの凹部内に充填されており、発光素子10を被覆し、パッケージの凹部を封止している。波長変換部材50は、例えば発光素子10からの光を波長変換する蛍光体70と樹脂を含む。さらに蛍光体70は、第1蛍光体71と第2蛍光体72とを含む。正負一対のリード電極20、30は、その一部がパッケージの外側面に露出されている。これらのリード電極20、30を介して、外部から電力の供給を受けて発光装置100が発光する。
【0076】
波長変換部材50は、樹脂と蛍光体とを含み、発光装置100の凹部内に載置された発光素子10を覆うように形成される。
【0077】
本開示に係る実施形態は、以下の窒化物蛍光体の製造方法及び窒化物蛍光体を含む。
【0078】
[項1]
Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Alと、必要に応じてSiと、Nとを含む組成を有する蛍光体コアを含む窒化物蛍光体の製造方法であって、
フッ化物を含む第1の膜を前記蛍光体コアの表面に備えた焼成物を準備することと、
前記焼成物を、Si、Al、Ti、Zr、Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素M2を含有する金属アルコキシドを含む溶液に、雰囲気温度以下の温度で接触させ、前記金属アルコキシドを加水分解及び縮重合させて、前記元素M2を含む酸化物を含む第2の膜を形成することと、
250℃を超えて500℃以下の温度で熱処理することを含む、窒化物蛍光体の製造方法。
[項2]
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記焼成物と、前記金属アルコキシドを含む溶液を接触させることを2回以上含む、項1に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[項3]
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記焼成物と、前記金属アルコキシドを含む溶液を接触させた後、乾燥させることをさらに含む、項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[項4]
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記第1の膜を有する前記焼成物を、前記金属アルコキシドを含む溶液に接触させる温度が、0℃よりも高い温度である、項1から3のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[項5]
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記焼成物と、前記金属アルコキシドを含む溶液を接触させるときに、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素M1からなるイオンを存在させる、項1から4のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[項6]
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記焼成物と、前記金属アルコキシドを含む溶液を接触させるときに、塩基性触媒を存在させる、項1から5のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[項7]
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記金属アルコキシドを含む溶液は、水及び/又はアルコールを含む、項1から6のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[項8]
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記金属アルコキシドを含む溶液中に含まれる金属アルコキシドは、前記焼成物100質量%に対して、前記金属アルコキシドを加水分解及び縮重合させて得られる前記元素M2を含む酸化物が5質量%以上20質量%以下の範囲内となる量である、項1から7のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[項9]
前記第2の膜を形成することにおいて、
前記金属アルコキシドが、テトラエトキシシランである、項1から8のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[項10]
前記焼成物を準備することにおいて、
前記蛍光体コアが、下記式(I)で表される組成を有する、項1から9のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
Al3-ySi (I)
(式中、Mは、Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、v、w、x、y及びzは、それぞれ0.80≦v≦1.2、0.5≦w≦1.8、0.001<x≦0.1、0≦y≦0.5、1.5≦z≦5.0を満たす。)
[項11]
前記熱処理することにおいて、
前記熱処理を大気中又は不活性ガス雰囲気中で行う、項1から10のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[項12]
前記熱処理することにおいて、
前記熱処理の温度が、300℃以上400℃以下である、項1から11のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[項13]
前記焼成物を準備することにおいて、
前記蛍光体コアを、120℃以上500℃以下の温度でフッ素含有物質を含む雰囲気中で第1の熱処理をして、前記第1の膜を表面に備えた焼成物を準備することを含み、
前記熱処理が第2の熱処理である、項1から12のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[項14]
Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Alと、必要に応じてSiと、Nとを含む組成を有する蛍光体コアと、
前記蛍光体コアの表面に配置されたSi、Al、Ti、Zr、Sn及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素M2を含む酸化物を含む膜と、を有する窒化物蛍光体であって、
下記式(1)から導かれる前記膜の膜厚Tに対する、下記式(2)から導かれる前記膜の最小膜厚Tminの膜厚比Tmin/Tの最小値が0.3以上1以下の範囲内である、窒化物蛍光体。
膜厚T=(S2-Sc)/[(P2+Pc)/2] (1)
最小膜厚Tmin=(Ss-Sc)/[(Ps+Pc)/2] (2)
(式(1)、(2)中、走査型電子顕微鏡を用いて撮影して得られる窒化物蛍光体の断面のSEM画像において、P2は、膜の外周に沿って膜の外周に内接するように描いた閉じた線から導き出される膜の外周長であり、Pcは、蛍光体コアの外周に沿って蛍光体コアの外周に内接するように描いた閉じた線から導き出される蛍光体コアの外周長であり、Psは、蛍光体コアの外周と直交する方向において、蛍光体コアの外周から最短距離となる膜の外周に内接するように蛍光体コアの外周を拡大した閉じた線の外周長であり、S2は、膜の外周長P2から導き出される蛍光体コア及び膜を含む断面積であり、Scは、蛍光体コアの外周長Pcから導き出される蛍光体コアの断面積であり、Ssは外周長Psから導き出される断面積である。)
[項15]
前記窒化物蛍光体の前記膜厚比Tmin/Tの算術平均値が0.45以上1以下である、項14に記載の窒化物蛍光体。
[項16]
前記窒化物蛍光体の前記膜厚Tの算術平均値が、100nm以上200nm以下の範囲内である、項14又は15に記載の窒化物蛍光体。
[項17]
前記窒化物蛍光体の前記最小膜厚Tminの算術平均値が、50nm以上100nm以下の範囲内である、項14から16のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体。
[項18]
前記窒化物蛍光体の前記膜厚Tの標準偏差が25nm以下である、項14から18のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体。
[項19]
前記窒化物蛍光体の前記膜厚Tの中央値が100nm以上である、項14から18のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体。
[項20]
前記膜厚Tの最小値が70nm以上である、項14から19のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体。
[項21]
レーザー回折散乱法により測定した体積基準の粒度分布における小径側からの累積頻度が50%の中心粒径が15μm以上30μm以下の範囲内である、項14から20のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体。
【実施例0079】
以下、本開示を実施例により具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
蛍光体コアの製造
Sr、Li、Eu、Al、及びNを含む組成を有する蛍光体コアを製造した。
具体的には、式(I)のM Al3-ySiで表される組成を有する蛍光体コアを製造するために、MがSr、MがLi、MがEuとなるように、Sr、LiNH、AlN、EuH(tはEuイオンの電荷の絶対値)を各原料として用いた。本例において、前記式(I)中の変数yは0であり、蛍光体コアにSiを含んでいない。前述の原料を仕込み量比としてのモル比が、Sr:Li:Eu:Al=1.191:1.175:0.0075:3.0000になるように、不活性ガス雰囲気のグローブボックス内で計量し、さらに、フラックスとしてLiFを、前述の各原料の合計量100質量%に対して5質量%添加し、混合して原料混合物を得た。原料混合物をルツボに充填し、窒素ガス雰囲気で、ガス圧力をゲージ圧として0.92MPa(絶対圧力では1.02MPa)として、温度が1050℃で、熱処理を3時間行い、熱処理後、分散、分級処理を行い、SrLiEuAlで表される組成を有する蛍光体コアを得た。SrLiEuAlで表される組成中、v、w及びxは、例えばvが1.02であり、wが1.19であり、xが0.007であり、zは1.5≦z≦5.0を満たしていた。蛍光体コアは、第1の熱処理を行う前に、塩酸を含むpH3の酸性溶液に20℃から22℃で60分間接触させた。
【0081】
実施例1
焼成物の準備すること
蛍光体コアをフッ素ガス(F)と窒素ガス(N)とを含み、フッ素ガス濃度が20体積%、窒素ガス濃度が80体積%である雰囲気中、温度200℃、処理時間8時間で、第1の熱処理を行ない、蛍光体コアの表面にフッ化物を含む第1の膜を備えた焼成物を得た。
【0082】
第2の膜を形成すること
エタノール180mL、塩基性触媒として16.5質量%のアンモニアを含むアンモニア水43.4mL、純水20mLを混合して反応溶液とした。反応溶液のpHは14であった。蛍光体コアの表面にフッ化物を含む第1の膜を備えた焼成物の100gを反応溶液に入れ、撹拌し、反応溶液の温度20℃から22℃に保った。雰囲気温度は、20℃から22℃であり、反応溶液の温度は雰囲気温度以下の温度に保った。テトラエトキシシラン(Si(OC)34.7gを、金属アルコキシドを含む溶液とした。金属アルコキシドを含む溶液において、元素M2はSiであり、金属アルコキシドを含む溶液は、前述の焼成物の100質量%に対して、SiOが10質量%となるテトラエトキシシランを含む。反応溶液を撹拌しながら、金属アルコキシドを含む溶液を、反応溶液に150分間かけて滴下した。金属アルコキシドを含む溶液の滴下終了後、反応溶液の温度を雰囲気温度以下の温度である20℃から22℃に保って、60分間、反応溶液を撹拌し、塩基性触媒であるアンモニアが存在し、M1イオンが存在しない状態で、前述の焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させた。その後、撹拌を停止して、反応溶液から、Siを含む酸化物(SiO)を含む第2の膜を形成した焼成物を取り出し、防爆乾燥機(株式会社大同工業所製)内で、105℃で3時間、乾燥させて、第2の膜を形成した焼成物を得た。
【0083】
熱処理すること
第2の膜を形成した焼成物を大気中、温度400℃、処理時間10時間で、熱処理(第2の熱処理)を行ない、実施例1の窒化物蛍光体を得た。この実施例1の窒化物蛍光体は、蛍光体コアと、フッ化物を含む第1の膜と、二酸化ケイ素(SiO)を含む第2の膜を有する。
【0084】
実施例2
実施例1における第2の膜を形成することにおいて、実施例1と同様の蛍光体コアの表面にフッ化物を含む第1の膜を備えた焼成物の100質量%に対して、SiOが5質量%となるテトラエトキシシラン(Si(OC)を含む溶液を用い、前述の焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を実施例1と同様にして接触させた後、乾燥させ、乾燥後に、2回目に焼成物と100質量%に対して、SiOが5質量%となる金属アルコキシドを含む溶液を実施例1と同様にして接触させた後、2回目に乾燥したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の窒化物蛍光体を得た。実施例2の窒化物蛍光体は、蛍光体コアと、フッ化物を含む第1の膜と、二酸化ケイ素(SiO)を含む第2の膜を有する。
【0085】
実施例3
実施例1における第2の膜を形成することにおいて、反応溶液の温度を5℃に保ったこと以外は、実施例2と同様にして、実施例3の窒化物蛍光体を得た。実施例3において、雰囲気温度は20℃から22℃であった。実施例3の窒化物蛍光体は、蛍光体コアと、フッ化物を含む第1の膜と、二酸化ケイ素(SiO)を含む第2の膜を有する。
【0086】
実施例4
実施例1における第2の膜を形成することにおいて、純水の代わりに、元素M1を含む化合物としてSrOの飽和水溶液20mLを混合して反応溶液とした。反応溶液のpHは14であった。この反応溶液を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例4の窒化物蛍光体を得た。実施例4の窒化物蛍光体は、蛍光体コアと、フッ化物を含む第1の膜と、二酸化ケイ素(SiO)を含む第2の膜を有する。
【0087】
比較例1
実施例1における第2の膜を形成することにおいて、エタノールの180mL、塩基性触媒として16.5質量%のアンモニアを含むアンモニア水14.6mLを混合して反応溶液とした。反応溶液のpHは14であった。蛍光体コアの表面にフッ化物を含む第1の膜を備えた焼成物の100gを反応溶液に入れ、撹拌し、反応溶液の液温度を50℃に保った。雰囲気温度は20℃から22℃であった。テトラエトキシシラン(Si(OC)34.7gをA液とし、16.5質量%のアンモニアを含むアンモニア水29ml、純水20mlを混合したB液とした。金属アルコキシドを含む溶液において、元素M2はSiであり、金属アルコキシドを含む溶液は、前述の焼成物の100質量%に対して、SiOが10質量%となるテトラエトキシシラン(Si(OC)を含む。反応溶液を撹拌しながら、A液とB液を反応溶液に150分間かけて滴下した。滴下終了後、反応溶液の液温度を50℃に保って、60分間、反応溶液を撹拌し、塩基性触媒であるアンモニアが存在する状態で、前述の焼成物と金属アルコキシドを含む溶液を接触させ、その後、撹拌を停止して、反応溶液から、Siを含む酸化物(SiO)を含む第2の膜を形成した焼成物を取り出し、防爆乾燥機(株式会社大同工業所製)内で、105℃で3時間、乾燥させて、第2の膜を形成した焼成物を得たこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の窒化物蛍光体を得た。比較例1の窒化物蛍光体は、蛍光体コアと、フッ化物を含む第1の膜と、二酸化ケイ素(SiO)を含む第2の膜を有する。
【0088】
実施例及び比較例の製造方法により得られた各窒化物蛍光体について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。表1において、記号「-」は、該当する項目が存在しないことを表す。
【0089】
発光特性
各窒化物蛍光体について、分光蛍光光度計(QE-2000、大塚電子株式会社製)を用いて、発光ピーク波長が450nmの励起光を照射して、発光スペクトルを測定し、発光スペクトルから、CIE(国際照明委員会)1931色度図の色度座標系における色度座標(x、y)を測定した。
【0090】
中心粒径Dm、標準偏差
各窒化物蛍光体について、レーザー回折散乱法により、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(MASTER SIZER3000、MALVERN社製)を用いて、体積基準の粒度分布において、小径側からの累積頻度が50%の中心粒径(メジアン径)Dmと、標準偏差(σlog)を測定した。
【0091】
組成分析
得られた各窒化物蛍光体について、誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて、ICP発光分析法により、組成分析を行なった。ケイ素(Si)については、組成分析より得られた結果を酸化物換算し、窒化物蛍光体を100質量%としたときの、第2の膜中のSiOの含有量として算出した。フッ素についてはUV-VIS法によりダブルビーム分光光度計(U-2900、株式会社日立ハイテク製)を用いて定量分析を行った。
【0092】
被覆率
実施例及び比較例において、得られた各焼成物、及び、得られた各窒化物蛍光体について、XRF装置(ZSX PrimusII、株式会社リガク製)を用いて、蛍光X線元素分析法(XRF:X-Ray Fluorescence spectrometry)によりSr元素のKα線、又は、Al元素のKα線のピーク強度を測定した。得られた各窒化物蛍光体について、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて任意断面を観察し、画像解析することで酸化物膜の有無を確認した。具体的には、複数の窒化物蛍光体粒子を樹脂に埋め込み、イオンミリング加工により断面試料を作製し、走査電子顕微鏡による窒化物蛍光体粒子の断面観察が可能な状態とし、一定の厚さ以上の酸化物を含む第2の膜が存在するか確認した。そのうえで上述の方法により、被覆率0%の焼成物におけるSr元素のKα線のピーク強度に対するAl元素のKα線のピーク強度から相対強度RIを前記式(3)により算出する。酸化物を含む第2の膜が形成された窒化物蛍光体におけるSr元素のKα線のピーク強度に対するAl元素のKα線のピーク強度の相対強度RIを前記式(4)から算出する。前記式(4’)に示すように、複数の窒化物蛍光体の相対強度RIのうち、最も高い数値の相対強度RIを、酸化物を含む第2の膜の被覆率100%の窒化物蛍光体の相対強度RI100とする。実施例1から4に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体のうち、実施例3の製造方法によって得られた窒化物蛍光体の相対強度RIの数値が最も高いため、実施例3の製造方法によって得られた窒化物蛍光体の相対強度RIを相対強度RI100として、横軸を相対強度RI、縦軸を被覆率(%)として、相対強度RIと相対強度RI100をプロットして、直線を引いた。実施例及び比較例に係る製造方法によって得られた各窒化物蛍光体の相対強度RIを前記式(4)から算出し、各窒化物蛍光体の相対強度RIとRIからRI100の直線が交わる点の各窒化物蛍光体の被覆率(%)を導きだした。
実施例及び比較例で得られた各窒化物蛍光体におけるAl元素のKα線のピーク強度は、第2の膜に含まれるSiの遮蔽の効果を受けるため、被覆率が良いものほど、検出量が弱まる。そのため、焼成物におけるSr元素のKα線のピーク強度に対するAl元素のKα線のピーク強度の相対強度RIと、窒化物蛍光体におけるSr元素のKα線のピーク強度に対するAl元素のKα線のピーク強度の相対強度RI、窒化物蛍光体におけるSr元素のKα線のピーク強度に対するAl元素のKα線のピーク強度の相対強度RIの最大値RI100から被覆率を導き出すことができる。横軸を相対強度RIとし、縦軸を被覆率とした場合、被覆率が高いほど、Al元素のKα線のピーク強度は第2の膜に含まれるSiの遮蔽の効果を受けるため、相対強度RIの数値が大きくなるほど、被覆率は低くなる右下がりの直線となる。
被覆率を導き出すためには、焼成物におけるSr元素のKα線のピーク強度及びAl元素のKα線のピーク強度の他に、Sr元素のLα線のピーク強度から相対強度を算出することもできる。また、窒化物蛍光体におけるSr元素のKα線のピーク強度及びAl元素のKα線のピーク強度の他に、Sr元素のLα線のピーク強度から相対強度を算出することもできる。
【0093】
耐久性評価(色度変化Δx、発光強度維持率(%)、質量増加率(%))
各窒化物蛍光体を、透明な容器に入れ、温度が130℃、相対湿度が100%の環境試験機内に静置し、30時間保管して、耐久性試験(プレッシャークッカーテスト)を行った。耐久性試験後の各窒化物蛍光体について、分光蛍光光度計(QE-2000、大塚電子株式会社製)を用いて、発光ピーク波長が450nmの励起光を照射して、発光スペクトルを測定し、発光スペクトルから、CIE1931色度図の色度座標系における色度座標(x、y)を測定した。耐久性試験前の窒化物蛍光体の色度座量におけるx値を初期値とし、耐久性試験後の窒化物蛍光体のx値の差分の絶対値を色度変化Δxとした。また、耐久性試験前の各窒化物蛍光体の発光スペクトルと、発光スペクトルの縦軸が0となる際の横軸の波長幅とで囲まれた面積で表される発光強度を100%に対する、耐久性試験後の各窒化物蛍光体の発光スペクトルと、発光スペクトルの縦軸が0となる際の横軸の波長幅とで囲まれた面積で表される発光強度の割合を発光強度維持率(%)として表した。また、耐久性試験前の各窒化物蛍光体の質量(g)を100%とし、耐久性試験後の各窒化物蛍光体の質量(g)の増加割合を質量増加率(%)として表した。窒化物蛍光体の質量が増加するほど、窒化物蛍光体の表面に不純物が付着していることを表し、質量増加率が大きいほど、窒化物蛍光体が劣化していることを表す。
【0094】
写真
実施例1に係る窒化物蛍光体の耐久性試験後の外観写真(図8)と、比較例1に係る窒化物蛍光体の耐久性試験後の外観写真(図9)を撮影した。
【0095】
【表1】
【0096】
実施例1から4に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体は、雰囲気温度以下の温度でフッ化物を含む第1の膜を表面に備えた焼成物と、金属アルコキシドを含む溶液とを接触させているので、元素M2を含む酸化物であるSiOを含む第2の膜の被覆率が大きく、得られた窒化物蛍光体の中心粒径Dmが、比較例1に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体よりも大きくなった。
実施例1から4に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体は、温度130℃、相対湿度が100%、30時間の耐久性試験後において、色度変化Δxが0.015以下に抑制されていた。
また、実施例1から4に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体は、耐久性試験後においても、発光強度維持率が60%以上に抑制されており、外部環境による劣化が抑制されていた。
また、実施例1から4に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体は、耐久性試験後も質量増加率が比較例1の質量増加率よりも小さく、不純物の付着による劣化を示す質量増加率が抑制されていた。
実施例3から4に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体は、雰囲気温度よりも10℃以上の差がある5℃の低い温度で焼成物と金属アルコキシドを含む溶液とを接触させているので、比較的遅く反応が進行し、元素M2を含む酸化物を含む膜の被覆率が大きくなったと推測される。実施例3から4に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体は、実施例1から2に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体よりも、色度変化Δxの値が小さくなり、より劣化が抑制され、耐久性がより改善されていた。
【0097】
比較例1に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体は、中心粒径Dmが14μm未満と小さく、窒化物蛍光体の酸化物を含む第2の膜の被覆率が71.5%と小さくなった。比較例1に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体は、不純物の付着による劣化を示す質量増加率が大きくなった。
【0098】
図8は、実施例4に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体71aの耐久性試験後の外観写真である。実施例4に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体71aは、耐久性試験後も外観に変化がなく、耐久性が改善されていた。
【0099】
図9は、比較例1に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体の耐久性試験後の外観写真である。比較例1に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体71aは、耐久性試験後に白くなった部分71dがあり、劣化した窒化物蛍光体71dが確認された。比較例1に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体は、部分的に劣化しているため、耐久性試験後に色度変化Δx及び発光強度維持率を測定することができなかった。
【0100】
SEM画像-反射電子像
得られた実施例1、3及び比較例1に係る窒化物蛍光体をエポキシ樹脂に包埋し、樹脂を硬化させた後に、窒化物蛍光体の断面が露出するように切削し、表面を紙やすりで研磨した後、クロスセクションポリッシャー(CP)で表面を仕上げ、電界放出形走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FE-SEM、製品名:JSM-7800F、日本電子株式会社製)を用いて、実施例1、3、及び比較例1の窒化物蛍光体の断面の反射電子像のSEM写真を得た。図10は、実施例3に係る窒化物蛍光体の断面の反射電子像のSEM写真である。図11は、比較例1に係る窒化物蛍光体の断面の反射電子像のSEM写真である。
【0101】
得られた反射電子像のSEM写真から、実施例1及び3に係る窒化物蛍光体、並びに比較例1に係る窒化物蛍光体を、それぞれ10個ずつ、膜の外周に沿って膜の外周に内接するように描いた閉じた線から導き出される膜の外周長P2、蛍光体コアの外周に沿って蛍光体コアの外周に内接するように描いた閉じた線から導き出される蛍光体コアの外周長Pc、蛍光体コアの外周と直交する方向において、蛍光体コアの外周から最短距離となる膜の外周に内接する様に蛍光体コアの外周を拡大した閉じた線の外周長Psを測定した。膜の外周長P2から膜の外周を真円とした場合の蛍光体コアを含む膜の断面積S2と、蛍光体コアの外周長Pcから蛍光体コアの断面を真円とした場合の蛍光体コアの断面積Scと、外周長Psから、蛍光体コアと膜厚が最も小さい場合の膜とを含み、蛍光体コア及び膜厚が最も小さい場合の膜を真円とした場合の断面積Ssを導き出した。下記式(1)から、窒化物蛍光体の膜の膜厚Tを測定した。また、下記式(2)から、窒化物蛍光体の膜の最小膜厚Tminを測定した。
膜厚T=(S2-Sc)/[(P2+Pc)/2] (1)
最小膜厚Tmin=(Ss-Sc)/[(Ps+Pc)/2] (2)
【0102】
実施例1、3及び比較例1の各窒化物蛍光体をそれぞれ10個ずつ、膜厚T、最小膜厚Tminを測定し、10個の窒化物蛍光体の膜の膜厚T及び最小膜厚Tminの算術平均値、最小値、最大値、標準偏差、中央値を測定した。また、窒化物蛍光体の膜の膜厚Tに対する膜の最小膜厚Tminの膜厚比Tmin/Tと、膜厚比Tmin/Tの平均値、最小値、最大値、標準偏差、中央値を測定した。結果を表2に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
実施例1、3に係る窒化物蛍光体は、膜の膜厚比Tmin/Tの最小値が0.3以上1以下の範囲内であった。実施例1、3に係る窒化物蛍光体は、10個の窒化物蛍光体の膜の膜厚比Tmin/Tの算術平均値が0.45以上1以下であった。実施例1、3に係る窒化物蛍光体は、10個の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの算術平均値は、100nm以上200nm以下の範囲内であった。実施例1、3に係る窒化物蛍光体は、10個の窒化物蛍光体の膜の最小膜厚Tminの算術平均値は、50nm以上100nm以下の範囲内であった。実施例1、3に係る窒化物蛍光体は、10個の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの標準偏差が25nm以下であった。実施例1、3に係る窒化物蛍光体は、10個の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの中央値が100nm以上であった。実施例1、3において、元素M2を含む酸化物であるSiOを含む膜は、蛍光体コアを十分に保護し、前述の耐久性試験に示すとおり、外部環境による窒化物蛍光体の劣化が抑制され、窒化物蛍光体の耐久性が向上されていた。
【0105】
比較例1に係る窒化物蛍光体は、膜の膜厚比Tmin/Tの最小値が0.3未満であった。比較例1に係る窒化物蛍光体は、10個の窒化物蛍光体の膜の膜厚比Tmin/Tの算術平均値が0.45未満であった。比較例1に係る窒化物蛍光体は、10個の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの算術平均値は、100nm未満であった。比較例1に係る窒化物蛍光体は、10個の窒化物蛍光体の膜の最小膜厚Tminの算術平均値は、50nm未満であった。比較例1に係る窒化物蛍光体は、10個の窒化物蛍光体の膜の膜厚Tの標準偏差が25nmを超えていた。比較例1に係る窒化物蛍光体は、膜厚Tの中央値が100nm未満であった。比較例1に係る窒化物蛍光体は、前述のとおり、不純物の付着による劣化を示す質量増加率が大きく、外部環境による窒化物蛍光体の劣化が抑制されていなかった。
【0106】
図10に示すように、実施例3に係る窒化物蛍光体は、蛍光体コアの表面に、蛍光体コアを外部環境から保護するために十分な膜厚を有し、略均一な膜厚の膜が形成されている。
【0107】
図11に示すように、比較例1に係る窒化物蛍光体は、蛍光体コアの表面に膜厚が不均一な膜が形成されている。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本開示の窒化物蛍光体の製造方法によって得られた窒化物蛍光体は、発光装置の波長変換部材に含まれる蛍光体として使用することができ、窒化物蛍光体を含む発光装置は、照明用光源、LEDディスプレイ、液晶用バックライト光源、信号機、照明式スイッチ、各種センサ及び各種インジケータ等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0109】
1:窒化物蛍光体、1a:蛍光体コア、1b:膜、10:発光素子、20、30:リード電極、40:成形体、50:波長変換部材、60:導電性ワイヤ、70:蛍光体、71:第1蛍光体、71a:窒化物蛍光体、71d:劣化した窒化物蛍光体、72:第2蛍光体、100:発光装置、Pc:蛍光体コアの外周長、P2:膜の外周長、Ps:蛍光体コアの外周から最短距離となる膜の外周に内接する外周長。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11