(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092979
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】樹脂部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/16 20060101AFI20240701BHJP
B23K 26/324 20140101ALI20240701BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240701BHJP
【FI】
B29C65/16
B23K26/324
B23K26/21 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】31
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212372
(22)【出願日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2022208375
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】爲本 広昭
(72)【発明者】
【氏名】田岡 亮太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼尾 亮太
【テーマコード(参考)】
4E168
4F211
【Fターム(参考)】
4E168BA13
4E168BA52
4E168BA54
4E168BA56
4E168BA90
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA13
4E168DA32
4E168DA40
4E168EA09
4E168FB05
4F211AA03
4F211AA16
4F211AG01
4F211AG03
4F211AR07
4F211AR12
4F211AR20
4F211TA01
4F211TC08
4F211TD01
4F211TH16
4F211TH21
4F211TH24
4F211TJ21
4F211TN27
(57)【要約】
【課題】添添加剤を用いたり、特殊な処理を行ったりすることなく、効率よく様々な樹脂を接合可能な樹脂部品の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂部品の製造方法は、第1樹脂を含む第1樹脂部材、および第2樹脂を含む第2樹脂部材を準備する工程と、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を、前記第1樹脂部材の第1接合部および前記第2樹脂部材の第2接合部にて、接合する工程と、を含み、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、前記第1接合部に、酸素存在下でピーク波長が350nm以上420nm以下であるレーザ光を照射する。
【選択図】
図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1樹脂を含む第1樹脂部材、および第2樹脂を含む第2樹脂部材を準備する工程と、
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を、前記第1樹脂部材の第1接合部および前記第2樹脂部材の第2接合部にて、接合する工程と、
を含み、
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、
前記第1接合部に、酸素存在下でピーク波長が350nm以上420nm以下であるレーザ光を照射する、
樹脂部品の製造方法。
【請求項2】
前記第1樹脂および前記第2樹脂のいずれか一方が、オレフィン系ポリマーまたはフッ素系ポリマーを含む、
請求項1に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項3】
前記第1樹脂および前記第2樹脂の両方が、オレフィン系ポリマーを含む、または前記第1樹脂および前記第2樹脂の両方が、フッ素系ポリマーを含む、
請求項2に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項4】
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、
前記第1接合部を多光子励起させるように、前記レーザ光を照射する、
請求項1に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項5】
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、前記第2接合部にも、酸素存在下でピーク波長が350nm以上420nm以下であるレーザ光を照射する、
請求項1に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項6】
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、前記第2接合部を多光子励起させるように、前記レーザ光を照射する、
請求項5に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項7】
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程の前に、
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を対向するように配置し、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を互いに押し付けるように押圧することで前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を固定する工程をさらに有し、
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を固定する工程により押圧されている領域から離れた位置にある前記第1接合部に前記レーザ光を照射する、
請求項1に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項8】
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を固定する工程において、押圧されている前記第1樹脂部材の領域と、前記第1接合部との距離は、50μm以上1000μm以下である、
請求項7に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項9】
前記第1接合部の厚さは、10μm以上1500μm以下である、
請求項7に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項10】
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を固定する工程により、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材が押圧されていない領域の、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材の間に空隙を設け、前記空隙を介して、かつ、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を介さずに前記第1接合部に前記レーザ光を照射する、
請求項7に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項11】
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程の前に、
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を対向するように配置し、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を互いに押し付けるように押圧することで前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を固定する第1の固定工程と、
前記第1の固定工程により押圧されている領域から離れた位置にある前記第1接合部の第1領域にレーザ光を照射し、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を固定する第2の固定工程と、をさらに有し、
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を押圧することなく、前記第1接合部の第2領域に前記レーザ光を照射する、
請求項1に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項12】
前記第1の固定工程により、押圧されている前記第1樹脂部材の領域と、前記第1領域との距離は、50μm以上2000μm以下である、
請求項11に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項13】
前記第1領域と、前記第2領域との距離は、50μm以上2000μm以下である、
請求項12に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項14】
前記第2の固定工程における前記レーザ光の照射は、前記レーザ光を走査しながら照射領域を変えて複数回行われる、
請求項11に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項15】
前記第1接合部および前記第2接合部のうち、少なくとも一方が粗面化されている、
請求項1に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項16】
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材は、1つの樹脂部材の異なる部位である、
請求項1に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項17】
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程後の前記樹脂部材が、筒状部を含む、
請求項16に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項18】
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程後の前記樹脂部材が、複数の筒状部を含む、
請求項17に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項19】
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、前記第1接合部と、前記第2接合部とを、距離をあけて配置した状態で、前記第1接合部に前記レーザ光を照射した後、前記第1接合部および前記第2接合部を接触させる、
請求項1に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項20】
前記レーザ光の、前記第1接合部の表面におけるビーム径が、200μm以上500μm以下である、
請求項19に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項21】
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、前記第1接合部および前記第2接合部を接触させた後、前記第1接合部および前記第2接合部の界面に前記レーザ光を照射する、
請求項1に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項22】
前記レーザ光の、前記第1接合部および前記第2接合部の界面におけるビーム径が200μm以上500μm以下である、
請求項21に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項23】
前記第1樹脂がオレフィン系ポリマーを含み、
前記レーザ光は、ピーク波長が350nm以上390nm未満であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が0.45kW/cm2以上である第1レーザ光を含む、
請求項2に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項24】
前記第1樹脂がオレフィン系ポリマーを含み、
前記レーザ光は、ピーク波長が390nm以上420nm以下であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が0.85kW/cm2以上である第2レーザ光を含む、
請求項2に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項25】
前記第1樹脂がオレフィン系ポリマーを含み、
前記レーザ光は、
ピーク波長が350nm以上390nm未満であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が0.45kW/cm2以上である第3レーザ光と、
ピーク波長が390nm以上420nm以下であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が0.45kW/cm2以上である第4レーザ光と、
を含む、
請求項2に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項26】
前記第3レーザ光の照射および前記第4レーザ光の照射を同時に行う、
請求項25に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項27】
前記第1樹脂がフッ素系ポリマーを含み、
前記レーザ光は、ピーク波長が350nm以上390nm未満であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が0.45kW/cm2以上である第6レーザ光を含む、
請求項2に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項28】
前記第1樹脂がフッ素系ポリマーを含み、
前記レーザ光は、ピーク波長が390nm以上420nm以下であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が1.64kW/cm2以上である第7レーザ光を含む、
請求項2に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項29】
前記第1樹脂がフッ素系ポリマーを含み、
前記レーザ光は、
ピーク波長が350nm以上390nm未満であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が0.45kW/cm2以上である第8レーザ光と、
ピーク波長が390nm以上420nm以下であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が1.69kW/cm2以上である第9レーザ光と、
を含む、
請求項2に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項30】
前記第8レーザ光と、前記第9レーザ光の照射を同時に行う、
請求項29に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項31】
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、ピーク波長が420nm超460nm以下である第5レーザ光をさらに照射する、
請求項23~30のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂部品は、さまざまな用途で用いられる。このような樹脂部品の製造の際には、樹脂どうしを接合すること等が求められる。
【0003】
ここで、樹脂どうしを接合する方法として、レーザ光を用いた接合方法が挙げられる。しかしながら、例えばポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系ポリマーや、フッ素を含むフッ素系ポリマー等、樹脂の種類によっては、レーザ光による接合が難しい。例えば、オレフィン系ポリマーやフッ素系ポリマーは、主に-C-C-結合、-C-H結合、-C-F結合で構成され、発色団を有さない。さらに、これらの結合は強固なσ(シグマ)結合であり、他の樹脂等と新たな結合を形成し難い。また、σ結合は、エネルギー照射によって(σ,σ*)遷移が生じるが、遷移のためには通常、深紫外または真空紫外領域の光(例えば波長300nm以下の光)の照射が必要である。
【0004】
加えて、(σ,σ*)遷移では、結合に直接関与している電子が、結合性σ軌道から反結合性σ*軌道に遷移する。そのため、遷移状態において結合解離が生じやすい。また、
(σ,σ*)遷移状態のポテンシャルエネルギー曲面と解離型のポテンシャルエネルギー曲面とが極めて近いか、交差していること等からも、結合解離が生じやすい。
【0005】
さらに、樹脂に短波長域のレーザ光を照射すると、樹脂の状態が不安定になりやすい。例えば上記樹脂に波長300nm以下のレーザ光を照射すると、ランダムな結合開裂が誘起され、レーザ光の照射領域にダメージが発生することがある。その結果、レーザ光による接合領域で、樹脂部品の強度が低下したり、変色が発生したりする可能性がある。また、波長300nm以下のような短波長で発振するレーザ光はエキシマレーザやNd3+:YAGレーザの第三高調波光である。これらのレーザ光はパルス発振レーザ光であり高価で装置も大型になりやすい。さらに、波長300nm以下のパルス発振レーザ光は樹脂へのダメージになりやすい。
【0006】
特許文献1には、フッ素系ポリマーを含む樹脂部材と、金属を含む金属部材とを接合するため、樹脂部材の表面にナトリウムを含む混合溶液を塗布し、その塗布面にレーザ光を照射することが記載されている。当該方法では、ナトリウムによって樹脂部材を改質した後、当該樹脂部材および金属部材の当接部にさらにレーザ光を照射して、これらを接合している。
【0007】
また、特許文献2には、樹脂部材どうしを接合するために、樹脂を光酸化処理(例えばUVオゾン処理やエキシマ処理)することが記載されている。当該方法では、光酸化処理した樹脂を重ね合わせて、紫外レーザ光や超短パルスのレーザ光をさらに照射することで、これらを接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-123153号公報
【特許文献2】特開2013-119111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の接合方法や、特許文献2に記載の接合方法では、レーザ光照射の前に、樹脂部材をナトリウムや、オゾン等によって処理する必要がある。そのため、前処理のための装置が必要であり、コストや手間もかかる。さらに、食品包装用途や精密機械のための樹脂部品では、添加剤の溶出等が厳しく制限される。したがって、特許文献1のように添加剤を使用して接合した樹脂部品は、その用途が限定される。
【0010】
本発明は、添加剤を用いたり、特殊な処理を行ったりすることなく、効率よく様々な樹脂を接合可能な樹脂部品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の樹脂部品の製造方法を提供する。
第1樹脂を含む第1樹脂部材、および第2樹脂を含む第2樹脂部材を準備する工程と、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を、前記第1樹脂部材の第1接合部および前記第2樹脂部材の第2接合部にて、接合する工程と、を含み、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、前記第1接合部に、酸素存在下でピーク波長が350nm以上420nm以下であるレーザ光を照射する、樹脂部品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂部品の製造方法では、添加剤を用いたり、特殊な処理を行ったりすることなく、簡便な方法で効率よく各種樹脂どうしを接合することが可能である。したがって、種々の樹脂部材を接合して、所望の樹脂部品を製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】
図1Aは、第1の実施形態に係る樹脂部品の製造方法の準備工程を説明するための図である。
【
図1B】
図1Bは、第1の実施形態に係る樹脂部品の製造方法の固定工程を説明するための図である。
【
図1C】
図1Cは、第1の実施形態に係る樹脂部品の製造方法の接合工程を説明するための図である。
【
図1D】
図1Dは、第1の実施形態に係る樹脂部品の製造方法の接合工程を説明する正面図である。
【
図1E】
図1Eは、第1の実施形態に係る樹脂部品の製造方法の接合工程を説明する正面図である。
【
図1F】
図1Fは、第1の実施形態に係る樹脂部品の製造方法の接合工程を説明する正面図である。
【
図1G】
図1Gは、第1の実施形態に係る樹脂部品の製造方法の接合工程を説明するための模式図であり、第1樹脂部材および第2樹脂部材の界面を第2樹脂部材側から観察したときの模式図である。
【
図2】
図2A~
図2Dは、第2の実施形態に係る樹脂部品の製造方法を説明するための図である。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bは、第2の実施形態において、レーザ光を照射する領域を説明するための図である。
【
図4】
図4Aおよび
図4Bは、第2の実施形態において、レーザ光を照射する領域を説明するための図である。
【
図5】
図5Aおよび
図5Bは、第3の実施形態に係る樹脂部品の製造方法を説明するための図である。
【
図6】
図6Aおよび
図6Bは、第3の実施形態において、レーザ光を照射する領域を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、第1樹脂部材および第2樹脂部材を接合して樹脂部品を製造する方法に関し、樹脂部品を接合する際には、第1接合部酸素存在下でピーク波長が350nm以上420nm以下であるレーザ光を照射する。
【0015】
前述のように、従来、樹脂の種類によっては、樹脂部材どうしをレーザ光の照射のみによって接合することが難しく、レーザ光を照射する前に、添加剤を塗布したり、オゾン処理したりすることが行われてきた。
【0016】
しかしながら、本発明者らの鋭意検討によれば、酸素存在下で樹脂部材(第1接合部)にピーク波長350nm以上420nm以下のレーザ光を集光照射すると、添加剤の塗布や、オゾン処理等を行わなくても、樹脂どうしの接合が可能になること、さらに樹脂部材を多光子励起させると、樹脂どうしの接合をさらに容易に行うことができることが明らかとなった。本明細書における「多光子励起」とは、一つの分子や一つのモノマーユニットに複数の光子を略同時に吸収させ、入射波長より短い波長と同等の励起効果を誘起するこという。本発明の方法では、通常二光子励起が生じる。例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等は波長250nm以上に電子遷移に基づく光吸収帯は持たない。また、フッ素樹脂も、波長300nm以上に電子遷移に基づく光吸収帯は持たない。しかしながら、本発明によれば、これらの樹脂を含む樹脂部材も接合可能である。つまり、樹脂がピーク波長350nm以上420nm以下のレーザ光を吸収しており、これらの樹脂において、多光子励起(二光子励起)が生じているといえる。
【0017】
上記多光子励起が生じると、樹脂部材どうしの接合が可能になる理由は、以下のように考えられる。所定の出力密度でピーク波長350nm以上420nm以下のレーザ光を集光照射すると、樹脂部材が多光子励起される。このとき、雰囲気中に酸素が存在すると、多光子励起された樹脂部材と、当該酸素とが反応する。そして、当該結合によって、樹脂部材が通常吸収を有さない波長(例えば波長350nm以上420nm以下)にも新たな吸収帯が生じる。したがって、樹脂部材がさらにレーザ光を吸収しやすくなる。その結果、樹脂部材が昇温して溶融したり、化学結合の部分的な開裂を起こしたりすることで、他の樹脂と絡み合ったり、新たな結合を形成したりする。これにより、樹脂部材どうしが接合される。
【0018】
以下、樹脂部品の製造方法の具体的な3つの実施形態について、それぞれ説明する。ただし、本発明の樹脂部品の製造方法は、これらの実施形態に限定されない。
【0019】
(1)第1の実施形態
本実施形態の部品の製造方法を、
図1A~
図1Cを用いて説明する。まず、
図1Aに示すように、第1樹脂を含む第1樹脂部材11、および第2樹脂を含む第2樹脂部材12を準備する(準備工程)。次いで、
図1Bに示すように、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を互いに対向するように配置し、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を治具110等により、互いに押し付けるように押圧し、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を固定する(固定工程)。さらに、
図1Cに示すように、上記固定工程によって押圧された領域(
図1Bにおいて、13で示される領域)から離れた位置にある第1接合部11aに、酸素存在下、ピーク波長が350nm以上420nm以下であるレーザ光100を照射し、第1接合部11aおよび第2接合部12aを接合する(接合工程)。なお、本実施形態の樹脂部品の製造方法は、必要に応じて他の工程を含むことができる。
【0020】
ここで、本明細書における第1樹脂部材11の第1接合部11aとは、第1樹脂部材11のうち、第2樹脂部材12と接合するための領域をいう。同様に、第2樹脂部材12の第2接合部12aとは、第2樹脂部材のうち、第1樹脂部材と接合するための領域をいう。また、本明細書において、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12は、それぞれが独立した1つの樹脂部材であってもよく、それぞれが1つの樹脂部材のうちの異なる部位であってもよい。
【0021】
例えば、熱圧着によって樹脂部材どうしを接合する場合、樹脂部材どうしを互いに押し付けた状態で接合する領域に圧力を加えるため、接合した領域の厚みが薄くなって樹脂部材どうしが固定される。その結果、得られる樹脂部品、特に接合部の強度が低くなることがある。また、樹脂部材どうしをレーザ光照射によって接合する場合において、樹脂部材どうしを互いに押し付けた状態でレーザ光を照射することができる。この場合においても、樹脂部材どうしを押し付けた状態でレーザ光を照射すると、接合した領域の厚みが薄いまま固定され、得られる樹脂部品、特に接合部の強度が低くなることがある。これに対し、本実施形態では、
図1Bに示すように、固定工程で押圧される領域(以下、「被押圧領域」とも称する)13と、第1接合部11aおよび第2接合部12aの位置が離れている。したがって、第1接合部11aにレーザ光100を照射し、第1接合部11aおよび第2接合部12aを接合しても、第1接合部11aや第2接合部12aの厚みが薄くなり難く、強度の高い樹脂部品が得られる。
以下、本実施形態の各工程について説明する。
【0022】
・準備工程
本実施形態の準備工程では、第1樹脂を含む第1樹脂部材11と、第2樹脂を含む第2樹脂部材12とを準備する。本実施形態で使用する第1樹脂部材および第2樹脂部材の種類は特に制限されず、公知の樹脂を用いることができる。また、第1樹脂および第2樹脂は、同一種類の樹脂であってもよく、異なる種類の樹脂であってもよい。ただし、上記のように、オレフィン系ポリマーおよびフッ素系ポリマーは、一般的なレーザ光照射によって、接合し難い。そこで、第1樹脂および第2樹脂のうち、いずれか一方が、オレフィン系ポリマーまたはフッ素系ポリマーを含むことが好ましく、第1樹脂および第2樹脂の両方が、オレフィン系ポリマーを含む、または第1樹脂および第2樹脂の両方が、フッ素系ポリマーを含むことがより好ましい。
【0023】
本明細書でいう「オレフィン系ポリマー」とは、オレフィン由来の構成単位の量が、当該オレフィン系ポリマーの構成単位の総モル数に対して50モル%以上であるポリマーをいい、好ましくは、70モル%以上であるポリマーをいう。また、オレフィンとは、脂肪族不飽和炭化水素を表し、オレフィンの例には、エチレン、および炭素数が3以上24以下のα-オレフィン等が含まれる。
【0024】
オレフィン系ポリマーの具体例には、ポリエチレン(超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等を含む)、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のオレフィン単独重合体;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・ヘキセン共重合体、エチレン・オクテン共重合体等のエチレン系共重合体;プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・ブテン共重合体等のプロピレン系共重合体;等が含まれる。ただし、オレフィン系ポリマーはこれらに限定されず、例えば3種以上のオレフィンの共重合体とすることができる。さらに、エチレンやα-オレフィン以外の単量体由来の構成単位を一部に含むことができる。上記の中でも、加工性や、樹脂部品の汎用性等の観点で、ポリエチレンまたはポリプロピレンが特に好ましい。
【0025】
なお、第1樹脂および第2樹脂の両方がオレフィン系ポリマーを含む場合、第1樹脂が含むオレフィン系ポリマーの種類と、第2樹脂が含むオレフィン系ポリマーの種類とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。種類が異なっていたとしても、オレフィン系ポリマーどうしであれば親和性が高く、後述の接合工程によって接合しやすい。
【0026】
一方、本明細書における「フッ素系ポリマー」とは、フッ素を分子中に含有するポリマーをいう。フッ素系ポリマーの例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)等が含まれる。これらの中でも、汎用性や加工性等の観点で、ポリテトラフルオロエチレンが特に好ましい。なお、第1樹脂および第2樹脂の両方がフッ素系ポリマーを含む場合、第1樹脂が含むフッ素系ポリマーの種類と、第2樹脂が含むフッ素系ポリマーの種類とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。種類が異なっていたとしても、フッ素系ポリマーどうしであると親和性が高く、後述の接合工程によって接合しやすい。
【0027】
なお、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12は、第1樹脂や第2樹脂の他に、本実施形態の目的および効果を損なわない範囲において、着色料や各種添加剤等をさらに含むことができる。
【0028】
また、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の形状は特に制限されず、所望の樹脂部品の種類等に応じて適宜選択される。例えば板状やフィルム状等であってもよく、各種立体形状を有していてもよい。第1樹脂部材11の第1接合部11aおよび第2樹脂部材12の第2接合部12aの形状も特に制限されず、所望の樹脂部品の形状や構造に合わせて適宜選択される。ただし、上述のように、第1接合部11aおよび第2接合部12aのうちいずれか一方、もしくは両方が薄い場合に樹脂部品の接合部の強度が低くなりやすい。そこで、第1接合部11aおよび/または第2接合部12aの厚さが10μm以上1500μm以下である場合に、本実施形態は特に有効である。特に、第1接合部11aおよび/または第2接合部12aの厚さが好ましくは300μm以下、さらに好ましくは150μm以下である場合に、本実施形態はより有用である。
【0029】
第1樹脂部材11は、その全体が第1接合部11aと同じ厚さであってもよく、部分的に異なる厚さであってもよい。同様に、第2樹脂部材12は、その全体が第2接合部12aと同じ厚さであってもよく、部分的に異なる厚さであってもよい。第1接合部11aと第2接合部12aは、同じ厚さであってもよく、異なる厚さであってもよい。
【0030】
第1樹脂部材11および第2樹脂部材12のレーザ光100に対する透光性は、後述の接合工程におけるレーザ光100の照射方法に応じて適宜選択される。例えば、後述の接合工程において、第1樹脂部材11や第2樹脂部材12を介してレーザ光100を照射する場合には、第1樹脂部材11や第2樹脂部材12が、レーザ光に対して透光性を有することが好ましい。この場合、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12のレーザ光100に対する透光率は、例えば、40%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。一方、第1樹脂部材11や第2樹脂部材12を介さずにレーザ光100を照射する場合には、第1樹脂部材11や第2樹脂部材12は、レーザ光100に対して透光性を有していなくてよい。
【0031】
・固定工程
固定工程では、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を対向するように配置し、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を互いに押し付けるように押圧することで、第1樹脂部材11および前記第2樹脂部材12を固定する。
【0032】
第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を押圧し、固定する方法は特に制限されず、
図1Bに示すように、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を治具110によって挟み込む方法を用いることができる。また、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12のいずれか一方を固定し、他方の部材を一方の部材に向けて押圧する方法等であってもよい。第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を押圧する治具110の種類や形状は特に制限されない。
【0033】
なお、本実施形態によって押圧される被押圧領域13の位置は特に制限されない。例えば、第1樹脂部材11(または第2樹脂部材12)を平面視し、第1接合部11a(または第2接合部12a)を挟んだ2つの領域の両方に被押圧領域13を設けることができる。ただし、
図1Bに示すように、第1接合部11aを間に挟んだ2つの領域の一方のみに被押圧領域13を設けることが好ましい。第1接合部11aを間に挟んだ2つの領域の一方のみに被押圧領域13を設けると、後述の接合工程において、第1樹脂部材11や第2樹脂部材12を介さずにレーザ光100を照射することが可能となる。
【0034】
また、被押圧領域13の形状は特に制限されず、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の位置がずれないように、これらを固定可能であればよい。第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の形状や、第1樹脂や第2樹脂の種類に合わせて適宜選択される。被押圧領域13の形状は、例えば
図1Bに示すように、矩形状であってもよく、格子状等であってもよい。
【0035】
なお、被押圧領域13の面積は第1樹脂部材11や第2樹脂部材12の形状に応じて適宜選択される。被押圧領域13の面積は、例えば、第1樹脂部材11または第2樹脂部材12の平面視における面積の10%以上80%以下である。被押圧領域13の面積がこのような値であると、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12に加わる圧力が局所的になりにくいため第1樹脂部材11および第2樹脂部材12に押圧跡が残り難く、さらに第1樹脂部材11や第2樹脂部材12を固定しやすい。
【0036】
本実施形態において、被押圧領域13の第1接合部11a側の端部から、第1接合部11aまでの距離、50μm以上1000μm以下が好ましく、100μm以上800μm以下がより好ましい。上記距離が50μm以上であると、後述の接合工程においてレーザ光100を照射する際、被押圧領域13と第1接合部11aとの距離を十分にとることができるため第1接合部11aの厚みが薄くなり難い。一方、上記距離が1000μm以下であると、後述の接合工程を行う際に、被押圧領域13と第1接合部11aとの距離が離れすぎないため、正確な位置にレーザ光100を照射可能である。その結果、より高品質な樹脂部品が得られやすくなる。なお、被押圧領域13の第2接合部12a側の端部から、第2接合部12aまでの距離も同様である。
【0037】
また、本工程において、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を押圧し、固定する力は、第1樹脂部材11や第2樹脂部材12の種類や形状に応じて適宜選択される。例えば、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を押圧し、固定する力は、1N以上100N以下が好ましい。このような値とすることで、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を固定しつつ、押圧力が大きすぎることで被押圧領域13以外の領域、例えば、第1接合部11aまでも薄くなってしまうことを低減できる。
【0038】
・接合工程
接合工程では、上記固定工程による押圧を維持した状態で、第1樹脂部材11の被押圧領域13から離れた位置にある第1接合部11aに、レーザ光100を照射する。レーザ光100のピーク波長は350nm以上420nm以下とし、かつその照射は、酸素存在下で行う。本明細書における「酸素存在下」とは、レーザ光の焦点位置近傍に酸素が存在することをいい、例えば、レーザ光の焦点位置近傍が大気雰囲気である場合やオゾン雰囲気である場合を意味する。
【0039】
本実施形態において、レーザ光100をいずれの方向から照射するかは、特に制限されず、例えば後述の
図2Bに示すように、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を重ねた状態で、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12のうち、いずれか一方の側から第1樹脂部材11または第2樹脂部材12を介してレーザ光100を照射することができる。ただし、
図1Cに示すように、第1樹脂部材11および前記第2樹脂部材12の被押圧領域13以外の領域の間に空隙を設け、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を介さずに、空隙を介して第1接合部11aにレーザ光100を照射することが好ましい。換言すると、レーザ光100が、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の内部を通過せずに、第1接合部11aに照射されることが好ましい。第1樹脂部材11や第2樹脂部材12を介さずにレーザ光100を照射すると、接合領域以外の第1樹脂部材11や第2樹脂部材12にレーザ光が吸収されることによるレーザ光100のエネルギーのロスが少なくなる。その結果、効率よく、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を接合できる。さらに、当該方法では、第1接合部11aの周囲に空気が存在することで、酸素が多い状態で、レーザ光100の照射を行うため、第1樹脂と、周囲にある酸素とが効率よく反応する。したがって、第1接合部11aのレーザ光の吸収効率が高まりやすく、ひいては第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の接合強度が高まりやすい。さらに、第1樹脂部材11や第2樹脂部材12が、レーザ光100に対する透光性を有さない場合にも、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を接合できる。
【0040】
なお、本工程では、少なくとも第1樹脂部材11の第1接合部11aにレーザ光100を照射すればよい。これに加えて、第2樹脂部材12の第2接合部12aにも、レーザ光100を照射することができる。第2接合部12aに照射するレーザ光100は、第1接合部11aに照射するレーザ光100と同一であってもよく、異なっていてもよい。また、第1接合部11aおよび第2接合部12aに同時にレーザ光100を照射してもよく、順にレーザ光100を照射してもよい。
【0041】
また、レーザ光100の走査方向は、第1接合部11aや第2接合部aの形状、さらには所望の樹脂部品の構造等に応じて適宜選択される。本実施形態では、
図1Cの紙面手前から紙面後方に向かうように略直線状にレーザ光100を走査しているが、当該走査方向に限定されない。
【0042】
第1接合部11aや第2接合部12aに照射するレーザ光100のビーム径は特に制限されないが、第1接合部11aや第2接合部12aの表面において、200μm以上500μm以下が好ましく、200μm以上400μm以下がより好ましい。レーザ光100のビーム径が当該範囲であると、レーザ光100の出力密度を高くしやすくでき、第1樹脂や第2樹脂を多光子励起させやすくなる。
【0043】
また、レーザ光100の出力密度は、第1樹脂部材11や第2樹脂部材12の種類、レーザ光100のピーク波長等に応じて適宜選択され、第1樹脂や第2樹脂を多光子励起させるように調整することが好ましい。
具体的には、以下の3つの態様が挙げられる。
(i)ピーク波長が350nm以上390nm未満であるレーザ光を照射し、ピーク波長390nm以上420nm以下のレーザ光は照射しない態様
(ii)ピーク波長が390nm以上420nm以下であるレーザ光を照射し、ピーク波長が350nm以上390nm未満であるレーザ光は照射しない態様
(iii)ピーク波長が350nm以上390nm未満のレーザ光と、ピーク波長が390nm以上420nm以下のレーザ光とを組み合わせる態様
【0044】
例えば、第1樹脂がオレフィン系ポリマーを含み、かつ(i)の態様とする場合、第1接合部11a表面における出力密度が0.45kW/cm2以上のレーザ光(以下、「第1レーザ光」とも称する)を少なくとも照射することが好ましい。なお、第1接合部11a表面における出力密度は、レーザ光照射装置の設定出力の値を、レーザ光が集光した領域の面積で割ることにより特定できる。レーザ光が集光した領域の面積は、レーザ光のビーム径から算出できる。また、本明細書における出力密度の算出の際には、第1樹脂部材11や第2樹脂部材12によるレーザ光の吸収等は、勘案しない。当該第1レーザ光によれば、第1樹脂部材11中のオレフィン系ポリマーの多光子励起を行うことが可能である。
【0045】
このとき、第1レーザ光と共に、ピーク波長420nm超460nm以下のレーザ光(以下「第5レーザ光」とも称する)を同じ領域に照射することができる。一般的に、オレフィン系ポリマーは、波長420nm超に吸収を有さない傾向があるが、多光子励起されたオレフィン系ポリマーが酸素と反応することによって、波長420nm超の光も吸収しやすくなる。一方で、ピーク波長が350nm以上390nm未満であるレーザ光を単独で照射する場合、レーザ光の出力密度は、0.7kW/cm2以上がより好ましい。
【0046】
また、第1樹脂がオレフィン系ポリマーを含み、かつ(ii)の態様とする場合、ピーク波長が390nm以上420nm以下であり、かつ第1接合部11a表面における出力密度が0.85kW/cm2以上のレーザ光(以下、「第2レーザ光」とも称する)を照射することが好ましい。当該第2レーザ光によれば、第1樹脂部材11中のオレフィン系ポリマーの多光子励起を行うことが可能である。また、この場合においても、第2レーザ光と共に、ピーク波長が420nm超460nm以下の第5レーザ光を同じ領域に照射することができる。一方、ピーク波長が390nm以上420nm以下であるレーザ光を単独で照射する場合、レーザ光の出力密度は、1.13kW/cm2以上がより好ましい。
【0047】
さらに、第1樹脂がオレフィン系ポリマーを含み、かつ(iii)の態様とする場合、ピーク波長が350nm以上390nm未満であり、かつ第1接合部11a表面における出力密度が0.45kW/cm2以上であるレーザ光(以下、「第3レーザ光」とも称する)と、ピーク波長が390nm以上420nm以下であり、かつ第1接合部11a表面における出力密度が0.45kW/cm2以上であるレーザ光(以下、「第4レーザ光」とも称する)と、を同じ領域に照射することが好ましい。なお、第3レーザ光および第4レーザ光の照射タイミングおよび照射時間は同一であってもよく、異なっていてもよい。ただし、第3レーザ光および第4レーザ光を同時に同じ領域に照射することが好ましく、少なくとも一定時間、第3レーザ光および第4レーザ光の両方を同じ領域に照射することが好ましい。また、この場合においても、第3レーザ光および第4レーザ光と共に、ピーク波長420nm超460nm以下の第5レーザ光を同じ領域に照射することができる。
【0048】
一方、第1樹脂がフッ素系ポリマーを含み、かつ(i)の態様とする場合、ピーク波長が350nm以上390nm未満であり、かつ第1接合部11a表面における出力密度が0.45kW/cm2以上のレーザ光(以下、「第6レーザ光」とも称する)を少なくとも照射することが好ましい。当該第6レーザ光によれば、第3樹脂部材中のフッ素系ポリマーの多光子励起を行うことが可能である。なお、このとき、第6レーザ光と共に、ピーク波長420nm超460nm以下のレーザ光(上記第5レーザ光)を同じ領域に照射することができる。一般的に、フッ素系ポリマーは、波長420nm超に吸収を有さない傾向があるが、上述の多光子励起されたフッ素系ポリマーが酸素と反応することにより、波長420nm超の光も吸収しやすくなる。一方で、ピーク波長が350nm以上390nm以下であるレーザ光を単独で照射する場合、レーザ光の出力密度は、0.9kW/cm2以上がより好ましい。
【0049】
また、第1樹脂がフッ素系ポリマーを含み、かつ(ii)の態様とする場合、ピーク波長390nm以上が420nm以下であり、かつ第1接合部11a表面における出力密度が1.64kW/cm2以上のレーザ光(以下、「第7レーザ光」とも称する)を照射することが好ましい。当該第7レーザ光によれば、第1樹脂部材11中のフッ素系ポリマーの多光子励起を行うことが可能である。また、この場合においても、第7レーザ光と共に、ピーク波長が420nm超460nm以下の第5レーザ光を同じ領域に照射することができる。一方、ピーク波長が390nm以上420nm以下であるレーザ光を単独で照射する場合、レーザ光の出力密度は、2.2kW/cm2以上がより好ましい。
【0050】
さらに、第1樹脂がフッ素系ポリマーを含み、かつ(iii)の態様とする場合、ピーク波長が350nm以上390nm未満であり、かつ第1接合部11a表面における出力密度が0.45kW/cm2以上であるレーザ光(以下、「第8レーザ光」とも称する)と、ピーク波長が390nm以上420nm以下であり、かつ第1接合部11a表面における出力密度が1.69kW/cm2以上であるレーザ光(以下、「第9レーザ光」とも称する)と、を同じ領域に照射することが好ましい。なお、第8レーザ光および第9レーザ光の照射タイミングおよび照射時間は同一であってもよく、異なっていてもよい。ただし、第8レーザ光および第9レーザ光を同時に同じ領域に照射することが好ましく、少なくとも一定時間、第8レーザ光および第9レーザ光の両方を同じ領域に照射することが好ましい。またこの場合においても、第8レーザ光および第9レーザ光と共に、ピーク波長420nm超460nm以下の第5レーザ光を同じ領域に照射することができる。
【0051】
ここで、上記第1レーザ光から第9レーザ光のいずれも、連続発振のレーザ光であってもよく、パルス発振のレーザ光であってもよい。所望の領域に連続的にレーザ光を照射可能であるとの観点では、連続発振のレーザ光がより好ましい。また、連続発振のレーザ光を用いることで、パルス発振のレーザ光を用いる場合と比較して、樹脂部材へのダメージを低減しやすい。
【0052】
また、2つ以上のピーク波長のレーザ光を照射する場合には、それぞれ同軸方向から照射してもよく、異なる方向から照射してもよい。また、上記レーザ光の照射は、公知のレーザ光源を備えたレーザ光照射系を含むレーザ光照射装置によって行うことができる。
【0053】
上記レーザ光の照射時間は、レーザ光の発振方法等に応じて適宜選択され、例えば、1秒以上3秒以下が好ましい。1秒以上であると、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を強固に接合できる。一方、3秒以下であると、効率よく樹脂部品を製造しつつ、レーザ光による樹脂へのダメージを低減できる。
【0054】
レーザ光を出射するレーザ光源と、照射対象物である第1樹脂部材11および第2樹脂部材とは、相対的に位置を移動させながらレーザ光を照射する。レーザ光の光軸は、第1樹脂部材11や第2樹脂部材の表面(第1接合部11aや第2接合部21a)に対して、垂直な角度または傾斜した角度で照射することができる。相対的に両者を移動させる場合の移動速度は、例えば、0.05mm/s以上150mm/s以下とすることができる。
【0055】
ここで、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の間に空隙を設けてレーザ光100の照射を行う場合、第1接合部11a(必要に応じてさらに第2接合部12a)にレーザ光100を照射した後、第1接合部11aおよび第2接合部12aを重ね合わせる。レーザ光100を照射してから、第1接合部11aおよび第2接合部12aの接触までの時間は、3秒以下が好ましく、1秒以下がさらに好ましい。上記時間が3秒以下であると、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を強固に接合可能となる。このとき、第1接合部11aおよび第2接合部12aのいずれか一方の厚みが薄い場合には、第1接合部11aおよび第2接合部12aを過度に押圧しないことが好ましい。一方で、第1接合部11aおよび第2接合部12aの厚みが厚い場合には、これらを押圧し、接合強度を高めることができる。
【0056】
また、上記第1樹脂部材11および第2樹脂部材12が接合された接合領域には、第1樹脂部材11がレーザ光100によって改質された改質領域(図示せず)が形成される。改質領域の幅(レーザ光を照射した方向から観察したときの、改質領域の短手方向の長さ)は通常、300μm以下となる。当該改質領域の幅は、第1樹脂部材11側または第2樹脂部材12側から、接合領域を観察したり、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を剥離して、剥離面を観察することによって確認できる。
【0057】
また、第1樹脂部材11がオレフィン系ポリマーである場合には、当該改質領域をラマン分光法で分析すると、3100cm-1以上3800cm-1以下の間に、ピークが観察される。当該ピークは、オレフィン系ポリマーが酸素と反応することによって生じた結合に由来すると考えられる。また、1500cm-1以上2500cm-1以下にもピークが観測されるが、これらは-C-C-三重結合や二重結合に起因するものと考えられ、光吸収の結果生じた結合開裂を示していると考えられる。
【0058】
また、第1樹脂部材11がフッ素系ポリマーである場合にも、第1樹脂部材11に上記と同様のレーザ光100によって改質された改質領域(図示せず)が形成される。なお、当該改質領域をラマン分光法で分析すると、1500cm-1以上4000cm-1以下に、ラマン散乱信号が観察される。当該ラマン散乱信号は、フッ素系ポリマーが酸素と反応することによって生じたOH結合に由来すると考えられる。
【0059】
なお、
図1Cに示す例では、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の両方を、被押圧領域13以外の領域において互いに離れる方向に湾曲させることで、被押圧領域13以外の領域の間に空隙を設けている。ただし、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12とは、いずれか一方のみ湾曲させることで、被押圧領域13以外の領域に空隙を設けてもよい。
【0060】
このように第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を湾曲させる方法としては、例えば、
図1Dに示すように、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の被押圧領域13(下部)を治具110により押圧しながら、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の上部をそれぞれ把持する把持部材17等によって、治具110による押圧方向と反対方向に引き離す方法が挙げられる。把持部材17としては、
図1Dに示すように、可動式の2つの部材で挟むチャック機能を備えた把持部材が挙げられる。また、把持部材17の別の例としては、第1樹脂部材11又は第2樹脂部材12の上部を巻き付けることが可能な機能を備えたロール状の把持部材が挙げられる。あるいは、第1樹脂部材11又は第2樹脂部材12に貫通孔部、有底凹部、又は、鉤状部等を備える場合、それらの部分を係止可能なピンを備えた把持部材が挙げられる。これにより、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12のいずれか一方又は両方を、互いに離れる方向に湾曲させた状態を維持することができる。第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を把持する領域は、第1接合部11aが空気と接することが可能な状態となるように第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を湾曲させることが可能な位置であればよい。また把持せず、単に押圧してこれらを湾曲させてもよい。
【0061】
また、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を湾曲させる方法としては、
図1Eに示すように、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の被押圧領域13(下部)を治具110により押圧しながら、第1樹脂部材11と第2樹脂部材12の上部に、スペーサ18を配置する方法が挙げられる。スペーサ18が、レーザ光100に対する透光性を備えない場合は、スペーサ18をレーザ光100が照射されない位置に配置する。スペーサ18が、レーザ光100に対する透光性を備える場合は、スペーサ18をレーザ光100が照射される位置にスペーサを配置してもよく、あるいは、レーザ光100が照射されない位置にスペーサを配置してもよい。スペーサ18の形状は、例えば、球状、立方体状、直方体状、円柱状、半円柱状、多角形状、円筒状、多角等状およびこれらを組み合わせた形状等とすることができる。スペーサ18がレーザ光100に対する透光性を備える場合は、スペーサ18として光を集光又は分光する機能を備えた形状のものとすることができる。例えば、凸レンズ状、凹レンズ状等のレンズ状とすることで、スペーサによりレーザ光100を集光することができる。また、三角柱状等のプリズム形状とすることで、レーザ光100を分光させることができる。ここで、
図1Eに示すスペーサは、断面形状が円形であり、レーザ光100が照射される第1接合部および第2接合部から離れた位置に配置されている。これにより第1樹脂部材11および第2樹脂部材が隣接する領域のうち、任意の位置を安定して開口することができる。また、スペーサ18の断面形状が、三角形等である場合、レーザ光が接合される第1接合部11aおよび第2接合部12aに直接又はその近傍にスペーサ18を配置することができる。このようなスペーサ18の、第1接合部11aおよび第2接合部12aに近い位置に配置される角部に温調機能(ヒータ)を備えることで、レーザ光100を照射する前に第1樹脂部材11の第1接合部11aおよび第2樹脂部材12の第2接合部12aを加熱することができる。これにより、第1接合部11aおよび第2接合部12aから離れた位置にある第1樹脂部材11および第2樹脂部材12が加熱されることを低減することができる。また、加熱により第1接合部11aおよび第2接合部12aがレーザ光による昇温の補助を担うことでガラス転移点に到達し易くなるため、接合する工程にかかる時間を短縮することができる。加熱温度は、例えば30℃以上150℃以下である。
【0062】
さらに、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を湾曲させる方法として、
図1Fに示すように、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の被押圧領域13(下部)を治具110により押圧した状態で、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の上方から気体19を吹き付ける方法が挙げられる。
図1Gに、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の境界を第2樹脂部材12側から観察したときの模式図を示す。例えば、
図1Gに示すように、レーザを
図1Gの矢印で示す走査方向に移動させながらレーザ光100を第1接合部11aに照射する場合、先に気体19を吹き付けて第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の一方もしくは両方を湾曲させた後に、レーザ光100を照射することができる。あるいは、レーザ光100の照射位置に、レーザ光100と同時に気体19を吹き付けてもよい。気体としては、例えば、空気、窒素、酸素等が挙げられる。気体19を吹き付ける場合は、コンプレッサを用いて吹き出し口を備えたノズル(図示せず)から気体19を送風することができる。吹き出し口の形状は、円形、楕円形等とすることができる。吹き付ける気体19の風速は、6.2m/s以上17.2m/s以下とすることができ、好ましくは10.0m/s以上13.0m/s以下である。気体19の温度は、例えば、室温(20℃前後)以上、第1樹脂部材11又は第2樹脂部材12のガラス転移点以下とすることができる。例えば、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12がポリカーボネートの場合は、ガラス転移点150℃以下とすることができる。
【0063】
上記のように第1樹脂部材11および第2樹脂部材12のいずれか一方または両方を湾曲させる方法は、組み合わせて用いることができる。例えば、最初にこれらを湾曲させる際のみ把持部材17を用い、その後、湾曲状態を維持するために気体19を吹き付けた後に、把持部材17を外すことができる。
【0064】
上記のように第1樹脂部材11および第2樹脂部材12のいずれか一方または両方を湾曲させる場合、レーザ光100を照射した後に、湾曲形状を維持する力の付与を解除することができる。具体的には、把持部材を外したり、スペーサを外したり、気体の吹き付けを停止したりすることで、湾曲形状を維持する力を解除することができる。ただし、力を解除した後、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12を湾曲状態のまま維持してもよく、あるいは、湾曲状態から
図1Bに示すような平らな状態に戻してもよい。湾曲状態から元の平らな状態に戻す場合は、元に戻すような方向に押圧してもよく、あるいは、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12が持つ復元力を利用して戻してもよい。このように湾曲させた後に元の形状に戻るには、第1樹脂部材11または第2樹脂部材12の反力を20mN以上80mN以下とすることが好ましい。ただし、湾曲させた後に元の形状に戻す必要がない場合は、これに限らない。
【0065】
(2)第2の実施形態
本実施形態の部品の製造方法を、
図2A~
図2Dを用いて説明する。本実施形態ではまず、
図2Aに示すように、第1樹脂を含む第1樹脂部材21、および第2樹脂を含む第2樹脂部材22を準備する(準備工程)。次いで、
図2Bに示すように、第1樹脂部材21の第1接合部21aおよび第2樹脂部材22の第2接合部22aが対向するように重ねる。そして、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を互いに押し付けるように押圧することで第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を固定する(第1の固定工程)。本実施形態において、第1接合部21aおよび第2接合部22aは、後述する第1の固定工程における被押圧領域23から離隔した領域である。また、第1接合部21aおよび第2接合部22aは、後述する接合工程においてレーザ光を樹脂に照射することで昇温した樹脂が溶融し、接合に寄与する可能性のある領域である。つまり、第1接合部21aおよび第2接合部22aは、レーザ光が照射される領域(後述する第1領域211と第2領域212)と、その周辺であってレーザ光が照射されない領域を含む。ただし、第1接合部21aおよび第2接合部22aは、その領域のすべてが第1樹脂部材21および第2樹脂部材22が接合される領域でなくてよく、少なくとも第2領域212が、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22が接合される領域であればよい。
【0066】
さらに、
図2Cに示すように、上記第1の固定工程によって押圧された領域(以下、「被押圧領域」とも称する)23から離れた位置にある第1接合部21aの第1領域211にレーザ光200を照射する(第2の固定工程)。続いて、
図2Dに示すように、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22の押圧を解除し、第1接合部21aの第2領域212に、酸素存在下でピーク波長が350nm以上420nm以下であるレーザ光201を照射し、第1接合部21aおよび第2接合部22aを接合する(接合工程)。なお、本実施形態の樹脂部品の製造方法は、必要に応じて他の工程を含むことができる。
【0067】
上述のように、樹脂部材どうしを押し付けた状態で、その押し付けた領域にレーザ光を照射すると、接合部の厚みが薄くなりやすい。これに対し、本実施形態では、第2の固定工程において、第1接合部21aの第1領域211にレーザ光200を照射し、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を補助的な接合を行う。その後、接合工程において、第1接合部21aおよび第2接合部22aを押圧することなく、第1接合部21aの第2領域212にレーザ光201を照射し、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を接合する。したがって、接合工程においてレーザ光を照射する際、第1樹脂部材21や第2樹脂部材22の厚みが薄くなり難く、接合部の強度が高い樹脂部品が得られやすい。
【0068】
なお、本実施形態では、第1樹脂部材21の第1接合部21aのうち、第2の固定工程でレーザ光200を照射し、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を接合する領域を第1領域211と称し、接合工程で、レーザ光201を照射し、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を接合するための領域を第2領域212と称する。これらの位置関係や、形状については、後述する。
以下工程について説明する。
【0069】
・準備工程
本実施形態の準備工程では、第1樹脂を含む第1樹脂部材21と、第2樹脂を含む第2樹脂部材22とを準備する。第1樹脂および第2樹脂の種類は特に制限されず、公知の樹脂を用いることができる。ただし、上記のように、オレフィン系ポリマーおよびフッ素系ポリマーは、一般的なレーザ光照射によって、接合し難い。そこで、第1樹脂および第2樹脂のうち、いずれか一方が、オレフィン系ポリマーまたはフッ素系ポリマーを含むことが好ましく、第1樹脂および第2樹脂の両方が、オレフィン系ポリマーを含む、または第1樹脂および第2樹脂の両方が、フッ素系ポリマーを含むことがより好ましい。オレフィン系ポリマーおよびフッ素系ポリマーについては、上述の第1の実施形態と同様である。
【0070】
なお、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22は、第1樹脂や第2樹脂の他に、本実施形態の目的および効果を損なわない範囲において、着色料や添加剤等をさらに含むことができる。
【0071】
また、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22の形状は特に制限されない。第1樹脂部材21および第2樹脂部材22は、例えば平板状やフィルム状であってもよく、立体的な形状を有していてもよい。また、第1樹脂部材21の第1接合部21aおよび第2樹脂部材22の第2接合部22aの形状も特に制限されず、所望の樹脂部品の形状や構造に合わせて適宜選択される。ただし、上述のように、第1接合部21aおよび第2接合部22aのうちいずれか一方、もしくは両方が薄い場合に、樹脂部品の接合部の強度が低くなりやすい。そこで、第1接合部21aおよび/または第2接合部22aの厚さが10μm以下、好ましくは1500μm以下である場合に、本実施形態は特に有用である。
【0072】
また、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22のレーザ光200、201に対する透光性は、後述の接合工程におけるレーザ光300の照射の方法に応じて適宜選択され、少なくとも一方が、レーザ光200、201の波長に対して透光性を有することが好ましい。本実施形態では、後述の第2の固定工程および接合工程で、第1樹脂部材21側からレーザ光200、201を照射する。したがって、第1樹脂部材21が少なくとも、レーザ光200、201に対して透光性を有することが好ましい。
【0073】
また、本実施形態では、第1樹脂部材21の第2樹脂部材22と対向する面、または第2樹脂部材22の第1樹脂部材21と対向する面粗面化されていてよい。例えば、第1樹脂部材21や第2樹脂部材22として、予め粗面化されたものを準備することができる。また、平滑な樹脂部材を準備し、これを適宜粗面化してもよい。
【0074】
本実施形態では、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を重ねた状態で、後述の第2の固定工程や接合工程にて、第1接合部21aにレーザ光200、201を照射する。そのため、第1樹脂部材21や第2樹脂部材22が粗面化されていると、レーザ光200、201の照射時に、これらの界面に酸素が取り込まれやすくなる。なお、粗面化の方法は特に制限されず、例えばやすりや薬品等で処理してもよく、エンボス加工や、レーザ光の照射等であってもよい。また、粗面化の度合いは、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22の界面に酸素を取り込み可能であれば、特に制限されない。
【0075】
・第1の固定工程
第1の固定工程では、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を対向するように配置し、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を互いに押し付けるように押圧することで、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を固定する。第1の固定工程において、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を押圧し、固定する力は、1N以上100N以下が好ましい。このような値とすることで、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を固定しつつ、押圧力が大きすぎることで後述する第2の固定工程において、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22が薄くなってしまうことを低減できる。
【0076】
第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を押圧し、固定する方法は特に制限されず、
図2Bに示すように、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22の上に、押圧部材210等を載せる方法とすることができる。また、治具等で第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を挟み込む方法であってもよい。
【0077】
第1樹脂部材21および第2樹脂部材22が押圧部材210又は治具等によって押圧される領域(被押圧領域23)は、第1接合部21aの位置に応じて適宜選択される。例えば、
図2Aに示すように、第1接合部21aが、第1樹脂部材21の中央に位置する場合には、第1接合部21aを挟んだ両側に、それぞれ被押圧領域23を設けてもよく、いずれか一方側のみ被押圧領域23を設けてもよい。さらに、第1接合部21aを囲むように被押圧領域23を設けてもよい。なお、本実施形態では、
図2Bに示すように、第1接合部21aを挟んだ両側に、それぞれ被押圧領域23を設けている。
【0078】
図3Aおよび
図3B、ならびに
図4Aおよび
図4Bは、第1接合部21a(第1領域211および第2領域212)の変形例を示す図である。
図3Aや
図4Aに示すように、第1接合部21aが、第1樹脂部材21の端部側に位置させることができる。その場合には、第1樹脂部材21や第2樹脂部材の中央側に被押圧領域(図示せず)を設けることができる。
【0079】
本工程における被押圧領域23の形状は特に制限されず、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22の位置がずれないように、これらを固定可能であればよい。第1樹脂部材21および第2樹脂部材22の形状や、第1樹脂や第2樹脂の種類に合わせて適宜選択される。例えば
図2Bに示すように、矩形状であってもよく、格子状等であってもよい。
【0080】
また、被押圧領域23の面積は第1樹脂部材21や第2樹脂部材22の形状に応じて適宜選択される。例えば、被押圧領域23の面積が広いほうが、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22に跡が残り難く、さらに第1樹脂部材21や第2樹脂部材22を固定しやすいという観点で好ましい。被押圧領域23の面積は、例えば、第1樹脂部材21または第2樹脂部材22の平面視における面積の10%以上80%以下である。
【0081】
本実施形態において、被押圧領域23の第1接合部21a側の端部から、第1接合部21aの第1領域211までの距離は、50μm以上2000μm以下が好ましく、50μm以上500μm以下がより好ましい。上記距離が50μm以上であると、後述の第2の固定工程にてレーザ光200を照射する際、被押圧領域23と第1接合部21aとの距離を十分にとることができるため第1領域211の厚みが薄くなり難い。一方、上記距離が2000μm以下であると、後述の第2の固定工程を行う際に、被押圧領域23と第1接合部21aとの距離が離れすぎないため第1樹脂部材21や第2樹脂部材22がずれ難く、正確な位置にレーザ光200を照射可能である。その結果、より高品質な樹脂部品が得られやすくなる。
【0082】
本工程において、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を押圧し、固定する力は、第1樹脂部材21や第2樹脂部材22の種類や形状に応じて適宜選択される。
【0083】
・第2の固定工程
第2の固定工程では、上記第1の固定工程による押圧を維持した状態で、第1樹脂部材21の被押圧領域23から離れた位置にある第1接合部21aの第1領域211に、レーザ光200を照射する。レーザ光200のピーク波長は350nm以上420nm以下が好ましく、かつその照射は、酸素存在下で行うことが好ましい。
【0084】
本実施形態では、第2の固定工程における第1樹脂部材21および第2樹脂部材22の接合は補助的な接合である。したがって、本工程では、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22が動かない程度に、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を接合すればよい。また、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を強固に接合してもよい。
【0085】
ここで、第1接合部21a内での第1領域211の位置は、第2領域212(所望の接合位置)の形状や位置に合わせて適宜選択される。例えば
図2Cおよび
図2D、ならびに
図3Aおよび
図3Bに示すように、第2領域212と一定の距離をあけて第1領域211を配置することができる。第2の固定工程における、レーザ光の照射は、第1の固定工程による押圧を維持した状態で行われる。従って、第2の固定工程において、第1領域211の厚みが薄くなってしまう可能性がある。しかしながら、第1領域211および第2領域212が一部重ならない領域を設けることで、後述する接合工程において、高い強度求める所望の接合位置は、樹脂部品の強度を高くできる。
【0086】
第1領域211を、第2領域212と一定の距離をあけて配置する場合、第1領域211の形状は特に制限されず、実線状、点状、破線状等が挙げられる。ただし、第1領域211は、好ましくは点状または破線状である。すなわち、レーザ光200を走査しながら照射領域を変えて複数回行うことが好ましい。第1領域211が点状または破線状であると、後述の接合工程において、複数の第1領域211の隙間から、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22の界面に酸素を取り込みやすくなる。その結果、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22がより強固に接合されやすくなる。
【0087】
ここで、
図3Aおよび
図3Bで示す例について説明する。第1樹脂部材21と第2樹脂部材22とは、第1接合部21aと第2接合部22aとが対向するように重ねて配置されている。このとき、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22は、第1接合部21aおよび第2接合部22aで囲まれた矩形の中央領域の一部又は全部を押圧部材(不図示)で押圧することで固定されている。そして、
図3Aは、このような状態で破線状に第1領域211にレーザ光200を照射する工程を行った後の第1樹脂部材21と第2樹脂部材22を示している。
図3Bは、この工程の後に、第1接合部21aの第2領域212にレーザ光201を照射する工程を行った後の状態を示している。第2領域212を形成する際は、押圧部材で押圧せずに行うことができる。第2領域212は、中央領域を連続して囲んでおり、第1領域211は、第2領域212の外側に破線状に配置されている。
【0088】
第2領域212が連続して配置されることで、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22によって密閉された部分を形成することができる。このような接合は、第2領域212を形成する前において、第1領域211を破線状、つまり、連続しない複数の領域として形成してあることで、第2領域212の接合工程において、複数の第1領域211の隙間から第2領域212に酸素を取り込みやすくなることで形成することができる。つまり、部分的に接合させる工程を先に行うことで、押圧部材での押圧がなくても第1樹脂部材21と第2樹脂部材22とを固定された状態としている。そして、その後に、部分的に接合された領域よりも内側において、連続して接合させる工程を行うことで、強固に接合することができる。このように接合された樹脂部品は、連続して接合された第2領域212のみの接合に加え、部分的ではあるが第1領域211でも接合されていることで、第2領域のみの接合よりも接合強度が強い。このような樹脂部材の第1樹脂部材21および第2樹脂部材22によって密閉された部分には、例えば、種々の物体を密封して封止することができる。例えば、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22の間に物体を配置し、その物体の周りに第1接合部21aと第2接合部22aとを配置することで、その物体を密閉して封止することができる。また、封止する物体が液体の場合、第1領域211および第2領域212へのレーザ光の照射を部分的に行うことで、液体を入れるために接合されていない領域を設け、その後、接合されていない領域から液体を入れた後、接合されていない領域にレーザを照射し、液体を封止することができる。
【0089】
また、第1領域211を、第2領域212と一定の距離をあけて配置する場合、第1領域211と第2領域212との距離を、50μm以上2000μm以下とすることが好ましく、100μm以上1000μm以下とすることがより好ましい。第1領域211と第2領域212との距離が、50μm以上であると、後述の接合工程においてレーザ光201を照射する際、第1領域211との距離を十分にとることができるため第2領域212の厚みが薄くなり難い。一方、第1領域211と第2領域212との距離が、2000μm以下であると、第1領域211と第2領域212とが離れすぎないため後述の接合工程において、第1樹脂部材21や第2樹脂部材22がずれ難く、正確な位置にレーザ光201を照射しやすくなる。
【0090】
また、
図4Aおよび
図4Bは、破線状に配置された第1領域211に、第2領域212が重なる場合を示す図である。
図4Aは、
図3Aと同じ状態である。そして、
図4Bに示すように、破線状に配置された第1領域211と重なるように配置された第2領域212にレーザ光201を照射している点において、
図3Bと異なる。つまり、第1領域211と第2領域212とは、一部が重なり、一部が重ならない。第1領域211および第2領域212が一部重ならない領域においては、接合工程において、接合部の厚みが薄くなることを低減できる。さらに、第1領域211が点状または破線状であると、接合工程において、複数の第1領域211の隙間から、第2領域212に酸素を取り込みやすくなる。加えて、第1領域211と第2領域212とを同一直線状に位置させることができるので、第1接合部21aの幅を低減でき、微細な溶着が可能となる。
図4Bに示す樹脂部品は、
図3Bに示す樹脂部品と同様に、種々の物体を密封して封止することができる。
【0091】
本工程ではレーザ光200の焦点位置は、第1接合部21aの第1領域211表面、すなわち第1樹脂部材21の第2樹脂部材22側の表面とすることが好ましい。本実施形態では、少なくとも第1接合部21aの第1領域211にレーザ光の照射を行えばよく、必要に応じて、第2接合部22aの第1領域211に対応する領域にもさらに、レーザ光200を照射してもよい。この場合、第2接合部22aに照射するレーザ光200は、第1接合部21aに照射するレーザ光200と同一であってもよく、異なっていてもよい。また、第1接合部21aおよび第2接合部22aに同時に同じ領域にレーザ光200を照射してもよく、同じ領域に順にレーザ光200を照射してもよい。
【0092】
また本実施形態では、レーザ光200を第1樹脂部材21側から照射している。第2樹脂部材22がレーザ光200に対して透光性を有する場合には、第2樹脂部材22側からレーザ光200を照射することができる。
【0093】
また、第1接合部21aの第1領域211や第2接合部22aに照射するレーザ光200のビーム径や波長、出力密度は特に制限されない。例えば、上述の第1の実施形態の接合工程で照射するレーザ光200のビーム径や波長、出力密度と同様とすることができる。
【0094】
・接合工程
接合工程では、上記第1の固定工程による押圧を解除し、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を押圧しない状態で、第1接合部21aの第2領域212にレーザ光201を照射する。
【0095】
本工程におけるレーザ光201の焦点位置は、第1樹脂部材21の第2領域212の第2樹脂部材22側表面とすることが好ましい。本実施形態では、少なくとも第1樹脂部材21の第1接合部21aの第2領域212にレーザ光201の照射を行えばよい。また、第1樹脂部材21の第1接合部21aの第2領域212だけでなく、第2樹脂部材22の対応する領域にも、レーザ光201を照射することができる。この場合、第2樹脂部材22に照射するレーザ光201は、第1接合部21aの第2領域212に照射するレーザ光201と同一であってもよく、異なっていてもよい。また、これらに同時にレーザ光201を照射してもよく、順にレーザ光201を照射してもよい。
【0096】
ここで、第1接合部21aや第2接合部22aに照射するレーザ光201のビーム径や波長、出力密度は特に制限されない。例えば、上述の第1の実施形態の接合工程で照射するレーザ光100のビーム径や波長、出力密度と同様とすることができる。
【0097】
(3)第3の実施形態
本実施形態は、1つの樹脂部材の異なる位置を接合して、樹脂部品を製造する方法である。本実施形態の樹脂部品の製造方法を、
図5Aおよび
図5Bを用いて説明する。
【0098】
本実施形態では、
図5Aに示すように、第1樹脂を含む第1樹脂部材31、および第2樹脂を含む第2樹脂部材32を含む1つの樹脂部材30を準備する(準備工程)。本実施形態では、1つの樹脂部材30の異なる部位を第1樹脂部材31および第2樹脂部材32と称する。
【0099】
そして、
図5Bに示すように、上記樹脂部材30を所望の形状に配置し(当該実施形態では、3つの円柱状の型310に巻き付け)、第1樹脂部材31の第1接合部31aに酸素存在下でピーク波長が350nm以上420nm以下であるレーザ光100を照射し、当該樹脂部材30内の第1接合部31aおよび第2接合部32aを接合する(接合工程)。
【0100】
本実施形態では、1つの樹脂部材30で接合を行うため、例えば平面状の樹脂部材30から立体的な構造の樹脂部品を製造することができる。以下、複数の筒状部33を有する樹脂部品を製造する場合を例に説明するが、本実施形態で製造する樹脂部品の構造は、当該構造に限定されない。
以下工程について説明する。
【0101】
・準備工程
本実施形態の準備工程では、第1樹脂を含む第1樹脂部材31、および第2樹脂を含む第2樹脂部材32を含む1つの樹脂部材30を準備する。当該樹脂部材30は、例えば複数の樹脂部材を貼り合わせたものであってもよく、一体に形成された樹脂部材であってもよい。本実施形態では、1つの樹脂部材30の特定の部位を第1樹脂部材31や第2樹脂部材32とする。第1樹脂部材31と第2樹脂部材32との間に明確な境界があってもよく、明確な境界が無くてもよい。
【0102】
また、本実施形態では、
図5Aに示すように、本実施形態では、1つの樹脂部材30内に第1樹脂部材31、および第2樹脂部材32がそれぞれ2つずつ含まれる。第1樹脂部材および第2樹脂部材32が1つずつであってもよく、3つ以上ずつあってもよい。また、第1樹脂部材31および第2樹脂部材32の数は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0103】
さらに、本実施形態では、樹脂部材30をシート状としている。樹脂部材30は当該形状に限定されない。当該樹脂部材30は、第1樹脂部材31および第2樹脂部材32を接合することが可能な程度の可撓性を有することが好ましい。
【0104】
当該樹脂部材30の種類は特に制限されず、公知の樹脂であってよい。ただし、上記のように、オレフィン系ポリマーおよびフッ素系ポリマーは、一般的なレーザ光照射によって、接合し難い。そこで、当該樹脂部材30はオレフィン系ポリマーまたはフッ素系ポリマーを含むことが好ましい。オレフィン系ポリマーおよびフッ素系ポリマーについては、上述の第1の実施形態と同様である。
【0105】
また、当該樹脂部材30は、オレフィン系ポリマーやフッ素系ポリマーの他に、本実施形態の目的および効果を損なわない範囲において、着色料や他の添加剤等をさらに含んでよい。
【0106】
また、当該樹脂部材30のレーザ300に対する透光性は、後述の接合工程におけるレーザ光300の照射の方法に応じて適宜選択される。本実施形態では、後述のように、樹脂部材30を介してレーザ光300を照射するため、当該樹脂部材30がレーザ光300に対して透光性を有することが好ましい。
【0107】
また、当該樹脂部材30は、第1接合部31aや第2接合部32a、もしくは全体が粗面化処理されていてよい。粗面化処理の方法は、上述の第2の実施形態で説明した方法と同様である。
【0108】
・接合工程
接合工程では、上記樹脂部材30の第1接合部31aに相当する領域に、酸素存在下でピーク波長が350nm以上420nm以下であるレーザ光300を照射し、第1接合部31aおよび第2接合部32aを接合する。
【0109】
本実施形態では、
図5Bに示すように、3つの円柱状の型310に樹脂部材30を巻き付けることで、第1接合部31aおよび第2接合部32aを重ね、レーザ光300の照射を行う。このときの、樹脂部材30の平面視形状を
図6Aに示す。なお、
図6Aでは、樹脂部材30の形状を判別しやすくするため、型310の記載を省略している。
図6Aに示すように、第1接合部31aにレーザ光300を照射することで、これらが接合され、3つの筒状部33を有する樹脂部品が得られる。なお、本実施形態では、第1接合部31aが複数重なっている箇所に、レーザ光300を一度に照射している。各第1接合部31aに対してそれぞれレーザ光300の照射を行ってもよい。すなわち、レーザ光300の焦点位置を変えて、複数回、レーザ光300の照射を行ってよい。
【0110】
また、
図6Bに、本実施形態の変形例を示す。
図6Bの態様では、2つの円柱状の型(図示せず)に樹脂部材30巻き付け、第1接合部31aおよび第2接合部32aを重ねている。そして、第1接合部31aにレーザ光300を照射することで、当該態様では、2つの筒状部33を有する樹脂部品が得られる。
【0111】
レーザ光300の照射方向および走査方向は特に制限されず、本実施形態では、樹脂部材30や型を介してレーザ光300の照射を行っている。レーザ光300の照射方向および走査方向は、樹脂部材30のレーザ光透光性や型の種類等に応じて、適宜設定できる。また、レーザ光300は一方向からだけでなく、複数方向から照射してよい。
【0112】
さらに、レーザ光300の照射タイミングも制限されず、本実施形態では、樹脂部材30を型300に巻き付けてから、レーザ光300を照射している。また、例えば樹脂部材30を広げた状態で、第1接合部31aにレーザ光300を照射し、その後、樹脂部材30を型300に巻き付けて、第1接合部31aと第2接合部32aとを接合してよい。
【0113】
なお、本実施形態で樹脂部材30に照射するレーザ光300のビーム径や波長、出力密度は特に制限されないが、上述の第1の実施形態の接合工程で照射するレーザ光100のビーム径や波長、出力密度と同様とすることができる。
【0114】
3.樹脂部品の用途
上述の方法で製造される樹脂部品の用途は特に制限されず、樹脂の種類に応じて適宜選択される。たとえば、オレフィン系ポリマーを含む第1樹脂部材および第2樹脂部材を接合して得られた樹脂部品は、従来、オレフィン系ポリマーが使用されてきたいずれの分野の部品にも適用可能である。その例には、衣類や、各種包装容器、医療用器材、電線ケーブルや光ファイバーの被覆材等が含まれる。上述の樹脂部品の製造方法では、第1樹脂部材および第2樹脂部材の接合の際に、添加剤等を使用しないことから、樹脂部品を例えば食品用の包装容器等にも使用可能である。
【0115】
一方、フッ素系ポリマーを含む第1樹脂部材および第2樹脂部材を接合して得られた樹脂部品は、従来、フッ素系ポリマーが使用されてきたいずれの分野にも適用が可能である。例えば、半導体装置を製造するための各種部品等にも使用できる。半導体の製造プロセスでは、様々な種類の有機溶剤や強酸性水溶液、強アルカリ性水溶液が使用されるが、上述の方法で製造される樹脂部品では、第1樹脂部材および第2樹脂部材の接合部に、接着層や添加剤等を使用していないため、非常に耐薬品性に優れた部品とすることができる。
【0116】
半導体装置を製造するための各種部品の例には、薬液を収める容器や送液用の配管、配管の継ぎ手、タンクライニング、ウエハーキャリア、バルブ、ポンプ、ダイヤフラム、フィルターハウジング等が含まれる。
【0117】
フッ素系ポリマーを含む第1樹脂部材および第2樹脂部材を接合して得られた樹脂部品の用途の例には、機械的駆動部品や、ベアリングやワッシャー等も含まれる。さらに、フッ素系ポリマーを含む第1樹脂部材および第2樹脂部材を接合して得られた樹脂部品の用途の例には、高い電気絶縁性や難燃性が求められる電気・電子分野用の部品等も含まれる。その例には、家電製品や、情報通信機器、自動車、航空、宇宙産業ケーブル等に使用されるケーブル等が含まれる。
【実施例0118】
[実施例1]
図2A~
図2Cに示すように、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22を固定し、樹脂部品を形成した。まず、第1樹脂部材21および第2樹脂部材22として、縦15mm、横15mm、厚さ0.15mm、反力80mNのパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)を、それぞれ5枚準備した。第1樹脂部材21および第2樹脂部材22における、それぞれの中央の幅1mm、長さ15mmの領域を第1接合部21aおよび第2接合部22aとして設定した。
【0119】
次に、作業台上で、
図2Bに示すように第2樹脂部材22上に第1樹脂部材21を重ね配置した。さらに、第1樹脂部材21の縁部上に、第1接合部21aと平行となるように押圧部材210を配置した。押圧部材210は、縦15mm、横3mm、厚さ2mm、重さ0.7gの直方体状のステンレス鋼を2つ用いた。
【0120】
次に、
図2Cに示すように、第1接合部21aにレーザ光200(2種類のレーザ光)を略同時に第1接合部21aおよび第2接合部22aに照射した。一方のレーザ光のレーザ光源としてピーク波長が375nm、出力10Wで出力可能なYAGレーザを用い、他方のレーザ光のレーザ光源として、ピーク波長が404nm、出力30Wで出力可能なYAGレーザと、を用いた。それぞれf(照射時間)は0.1mm/秒であった。上記により樹脂部品を形成した。
【0121】
[実施例2]
図1Fおよび
図1Gに示す方法で、樹脂部品を形成した。第1樹脂部材11および第2樹脂部材12は、実施例1と同じものを用いた。
【0122】
作業台上において、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12をそれぞれ立てた状態で重ね合わせたものを2つの治具110で挟んだ。治具110は、縦15mm、横10mm、厚さ8mm、重さ9.5gの直方体状のステンレス鋼を2つ用いた。
【0123】
次に、吹き出し口が円形のノズルを用いて、温度20℃の空気を、風速12.3m/sで噴き出すことで、第1樹脂部材11および第2樹脂部材12の両方が互いに離れる方向に湾曲させて、第1接合部11aが外部に露出するようにした。
図1Gに示すように、空気は、レーザ光100を照射する位置からみて走査方向前方に位置する部分に、走査方向前方から斜め下に向かって吹き付けた。レーザ光100は、実施例1と同じ条件で2種類のレーザ光を照射した。上記により樹脂部品を形成した。
【0124】
[評価]
上記実施例1および実施例2で作製した樹脂部品の接合部分の破断強度や破断応力、破断応力ばらつき、接合部分の厚さを特定した。破断強度の測定は、測定器としてイマダ社製のデジタルフォースゲージ(ZTA-500N)を用いた。また、破断応力のバラツキは、同一条件で作製した5つの樹脂部品の接合部の破断応力から算出した。
【表1】
【0125】
接合部分の厚さは、第1樹脂部材の第1接合部と第2樹脂部材の第2接合部の厚さとを足した数値であり、それぞれ元の厚さと同じか、それよりもやや厚くなっていた。厚くなった理由は、昇温に伴う熱膨張が生じていると考えられる。また、実施例1の方が、実施例2よりも強度が強かったのは、接合領域の幅が、実施例2の方が小さくなってしまったことに起因すると考えられる。ただし、いずれにおいても、十分に高い接合強度で第1樹脂部材および第2樹脂部材を接合可能であった。
【0126】
(付記)
[項1]
第1樹脂を含む第1樹脂部材、および第2樹脂を含む第2樹脂部材を準備する工程と、
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を、前記第1樹脂部材の第1接合部および前記第2樹脂部材の第2接合部にて、接合する工程と、
を含み、
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、
前記第1接合部に、酸素存在下でピーク波長が350nm以上420nm以下であるレーザ光を照射する、
樹脂部品の製造方法。
[項2]
前記第1樹脂および前記第2樹脂のいずれか一方が、オレフィン系ポリマーまたはフッ素系ポリマーを含む、
項1に記載の樹脂部品の製造方法。
[項3]
前記第1樹脂および前記第2樹脂の両方が、オレフィン系ポリマーを含む、または前記第1樹脂および前記第2樹脂の両方が、フッ素系ポリマーを含む、
項2に記載の樹脂部品の製造方法。
[項4]
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、
前記第1接合部を多光子励起させるように、前記レーザ光を照射する、
項1~3のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項5]
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、前記第2接合部にも、酸素存在下でピーク波長が350nm以上420nm以下であるレーザ光を照射する、
項1~4のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項6]
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、前記第2接合部を多光子励起させるように、前記レーザ光を照射する、
項5に記載の樹脂部品の製造方法。
[項7]
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程の前に、
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を対向するように配置し、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を互いに押し付けるように押圧することで前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を固定する工程をさらに有し、
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を固定する工程により押圧されている領域から離れた位置にある前記第1接合部に前記レーザ光を照射する、
項1~6のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項8]
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を固定する工程において、押圧されている前記第1樹脂部材の領域と、前記第1接合部との距離は、50μm以上1000μm以下である、
項7に記載の樹脂部品の製造方法。
[項9]
前記第1接合部の厚さは、10μm以上1500μm以下である、
項7または項8に記載の樹脂部品の製造方法。
[項10]
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を固定する工程により、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材が押圧されていない領域の、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材の間に空隙を設け、前記空隙を介して、かつ、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を介さずに前記第1接合部に前記レーザ光を照射する、
項7~9のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項11]
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程の前に、
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を対向するように配置し、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を互いに押し付けるように押圧することで前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を固定する第1の固定工程と、
前記第1の固定工程により押圧されている領域から離れた位置にある前記第1接合部の第1領域にレーザ光を照射し、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を固定する第2の固定工程と、をさらに有し、
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を押圧することなく、前記第1接合部の第2領域に前記レーザ光を照射する、
項1~6のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項12]
前記第1の固定工程により、押圧されている前記第1樹脂部材の領域と、前記第1領域との距離は、50μm以上2000μm以下である、
項11に記載の樹脂部品の製造方法。
[項13]
前記第1領域と、前記第2領域との距離は、50μm以上2000μm以下である、
項12に記載の樹脂部品の製造方法。
[項14]
前記第2の固定工程における前記レーザ光の照射は、前記レーザ光を走査しながら照射領域を変えて複数回行われる、
項11~13のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項15]
前記第1接合部および前記第2接合部のうち、少なくとも一方が粗面化されている、
項1~14のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項16]
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材は、1つの樹脂部材の異なる部位である、
項1~6のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項17]
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程後の前記樹脂部材が、筒状部を含む、
項16に記載の樹脂部品の製造方法。
[項18]
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程後の前記樹脂部材が、複数の筒状部を含む、
項17に記載の樹脂部品の製造方法。
[項19]
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、前記第1接合部と、前記第2接合部とを、距離をあけて配置した状態で、前記第1接合部に前記レーザ光を照射した後、前記第1接合部および前記第2接合部を接触させる、
項1~6のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項20]
前記レーザ光の、前記第1接合部の表面におけるビーム径が、200μm以上500μm以下である、
項1~19のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項21]
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、前記第1接合部および前記第2接合部を接触させた後、前記第1接合部および前記第2接合部の界面に前記レーザ光を照射する、
項1~6のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項22]
前記レーザ光の、前記第1接合部および前記第2接合部の界面におけるビーム径が200μm以上500μm以下である、
項1~19のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項23]
前記第1樹脂がオレフィン系ポリマーを含み、
前記レーザ光は、ピーク波長が350nm以上390nm未満であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が0.45kW/cm2以上である第1レーザ光を含む、
項2~22のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項24]
前記第1樹脂がオレフィン系ポリマーを含み、
前記レーザ光は、ピーク波長が390nm以上420nm以下であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が0.85kW/cm2以上である第2レーザ光を含む、
項2~22のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項25]
前記第1樹脂がオレフィン系ポリマーを含み、
前記レーザ光は、
ピーク波長が350nm以上390nm未満であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が0.45kW/cm2以上である第3レーザ光と、
ピーク波長が390nm以上420nm以下であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が0.45kW/cm2以上である第4レーザ光と、
を含む、
項2~22のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項26]
前記第3レーザ光の照射および前記第4レーザ光の照射を同時に行う、
項25に記載の樹脂部品の製造方法。
[項27]
前記第1樹脂がフッ素系ポリマーを含み、
前記レーザ光は、ピーク波長が350nm以上390nm未満であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が0.45kW/cm2以上である第6レーザ光を含む、
項2~22のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項28]
前記第1樹脂がフッ素系ポリマーを含み、
前記レーザ光は、ピーク波長が390nm以上420nm以下であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が1.64kW/cm2以上である第7レーザ光を含む、
項2~22のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項29]
前記第1樹脂がフッ素系ポリマーを含み、
前記レーザ光は、
ピーク波長が350nm以上390nm未満であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が0.45kW/cm2以上である第8レーザ光と、
ピーク波長が390nm以上420nm以下であり、かつ前記第1接合部の表面における出力密度が1.69kW/cm2以上である第9レーザ光と、
を含む、
項2~22のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項30]
前記第8レーザ光と、前記第9レーザ光の照射を同時に行う、
項29に記載の樹脂部品の製造方法。
[項31]
前記第1樹脂部材および前記第2樹脂部材を接合する工程において、ピーク波長が420nm超460nm以下である第5レーザ光をさらに照射する、
項23~30のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
本発明の樹脂部品の製造方法によれば、添加剤を用いたり、特殊な処理を行ったりすることなく、効率よく様々な樹脂を接合可能な樹脂部品を製造できる。したがって、例えば各種電子部品やデバイスの製造に非常に有用な技術である。