(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092983
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】排ガス用集熱部材およびそれを用いた熱電変換装置
(51)【国際特許分類】
H10N 10/13 20230101AFI20240701BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
H10N10/13
F27D17/00 101A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214748
(22)【出願日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2022209101
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】大竹 正史
(72)【発明者】
【氏名】松田 三智子
(72)【発明者】
【氏名】西岡 明
(72)【発明者】
【氏名】神谷 聖
(72)【発明者】
【氏名】大沼 寛
【テーマコード(参考)】
4K056
【Fターム(参考)】
4K056AA08
4K056AA09
4K056AA19
4K056CA20
4K056DA02
4K056DA22
4K056DA29
4K056DA31
(57)【要約】
【課題】焼却炉や加熱炉等から排出されるガス中を飛来する凝集粒子や燃焼灰が堆積しにくい集熱部材を提供する。
【解決手段】外部に熱を伝達する熱伝達面を有するベース部と、前記ベース部から排ガス側に突設し、排ガスからの熱を受ける受熱面を有するフィン部とを備え、前記受熱面は山と谷が交互に連なる波形状をしており、前記ベース部側の谷は曲面で形成されており、前記ベース部および前記フィン部は、金属、セラミックス、または金属セラミックス複合材のうち少なくとも一種からなることを特徴する排ガス用集熱部材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部に熱を伝達する熱伝達面を有するベース部と、
前記ベース部から排ガス側に突設し、排ガスからの熱を受ける受熱面を有するフィン部とを備え、
前記受熱面は山と谷が交互に連なる波形状をしており、前記ベース部側の谷は曲面で形成されており、
前記ベース部および前記フィン部は、金属、セラミックス、または金属セラミックス複合材のうち少なくとも一種からなることを特徴する排ガス用集熱部材。
【請求項2】
請求項1に記載の排ガス用集熱部材であって、前記受熱面の山と谷は排ガスの流れ方向に延伸していることを特徴する排ガス用集熱部材。
【請求項3】
請求項1に記載の排ガス用集熱部材であって、(谷底から山頂までの高さ)/(山の間隔)で表される波形状のアスペクト比が、0.2以上かつ2.0以下であることを特徴する排ガス用集熱部材。
【請求項4】
請求項1に記載の排ガス用集熱部材であって、
前記受熱面に保護層をさらに備え、
前記ベース部および前記フィン部は、前記保護層よりも熱伝導率が高いことを特徴する排ガス用集熱部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の排ガス用集熱部材と、
熱電変換モジュールと、
水冷部材と、
を具備することを特徴とする熱電変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスの流路内の熱を外部に伝える排ガス用集熱部材、およびこれを用いた熱電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー有効活用のために、例えばボイラー、焼却炉、加熱炉等の今まで捨てられていた排ガスの熱を電気として回収することが検討されている。特に、熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換できる熱電変換モジュールを用いて、クリーンな方法で回収する技術が注目されている。熱電変換モジュールとは、P型とN型の熱電変換素子を交互に配置して電極で接続したもので、一方の面を高温にし、他方の面を低温にして温度差を与えることで、電力を発生させることができる。温度差が大きいほど、発生する電力も大きくなる。
【0003】
特許文献1には、内燃機関や焼却炉等の排ガスが流れる経路に設置するための、熱電変換素子と吸熱フィンを備えた熱電変換装置が開示されている。吸熱フィンは板状の底面部と前記底面部の第1面から突起した突起部を有する形状をしている。特許文献1の
図1によると、突起部は板状のものが複数枚平行に配置されており、その長さは板厚に対して数倍以上長い。このような突起部の間を排ガスが通ることで、効率的に熱を回収できると開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、熱電変換装置に装着される受熱構造体の構造、製造方法および設置例が開示されている。受熱フィンは、排気ガスが接触する部分であるフィンケースと、フィンケースの収容部内に埋設されたコア部からなり、排気ガスに接する面に複数のピン形状の突起部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-162862号公報
【特許文献2】特開2011-119420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、焼却炉や加熱炉等の排ガス流路には、炉内で飛散する粒子や燃焼灰が多量に流れてくる。例えば、ごみ焼却炉の場合は、アルカリ金属や硫黄、塩素、炭素等の化合物が、角状や塊状、球状等の形状に凝集して飛散する。これらが排気系統の壁面等に付着すると、堆積物の厚みによって熱の伝わりが阻害され、熱の収集効率が低下する恐れがある。この点に関して、特許文献1や特許文献2に記載のフィンは、特に突起部の根本付近において、排ガスの流れが滞り、凝集された粒子や灰(以下、凝集粒子という)の堆積が懸念される。
【0007】
本発明は以上のような課題に鑑み、焼却炉や加熱炉等から発生する排ガス中を飛来する凝集粒子が堆積しにくく、仮に堆積してもメンテナンス時に除去しやすい、集熱性能を高めた排ガス用集熱部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の排ガス用集熱部材は、外部に熱を伝達する熱伝達面を有するベース部と、前記ベース部から排ガス側に突設し、排ガスからの熱を受ける受熱面を有するフィン部とを備え、前記ベース部および前記フィン部は、前記受熱面は山と谷が交互に連なる波形状をしており、前記ベース部側の谷は曲面で形成されており、前記ベース部および前記フィン部は、金属、セラミックス、または金属セラミックス複合材のうち少なくとも一種からなる排ガス用集熱部材である。
【0009】
また、前記排ガス用集熱部材は、前記受熱面の山と谷は排ガスの流れ方向に延伸していることが好ましい。
また、前記排ガス用集熱部材は、(谷底から山頂までの高さ)/(山の間隔)で表される波形状のアスペクト比が、0.2以上かつ2.0以下であることが好ましい。
また、前記排ガス用集熱部材は、前記受熱面に保護層をさらに備え、前記ベース部および前記フィン部は、前記保護層よりも熱伝導率が高いものとすることが好ましい。
本発明の熱電変換装置は、前記排ガス用集熱部材と、熱電変換モジュールと、水冷部材と、を具備する熱電変換装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の排ガス用集熱部材は、配管系統を飛来する凝集された粒子や灰が堆積しにくく、仮に堆積してもメンテナンス時に除去しやすいという利点を有するため、排ガスの熱を利用する熱電変換装置等への適用に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の排ガス用集熱部材の立体形状の一例を示す図である。
【
図2】本発明の排ガス用集熱部材の断面形状の例を示す図である。
【
図3】保護層を備えた排ガス用集熱部材の断面形状の一例である。
【
図4】熱電変換モジュールの外観模式図の一例である。
【
図5】排ガス流路に熱電変換装置を設置した時の断面模式図の例である。
【
図6】流体シミュレーションの解析モデルを示す図である。
【
図7】流体シミュレーションの解析面55Bにおける流速分布を示す。
【
図8】アスペクト比0.2のときのフィン部近傍の拡大図を示す。
【
図9】アスペクト比1.0のときのフィン部近傍の拡大図を示す。
【
図10】アスペクト比0.2のときのフィンとフィンの中間位置における流速を示す。
【
図11】アスペクト比1.0のときのフィンとフィンの中間位置における流速を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
排ガスから熱を受ける排ガス用集熱部材の排ガス側の面は、排ガス中に含まれる凝集粒子や燃焼灰の堆積を防止する観点からは、突起部の無い平面が好ましい。一方で、排ガスからなるべく多くの熱を集める観点から、ベース面に対して受熱面を突設して表面積を広げることが好ましい。本発明の排ガス用集熱部材は、この相反する課題を解決するものである。以下、本発明の排ガス用集熱部材について、図を参照しながら説明する。
【0013】
図1は排ガス用集熱部材の立体形状の一例を示す図である。排ガス用集熱部材10は、排ガス流路内の熱を受けて熱電変換モジュールなどに熱伝達するものである。排ガスと接する面(受熱面11)は、複数の山と谷が交互に連なる波形状をしている。受熱面11で受けた熱は、受熱面の反対側の面(熱伝達面12)へ伝えられる。排ガス用集熱部材の形状は
図1に限定されない。複数の山と谷が交互に連なる波形状の詳細については、
図2を用いて後述する。
【0014】
排ガス用集熱部材10の前記複数の山と谷が排ガスの流れ方向13と平行に延伸して配置すると、排ガスの流れを滞らせることなく集熱できるため好ましい。これにより排ガス中に含まれる凝集粒子や燃焼灰の堆積を防止できる。
排ガス用集熱部材の材質は、金属、セラミックス、または金属セラミックス複合材から選択できる。金属の場合は、単一元素でも合金でもどちらでも良い。また、排ガス用集熱部材は、別の材質で形成された保護層を備えても良い。
【0015】
以下、本発明が開示する排ガス用集熱部材について、図面を用いてさらに詳細に説明する。
【0016】
図2に排ガス用集熱部材の断面形状の例を示す。
図2(a)は波形状が曲線のみで形成されている場合、
図2(b)は波形状の底部と頂部が曲線で、中間部が直線で形成されている場合、
図2(c)は波形状の底部が曲線で、中間部と頂部が直線で形成されている場合である。
【0017】
排ガス用集熱部材10は、フィン部14とベース部15からなる。フィン部14の表面を受熱面11、ベース部15の表面を熱伝達面12と呼ぶ。フィン部は、排ガスから熱を効率良く受け取り、ベース部へ伝達する役割を持つ。ベース部から排ガス側に突設されることで、流れの速い排ガスへより効率的に曝すことができる。フィン部14とベース部15は一体の同一部材でも良いし、別々の部材であっても良い。別々の部材の場合、単にフィン部14とベース部15を当接するように配置するだけでは、接触面における熱抵抗が大きくなるため、当接面の平坦度や表面粗さが小さくなる加工をしたり、可撓性のあるシートを挟んで密着性を高めたり等をすることが好ましい。もしくは、はじめから一つの部材で作製すると、接触熱抵抗を減らせるため好ましい。
【0018】
(フィン部)
図2(a)に例示するフィン部14は、山と谷が交互に配置されて全体として波形状をしている。1つの波は、谷から谷までの間隔、および、山から山までの間隔(以下、山の間隔)がWで、谷底から山頂までの高さ(以下、山の高さ)がHである。波形状は頂上に向かって徐々に細くなる形状をしている。換言すると、谷底から山頂を見たときの仰角は90°を超えず、斜面には隆起している個所や抉れている個所は無い。便宜上、波形状の高さの半分H/2の位置に線を引き、この線より下側を谷16、上側を山17と呼ぶことにする。
【0019】
ここで、高さの半分H/2で斜面と交わった位置において、水平面からの傾斜角度をフィンの傾斜角度A°と定義する。傾斜角度A°は、15°以上90°未満である。好ましくは30°以上75°未満である。 また、谷においては、その曲線の半径Rを、山の間隔Wの1/8より大きくすることが好ましい。また、極大点における曲率半径よりも、極小点における曲率半径が大きいことが好ましい。
【0020】
フィン部14が次のように、直線と曲線の組み合わせで形成されている場合は、谷16と山17の2つの領域に区切るより、底部、中間部、頂部と3つの領域に区切った方が、より詳細に説明ができる。
【0021】
図2(b)に示す断面の波形状は、曲線と直線を組み合わせた形状をしている。具体的には線分BCが曲線、線分CDが直線、線分DEが曲線である。この場合、線分BCを底部18、線分CDを中間部19、線分DEを頂部20と呼ぶ。
【0022】
図2(c)は、曲線と直線を組み合わせた形状をしている点で
図2(b)と同じだが、中間部19だけでなく頂部20も直線である点が異なる。ただし頂部20の先端(点D、点E)の角に丸味を付けても良い。この場合、線分BCを底部18、線分CDを中間部19、線分DEを頂部20と呼ぶ。
【0023】
ここで補足する。
図2(a)に示す形状は、半分の高さH/2の位置を境に、下側を谷16、上側を山17と呼ぶことにしたが、それぞれを底部18、頂部20と言い換えても良い。
【0024】
フィン部の底部18は、
図2に見たように、極小点が1つの曲線によって描かれることが好ましく、曲線の曲率半径は、山の間隔Wの1/8より大きな寸法であることが好ましい。この曲線は、円弧、正弦波、二次曲線等の図形で表しても良いし、左右非対称な図形でも良い。いずれの場合も、極小点において曲率半径が大きい方が好ましい。このような形状にすることで、凝集粒子が谷の底部に堆積しにくくでき、仮に堆積したとしても、メンテナンス時に一般的な清掃道具(ブラシ、刷毛、エアーガン等)でフィン部表面を掃除しやすくなる。
【0025】
曲率半径の大きさは、凝集粒子の粒子径の10倍程度はあった方が良く、一般的な清掃用具による清掃のしやすさを考えると、極小点での曲率半径は5mm以上あると清掃しやすい。
【0026】
底部18と中間部19の境目(
図2中の点B、点C)は、滑らかに接続されて段差や角部が無い。すなわち、底部18を形成する曲線の先端における接線方向と中間部19を形成する直線の方向が同じである。一方、頂部20と中間部19の境目(
図2中の点D、点E)は、凝集粒子が堆積し難い部分なので、凹みが無ければ、角部が形成されていても構わない。
【0027】
(谷底から山頂までの高さH)/(山の間隔W)で表される波形状のアスペクト比は、受熱面の表面積を大きくする観点においては、大きい方が好ましい。一方で、谷の底部で排ガスがスムーズに流れて灰などが堆積しないようにするためには、アスペクト比は小さい方が好ましい。このため、アスペクト比は、0.2以上2.0以下が好ましく、0.2以上1.0以下がより好ましい。
【0028】
(ベ―ス部)
ベ―ス部は、フィン部から受けた熱による温度分布を均一にして、熱伝達面へ伝える役目を持つ。ベース部の厚さは、温度分布の均一性や熱伝達速度を考慮して設計することが好ましい。
【0029】
熱伝達面は、熱電変換モジュールなどの被伝熱部材(不図示)に密着させることで、より多くの熱を伝達できる。被伝熱部材が曲面を有するなら、その形状に合わせて熱伝達面を曲面にしても良い。一般的には、平面であることが被伝熱部材に対して合理的な場合が多い。熱伝達面の面積は、被伝熱部材と等しいか、それ以上に大きいことが好ましい。
【0030】
(材質)
排ガス用集熱部材の材質は、金属、セラミックス、または金属セラミックス複合材から選択できる。排ガス用集熱部材の基本機能である熱を効率よく伝えるという効果を発揮するために、なるべく熱伝導率の高い材料が良い。具体的には、金属材料の場合、鉄または鉄系合金(熱伝導率10~60W/(m・K))が好ましく、アルミニウムやその合金(熱伝導率120~200W/(m・K))がより好ましく、銅またはその合金(熱伝導率380~400W/(m・K))がより好ましい。セラミックス材料の場合、例えば、窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ等から選択できる。
【0031】
排ガス用集熱部材にとって熱伝導率が高い材質を選定することは有効であるが、それと同時に、物理的特性(軟化点温度)、化学的特性(耐酸化性、耐腐食性)、機械的特性(引張強さまたは耐力)、加工容易性、経済性(素材の流通性、調達コストや加工コスト)等の特性のバランスも考慮して選択すると良い。
【0032】
具体的には、熱伝導率(物理的特性)が高く、排ガス温度が高くても熱変形しないように軟化点温度(物理的特性)が高く、排ガス中に含まれるさまざまな成分(例えば硫酸や硫黄等)によって腐食しないように耐酸化性や耐腐食性(化学的特性)がある材料が好ましい。また、排ガス用集熱部材の自重や排ガス用集熱部材に接合される別の部材の自重、および炉稼働中の振動や衝撃等によって破損しないよう、引張強さや耐力(機械的特性)が高い材料が好ましい。さらに、実際に製造する際には、素材の流通性や調達コストおよび加工コスト(経済性)が現実的に見合うかを考慮することが好ましい。
【0033】
耐腐食性は実際の炉内で生じる排ガスの成分を特定した上で、その成分に応じた耐腐食性を評価して選定すると良い。また、前記特性のうち、機械的強度の観点から、アルミニウム系や銅系(引張強さ195~315MPa)が好ましく、鉄系(引張強さ300~600N/mm2)がより好ましく、鉄にニッケルやクロム、モリブデン等を含めた合金(引張強さ600~1200MPa)がより好ましい。
【0034】
(保護層)
排ガス用集熱部材は、受熱面に保護層を備えても良い。1種類の材質で製造された排ガス用集熱部材の場合、上述した特性をすべて高水準で満足することは難しい。これに対して、保護層を備えた場合は、所望の特性に整えやすくなる。
図3に保護層を備えた排ガス用集熱部材の断面形状の一例を示す。保護層16は排ガス用集熱部材10のフィン部14の表面(受熱面)の波形状に沿うように形成されている。保護層の厚さはtである。
【0035】
保護層を備えた排ガス用集熱部材の場合は、相対的に熱伝導率や軟化点温度が高い材質でフィン部の本体を造り、耐酸化性や耐腐食性の高い材料で保護層を造ることで、全体として所望の特性を得ることができる。保護層を備えることは、材料選択の幅を広げられるために有効である。
【0036】
フィン部およびベース部は保護層よりも熱伝導率が高い材料が好ましい。保護層はフィン部およびベース部よりも耐酸化性や耐腐食性が高いことが好ましい。例えば、フィン部およびベース部をアルミニウムまたはその合金で製造し、保護層を鉄またはその合金とした場合、フィン部と保護層を溶着させて、一体に製造することができる。保護層は金属に限らず、例えば窒化物系のコーティングでも良い。
【0037】
一般的に、金属材料Xの平板と金属材料Yの平板を単に貼り合わせると、強固に溶着したとしても、熱膨張率の差からせん断応力が働いて剥がれてしまうことが高い。しかし、金属材料Xで形成された山の形状の内部に、金属材料Yが充填された状態の場合は、熱膨張差によって生じる応力は、せん断応力ではなく引張り応力になる。このため、2つの金属間で剥離を起こしにくい。
【0038】
排ガス用集熱部材は、火炎が発生する炉の炉壁に設置する場合、火炎の周辺に乱気流が起こるためガスの流れが安定しない。そのため、燃焼室の下流にある排ガス流路のうち、ガスの流れが一方向に揃う領域の壁面に取り付けると効率的である。一方、火炎が発生しない炉に設置する場合は、ガスの流れが安定しているのであれば、熱源付近に設置しても良い。
本発明の排ガス用集熱部材は、外部からのメンテナンスの手が届きにくいところに設置することで、特に効果を発揮する。
【0039】
(熱電変換装置)
被伝熱部材は、例えば熱電変換モジュールである。排ガス用集熱部材は熱電変換モジュールと水冷部材と組み合わせて、熱電変換装置を構成することができる。すなわち熱電変換モジュールの高温面に排ガス用集熱部材を当接させ、熱電変換モジュールの低温面に水冷部材を当接させ、排ガス用集熱部材の受熱面を排ガス中に設置し、水冷部材に水を流すことで、熱電変換モジュールに温度差を生じさせて発電する装置となる。このとき排ガス用集熱部材と熱電変換モジュールとの密着性を高めるために、排ガス用集熱部材の平坦度および表面粗さを向上させる加工をすることが好ましく、可撓性のあるシートを挟むとさらに好ましい。水冷部材においても同様である。
【0040】
図4に、熱電変換モジュールの外観模式図の一例を示す。熱電変換モジュール30は、P型素子31とN型素子32を、電極33を介して直列に接続したあと、上下面を絶縁基板34にて電気的に遮断したものである。一方の面を高温側、他方の面を低温側とし、両面に温度差を生じさせることで、ゼーベック効果により電力変換を行う。図では、素子や電極の配列状態を見せるために、絶縁基板34の破断線から手前側を除去した図にしている。電極の終端35を複数個の熱電変換モジュールと電気的に接続することで電圧を取り出すことができる。
【0041】
熱電変換素子の材質は問わないが、高温(例えば500℃以上)の排ガス温度に適応できる素子は、酸化すると性能が劣化することがある。これを防ぐため、金属製のパッケージで機密封止をしても良い(不図示)。
【0042】
水冷部材は、水冷ヒートシンクや水冷ジャケットと呼ばれることもある。一般的に、金属製の部材の表面に精度良く加工された平坦面を有し、部材の内部に水の流路を備え、ポンプなどで継続的に水を流すことで表面の平坦面を効率よく冷やすものである。冷却方法には空冷や油冷もあるが、水によって冷やすのがコストと冷却効率の観点から好ましい。
【0043】
図5に排ガス流路の壁面41に排ガス用集熱部材10と熱電変換モジュール30を取り付けたときの断面模式図の例を示す。(a)熱電変換モジュール1個に対し、排ガス用集熱部材を1個設置した場合、(b)複数の熱電変換モジュールに対し、大きな集熱部材1個を設置した場合である。
排ガス用集熱部材10のフィン部は、排ガスの流れ方向(紙面手前から奥方向)に山と谷が延伸して、山と谷が連なる波形状をしている。排ガス用集熱部材の受熱面11は、排ガス42に曝されており、排ガス用集熱部材の熱伝達面は熱電変換モジュール30の高温側の面と接している。熱電変換モジュールの低温側の面は、水冷部材43に接している。
【0044】
排ガス用集熱部材10の熱伝達面は、熱電変換モジュール30の高温面(平坦面)に密着するように、平坦であることが好ましい。このとき、可撓性のあるシートを挟んで、密着度を高めても良い。水冷部材43も、熱電変換モジュール30の低温面(平坦面)に密着するように平坦であることが好ましい。
【0045】
排ガス用集熱部材の全長Lfは、熱電変換モジュールの全長Lmより大きい方が好ましい。こうすることで、熱電変換モジュールの外周部に不足しがちな熱をより多く集めて伝えることができる。
【0046】
図5(a)では、熱電変換モジュール1個に対して、排ガス用集熱部材が1個設置されている。このとき隣り合う排ガス用集熱部材の間は隙間があっても良い。または、
図5(b)のように複数個の熱電変換モジュールに対して、面積の大きな1個の排ガス用集熱部材を設置しても良い。
水冷部材にも同様のことが言える。すなわち、熱電変換モジュール1個に対して、水冷部材が1個設置されていても良いし、複数個の熱電変換モジュールに対して、面積の大きな1個の水冷部材を設置しても良い。
【0047】
(流体シミュレーション)
流路内に本実施形態における排ガス用集熱部材と従来の排ガス用集熱部材を設置した場合の流速分布についてシミュレーションを行った。
【0048】
図6に流体シミュレーションの解析モデルを示す。この解析モデルは、直方体の空間51内の底面、かつ、流路(Z方向)の中間に、排ガス用集熱部材52を、フィン部が上(+Y方向)を向くように設置されている。
空間51のサイズは、入口側、出口側ともに、縦(Y方向)200mm、横(X方向)200mm、長さ(Z方向)3000mmとした。排ガス用集熱部材52のサイズは、幅(X方向)200mm、長さ(Z方向)1000mmとし、フィン部の高さ(Y方向)を20mmとした。
【0049】
ここに、入口側53から出口側54に向って、一方向に流体が流れる。流体は空気(密度1.225Kg/m3、粘度:1.79×10-5kg/m/s)を想定し、入口側の流速を0.73m/s、出口側の圧力を101.325kPaと設定した。温度は考慮していない。
すなわち、入口側53から入った流体は、排ガス用集熱部材52がない領域を1000mm流れた後、排ガス用集熱部材52がある領域を1000mm通過し、さらに排ガス用集熱部材52がない領域を1000mm流れるようなモデルとした。
この時の解析面55における流速分布を求める。解析面55は、具体的には、排ガス用集熱部材の入口側端部52aから下流方向へ250mmの位置を解析面55a、500mmの位置を55b、750mmの位置を55cとした。
【0050】
排ガス用集熱部材52は受熱面の山と谷が流体の流れ方向に延伸している形状であり、本実施形態における波形状と、従来形態の角形状の2種類を用意した。いずれの形状も、
図2に示した山の間隔Wを20mmとし、谷底から山頂までの高さHは4mm(アスペクト比0.2)と20mm(アスペクト比1.0)の2種類とした。さらに角形状の場合は、山の頂部と底部の平坦部はそれぞれ10mmとした。波形状の場合は、高さHが4mmのときは、角度Aが55.9°、半径Rが6.67mmであり、高さHが20mmのときは、角度Aが76.7°、半径Rが33.33mmとした。
【0051】
図7に解析面55bにおける流速分布を示す。色が付いている部分は流体が存在する領域で、底部にある排ガス用集熱部材52は白抜きで表示されている。流速は図中のグレースケールで示す通り、矩形断面の中央部が速く、外壁およびフィン部近傍が遅くなっている。フィン部の形状やアスペクト比を変えても、同様の傾向が見られた。
【0052】
図8にアスペクト比0.2のときのフィン部近傍の拡大図を示す。また、
図9にアスペクト比1.0のときのフィン部近傍の拡大図を示す。両図において、解析面55a、55b、55cのそれぞれにおける流速分布を示す。
図8を見ると、波形状の場合は、フィンの底部まで流体が滑らかに侵入している様子がわかる。一方、角形状の場合は、フィンの頂部で流体の流れが阻害されて流速の低下が見られる。この傾向は
図9でも同様にみられる。
【0053】
解析面を55a、55b、55cの3カ所用意した理由は次の通りである。流体が
図6のZ方向に流れる際、排ガス用集熱部材の入口側端部52aにあたることで流れが乱れ、それがフィン部近傍を通過時の流れに影響し、入口側端部52aからの距離によって流速分布が変わるかもしれないと予想したからである。しかし、解析面55a、55b、55cの流速分布を比較して分かるように、結果はほとんど変わらなかった。そのため、以降では、代表して解析面55bにおける流速を示す。
【0054】
図10にアスペクト比0.2のときのフィンとフィンの中間位置における流速を示す。また、
図11にアスペクト比1.0のときのフィンとフィンの中間位置における流速を示す。グラフ中に入れた図は、
図8、9で述べたように色が付いている部分は流体が存在する領域で、排ガス用集熱部材52は白抜きになっている。そして、ベース面を原点0とした時に、ベース面からのY方向の距離hをグラフの横軸にし、その時の主流方向(Z方向)の流速Vzを縦軸にした。
【0055】
両図において、角形状よりも波形状の方が、流速が速い結果となった。具体的には、アスペクト比0.2のとき、フィン底部からわずかに離れた位置(例えば0<h<2)でも、角形状より波形状の方が速く有意な差があった。さらにフィン頂部(h=4mm)付近で最も速度に差があった。
アスペクト比1.0のときは、フィン底部からわずかに離れた位置(例えば0<h<2)での差が、アスペクト比0.2の時より小さいが、波形状の方が、流速が速いという結果になった。また、広い範囲(0<h<50)で角形状より波形状の方が、速度が速かった。
【0056】
以上の結果から、いずれのアスペクト比でも角形状より波形状の方が、流速が速いと言える。そのため、この流体に凝集粒子等が混入していたとしても、フィン部の表面、特にフィン底部に凝集粒子が堆積しにくいと言える。
【0057】
本発明の排ガス用集熱部材によれば、排ガスから熱を効率的に回収して外部(被伝熱部材)へ伝えることができるため、熱電変換装置への適用などに有用である。また、本発明の排ガス用集熱部材を用いた熱電変換装置は、排ガスから効率良く熱を回収して高い発電性能を得ることが可能になる。
【符号の説明】
【0058】
10:排ガス用集熱部材
11:受熱面
12:熱伝達面
13:ガス流れ
14:フィン部
15:ベース部
16:谷
17:山
18:底部(線分BC)
19:中間部(線分CD)
20:頂部(線分DE)
21:保護層
30:熱電変換モジュール
31:P型素子
32:N型素子
33:電極
34:絶縁基板
35:電極の終端
41:排ガス流路の壁面
42:排ガス
43:水冷部材
51:流路
52: 排ガス用集熱部材
52a:入口側端部
53:入口側
54:出口側
55、55a、55b、55c:解析面
A:フィン部の傾斜角度
B:底部を形成する線分の一端
C:底部を形成する線分の一端
D:頂部を形成する線分の一端
E:頂部を形成する線分の一端
H:フィン部の山の高さ
Lf:フィンの幅
Lm:モジュールの幅
T:ベース部の厚さ
R:フィン部の谷の曲線の半径
W:フィン部の山の間隔
【手続補正書】
【提出日】2024-04-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの部材からベース部とフィン部が作製されており、
前記部材は金属、セラミックス、または金属セラミックス複合材のうち少なくとも一種からなり、
前記フィン部は前記ベース部から排ガス側に突設し、排ガスからの熱を受ける受熱面を備え、
前記ベース部は外部に熱を伝達する熱伝達面を備え、
前記受熱面の反対側に前記熱伝達面を有し、
前記受熱面は、山と谷が交互に連なる波形状をしており、前記ベース部側の谷は曲面で形成されている
ことを特徴する排ガス用集熱部材。
【請求項2】
請求項1に記載の排ガス用集熱部材であって、前記受熱面の山と谷は排ガスの流れ方向に延伸していることを特徴する排ガス用集熱部材。
【請求項3】
請求項1に記載の排ガス用集熱部材であって、(谷底から山頂までの高さ)/(山の間隔)で表される波形状のアスペクト比が、0.2以上かつ2.0以下であることを特徴する排ガス用集熱部材。
【請求項4】
請求項1に記載の排ガス用集熱部材であって、
排ガスに含まれる成分による腐食を抑制するために前記受熱面に保護層をさらに備え、
前記ベース部および前記フィン部は、前記保護層よりも熱伝導率が高いことを特徴とする排ガス用集熱部材。
【請求項5】
請求項1に記載の排ガス用集熱部材であって、
前記受熱面の波形状は頂上に向って徐々に細くなる形状をしていることを特徴とする排ガス用集熱部材。
【請求項6】
排ガス流路の壁面に取り付けられた請求項1から5のいずれかに記載の排ガス用集熱部材と、
熱電変換モジュールと、
水冷部材と、
を具備することを特徴とする熱電変換装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明の排ガス用集熱部材は、一つの部材からベース部とフィン部が作製されており、前記部材は金属、セラミックス、または金属セラミックス複合材のうち少なくとも一種からなり、前記フィン部は前記ベース部から排ガス側に突設し、排ガスからの熱を受ける受熱面を備え、前記ベース部は外部に熱を伝達する熱伝達面を備え、前記受熱面の反対側に前記熱伝達面を有し、前記受熱面は、山と谷が交互に連なる波形状をしており、前記ベース部側の谷は曲面で形成されていることを特徴する排ガス用集熱部材である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
また、前記排ガス用集熱部材は、前記受熱面の山と谷は排ガスの流れ方向に延伸していることが好ましい。
また、前記排ガス用集熱部材は、(谷底から山頂までの高さ)/(山の間隔)で表される波形状のアスペクト比が、0.2以上かつ2.0以下であることが好ましい。
また、前記排ガス用集熱部材は、排ガスに含まれる成分による腐食を抑制するために前記受熱面に保護層をさらに備え、前記ベース部および前記フィン部は、前記保護層よりも熱伝導率が高いものとすることが好ましい。
また、前記排ガス用集熱部材の前記受熱面の波形状は、頂上に向って徐々に細くなる形状をしていることが好ましい。
本発明の熱電変換装置は、排ガス流路の壁面に取り付けられた前記排ガス用集熱部材と、熱電変換モジュールと、水冷部材と、を具備する熱電変換装置である。