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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093010
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】液状の乳濃縮物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 1/14 20060101AFI20240701BHJP
   A23C 9/14 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
A23C1/14
A23C9/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023219419
(22)【出願日】2023-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2022208271
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022208272
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】小杉 崇
(72)【発明者】
【氏名】納谷 昌和
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠太郎
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC06
4B001AC07
4B001AC46
4B001BC01
4B001BC07
4B001BC08
4B001BC13
4B001BC99
4B001EC01
4B001EC99
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、本来、乳本来の風味もしくはその風味に近い風味を有する液状の乳濃縮物およびその製造方法を提供することある。
【解決手段】本発明に係る液状の乳濃縮物の製造方法は、酸性化工程、濃縮工程および脱離工程を備える。酸性化工程では、液状の原料乳に二酸化炭素が添加されて原料乳が酸性化され、液状の酸性化原料乳が調製される。濃縮工程では、酸性化原料乳がろ過処理されて液状の乳濃縮物が調製される。脱離工程では、乳濃縮物から二酸化炭素の一部または全部が脱離させられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の原料乳に二酸化炭素を添加して前記原料乳を酸性化し、液状の酸性化原料乳を調製する酸性化工程と、
前記酸性化原料乳をろ過処理して液状の乳濃縮物を調製する濃縮工程と、
前記乳濃縮物から前記二酸化炭素の一部または全部を脱離させる脱離工程と
を備える、液状の乳濃縮物の製造方法。
【請求項2】
前記脱離工程では、前記乳濃縮物に気体が吹き込まれる
請求項1に記載の液状の乳濃縮物の製造方法。
【請求項3】
前記脱離工程では、前記乳濃縮物が減圧環境下に置かれた状態で前記乳濃縮物に気体が吹き込まれる
請求項2に記載の液状の乳濃縮物の製造方法。
【請求項4】
前記脱離工程では、前記乳濃縮物が撹拌される
請求項1に記載の液状の乳濃縮物の製造方法。
【請求項5】
前記乳濃縮物を殺菌する殺菌工程をさらに備え、
前記殺菌工程は、前記濃縮工程と前記脱離工程の間に実施される
請求項3に記載の液状の乳濃縮物の製造方法。
【請求項6】
前記原料乳は、脱脂乳であり、
前記乳濃縮物は、乳タンパク質濃縮物である
請求項1に記載の液状の乳濃縮物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の液状の乳濃縮物の製造方法により製造される液状の乳濃縮物。
【請求項8】
全固形分の20質量%あたり、タンパク質の含有量が7.5質量%以上20.0質量%以下の範囲内であり、カルシウムの含有量が0.0質量%超0.50質量%以下の範囲内であり、
乳由来の酸および二酸化炭素由来の酸以外の酸を実質的に含まない、液状の乳濃縮物。
【請求項9】
アジピン酸、グルコン酸、リンゴ酸、イノシン酸、ギ酸、酒石酸、ピロリン酸、フマル酸、硫酸およびその塩を実質的に含まない
請求項8に記載の液状の乳濃縮物。
【請求項10】
全固形分の20質量%あたり、ナトリウムの含有量が0.01質量%以上0.1質量%以下の範囲内であり、カリウムの含有量が0.05質量%以上0.3質量%以下の範囲内であり、マグネシウムの含有量が0.00質量%超0.04質量%以下の範囲内であり、リンの含有量が0.07質量%以上0.4質量%以下の範囲内であり、塩素の含有量が0.00質量%超0.35質量%以下の範囲内である
請求項8に記載の液状の乳濃縮物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状の乳濃縮物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「脱脂乳等の原料乳に塩酸や、乳酸、酢酸、クエン酸等を添加して酸性原料乳を調製した後に、その酸性原料乳を限外ろ過して乳濃縮物を調製し、最後にその乳濃縮物に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等を添加してその乳濃縮物を中性化する液状の乳濃縮物の製造方法」が提案されている(例えば、以下の特許文献1~5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-038359号公報
【特許文献2】特開2018-038360号公報
【特許文献3】特開2018-038361号公報
【特許文献4】特開2018-064481号公報
【特許文献5】特開2018-064482号公報
【特許文献6】特開2018-074915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の通り、酸やアルカリを添加して液状の乳濃縮物を製造した場合、得られる液状の乳濃縮物の風味は、乳本来の風味でなくなってしまうことが多い。
【0005】
本発明の課題は、本来、乳本来の風味もしくはその風味に近い風味を有する液状の乳濃縮物およびその製造方法を提供することある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1局面に係る液状の乳濃縮物の製造方法は、酸性化工程、濃縮工程および脱離工程を備える。酸性化工程では、液状の原料乳に二酸化炭素が添加されて原料乳が酸性化され、液状の酸性化原料乳が調製される。濃縮工程では、酸性化原料乳がろ過処理されて液状の乳濃縮物が調製される。なお、酸性化工程から濃縮工程へ進む前に、所定時間で、酸性化原料乳を静置するか攪拌することが好ましい。これは、カルシウム等のイオンを十分にタンパク質(すなわち、カゼイン等)から解離(遊離)させるためである。脱離工程では、乳濃縮物から二酸化炭素の一部または全部が脱離させられる。
【0007】
本願発明者らの鋭意検討の結果、本発明に係る液状の乳濃縮物の製造方法を用いると、乳本来の風味を有する液状の乳濃縮物、もしくは、従前の液状の乳濃縮物の製造方法で得られる乳濃縮物に比べて乳本来の風味に近い風味を有する液状の乳濃縮物が得られることが明らかとなった。
【0008】
また、上述の脱離工程では、乳濃縮物に気体が吹き込まれるか、乳濃縮物が減圧環境下に置かれた状態で乳濃縮物に気体が吹き込まれるか、タンク内で乳濃縮物に熱や物理刺激が加えられながら乳濃縮物が一定時間、撹拌されることが好ましい。また、脱離工程で乳濃縮物が減圧環境下に置かれた状態で乳濃縮物に気体が吹き込まれる処理が行われる場合、濃縮工程と脱離工程の間に殺菌工程が実施されるのが好ましい。殺菌工程では、乳濃縮物が殺菌される。
【0009】
また、上述の液状の乳濃縮物の製造方法において、原料乳は脱脂乳であり、乳濃縮物は乳タンパク質濃縮物(「Milk Protein Concentrate」(以下「MPC」と略する。)ともいう。)であることが好ましい。
【0010】
本発明の第2局面に係る液状の乳濃縮物は、上述の液状の乳濃縮物の製造方法によって製造される乳濃縮物である。ここで、乳濃縮物中の全固形分の20質量%あたりタンパク質の含有量は7.5質量%以上20.0質量%以下の範囲内であり、カルシウムの含有量は0.0質量%超0.5質量%以下の範囲内である。そして、この乳濃縮物には、乳由来の酸および二酸化炭素由来の酸以外の酸が実質的に含まれない。なお、ここにいう「乳由来の酸」とは、クエン酸、オルト酸、ピルビン酸、乳酸、コハク酸、リン酸、酢酸、尿酸である。これらの乳由来の酸は、通常濃度であれば含まれていてもよいが、通常濃度を超えて含まれることは好ましくない。また、ここにいう「二酸化炭素由来の酸」には、二酸化炭素そのものや、炭酸イオン等が含まれる。また、この液状の乳濃縮物において二酸化炭素由来の酸は実質的に含まれないことが好ましい。また、ここで「乳由来の酸および二酸化炭素由来の酸以外の酸」とは、例えば、アジピン酸、グルコン酸、リンゴ酸、イノシン酸、ギ酸、酒石酸、ピロリン酸、フマル酸、硫酸などである。
【0011】
本願発明者らの鋭意検討の結果、本発明に係る液状の乳濃縮物は、乳本来の風味、もしくはその風味に近い風味を有することが明らかとなった。
【0012】
なお、上述の乳濃縮物には、アジピン酸、グルコン酸、リンゴ酸、イノシン酸、ギ酸、酒石酸、ピロリン酸、フマル酸、硫酸およびその塩が実質的に含まれない。なお、「その塩」とは、上述の酸から得られる塩を意味する。
【0013】
このため、この液状の乳濃縮物は、乳本来の乳風味を保持することができる。
【0014】
また、上述の乳濃縮物の全固形分の20質量%あたりナトリウムの含有量が0.01質量%以上0.1質量%以下の範囲内であり、カリウムの含有量が0.05質量%以上0.3質量%以下の範囲内であり、マグネシウムの含有量が0.00質量%超0.04質量%以下の範囲内であり、リンの含有量が0.07質量%以上0.4質量%以下の範囲内であり、塩素の含有量が0.00質量%超0.35質量%以下の範囲内である。
【0015】
上述のミネラル成分の全固形分に対する含有量は、原料乳中のミネラル成分の全固形分に対する含有量よりも低い。このため、この液状の乳濃縮物は、乳本来の乳風味を保持することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、乳本来の風味を有する液状の乳濃縮物、もしくは、従前の液状の乳濃縮物の製造方法で得られる乳濃縮物に比べて乳本来の風味に近い風味を有する液状の乳濃縮物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1に係る乳濃縮物の粘度に及ぼす保存期間を示すプロット図を示した図である。
図2】実施例2に係る乳濃縮物の呈味官能評価結果を示すレーダーチャートを、比較例2に係る乳濃縮物の呈味官能評価結果を示すレーダーチャートと併せて示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態に係る液状の乳濃縮物は、酸性化工程および濃縮工程を経て製造される。以下、液状の乳濃縮物について詳述した後に、その製造方法およびその用途について詳述する。
【0019】
<液状の乳濃縮物>
本発明の実施の形態に係る液状の乳濃縮物は、生乳、牛乳もしくは特別牛乳または脱脂乳(生乳、牛乳または特別牛乳から乳脂肪分を除去したもの)もしくは部分脱脂乳(生乳、牛乳または特別牛乳から乳脂肪分を部分的に除去したもの)を濃縮したものであって、例えば、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」に規定される濃縮乳(生乳、牛乳又は特別牛乳を濃縮したものであって、乳固形分が25.5%以上であり、乳脂肪分が7.0%以上であるもの)や、脱脂濃縮乳(生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分を除去したものを濃縮したものであって、無脂乳固形分が18.5%以上であり、細菌数(標準平板培養法で1g当たり)が100,000以下であるもの。)のみならず、「生乳、牛乳又は特別牛乳を濃縮したものであって、乳固形分が25.5%未満であるもの(以下「省令外濃縮乳」という。)」、「生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分を除去したものを濃縮したものであって、無脂乳固形分が18.5%未満であるもの(以下「省令外脱脂濃縮乳」という。)」等でもあり得るが、液状の乳タンパク質濃縮物(Milk Protein Concentrate(以下「MPC」と略する)ともいう)であることが好ましい。なお、この乳濃縮物には、種々の添加物が添加されていてもよい。ところで、以下、説明の便宜上、生乳、牛乳、特別牛乳、脱脂乳および部分脱脂乳をまとめて「原料乳」と称することがある。
【0020】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物は、全固形分の20質量%あたり、7.5質量%以上20.0質量%以下の範囲内のタンパク質、0.01質量%以上0.1質量%以下の範囲内のナトリウム(Na)、0.05質量%以上0.3質量%以下の範囲内のカリウム(K)、0.0質量%超0.50質量%以下の範囲内のカルシウム(Ca)、0.00質量%超0.04質量%以下の範囲内のマグネシウム(Mg)、0.07質量%以上0.4質量%以下の範囲内のリン(P)および0.00質量%超0.35質量%以下の範囲内の塩素(Cl)を含む。
【0021】
なお、本発明の実施の形態に係る液状の乳濃縮物中のタンパク質の含有量は、全固形分の20質量%あたり、通常、7.5質量%以上20.0質量%以下の範囲内であり、10.0質量%以上20.0質量%以下の範囲内であることが好ましく、12.0質量%以上20.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、14.0質量%以上20.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、16.0質量%以上20.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、18.0質量%以上20.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。また、別の観点から、同乳濃縮物中のタンパク質の含有量は、全固形分の20質量%あたり、10.0質量%以上18質量%以下の範囲内であることが好ましく、12.0質量%以上18質量%以下の範囲内であることがより好ましく、14.0質量%以上18質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、16.0質量%以上18質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0022】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物のナトリウム(Na)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.02質量%以上0.08質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.04質量%以上0.06質量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0023】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物のカリウム(K)の含有量は、ナトリウム(Na)の含有量にもよるが、全固形分の20質量%あたり、0.10質量%以上0.25質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.15質量%以上0.20質量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0024】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物のカルシウム(Ca)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.00質量%超0.40質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.00質量%超0.30質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.00質量%超0.20質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0025】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物のマグネシウム(Mg)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.00質量%超0.03質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.00質量%超0.02質量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物のリン(P)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.10質量%以上0.35質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.15質量%以上0.30質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.20質量%以上0.25質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0027】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物の塩素(Cl)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.00質量%超0.30質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.00質量%超0.25質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.00質量%超0.20質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.00質量%超0.15質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0028】
なお、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物には、乳由来の酸および二酸化炭素由来の酸以外の酸が実質的に含まれない。なお、ここにいう「乳由来の酸」とは、クエン酸、オルト酸、ピルビン酸、乳酸、コハク酸、リン酸、酢酸、尿酸である。これらの乳由来の酸は、通常濃度であれば含まれていてもよいが、通常濃度を超えて含まれることは好ましくない。また、ここにいう「二酸化炭素由来の物質」には、二酸化炭素そのものや、炭酸イオン等が含まれる。また、ここにいう「乳由来の酸および二酸化炭素由来の物質以外の酸」とは、例えば、アジピン酸、グルコン酸、リンゴ酸、イノシン酸、ギ酸、酒石酸、ピロリン酸、フマル酸、硫酸およびその塩などである。なお、「その塩」とは、これらの酸から得られる塩を意味する。
【0029】
さらに、本発明の実施の形態に係る液状の乳濃縮物の全固形分の含有量は、通常では、10質量%以上25質量%以下の範囲内であり、14質量%以上22質量%以下の範囲内であることが好ましく、16質量%以上22質量%以下の範囲内であることがより好ましく、18質量%以上22質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、20質量%以上22質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0030】
また、本発明の実施の形態に係る液状の乳濃縮物を5℃の温度環境下で20日保存した直後の粘度は、3,000mPa・s以下であることが好ましく、2,000mPa・s以下であることがより好ましく、1,000mPa・s以下であることがさらに好ましく、500mPa・s以下であることがさらに好ましく、300mPa・s以下であることがさらに好ましく、100mPa・s以下であることが特に好ましい。
【0031】
<液状の乳濃縮物の製造方法>
本発明の実施の形態に係る液状の乳濃縮物は、上述の通り、酸性化工程、濃縮工程および中和工程を経て製造される。また、本発明の実施の形態に係る液状の乳濃縮物が脱脂濃縮乳や、省令外脱脂濃縮乳、液状の乳タンパク質濃縮物である場合、酸性化工程の前に、脱脂乳調製工程が設けられることが好ましい。また、濃縮工程と中和工程の間に殺菌工程が設けられることが好ましい。以下、これらの工程について詳述する。
【0032】
(1)脱脂乳調製工程
脱脂乳調製工程では、生乳、牛乳もしくは特別牛乳から、脱脂乳または部分脱脂乳が調製される。なお、ここにいう「脱脂乳」とは、生乳、牛乳または特別牛乳から、乳脂肪分を除去したものであって、例えば、「生乳、牛乳もしくは特別牛乳の乳脂肪分を0.5%未満としたもの」等である。また、ここにいう「部分脱脂乳」とは、生乳、牛乳または特別牛乳から、乳脂肪分を部分的に除去したものであって、例えば、「生乳、牛乳もしくは特別牛乳の乳脂肪分を0.5%以上3.0%未満の範囲内としたもの」等である。なお、脱脂乳調製工程は、上述の通り、必ずしも実施されなければならないものではない。脱脂濃縮乳や省令外脱脂濃縮乳の市販品を購入して、それを酸性化工程において原料乳(出発原料)として用いてもかまわない。
【0033】
生乳、牛乳もしくは特別牛乳から、脱脂乳または部分脱脂乳を調製する方法には、例えば、生乳、牛乳もしくは特別牛乳の乳脂肪を遠心分離処理する方法(以下「遠心分離法」ともいう。)や、生乳、牛乳もしくは特別牛乳の乳脂肪を膜分離処理する方法(以下「膜分離法」ともいう。例えば、精密ろ過処理がある。)等がある。なお、遠心分離法を採用する場合、生乳、牛乳もしくは特別牛乳の温度を45℃以上55℃以下の範囲内に保ちながら、乳脂肪を遠心分離処理することが好ましい。また、かかる場合、酸性化工程の前に、この得られた脱脂乳または部分脱脂乳を冷却しておくことが好ましい。なお、かかる場合、冷却の温度は、脱脂乳または部分脱脂乳が液状を保つ温度以上10℃以下の範囲内であることが好ましく、1℃以上5℃以下の範囲内であることがより好ましい。
【0034】
(2)酸性化工程
酸性化工程では、原料乳(例えば、冷却された原料乳)に二酸化炭素が添加されて原料乳が酸性化され、液状の酸性化原料乳が調製される。なお、この際、液状の酸性化原料乳のpHは5.5以上6.9未満の範囲内であることが好ましく、5.5以上6.4未満の範囲内であることがより好ましく、5.5以上6.2以下の範囲内であることがさらに好ましく、5.5以上6.0以下の範囲内であることがさらに好ましく、5.5以上5.8以下の範囲内であることが特に好ましい。かかる際、原料乳中の二酸化炭素濃度が50ppm超2,020ppm以下となるように原料乳に二酸化炭素が吹き込まれることが好ましい。なお、吹込方法としては、例えば、通常のノズルや、エアチューブ、インラインノズル、焼結金属多孔フィルター、カーボネーター、シャワーノズル等を利用した方法などが挙げられる。なお、二酸化炭素を固化したドライアイスを直接原料乳に投入してもよい。また、二酸化炭素の吹込み量は、最終的に得られる乳濃縮物の耐熱性および粘度挙動のバランスや、中和工程における処理方法などを考慮して決定される。原料乳中の二酸化炭素濃度が50ppmに近くなる程、耐熱性が良好となり、原料乳中の二酸化炭素濃度が2,020ppmに近くなる程、保存中の粘度の上昇が良好に抑制される。また、原料乳中の二酸化炭素濃度が50ppmに近くなる程、脱離処理が選択しやすくなり、原料乳中の二酸化炭素濃度が2,020ppmに近くなる程、熱安定性が低下するため、殺菌工程前に長時間の脱離処理、または、アルカリ添加処理を必要とせざるを得なくなる。また、液状の酸性化原料乳の粘度を低く維持しやすい観点から、pHが一定値であることが好ましい。なお、この酸性化工程において、塩酸、乳酸、酢酸、クエン酸等の常温常圧で固体もしくは液体である酸は併用されない。理論に拘束されるものではないが、気体である酸は後述する脱離処理で中和することができる一方で、固体もしくは液体である酸は脱離処理で中和することはできないため、後述するアルカリ添加処理を必要とせざるを得なくなるからである。そして、原料乳のpHが酸性側に調整されると、酸性化原料乳では、タンパク質に静電的に付着しているカルシウムイオンやマグネシウムイオン等がタンパク質から解離する。そして、原料乳のpHを上記範囲内において適宜調整することによって、原料乳において解離するカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の含有量(濃度(質量%))を調整することができる。
【0035】
なお、この酸性化工程では、原料乳に二酸化炭素を添加した後に、所定時間で、酸性化原料乳を静置するか攪拌することが好ましい。ここで、この所定時間は0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましく、1.5時間以上であることがさらに好ましく、2時間以上であることが特に好ましい。そして、この所定時間に特に上限はないが、所定時間は、例えば、10時間以下であることが好ましく、8時間以下であることがより好ましく、6時間以下であることがさらに好ましく、4時間以下であることが特に好ましい。また、この酸性化工程では、所定温度で、酸性化原料乳を静置するか撹拌することが好ましい。ここで、この所定温度は、酸性化原料乳が液状を保つ温度以上15℃以下の範囲内であることが好ましく、1℃以上10℃以下の範囲内であることがより好ましく、1℃以上5℃以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0036】
(3)濃縮工程
濃縮工程では、酸性化工程の後に、酸性化原料乳が限外ろ過処理またはナノろ過処理されて、乳濃縮物(乳タンパク質濃縮物)が調製される。この際、酸性化工程において解離したカルシウムイオンやマグネシウムイオン等が透過液成分として、酸性化原料乳(あるいは乳濃縮物)から分離される。この結果、目的の「カルシウムやマグネシウムの含有量(濃度)が低減された乳濃縮物」が得られる。なお、限外ろ過処理に供される限外ろ過膜には、平膜、中空糸膜、スパイラル膜、セラミック膜、回転膜、振動膜等が用いられ、その限外ろ過膜の分画分子量は、1,000Da以上100,000Da以下の範囲内であることが好ましく、9,000Da以上11,000Da以下の範囲内であることがより好ましく、9,500Da以上10,500Da以下の範囲内であることがさらに好ましい。また、ナノろ過処理には、平膜、中空糸膜、スパイラル膜、セラミック膜、回転膜、振動膜等が用いられる。なお、それらの膜の分画分子量は、100Da以上1,000Da以下の範囲内であることが好ましい。ところで、この濃縮倍率は、原料乳の種類等によって、その下限値が変わり得るが、例えば、原料乳が脱脂乳である場合、この濃縮倍率は、2.5倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましく、原料乳が生乳である場合、この濃縮倍率は、1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。また、この濃縮倍率の上限値は、ろ過膜およびろ過装置の耐圧の程度によって決定され得るが、例えば、原料乳が脱脂乳である場合、この濃縮倍率は6倍以下であることが好ましく、5.5倍以下であることがより好ましく、原料乳が生乳である場合、この濃縮倍率は、5倍以下であることが好ましく、4.5倍以下であることがより好ましい。
【0037】
ところで、この濃縮工程は、繰り返し実施されてもよい。かかる場合、濃縮工程を連続して繰り返してもよいし、他の工程を挟んで間欠的に濃縮工程を繰り返してもよい。なお、後者における他の工程とは、例えば、ダイヤフィルトレーション工程等である。ダイヤフィルトレーションとは、ろ過処理中に乳濃縮物に純溶媒(例えば、イオン交換水など)を添加し、低分子やイオンなどを継続的に排出し続ける処理である。また、このダイヤフィルトレーション工程も繰り返し実施されてもよい。
【0038】
(4)殺菌工程
殺菌工程では、液状の乳濃縮物が殺菌される。液状の乳濃縮物の殺菌方法としては、例えば、過熱水蒸気を吹き込む殺菌方法(スチームインフュージョン)、チューブ式殺菌方法、プレート式殺菌方法、多管式殺菌方法などが挙げられる。これらの殺菌方法の中でも過熱水蒸気を吹き込む殺菌方法が好ましい。なお、過熱水蒸気を吹き込む殺菌方法における過熱水蒸気の温度は130℃~150℃程度の温度であることが好ましく、吹込時間は数秒程度であることが好ましい。また、チューブ式殺菌方法、プレート式殺菌方法、多管式殺菌方法などにおける殺菌温度は75℃~140℃であることが好ましい。
【0039】
(5)中和工程
中和工程では、乳濃縮物(例えば、冷却された乳濃縮物、常温の乳濃縮物)のpHが5.6以上7.0以下の範囲内に調整されて中和乳濃縮物が調製される。なお、熱安定性の向上のしやすさや、低粘度の維持のしやすさの観点から、pHが一定値であることが好ましい。すなわち、中和工程では、中和乳濃縮物のpHが6.3以上6.9以下の範囲内とされることが好ましく、6.3以上6.8以下の範囲内とされることがより好ましく、6.3以上6.7以下の範囲内とされることがさらに好ましい。この中和工程では、a)液状の乳濃縮物から二酸化炭素を脱離させる脱離処理、およびb)液状の乳濃縮物にアルカリを添加するアルカリ添加処理の少なくとも一方の処理が実施される。なお、脱離処理とアルカリ添加処理の両方が実施される場合、脱離処理後にアルカリ添加処理されるのが望ましい。以下、脱離処理およびアルカリ添加処理について詳述する。
【0040】
(5-1)脱離処理
脱離処理では、a1)乳濃縮物に気体を吹き込む吹込処理、a2)乳濃縮物を減圧環境下に置く減圧処理、a3)乳濃縮物を減圧環境下に置いた状態で乳濃縮物に気体を吹き込む減圧兼吹込処理、a4)タンク内で乳濃縮物に熱や物理刺激を加えながら乳濃縮物を一定時間、撹拌する撹拌処理、および、a5)乳濃縮物を定圧下で静置する定圧静置処理の少なくともいずれかの処理が実施される。なお、吹込処理および撹拌処理、減圧兼吹込処理および撹拌処理を同時に行ってもよい。吹込処理で用いられる気体としては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスや、不活性ガスを主成分としており実質的に不活性であるガス(例えば、空気など)が挙げられる。また、吹込方法としては、例えば、通常のノズルや、インラインノズル、焼結金属多孔フィルター等を利用した方法などが挙げられる。なお、撹拌処理では、乳濃縮物を0.5時間以上撹拌することが好ましく、1時間以上撹拌することがより好ましく、1.5時間以上撹拌することがさらに好ましく、2時間以上撹拌することが特に好ましい。そして、この撹拌時間に特に上限はないが、撹拌時間は、例えば、10時間以下であることが好ましく、8時間以下であることがより好ましく、6時間以下であることがさらに好ましく、4時間以下であることが特に好ましい。また、この撹拌工程で熱が加えられる場合、乳濃縮物の温度が2℃以上98℃以下の範囲内となるように熱が加えられるのが好ましく、30℃以上50℃以下の範囲内となるように熱が加えられるのがより好ましく、35℃以上45℃以下の範囲内となるように熱が加えられるのがさらに好ましい。また、定圧静置処理における圧力は常圧であることが好ましく、常圧よりも低い圧力であることがより好ましい。また、定圧静置処理における乳濃縮物の温度は2℃以上98℃以下の範囲内であることが好ましく、30℃以上50℃以下の範囲内であることがより好ましく、35℃以上45℃以下の範囲内であることがさらに好ましい。なお、定圧静置処理では、乳濃縮物を0.5時間以上静置することが好ましく、1時間以上静置することがより好ましく、1.5時間以上静置することがさらに好ましく、2時間以上静置することが特に好ましい。そして、この静置時間に特に上限はないが、静置時間は、例えば、10時間以下であることが好ましく、8時間以下であることがより好ましく、6時間以下であることがさらに好ましく、4時間以下であることが特に好ましい。
【0041】
(5-2)アルカリ添加処理
アルカリ添加処理では、食品に添加し得るアルカリ、すなわち、人体に無害なアルカリ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等が用いられる。この際、アルカリは、稀薄水溶液の形態で用いられることが好ましく、具体的には、1~3Nのアルカリ水溶液の形態で用いられることがより好ましく、2Nのアルカリ水溶液の形態で用いられることがさらに好ましい。また、この際、乳濃縮物のナトリウムイオン/カリウムイオンの比率が、原料乳のナトリウムイオン/カリウムイオンの比率、または、その比率に近い比率になるように、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとの混合水溶液を用いることが好ましく、具体的には、水酸化ナトリウム:水酸化カリウムが2~4:8~6である混合水溶液を用いることがより好ましく、水酸化ナトリウム:水酸化カリウムが3:7である混合水溶液を用いることがさらに好ましい。
【0042】
なお、このアルカリ添加処理では、乳濃縮物に上述のアルカリを添加した後に、所定時間で、中和乳濃縮物を静置するか撹拌することが好ましい。ここで、所定時間は、0.1時間以上であることが好ましく、0.3時間以上であることがより好ましく、0.5時間以上であることがさらに好ましく、1時間以上であることが特に好ましい。そして、この所定時間の上限は特にないが、所定時間は、例えば、10時間以下であることが好ましく、8時間以下であることがより好ましく、6時間以下であることがさらに好ましく、4時間以下であることが特に好ましい。また、この中和工程では、所定時温度で、中和乳濃縮物を静置するか撹拌することが好ましい。ここで、この所定温度は、中和乳濃縮物が液状を保つ温度以上25℃以下の範囲内であることが好ましく、1℃以上20℃以下の範囲内であることがより好ましく、2℃以上15℃以下の範囲内であることがさらに好ましく、3℃以上10℃以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0043】
<乳濃縮物の用途>
本発明の実施の形態に係る乳濃縮物は、乳製品の原料の一成分として用いることができる。すなわち、この乳濃縮物は、単独で、乳製品の原料(原料乳)として用いられてもよいし、水、生乳、殺菌乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、全脂濃縮乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、バター、クリーム、チーズ等の他の原料と混合して、乳製品の原料(原料乳の一部等)として用いられてもよい。
【0044】
なお、上述の乳製品には、例えば、乳飲料(加工乳を含む)、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、発酵乳、アイスクリーム類、クリーム類、チーズ類等が含まれる。なお、この乳製品には、必要に応じて、任意の成分を加えることができる。このような任意の成分には、特段の制限はないが、一般的な乳製品に配合される成分である甘味料、酸味料、野菜や果物や種実、野菜汁や果物汁や種実汁、野菜や果物や種実のエキス、ビタミン、ミネラル、ペプチドやアミノ酸等などの栄養素材、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオン酸菌等の有用な微生物、有用な微生物の培養物、有用な微生物の発酵物、ローヤルゼリー、グルコサミン、アスタキサンチン、ポリフェノール等の既存の機能性素材、香料、pH調整剤、賦形剤、酸味料、着色料、乳化剤、保存料等が含まれる。この際、甘味料には、例えば、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、ショ糖、オリゴ糖、砂糖、蜂蜜、メープルシロップ、アガベシロップ、バームシュガー、モラセス(糖蜜)、水飴、ブドウ糖果糖液糖、トレハロース、マルチトース、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工の甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、グリセリン、クルクリン、モネリン、ミラクリン、エリトリトール等が含まれる。これらの甘味料は、乳製品に甘味を与えるのみならず、酸味や「えぐみ」を抑えることができることから、乳製品の製造時に積極的に添加することが好ましい。
【0045】
上述の乳製品が発酵乳である場合、この乳濃縮物は、発酵乳の原料ミックスの一成分として用いられてもよい。なお、この発酵乳原料ミックスの調製では、例えば、乳濃縮物、他の任意成分(例えば、甘味料、酸味料、ミネラル、ビタミン、香料等)等の原料が添加(配合)・加温・混合・溶解される。そして、この原料ミックスには、乳濃縮物の他、水、生乳、殺菌乳、全脂粉乳、全脂濃縮乳、バターミルク、バター、クリーム、チーズ等を添加・加温・混合・溶解等してもよい。また、この原料ミックスには、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質単離物(WPI)、α-ラクトアルブミン(α-La)、β-ラクトグロブリン(β-Lg)等を添加・加温・混合・溶解してもよい。
【0046】
なお、上述の乳製品が発酵乳である場合、この発酵乳は、従来の発酵乳の製造方法と同様に、原料ミックスの調合工程、原料ミックスの(加熱)殺菌工程、原料ミックスの冷却工程、スターターの添加工程、発酵工程、発酵乳の冷却工程等の工程を経て製造される。この際、原料ミックスの調合工程では、上述の通り、原料を添加・加温・混合・溶解(調合)等する。なお、上述の各工程では、一般的な発酵乳の製造時の処理条件を適宜採用すればよい。また、原料ミックスの(加熱)殺菌工程、原料ミックスの冷却工程、スターターの添加工程、発酵工程および発酵乳の冷却工程は、この順番で実施されることが好ましい。
【0047】
<乳濃縮物の特徴>
上述のようにして得られた乳濃縮物は、本来、乳本来の風味を有するか、従前の液状の乳濃縮物の製造方法で得られる乳濃縮物に比べて乳本来の風味に近い風味を有する。したがって、この乳濃縮物を原料として調製した乳製品は、従来の乳濃縮物を原料として調製した乳製品に比べて豊かな乳風味を提供することができる。
【実施例0048】
以下、実施例および比較例を示して、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、この実施例に限定されることはない。
【0049】
(実施例1)
脱脂乳(固形分濃度9.3質量%、タンパク質含有量3.4質量%)中の二酸化炭素濃度が2,020ppm(mg/L)になるまで、坂本技研製マイクロバブルノイズを用いて脱脂乳に二酸化炭素を吹き込んで酸性化脱脂乳を調製した。なお、この際、脱脂乳のpHは約6.8から5.9まで低下した。次に、KOCH社製の限外ろ過膜(分画分子量:10,000Da、膜面積:6.1m)を用いて酸性化脱脂乳を濃縮した。なお、その途中で濃縮中の酸性化脱脂乳にイオン交換水を添加してダイヤフィルトレーションを行った後、さらにその酸性化脱脂乳を濃縮した(濃縮倍率は4.9倍であった。)。その結果、全固形分20.84質量%、タンパク質16.44質量%の液状の乳タンパク質濃縮物(MPC)が得られた。次いで、この液状の乳タンパク質濃縮物に窒素ガスを吹き込んで、同乳タンパク質濃縮物に溶存する二酸化炭素の一部を追い出した後に、この乳タンパク質濃縮物に対して、130℃の過熱水蒸気で4秒間スチーム殺菌処理を施した。なお、このようにして得られた乳タンパク質濃縮物のpHは6.3であった。また、同乳タンパク質濃縮物中のナトリウム濃度は21.86mg/100gであり、カリウム濃度は79.40mg/100gであり、カルシウム濃度は340.32mg/100gであり、マグネシウム濃度は19.46mg/100gであり、リン濃度は227.20mg/100gであった。また、原料乳としての脱脂乳中のナトリウム濃度が32.84mg/100gであり、カリウム濃度が144.92mg/100gであり、カルシウム濃度が113.62mg/100gであり、マグネシウム濃度が9.66mg/100gであり、リン濃度が94.76mg/100gであったため、そのナトリウムの濃縮率は9.8%であり、カリウムの濃縮率は8.0%であり、カルシウムの濃縮率は44.2%であり、マグネシウムの濃縮率は29.6%であり、リンの濃縮率は35.2%であった。
【0050】
なお、上述の各種成分の定量分析方法は以下のとおりであった。
・タンパク質:改良デュマ法(燃焼法)
・各種ミネラル成分:ICP発光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分析法)
【0051】
また、上述の脱脂乳中の酸濃度を測定したところ、クエン酸濃度が0.15質量%(8.01mM)であり、リン酸濃度が0.03質量%(3.36mM)であったが、アジピン酸、グルコン酸、リンゴ酸、イノシン酸、ギ酸、酒石酸、ピロリン酸、フマル酸、硫酸の濃度は検出限界以下であった(すなわち、実質的に検出されなかった。)。
【0052】
また、上述の乳タンパク質濃縮物中のアジピン酸、グルコン酸、リンゴ酸、イノシン酸、ギ酸、酒石酸、ピロリン酸、フマル酸、硫酸の濃度を定量したところ、その濃度は検出限界以下であった(すなわち、実質的に検出されなかった。)。
【0053】
なお、上述の酸の定量分析方法は以下のとおりであった。
先ず、脱脂乳または乳タンパク質濃縮物(以下、まとめて「試料」と称する場合がある。)を2g量り取って、それを15mL遠心チューブに分注した。次に、遠心チューブ内の試料に除タンパク質処理(塩析処理(Carrez処理))を施した後にその試料を10倍希釈した。次いで、その遠心チューブを遠心分離機にセットして、10,000×gで20分間、遠心分離処理し、その処理後の遠心チューブ中の上清を別の遠心チューブに移した。続いて、別の遠心チューブ中の上清を適宜希釈してHPLC分析を行った。HPLC分析では、濃度が既知の標準試薬(各酸について10,3,1,0.3,0.1(mmol/L))を調製し、各濃度に対するHPLCのピーク面積で検量線を作成し、その検量線と上清における各酸のHPLCのピーク面積から上清中に含まれる酸濃度を算出した。
【0054】
(実施例2)
乳濃縮物の調製に際して濃縮倍率を4.8倍とした以外は、実施例1と同様にして、乳タンパク質濃縮物を調製した。その結果、全固形分20.4質量%、タンパク質12.4質量%の液状の乳タンパク質濃縮物(MPC)が得られた。また、乳タンパク質濃縮物中のナトリウム濃度は39.7mg/100gであり、カリウム濃度は83.1mg/100gであり、カルシウム濃度は390.36mg/100gであり、マグネシウム濃度は19.86mg/100gであり、リン濃度は264.74mg/100gであった。
【0055】
(実施例3)
先ず、実施例1と同様に濃縮工程まで行い、液状の乳タンパク質濃縮物を得た。次に、その乳タンパク質濃縮物に対して、130℃の過熱水蒸気で4秒間スチーム殺菌処理を施した。このようにして得られた乳タンパク質濃縮物のpHは6.32であった。次いで、その殺菌処理後の乳タンパク質濃縮物を40℃に調温した後に、株式会社大川原製作所製の遠心式薄膜真空蒸発装置(濃縮装置)エバポール(登録商標)に投入し、同装置内を0.08MPaまで減圧すると共に40℃に温めた状態で回転ドラムを回転させることにより乳タンパク質濃縮物の薄膜化させながら約100L/時間で還流させて、同乳タンパク質濃縮物に溶存する二酸化炭素の一部を追い出した。なお、この際、同装置の蒸発機構は利用しなかった。このようにして得られた乳タンパク質濃縮物のpHは6.56であった。
【0056】
(実施例4)
先ず、実施例1と同様に濃縮工程まで行い、液状の乳タンパク質濃縮物を得た。次に、その乳タンパク質濃縮物に対して、130℃の過熱水蒸気で4秒間スチーム殺菌処理を施した。このようにして得られた乳タンパク質濃縮物のpHは6.32であった。次いで、その殺菌処理後の乳タンパク質濃縮物を40℃に調温した後に、その乳タンパク質濃縮物に10L/分の速度で圧縮空気(窒素含有率80%)を吹き込みながら、スタティックミキサーで圧縮空気を乳タンパク質濃縮物に分散させた。続いて、その乳タンパク質濃縮物を株式会社大川原製作所製の遠心式薄膜真空蒸発装置(濃縮装置)エバポール(登録商標)に投入し、同装置内を0.08MPaまで減圧すると共に40℃に温めた後に、回転ドラムを回転させることにより乳タンパク質濃縮物の薄膜化させながら約100L/時間で還流させて、同乳タンパク質濃縮物に溶存する二酸化炭素の一部を追い出した。なお、この際、同装置の蒸発機構は利用しなかった。このようにして得られた乳タンパク質濃縮物のpHは6.64であった。
【0057】
(実施例5)
先ず、実施例1と同様に濃縮工程まで行い、液状の乳タンパク質濃縮物を得た。次に、その乳タンパク質濃縮物に対して、130℃の過熱水蒸気で4秒間スチーム殺菌処理を施した。このようにして得られた乳タンパク質濃縮物のpHは6.32であった。次いで、その殺菌処理後の乳タンパク質濃縮物を、40℃に保ったままで1時間撹拌して、同乳タンパク質濃縮物に溶存する二酸化炭素の一部を追い出した。なお、このようにして得られた乳タンパク質濃縮物のpHは6.38であった。
【0058】
(実施例6)
実施例5と同様にしてpH6.38の乳タンパク質濃縮物を得た。次に、その乳タンパク質濃縮物を40℃に調温した後に、その乳タンパク質濃縮物に10L/分の速度で圧縮空気(窒素含有率80%)を吹き込みながら、スタティックミキサーで圧縮空気を乳タンパク質濃縮物に分散させた。続いて、その乳タンパク質濃縮物を株式会社大川原製作所製の遠心式薄膜真空蒸発装置(濃縮装置)エバポール(登録商標)に投入し、同装置内を0.08MPaまで減圧すると共に40℃に温めた後に、回転ドラムを回転させることにより乳タンパク質濃縮物の薄膜化させつつ約100L/時間で還流させて、同乳タンパク質濃縮物に溶存する二酸化炭素の一部を追い出した。なお、この際、同装置の蒸発機構は利用しなかった。このようにして得られた乳タンパク質濃縮物のpHは6.64であった。
【0059】
(比較例1)
乳濃縮物の調製に際して、酸性化処理において脱脂乳のpHを2N塩酸で5.8に調整し、その脱脂乳を限外ろ過処理した以外は、実施例1と同様にして、乳タンパク質濃縮物を調製した。なお、濃縮工程の途中で乳タンパク濃縮物が凝固してしまったため、実施例1に示される濃縮倍率および全固形分当たりのタンパク質濃度と同等の濃縮倍率および全固形分当たりのタンパク質濃度を達成することができなかった。
【0060】
(比較例2)
乳濃縮物の調製に際して、酸性化処理において脱脂乳のpHを2N塩酸で5.8に調整し、その脱脂乳を限外ろ過処理した以外は、実施例2と同様にして、乳タンパク質濃縮物を調製した。その結果、全固形分19.9質量%、タンパク質12.9質量%の液状の乳タンパク質濃縮物(MPC)が得られた。
【0061】
<物性確認試験>
(1)粘度安定性確認試験
実施例1で調製された乳タンパク質濃縮物を5℃で保存しながら1日おきにその粘度をB型粘度計(東機産業株式会社製TVB-25L)で測定したところ、図1に示される結果が得られた。実施例1で調製された乳タンパク質濃縮物の粘度は20日を経過しても2,000mPa・sを超えることがなかった。なお、比較例1で調製された乳タンパク質濃縮物は、濃縮工程の途中で凝固したため、粘度安定性確認試験を行うことができなかった。
【0062】
(2)官能試験
先ず、5名の専門パネルに基準試料としてFonterra社製のMPC4850を食してもらった。次に、実施例2で調製された乳タンパク質濃縮物および比較例2で調製された乳タンパク質濃縮物を冷却(5℃)した状態で上述の専門パネルに食してもらい、上述のMPC4850を基準として新鮮なミルクの香り、過熱したミルクの香り、タンパク臭、ミルクのコク、自然な甘さ、雑味、後味のすっきり感を5段階で評価してもらったところ、図2に示される結果が得られた。なお、図2中、総合評価は、上記評価項目における点数の平均点である。図2によると、実施例2で調製された乳タンパク質濃縮物は、新鮮なミルクの香り、ミルクのコク、自然な甘さ、後味のすっきり感で、比較例2で調製された乳タンパク質濃縮物を上回り、比較例2で調製された乳タンパク質濃縮物に比べてタンパク臭や雑味が抑えられていた。総合評価については、実施例2で調製された乳タンパク質濃縮物が、比較例2で調製された乳タンパク質濃縮物を上回った。
図1
図2