(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093122
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物の製造方法、樹脂硬化物の製造方法、熱硬化性樹脂組成物、パターン材料、及びパターン材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 75/16 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
C08G75/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209295
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山内 晃
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 俊介
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英子
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA04
4J030BA05
4J030BB18
4J030BB24
4J030BC02
4J030BC08
4J030BF16
4J030BG02
(57)【要約】
【課題】溶剤に完全に溶解し、かつ加熱により硬化可能であり、硬化後の膜中に未反応の二重結合が存在しない熱硬化性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)とを一部重合し、共重合体(A)を得る工程、及び前記共重合体(A)とビニル単量体(B)とを有機溶媒(C)に溶解させる工程を含み、前記共重合体(A)中の前記ビニル基を有する化合物(a2)の反応率が50~70%である、熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)とを一部重合し、共重合体(A)を得る工程、及び
前記共重合体(A)とビニル単量体(B)とを有機溶媒(C)に溶解させる工程
を含み、
前記共重合体(A)中の前記ビニル基を有する化合物(a2)の反応率が50~70%である、熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)とを一部重合し、共重合体(A)を得る工程、
前記共重合体(A)とビニル単量体(B)とを有機溶媒(C)に溶解させる工程、及び
前記共重合体(A)と前記ビニル単量体(B)とを重合させる工程
を含み、
前記共重合体(A)中の前記ビニル基を有する化合物(a2)の反応率が50~70%である、樹脂硬化物の製造方法。
【請求項3】
前記共重合体(A)と前記ビニル単量体(B)との重合を、基板上で加熱することによって行う、請求項2に記載の樹脂硬化物の製造方法。
【請求項4】
硫黄単量体(a1)に由来する構成単位(a1)及びビニル基を有する化合物(a2)に由来する構成単位(a2)を含む共重合体(A)と、ビニル基を有する化合物(a2)とを含み、前記ビニル基を有する化合物(a2)由来の全二重結合の数に対する前記硫黄単量体(a1)との結合に使用された二重結合の数の割合が50%~70%である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
有機溶媒(C)中に、硫黄単量体(a1)に由来する構成単位(a1)及びビニル基を有する化合物(a2)に由来する構成単位(a2)を含む共重合体(A)と、ビニル基を有する化合物(a2)とを含み、前記ビニル基を有する化合物(a2)由来の全二重結合の数に対する前記硫黄単量体(a1)との結合に使用された二重結合の数の割合が50%~70%である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ビニル基を有する化合物(a2)の25℃の水に対する溶解度Sの常用対数log10Sが-4.5以上-1.5以下である、請求項4又は5に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記ビニル基を有する化合物(a2)が2つ以上のビニル基を有する、請求項4又は5に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記ビニル基を有する化合物(a2)がジビニルベンゼン及びジイソプロペニルベンゼンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
基板上に請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物であるパターンを有するパターン材料。
【請求項10】
請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物で基板上に任意のパターンを形成する工程
を含む、パターン材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物の製造方法、樹脂硬化物の製造方法、熱硬化性樹脂組成物、パターン材料、及びパターン材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製時の回収等で生産される硫黄は、硫酸等の工業製品、ゴム等の添加剤、肥料等の多岐にわたる用途に使用される。しかし、これらの用途で消費される硫黄の量は、硫黄の生産量を下回っており、余剰の硫黄の保管が問題となっている。
硫黄は可視及び赤外域での高屈折性を有しており、かつ、S-S結合は、この同じ光学域において不活性である。従って、化学原料としての硫黄の使用は、低コストかつ好ましい光学特性をもつ材料の設計のために望ましい。しかしながら、硫黄はフィルムおよび成形物に加工するのが困難である。
硫黄の加工性を向上させる技術として、逆加硫法が知られている。逆加硫法とは硫黄に対して任意の比率でビニル基を有する化合物を反応させることによって含硫黄共重合体を形成する手法である。形成した含硫黄共重合体は高屈折性などの硫黄としての特性を損なうことなく、熱可塑性や溶剤への溶解性の付与ができるため、硫黄の成形物への加工が可能となる。
溶剤への溶解性を付与させる技術に関する先行技術文献として、特許文献1及び特許文献2が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、硫黄とモノアリル化合物とを混合して加熱することにより含硫黄共重合体を合成し、各種有機溶媒に溶かすことにより金属防食剤として使用する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、硫黄およびモノマーを混合して加熱することにより一部硬化した含硫黄プレポリマーを合成し、形成用溶剤に溶かしたのち、任意の形状に形成し、加熱して含硫黄共重合成形体を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-026877号公報
【特許文献2】特表2017-517603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、溶解性の観点から単官能モノマーのみしか使用できず、そのため得られる共重合体の分子量が十分に高められず、成形体の耐溶剤性などが乏しいという課題があった。
一方、特許文献2に記載の方法では、重合を途中で停止してプレポリマーを合成し、任意の形状に形成後に再度加熱することにより分子量を十分に高めることができ、耐溶剤性の向上が可能である。しかしながら再度の加熱の際に200℃以上の温度での加熱が必要であり、沸点の観点から使用できるモノマーの制限や、コーティング用途として考えた場合基材にダメージを与える可能性があった。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、溶剤に完全に溶解し、かつ加熱により硬化可能であり、硬化後の膜中に未反応の二重結合が存在しない熱硬化性樹脂組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)とを一部重合し、共重合体(A)を得る工程、及び
前記共重合体(A)とビニル単量体(B)とを有機溶媒(C)に溶解させる工程
を含み、
前記共重合体(A)中の前記ビニル基を有する化合物(a2)の反応率が50~70%である、熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
[2] 硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)とを一部重合し、共重合体(A)を得る工程、
前記共重合体(A)とビニル単量体(B)とを有機溶媒(C)に溶解させる工程、及び
前記共重合体(A)と前記ビニル単量体(B)とを重合させる工程
を含み、
前記共重合体(A)中の前記ビニル基を有する化合物(a2)の反応率が50~70%である、樹脂硬化物の製造方法。
[3] 前記共重合体(A)と前記ビニル単量体(B)との重合を、基板上で加熱することによって行う、[2]に記載の樹脂硬化物の製造方法。
[4] 硫黄単量体(a1)に由来する構成単位(a1)及びビニル基を有する化合物(a2)に由来する構成単位(a2)を含む共重合体(A)と、ビニル基を有する化合物(a2)とを含み、前記ビニル基を有する化合物(a2)由来の全二重結合の数に対する前記硫黄単量体(a1)との結合に使用された二重結合の数の割合が50%~70%である、熱硬化性樹脂組成物。
[5] 有機溶媒中に、硫黄単量体(a1)に由来する構成単位(a1)及びビニル基を有する化合物(a2)に由来する構成単位(a2)を含む共重合体(A)と、ビニル基を有する化合物(a2)とを含み、前記ビニル基を有する化合物(a2)由来の全二重結合の数に対する前記硫黄単量体(a1)との結合に使用された二重結合の数の割合が50%~70%である、熱硬化性樹脂組成物。
[6] 前記ビニル基を有する化合物(a2)の25℃の水に対する溶解度Sの常用対数log10Sが-4.5以上-1.5以下である、[4]又は[5]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[7] 前記ビニル基を有する化合物(a2)が2つ以上のビニル基を有する、[4]~[6]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[8] 前記ビニル基を有する化合物(a2)がジビニルベンゼン及びジイソプロペニルベンゼンからなる群から選択される少なくとも1種である、[7]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[9] 基板上に[4]に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物であるパターンを有するパターン材料。
[10] [4]に記載の熱硬化性樹脂組成物で基板上に任意のパターンを形成する工程
を含む、パターン材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶剤に完全に溶解し、かつ加熱により硬化可能な熱硬化性樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では本発明の実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変更が可能である。
【0011】
[熱硬化性樹脂組成物の製造方法及び熱硬化性樹脂組成物]
本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)とを一部重合し、共重合体(A)を得る工程、及び前記共重合体(A)とビニル単量体(B)とを有機溶媒(C)に溶解させる工程を含む。
【0012】
<硫黄単量体(a1)>
硫黄単量体(a1)は、硫黄(元素記号:S)の同素体(同じ元素でできた単体で、性質の異なるものをいう。)であれば特に限定されない。硫黄はカテネーションを起しやすく、多種類の同素体が知られている。天然に見られる硫黄の同素体は環状のS8硫黄(シクロ-S8)である。常温(25℃)、常圧(1013hPa)で固体であるS8硫黄は、α硫黄(斜方硫黄)、β硫黄(単斜硫黄)、及びγ硫黄(単斜硫黄)の3つの結晶形を持つ。いずれも、S8硫黄を単位構造とする結晶であるが、95.6℃以下では斜方硫黄が安定であり、95.6℃超の温度では単斜硫黄が安定である。また、250℃まで加熱すると50万個以上の硫黄原子がつながった直鎖状硫黄(Sx)となる。これはゴム状硫黄とも呼ばれる。ゴム状硫黄及び単斜硫黄は、常温・常圧下では徐々に斜方硫黄に変換される。
前記硫黄単量体(a1)としては、後述するビニル基を有する化合物(a2)との反応性の点から、S8硫黄(単斜硫黄、斜方硫黄)が好ましい。例えば、硫黄単量体(a1)としては、一般に「硫黄」として常温・常圧下で販売・流通されている斜方硫黄(α硫黄)を利用することができる。
【0013】
<ビニル基を有する化合物(a2)>
ビニル基を有する化合物(a2)は分子内に1つ以上のビニル基を有する化合物であれば特に限定されない。
前記ビニル基を有する化合物(a2)としては、前記硫黄単量体(a1)の分子間を架橋することで、得られる樹脂硬化物の物性を向上できることから、分子内に2つ以上のビニル基を有することが好ましい。また、得られる樹脂組成物の耐熱性を向上できることから、分子内に2つ以上のビニル基を有する芳香族化合物であることが好ましい。
2つ以上のビニル基を有する芳香族化合物の具体例として、ジビニルベンゼン及びジイソプロペニルベンゼンか挙げられる。
前記ビニル基を有する化合物(a2)としては、2つ以上のビニル基を有する化合物が好ましく、分子内に2つ以上のビニル基を有する芳香族化合物がより好ましく、ジビニルベンゼン(略称:DVB)及びジイソプロペニルベンゼン(略称:DIB)からなる群から選択される少なくとも1種がさらに好ましい。
【0014】
前記ビニル基を有する化合物(a2)の25℃の水に対する溶解度Sの常用対数log10Sは、-4.5以上-1.5以下であることが好ましく、-4.5以上-2.0以下であることがより好ましく、-4.5以上-2.5以下であることがさらに好ましい。log10Sが、-4.5以上-1.5以下であることにより硫黄との混和性が向上するため、共重合体の組成の均一性が向上する。
【0015】
<共重合体(A)>
共重合体(A)は、前記硫黄単量体(a1)と前記ビニル基を有する化合物(a2)とを一部重合して得られる化合物である。
一部重合は、前記硫黄単量体(a1)、前記ビニル基を有する化合物(a2)を含む溶液を加熱することで行われる。前記溶液を加熱する際の温度は、特に限定されないが、120~200℃が好ましく、125~190℃がより好ましく、130~180℃がさらに好ましい。また、前記溶液を加熱する時間は、特に限定されないが、5~600分が好ましく、10~300分がより好ましく、15~120分がさらに好ましく、30~60分がいっそう好ましい。
【0016】
前記共重合体(A)中の前記ビニル基を有する化合物(a2)の反応率は、50~70%であり、50~65%がより好ましく、50~60%がさらに好ましい。
【0017】
本発明において、前記共重合体(A)中の前記ビニル基を有する化合物(a2)の反応率は、1H‐NMRを用いて測定したものである。具体的には以下の手順により測定する。
共重合体(A)20mgに対してアニソール20mg、重クロロホルム1.1g加えて1H-NMR測定用サンプル溶液を作成後、日本電子社製JNM-ECZ400Sを使用して1H‐NMR測定を行う。(測定条件:積算回数16回、室温)
測定後のチャートをテトラメチルシランのプロトンピークの位置を0.00ppmとし、各ピークの位置を決定した。3.79ppmにピークをもつアニソールのメトキシ基のプロトンピークと5.00ppm~6.00ppmにピークをもつビニル単量体のビニル基のピークの積分比により共重合体(A)中のビニル基を有する化合物(a2)の反応率を算出する。
【0018】
<熱硬化性樹脂組成物>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上述した熱硬化性樹脂組成物の製造方法によって得られる熱硬化性樹脂組成物である。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、硫黄単量体(a1)に由来する構成単位(a1)及びビニル基を有する化合物(a2)に由来する構成単位(a2)を含む共重合体(A)と、ビニル基を有する化合物(a2)を含む。
各成分は上述したものと同様である。
【0019】
前記ビニル基を有する化合物(a2)由来の全二重結合の数に対する前記硫黄単量体(a1)との結合に使用された二重結合の数の割合は、50~70%であり、50~65%がより好ましく、50~60%がさらに好ましい。
前記割合は、前記共重合体(A)中の前記ビニル基を有する化合物(a2)の反応率と同様にして算出することができる。
【0020】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、また、有機溶媒(C)中に、硫黄単量体(a1)に由来する構成単位(a1)及びビニル基を有する化合物(a2)に由来する構成単位(a2)を含む共重合体(A)と、ビニル基を有する化合物(a2)を含む。
前記有機溶媒は、前記硫黄単量体(a1)及び前記ビニル基を有する化合物(a2)を溶解できるとともに産物である前記共重合体(A)も溶解できるものであれば特に限定されない。前記溶媒の具体例としては、テトラヒドロフラン(略称:THF)及びトルエンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
その他の各成分は上述したものと同様である。
【0021】
前記ビニル基を有する化合物(a2)由来の全二重結合の数に対する前記硫黄単量体(a1)との結合に使用された二重結合の数の割合は、50~70%であり、50~65%がより好ましく、50~60%がさらに好ましい。
前記割合は、前記共重合体(A)中の前記ビニル基を有する化合物(a2)の反応率と同様にして算出することができる。
【0022】
[樹脂硬化物の製造方法]
本発明の樹脂硬化物の製造方法は、硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)とを一部重合し、共重合体(A)を得る工程、前記共重合体(A)とビニル単量体(B)とを有機溶媒(C)に溶解させる工程、塗布等により基材上に成形した後溶媒を乾燥させる工程、及び前記共重合体(A)と前記ビニル単量体(B)とを重合させる工程を含む。
【0023】
<共重合体(A)>
硫黄単量体(a1)、ビニル基を有する化合物(a2)、共重合体(A)、及び反応条件は上述した本発明の樹脂組成物の製造方法と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0024】
<ビニル単量体(B)>
前記ビニル単量体(B)としては、ビニル基を有する単量体であれば特に限定されないが、ラジカル重合が可能な単量体であることが好ましい。
前記ラジカル重合が可能な単量体としては、例えば、α-メチルスチレン、ビニルトルエン及びスチレン等のスチレン系単量体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル及びイソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、イタコン酸、イタコン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、エチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリルアクリレート、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエチルオキシ)フェニル]フルオレン等の多官能性のアクリレート、シクロペンタジエン、シクロオクタジエン等の脂環式単量体、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン等の多官能性のスチレン系単量体(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ブタジエン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ビニルケトン、ビニルピリジン、並びにビニルカルバゾールが挙げられる。これらのラジカル重合が可能な単量体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて、用いることができる。
【0025】
<有機溶媒(C)>
有機溶媒(C)は、前記共重合体(A)とビニル単量体(B)とを溶解できるものであれば特に限定されない。有機溶媒(C)の具体例としては、テトラヒドロフラン(略称:THF)及びトルエンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
<重合>
重合は、前記共重合体(A)及び前記ビニル単量体(B)を前記有機溶媒(C)に溶解して得られる溶液の溶媒を乾燥後に加熱することで行われる。前記溶液を乾燥後に加熱する際の温度は、特に限定されないが、120~180℃が好ましく、125~175℃がより好ましく、130~170℃がさらに好ましい。加熱温度を180℃以下とすることによって使用できるビニル単量体(B)や基材の選択範囲が広がる。
また、前記溶液を加熱する時間は、特に限定されないが、15分~200分が好ましく、30分~180分がより好ましく、60分~150分がさらに好ましい。
前記共重合体(A)と前記ビニル単量体(B)との重合は、前記溶液を基板上に配置し、前記基板上で溶媒を乾燥後に加熱することによって行うことが好ましい。これにより、樹脂硬化物を基板の形状に合わせて成形することができる。
【0027】
<樹脂硬化物>
本発明の樹脂硬化物の製造方法により得られる樹脂硬化物は、赤外透過性及び屈折率が高いポリマーであり、赤外レンズ向け材料として特に有用である。また、本発明の樹脂硬化物は、プレス成形や射出成形により、フィルムやレンズ等の成形材として利用できるほか、マイクロレンズなどのコーティング材としても利用できる。
【0028】
[パターン材料及びパターン材料の製造方法]
本発明のパターン材料は、基板上に上述した本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物であるパターンを有する。
本発明のパターン材料の製造方法は、上述した本発明の熱硬化性樹脂組成物で基板上に任意のパターンを形成する工程を含む。
前記基板としては、ガラス、セラミックス、シリコンウェハ等の無機基板、樹脂基板等の有機基板が挙げられる。
【実施例0029】
以下、実験例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の例によって制限されるものではない。
後述する実験例のうち、実験例1~16が実施例であり、実験例17~20が比較例である。
【0030】
[共重合体(A)の製造例]
<材料>
●硫黄単量体(a1)
・硫黄単量体:硫黄,粉末(CAS RN:7704-34-9;富士フイルム和光純薬社製)
●ビニル基を有する化合物(a2)
・DIB:1,3-ジイソプロペニルベンゼン(CAS RN:3748-13-8;東京化成工業社製)
・DVB:ジビニルベンゼン(CAS RN:1321-74-0;東京化成工業社製)
●溶媒
・重クロロホルム:クロロホルム-d1(重水素化率99.8%)TMS 0.03vol%添加(関東化学社製)
・アニソール:アニソール(CAS RN:100-66-3;富士フイルム和光純薬社製)
【0031】
<製造例1>
・共重合体A-1の合成
シュレンク管に硫黄単量体60質量部、DIB40質量部、スターラーチップを加え、160℃に昇温し、30分撹拌した。次いで室温まで冷却後、得られた共重合体(A1)を反応容器から回収した。
表1の「組成」欄には、共重合体(A1)の合成に用いた硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)の量をそれぞれ質量部で示す。また、表1の「反応条件」欄には、硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)から共重合体(A1)を合成する際の反応条件(重合温度(℃)及び重合時間(分))を示す。
【0032】
<製造例2>
・共重合体A-2の合成
硫黄単量体50質量部、DIB50質量部を使用した以外は製造例1と同様にして重合を行い、共重合体(A2)を得た。
表1の「組成」欄には、共重合体(A2)の合成に用いた硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)の量をそれぞれ質量部で示す。また、表1の「反応条件」欄には、硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)から共重合体(A2)を合成する際の反応条件(重合温度(℃)及び重合時間(分))を示す。
【0033】
<製造例3>
・共重合体A-3の合成
硫黄単量体40質量部、DIB60質量部を使用した以外は製造例1と同様にして重合を行い、共重合体(A3)を得た。
表1の「組成」欄には、共重合体(A3)の合成に用いた硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)の量をそれぞれ質量部で示す。また、表1の「反応条件」欄には、硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)から共重合体(A3)を合成する際の反応条件(重合温度(℃)及び重合時間(分))を示す。
【0034】
<製造例4>
・共重合体A-4の合成
シュレンク管に硫黄単量体70質量部、DIB30質量部、スターラーチップを加え、160℃に昇温し、60分撹拌した。次いで室温まで冷却後、得られた共重合体(A4)を反応容器から回収した。
表1の「組成」欄には、共重合体(A4)の合成に用いた硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)の量をそれぞれ質量部で示す。また、表1の「反応条件」欄には、硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)から共重合体(A4)を合成する際の反応条件(重合温度(℃)及び重合時間(分))を示す。
【0035】
<製造例5>
・共重合体A-5の合成]
シュレンク管に硫黄単量体30質量部、DVB70質量部、スターラーチップを加え、120℃に昇温し、300分撹拌した。次いで室温まで冷却後、得られた共重合体(A5)を反応容器から回収した。
表1の「組成」欄には、共重合体(A5)の合成に用いた硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)の量をそれぞれ質量部で示す。また、表1の「反応条件」欄には、硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)から共重合体(A5)を合成する際の反応条件(重合温度(℃)及び重合時間(分))を示す。
【0036】
<製造例6>
・共重合体A-6の合成
硫黄単量体50質量部、DIB50質量部を使用した以外は製造例4と同様にして重合を行い、共重合体(A6)を得た。
表1の「組成」欄には、共重合体(A6)の合成に用いた硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)の量をそれぞれ質量部で示す。また、表1の「反応条件」欄には、硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)から共重合体(A6)を合成する際の反応条件(重合温度(℃)及び重合時間(分))を示す。
【0037】
<製造例7>
・共重合体A-7の合成
シュレンク管に硫黄単量体50質量部、DIB50質量部、スターラーチップを加え、160℃に昇温し、10分撹拌した。次いで室温まで冷却後、得られた共重合体(A7)を反応容器から回収した。
表1の「組成」欄には、共重合体(A7)の合成に用いた硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)の量をそれぞれ質量部で示す。また、表1の「反応条件」欄には、硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)から共重合体(A7)を合成する際の反応条件(重合温度(℃)及び重合時間(分))を示す。
【0038】
<製造例8>
共重合体A-8の合成
シュレンク管に硫黄単量体50質量部、DIB50質量部、スターラーチップを加え、160℃に昇温し、180分撹拌した。次いで室温まで冷却後、得られた共重合体(A8)を反応容器から回収した。
表1の「組成」欄には、共重合体(A8)の合成に用いた硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)の量をそれぞれ質量部で示す。また、表1の「反応条件」欄には、硫黄単量体(a1)とビニル基を有する化合物(a2)から共重合体(A8)を合成する際の反応条件(重合温度(℃)及び重合時間(分))を示す。
【0039】
[共重合体(A)中の硫黄単量体(a1)及びビニル基を有する化合物(a2)の反応率]
<共重合体(A)中の硫黄単量体(a1)の反応率>
共重合体(A)中の硫黄単量体(a1)の反応率を、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定した。
日立社製、X-DSC7000を用い窒素雰囲気化にて40℃から150℃まで10℃/minで昇温した際に得られる硫黄の融点に由来する吸熱ピークの吸熱量について、硫黄単量体を用いて検量線を作成し、共重合体中の硫黄単量体の反応率を算出した。
表1の「反応率」の「硫黄単量体(a1)」欄に、製造例1~9で合成した共重合体(A)中の硫黄単量体(a1)の反応率をそれぞれ示す。
【0040】
<共重合体(A)中のビニル基を有する化合物(a2)の反応率>
共重合体(A)中のビニル基を有する化合物(a2)の反応率を、1H‐NMRを用いて測定した。
共重合体(A)20mgに対してアニソール20mg、重クロロホルム1.1g加えて1H-NMR測定用サンプル溶液を作成後、日本電子社製JNM-ECZ400Sを使用し1H‐NMR測定を行った。(測定条件:積算回数16回、室温)
測定後のチャートをテトラメチルシランのプロトンピークの位置を0.00ppmとし、各ピークの位置を決定した。3.79ppmにピークをもつアニソールのメトキシ基のプロトンピークと5.00ppm~6.00ppmにピークをもつビニル単量体のビニル基のピークの積分比により共重合体(A)中のビニル基を有する化合物(a2)の反応率を算出した。
表1の「反応率」の「ビニル基を有する化合物(a2)」欄に、製造例1~9で合成した共重合体(A)中のビニル基を有する化合物(a2)の反応率をそれぞれ示す。
【0041】
【0042】
[実験例:熱硬化性樹脂組成物の製造と評価]
<原料>
●共重合体(A)
・上述した製造例で合成した共重合体(A1)~共重合体(A8)
●ビニル単量体(B)
・DVB:ジビニルベンゼン(CAS RN:1321-74-0;東京化成工業社製)
・EA0200:Ogsol EA-0200(フルオレン系2官能アクリレート,大阪ガスケミカル社製)
・ABE-300:NKエステル ABE-300(エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート,新中村化学工業社製)
・A-DCP:NKエステル A-DCP(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート,新中村化学工業社製)
●溶媒
・THF:テトラヒドロフラン(CAS RN:109-99-9;富士フイルム和光純薬社製)
・トルエン:トルエン(CAS RN:108-88-3;富士フイルム和光純薬社製)
・重クロロホルム:クロロホルム-d1(重水素化率99.8%)TMS 0.03vol%添加(関東化学社製)
・アニソール:アニソール(CAS RN:100-66-3;富士フイルム和光純薬社製)
【0043】
<実験例1~16>
サンプル瓶に、表2又は表3に記載の組成で共重合体(A)、ビニル単量体(B)、及び溶媒を加え、40℃で1時間撹拌し、均一な溶液を得た。
得られた熱硬化性樹脂組成物をガラス基板上に滴下し、室温にて1時間半静置し、乾燥した。
乾燥後、160℃に設定したオーブンに投入し2時間硬化させ膜状の樹脂硬化物を得た。
表2又は表3の「硬化条件」欄に硬化時の温度及び時間を示す。
得られた膜中の残存二重結合量について後述する方法で1H‐NMR測定により算出した。
【0044】
<実験例17>
サンプル瓶に、表3に記載の組成で共重合体(A)及び溶媒を加え、40℃で1時間撹拌し、均一な溶液を得た。
得られた熱硬化性樹脂組成物をガラス基板上に滴下し、室温にて1時間半静置し、乾燥した。
乾燥後、得られた膜中の残存二重結合量について上記の方法で1H‐NMR測定により算出した。
【0045】
<実験例18~20>
サンプル瓶に、表3に記載の組成で共重合体(A)及び溶媒を加え、40℃で1時間撹拌した。しかし、共重合体(A)は完全に溶解せず、均一な溶液は得られなかった。
【0046】
<溶解性>
共重合体(A)、ビニル単量体(B)及び溶媒、又は共重合体(A)及び溶媒を混合して40℃で1時間撹拌した際に、均一な溶液が得られれば「A」、均一な溶液が得られなければ「D」と判定した。
表2及び表3の「評価結果」の「溶解性」欄に判定結果を示す。
【0047】
<硬化後の膜中の残存二重結合量>
硬化後の膜中の残存二重結合量を、1H‐NMRを用いて測定した。
硬化後の膜20mgに対してアニソール20mg、重クロロホルム1.1g加えて1H-NMR測定用サンプル溶液を作成後、日本電子社製JNM-ECZ400Sを使用し1H‐NMR測定を行った。(測定条件:積算回数16回、室温)
測定後のチャートをテトラメチルシランのプロトンピークの位置を0.00ppmとし、各ピークの位置を決定した。3.79ppmにピークをもつアニソールのメトキシ基のプロトンピークと5.00ppm~6.00ppmにピークをもつビニル単量体のビニル基のピークの積分比により硬化後の膜中の残存二重結合量を算出した。
また、以下の判断基準に従って判定を行った。
A:硬化後の膜中の残存二重結合量が1%以下である。
B:硬化後の膜中の残存二重結合量が1%超5%以下である。
C:硬化後の膜中の残存二重結合量が5%超である。
表2及び表3の「評価結果」の「硬化後の膜中の残存二重結合量」欄に、実験例1~16で得られた硬化後の膜中の残存二重結合量(%)及び判定結果を示す。
【0048】
【0049】
【0050】
<結果の説明>
●溶解性
実験例1~17で得られた熱硬化性樹脂組成物は、均一な溶液であり、使用した共重合体は完全に溶解していた。
これに対し、実験例18~20で得られた熱硬化性樹脂組成物は、共重合体のビニル単量体の反応率が50~70%の範囲外であるため、共重合体は完全に溶解しなかった。
【0051】
●硬化後の膜中の残存二重結合量
実験例1~16で得られた樹脂硬化物は、硬化後の膜中に未反応の二重結合が存在しなかった。
これに対し、実験例17では、硬化反応が不十分であるため、硬化後の膜中に多量の二重結合が残存していた。