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特開2024-93169プロトン伝導体、プロトン伝導性電解質膜及びそれらの製造方法並びに燃料電池
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  • 特開-プロトン伝導体、プロトン伝導性電解質膜及びそれらの製造方法並びに燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093169
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】プロトン伝導体、プロトン伝導性電解質膜及びそれらの製造方法並びに燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1246 20160101AFI20240702BHJP
   H01M 8/1016 20160101ALI20240702BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240702BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240702BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240702BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01M8/1246
H01M8/1016
H01M8/12 101
H01B1/06 A
H01B1/08
C01B25/45 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209368
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福岡 宏
(72)【発明者】
【氏名】茂籠 悠介
【テーマコード(参考)】
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA16
5G301CA17
5G301CA19
5G301CD01
5H126AA06
5H126BB06
5H126FF05
5H126GG01
5H126GG12
5H126HH01
5H126HH08
5H126JJ03
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】200~400℃の中温度領域でプロトン伝導率を向上させ、加熱時の強度を改善したプロトン伝導体を提供する。
【解決手段】
下記一般式(1)で示されるランタノイド含有ルテニウムリン酸水素塩を含むことを特徴とする。
[化1]
LnRu (1)
(ここで、Aはアルカリ金属元素、Lnはランタノイド元素、a,b,c,d,eは自然数、fはa+b+3c+3d+5e=2fの電荷中性条件を満たすように規定される値である)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるランタノイド含有ルテニウムリン酸水素塩を含むことを特徴とするプロトン伝導体。
[化1]
LnRu (1)
(ここで、Aはアルカリ金属元素、Lnはランタノイド元素、a,b,c,d,eは自然数、fはa+b+3c+3d+5e=2fの電荷中性条件を満たすように規定される値である)
【請求項2】
前記アルカリ金属元素がリチウム又はナトリウムであり、前記ランタノイド元素がランタンであることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導体。
【請求項3】
ランタンの含有率が、プロトン伝導体全体の重量の2.4~9.2wt%であることを特徴とする請求項2に記載のプロトン伝導体。
【請求項4】
ルテニウムとリンの含有比率が、モル比で1:8~1:13であることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のプロトン伝導体を含有し、膜厚が10~500μmであることを特徴とするプロトン伝導性電解質膜。
【請求項6】
請求項5に記載のプロトン伝導性電解質膜を含む燃料電池。
【請求項7】
下記一般式(1)で示されるランタノイド含有ルテニウムリン酸水素塩を含むプロトン伝導体の製造方法であって、
アルカリ金属原料とルテニウム原料とリン酸とを混合して前駆体を作製する工程と、
前記前駆体とランタノイド原料を混合して混合物を作製する工程と、
前記混合物を加熱する工程と、
を備えることを特徴とするプロトン伝導体の製造方法。
[化2]
LnRu (1)
(ここで、Aはアルカリ金属元素、Lnはランタノイド元素、a,b,c,d,eは自然数、fはa+b+3c+3d+5e=2fの電荷中性条件を満たすように規定される値である)
【請求項8】
下記一般式(1)で示されるランタノイド含有ルテニウムリン酸水素塩を含むプロトン伝導性電解質膜の製造方法であって、
アルカリ金属原料とルテニウム原料とリン酸とを混合して前駆体を作製する工程と、
前記前駆体とランタノイド原料を混合して混合物を作製する工程と、
前記混合物を加熱する工程と、
加熱した前記混合物を有機薄膜によって挟み込んだ状態で、加熱及び加圧し、プロトン伝導性電解質膜を形成する工程と、
前記有機薄膜から前記プロトン伝導性電解質膜を剥離する工程と、
を備えることを特徴とするプロトン伝導性電解質膜の製造方法。
[化3]
LnRu (1)
(ここで、Aはアルカリ金属元素、Lnはランタノイド元素、a,b,c,d,eは自然数、fはa+b+3c+3d+5e=2fの電荷中性条件を満たすように規定される値である)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導体、プロトン伝導性電解質膜及びそれらの製造方法並びに燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代エネルギー貯蔵システムとしての燃料電池の開発において、安定で高性能な電解質材料の開発が非常に大きな比重を占めている。既にこれまでに500℃以上の高温や、100℃以下の低温で高いプロトン伝導率を有する電解質材料が開発されている。100℃以下の温度で使用される電解質材料としては、固体高分子形燃料電池に使用されるフッ素樹脂系イオン交換膜がよく知られている。500℃以上の高温で使用される固体電解質としては、BaCe0.80.23-aのようなペロブスカイト型金属酸化物が500℃よりも高い温度で高いイオン伝導率を示す。
【0003】
しかしながら、最もエネルギー効率が高く、想定される使用環境に近い200~350℃の中温度領域で高いプロトン伝導率を示す固体電解質材料は、まだ殆どなく、現在、高性能な固体電解質材料の開発が精力的に続けられている。
【0004】
例えば、100℃以上の乾燥雰囲気中においても高いプロトン伝導性を示すプロトン伝導性材料として、ホスホシリケートゲル又はシリカゲルにリン酸金属塩を添加したプロトン伝導性組成物(例えば、特許文献1参照)、結晶性リン酸金属塩をメカニカルミリングにより処理して結晶性の一部を乱すとともにフリーのリン酸を生成させることによってプロトン伝導率を向上させたリン酸金属塩を含有するプロトン伝導性材料(例えば、特許文献2参照)などのリン酸塩系の材料が開発されている。
【0005】
ここで、上記従来の固体電解質においては、構造中にトンネルや層間といったナノ空間を構築し、そこを伝導パスにするという思想で設計された結晶質化合物が主であるが、このような固体電解質は、大きな空間を創生することが困難であるとともに、高温下で合成する必要があるため、多くのエネルギーを必要とし、製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
また、従来のリン酸塩系の固体電解質材料においては、リン酸分が溶出しフレームを腐食させる場合もある。このような状況下において、簡便な製造方法で安価に製造することが可能であり、例えば200~400℃の中温度領域において高いプロトン伝導率を有するプロトン伝導体の開発が待たれている。
【0007】
本願の発明者は、特許文献3において、非晶質又は非晶質を主体とするリン酸ルテニウム系のプロトン伝導体を提案した。特許文献3で得られたプロトン伝導体の前駆体は緻密性に欠けた材料であった。そして、特許文献3で得られたプロトン伝導体は、前駆体がセラミックス製容器内で1週間以上加熱されて塊(バルク)状に形成されたものであり、セラミックス製容器ごと切断した状態で計測されて、200~350℃の中温度領域において高いプロトン伝導率を有していた。
【0008】
ところで、燃料電池の実用化においては、単電池セルを直列に積層したスタックと呼ばれる構造体を構成する必要があり、このようなプロトン伝導体を燃料電池へ適用し、実用化を図るには、このスタック作成が可能となるよう薄膜化することが必須である。しかしながら、本願の発明者が特許文献3で得たプロトン伝導体は、前駆体が緻密性に欠けていたため、前駆体を焼結させたバルク試料において電解質として高い機能を有することが示唆されたのみであり、薄膜化のための知見は得られていなかった。そこで、本願の発明者は、特許文献4において、リン酸ルテニウム系のプロトン伝導体を薄膜化するための新しい製造方法及び扱いやすい組成比を提案するとともに、燃料電池としての性能を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3939212号公報
【特許文献2】特許第3916139号公報
【特許文献3】特許第6998586号公報
【特許文献4】特開2022-116575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献4で開示されたリン酸ルテニウム系のプロトン伝導性電解質膜は、250℃付近から強度が低下するため、上記中温度領域で動作可能な燃料電池として使用するにはやや懸念があった。また、燃料電池としての出力をより高めることも課題として残されていた。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、加熱時の強度の改善に加え、200~400℃の中温度領域におけるプロトン伝導率を向上したプロトン伝導体及びプロトン伝導性電解質膜、並びに、安全性及び安定性を向上した燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本開示のプロトン伝導体は、下記一般式(1)で示されるランタノイド含有ルテニウムリン酸水素塩を含むことを特徴とする。なお、本発明において「ランタノイド(Ln)」は、原子番号57番のランタン(La)から71番のルテチウム(Lu)までの15元素の総称として用いる。
【0013】
[化1]
LnRu (1)
(ここで、Aはアルカリ金属元素、Lnはランタノイド元素、a,b,c,d,eは自然数、fはa+b+3c+3d+5e=2fの電荷中性条件を満たすように規定される値である)
【発明の効果】
【0014】
本開示のプロトン伝導体は、従来のリン酸ルテニウム系プロトン伝導体の組成をベースにさらに第6成分としてランタノイド元素を添加することで、プロトン伝導率を向上させ、加熱時の強度を改善した。このプロトン伝導体は、安全性及び安定性の高い燃料電池用の固体電解質として提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態のプロトン伝導体及びプロトン伝導性電解質膜の製造方法を説明するフローチャートである。
図2】実施例2から5と比較例1のプロトン伝導性電解質膜のXRDパターンである。
図3】実施例2から5と比較例6のプロトン伝導性電解質膜のアレニウスプロットである。
図4】実施例1及び6から8と比較例1のプロトン伝導性電解質膜のアレニウスプロットである。
図5】プロトン伝導性電解質膜を用いた燃料電池の概略図である。
図6】実施例1と比較例6のプロトン伝導性電解質膜を用いた燃料電池のI-V特性である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<プロトン伝導体>
本発明のプロトン伝導体は、上記特許文献3及び上記特許文献4に記載されるリン酸ルテニウム系プロトン伝導体の組成をベースとし、そこへさらに第6の成分としてランタノイド元素を添加したことでプロトン伝導率を向上するものである。このプロトン伝導体は、下記一般式(1)で示されるランタノイド含有ルテニウムリン酸水素塩を含む。
【0017】
[化2]
LnRu (1)
(ここで、Aはアルカリ金属元素、Lnはランタノイド元素、a,b,c,d,eは自然数であって、fはa+b+3c+3d+5e=2fの電荷中性条件を満たすように規定される値である)
例えば、アルカリ金属Aがナトリウム及びランタノイド元素Lnがランタンであって、a=11、b=4、c=3、d=1、e=13の場合、a+b+3c+3d+5e=11+4+9+3+65=2fとなるため、f=46となり、H11NaLaRu1346となる。
【0018】
本発明のプロトン伝導体は、ランタノイド元素を含有するルテニウムリン酸水素塩であり、非晶質成分又は非晶質成分を主体とする。また、本発明のプロトン伝導体は、従来のリン酸ルテニウム系のプロトン伝導体とは異なり、結晶成分と非晶質成分とが混在した形態であってもよい。結晶成分と非晶質成分とが混在した形態とすることで、高いプロトン伝導率だけでなく、加熱時の強度向上も可能となる。従来のリン酸塩系のプロトン伝導体は、結晶化によってプロトン伝導率が大幅に低下することが知られていたため、非晶質状態を維持することのできるプロトン伝導体が有望であると考えられていた。しかしながら、本発明のランタノイド元素を添加したプロトン伝導体は、結晶成分と非晶質成分とが混在した状態となっても非晶質成分によって高いプロトン伝導率を示し、さらに、結晶成分がスペーサーの役割を果たすことで加熱時の強度が向上すると考えられる。
【0019】
非晶質のリン酸水素塩は特定のリン酸水素塩に限定されるものではなく、トリポリリン酸水素塩、ピロリン酸水素塩、及びオルトリン酸水素塩が例示される。例えば、オルトリン酸イオン、ピロリン酸イオン、トリポリリン酸イオン、およびそれ以上の縮合度のリン酸イオンを含むリン酸水素塩を本発明のプロトン伝導体として好適に使用することができる。
【0020】
また、本発明のプロトン伝導体は、リン酸水素塩とあるように、水素を全く含まないリン酸塩は本発明に含まれない。
【0021】
非晶質のリン酸水素塩が高いプロトン伝導率を示す理由は、次のように推察される。なお、非晶質とは隣接原子との短距離秩序は保ちつつ、長距離秩序の無い状態を言う。
【0022】
非晶質の縮合リン酸水素塩は、複数のPO四面体の中距離秩序を持った物質であり、この中距離秩序内ではプロトンは自由に移動することができ、さらに非晶質となることで縮合リン酸イオン間のパスが形成され、プロトンの拡散が容易に起こると考えられる。プロトンの場合、他のイオンに比べて大きさが極端に小さいため、他のイオン伝導体とは異なり、その移動に大きなトンネルや層間は必要なく、プロトンが移動するためのパスが繋がっていればよいと考えられる。トンネル構造や層状構造をもつ結晶質の物質では、このパスが特定の結晶軸方向にのみ繋がっていて、プロトンはそれ以外の方向へ移動することが困難である。しかしながら、非晶質の固体中では、長距離秩序の喪失に伴う原子レベルにおける構造の乱れによって、構造中に欠陥や、若干不安定な局所構造が多数発生するため、プロトンが通るためのパスが無数に存在すると考えられ、その移動方向にも制約が発生しない。これにより高いプロトン伝導率を示すものと推察される。また、添加されたランタノイドが、このようなプロトン伝導性を担う非晶質リン酸塩中に取り込まれ、ランタノイドとリン酸とが結合する過程において、より多くの可動性のプロトンを生成させることにより、プロトン伝導性を向上すると考えられる。さらに、結晶成分と非晶質成分との粒界部分におけるプロトンの伝導速度の向上も、プロトン伝導性の向上に寄与すると考えられる。
【0023】
なお、このような縮合リン酸イオンのネットワークに、オルトリン酸イオンを組み合わせた場合であっても、同様のプロセスにより、プロトン伝導が可能になるものと考えられる。
【0024】
また、本発明のプロトン伝導体は、結晶成分として、ランタノイド元素がアルカリ金属及びリン酸と反応して、例えば、LaNa(POといったランタノイド元素のリン酸塩を含むことが好ましい。この結晶成分は、プロトン伝導性を示さないが、スペーサーの役割を果たすことで加熱時の強度が向上すると考えられる。
【0025】
本発明のランタノイド含有ルテニウムリン酸水素塩において、ランタノイド元素として、原子番号57のランタンから原子番号71のルテチウムまでのいずれかを用いることができる。ランタノイド元素は、最外殻の電子軌道である5d軌道と6s軌道の電子の詰まり方がほとんど同じであり、セリウムから順に内殻の電子軌道である4f軌道に電子が充填されていくという、ランタノイド元素特有の特性を有している。ランタンからルテチウムまで、最外殻電子軌道の詰まり方がほとんど同じであることにより、ランタノイド元素同士の化学的性質は極めて類似する。そのため、本発明のランタノイド含有ルテニウムリン酸水素塩において、ランタノイド元素のいずれを用いても、プロトン伝導体として非常によく似た性質を示すと考えられる。ランタノイド元素は1種類のみからなる必要はなく、複数を組み合わせて添加してもよい。
【0026】
本発明のランタノイド含有ルテニウムリン酸水素塩において、ルテニウム(Ru)は、3価の酸化状態をとる遷移金属(3価の酸化状態をとる遷移金属を主体としたものを含む)であって、200~350℃の温度において、そのリン酸水素塩が非晶質又は大部分が非晶質状態で安定的に存在し得る。本発明のプロトン伝導体は、200~350℃の中温度領域で使用することを予定しているため、この温度領域において、非晶質又は大部分が非晶質状態で安定的に存在し得るルテニウムを使用することで、安定した性能を得ることができる。必ずしも遷移金属はルテニウム1種類のみからなる必要はなく、他の遷移金属を添加してもよい。
【0027】
また、本発明のプロトン伝導体は、ルテニウムリン酸水素塩のみからなるものに限定されず、ルテニウムリン酸水素塩を含有すればよく、これらに悪影響を及ぼさないケイ酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、硝酸塩などが含まれていてもよい。
【0028】
また、本発明においては、アルカリ金属元素としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムが使用できる。上記特許文献3では、リン酸ルテニウム系プロトン伝導体において、アルカリ金属としてリチウムとナトリウムをそれぞれ用いた実施例が開示されており、いずれを用いた場合もプロトン伝導体としての性質に大きな差異がないことがわかっている。そのため、従来のリン酸ルテニウム系プロトン伝導体の組成をベースとする本発明においても、アルカリ金属として、少なくともリチウム又はナトリウムを使用することが可能であり、いずれも同じような性質を示すと考えられる。
【0029】
なお、カリウム、ルビジウム、及びセシウムのリン酸塩は、そのアルカリイオン周りの化学的環境が、ナトリウムのリン酸塩中のナトリウムイオンの化学的環境と類似しており、各元素単独でリン酸塩結晶になった場合も同形構造を取ることが多いため、ナトリウムのリン酸塩と同様の性質を示す。また、本発明のプロトン伝導体は、必ずしも一種類のアルカリ金属元素のみを含有する必要はなく、2種類以上のアルカリ金属元素を含有してもよい。
【0030】
<プロトン伝導性電解質膜>
上記した本発明のプロトン伝導体を成形し、このプロトン伝導体を含有する膜厚10~500μmのプロトン伝導性電解質膜を製造することが可能である。また、このプロトン伝導性電解質膜を含む燃料電池を製造することも可能である。
【0031】
<プロトン伝導体及びプロトン伝導性電解質膜の製造方法>
次に、本発明のプロトン伝導体及びプロトン伝導性電解質膜の製造方法の一例を説明する。なお、本発明のプロトン伝導体及びプロトン伝導性電解質膜の製造方法は、以下の方法に限定されるものではない。
【0032】
水とアルカリ金属原料とルテニウム原料とリン酸とを混合し、所定の温度、所定の時間加熱し反応させる。これにより非晶質又は非晶質を主体とするルテニウムリン酸水素塩を含有する前駆体を得る。この前駆体を潮解させ、液体化させる。液体化させた前駆体とランタノイド原料とを混合して混合物を作製し、この混合物を加熱することにより本発明のプロトン伝導体を得ることができる。さらにこのプロトン伝導体を有機薄膜によって挟み込んだ状態で、加熱及び加圧することにより、プロトン伝導性電解質膜を得ることができる。
【0033】
アルカリ金属原料としては、アルカリ金属の炭酸塩、酸化物、水酸化物、酢酸塩、及びハロゲン化物を使用することができるが、簡便性の観点から、炭酸塩を使用することが好ましい。
【0034】
ルテニウム原料としては、ルテニウムの硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、ハロゲン化塩、及びリン酸塩を使用することができる。無水物は反応性が悪いので、水和物が好ましい。粉末状のルテニウム原料を使用する場合は、粒子径が小さいほど好ましい。ルテニウム原料は、予め水やアルコールに溶解させた状態で使用してもよい。
【0035】
リン酸としては、オルトリン酸、ピロリン酸を好適に使用可能であり、縮合リン酸を使用することも可能である。これらリン酸は水に溶解させた水溶液として使用してもよい。
【0036】
水は、イオン交換水、純水を使用することができる。なお、水は必須ではなく、必要に応じて、適宜、混合すればよい。
【0037】
ランタノイド原料としては、ランタノイドの酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、ハロゲン化塩、及びリン酸塩を使用することができる。ランタノイド原料は、予め水やアルコールに溶解させた状態で使用してもよい。
【0038】
図1は、本実施形態のプロトン伝導体及びプロトン伝導性電解質膜の製造方法の処理の流れを説明するフローチャートである。本実施形態のプロトン伝導体及びプロトン伝導性電解質膜の製造方法は、図1に示すように、アルカリ金属原料とルテニウム原料とリン酸とを混合する工程S1と、その混合物を加熱し、前駆体を作製する工程S2と、その前駆体を液体化する工程S3と、液体化した前駆体にランタノイド原料を混合して混合物を作製する工程S4と、その混合物を焼成してプロトン伝導体を作製する工程S5とを含む。その後、プロトン伝導性電解質膜を製造する工程は、得られたプロトン伝導体(焼成した混合物)を粉末化して用いる場合は粉末化工程S6を経て、粉末化させたプロトン伝導体を有機薄膜上に敷き詰める、又は、焼成後のプロトン伝導体を有機薄膜上に配置する工程S7と、有機薄膜上のプロトン伝導体の上にさらに有機薄膜を重ね合わせる工程S8と、有機薄膜によって挟み込んだ状態で、プロトン伝導体を加熱してプロトン伝導性電解質膜を形成する工程S9と、有機薄膜からプロトン伝導性電解質膜を剥離する工程S10とを含む。以下、各工程について具体的に説明する。
【0039】
[原料の混合工程S1]
水とアルカリ金属原料とルテニウム原料とリン酸は均一状態にすることが好ましい。粉末状のルテニウム原料にリン酸水溶液を加えることで、簡単に水とアルカリ金属原料とルテニウム原料とリン酸とを均一状態とすることができる。なお、添加するリン酸量が多い場合は水を加えることは必須ではない。また、この過程でアルコールを添加することで同様に均一化を促進することが可能である。
【0040】
アルカリ金属原料とリン酸との混合割合は、プロトン伝導性電解質膜におけるアルカリ金属とリンとの含有比率が、モル比で1:2~1:4であることが好ましい。
【0041】
また、ルテニウム原料とリン酸との混合割合は、プロトン伝導性電解質膜におけるルテニウムとリンとの含有比率が、モル比で1:8~1:13であり、より好ましくは1:11~1:13である。また、水を添加する場合、水の添加量は、リンに対して0.5~10当量が好ましい。
【0042】
なお、次の合成工程S2において、ルテニウムとリンとの含有比率がモル比で1:6~1:13の範囲内では、リン成分が多くなるにつれて脱水縮合にかかる時間が長くなることが分かった。モル比が、ルテニウム1に対してリンが14以上の含有比率の試料では、反応に時間がかかり、取り扱いが難しくなる。そのため、製造性の観点から、ルテニウムとリンのモル比がルテニウム1に対してリンが13以下であることが好ましい。
【0043】
また、本発明のプロトン伝導性電解質膜では、ランタノイド元素がアルカリ金属及びリン酸と反応して、例えば、LaNa(POといったランタノイド元素のリン酸塩を形成し、それが微細な針状結晶となってスペーサーの役割を果たすことで加熱時の強度が向上すると考えられる。また、非晶質相に固溶したランタノイド元素は、非晶質相の縮合リン酸塩の構造をより密に変化させることにより、非晶質相自体の強度も向上すると考えられる。ルテニウムとリンとの含有比率において、リン成分が少なくなるにつれてランタノイド元素のリン酸塩が結晶化し難くなり、プロトン伝導体において結晶成分が含まれ難くなる。そのため、加熱時の強度向上の観点から、ルテニウムとリンのモル比がルテニウム1に対してリンが8以上であることが好ましく、ルテニウム1に対してリンが11以上であればより好ましい。
【0044】
[前駆体の合成工程S2]
水とアルカリ金属原料とルテニウム原料とリン酸との混合物の加熱は、ガスバーナー、電気炉等を用いて所定の温度で所定の時間行う。
【0045】
水とアルカリ金属原料とルテニウム原料とリン酸との混合、加熱に伴い脱水、縮合反応が起こり、ガス及び水蒸気が発生する。例えば、ルテニウム原料に金属塩化物を使用すると塩化水素ガスが発生する。この塩化水素ガスは反応初期段階に多く、反応後半では水蒸気が主となる。
【0046】
加熱温度は、200~350℃の温度が好ましい。ルテニウムは、反応速度が遅く、温度を高くしても結晶化しにくいので、上記中温度領域で加熱することが好ましい。加熱時間は1時間程度が好ましい。
【0047】
なお、まず、塩化ルテニウム水和物とリン酸とを反応させて、遷移金属の非晶質リン酸塩である非晶質リン酸ルテニウムを合成し、これにアルカリ金属原料と、必要に応じてリン酸とを混合し、加熱反応することも可能である。
【0048】
[液体化工程S3]
上記方法により合成した前駆体は、合成直後は脆い塊状であるが、時間とともに粘性が増してくる。この前駆体を大気中に置いておくことで潮解させ、液体化することで、次のランタノイド原料の混合が容易となる。前駆体の液体化は潮解に限られず、水を加えてもよい。
【0049】
[ランタノイド原料の混合工程S4]
液体化した前駆体にランタノイド原料を混合して混合物を作製する。ランタノイド原料としてランタンを用いる場合、ランタンの含有率が、プロトン伝導体全体の重量の2.4~9.2wt%となるように調整して添加することが好ましい。
【0050】
[焼成工程S5]
ランタノイド原料を混合した混合物を、電気炉で焼成して固体のプロトン伝導体を作製する。例えば、400℃で約20~40時間加熱することが好ましい。
【0051】
[粉末化工程S6]
得られたプロトン伝導体(焼成した混合物)を粉末化させて用いても良い。
【0052】
[有機薄膜上への粉末の敷詰めまたは配置工程S7]
粉末化させたプロトン伝導体を用いる場合は、上記粉末化工程S6において得られた粉末状のプロトン伝導体を、有機薄膜で形成された型の中へ敷き詰める。粉末化した前駆体を用いる場合は、有機薄膜で型を形成することにより、特定の形状の電解質膜を形成することが可能となる。また、粉末化しない場合は上記焼成工程S5にて得られた固体のプロトン伝導体をそのまま有機薄膜上に配置してもよい。
【0053】
有機薄膜は、300℃以上で加熱してもそれ自身が変形することなく、前駆体と反応することのない材質の板状またはシート状の材料であり、ポリイミド系材料またはポリテトラフルオロエチレン系材料が好ましい。ポリイミド系材料として例えばカプトン(登録商標)を使用することが可能であり、ポリテトラフルオロエチレン系材料として例えばテフロン(登録商標)を使用することが可能である。
【0054】
[有機薄膜の重ね合わせ工程S8]
上記有機薄膜上への敷詰めまたは配置工程S7において得られた有機薄膜上の前駆体の上に、さらに有機薄膜を重ね合わせる。上下の有機薄膜は、同じ材料に限られず、例えば、ポリイミドとテフロンを組み合わせて用いてもよい。
【0055】
[加熱成形工程S9]
上記有機薄膜の重ね合わせ工程S8により、有機薄膜によって挟み込んだ状態で、前駆体を電気炉内で加熱しながら加圧し、プロトン伝導性電解質膜を形成する。加熱温度は、200~400℃であり、加熱時間は、1~2時間である。
【0056】
ここで、前駆体を加熱しながら圧力を加えることで、得られるプロトン伝導性電解質膜の膜厚の調整を行うことが可能である。この工程において、従来公知のホットプレス法を用いて加熱および加圧形成することも可能である。
【0057】
また、粉末化させた前駆体を用いる場合は、有機薄膜により形成した型の厚みを変化させることにより、得られるプロトン伝導性電解質膜の膜厚の調整を行うことが可能である。
【0058】
薄膜化の方法や膜厚は特に制限されるものではない。例えば、液体化させた前駆体は、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、カーテンコート法等の従来公知の塗布法によって、有機薄膜上に塗布することが可能であり、従来公知の薄膜の製造装置によって所望の膜厚へ形成可能である。
【0059】
プロトン伝導性電解質膜の膜厚は、既存の薄膜の製造装置によって製造可能な10~500μmが好ましい。10μm以上であることで、粒界のないガラス状のプロトン伝導性電解質膜が電解質膜として十分な機械強度を得られるため好ましい。膜厚が上記範囲内であれば、電解質としての汎用性が高い。
【0060】
[剥離工程S10]
上記加熱成形工程S9において、所定温度で所定時間経過した後、室温に戻し、有機薄膜からプロトン伝導性電解質膜を剥離することで、プロトン伝導性電解質膜が得られる。
【実施例0061】
以下に、プロトン伝導性電解質膜の製造方法を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。以下では、実施例1の製造方法を詳細に示す。
【0062】
<実施例1 Ru:Na:P(+La)=1:4:13(+6.7wt%)>
まず、粉末状の塩化ルテニウム水和物であるRuCl・nHO(Ru:38.23質量%、田中貴金属工業(株)製)3.03 gと、ナトリウムの無水炭酸塩(NaCO、ナカライテスク(株)製、2.41g)、85質量%のオルトリン酸水溶液(ナカライテスク(株)製)16.99 gとを、セラミックス製蒸発皿中で混合し、空気中において、ガスバーナーで60分間、加熱反応させ、その後、室温に冷却することにより、粘張性の高い黒褐色の前駆体を作製した。これを大気中に置いておくことで潮解させ、液体化した。この液体化した前駆体に、ランタノイド原料として炭酸ランタンの水和物LaCO・8HOを、ランタン量がプロトン伝導体全体の重量の6.7wt%となるように添加し、混合した。ランタンを混合した混合物を、空気中400℃で一晩焼成し、プロトン伝導体を得た。
【0063】
次に、ガラス板の上にテフロン(登録商標)シートを敷き、その上にカプトン(登録商標)シートを刳り抜いた型をスペーサーとして置いた。そして、その型の中に得られたプロトン伝導体を配置し、その上にテフロンシートを重ね、さらにその上からカプトンシートとガラス板を重ねた。
【0064】
上記のように組み立てたサンプルを、クリップで圧力をかけながら電気炉内にて290から300℃で1時間加熱した。加熱終了後、室温に戻るまで電気炉内で放置した。そして、テフロンシートおよびカプトンから剥離することにより、プロトン伝導性電解質膜を得た。
【0065】
生成物の同定は、粉末X線回折測定(XRD)により行った。より具体的には、粉末X線回折測定装置(ブルカージャパン株式会社製、商品名:D2-Phaser、Cu Kα線)を用い、測定角(2θ)5°から70°の範囲におけるX線回折測定を行い、試料の非晶質性の確認、および結晶相の同定を行った。
【0066】
また、生成物の縮合度を見積もるために、赤外吸収分光分析(FT/IR)を行った。より具体的には、試料をKBr製単結晶板に挟んで加圧成型し、赤外吸光光度計(JASCO製、商品名:FT/IR-4100)を用い、透過法によって赤外吸収スペクトルを測定した。そして、得られたスペクトルについて、P-O-P、P-O…M、P-O-H、O-Hの各吸収バンドの位置と形状を調べることにより、いずれの試料も縮合リン酸イオンを含んでいることを確認した。
【0067】
<プロトン伝導率の測定>
複素インピーダンス法により、Cole-Coleプロット(ナイキストプロット)を用いて、各実施例の使用における抵抗値(インピーダンス)を測定し、生成物のプロトン伝導率を計算した。より具体的には、インピーダンスアナライザー(HIOKI社製、商品名:I M3536LCRメーター)を用いて、42ヘルツ~5メガヘルツまでインピーダンスを測定し、室温から400℃までのCole-Coleプロット(ナイキストプロット)を得た。
【0068】
なお、測定プログラムとして、HIOKI LCRメーターサンプルアプリケーションを使用し、42ヘルツ~5メガヘルツの測定周波数(交流)において、室温(25℃)~400℃で測定した。
【0069】
また、測定用の試料は、プロトン伝導性電解質膜を、2枚の電極板によって挟み込み、一端が密封されたガラス管に入れ、更に、このガラス管を電気炉内にセットした。そして、セット後、ガラス管内をロータリーポンプで真空引きし、室温から昇温しながらプロトン伝導率を測定した。なお、最高温度(300から400℃)に到達後、室温に冷却し、室温に到達後、再び昇温過程におけるプロトン伝導率を測定し、測定値の再現性を確かめた。
【0070】
その他の組成として、実施例2~8及び比較例1~7についてもプロトン伝導性電解質膜を製造し、プロトン伝導率を測定した。製造工程は実施例1とほぼ同じであるため説明を省略し、各実施例の組成、製造条件、試料の厚さ及びプロトン伝導率の測定結果を下記表1から表3に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示す比較例1は、ランタンを含まない組成であること以外は実施例1とほぼ同じである。また、比較例2から比較例5は、前駆体は実施例1と同じルテニウムリン酸水素塩であるが、ランタノイドではない他の元素(Zn,Co,Ni,Mn)を添加している。
【0073】
表1に示すように、実施例1は、比較例1と比較して、200℃におけるプロトン伝導率が大幅に向上した。ランタノイドではない他の元素を添加した場合、プロトン伝導率は低下した。
【0074】
【表2】
【0075】
表2は、前駆体のモル比を変えて製造したプロトン伝導性電解質膜のプロトン伝導率を示す。実施例2から実施例5に示すように、ルテニウムとリンとの含有比率がモル比で1:8~1:13の範囲内で、200℃から330℃の中温度領域において高いプロトン伝導性を示した。
【0076】
【表3】
【0077】
表3は、前駆体のRu:Na:Pのモル比を固定し、ランタンの添加量を変化させた各プロトン伝導性電解質膜のプロトン伝導率を示す。表3に示すように、実施例1、6、7及び8において、200℃から300℃の間で高いプロトン伝導率を示した。
【0078】
ここで、実施例及び比較例のプロトン伝導性電解質膜の状態について言及すると、比較例1は非晶質又は非晶質を主体とするものであったが、実施例1、3、4及び5と、比較例2から5は、非晶質成分と結晶成分が混在した状態であることがXRD解析によって確認された。図2に、実施例2から5と比較例1のプロトン伝導性電解質膜のXRDパターンを示す。実施例3から5では、NaLa(POの特徴的なピークが観測されたことから、結晶成分が混在していると判断できる。なお、NaLa(POは200℃~400℃でプロトン伝導性を示さない。
【0079】
比較例2から比較例5もまた、プロトン伝導性に寄与しない結晶成分が混在していた。比較例2から比較例5は、プロトン伝導性に寄与する非晶質成分が少なくなることで、プロトン伝導性が低下するという従来考えられていた通りの性質を示した。
【0080】
図3は、実施例2から5と比較例6のプロトン伝導性電解質膜のアレニウスプロットであり、実施例3から5が比較例6よりも高いプロトン伝導性を有していることが分かる。なお、図3には表れていないが、実施例2のプロトン伝導性電解質は330℃以上で高い6.1×10-3S/cmという高いプロトン伝導率を示す。
【0081】
図2でNaLa(POのピーク強度が他のサンプルよりも強い、つまり、結晶成分の多い実施例3のサンプルは、図3においてプロトン伝導率が実施例4や5よりもやや低かった。この結果より、実施例1においても、プロトン伝導性に寄与しているのは非晶質成分であると考えられる。非常に興味深いことに、実施例1と3から5は非晶質成分と結晶成分が混在した状態であるにも関わらず、高いプロトン伝導性を示した。
【0082】
図4は、表3に対応した実施例1、6から8と比較例1のプロトン伝導性電解質膜のアレニウスプロットである。実施例1、6から8では、200℃から250℃で10-2Scm-1台の非常に高いプロトン伝導率を示すことがわかった。
【0083】
<燃料電池の構成>
図5における本発明の燃料電池1は、燃料極2と空気極3の間にプロトン伝導性電解質膜4を挟んだ最小単位である単セルである。なお、ここでは、単セルを備える燃料電池1について説明するが、本発明はこれに限らず、複数のセルを直列に積層した積層体(スタック)を有する燃料電池としてもよい。
【0084】
燃料電池1は、燃料極2と、空気極3と、燃料極2および空気極3の間に設けられたプロトン伝導性電解質膜4とを有している。燃料極2へは、燃料として例えば水素ガスが供給され、空気極3へは酸化剤として酸素が大気中から供給されるように構成されている。燃料および酸化剤は水素ガスおよび空気に限定されることはなく、燃料として、メタノール、エタノール、グルコース等を用い、酸化剤として、酸素を用いることも可能である。燃料極2および空気極3は、配線5を介して外部負荷6へ電気的に接続されており、外部負荷6に電力を供給し得る。また燃料極2と空気極3には適宜白金等の触媒を電極に塗布し使用してもよい。
【0085】
燃料電池1は、燃料極2に燃料が供給されると、燃料に含まれる水素原子が、プロトン(H)と電子(e)に分離される。そのプロトンはプロトン伝導性電解質膜4を通って空気極3へ移動する。一方、電子は、外部負荷6を通じて空気極3へ移動する。空気極3では、供給された酸化剤に含まれる酸素と、燃料極2から移動したプロトンおよび電子とが結合して水が生成される。電気化学式で表すと、燃料極2ではH→2H+2e、空気極3では1/2O+2H+2e→HOの反応が起こる。
【0086】
なお、本発明において、燃料電池を構成する電解質膜以外の部材については、燃料電池の分野において従来公知の構成を用いることができる。
【0087】
<燃料電池としての評価>
ルテニウム:ナトリウム:リンの含有比率が、モル比で1:4:13であり、6.7wt%のランタンを含む実施例1のプロトン伝導性電解質膜について、燃料電池の電解質として適用させた際の評価を行った。測定用の試料として図5のように作成した単セルを電気炉内に設置し、200℃から250℃における性能を調べた。KOFLOC製 Hydrogen gas generatorにより発生させた水素ガス(純度99.99%以上)を0.1L/分の流量で燃料電池単セルの水素極側に流し、酸素極側には乾燥空気を0.1L/分で流した。そして、発生する電流及び電圧値をYOKOGAWA製 GS610 Source Measure Unitによって測定した。酸素極側は、空気(大気)を使用した。
【0088】
図6には、実施例1と比較例6のプロトン伝導性電解質膜を用いた燃料電池の200℃でのI-V特性を示す。比較例6の燃料電池は、実施例1と同様の条件で測定した。なお、比較例6は、ランタン及びランタノイド元素を含まない従来のリン酸ルテニウム系プロトン伝導性電解質膜を用いた燃料電池の中で最も出力が高かった。図6に示すように、実施例1は、I-V特性の傾きが緩やかになっていることから、比較例6よりもプロトン伝導率が高いと考えられる。実施例1のプロトン伝導性電解質膜を用いた燃料電池は、リン酸ルテニウム系プロトン伝導体の研究において過去最高の値である21.4 mWcm-2を示し、比較例6の燃料電池と比較して、約2.5倍であった。また、同じ電圧に対する電流密度も向上していた。この結果から、本発明により、燃料電池の発電性能が大幅に向上したことが示された。
【0089】
<加熱時の強度の評価>
次に、プロトン伝導性電解質膜について強度試験を行った。プロトン伝導性電解質膜の上下両面を電極で挟み、その電極の上におもりを乗せる。そして、その状態のサンプルを電気炉内に設置し、高温環境下で直流抵抗を測定した。熱とおもりの荷重によってサンプルが潰れた場合は、膜厚の減少や電極同士の接触により、低い直流抵抗値が観測される。本実施形態では、サンプルとして実施例8と比較例1を用い、249gのおもりを乗せて試験を実施した。表4は、実施例8と比較例1のプロトン伝導性電解質膜の200℃における抵抗値の経時変化を示す強度試験結果であり、試験開始後4時間目以降の抵抗値のデータを示す。表4に示すように、実施例8では、16時間加熱し続けても2000Ω以上の抵抗値を維持したのに対し、比較例1では、試験開始後4時間から6時間の間に2回の大きな抵抗変化があった。実施例8では、ランタンを添加したことによって生じた結晶成分がスペーサーの役割を果たしたことと、非晶質成分に固溶したランタンがリン酸イオンの縮合形態をより硬いものに変化させたことにより、強度の向上に寄与したと考えられる。
【0090】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6