(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093186
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】バクテリオファージ、これを含有する医薬、食品、飲料、サプリメント及び飼料
(51)【国際特許分類】
C12N 7/00 20060101AFI20240702BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240702BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240702BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240702BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C12N7/00 ZNA
A61P31/04
A61K35/76
A61P3/04
A61P31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209393
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】外川 直之
(72)【発明者】
【氏名】野田 悠太
(72)【発明者】
【氏名】平田 拓
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 昌幸
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA98X
4B065AC10
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087MA52
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA70
4C087ZB32
4C087ZB35
(57)【要約】
【課題】クロストリジウム属細菌が関与する、感染症や肥満などの疾患の治療又は予防のために有用な技術の提供。
【解決手段】(A)配列番号1のヌクレオチド配列を含むゲノムを有する、又は、(B)配列番号1のヌクレオチド配列に対して85%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むゲノムを有し、かつ、クロストリジウム属細菌に対する抗菌活性を示す、バクテリオファージを提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)配列番号1のヌクレオチド配列を含むゲノムを有する、又は、
(B)配列番号1のヌクレオチド配列に対して85%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むゲノムを有し、かつ、クロストリジウム属細菌に対する抗菌活性を示す、
バクテリオファージ。
【請求項2】
前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、又はクロストリジウム・ソルデリ(Clostridium sordellii)である、請求項1に記載のバクテリオファージ。
【請求項3】
前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)である、請求項2に記載のバクテリオファージ。
【請求項4】
前記抗菌活性が、溶菌活性又は増殖抑制活性である、請求項1に記載のバクテリオファージ。
【請求項5】
請求項1に記載のバクテリオファージを有効成分として含有する、医薬。
【請求項6】
肥満の治療、肥満の予防、感染症の治療、感染症の予防、及び腸内細菌叢の改善からなる群から選ばれる一又は二以上に用いられる、請求項5に記載の医薬。
【請求項7】
経口投与のために製剤化される、請求項6に記載の医薬。
【請求項8】
請求項1に記載のバクテリオファージを含有する、食品、飲料、サプリメント又は飼料。
【請求項9】
肥満の治療、肥満の予防、感染症の治療、感染症の予防、及び腸内細菌叢の改善からなる群から選ばれる一又は二以上に用いられる、請求項8に記載の食品、飲料、サプリメント又は飼料。
【請求項10】
受託番号NITE P-3713、NITE P-3714、NITE P-3715で特定されるバクテリオファージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バクテリオファージ、これを含有する医薬、食品、飲料、サプリメント及び飼料に関する。より詳しくは、クロストリジウム属細菌に対して抗菌活性を示すバクテリオファージ等に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤耐性菌の出現や新規抗生物質の開発困難性のために、バクテリオファージ(天然細菌ウイルス)を用いて細菌性疾患を治療又は予防する技術に関心が高まっている。例えば、特許文献1には、アクネ菌を溶解するバクテリオファージをにきびの治療又は予防のために用いる技術が提案されている。
【0003】
クロストリジウム属細菌は感染症や食中毒を引き起こし、肥満への関与も示唆されていることから(非特許文献1参照)、その増殖を抑制する活性成分は感染症や肥満の治療あるいは予防に有用であると期待される。
また、肥満の要因には、腸内細菌叢(腸内マイクロバイオーム)の異常な変化が一因となることが知られており、腸内の肥満誘発性細菌に対して感染指向性を有するバクテリオファージにより腸内マイクロバイオームに良い変化をもたらし、肥満等を改善しようとする試みもなされている(非特許文献2参照)。
なお、非特許文献2はエンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)などの8種類の菌種に対して感染指向性を有するバクテリオファージを19種類記載しているが、クロストリジウム属細菌に対して感染指向性を有するバクテリオファージは記載しておらず、19種類のバクテリオファージのゲノム配列も本開示に係るバクテリオファージのゲノム配列とは大きく異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009-501018号公報
【特許文献2】国際公開第2019/226950号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】"Clostridium ramosum Promotes High-Fat Diet-Induced Obesity in Gnotobiotic Mouse Models", Anni Woting et. al., September/October 2014 Volume 5 Issue 5 e01530-14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、クロストリジウム属細菌が関与する、感染症や肥満などの疾患の治療又は予防のために有用な技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題解決のため、本開示は、以下の[1]-[32]を提供する。
[1] (A)配列番号1のヌクレオチド配列を含むゲノムを有する、又は、
(B)配列番号1のヌクレオチド配列に対して85%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むゲノムを有し、かつ、クロストリジウム属細菌に対する抗菌活性を示す、
バクテリオファージ。
[2] 前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、又はクロストリジウム・ソルデリ(Clostridium sordellii)である、[1]のバクテリオファージ。
[3] 前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)である、[2]のバクテリオファージ。
[4] 受託番号NITE P-3713、NITE P-3714、NITE P-3715で特定される、[1]-[3]のいずれかのバクテリオファージ。
[5] 前記抗菌活性が、溶菌活性又は増殖抑制活性である、[1]-[4]のいずれかのバクテリオファージ。
[6] [1]-[5]のバクテリオファージを有効成分として含有する、医薬。
[7] 肥満の治療、肥満の予防、感染症の治療、感染症の予防、及び腸内細菌叢の改善からなる群から選ばれる一又は二以上に用いられる、[6]の医薬。
[8] 経口投与のために製剤化される、[7]の医薬。
[9] [1]-[5]のバクテリオファージを含有する、食品、飲料、サプリメント又は飼料。
[10] 肥満の治療、肥満の予防、感染症の治療、感染症の予防、及び腸内細菌叢の改善からなる群から選ばれる一又は二以上に用いられる、[9]の食品、飲料、サプリメント又は飼料。
【0008】
[11] 受託番号NITE P-3713、NITE P-3714、NITE P-3715で特定されるバクテリオファージ。
【0009】
[12](A)配列番号1のヌクレオチド配列を含むゲノムを有する、又は、
(B)配列番号1のヌクレオチド配列に対して85%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むゲノムを有し、かつ、クロストリジウム属細菌に対する抗菌活性を示す、
バクテリオファージを含有する、抗クロストリジウム属細菌剤。
[13] 前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、又はクロストリジウム・ソルデリ(Clostridium sordellii)である、[12]の抗クロストリジウム属細菌剤。
[14] 前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)である、[13]の抗クロストリジウム属細菌剤。
[15] 前記バクテリオファージが、受託番号NITE P-3713、NITE P-3714、NITE P-3715で特定される、[12]-[14]のいずれかの抗クロストリジウム属細菌剤。
[16] 溶菌活性又は増殖抑制活性を有する、[12]-[15]のいずれかの抗クロストリジウム属細菌剤。
【0010】
[17](A)配列番号1のヌクレオチド配列を含むゲノムを有する、又は、
(B)配列番号1のヌクレオチド配列に対して85%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むゲノムを有し、かつ、クロストリジウム属細菌に対する抗菌活性を示す、
バクテリオファージの、肥満及び/又は感染症の治療又は予防、又は腸内細菌叢の改善のための使用。
[18] 前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、又はクロストリジウム・ソルデリ(Clostridium sordellii)である、[17]の使用。
[19] 前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)である、[18]の使用。
[20] 前記バクテリオファージが、受託番号NITE P-3713、NITE P-3714、NITE P-3715で特定される、[17]-[19]のいずれかの使用。
[21] 前記抗菌活性が、溶菌活性又は増殖抑制活性である、[17]-[20]のいずれかの使用。
【0011】
[22](A)配列番号1のヌクレオチド配列を含むゲノムを有する、又は、
(B)配列番号1のヌクレオチド配列に対して85%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むゲノムを有し、かつ、クロストリジウム属細菌に対する抗菌活性を示す、
バクテリオファージの、肥満及び/又は感染症の治療又は予防、又は腸内細菌叢の改善に用いられる医薬、食品、飲料、サプリメント又は飼料の製造のための使用。
[23] 前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、又はクロストリジウム・ソルデリ(Clostridium sordellii)である、[22]の使用。
[24] 前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)である、[23]の使用。
[25] 前記バクテリオファージが、受託番号NITE P-3713、NITE P-3714、NITE P-3715で特定される、[22]-[24]のいずれかの使用。
[26] 前記抗菌活性が、溶菌活性又は増殖抑制活性である、[22]-[25]のいずれかの使用。
【0012】
[27] (A)配列番号1のヌクレオチド配列を含むゲノムを有する、又は、
(B)配列番号1のヌクレオチド配列に対して85%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むゲノムを有し、かつ、クロストリジウム属細菌に対する抗菌活性を示す、
バクテリオファージの有効量を対象に経口投与する手順を含む、肥満及び/又は感染症の治療又は予防、又は腸内細菌叢の改善方法。
[28] 前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、又はクロストリジウム・ソルデリ(Clostridium sordellii)である、[27]の方法。
[29] 前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)である、[28]の方法。
[30] 前記バクテリオファージが、受託番号NITE P-3713、NITE P-3714、NITE P-3715で特定される、[27]-[29]のいずれかの方法。
[31] 前記抗菌活性が、溶菌活性又は増殖抑制活性である、[27]-[30]のいずれかの方法。
【0013】
[32] (A)配列番号1のヌクレオチド配列を含むゲノムを有する、又は、
(B)配列番号1のヌクレオチド配列に対して85%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むゲノムを有し、かつ、クロストリジウム属細菌に対する抗菌活性を示す、
バクテリオファージから単離された、クロストリジウム属細菌に対する抗菌活性を示す物質。
【発明の効果】
【0014】
本開示により、クロストリジウム属細菌が関与する、感染症や肥満などの疾患の治療又は予防のために有用な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】バクテリオファージ(CR-V-MCC002)の透過型電子顕微鏡像である。
【
図2】バクテリオファージを経口投与したマウスの糞便中のC. ramosumの数の変化を示す。
【
図3】バクテリオファージを経口投与したマウスの糞便中のバクテリオファージの定量検出の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本開示の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本開示の範囲が狭く解釈されることはない。
【0017】
本開示に係るバクテリオファージは、(A)配列番号1のヌクレオチド配列を含むゲノムを有する、又は、(B)配列番号1のヌクレオチド配列に対して85%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むゲノムを有し、かつ、クロストリジウム属細菌に対する抗菌活性を示すことを技術的特徴とする。
本開示に係るバクテリオファージは、クロストリジウム属細菌に対して高い特異性をもって溶菌活性を示す。具体的には、本開示に係るバクテリオファージは、クロストリジウム属細菌に対して溶菌活性を示す一方で、少なくともシュードモナス属、エシェリキア属、スタフィロコッカス属細菌に対しては溶菌活性を示さない。
また、本開示に係るバクテリオファージは、経口摂取されて、胃腸管内の環境下で生存、増幅し、クロストリジウム属細菌に対する増殖抑制作用を示す。
したがって、本開示に係るバクテリオファージは、抗クロストリジウム属細菌剤として利用でき、さらにはクロストリジウム属細菌が関連する疾患の治療又は予防あるいはクロストリジウム属細菌を構成要素とする腸内細菌叢の改善に有用に用いられ得る。
【0018】
バクテリオファージの抗菌活性は、従来公知の手法にしたがって評価、確認することができ、例えばプラークアッセイ法を適用できる。細菌(例えば、グラム陽性細菌(例えば、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、黄色ブドウ球菌)、グラム陰性細菌(例えば、アシネトバクター・バウマニ、緑膿菌)、又はグラム陽性細菌にもグラム陰性細菌にも分類されない細菌)を寒天プレート上で培養し、培養物にバクテリオファージを接触させる。バクテリオファージを接触させていないプレートに比して、バクテリオファージを接触させたプレートで、プラークのサイズの減少又はプラークの総数の減少が認められる場合、バクテリオファージが抗菌活性を有すると判定できる。
【0019】
(A)配列番号1のヌクレオチド配列を含むゲノムを有するバクテリオファージは、受託番号NITE P-3713で国内寄託されている。このバクテリオファージ株は、本開示において「CR-V-MCCO02」と称される。CR-V-MCCO02は、クロストリジウム属細菌に対して特異的な抗菌活性を有することが実証された。
【0020】
国内寄託は、特許法施行規則第27条の2及び3の規定に基づく寄託機関であり、微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づく国際寄託当局である、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)になされている。
【0021】
(B)配列番号1のヌクレオチド配列に対して85%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むゲノムを有し、かつ、クロストリジウム属細菌に対する抗菌活性を示すバクテリオファージは、CR-V-MCCO02と同様に、クロストリジウム属細菌に対して特異的な抗菌活性を有し得る。
配列番号1のヌクレオチド配列に対する配列同一性は、好ましくは86%以上、87%以上、88%以上、89%以上であり、より好ましくは90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、さらに好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上である。
このようなバクテリオファージ株として、具体的には、受託番号NITE P-3714及びNITE P-3715で特定されるバクテリオファージが挙げられる。これらのバクテリオファージ株は、本開示において「CR-V-MCCO04」及び「CR-V-MCCO05」と称される。CR-V-MCCO04のゲノム配列(配列番号2)及びCR-V-MCCO05のゲノム配列(配列番号3)は、CR-V-MCCO02のゲノム配列(配列番号1)に対する配列同一性はそれぞれ85.62%、85.33%である。
【0022】
ここで、配列の「同一性」とは、塩基配列の場合であれば、比較すべき2つの塩基配列の塩基ができるだけ多く一致するように両塩基配列を整列させ、一致した塩基数を、全塩基数で除したものを百分率で表したものである。上記整列の際には、必要に応じ、比較する2つの配列の一方又は双方に適宜ギャップを挿入する。このような配列の整列化は、例えばBLAST、FASTA、CLUSTALW等の周知のプログラムを用いて行なうことができる。ギャップが挿入される場合、上記全塩基数は、1つのギャップを1つの塩基として数えた塩基数となる。このようにして数えた全塩基数が、比較する2つの配列間で異なる場合には、同一性(%)は、長い方の配列の全塩基数で、一致した塩基数を除して算出される。アミノ酸配列の同一性についても同様である。
【0023】
クロストリジウム属細菌は、特に限定されないが、肥満に関連するクロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)であってよく、あるいは感染症に関連するクロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、又はクロストリジウム・ソルデリ(Clostridium sordellii)であってよい。クロストリジウム属細菌は、特には、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)である。
【0024】
クロストリジウム属細菌が関連する感染症としては、特に限定されないが、胃腸炎、破傷風、女性生殖器への感染(毒素性ショック症候群)、菌血症、敗血症が挙げられ、毒素により食中毒も包含され得るものとする。
【0025】
本開示に係るバクテリオファージは、クロストリジウム属細菌に対して高い特異性をもって溶菌活性を示し、経口摂取されて胃腸管内の環境下で生存、増幅し、クロストリジウム属細菌に対する増殖抑制作用を示すため、クロストリジウム属細菌が関連する肥満及び/又は感染症の治療又は予防のため、又はクロストリジウム属細菌を構成要素とする腸内細菌叢の改善のための医薬、食品、飲料、サプリメント又は飼料の活性成分(有効成分あるいは関与成分)として有用となり得る。
【0026】
ここで、肥満及び/又は感染症の治療又は予防とは、肥満及び/又は感染症のための治療的処置及び防止的又は予防的手段を意味し、肥満又は感染症に関連する症状又は根本的原因(細菌感染)を排除し、低減し、その重症度を低下させ、その進行を遅らせ、又はそれを遅延若しくは予防することを広く意味する。
また、特に肥満の防止的又は予防的手段には、体重増加の抑制等が含まれ得る。
腸内細菌叢の改善とは、腸内細菌叢に健康に良い影響を与える変化をもたらすことを意味し、具体的には、クロストリジウム属細菌を構成要素に含む腸内細菌叢について、クロストリジウム属細菌の構成比率を減少させること、またクロストリジウム属細菌以外の細菌(特に健康に良い影響を与える細菌)の構成比率を増加させること、あるいはクロストリジウム属細菌以外の細菌種の種類を増加させることを意味する。
【0027】
医薬、食品、飲料、サプリメント及び飼料は、ヒトを含む対象又はヒトを含まない対象に対して投与され得る。医薬、食品、飲料、サプリメント及び飼料の投与は、特に経口投与が選択され得る。
【0028】
ヒト以外の対象となる動物は、特に限定されないが、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ等の哺乳類、ニワトリ、アヒル、ガチョウ等の鳥類などである。
【0029】
医薬は、活性成分に加えて、薬学的に許容される担体、賦形剤、又は安定剤等をさらに含み得る。医薬は、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤等として経口投与用に製剤化され得る。また、医薬は、腸溶製剤(錠剤、カプセル剤等)とされ得る。
【0030】
食品は、健康食品、機能性食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等)、健康補助食品、栄養補助食品を含む。また、食品の形状は固形、液状又はペースト状等、適宜選択することができる。
【0031】
飲料は、清涼飲料水、乳飲料、アルコール飲料を含む。
【0032】
サプリメントは、どのような形状であってもよく、錠剤、顆粒剤、散剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁剤、液剤、乳剤等であってよい。また、胃酸から保護し、腸において作用させるため、異なるpHに対する溶解性に差異のある腸溶剤としてもよい。
【0033】
飼料は、活性成分と、生草や乾草、青刈飼料作物(青刈トウモロコシ等)、穀類(トウモロコシ、マイロ、大麦、エンバク、米、アワ、ヒエ、キビ、コーリャン等)、穀物副産物(米糠、ふすま類等)、根菜類、わら類、油粕類(落花生粕、綿実粕、ヒマワリ粕、菜種粕、胡麻粕、亜麻仁粕等)などと混合することにより得ることができる。
【0034】
医薬、食品、飲料、サプリメント及び飼料は、本開示のバクテリオファージの有効量を含む。「有効量」という用語は、疾患又は障害の、特に肥満及び/又は感染症の1又は2以上の症状を改善させるために十分な治療用作用物質の量を指す。
バクテリオファージの有効量は、医薬、食品、飲料、サプリメント及び飼料のそれぞれで適宜最適化され得る。例えば鳥類の飲料水及び液体補完飼料でのバクテリオファージの投与であれば、1日あたり3.4×106プラーク形成単位(plague formation unit:pfu)以上、好ましくは6.1×106pfu以上であり、5.6×107pfu以下、好ましくは2.9×107pfu以下が採用され得る(EFSA Journal 2021;19(5):6534)。
【0035】
医薬、食品、飲料、サプリメント及び飼料中のバクテリオファージの配合量は、上述の有効量に応じて適宜設定され得る。例えばチーズに添加される場合、1×107pfu/g以上1×109pfu/g以下、好ましくは1×108pfu/g以上*9×108pfu/g以下が採用され得る(GRAS Notice No.198 :https://www.cfsanappsexternal.fda.gov/scripts/fdcc/?set=GRASNotices&id=198&sort=GRN_No&order=DESC&startrow=1&type=basic&search=bacteriophage)。
医薬、食品、飲料、サプリメント及び飼料は、本開示に係るバクテリオファージの少なくとも1種を含むものであればよく、2種以上を含むものであってもよい。2種以上のバクテリオファージが含まれる場合、上記配合量は2種以上のバクテリオファージの合計量とする。
【0036】
医薬、食品、飲料、サプリメント及び飼料の予防/治療効果の判定あるいは用量/用法の決定は、糞便中のクロストリジウム属細菌の量及び/又は本開示に係るバクテリオファージの量に基づいて行うことができる。本開示に係るバクテリオファージは、腸管内で増幅してクロストリジウム属細菌に対する抗菌活性を示し、糞便中に排出されるバクテリオファージ量の増加とクロストリジウム属細菌量の低下をもたらす(実施例3参照)。したがって、糞便中のクロストリジウム属細菌の量及び/又は本開示に係るバクテリオファージの量は、予防/治療効果を判定し、用量/用法を決定するため情報として利用できる。
【0037】
具体的には、糞便中のクロストリジウム属細菌の減少、及び/又は、本開示に係るバクテリオファージの増加は、医薬等の予防/治療効果を示す。糞便中のクロストリジウム属細菌の減少の程度、及び/又は、本開示に係るバクテリオファージの増加の程度が所望の効果に相当する程度を超える場合には、医薬、食品、飲料、サプリメント及び飼料の用量を少なくしたり、適用間隔を延ばしたりするというような投与計画(レジメン)の変更を行うこともできる。
一方、糞便中のクロストリジウム属細菌の増加、及び/又は、本開示に係るバクテリオファージの減少は、医薬等の予防/治療効果が不十分であることを示す。この場合、糞便中のクロストリジウム属細菌の減少の程度、及び/又は、本開示に係るバクテリオファージの増加の程度が所望の効果に相当する程度に達するように、医薬、食品、飲料、サプリメント及び飼料の用量を多くしたり、適用間隔を短くしたりするというような投与計画(レジメン)の変更を行うことができる。
【0038】
本開示は、このような医薬、食品、飲料、サプリメント及び飼料の予防/治療効果の判定方法あるいは用量/用法決定方法をも提供する。また、糞便中のクロストリジウム属細菌の量及び/又は本開示に係るバクテリオファージの量を、医薬、食品、飲料、サプリメント及び飼料の予防/治療効果の判定あるいは用量/用法の決定を補助するための情報をとして提供する方法をも提供する。
糞便中のクロストリジウム属細菌及び/又は本開示に係るバクテリオファージの定量は、従来公知の手法によって行うことができ、例えば次世代シークエンサー解析や定量的核酸増幅法(QPCR)を適用できる。
【実施例0039】
[実施例1:C. ramosum菌株特異的バクテリオファージの分離]
1.Clostridium ramosum菌株の培養
理化学研究所微生物材料開発室(JCM)、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NBRC)およびAmerican Type Culture Collection(ATCC)からC. ramosum菌株(JCM1298、ATCC25582、"Bacteriostatic Effect of Orally Administered Bovine Lactoferrin on Proliferation of Clostridium Species in the Gut of Mice Fed Bovine Milk", SUSUMU TERAGUCHI et. al., APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY, Feb. 1995, p. 501-506参照)、宿主特異性の解析のための検定菌株、マウス動物実験に必要な菌株を入手した。また、C. ramosum菌株を培養のための培地A(変法GAMブイヨン培地(05433、「ニッスイ」)8.34 g、グルコース1.9 g、酢酸ナトリウム3水和物0.54 gを滅菌水で200 mlにフィルアップした後、オートクレーブした培地)を用意した。
【0040】
C. ramosum菌株の凍結乾燥粉末に少量の培地Aを添加して復元後、菌体を培地Aを10 ml含む14 mlの培養チューブに植菌し、嫌気条件下で37℃で2-3日静置培養を行った。培養後、グリセロールストックを作製し-80℃で凍結保存した。
増殖の程度を確かめるため、1,000 μlピペットチップでJCM1298株のグリセロールストックを一掻きして、10 mlの培地Aが分注された14 mlのカルチャーチューブに植菌した。これを複数本用意し、アネロパック(三菱ガス化学株式会社)とともにカルチャーチューブを密閉できるプラスチック製容器に入れて、37℃で一晩嫌気培養を行った。培養途中、経時的に培養液の濁度を測定し経時変化を確かめた。その結果、約24時間培養でOD600 nm が約1に達していたことから、増殖期の培養液を用いる際は、12-16時間程度培養した培養液を使用することにした。
【0041】
2.トップアガー法によるC. ramosum 菌株のLawn形成
ファージを増殖、分離する際には二重平板法によるプラークアッセイがよく行われるが、培地Aの下層寒天培地プレートにC. ramosum菌株を含むトップアガーを注ぎ、上層で標的菌株を一面に増殖させる(Lawnと呼ばれている)ことができるか確かめた。
はじめに、複数のプレートに培地Aの下層寒天培地上に注いで固化させた。続いて前培養した200 μlのC. ramosum菌株の培養液を空の14 mlカルチャーチューブに添加し、さらに0.7%アガー(Bacto Agar、BD社、#214019)を含む培地A 3 ml(約40℃程度)を加え、泡立たないようにゆっくりと5-6回ピペッティングした後、培地A寒天培地上に注いで固化させた。このプレートをアネロパック嫌気下で37℃で二日間培養を行ったところ、プレート一面にLawnが形成できた。
【0042】
3.ファージのサンプリングと分離
C. ramosumは腸内に生息する細菌であることから、C. ramosumに感染するファージは生活排水が流れ込む用水路や流入下水に存在している可能性が高いと考え、沖縄県内で20箇所、用水路や流入下水のサンプリングを行った。
【0043】
サンプリングした水を2本の50 mlの遠沈管に移した後、遠心分離(3,739×g, 10 min, 25℃)を行いサンプル中に含まれる雑菌を沈殿させた。80 mlの上清を回収し、予めオートクレーブ滅菌しておいた20 mlの5倍濃度の1/2培地A(20 ml中に0.475 gのグルコース、0.135 g酢酸ナトリウム、2.09 gの改変GAM培地を含む)の入ったメディウム瓶に添加した。そこに、C. ramosum菌株の前培養液をそれぞれ1 mlずつ添加し、アネロパック嫌気下37℃で2日間静置培養した。
【0044】
培養上清を1.5 mlマイクロチューブに移し、遠心分離(17,800×g, 10 min, 25℃)を行い菌体を沈殿させた後、上清を回収0.2μmシリンジフィルターでろ滅菌を行った。1 mlの回収したろ液を14 mlカルチャーチューブに移し、そこに200 μlのC. ramosumの前培養液を添加した。さらに3 mlの0.7%アガー含有培地Aを加えて、泡立たないように混合後、培地A寒天培地上に注いで固化させた。これをアネロパック嫌気下37℃で2日間培養した。その結果、3か所のサンプルからトップアガー上にプラークの形成が見られた。
【0045】
4.トップアガー法によるファージの単離
観察されたプラークを回収・希釈して再度プラークを形成させることで純化を行い、単一ファージ由来のプラークを取得した。
先端をカットした200 μlの黄色チップを用いてシングルプラークをトップアガーごとくり抜き200 μlの改変SM buffer(終濃度NaCl 100 mM、CaCl2 10 mM、MgSO4 10 mM)に再懸濁した後、さらに改変SM bufferで10倍ずつ連続希釈した。これらの希釈液を10 μlずつ宿主菌株の培養液を添加したトップアガーを重層した培地A寒天培地にスポットした後、アネロパック嫌気下37℃で1日間培養を行い、シングルプラークを形成させた。この操作を2回繰り返すことでファージの純化を行った。純化後の3株をCR-V-MCCO02、CR-V-MCCO04、CR-V-MCCO05とラベルした(受託番号:NITE P-03713、NITE P-03714、NITE P-03715)。
【0046】
5.バクテリオファージの宿主特異性の解析
分離したファージ3株について、宿主特異性をプラークアッセイ法によって調べた。C. ramosum 菌株としてC. ramosum JCM1298(ATCC25582に相当)を用い、生理・生化学的性質が異なる検定菌株としてPseudomonas aeruginosa PAO1、Pseudomonas putida ATCC12633、Escherichia coli DH10B、Escherichia coli BL21 (DE3)、Escherichia coli JM109、Escherichia coli DH5α、Staphylococcus aureus ATCC BAA-2313を用いた。
【0047】
プラーク形成の有無と、プラークの形成度合いを表1に示す。プラークの形成度合いは、以下の計算式による値が20%以上を「+++」、「20-10%」を「++」、10%未満を「+」とした。分離したファージ3株は、C. ramosum菌株特異的に感染し、溶菌することが分かった。
プラークの形成度合い=[(プレートを撮像した際のバックグラウンドのシグナル強度-プラークのシグナル強度)/バックグラウンドのシグナル強度]×100
【0048】
【0049】
[実施例2:C. ramosum菌株特異的バクテリオファージのゲノム解析]
1.液体培養によるファージの増幅
CR-V-MCCO02、CR-V-MCCO04、CR-V-MCCO05について十分な量を取得するため、液体培地でのファージの増幅を行った。
250 mlメディウム瓶で50 mlの培地Aを調製し、ふたの代わりにアルミホイルをかぶせてオートクレーブ(115℃、15 min)を行った。500 μlのC. ramosum JCM1298株の前培養液(約1×108 c.f.u.)とファージ1×108 p.f.u.(M.O.I.=1)あるいは1×107 p.f.u.(M.O.I.=0.1)を添加し、アネロパック嫌気下37℃で1日間静置培養を行った。
培養液を遠心分離(3,739×g, 10 min, 25℃)し、上清を回収した後、一部を1.5 mlチューブに移して再度遠心分離(17,800×g, 10 min, 25℃)して、0.2 μmフィルターによるろ過滅菌を行い、5 mlのポリプロピレン製チューブにファージ溶液を回収した。
回収したファージ溶液の一部をサンプリングし、改変SM bufferで10倍ずつ連続希釈して、各希釈液を10 μlずつC. ramosum JCM1298株を含むトップアガーを重層した培地A寒天培地にスポットして、アネロパック嫌気下37℃で1日間培養を行った。
培養後のプレート上に出現したプラーク数をカウントして、希釈率からタイターを求めた。その結果、3種類のファージ株ともM.O.I. =1でもM.O.I.=0.1の場合でも液体培地中で1×108 p.f.u./ml以上のタイターを示すファージ溶液を調製することができた。
【0050】
2.ファージ溶液の濃縮
50 mLファルコンチューブにメディウム瓶の培養液40 mLを分注し、室温で5000×gで10分間遠心した。上清を0.22 μmフィルターで濾過した溶液を50 mLファルコンチューブに20 mLずつ分注し、PEG6000-NaCl溶液(終濃度PEG6000 20w/v%、NaCl 2.5 M)を30 mLずつ添加してよく混合し、氷中で2時間以上冷却した。8000×g、4℃で30分間遠心を行なって上清を除去した。沈殿物を改変SMバッファー8 mLに懸濁し、ファージ濃縮溶液とした。
【0051】
3.ファージゲノムDNAの調製
ファージ濃縮溶液8 mlに対し、PEG6000-NaCl溶液を12 ml添加してよく混合し、氷中で2時間以上冷却した。8000×g、4℃で30分間遠心を行なって上清を除去した。沈殿物を356 μlの滅菌水で再懸濁した後、40 μlの10×DNase I bufferと2 μlのDNase Iと2 μl RNase Aを添加して37℃で2h以上反応し、宿主菌由来のDNAとRNAを分解した。
60 μl TE buffer、20 μl 0.5 M EDTA (pH 8.0)、10 μl 10% SDSおよび10 μl Proteinase K溶液を添加して約15 minおきにボルテックスミキサーで混合しながら56℃で2h以上反応させた。
500 μlのフェノールクロロホルム溶液を添加し、よく混合してエマルジョン化させた後に遠心分離(17,800×g, 10 min, 25℃)を行い、中間層を吸わないように注意しながら上清を回収した。この操作を中間層が見えなくなるまで繰り返した後(3-4回程度)、回収した水層に500 μlのクロロホルムを添加しよく混合した後、遠心分離(17,800×g, 10 min, 25℃)を行い、上清を回収した。回収した溶液に対して1/10量の3 M 酢酸ナトリウム溶液(pH 5.2)を添加・混合した後、2-2.5倍量の99% エタノールを添加した。
糸状のDNAの凝集物を別のチューブに回収して再度2-2.5倍量の99%エタノールを添加した後、-30℃で30 min以上放置した。遠心分離(17,800×g, 10 min, 4℃)を行ってゲノムDNAを沈殿させた後に上清を除去して、500 μlの70% エタノールを加えて遠心分離(17,800×g, 5 min, 25℃)した後に、上清を除去し乾燥させた。50 μlのTE bufferを添加してDNAを再溶解した後、各サンプルの一部をTE bufferで10倍希釈して、微量分光光度計を用いてDNA濃度を求めた(表2)。抽出したDNAを制限酵素HhaIで処理し、未処理のDNAとともに電気泳動した。処理後のDNAは複数のバンドを示し、ファージゲノムが二本鎖DNAであることが分かった。
【0052】
【0053】
4.ファージゲノム配列の決定
CR-V-MCC002、CR-V-MCC004、CR-V-MCC005のゲノムDNAについて次世代シークエンサーでロングリードシーケンスデータとショートリードシーケンスデータを取得し、これらのデータを用いてハイブリッドアセンブリを行い、ゲノムDNAの配列を決定した。
ロングリードのシーケンシングデータはNanopore社のPromethIONを、ショートリードのデータはMGI Tech社のDNBSEQを用いて取得した。ショートリードデータはcutadapt、ロングリードデータはporechop,nanofiltを用いてクリーニングしたのち、Unicyclerを用いてアセンブリを実施した。アセンブリ後、Medaka、Pilonを用いて塩基のエラー補正を行い、1つの環状化したコンティグ配列を得た。配列長は、CR-V-MCC002、CR-V-MCC004、CR-V-MCC005のゲノムDNAについて、それぞれ105,401 bp(配列番号1)、102,464 bp(配列番号2)、103,211 bp(配列番号3)であった。
得られたゲノム配列に対して、Prokka v1.14.5を用いて遺伝子予測解析を行った結果、約140個の遺伝子がゲノムに含まれていることが推定された。
【0054】
5.ファージゲノムDNA配列の比較
CR-V-MCC002、CR-V-MCC004、CR-V-MCC005のゲノムDNAの配列類似性を比較した。CR-V-MCC002を基準として、CR-V-MCC004、CR-V-MCC005のゲノム配列の類似性を算出したところ、それぞれ85.62%、85.33%であった。
【0055】
CR-V-MCC002、CR-V-MCC004、CR-V-MCC005のゲノムDNA配列をNCBIのサイト(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)において、Nucleotide collection(nr/nt)データベースに対してBLAST検索した。結果を表3-5に示す。
【0056】
CR-V-MCC002のゲノムDNA配列(配列番号1)の検索結果(Query Cover率上位5番目までを抜粋)
【表3】
【0057】
CR-V-MCC004のゲノムDNA配列(配列番号2)の検索結果(Query Cover率上位5番目までを抜粋)
【表4】
【0058】
CR-V-MCC005のゲノムDNA配列(配列番号3)の検索結果(Query Cover率上位5番目までを抜粋)
【表5】
【0059】
CR-V-MCC002、CR-V-MCC004、CR-V-MCC005のゲノム配列のいずれについても、十分なQuery Cover率でヒットした検索結果は、アクセッション番号BK026068.1(MAG TPA_asm: Siphoviridae sp. isolate ct4bT3, partial genome、配列長100535bp)で登録された配列のみであった。特許文献2に開示される19種類のバクテリオファージのゲノム配列はヒットしなかった。
アクセッション番号BK026068.1の配列に関連して登録された文献(Proc Natl Acad Sci USA, 2021, Jun 8;118(23))によると、当該配列はMAG(Metagenome-Assembled Genome)として登録されているものであり、当該配列を有するファージ本体は単離されてはいないと推定された。
【0060】
6.透過型電子顕微鏡による観察
ゲノム配列のみではファージの分類が確定できないため、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたネガティブ染色法によりファージ(CR-V-MCC002)を撮像し、その形態を確認した。
ファージの形態(
図1)は、ラムダファージと同じであり、Siphoviridaeに属すると考えられた。
【0061】
[実施例3:腸内生存能力試験]
バクテリオファージ(またはファージ)は、特定の細菌感染および腸内微生物叢の障害を治療するため、抗生物質に代替可能性のある手段として期待されている。ファージが腸内微生物叢の障害のための治療薬となるためには、ファージが胃腸管内の環境で生存できることを実証する必要である。
そこで、ファージ溶液をマウスに経口投与し、糞便サンプルを採取して、糞便の菌叢とファージ量を測定することによって、胃腸管内でファージが作用し得るかを検証した。
【0062】
1.疑似腸内細菌カクテルの作成
【0063】
ファージの経口投与による、マウス腸内でのC. ramosum菌の特異的な増殖抑制効果を検証するため、C. ramosum菌を含む細菌カクテルを無菌マウスの腸内に定着させた。細菌カクテルの調製には、文献(mBio 2014 Sep 30;5(5):e01530-14, Microorganisms, 2019 Dec 3;7(12):641)記載の疑似腸内細菌カクテルを参考にして、以下の8種を購入して用いた。
Clostridium ramosum ATCC 25582
Clostridium butyricum NBRC 13949
Blautia producta ATCC 27340
Bifidobacterium longum NBRC 114370
Anaerostipes caccae NBRC 114412
Escherichia coli NBRC 3301
Bacteroides thetaiotaomicron ATCC 29148
Lactiplantibacillus plantarum NBRC 3070
【0064】
各細菌についてODが1.0以上となるまで培養と継代を繰り返し、適宜培地で希釈することによって菌液10 mL、OD=1.0の混合用菌液を作成した。
混合用菌液を遠心し、菌体ペレットを8%グリセロース/PBS 400 μlで懸濁した。それぞれの菌種の混合用菌液150 μlを混同して1.2mlとし、8%グリセロース/PBSを150 μl添加し、合計1.5 mlの混合ストック溶液を作成した。
【0065】
2.マウスへのファージ投与
マウス系統C57BL/6NCrの無菌マウス(6週齢)を16匹購入し、3群に分けた(表6参照)。
ビニルアイソレーター内で、混合ストック溶液1000 μlを2週間経口投与して、腸内細菌として定着させた。群1(Vehicle)に対しては、15日目にリン酸緩衝液(pH8.0)を1000 μlで経口投与した。群2, 3(ファージ投与)に対しては、それぞれ15日目に単回で又は15-18日目に連続して、ファージ溶液を経口投与した。ファージ溶液には、CR-V-MCC002、CR-V-MCC004及びCR-V-MCC005をそれぞれ4.8×106 pfu、3.0×106 pfu、2.4×106 pfuで混合したものを、溶媒をリン酸緩衝液(pH8.0)に置換して用いた。
【0066】
【0067】
3.マウス腸内細菌の群間の比較結果
14、15、18日目に採便し、糞便から核酸を抽出し、菌叢を次世代シークエンサーにより解析した。
次世代シークエンス測定はIllumina iseq100を用い、16SrRNA配列のV4領域をターゲットとして測定しfastqファイルを得た。解析はQIIME2(https://qiime2.org/)t2)、ver. 2020.11を使用した。DADA2を用いて5'、3' 末端塩基の削除、クオリティーフィルタリング、キメラ配列除去を行い、Amplicon Sequence Variant(ASV)代表配列を得た。代表配列の細菌種・属をQIIME2のナイーブベイズ分類器により同定した。同定後、サンプルごとに細菌種・属の相対量を得た。
【0068】
群間のC. ramosumの数を比較した結果を
図2に示す。群2, 3(ファージ投与)においてC. ramosumの増殖抑制が確認できた。糞便中のC. ramosumの定量検出により、本開示に係るバクテリオファージの腸管内におけるクロストリジウム属細菌に対する抗菌効果を評価できる可能性が示された。
【0069】
4.マウス糞便サンプル中のファージの検出
CR-V-MCC002、CR-V-MCC004及びCR-V-MCC005のゲノムDNAに対する特異的プライマーを以下のように設計し、QPCRで絶対定量を行った。コントロールサンプルとして増幅領域と同じサイズの2本鎖DNAを用意して検量線を作成し、検量線により定量した。
【0070】
CR-V-MCC002株用プライマー
P_V002S2_F:5'-TGATGACAGGGGAAAGCCATAC-3'(配列番号4)
P_V002S2_R:5'-TCGCTAGGGGTAGCATACAATG-3'(配列番号5)
CR-V-MCC004株用プライマー
P_V004S3_F:5'-AAGAATTCCATAAGCACCAC-3'(配列番号6)
P_V004S3_R:5'-GTGAAGTAAATAGTGCTAGGAG-3'(配列番号7)
CR-V-MCC005株用プライマー
P_V005S1_F:5'-CGCAAACACACAATCATCCG-3'(配列番号8)
P_V005S1_R:5'-AAATCACAAGGTGGGGCAAC-3'(配列番号9)
【0071】
結果を
図3に示す。CR-V-MCC002、CR-V-MCC004及びCR-V-MCC005のいずれも糞便サンプル中に検出され、特にCR-V-MCC002が多く検出された。
この結果は、CR-V-MCC002、CR-V-MCC004及びCR-V-MCC005が腸内で増幅し、C. ramosum菌に対して特異的な抗菌作用を示していることを支持するものである。糞便中の本開示に係るバクテリオファージの定量検出により、バクテリオファージの腸管内におけるクロストリジウム属細菌に対する抗菌効果を評価できる可能性が示された。