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特開2024-93265ビニル樹脂、その製造方法、組成物及び硬化物
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  • 特開-ビニル樹脂、その製造方法、組成物及び硬化物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093265
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ビニル樹脂、その製造方法、組成物及び硬化物
(51)【国際特許分類】
   C07C 255/54 20060101AFI20240702BHJP
   C08F 136/20 20060101ALI20240702BHJP
   C08F 136/18 20060101ALI20240702BHJP
   C07C 253/30 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C07C255/54 CSP
C08F136/20
C08F136/18
C07C253/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209526
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】大村 昌己
(72)【発明者】
【氏名】大神 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】スレスタ ニランジャン
【テーマコード(参考)】
4H006
4J100
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB46
4H006AC43
4H006QN30
4J100AS13P
4J100BA02P
4J100BC43P
4J100CA01
4J100DA01
4J100DA25
4J100DA36
4J100FA03
4J100FA18
4J100FA28
4J100FA29
4J100JA43
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ビニル樹脂として溶剤溶解性に優れるとともに、耐熱性、熱分解安定性、熱伝導性、低誘電率、低誘電正接、難燃性に優れた硬化物を与える電気・電子部品類の封止、回路基板材料等に有用なビニル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されることを特徴とするビニル樹脂。

(但し、Xは、独立して、直接結合、酸素原子、硫黄原子、-SO-、-CO-、-COO-、-CONH-、-CH-又は-C(CH-を示す。Aは、独立して、ベンゾニトリル構造又は-(CH)m-を示し、少なくとも1分子中にベンゾニトリル構造を含む。nは1~15、mは3~10の数を示す。)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするビニル樹脂。
【化1】
(但し、Xは、独立して、直接結合、酸素原子、硫黄原子、-SO-、-CO-、-COO-、-CONH-、-CH-又は-C(CH-を示す。Aは、独立して、ベンゾニトリル構造又は-(CH)m-を示し、少なくとも1分子中にベンゾニトリル構造を含む。nは1~15、mは3~10の数を示す。)
【請求項2】
Xが直接結合である請求項1に記載のビニル樹脂。
【請求項3】
下記一般式(2)で表される請求項1又は2に記載のビニル樹脂。
【化2】
(但し、p、qはそれぞれ独立して、1~15の数を示し、mは3~10の数を示す。)
【請求項4】
下記一般式(3)で表されるヒドロキシ樹脂と、芳香族ビニル化剤とを反応させることを特徴とする請求項1に記載のビニル樹脂の製造方法。
【化3】
(但し、X、A、nは、一般式(1)と同義である。)
【請求項5】
請求項1に記載のビニル樹脂とラジカル重合開始剤とを必須成分として含有するビニル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のビニル樹脂組成物を硬化してなるビニル樹脂硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル樹脂に関し、詳しくは、半導体封止、積層板、放熱基板等の電気・電子部品用絶縁材料に有用な溶剤溶解性に優れたビニル樹脂、その製造方法、樹脂組成物、及びそれらを硬化させて得られる耐熱性、熱分解安定性、熱伝導性、低誘電率、低誘電正接、難燃性に優れる樹脂硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
通信機器に用いられるプリント基板、封止材、注型材などは通信速度、通信量の増大にともない信号伝送速度の向上のため高速通信技術が盛んに研究されている。このような用途における電子材料には誘電損失を低減できる材料が求められており、プリント基板用途では加えて多層化が可能な硬化性樹脂が求められている。
【0003】
一方で、このような情報量の多いデータを処理する電子演算部品からの発熱は多く、熱蓄積によって電子演算部品の処理速度低下など不具合が発生する為、プリント基板ではヒートシンク等により適宜冷却する技術として銅コイン、銅インレイ等の伝熱部材を組み込む方法や(特許文献1)、配合するフィラーの形状を特殊なものにする(特許文献2)など様々な工夫が知られている。しかし、このような方法は重量の増加や機器の大型化につながり好ましくなかった。
【0004】
また、封止材組成物では熱伝導率を高める方法として各種フィラーの種類と量を検討することで電子演算部品からの熱を除熱する方法がとられており、例えば、熱伝導率の大きい結晶シリカ、窒化珪素、窒化アルミニウム、球状アルミナ粉末等の無機充填材を含有させるなどの試みがなされている(特許文献3、4)。ところが、無機充填材の含有率を上げていくと成形時の粘度上昇とともに流動性が低下し、成形性が損なわれるという問題が生じる。従って、単に無機充填材の含有率を高める方法には限界があった。
【0005】
上記背景から、マトリックス樹脂自体の高熱伝導率化によって組成物の熱伝導率を向上する方法も検討されている。例えば、剛直なメソゲン基を有する液晶性のエポキシ樹脂およびそれを用いたエポキシ樹脂組成物が提案されている(特許文献5、6)。しかし、これらのエポキシ樹脂組成物に用いる硬化剤としては、芳香族ジアミン化合物を用いており、無機充填材の高充填率化に限界があるとともに、電気絶縁性の点でも問題があった。また、芳香族ジアミン化合物を用いた場合、硬化物の液晶性は確認できるものの、硬化物の結晶化度は低く、高熱伝導性、低熱膨張性、低吸湿性等の点で十分ではなかった。さらには液晶性発現のために、強力な磁場をかけて分子を配向させる必要があり、工業的に広く利用するためには設備的にも大きな制約があった。また、無機充填材との配合系では、マトリックス樹脂の熱伝導率に比べて無機充填材の熱伝導率が圧倒的に大きく、マトリックス樹脂自体の熱伝導率を高くしても、複合材料としての熱伝導率向上には大きく寄与しないという現実があり、十分な熱伝導率向上効果は得られていなかった。
【0006】
特許文献7には、高熱伝導性と低誘電正接を両立する多官能ビニル樹脂として、ビフェニル骨格を有する4官能以上のビニル樹脂が開示されているが、その多官能ビニル樹脂およびその原料となる多価ヒドロキシ樹脂の溶剤溶解性について記載されておらず、残存する極性基等の不純物が熱伝導率に及ぼす影響についても触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-170493号公報
【特許文献2】国際公開2013/100172号
【特許文献3】特開平11-147936号公報
【特許文献4】特開2002-309067号公報
【特許文献5】特開平11-323162号公報
【特許文献6】特開平9-118673号公報
【特許文献7】国際公開2021/200414号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ビニル樹脂として溶剤溶解性に優れるとともに、耐熱性、熱分解安定性、熱伝導性、低誘電率、低誘電正接、難燃性に優れた硬化物を与える電気・電子部品類の封止、回路基板材料等に有用なビニル樹脂組成物を提供すること、及びその硬化物を提供することにある。また、他の目的はこのビニル樹脂組成物に使用されるビニル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意検討し、特定の構造を有するビニル樹脂が、上記の課題を解決することが期待されること、そしてその硬化物が耐熱性、熱分解安定性、熱伝導性、低誘電率、低誘電正接、難燃性に効果を発現することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるビニル樹脂である。
【化1】
(但し、Xは、独立して、直接結合、酸素原子、硫黄原子、-SO2-、-CO-、-COO-、-CONH-、-CH-又は-C(CH-を示す。Aは、独立して、ベンゾニトリル構造又は-(CH)m-を示し、少なくとも1分子中にベンゾニトリル構造を含む。nは1~15、mは3~10の数を示す。)
【0011】
本発明の一般式(1)のXは直接結合であることが好ましい。
さらに、下記一般式(2)で表されるビニル樹脂であることがより好ましい。
【化2】
(但し、p、qはそれぞれ独立して、1~15の数を示し、mは3~10の数を示す。)
【0012】
また、本発明は、上記ビニル樹脂を製造する方法であって、下記一般式(3)で表されるヒドロキシ樹脂と、芳香族ビニル化剤とを反応させることを特徴とする製造方法である。
【化3】
(但し、X、A、nは、一般式(1)と同義である。)
【0013】
さらに、本発明は、上記多官能ビニル樹脂とラジカル重合開始剤とを必須成分として含有する多官能ビニル樹脂組成物であり、この多官能ビニル樹脂組成物を硬化してなる多官能ビニル樹脂硬化物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のビニル樹脂は、溶剤溶解性に優れ、積層、成形、注型、接着等の用途に使用されるビニル樹脂組成物及びその硬化物に適する。そして、この硬化物は耐熱性、熱分解安定性、熱伝導性、低誘電率、低誘電正接、難燃性にも優れたものとなるので、電気・電子部品類の封止、回路基板材料等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で得られたビニル樹脂のGPCチャートである。
図2】実施例1で得られたビニル樹脂のFD-MSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明のビニル樹脂は、下記一般式(1)で表されるビニル樹脂であることを特徴とするビニル樹脂である。
【化4】
Xは、独立して、直接結合、酸素原子、硫黄原子、-SO2-、-CO-、-COO-、-CONH-、-CH2-又は-C(CH3)2-を示す。Aは、独立して、ベンゾニトリル構造又は-(CH2)m-を示し、少なくとも1分子中にベンゾニトリル構造を含む。好ましくは、少なくとも1分子中に、ベンゾニトリル構造及び-(CH2)m-の両方の構造を持つ。mは3~10の数を示す。高熱伝導性の点で、Xは直接結合であるビフェニル構造、-SO2-、-CO-、-COO-又は-CONH-が好ましく、より好ましくは直接結合であるビフェニル構造であり、そのうち4,4’位のビフェニル構造が特に好ましい。一方、成型性、溶剤溶解性の点で、酸素原子、硫黄原子、-CH2-、-C(CH3)2-が好ましい。本発明の式(1)のビニル樹脂は、「独立して」としたように、各Xが異なる構造の混合物とすることが可能であり、高熱伝導性、成型性、溶剤溶解性を調整することが可能である。
【0017】
nは繰り返し数であり、1~15の数を示す。好ましくは、nの値が異なる成分の混合物である。n値(平均値)としては、1.0~3.0が好ましく、より好ましくは1.5~2.5である。本発明のビニル樹脂は、n=0の化合物との混合物でもよく、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%(GPC面積%)で、n=0のものは40%以下が好ましい。より好ましくは、35%以下である。n=0のものが40%より多く含まれている場合、結晶性が強く、融点が135℃以上となり、溶剤溶解性も低下する傾向がある。また、nが15よりも大きいものは、反応性が低く、硬化時に未反応となる成分が生じると耐熱性が低下する傾向がある。
【0018】
Aは、ベンゾニトリル構造又は-(CH2)m-で表されるアルキル構造を示す。少なくとも1分子中にベンゾニトリル構造を含み、好ましくは少なくとも1分子中にベンゾニトリル構造及び-(CH2)m-で表されるアルキル構造の両方の構造を含む。すなわち、Aについても「独立して」としたように、本発明の式(1)のビニル樹脂は、Aが異なる構造の混合物とすることが可能であり、高熱伝導性、成型性、溶剤溶解性を調整することが可能である。Aについて、ベンゾニトリル構造を、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上含む。ベンゾニトリル構造とアルキル構造の比率は、原料化合物の質量に基づいて、アルキル構造が50モル%未満となることが好ましく、10モル%~40モル%がより好ましい。アルキル構造が50モル%より多い場合、硬化物の熱伝導性、耐熱性が低下しやすく、アルキル構造を含まない場合は結晶性が強くなりやすく、溶剤溶解性が低下する傾向がある。
【0019】
-(CH2)m-で表されるアルキル構造について、mは繰り返し数であり、3~10の数を示す。より好ましくは、4~8の数である。3より小さいと柔軟性が低く、結晶性の緩和効果が低い傾向がある。10より大きいと、硬化物の熱伝導性、耐熱性が大幅に低下する傾向がある。
【0020】
具体的には、以下の式(2)で表されるビニル樹脂を好ましく例示することができる。
【化5】
(但し、p、qはそれぞれ独立して、1~15の数を示し、mは3~10の数を示す。)
【0021】
本発明のビニル樹脂のビニル当量は、200~500の範囲が好ましい。より好ましくは300~400の範囲である。この範囲より大きいと反応性が低く、硬化時に未反応となる成分が生じ、耐熱性、信頼性が低下する傾向がある。この範囲より小さいと、ベンゾニトリル構造またはアルキル構造を含まない二官能ビニル樹脂成分が多くなることを示し、二官能の結晶性ビニル樹脂が多い場合は溶剤溶解性、溶融混練性が低下し、二官能の液状ビニル樹脂が多い場合は硬化物の耐熱性、熱伝導率が低下する傾向がある。
【0022】
本発明のビニル樹脂は、極性基に関して、水酸基当量が5000g/eq以上であり、全塩素量は2000ppm以下が好ましい。
本発明のビニル樹脂は、上記一般式(3)で表されるヒドロキシ樹脂とクロロメチルスチレンと反応させることで得ることができるが、その際に未反応で残存するヒドロキシ樹脂が多く、水酸基当量が5000g/eqより小さい場合、硬化が不十分となり、熱伝導率および耐熱性が低下する。また、水酸基は極性基であることから、その残存は誘電率、誘電正接の低減を阻害する。水酸基当量は、より好ましくは8,000g/eq以上、さらに好ましくは10,000g/eq以上である。
一方、塩素成分としてはクロロメチルスチレン由来によるもの、ヒドロキシ樹脂の製造原料中の架橋剤由来によるものがある。これらは、ビニル樹脂の溶剤溶解性が低い場合、除去することが困難である。2000ppmより多く塩素成分が残存する場合、誘電率、誘電正接の低減を阻害し、硬化反応を阻害することで熱伝導率、耐熱性を低下する傾向がある。全塩素量は、より好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは800ppm以下である。
【0023】
本発明のビニル樹脂は、ヒドロキシ樹脂を芳香族ビニル化剤と反応させることにより、好適に得ることができる。例えば、一般式(3)で表されるヒドロキシ樹脂とクロロメチルスチレンとの反応により、上記式(1)で表される本発明のビニル樹脂を得ることができる。この反応は周知のビニル化反応と同様に行うことができる。
【化6】
(但し、Xは、独立して、直接結合、酸素原子、硫黄原子、-SO2-、-CO-、-COO-、-CONH-、-CH2-又は-C(CH3)2-を示す。Aは、独立して、ベンゾニトリル構造又は-(CH2)m-を示し、少なくとも1つはベンゾニトリル構造を含む。nおよびmはそれぞれ独立して、nは1~15、mは3~10の数を示す。)
式(3)で表されるヒドロキシ樹脂(n=0の化合物との混合物である場合を含む)は、水酸基当量(g/eq)が、好ましくは150~300、より好ましくは200~270である。数平均分子量(Mn)が、好ましくは350~800、より好ましくは450~600である。
nは、式(1)のビニル樹脂におけるnと同義であって、繰り返し数であり、1~15の数を示す。好ましくは、nの値が異なる成分の混合物である。n値(平均値)としては、好ましくは1.0~3.0、より好ましくは1.5~2.5である。
【0024】
式(3)で表されるヒドロキシ樹脂(フェノール性化合物)は、所定の構造を有する限り、製法については限定されないが、ベンゾニトリル化合物と、ジハロゲンアルキル化合物と、X基を持つジヒドロキシ化合物とを、塩基性触媒の存在下に反応させることにより、好適に得ることができる。
この場合、ベンゾニトリル化合物としては、例えば、2,4-ジクロロベンゾニトリル、2,5-ジクロロベンゾニトリル、2,6-ジクロロベンゾニトリル、3,5-ジクロロベンゾニトリル、2,4-ジブロモベンゾニトリル、2,5-ジブロモベンゾニトリル、2,6-ジブロモベンゾニトリル、3,5-ジブロモベンゾニトリルなどが挙げられ、ジハロゲンアルキル化合物としては、例えば、1,3-ジブロモプロパン、1,4-ジブロモブタン、1,5-ジブロモペンタン、1,6-ジブロモヘキサンなどが挙げられ、X基を持つジヒドロキシ化合物としては、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどが挙げられる。
ヒドロキシ樹脂(フェノール性化合物)の製法に関して、より詳細な具体的条件は、例えば、WO2021/201046号を参照するとよい。
【0025】
芳香族ビニル化剤としては、ハロメチルスチレン、特にクロロメチルスチレンが好ましい。その他、ブロモメチルスチレン及びその異性体、置換基を持ったものなどが挙げられる。ハロメチル体の置換位置について、例えば、ハロメチルスチレンの場合、4-位が好ましく、4-位体が全体の60重量%以上であることが好ましい。
【0026】
ヒドロキシ樹脂と芳香族ビニル化剤との反応は、無溶剤下または溶媒の存在下行うことができる。ヒドロキシ樹脂に芳香族ビニル化剤を加え、水酸化金属を加えて反応を行い、生成した金属塩をろ過や水洗などの方法により除去して反応が可能である。
溶媒はメチルエチルケトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。反応性の観点で、メチルエチルケトンが好ましい。水酸化金属の具体例としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0027】
ビニル化の反応は、好ましくは90℃以下、より好ましくは70℃以下の温度で行うとよい。この温度より高い場合、ビニルベンジルエーテル基の熱による自己重合が進行して反応制御が困難となる。自己重合を抑えるためにキノン類、ニトロ化合物、ニトロフェノール類、ニトロソ,ニトロン化合物、酸素などの重合禁止剤を使用してもよい。
【0028】
反応終点は、芳香族ビニル化剤としてのハロメチルスチレンの残存量をGPC等の各種クロマトグラムにて追跡を行うことで決定でき、反応速度は、水酸化金属の種類や量、添加速度、固形分濃度等で調整可能である。
【0029】
本発明のビニル樹脂は単独でも硬化させることができるが、各種添加剤を配合した多官能樹脂組成物として使用することも好適である。
例えば、硬化促進のためにアゾ化合物、有機過酸化物などのラジカル重合開始剤(硬化促進剤)を配合して硬化させることができる。ラジカル重合開始剤は、ビニル樹脂100重量部に対して、例えば、0.01~10重量部の範囲で配合するとよい。
【0030】
本発明のビニル樹脂は、それ以外のビニル樹脂や他の熱硬化性樹脂を配合でき、例えばエポキシ樹脂、オキセタン樹脂、マレイミド樹脂、アクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などが挙げられる。
【0031】
ビニル樹脂組成物としては、熱伝導率を高める為、例えば、ガラスクロス、カーボンファイバー、アルミナ、窒化ホウ素などの充填剤を配合してもよい。
【0032】
無機充填材は、より高い熱伝導率を付与する目的で、熱伝導率が高いものほど好ましい。好ましくは20W/m・K以上、より好ましくは30W/m・K以上、さらに好ましくは50W/m・K以上である。そして、無機充填材の少なくとも一部、好ましくは50wt%以上が20W/m・K以上の熱伝導率を有する。そして、無機充填材全体としての平均の熱伝導率が、20W/m・K以上、30W/m・K以上、及び50W/m・K以上の順に好ましさが向上する。
【0033】
このような熱伝導率を有する無機充填材の例としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化チタン、酸化亜鉛、炭化タングステン、アルミナ、酸化マグネシウム等の無機粉末充填材等が挙げられる。
【0034】
接着力の向上や組成物の取り扱い作業の向上の為、各種添加剤を添加してもよく、例えばシランカップリング剤や消泡剤、内部離型剤や流れ調整剤などが挙げられる。
【0035】
本発明のビニル樹脂またはビニル樹脂組成物をトルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解させ、ガラス繊維,カ-ボン繊維,ポリエステル繊維,ポリアミド繊維,アルミナ繊維,紙などの基材に含浸させ加熱乾燥して得たプリプレグを熱プレス成形して硬化物を得ることなどもできる。
【0036】
また、場合により銅箔、ステンレス箔、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム等のシート状物上に塗布することにより積層物とすることができ、加熱乾燥して得た樹脂シートを熱プレス成形して硬化物を得ることもできる。
【実施例0037】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断りがない限り、「部」は重量部を表し、「%」は重量%を表す。また、測定方法はそれぞれ以下の方法により測定した。
【0038】
1)OH当量
電位差滴定装置を用い、1,4-ジオキサンを溶媒に用い、1.5mol/L塩化アセチルでアセチル化を行い、過剰の塩化アセチルを水で分解して0.5mol/L-水酸化カリウムを使用して滴定した。
【0039】
2)ビニル当量
試料にウィイス液(一塩化ヨウ素溶液)を反応させ、暗所に放置し、その後、過剰の塩化ヨウ素をヨウ素に還元し、ヨウ素分をチオ硫酸ナトリウムで滴定してヨウ素価を算出した。ヨウ素価をビニル当量に換算した。
【0040】
3)全塩素
試料1.0gをブチルカルビトール25mlに溶解後、1N-KOHプロピレングリコール溶液25mlを加え10分間加熱還流した後、室温まで冷却し、さらに80%アセトン水100mlを加え、0.002N-AgNO3水溶液で電位差滴定を行うことにより測定した。
【0041】
4)GPC測定
本体(東ソー株式会社製、HLC-8220GPC)にカラム(東ソー株式会社製、TSKgel SuperMultiporeHZ―N 4本)を直列に備えたものを使用し、カラム温度は40℃にした。また、溶離液にはテトラヒドロフラン(THF)を使用し、0.35mL/分の流速とし、検出器は示差屈折率検出器を使用した。測定試料はサンプル0.1gを10mLのTHFに溶解し、マイクロフィルターで濾過したものを50μL使用した。データ処理は、東ソー株式会社製GPC-8020モデルIIバージョン6.00を使用した。
【0042】
5)電界脱離イオン化質量分析(FD-MS)
質量分析計JMS-T100GCV(日本電子社製)を用いて測定した。試料をアセトンに溶解し、測定に供した。
【0043】
6)溶剤溶解性(析出温度)
サンプル瓶に樹脂2g、シクロヘキサノン1gを秤量し、加熱溶解させた後、恒温槽内にて徐々に温度を低下させ、樹脂が析出した槽内の温度を測定した。析出温度(℃)が高いほど、溶剤溶解性が劣る。
【0044】
7)ガラス転移点(Tg)
熱機械測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR TMA/7100)により、昇温速度10℃/分の条件でTgを求めた。
【0045】
8)5%重量減少温度(Td5)、残炭率
熱重量/示差熱分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー製 EXSTAR TG/DTA7300、)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件において、5%重量減少温度(Td5)を測定した。また、700℃における重量減少を測定し、残炭率として算出した。
【0046】
9)熱伝導率
熱伝導率は、NETZSCH製LFA447型熱伝導率計を用いて非定常熱線法により測定した。
【0047】
10)誘電率及び誘電正接
JIS C 2138規格に従って測定した。測定周波数は1GHzの値で示した。
【0048】

(合成例1) 2Lの4口セパラブルフラスコに4,4’-ジヒドロキシビフェニル(下記構造式)74.5g(0.4モル)、
【化7】
1,5-ジブロモペンタン(下記構造式)18.4g(0.08モル)、
【化8】
N-メチル-2-ピロリドン500gに溶解した後、炭酸カリウム41.5gを加え、窒素気流下、攪拌しながら120℃に昇温した。その後、2,6-ジクロロベンゾニトリル(下記構造式)20.6g(0.12モル)
【化9】
を加え、145℃に昇温し6時間反応させた。反応液に酢酸28.2gを加えて中和した後、減圧下、N-メチル-2-ピロリドンを留去した。反応液にメチルイソブチルケトン250mLを加えて生成物を溶解した後、水洗により生成塩を除去した。その後、メチルイソブチルケトンを減圧蒸留により除いて、ヒドロキシ樹脂aを72.6g得た。得られたヒドロキシ樹脂aの水酸基当量は225g/eq.、Mnは520であった。n値(平均値)は、2.3であった。
【0049】
(合成例2)
1,5-ジブロモペンタンを8.1g(0.035モル)、2,6-ジクロロベンゾニトリルを27.5g(0.16モル)とした他は、合成例1と同様にして反応を行い、ヒドロキシ樹脂bを71.2g得た。ヒドロキシ樹脂bの水酸基当量は230g/eq.、Mnは480であった。n値(平均値)は、2.1であった。
【0050】
(合成例3)
1,5-ジブロモペンタンの代わりに1,6-ジブロモヘキサン(下記構造式)を19.5g(0.08モル)
【化10】
とした他は、合成例1と同様にして反応を行い、ヒドロキシ樹脂cを70.6g得た。ヒドロキシ樹脂cの水酸基当量は228g/eq.、Mnは560であった。n値(平均値)は、2.5であった。
【0051】
(合成例4)
1,5-ジブロモペンタンの代わりに1,3-ジブロモプロパン(下記構造式)を16.2g(0.08モル)
【化11】
とした他は、合成例1と同様にして反応を行い、ヒドロキシ樹脂dを68.1g得た。ヒドロキシ樹脂dの水酸基当量は220g/eq.、Mnは520であった。n値(平均値)は、2.4であった。
【0052】
(合成例5)
2Lの4口セパラブルフラスコに4,4’-ジヒドロキシビフェニル74.5g(0.4モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテル(下記構造式)80.9g(0.4モル)
【化12】
をN-メチル-2-ピロリドン500gに溶解した後、炭酸カリウム82.9gを加え、窒素気流下、攪拌しながら120℃に昇温した。その後、2,6-ジクロロベンゾニトリル68.8g(0.4モル)を加え、145℃に昇温し6時間反応させた。反応液に酢酸72.1gを加えて中和した後、減圧下、N-メチル-2-ピロリドンを留去した。反応液にメチルイソブチルケトン250mLを加えて生成物を溶解した後、水洗により生成塩を除去した。その後、メチルイソブチルケトンを減圧蒸留により除いて、ヒドロキシ樹脂eを173.6g得た。得られたヒドロキシ樹脂eの水酸基当量は261g/eq.、Mnは570であった。n値(平均値)は、2.2であった。
【0053】
(実施例1)
1000mlの4口フラスコに合成例1で得られたヒドロキシ樹脂aを74.3g(0.33モル)、メチルエチルケトン400g、クロロメチルスチレン(下記構造式)61.0g(0.40モル)
【化13】
を加え、60℃に昇温し、メタノール70gに溶解した水酸化カリウム22.4g(0.40モル)を3時間かけて滴下し、さらに6時間反応した。反応終了後、濾過し、溶剤を留去し、メタノールにて再沈殿し、大量の水で水洗し、減圧乾燥によりビニル樹脂84.3gを得た(ビニル化合物A)。ビニル化合物Aのビニル当量は341g/eg.、水酸基当量は10000g/eg.、全塩素は900ppmであった。n値(平均値)は、1.8であった。得られたビニル樹脂のGPCチャートを図1に、FD-MSスペクトルを図2に示す。
【0054】
(実施例2)
ヒドロキシ樹脂aの代わりにヒドロキシ樹脂bを75.9g(0.33モル)用いた以外は、合成例1と同様にして反応を行い、ビニル樹脂Bを88.2g得た。ビニル樹脂Bのビニル当量は347g/eg.、水酸基当量は11000g/eg.、全塩素は800ppmであった。n値(平均値)は、2.0であった。
【0055】
(実施例3)
ヒドロキシ樹脂aの代わりにヒドロキシ樹脂cを75.2g(0.33モル)用いた以外は、合成例1と同様にして反応を行い、ビニル樹脂Cを81.2g得た。ビニル樹脂Cのビニル当量は345g/eg.、水酸基当量は12000g/eg.、全塩素は900ppmであった。n値(平均値)は、2.2であった。
【0056】
(実施例4)
ヒドロキシ樹脂aの代わりにヒドロキシ樹脂dを72.6g(0.33モル)用いた以外は、合成例1と同様にして反応を行い、ビニル樹脂Dを78.6g得た。ビニル樹脂Dのビニル当量は336g/eg.、水酸基当量は7000g/eg.、全塩素は1600ppmであった。n値(平均値)は、2.3であった。
【0057】
(実施例5)
ヒドロキシ樹脂aの代わりにヒドロキシ樹脂eを86.1g(0.33モル)用いた以外は、合成例1と同様にして反応を行い、ビニル樹脂Eを104.5g得た。ビニル樹脂Eのビニル当量は380g/eg.、水酸基当量は13000g/eg.、全塩素は600ppmであった。n値(平均値)は、2.2であった。
【0058】
(比較例1)
1000mlの4口フラスコに、4,4’-ビス(クロロメチル)ビフェニル(下記構造式)40.8g、
【化14】
4,4’-ビフェノール(下記構造式)75.5g、
【化15】
ジエチレングリコールジメチルエーテル120gを仕込み、窒素気流下、攪拌しながら160℃まで昇温して10時間反応させた。続いて、70℃にし、ジエチレングリコールジメチルエーテルを280g、クロロメチルスチレンを129.5g加え、48%水酸化カリウム100.0gを滴下しながら反応を行い、ガスクロマトグラフィーにて残存クロロメチルスチレンが無いことを確認し溶剤を減圧回収した。得られた樹脂をトルエンに溶解し中和、水洗を行い、多官能ビニル樹脂172gを得た(ビニル樹脂F)。得られたビニル樹脂Fのビニル当量は256g/eq.、水酸基当量は1500g/eq.、全塩素は1270ppmであった。
【0059】
(比較例2)
1000mlの4口フラスコに、ジヒドロキシジフェニルメタン(4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン(下記構造式):36.2%、2,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン:46.6%、2,2’―ジヒドロキシジフェニルメタン:17.2%)50.0g、
【化16】
メチルエチルケトン400g、クロロメチルスチレン80.1gを加え、60℃に昇温し、メタノール88gに溶解した水酸化カリウム29.5gを3時間かけて滴下し、さらに6時間反応した。反応終了後、濾過し、溶剤を留去し、メタノールにて再沈殿し、大量の水で水洗し、減圧乾燥により多官能ビニル樹脂95.4gを得た(ビニル樹脂G)。ビニル樹脂Gのビニル当量は217g/eg.、水酸基当量は17000g/eg.、全塩素は400ppmであった。
【0060】
実施例6~10、比較例3~5
ビニル樹脂として、実施例1~5、比較例1~2で得たビニル化合物A~G及びビニル樹脂H(OPE-2ST:三菱ガス化学株式会社製、ビニル基当量:590.0g/eq、数平均分子量1187)を使用し、ラジカル重合開始剤(硬化促進剤)として有機過酸化物であるパーブチルP(日油株式会社製)、酸化防止剤としてアデカスタブAO-60(株式会社ADEKA製)を表1に示す配合割合で混合し、溶剤に溶解して均一な組成物とした。これらの組成物をPETフィルムに塗布し、130℃で5分乾燥を行い、樹脂組成物を得た。PETフィルムから取り出した組成物を鏡面板に挟み、減圧下130℃で15分及び210℃で80分2MPaの圧力をかけながら硬化した。得られた硬化物の特性を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
実施例の多官能ビニル樹脂は、比較例に比べて、熱伝導率が高く、尚且つ低誘電率、低誘電正接という優れた物性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の多官能ビニル樹脂は、高速通信機器の電子材料として電子部品や配線からの発熱を逃がし易く信号損失か少ない材料として有用である。
図1
図2