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特開2024-93309湯種の製造方法、及び湯種を用いる食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093309
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】湯種の製造方法、及び湯種を用いる食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 8/02 20060101AFI20240702BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20240702BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20240702BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20240702BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20240702BHJP
   A23L 29/244 20160101ALI20240702BHJP
   A23L 29/25 20160101ALI20240702BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20240702BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20240702BHJP
   A21D 13/40 20170101ALI20240702BHJP
   A21D 13/44 20170101ALI20240702BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20240702BHJP
   A21D 6/00 20060101ALI20240702BHJP
   A23L 35/00 20160101ALN20240702BHJP
【FI】
A21D8/02
A21D2/18
A23L29/262
A23L29/269
A23L29/256
A23L29/244
A23L29/25
A21D10/00
A21D13/00
A21D13/40
A21D13/44
A21D2/16
A21D6/00
A23L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209605
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】岸野 智
(72)【発明者】
【氏名】田中 一史
【テーマコード(参考)】
4B032
4B036
4B041
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB10
4B032DB33
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK14
4B032DK15
4B032DK16
4B032DK17
4B032DK18
4B032DK39
4B032DK42
4B032DK48
4B032DK49
4B032DK51
4B032DK54
4B032DK70
4B032DL01
4B032DL06
4B032DL11
4B032DP10
4B032DP11
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4B032DP13
4B032DP17
4B032DP23
4B032DP25
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4B041LH09
4B041LH10
4B041LH11
4B041LH18
4B041LK18
4B041LP04
(57)【要約】
【課題】湯種の製造方法であって、湯種を用いるベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができる湯種の製造方法、及びそれを用いる食品の製造方法を提供する。
【解決手段】湯種を製造する方法であって、油脂、水(高温水である場合を含む)、及び増粘安定素材を含む材料Aを乳化するまで混合し、エマルジョンを調製する工程、及び前記エマルジョンと、穀粉を含む材料Bを混合して湯種を調製する工程を含むことを特徴とする湯種の製造方法、本発明の湯種の製造方法によって湯種を調製する工程、及び前記湯種、及び穀粉を含む材料Cを混合し、生地を調製する工程を含む食品用生地の製造方法、並びに本発明の食品用生地の製造方法によって生地を調製する工程、及び前記生地を加熱する工程を含む食品の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湯種を製造する方法であって、
油脂、水(高温水である場合を含む)、及び増粘安定素材を含む材料Aを乳化するまで混合し、エマルジョンを調製する工程、及び
前記エマルジョンと、穀粉を含む材料Bを混合して湯種を調製する工程
を含むことを特徴とする湯種の製造方法。
【請求項2】
前記増粘安定素材が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、カードラン、カラギーナン、グルコマンナン、ガム質からなる群から選択される1種以上の素材である請求項1に記載の湯種の製造方法。
【請求項3】
前記増粘安定素材の配合量が、前記湯種の材料(材料A+材料B)の総質量に基づいて、0.01~10質量%である請求項1又は2に記載の湯種の製造方法。
【請求項4】
前記エマルジョンにおいて、前記油脂、前記水、及び前記増粘剤の配合比が、
前記増粘剤1質量部に対して、前記油脂が0.2~50質量部であり、且つ
前記水が1~100質量部である請求項1又は2に記載の湯種の製造方法。
【請求項5】
前記エマルジョンの配合量が、前記湯種の材料(材料A+材料B)の総質量に基づいて、5.0~80質量%である請求項1又は2に記載の湯種の製造方法。
【請求項6】
油脂、水(高温水である場合を含む)、及び増粘安定素材からなるエマルジョン、並びに穀粉を含む湯種。
【請求項7】
湯種を用いる食品用生地を製造する方法であって、
請求項1又は2に記載の湯種の製造方法によって湯種を調製する工程、及び
前記湯種と、穀粉を含む材料Cを混合し、生地を調製する工程
を含む食品用生地の製造方法。
【請求項8】
湯種を用いる食品を製造する方法であって、
請求項7に記載の食品用生地の製造方法によって生地を調製する工程、及び
前記生地を加熱する工程
を含む食品の製造方法。
【請求項9】
湯種を用いる食品のしっとり感を向上する方法であって、
前記湯種を、請求項1又は2に記載の湯種の製造方法によって調製することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー製品、麺類、及びその他の食品の製造に用いる湯種の製造方法に関し、湯種を用いる食品、特にベーカリー製品を大型製造ラインで製造する際に課題となる作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができる湯種の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、湯種は、小麦粉や澱粉等の穀粉を含む材料を高温水(60℃以上の水をいう)と混合、混捏し、穀粉中の澱粉をα化させたものであり、パン類や洋菓子類等のベーカリー製品、麺類、及びクリームコロッケ等のその他の食品の食感改良のために食品用生地の一部に加えて用いられる。湯種を用いる食品の製造方法は「湯種法」とも称される。特にベーカリー製品の場合、湯種法で製造されたベーカリー製品は、もっちり、しっとりとした食感を有することが特徴とされている。しかしながら、湯種法で製造されたベーカリー製品用生地は、べたつきが生じやすいこと、伸展性が低いこと等により、作業性が悪い場合があり、これは大規模な製パン工場等の大型製造ラインで特に顕著である。また、湯種法によって得られるベーカリー製品は、経時的に品質が変化しやすいため、保存中にしっとり感が低下し、パサつきが生じる傾向がある。これは、特に保存性を高めるために加水が少ない冷凍生地において生じやすい。そこで、従来から、上述のような湯種法の課題を解決するため、種々の開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、湯種製法による製パンにおいて、生地物性の低下、特に生地伸展性の低下を引き起こすことなく、良好な機械耐性を可能とし、尚かつ該製法により得られるパンの品質が良好であるパン類の製造方法の提供を目的とし、湯水を小麦粉を主成分とする原材料に添加し混捏することにより湯種生地を調製する工程を含むパン類の製造方法であって、湯種生地の調製時に乳化剤を添加するパン類の製造方法が開示されている。また、特許文献2では、水分含量の高いベーカリー生地であって、分割、丸め、成形時に粘つきがなく良好な物性を呈するベーカリー生地、及び、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきの少ない良好な食感のベーカリー製品を得ることができるベーカリー生地を提供することを目的とし、澱粉類100質量部に対して、水120質量部~500質量部及び増粘安定剤2質量部~30質量部を含有することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地が開示されている。さらに特許文献3では、内相が良好でもっちりとした食感を示すベーカリー製品を得ることができ、且つ長期間保存することのできる湯種生地を提供すること、また内相が良好でもっちりとした食感を有し経日的な老化が抑制されたベーカリー製品を得ることを目的とし、マルトース生成型アミラーゼを含有する、湯種用油脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-023955号公報
【特許文献2】特開2011-087515号公報
【特許文献3】特開2015-198610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの技術を用いた湯種であっても、湯種を用いる食品、特にベーカリー製品を大型製造ラインで製造する場合の作業性や得られるベーカリー製品の品質が十分ではない場合がある。特に、生地を冷凍保存する冷凍生地の場合、保存性を高めるために加水を少なくしたり、発酵が必要な生地であっても発酵を控えたりするため、得られる製品が経時的に品質が変化しやすく、保存中にしっとり感が低下し、パサつきが生じやすい傾向がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、湯種の製造方法であって、湯種を用いるベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができる湯種の製造方法、及びそれを用いる食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、湯種を調製する条件を種々検討することで、湯種法の作業性を向上し、且つ得られる食品のしっとり感を向上させることができることを見出した。
【0008】
すなわち、上記目的は、湯種を製造する方法であって、油脂、水(高温水である場合を含む)、及び増粘安定素材を含む材料Aを乳化するまで混合し、エマルジョンを調製する工程、及び前記エマルジョンと、穀粉、及び任意に水(高温水である場合を含む)を含む材料Bを混合し、必要に応じてさらに加熱して湯種を調製する工程を含むことを特徴とする湯種の製造方法、湯種を用いる食品用生地を製造する方法であって、本発明の湯種の製造方法によって湯種を調製する工程、及び前記湯種と、穀粉を含む材料Cを混合し、生地を調製する工程を含む食品用生地の製造方法、並びに湯種を用いる食品を製造する方法であって、本発明の食品用生地の製造方法によって生地を調製する工程、及び前記生地を加熱する工程を含む食品の製造方法によって達成される。本発明において、「増粘安定素材」は、食品の粘度を向上させる、及び/又は安定化させる食品用素材のことを称し、増粘剤、増粘多糖類、増粘性を有する食品等を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、湯種を用いてベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品、特にベーカリー製品のしっとり感を向上することができる湯種を容易に製造することができる。特に湯種法の課題が顕在し易い、ベーカリー製品用生地が、乳化剤を使用しない生地である場合、冷凍生地である場合、ノータイム法で製造される生地である場合でも、上述の効果が得られるので、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[湯種の製造方法]
本発明の湯種の製造方法は、湯種を製造する方法であって、油脂、水(高温水である場合を含む)、及び増粘安定素材を含む材料Aを乳化するまで混合し、エマルジョンを調製する工程、及び前記エマルジョンと、穀粉、及び任意に水(高温水である場合を含む)を含む材料Bを混合し、必要に応じてさらに加熱して湯種を調製する工程を含むことを特徴とする。通常、湯種を製造する場合、混捏機等の混合装置中で、小麦粉や澱粉等の穀粉を含む全ての材料を水(高温水である場合を含む)と混合して製造する。必要に応じてさらに加熱する場合もある。本発明においては、上述の通り、材料Aを乳化するまで混合してエマルジョンを調製した後、穀粉、及び任意に水(高温水である場合を含む)を含む材料Bを混合し、必要に応じてさらに加熱しながら混合して湯種を製造する。これにより、湯種法でベーカリー製品等の食品を製造する際に、食品用生地のべたつきが生じ難くなり、伸展性が向上するため、作業性が向上し、例えば、ベーカリー製品の場合、大規模な製パン工場等の大型製造ラインであっても良好に製造することができる。さらに、得られる食品、特にベーカリー製品のしっとり感が向上し、経時的なしっとり感の低下やパサつきを抑制することができる。
【0011】
本発明において、エマルジョンを調製する工程は、材料Aを混合機等で乳化するまで混合すればよく、水中油滴型でも、油中水滴型でもよい。混合時間には特に制限はなく、例えば、一般に製パンに用いる縦型ミキサーを用いて高速で30秒間以上混合すればよい。高速で1~5分混合することによって、より均一な乳化状態が達成されるのでさらに好ましい。前記エマルジョンは、水中油滴型で乳化されていることが好ましく、起泡(含気、ホイップ)されていてもよい。なお、エマルジョンを調製する工程において、増粘安定素材の種類や、油脂及び水の配合量等に応じて、材料Aを混合する順番を、適宜選択することができる。例えば、先に油脂と増粘安定素材を混合した後、水を投入して乳化するまで混合してもよく、先に水と増粘安定素材を混合した後、油脂を、必要に応じて融解して投入して乳化するまで混合してもよい。また、油脂は高温にした油脂であってもよく、水は高温水であってもよい。本発明において、湯種を調製する工程は、特に制限はなく、従来の湯種を調製する方法と同様な方法で行うことができる。例えば、前記エマルジョンと、穀粉、及び水(高温水である場合を含む)を含む材料Bを混合機、混捏機等で混合、混捏し、必要に応じて、さらに加熱することができる。また、穀粉、及び水(高温水である場合を含む)を含む材料Bを混合機、混捏機等で混合、混捏し、必要に応じて、さらに加熱して湯種化した後、前記エマルジョンを混合して調製してもよい。さらに、前記エマルジョンを高温水で調製した後、穀粉を含む材料Bを加え、混合、混捏し、必要に応じて、さらに加熱して湯種を調製することもできる。出来上がり時の湯種温度は、50℃~80℃が好ましく、55℃~70℃がさらに好ましい。混合、混捏時間は特に制限はなく、従来の湯種を調製する方法と同様の範囲で、例えば、2~20分間、好ましくは3~5分間で実施することができる。なお、エマルジョンを調製する工程と、湯種を調製する工程は、続けて行ってもよく、エマルジョンを調製した後、冷蔵等で保存して、湯種を調製する際に、随時配合してもよい。本発明において、湯種を調製する工程の後、得られた湯種は放冷してから用いる。湯種の冷却条件は、冷蔵(5℃)下で2時間以上放冷することが好ましく、10時間以上放冷することがさらに好ましく、15時間以上放冷することがよりさらに好ましい。湯種は、常温(25℃)下で3時間以上放冷してもよい。得られた湯種は、続けて、後述する食品用生地の調製に用いてもよく、得られた湯種を冷蔵・冷凍保存して、食品用生地を調製する際に、随時用いて良い。
【0012】
本発明のエマルジョンの材料Aにおいて、油脂は、バター、ラード、サラダ油、マーガリン、ショートニング等、ベーカリー製品等の食品の製造に使用される食用油脂を適宜用いることができる。また、材料Aにおける水は、低温水であっても、常温水であっても、高温水であっても良い。本発明において、増粘安定素材は、食品の粘度を向上させる、及び/又は安定化させる食品用素材であれば、特に制限はなく、増粘剤、増粘多糖類、増粘性を有する食品等を適宜用いることができる。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、寒天、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、カードラン、プルラン、カラギーナン、グルコマンナン、ガム質、及びそれらの2種以上の組み合わせ等が挙げられる。好ましくは、前記増粘安定素材は、HPMC、CMC、メチルセルロース、カードラン、カラギーナン、グルコマンナン、ガム質、及びそれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択される。ガム質としては、キサンタンガム、トレメルガム、グアガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、トラガントガム、ジェランガム、タラガム、アラビアガム等が挙げられる。前記ガム質は、キサンタンガム、及びトレメルガムが好ましい。
【0013】
本発明のエマルジョン以外の湯種の材料Bにおいて、穀粉は、ベーカリー製品等の食品の製造に使用されるものであれば、特に制限はない。例えば、小麦粉(国内産、国外産(北米産、オーストラリア産等)の小麦由来の強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム小麦粉、それらの2種以上の組み合わせ等)、大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、トウモロコシ粉、ホワイトソルガム粉、米粉、大豆粉、緑豆粉、そば粉、アマランサス粉、キビ粉、アワ粉、ヒエ粉、これらを加熱処理した加熱処理粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、物理的又は化学的に加工を施した加工澱粉、それらの2種以上の組み合わせ等が挙げられる。また、高温水を用いる場合の温度は、従来の湯種を調製する方法と同様な範囲、例えば、80~100℃の高温水を用いることができる。また、本発明の効果を損なわない限り、材料A及び又は材料Bは、その他の材料を含んでいても良い。例えば、砂糖、ぶどう糖、麦芽糖、異性化糖、水あめ、粉あめ、オリゴ糖、デキストリン、糖アルコール等の糖質;グルテン、大豆たん白、乳たん白等のたん白質素材;脱脂粉乳等の乳製品;乾燥卵等の卵製品;食塩、カルシウム塩、調味料、香料、着色料、α-アミラーゼ、マルトース生成酵素等の酵素製剤、ビタミンC、乳化剤等が挙げられる。
【0014】
本発明において、増粘安定素材の配合量は、本発明の効果が得ることができれば、特に制限はない。好ましくは、前記増粘安定素材の配合量は、前記湯種の材料(材料A+材料B)の総質量に基づいて、0.01~10質量%であり、さらに好ましくは0.1~7質量%であり、さらにより好ましくは0.2~3質量%であり、特に好ましくは0.2~0.8質量%である。また、エマルジョンにおける、油脂、水、及び増粘安定素材の配合比についても、本発明の効果が得ることができれば、特に制限はない。前記エマルジョンを、均一に混合し、乳化させるため、好ましくは、前記増粘安定素材1質量部に対して、前記油脂が0.2~50質量部であり、且つ前記水が1~100質量部であり、さらに好ましくは、前記増粘安定素材1質量部に対して、前記油脂が1~40質量部であり、且つ前記水が2~70質量部である。
【0015】
本発明において、エマルジョンの配合量は、本発明の効果が得ることができれば、特に制限はなく、前記エマルジョンにおける油脂、水、及び増粘安定素材の量に応じて適宜調整することができる。好ましくは、前記エマルジョンの配合量は、前記湯種の材料(材料A+材料B)の総質量に基づいて、5.0~80質量%であり、さらに好ましくは、8.0~30質量%である。
【0016】
本発明において、湯種を用いる食品は、湯種を用いて製造できる食品であれば、特に制限はない。例えば、食パン、ロールパン、食卓パン、フランスパン、菓子パン、調理パン、デニッシュ、イーストドーナツ、中華まん等のパン類;クッキー、パイ、スポンジケーキ、バターケーキ、パンケーキ、ケーキドーナツ等のケーキ類;その他、たこ焼、お好み焼、クレープ等のベーカリー製品、うどん、そば、中華麺等の麺類、コロッケ、クリームコロッケ、グラタン、芋羊羹等のその他の食品が挙げられる。本発明において、食品は、本発明の効果が特に有効なベーカリー製品であることが好ましい。なお、本発明は、油脂、水(高温水である場合を含む)、及び増粘安定素材からなるエマルジョン、並びに穀粉を含む湯種にも関する。
【0017】
[食品用生地の製造方法]
本発明の食品用生地(以下、単に「生地」とも称する)を製造する方法は、本発明の湯種の製造方法によって湯種を調製する工程、及び前記湯種と、穀粉を含む材料Cを混合し、生地を調製する工程を含む。上述の通り、本発明の製造方法によって製造された湯種を用いてベーカリー製品用生地等の食品用生地を製造することで、湯種法で課題となる、生地のべたつきが生じ難くなり、伸展性が向上するため、作業性が向上し、例えば、ベーカリー製品の場合、大規模な製パン工場等の大型製造ラインであっても良好に製造することができる。さらに、得られる食品、特にベーカリー製品のしっとり感が向上し、経時的なしっとり感の低下やパサつきを抑制することができる。
【0018】
本発明の湯種と混合する材料Cにおいて、穀粉は、湯種の材料Bの場合と同様に、ベーカリー製品等の食品の製造に使用されるものであれば、特に制限はない。例えば、小麦粉(国内産、国外産(北米産、オーストラリア産等)の小麦由来の強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム小麦粉、それらの2種以上の組み合わせ等)、大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、トウモロコシ粉、ホワイトソルガム粉、米粉、大豆粉、緑豆粉、そば粉、アマランサス粉、キビ粉、アワ粉、ヒエ粉、これらを加熱処理した加熱処理粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、物理的又は化学的に加工を施した加工澱粉、それらの2種以上の組み合わせ等が挙げられる。また、本発明の効果を損なわない限り、材料Cは、その他の材料を含んでいても良い。例えば、水、液卵、牛乳、果汁、だし汁、調味液等の液体材料;砂糖、ぶどう糖、麦芽糖、異性化糖、水あめ、粉あめ、オリゴ糖、デキストリン、糖アルコール等の糖質;バター、ラード、サラダ油、マーガリン、ショートニング等の油脂;グルテン、大豆たん白、乳たん白等のたん白質素材;脱脂粉乳等の乳製品;乾燥卵等の卵製品;イースト、ベーキングパウダー、増粘多糖類、食塩、カルシウム塩、調味料、香料、着色料、酵素製剤、ビタミンC、乳化剤、イーストフード等が挙げられる。なお、本発明においては、乳化剤を使用しなくても湯種法によるベーカリー製品等の食品用生地のべたつきが生じ難くなり、伸展性が向上するため、作業性が向上し、例えば、ベーカリー製品の場合、大規模な製パン工場等の大型製造ラインであっても良好に製造することができる。さらに、得られる食品、特にベーカリー製品のしっとり感が向上し、経時的なしっとり感の低下やパサつきを抑制する効果が得られる。
【0019】
本発明において、食品用生地の製造方法としては、本発明の製造方法によって製造された湯種を用いていればよく、例えば、ベーカリー製品の場合、パン類の中種法、ストレート法、ノータイム法、発酵種法等の公知のベーカリー製品の製造方法における生地の製造方法と組み合わせることができる。したがって、本発明において、生地を調製する工程は、ベーカリー製品等の食品用生地の製造方法の常法に応じて、適宜、湯種と材料Cを混合することができる。調製した食品用生地は、冷蔵してもよく、冷凍してもよい。本発明の食品用生地、特にベーカリー製品用生地は、本発明の製造方法によって製造された湯種を含むので、生地を冷凍保存する際、保存性を高めるために加水を少なくしたり、発酵が必要な生地であっても発酵を控えたりする場合であっても、得られるベーカリー製品の経時的なしっとり感の低下やパサつきが生じることを抑制することができる。また、発酵時間が短く得られるベーカリー製品が老化しやすいノータイム法で製造されるベーカリー製品においても、同様の効果が発揮される。したがって、本発明の食品用生地は、ベーカリー製品用生地の冷凍生地であることや、ノータイム法で製造されるベーカリー製品用生地であることが好ましい。本発明の食品用生地の製造方法の好ましい態様は、本発明の湯種の製造方法の好ましい態様と同様である。なお、本発明は、本発明の湯種を含む食品用生地にも関する。
【0020】
[食品の製造方法]
本発明の湯種を用いる食品の製造方法は、本発明の食品用生地の製造方法によって生地を調製する工程、及び前記生地を加熱する工程を含む。上述の通り、本発明の製造方法によって製造された生地を用いてベーカリー製品等の食品を製造することで、湯種法で課題となる生地のべたつきが生じ難くなり、伸展性が向上するため、作業性が向上し、例えば、ベーカリー製品の場合、大規模な製パン工場等の大型製造ラインであっても良好に製造することができる。さらに、得られる食品、特にベーカリー製品のしっとり感が向上し、経時的なしっとり感の低下やパサつきを抑制することができる。生地は、ベーカリー製品等の食品の種類に応じて、常法に従って、必要に応じて発酵させてもよく、成形してもよく、冷凍保存してもよい。生地を加熱する工程は、ベーカリー製品等の食品の種類に応じて、焼成、油ちょう、蒸し調理等で適切な時間加熱することができる。本発明の食品の製造方法の好ましい態様は、本発明の湯種の製造方法の好ましい態様と同様である。なお、本発明は、加熱された本発明の食品用生地からなる食品にも関する。
【0021】
なお、上述の本発明の湯種の製造方法の説明から理解できるように、本発明は、湯種を用いて製造される食品、特にベーカリー製品のしっとり感を向上する方法であって、前記湯種を、本発明の湯種の製造方法によって調製することを特徴とする方法にも関する。本発明の方法の好ましい態様は、本発明の湯種の製造方法の好ましい態様と同様である。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.参考例1のベーカリー製品(ロールパン)の製造
ベーカリー製品としてロールパンを選定し、表1に示した配合(粉2kg仕込み)に従って、以下の方法で参考例(ストレート法)のロールパンを製造した。具体的には、まず、表1に示した材料のうちマーガリン以外の材料を低速3分中速6分混捏した。次いでマーガリンを加え、さらに低速2分中速4分高速2分混捏し、パン生地を得た(捏上温度27℃)。こうして得られたパン生地を、27℃湿度75%条件で20分間フロアタイムをとり、70gに分割し、室温で30分間のベンチタイムをとった。パン生地を棒状に成形し、天板に並べ、38℃湿度85%条件で50分間ホイロ内で最終発酵を行い、210℃のオーブンで12分間焼成し、ロールパンを作製した。
2.実施例、及び比較例のベーカリー製品(ロールパン)の製造
表1に示した配合(粉2kg仕込み)で、各実施例、及び比較例の湯種、並びにロールパンを製造した。具体的には、比較例の場合は、まず、表1に示した湯種の材料(高温水の温度は90℃)を混捏機で、捏ね上げ温度60℃で混捏して湯種を得た。なお、比較例3の場合は、材料Cに示した増粘安定素材、マーガリン(材料A分)及び水(材料A分)を用いて後述の実施例のエマルジョンを調製しておき、生地の調製時に、湯種を加えるタイミングで、一緒に混合した。比較例4の場合は、材料Bに示した増粘安定素材、マーガリン(材料A分)及び水(材料A分)を、後述の実施例のエマルジョンの調製をせずに、材料Bと共に混捏して湯種を調製した。また、実施例の場合は、まず、エマルジョンの材料Aを縦型ミキサーで乳化するまで高速で3分間混合し、エマルジョンを調製した。次いで材料B(高温水の温度は90℃)を加え、捏ね上げ温度60℃で混捏して湯種を得た。ただし、実施例3では、材料Bのみで湯種化した後、先に調製したエマルジョンを混合してさらに混捏して湯種を得た。また、実施例4では、材料Aにおける水を90℃の高温水を用いてエマルジョンを調製した後、材料B(小麦粉)を加え、混捏して湯種を得た。次に、調製した各湯種を5℃下で18時間放冷した後、表1に示した生地の材料Cの内、マーガリンと湯種以外の材料と混合し、低速3分中速6分間混捏した。マーガリンと湯種を加え、さらに低速2分中速4分高速2分間混捏し、パン生地を得た(捏上温度22℃)。ただし、実施例17では、湯種と材料Cを混合するタイミングを、ミキシング開始時とし、低速3分中速6分間混捏した。マーガリンを加え、さらに低速2分中速4分高速2分間混捏し、パン生地を得た(捏上温度22℃)。こうして得られたパン生地を、27℃湿度75%条件で20分間フロアタイムをとり、70gに分割し棒状に成形し、-40度で30分間凍結して 冷凍生地とした。得られた 冷凍生地を-20℃の冷凍庫で1か月間保管した後、天板に並べ、 20℃湿度70% 条件で3時間解凍し、38℃湿度85%条件で50分間ホイロ内で最終発酵を行い、210℃のオーブンで12分間焼成し、ロールパンを作製した。
【0023】
3.評価
(1)作業性
上記の製パン工程における作業性を、以下の評価基準で評価した。各評価結果は、10名のパネルによる評価点の平均値を示した。
5:べたつきが全くなく、非常に良好
4:べたつきがほとんどなく、良好
3:わずかにべたつきはあるが、やや良好
2:べたつきがあり、悪い
1:べたつきがひどく、非常に悪い
(2)食感の評価
上記の方法で得られた各パンを焼成1日後(D+1)に軟らかさの食感評価を行った。さらにパンを袋に入れ、2日間常温保存後(D+3)にも軟らかさ、及びしっとり感の食感評価を行った。軟らかさ、しっとり感の食感評価は、以下の基準に従って評価した。各評価結果は、訓練を受けた専門パネル10名の評点の平均値を示した。
(i)軟らかさ
5:非常に軟らかい食感であり、非常に良好
4:軟らかい食感であり、良好
3:やや軟らかい食感であり、やや良好
2:軟らかい食感がほとんど感じられず、悪い
1:軟らかい食感が全く感じられず、非常に悪い
(ii)しっとり感
5:非常にしっとりとした食感であり、非常に良好
4:しっとりとした食感であり、良好
3:ややしっとりとした食感であり、やや良好
2:しっとりとした食感がほとんど感じられず、ややパサついた食感であり、悪い
1:しっとりとした食感が全く感じられず、パサついた食感であり、非常に悪い
評価結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
表1に示した通り、油脂、水、及び増粘安定素材を含む材料Aを乳化するまで混合し、エマルジョンを調製した後、前記エマルジョンと、穀粉、及び高温水を含む材料Bを混合して調製した湯種を用いて製造した実施例1~18のロールパンは、作業性が良好で、軟らかさ、及びしっとり感の食感も良好であった。特に、D+3の軟らかさ、及びしっとり感の評価も高く、ロールパンの経時的な品質の変化が抑制されていることが示唆された。一方、材料Aを含まない比較例1、材料Aの内、増粘安定素材のみを生地の調製時に材料Cとして配合した比較例2、材料Aと同一の材料でエマルジョンを調製しておき、生地の調製時にエマルジョンを含まない湯種と一緒に混合した比較例3、エマルジョンを調製せず、湯種の調製時に材料Aを材料Bと共に混合して湯種を調製した比較例4では、作業性が低く、食感の評価も低かった。したがって、油脂、水、及び増粘安定素材を含む材料Aを乳化するまで混合し、エマルジョンを調製する工程、及び前記エマルジョンと、穀粉を含む材料Bを混合し、湯種を調製する工程を含む製造方法によって得られた湯種を用いることで、湯種法でパン類を製造する際に、パン類用生地のべたつきが生じ難くなり、作業性が向上し、さらに、得られるパン類のしっとり感が向上し、経時的なしっとり感の低下やパサつきを抑制することができることが示唆された。
【0026】
また、エマルジョンの調製時の増粘安定素材の配合量が、湯種の材料(材料A+材料B)の総質量に基づいて、0.03質量%の実施例10、0.57質量%の実施例4、及び6.67質量%の実施例11を比較すると、何れも良好な結果であったが、実施例4が最も良好であった。湯種の調製方法としては、エマルジョンに材料Bを加えて調製した実施例2、材料Bを湯種化した後、エマルジョンと混合して調製した実施例3、及び高温水で調製したエマルジョンに材料B(小麦粉)を加えて調製した実施例4を比較すると、何れも良好な結果であったが、エマルジョンに材料Bを加えて調製した実施例2が最も良好であった。増粘安定素材の種類については、HPMCを用いた実施例1、キサンタンガムを用いた実施例5、カードランを用いた実施例6、及びトレメルガムを用いた実施例7を比較すると、何れも良好な結果であったが、HPMCを用いた実施例1、及びトレメルガムを用いた実施例7が特に良好であった。エマルジョンの油脂の配合量については、増粘安定素材1質量部に対して、5質量部の実施例1、1.25質量部の実施例12、及び40質量部の実施例13を比較すると、何れも良好な結果であったが、5質量部の実施例1が最も良好であった。エマルジョンの水の配合量については、増粘安定素材1質量部に対して、20質量部の実施例1、45質量部の実施例2、2.5質量部の実施例8、及び70質量部の実施例9を比較すると、何れも良好な結果であったが、20質量部の実施例1、45質量部の実施例2が特に良好であった。さらに、生地中に含まれる湯種の量については、生地中の穀粉の総量100質量部に対して、35.2質量部の実施例1、45.2質量部の実施例9、6.7質量部の実施例14、及び65.2質量部の実施例15を比較すると、何れも良好な結果であったが、20質量部の実施例1、45.2質量部の実施例9が特に良好であった。エマルジョンの調製時に酵素(マルトース生成酵素)を配合した実施例16、湯種を混合するタイミングを、本捏のミキシング開始時に変えた実施例17、及び生地調製時にα化澱粉及び酵素(マルトース生成酵素)を配合した実施例18についても良好な結果であった。
【0027】
4.参考例2のベーカリー製品(たこ焼)の製造
ベーカリー製品としてたこ焼を選定し、表2に示した配合で各材料を撹拌混合し、たこ焼用生地を調製した。次いで、200℃に加熱した複数の半球状の窪み(穴径:45mm、深さ:20mm)を有するたこ焼器にサラダ油を引き、各生地を流し入れた後、各窪みに茹で蛸(4g)を加え、竹串を用いて球状に形を整えながら8分間焼成し、たこ焼を製造した。
5.実施例、及び比較例のベーカリー製品(たこ焼)の製造
表2に示した配合で、実施例、及び比較例の湯種、及びたこ焼を製造した。具体的には、比較例の場合は、まず、表2示した湯種の材料(高温水の温度は90℃)を縦型ミキサーで、最終温度60℃で混合して湯種を得た。また、実施例の場合は、まず、エマルジョンの材料Aを縦型ミキサーで乳化するまで高速3分間混合し、エマルジョンを調製した。次いで材料B(高温水の温度は90℃)を投入し、最終温度60℃で混合して湯種を得た。次に、調製した各湯種を5℃下で18時間放冷した後、表1に示した生地の材料Cを投入し、撹拌混合し、たこ焼用生地を調製した。次いで、200℃に加熱した複数の半球状の窪み(穴径:45mm、深さ:20mm)を有するたこ焼器にサラダ油を引き、各生地を流し入れた後、各窪みに茹で蛸(4g)を加え、竹串を用いて球状に形を整えながら8分間焼成し、たこ焼を製造した。
6.食感の評価
上記の方法で得られた各たこ焼について、焼成してから20分後に、軟らかさ、しっとり感の食感評価を、上記3.(2)と同様に評価した。
評価結果を表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
表2に示した通り、油脂、水、及び増粘安定素材を含む材料Aを乳化するまで混合し、エマルジョンを調製した後、前記エマルジョンと、穀粉、及び高温水を含む材料Bを混合して調製した湯種を用いて製造した実施例19のたこ焼は、軟らかさ、及びしっとり感の食感が良好であった。一方、実施例19の材料Aと同一の材料を生地の調製時に材料Cとして配合した比較例5のたこ焼は、食感の評価が低かった。
【0030】
7.参考例3のベーカリー製品(パンケーキ)の製造
ベーカリー製品としてパンケーキを選定し、表3に示した配合で各材料の内、全卵及びマーガリン以外を均一に撹拌混合し、さらに全卵、マーガリンを添加し、均一に混合してパンケーキ生地を調製した。次いで、どら焼き焼成機SDR-SGA(株式会社マスダック製)を用いて、上記のように調製したパンケーキ用生地(1枚当たり30g)を、180℃で2分間焼成し、パンケーキを製造した。
8.実施例、及び比較例のベーカリー製品(パンケーキ)の製造
表3に示した配合で、実施例、及び比較例の湯種、及びパンケーキを製造した。具体的には、比較例の場合は、まず、表3示した湯種の材料(高温水の温度は90℃)を縦型ミキサーで、最終温度60℃で混合して湯種を得た。また、実施例の場合は、まず、エマルジョンの材料Aを縦型ミキサーで乳化するまで高速3分間混合し、エマルジョンを調製した。次いで材料B(高温水の温度は90℃)を投入し、最終温度60℃で混合して湯種を得た。次に、調製した各湯種を5℃下で18時間放冷した後、表3に示した生地の材料Cの内、全卵及びマーガリン以外を均一に撹拌混合し、さらに全卵、マーガリンを添加し、均一に混合してパンケーキ生地を調製した。次いで、どら焼き焼成機SDR-SGA(株式会社マスダック製)を用いて、上記のように調製したパンケーキ用生地(1枚当たり30g)を、180℃で2分間焼成し、パンケーキを製造した。
9.食感の評価
上記の方法で得られた各パンケーキについて、焼成1日後(D+1)に、軟らかさ、しっとり感の食感評価を、上記3.(2)と同様に評価した。
評価結果を表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
表3に示した通り、油脂、水、及び増粘安定素材を含む材料Aを乳化するまで混合し、エマルジョンを調製した後、前記エマルジョンと、穀粉、及び高温水を含む材料Bを混合して調製した湯種を用いて製造した実施例20のパンケーキは、軟らかさ、及びしっとり感の食感が良好であった。一方、実施例20の材料Aと同一の材料を生地の調製時に材料Cとして配合した比較例6のパンケーキは、食感の評価が低かった。したがって、上述の製造方法で得られたベーカリー製品用湯種は、パン類だけでなく、他のベーカリー製品においても同様な効果が得られることが示唆された。
【0033】
以上の結果から、本発明の湯種の製造方法によって得られた湯種を用いることで、湯種法でベーカリー製品を製造する際に、ベーカリー製品用生地のべたつきが生じ難くなり、作業性が向上し、さらに、得られるベーカリー製品のしっとり感が向上し、経時的なしっとり感の低下やパサつきを抑制することができることが示唆された。
【0034】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明により、湯種を用いてベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品、特にベーカリー製品のしっとり感を向上することができる湯種を容易に製造することができるので、経時的なしっとり感の低下やパサつきが抑制されたベーカリー製品を容易に製造することができる。特に湯種法の課題が顕在し易い、ベーカリー製品用生地が、乳化剤を使用しない生地である場合、冷凍生地である場合、ノータイム法で製造される生地である場合でも、上述の効果が得られるので、好適に用いることができる。