IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093384
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240702BHJP
   C10M 145/14 20060101ALN20240702BHJP
   C10M 129/68 20060101ALN20240702BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20240702BHJP
   C10M 137/04 20060101ALN20240702BHJP
   C10N 40/06 20060101ALN20240702BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240702BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M145/14
C10M129/68
C10M137/02
C10M137/04
C10N40:06
C10N30:06
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209733
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100217663
【弁理士】
【氏名又は名称】末広 尚也
(72)【発明者】
【氏名】小林 兼士
(72)【発明者】
【氏名】亀山 敏貴
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BA08A
4H104BB08A
4H104BB31C
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BH02C
4H104BH03A
4H104BH03C
4H104CB08C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EA02A
4H104EA03C
4H104EA22C
4H104LA03
4H104LA20
4H104PA04
(57)【要約】
【課題】油圧応答性及び部品保護性に優れる緩衝器用の潤滑油組成物が求められている。
【解決手段】100℃における動粘度が5.8mm/s以下の基油(A)と、重量平均分子量が100,000以上のポリアルキル(メタ)アクリレート(B)と、酸価が1.0mgKOH/g以上のリン含有化合物(C)と、脂肪酸エステル(D)とを含有し、緩衝器の潤滑に用いられる、潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃における動粘度が5.8mm/s以下の基油(A)と、重量平均分子量が100,000以上のポリアルキル(メタ)アクリレート(B)と、酸価が1.0mgKOH/g以上のリン含有化合物(C)と、脂肪酸エステル(D)とを含有し、緩衝器の潤滑に用いられる、潤滑油組成物。
【請求項2】
ポリアルキル(メタ)アクリレート(B)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.1質量%以上である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
重量平均分子量が100,000未満のオレフィン共重合体の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満である、請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
リン含有化合物(C)が、酸性リン酸エステル(C1)および酸性亜リン酸エステル(C2)から選ばれる1種以上を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
脂肪酸エステル(D)が、不飽和脂肪酸エステル(D1)を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
リン含有化合物(C)と脂肪酸エステル(D)との含有量比〔(C)/(D)〕が、質量比で、0.3~10である、請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
消泡剤の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
100℃における動粘度が6.0mm/s以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を緩衝器の潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、及び当該潤滑油組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器(ショックアブソーバ)は、緩衝器用潤滑油組成物を充填して使用され、車体の振動を減衰する減衰力を生じさせることを目的にして車体に搭載される機構であり、同時に摺動部の摩擦特性を最適化させて車体の乗心地を制御すること、及び摺動部の摩擦摩耗を抑制して耐久性を担保すること等が求められる。
【0003】
このような緩衝器に好適に使用し得る緩衝器用潤滑油組成物が様々開発されている。
例えば、特許文献1には、基油、所定のジチオリン酸亜鉛、カルシウムスルホネート、及びシールスウェラーを含有する、潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-022721号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、緩衝器用の潤滑油組成物には、良好な油圧応答性と高い部品保護性が求められている。例えば、油中に生じる泡(油中泡)は、潤滑油組成物の体積弾性率を低下させ、それにより、油圧機構における減衰力の応答性が低下することが懸念される。また、摺動部(例えば、ゴムと金属)の摩擦係数(ゴム摩擦係数)が高いと、当該摺動部において高い抵抗力が発生し、応答性の低下が懸念される。さらに、適切な潤滑をもたらすことで摺動部の摩耗幅を小さくし、部品保護性を高めることは、緩衝器の耐久性を向上させる観点から重要である。このように、緩衝器用の潤滑油組成物において、油中泡特性とゴム摩擦係数は油圧応答性と関連し、摩耗幅は部品保護性と関連する。
このような状況下、油圧応答性及び部品保護性に優れる緩衝器用の潤滑油組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、所定の動粘度の基油と、所定の重量平均分子量のポリアルキル(メタ)アクリレート(B)と、酸価が1.0mgKOH/g以上のリン含有化合物(C)と、脂肪酸エステル(D)とを含有する、緩衝器の潤滑に用いられる潤滑油組成物を提供する。
具体的には、本発明は、下記態様[1]~[10]を提供する。
[1]100℃における動粘度が5.8mm/s以下の基油(A)と、重量平均分子量が100,000以上のポリアルキル(メタ)アクリレート(B)と、酸価が1.0mgKOH/g以上のリン含有化合物(C)と、脂肪酸エステル(D)とを含有し、緩衝器の潤滑に用いられる、潤滑油組成物。
[2]ポリアルキル(メタ)アクリレート(B)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.1質量%以上である、[1]に記載の潤滑油組成物。
[3]重量平均分子量が100,000未満のオレフィン共重合体の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満である、[1]または[2]に記載の潤滑油組成物。
[4]リン含有化合物(C)が、酸性リン酸エステル(C1)および酸性亜リン酸エステル(C2)から選ばれる1種以上を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[5]脂肪酸エステル(D)が、不飽和脂肪酸エステル(D1)を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[6]リン含有化合物(C)と脂肪酸エステル(D)との含有量比〔(C)/(D)〕が、質量比で、0.3~10である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[7]消泡剤の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.05質量%未満である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[8]100℃における動粘度が6.0mm/s以下である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[9][1]~[8]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を緩衝器の潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用。
【発明の効果】
【0007】
本発明の好適な一態様の潤滑油組成物は、優れた油圧応答性及び部品保護性を有する。そのため、本発明の一態様の潤滑油組成物は、緩衝器の潤滑に好適に使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に記載された数値範囲については、上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「好ましくは30~100、より好ましくは40~80」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。また、例えば、数値範囲として「好ましくは30以上、より好ましくは40以上であり、また、好ましくは100以下、より好ましくは80以下である」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。
加えて、本明細書に記載された数値範囲として、例えば「60~100」との記載は、「60以上(60もしくは60超)、100以下(100もしくは100未満)」という範囲であることを意味する。
さらに、本明細書に記載された上限値及び下限値の規定において、それぞれの選択肢の中から適宜選択して、任意に組み合わせて、下限値~上限値の数値範囲を規定することができる。
加えて、本明細書に記載された好ましい態様として記載の各種要件は複数組み合わせることができる。
【0009】
〔潤滑油組成物の構成〕
本発明の一態様は、100℃における動粘度が5.8mm/s以下の基油(A)(以下、「成分(A)」ともいう)と、重量平均分子量が100,000以上のポリアルキル(メタ)アクリレート(B)(以下、「成分(B)」ともいう)と、酸価が1.0mgKOH/g以上のリン含有化合物(C)(以下、「成分(C)」ともいう)と、脂肪酸エステル(D)(以下、「成分(D)」ともいう)とを含有し、緩衝器の潤滑に用いられる、潤滑油組成物である。
上述したとおり、緩衝器に用いられる潤滑油組成物には、良好な油圧応答性及び部品保護性が求められる。良好な油圧応答性を得るためには、潤滑油組成物の粘度や添加剤を適切に設定する必要がある。本発明者らは、特定の粘度を有する基油(A)を用い、添加剤として成分(B)~(D)を組み合わせることで、良好な油圧応答性を有する潤滑油組成物を提供し得ることを見出した。また、本発明者らは、これらの成分(A)~(D)の組み合わせにより、良好な油圧応答性を有するとともに、部品保護性の高い潤滑油組成物を提供し得ることも見出した。
本発明の一態様の潤滑油組成物は、このような性質を兼ね揃えているため、緩衝器の潤滑に好適に使用し得る。
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、成分(B)~(D)以外の他の潤滑油用添加剤をさらに含有してもよい。
【0010】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)及び(B)の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0011】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)~(D)の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上、特に好ましくは1.8質量%以上である。
【0012】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(C)及び成分(D)の含有量比〔(C)/(D)〕は、摩擦特性及び耐摩耗性が良好な潤滑油組成物とする観点から、質量比で、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.5以上である。
他方、各成分の配合バランスを向上させ、潤滑油組成物の性状を維持する観点から、当該質量比は、好ましくは10以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは5以下である。
【0013】
以下、本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0014】
<成分(A):基油>
本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる基油としては、鉱油であってもよく、合成油であってもよく、鉱油と合成油との混合油を用いてもよい。
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる精製油;等が挙げられる。
【0015】
合成油としては、例えば、α-オレフィンやその単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等のエステル系油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系油;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(GTL);石炭からフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(CTLワックス(Coal To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(CTL);バイオマスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(BTLワックス(Biomass To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(BTL)等が挙げられる。
【0016】
これらの中でも、本発明の一態様で用いる基油は、API(米国石油協会)基油カテゴリーのグループ2及びグループ3に分類される鉱油、並びに、合成油から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。本発明の一態様において、これらの基油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明の一態様で用いる基油(A)の100℃における動粘度は、振動による泡の発生を抑制し、油圧応答性を向上させた潤滑油組成物とする観点から、5.8mm/s以下であるが、好ましくは5.5mm/s以下、より好ましくは5.0mm/s以下、更に好ましくは4.5mm/s以下、より更に好ましくは4.0mm/s以下、より更に好ましくは3.5mm/s以下、特に好ましくは3.0mm/s以下である。
他方、良好な油膜保持性を有し、潤滑性能を高めることで部品保護性を向上させた潤滑油組成物とする観点から、基油(A)の100℃における動粘度は、好ましくは1.0mm/s以上、より好ましくは1.2mm/s以上、更に好ましくは1.4mm/s以上である。
【0018】
また、本発明の一態様で用いる基油(A)の粘度指数は、潤滑油組成物の用途に応じて適宜設定されるが、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは90以上、特に好ましくは100以上である。
なお、本発明の一態様において、成分(A)として、2種以上の基油を組み合わせた混合油を用いる場合、当該混合油の動粘度及び粘度指数が上記範囲であることが好ましい。
また、本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定又は算出された値を意味する。
【0019】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、基油(A)の含有量としては、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、通常55質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、また、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.0質量%以下、更に好ましくは98.5質量%以下である。
【0020】
<成分(B):ポリアルキル(メタ)アクリレート>
本発明の潤滑油組成物は、成分(B)として、重量平均分子量(Mw)が100,000以上のポリアルキル(メタ)アクリレートを含有する。Mwが100,000未満であると、油中泡が比較的多く発生する。油中に生じる泡は、潤滑油組成物の体積弾性率の低減に繋がり、減衰力の応答性の低下を招き得る。そのため、成分(B)として、Mwが100,000以上のポリアルキル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
【0021】
本発明の一態様で用いるポリアルキル(メタ)アクリレートの重量平均分子量(Mw)は、振動による泡の発生を抑制し、油圧応答性を向上させた潤滑油組成物とする観点から、100,000以上であるが、好ましくは120,000以上、より好ましくは140,000以上、更に好ましくは160,000以上、より更に好ましくは180,000以上、特に好ましくは190,000以上であり、また、200,000以上、250,000以上、300,000以上、350,000以上、400,000以上、450,000以上、500,000以上、540,000以上、または、600,000以上であってもよい。
他方、基油への溶解性を向上させ、良好な貯蔵安定性を有する潤滑油組成物とする観点から、ポリアルキル(メタ)アクリレートの重量平均分子量(Mw)は、900,000以下、800,000以下、または、700,000以下であることが好ましい。
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値であり、具体的には実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
【0022】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)の含有量は、振動による泡の発生を抑制し、油圧応答性を向上させた潤滑油組成物とする観点から、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上、より更に好ましくは1.2質量%以上、特に好ましくは1.5質量%以上であり、また、基油への溶解性を向上させ、良好な貯蔵安定性を有する潤滑油組成物とする観点から、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、更に好ましくは5.0質量%以下、より更に好ましくは3.0質量%以下、特に好ましくは2.0質量%以下である。
【0023】
本発明の一態様で用いる成分(B)は、アルキルアクリレート又はアルキルメタクリレート(以下、まとめて「アルキル(メタ)アクリレート」ともいう)に由来する構成単位を有する重合体であればよく、アルキル(メタ)アクリレート以外の他のモノマーに由来する構成単位を有する共重合体であってもよい。
当該アルキル(メタ)アクリレートが有するアルキル基の炭素数は、1以上、3以上、5以上、又は10以上としてもよく、また、60以下、40以下、30以下、又は20以下としてもよい。
また、本発明の一態様で用いる成分(B)において、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有量は、成分(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、10モル%以上、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、または、99モル%以上としてもよい。
【0024】
本発明の一態様の潤滑油組成物は、重量平均分子量(Mw)が100,000未満のオレフィン共重合体を含有してもよく、含有しなくてもよいが、振動による泡の発生を抑制し、油圧応答性を向上させた潤滑油組成物とする観点から、Mwが100,000未満のオレフィン共重合体を実質的に含有しないことが好ましい。本発明においては、このようなオレフィン共重合体を含有すると、油中泡が比較的多く発生し、油圧応答性が低下し得るためである。
ここで、「Mwが100,000未満のオレフィン共重合体を実質的に含有しない」とは、当該オレフィン共重合体を意図的に配合してなる潤滑油組成物を除外することを意味し、不可避的に当該オレフィン共重合体が配合されてしまう態様までを除外するわけではないが、このようなオレフィン共重合体の含有量も極力少ない程好ましい。
本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれるMwが100,000未満のオレフィン共重合体の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.05質量%未満、より好ましくは0.03質量%未満、更に好ましくは0.01質量%未満、特に好ましくは0.001質量%未満である。
Mwが100,000未満のオレフィン共重合体としては、具体的には、アルケニル基を有するモノマーに由来の構成単位を有する共重合体であって、例えば、炭素数2~20のα-オレフィンの共重合体が挙げられ、より具体的には、エチレン-α-オレフィン共重合体が挙げられる。
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物は、Mwが100,000以上のポリアルキル(メタ)アクリレート以外にも、Mwが100,000以上であれば、オレフィン共重合体を含有してもよい。
【0025】
<成分(C):リン含有化合物>
本発明の潤滑油組成物は、成分(C)として、酸価が1.0mgKOH/g以上のリン含有化合物(C)を含有する。本発明の潤滑油組成物は、成分(C)を含有することで、耐摩耗性が向上し、摺動部の摩耗幅が小さい部品保護性の高い潤滑油組成物とすることができる。当該リン含有化合物(C)は、酸価が1.0mgKOH/g以上であり、リン原子を含む化合物であれば特に限定されない。本発明の一態様の潤滑油組成物は、成分(C)として、酸性リン酸エステル(C1)および酸性亜リン酸エステル(C2)から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0026】
酸性リン酸エステル(C1)は、酸性リン酸モノエステルであってもよく、酸性リン酸ジエステルであってもよい。酸性リン酸モノエステルとしては、例えば、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、及びエチルヘキシルアシッドホスフェート等が挙げられる。
酸性リン酸ジエステルとしては、例えば、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、及びジエチルヘキシルアシッドホスフェート等が挙げられる。
これらの酸性リン酸エステル(C1)は、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
酸性亜リン酸エステル(C2)は、酸性亜リン酸モノエステルであってもよく、酸性亜リン酸ジエステルであってもよい。酸性亜リン酸モノエステルとしては、例えば、エチルハイドロジェンホスファイト、プロピルハイドロジェンホスファイト、ブチルハイドロジェンホスファイト、ラウリルハイドロジェンホスファイト、オレイルハイドロジェンホスファイト、及びエチルヘキシルハイドロジェンホスファイト等が挙げられる。
酸性亜リン酸ジエステルとしては、例えば、ジヘキシルハイドロジェンホスファイト、ジヘプチルハイドロジェンホスファイト、ジオクチルハイドロジェンホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、ジオレイルハイドロジェンホスファイト、及びジエチルヘキシルハイドロジェンホスファイト等が挙げられる。
これらの酸性亜リン酸エステル(C2)は、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
なお、酸性リン酸エステル(C1)および酸性亜リン酸エステル(C2)は、アミン塩の形態であってもよい。これらのリン酸エステルとアミン塩を形成するアミン類としては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミン等のモノ置換アミン;ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ステアリル・モノエタノールアミン、デシル・モノエタノールアミン、ヘキシル・モノプロパノールアミン、ベンジル・モノエタノールアミン、フェニル・モノエタノールアミン、トリル・モノプロパノールアミン等のジ置換アミン;トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、ジオレイル・モノエタノールアミン、ジラウリル・モノプロパノールアミン、ジオクチル・モノエタノールアミン、ジヘキシル・モノプロパノールアミン、ジブチル・モノプロパノールアミン、オレイル・ジエタノールアミン、ステアリル・ジプロパノールアミン、ラウリル・ジエタノールアミン、オクチル・ジプロパノールアミン、ブチル・ジエタノールアミン、ベンジル・ジエタノールアミン、フェニル・ジエタノールアミン、トリル・ジプロパノールアミン、キシリル・ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン等のトリ置換アミン;などが挙げられる。
【0029】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物は、成分(C)として、酸性リン酸エステル(C1)および酸性亜リン酸エステル(C2)以外のリン含有化合物(C)を含有することも好ましい。具体的には、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、リン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、硫化エステル類、チオカーボネート類、チオカーバメート類、ポリサルファイド類等の硫黄原子を含有する化合物が挙げられる。
【0030】
本発明の一態様において、リン含有化合物(C)の酸価は、耐摩耗性を向上させ、摺動部の摩耗幅が小さい部品保護性の高い潤滑油組成物とする観点から、1.0mgKOH/g以上であるが、酸価は、2.0mgKOH/g以上、3.0mgKOH/g以上、4.0mgKOH/g以上、4.8mgKOH/g以上、5.0mgKOH/g以上、10.0mgKOH/g以上、20.0mgKOH/g以上、30.0mgKOH/g以上、40.0mgKOH/g以上、50.0mgKOH/g以上、58.0mgKOH/g以上、60.0mgKOH/g以上、70.0mgKOH/g以上、80.0mgKOH/g以上、90.0mgKOH/g以上、100mgKOH/g以上、110mgKOH/g以上、120mgKOH/g以上、128mgKOH/g以上、または、130mgKOH/g以上であることが好ましい。
酸価の上限値は特に限定されないが、例えば、300mgKOH/g以下、250mgKOH/g以下、または、200mgKOH/g以下が挙げられる。
なお、本明細書中、酸価は、JIS K2501:2003(指示薬法)に準拠して測定した値を意味する。
【0031】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物は、酸価が1.0mgKOH/g以上のリン含有化合物(C)以外のリン含有化合物を含んでいてもよい。そのようなリン含有化合物としては、例えば、酸価が1.0mgKOH/g未満の中性リン系化合物が挙げられ、具体的には、トリクレジルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、ジ(エチルフェニル)フェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、トリn-プロピルフェニルホスフェート、ジ(n-プロピルフェニル)フェニルホスフェート、n-プロピルフェニルジフェニルホスフェート、トリイソプロピルフェニルホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート及びイソプロピルフェニルジフェニルホスフェート等が挙げられる。
【0032】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(C)の含有量は、耐摩耗性を向上させ、摺動部の摩耗幅が小さい部品保護性の高い潤滑油組成物とする観点から、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.2質量%超、より好ましくは0.25質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、より更に好ましくは0.4質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、また、熱安定性を向上させる観点から、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下である。
【0033】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(C)のリン原子換算での含有量は、耐摩耗性を向上させ、摺動部の摩耗幅が小さい部品保護性の高い潤滑油組成物とする観点から、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは100質量ppm以上、より好ましくは120質量ppm以上、更に好ましくは140質量ppm以上、より更に好ましくは160質量ppm以上、特に好ましくは180質量ppm以上であり、また、200質量ppm以上、250質量ppm以上、300質量ppm以上、350質量ppm以上、または、400質量ppm以上としてもよい。
他方、熱安定性を向上させる観点から、成分(C)のリン原子換算での含有量は、好ましくは1200質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以下、更に好ましくは800質量ppm以下、より更に好ましくは600質量ppm以下である。
【0034】
<成分(D):脂肪酸エステル>
本発明の潤滑油組成物は、成分(D)として、脂肪酸エステル(D)を含有する。本発明の潤滑油組成物は、成分(D)を含有することで、摩擦係数が低減され、摺動部における高い抵抗力の発生を抑制することができ、油圧応答性の高い潤滑油組成物が得られる。
脂肪酸エステル(D)は、脂肪族カルボン酸とアルコールとの縮合物である。前記脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸、脂肪族テトラカルボン酸等が挙げられる。本発明の一態様の潤滑油組成物は、成分(D)として、少なくとも不飽和脂肪酸エステル(D1)を含む。また、前記脂肪族カルボン酸は、鎖状脂肪族カルボン酸及び環状脂肪族カルボン酸のいずれであってもよい。さらに、前記脂肪族カルボン酸の炭素数は、好ましくは6~40、より好ましくは8~32、更に好ましくは12~24である。
【0035】
飽和脂肪族カルボン酸としては、カプリン酸、ネオデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸及びリグノセリン酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸及びセバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸;等が挙げられる。
また、不飽和脂肪族カルボン酸としては、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、リシノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸等が挙げられる。
【0036】
前記アルコールとしては、例えば、脂肪族アルコールが挙げられる。前記脂肪族アルコールは、一価アルコールであってもよいし、多価アルコールであってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。さらに直鎖状のものであってもよく、分岐鎖状のものであってもよい。前記アルコールの炭素数は、好ましくは1~30、より好ましくは2~24である。
また、前記アルコールとしては、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、アリルアルコール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、ブテノール、ペンテノール、ヘキセノール、オクテノール、デセノール、ドデセノール、テトラデセノール、ヘキサデセノール、オクタデセノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びソルビタン等が挙げられる。
【0037】
本発明の一態様において、成分(D)としては、具体的には、アルコールがグリセリンの場合、グリセリン脂肪酸モノエステル(モノグリセリド)及びグリセリン脂肪酸ジエステル(ジグリセリド)などが挙げられる。
また、アルコールがソルビタンの場合、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレート及びソルビタントリオレートなどのソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。
また、アルコールがペンタエリスリトールの場合、ペンタエリスリトールモノオレートペンタエリスリトールジオレート及びペンタエリスリトールテトラオレートなどのペンタエリスリトール脂肪酸エステルが挙げられる。
【0038】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D)の含有量は、摩擦係数を低減させ、油圧応答性の高い潤滑油組成物とする観点から、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、ゴム等の弾性部材との適合性を良好に維持する観点から、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下である。
【0039】
<汎用添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、上述した成分(B)~(D)には該当せず、一般的な潤滑油組成物に配合される、汎用添加剤(以下、「汎用添加剤」ともいう)を配合されてなるものであってもよい。
このような汎用添加剤としては、例えば、酸化防止剤、無灰系分散剤、金属系清浄剤、粘度指数向上剤、流動性向上剤、極圧剤、防錆剤、摩擦調整剤、耐摩耗剤等が挙げられる。これらの汎用添加剤は、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
また、本発明の一態様の潤滑油組成物は、これらの汎用添加剤を複数配合してなるパッケージ添加剤を用いてもよい。
【0040】
これらの汎用添加剤のそれぞれの配合量は、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%である。
また、汎用添加剤の合計配合量は、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~40質量%、より好ましくは0.1~35質量%である。
【0041】
本発明の一態様の潤滑油組成物は、消泡剤を含有してもよく、含有しなくてもよいが、油中に生じる泡を抑制する観点から、消泡剤を実質的に含有しないことが好ましい。「消泡剤を実質的に含有しない」とは、消泡剤を意図的に配合してなる潤滑油組成物を除外することを意味し、不可避的にこれらが配合されてしまう態様までを除外するわけではないが、このような消泡剤の含有量も極力少ない程好ましい。
本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる消泡剤の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.05質量%未満、より好ましくは0.03質量%未満、更に好ましくは0.01質量%未満、特に好ましくは0.001質量%未満である。一般的に、消泡剤は潤滑油組成物の泡立ち抑制、泡の破壊等を目的として配合されるが、本発明においては、消泡剤を配合するとかえって油中の泡が増大することが見出された。そのため、油中に生じる泡を抑制するため、消泡剤の含有量を上記範囲に制御することが好ましい。
なお、消泡剤としては、例えば、アルキルシリコーン系消泡剤、フルオロシリコーン系消泡剤等のシリコーン系消泡剤が挙げられる。
【0042】
<潤滑油組成物の製造方法>
本発明の一態様の潤滑油組成物の製造方法としては、特に制限はないが、生産性の観点から、成分(A)に、成分(B)~(D)、及び、必要に応じて、各種添加剤を配合する工程を有する、方法であることが好ましい。
なお、各成分の配合の順序は適宜設定することができるが、成分(B)等の樹脂成分は、成分(A)との相溶性の観点から、希釈油に溶解された溶液の形態とし、当該溶液を成分(A)に配合することが好ましい。
【0043】
〔潤滑油組成物の性状〕
本発明の一態様の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは1.0mm/s以上、より好ましくは1.2mm/s以上、更に好ましくは1.4mm/s以上であり、また、緩衝器において意図しない抵抗力の増大を抑制し、流体抵抗を適切に保つ観点から、好ましくは6.0mm/s以下、より好ましくは5.5mm/s以下、更に好ましくは5.0mm/s以下、より更に好ましくは4.5mm/s以下、特に好ましくは4.0mm/s以下である。
【0044】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは90以上、特に好ましくは100以上である。
【0045】
〔潤滑油組成物の特性および用途〕
本発明の潤滑油組成物は、優れた油圧応答性及び部品保護性を有している。油圧応答性を評価する具体的な指標として、後述の実施例に記載の方法で計測する油中泡の個数、及び、後述の実施例に記載の往復摺動試験を実施した際のゴム摩擦係数が挙げられる。
また、部品保護性を評価する具体的な指標としては、後述の実施例に記載の往復動摩擦試験を実施した際の摩耗幅が挙げられる。
【0046】
本発明の一態様の潤滑油組成物を用いて、後述の実施例に記載の方法で計測される油中泡の個数は、好ましくは80個以下、より好ましくは75個以下、更に好ましくは70個以下、より更に好ましくは65個以下、特に好ましくは60個以下である。油中泡が存在すると、潤滑油組成物の体積弾性率が低下し、ショックアブソーバ等の油圧機構において応答性の低下が懸念される。そのため、当該評価において油中泡の個数が少ないほど、油圧応答性が良好な潤滑油組成物といえる。
【0047】
本発明の一態様の潤滑油組成物を用いて、後述の実施例に記載の往復摺動試験を実施した際のゴム摩擦係数は、好ましくは0.70以下、より好ましくは0.65以下、更に好ましくは0.60以下、特に好ましくは0.50以下である。ゴム摩擦係数が高いと、ショックアブソーバ等のオイルシール(ゴム)と金属材の摺動が発生する機構において、高い抵抗力が発生し、応答性の低下が懸念される。よって、ゴム摩擦係数が小さいほど、油圧応答性が良好な潤滑油組成物といえる。
【0048】
本発明の一態様の潤滑油組成物を用いて、後述の実施例に記載の往復動摩擦試験を実施した際の摩耗幅は、好ましくは0.57mm以下、より好ましくは0.55mm以下、更に好ましくは0.50mm以下、特に好ましくは0.45mm以下である。摩耗幅が小さいほど耐摩耗性が良好であり、ショックアブソーバ等の往復動摺動を伴う機構において、部品保護性が高い潤滑油組成物といえる。
【0049】
本発明の一態様の潤滑油組成物は、以上の特性を有するため、様々な機器の潤滑に好適に適用でき、例えば、緩衝器用潤滑油、油圧作動油、建機用動作油、パワーステアリングオイル、タービン油、圧縮機油、工作機械用潤滑油、切削油、歯車油、流体軸受油、転がり軸受油等に適用し得る。これらの中でも、本発明の一態様の潤滑油組成物は、緩衝器に好適に適用し得る。より具体的には、本発明の一態様の潤滑油組成物は、複筒型ショックアブソーバ及び単筒型ショックアブソーバのいずれにも使用可能であり、二輪用及び四輪用のいずれのショックアブソーバにも好適に使用し得る。
【0050】
したがって、本発明は、下記[I]の緩衝器、及び、下記[II]の潤滑油組成物の使用も提供する。
[I]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を充填してなる、緩衝器。
[II]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を緩衝器の潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用。
【実施例0051】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた各成分及び得られた潤滑油組成物の各種物性値は、下記の方法に準拠して測定した。
【0052】
(1)動粘度、粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)重量平均分子量(Mw)
ゲル浸透クロマトグラフ装置(アジレント社製、「1260型HPLC」)を用いて、下記の条件下で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した値を用いた。
(測定条件)
・カラム:「Shodex LF404」を2本、順次連結したもの。
・カラム温度:35℃
・展開溶媒:クロロホルム
・流速:0.3mL/min
(3)酸価
JIS K2501:2003(指示薬法)に準拠して測定した。
(4)水酸基価
JIS K 0070:1992に準拠して測定した。
【0053】
(5)油中泡特性
底面積が縦5cm×横5cmの直方体のガラス容器に、測定対象となる潤滑油組成物を100℃に加熱して50mL充填し、振幅±10mm、振動数10Hzで60秒間振とうさせた。振とう終了から40秒後の潤滑油組成物中(油中)の状態を、ガラス容器の側面からスピードカメラを用いて撮影し、油中の泡の個数を計測した。スピードカメラの撮影範囲は、容器底面から高さ2.5cmの位置を中心とする一辺0.5cmの正方形の範囲をガラス容器の側面から観察した。上記方法で計測した油中の泡の個数が80個以下のものを合格と判定し、油中の泡の個数が80個を超える試料について、下記(3)及び(4)の測定は実施しなかった。当該評価において油中泡の個数が少ないほど、油圧応答性が良好な潤滑油組成物といえる。
(6)ゴム摩擦係数
往復動摩擦試験機を用い、Crメッキ鋼板と1/2鋼球に覆ったニトリルゴム(NOK製、A437)を、測定対象となる潤滑油組成物を0.1mL滴下した状態で往復動摺動させ、100往復目に検出された最大摩擦係数を記録した。荷重は4N、振幅は±3mm、振動数は1Hzであり、Crメッキ鋼板は40℃に加熱した。上記方法で計測したゴム摩擦係数が0.70以下のものを合格と判定し、ゴム摩擦係数が0.70を超える試料について、上記(2)の計測は実施しなかった。ゴム摩擦係数が小さいほど、油圧応答性が良好な潤滑油組成物といえる。
(7)耐摩耗性
バウデン式往復動摩擦試験機を用い、100℃に加熱したSPCC-SB鋼板と1/2インチSUJ2鋼球を、測定対象となる潤滑油組成物を0.1mL滴下した状態で往復動摺動させ、400往復経過後のSPCC-SB鋼板の摺動中央部の摩耗痕幅を記録した。荷重は20N、振幅は±5mm、速度は50mm/sとし、一定速度で往復動を行った。上記方法で計測した摩耗幅が0.57mm以下のものを合格と判定し、摩耗幅が0.57mmを超える試料について、上記(2)の計測は実施しなかった。摩耗幅が小さいほど耐摩耗性が良好であり、ショックアブソーバ等の往復動摺動を伴う機構において、部品保護性が高い潤滑油組成物といえる。
【0054】
実施例1~11、比較例1~5
表1に示す成分(A)~(D)を、表1に示す配合量にて添加して混合し、潤滑油組成物をそれぞれ調製した。調製した潤滑油組成物は、Mwが100,000未満のオレフィン共重合体、及び、消泡剤を実質的に含まない(これらの含有量がそれぞれ0.05質量%未満)ものである。なお、表1中の成分(B)の配合量は、希釈溶媒を除いた樹脂分換算での配合量を記載している。
当該潤滑油組成物の調製に使用した、各成分の詳細は以下のとおりである。
【0055】
<基油(A)>
・鉱油(a1):100℃動粘度=2.2mm/s、粘度指数=109のAPI基油カテゴリーのグループIIIに分類される鉱油、密度(15℃)=0.82g/cm
・鉱油(a2):100℃動粘度=2.7mm/s、粘度指数=111のAPI基油カテゴリーのグループIIIに分類される鉱油、密度(15℃)=0.81g/cm
・鉱油(a3):100℃動粘度=6.0mm/s、粘度指数=132のAPI基油カテゴリーのグループIIIに分類される鉱油、密度(15℃)=0.84g/cm
<ポリアルキル(メタ)アクリレート(B)>
・PMA(b1):Mw=190,000のポリアルキルメタクリレート。
・PMA(b2):Mw=540,000のポリアルキルメタクリレート。
・PMA(b3):Mw=36,000のポリアルキルメタクリレート。
<リン含有化合物(C)>
・リン含有化合物(c1):ジオレイルハイドロジェンホスファイト、酸価(指示薬)=4.8mgKOH/g
・リン含有化合物(c2):ジラウリルハイドロジェンホスファイトとモノラウリルハイドロジェンホスファイトの混合物、酸価(指示薬)=58mgKOH/g
・リン含有化合物(c3):ジアルキルジチオリン酸亜鉛、酸価(指示薬)=128mgKOH/g
・リン含有化合物(c4):トリクレジルホスフェート、酸価(指示薬)=0.01mgKOH/g
・リン含有化合物(c5):リン酸トリアリールイソプロピル化合物、酸価(指示薬)=0.05mgKOH/g
<脂肪酸エステル(D)>
・脂肪酸エステル(d1):オレイン酸モノグリセリド、水酸基価=156mgKOH/g
・脂肪酸エステル(d2):ソルビタンモノオレート、水酸基価=235mgKOH/g
・脂肪酸エステル(d3):ペンタエリスリトールジオレート、水酸基価=156mgKOH/g
【0056】
実施例及び比較例で調製した潤滑油組成物について、上述の測定方法に準拠して、各種物性値を測定及び算出した。これらの結果を表1に示す。
【表1】
【0057】
表1から、100℃における動粘度が5.8mm/s以下の基油(A)と、重量平均分子量が100,000以上のポリアルキル(メタ)アクリレート(B)と、酸価が1.0mgKOH/g以上のリン含有化合物(C)と、脂肪酸エステル(D)とを含有する実施例1~11の潤滑油組成物は、比較例1~5に比して、優れた油圧応答性と部品保護性を有していた。具体的には、実施例1~11の潤滑油組成物は、比較例1および2の潤滑油組成物に比して油中の泡の個数が少なく、油圧応答性が良好であった。また、実施例1~11の潤滑油組成物は、比較例3~5の潤滑油組成物に比してゴム摩擦係数および摩耗幅がともに小さく、良好な油圧応答性と部品保護性を兼ね揃えたものであった。