(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009343
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240112BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20240112BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240112BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240112BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M4/58
H01M4/136
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023202522
(22)【出願日】2023-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大石 綾太郎
(72)【発明者】
【氏名】河野 佑軌
(57)【要約】
【課題】正極活物質層にLiFePO
4を含む蓄電デバイスにおいて、電解液中への鉄成分溶出の抑制、及びサイクル特性の改善を可能とする、蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】非水電解液、並びに、正極及び負極を備える、蓄電デバイスであって、
前記非水電解液が、非水溶媒、電解質、及び式(1)で表される化合物を含み、
前記正極が、正極集電体と、正極活物質層とを有し、
前記正極活物質層が、LiFePO
4を含む、蓄電デバイス。
[式(1)中、Qは、スルホニル基の硫黄原子とともに環構造を形成する基であって、1以上の置換基を有していてもよい炭素数4~8の炭化水素基を示し、
Xは、スルホニル基、カルボニル基、又はホスホリル基を示す。
Rは、アルキル基等を示し、nは1又は2を示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解液、並びに、正極及び負極を備える、蓄電デバイスであって、
前記非水電解液が、非水溶媒、電解質、及び式(1)で表される化合物を含み、
前記正極が、正極集電体と、正極活物質層とを有し、
前記正極活物質層が、LiFePO
4を含む、蓄電デバイス。
【化1】
[式(1)中、Qは、スルホニル基の硫黄原子とともに環構造を形成する基であって、1以上の置換基を有していてもよい炭素数4~8の炭化水素基を示し、
Xは、スルホニル基、カルボニル基、又はホスホリル基を示す。
Rは、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルケニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルキニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリール基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数1~8のアルコキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルケニルオキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルキニルオキシ基、又はハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリールオキシ基を示し、nは1又は2を示す。]
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が、式(1a)又は式(1b)で表される化合物である、請求項1に記載の蓄電デバイス。
【化2】
[式(1a)中、X、n及びRは、前記の通りである。]
【化3】
[式(1b)中、X、n及びRは、前記の通りである。]
【請求項3】
Xがスルホニル基である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の解決や持続可能な循環型社会の実現に対する関心が高まるにつれ、非水電解液二次電池に代表される蓄電デバイスの開発が広く行われている。蓄電デバイスの中でも、リチウムイオン電池は、高い電圧とエネルギー密度を示すことから、ノート型パソコン、携帯電話等の電源として用いられている。
【0003】
しかし、リチウムイオン電池は、充放電サイクルの経過に伴って電池の容量が低下するという問題を有している。容量低下の要因は、例えば、長期間の充放電サイクルに伴って、電極反応による電解液の分解、電極活物質層への電解質の含浸性の低下、及びリチウムイオンのインターカレーション効率の低下が生じることにあると考えられている。
【0004】
充放電サイクルに伴う電池の容量低下を抑制する方法として、電解液に各種添加剤を加える方法が検討されている。添加剤は、一般に、最初の充放電時に分解され、電極表面上に固体電解質界面(SEI)と呼ばれる被膜を形成すると考えられている。最初の充放電サイクルにおいてSEIが形成されると、その後の充放電において、電解液の分解に電気が消費されることを抑制しながら、リチウムイオンがSEIを介して電極を行き来することができる。すなわち、SEIの形成が、充放電サイクルを繰り返したときの二次電池の劣化を抑制し、種々の電池特性を向上させることに大きな役割を果たすと考えられている。
【0005】
また、リチウムイオン電池に用いられる正極活物質としては安全性、コストの観点からLiFePO4が広く検討されている。しかしながら、LiFePO4においては、正極活物質を構成する鉄が電解液中へ溶出すること等が課題となっており、この改善が検討されている。
【0006】
例えば、特許文献1には電解液に添加剤としてカルボジイミド化合物を加えることによって電極表面上に被膜を形成し、鉄の溶出を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、この従来知られた方法を用いた場合でも、性能は十分ではなかった。本発明は、正極活物質層にLiFePO4を含む蓄電デバイスにおいて、電解液中への鉄成分溶出の抑制、及びサイクル特性の改善を可能とする、蓄電デバイスに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
項1.
非水電解液、並びに、正極及び負極を備える、蓄電デバイスであって、
前記非水電解液が、非水溶媒、電解質、及び式(1)で表される化合物を含み、
前記正極が、正極集電体と、正極活物質層とを有し、
前記正極活物質層が、LiFePO4を含む、蓄電デバイス。
【0010】
【0011】
[式(1)中、Qは、スルホニル基の硫黄原子とともに環構造を形成する基であって、1以上の置換基を有していてもよい炭素数4~8の炭化水素基を示し、
Xは、スルホニル基、カルボニル基、又はホスホリル基を示す。
Rは、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルケニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルキニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリール基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数1~8のアルコキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルケニルオキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルキニルオキシ基、又はハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリールオキシ基を示し、nは1又は2を示す。]
【0012】
項2.
前記式(1)で表される化合物が、式(1a)又は式(1b)で表される化合物である、項1に記載の蓄電デバイス。
【0013】
【化2】
[式(1a)中、X、n及びRは、前記の通りである。]
【0014】
【0015】
[式(1b)中、X、n及びRは、前記の通りである。]
【0016】
項3.
Xがスルホニル基である、項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、電解液中への鉄成分溶出の抑制、及びサイクル特性の改善を可能とする、正極活物質層にLiFePO4を含む蓄電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】蓄電デバイスの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一側面に係るいくつかの実施形態について詳細に説明する。
本発明は、前記式(1)で表される化合物を含む蓄電デバイスを提供する。本発明の蓄電デバイスに用いられる非水電解液は、非水溶媒、電解質、及び式(1)で表される化合物を含む。
<非水電解液>
(式(1)で表される化合物)
【0020】
【0021】
式(1)中、Qは、スルホニル基の硫黄原子とともに環構造を形成する基であって、1以上の置換基を有していてもよい炭素数4~8の炭化水素基を示し、Xは、スルホニル基、カルボニル基、又はホスホリル基を示す。Rは、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルケニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルキニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリール基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数1~8のアルコキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルケニルオキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルキニルオキシ基、又はハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリールオキシ基を示し、nは1又は2を示す。
【0022】
本明細書において、「置換基を有していてもよい」とは、各基が有する水素原子が、置換基に置換されていてもよいことを意味する。
【0023】
Qとしての炭化水素基は、炭素数4~6の炭化水素基であることが好ましく、炭素数4の炭化水素基であることがより好ましい。これらの場合、電池抵抗をより低減することができる。Qとしての炭化水素基は、飽和炭化水素基であってよく、不飽和炭化水素基であってよい。不飽和炭化水素基における不飽和結合の数は、1以上であってよく、2以下であってよい。Qとしての炭化水素基は、任意の位置に、式(1)中の“-O-X-(R)nで表される基”を有する。Qとしての炭化水素基は、当該“-O-X-(R)nで表される基”以外の1以上の置換基を更に有していてもよい。Qとしての炭化水素基が“-O-X-(R)nで表される基”以外に有し得る置換基の例としては、ハロゲン原子が挙げられる。
【0024】
前記式(1)中のXは、スルホニル基、カルボニル基、又はホスホリル基を示す。通常、Xがスルホニル基(-S(=O)2-)又はカルボニル基(-C(=O)-)であるとき、nは1であり、Xがホスホリル基(-P(=O)<)であるとき、nは2である。n=2の場合は、2つのRは同一でも異なっていてもよい。より電池抵抗を低減するという観点から、Xはスルホニル基であってよい。
【0025】
Xがスルホニル基であるとき、Rは、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルケニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルキニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリール基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数1~8のアルコキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルケニルオキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルキニルオキシ基、又はハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリールオキシ基であってよい。
【0026】
Xがカルボニル基であるとき、Rは、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルケニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルキニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリール基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数1~8のアルコキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルケニルオキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルキニルオキシ基、又はハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリールオキシ基であってよい。
【0027】
Xがホスホリル基であるとき、Rは、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルケニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルキニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリール基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数1~8のアルコキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルケニルオキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~8のアルキニルオキシ基、又はハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリールオキシ基であってよい。なお、2つのRは同一でも異なっていてもよい。
【0028】
前記式(1)中、Rとしてのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、及びアリールオキシ基は、それぞれ、置換基として1つ以上のハロゲン原子を有していてもよい。前記ハロゲン原子の例としては、例えば、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子、及びフッ素原子が挙げられ、フッ素原子であることが好ましい。Rとしての各基がフッ素原子で置換されている場合、電池抵抗をより低減することができる。
【0029】
前記式(1)中、Rとしてのアルキル基の炭素数は、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。当該アルキル基は、直鎖状であってよく、分岐状であってもよい。当該アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、トリフルオロメチル基、及びジフルオロエチル基が挙げられる。当該アルキル基は、ハロゲン原子を置換基として有していてもよいメチル基であることが好ましく、非置換のメチル基であることがより好ましい。当該アルキル基が非置換のメチル基である場合、電池抵抗をより低減しやすい。
【0030】
前記式(1)中、Rとしてのアルケニル基の炭素数は、2~5であることが好ましく、2~4であることがより好ましい。当該アルケニル基は、直鎖状であってよく、分岐状であってもよい。当該アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、メタリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、イソブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、イソペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、イソヘキセニル基、1-ヘプテニル基、2-ヘプテニル基、3-ヘプテニル基、4-ヘプテニル基、5-ヘプテニル基、6-ヘプテニル基、イソヘプテニル基、1-オクテニル基、2-オクテニル基、3-オクテニル基、4-オクテニル基、5-オクテニル基、6-オクテニル基、7-オクテニル基、イソオクテニル基及び1,1-ジフルオロ-1-プロペニル基が挙げられる。当該アルケニル基は、ハロゲン原子を置換基として有していてもよいビニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリル基、又はハロゲン原子を置換基として有していてもよいメタリル基であることがより好ましい。当該アルケニル基がハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリル基又はハロゲン原子を置換基として有していてもよいメタリル基である場合、より強固なSEIが形成されやすい。
【0031】
前記式(1)中、Rとしてのアルキニル基の炭素数は、3~4であることが好ましい。当該アルキニル基は、直鎖状であってよく、分岐状であってもよい。当該アルキニル基の例としては、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-ペンチニル基、2-ペンチニル基、3-ペンチニル基、4-ペンチニル基、イソペンチニル基、1-ヘキシニル基、2-ヘキシニル基、3-ヘキシニル基、4-ヘキシニル基、5-ヘキシニル基、イソヘキシニル基、1-ヘプチニル基、2-ヘプチニル基、3-ヘプチニル基、4-ヘプチニル基、5-ヘプチニル基、6-ヘプチニル基、イソヘプチニル基、1-オクチニル基、2-オクチニル基、3-オクチニル基、4-オクチニル基、5-オクチニル基、6-オクチニル基、7-オクチニル基、及びイソオクチニル基が挙げられる。当該アルキニル基は、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい2-プロピニル基であることがより好ましい。当該アルキニル基がハロゲン原子を置換基として有していてもよい2-プロピニル基である場合、より強固なSEIが形成されやすい。
【0032】
前記式(1)中、Rとしてのアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、及びヘキサフルオロフェニル基が挙げられる。
【0033】
前記式(1)中、Rとしてのアルコキシ基の炭素数は、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。当該アルコキシ基は、直鎖状であってよく、分岐状であってもよい。当該アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペントキシ基、n-ヘキソキシ基、n-ヘプトキシ基、n-オクトキシ基、及び2,2,2-トリフルオロエトキシ基が挙げられる。
【0034】
前記式(1)中、Rとしてのアルケニルオキシ基の炭素数は、3~5であることが好ましく、3~4であることがより好ましい。当該アルケニルオキシ基は、直鎖状であってよく、分岐状であってもよい。当該アルケニルオキシ基の例としては、2-プロペニルオキシ基、1-メチル-2-プロペニルオキシ基、2-メチル-2-プロペニルオキシ基、2-ブテニルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、イソブテニルオキシ基、1-ペンテニルオキシ基、2-ペンテニルオキシ基、3-ペンテニルオキシ基、4-ペンテニルオキシ基、イソペンテニルオキシ基、1-ヘキセニルオキシ基、2-ヘキセニルオキシ基、3-ヘキセニルオキシ基、4-ヘキセニルオキシ基、5-ヘキセニルオキシ基、イソヘキセニルオキシ基、1-ヘプテニルオキシ基、2-ヘプテニルオキシ基、3-ヘプテニルオキシ基、4-ヘプテニルオキシ基、5-ヘプテニルオキシ基、6-ヘプテニルオキシ基、イソヘプテニルオキシ基、1-オクテニルオキシ基、2-オクテニルオキシ基、3-オクテニルオキシ基、4-オクテニルオキシ基、5-オクテニルオキシ基、6-オクテニルオキシ基、7-オクテニルオキシ基、及びイソオクテニルオキシ基が挙げられる。
【0035】
前記式(1)中、Rとしてのアルキニルオキシ基の炭素数は、3~5であることが好ましく、3~4であることがより好ましい。当該アルキニルオキシ基は、直鎖状であってよく、分岐状であってもよい。当該アルキニルオキシ基の例としては、2-プロピニルオキシ基、1-メチル-2-プロピニルオキシ基、2-ブチニルオキシ基、3-ブチニルオキシ、3-メチル-1-ブチニルオキシ基、1-ペンチニルオキシ基、2-ペンチニルオキシ基、3-ペンチニルオキシ基、4-ペンチニルオキシ基、4-メチル-1-ペンチニルオキシ基、1-ヘキシニルオキシ基、2-ヘキシニルオキシ基、3-ヘキシニルオキシ基、4-ヘキシニルオキシ基、5-ヘキシニルオキシ基、5-メチル-1-ヘキシニルオキシ基、1-ヘプチニルオキシ基、2-ヘプチニルオキシ基、3-ヘプチニルオキシ基、4-ヘプチニルオキシ基、5-ヘプチニルオキシ基、6-ヘプチニルオキシ基、6-メチル-1-ヘプチニルオキシ基、1-オクチニルオキシ基、2-オクチニルオキシ基、3-オクチニルオキシ基、4-オクチニルオキシ基、5-オクチニルオキシ基、6-オクチニルオキシ基、7-オクチニルオキシ基、及び7-メチル-1-オクチニルオキシ基が挙げられる。
【0036】
前記式(1)中、Rとしてのアリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、2-メチルフェノキシ基、3-メチルフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、2-エチルフェノキシ基、3-エチルフェノキシ基、4-エチルフェノキシ基、2-メトキシフェノキシ基、3-メトキシフェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、及びパーフルオロフェノキシ基が挙げられる。
【0037】
前記式(1)中、Rは、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数1~3のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~4のアルケニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数3~4のアルキニル基、又はハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリール基が好ましく、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数1~3のアルキル基、又はハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~4のアルケニル基であることがより好ましい。これらの場合、電池抵抗をより低減することができる。
【0038】
また、Rが不飽和結合を有する基を含有する場合、より強固なSEIが形成されやすい観点から、Rは、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数2~4のアルケニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数3~4のアルキニル基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリール基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数3~4のアルケニルオキシ基、ハロゲン原子を置換基として有していてもよい炭素数3~4のアルキニルオキシ基、又はハロゲン原子を置換基として有していてもよいアリールオキシ基が好ましい。
【0039】
前記式(1)で表される化合物は、下記式(1a)又は下記式(1b)で表される化合物であることがより好ましい。この場合、電解液中への鉄成分溶出の抑制、及び蓄電デバイスのサイクル特性をより向上させることができる。
【0040】
【化5】
式(1a)中、X、n及びRは、前述の通りに定義される。
【0041】
【化6】
式(1b)中、X、n及びRは、前述の通りに定義される。
【0042】
上記式(1a)で表される化合物の例としては、下記式(1-1)、(1-2)、(1-3)、(1-4)、(1-5)、(1-7)、(1-8)、(1-10)、(1-11)、(1-12)、(1-13)及び(1-14)で表される化合物が挙げられる。上記式(1b)で表される化合物の例としては、下記式(1-6)、(1-9)及び(1-15)で表される化合物が挙げられる。
【0043】
【0044】
上記式(1-1)で表される化合物の合成方法の一例を以下に示す。まず、有機溶媒に3-ヒドロキシスルホランとトリエチルアミンを溶解し、次いで、アセチルクロライドを滴下し、室温で2時間攪拌することによって反応させる。その後、得られた反応物を水で洗浄し、油層を濃縮することで、目的の化合物を得ることができる。
【0045】
式(1)で表される化合物の含有量は、非水電解液の全質量を基準として、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上であってよく、10質量%以下、又は5質量%以下であってよい。なお、式(1)で表される化合物の含有量とは、非水電解液が式(1)で表される化合物として複数種の成分を含有する場合には、これら複数種の成分の合計量を意味する。
(非水溶媒)
【0046】
非水溶媒は、非水電解液の粘度を低く抑える等の観点から、非プロトン性溶媒であってもよい。非水溶媒は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、脂肪族カルボン酸エステル、ラクトン、ラクタム、環状エーテル、鎖状エーテル、スルホン、ニトリル、及び、これらのハロゲン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。非水溶媒は、環状カーボネート及び鎖状カーボネートの少なくとも一方を含むことが好ましく、環状カーボネート及び鎖状カーボネートの組み合わせを含んでいてもよい。
【0047】
環状カーボネートの例としては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、及び炭酸フルオロエチレンが挙げられる。鎖状カーボネートの例としては、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、及び炭酸エチルメチルが挙げられる。脂肪族カルボン酸エステルの例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、及びトリメチル酢酸メチルが挙げられる。ラクトンの例としては、γ-ブチロラクトンが挙げられる。ラクタムの例としては、ε-カプロラクタム、及びN-メチルピロリドンが挙げられる。環状エーテルの例としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、及び1,3-ジオキソランが挙げられる。鎖状エーテルの例としては、1,2-ジエトキシエタン、及びエトキシメトキシエタンが挙げられる。スルホンの例としては、スルホランが挙げられる。ニトリルの例としては、アセトニトリルが挙げられる。ハロゲン誘導体の例としては、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン等の環状カーボネートのハロゲン誘導体が挙げられる。これらは1種単独で用いられてよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。これらの非水溶媒は、リチウムイオン電池等の蓄電デバイスの用途に特に適している。
【0048】
非水溶媒の含有量は、非水電解液の全質量を基準として、例えば、70質量%~99質量%であってよい。
(電解質)
【0049】
電解質は、リチウムイオンのイオン源となるリチウム塩を含んでいてもよい。リチウム塩は、LiAlCl4、LiBF4、LiPF6、LiClO4、リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSi)、リチウムビスフルオロスルホンイミド(LiFSi)、LiAsF6及びLiSbF6からなる群より選択される少なくとも1種であってよい。これらは1種単独で用いられてよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。電解質は、LiBF4及び/又はLiPF6を含んでいてよい。電解質がLiBF4及び/又はLiPF6を含む場合、電解液のイオン伝導度を高めることができ、更には耐酸化還元特性により長期間の使用による蓄電デバイスの性能劣化を抑制することができる。
【0050】
電解質の濃度は、非水電解液の全体積を基準として、0.1mol/L以上、又は0.5mol/L以上であってよく、2.0mol/L以下、又は1.5mol/L以下であってよい。
(その他の成分)
【0051】
非水電解液は、必要に応じて前記式(1)で表される化合物、前記非水溶媒、及び前記電解質とは異なるその他の成分を含んでもよい。その他の成分の例としては、負極保護剤、正極保護剤、難燃剤、過充電防止剤、環状カーボネート化合物、ニトリル化合物、イソシアネート化合物、アセチレン-1,2-ジイル基(-C≡C-)を有する化合物、式(1)の化合物とは異なるスルホニル基(>S(=O)2)を有する化合物、式(1)の化合物とは異なるリン酸エステル化合物、酸無水物、環状ホスファゼン化合物、環状ジオキサゾール化合物、ボロキシン誘導体、ケイ素原子を含む化合物、及びアルカリ金属塩化合物(例えばリチウム塩化合物)が挙げられる。これらのその他の成分が、蓄電デバイスの特性を改善するための添加剤として、式(1)で表される化合物とともに非水電解液に含まれてもよい。なお、アルカリ金属塩化合物は、非水電解液において電解質として機能することもできる。
【0052】
環状カーボネート化合物の例としては、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC)、トランス若しくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(DFEC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、及び4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)が挙げられる。環状カーボネート化合物が、VC、FEC、VEC又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0053】
ニトリル化合物の例としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、及びセバコニトリルが挙げられる。ニトリル化合物が、スクシノニトリル、アジポニトリル又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0054】
イソシアネート化合物の例としては、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2-イソシアナトエチルアクリレート、及び2-イソシアナトエチルメタクリレートが挙げられる。
【0055】
アセチレン-1,2-ジイル基(-C≡C-)を有する化合物の例としては、2-プロピニルメチルカーボネート、酢酸-2-プロピニル、ギ酸-2-プロピニル、メタクリル酸-2-プロピニル、メタンスルホン酸-2-プロピニル、ビニルスルホン酸-2-プロピニル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸-2-プロピニル、ジ(2-プロピニル)オキサレート、メチル-2-プロピニルオキサレート、エチル-2-プロピニルオキサレート、グルタル酸ジ(2-プロピニル)、2-ブチン-1,4-ジイルジメタンスルホネート、2-ブチン-1,4-ジイルジホルメート、及び2,4-ヘキサジイン-1,6-ジイルジメタンスルホネートが挙げられる。
【0056】
スルホニル基(>S(=O)2)を有する化合物の例としては、1,3-プロパンスルトン(PS)、1,3-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,3-プロペンスルトン、2,2-ジオキシド-1,2-オキサチオラン-4-イルアセテート、5,5-ジメチル-1,2-オキサチオラン-4-オン2,2-ジオキシド等のスルトン、エチレンサルファイト、エチレンスルフェート、ヘキサヒドロベンゾ[1,3,2]ジオキサチオラン-2-オキシド(1,2-シクロヘキサンジオールサイクリックサルファイトともいう)、5-ビニル-ヘキサヒドロ-1,3,2-ベンゾジオキサチオール-2-オキシド等の環状サルファイト、ブタン-2,3-ジイルジメタンスルホネート、ブタン-1,4-ジイルジメタンスルホネート、メチレンメタンジスルホネート等のスルホン酸エステル、並びに、1,3-プロパンジスルホン酸無水物、ジビニルスルホン、1,2-ビス(ビニルスルホニル)エタン、及びビス(2-ビニルスルホニルエチル)エーテルが挙げられる。
【0057】
リン酸エステル化合物の例としては、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エチル、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)2,2-ジフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)2,2,3,3-テトラフルオロプロピル、リン酸ビス(2,2-ジフルオロエチル)2,2,2-トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)2,2,2-トリフルオロエチル、リン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)メチル、リン酸トリス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2-イル)、メチレンビスホスホン酸メチル、メチレンビスホスホン酸エチル、エチレンビスホスホン酸メチル、エチレンビスホスホン酸エチル、ブチレンビスホスホン酸メチル、ブチレンビスホスホン酸エチル、メチル2-(ジメチルホスホリル)アセテート、エチル2-(ジメチルホスホリル)アセテート、メチル2-(ジエチルホスホリル)アセテート、エチル2-(ジエチルホスホリル)アセテート、2-プロピニル2-(ジメチルホスホリル)アセテート、2-プロピニル2-(ジエチルホスホリル)アセテート、メチル2-(ジメトキシホスホリル)アセテート、エチル2-(ジメトキシホスホリル)アセテート、メチル2-(ジエトキシホスホリル)アセテート、エチル2-(ジエトキシホスホリル)アセテート、2-プロピニル2-(ジメトキシホスホリル)アセテート、2-プロピニル2-(ジエトキシホスホリル)アセテート、ピロリン酸メチル、及びピロリン酸エチルが挙げられる。
【0058】
酸無水物の例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、3-アリル無水コハク酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、及び3-スルホ-プロピオン酸無水物が挙げられる。
【0059】
環状ホスファゼン化合物の例としては、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、フェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、及びエトキシヘプタフルオロシクロテトラホスファゼンが挙げられる。
【0060】
環状ジオキサゾール化合物の例としては、3-フェニル-1,4,2-ジオキサゾール-5-オン、3-(2-フルオロフェニル)-1,4,2-ジオキサゾール-5-オン、3-(3-フルオロフェニル)-1,4,2-ジオキサゾール-5-オン、3-(4-フルオロフェニル)-1,4,2-ジオキサゾール-5-オン、3-(4-メトキシフェニル)-1,4,2-ジオキサゾール-5-オン、3-(2-チエニル)-1,4,2-ジオキサゾール-5-オン、3-(2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニル)-1,4,2-ジオキサゾール-5-オン、3-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,4,2-ジオキサゾール-5-オン、及び3-(4-ニトロフェニル)-1,4,2-ジオキサゾール-5-オンが挙げられる。
【0061】
ボロキシン誘導体の例としては、ボロキシン、トリメチルボロキシン、トリメトキシボロキシン、トリエチルボロキシン、トリエトキシボロキシン、トリイソプロピルボロキシン、トリイソプロポキシボロキシン、トリn-プロピルボロキシン、トリn-プロポキシボロキシン、トリn-ブチルボロキシン、トリn-ブチロキシボロキシン、トリフェニルボロキシン、トリフェノキシボロキシン、トリシクロヘキシルボロキシン、及びトリシクロヘキソキシボロキシンが挙げられる。
【0062】
ケイ素原子を含む化合物の例としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、ヘキサエチルシクロトリシロキサン、ヘキサフェニルシクロトリシロキサン、1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリビニルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、トリメチルフルオロシラン、トリエチルフルオロシラン、トリプロピルフルオロシラン、フェニルジメチルフルオロシラン、トリフェニルフルオロシラン、ビニルジメチルフルオロシラン、ビニルジエチルフルオロシラン、ビニルジフェニルフルオロシラン、ジビニルジフルオロシラン、ジビニルジメチルシラン、トリメトキシフルオロシラン、トリエトキシフルオロシラン、ジメチルジフルオロシラン、ジエチルジフルオロシラン、トリビニルフルオロシラン、トリビニルメチルシラン、エチルビニルジフルオロシラン、メチルトリフルオロシラン、エチルトリフルオロシラン、ヘキサメチルジシロキサン、1,3-ジエチルテトラメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、トリメトキシメチルシラン、テトラメトキシシラン、テトラビニルシラン、テトラアリルシラン、テトラブテニルシラン、ビス(トリメチルシリル)パーオキサイド、酢酸トリメチルシリル、酢酸トリエチルシリル、プロピオン酸トリメチルシリル、メタクリル酸トリメチルシリル、トリフルオロ酢酸トリメチルシリル、メタンスルホン酸トリメチルシリル、エタンスルホン酸トリメチルシリル、メタンスルホン酸トリエチルシリル、フルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、ビス(トリメチルシリル)スルフェート、トリス(トリメチルシロキシ)ボロン、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、及びトリス(トリメチルシリル)ホスファイトが挙げられる。
【0063】
リチウム塩化合物の例としては、ジフルオロリン酸リチウム、リチウムビスオキサラトボレート(LiBOB)、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート(LiTFOP)、リチウムジフルオロオキサラトボレート(LiDFOB)、リチウムジフルオロビスオキサラトホスフェート(LiDFOP)、テトラフルオロホウ酸リチウム、リチウムビスフルオロスルホニルイミド、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート、Li2PO3F等のリン酸骨格を有するリチウム塩、並びに、リチウムトリフルオロ((メタンスルホニル)オキシ)ボレート、リチウムペンタフルオロ((メタンスルホニル)オキシ)ホスフェート、リチウムメチルサルフェート、リチウムエチルサルフェート、リチウム2,2,2-トリフルオロエチルサルフェート、フルオロスルホン酸リチウム等のS(=O)基を有するリチウム塩が挙げられる。
【0064】
アルカリ金属塩化合物のその他の例としては、ジフルオロリン酸ナトリウム、ジフルオロリン酸カリウム、ナトリウムビスオキサラトボレート、カリウムビスオキサラトボレート、ナトリウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート、カリウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート、ナトリウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、カリウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、ナトリウムジフルオロオキサラトボレート、及びカリウムジフルオロオキサラトボレートが挙げられる。
<蓄電デバイス>
【0065】
上述した非水電解液は、蓄電デバイスの用途に用いられる。蓄電デバイスは、上記非水電解液と、正極及び負極と、から構成される。蓄電デバイスは、非水電解液二次電池(リチウムイオン電池)及び電気二重層キャパシタ(リチウムイオンキャパシタ)であってよい。
【0066】
図1は、蓄電デバイスの一例を模式的に示す断面図である。
図1に示されるリチウムイオン電池1は、正極4及び負極7と、正極4と負極7との間に配置された電解液8と、電解液8中に設けられたセパレータ9と、を備える。正極4は、正極集電体2と正極集電体2の電解液8側に設けられた正極活物質層3とを有する。負極7は、負極集電体5と負極集電体5の電解液8側に設けられた負極活物質層6とを有する。正極4は、上述した正極集電体と正極活物質層とを備えるリチウムイオン電池用正極であってもよい。また、負極7は、上述した負極集電体と負極活物質層とを含むリチウムイオン電池用負極であってもよい。
(正極)
【0067】
正極は、正極活物質層と、正極集電体とを有する。
【0068】
正極活物質層は、正極活物質としてLiFePO4を含む。LiFePO4を有することで、蓄電デバイスの安全性が向上する。
【0069】
正極集電体は、電子伝導性を有する材料を含んでいてもよい。電子伝導性を有する材料の例としては、カーボン、チタン、クロム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、タンタル、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金、金、アルミニウム等の導電性物質、及び導電性物質の二種類以上を含有する合金(例えば、ステンレス)が挙げられる。正極集電体の材料は、電子伝導性が高く、電解液中の安定性と耐酸化性に優れる観点から、カーボン、アルミニウム、又はステンレスであることが好ましく、コストの観点から、アルミニウムであることがより好ましい。
【0070】
正極集電体は、箔(箔状)であってもよい。正極集電体が箔である場合、更なる高容量化を図る観点から、正極集電体は、その表面にプライマー層を有していてもよい。正極集電体がプライマー層を有する場合、正極活物質層と正極集電体との密着性を向上させることができる。プライマー層は、例えば、炭素系導電助剤を含むバインダーを箔の表面上に0.1μm~50μmの厚みで塗布することにより、形成することができる。
【0071】
正極集電体は、三次元形状を有していてもよい。三次元形状を有する正極集電体の例としては、発泡メタル、メッシュ、織布、不織布、及びエキスパンドが挙げられる。正極集電体が三次元形状を有する場合、電極の作製に用いられる材料(例えば、結着剤)と、正極集電体との密着性が低くても、高い容量密度の電極を作製することができるため、高率充放電特性をより良好にすることができる。
(負極)
負極集電体は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス等の金属を含んでいてもよい。加工容易性及びコストの観点から、負極集電体は銅を含んでいることが好ましい。負極集電体は、箔(箔状)であってもよい。負極集電体は、その表面が粗面化処理されていてもよい。
【0072】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質は、リチウムを吸蔵、放出することができる材料である。負極活物質の例としては、黒鉛、非晶質炭素等の炭素材料、酸化インジウム、酸化シリコン、酸化スズ、チタン酸リチウム、酸化亜鉛、酸化リチウム等の酸化物材料、リチウム金属、及び、リチウムと合金を形成することができる金属材料が挙げられる。リチウムと合金を形成することができる金属材料の例は、銅、スズ、ケイ素、コバルト、マンガン、鉄、アンチモン、及び銀であり、これらの金属は2種以上を含んでもよい。
【0073】
高エネルギー密度化の観点から、負極活物質が、黒鉛等の炭素材料と、Si、Si合金、Si酸化物等から選ばれるSi系の活物質とを含むことが好ましい。サイクル特性と高エネルギー密度化の両立という観点から、負極活物質が、黒鉛と、Si系の活物質とを含むことがより好ましい。これらの場合、炭素材料とSi系の活物質との合計質量に対するSi系の活物質の質量の割合は、下限は0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上であり、上限は95質量%以下、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。
(その他の成分)
【0074】
正極活物質層及び負極活物質層は、結着剤を更に含んでいてもよい。結着剤の例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、アクリル酸-ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸、及びこれらの共重合体が挙げられる。正極活物質層及び負極活物質層は、互いに同一の又は互いに異なる結着剤を含んでいてもよい。正極活物質層が結着剤を含む場合、正極活物質層に含まれる結着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)であってもよい。負極活物質層が結着剤を含む場合、負極活物質層に含まれる結着剤は、サイクル特性に更に優れる観点から、SBR、ポリアクリル酸、又はこれらを含む共重合体であってもよい。
【0075】
正極活物質層3及び負極活物質層6は、導電補助剤を更に含んでいてもよい。導電補助剤としては、カーボン等の導電性材料を含む物質を用いることができる。カーボンを含む物質の例としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素質微粒子、及び炭素繊維が挙げられる。
【0076】
セパレータ9は、多孔質フィルムであってよい。多孔質フィルムは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びフッ素樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含んでいてよい。セパレータ9は、単層であってよく、複数層を有していてもよい。
【0077】
リチウムイオン電池等の本発明の蓄電デバイスを構成する各部材の形状、厚み等の具体的な形態は、当業者であれば適宜設定することができる。
【実施例0078】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
1.式(1-4)で表される化合物の合成
【0079】
攪拌機、冷却管、及び温度計を備え付けた2Lの4つ口フラスコに3-スルホレン(236.3g、2.0mol)及び水500mLを入れ、40℃まで昇温して、均一な溶液とした。該溶液に水酸化ナトリウム(104.0g、2.6mol)を添加し、40℃を維持したまま溶液を10時間攪拌した。その後、フラスコを氷浴で冷却した。得られた反応液に濃硫酸(130.1g、1.3mol)を30分かけて滴下し、反応液を酸性にした。反応液を濃縮することにより固体を析出させ、析出した固体をろ別した後、得られたろ液を濃縮することにより、3-ヒドロキシスルホラン(250.59g、3-スルホレンに対する収率92%)を得た。次に、攪拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備え付けた200mLの4つ口フラスコに、上記の方法で合成した3-ヒドロキシスルホラン(5.4g、40mmol)、メタンスルホン酸クロリド(5.4g、44mmol)及びアセトニトリル20mLを入れた。フラスコを氷浴で冷却し、フラスコ内の反応液を攪拌しながら、トリエチルアミン(4.0g、40mmol)を滴下した。滴下終了後、0~5℃を維持しながら反応液を1時間攪拌した。その後、水を添加し、析出した白色固体をろ過により回収した。回収した固体をメタノールで洗浄した後、減圧乾燥することで白色固体の化合物(式(1-4)で表される化合物)を得た(7.0g、3-ヒドロキシスルホランに対する収率82%)。1H-NMR(400MHz、CD3CN)δ(ppm):2.53(m、2H)、3.11(s、3H)、3.16(m、2H)、3.36(m、2H)、5.39(s、1H)
2.蓄電デバイス(リチウムイオン電池)の作製
(実施例1)
【0080】
炭酸エチレン(EC)と炭酸エチルメチル(EMC)とを、EC:EMC=30:70の体積組成比で混合して混合非水溶媒を得た。得られた混合非水溶媒に、電解質としてLiPF6を1.0mol/Lの濃度となるように溶解した。得られた溶液に、式(1-4)で表される化合物を添加し、非水電解液を調製した。式(1―4)で表される化合物の含有割合は、非水電解液の全質量を基準として1.0質量%とした。
次に、正極活物質としてLiFePO4を含む正極シート(株式会社八山製)、及び、負極活物質として黒鉛を含む負極シート(株式会社八山製)を準備した。正極シートは、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚さ20μm)と、その片面上に形成された正極活物質層とを有していた。正極活物質層は、正極活物質としてのLiFePO4、導電性付与剤としてのカーボンブラック(CB)及びカーボン(KS)、並びに、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含んでいた。これらの質量比は、LiFePO4:CB:KS:PVDF=83.5:5.0:5.0:6.5であった。負極シートは、負極集電体としての銅箔(厚さ10μm)と、その両面上に形成された負極活物質層とを有していた。負極活物質層は、負極活物質としての黒鉛(Gr)、並びに、結着剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)及びスチレンブタジエンゴム(SBR)を含んでいた。これらの質量比は、Gr:CMC:SBR=98:1:1であった。正極(片面)シート、ポリエチレン製のセパレータ、負極(両面)シート、ポリエチレン製のセパレータ、及び正極(片面)シートの順に積層し、3枚の電極及び2枚のセパレータからなる電池要素を作製した。この電池要素を、アルミニウム(厚さ40μm)とその両面を被覆する樹脂層とを有するラミネートフィルムから形成された袋に、正極シート及び負極シートの端部が袋から突き出るように挿入した。次いで、非水電解液を袋内に注入した。袋を真空封止し、シート状の蓄電デバイスを得た。更に、電極間の密着性を高めるために、ガラス板でシート状の蓄電デバイスを挟んで加圧し、蓄電デバイス(シート型リチウムイオン電池)を作製した。
(比較例1)
【0081】
実施例1における式(1-4)で表される化合物を添加しないこと以外は、実施例1と同様に蓄電デバイスを作製した。
3.電池特性の評価
(エージング工程)
【0082】
各蓄電デバイスを、25℃において、0.1Cに相当する電流で1時間充電した後、25℃で10時間保持した。続いて、0.1Cに相当する電流で5時間充電し、45℃において24時間保持した。その後、25℃において、0.1Cに相当する電流で2.7Vまで放電した。その後、0.5Cに相当する電流で3.8Vまで充電し、0.5Cに相当する電流で2.7Vまで放電する操作を3サイクル繰り返す操作を行うエージングにより、電池を安定させた。その後、初期充放電として、1.0Cに相当する電流で充放電を行った。
(充放電サイクル試験)
【0083】
上記エージング工程を行った蓄電デバイスに対して、25℃において、充電レートを2.0C、放電レートを2.0C、充電終止電圧を3.8V、及び、放電終止電圧を2.7Vとして充放電サイクル試験を行った。400サイクル後の放電容量維持率(%)、及び内部抵抗比を表1に示した。なお、400サイクル後の「放電容量維持率(%)」とは、10サイクル試験後の放電容量(mAh)に対する、400サイクル試験後の放電容量(mAh)の割合(百分率)である。また、400サイクル後の「内部抵抗比」とは、サイクル試験前の-10℃での抵抗を1としたときの、400サイクル試験後の-10℃での抵抗を相対値で示したものである。
(Feの定量)
【0084】
サイクル試験後の蓄電デバイスを解体し、負極のみを取り出した。負極を炭酸ジメチル(DMC)で洗浄後、10分間真空乾燥した。その後、負極上の活物質層を削りとって粉末状にした。回収した粉末に60%硝酸を加え、加熱溶解により測定液を調製した後、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(サーモフィッシャー製)にて測定し、負極活物質層中に含まれるFe量(ppm)を求めた。
【0085】
本発明によれば、鉄溶出を抑制でき、サイクル特性に優れた蓄電デバイスを提供できる。本発明の蓄電デバイスは、電池寿命の延長による廃棄物低減の観点から、環境問題の解決に貢献でき、産業上の利用可能性が極めて大きい。