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特開2024-93456SiC基板及びSiCエピタキシャルウェハ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093456
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】SiC基板及びSiCエピタキシャルウェハ
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20240702BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20240702BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C30B29/36 A
H01L21/66 N
C30B25/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209847
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 友美子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 有三
【テーマコード(参考)】
4G077
4M106
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077AB09
4G077BE08
4G077FJ01
4G077GA01
4G077TK10
4M106AA01
4M106CB01
4M106DH55
(57)【要約】
【課題】端部領域に含まれる不純物が少ない、SiC基板及びSiCエピタキシャルウェハを提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態にかかるSiC基板は、外周端部から5mm以内の端部領域を備え、前記端部領域において、Ti、V及びZrのそれぞれの濃度は5.0×1011atoms/cm以下であり、Cr、Ni、Cu、W、Mo及びMnのそれぞれの濃度は1.0×1011atoms/cm以下であり、B、Al及びFeのそれぞれの濃度は5.0×1012atoms/cm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周端部から5mm以内の端部領域を備え、
前記端部領域において、
Ti、V及びZrのそれぞれの濃度は5.0×1011atoms/cm以下であり、
Cr、Ni、Cu、W、Mo及びMnのそれぞれの濃度は1.0×1011atoms/cm以下であり、
B、Al及びFeのそれぞれの濃度は5.0×1012atoms/cm以下である、SiC基板。
【請求項2】
前記端部領域において、
Ti及びVのそれぞれの濃度は3.0×1011atoms/cm以下であり、
Cr及びZrのそれぞれの濃度は5.0×1010atoms/cm以下であり、
Ni及びCuのそれぞれの濃度は3.0×1010atoms/cm以下であり、Bの濃度は3.0×1012atoms/cm以下であり、
Al及びFeのそれぞれの濃度は1.0×1011atoms/cm以下である、請求項1に記載のSiC基板。
【請求項3】
直径が149mm以上である、請求項1に記載のSiC基板。
【請求項4】
直径が199mm以上である、請求項3に記載のSiC基板。
【請求項5】
SiC基板の内側に向かって切り込まれたノッチを有する、請求項1に記載のSiC基板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のSiC基板と、
前記SiC基板の一面に成膜されたSiCエピタキシャル層と、を備える、SiCエピタキシャルウェハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC基板及びSiCエピタキシャルウェハに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。そのため炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウェハが用いられるようになっている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、SiC基板の表面にSiCエピタキシャル層を積層することで得られる。以下、SiCエピタキシャル層を積層前の基板をSiC基板と称し、SiCエピタキシャル層を積層後の基板をSiCエピタキシャルウェハと称する。SiC基板は、SiCインゴットから切り出される。SiCエピタキシャルウェハのSiCエピタキシャル層にはトランジスタや配線が形成され、SiCエピタキシャルウェハをチップ化することでSiCデバイスとなる。
【0004】
例えば、特許文献1に記載のように、SiC基板のSiCエピタキシャル層が成膜される主面は、化学機械研磨(CMP)される場合がある。CMPに用いられるスラリーには、金属酸化剤が含まれる場合がある。CMP後の洗浄が不十分な場合、金属酸化剤が金属不純物として残留する場合がある。特許文献1には、王水で洗浄することで、主面に残留した不純物を除去できることが記載されている。
【0005】
また例えば、特許文献2には、SiC基板の主面の金属不純物が、デバイスの電気特性の劣化の原因となることが記載されている。また特許文献3には、SiC基板の主面に残留した金属不純物を低減させることができる洗浄方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第7095765号公報
【特許文献2】国際公開第2020/235225号
【特許文献3】特開2022-51689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
主面の金属不純物濃度が低いSiC基板上にSiCエピタキシャル層を成膜しても、SiCエピタキシャル層の外周端部周辺に局所的な面荒れが発生することがある。この局所的な面荒れは、SiCエピタキシャル層の厚みが厚い程、顕著になる。この面荒れが生じると、SiCエピタキシャルウェハの有効面積が狭くなる。またSiCエピタキシャルウェハの外周端部付近からチップ化されたSiCデバイスは、デバイス性能が中央付近からチップ化されたSiCデバイスと比較して劣る場合があった。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、端部領域に含まれる不純物が少ない、SiC基板及びSiCエピタキシャルウェハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
SiCエピタキシャルウェハの最外周から数ミリ程度の端部領域は、エッジエクスクルージョン領域と呼ばれる。エッジエクスクルージョン領域は、SiCデバイスの取得領域から除外されており、この領域の状態はあまり着目されていない。しかしながら、本発明者らは、この領域は金属不純物が主面より残留しやすいことを見出し、かつ、この領域に残留した金属不純物がSiCエピタキシャル層の端部領域における面荒れの原因となっていることを見出した。本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)第1の態様にかかるSiC基板は、外周端部から5mm以内の端部領域を備え、前記端部領域において、Ti、V及びZrのそれぞれの濃度は5.0×1011atoms/cm以下であり、Cr、Ni、Cu、W、Mo及びMnのそれぞれの濃度は1.0×1011atoms/cm以下であり、B、Al及びFeのそれぞれの濃度は5.0×1012atoms/cm以下である。
【0011】
(2)上記態様にかかるSiC基板は、前記端部領域において、Ti及びVのそれぞれの濃度は3.0×1011atoms/cm以下であり、Cr及びZrのそれぞれの濃度は5.0×1010atoms/cm以下であり、Ni及びCuのそれぞれの濃度は3.0×1010atoms/cm以下であり、Bの濃度は3.0×1012atoms/cm以下であり、Al及びFeのそれぞれの濃度は1.0×1011atoms/cm以下でもよい。
【0012】
(3)上記態様にかかるSiC基板は、直径が149mm以上でもよい。
【0013】
(4)上記態様にかかるSiC基板は、直径が199mm以上でもよい。
【0014】
(5)上記態様にかかるSiC基板は、SiC基板の内側に向かって切り込まれたノッチを有してもよい。
【0015】
(6)第2の態様にかかるSiCエピタキシャルウェハは、上記態様に係るSiC基板と、前記SiC基板の一面に成膜されたSiCエピタキシャル層と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
上記態様にかかるSiC基板は、端部領域に含まれる不純物が少なく、SiCエピタキシャル層の端部領域近傍における面荒れが生じにくい。また上記態様にかかるSiC基板は、SiCデバイス作製時の高温アニールによってSiC基板から気化した不純物が、SiCデバイスに再取り込みされることを抑制できる。その結果、SiCエピタキシャルウェハのエッジエクスクルージョン領域の幅を狭くでき、SiCエピタキシャルウェハのデバイス取得に利用できる有効面積を広くできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係るSiC基板の平面図である。
図2】本実施形態に係るSiC基板の端部領域における不純物濃度の測定方法を説明するための図である。
図3】本実施形態に係るSiC基板の端部領域の断面図である。
図4】本実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態にかかるSiC基板等について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本実施形態の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0019】
図1は、本実施形態に係るSiC基板1の平面図である。SiC基板1は、例えば、n型SiCからなる。SiC基板1のポリタイプは、特に問わず、2H、3C、4H、6Hのいずれでもよい。SiC基板1は、例えば、4H-SiCである。
【0020】
SiC基板1の平面視形状は略円形である。SiC基板1は、結晶軸の方向を把握するためのオリエンテーションフラット又はノッチ4を有してもよい。SiC基板1の直径は、例えば、149mm以上であり、好ましくは199mm以上である。オリエンテーションフラットは、<11-20>方向と平行に形成される。ノッチ4は、SiC基板1の内側に向かって切り込まれている。
【0021】
SiC基板1は、主領域2と端部領域3とを備える。主領域2は、SiC基板1の主面を構成する領域であり、端部領域3よりSiC基板1の内側にある。端部領域3は、SiC基板1の外周端部から5mm以内の領域である。端部領域3は、エッジエクスクルージョン領域を含む。エッジエクスクルージョン領域は、SiC基板1のうちSiCデバイスの取得領域から除外される領域である。端部領域3とエッジエクスクルージョン領域とは必ずしも一致するものではなく、エッジエクスクルージョン領域は端部領域3より狭いことが好ましい。
【0022】
端部領域3は、不純物を含む場合がある。不純物は、例えば、Ti、V、Fe、W、Mo、Mn、Cr、Ni、Cu、Zr、B及びAlである。これらの不純物は、SiC基板1をCMP研磨する際のスラリーの残留物である。端部領域3は、主領域2と比較して、表面粗さが粗く、不純物が残留しやすい。
【0023】
端部領域3において、Ti、V及びZrのそれぞれの濃度は5.0×1011atoms/cm以下であり、Cr、Ni、Cu、W、Mo及びMnのそれぞれの濃度は1.0×1011atoms/cm以下であり、B、Al及びFeのそれぞれの濃度は5.0×1012atoms/cm以下である。また端部領域3において、Ti及びVのそれぞれの濃度は3.0×1011atoms/cm以下であり、Cr及びZrのそれぞれの濃度は5.0×1010atoms/cm以下であり、Ni及びCuのそれぞれの濃度は3.0×1010atoms/cm以下であり、Bの濃度は3.0×1012atoms/cm以下であり、Al及びFeのそれぞれの濃度は1.0×1011atoms/cm以下であることが好ましい。端部領域3のこれらの不純物濃度は、後述する所定の洗浄工程を経ることで初めてなし得る。
【0024】
図2は、本実施形態に係るSiC基板1の端部領域3における不純物濃度の測定方法を説明するための図である。まずシャーレ21に薬液22を滴下する。薬液22は、例えば、ふっ化水素酸と過酸化水素水の混合液を用いることができる。次いで、薬液22に、SiC基板1の端部領域3を接触させる。そして、端部領域3と薬液22とが接触した状態で、SiC基板1を回転させる。端部領域3に含まれる不純物は、薬液22に抽出される。そして不純物を抽出後の薬液22を誘導プラズマ質量分析法(ICP-MS)で評価する。そしてICP-MSで測定されたそれぞれの不純物濃度が、端部領域3の不純物濃度に対応する。
【0025】
端部領域3に含まれるTi、V、Fe、W、Mo、Mn、Cr、Ni、Cu及びZrは、端部領域3の近傍に成長するSiCエピタキシャル層の局所的な面荒れの原因となる。これらの不純物が起因となって、SiCエピタキシャル層の異常成長が生じるためである。端部領域3は、エッジエクスクルージョン領域を含み、多くの部分がSiCデバイスの取得領域から除外されるため、これまであまり着目されておらず、考慮しなくてよい領域であると考えられていた。しかしながら、この端部領域3に含まれる不純物もSiCエピタキシャル層の面荒れに影響を及ぼすことを見出した。
【0026】
また端部領域3に含まれるB及びAlは、SiCデバイス作製時の高温アニールによってSiC基板1から気化し、SiCデバイスに再取り込みされる場合がある。SiCデバイスにB又はAlが再取り込みされると、SiCデバイスの性能劣化の原因となる。これまで端部領域3に含まれる微量なB及びAlは無視していたが、SiCデバイスの性能の向上に伴い、端部領域3に含まれる微量なB及びAlまで低減する必要がでてきた。
【0027】
図3は、本実施形態に係るSiC基板1のSiC基板の端部領域3の断面図である。端部領域3は、例えば、ベベル部5と平坦部6とを有する。ベベル部5は、端部領域3の外周側に位置し、SiC基板1の端部の角が落とされることで形成される部分である。ベベル部5の径方向の幅は、例えば76μm以上であり508μm以下でもよい。ベベル部5は、SiC基板1の割れ、欠けを予防する。平坦部6は、端部領域3のうちベベル部5よりSiC基板1の内側に位置する部分である。
【0028】
ベベル部5は、例えば、第1主面S1と第2主面S2と端面S3と第1チャンファー面S4と第2チャンファー面S5とを有する。
【0029】
第1主面S1は、主領域2の第1主面S7と連続する。主領域2の第1主面S7は、SiC基板1の一面である。第1主面S1及び第1主面S7は、例えば、Si面である。第1主面S1及び第1主面S7はそれぞれ、表面粗さが0.1nm以下である。表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)であり、以下の第2主面S2、端面S3、第1チャンファー面S4、第2チャンファー面S5でも同じである。
【0030】
第2主面S2は、主領域2の第2主面S8と連続する。第2主面S2は、第1主面S1と対向する。第2主面S8は、第1主面S7と対向する。第2主面S2及び第2主面S8は、例えば、C面である。第2主面S2及び第2主面S8はそれぞれ、表面粗さが0.1nm以下である。
【0031】
端面S3は、SiC基板1の最外周を形成する面である。端面S3は、第1主面S1を含むxy平面と直交する方向に広がる。端面S3は、第1主面S1及び第2主面S2より表面粗さが粗い。特にノッチ4を形成する端面S3は、第1主面S1及び第2主面S2より表面粗さが粗く、ノッチ4以外の部分の端面S3より表面粗さが粗い。
【0032】
ノッチ4以外の部分の端面S3の表面粗さは、例えば、200nm以下である。ノッチ4以外の部分の端面S3の表面粗さは、例えば、150nm以上200nm以下である。ノッチ4部分の端面S3の表面粗さは、例えば、250nm以下である。ノッチ4部分の端面S3の表面粗さは、例えば、200nm以上250nm以下である。
【0033】
第1チャンファー面S4は、端面S3の一辺と第1主面S1の一辺とを繋ぐ面である。図3に示す第1チャンファー面S4は傾斜面であるが、第1チャンファー面S4は湾曲面でもよい。第1チャンファー面S4は、第1主面S1より表面粗さが粗い。特にノッチ4を形成する第1チャンファー面S4は、第1主面S1より表面粗さが粗く、ノッチ4以外の部分の第1チャンファー面S4より表面粗さが粗い。
【0034】
ノッチ4以外の部分の第1チャンファー面S4の表面粗さは、例えば、90nm以下である。ノッチ4以外の部分の第1チャンファー面S4の表面粗さは、例えば、40nm以上90nm以下である。ノッチ4部分の第1チャンファー面S4の表面粗さは、例えば、150nm以下である。ノッチ4部分の第1チャンファー面S4の表面粗さは、例えば、100nm以上150nm以下である。
【0035】
第2チャンファー面S5は、端面S3の一辺と第2主面S2の一辺とを繋ぐ面である。図3に示す第2チャンファー面S5は傾斜面であるが、第2チャンファー面S5は湾曲面でもよい。第2チャンファー面S5は、第2主面S2より表面粗さが粗い。特にノッチ4を形成する第2チャンファー面S5は、第2主面S2より表面粗さが粗く、ノッチ4以外の部分の第2チャンファー面S5より表面粗さが粗い。
【0036】
ノッチ4以外の部分の第2チャンファー面S5の表面粗さは、例えば、100nm以下である。ノッチ4以外の部分の第2チャンファー面S5の表面粗さは、例えば、50nm以上100nm以下である。ノッチ4部分の第2チャンファー面S5の表面粗さは、例えば、150nm以下である。ノッチ4部分の第2チャンファー面S5の表面粗さは、例えば、100nm以上150nm以下である。
【0037】
上記のように、ベベル部5を構成する端面S3、第1チャンファー面S4及び第2チャンファー面S5は、表面粗さが主領域2の第1主面S7及び第2主面S8より粗い。表面粗さが粗いこれらの部分には不純物が残留しやすい。これらの部分の不純物は、後述する洗浄工程を経ることで低減される。
【0038】
主領域2は、上記の不純物を含んでいてもよい。主領域2に含まれる金属不純物は、端部領域3に含まれる不純物より少ない。
【0039】
例えば主領域2において、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Mo、Wのそれぞれの濃度は1.0×1010atoms/cm以下であることが好ましい。
【0040】
本実施形態に係るSiC基板1の製造方法の一例について説明する。まずSiCインゴットをスライスして、SiC基板1を取り出す。SiCインゴットは、例えば、昇華法によって得られる。
【0041】
次いで、SiC基板1の主面を研磨する。SiC基板1の主面は、例えば、CMP研磨する。SiC基板1は、片面ずつ研磨してもよいし、両面研磨してもよい。例えば、片面研磨の場合は、SiC基板1の一面を加圧ヘッドに貼り付け、SiC基板1の反対側の面を研磨布に押し当てる。研磨布に研磨剤を供給しつつ、SiC基板1を回転させる。SiC基板1は、加圧ヘッドに対して公転しつつ、自転してもよい。公転と自転の回転方向は同一でも反対でもよい。研磨剤は、砥粒、酸化剤等を含む。砥粒は、例えば、コロイダルシリカ、酸化アルミニウム、ダイアモンド等である。酸化剤は、Ti、V、W、Mo、Mn、Cr、Ni、Cu、Zrからなる群から選択される1種以上の金属元素を含む。また研磨剤は、不純物として、Fe、Al、B等を含む場合がある。
【0042】
次いで、研磨後のSiC基板1を洗浄する。洗浄は、洗浄槽に満たされた各種洗浄液に浸漬することで行われる。洗浄液は、フィルタを用いてろ過しながら、ポンプにより循環している。洗浄は、例えば、超音波を用いた酸洗浄、硫酸過水洗浄、フッ酸洗浄、アンモニア過水洗浄、塩酸過水洗浄を含む。洗浄は、例えば、超音波を用いた酸洗浄、硫酸過水洗浄、フッ酸洗浄、アンモニア過水洗浄、塩酸過水洗浄の順に行われる。また超音波を用いた酸洗浄の前に、アルカリ洗浄を行ってもよい。また各洗浄工程の間には、純水洗浄を行ってもよい。
【0043】
SiC基板1はカセットに取り付けて、洗浄層に浸漬する。カセットのウェハ支持部は、SiC基板1の端面を支持する。カセットのウェハ支持部とSiC基板1とは点接触させる。また各洗浄工程では、SiC基板1とウェハ支持部との接点位置を変えながら、複数回に分けて洗浄を行う。SiC基板1とウェハ支持部とが接触する部分は洗浄不足に陥りやすいが、接触点を変えることでSiC基板1の洗浄不足を回避できる。
【0044】
アルカリ洗浄は、例えば、水酸化カリウム及び界面活性剤を用いて行う。アルカリ洗浄を行うと、SiC基板1に付着した砥粒及び有機物の一部が除去される。アルカリ洗浄は、例えば、室温で10分以上行う。
【0045】
超音波を用いた酸洗浄は、塩酸又はシュウ酸とキレート剤とを用いて行う。キレート剤は、例えば、エチレンジアミン四酢酸である。超音波は、少なくとも2種類以上の周波数を組み合わせて行う。例えば、200kHz以上500kHz以下の高周波帯と、1MHz以上2MHz以下のメガソニックと言われる周波数帯と、を組み合わせて行う。酸洗浄は、例えば、50℃以上の温度で行う。それぞれの周波数帯の超音波洗浄は、それぞれ10分以上行う。それぞれの周波数帯の超音波洗浄は、例えば10分を一つの単位として複数回行ってもよい。超音波洗浄を行うたびに、カセットのウェハ支持部とSiC基板1との接触点を変える。
【0046】
また超音波を用いた酸洗浄では、これらの2つの周波数帯の超音波に加えて、40kHz以上100kHz以下の低周波帯の周波数の超音波をさらに組み合わせてもよい。低周波の周波数の超音波も加えることで、SiC基板1がノッチ4を有する場合でも、ノッチ4の不純物を除くことができる。また200kHz以上500kHz以下の高周波帯の超音波を用いて洗浄を行う際は、超音波の周波数を周期的に変動してもよい。
【0047】
硫酸過水洗浄は、硫酸過水によってSiC基板1に付着した有機物を除去できる。硫酸過水は、硫酸と、過酸化水素水とが混合された溶液である。硫酸は、例えば質量百分率濃度が98%の硫酸であり、過酸化水素水は、例えば質量百分率濃度が30%の過酸化水素水である。硫酸と過酸化水素水との体積比率は、例えば、硫酸:過酸化水素水=1:1~1:4である。過酸化水素水の体積比率は、例えば硫酸の1倍以上4倍以下でもよい。硫酸過水洗浄は、例えば、100℃以上の温度で行う。硫酸過水洗浄は、例えば10分以上行う。
【0048】
フッ酸洗浄は、フッ酸によってSiC基板1の表面に形成された酸化膜を除去する。フッ酸は、フッ酸と超純水との混合物であり、超純水の体積比率は例えばフッ酸の1倍以上9倍以下である。フッ酸洗浄は、例えば、室温で10分以上行う。
【0049】
アンモニア過水洗浄は、アンモニア過水によってSiC基板1に付着した有機物を除去できる。アンモニア過水は、アンモニア水溶液と、過酸化水素水と、超純水とが混合された溶液である。アンモニア水溶液は、たとえば質量百分率濃度が28%のアンモニア水溶液である。アンモニア水溶液と過酸化水素水と超純水との体積比率は、例えば、アンモニア水溶液:過酸化水素水:超純水=1:1:10~1:1:23である。超純水の体積比率は、例えばアンモニア水の10倍以上23倍以下でもよい。アンモニア過水洗浄は、例えば、室温で10分以上行う。
【0050】
塩酸加水洗浄は、塩酸加水によってSiC基板に残存している金属触媒由来以外の金属を除去する。塩酸過水は、塩酸と、過酸化水素水と、超純水とが混合された溶液である。塩酸は、たとえば質量百分率濃度が98%の濃塩酸である。塩酸と過酸化水素水と超純水との体積比率は、例えば、塩酸:過酸化水素水:超純水=1:1:10~1:1:23である。超純水の体積比率は、例えば塩酸の10倍以上23倍以下でもよい。塩酸過水洗浄は、例えば、室温で10分以上行う。
【0051】
以下の表1に、SiC基板の洗浄方法の一例をまとめた。
【0052】
【表1】
【0053】
上述のように、異なる周波数帯域の超音波洗浄を行うことで、表面粗さの粗い端部領域3及びノッチ4に残留した不純物の多くを除去することができ、端部領域3及びノッチ4においても、これらの不純物が所定濃度以下のSiC基板1を作製することができる。
【0054】
本実施形態に係るSiC基板1は、端部領域3に含まれる不純物濃度が所定値以下である。そのため、端部領域3の近傍でSiCエピタキシャル層の異常成長が生じにくく、SiCエピタキシャル層の局所的な面荒れが生じにくい。また本実施形態に係るSiC基板1は、SiCデバイス作製時の高温アニールによってSiC基板1から不純物が気化し、SiCデバイスに再取り込みされることを抑制し、SiCデバイスの性能劣化を抑制できる。またSiCエピタキシャル層の面荒れが抑制され、SiCデバイスへの不純物の再取り込みが抑制されれば、SiC基板1の有効領域を広くすることができ、エッジエクスクルージョン領域の幅を狭くすることができる。
【0055】
本実施形態に係るSiC基板1を用いてSiCエピタキシャルウェハを作製できる。図4は、本実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハの断面図である。図4に示すSiCエピタキシャルウェハ10は、上述のSiC基板1と、SiCエピタキシャル層11と、を備える。SiC基板1は、端部領域3における不純物濃度が低いため、SiCエピタキシャル層11を成膜後にSiCエピタキシャル層11の表面が面荒れしにくい。SiCエピタキシャル層11の厚みは、例えば1μmから100μmの厚さとすることができる。エピ膜が厚いほど面荒れが大きくなるため、エピ膜の厚さが25μm以上の場合、本発明の効果が顕著である。
【0056】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例0057】
「実施例1」
SiC単結晶基板として6インチの4°オフ角を有するSiC単結晶基板を準備した。まず、このSiC単結晶基板の外周端部を#600の研磨砥石を用いて外周研削を行った。次いで、コロイダルシリカを研磨剤として用いてSiC基板の両面をCMP研磨した。
【0058】
次いで、研磨後のSiC基板に対して、アルカリ洗浄、超音波を用いた酸洗浄、硫酸過水洗浄、フッ酸洗浄、アンモニア過水洗浄、塩酸過水洗浄を順に行った。それぞれの洗浄工程後には純水洗浄を挟んだ。
【0059】
アルカリ洗浄は、水酸化カリウムとアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムとを用いて、室温で10分行った。
【0060】
超音波を用いた酸洗浄は、塩酸とエチレンジアミン4酢酸との混合液を用いて行った。酸洗浄は、洗浄槽内に印加する超音波の周波数を変えて、3回に分けて行った。酸洗浄における洗浄液の温度は50℃とした。
【0061】
1回目の超音波洗浄は、40kHz以上100kHz以下の低周波帯の周波数の超音波を用いて行った。1回目の超音波洗浄は、10分を1回行った。
【0062】
2回目の超音波洗浄は、200kHz以上500kHz以下の高周波帯の周波数の超音波を用いて行った。また超音波の周波数は、この周波数帯の一定の周波数とせずに、周期的に変更した。2回目の超音波洗浄は、10分を1回行った。
【0063】
3回目の超音波洗浄は、1MHz以上2MHz以下のメガソニックと言われる周波数の超音波を用いて行った。3回目の超音波洗浄は、10分を1回行った。
【0064】
硫酸過水洗浄は、98%の硫酸と30%の過酸化水素水とを1:1の割合で混合した混合液を用いて行った。硫酸過水洗浄は、100℃で10分間行った。
【0065】
フッ酸洗浄は、フッ酸と超純水とを1:4の割合で混合した混合液を用いて行った。フッ酸洗浄は、室温で10分間行った。
【0066】
アンモニア過水洗浄は、アンモニア水溶液と過酸化水素水と超純水とを1:1:18の割合で混合した混合液を用いて行った。アンモニア過水洗浄は、室温で10分間行った。
【0067】
塩酸過水洗浄は、塩酸と過酸化水素水と超純水とを1:1:18の割合で混合した混合液を用いて行った。塩酸過水洗浄は、室温で10分間行った。
【0068】
そして、洗浄後のSiC基板を取り出し、乾燥させた。次いで、SiC基板の端部領域における不純物濃度をICP-MSを用いて測定した。端部領域3における不純物濃度は、図2に示す手順で測定した。ICP-MSは、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製のSPQ9400を用いて行った。
【0069】
「実施例2」
実施例2は、研磨後のSiC基板に対する洗浄条件を変更した点が実施例1と異なる。具体的には、1回目の超音波洗浄、2回目の超音波洗浄、3回目の超音波洗浄のそれぞれを、10分×2回行った。SiC基板とカセットのウェハ支持部との接点位置は、10分超音波洗浄を行った後に、変更した。
【0070】
「比較例1」
比較例1は、研磨後のSiC基板に対して超音波を用いた酸洗浄を行わなかった点が実施例1と異なる。比較例1では、研磨後のSiC基板に対して、アルカリ洗浄、硫酸過水洗浄、フッ酸洗浄、アンモニア過水洗浄、塩酸過水洗浄を順に行った。それぞれの洗浄工程後には純水洗浄を挟んだ。それぞれの洗浄工程における洗浄条件は、実施例1と同じとした。
【0071】
そして、洗浄後のSiC基板を取り出し、乾燥させた。次いで、比較例1のSiC基板の端部領域における不純物濃度をICP-MSを用いて測定した。端部領域3における不純物濃度は、図2に示す手順で測定した。
【0072】
実施例1及び比較例1で測定された不純物濃度を以下の表2に示す。表2において「-」は未測定のデータである。
【0073】
【表2】
【0074】
また実施例1及び比較例1のSiC基板をそれぞれ用いて、SiCエピタキシャル層を成膜した。SiCエピタキシャル層の厚みは、30μmとした。そして、成膜後のSiCエピタキシャル層の表面粗さを求めた。その結果を、以下の表3にまとめた。表面粗さは、二乗平均平方根高さ(Rq)である。また表3における第2領域は、外周端から3mmまでの領域であり、第1領域は全体から第2領域を除いた領域である。
【0075】
【表3】
【0076】
表3に示すように、実施例1の表面粗さは、比較例1の表面粗さより小さかった。また端部領域の不純物濃度を低減した効果が、外周端から3mm以上内側の第1領域まで波及していることが分かる。
【符号の説明】
【0077】
1…SiC基板、2…主領域、3…端部領域、4…ノッチ、5…ベベル部、6…平坦部、10…SiCエピタキシャルウェハ、11…SiCエピタキシャル層、21…シャーレ、22…薬液、S1,S7…第1主面、S2,S8…第2主面、S3…端面、S4…第1チャンファー面、S5…第2チャンファー面
図1
図2
図3
図4