(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093487
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】情報処理システム、プログラム及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/483 20060101AFI20240702BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
G01N33/483 F
C12M1/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209897
(22)【出願日】2022-12-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年5月21日に化学とマイクロ・ナノシステム学会 第45回研究会(CHEMINAS 45)にて発表 [刊行物等] 令和4年5月21日に(1)化学とマイクロ・ナノシステム学会 第45回研究会(CHEMINAS 45)要旨集及び(2)化学とマイクロ・ナノシステム学会 第45回研究会(CHEMINAS 45)のウェブサイトhttp://micro-nano.chips.jp/45/?post_type=attendeeにて発表 [刊行物等] 令和4年10月25日にThe 26th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences(MicroTAS 2022)にて発表 [刊行物等] 令和4年10月3日に(1)The 26th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences(MicroTAS 2022)要旨集及び(2)The 26th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences(MicroTAS 2022)のウェブサイトhttps://microtas2022.org/cgi-bin/download.cgiにて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】森本 雄矢
(72)【発明者】
【氏名】大岸 憲人
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 寿久
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045CB01
2G045FB05
2G045GC20
4B029AA07
4B029BB15
4B029BB20
4B029CC11
4B029FA15
(57)【要約】
【課題】膜タンパク質の活動量をリアルタイムに定量化可能な情報処理システムを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様によれば、人工細胞膜の計測に関する情報処理システムが提供される。この情報処理システムは、取得部と、分割処理部と、解析部とを備える。取得部は、膜タンパク質において生じた応答に関する応答信号を継続的に取得する。分割処理部は、取得中の応答信号を所定時間間隔で継続的に分割処理する。解析部は、分割処理後の応答信号を継続的に解析する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工細胞膜の計測に関する情報処理システムであって、
取得部と、分割処理部と、解析部とを備え、
前記取得部は、膜タンパク質において生じた応答に関する応答信号を継続的に取得し、
前記分割処理部は、取得中の前記応答信号を所定時間間隔で継続的に分割処理し、
前記解析部は、分割処理後の前記応答信号を継続的に解析する、
情報処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
生成部を備え、
前記生成部は、前記応答信号の解析結果と、予め定められた基準とに基づいて、制御信号を継続的に生成する、
情報処理システム。
【請求項3】
請求項2に記載の情報処理システムにおいて、
前記基準は、前記膜タンパク質の特性に対応する基準である、
情報処理システム。
【請求項4】
請求項2に記載の情報処理システムにおいて、
前記生成部は、前記応答信号の解析結果と、前記基準とに基づいて、前記人工細胞膜が破壊されたと判定すると、前記人工細胞膜を再形成させる制御信号を生成する、
情報処理システム。
【請求項5】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記解析部は、前記膜タンパク質に対する刺激の大きさを継続的に推定する、
情報処理システム。
【請求項6】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前処理部を備え、
前記前処理部は、分割処理後の前記応答信号を継続的に前処理する、
情報処理システム。
【請求項7】
請求項6に記載の情報処理システムにおいて、
前記前処理部は、設定された1つの閾値を前記分割処理後の応答信号に適用して継続的に前処理する、
情報処理システム。
【請求項8】
請求項6に記載の情報処理システムにおいて、
前記前処理部は、設定された2つの閾値を前記分割処理後の応答信号に適用して継続的に前処理する、
情報処理システム。
【請求項9】
請求項6に記載の情報処理システムにおいて、
前記前処理部は、前記分割処理後の応答信号における所定以上の変化箇所に基づいて継続的に前処理する、
情報処理システム。
【請求項10】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記分割処理部は、前記応答信号を0.01~30秒間隔で継続的に分割処理する、
情報処理システム。
【請求項11】
プログラムであって、
請求項1から10までの何れか1項に記載の情報処理システムの各部としてコンピュータを機能させる、
プログラム。
【請求項12】
情報処理方法であって、
請求項1から10までの何れか1項に記載の情報処理システムの各部により実行される処理を、各工程として備える、
情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム、プログラム及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、チャネル病を体外診断する方法が開示されている。
【0003】
この方法は、体外で膜電位または電流測定装置を用いて、1または複数の患者由来の細胞に対する1または複数の薬物の効果を評価することであって、前記薬物は前記患者の医療治療に用いられる可能性があると考えられることと、前記評価した効果に基づく患者特有情報を提供することと、を備える。当該効果は、細胞内膜電流測定を用いて評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、膜タンパク質の活動量をリアルタイムに定量化することができなかった。
【0006】
本発明では上記事情を鑑み、膜タンパク質の活動量をリアルタイムに定量化可能な情報処理システムを提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、人工細胞膜の計測に関する情報処理システムが提供される。この情報処理システムは、取得部と、分割処理部と、解析部とを備える。取得部は、膜タンパク質において生じた応答に関する応答信号を継続的に取得する。分割処理部は、取得中の応答信号を所定時間間隔で継続的に分割処理する。解析部は、分割処理後の応答信号を継続的に解析する。
【0008】
このような態様によれば、膜タンパク質の活動量をリアルタイムに定量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】情報処理システム100を表す構成図である。
【
図2】情報処理装置200のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】端末300のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】情報処理装置200(制御部210)によって実現される機能を示すブロック図である。
【
図5】情報処理装置200によって実行される情報処理の流れを示すアクティビティ図である。
【
図6】電流信号400を時間分割して、分割された電流信号が得られたことを示す図である。
【
図7】電流信号400を時間分割して、分割された電流信号が得られたことを示す図である。
【
図8】時間分割の間隔の大きさに対する、膜タンパク質の特性評価のばらつきを示す図である。
【
図9】電流信号400を前処理するための各手法を示す図である。
【
図10】電流信号400を前処理する各手法を比較した図である。
【
図11】従来手法での特性評価結果と、情報処理装置200を使用した特性評価結果とを比較した図である。
【
図12】化学刺激に応じてモータを速度制御した実験を示す図である。
【
図13】電気刺激に応じてロボットを方向制御した実験を示す図である。
【
図14】計測障害からの自動回復を示すグラフである。
【
図15】所定時間、人間の手の介入なしに電流信号を自動計測した結果を示すグラフである。
【
図16】従来手法による拘束時間と、情報処理装置200による拘束時間との比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0011】
ところで、本実施形態に登場するソフトウェアを実現するためのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体として提供されてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよいし、外部のコンピュータで当該プログラムを起動させてクライアント端末でその機能を実現(いわゆるクラウドコンピューティング)するように提供されてもよい。
【0012】
また、本実施形態において「部」とは、例えば、広義の回路によって実施されるハードウェア資源と、これらのハードウェア資源によって具体的に実現されうるソフトウェアの情報処理とを合わせたものも含みうる。また、本実施形態においては様々な情報を取り扱うが、これら情報は、例えば電圧・電流を表す信号値の物理的な値、0又は1で構成される2進数のビット集合体としての信号値の高低、又は量子的な重ね合わせ(いわゆる量子ビット)によって表され、広義の回路上で通信・演算が実行されうる。
【0013】
また、広義の回路とは、回路(Circuit)、回路類(Circuitry)、プロセッサ(Processor)、及びメモリ(Memory)等を少なくとも適当に組み合わせることによって実現される回路である。すなわち、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等を含むものである。
【0014】
1.ハードウェア構成
第1節では、本実施形態のハードウェア構成について説明する。
【0015】
1-1.情報処理システム100
図1は、情報処理システム100を表す構成図である。情報処理システム100は、情報処理装置200と、端末300とを備え、これらがネットワークを通じて接続されている。これらの構成要素についてさらに説明する。ここで、情報処理システム100に例示されるシステムとは、1つ又はそれ以上の装置又は構成要素からなるものである。したがって、例えば、情報処理装置200単体であっても情報処理システム100に例示されるシステムになりうる。
【0016】
1-2.情報処理装置200
図2は、情報処理装置200のハードウェア構成を示すブロック図である。情報処理装置200は、制御部210と、記憶部220と、通信部250とを有し、これらの構成要素が情報処理装置200の内部において通信バス260を介して電気的に接続されている。各構成要素についてさらに説明する。
【0017】
制御部210は、情報処理装置200に関連する全体動作の処理・制御を行う。制御部210は、例えば、不図示の中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)である。制御部210は、記憶部220に記憶された所定のプログラムを読み出すことによって、情報処理装置200に係る種々の機能を実現する。すなわち、記憶部220に記憶されているソフトウェアによる情報処理が、ハードウェアの一例である制御部210によって具体的に実現されることで、制御部210に含まれる各機能部として実行されうる。これらについては、第2節においてさらに説明する。なお、制御部210は単一であることに限定されず、機能ごとに複数の制御部210を有するように実施してもよい。またそれらの組み合わせであってもよい。
【0018】
記憶部220は、情報処理装置200の情報処理に必要な様々な情報を記憶する。これは、例えば、制御部210によって実行される情報処理装置200に係る種々のプログラム等を記憶するソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等のストレージデバイスとして、あるいは、プログラムの演算に係る一時的に必要な情報(引数、配列等)を記憶するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)等のメモリとして実施されうる。また、これらの組み合わせであってもよい。
【0019】
通信部250は、USB、IEEE1394、Thunderbolt(登録商標)、有線LANネットワーク通信等といった有線型の通信手段が好ましいものの、無線LANネットワーク通信、5G/LTE/3G等のモバイル通信、Bluetooth(登録商標)通信等を必要に応じて含めてもよい。すなわち、これら複数の通信手段の集合として実施することがより好ましい。すなわち、情報処理装置200は、通信部250を介して、端末300とネットワークを介して種々の情報を通信する。
【0020】
1-3.端末300
図3は、端末300のハードウェア構成を示すブロック図である。端末300は、制御部310と、記憶部320と、表示部330と、入力部340と、通信部350とを有し、これらの構成要素が端末300の内部において通信バス360を介して電気的に接続されている。制御部310、記憶部320及び通信部350の説明は、情報処理装置200における制御部210、記憶部220及び通信部250の説明と略同様のため省略する。
【0021】
表示部330は、端末300の筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。表示部330は、ユーザが操作可能なグラフィカルユーザインターフェース(Graphical User Interface:GUI)の画面を表示する。これは例えば、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ及びプラズマディスプレイ等の表示デバイスを、端末300の種類に応じて使い分けて実施することが好ましい。以下では、表示部330は、端末300の筐体に含まれるものとして説明する。
【0022】
入力部340は、端末300の筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。例えば、入力部340は、表示部330と一体となってタッチパネルとして実施されてもよい。タッチパネルであれば、ユーザは、タップ操作、スワイプ操作等を入力することができる。もちろん、タッチパネルに代えて、スイッチボタン、マウス、QWERTキーボード等を採用してもよい。すなわち、入力部340は、ユーザによってなされた操作入力を受け付ける。当該入力は、命令信号として、通信バス360を介して制御部310に転送される。そして、制御部310は、必要に応じて所定の制御や演算を実行しうる。
【0023】
2.機能構成
第2節では、本実施形態の機能構成について説明する。前述の通り、記憶部220に記憶されているソフトウェアによる情報処理がハードウェアの一例である制御部210によって具体的に実現されることで、制御部210に含まれる各機能部として実行されうる。
【0024】
図4は、情報処理装置200(制御部210)によって実現される機能を示すブロック図である。具体的には、情報処理装置200(制御部210)は、取得部211と、分割処理部212と、前処理部213と、解析部214と、生成部215とを備える。
【0025】
取得部211は、種々の情報を取得するように構成される。例えば、取得部211は、人工細胞膜に存在する膜タンパク質において生じた応答に関する応答信号を継続的に取得する。ここで、膜タンパク質として、例えば、イオンチャネルが挙げられる。膜タンパク質がイオンチャネルの場合、応答信号は、イオンチャネルのイオン電流信号のことを示す。
【0026】
分割処理部212は、種々の情報を分割処理するように構成される。例えば、分割処理部212は、膜タンパク質において生じた取得中の応答信号を所定時間間隔で継続的に分割処理する。
【0027】
前処理部213は、種々の情報を前処理するように構成される。例えば、前処理部213は、分割処理後の応答信号を継続的に前処理する。
【0028】
解析部214は、種々の情報を解析するように構成される。例えば、解析部214は、分割処理後の応答信号を継続的に解析する。
【0029】
生成部215は、種々の情報を生成するように構成される。例えば、生成部215は、応答信号の解析結果と、予め定められた基準とに基づいて、制御信号を継続的に生成する。
【0030】
3.情報処理方法
第3節では、前述した情報処理装置200の情報処理方法について説明する。この情報処理方法は、情報処理装置200(情報処理システム)の各部により実行される処理を、各工程として備える。具体的には、この情報処理方法は、取得工程と、分割処理工程と、解析工程とを備える。取得工程では、膜タンパク質において生じた応答に関する応答信号を継続的に取得する。分割処理工程では、取得中の当該応答信号を所定時間間隔で継続的に分割処理する。解析工程では、分割処理後の応答信号を継続的に解析する。
【0031】
図5は、情報処理装置200によって実行される情報処理の流れを示すアクティビティ図である。以下、このアクティビティ図の各アクティビティに沿って、説明するものとする。ここで、膜タンパク質は、人工細胞膜の膜上に存在し、ある特定の刺激が印加されることで応答する性質を有する。刺激は、例えば、膜電位の変動、イオン濃度の変動、化合物の添加、機械的刺激、温度の変動等が該当する。応答信号は、膜タンパク質において生じた電流に関する電流信号であるものとする。端末300は、不図示の人工細胞膜システムに接続され、当該人工細胞膜システムから電流信号を取得するものとする。なお、人工細胞膜システムは、例えば、特開2017-083210号公報に記載されているような、公知のものであってもよい。
【0032】
まず、端末300における制御部310は、人工細胞膜システムから取得中の電流信号を情報処理装置200に入力する(アクティビティA110)。アクティビティA110では、例えば、次の2段階の情報処理が実行される。(1)制御部310は、記憶部320に記憶された電流信号を読み出す。(2)制御部310は、通信部350を介して、電流信号を情報処理装置200に送信する。
【0033】
続いて、情報処理装置200における制御部210は、端末300から入力された電流信号を取得する(アクティビティA120)。換言すると、取得部211は、膜タンパク質において生じた応答に関する応答信号を継続的に取得する。ここで、継続的とは、前から実行されている処理をその後も引き続き実行することを示し、処理が実行中であることを示す。アクティビティA120では、例えば、次の2段階の情報処理が実行される。(1)通信部250は、端末300から送信された電流信号を受信する。(2)制御部210は、受信された電流信号を記憶部220に記憶させる。
【0034】
続いて、情報処理装置200における制御部210は、取得中の電流信号を所定時間間隔で継続的に分割処理する(アクティビティA130)。換言すると、分割処理部212は、取得中の応答信号を所定時間間隔で継続的に分割処理する。ここで、分割処理の時間間隔は、任意の時間間隔であってもよく、具体的には例えば、10,20,30,40,50,60,70,80,90,100,110,120,130,140,150,160,170,180,190,200,210,220,230,240,250,260,270,280,290,300,400,500,600,700,800,900,1000ミリ秒、さらに、1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30秒であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。換言すると、分割処理部212は、応答信号を0.01~30秒間隔で継続的に分割処理してもよい。アクティビティA130では、例えば、次の3段階の情報処理が実行される。(1)制御部210は、記憶部220に記憶された電流信号を読み出す。(2)制御部210は、分割処理を実行し、電流信号を所定時間間隔で分割処理する。(3)制御部210は、分割処理された電流信号(以下「分割信号」ともいう。)を記憶部220に記憶させる。
【0035】
続いて、情報処理装置200における制御部210は、それぞれの分割信号を継続的に前処理する(アクティビティA140)。換言すると、前処理部213は、分割処理後の応答信号を前処理する。ここで、前処理の手法は、適宜選択されればよく、例えば、設定された1つの閾値を分割処理後の応答信号に適用して実行される手法(コンパレータ)、設定された2つの閾値を分割処理後の応答信号に適用して実行される手法(シュミットトリガ)、分割処理後の応答信号における所定以上の変化箇所に基づいて実行される手法(エッジ検出)等がある。設定される閾値、及び信号の変化の度合いは、任意に設定されてもよい。前処理部213は、分割処理された直後の分割信号を、時間間隔をあけることなく、略リアルタイムに前処理する。アクティビティA140では、例えば、次の3段階の情報処理が実行される。(1)制御部210は、記憶部220に記憶された各分割信号を読み出す。(2)制御部210は、前処理を実行し、各分割信号からノイズを除去、又は各分割信号の形状を復元する。(3)制御部210は、前処理された分割信号(以下「前処理後信号」ともいう。)を記憶部220に記憶させる。
【0036】
続いて、情報処理装置200における制御部210は、前処理後信号を継続的に解析する(アクティビティA150)。換言すると、解析部214は、分割処理後の応答信号を継続的に解析し、膜タンパク質に対する刺激の大きさを継続的に推定する。この推定された刺激の大きさを使って、人工細胞膜の実験を進める、周辺機器を作動させる等、種々の処理を実現することができる。解析部214は、前処理された直後の前処理信号を、時間間隔をあけることなく、略リアルタイムに解析する。アクティビティA150では、例えば、次の3段階の情報処理が実行される。(1)制御部210は、記憶部220に記憶された前処理後信号を読み出す。(2)制御部210は、解析処理を実行し、膜タンパク質に対する刺激の大きさを推定する。(3)制御部210は、前処理後信号の解析結果(推定された膜タンパク質に対する刺激の大きさ)を記憶部220に記憶させる。
【0037】
続いて、情報処理装置200における制御部210は、制御信号を継続的に生成する(アクティビティA160)。換言すると、生成部215は、応答信号の解析結果と、予め定められた基準とに基づいて、制御信号を継続的に生成する。ここで、制御信号は、例えば、周辺機器を作動させるための信号であってもよい。予め定められた基準は、膜タンパク質の特性に対応する基準であってもよい。膜タンパク質の特性は、例えば、コンダクタンス、開口確率等が挙げられる。予め定められた基準が開口確率に対応する場合、例えば、開口確率が20%以上であれば、ロボットを前進させる制御信号を生成するが、開口確率が20%未満であれば、ロボットを停止させる制御信号を生成してもよい。また、別の例として、開口確率に比例した速度でロボットを前進させる制御信号を生成してもよい。生成部215は、解析処理によって取得された直後の解析結果を、時間間隔をあけることなく生成処理し、略リアルタイムに制御信号を生成する。アクティビティA160では、例えば、次の3段階の情報処理が実行される。(1)制御部210は、記憶部220に記憶された解析結果を読み出す。(2)制御部210は、生成処理を実行し、制御信号を生成する。(3)制御部210は、生成された制御信号を記憶部220に記憶させる。
【0038】
続いて、情報処理装置200における制御部210は、制御信号を端末300に送信する(アクティビティA170)。アクティビティA170では、例えば、次の2段階の情報処理が実行される。(1)制御部210は、記憶部220に記憶された制御信号を読み出す。(2)制御部210は、通信部250を介して、制御信号を端末300に送信する。
【0039】
続いて、端末300における制御部310は、情報処理装置200から送信された制御信号を受信する(アクティビティA180)。アクティビティA180では、例えば、次の2段階の情報処理が実行される。(1)通信部350は、情報処理装置200から送信された制御信号を受信する。(2)制御部310は、受信された制御信号を記憶部320に記憶させる。
【0040】
続いて、端末300における制御部310は、制御信号をモータに送信する(アクティビティA190)。モータは、周辺機器の一例である。アクティビティA190では、例えば、次の2段階の情報処理が実行される。(1)制御部310は、記憶部320に記憶された制御信号を読み出す。(2)制御部310は、通信部350を介して、制御信号をモータに送信する。
【0041】
続いて、モータは、制御信号を受信する(アクティビティA200)。続いて、モータは、受信した制御信号に基づいて、動作を実行する(アクティビティA210)。続いて、必要に応じて、アクティビティA110の処理が開始される。
【0042】
以上のように、情報処理装置200は、膜タンパク質のリアルタイムな活動量を定量化することができる。
【0043】
4.実験例
第4節では、第3節で説明した情報処理方法の実験例について説明する。
【0044】
図6及び
図7は、電流信号400を時間分割して、分割された電流信号が得られたことを示す図である。電流信号400は、膜タンパク質において生じた電流に関する信号であるものとし、ここでは、デモンストレーション用のモデル信号を使用した。
図6では、電流信号400を1秒間隔で分割処理し、分割信号401、分割信号402及び分割信号403が得られたことを示す。
図7では、電流信号400を200ミリ秒間隔で分割処理し、分割信号404、分割信号405、分割信号406、分割信号407、分割信号408及び分割信号409が得られたことを示す。電流信号400をより大きな時間で分割した場合、それぞれのデータ量が大きく、すなわち情報量が多いため、電流信号400を解析した際に誤差の小さい結果を取得することができる。一方、電流信号400をより小さな時間で分割した場合、それぞれのデータ量が小さく、すなわち解析の負荷が小さいため、リアルタイムに電流信号400を解析することができる。
【0045】
図8は、時間分割の間隔の大きさに対する、膜タンパク質の特性評価のばらつきを示す図である。
図8では、膜タンパク質の特性として、膜タンパク質の開口確率を使用した。時間分割の間隔は、40ミリ秒、200ミリ秒、1秒、5秒とした。時間分割の間隔が小さい場合は、測定のばらつきが大きくなったが、時間分割の間隔を大きくするにつれて、測定のばらつきが小さくなった。
【0046】
図9は、電流信号400を前処理するための各手法を示す図である。
図9(A)では、コンパレータと呼ばれる手法を示し、設定された1つの閾値を電流信号400に適用することを示す。
図9(B)では、シュミットトリガと呼ばれる手法を示し、設定された2つの閾値を電流信号400に適用することを示す。
図9(C)では、エッジ検出と呼ばれる手法を示し、電流信号400における所定以上の変化箇所に基づいて前処理することを示す。
【0047】
図10は、電流信号400を前処理する各手法を比較した図である。
図10(A)では、分子間のばらつきが大きく、複数分子を計測した電流信号に対して、各手法を適用した。その結果、コンパレータ、シュミットトリガに比べて、エッジ検出が好適であることが示された。
図10(B)では、高速に開閉する分子を計測した電流信号に対して、各手法を適用した。その結果、エッジ検出、シュミットトリガに比べて、コンパレータが好適であることが示された。
図10(C)では、信号がノイズに比べて大きくない、すなわちSN比が低い分子を計測した電流信号に対して、各手法を適用した。その結果、エッジ検出、コンパレータに比べて、シュミットトリガが好適であることが示された。
【0048】
したがって、
図10から、計測する電流信号の特性、すなわち、計測対象の膜タンパク質の特性に応じて、前処理の手法を適宜選択する必要があることが分かった。
【0049】
図11は、従来手法での特性評価結果と、情報処理装置200を使用した特性評価結果とを比較した図である。ここで、従来手法は、記録された電流信号を人間の手で解析する手法のことである。
図11(A)では、αヘモリシンを使用して、従来手法及び情報処理装置200を用いてそれぞれコンダクタンスの定量化を行った。ここで、αヘモリシンとは、ナノ孔を形成する性質を有する膜タンパク質のことである。その結果、相関係数は0.997、平均二乗偏差は3.7%を示した。
図11(B)では、BKチャネルを使用して、従来手法及び情報処理装置200を用いてそれぞれ開口確率の定量化を行った。ここで、BKチャネルとは、カリウムを選択的に透過する膜タンパク質であり、化学刺激や電圧に応じて開口確率が変化する膜タンパク質のことである。その結果、相関係数は0.999、平均二乗偏差は2.3%を示した。
【0050】
図11に示すように、情報処理装置200を使用した特性評価は、従来手法での特性評価と同等の精度であることが示された。
【0051】
図12は、化学刺激に応じてモータを速度制御した実験を示す図である。
図12では、膜タンパク質としてBKチャネルを使用し、DCモータのシャフトに構造体410を接続し、情報処理装置200から制御信号を送信する構成とした。まず、(1)において、BKチャネルの電流信号の取得を開始した。(1)の時点では、構造体410は回転しなかった。続いて、(2)において、薬剤としてベラパミルを滴下した。時間が経過するにつれて、BKチャネルの開口確率が低下したことが推定された。時間の経過に伴い、構造体410が回転を開始し、構造体410の回転速度が徐々に上昇した。(3)の時点では、構造体410が高速回転した。
【0052】
図12に示すように、滴下された薬剤(ベラパミル)の濃度に応じてBKチャネルの開口確率がリアルタイムに推定された結果、DCモータの速度がリアルタイムに制御されたことが示された。
【0053】
図13は、電気刺激に応じてロボットを方向制御した実験を示す図である。
図13では、膜タンパク質としてBKチャネルを使用し、情報処理装置200から端末300を介してロボット420に制御信号を送信する構成とした。まず、BKチャネルの電流信号の取得を開始した。続いて、(1)の時点において、60mvの電圧を印加した。(1)から1秒後に、ロボット420は前進を開始した。続いて、60mvの電圧を印加し続けたところ、ロボット420は前進し続けた。続いて、(2)の時点において、-30mVの電圧を印加した。(2)から1秒後に、ロボット420は後退を開始した。続いて、-30mvの電圧を印加し続けたところ、ロボット420は後退し続けた。
【0054】
図13に示すように、印加した電圧の強度に応じてBKチャネルの開口確率がリアルタイムに推定された結果、ロボット420の移動方向がリアルタイムに制御されたことが示された。
【0055】
図14は、計測障害からの自動回復を示すグラフである。
図14では、情報処理装置200は、取得した電流信号から人工細胞膜の膜割れを検知し、1秒後に、人工細胞膜を再形成した。従来手法では、人間が電流信号を監視し、膜割れ等の計測障害が発生した場合には、人間が手動で回復させていた。
【0056】
図14に示すように、情報処理装置200は、膜割れ等の計測障害が発生した場合、自動で回復させることが可能であることが示された。すなわち、
図14では、生成部215は、取得された電流信号(応答信号)の解析結果と、予め定められた基準とに基づいて、人工細胞膜が膜割れした(破壊された)と判定すると、人工細胞膜を再形成させる制御信号を生成する、ということが示された。ここで、人工細胞膜を再形成させる手法は、特に限定されることなく、例えば、回転法、気泡導入法等、適宜設定されればよい。
【0057】
図15は、所定時間、人間の手の介入なしに電流信号を自動計測した結果を示すグラフである。
図15に示すように、時間分割された電流信号を逐次解析しているため、計測終了後に膜タンパク質の特性を改めて解析する必要がない。
【0058】
図16は、従来手法による拘束時間と、情報処理装置200による拘束時間との比較を示すグラフである。
図16では、従来手法による拘束時間に比べて、情報処理装置200による拘束時間が大幅に軽減されていることが示された。
【0059】
図15及び
図16から、情報処理装置200により、人工細胞膜の実験を効率化することが可能であることが示された。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0061】
5.変形例
第5節では、本実施形態の変形例について説明する。
【0062】
本実施形態の態様は、プログラムであってもよい。このプログラムは、情報処理装置200(情報処理システム)の各部としてコンピュータを機能させる。
【0063】
制御部210は、各種データ及び各種情報について記憶部220に書き出し処理(記憶処理)及び読み出し処理をしているが、これに限られず、例えば、制御部210内のレジスタやキャッシュメモリ等を使用して、各アクティビティの情報処理を実行してもよい。
【0064】
応答信号は、膜タンパク質において生じた電流に関する電流信号であるものとしたが、これに限られることなく、例えば、膜タンパク質が存在する細胞膜の内外における膜電位の変動に関する信号であってもよい。
【0065】
6.その他
次に記載の各態様で提供されてもよい。
【0066】
(1)人工細胞膜の計測に関する情報処理システムであって、取得部と、分割処理部と、解析部とを備え、前記取得部は、膜タンパク質において生じた応答に関する応答信号を継続的に取得し、前記分割処理部は、取得中の前記応答信号を所定時間間隔で継続的に分割処理し、前記解析部は、分割処理後の前記応答信号を継続的に解析する、情報処理システム。
【0067】
このような態様によれば、膜タンパク質の活動定量化に必要な全工程を統合した情報処理システムを提供することができる。この情報処理システムは、膜タンパク質のリアルタイムな活動の定量化を可能にする。これにより、従来は人間の手による解析や監視が必要であった工程を削除可能となり、人工細胞膜の実験にかかる労働時間を削減することができる。また、簡単な構成のため、節約されたリソースを他の中核機能に使用することができる。
【0068】
(2)上記(1)に記載の情報処理システムにおいて、生成部を備え、前記生成部は、前記応答信号の解析結果と、予め定められた基準とに基づいて、制御信号を継続的に生成する、情報処理システム。
【0069】
このような態様によれば、定量結果に基づいたリアルタイムな応答を可能にするため、リアルタイム性が要求されるセンサ用途に応用展開することができる。
【0070】
(3)上記(2)に記載の情報処理システムにおいて、前記基準は、前記膜タンパク質の特性に対応する基準である、情報処理システム。
【0071】
このような態様によれば、具体的な用途に応じて、制御信号の性質を設定することができる。
【0072】
(4)上記(2)又は(3)に記載の情報処理システムにおいて、前記生成部は、前記応答信号の解析結果と、前記基準とに基づいて、前記人工細胞膜が破壊されたと判定すると、前記人工細胞膜を再形成させる制御信号を生成する、情報処理システム。
【0073】
このような態様によれば、人間の手を介入させることなく、人工細胞膜の実験を自動化することができる。
【0074】
(5)上記(1)から(3)までの何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前記解析部は、前記膜タンパク質に対する刺激の大きさを継続的に推定する、情報処理システム。
【0075】
このような態様によれば、人間の手を介入させることなく、人工細胞膜の実験を自動化することができる。
【0076】
(6)上記(1)から(5)までの何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前処理部を備え、前記前処理部は、分割処理後の前記応答信号を継続的に前処理する、情報処理システム。
【0077】
このような態様によれば、膜タンパク質のリアルタイムな活動の定量化を維持しつつ、応答信号の解析の精度を向上させることができる。
【0078】
(7)上記(6)に記載の情報処理システムにおいて、前記前処理部は、設定された1つの閾値を前記分割処理後の応答信号に適用して継続的に前処理する、情報処理システム。
【0079】
このような態様によれば、膜タンパク質の性質に応じて、応答信号の解析の精度を向上させることができる。
【0080】
(8)上記(6)に記載の情報処理システムにおいて、前記前処理部は、設定された2つの閾値を前記分割処理後の応答信号に適用して継続的に前処理する、情報処理システム。
【0081】
このような態様によれば、膜タンパク質の性質に応じて、応答信号の解析の精度を向上させることができる。
【0082】
(9)上記(6)に記載の情報処理システムにおいて、前記前処理部は、前記分割処理後の応答信号における所定以上の変化箇所に基づいて継続的に前処理する、情報処理システム。
【0083】
このような態様によれば、膜タンパク質の性質に応じて、応答信号の解析の精度を向上させることができる。
【0084】
(10)上記(1)から(9)までの何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前記分割処理部は、前記応答信号を0.01~30秒間隔で継続的に分割処理する、情報処理システム。
【0085】
このような態様によれば、応答信号の解析のリアルタイム性と精度とを両立させることができる。
【0086】
(11)プログラムであって、上記(1)から(10)までの何れか1つに記載の情報処理システムの各部としてコンピュータを機能させる、プログラム。
【0087】
このような態様によれば、膜タンパク質の活動定量化に必要な全工程を統合した情報処理システムを提供することができる。この情報処理システムは、膜タンパク質のリアルタイムな活動の定量化を可能にする。これにより、従来は人間の手による解析や監視が必要であった工程を削除可能となり、人工細胞膜の実験にかかる労働時間を削減することができる。また、簡単な構成のため、節約されたリソースを他の中核機能に使用することができる。
【0088】
(12)情報処理方法であって、上記(1)から(10)までの何れか1つに記載の情報処理システムの各部により実行される処理を、各工程として備える、情報処理方法。
【0089】
このような態様によれば、膜タンパク質の活動定量化に必要な全工程を統合した情報処理システムを提供することができる。この情報処理システムは、膜タンパク質のリアルタイムな活動の定量化を可能にする。これにより、従来は人間の手による解析や監視が必要であった工程を削除可能となり、人工細胞膜の実験にかかる労働時間を削減することができる。また、簡単な構成のため、節約されたリソースを他の中核機能に使用することができる。
もちろん、この限りではない。
【符号の説明】
【0090】
100 :情報処理システム
200 :情報処理装置
210 :制御部
211 :取得部
212 :分割処理部
213 :前処理部
214 :解析部
215 :生成部
220 :記憶部
250 :通信部
260 :通信バス
300 :端末
310 :制御部
320 :記憶部
330 :表示部
340 :入力部
350 :通信部
360 :通信バス
400 :電流信号
401 :分割信号
402 :分割信号
403 :分割信号
404 :分割信号
405 :分割信号
406 :分割信号
407 :分割信号
408 :分割信号
409 :分割信号
410 :構造体
420 :ロボット