(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093535
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】非接触型測距装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01S 17/34 20200101AFI20240702BHJP
【FI】
G01S17/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209977
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤志
(72)【発明者】
【氏名】古敷谷 優介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文彦
(72)【発明者】
【氏名】張 超
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA05
5J084AD08
5J084BA03
5J084BA36
5J084BA38
5J084BA45
5J084BB02
5J084BB14
5J084BB31
5J084BB40
5J084CA08
5J084CA31
5J084CA49
5J084DA01
5J084DA08
5J084DA09
5J084EA07
5J084EA14
(57)【要約】
【課題】本開示は、単一光源を用いた簡便な構成にも関わらず、周波数の掃引速度を低下させることなく、受信帯域による測定距離の限界を排除することを目的とする。
【解決手段】本開示は、周波数掃引光を被測定物に照射し、前記被測定物で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物までの距離を求める非接触型測距装置において、前記参照光を周回伝送させることで、遅延時間が異なる複数の参照光を発生させる光周回伝送路と、前記光周回伝送路から出力された複数の参照光のうち前記被測定物で反射されたプローブ光の遅延と最も近い遅延が付与された参照光と反射されたプローブ光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、被測定物までの距離を求める主干渉計と、を備える非接触型測距装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数掃引光を被測定物に照射し、前記被測定物で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物までの距離を求める非接触型測距装置において、
前記参照光を周回伝送させることで、遅延時間が異なる複数の参照光を発生させる光周回伝送路と、
前記光周回伝送路から出力された複数の参照光のうち前記被測定物で反射されたプローブ光の遅延と最も近い遅延が付与された参照光と反射されたプローブ光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、被測定物までの距離を求める主干渉計と、
を備える非接触型測距装置。
【請求項2】
前記光周回伝送路を伝搬する光の群速度をνg、前記周波数掃引光の掃引速度をγ、前記主干渉計の受信帯域をBWとすると、前記光周回伝送路の長さL7が、
(2νg×BW)/γ
より短い、
請求項1に記載の非接触型測距装置。
【請求項3】
前記周波数掃引光の一部を2分岐する光カプラと、
前記光カプラで2分岐された前記周波数掃引光の一部の一方に、前記周波数掃引光のコヒーレンス時間よりも短い遅延時間τ
auxの遅延を発生させる遅延器と、
前記遅延器で遅延させた前記一方と前記光カプラで2分岐された前記周波数掃引光の一部の他方との干渉によるビート信号の位相X(t)を取得する補助干渉計と、をさらに備え、
前記補助干渉計により取得されたビート信号の前記位相X(t)、整数N及び式(C1)を用いて、前記参照光と前記プローブ光との光経路差に相当する前記プローブ光の前記参照光に対する遅延時間τにおける前記周波数掃引光の位相X
N(τ)を求め、前記主干渉計で得られたビート信号における前記周波数掃引光の非線形性を補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の非接触型測距装置。
【数C1】
【請求項4】
前記遅延時間τをあらかじめ推定し、式(C2)を満足する前記整数Nを用いる
ことを特徴とする請求項3に記載の非接触型測距装置。
(数C2)
τ≒Nτaux (C2)
【請求項5】
周波数掃引光を被測定物に照射し、前記被測定物で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物までの距離を求める非接触型測距方法において、
前記参照光を光周回伝送路に周回伝送させることで、遅延時間が異なる複数の参照光を発生させること、
前記光周回伝送路から出力された複数の参照光のうち前記被測定物で反射されたプローブ光の遅延と最も近い遅延が付与された参照光と反射されたプローブ光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、被測定物までの距離を求めること、
を行う非接触型測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、周波数掃引光を用いた非接触型測距装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正確な測距技術は大規模構造物の形状測定のような計測において重要な技術である。このような応用は多数存在し、パラボラアンテナや建築物のような人工物の形状測定、氷床の厚み計測や森林の高さ測定に代表される自然形成物の測定、等がある。特に、建物等のヘルスモニタリングや防災を目的とした大規模構造物の計測では、遠方の測定物の位置や形状を高精細に測定する需要が存在する。
【0003】
LiDAR(Light Detection And Ranging:光による検知と測距)は、周波数掃引光を使って被測定物までの光路長を計測する非接触型測距技術である。このような技術において、周波数変調連続波(FMCW)型LiDARは単一光源で測距を行い、速度・振動検知の能力がある。FMCW型LiDARでは、光周波数を掃引し、戻り光との干渉により生じる周波数差(ビート周波数、IF)を距離に換算する。100nmの掃引帯域を有する光源を用いれば約12μmの分解能が実現できる。
【0004】
しかしながら、FMCW型LiDARでは、測定距離は光源のコヒーレンス長により数十mに限定されている。また、得られるビート周波数が受信帯域を上回る計測はできない。これは、受信帯域が一定である限り、周波数の掃引速度と測定距離の積に上限が生じることを意味する。すなわち、受信帯域が一定ならば、測定距離又は周波数の掃引速度のいずれかを犠牲にしなければならないという課題がある。なお、測定の繰り返し周波数(リフレッシュレート)は周波数の掃引速度に比例するため、周波数の掃引速度を犠牲にすることは、リフレッシュレートを犠牲することになる。以上2つの要因により、FMCW型LiDARは専ら数十m程度以内の比較的短距離の測距に限定されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K. Toge 他, “Over 10,000-km Recirculating Measurement with Frequency-coded Coherent OTDR”, OECC/ACOFT 2014 (July 2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記課題を解決するために、本開示は、単一光源を用いた簡便な構成にも関わらず、周波数の掃引速度を低下させることなく、受信帯域による測定距離の限界を排除することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示は、周波数掃引光から遅延時間の異なる複数の参照光を生成し、生成した複数の参照光を被測定物での反射光と干渉させる。
【0008】
具体的には、本開示に係る非接触型測距装置は、
周波数掃引光を被測定物に照射し、前記被測定物で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物までの距離を求める非接触型測距装置において、
前記参照光を周回伝送させることで、遅延時間が異なる複数の参照光を発生させる光周回伝送路と、
前記光周回伝送路から出力された複数の参照光のうち前記被測定物で反射されたプローブ光の遅延と最も近い遅延が付与された参照光と反射されたプローブ光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、被測定物までの距離を求める主干渉計と、
を備える。
【0009】
本開示に係る非接触型測距装置は、前記光周回伝送路を伝搬する光の群速度をνg、前記周波数掃引光の掃引速度をγ、前記主干渉計の受信帯域をBWとすると、前記光周回伝送路の長さLが、
(2νg×BW)/(γ)
より短くてもよい。
【0010】
本開示に係る非接触型測距装置は、
前記周波数掃引光の一部を2分岐する光カプラと、
前記光カプラで2分岐された前記周波数掃引光の一部の一方に、前記周波数掃引光のコヒーレンス時間よりも短い遅延時間τauxの遅延を発生させる遅延器と、
前記遅延器で遅延させた前記一方と前記光カプラで2分岐された前記周波数掃引光の一部の他方との干渉によるビート信号の位相X(t)を取得する補助干渉計と、をさらに備え、
前記補助干渉計により取得されたビート信号の前記位相X(t)、整数N及び式(3)を用いて、前記参照光と前記プローブ光との光経路差に相当する前記プローブ光の前記参照光に対する遅延時間τにおける前記周波数掃引光の位相XN(τ)を求め、前記主干渉計で得られたビート信号における前記周波数掃引光の非線形性を補正してもよい。
【0011】
前記遅延時間τをあらかじめ推定し、式(4)を満足する前記整数Nを用いてもよい。
【0012】
具体的には、本開示に係る非接触型測距方法は、
周波数掃引光を被測定物に照射し、前記被測定物で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物までの距離を求める非接触型測距方法において、
前記参照光を光周回伝送路に周回伝送させることで、遅延時間が異なる複数の参照光を発生させること、
前記光周回伝送路から出力された複数の参照光のうち前記被測定物で反射されたプローブ光の遅延と最も近い遅延が付与された参照光と反射されたプローブ光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、被測定物までの距離を求めること、
を行う。
【0013】
なお、上記各開示は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、単一光源を用いた簡便な構成にも関わらず、周波数の掃引速度を低下させることなく、受信帯域による測定距離の限界を排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態1に係る非接触型測距装置の構成の一例を示す図である。
【
図3】光周回伝送路で生成される参照光の一例を示す。
【
図4】従来のFMCW型LiDARにおける参照光及びプローブ光の周波数並びに干渉信号スペクトルを説明する図である。
【
図5】主干渉計に入力されるプローブ光及び参照光の一例を示す。
【
図6】実施形態1に係る非接触型測距装置における干渉信号スペクトルを説明する図である。
【
図7】実施形態2に係る非接触型測距装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0017】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1にFWCW型LiDAR方式をベースとした本開示の実施形態を示す。本実施形態は、周波数掃引光を被測定物5に照射し、前記被測定物5で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物5までの距離を求める非接触型測距装置である。
【0018】
本実施形態において、1は周波数掃引光源、2-1及び2-2は光を分波または合波する光カプラ、3は光サーキュレータ、4はレンズ、5は被測定物、7は光周回伝送路、8は光90度ハイブリッド、9はバランス型フォトデテクタ、10はADコンバータ、11はコンピュータ等の演算部である。
図1では、演算部11を主干渉計20に含まれる構成としているが、主干渉計20と演算部11は別々でもよい。
【0019】
周波数掃引光源1は、周波数が線形に変調された周波数掃引光を出力する任意の装置であり、例えばレーザである。その周波数は、一定の掃引速度γ[Hz/s]で、一定の周波数掃引時間ΔTに、周波数掃引幅ΔFにわたり掃引される。周波数掃引光源1から出力される周波数掃引光は、コヒーレント光であればレーザ光に限定されない。
【0020】
光カプラ2-1は、周波数掃引光源1から入力された周波数掃引光を2つに分岐し、一方をプローブ光として光サーキュレータ3に入力する。光サーキュレータ3はプローブ光をレンズ4に入力し、レンズ4はプローブ光を平面波に変換する。この平面波のプローブ光が被測定物5で反射される。レンズ4は、被測定物5で反射されたプローブ光を集光する。集光された光は光サーキュレータ3に入力され、光サーキュレータ3から光90度ハイブリッド8に入力される。
【0021】
光カプラ2-1で分岐されたもう一方の周波数掃引光は光周回伝送路7(参照光周回手段)に入力される。光周回伝送路7は、入力された周波数掃引光を周回伝送させることで、遅延時間が異なる複数の参照光を発生させるものである。光周回伝送路の具体的な構成としては、例えば非特許文献1に記載がある。
【0022】
図2に、光周回伝送路7の動作の一例を示す。
ステップS1:光カプラ2-1にて分岐された周波数掃引光の他方は光カプラ2-2に入力され、一部は参照光として光カプラ2-2から出力される。
ステップS2:光カプラ2-2に入力された周波数掃引光の残りは、光増幅器71を介して再度光カプラ2-2に入力される。
ステップS3:光カプラ2-2に再入力された周波数掃引光の一部は、ステップS1で出力された参照光よりも光周回伝送路7で生じる遅延時間τ
7だけ遅れて出力される。
上記の繰り返しにより、参照光として、
図3に示すような遅延時間が異なる複数の周波数掃引光が生成される。
【0023】
本実施形態では、周波数掃引光源1が線形に周波数掃引するため、光カプラ2-2から出力される参照光も線形に周波数掃引される。これにより、本開示における光カプラ2-2からの参照光は、
図3に示すような、線形に周波数掃引された参照光が光周回伝送路7から複数出力される。
【0024】
光周回伝送路7から出力された参照光は、光90度ハイブリッド8に入射される。被測定物5により反射されたプローブ光は、参照光と光90度ハイブリッド8において干渉する(主干渉計)。主干渉計20では、被測定物5から反射されたプローブ光の参照光に対する遅延時間τを測定することができる。演算部11は、この遅延時間τを用いて測距を行う。
【0025】
具体的には、光90度ハイブリッド8は、参照光と被測定物5からの反射光とを合波してビート信号の同相成分I及び直交成分Qを生成し、それぞれをバランス型フォトデテクタ9-1及び9-2に入力する。バランス型フォトデテクタ9-1及び9-2は、それぞれ、ビート信号の同相成分I及び直交成分QをADコンバータ10-1及び10-2に入力する。ADコンバータ10-1及び10-2は、それぞれ、バランス型フォトデテクタ9-1及び9-2からのアナログ電気信号をデジタル信号に変換し、演算部11に入力する。
【0026】
ここで、光周回伝送路7を備えない従来のFMCW型LiDARにおける参照光とプローブ光の干渉について
図4を用いて説明する。従来のFMCW型LiDARは、
図1の主干渉計において、光カプラ2-1からの参照光が光90度ハイブリッド8に直接入力される構成である。従来のFMCW型LiDARでは、光カプラ2-1からの参照光と、参照光に対して被測定物5までの距離を往復した分だけ遅延したプローブ光とが到着し、その周波数差に相当する周波数を持つビート信号が発生する。以下、ビート信号の周波数をビート周波数IFとする。このビート周波数IFは、被測定物5から反射されたプローブ光の参照光に対する遅延時間τに比例するため、測距ができる。
【0027】
ビート信号は、具体的には、光90度ハイブリッド8から出力されるビート信号の同相相成分Iおよび直交成分Qを用いて複素数表示で式(1)のように表される。
(数1)
I+jQ=exp(jγτt) (1)
【0028】
演算部11は、ADコンバータ10-1から入力されるハイブリッド信号の同相成分I及び直交成分Qに基づき、式(1)からビート信号の位相を求める。ここで、τは、参照光とプローブ光との光経路差に相当するプローブ光の参照光に対する遅延時間であり、γτがビート周波数IFである。
【0029】
一般に、FMCW型LiDARの距離分解能Δzは、周波数掃引幅ΔFを用いて以下のように表される。
(数2)
Δz=c/(2ΔF) (2)
【0030】
つまり、距離分解能Δzを向上するには、周波数掃引幅ΔFを大きくする必要がある。かつ、ビート周波数IFは被測定物5までの距離により変動する遅延時間τと掃引速度γに比例する。そのため、仮に受信帯域BWが一定であるならば、掃引速度γと距離との積に対して限界が生じることになる。具体的には、従来のFMCW型LiDARでは、
図4(B)に示すように、ビート周波数IFが受信帯域BW外となるビート信号は検知できず、受信帯域BWによる測定距離の限界が生じる。なお、繰り返し周波数(リフレッシュレート)は、掃引速度γに比例するため、掃引速度γが制限されれば、リフレッシュレートも制限されることになる。
【0031】
本開示では、この受信帯域BWによる測定距離の限界を排除するため、参照光経路に、すなわち、光カプラ2-1と光90度ハイブリッド8との間に、前述した光周回伝送路7を導入する。
【0032】
図5に、本実施形態における主干渉計20に入力されるプローブ光及び参照光の一例を示す。本実施形態に係る光周回伝送路7は、遅延時間が異なる複数の参照光を発生させる。周波数掃引光源1から出力された元の周波数掃引光L
ref1の後に、光周回伝送路7により生成した周波数掃引光が遅延間隔τ
7の間隔で生成される。遅延時間τ
7で生成される参照光L
ref2~L
ref5は、光周回伝送路7の長さL
7に対し、元の周波数掃引光を時間方向にτ
7=L
7/ν
gシフトした光となっている。ここで、ν
gは光周回伝送路7を伝搬する光の群速度である。
【0033】
図の例では、時間軸及び周波数軸において、参照光Lref2~Lref5のうちのプローブ光と最も近い遅延が付与された参照光はLref3である。本開示では、プローブ光と一番近い参照光Lref3との間の干渉成分であるビート信号の周波数を測定・解析する。
【0034】
図6に、本実施形態の主干渉計20が検出するビート周波数の一例を示す。被測定物5までの伝搬により遅延を受けたプローブ光は、
図5に示す参照光L
ref1~L
ref5のすべてと干渉し、ビート周波数IF1~IF5のビート信号が発生する。本開示では、バランス型フォトデテクタ9-1及び9-2などの受信帯域BWが、観測されるビート周波数のうちの最小のビート周波数IF3のみにする。
【0035】
例えば、光周回伝送路7の遅延時間がτ7の場合、プローブ光と参照光Lref1~Lref5との間の最小のビート周波数はτ7γ/2以下となる。そのため、主干渉計20は少なくともτ7γ/2以下の受信帯域BWとすることが望ましい。
【0036】
また、遅延時間τ7は、光周回伝送路7を伝搬する光の群速度νgとτ7=L7/νgの関係にある。このため、光周回伝送路7の長さL7を短くすると、最小のビート周波数の最大値τ7γ/2が低くなるので、受信帯域BWが狭い主干渉計20でも最小のビート周波数を検出可能となる。例えば、主干渉計20の受信帯域をBWとすると、光周回伝送路7の長さL7は(2νg×BW)/(γ)より短くする。これにより、任意の受信帯域BWに対し、最小のビート周波数を検出可能になる。
【0037】
以上のように、光周回伝送路7の導入により、周波数の掃引速度を低下させることなく、受信帯域BWによる測定距離の限界を排除することができる。受信帯域BWによる測定距離の限界がなくなれば、km級の測定距離が可能になる。このため、本開示は、単一光源を用いた簡便な構成にも関わらず、測定速度を低下させることなく、km級の測定距離と数十μm級の分解能とを実現することができる。
【0038】
(実施形態2)
図7に、FWCW型LiDAR方式をベースとした本開示の実施形態を示す。一般に周波数掃引光源は、その周波数掃引のトレースは完全に線形ではなく、一定レベルの不完全さ(非線形性)をもつ。この非線形性は、掃引速度γの揺らぎを意味するから、一定距離からのビート周波数が揺らぐことになり、式(2)で与えられた理論的な距離分解能は得られなくなる。
【0039】
そこで、この問題を解決するために、本実施形態に係る非接触型測距装置では、補助干渉計21をさらに備える。補助干渉計21は、光カプラ2-5、6は遅延器、バランス型フォトデテクタ9-3、ADコンバータ10-2及び演算部11を備える。補助干渉計21は、遅延なしの光と遅延器6による遅延時間τauxだけ遅延させた光との干渉によるビート信号の位相を取得する干渉計である。補助干渉計21でのビート信号は遅延時間τauxに相当する距離にある被測定物5から反射されたプローブ光に基づくビート信号と同一である。
【0040】
光カプラ2-3は、周波数掃引光源1からの周波数掃引光を2分岐し、一方を主干渉計20用の光として光カプラ2-1に入力し、他方を補助干渉計21用の光カプラ2-4に入力する。これにより、周波数掃引光の一部が取り出される。なお、光カプラ2-1は、光カプラ2-3から入力された光に対して実施形態1と同様の動作を行う。
【0041】
補助干渉計21では、光カプラ2-4は、光カプラ2-3から入力された光を2つに分岐し、一方を光カプラ2-5に入力し、他方を遅延器6に入力する。遅延器6は、光カプラ2-4から入力された光に遅延時間τauxの遅延を発生させて光カプラ2-5に入力する。光カプラ2-5は、光カプラ2-4から直接入力された光及び遅延器6から入力された光を合波してビート信号を生成し、さらにビート信号を2つに分岐してバランス型フォトデテクタ9-3に入力する。バランス型フォトデテクタ9-3は、光カプラ2-5からのビート信号をアナログ電気信号として取得し、ADコンバータ10-2に入力する。ADコンバータ10-2は、光カプラ9-3から入力されるビート信号をデジタル信号に変換し、演算部11に入力する。
【0042】
演算部11は、主干渉計20からのビート信号を、補助干渉計21からのビート信号でリサンプリングする。これにより、主干渉計20で測定される距離が、遅延時間τauxに相当する距離で補正されるため、周波数掃引光源1における周波数掃引の非線形性を除去することができる。
【0043】
しかし、この方法は、補助干渉計21の遅延時間τauxに相当する測定距離付近でしか通用しない。すなわち、周波数掃引光源1からの周波数掃引光の位相は、コヒーレンス時間と呼ばれる個々の周波数掃引光源1に固有の時間においてのみ相関的であり、その時間を経過すると位相の相関は消失する。このことは、被測定物5までの距離(遅延時間)が、補助干渉計21の遅延時間τauxとコヒーレンス時間以上に異なってしまうと、補助干渉計21のビート周波数と主干渉計20のビート周波数はもはや相関を持たなくなり、機能しなくなってしまう。
【0044】
そこで、本開示では、演算部11は、位相雑音補償アルゴリズムを内蔵する。この位相雑音補償アルゴリズムの原理は、非特許文献2に記載されている。演算部11は、非特許文献2で開示された方法に従ってもよい。すなわち、演算部11は、ADコンバータ10-2から入力されたビート信号を取得し、遅延時間τ
aux毎の補助干渉計21のビート信号の位相X(t)を取得する。演算部11は、補助干渉計21のビート信号の位相X(t)を用いて、式(3)に示す位相X
N(τ)を計算する。
【数3】
【0045】
ここで、Nは正の整数である。τは前述した遅延時間である。τ≒Nτauxが成立する。また、遅延時間τは周波数掃引光のコヒーレンス時間を超えてもよい。非特許文献2に記載されているように、時間τauxが周波数掃引光のコヒーレンス時間よりも短い場合には、遅延時間τを遅延時間τauxの整数N倍とし、遅延時間τにおける主干渉計20のビート信号の位相を式(3)で計算できる。したがって、位相XN(τ)が一定値増加するごとに主干渉計20の信号をリサンプリングすれば、周波数掃引光のコヒーレンス時間を超える時間Nτaux近傍の遅延時間τに相当する距離の測定が可能となる。その結果、前述のコヒーレンス時間の有限性の課題を克服することができる。また、非特許文献2に記載されているように、式(3)の位相XN(τ)は遅延時間τにおける周波数掃引光の位相にも相当する。そのため、式(3)を用いれば、周波数掃引光の周波数掃引の非線形性を補正することができ、式(2)の分解能も実現することができる。前述したように、補助干渉計の遅延時間τauxは使用する周波数掃引光源1のコヒーレンス時間よりも短く設定する必要がある。
【0046】
本開示は、次に示す手順により、この位相雑音補償アルゴリズムを測距に適用する手法を開示する。まず、被測定物5までの距離を、補助干渉計の遅延τauxよりも高い精度で推定する。一般的に、周波数掃引光源1のコヒーレンス長は数十m程度であり、遅延τauxも同程度のオーダーであるので、この推定は容易である。例えば、パルス法など公知の方法により、おおよその距離を事前に把握しておけばよい。
【0047】
次に、推定距離Lにある被測定物5から反射されたプローブ光の参照光に対する遅延時間をτとして、式(4)を満足する整数Mを求める。
(数4)
τ≒Mτref (4)
【0048】
さらに、式(3)を用いて位相XM(τ)を計算し、これを用いて周波数掃引光の周波数掃引の非線形性を補正する。これにより、式(2)の原理的には理論分解能を達成することができる。
【0049】
なお、本実施形態に係る主干渉計20では、光90度ハイブリッド8を用いてハードウェアベースで処理する構成としたが、ヒルベルト変換を用いてソフトウェアベースで処理してもよい。また、本実施形態に係る補助干渉計21では、ヒルベルト変換を用いてソフトウェアベースで処理する構成としたが、光90度ハイブリッド8を用いてハードウェアベースで処理してもよい。
【0050】
本実施形態に係る演算部11はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【符号の説明】
【0051】
1:周波数掃引光源
2-1、2-2、2-3、2-4、2-5:光カプラ
3:光サーキュレータ
4:レンズ
5:被測定物
6:遅延器
7:光周回伝送路
8:光90度ハイブリッド
9:バランス型フォトデテクタ
10:ADコンバータ
11:演算部
13:アンプ
20:主干渉計
21:補助干渉計
71:光増幅器